JP7032485B2 - 水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法 - Google Patents

水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法 Download PDF

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Description

本発明は、水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法に関するものである。
近年、コンピュータ計算能力の飛躍的向上や通信インフラ環境の整備、解析アルゴリズムの進化によって、第3次の人工知能ブームとなっている。通信インフラ環境の整備によって、大量のデータを容易に取得することが可能となり、これまでの人工知能ブームとは異なって、実社会での活用期待が高まっている。
機械学習/人工知能は、様々な分野への適用が期待されており、水処理/汚泥処理分野でも、その活用方法の模索がなされている。機械学習/人工知能の水処理/汚泥処理分野での活用方法の一つに、未知の環境、例えば、時間的に将来における目的変数の予測が挙げられる。未知の環境における目的変数の予測方法の一つに、解析的なアプローチがあり、これは物理現象を理論的に解析し、それを方程式化するものである。一方で、機械学習/人工知能による未知の環境における目的変数の予測は、入力と出力間の自然法則に則った理論的な関係の解析を行わないままに、入力と出力間の相関関係を統計的に分析し、関係式の例として回帰式を作成するものである。
水処理/汚泥処理分野では、起きている現象を理論的に解析することが難しい場合もあり、理論的な背景を解明しないままに、入力から出力を予測することができる機械学習/人工知能は、有効に活用できる局面が多くあることが予想される。
人工知能ブーム自体は前記の通り、今回で3度目のブームを迎えている。1980年代後半に起きた第二次人工知能ブームの主役アルゴリズムは、ニューラルネットワークだった。第一次人工知能ブームの際には、入力層と出力層のみで構成されていたパーセプトロンに隠れ層を追加することと、「誤差逆伝播法」と呼ばれる学習方法の確立によって、第二次の人工知能ブームとなった。結局、第二次人工知能ブームは廃れることとなるが、課題によっては満足な予測精度を得られなかったことが要因の一つだったと言われている。今回の第三次の人工知能ブームは、ニューラルネットワークの隠れ層を多層化したDeep Learning(深層学習)が主役であり、学習アルゴリズムの進歩などによって、適用する課題によっては高い精度を発揮できるようになったことがブームの一因である。本明細書では、入力層と一層の隠れ層と出力層の三層のみで構成されるものをニューラルネットワーク、隠れ層が二層以上のものをDeep Learningとして区別して扱うこととする。また、人工知能と機械学習では、人工知能の方がより広い概念であり、人工知能を作成するための手段の一つとして機械学習がある。
特開2013-94686号公報 特開平6-328092号公報
水処理/汚泥処理分野でも、機械学習/人工知能の活用には前記のような利点がある。機械学習/人工知能で入力から出力を得るモデルを作成する際に重要なことは、学習データに対してのみ高い精度を与える過学習(オーバーフィッティング)を避けることである。ここで、学習データは教師データ・トレーニングデータと同義である。機械学習/人工知能に求められるのは、学習データ以外のデータ(テストデータ)に対して高い予測精度を得られることであり、過学習を避ける方法の一つに十分に大量の学習データを用意することが挙げられる。Deep Learningによって再び注目を集めることとなった人工知能だが、その要因の一つは予測精度の高さにあり、それには通信インフラ環境の整備等によって、大量のデータを容易に集めることが可能になったことも大きく貢献している。
つまり、再び注目されるようになった機械学習/人工知能で、実用レベルのモデルを構築するには、大量のデータを有するデータベースの構築が必要不可欠であると言える。Deep Learningを例に取ると、ニューラルネットワークの隠れ層を多層化したため、最適化する必要のあるパラメータが増えており、学習データが少ないと過学習を起こす可能性がある。したがって、大量のデータを有するデータベースの必要性は、第二次人工知能ブーム時代には見られなかった新たな課題であると言える。
しかし、今般の機械学習/人工知能への注目度の再度の高まりや通信インフラ環境の充実度の高まりは、近年のことであるため、今般の機械学習/人工知能の活用を想定してこなかった水処理/汚泥処理分野では、モデル構築に必要なデータを取っていない、あるいは、取っているが頻度が著しく低い(例えば、1回/日)、モデル構築に必要なデータの種類は十分で頻度も十分だが、データを貯め始めて日が浅いため、データセット数が足りないなど、現状のままでは、機械学習/人工知能で精度の高い回帰式を作成することが不可能な場合が多く見受けられる。
さらに、データから予測式(=回帰式)を作成するという観点から、従来発明の問題点を下記する。
特許文献1では、浄水場における最適な凝集剤の注入率を決定するために、原水水質を測定し、凝集剤注入率を目的変数とする重回帰分析を実施することが記載されている。その際に、過去の水質データと凝集剤注入率はデータベースに蓄積されることが示されている。しかし、この発明には二つの課題がある。一つ目は機械学習アルゴリズムが重回帰分析であることである。重回帰分析は説明変数間に共線性(相関)がある場合には、得られる回帰式が安定しないことが一般的に知られている。また、重回帰分析は線形回帰手法であることから、説明変数群と目的変数間に非線形の関係があった場合には、精度の良い回帰式を得ることができないという問題がある。さらに、この発明では、重回帰分析を行うための十分なデータを貯めるために多くの時間を要するという課題がある。実プラントでデータを蓄積しながら回帰式を更新していくため、例えば新設の設備ではデータベース自体が存在しないため、供用開始当初には制御することができない問題点を抱えている。
特許文献2では、実プラントを用いてニューラルネットの教師データ(学習データ)を蓄積する方法が開示されている。しかし、この発明も、実プラントを用いているため、データを集積するために時間が掛かる点や新設プラントの稼働時には、そもそもデータが無いため、制御できない問題点を有する。さらに、機械学習アルゴリズムも隠れ層が1層のニューラルネットであるため、その精度に課題があることは前記の通りである。
さらに、水処理/汚泥処理分野で機械学習/人工知能を用いるにあたり、考慮しなければならない課題をもう1点記述する。水処理/汚泥処理分野におけるプラントの維持管理では、センサや分析機器により取得できる数値のみならず、運転員の五感、特に目によりプラントの処理状況を判断している場合がある。
例えば、水処理において無機凝集剤を注入した際に生じる凝集フロックの大きさと形状から、凝集剤の過不足を判断する場合や、汚泥処理において無機凝集剤又はポリマーを注入した際に生じる汚泥凝集フロックの大きさと形状から、薬剤の過不足を判断する場合がある。他にも、水処理において活性汚泥法を用いている場合、活性汚泥の生物相が過曝気や過負荷などにより変化し、活性汚泥が分散、解体状態となっていないか(バルキングを起こしていないか)を判断するため、沈殿槽の越流水を見て、沈殿性の悪い活性汚泥の小さな凝集フロックの存在量と状態を確認する場合がある。
さらに、微生物を用いた水処理において、効率的な生物反応と固液分離を目的に、活性炭やプラスチック素材などを担体として微生物を付着させる生物担体法があるが、このとき担体表面の微生物層の付着・生育状態の適性を目視で確認する場合がある。
つまり、水処理/汚泥処理分野では、センサ等の数値データのみを学習しても、現在人間の視覚情報と経験に頼った運転管理レベルを達成できない可能性がある。
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、データベースとして画像情報を含、精度の高い出力を返すことができる水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法を提供することにある。
本発明は、実原水又は実汚泥を用いて水処理又は汚泥処理を行う水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法において、前記実原水又は実汚泥を用いた回分試験装置、あるいは、前記水処理又は汚泥処理システムの近傍に設置されて前記実原水又は実汚泥を用いて運転する連続試験装置を用いて予め取得した、少なくとも画像取得装置により取得した静止又は連続画像からなる説明変数と、前記説明変数の設定条件下での水処理又は汚泥処理システムの運転の良否を示す値からなる目的変数とを、1つのデータセットとして、所定量のデータセットを備えてなるデータベース、を事前に用意しておき、前記水処理又は汚泥処理システムとは異なる前記回分試験装置あるいは前記連続試験装置によって事前に用意しておいたデータベースを用いて機械学習アルゴリズムによって予測モデルを構築し、前記構築された予測モデルを前記実原水を対象とした前記水処理システム又は前記実汚泥を対象とした前記汚泥処理システムの制御部に予め導入した後に、前記水処理又は汚泥処理システムでの実運転の制御を開始することを特徴とする水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法にある。
本発明は、カメラなどの画像取得装置で取得する静止又は連続画像データを前記データベースに含むことにより、これまでプラントの運転員が視覚によって判断していた現象を含めて、モデルを構築した上で、水処理又は汚泥処理システムを運転制御することが可能となる。
また本発明は、上記特徴に加えて、前記実運転の制御開始後、実原水又は実汚泥を処理する実運転から得られたデータも、前記水処理又は汚泥処理システムでの実運転の制御を開始した後に、前記データベースに加えることを特徴としている。
実プラントで得られるデータも、このデータベースに加えることにより、さらに精度を高めることが可能になる。
また本発明は、上記特徴に加えて、前記説明変数として設定する項目の中には、少なくとも前記実運転を行う水処理又は汚泥処理システムに設置される画像取得装置またはセンサで測定できる項目を含むことを特徴としている。
ところで、前記データベースを用いてモデルを構築する際に用いる機械学習アルゴリズムとしては、SVR法(サポートベクター回帰法)、PLS法(部分最小二乗法:Partial Least Squares)、Deep Learning法、ランダムフォレスト法、又は決定木法等が好ましい。従来の、隠れ層が1層のニューラルネットワークや重回帰分析を用いないで、上記各方法を用いれば、精度の高い出力を返すモデルを構築することが可能となる。特に、画像データの解析には、Deep Learning法が好適である。
また本発明は、上記特徴に加えて、前記静止又は連続画像は、凝集フロックを対象としたものであることを特徴としている。
これによって、例えば水処理や汚泥処理における無機凝集剤やポリマーの注入量の過不足の判断などにおいて、より精度の高い出力を返すモデルの構築が可能となる。
また本発明は、上記特徴に加えて、前記静止又は連続画像は、水処理用担体を対象としたものであることを特徴としている。
これによって、例えば微生物を用いた水処理や汚泥処理において、より精度の高い出力を返すモデルの構築が可能になる。
本発明にかかるデータベースの製造方法によれば、データベースとして画像情報を含、精度の高い出力を返すことができる。
回分試験によるモデル構築用学習データのデータベース作成手順を示す図である。 構築済みのモデルを用いて構成した浄水場(水処理システム)1-1の概略構成図である。 連続試験装置によるモデル構築用学習データのデータベース作成手順を示す図である。 連続試験装置によるモデル構築用学習データのデータベース作成手順を示す図である。 構築済みの予測モデルを用いて構成した担体投入型メタン発酵法を用いた排水処理プラント1-2の概略構成図である。
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。
〔第1実施形態〕
図1は本発明の第1実施形態にかかる学習データ用データベースの製造方法を示す図であり、回分試験によるモデル構築用学習データのデータベース作成手順を示す図である。具体的には、浄水場における最適な凝集剤注入率を予測するためのモデルを構築する際に用いる学習データ用データベースの作成手順の一例を示している。
本実施形態においては、まず、実際の浄水場の着水井に導入される実際の原水(実原水)を入手する(ステップ1-1)。
次に(又は前記実原水の入手に先立って)、前記実原水について、説明変数の候補となるパラメータで多くの条件を設定する。設定するパラメータとしては、凝集に影響を与えると考えられる多くのパラメータ、例えば、水温、M-アルカリ度、pH、濁度、色度、TOC、紫外線吸光度、蛍光強度、気象情報、等を設定する(ステップ1-2)。
次に、前記各設定条件を用いてジャーテストを実施する。この時、ジャーテスト時に生成する凝集フロックを、カメラを用いて撮影する(ステップ1-3)。
前記凝集フロックの状態、およびジャーテスト後の処理水質(例えば濁度、残留アルミニウム濃度など)から、各条件での最適凝集剤注入率を決める(ステップ1-4)。ここでジャーテストでは、例えば、実原水を複数のビーカーに入れ、ジャーテスターによって撹拌条件や凝集剤の添加タイミングを同一にして、凝集試験を行う。これを、凝集剤の添加量や撹拌条件等の何通りもの組み合わせで行う。これによって、多くの条件での最適凝集剤注入率を決めることができる。
次に、上記で定めた説明変数の設定条件とその条件下での最適凝集剤注入率を1つのデータセットとして、モデル構築用学習データのデータベースに加える(ステップ1-5)。
一定の頻度(例えば24時間毎)、又は十分に原水水質が変化したと考えられるタイミング等で、実原水を再度採取する(ステップ1-6)。
再度採取した実原水を用いて、再度上記ステップ1-2~ステップ1-5を行い、モデル構築用学習データのデータベースに蓄えるデータセットを蓄積していく作業を繰り返す(ステップ1-7)。
所定量のデータセットを蓄えることによって、モデル構築用学習データのデータベースが完成する(ステップ1-8)。
そして、上記回分試験によって完成したデータベースを用いて、機械学習アルゴリズムによって、予測モデルを構築する(ステップ1-9)。この際に用いる機械学習アルゴリズムとしては、SVR法、又はPLS法、又はDeep Learning法、又はランダムフォレスト法、又は決定木法等を用いる。そして、上記構築された予測モデルを実際に浄水場の凝集剤注入率を制御する制御部に導入し、実際の浄水場での凝集剤注入率の制御を開始する。実際の凝集剤注入率の制御によって得られる実際の各種データ(例えば、原水水質や処理水質)も、前記データベースに蓄積していく。これによって、より精度の高い制御を行うことができる。なお、実際の制御を開始した後においても、継続的に上記回分試験を実施して、得られるデータセットを前記データベースに加え、モデルを更新していくようにすれば、継続的に精度の高い制御を行っていくことができる。
(実施例)
浄水場における最適な凝集剤注入率を決定するために、最適凝集剤注入率を出力するモデルを構築し、制御に用いることを試みた。
機械学習モデルによる制御開始予定日の3か月前から、前記ジャーテストを用いたデータベースの構築を開始した。原水(前記実原水)は24時間毎に、あるいは、前回サンプリングから24時間以内でも、天候等の影響により水質が大きく変動した場合はその時に採取した。また、採水時の原水の水質として、濁度の値を浄水場の工業用水質計器から取得した。
採取した原水を複数に分け、M-アルカリ度を2種類(10mg/Lと20mg/L)、pHを3種類(6.7と7.0と7.3)の計6種類の性状を有する試料水を作成した。即ち例えば、原水のM-アルカリ度が10mg/Lであった場合は、これに炭酸系の塩を添加してM-アルカリ度が20mg/Lの試料水を作成し、原水のpHが7であった場合は、これに酸又はアルカリを添加してpHが6.7と7.3の試料水を作成した。そして、各試料水に対して、凝集剤注入率を5点(5mg/Lと10mg/Lと15mg/Lと20mg/Lと25mg/L)設定してジャーテストを実施した。但し、原水水質が悪く、さらなる凝集剤が必要であった場合は、注入率の点数を増やした。
凝集剤にはPAC(ポリ塩化アルミニウム)を使用した。浄水場と同等の急速撹拌、続いて緩速撹拌を実施した後、一定時間静置し、上澄水の濁度と残留アルミニウム濃度を測定した。また、急速撹拌終了時における凝集フロックの様子をカメラで撮影した。凝集フロック形状と上澄水の水質から、各試料水条件における最適な凝集剤注入率を決定した。
1回の原水サンプリングで6条件に対する最適凝集剤注入率をそれぞれ得た。以上のジャーテストから、説明変数として、原水濁度とM-アルカリ度とpHと急速撹拌後の凝集フロック画像が得られ、また、目的変数として、最適凝集剤注入率が得られた。これらの、各条件における説明変数と目的変数の組み合わせがデータセットとなる。
なお、前記データセットには、前記3つの条件(原水濁度、M-アルカリ度、pH)の他に、実原水の原水温度、原水TOC濃度、原水色度等の原水の他の性状や、緩速撹拌後の凝集フロック画像も説明変数とすることが、より多くの状況において精度の高い出力を返すモデルを構築する上で、より好ましい。なお、上記ジャーテストで設定する項目、引いてはモデルの説明変数は、実プラントに設置されるセンサやカメラで測定できる項目であることが、好ましい。また、逆により少ない説明変数(例えば、凝集フロック画像のみ)で、精度の高い出力を返すことができるのであれば、説明変数を減らしても良い。この場合、プラントの装置点数を削減することができる。
また、前述の目的変数として、最適凝集剤注入率ではなく、凝集剤注入率の多寡の判断値を採用してもよい。例えば、凝集剤注入率が5mg/Lと10mg/Lと15mg/Lと20mg/Lと25mg/Lの5点でジャーテストを実施し、最適凝集剤注入率が15mg/Lと判断された場合、15 mg/Lのジャーテストのデータセットにおける目的変数を「0」(最適)とし、この点を境に、前記目的変数を20mg/Lのとき「1」(やや多い)、25mg/Lのとき「2」(過剰)、10mg/Lのとき「-1」(やや少ない)、5mg/Lのとき「-2」(過少)とする。この場合、データセットは、説明変数として、原水濁度とM-アルカリ度とpHと急速撹拌後の凝集フロック画像に加えて、凝集剤注入率とし、目的変数として、凝集剤注入率の多寡の判断値(前述の例では、-2、-1、0、1、2の何れか)が与えられる。
この作業を繰り返して、最適凝集剤注入率決定用のデータベースを完成させ、このデータベースをモデル構築用学習データとし、機械学習用アルゴリズムとしてDeep Learning法などを用いてモデルを構築した。
図2は、前記構築済みのモデルを用いて構成した浄水場(水処理システム)1-1の全体概略構成図である。同図に示すように、ダムや河川等から取り入れた原水は、浄水場の着水井11に導入される。次に、着水井11において、この着水井11に設置した濁度センサ23AとM-アルカリ度センサ23BとpHセンサ23Cによって、原水の濁度とM-アルカリ度とpHの数値がそれぞれ検出される。検出された各検出値は、前記構築済みのモデルを導入した制御部25に送信される。
着水井11から急速撹拌槽13に移送された原水は凝集剤注入ポンプ27によって凝集剤が注入され、微細な凝集フロックが形成される。この時、凝集フロック観察用カメラ(カメラ、画像取得装置)29により、凝集フロック画像が撮影され、前記制御部25に送信される。また下記する沈澱池17における処理液の濁度も濁度センサ31によって検出し、そのデータも制御部25に送信する。制御部25は、これらの制御部25に送信されたデータから、前記構築済みのモデルを用いて、その原水に対する最適凝集剤注入率となるように、凝集剤注入ポンプ27に指令を出す。
急速撹拌槽13にて、凝集剤と撹拌された原水は、次に、緩速撹拌槽15で緩速撹拌を行って凝集フロックを粗大化し、次に、沈澱池17において粗大化したフロックを沈殿させ、次に、ろ過池19でろ過を行って小さな汚れを取り除いた後、浄水池21に移送される。
前記構築済みのモデルを用いた制御部25によって前記浄水場1-1での制御を開始した後、1か月間の予測精度は、以下の通りであった。予測精度の評価として決定係数R値を用いた。実際の最適凝集剤注入率は、実原水によるジャーテストによって決定したものを正解とした。
〔制御開始後、1か月間のR値〕:0.83
ここで決定係数Rは、モデルの予測精度を評価する指標の一つであり、以下の「数1」の数式で定義される。決定係数Rの値は1が最大値であり、1に近いほど、モデルの予測精度が高いことになる。
Figure 0007032485000001
以上の結果より、制御開始日当日からモデルを使用した制御が可能となった。本発明を用いなかった場合は、実プラントの実際の運転条件と実プラントのセンサから得た情報のみをデータベース構築用に用いることになるため、そもそも制御開始予定日には、制御することができない。本発明によれば、実プラントで得られるデータ以外に、予めデータベース構築用に実施したジャーテスト(回分試験)によって、早期の且つ精度の高い制御立ち上げが可能となった。
〔第2実施形態〕
図3は本発明の第2実施形態にかかる学習データ用データベースの製造方法を示す図であり、連続試験装置によるモデル構築用学習データのデータベース作成手順を示す図である。具体的には、浄水場における最適な凝集剤注入率を予測するためのモデルを構築する際に用いる学習データ用データベースの作成手順の一例を示している。
本実施形態においては、まず、実際の浄水場の着水井に導入される実原水を、複数系列を有する連続試験装置に導入する(ステップ2-1)。
次に(又は前記実原水の導入に先立って)、前記連続試験装置の実原水に対して投入する凝集剤の注入率に複数の条件を設定し(ステップ2-2)、凝集剤を注入する。また実原水の性状(水温、M-アルカリ度、pH、濁度、色度、TOC、紫外線吸光度、蛍光強度、気象情報、等)も測定しておく。
次に、前記連続試験装置の各系列における急速撹拌槽の凝集フロック写真と、急速撹拌槽、緩速撹拌槽、沈澱池のそれぞれの滞留時間を経過した後の、各系列における濁度(沈殿水濁度)を測定する(ステップ2-3)。
次に、上記実原水の性状と各設定凝集剤注入率と前記凝集フロック画像を説明変数、測定した沈殿水濁度を目的変数とし、これらを1つのデータセットとして、モデル構築用学習データのデータベースに加える(ステップ2-4)。
原水性状が大きく変わった場合に、上記ステップ2-2~ステップ2-4を繰り返し行い、モデル構築用学習データに蓄えるデータセットを蓄積していく(ステップ2-5)。
所定量のデータセットを蓄えることによって、モデル構築用学習データのデータベースが完成する(ステップ2-6)。
そして、上記連続試験装置によって完成したデータベースを用いて、機械学習アルゴリズムによって、モデルを構築する(ステップ2-7)。この際に用いる機械学習アルゴリズムとしては、SVR法、又はPLS法、又はDeep Learning法、又はランダムフォレスト法、又は決定木法等を用いる。そして、上記構築されたモデルを実際に浄水場の凝集剤注入率を制御する制御部に導入し、例えば上述した図2に示す実際の浄水場での凝集剤注入率の制御を開始する。実際の凝集剤注入率の制御によって得られる実際の各種データも、前記データベースに蓄積していく。これによって、より精度の高い制御を行うことができる。なお、実際の制御を開始した後においても、継続的に連続試験装置による試験を実施して、得られるデータセットを前記データベースに加え、モデルを更新していくようにすれば、継続的に精度の高い制御を行っていくことができる。
〔第3実施形態〕
図4は本発明の第3実施形態にかかる学習データ用データベースの製造方法を示す図であり、連続試験装置によるモデル構築用学習データのデータベース作成手順を示す図である。具体的には、水処理用担体投入型メタン発酵法を用いる排水処理プラントにおける最適なアルカリ剤注入率を予測するためのモデルを構築する際に用いる学習データ用データベースの作成手順の一例を示している。
ここで水処理用担体とは、微生物を担持して、担体表面で微生物を繁殖させることができるものを言い、形状、材質は問わないが、微生物の付着しやすい多孔質体、例えば活性炭、ポリビニルアルコール、エチレングリコールなどが好ましい。
本実施形態においては、まず、実際の排水処理プラントのメタン発酵槽に導入される実際の原水(実原水)を入手する(ステップ3-1)。あるいは、まだプラントが完成前の場合などには、前段の酸発酵槽に投入される排水を入手し、所定の条件で実験室にて酸発酵を行い、実原水相当の水を作成しても良い。
次に(又は前記実原水の入手に先立って)、前記実原水について、説明変数の候補となるパラメータで多くの条件を設定する。設定するパラメータとしては、ガス発生量に影響を与えると考えられる多くのパラメータ、例えば、滞留時間(HRT)、担体濃度、水温、pH、アルカリ度、TOCあるいはCODCr、揮発性低級脂肪酸、原水水量、処理水水量、循環水量、酸発酵槽容積、メタン発酵槽容積、等を設定する(ステップ3-2)。
次に、前記各設定条件を用いてバイアルによるメタン発酵試験を実施する。この時、各条件でのガス発生量を測定するとともに、微生物が付着した担体を、カメラを用いて撮影する(ステップ3-3)。
前記設定条件と担体の画像を説明変数、ガス発生量を目的変数とした1つのデータセットを作成し、モデル構築用学習データのデータベースに加える(ステップ3-4)。
実原水の性状が変わった場合は、実原水を再度入手する(ステップ3-5)。
再度採取した実原水を用いて、再度上記ステップ3-2~ステップ3-4を行い、モデル構築用学習データのデータベースに蓄えるデータセットを蓄積していく作業を繰り返す(ステップ3-6)。
所定量のデータセットを蓄えることによって、モデル構築用学習データのデータベースが完成する(ステップ3-7)。
そして、上記回分試験によって完成したデータベースを用いて、機械学習アルゴリズムによって、予測モデルを構築する(ステップ3-8)。この際に用いる機械学習アルゴリズムとしては、SVR法(サポートベクター回帰法)、又はPLS法、又はDeep Learning法、又はランダムフォレスト法、又は決定木法等を用いる。
図5は第3実施形態にかかる上記予測モデルを、実際に担体投入型メタン発酵法を用いる排水処理プラント(汚泥処理システム)1-2に導入した一例を示す概略構成図である。同図に示す排水処理プラント1-2において、排水(非処理水)は、酸発酵槽51に導入されて酸発酵された後、この発酵液を原水として担体投入型メタン発酵槽53に移送され、担体に担持された微生物によってメタンガスが発酵・生成される。次に、担体投入型メタン発酵槽53で生成された後のメタンガスと処理水は、それぞれ次の工程に導出されていく。
そしてこの排水処理プラント1-2のアルカリ剤注入率を制御する制御部55には、上記第3実施形態に係る予測モデルが導入されており、実際にこの排水処理プラント1-2でのアルカリ剤注入率の制御が開始される。
具体的には、排水を導入した酸発酵槽51の出口近傍に設置した温度センサ57AとCODセンサ57BとM-アルカリ度センサ57CとpHセンサ57Dとによって、酸発酵槽51の出口近傍における発酵液(原水)の水温とCOD(化学的酸素要求量)とM-アルカリ度(総アルカリ度)とpHの数値をそれぞれ検出し、検出された各検出値を、前記構築済みのモデルを導入した制御部55に送信する。同時に、担体投入型メタン発酵槽53において現状の担体状態を担体観察用カメラ(カメラ、画像取得装置)59によって撮影し、その画像データを制御部55に送信する。同時に、担体投入型メタン発酵槽53から導出されたメタンガスの流量と濃度を、それぞれ流量センサ63Aとメタン濃度計63Bによって検出し、それらのデータを制御部55に送信する。
制御部55は、前記酸発酵槽51の出口で測定した現状のメタン発酵槽原水水質から、ガス発生量を最大化できる原水水質を予測する。前記予測された原水水質(具体的にはアルカリ度とpH)を達成するためのアルカリ剤注入率を制御部55で計算し、アルカリ剤注入ポンプ61にその制御信号を送信し、アルカリ剤を注入させることで、ガス発生量の最大化を図る。
さらに、実際のアルカリ剤注入率の制御によって前記各種センサやカメラなどから得られる実際の各種データ(例えば、原水水質やガス発生量)も、前記データベースに蓄積していく。
これによって、より精度の高い制御を行うことができる。なお、実際の制御を開始した後においても、継続的に上記バイアル試験を実施して、得られるデータセットを前記データベースに加え、モデルを更新していくようにすれば、継続的に精度の高い制御を行っていくことができる。
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお直接明細書及び図面に記載がない何れの構成や材料であっても、本願発明の作用・効果を奏する以上、本願発明の技術的思想の範囲内である。例えば、上記実施形態では、水処理又は汚泥処理システムの例として浄水場の例を示したが、例えば食品工場の用水処理や下水処理場の脱水汚泥の凝集処理設備であっても本発明を適用することができる。また、他に担体投入型メタン発酵法を用いた排水処理場の例を示したが、好気性、嫌気性を問わず微生物を付着させた担体を用いる設備であれば本発明を適用することができる。また、上記記載及び各図で示した実施形態は、その目的及び構成等に矛盾がない限り、互いの記載内容を組み合わせることが可能である。また、上記記載及び各図の記載内容は、その一部であっても、それぞれ独立した実施形態になり得るものであり、本発明の実施形態は上記記載及び各図を組み合わせた一つの実施形態に限定されるものではない。
1-1 浄水場(水処理システム)
11 着水井
13 急速撹拌槽
15 緩速撹拌槽
17 沈澱池
19 ろ過池
21 浄水池
23A 濁度センサ
23B M-アルカリ度センサ
23C pHセンサ
25 制御部
27 凝集剤注入ポンプ
29 凝集フロック観察用カメラ(カメラ、画像取得装置)
31 濁度センサ
1-2 排水処理プラント(汚泥処理システム)
51 酸発酵槽
53 担体投入型メタン発酵槽
55 制御部
57A 温度センサ
57B CODセンサ
57C M-アルカリ度センサ
57D pHセンサ
59 担体観察用カメラ(カメラ、画像取得装置)
61 アルカリ剤注入ポンプ
63A 流量センサ
63B メタン濃度計

Claims (5)

  1. 実原水又は実汚泥を用いて水処理又は汚泥処理を行う水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法において、
    前記実原水又は実汚泥を用いた回分試験装置、あるいは、前記水処理又は汚泥処理システムの近傍に設置されて前記実原水又は実汚泥を用いて運転する連続試験装置を用いて予め取得した、少なくとも画像取得装置により取得した静止又は連続画像からなる説明変数と、前記説明変数の設定条件下での水処理又は汚泥処理システムの運転の良否を示す値からなる目的変数とを、1つのデータセットとして、所定量のデータセットを備えてなるデータベース、を事前に用意しておき
    前記水処理又は汚泥処理システムとは異なる前記回分試験装置あるいは前記連続試験装置によって事前に用意しておいたデータベースを用いて機械学習アルゴリズムによって予測モデルを構築し、
    前記構築された予測モデルを前記実原水を対象とした前記水処理システム又は前記実汚泥を対象とした前記汚泥処理システムの制御部に予め導入した後に、前記水処理又は汚泥処理システムでの実運転の制御を開始することを特徴とする水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法。
  2. 請求項1に記載の水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法であって、
    前記実運転の制御開始後、実原水又は実汚泥を処理する実運転から得られたデータも、前記水処理又は汚泥処理システムでの実運転の制御を開始した後に、前記データベースに加えることを特徴とする水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法。
  3. 請求項1又は2に記載の水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法であって、
    前記説明変数として設定する項目の中には、少なくとも前記実運転を行う水処理又は汚泥処理システムに設置される画像取得装置またはセンサで測定できる項目を含むことを特徴とする水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法。
  4. 請求項1乃至3の内の何れかに記載の水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法であって、
    前記静止又は連続画像は、凝集フロックを対象としたものであることを特徴とする水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法。
  5. 請求項1乃至3の内の何れかに記載の水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法であって、
    前記静止又は連続画像は、水処理用担体を対象としたものであることを特徴とする水処理又は汚泥処理システムの運転制御方法。
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