JP7002743B2 - 新規セルロース結合性タンパク質 - Google Patents

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Description

本発明は、結晶性セルロースに選択的に結合するタンパク質および該タンパク質の使用に関する。
セルロースは植物細胞壁の約50%を占める主要構成成分で、グルコース分子がβ-1,4結合で繋がっている直鎖状高分子である。植物細胞の細胞壁の主要骨格はセルロースのナノファイバーである。セルロースナノファイバーは、セルロース分子鎖が伸張して結晶化しており、軽量であるにも関わらず、高い強度を有しているため、様々な分野において広く利用されている。
ところで、セルロースの高次構造の多くの領域は結晶性の領域であるが、セルロースナノファイバーなどの表面には、非晶性の領域も存在している。セルロースの親水性、強度および表面機能などに対し、非晶性領域の分布状態が大きく影響すると考えられている。例えば、パルプ製品の1つである紙の「紙力」は、セルロースの結晶性領域と非晶性領域の割合に依存している。そのため、セルロースから製造される製品の強度などの物理的性質を評価する上で、セルロースの結晶性領域と非晶性領域の割合を知ることは重要である。
セルロースの結晶性領域と非晶性領域のいずれかの領域を選択的に認識する手段(例えば、いずれかの領域を選択的に標識する方法など)があれば、両領域の分布状況や割合を評価することができると考えられる。これまでに、セルロースに結合する因子として、セルロース結合モジュール(cellulose-biding module;CBM)が見いだされている(非特許文献1~3、特許文献1など)。CBMは、セルラーゼなどのセルロース分解に関与する酵素の触媒ドメイン以外の部分で、酵素をセルロースに接近させ、結合させる機能を有している。これまでに多くのCBMが見つかっているが、従来のCBMは、結晶性セルロースよりも比表面積の大きな非晶性セルロースにより多く結合するが、結晶性セルロースに選択的に結合するものはまだ見つかっていない。
結晶性セルロースに選択的に結合するタンパク質は、セルロースの結晶性領域の定量のために使用できるほか、セルロースの結晶性領域に対して、何らかの機能性分子を結晶性領域選択的に結合させる修飾剤としての使用も可能で有り、多くの技術分野における利用が期待される。
特開2011-200136
Borastonら, Biochem J 382:769-781 2004 Bolamら, Biochem J 331:775-781 1998 Herveら, Proc Natl Acad Sci USA 107:15293-15298 2010 Kojimaら, Appl Environ Microbiol 82:6557-6572 2016
上記事情に鑑み、本発明は、結晶性セルロースに選択的に結合するタンパク質の提供を目的とする。
また、本発明は、結晶性セルロースを選択的に修飾する方法および修飾剤の提供を目的とする。
さらに、本発明は、結晶性セルロースの分解、定量方法の提供を目的とする。
本発明者らは、様々なセルロース結合性タンパク質の特徴を検討したところ、褐色腐朽菌キチリメンタケ(Gloeophyllum trabeum)由来の溶解性多糖モノオキシゲナーゼ(GtLPMO9A-2)(非特許文献4)に付属する56アミノ酸残基からなる機能未知の領域に結晶性セルロース選択的に結合する活性があることを見出した。この56アミノ酸残基からなるポリペプチド(配列番号1)は、これまでにどのような機能を有しているか明らかにされていなかった。また、前記56アミノ酸残基からなるポリペプチドのアミノ酸配列は、これまでに知られているセルロース結合活性を有するポリペプチドのいずれのアミノ酸配列とも異なるものであった。
発明者らは、以上の知見基づいて、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の(1)~(12)である。
(1)結晶性セルロースに選択的に結合する、下記(a)~(c)のいずれかに記載のタンパク質。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質、および、
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質
(2)上記(1)に記載のタンパク質と所望の分子(ただし、配列番号5で表されるアミノ酸からなるタンパク質を除く)を結合させた複合分子であって、結晶性セルロースに選択的に結合する複合分子。
(3)前記所望の分子がタンパク質であることを特徴とする上記(2)に記載の複合分子。
(4)上記(1)に記載のタンパク質をコードするDNA。
(5)上記(1)に記載のタンパク質をコードする、下記(a)~(c)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号2で表される塩基配列からなるDNAの相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、および
(c)配列番号2で表される塩基配列からなるDNAと80%以上の配列同一性を有するDNA
(6)上記(4)または(5)に記載のDNAを含有する組換えベクター。
(7)上記(1)に記載のタンパク質を含む、結晶性セルロース選択的修飾剤。
(8)前記修飾が、結晶性セルロースに所望の分子を結合させることである、上記(7)に記載の選択的修飾剤。
(9)前記修飾が、結晶性セルロースを分解することである、上記(7)に記載の選択的修飾剤。
(10)上記(1)のタンパク質を含む、結晶性セルロースを選択的に修飾するためのキット。
(11)所望の分子を結合させた上記(1)のタンパク質とセルロースを接触させ、該所望の分子をセルロースの結晶性領域選択的に結合させる方法。
(12)上記(1)のタンパク質をセルロースと接触させ、該タンパク質を検出することを含む、セルロースの結晶性領域の定量方法。
本発明により、結晶性セルロース(または、セルロースの結晶性領域)に選択的に結合するタンパク質の使用が可能となる。
当該タンパク質を用いると、結晶性セルロース領域を様々な分子で選択的に修飾する(様々な分子を結合させる)ことが可能となる。その結果、当該タンパク質を用いて、結晶性セルロースの定量(あるいは、セルロース中の結晶性領域の定量)、結晶性セルロースの選択的な分解および選択的な新規機能の付与を行うことができる。
AはGtLPMO9A-2タンパク質の各ドメインを模式的に示した図である。新規CBMと記載したドメインが、本発明の第1の実施形態にかかるタンパク質に相当する。BにGtLPMO9A-2タンパク質のアミノ酸配列を示す。リンカードメインを点線の下線で示し、新規CBMドメインを太線の下線で示す。その他の領域は触媒ドメインである。 RFP-A2-1、RFP-A2-2およびRFPの構造を模式的に示した図である。 AはA2-1およびA2-2の構造を模式的に示した図である。BにはA2-1およびA2-2のアミノ酸配列を示す。リンカードメインを点線の下線で示し、新規CBMドメインを太線の下線で示す。 発現させたタンパク質をフェニルカラムで精製したときの溶出プロファイル(上図)と、RFP、RFP-A2-1、RFP-A2-2の各溶出パターンおよび回収した分画を示す(下図)。 RFP-A2-1のフェニルカラムの溶出分画をDEAEカラム(東ソー、DEAE-5PW、7.5×75)で精製したときの溶出プロファイル(上図)と、溶出パターンおよび回収した分画を示す(下図)。 RFP-A2-2のフェニルカラムの溶出分画をDEAEカラム(東ソー、DEAE-5PW、7.5×75)で精製したときの溶出プロファイル(上図)と、溶出パターンおよび回収した分画を示す(下図)。 RFPのフェニルカラムの溶出分画をDEAEカラム(東ソー、DEAE-5PW、7.5×75)で精製したときの溶出プロファイル(上図)と、溶出パターンおよび回収した分画を示す(下図)。 RFP-A2-1、RFP-A2-2およびRFPをフェニルカラムおよびDEDEカラムで精製したときの各溶出分画をSDS-PAGEで解析した結果を示す。各目的タンパク質のバンドを矢印で示した。 PASC、AvicelおよびCladophora_IIIIのIR解析結果を示す。 Cladophora_Iα、Acetobactor_Iα/βおよびHalocynthia_IβのIR解析結果を示す。 各セルロースに対するRFP-A2-1およびRFP-A2-2の結合率を測定した結果である。
本発明の第1の実施形態は、結晶性セルロースに選択的に結合するタンパク質である。より具体的には、結晶性セルロースに選択的に結合する、下記(a)~(c)のいずれかに記載のタンパク質(以下「本発明の第1実施形態のタンパク質」と記載する箇所もある)である。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質、および、
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質
本明細書中、「セルロース」とは、β-1, 4-グリコシド結合によって、グルコース同士が結合した重合体およびその誘導体のことである。誘導体としては、特に限定はしないが、例えば、ニトロ化、アセチル化、エステル化、カルボキシメチル化などの誘導体を挙げることができる。また、「結晶性セルロース」とは、分子間水素結合等により結晶構造を形成しているセルロースまたはセルロース領域のことであり、セルロースIα(三斜晶)、セルロースIβ(単斜晶)、セルロースII(再生セルロース)、セルロースIIIのいずれも含まれる。
一般に、タンパク質が、結晶性セルロースまたは結晶性セルロース領域に結合したかどうかは、当業者であれば容易に確認することができる。例えば、検出可能な標識分子(蛍光分子、放射性分子などいかなる分子であってもよい)でタンパク質をラベル化し、結晶性セルロースと適切な条件下で接触させたのち、当該標識分子が結晶性セルロースに固定化された状態で検出されれば、当該タンパク質が結晶性セルロースまたは結晶性セルロース領域に結合したと判断することができる。タンパク質を標識分子でラベル化する方法は直接、間接(例えば、当該タンパク質に対する抗体をラベル化して用いる方法)いずれの方法でもよい。
本明細書において、「1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列」と記す場合、置換、欠失、挿入および/または付加したアミノ酸の数は、特に限定はしないが、たとえば、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個程度が好ましい。また、本明細書において、「80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列」は80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であれば、何%であってもよく、たとえば、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上であってもよい。上記アミノ酸の置換、欠失、挿入および/または付加は、タンパク質をコードする核酸に元々存在した変異であってもよく、また、該核酸を当該技術分野で公知の手法によって改変することによって新たに導入したものであってもよい。
本発明の第2の実施形態は、本発明の第1実施形態のタンパク質と所望の分子(ただし、配列番号5で表されるアミノ酸からなるタンパク質を除く)を結合させた複合分子であって、結晶性セルロースに選択的に結合する複合分子である。
本発明の第1実施形態のタンパク質は、上述した通り、褐色腐朽菌キチリメンタケ(Gloeophyllum trabeum)由来の溶解性多糖モノオキシゲナーゼ(GtLPMO9A-2;配列番号3)(非特許文献4)に付属する56アミノ酸残基からなる領域に相当する。しかしながら、この領域の機能は明らかにされておらず、結晶性セルロースに選択的に結合することは、本発明者らによって初めて明らかにされた。従って、GtLPMO9A-2の触媒ドメインと分離され、結晶性セルロース選択的に結合する活性を有するタンパク質(本発明の第1実施形態のタンパク質)は、本明細書において初めて開示されるものである。
そこで、第2の実施形態の「所望の分子」からGtLPMO9A-2の触媒ドメイン(配列番号5)に相当するタンパク質、および/または当該触媒ドメインと高い同一性を有するタンパク質であって溶解性多糖モノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質は除かれる。そして、「所望の分子」とは、本発明の第1実施形態のタンパク質を介して、結晶性セルロースに選択的に結合させたい分子であれば、低分子であっても高分子であってもよく、例えば、酵素、蛍光タンパク質、シルクプロテインなどのタンパク質の他、脂質、糖、糖鎖、核酸その他の有機もしくは無機低分子化合物または高分子化合物を挙げることができる。例えば、所望の分子が酵素の場合、第2実施形態の複合分子で結晶性セルロースを選択的に酵素処理することが可能となり、また、所望の分子が標識分子の場合、当該複合分子は結晶性セルロース選択的なプロテインタグとして機能し得る。
本発明の第1実施形態のタンパク質と所望の分子の比率は特に限定されず、1の所望の分子に対して、複数の本発明の第1実施形態の分子が結合していても、1の本発明の第1実施形態の分子に対して、複数の所望の分子が結合していても良い。
本発明の第1の実施形態のタンパク質と「所望の分子」との結合は、当業者であれば当該技術分野において公知の方法により容易に行うことができる。
本発明の第3の実施形態は、上記本発明の第1実施形態のタンパク質をコードするDNA(以下「本発明の第3実施形態のDNA」と記載することもある)および当該DNAを含む組換えベクターなどの核酸構築物である。本発明の第1実施形態のタンパク質をコードするDNAとしては、下記(a)~(c)のいずれかに記載のDNAを挙げることができる。
(a)配列番号2で表される塩基配列を含むDNA、
(b)配列番号2で表される塩基配列を含むDNAの相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、および
(c)配列番号2で表される塩基配列を含むDNAと80%以上の配列同一性を有するDNA
本発明の第3実施形態のDNAは、公知の技術、例えば、ハイブリダイゼーション技術やPCR技術などを組み合わせて単離することができる。また、本発明の第3実施形態のDNAには、配列番号2で表される塩基配列を含むDNA、当該DNAおよび当該DNAの相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAならびに当該DNAおよび当該DNAの相補鎖と80%以上の配列同一性を有するDNAも含まれる。
ここで、ストリンジェントな条件とは、当業者によって容易に決定されるハイブリダイゼーション条件のことで、一般的に、プローブ長、洗浄温度および塩濃度に依存する経験的な実験条件である。通常、プローブが長くなると適切なアニーリングのための温度は高くなり、プローブが短くなると温度は低くなる。核酸同士のハイブリッドの形成は、相補鎖がその融点よりやや低い環境において再アニールする能力に依存する。より具体的に述べると、ストリンジェントな条件としては、上記DNAを単離することができる条件として、当業者によって選択される条件であれば特に限定はされず、例えば、洗浄段階において、42℃~70℃、より好ましくは42℃~65℃の温度条件の下、25mM~450mM、より好ましくは25mM~500mMのナトリウム濃度の条件が好ましい。このような条件としては、例えば、5×SSC(83mM NaCl、83mMクエン酸ナトリウム)、0.1%SDS中、42℃で洗浄する条件などが挙げられる。さらに、温度を上げる等、より高いストリンジェントな条件にすることにより、相同性の高いDNAを得ることができる。
また、「80%以上の配列同一性を有するDNA」は80%以上の配列同一性を有するDNAであれば、何%であってもよく、たとえば、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上であってもよい。
本発明の第1実施形態のタンパク質は、当該技術分野における公知の遺伝子工学的技術により容易に作製することができる。また、ペプチド固相合成法とネイティブ・ケミカル・ライゲーション(Native Chemical Ligation;NCL)法を組み合わせて作製してもよい。
本発明の第1実施形態のタンパク質は、これをコードする核酸配列(例えば、配列番号2で表される配列)からなるDNAを適当な発現ベクターに挿入し、常法に基づいて、タンパク質を発現させ、単離精製を行うことで、調製することができる。
本発明の第1実施形態のタンパク質は、種々の宿主細胞、例えば、大腸菌細胞、動物細胞、植物細胞、バキュロウイルス/昆虫細胞または酵母細胞などを使用し、これらの細胞内で発現させることができる。本発明の第1実施形態のタンパク質を発現させるための発現用ベクターは、各種宿主細胞に適したベクターを用いることができる。発現用ベクターとしては、例えば、pBR322、pBR325、pUC118、pETなど(大腸菌宿主)、pEGF-C、pEGF-Nなど(動物細胞宿主)、pVL1392、pVL1393など(昆虫細胞宿主、バキュロウイルスベクター)、pG-1、Yep13またはpPICZαなど(酵母細胞宿主)を使用することができる。これらの発現ベクターは、各々のベクターに適した、複製開始点、選択マーカーおよびプロモーターを有しており、必要に応じて、エンハンサー、転写終結配列(ターミネーター)、リボソーム結合部位およびポリアデニル化シグナル等を有していてもよい。さらに、発現ベクターには、発現したポリペプチドの精製を容易にするため、FLAGタグ、Hisタグ、HAタグおよびGSTタグなどを融合させて発現させるための塩基配列が挿入されていてもよい。
発現用ベクターの作製は、当業者に公知の手法により実施することができ、適宜、市販のキットなどを使用して行うこともできる。
発現させたタンパク質を培養菌体または培養細胞から抽出する際には、培養後、公知の方法で菌体または培養細胞を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチームおよび/または凍結融解などによって菌体または細胞を破壊したのち、遠心分離や濾過により、可溶性抽出液を取得する。得られた抽出液から、公知の分離・精製法を適切に組み合わせて目的のタンパク質を取得することができる。公知の分離、精製法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、SDS-PAGE等の主として分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーなどの電荷の差を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法(例えば、GSTタグと共にポリペプチドを発現させた場合にはグルタチオンを担体に結合させた樹脂を、Hisタグと共にポリペプチドを発現させた場合にはNi-NTA樹脂やCoベースの樹脂を、HAタグと共にポリペプチドを発現させた場合には抗HA抗体樹脂を、FLAGタグと共にポリペプチドを発現させた場合には抗FLAG抗体結合樹脂などを使用する方法)、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法または等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法などが用いられる。
本発明の第4の実施形態は、本発明の第1実施形態のタンパク質を含む、結晶性セルロース選択的に修飾する用途に使用できる修飾剤である。ここで「修飾」とは、結晶性セルロースの形態または形状に何らかの変更を加えることで、限定はしないが、例えば、結晶性セルロースに所望の分子を結合させること、あるいは、結晶性セルロースを分解することなどを挙げることができる。
本発明の第4実施形態の修飾剤は、本発明の第1実施形態のタンパク質を有効成分として含み、さらに修飾に必要な他の要素を含んでもよい。
ここで「修飾」が結晶性セルロースに所望の分子を結合させることである場合、「修飾剤」の成分として、所望の分子が含まれていてもよく、当該所望の分子は、本発明の第1実施形態のタンパク質と別々に、または、結合した状態(すなわち、第2実施形態の複合分子の状態)で含まれていてもよい。
また、「修飾」が結晶性セルロースを分解することである場合、「修飾剤」の成分として、本発明の第1実施形態のタンパク質の他にセルラーゼが含まれていてもよい。この場合、セルラーゼは、本発明の第1の実施形態のタンパク質と別々に、または、本発明の第1実施形態のタンパク質と結合した状態で含まれていてもよい。「修飾剤」を結晶性セルロースの分解に使用する場合には、当該結晶性セルロースから糖を得るための用途に使用することもできる。
さらに、本発明の第4実施形態の修飾剤は、結晶性セルロースを選択的に修飾するための「キット」の形態で提供することもできる。本キットには、上記本発明の第1実施形態のタンパク質もしくは第1実施形態のタンパク質を調製するための要素(例えば、第1実施形態のタンパク質を調製するための発現用ベクター(組換えベクター)など)および/または所望の分子もしくはセルラーゼの他に、修飾反応に必要な試薬類、バッファーおよび使用説明書(または使用説明書の電子ファイルなど)などが含まれていてもよい。
本発明の第5の実施形態は、所望の分子を結合させた本発明の第1実施形態のタンパク質とセルロースを接触させ、該所望の分子をセルロースの結晶性領域選択的に結合させる方法である。本発明の第1実施形態のタンパク質を結晶性セルロースに結合させるには、本発明の第1実施形態のタンパク質と結晶性セルロースとを接触させ、適温(例えば、4℃~50℃、好ましくは、10℃~40℃、より好ましくは20℃~37℃)、適切なpH(pH2~8、好ましくはpH3~7、より好ましくはpH4~6)条件で数時間インキュベートすることで実施することができる。
さらに、第5の実施形態において、「所望の分子」は、本発明の第1実施形態のタンパク質を介して結晶性セルロース(または結晶性セルロース領域)に間接的に結合することになるため、結合した所望の分子を定量することで、結晶性セルロースの分布領域を定量することができる。定量可能な「所望の分子」としては、特に限定はしないが、例えば、検出可能なシグナルを発する、蛍光分子および放射性分子などが好ましい。
本明細書において引用されたすべての文献の開示内容は、全体として明細書に参照により組み込まれる。また、本明細書全体において、単数形の「a」、「an」、および「the」の単語が含まれる場合、文脈から明らかにそうでないことが示されていない限り、単数のみならず複数のものを含むものとする。
以下に実施例を示してさらに本発明の説明を行うが、実施例は、あくまでも本発明の実施形態の例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
本発明の一実施例として、本発明の第1実施形態のタンパク質(本実施例では、「新規CBM」とする)(配列番号1(アミノ酸配列)および配列番号2(核酸配列))と、蛍光タンパク質との融合タンパク質を作製し、この融合タンパク質を用いて、新規CBMが結晶性セルロースに選択的に結合することを確認した。以下、詳述する。
1.融合タンパク質の作製
1-1. GtLPMO9A-2 cDNAの調製
褐色腐朽菌、Gloeophyllum trabeum NBRC 6430由来の溶解性多糖モノオキシゲナーゼ、GtLPMO9A-2のORF配列、および3’-RACEによって決定したC末端側領域を、各々、以下のプライマーセットを用い、抽出したRNAをテンプレートとして逆転写PCRを行い、GtLPMO9A-2のcDNA(配列番号4)を合成した。
ORF配列
GtLPMO9A_ORF_forward;TCCTTGCTTTGGTTCTGC(配列番号17)
GtLPMO9A-2_ORF_reverse;CACAGCCAATTGCTTCAAG(配列番号18)
3’-RACE
GtLPMO9A_3’-RACE_forward;ATCTCACACTCCTTGACATCCAAT(配列番号19)
3’-RACE_reverse;GCTGTCAACGATACGCTACGTAACG(配列番号20)
合成したcDNAをpGEM-T easy(Promega)に挿入し、構築したベクターでE. coli JM109株を形質転換した。得られた形質転換体を一晩、37℃で培養した後、培養物からMiniprep DNA Purification Kit(Promega)を用いてプラスミドを抽出した。調製したプラスミドのインサートの確認は、T7プライマーおよびSP6プライマーを用いてシーケンス解析により行った。
1-2.発現用インサートの調製
GtLPMO9A-2(配列番号3)は、N末端側から、触媒ドメイン、リンカー、新規CBM(本発明により初めて単離されたタンパク質として調製され、その機能が同定された)により構成されている(図1)。本実施例では、リンカー部分を介して新規CBMを蛍光タンパク質のRFPのC末端側に連結した融合タンパク質の調製を行った。調製したタンパク質は、RFP-A2-1(配列番号11)およびRFP-A2-2(配列番号13)と、精製コントロールとしてのRFP(配列番号15)である。RFP-A2-1とRFP-A2-2は、リンカー部分の長さが異なる(図2)
各タンパク質の発現用に、RFPをコードするDNA(配列番号16)、長いリンカーと新規CBMの融合タンパク質(図3;A2-1、配列番号7)をコードするDNA(配列番号8)および短いリンカーと新規CBMの融合タンパク質(図3;A2-2、配列番号9)をコードするDNA(配列番号10)を調製した。
(1)A2-1コードDNAおよびA2-2コードDNAの調製
正しい配列のGtLPMO9A-2 cDNA(配列番号4)を含むプラスミドベクターをテンプレートとして、リンカー領域および新規CBMをコードする配列をKOD plus ver.2(Toyobo)を用いてPCR増幅を行った。PCR反応は下記プライマーを用いて行った。
A2-1
GtA2um_1_F;CACTCCGGCTCCCAGTCCGGCGGGTCTTCCTCATCTGCTGCA(配列番号21)
GtA2um_R;AGAAAGCTGGCGGCCGCTTAGAAAGAGAGACGTCCCAGGGTACCAGAACG(配列番号23)
A2-2
GtA2um_2_F;CACTCCGGCTCCCAGTCCTCCTCCGCCGCCGCTTCGGGCT(配列番号22)
GtA2um_R;AGAAAGCTGGCGGCCGCTTAGAAAGAGAGACGTCCCAGGGTACCAGAACG(配列番号23)
(2)RFPコードDNAの調製
A2-1およびA2-2と融合させるためのコードDNA(融合用RFP)と単独発現用のコードDNA(単独発現用RFP)を、以下のプライマーを用いてpDsRed-Monomer Vector(Clontech)をテンプレートして、KOD plus ver.2(Toyobo)を用いてPCRにより調製した。
融合用RFP
DeRed_infusion_kex2_F;AGGGGTATCTCTCGAGAAAAGAATGGACAACACCGAGGACGTCATCAAGGAGTTC(配列番号24)
RFP_infusion_R;CTGGGAGCCGGAGTGGCGGGCCT(配列番号25)
単独発現用RFP
DeRed_infusion_kex2_F;AGGGGTATCTCTCGAGAAAAGAATGGACAACACCGAGGACGTCATCAAGGAGTTC(配列番号24)
RFP_infusion_xhoI_R;AGAAAGCTGGCGGCCGCCTACTGGGAGCCGGAGTGGCGGG(配列番号26)
上記PCRの反応条件は以下の通りである。
反応液
10×KOD plus ver.2 Buffer 5
dNTP 5
MgSO4 2
F primer 1.5
R primer 1.5
Template 0.3
KOD plus 1
SDW 33.7(μL)
増幅条件
94℃×2min
94℃×15sec
65℃×30sec
68℃×1min(RFP部分)、68℃×24sec(A2-1、A2-2)
30サイクル
1-3.発現ベクターの調製
RFP(配列番号15(アミノ酸配列)および配列番号16(核酸配列))を単独発現するベクターは、In-Fusion HD Cloning Kit(Clontech)を用いて、XhoIとNotIで切断した発現ベクターpPICZα(Invitrogen)に、単独発現RFPコードDNAをライゲーションすることにより構築した。
また、RFP-A2-1(配列番号11(アミノ酸配列)および配列番号12(核酸配列))発現用ベクターおよびRFP-A2-2(配列番号13(アミノ酸配列および配列番号14(核酸配列))発現用ベクターは、In-Fusion HD Cloning Kit(Clontech)を用いて、XhoIとNotIで切断した発現ベクターpPICZα(Invitrogen)に、融合用RFPコードDNAとA2-1コードDNAもしくはA2-2コードDNAをライゲーションすることにより構築した。
2.異種宿主発現
上記1-3で調製した3つの発現ベクター、各約10μgをBpu11021(TaKaRa)で切断して、線状化した。EasySelect Pichia expression kit(Invitrogen)を用い、添付の説明書に従って、線状化したベクターでPichia Pastoris KM71Hを形質転換した。
24時間毎にメタノールを終濃度1 %になるように添加したYP培地で、形質転換体を4日間、30℃で培養した。得られた培養物を30分間、1,000×gで遠心し、細胞を除去した後、発現されたタンパク質を含む上清を回収した。
3.発現タンパク質の精製
上記2で回収した上清をフェニルカラム、次いで、DEAEカラムにかけて、目的のタンパク質を精製した。
(1)フェニルカラム
各培養上清をフェニルカラム(GEヘルスケア、HiTrap Phenyl HP、コード番号17519501)にチャージした後、A Buffer(洗浄バッファー)とB Buffer(溶出バッファー)を用いて、ステップワイズに溶出を行い、目的タンパク質を含む溶出分画を回収した。図4の上図に溶出プロファイルを示した。下図には、RFPのみ、RFP-A2-1およびRFP-A2-2の各溶出パターンと、回収した分画を示した。
次いで、スピンカラムを用いて、回収した分画のバッファー交換を行った。RFP-A2-1とRFP-A2-2に関してはAmicon(5 kDa)を、RFPに関してはVIVASPIN 5kDa(GEヘルスケア)を使用し、回収分画のバッファーを20mM 酢酸ナトリウム(pH5.0)に交換した。
(2)DEAEカラム
フェニルカラムで調製した粗精製サンプルをDEAEカラム(東ソー、DEAE-5PW、7.5×75)にチャージして、さらにタンパク質の精製を進めた。サンプルチャージ後、20 mM 酢酸ナトリウム(pH7.0)で洗浄した後、20 mM 酢酸ナトリウム(pH7.0)中、塩化ナトリウムのリニアグラジエント(0 mM~500 mM)溶出を行った後、500 mM 塩化ナトリウムで洗浄を行った。溶出後、目的タンパク質を含む溶出分画を回収した。図5、図6および図7は、各々、RFP-A2-1、RFP-A2-2および RFPの溶出プロファイル(上図)と、溶出パターンおよび回収した分画(下図)を示した。
(3)SDS-PAGE
フェニルカラムおよびDEDEカラムの各溶出分画をSDS-PAGEで解析した結果を図8に示す。各目的タンパク質を矢印で示した。
4.新規CBMのセルロースに対する結合特異性の検討
上記3で精製したRFP-新規CBM融合タンパク質のセルロースに対する結合特異性の検討を行うために、非晶性セルロースと結晶性セルロースを準備した。なお、結合実験のコントロールとして、結晶性および非晶性セルロースのいずれにも結合するTrCBHI由来のCBM1とRFPとの融合タンパク質を、Sugimotoら, Protein Expr Purif. 82:290-296 2012に記載される方法に従って調製し、実験に用いた。
結合特異性の検討に使用した基質セルロースは以下の通りである。
非晶性セルロース
PASC:リン酸膨潤セルロース(フナコシ社製「フナセル」からWood 1988らの方法(METHODS IN ENZYMOLOGY, Vol. 160 pp19-25 1988)に基づいて調製)
微結晶セルロース
Avicel:メルク社製
高結晶性セルロース
Cladophora_Iα:シオグサ由来、シナプテック社製 結晶化度90 %程度
Acetobactor_Iα/β:酢酸菌由来、シナプテック社製 結晶化度70 %程度
Halocynthia_Iβ:ホヤ由来、シナプテック社製 結晶化度90 %程度
Cladophora_IIII:シオグサ由来 結晶化度90 %程度(Wadaら, Macromolecules 37:8548-8555 2004に記載の方法により調製した)
上記実験に使用したセルロースに関して、IRにより確認を行った。
パーキンエルマー社製のSpectrum Frontier Spotlight 200i顕微IRシステムを使用して測定を行い、PerkinElmer Spectrum バージョン10.5.4で解析を行った。 測定条件は、波数領域4000-750 cm-1、積算回数128回で、MCT検出器を使用した。
測定サンプルは、セルロース懸濁液をフッ化バリウム基板にスポットし、ドライヤーで乾燥させた後、顕微IRシステムにセットし、透過法によってIRスペクトルを取得した。
非晶性セルロースのPASC、微結晶セルロースのAvicelおよび人工的に結晶型が改変されたセルロースのCladophora_IIIIの測定結果を図9に、天然型の結晶性セルロースの測定結果を図10に示す。PASCおよびAvicelでは500~1,000cm-1辺りのピークは幅広く、結晶化度が低いことが分かる。一方で高結晶性セルロースでは500~1,000cm-1辺りのピークがするどく結晶化度が高いことが分かる。
次に、セルロースとRFP-A2-1またはRFP-A2-2との結合について検討を行った。コントロールとして、TrCBHI由来のCBM1とRFPとの融合タンパク質を用いた。反応条件は以下の通りである。
反応液
セルロース(基質) 20μL(終濃度 0.1 %)
タンパク質 16μL(終濃度 7.44μM)
バッファー 4μL(100 mM 酢酸ナトリウムバッファー(PH5.0))
上記反応液を25℃で2時間インキュベートしたのち、15,000×g、3分間遠心を行った。遠心後、上清を回収し、上清の559nmにおける吸光度の測定を3回行った。
測定値に基づき、各セルロースに対する各タンパク質の結合率(=結合量/添加量)を算出した。その結果、図11に示すように、RFP-A2-1およびRFP-A2-2共に天然型の結晶性セルロースと選択的に結合することがわかった。
すなわち、新規CBMは、天然型の結晶性セルロース(Cladophora_Iα:シオグサ由来、Acetobactor_Iβ:酢酸菌由来、Halocynthia_Iβ:ホヤ由来)と選択的に結合し、非晶性セルロース(PASC)や人為的に結晶型を変化させた非天然型結晶性セルロース(Cladophora_IIII)にほとんど結合しなかった。なお、微結晶セルロース(Avicel)に対する結合は、本セルロースの結晶化度とA2-1、A2-2の結合率の差を考えると、表面に存在する非晶性セルロースにリンカー領域が結合していると考えられる。
以上の結果から、新規CBM、すなわち、本発明の第1実施形態のタンパク質は、結晶性セルロース(特に、天然型の結晶性セルロースI)に選択的に結合することが示された。
本発明のセルロース結合タンパク質は、結晶性セルロースに選択的結合する能力を有する。従って、当該タンパク質は、セルロースに関連する産業分野における利用が期待される。

Claims (12)

  1. セルロースI(αおよびβ)に選択的に結合する下記(a)~(c)のいずれかに記載のタンパク質。
    (a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
    (b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質、および、
    (c)配列番号1で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質
  2. 請求項1に記載のタンパク質と所望の分子(ただし、配列番号5で表されるアミノ酸からなるタンパク質を除く)を結合させた複合分子であって、セルロースI(αおよびβ)に選択的に結合する複合分子。
  3. 前記所望の分子がタンパク質であることを特徴とする請求項2に記載の複合分子。
  4. 請求項1に記載のタンパク質をコードするDNA。
  5. 請求項1に記載のタンパク質をコードする、下記(a)~(c)のいずれかに記載のDNA。
    (a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA、
    (b)配列番号2で表される塩基配列からなるDNAの相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、および
    (c)配列番号2で表される塩基配列からなるDNAと90%以上の配列同一性を有するDNA
  6. 請求項4または5に記載のDNAを含有する組換えベクター。
  7. 請求項1に記載のタンパク質を含む、セルロースI(αおよびβ)選択的修飾剤。
  8. 前記修飾が、結晶性セルロースに所望の分子を結合させることである、請求項7に記載の選択的修飾剤。
  9. 前記修飾が、結晶性セルロースを分解することである、請求項7に記載の選択的修飾剤。
  10. 請求項1のタンパク質を含む、セルロースI(αおよびβ)を選択的に修飾するためのキット。
  11. 所望の分子を結合させた請求項1のタンパク質と、セルロースを接触させ、該所望の分子をセルロースI(αおよびβ)の結晶性領域選択的に結合させる方法。
  12. 請求項1のタンパク質をセルロースと接触させ、該タンパク質を検出することを含む、セルロースI(αおよびβ)の結晶性領域の定量方法。
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Applied and Environmental Microbiology,2016年09月02日,Vol. 82, Number 22,P6557-6572
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Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,2010年,Vol. 107, No.34,p.15293-15298

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