JP7007958B2 - 高温超電導ケーブル - Google Patents
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Description
大容量送電用の高温超電導ケーブルは、通常、内側から順に銅等の金属製のフォーマと超電導導体と電気絶縁層と磁気シールド層等でケーブルコアが形成されており、フォーマの内部やケーブルコアの外側に液体窒素等の冷媒を流通させることで超電導導体等が冷却されるように構成されている(例えば特許文献1~4等参照)。
一般に、高温超電導ケーブルでは、超電導導体に臨界電流を大きく上回る電流が流れると、電流が超電導導体から溢れて、金属製のフォーマや、超電導導体を構成する高温超電導線材の安定化層等の、常電導体を流れるようになる。その際、常電導体には電気抵抗と電流に応じた電圧降下が生じるが、キルヒホッフの法則により、常電導体と並列構造になっている超電導導体にも同じ電圧降下が生じる。
そのため、上記のように超電導導体で発熱が生じたとしても、冷媒により冷却されるため、やがて超電導導体での超電導性が回復して高温超電導ケーブルが復旧し得る。
金属製のフォーマと、前記フォーマの外周に設けられた超電導導体層と、前記超電導導体層の外周に設けられた電気絶縁層とを備え、それらが冷媒の流通により冷却される高温超電導ケーブルにおいて、
前記超電導導体層の外側に、前記超電導導体層の熱を吸収するための熱浴層が設けられており、
前記超電導導体層を構成する高温超電導線材が、熱抵抗性部材を介して前記熱浴層と面接触していることを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の高温超電導ケーブルにおいて、前記熱浴層は、前記超電導導体層の内側にも設けられていることを特徴とする。
そのため、高温超電導ケーブルでもらい短絡事故が生じた後も送電が継続する場合であっても、熱浴層が熱抵抗性部材を介して超電導導体層から熱を吸収して超電導導体層の温度を強制的に下げるため、超電導導体層での超電導性を回復させることが可能となり、高温超電導ケーブルを確実に復旧させることが可能となる。
また、例えば、高温超電導ケーブルで交流送電を行う場合、通常、3本の高温超電導ケーブルが必要になるが、そのそれぞれについて、以下で説明する高温超電導ケーブルを用いることができる。
図1は、本実施形態に係る高温超電導ケーブルの構成を表す斜視図である。
高温超電導ケーブル1は、主にケーブルコア2と断熱管3とで構成されている。そして、ケーブルコア2は、フォーマ4と、超電導導体層5と、熱浴層6と、電気絶縁層7と、磁気シールド層8と、保護層9とを備えて構成されている。
また、円筒状のフォーマ4の中空部4aには、冷媒(例えば液体窒素)が流通されている。そして、冷媒は、フォーマ4を冷却するとともに、その中空部4aから銅の丸線41の隙間を通り、後述する各高温超電導線材51の間を浸透してそれらを冷却するようになっている。
本実施形態では、超電導導体層5は、複数条の高温超電導線材51を並べるようにして構成されており、各高温超電導線材51をフォーマ4に緩い螺旋状に巻回させるようにして構成されている。なお、超電導導体層5は、1つの層で構成されていてもよく複数の層であってもよい。
このようにして超電導導体層5を設けることで、超電導導体層5が円筒形状になるため(あるいはほぼ円筒形状になるため)、超電導導体層5での交流損失の発生が抑制され、交流損失による発熱の発生が抑制されるように構成されている。なお、カーボン紙は必ずしも設けられていなくてもよい。
超電導層52を構成する超電導体としては、例えば、液体窒素温度(77K)以上の臨界温度を有するイットリウム系超電導体(REBCO線材。化学式はYBa2Cu3O7-y(yは酸素不定比量)で表される。)を用いることができる。
図2に記載されている熱浴層6や熱抵抗性部材20等については後で詳しく説明する。
電気絶縁層7は、例えば、絶縁紙にポリプロピレンフィルムをラミネートした半合成紙やクラフト紙等の絶縁性紙類等で形成されており、それらが超電導導体層5や熱浴層6の上に分厚く巻回されて構成されている。
超電導シールド層81は、超電導導体層5と同様に複数条の高温超電導線材を電気絶縁層7に螺旋状に巻回させるようにして構成されている。そして、超電導導体層5を電流が流れることによって形成される磁場の外部への漏れがこの超電導シールド層81によって完全に遮断されるようになっている。
また、銅シールド層82は、例えば銅編組線からなるシールド層で構成されており、ケーブルコア2を外部からの衝撃から守るように機能する。
そして、以上のように構成されたケーブルコア2の外側に、冷媒(例えば液体窒素)が流通されている。そして、この冷媒は、前述したフォーマ4の中空部4aを流通する冷媒と協働してケーブルコア2全体を冷却するようになっている。
断熱内管10と断熱外管11は、例えばステンレス製のコルゲート管(波付き管)で構成される。そして、断熱内管10と断熱外管11の間には、例えばアルミを蒸着したポリエステルフィルムの積層体で構成された多層断熱層12が介在されている。
そして、断熱外管11の外周が、ポリ塩化ビニルやポリエチレン等の外部被覆(防食層)13で被覆されている。
次に、本実施形態に係る高温超電導ケーブル1における超電導導体層5と熱浴層6の構成について説明する。
以下、超電導導体層5やそれを構成する各高温超電導線材51と熱浴層6や熱抵抗性部材20との配置関係について2つの構成例に分けて説明するが、熱浴層6や熱抵抗性部材20の機能や作用効果等はいずれの構成例においても同様である。
この場合、熱浴層6を1層として超電導導体層5を構成する2層の線材配列層が共通の熱浴層6を有するように構成してもよく、超電導導体層5に対応して熱浴層6も2層に分けて設けるように構成してもよい。
このように、熱浴層6や熱抵抗性部材20を、超電導導体層5や各高温超電導線材51の外側や内外の適宜の位置に配置することが可能である。
図2は、構成例1に係る高温超電導線材51や熱浴層6、熱抵抗性部材20の構成を表す断面図である。
前述したように、本実施形態では、超電導導体層5は複数条の高温超電導線材51で構成されているが、構成例1では、図2に示すように、高温超電導線材51ごとに、高温超電導線材51が熱抵抗性部材20を介して熱浴層6と面接触するように設けられる。そして、高温超電導線材51と熱抵抗性部材20と熱浴層6とが1セットとされ、このような高温超電導線材51等のセットをフォーマ4(図1参照)の外周に複数条並べて配置することで、超電導導体層5の外側に熱浴層6が設けられるように構成される。
すなわち、構成例1では、超電導導体層5を構成する各高温超電導線材51が、熱抵抗性部材20を介して熱浴層6と全体で(すなわち1本の高温超電導線材51の延在方向の全域にわたって)面接触している。
そして、本実施形態では、熱浴層6は、熱の吸収効率が高い金属で形成されており、上記のように高温超電導線材51ごとに1本ずつ金属線材として構成されている。なお、以下、熱浴層6を構成する金属線材を熱浴線材61という。
すなわち、熱抵抗性部材20は、超電導導体層5の高温超電導線材51で熱が発生した場合に、その熱を、ある程度時間をかけて熱浴層6に移動させるようになっている。
具体的には、熱抵抗性部材20は、例えばポリイミド等の有機高分子材料で構成されたテープやそれに有機高分子以外の成分が添加されたり有機高分子以外の材料でコートされる等したテープや、有機高分子からなる繊維を含む不織布等で構成することが可能である。
また、熱浴層6やそれを構成する熱浴線材61、熱抵抗性部材20の材質や機能等については、以下で説明する構成例2においても同様である。また、これらの点については後で詳しく説明する。
一方、構成例1のように、高温超電導線材51と熱抵抗性部材20と熱浴線材61とを互いに面接触させた高温超電導線材51等のセットを形成してフォーマ4の外周に並べて配置する代わりに、フォーマ4の外周に複数条の高温超電導線材51を並べて巻回して超電導導体層5を形成した後、その外周に、複数条の熱浴線材61を並べて巻回して熱浴層6を形成するように構成することも可能である。
このように構成すれば、構成例1のように高温超電導線材51等のセットを形成する手間をかける必要がなくなり、フォーマ4の外周に超電導導体層5と熱浴層6とを容易に形成することが可能となる。
そして、このような状態になると、高温超電導線材51から熱浴線材61に熱が伝わりにくくなり、熱浴線材61すなわち熱浴層6による高温超電導線材51の熱の吸収効率が著しく低下してしまう可能性がある。
なお、図4は、超電導導体層5とその外周に設けられた熱浴層6とを外側から見た図である。また、図4では、熱抵抗性部材20等の図示が省略されている。
そのため、高温超電導線材51から熱浴線材61に熱が的確に伝わるようになり、熱浴線材61すなわち熱浴層6による高温超電導線材51の熱の吸収効率が低下することを的確に防止することが可能となる。
上記の角度θが0度になるように各熱浴線材61を超電導導体層5に巻回しなければならないとすると巻回作業に高度な厳密さが要求されることになるが、上記のように角度θにある程度の幅が許容されれば巻回作業における厳密さが緩和されることになり、実際に巻回作業を行う上で有益な効果が得られる。
しかし、その場合、各熱浴線材61の曲がりが大きくなり、熱浴線材61を構成する金属の剛性により各熱浴線材61の超電導導体層5への密着性が悪くなる可能性がある。そのため、上記の角度θは小さい方が好ましい。
すなわち、構成例2(図4参照)のように構成する場合、各熱浴線材61が各高温超電導線材51と6度未満の角度を有するように配設されていることが好ましい。
また、それとともに、各熱浴線材61の曲がりがさほど大きくならないため、熱浴線材61を構成する金属の剛性により各熱浴線材61の超電導導体層5への密着性が悪化することなく、各熱浴線材61を超電導導体層5に的確に面接触させた状態で配設することが可能となる。
ここで、上記の構成例1、2における熱浴線材61と熱抵抗性部材20との配置の構成例について説明する。
熱浴線材61と熱抵抗性部材20とをそれらの配置の点で見た場合、上記の構成例1では(図2参照)、熱抵抗性部材20が熱浴線材61の一面側(高温超電導線材51側)に位置する状態でそれらの延在方向の全域にわたって面接触するように配置した。
そして、この構成を、上記の構成例2に適用することも可能である。
そして、この構成を、上記の構成例1に適用することも可能である。
また、図6では、熱抵抗性部材20を熱浴線材61に1層だけ巻回させた場合を示したが、多層巻回させるように構成することも可能である。このように構成すると、層数を調整することで熱抵抗性部材20の厚さを調整することができる。
次に、本実施形態に係る高温超電導ケーブル1の作用について説明する。
前述したように、もらい短絡事故が生じて高温超電導ケーブルに大きな電流(過電流)が流れた後も当該高温超電導ケーブルに対する送電が継続する場合があるが、その場合、超電導導体層の温度が上昇する。
そして、一般的な高温超電導ケーブルでは、一旦、超電導導体層の温度が上昇すると、超電導導体層の温度が臨界温度付近のままとなり(いわば臨界温度に張り付いたままになり)、超電導導体層の臨界電流の値が著しく低下した状態が続くため、超電導導体層には電流がほとんど流れない状態、あるいは全く流れない状態が継続してしまい、結局、高温超電導ケーブルが復旧しなくなる可能性がある。
そのため、超電導導体層5で熱が発生した場合には、熱浴層6がその熱を吸収して超電導導体層5から熱を強制的に奪い取るため、熱浴層6で超電導導体層5の温度をいわば強制的に下げることができる。
そのため、高温超電導ケーブル1でもらい短絡事故が生じた後も送電が継続する場合であっても、超電導導体層5での超電導性を回復させることが可能となり、高温超電導ケーブル1を確実に復旧させることが可能となる。
本実施形態のように、熱浴層6を構成する熱浴線材61が金属線材で形成されていれば、金属は一般にプラスチック等に比べて熱伝導性が高いため、超電導導体層5で発生した熱を熱浴層6内で伝導させて取り込むことが可能となり、熱を効率良く吸収することができる。
なお、図2は上記の構成例1を説明するための図であるが、熱浴線材61の断面積が大きいことが望ましいことは構成例2においても同様である。
また、超電導導体層5と熱浴層6との接触面積(正確には超電導導体層5と熱抵抗性部材20との接触面積や熱抵抗性部材20と熱浴層6との接触面積)を調整して、熱浴層6による超電導導体層5の熱の吸収効率を適切な値に調整することも可能である。
そのため、超電導導体層5と熱浴層6との間で温度差がなくなり、超電導導体層5の温度を強制的に下げるという熱浴層6の上記の機能を果たせなくなる(すなわち超電導導体層5の冷却の役に立たなくなる)可能性がある。
そのため、超電導導体層5と熱浴層6との間で温度差が生じ、熱浴層6で超電導導体層5の温度を強制的に下げることが可能となると考えられる。
また、熱浴層6の熱容量を大きくすると、短絡通電の間、超電導導体層5の温度が低い状態、すなわち超電導導体層5の臨界電流が高い状態が維持され、超電導導体層5を流れる電流が減少せずに発熱が続くため、結局、超電導導体層5でのトータルの発熱量が多くなってしまうという事態も生じ得る。
すなわち、超電導導体層5と熱浴層6との間に、有機高分子材料を含むテープや不織布シート等で構成された熱抵抗性部材20が介在している。
また、熱抵抗性部材20は、熱を遮断するわけではないため、超電導導体層5で発生した熱は超電導導体層5から熱浴層6に徐々に移動する。そのため、熱浴層6は、熱抵抗性部材20を介して超電導導体層5から熱を徐々に奪い取る。
そのため、高温超電導ケーブル1でもらい短絡事故が生じた後も送電が継続する場合であっても、超電導導体層5での超電導性を回復させることが可能となり、高温超電導ケーブル1をより確実に復旧させることが可能となる。
そして、発生したガスが超電導導体層5と熱抵抗性部材20との間や熱抵抗性部材20と熱浴層6との間に入り込むと、超電導導体層5から熱浴層6への熱の移動に対する熱抵抗が、熱抵抗性部材20による熱抵抗(すなわち設計値)よりも格段に大きくなってしまう。また、発生したガスが超電導導体層5と熱抵抗性部材20との間などに入り込むと除去することが困難になる等の問題が生じ得る。
そのため、上記のような問題が生じることを的確に防止することが可能となる。なお、超電導導体層5と熱抵抗性部材20とを面接触(密着)させたり、熱抵抗性部材20と熱浴層6とを面接触(密着)させる場合、それらを固着する(すなわち相対的な位置ずれを生じないように固定する)必要はないが、後述するように粘着させる(すなわち相対的な位置ずれが生じることを許容する状態で接着する)ことは可能である。
前述したように、遮断器は、短絡通電事故などが生じて送電ケーブルに過電流が流れたことを検知すると、当該送電ケーブルに対する送電を遮断する。その際、後備遮断器は、通常、送電ケーブルに過電流が流れ始めてから0.6秒程度でその送電ケーブルに対する送電を遮断するようになっている。
そのため、ある送電ケーブルの送電先で短絡が生じて送電ケーブルに過電流が流れると、0.6秒程度後には当該送電ケーブルに対する送電が停止される。
そのため、熱抵抗性部材20の熱抵抗の大きさは、超電導導体層5や熱浴層6の構成や性能等に基づいて最適な大きさに調整、設定されることは言うまでもない。
以上のように、本実施形態に係る高温超電導ケーブル1によれば、高温超電導ケーブル1で短絡通電事故が生じて超電導導体層5で熱が発生しても、熱浴層6がその熱を吸収して超電導導体層5の温度を強制的に下げることが可能となる。
また、本実施形態に係る高温超電導ケーブル1では、超電導導体層5と熱浴層6との間に熱抵抗性部材20が介在しているため、短絡通電事故が生じて超電導導体層5の温度が上昇しても、超電導導体層5から熱浴層6に熱が一気に移動せず、徐々に移動する。そのため、温度が上昇した超電導導体層5と温度が上昇していない熱浴層6との間で温度差を形成することが可能となり、熱浴層6が熱抵抗性部材20を介して超電導導体層5から熱を吸収して超電導導体層5の温度を強制的に下げることが可能となる。
以下、本実施形態に係る高温超電導ケーブル1の実施例と、本実施形態に係る高温超電導ケーブル1とは異なる構成とした高温超電導ケーブルにおける比較例とを示す。
なお、本発明の範囲は、以下に示す実施例等には限定されない。
まず、以下で説明する実施例における高温超電導ケーブル1の構成について説明する。なお、以下で説明する比較例では、当該比較例で特に説明する構成以外の構成は、以下の実施例と同じ構成とされている。
実施例では、高温超電導ケーブル1の超電導導体層5を2層の線材配列層で構成し、2層の熱浴層6で超電導導体層5全体を挟み込むように構成した。なお、ケーブルコア2のフォーマ4から電気絶縁層7までの具体的な構成は、内側から、銅製のフォーマ4、整形用のカーボン紙、内側の熱浴層6、熱抵抗性部材20、内側の超電導導体層5、整形用のカーボン紙、外側の超電導導体層5、熱抵抗性部材20、外側の熱浴層6、電気絶縁層7の順となる。なお、実施例では上記の構成例2(図4参照)の構成が採用されている。
リン青銅の電気伝導度は液体窒素温度付近において銅の電気伝導度よりも二桁以上小さい。したがって、リン青銅製の熱浴層6と超電導導体層5とが電気的に接触していても、超電導導体層5への通常の送電時や短絡通電事故が生じて超電導導体層5から電流が溢れても熱浴層6を流れる電流は小さく、そこでのジュール発熱は無視してよい。
なお、リン青銅の熱容量は純銅とさほど違わない。また、熱伝導度(熱抵抗の逆数)は純銅と比べれば劣るが、例えば熱抵抗性部材20を構成する有機高分子材料と比較すればはるかに大きい。したがって、熱抵抗を評価する際には、近似としてリン青銅(熱浴層6)の寄与を無視してよい。
このように構成すると、熱抵抗性部材20の厚さは0.25mmとなり、熱浴線材61と熱抵抗性部材20とで構成される線材の幅は2.6mm、厚さは0.7mmとなる。
しかし、実際にはポリイミドテープの積層界面が無視できない熱抵抗を持っており、それを考慮すると熱抵抗性部材20全体の単位長さあたりの熱抵抗は6K・m/Wであると考えられる。
また、高温超電導線材51をそれぞれ30本ずつ並べて2層構造の超電導導体層5をそれぞれ形成した(2層合わせて60本)。また、熱浴線材61もそれぞれ同数の30本ずつ並べて内側と外側の熱浴層6をそれぞれ形成した(内外合わせて60本)。
また、上記のように構成すると、各層の断面積を比較した場合、高温超電導線材51の1本あたりの断面積が0.30mm2(=幅3.0mm×厚さ0.1mm)、熱浴線材61の1本あたりの断面積が0.42mm2(=幅2.1mm×厚さ0.2mm)である。そして、互いに本数が同じであることから金属部の総断面積では高温超電導線材51(超電導導体層5)に対する熱浴線材61(熱浴層6)の比率が1.4となり、熱容量の比率もほぼこれに近い値になっている。
以下、比較例1として、熱浴層6も熱抵抗性部材20も設けられていない場合において、短絡通電で過電流が流れた場合の温度挙動のシミュレーションの結果を示す。なお、この比較例1における高温超電導ケーブルは、熱浴層6が設けられている本実施形態の高温超電導ケーブル1とは異なるため、以下、各部材等に符号を付さずに説明する。
いま、高温超電導ケーブルの定格電流が3kA、超電導導体層全体での延べ臨界電流(図10のI*に対応)が6kA、短絡通電時に電流のバイパスとなるフォーマの断面積が300mm2であるとして、AC30kA、0.6秒の過電流が発生した場合を考える。
そして、前述したように、短絡通電時には超電導導体層にもこれと同じだけの電圧降下が生じることになり、超電導導体層での発熱量は0.96kW/m(=6kA×0.16V/m)になる。これを、超電導導体層を構成する高温超電導線材1本あたりの発熱量に換算すると、16W/mになる。そのため、通電時間(0.6秒)を考慮すると、高温超電導線材1本あたりの総発熱量は、9.6J/mになる。
そのため、0.6秒の短絡通電による高温超電導線材の温度上昇(総発熱量÷熱容量)は、16Kと算出される。
高温超電導線材での総発熱量が上記の値の6割程度であったとすると、短絡通電による高温超電導線材の温度上昇は、9.6Kと算出される。
そして、たとえばもらい短絡でこの高温超電導ケーブルに定格電流3kAの交流送電が継続される場合を想定すると、電流の多くは臨界電流の低下した超電導導体層ではなくフォーマを流れ、その双方を加熱し続ける。そして、その加熱量が冷媒による冷却量(抜熱量)を上回っていると、超電導導体層はいつまでも超電導性を回復させられないことになる。
次に、比較例2として、熱浴層6は設けられているが、熱抵抗性部材20が設けられていない場合(すなわち熱浴層6が超電導導体層5に直接面接触している場合)において、短絡通電が生じたときの温度挙動のシミュレーションの結果を示す。なお、この比較例2においても、各部材等に符号を付さずに説明する。
ここでは、熱浴層の熱浴線材が純銅製である場合について説明する。なお、上記のように、熱浴線材が純銅製である場合の熱容量はリン青銅製である場合とさほど違わない(熱伝導度はリン青銅製よりも高くなる。)。
そのため、バイパスがフォーマのみの場合に比べて短絡通電時のバイパス部の電流密度や電圧降下が約8%低下する。その結果、高温超電導線材1本あたりの総発熱量は8.9J/mとなる(ただし温度上昇による臨界電流の低下の効果は考慮されていない。)。
これらを考慮して高温超電導線材の温度上昇を計算すると、8.1Kとなる。そして、この場合も温度上昇による臨界電流の低下の効果が期待できるが、上記の比較例1の場合よりも温度上昇が少ない分、その効果は小さくなる。仮にその効果による総発熱量の減少が2割あったとすると、高温超電導線材の温度は短絡通電により6~7K上昇することになる。
そのため、この後の冷却効果は期待できないため、冷媒による冷却が送電の継続による高温超電導線材での発熱を上回らない限り、超電導導体層の超電導性を回復することができないことになる。
次に、前述した実施例における構成を有する高温超電導ケーブル1において、短絡通電が生じたときの温度挙動のシミュレーションの結果を示す。
この場合、熱浴層6の熱浴線材61はリン青銅製の線材であるため、上記のように電流のバイパスにはならない。そのため、電圧降下を引き下げる効果はないが、熱浴線材61でのジュール発熱はない。
また、この場合、熱抵抗性部材20としてポリイミドテープが多層巻回されているため、短絡通電程度の短い間(0.6秒間)には熱浴としての機能をほとんど示さない。したがって、短絡通電直後の高温超電導線材51の温度上昇は、熱浴層がない上記の比較例1の場合と同程度、すなわち10K程度と見積もることができる。
そして、0.6秒の短絡通電により10Kの温度差が形成されるとき、その間に移動する熱の総量は0.5J/m(=1.7W/m×0.6s÷2)と算出される。
なお、高温超電導線材51の基板金属条53(図2参照)が鉄系合金で形成されている場合、上記の比較例1で算出したように高温超電導線材51の単位長さあたりの熱容量は0.6J/K・mになる。そのため、上記のように短絡通電中の0.6秒間に1J/mの熱量が高温超電導線材51から奪われると、高温超電導線材51の温度上昇は1K近く抑えられることになる。
仮に10K分の温度上昇をもたらす熱量を高温超電導線材51と熱浴線材61とで分け合うとすると、高温超電導線材51と熱浴線材61の短絡通電前と比べた温度上昇は、数秒後には4Kよりも小さくなる。なお、この間、高温超電導ケーブル1に定格電流分の送電が継続しているため、その分の発熱が生じる。しかし、電流の大きさが短絡通電時の1/10で発熱は1/60以下となり、時間を短絡通電の10倍(6秒)としても温度上昇は短絡通電時の1/6以下である。それらを考慮すると、高温超電導線材51の温度上昇は4Kから多くても5K程度と見積もられる。
そのため、冷媒による冷却が、高温超電導線材51がより高温になる比較例1、2の場合よりも容易に行われ、超電導導体層5の超電導性が(多少時間がかかるとしても)確実に回復される。
なお、前述した比較例2で述べたように、熱浴層6(熱浴線材61)を銅等の高電気伝導性の金属で形成すると、短絡通電時にフォーマ4とともに熱浴層6にも電流が流れて発熱し、超電導導体層5と熱浴層6での総発熱量が増大してしまい、熱浴層6による超電導導体層5の冷却を阻害してしまう可能性がある。
そのため、熱浴層6(熱浴線材61)を、前述したリン青銅等の低電気伝導性の金属で形成することが望ましい。このように構成すれば、短絡通電時に熱浴層6に流れる電流を小さく抑え、熱浴層6では発熱しないようにすることが可能となる。
ところで、前述したように、高温超電導ケーブル1を製造する際、フォーマ4の外側に整形用のカーボン紙を1枚又は複数枚巻き付け、カーボン紙の外周に高温超電導線材51を巻回させて超電導導体層5を形成する場合がある。
そして、カーボン紙は、一般的には導電性と認識されているが、液体窒素温度付近における超電導導体層5の超電導性や銅製のフォーマ4の電気伝導度に比べるとカーボン紙の電気伝導度は非常に小さく、実質的に電気絶縁体と見なすことができる。
そして、高温超電導ケーブル1の超電導導体層5(高温超電導線材51)とフォーマ4は、中間接続部Aや終端接続部Bでは例えば半田付けされる等して互いに電気的に接触されるが、それ以外の部分(すなわち前述した中間接続部A同士の間の区間や中間接続部Aと終端接続部Bとの間の区間)では、上記のようにカーボン紙が介在しているため互いに電気的に接触しないように構成される場合がある。なお、中間接続部Aの設置間隔は、例えば数百mから数km間隔とされる。
しかし、この場合、当該区間が500mと長いため、フォーマ4で生じる電圧降下が大きくなり、超電導導体層5に生じる電圧降下も大きくなる。これが超電導性の回復の遅れた領域に集中するとそこでの発熱量が大きくなり、その結果、超電導導体層5が超電導性を全領域で完全に回復することが困難となる。
そして、高温超電導線材51とフォーマ4とが短い間隔で電気的に接触していれば、高温超電導線材51と並列構造になるフォーマ4の長さが短くなり、並列構造の部分のフォーマ4で生じる電圧降下の大きさが小さくなるため、この並列構造の部分の高温超電導線材51に生じる電圧降下も小さくなり発熱量が小さくなる。そのため、短絡通電事故で超電導導体層5の超電導性が一旦失われたとしても超電導性を回復しやすくなる。
前述したように、フォーマ4の外周等にカーボン紙を巻回する理由は、カーボン紙で円筒面を形成することであるため、通常、高温超電導線材51をフォーマ4に巻回する場合(例えば図1参照)などと比べてカーボン紙テープがフォーマ4にきついらせんピッチで巻回される。1本又は2本の少数のカーボン紙テープを巻回させることが多い。
そして、フォーマ4の外周にカーボン紙テープを巻回する際、隣接するらせんの間に1cm程度の隙間を設ければ、その隙間を介してカーボン紙テープの外周に巻回される高温超電導線材51と内側のフォーマ4とを電気的に接触させることができる。
このように巻回すると、あたかもフォーマ4の長手方向に50mmの周期構造をもち、そのうち10mm分の隙間αの部分で内側のフォーマ4が外側に露出している状態になる。そのため、このカーボン紙テープ21A、21Bの外周に高温超電導線材51を巻回させれば、隙間αを介して高温超電導線材51とフォーマ4とを電気的に接触させることが可能となる。
なお、熱浴層6や熱抵抗性部材20が高温超電導線材51の外側に設けられている場合は、上記のように構成すれば、高温超電導線材51とフォーマ4とが直接あるいは銅箔テープを介して電気的に接触するようになるため、高温超電導線材51とフォーマ4とを短い間隔で電気的に接触させることが可能となる。
そこで、この場合は、例えば、上記の構成例2の構成を採用して(ただし熱浴層6や熱抵抗性部材20は高温超電導線材51の内側に設けられている。)、上記のように熱浴線材61を30本ずつ並べて1層分の熱浴層6を形成する場合、例えば図9に示すように、そのうち所定本数(例えば2、3本)の熱浴線材61(及び熱抵抗性部材20)を高電気伝導性の金属条62で差し替えるように構成することが可能である。なお、図9ではフォーマ4は熱浴線材61や熱抵抗性部材20の内側にある。
その際、カーボン紙テープと高電気伝導性の金属条62とが直角に近い角度で交わるように構成することが好ましい。
また、超電導導体層5を複数層で構成する際、超電導導体層5とその外側の超電導導体層5との間に整形用のカーボン紙テープが巻回される場合があるが、その際も上記と同様に隙間を持たせて巻回させるとともに、銅箔テープを設けたり、熱浴線材61等の一部を高電気伝導性の金属条62で差し替えたりすることで、各層の超電導導体層5をフォーマ4と直接あるいは間接的に電気的に接触させることが可能となる。
例えば、上記の実施例における構成では、熱浴線材16(リン青銅線材)にポリイミドテープを延べ10枚巻回して熱抵抗性部材20を形成した場合を示したが、ポリイミドテープを巻回する枚数は少なくてもよい(例えば4枚等)。
例えば、図示を省略するが、フォーマ4の外周にカーボン紙21(例えば図8参照)を巻回し、その外周に高温超電導線材51を巻回して超電導導体層5を形成し、その外周にポリイミドテープ等を巻回して熱抵抗性部材20を設け、その外周に、ポリイミドテープに平行でない状態で熱浴線材61を巻回して熱浴層6を形成することが可能である。
なお、上記のポリイミドテープ等に替えて、例えば半合成紙やクラフト紙、カーボン紙等を巻回して熱抵抗性部材20を設けてもよい。また、電気的な接触が必要である場合は、隙間に銅箔テープを巻回させる等することも可能であることは前述した通りである。
4 フォーマ(フォーマ、常電導体)
5 超電導導体層
7 電気絶縁層
6 熱浴層
20 熱抵抗性部材
51 高温超電導線材
61 熱浴線材(金属線材)
62 金属条(常電導体)
A 中間接続部
Claims (8)
- 金属製のフォーマと、前記フォーマの外周に設けられた超電導導体層と、前記超電導導体層の外周に設けられた電気絶縁層とを備え、それらが冷媒の流通により冷却される高温超電導ケーブルにおいて、
前記超電導導体層の外側に、前記超電導導体層の熱を吸収するための熱浴層が設けられており、
前記超電導導体層を構成する高温超電導線材が、熱抵抗性部材を介して前記熱浴層と面接触していることを特徴とする高温超電導ケーブル。 - 前記熱浴層は、前記超電導導体層の内側にも設けられていることを特徴とする請求項1に記載の高温超電導ケーブル。
- 前記熱抵抗性部材は、有機高分子材料を含むテープ又は不織布シートで構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高温超電導ケーブル。
- 前記熱浴層は、金属線材で構成されており、前記金属線材が前記熱抵抗性部材で巻回されていることを特徴とする請求項3に記載の高温超電導ケーブル。
- 前記熱浴層は、低電気伝導性の金属で形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の高温超電導ケーブル。
- 前記熱浴層は、金属線材で構成されており、高温超電導ケーブルの延在方向に直交する方向の前記金属線材の断面積が、前記高温超電導線材の断面積よりも大きいことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の高温超電導ケーブル。
- 前記熱浴層は、金属線材で構成されており、前記金属線材が前記高温超電導線材と6度未満の角度を有するように配設されていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の高温超電導ケーブル。
- 前記高温超電導線材と高温超電導ケーブル内の常電導体とが、高温超電導ケーブル同士を接続して高温超電導ケーブルを延伸するための中間接続部の設置間隔よりも短い間隔で電気的に接触していることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の高温超電導ケーブル。
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