<第1の実施の形態>
以下、本発明の実施の形態にかかるデータ検証装置300について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、複合領域物理モデル100の一例を説明する図である。実施の形態では、データ検証装置300を、車両の電動パワーステアリングシステムに関するシミュレーションの結果生じる時系列データの検証に用いる場合を例示して説明する。以下、電動パワーステアリングをEPS(Electric Power Steering)と記す。なお、本実施形態に記載のある時系列データとは、センサが生成する時系列データに限定した意味ではなく、広く様々な方法により取得した時系列データを意味する。例えば、コンピュータの演算(シミュレーション)により得られた時系列データ、入力装置などを用いて作成された時系列データなどを含む概念である。基準時系列データについても同様である。
複合領域物理モデル100は、ドライバーのモデル110と、ECU(Electronic Control Unit)のモデル120と、同期モータのモデル130と、機構のモデル140と、車両のモデル150と、複数ある遅延処理のモデル160と、当該各モデル間を接続する複数の制御線(図1中の矢印線)とを有して構成されている。ここで、ドライバーとは車両の運転者を意味しており、ECUとはEPSの制御に用いられる電子制御装置を意味している。
ドライバーのモデル110は、ドライバーのハンドル操舵、アクセル、ブレーキのそれぞれの操作パターンをモデル化したものである。
ECUのモデル120は、マイコンと、マイコンの周辺にある回路との機能をモデルで記述したものである。また、ECUのモデル120は、EPSのマイコンに実装される制御用のソフトウェア(以下、制御ソフトと記す)を、実機に実装されるものと同じファイル形式でロードすることでシミュレーションを実行することができる。
同期モータのモデル130は、EPSシステムに使用されている永久磁石型同期モータの設計仕様と、モータの運動方程式とを細部までモデル化したものである。具体的には、同期モータのモデル130は、モータの寸法、巻線抵抗、インダクタンス、回転子の永久磁石の磁極位置、極対数、磁束の大きさ等のモータ諸元と、磁束変化を考慮したモータの回転運動とをモデル化したものである。また、以降で説明する、複合領域物理モデル100では、EPSの機構と、EPSシステム搭載車の車両の動作とを考慮したモータ負荷を、シミュレーションで模擬できる。そのため、複雑な磁束変化や負荷の変動を反映したモータシミュレーションを実行できる。それにより、実機の精度に近いモータ特性(トルク、回転数、回転角、電流、逆起電力、出力等)を得ることができる。なお、本実施形態では同期モータのモデルを用いたが、シミュレーション対象のモータが別種のモータの場合は、その種のモータのモデルを用いる。別種のモータとは、例えば、ブラシレスDCモータ、誘導モータ(インダクションモータともいう)、ステッピングモータ、スイッチドリラクタンスモータ等である。
機構のモデル140は、EPSの機械部分とその機械動作とをモデル化したものである。機構のモデル140の内部には、EPSの構成部品(インプットシャフト、トーションバー、トルクセンサ、ピニオンギヤ、ラック、バネ、ボールネジ等)単位で、それを連結したものを有しているため、EPSの機械動作を高精度で模擬できる。
車両のモデル150は、EPSシステムの搭載車の車両と車両運動とをモデル化したものである。これにより、EPSの実機を実車両に組み付けることなしに、車両運動を模擬できる。
遅延処理のモデル160は、フィードバックをかける場合に制御線に挿入する、時間遅延処理のモデルである。遅延させる時間は、例えば、時間刻み幅1つ分の時間(具体例を挙げれば1μsの時間等)であるが、一定時間であるとは限らない。
以上が図1に示すEPSの複合領域物理モデル100の各構成要素110~160の説明である。なお、同モデルの要素間の制御フローは、本実施形態のデータ検証装置300の主題ではないため、詳細は割愛する。
図1に示す複合領域物理モデル100のシミュレーションを、専用のシミュレーションツールやソフトを用いて実行すると、EPSの各構成要素の物理的な特性データと、車両運動の特性データが得られる。何れの特性データも時系列データである。これらの時系列データは、EPSの各構成要素や車両の状態の診断、機能や特性の評価、故障の模擬等に使用できる。これが同シミュレーションの利点である。
同シミュレーションの実施で得られるEPSの各構成要素の物理的な特性データの時系列データ、または車両運動の特性の時系列データを、基準となる基準時系列データ(例えば、理想的な特性データ、若しくは正常に動作している場合の実機の測定データ、を使用する)から、2つの時系列データ間の瞬時誤差率En(単に、誤差率ともいう)と、その平均値EAVE0とを算出する。そして、この瞬時誤差率Enの平均値EAVE0を、シミュレーションで得られる特性データまたはデータの精度の評価に使用する。
瞬時誤差率Enの平均値EAVE0は次の数式1により算出できる。
ここで、YMは検証対象となる時系列データ(図3で説明する時系列データ331)の瞬時値、YTは基準となる基準時系列データ(図3で説明する基準時系列データ332)の瞬時値、dtは時間刻み幅、nはデータ検証対象システムの動作時間の分割数である。
ここで、シミュレーションで得られる瞬時誤差率Enの平均値EAVE0を、特性データとその精度との評価に使用する場合、次の(a)~(c)の何れかが単独若しくは同時に生じると、比較する2つの特性データがほぼ同一の特性になるにもかかわらず、特性データが評価不能になってしまう場合がある。(a)比較する2つの特性データ間のサンプリングのタイミングが一致しておらず、サンプリングに時間差がある。(b)センシリング対象の機械若しくはシステムの動特性に、動作上の不連続点がある。(c)基準となる特性データの瞬時値が零近傍値になる時間がある。2つの時系列の特性データ間の誤差率算出時に、前述の(a)~(c)により瞬時誤差率Enの大きな外れ値が発生すると特性データが評価不能になってしまう。
図2は、図1で説明したEPSのような複合領域物理モデル100に関して、シミュレーションを実行した結果、得られた特性データを評価する場合において、誤差率の大きな外れ値が発生してしまい特性データが評価不能になってしまう一例を説明する図である。
図2では、(YM-YT)/YT×100の計算式で算出される瞬時誤差率Enを分割数nの順に示している。分割数nにおける番号を付与する場合、一般に時間軸に沿って付与するため、図2では瞬時誤差率Enは時間順に図示している。図2では、n=3において瞬時誤差率Enが極めて大きな値1.5E+10%になり、それ以外のnでは、瞬時誤差率EnがEPSシステムの欠陥や故障の検出を想定した±2.5%以内に収まっている。瞬時誤差率Enの1.5E+10%の値のように、他の値に対してあまりにかけ離れた値を外れ値という。n=3の瞬時誤差率Enが他と比べてあまりに大きな値であることから、前述した数式1により瞬時誤差率Enの平均値EAVE0を算出しても、瞬時誤差率Enの平均値EAVE0もまた極めて大きな値になってしまう。この外れ値の発生により、瞬時誤差率Enまたはその平均値EAVE0で特性データを評価した場合、特性データが評価不能になってしまう。このような極めて大きな外れ値の発生に対して、一般に信号解析においてはフィルタやフーリエ解析による除外処理を施せば、シミュレーション結果を評価できる場合がある。しかし、大きな外れ値も物理的動作を表していることが多く、単にノイズ扱いして除外処理を施すのは適切ではない。除外処理を施したデータが、重要な物理的な特性を表す場合もあるからである。例えば、模擬する対象の致命的な欠陥を意味する特性データに該当する場合である。具体的には、EPSシステムの搭載車に関して、操舵不能になり重大事故に繋がるような特性データがシミュレーションで得られたにもかかわらず、特性データを評価不能であるからと除外扱いしてしまえば、欠陥を検出できない事態となる。また、この事態とは別に、複合領域物理モデル100を構成する各物理モデルの評価箇所すべてに、除外処理のために個別のフィルタのモデルを設計し、同モデルを追加し、フィルタパラメータを調整することも考えられるが、このようにすると、工数が増大すると共に、技術的な経験や勘を必要とする場合もある。
このような大きな外れ値の発生により、特性データが評価不能になってしまう現象は、データの検証や機械の状態の診断に誤差率を使用するものであれば起こり得る。しかし、この現象がより顕著に表れるのは、診断のアルゴリズムに、複合領域物理モデルシミュレーションか、若しくは同シミュレーションの結果によって生成される特性データを使う場合、若しくはこれらと同等のアルゴリズムを使う場合である。補足として、IoT(Internet of Things)機器やビッグデータ解析の普及等の、システムの進化、高度化、複雑化につれて、機械の状態の診断にも進化、高度化が求められている。そのため、システムの複雑な動特性を、同シミュレーションの活用により模擬する必要がある。
ここで、前述した複合領域物理モデル100は、同モデルを構成する1つ1つの系(例えば、制御系、回路系、モータ系、機械系等)の固有周期が違うために、系の固有周期が最小の系の固有周期以下のシミュレーションの時間刻み幅(タイムステップともいう)で、シミュレーションを実行する必要がある。時間刻み幅が、最小の系の固有周期より粗い(大きい)場合は、シミュレーションが発散してしまい、複合領域物理モデル100の対象の系の物理現象を模擬する特性データが得られない場合がある。また、シミュレーションの計算解に不連続点が発生し、物理現象を模擬する特性データが得られない場合がある。特性データが得られない場合を少なくするため、一定の時間刻み幅(固定ステップという)ではなく、適宜変化する時間刻み幅(可変ステップという)で、シミュレーションを実行する場合がある。可変ステップは、時間刻み幅を固定ステップより細かく刻むことで、シミュレーションの発散や解の不連続点の発生を低減する。しかし、可変ステップで複合領域物理モデルシミュレーションを実行する場合、シミュレーションで得られる時系列データは、時間刻み幅が時間毎に異なるため、前述の(a)の発生要因となり得る。
<データ検証装置の構成>
次に、前述した問題を解決するための第1の実施の形態にかかるデータ検証装置300を説明する。図3は、第1の実施の形態にかかるデータ検証装置300の機能を説明する図である。
データ検証装置300は、中央処理装置(Central Processing Unit:CPUともいう)310と、記憶装置(メモリともいう)320と、補助記憶装置330と、表示装置340と、通信装置350と、を有して構成されており、これらの各装置はバス360を介して接続されている。データ検証装置300は、バス360を介して、外部にある入力装置400、検証対象システム(例えば、車両のEPS)に設けられたセンサ410、出力装置420、外部記憶装置430に接続されている。記憶装置320には、制御プログラムA321と制御プログラムB322とが記憶されており、補助記憶装置330には、センサ410等から取得した時系列データ331やデータ検証の際に基準となる基準時系列データ332が記憶されている。なお、入力装置400、センサ410、出力装置420、外部記憶装置430の何れかは、必ずしもデータ検証装置300の外部にある必要はなく、データ検証装置300の筐体の一部である構成としてもよい。
入力装置400は、ユーザー(不図示)からデータ検証装置300への操作入力、若しくはデータの入力を受け付ける。入力装置400は、例えば、キーボード、マウス、操作ボタン等である。データの入力とは、検証対象システムに設けられたセンサ410から取得した時系列データ331や、データ検証の際に基準となる基準時系列データ332を入力することである。なお、データの入力は、入力装置400を介さずに、センサ410からデータ検証装置300にバス360を介して、時系列データ331や、データ検証の際に基準となる基準時系列データ332を入力してもよい。入力された時系列データは、補助記憶装置330に格納される。若しくは、時系列データを記憶装置320や外部記憶装置430に格納してもよい。制御プログラムA321には、後述する図4で説明する処理が組み込まれている。制御プログラムB322には、図1で説明したEPSの複合領域物理モデル100と、シミュレーション実行モジュールとが組み込まれている。制御プログラムA321と、制御プログラムB322とは共に、例えば、C言語のような高級言語で記述したソースコードや、モデル言語で記述したシミュレーション用のモデルを中央処理装置310の演算または処理に実行可能なバイナリ形式に変換されたものを含む。センサ410は、検証対象システム(例えば、車両のEPSシステム)をセンシリングし、検証対象の時系列データを生成する。ここで、検証対象システムが、図1に示すEPSの複合領域物理モデル100である場合は、同モデル100を制御プログラムB322に組み込むためセンサ410は使用しない。出力装置420は、基準となる基準時系列データ332、検証対象となる時系列データ331、後述の図4で説明する除算値、判定の結果、及び当該結果を表す信号の何れかをデータ検証装置300の外部に接続する装置に出力する。
表示装置340は、出力装置420の出力対象と同じものを画面に表示する。また、時系列データに関しては、横軸を時間、縦軸を対象データの物理特性の表示にしてもよい。
通信装置350は、有線または無線にかかわらず、データ検証装置300と、このデータ検証装置300に接続した外部の装置との間の通信の同期をとる。また、無線によって、データ検証装置300の外部の装置から信号やデータを入力する場合、または外部の装置へ信号やデータを送信する場合もある。
前述した入力装置400、センサ410、出力装置420、外部記憶装置430は何れもデータ検証装置300に対して接続若しくは取り外しが可能であるように構成されている。表示装置340も接続若しくは取り外し可能であるように構成されていてもよい。中央処理装置310については後で詳しく説明する。
<データ検証装置の制御処理>
次に、データ検証装置300で実行される制御処理を説明する。この制御処理は、制御プログラムA321に組み込まれており、中央処理装置310が記憶装置320に格納される制御プログラムA321を読み込むことで実行される。
図4は、データ検証装置300の制御処理の一例を説明するフローチャートである。
初めに、ステップS101において、データ検証処理を実行する前に、ユーザー(不図示)が事前に、データ検証装置300の入力装置400を操作し、検証対象システムの理想的なまたは実機の時系列データを補助記憶装置330に格納する。また、事前に外部記憶装置430をデータ検証装置300に接続し、当該時系列データを外部記憶装置430から補助記憶装置330に移動するように構成してもよい。また、事前に通信装置350を介して、外部の装置から時系列データを取得し、補助記憶装置330に格納するように構成してもよい。時系列データには、時系列データ毎にIDを付与する。IDは、検証対象システムのどの物理データに該当するのか、基準となる基準時系列データ332であるのか、検証対象となる時系列データ331であるのか、を識別するためのものである。基準時系列データ332と検証対象となる時系列データ331との区分は、ユーザーが入力装置400を操作して設定するか、または中央処理装置310が一括で設定することができる。
ステップS102において、ユーザーが入力装置400を操作して、時系列データをデータ検証装置300に入力する。若しくは、センサ410が生成する時系列データをデータ検証装置300に入力する。時系列データ入力後、中央処理装置310は、時系列データ毎にIDを付与する。
ステップS103において、中央処理装置310は、ステップS101で補助記憶装置330に格納した時系列データと、ステップS102で入力した時系列データとを記憶装置320にロードする。なお、ステップS102で入力した時系列データを、補助記憶装置330若しくは外部記憶装置430に格納した後に、記憶装置320にロードするように構成してもよい。また、中央処理装置310の演算により生成される時系列データを、時系列データ毎にIDを付与し、記憶装置320にロードするように構成してもよい。第1の実施形態では、制御プログラムB322には、図1に示すEPSの複合領域物理モデル100と、シミュレーション実行モジュールとが組み込まれている。そのため、中央処理装置310により、複合領域物理モデルのシミュレーションが実行され、それによって時系列データが生成される。次に、ステップS101~S103で付与したIDによって、当該複数の時系列データを、基準となる基準時系列データ332と、検証対象となる時系列データ331とを時系列データ毎に決定する。
ステップS104において、中央処理装置310は、基準となる基準時系列データ332と、検証対象となる時系列データ331とに対して、ステップS105からステップS111までの処理を行うための時間刻み幅(タイムステップともいう)を決定する。時間刻み幅は一定の時間に設定される場合に限定されるものではなく、適宜、変動可能となっている。時系列データの各要素間で値の変動が大きい場合は、データ検証の精度を向上させるために、時間刻み幅をより細かく刻む。なお、時間刻み幅は、時系列データのデータ刻み幅である場合に限定されるものではなく、より小さい時間刻み幅(より短い時間)にしてもよい。また、この時間刻み幅を、制御プログラムB322に基づいて中央処理装置310が実行する複合領域物理モデルシミュレーションの時間刻み幅と同じにしてもよい。一般に、時間刻み幅を小さくするほど、データ検証の精度と信頼性とを向上させることができる。
ステップS105において、中央処理装置310は、基準となる基準時系列データ332と検証対象となる時系列データ331との差の絶対値の時間加重平均Aを算出する。ここで、時間加重平均Aは、時間刻み幅で規定される時間毎に所定の重みが設定されており、例えば、時間刻み幅が狭い時間の重みは、時間刻み幅が広い時間の重みよりも小さくなるように設定されている。
ステップS106において、中央処理装置310は、基準となる基準時系列データ332の絶対値の時間加重平均Bを算出する。ここで、時間加重平均Bは、時間刻み幅で規定される時間毎に所定の重みが設定されており、例えば、時間刻み幅が狭い時間の重みは、時間刻み幅が広い時間の重みよりも小さくなるように設定されている。
ステップS107において、中央処理装置310は、ステップS105で算出した時間加重平均Aを、ステップS106で算出した時間加重平均Bで除算して100を乗じる演算を行う。除算値に100を乗じるのは、単位を%にするためである。なお、除算値に100を乗じなくてもよいが、その場合はステップS109で説明する閾値を、100を乗じない値に調整する必要がある。
ステップS108において、中央処理装置310は表示装置340に、基準となる基準時系列データ332と、検証対象となる時系列データ331と、前記除算して100を乗じた値とを表示する。なお、中央処理装置310は表示装置340に時系列データを、横軸を時間、縦軸を対象データの物理特性の表示に変換して表示してもよい。
ステップS109において、中央処理装置310は、前記除算して100を乗じた値が閾値未満か否かの判定を行う。中央処理装置310は、前記除算して100を乗じた値が閾値未満であると判定した場合(ステップS109:YES)、ステップS110の処理を行い、前記除算して100を乗じた値が閾値以上であると判定した場合(ステップS109:NO)、ステップS111の処理を行う。本実施形態では、当該閾値を検証対象システムであるEPSシステムの故障や欠陥の検出を想定した2.0%に設定した場合を例示して説明する。
ステップS110において、中央処理装置310は、表示装置340に「OK」と表示する。検証対象の時系列データ331が、基準となる基準時系列データ332に対して閾値以内に入っており、ほぼ等しいことを意味している。即ち、検証対象システムであるEPSが正常に動作していることを示している。
ステップS111において、中央処理装置310は、表示装置340に「NG」と表示する。検証対象の時系列データ331が、基準となる基準時系列データ332に対して閾値を超えており、逸脱していることを意味している。即ち、検証対象システムであるEPSが正常に動作しておらず、故障や欠陥を示唆している。
ステップS112において、中央処理装置310は、時間刻み幅の総和が検証対象の時間以上か否かの判定を行う。中央処理装置310は、時間刻み幅の総和が検証対象の時間以上であると判定した場合(ステップS112:YES)、処理を終了する。一方、中央処理装置310は、時間刻み幅の総和が検証対象の時間未満であると判定した場合(ステップS112:NO)、ステップS104に戻って処理を行う。時間刻み幅の総和は、検証対象システムの動作時間である。一般に、システムの動作時間は仕様で決められている。仕様とは、例えば、性能テストの仕様である。仕様で決められた動作時間がデータ検証の対象時間であり処理の終了判定に用いることができる。
なお、上記のステップS101~S112の説明のステップという語句は、先述の、固定ステップや可変ステップの語句で使用されている「時間刻み幅」という意味ではなく、フローチャート上の処理の段階を示すものである。
ここで、図4のフローチャートのステップS105からS108の演算は次の数式2で表すことができる。この数式2は、本発明の請求項2に対応する。
ここで、Σdtnはデータ検証対象システムの動作時間と同じ値になる。なお、dtは固定値ではなく変化し得る値である。ただし、前述したステップS104の処理の結果、ある時間区間において一定の値になることはあり得る。なお、数式2において、時間刻み幅で規定される時間毎に所定の重みは、式を簡単に説明するために時間刻み幅そのものとした。以降で説明する数式3~8の時間刻み幅で規定される時間毎に所定の重みについても同様である。
なお、数式2に関して、様々な変形式や類似式が挙げられる。具体的には、以下で説明する。
まず、数式2において、Σdtnに関して約分すると、次の数式3で表すことができる。この数式3は、本発明の請求項3に対応する。
数式2を、始めから数式3と記述しないのは、数式2の分母、分子の2つの時間加重平均値をモニタできるように、数式2で表しておくのが好ましい場合があるからである。
また、数式2を時間加重の二乗平均平方根の式に拡張すると、次の数式4で表すことができる。この数式4は、本発明の請求項4に対応する。
さらに、数式4の分子中と分母中にあるΣdtnの平方根を約分すれば、次の数式5で表すことができる。この数式5は、本発明の請求項5に対応する。
また、数式4を時間加重平均の場合の式に拡張すると、次の数式6で表すことができる。この数式6は、本発明の請求項6に対応する。
数式6の分子中と分母中にあるΣdtnを約分すれば、次の数式7で表すことができる。この数式7は、本発明の請求項7に対応する。
また数式2の積分計算において、台形則で表現すると、次の数式8で表すことができる。この数式8は、本発明の請求項8に対応する。
なお、積分則は、台形則以外に、例えば、シンプソン則、合成シンプソン則、オイラー法(前進オイラー法、後退オイラー法、修正オイラー法)、ニュートン・コーツ則、ガウスの数値積分則、二重指数関数型数値積分則等を用いることができる。前述した数式2~7の積分計算において、これらの法則式を用いてもよい。
前述した数式2~8の説明より、図4のフローチャートのステップS105からS108の演算を、数式2の替わりに、数式3~8の何れかで表せる演算を用いてもよい。
<データ検証装置の接続>
次に、データ検証装置300と外部装置との接続の一例を説明する。図5は、データ検証装置300と外部装置との接続の一例を説明する図である。
図5に示すように、データ検証装置300は、検証対象システム500と、センサ410と通信線521を介して検証対象システム500と接続する。データ検証装置300は、通信線521を介してセンサ410と通信を行いつつ検証対象の時系列データ331を取得する。センサ410は、検証対象システム500の内部の測定対象の部位に接続され、測定対象をセンシリングし、物理的な時系列データ331を取得する。なお、図5ではセンサ410は検証対象システム500の内部にあるため、図示を割愛した。
本実施形態では、先述の通り、制御プログラムB322の指令により、中央処理装置310が、図1に示すEPSの複合領域物理モデル100のシミュレーションを実行する。それによって、検証対象システムの時系列データ331を生成する。検証対象システムは、図1に示すEPSの複合領域物理モデル100であり、制御プログラムB322に組み込まれる。そのため、本実施形態では、検証対象システム500及びセンサ410の接続は必要ではない。図5では、検証対象システムがデータ検証装置300の外部にある装置である場合の理解を容易にするため、検証対象システム500を図示した。
データ検証装置300の表示装置340は、図4で説明した通り、時系列データを特性表示に変換したものと、ステップS107の演算結果と、閾値の判定結果と、を表示する。
実施形態では、データ検証装置300は、通信線522を介して、ネットワーク530と接続されている。このネットワーク530は、通信線523を介して、ネットワークサーバ540と接続されている。データ検証装置300は、出力装置420若しくは通信装置350を介して、データ検証の処理で生成した時系列データ、または使用した時系列データと、ステップS107の演算結果と、閾値の判定結果と、当該結果を表す信号との内、何れかを外部装置であるネットワークサーバ540に送信できるように構成されている。また、データ検証装置300は、ネットワーク530を介して、ネックワークサーバ540に蓄積されたデータを取得し、データ検証の処理に活用することもできる。
なお、データ検証装置300、センサ410、ネットワーク530、ネットワークサーバ540の間はLAN(Local Area Network)で接続されていてもよい。また、各装置間は無線により通信してもよく、この場合は通信線521、522、523を省略することができる。
<データ検証結果の一例>
次は、データ検証装置300によるデータ検証結果の一例を説明する。
図6は、データ検証装置300によるデータ検証結果の一例を説明する図であり、データ検証装置300が検証対象の時系列データ331を正常と判定する一例を示す図である。
図6は、図1のEPSの複合領域物理モデル100のシミュレーション実行後に得られる時系列データに関して、当該時系列データを検証対象の時系列データ(例えば、前述した時系列データ331)として、実機の測定から得られた時系列データを基準となる基準時系列データ(例えば、前述した基準時系列データ332)として、2つの時系列データを比較した場合の、図4のフローチャートのステップS104の処理で決定する時間刻み幅(図6で時間軸に直交し、時間軸を分割する線)と、瞬時誤差率Enの時間特性(同図で棒グラフ状)とを表している。検証対象の時系列データ331は、例として、図1のモータ130の出力であるモータトルクの時系列データである。実機の測定から得られた基準時系列データ332は、実機のモータトルクの時系列データである。
図4に示すフローチャートの処理では、瞬時誤差率Enを算出しないが、図6に示したのは、図2に対する説明のため算出したものである。なお、瞬時誤差率Enは先述と同様、(YM-YT)/YT×100の計算式から算出する。YM、YTは、前述した数式1と同じため説明を省略する。また、図6に示す瞬時誤差率En=±2.5%のラインは、図2との比較のために表示した。瞬時誤差率En=±2.5%は、図4のフローチャートのステップS109の処理にある閾値とは異なる閾値である。図6に示す時間刻み幅は、中央処理装置310が、図4に示すフローチャートのステップS104の処理により決定する値である。図6中のdti、dtj、dtk、dtmは、時間刻み幅の一例を示すために抽出したものである。時間刻み幅dti、dtj、dtk、dtmは微小時間であり、例えば、0.05~1.0μsの範囲の時間である。図4に示すフローチャートのステップS104の処理で決定する時間刻み幅は適宜変動し、どれも一定ではないことがわかる。
図6に示す時間刻み幅dtjに該当する時間において、瞬時誤差率Enの大きな外れ値1.5E+10%が発生しているのが分かる。しかし、図4に示すフローチャートの処理によるデータ検証では、この外れ値により評価不能になることはない。それは、前述した(a)~(c)の原因による瞬時誤差率Enの外れ値は、dtjのような微小時間の間に発生するため、図4に示すフローチャートのステップS107までの処理により、中央処理装置310が算出した値は1.5E+10%のような大きな外れ値にはならないからである。さらに、図4に示すフローチャートの演算処理では、外れ値が無視若しくは除外されることはない。これについて詳述すると、当該データ検証方法では、瞬時誤差率Enの大きな外れ値が発生した場合、外れ値とこの外れ値が発生する微小な時間幅との組合せと、外れ値ではないデータとこの外れ値ではないデータの時間幅との組合せと、によって評価値を算出するため、外れ値の影響を相対的に小さくすることができる。それによって、データ検証装置300は、大きな外れ値が発生しても評価不能にならずに、且つ、この外れ値自体も考慮したデータ検証を行うことができる。
以上のデータ検証装置300による時系列データのデータ検証の結果、図4に示すフローチャートのステップS107までの処理により中央処理装置310が算出した値は、図5に示す表示装置340に表示されているものと同じ0.32%であった。この場合、この算出した値は、EPSシステムの故障や欠陥の検出を想定した閾値2.0%未満であるため、中央処理装置310は、図4に示すフローチャートのステップS110までの処理に従い、検証対象の時系列データ(例えば、前述した時系列データ331)を、基準となる基準時系列データ(例えば、前述した基準時系列データ332)に対して、所定の閾値を逸脱していないデータである、と判定することができる。即ち、データ検証装置300は、瞬時誤差率Enの大きな外れ値が発生しても評価不能にならずに、検証対象の時系列データ(例えば、前述した時系列データ331)と基準となる基準時系列データ(例えば、前述した基準時系列データ332)と、をほぼ同一の特性と判定することができる。
次に、中央処理装置310が検証対象の時系列データを異常な時系列データであると判定する場合について説明する。
図7は、データ検証装置300によるデータ検証結果の一例を説明する図であり、データ検証装置300が検証対象の時系列データ331を異常と判定する一例を示す図である。図7の見方は図6と同様である。
図7でも前述と同様に、時間刻み幅dtjに該当する時間において、瞬時誤差率Enの大きな外れ値1.5E+10%が発生している。図6で説明した時系列データとの違いは、図7で示した時間枠4/5の時間以降において、瞬時誤差率Enが大きく変動していることにある。この時間枠4/5の時間以降の時間刻み幅は11個分あり、この11個分の時間刻み幅の総和(時間幅ともいう)をdtp11として示す。
データ検証装置300(中央処理装置310)は、時間刻み幅dtjに該当する時間において、瞬時誤差率Enの大きな外れ値1.5E+10%が発生しているが、この外れ値により評価不能になることはない。しかし、図7では、時間幅dtp11に該当する時間において、故障や欠陥を示唆する瞬時誤差率Enの大きな変動が発生している。
図4に示すフローチャートのステップS107までの処理により、中央処理装置310が算出した値は2.7%であった。この場合、中央処理装置310が算出した値は、EPSシステムの故障や欠陥の検出を想定した閾値2.0%以上であるため、中央処理装置310は、図4に示すフローチャートのステップS111までの処理に従い、検証対象の時系列データ(例えば、前述した時系列データ331)を、基準となる基準時系列データ(例えば、前述した基準時系列データ332)に対して、逸脱している時系列データであると判定することができる。即ち、データ検証装置300は、瞬時誤差率Enの大きな外れ値が発生しても評価不能にならずに、検証対象の時系列データは基準となる基準時系列データとは異なるデータであると判定することができる。
次に、データ検証装置300及びデータ検証方法による効果について説明する。
前述した実施形態にかかるデータ検証装置300によって、検証対象の時系列データ(例えば、前述した時系列データ331)に関して、前述した(a)~(c)の原因により、瞬時誤差率Enの大きな外れ値が発生しても評価不能にならず、且つ、外れ値自体も評価の処理に組み込むことで、精度及び信頼性の高いデータ検証を行うことができる。本実施形態にかかるデータ検証装置300及びデータ検証方法の効果をさらに詳しく説明すると、次の(1)~(3)の通りである。
(1)複合領域物理モデル100を使用した複合領域物理モデルシミュレーション、同シミュレーションを活用した診断、若しくはこれらと同等のアルゴリズム、の何れかで生じる時系列データは、データ評価時に瞬時誤差率Enの大きな外れ値が生じ易く、時系列データの品質や精度の評価が困難な場合もあった。データ検証装置300はこの困難な場合を解決できる。本実施形態にかかるデータ検証装置300の応用は、例えば、複合領域物理モデルシミュレーションの実行時間を削減したい場合、複合領域物理モデル100を簡略化する場合がある。データ検証装置300は、その複合領域物理シミュレーションの結果生じる時系列データを評価し、時系列データの精度が悪化しなければ、簡略化した複合領域物理モデルを使用できる。即ち、本実施形態にかかるデータ検証装置300は、複合領域物理モデルシミュレーションの高速化に活用できる。
(2)従来のデータ検証装置では、検証対象の時系列データ(例えば、前述した時系列データ331)に関して、瞬時誤差率Enの大きな外れ値が発生した場合には評価不能になる恐れがあった。この対策として、従来の技術では、複合領域物理モデル100を構成する各物理モデルの評価箇所のすべてに、瞬時誤差率Enの大きな外れ値の除外処理のために個別のフィルタのモデルを設計し、同モデルを追加し、フィルタパラメータを調整する方法があった。本実施形態にかかるデータ検証装置300及びデータ検証方法では、その作業を不要にすることができる。そのため、データ検証装置300及びデータ検証方法では、この作業に関する技術的な経験や勘が不要となり、経験の浅い作業者でもデータ検証を精度よく行うことができる。
(3)重要保安部品に該当するEPSシステムの機能安全を、複合領域物理モデルシミュレーションにより実機の製造前に証明することができる。または、EPSの構成部品や制御ソフトウェアの不具合や故障発生時の安全侵害を、複合領域物理モデルシミュレーションで模擬、検出でき、製品の設計段階でそれらの対策を施すことができる。また、安全への侵害がないことを確認できれば、ISO26262で規定されている機能安全の証明を、実機を用いることなく得られる。安全への侵害がないこととは、例えば、EPSの構成部品の故障発生時において、EPSのフェールセーフ機能が発動し人命を危険にさらすような重大な交通事故を回避できることである。それらによって、EPS製品の品質向上に繋がる。
なお前述した実施形態では、データ検証装置300の検証対象の時系列データはEPSのモータトルクであったが、これは複合領域物理モデルシミュレーションの結果生成する時系列データの一例であって、本実施形態のデータ検証装置300の検証可能な時系列データは、これに限定されるものではない。物理的な時間特性を表す時系列データであれば適用可能である。物理的な時間特性を表す時系列データとは、例えば、物体に作用する力である、重力、摩擦力、圧力、抗力、張力、弾性力、引力、反発力、静電気力、電磁力等を時間列で整列させたデータのことである。また物理的な時間特性を表す時系列データとは、例えば、物体の運動の結果生じる、加速度、速度、変位、運動量、振動数、物体の変形量、質量の変化量、体積、熱、温度等を時間列で整列させたデータのことである。また物理的な時間特性を表す時系列データとは、例えば、物体や電子の運動の結果生じる、電圧、電流、抵抗、インダクタンス、静電容量、回転物に作用する、トルク、向心力、遠心力、回転物の角速度、回転角、回転数等を時間列で整列させたデータのことである。また物理的な時間特性を表す時系列データとは、例えば、物体のエネルギーである、運動エネルギー、位置エネルギー、波エネルギー、熱エネルギー、化学エネルギー、電気エネルギー、音や光の波長、振動数、振幅等を時間列で整列させたデータのことである。また物理的な時間特性を表す時系列データとは、例えば、システムの制御対象(例えば、アクチュエータ、モータ等)の制御量を指令するコントローラの制御指令信号、物理特性をセンシリングして制御対象からコントローラへ送信するフィードバック信号、等を時間列で整列させたデータのことである。
また、本実施形態では、データ検証装置300の利用目的は、データの品質、精度、信頼性を評価するためであったが、これは一例であって、データ検証装置300の利用目的は、これに限定されるものではない。例えば、検証対象の時系列データの有用性、有効性、大きさ、範囲、の何れかを評価する場合にも利活用できる。
<第2の実施の形態>
次に本発明の第2の実施の形態にかかる状態監視装置600を説明する。
<状態監視装置>
第2の実施の形態では、時系列データを生成するシステム、若しくは時系列データを生成する観測対象の環境の状態を監視し、生成した時系列データに関して、瞬時誤差率Enの大きな外れ値が発生しても評価不能にならずに、且つ、外れ値自体も考慮して監視することで、精度及び信頼性の高いデータ検証機能を備え、当該システム若しくは当該環境の状態監視をリアルタイムで可能にする状態監視装置600の一例を説明する。なお、本実施形態に記載のある時系列データとは、センサが生成する時系列データに限定した意味ではなく、広く様々な方法により取得した時系列データを意味する。例えば、コンピュータの演算(シミュレーション)により得られた時系列データ、入力装置などを用いて作成された時系列データなどを含む概念である。基準時系列データについても同様である。
図8は、状態監視装置600の機能を説明する図である。図9は、状態監視装置600と外部装置との接続の一例を説明する図である。なお、図8、図9において第1の実施形態にかかるデータ検証装置300と同一の構成及び機能、またはデータ検証装置300に接続した外部装置と同一の構成及び機能については、同一の符号を付し、必要に応じて説明する。
図9に示すように、状態監視装置600は監視対象システム700と、通信線520、OBD(On-Board Diagnostics)スキャンツール800と呼ばれる携帯端末、及び通信線520を介して接続されている。OBDとは、車両に搭載されるECUが行う車両の自己故障診断システムである。第2の実施の形態では、監視対象システム700は車両であり、車両に設けられたセンサで生成された時系列データは車両のECUと通信線520を介して、OBDスキャンツール800で取得される。状態監視装置600は、状態監視装置600の内部にある通信装置350とOBDスキャンツール800の間で同期をとり通信線521を介して通信し、車両に設けられたセンサで生成された時系列データを取得する。なお、状態監視装置600は前述したセンサ410と同様のセンサを有するが、第2の実施形態では車両に設けられたセンサを使用するため、センサ410を使用しない。この理由のため図9においてセンサ410の図示は省略した。このように状態監視装置600は、監視対象システム700の内部にあるセンサを使用してもよい。また監視対象システム700に物理的な時系列データを生成する仕組みがあれば、センサを使用しなくてもよい。時系列データを生成する仕組みとは、例えば監視対象システム700の内部の中央処理装置の演算、またはECUの内部のマイコンによる演算である。
状態監視装置600は、監視対象システム700の状態を監視する。さらに、状態監視装置600は、前述した制御プログラムB322(図3参照)を有しない。即ち、前述した第1の実施形態では、制御プログラムB322に、図1に示すEPSの複合領域物理モデル100と、複合領域物理モデルシミュレーションを実行するシミュレーション実行モジュールとを組み込んだが、状態監視装置600にはそれらが存在しない。また、状態監視装置600は、制御プログラムA321に、後述する図10に示すフローチャートの処理を組み込んでいる。以上の点が、前述したデータ検証装置300と異なる点である。
<状態監視装置の制御処理>
状態監視装置600の制御処理について図10を用いて説明する。
図10は、状態監視装置600の制御処理の一例を説明するフローチャートである。
以下で説明する処理は、状態監視装置600の中央処理装置310が実行及び演算を行う。初めに、ステップS201において、監視対象システム700の状態を監視するための、データ検証処理を実行する前に、ユーザー(不図示)が事前に、状態監視装置600の入力装置400を操作し、監視対象システム700の理想的な若しくは実機の時系列データを、基準時系列データ332として補助記憶装置330に格納する。この基準時系列データ332は、監視対象システム700から取得した時系列データ331が正常に動作しているか否かを判断する際に用いられる基準となる時系列データである。なお、状態監視装置600では、事前に外部記憶装置430を状態監視装置600に接続し、当該基準時系列データ332を、外部記憶装置430から補助記憶装置330に移動するように構成してもよい。また、状態監視装置600では、事前に通信装置350を介して、ネットワーク530、ネットワークサーバ540、または他の外部装置から、当該基準時系列データ332を取得して補助記憶装置330に格納するように構成してもよい。なお、ユーザーによる入力装置400の操作と、時系列データの取得と、時系列データの補助記憶装置330への格納と、をAI(Artificial Intelligenceの略で、人工知能の意味)やRPA(Robotic Process Automationの略で、ソフトウェアのロボットによる業務の自動化の意味)等の活用によって自動化してもよい。補助記憶装置330に格納する時系列データには、時系列データ毎にIDを付与する。IDは、監視対象システム700のどの物理データに該当するのかと、基準となる基準時系列データ332であるのか、若しくは検証対象となる時系列データ331であるのかを識別するためのものである。時系列データの区分は、ユーザーが入力装置400を操作して設定するか、または状態監視装置600が一括で設定する場合がある。
ステップS202において、中央処理装置310は、通信装置350とOBDスキャンツール800の間で同期をとり通信線521を介して通信し、監視対象システム700の内部に設けられたセンサで生成された時系列データを、検証対象となる時系列データ(例えば、前述した時系列データ331)として受信する。時系列データの受信後、中央処理装置310は、検証対象となる時系列データ毎にIDを付与する。なお状態監視装置600が監視対象システム700から検証対象となる時系列データ(例えば、前述した時系列データ331)を受信できるのであれば、OBDスキャンツール800を介さなくてもよい。
ステップS203において、中央処理装置310は、ステップS201で補助記憶装置330に格納した基準となる基準時系列データ(例えば、前述した基準時系列データ332)と、ステップS202で受信した検証対象となる時系列データ(例えば、前述した時系列データ331)と、を記憶装置320にロードする。なお、ステップS202で受信した時系列データを、補助記憶装置330若しくは外部記憶装置430に格納した後に、記憶装置320にロードしてもよい。また、中央処理装置310の演算により生成される時系列データ(例えば、前述した時系列データ331)を、時系列データ毎にIDを付与し、記憶装置320にロードしてもよい。
ステップS204において、中央処理装置310は、基準となる基準時系列データ(例えば、前述した基準時系列データ332)と、検証対象となる時系列データ(例えば、前述した時系列データ331)とを、以下で説明するステップS205からステップS211までの処理を行うための、時間刻み幅を決定する。時間刻み幅は一定の時間に設定される場合に限定されるものではなく、適宜、変動可能となっている。時系列データの各要素間で値の変動が大きい場合は、データ検証の精度を向上させるために、時間刻み幅をより細かく刻む。なお、時間刻み幅は、時系列データのデータ刻み幅である場合に限定されるものではなく、より小さい時間刻み幅(より短い時間)にしてもよい。一般に、時間刻み幅を小さくするほど、データ検証の精度と信頼性とを向上させることができる。
ステップS205において、中央処理装置310は、基準となる基準時系列データ(例えば、前述した基準時系列データ332)と検証対象となる時系列データ(例えば、前述した時系列データ331)との差の絶対値の時間加重平均Aを算出する。ここで、時間加重平均Aは、時間刻み幅で規定される時間毎に所定の重みが設定されており、例えば、時間刻み幅が狭い時間の重みは、時間刻み幅が広い時間の重みよりも小さくなるように設定されている。
ステップS206において、中央処理装置310は、基準となる基準時系列データの絶対値の時間加重平均Bを算出する。ここで、時間加重平均Bは、時間刻み幅で規定される時間毎に所定の重みが設定されており、例えば、時間刻み幅が狭い時間の重みは、時間刻み幅が広い時間の重みよりも小さくなるように設定されている。
ステップS207において、中央処理装置310は、時間加重平均Aを時間加重平均Bで除算して100を乗じる演算を行う。除算値に100を乗じるのは、算出値の単位を%にするためである。なお、除算値に算出値に100を乗じなくてもよいが、その場合はステップS209で説明する閾値を、100を乗じない値に調整する必要がある。
ステップS208において、中央処理装置310は、出力装置420に対して基準となる基準時系列データ(例えば、前述した基準時系列データ332)と、検証対象となる時系列データ(例えば、前述した時系列データ331)と、除算して100を乗じた値とを出力する。ここで中央処理装置310は表示装置340に、出力装置420に出力したものと同じ時系列データと値を表示してもよい。さらに、中央処理装置310は表示装置340に時系列データを、横軸を時間、縦軸を対象データの物理特性の表示に変換して表示してもよい。
ステップS209において、中央処理装置310は、ステップS208で算出した値が閾値未満か否かの判定を行う。中央処理装置310は、算出した値が閾値未満であると判定した場合(ステップS209:YES)、ステップS210の処理を行い、算出した値が閾値以上であると判定した場合(ステップS209:NO)、ステップS211の処理を行う。当該閾値は、例えば、監視対象システム700の故障や欠陥の検出を想定した1.5%に設定されている。
ステップS210において、中央処理装置310は、監視対象システム700の状態が正常であることを表す信号を生成して出力装置420に出力する。若しくは中央処理装置310は、監視対象システム700の状態が正常であることを表す信号を生成して通信装置350を介して外部の装置に出力する。ここで外部の装置とは、例えば、図9に示すネットワーク530やネットワークサーバ540である。また、中央処理装置310は、表示装置340に「OK」と表示するようにしてもよい。
ステップS211において、中央処理装置310は、監視対象システム700の状態が異常であることを表す信号を生成して出力装置420に出力する。若しくは中央処理装置310は、監視対象システム700の状態が異常であることを表す信号を生成して通信装置350を介して外部の装置に出力する。ここで外部の装置とは、例えば、図9に示すネットワーク530やネットワークサーバ540である。また、中央処理装置310は、表示装置340に「NG」と表示するようにしてもよい。
ステップS212において、中央処理装置310は、時間刻み幅の総和が検証対象の時間以上か否かの判定を行う。中央処理装置310は、時間刻み幅の総和が検証対象の時間以上であると判定した場合(ステップS212:YES)、処理を終了する。中央処理装置310は、時間刻み幅の総和が検証対象の時間未満であると判定した場合(ステップS212:NO)、ステップS202に戻って処理を行う。ここで時間刻み幅の総和は、監視対象システム700の動作時間である。一般に、監視対象システム700の動作時間は仕様で決められている。仕様とは、例えば、性能テストの仕様である。仕様で決められた動作時間がデータ検証の対象時間であり、処理の終了判定に用いられる。また、データ検証の対象時間を、正常に動作している監視対象システム700のシステム動作の時間を観測して、その平均値を用いてもよい。
なお、前述したステップS201~S212の説明のステップという語句は、前述した固定ステップや可変ステップの語句で使用されている「時間刻み幅」という意味ではなく、フローチャート上の処理の段階を示すものである。
前述したステップS205からS208の演算は、第1の実施形態で説明した数式2でも表すことができる。また、前述したステップS205からS208の演算は、前述した数式2の替わりに、前述した数式3~8の何れかで実現してもよい。
以上で、図8の制御プログラムA321に組み込まれる処理(ステップS201~S212)を説明した。このステップS201~S212で表される処理は、高度なアルゴリズムを必要としないため、状態監視装置600は、監視対象システム700が動作する実時間中に、検証対象の時系列データ(例えば、前述した時系列データ331)のデータ検証と、監視対象システム700の状態の判定とを実行することができる。即ち、状態監視装置600は、監視対象システム700の状態をリアルタイムで監視することができる。
次に、状態監視装置600によるデータ検証結果と状態監視の判定結果の一例について説明する。
前述した図10に示すフローチャートのステップS207までの処理により、中央処理装置310が算出した値は0.76%であった。この場合、当該算出値は、監視対象システム700の故障や欠陥の検出を想定した閾値1.5%未満であるので、中央処理装置310は、図10に示すフローチャートのステップS211までの処理に従い、検証対象の時系列データ(例えば、前述した時系列データ331)を、基準となる基準時系列データ(例えば、前述した基準時系列データ332)に対して、逸脱していないデータであると判定することができる。このため、中央処理装置310は、監視対象システム700の状態は正常であると判定する。図10に示すフローチャートのステップS205からS211までの処理は、図4に示すフローチャートのステップS105からS111までの処理とほぼ同一であるため、状態監視装置600は、瞬時誤差率Enの大きな外れ値が発生しても評価不能にならずに、検証対象の時系列データと基準となる基準時系列データとをほぼ同一の特性であると判定したと言える。その結果、中央処理装置310は、監視対象システム700の状態は正常であると判定する。
次に中央処理装置310が、監視対象システム700の状態を異常と判定する場合の一例について説明する。
図10に示すフローチャートのステップS207までの処理により、中央処理装置310が算出した値が1.8%であった場合である。この場合、当該算出値は、監視対象システム700の故障や欠陥の検出を想定した閾値1.5%以上であるので、中央処理装置310は、図10に示すフローチャートのステップS211までの処理に従い、検証対象の時系列データ(例えば、前述した時系列データ331)を、基準となる基準時系列データ(例えば、前述した基準時系列データ332)に対して、逸脱したデータであると判定することができる。このため、中央処理装置310は、監視対象システム700の状態は異常であると判定する。図10に示すフローチャートのステップS205からS211までの処理は、図4に示すフローチャートのステップS105からS111までの処理とほぼ同一であるため、状態監視装置600は、瞬時誤差率Enの大きな外れ値が発生しても評価不能にならずに、検証対象の時系列データは基準となる基準時系列データとは異なるデータであると判定したと言える。その結果、中央処理装置310は、監視対象システム700の状態は異常であると判定する。
このように、状態監視装置600は、監視対象システム700で生成された検証対象となる時系列データ(例えば、前述した時系列データ331)と、理想的若しくは実機の基準となる基準時系列データ(例えば、前述した基準時系列データ332)と、のデータ間におけるデータ検証処理をリアルタイムで実行し、それによって、監視対象システム700の状態をリアルタイムで判定することができる。なお、状態監視装置600が状態を監視する対象は、第2の実施形態では車両であったが、車両は一例であってこれに限定するものではない。気象や地震等の自然環境や、建築物や構造物等の人工的な環境、の状態の監視に適用することも可能である。
前述した第1の実施形態と第2の実施形態の説明では、図4と図10のフローチャートと数式2~8とでデータ検証の処理のプロセスも詳しく説明した。そのため、第1の実施形態と第2の実施形態は、データ検証の方法や同検証の技法としても有用である。
第1の実施形態ではEPSの複合領域物理モデルを例に、第2の実施形態では車両を例にとり説明したが、システムの動作を模擬するシミュレーション装置、状態を監視する処理が必要な組込み装置や観測装置に適用できる。例えば、複合領域物理モデルシミュレータ、車両運動シミュレータ、IoT機器、センサ、発電機、電動機、自動車、電装品、鉄道、ECU、コンピュータ、エレベータ、ロボット、工作機械、冷蔵庫、エアコン、電気掃除機、複写機、医療機器、音響機器、電子楽器、通信装置、計算機、測定機器、気象観測計、震度計、電力計、分析装置、検査装置、オシロスコープ、等にも適用可能である。
なお、前述した第1の実施形態と第2の実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも前述した実施の形態の全ての構成を備えているものに限定されるものではない。本発明は、前述した実施の形態を全て組み合わせてもよく、何れか2つ以上の実施の形態を任意に組み合わせても好適である。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えてもよい。各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をしてもよい。例えば、データ検証装置300をマイコン程度の小型にする場合や、データ検証装置300をセンサ内部に組み込む場合もありうる。データ検証装置300で使用する時系列データを、別な形式のデータに変換してデータ検証処理を実行する場合もある。例えば、時系列データを暗号化して同処理を実行する場合である。さらに、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、図面上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。