JP6998008B2 - 分散性リン酸カルシウムナノ粒子、分散性リン酸カルシウムナノ粒子の製造方法、医薬品及び分散性リン酸カルシウムナノ粒子作製キット医薬品 - Google Patents

分散性リン酸カルシウムナノ粒子、分散性リン酸カルシウムナノ粒子の製造方法、医薬品及び分散性リン酸カルシウムナノ粒子作製キット医薬品 Download PDF

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特許法第30条第2項適用 掲載アドレス http://member.ceramic.or.jp/taikai/yokou_login.php ;掲載日平成29年3月1日 日本セラミックス協会 2017年年会、日本大学(駿河台キャンパス)1号館(東京都千代田区神田駿河台1-8-14) ;発表日 平成29年3月17日
本発明は、分散性を有するリン酸カルシウムナノ粒子(以下、「分散性リン酸カルシウムナノ粒子」という。)に関する。
ヒトの歯や骨の主要無機成分であるリン酸カルシウムは、生体親和性に優れること、生体吸収性を示すこと(組成や製法による)、弱酸性条件下で血清イオンに分解することなどから、安全性の高い薬剤送達担体としての応用が期待されている。リン酸カルシウムを分散性ナノ粒子とすることで、静脈・動脈注射などによる生体内投与、体内循環(患部への送達)、及び細胞への取込が可能となることから、種々の薬剤を担持させたリン酸カルシウムナノ粒子の研究が行われてきた。
たとえば、リン酸カルシウムとタンパク質の複合粒子、リン酸カルシウムとDNAの複合粒子(非特許文献1)、リン酸カルシウムとヘパリンの複合粒子(非特許文献2)、リン酸カルシウムと磁性酸化鉄ナノ粒子の複合粒子に後からDNAを吸着させた粒子(非特許文献3)などの研究がなされてきた。また、磁性酸化鉄ナノ粒子とリン酸カルシウムの複合ナノ粒子は、磁気温熱療法の発熱体(非特許文献4)としての機能を有することが報告されている。
薬剤送達用のリン酸カルシウムナノ粒子は、静脈・動脈注射などによる生体内投与時にナノサイズ(直径又は長径10nm以上600nm以下)の大きさを持ち、溶媒中で分散状態を保っていることが望ましい。ところが、従来、リン酸カルシウムと薬剤の複合ナノ粒子に分散性を持たせるためには、ナノ粒子に対して界面活性剤などの有機分子を表面に吸着させて分散性を持たせる必要があり、生体内に投与する上での安全性に課題がある。
Colloid. Surf. B, 2016, 141, 519 Colloid. Surf. B, 2013, 102, 783 Adv. Funct. Mater. 2010, 20, 67 Int. J. Mol. Sci., 2013, 14, 9365
分散性を有し、界面活性剤を含まないより安全性の高いリン酸カルシウムナノ粒子を提供する。分散性を有し、界面活性剤を含まないより安全性の高いリン酸カルシウムナノ粒子の製造方法を提供する。簡易に分散性リン酸カルシウムナノ粒子を得られる製造方法を提供する。
本発明の一実施形態において、リン酸カルシウムと、第1担持物と、第2担持物と、を含み、前記第1担持物が有機物に被覆された無機ナノ粒子であり、前記第2担持物が分散剤である、分散性リン酸カルシウムナノ粒子が提供される。
本発明の一実施形態において、前記無機ナノ粒子が磁性酸化鉄ナノ粒子、金ナノ粒子、メソポーラスシリカナノ粒子、希土類含有無機ナノ粒子、銀ナノ粒子又はホウ素含有無機ナノ粒子であってもよい。
本発明の一実施形態において、第1担持物及び第2担持物はリン酸カルシウムナノ粒子よりも小さくてもよい。
本発明の一実施形態において、第3担持物をさらに含み、前記第3担持物が薬剤であってもよい。
本発明の一実施形態において、前記無機ナノ粒子を被覆する有機物が、カルボキシデキストラン、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレングリコール誘導体、ポリヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)又は2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)ポリマーであってもよい。
本発明の一実施形態において、前記分散剤は、核酸、ヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、糖鎖、抗体、酵素又は補酵素であってもよい。
本発明の一実施形態において、前記リン酸カルシウムナノ粒子中のリン酸カルシウムが非晶質リン酸カルシウムであってもよい。本発明の一実施形態において、前記リン酸カルシウムナノ粒子中のリン酸カルシウムが結晶性リン酸カルシウムであってもよい。
本発明の一実施形態において、無機ナノ粒子薬剤と有機分子薬剤を含む分散性リン酸カルシウムナノ粒子であってもよい。
本発明の一実施形態において、前記無機ナノ粒子が磁性酸化鉄薬剤であってもよい。
本発明の一実施形態において、前記分散性リン酸カルシウムナノ粒子の、ゼータ電位の絶対値が10mV以上であってもよい。
本発明の一実施形態において、第1担持物と第2担持物とカルシウム含有液とリン酸含有液とを混合して過飽和溶液を調製し、前記混合後に、前記過飽和溶液を撹拌し、前記撹拌後に過飽和溶液を一定時間静置することを含み、前記第1担持物が無機ナノ粒子であり、前記第2担持物が分散剤である、分散性リン酸カルシウムナノ粒子の製造方法が提供される。
分散性を有し、界面活性剤を含まないより安全性の高いリン酸カルシウムナノ粒子を提供することができる。分散性を有し、界面活性剤を含まないより安全性の高いリン酸カルシウムナノ粒子の製造方法を提供することができる。簡易に分散性リン酸カルシウムナノ粒子を得られる製造方法を提供することができる。製造上、無菌性を維持して製造可能な分散性リン酸カルシウムナノ粒子を得られる製造方法を提供することもできる。
実施例1で作製された試料(CaP-Fer、CaP-Fer-Hep、CaP-Fer-ATP)の走査電子顕微鏡(SEM)像である。 実施例1で作製された試料(CaP-Fer、CaP-Fer-Hep、CaP-Fer-ATP)のエネルギー分散型X線分光(EDX)スペクトルである。 実施例1で作製された試料(CaP-Fer、CaP-Fer-Hep、CaP-Fer-ATP)のCa、P、Fe含有量(上)とCa/P、Fe/Pモル比(下)である。 実施例1で作製された試料(CaP-Fer-Hep)のX線回折パターンである。 実施例1で作製された試料(CaP-Fer、CaP-Fer-Hep、CaP-Fer-ATP)の分散液の写真(超音波処理後30分~180分静置)である。 実施例1で作製された試料(CaP-Fer-Hep、CaP-Fer-ATP)の動的光散乱法(DLS)による粒子径分布(上)と、試料(CaP-Fer、CaP-Fer-Hep、CaP-Fer-ATP)の平均粒子径とゼータ電位(下)である。 実施例1で作製された試料(CaP-Fer-Hep)あるいはフェルカルボトランの添加24時間後の、マウスマクロファージ様細胞(RAW264.7)やヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)への取込率(試料中の鉄濃度として、グループH:0.50μM~0.57μM、M:0.25μM~0.27μM、L:0.13μM~0.15μM)である。 実施例1で作製された試料(CaP-Fer-Hep)の細胞毒性試験:試料添加24時間後のRAW264.7の細胞数(試料中の鉄濃度として、グループH:0.51μM、M:0.26μM、L:0.13μM、ポジティブコントロール(PC)は試料の添加なし)である。 実施例2で作製された試料(CaP-Fer(1)-Hep、CaP-Fer(2)-Hep、CaP-Fer(3)-Hep、CaP-Fer(4)-Hep)のSEM像である。 実施例2で作製された試料(CaP-Fer(1)-Hep、CaP-Fer(2)-Hep、CaP-Fer(3)-Hep、CaP-Fer(4)-Hep)のEDXスペクトルである。 実施例2で作製された試料(CaP-Fer(1)-Hep、CaP-Fer(2)-Hep、CaP-Fer(3)-Hep、CaP-Fer(4)-Hep)のFe/Ca、Fe/Pモル比である。 実施例2で作製された試料(CaP-Fer(1)-Hep、CaP-Fer(2)-Hep、CaP-Fer(3)-Hep、CaP-Fer(4)-Hep)のDLSによる粒子径分布(上)と、試料の平均粒子径とゼータ電位(下)である。 実施例3で作製された試料(CaP-Fer(0)-DNA、CaP-Fer(1)-DNA、CaP-Fer(2)-DNA、CaP-Fer(3)-DNA、CaP-Fer(4)-DNA、CaP-Fer(5)-DNA)のSEM像である。 実施例3で作製された試料(CaP-Fer(0)-DNA、CaP-Fer(1)-DNA、CaP-Fer(2)-DNA、CaP-Fer(3)-DNA、CaP-Fer(4)-DNA、CaP-Fer(5)-DNA)のEDXスペクトル(左)とEDXスペクトルから算出したFe/Caモル比(右)である。 実施例3で作製された試料(CaP-Fer(0)-DNA、CaP-Fer(1)-DNA、CaP-Fer(2)-DNA、CaP-Fer(3)-DNA、CaP-Fer(4)-DNA、CaP-Fer(5)-DNA)のDNA担持効率である。 実施例3で作製された試料(CaP-Fer(3)-DNA)の透過電子顕微鏡(TEM)像、高角度環状暗視野走査透過電子顕微鏡(HAADF-STEM)像、透過電子回折(TED)像、Ca、P、Feマッピング像である。 実施例3で作製された試料(CaP-Fer(0)-DNA、CaP-Fer(3)-DNA)のDLSによる粒子径分布である。 チューブに立体的に形成した細胞のペレットと磁石を用いた遺伝子導入の模式図である。 実施例3で作製された試料(CaP-Fer(0)-DNA、CaP-Fer(1)-DNA、CaP-Fer(2)-DNA、CaP-Fer(3)-DNA、CaP-Fer(4)-DNA、CaP-Fer(5)-DNA)の磁石非存在下におけるチャイニーズハムスター卵巣由来CHO-K1細胞に対する遺伝子導入効率に係る図である。 実施例3で作製された試料(CaP-Fer(0)-DNA、CaP-Fer(1)-DNA、CaP-Fer(2)-DNA、CaP-Fer(3)-DNA、CaP-Fer(4)-DNA、CaP-Fer(5)-DNA)の細胞毒性試験:試料添加48時間後のCHO-K1細胞のMTTアッセイによる吸光度(Positive Controlは試料の添加なし)である。 実施例3で作製された試料(CaP-Fer(0)-DNA、CaP-Fer(3)-DNA)の磁石存在下・非存在下におけるCHO-K1細胞に対する遺伝子導入効率に係る図である。 実施例4で作製された試料(CaP-Fer-miRNA(1)、CaP-Fer-miRNA(2)、CaP-Fer-miRNA(3)、CaP-Fer-miRNA(4))のSEM像である。 実施例4で作製された試料(CaP-Fer-miRNA(1)、CaP-Fer-miRNA(2)、CaP-Fer-miRNA(3)、CaP-Fer-miRNA(4))のCa/P、Ca/Feモル比(上)とマイクロRNAならびにフェルカルボトランの担持効率(下)である。 実施例4で作製された試料(CaP-Fer-miRNA(2)、CaP-Fer-miRNA(3)、CaP-Fer-miRNA(4))のDLSによる粒子径分布である。 実施例5で作製された試料(CaP-Fer-Hep-bFGF)のSEM像である。 実施例5で作製された試料(CaP-Fer-Hep-bFGF)の分散液の写真(超音波処理後30分静置)(左)とDLSによる粒子径分布(右)である。
発明者らは、薬剤として、ある種の有機分子で被覆された無機ナノ粒子(第1担持物)と、ある種の有機分子(第2担持物)をリン酸カルシウムマトリックス中に担持させると、第2担持物が分散剤として機能することによって、界面活性剤などを吸着させなくとも、多数の無機ナノ粒子を含むリン酸カルシウムの分散性ナノ粒子が得られることを見出した。しかも、これらの薬剤をリン酸カルシウム過飽和溶液中に適切な条件下で添加・撹拌するだけで、それぞれの薬剤とリン酸カルシウムが相互作用し、上記の薬剤を含むリン酸カルシウムの分散性ナノ粒子を簡易に製造できることを見出した。さらに、生体内に直接投与できるほどの安全性の高い原料から上記の分散性ナノ粒子を製造できることを見出し、製造された分散性ナノ粒子及び同ナノ粒子分散液を哺乳動物の体内に注射できること、また、担持した薬剤の機能を細胞内や動物の体内で発揮させ得ることも確認し、新規の薬剤送達担体に関する本発明を完成させるに至った。本発明の実施の形態について以下詳細に説明する。
[分散性リン酸カルシウムナノ粒子の定義]
本発明は第1担持物と第2担持物とを有する分散性リン酸カルシウムナノ粒子に関する。本発明における分散性リン酸カルシウムナノ粒子とは、リン酸カルシウム化合物を主成分とするマトリックスからなり、担持物として、第1担持物(有機分子で被覆された無機ナノ粒子)と第2担持物(粒子の分散性維持に寄与する有機分子)とを少なくとも含む、ナノサイズの分散性粒子を指す。ここで言うナノサイズの粒子とは直径又は長径1nm~1000nmの粒子を指すが、本発明では特に、静脈・動脈注射などにより生体内に投与可能で、細胞への取り込みに適した直径又は長径10nm以上600nm以下、好ましくは直径又は長径50nm以上500nm以下、さらに好ましくは直径又は長径100nm以上400nm以下の粒子を指す。
[分散性粒子の定義]
本発明における分散性粒子とは、30分という時間、単分散状態を維持することができると応用上十分であることから、生成直後あるいは注射用液に再分散させた後から、30分以上単分散状態を維持でき、凝集や沈降を起こさない粒子を言う。単分散状態の維持は、目視ならびにDLSによる粒子径分布により確認する。生成直後あるいは注射用液に再分散させた後から、30分後に、超音波照射やボルテックスなどにより振動を与えることで、単分散状態となるナノ粒子でも良い。単分散状態となることで、静脈・動脈注射などによる生体内投与が可能となり、また患部に到達して目的の細胞に取り込ませることができる。ナノ粒子を再分散させる注射用液としては、注射用水などが適している。ナノ粒子のマトリックスを構成するリン酸カルシウム化合物の安定性(耐溶解性)と生体内に投与する際の安全性の観点から、注射用液のpHは5~9、好ましくは6.5~8.0の、弱酸性から弱アルカリ性の水溶液が良い。
[担持物]
本発明における担持物は、リン酸カルシウム以外の物質からなり、リン酸カルシウムナノ粒子の表面、及び/または、内部に担持されることで、生物学的研究、診断や治療に役立つ機能を発揮したり、粒子の分散性維持に寄与したりするものである。本発明のナノ粒子に必ず含まれる担持物は、有機分子で被覆された無機ナノ粒子(以下、第1担持物)と、粒子の分散性維持に寄与する分散剤(以下、第2担持物)である。第1担持物及び第2担持物は、それぞれ単一の物質でも良いし、2種以上の物質であっても良い。さらに本発明のナノ粒子には、第1担持物、第2担持物に加えて、診断や治療に役立つ他の成分(以下、第3担持物)が1種以上含まれていても良い。
[第1担持物]
本発明における第1担持物は、有機分子で被覆された無機ナノ粒子であり、診断や治療に役立つ機能を有することもできる。無機ナノ粒子表面を適切な有機分子で被覆することにより、リン酸カルシウムマトリックスへの担持、及び、リン酸カルシウムから遊離した後の体液循環、代謝経路への移行が促される。無機ナノ粒子を被覆する有機分子を表面被覆剤とも言う。表面被覆剤として適切な有機分子は、無機ナノ粒子及びリン酸カルシウム化合物と強い相互作用を持ち、かつ、無機ナノ粒子の分散性を維持できる分子である。たとえば、中性付近の溶液中で負電荷を持つカルボキシル基、スルホ基、リン酸基や、正電荷を持つアミノ基、四級アンモニウム基などの極性官能基を1つあるいは複数含む分子や、水酸基、カルボニル基などの非イオン性の極性官能基を複数含む分子などが挙げられる。
表面被覆剤として好適な有機分子としては、例えば、カルボキシデキストラン、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレングリコール誘導体、ポリヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)、又は2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)ポリマーなどを挙げることができるが、これに限定されない。
無機ナノ粒子としては、例えば、磁気ターゲティングや磁気温熱療法、核磁気共鳴イメージング(MRI)に有効な磁性酸化鉄ナノ粒子、光線力学療法用の光増感剤や放射線治療用の増感剤(X線増感剤)として有効な金ナノ粒子、がん免疫療法用の免疫賦活剤として有効なメソポーラスシリカナノ粒子、近赤外イメージングに有効な希土類含有無機ナノ粒子、抗菌剤として有効な銀ナノ粒子、又はホウ素中性子捕捉療法に有効なホウ素含有無機ナノ粒子、などを挙げることができる。
第1担持物は、リン酸カルシウムナノ粒子よりも小さい必要がある。具体的には、表面被覆剤を含まない無機ナノ粒子の直径(コアサイズ)が、サブナノサイズから数10ナノサイズであり、シングルナノサイズであることが好ましく、表面被覆材を含む第1担持物の流体力学的半径が10nm以上500nm以下であり、好ましくは20nm以上100nm以下である。
以上の条件を満たす第1担持物としては、フェルカルボトランが特に適している。フェルカルボトランはカルボキシデキストランで被覆された磁性酸化鉄ナノ粒子であり、MRI造影剤として既に厚生労働省の認可を受けて使用されていることから、これを担持させたリン酸カルシウムナノ粒子についても、MRI造影機能を期待することができる。また、目的部位への磁気ターゲィングも期待することができる。たとえば、実施例にて確認されているように、磁気の作用による高効率な遺伝子導入が可能である。また、無菌性、エンドトキシンフリーといった安全性が担保されていることから、臨床応用のためのハードルも低い。
分散性リン酸カルシウムナノ粒子に含まれるリン酸カルシウム化合物の組成・構造は限定されない。リン酸カルシウム化合物は、少なくともリン酸イオンとカルシウムイオンを含む化合物であって、非晶質リン酸カルシウムであっても良いし、結晶性のリン酸カルシウム化合物であっても良い。結晶性のリン酸カルシウム化合物としては、例えば、水酸アパタイト、炭酸アパタイト、α-リン酸三カルシウム、β-リン酸三カルシウム、又はリン酸八カルシウムなどを挙げることができるが、これに限定されない。生成直後は非晶質リン酸カルシウムであって、その後の洗浄・乾燥・保管中あるいは分散液中で自発的に結晶化するもの、あるいはエージング処理、水熱処理などを追加することによって人為的に結晶化させたものであっても良い。リン酸カルシウムは結晶性が高い程に溶解度が低下することから、結晶性をコントロールすることにより、溶解度を調整することができる。また、上記のリン酸カルシウム化合物の構成イオン(リン酸、カルシウム、又は水酸化物イオンなど)の一部または全部が他のイオン(炭酸イオン、フッ化物イオン、亜鉛イオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、又はカリウムイオンなど)で置換されたものであっても良い。
[第2担持物]
分散性リン酸カルシウムナノ粒子には、同粒子の分散性を維持するため、第1担持物のほかに、さらに第2担持物として、分散剤が含まれている。ナノ粒子の分散剤としては、従来、アルキルスルホン酸、又はアルキルトリメチルアンモニウムなどの界面活性剤が使用されてきたが、毒性が懸念されるなど、生体内に投与する上での安全性に課題があった。一方で、本発明に係る分散性リン酸カルシウムナノ粒子に界面活性剤は含まれない。本発明の分散剤は、体内に投与可能な安全性と薬効を持つ物質に限られることに特徴がある。そのような分散剤は、認可済み注射用薬剤の中から選択することもできる。
本発明の第2担持物として適した分散剤としては、リン酸カルシウム化合物と強い相互作用を持ち、かつ中性程度(弱酸性~弱アルカリ性)の水溶液中でリン酸カルシウムナノ粒子に大きな表面電荷(正または負)を与える極性官能基を含む有機分子である必要がある。そのような極性官能基は、中性付近の溶液中で負電荷を持つカルボキシル基、スルホ基、又はリン酸基などの酸性官能基でも良いし、正電荷を持つアミノ基、又は四級アンモニウム基などの塩基性官能基でも良い。分散剤には、単一の官能基が1個以上含まれていても良いし、複数の官能基がそれぞれ1個以上含まれていても良い。これらの極性官能基とリン酸カルシウム化合物との相互作用により、リン酸カルシウムナノ粒子の少なくとも表面に分散剤が存在し、同粒子に5mV以上、好ましくは10mV以上のゼータ電位(絶対値)を与えることができる。10mV以上という比較的大きなゼータ電位(絶対値)を持つことで、同粒子は相互反発によって単分散状態を長時間維持することができる。
本発明の第2担持物としては、例えば、核酸(DNA、RNA、miRNA、又はsiRNA)、ヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、糖鎖、抗体、酵素、又は補酵素などを挙げることができる。具体的には、低分子核外DNAであるプラスミド、糖鎖の一種であるヘパリン、又はヌクレオチドの一種であるアデノシン三リン酸(ATP)などを特に好適な分散剤として挙げることができる。
[第3担持物]
分散性リン酸カルシウムナノ粒子には、上述の第1担持物、第2担持物のほかに、さらに、第3担持物として、診断や治療に役立つ分子が含まれていても良い。リン酸カルシウム化合物と強い相互作用を持つ極性官能基を有する分子であれば、リン酸カルシウムマトリックス中に共担持することができる。そのような分子としては、核酸(DNA、RNA、miRNA、又はsiRNA)、ヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、糖鎖、抗体、酵素、又は補酵素などをそのまま用いても良いし、リン酸カルシウム化合物と強い相互作用を持つ極性官能基を複合化した分子を用いても良い。具体的には、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)などを特に好適な分子として挙げることができる。
分散性リン酸カルシウムナノ粒子において、リン酸カルシウム化合物は、上述の担持物をナノ粒子の表面、及び/または、内部に保持するマトリックスとなり、これを生体内で必要な部位に届けるための送達担体として機能する。炎症性の患部近傍の酸性環境において、あるいは患部の細胞内に取り込まれた後のエンドソーム内において、リン酸カルシウム化合物は溶解してカルシウムイオン及びリン酸イオンなどになる。これにより、ナノ粒子は担持物を放出する。患部局所において担持物が放出されることで、正確な診断や高い治療効果を達成することができる。
<製造方法>
分散性リン酸カルシウムナノ粒子は、リン酸カルシウムに対して過飽和な水溶液(以後、単に過飽和溶液と呼ぶこともある)中で合成することができる。具体的には、第1担持物、第2担持物、カルシウム含有液、及びリン酸含有液を混合し、過飽和溶液を調製する。混合時に、必要に応じて第3担持物、pH調整剤なども加える。混合後、過飽和溶液をボルテックスや振とうなどにより撹拌して均一にすると良い。この過飽和溶液を一定時間静置することにより、目的の粒子を得ることができる。得られた粒子は生成直後にそのまま使用しても良いし、洗浄してから注射用液に再分散させて使用しても良い。
リン酸カルシウム過飽和溶液の原料として用いられる溶液は限定されない。カルシウムイオンを含むカルシウム含有液の例としては、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、乳酸カルシウム、クエン酸カルシウムの水溶液、又はカルシウムイオンを含む輸液製剤などが挙げられる。リン酸イオンを含むリン酸含有液の例としては、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二カルシウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸の水溶液、リン酸緩衝生理食塩水、又はリン酸イオンを含む輸液製剤などが挙げられる。pH調整剤としては、過飽和溶液のpHを中性付近に調節できるpH緩衝剤を用いても良いし、過飽和溶液のpHを徐々に高めてpH7以上のアルカリ性にすることのできるアルカリ化剤を用いても良い。アルカリ化剤の例としては、脱炭酸によって溶液のpHを高めることのできる、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、又は炭酸水素イオンを含む輸液製剤などが挙げられる。
リン酸カルシウム過飽和溶液の原料として、カルシウムイオンを含む輸液製剤、リン酸イオンを含む輸液製剤、ならびに、炭酸水素イオンを含む輸液製剤を用い、第1担持物にフェルカルボトラン、第2担持物にヘパリンやATPなどの注射液を用いることにより、既に厚生労働省の認可を受けて使用されている薬剤のみを使用して本発明のナノ粒子を作製することができる。このような粒子は、無菌性、エンドトキシンフリーといった安全性が担保されていることから、臨床応用のためのハードルが低い。
リン酸カルシウム過飽和溶液を静置する際の温度は、溶液の凝固点以上、沸点以下の温度であればよい。ただし、温度が高すぎるとリン酸カルシウム過飽和溶液中でのリン酸カルシウムの析出が早くなるため、ナノサイズの粒子が得られにくくなる。なお、第1担持物、第2担持物又は第3担持物に冷却あるいは加熱に弱い化合物を使用する場合、その化合物に適した温度で行うことが好ましい。静置温度としては、0℃~50℃、中でも室温~40℃が適している。
リン酸カルシウム過飽和溶液を静置する時間に限定はないが、長時間静置すると、リン酸カルシウム過飽和溶液中で粒子が成長し続けることがある。また、粒子濃度が上がることで、分散性が低下することがある。そのような場合には、静置時間を短く、例えば1分以上180分以下、さらには1分以上30分以下にすれば良い。静置後の粒子を直ちに使用しない場合には、粒子を洗浄して保存すればよい。
リン酸カルシウム過飽和溶液中のカルシウムイオンやリン酸イオン、第1担持物、第2担持物、第3担持物の好ましい濃度範囲は、それらの種類、ならびに、過飽和溶液を静置する際の温度や時間により異なる。ただし、カルシウムイオンやリン酸イオンの濃度が低すぎると、ナノ粒子の収率が下がる。一方これらのイオン濃度が高すぎると、分散性ナノ粒子が得られにくくなる。また、第2担持物の濃度が低すぎても、粒子に含まれる分散剤が少なくなり、粒子の分散性を維持できなくなる。
(実施例1)
フェルカルボトランとヘパリン、あるいは、フェルカルボトランとATPを含む分散性リン酸カルシウムナノ粒子を検討した。
第1担持物としてフェルカルボトランを、第2担持物としてヘパリンあるいはATPを用いることで、分散性リン酸カルシウムナノ粒子を作製できることを見出した。
[試料の作製]
第1担持物の原料液として、カルボキシデキストランに被覆された磁性酸化鉄ナノ粒子であり、MRI用造影剤であるフェルカルボトラン注射液(リゾビスト(登録商標)注(共和クリティケア株式会社))を用いた。また、第2担持物の原料液として、ヘパリンナトリウム注射液(ヘパリンNaロック用100単位/mLシリンジ「オーツカ」(大塚製薬株式会社))あるいはアデノシン三リン酸二ナトリウム注射液(ATP注20mg「イセイ」(コーアイセイ株式会社))を用いた。第1担持物、第2担持物の原料液、及び6種の医療用注射液から調製された3種の原料液(カルシウム含有液、リン酸含有液、pH調整剤)を混合し、リン酸カルシウム過飽和溶液(以後、反応液)を調製した(最終濃度として、Ca:3.68mM、P:1.83mM、Fe:0.25mM、他にNa、K、Clなどを含む)。カルシウム含有液は、リンゲル液「オーツカ」(大塚製薬株式会社)と塩化Ca補正液1mEq/mL(大塚製薬株式会社)を混合、リン酸含有液は、クリニザルツ(登録商標)輸液(共和クリティケア株式会社)とリン酸2カリウム注20mEqキット「テルモ」(テルモ株式会社)を混合、アルカリ化剤はメイロン(登録商標)静注7%(大塚製薬株式会社)と注射用水(扶桑薬品工業株式会社)の混合液)を混合することにより調製した。反応液は、37℃のインキュベーターで30分静置した。30分後、注射用水で析出物を洗浄し、遠心操作(6000rpm、5分)で試料を回収した。なお、以下、ヘパリンナトリウム注射液を添加して作製した試料をCaP-Fer-Hep、アデノシン三リン酸二ナトリウム注射液を添加して作製した試料をCaP-Fer-ATP、どちらも添加せずに作製した比較用の試料をCaP-Ferと記す。使用した医療用注射液及びその使用量(mL)を表1にまとめる。
Figure 0006998008000001
[試料の構造評価]
得られた試料について、その形態、構造、及び組成を、走査電子顕微鏡(SEM)観察、エネルギー分散型X線分光法(EDX)、高周波誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)、及びX線回折法(XRD)により調べた。SEM観察、EDX、及びXRDにおいては、試料をシリコン基板上で乾燥させた。また、SEM観察及びEDX実施前に、試料上に金を蒸着した。ICPにおいては、30mLの反応液から作製した試料を乾燥させ、6M塩酸で溶解させた後に超純水で10倍に希釈した溶液を測定に用いた。
[構造評価結果]
SEM観察の結果、生成した試料はいずれも一次粒子径100nm程度のナノ粒子であった(図1)。また、EDXによる元素分析により、いずれの粒子からも、C、O、Fe、P、Caのピークが検出されたことから(図2)、フェルカルボトランとリン酸カルシウムが共沈して複合粒子が生成したと考えられた。また、CaP-Fer-Hepでは、PとAuが連なるピークの右側の裾野のSのピーク位置にショルダーが観察された。これはSを含むヘパリンが粒子に取り込まれたためと考えられる。
ICPによる化学分析から算出したCa、P、Feの含有量によると、CaP-Fer-ATPでは他の2つの粒子(CaP-Fer、CaP-Fer-Hep)と比べて、Ca含有量が約2倍、P含有量が約3倍程度となった(図3上)。CaP-Fer-ATPには、他の2つの粒子よりも、リン酸カルシウムが多く含まれることが示唆された。一方で、これらの粒子のFe含有量に大きな違いはなかった(図3上)。また、CaP-Fer-ATPではCa/Pモル比ならびにFe/Pモル比が、他の2つの粒子(CaP-Fer、CaP-Fer-Hep)よりも明らかに低くなった(図3下)。CaP-Fer-ATPの粒子には、Pを含むATPが取り込まれたために、他の2つの粒子(CaP-Fer、CaP-Fer-Hep)よりもPの含有率が大きくなったものと考えられる。
CaP-Fer-HepのXRDパターンでは、フェルカルボトランに含まれる磁性酸化鉄であるマグヘマイトに帰属される回折ピークが検出された(図4)。一方で、結晶性のリン酸カルシウムの回折ピークは検出されなかった。また、30度付近を中心にベースラインが緩やかに盛り上がっており、アモルファス(非晶質)リン酸カルシウムの存在が示唆された。
[試料の分散性評価]
得られた試料を洗浄後に注射用水に分散させた。この分散液を静置し、静置後30分~180分に写真撮影をした。また、30分静置した溶液を超音波処理(1分)した後に、動的光散乱法(DLS)による粒子径分布測定、ならびに、電気泳動光散乱法(ELS)によるゼータ電位測定を行った。
[分散性評価結果]
CaP-Ferでは、30分以内に粒子の沈降が見られ、時間ともに沈降が進んだ(図5左)。一方で、CaP-Fer-HepならびにCaP-Fer-ATPでは、180分静置後にも沈降は認められず、良好な粒子分散性が示唆された(図5中、右)。
DLSによる粒子径分布測定(30分静置後)において、CaP-Ferは多分散となり信頼できる結果を得ることができなかった。他方で、CaP-Fer-HepならびにCaP-Fer-ATPでは、平均粒子径がそれぞれ300nmならびに410nmとなり、数百ナノメートルサイズの単分散粒子として存在することが確認された(図6)。また、粒子のゼータ電位は、分散剤を使用しないCaP-Ferでは2mVであったのに対し、ヘパリンを使用したCaP-Fer-Hepでは-15mV、ATPを使用したCaP-Fer-ATPでは-13mVと、比較的大きな負の値になった(図6下)。CaP-Fer-Hepではヘパリンのスルホ基、及びカルボキシル基が、CaP-Fer-ATPではATPのリン酸基が、粒子表面で負電荷を有する状態で存在することで、同粒子に大きな負のゼータ電位を与えたと考えられる。一般に、ゼータ電位の絶対値の小さい粒子は凝集しやすく、ゼータ電位の絶対値の大きい粒子ほど、相互反発により高い分散性を持つ。良好な分散性を保持するためには10mV(絶対値)以上のゼータ電位が必要であるところ、CaP-Fer-HepならびにCaP-Fer-ATPでは、これを上回っている。このような比較的大きな負のゼータ電位による粒子相互の反発により、長い時間単分散状態を維持できたと考えられる。
以上より、フェルカルボトランと、リン酸カルシウムを共沈させる際、分散剤としてヘパリンやATPを添加することにより、分散性ナノ粒子を作製できることが明らかとなった。
[試料の細胞評価(細胞取込率と細胞毒性)]
貪食性のマウスマクロファージ様細胞(RAW264.7)ならびに非貪食性のヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を、6ウェルプレートに播種し、それぞれ37℃で培養した。24時間培養後、培地を取り除き、CaP-Fer-Hepあるいはフェルカルボトランを異なる3種の濃度(グループH(高濃度)、M(中濃度)、L(低濃度))で添加した培地を新たに与えた。培地中のFe濃度は、グループH、M、Lでそれぞれ0.50μM~0.57μM、0.25μM~0.27μM、0.13μM~0.15μMの範囲であった。培地交換後、さらに24時間培養し、細胞をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄後、細胞溶解剤を各ウェルに添加して細胞を溶解させた。この細胞溶解液中のFeの量をICPで測定し、細胞に与えた培地に添加した全Feの量で割った値を細胞への取込率として定義した。
細胞毒性は、ブラッドフォード法によるタンパク質アッセイにより評価した。上記と同様の手順で得られた細胞溶解液を遠心し、その上澄みを96ウェルプレートに入れ、そこにブラッドフォート試薬を加え、10分間室温でインキュベーションした後に、プレートリーダーで595nmの吸光度を読み取った。あらかじめセルカウンターで細胞数を計数したサンプルについても同様の処理を行い、細胞数と吸光度の相関をプロットした検量線を作成した。この検量線を用いて、それぞれのウェル中の細胞数を求めた。グループH、M、Lとポジティブコントロール(PC)を比較した。
[細胞評価結果(細胞取込率と細胞毒性)]
CaP-Fer-HepのRAW264.7への取込率は、フェルカルボトランと比べて約2~3倍高くなった(図7)。これはCaP-Fer-Hepとフェルカルボトランのサイズの違い(CaP-Fer-Hep:300nm、フェルカルボトラン:57-59nm)や表面構造の違い(CaP-Fer-Hep:ヘパリンなどで被覆、フェルカルボトラン:カルボキシデキストランで被覆)によるものと考えられる。また、CaP-Fer-Hepは、貪食性のRAW264.7には高い比率で取込まれたものの、非貪食性のHUVECにはほとんど取込まれなかった(図7)。すなわち、CaP-Fer-Hepは貪食性であるマクロファージへの取込に適していることが示唆された。なお、非貪食性のHUVECには、フェルカルボトランもほとんど取込まれなかった(グループHで1.2%)。
CaP-Fer-Hepの細胞毒性試験において、タンパク質アッセイにより算出された細胞数は、PCと比較して、どのグループ(グループH、M、L)でも有意な違いはなかったことから(図8)、CaP-Fer-Hepは今回使用した濃度・試験条件において細胞毒性のないことが示された。
CaP-Fer-HepはMRI用造影剤であるフェルカルボトランを有し、マクロファージへの取込率が高く、細胞毒性も確認されなかったことから、マクロファージの関連する疾患のイメージングへの応用が期待される。
(実施例2)
無機ナノ粒子(第1担持物)の濃度の変化について、フェルカルボトランとヘパリンを含む分散性リン酸カルシウムナノ粒子を用いて検討した。
[試料の作製]
第1担持物の原料液として、フェルカルボトラン注射液(リゾビスト(登録商標)注(共和クリティケア株式会社))を用いた。また、第2担持物の原料液として、ヘパリンナトリウム注射液(ヘパリンNaロック用100単位/mLシリンジ「オーツカ」(大塚製薬株式会社))を用いた。第1担持物、第2担持物の原料液、ならびに、カルシウム含有液、リン酸含有液、pH調整剤を混合し、実施例1と同様にして反応液を調製した(最終濃度として、Ca:3.68mM、P:1.83mM、他にNa、K、Clなどを含む)。その際、反応液中のフェルカルボトラン濃度(反応液中のFe濃度として、0.25mM、0.50mM、0.75mM、1.25mM)を変化させた4種類の反応液を準備した。これらの反応液を、37℃のインキュベーターで30分静置した。30分後、注射用水で析出物を洗浄し、遠心操作(6000rpm、5分)で試料を回収した。なお、作製された試料は、フェルカルボトラン濃度の低い方から、CaP-Fer(1)-Hep(実施例1のCaP-Fer-Hepと同じ)、CaP-Fer(2)-Hep、CaP-Fer(3)-Hep、CaP-Fer(4)-Hepと記す。なお、使用した医療用注射液とその使用量(mL)を表2にまとめる。
Figure 0006998008000002
[試料の構造評価]
得られた試料について、その形態、構造、及び組成を、SEM観察、EDX、ICPにより調べた。SEM観察及びEDXにおいては、試料をシリコン基板上で乾燥させ、実施前に試料上に金を蒸着した。ICPにおいては、30mLの反応液から作製した試料を乾燥させ、6M塩酸で溶解させた後に超純水で10倍に希釈した溶液を測定に用いた。
[構造評価結果]
SEM観察の結果、生成した試料の一次粒子径は、反応液中のフェルカルボトラン濃度が高くなるにつれて小さくなった(図9)。また、EDXによる元素分析により、いずれの粒子からも、C、O、Fe、P、Caのピークが検出され(図10)、反応液中のフェルカルボトラン濃度に関わらず、フェルカルボトランとリン酸カルシウムが共沈して複合粒子が生成したことが示された。一方で、反応液中のフェルカルボトラン濃度が高くなるにつれて、C、O、Feのピークが大きくなっており(図10)、生成した粒子に含まれるフェルカルボトラン量も増加したと考えられた。このことは、ICPによる化学分析から算出したFe/Caモル比ならびにFe/Pモル比でも明らかで、反応液中のフェルカルボトラン濃度が高くなるにつれて、Fe/Caモル比ならびにFe/Pモル比はともに増加した(図11)。これらの結果より、粒子中のFe含有量は、反応液に含まれるフェルカルボトランの濃度により、ある程度制御できるといえる。
[試料の分散性評価]
得られた試料を洗浄後に注射用水に分散させた。180分静置した溶液を超音波処理(1分)した後に、動的光散乱法(DLS)による粒子径分布測定、ならびに、電気泳動光散乱法(ELS)によるゼータ電位測定を行った。
[分散性評価結果]
DLSによる粒子径分布測定(180分静置後)によると、反応液中のフェルカルボトラン濃度が高くなるにつれて粒子の平均粒子径が小さくなったが、百ナノメートルサイズ~数百ナノメートルサイズの単分散粒子として存在することが確認された(図12)。また、粒子のゼータ電位は、反応液中のフェルカルボトラン濃度に関わらず、-14mV~-13mVと、比較的大きな負の値になった。実施例1と同様に、ヘパリンのスルホ基、及びカルボキシル基が粒子表面で負電荷を有する状態で存在することで、同粒子に大きな負のゼータ電位を与えたと考えられる。比較的大きな負のゼータ電位による粒子相互の反発により、粒子は長い時間単分散状態を維持できたと考えられる。
[動物への静脈注射]
マウス頚動脈結紮モデルにCaP-Fer(3)-Hepを静脈注射し、24時間後に安楽死させ、肝臓ならびに頚動脈(結紮部分)を摘出した。肝臓ならびに頚動脈の組織切片を作製し、鉄を染色するプルシアンブルーによる染色を行った結果、それぞれの組織に青い箇所が観察された。これは、CaP-Fer(3)-Hepが各組織に取り込まれ、CaP-Fer(3)-Hepに含まれるフェルカルボトランが染色により青色を呈したためと考えられた。以上より、静脈注射により生体内に投与された本粒子は血管を介して目的臓器に到達可能であることが示された。
(実施例3)
フェルカルボトランとDNAを含む分散性リン酸カルシウムナノ粒子について検討した。
第1担持物としてフェルカルボトランを、第2担持物としてDNA(ルシフェラーゼの相補的遺伝子を含むプラスミド)を用いることで、分散性リン酸カルシウムナノ粒子を作製できることを見出した。
[試料の作製]
第1担持物の原料液として、フェルカルボトラン注射液(リゾビスト(登録商標)注(共和クリティケア株式会社))を用いた。また、第2担持物の原料液として、DNA(ルシフェラーゼ遺伝子)溶液を用いた。第1担持物、第2担持物の原料液、ならびに、カルシウム含有液、リン酸含有液、pH調整剤を混合し、実施例1と同様にして反応液を調製した(最終濃度として、Ca:5.15mM、P:2.57mM、DNA:40μg/mL、他にNa、K、Clなどを含む)。その際、反応液中のフェルカルボトラン濃度(反応液中のFe濃度として、0μg/mL、6.97μg/mL、13.94μg/mL、27.87μg/mL、55.74μg/mL、139.35μg/mL)を変化させた6種類の反応液を準備した。これらの反応液を、25℃のインキュベーターで30分静置した。なお、作製された試料は、フェルカルボトラン濃度の低い方から、CaP-Fer(0)-DNA(フェルカルボトランを含まない)、CaP-Fer(1)-DNA、CaP-Fer(2)-DNA、CaP-Fer(3)-DNA、CaP-Fer(4)-DNA、CaP-Fer(5)-DNAと記す。なお、使用した医療用注射液とその使用量(mL)を表3にまとめる。
Figure 0006998008000003
[試料の構造評価]
得られた試料について、その形態、構造、及び組成を、SEM観察、EDX、ICP、透過電子顕微鏡(TEM)観察、高角度環状暗視野走査透過電子顕微鏡(HAADF-STEM)観察、及び透過電子回折法(TED)により調べた。SEM観察及びEDXにおいては、試料を洗浄し、シリコン基板上で乾燥させた後、試料上に炭素を蒸着した。TEM観察においては、試料を洗浄した後に凍結乾燥させてから観察に用いた。ICPにおいては、1mLの反応液から作製した試料を乾燥させ、6M塩酸で溶解させた後に超純水で10倍に希釈した溶液を測定に用いた。DNA担持効率の算出においては、まず、30分後の反応液を遠心し、上澄みに含まれるDNA量を測定した。反応液中に添加したDNA量と上澄みに含まれるDNA量の差を試料に担持されたDNA量とし、その値を反応液中に添加したDNA量で割った値をDNA担持効率とした。
[構造評価結果]
SEM観察の結果、生成した試料はいずれも一次粒子径200nm程度のナノ粒子であった(図13)。EDXスペクトルによると、本粒子には、Ca、Pならびに様々な量のFeが含まれていることがわかった(図14左)。また、反応液に含まれるフェルカルボトラン濃度(Fe濃度に比例)が高くなるほど、粒子のFe/Caモル比が大きくなった(図14右)。ICPにより算出したFe含有量も、反応液に含まれるフェルカルボトラン濃度が高くなるほど大きくなったことから、実施例2でも示したように、粒子中のFe含有量は反応液に含まれるフェルカルボトランの濃度により、ある程度制御できるといえる。
DNA担持効率は、CaP-Fer(0)-DNA、CaP-Fer(1)-DNA、CaP-Fer(2)-DNA、CaP-Fer(3)-DNAでは同程度となり、CaP-Fer(4)-DNA、CaP-Fer(5)-DNAでは低下する傾向にあった(図15)。反応液中のフェルカルボトラン量の増加により、DNAが担持されにくくなったためと考えられる。
CaP-Fer(3)-DNAでは、TEM像に黒いドット、HAADF-STEM像に明るいドットが見られ、フェルカルボトランのコア粒子と考えられるシングルナノサイズの粒子が点在している様子が観察された(図16左上、中上)。また、EDXによる元素マッピング像でも、Ca、Pが全体的に分布しているのに対して、Feは点在しており、Ca、Pを含むリン酸カルシウムのマトリックスにFeを含むフェルカルボトランが点在していることが示唆された(図16下)。TEDでは、フェルカルボトランに含まれるコア粒子である磁性酸化鉄-マグヘマイト-の回折パターンが観察された(図16右上)。また、ハイドロキシアパタイトなどの結晶性リン酸カルシウムに帰属される回折ピークは観察されなかったことから、リン酸カルシウムはアモルファス構造を持つと考えられた。
[試料の分散性評価]
静置30分後の反応液をそのまま洗浄せずに用いて、動的光散乱法(DLS)による粒子径分布測定、ならびに、電気泳動光散乱法(ELS)によるゼータ電位測定を行った。
[分散性評価結果]
DLSによる粒子径分布測定において、CaP-Fer(0)-DNAならびにCaP-Fer(3)-DNAでは、平均粒子系が270nmならびに310nmとなり、フェルカルボトランを含まないCaP-Fer(0)-DNAのみならず、フェルカルボトランを含むCaP-Fer(3)-DNAにおいても良好な粒子分散性が示された(図17)。また、他の粒子の平均粒子系も300nm前後となった。
粒子のゼータ電位は、CaP-Fer(0)-DNAでは-23mV、CaP-Fer(3)-DNAでは-20mVと大きな負の値となった。また、反応液に含まれるフェルカルボトラン濃度が高くなるほど、ゼータ電位の絶対値は小さくなったが、一番小さいCaP-Fer(5)-DNAでも-14mVと比較的大きな負の値となった。DNAのリン酸基が粒子表面で負電荷を有する状態で存在し、粒子の分散性を向上させたと考えられる。
以上より、フェルカルボトランと、リン酸カルシウムを共沈させる際、分散剤としてDNAを添加することにより、分散性ナノ粒子を作製できることが明らかとなった。
[試料の細胞評価(遺伝子導入能と細胞毒性)]
磁石非存在下における試料(CaP-Fer(0)-DNA、CaP-Fer(1)-DNA、CaP-Fer(2)-DNA、CaP-Fer(3)-DNA、CaP-Fer(4)-DNA、CaP-Fer(5)-DNA)の遺伝子導入能の評価については、平坦なプレート上で培養した細胞を用いて行った。チャイニーズハムスター卵巣由来細胞(CHO-K1)を24ウェルプレートに播種し、それぞれ37℃で培養した。24時間培養後、30分静置後の反応液を各ウェルにそれぞれ添加した。さらに48時間培養し、細胞をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄後、細胞溶解剤を各ウェルに添加して細胞を溶解した。細胞溶解液を遠心し、その上澄みをルシフェラーゼアッセイに用いた。
細胞毒性は、MTTアッセイにより評価した。CHO-K1を96ウェルプレートに播種し、それぞれ37℃で培養した。24時間培養後、30分静置後の反応液を各ウェルにそれぞれ添加した。さらに48時間培養し、フェノールレッドフリーの培地に交換し、MTT溶液を加えた。2時間のインキュベーション後、一部の溶液を取り除き、ジメチルスルホキシドを添加して10分インキュベーションした後に、プレートリーダーで570nmの吸光度を読み取った。
磁石存在下における試料(CaP-Fer(0)-DNA、CaP-Fer(3)-DNA)の遺伝子導入能の評価については、チューブに立体的に形成した細胞のペレットを用いて行った(図18)。チューブにCHO-K1のペレットを形成し、30分静置後の反応液を各ウェルにそれぞれ添加した。1時間インキュベーション後、ピペッティングでペレットを分散させ、24ウェルプレートに播種した。47時間後、ルシフェラーゼ活性を上記と同様の手順で測定した。
[細胞評価結果(遺伝子導入能と細胞毒性)]
磁石非存在下における粒子の遺伝子導入能は、CaP-Fer(1)-DNA、CaP-Fer(2)-DNA、CaP-Fer(3)-DNAではCaP-Fer(0)-DNAと同程度となり、CaP-Fer(4)-DNA、CaP-Fer(5)-DNAでは低下する傾向にあった(図19)。これはDNAの担持効率(図15)と相関している。細胞毒性試験においては、どの粒子も有意な違いはなかったことから(図20)、今回使用した濃度・試験条件において細胞毒性のないことが示された。
磁石存在下における粒子の遺伝子導入能では、磁性粒子であるフェルカルボトランを含むCaP-Fer(3)-DNAが、含まないCaP-Fer(0)-DNAよりも1オーダー程度大きくなった(図21)。また、磁石存在下におけるCaP-Fer(3)-DNAの遺伝子導入能は、磁石非存在下におけるCaP-Fer(3)-DNAを上回り、磁石を用いた遺伝子導入(マグネトフェクション)におけるCaP-Fer(3)-DNAの有用性を示した(図21)。
[動物への動脈注射]
頭蓋骨に磁石を固定したマウス一過性脳虚血モデルに、CaP-Fer(3)-DNAを動脈注射し、48時間後に安楽死させ、脳組織を摘出した。脳組織の一部をホモジナイザーと細胞溶解液で溶解させ、得られた溶解液を遠心し、その上澄みをルシフェラーゼアッセイに用いた。その結果、磁石の力が強く及ぶと思われる箇所から採取した組織の方が、磁石の力がそれほど強くない思われる箇所から採取した組織より、ルシフェラーゼの発現が多く見られた。これは、CaP-Fer(3)-DNAが磁石の影響を受け、脳組織に取り込まれたためと考えられた。以上より、本粒子は動脈注射によっても生体内に投与可能であることに加え、磁気によって粒子の体内分布を制御できる(目的の場所に局在化できる)可能性が示された。
(実施例4)
フェルカルボトランとマイクロRNAを含む分散性リン酸カルシウムナノ粒子を検討した。
第1担持物としてフェルカルボトランを、第2担持物としてマイクロRNA(23塩基)を用いることで、分散性リン酸カルシウムナノ粒子を作製できることを見出した。
[試料の作製]
第1担持物の原料液として、フェルカルボトラン注射液(リゾビスト(登録商標)注(共和クリティケア株式会社))を用いた。また、第2担持物の原料液として、マイクロRNA溶液を用いた。第1担持物、第2担持物の原料液、ならびに、カルシウム含有液、リン酸含有液、pH調整剤を混合し、実施例1と同様にして反応液を調製した(最終濃度として、Ca:5.15mM、P:2.57mM、Fe:2.5mM、他にNa、K、Clなどを含む)。その際、反応液3mL中のマイクロRNAの含有量(0μg、40μg、80μg、120μg)を変化させた4種類の反応液を準備した。これらの反応液を、25℃のインキュベーターで30分静置した。なお、作製された試料は、マイクロRNAの含有量の少ない方から、CaP-Fer-miRNA(1)(マイクロRNAを含まない)、CaP-Fer-miRNA(2)、CaP-Fer-miRNA(3)、CaP-Fer-miRNA(4)と記す。なお、使用した医療用注射液及びその使用量(mL)を表4にまとめる。
Figure 0006998008000004
[試料の構造評価]
得られた試料について、その形態、構造、及び組成を、SEM観察、ICPにより調べた。SEM観察においては、試料をシリコン基板上で乾燥させ、実施前に試料上に金を蒸着した。ICPにおいては、3mLの反応液から作製した試料を乾燥させ、6M塩酸で溶解させた後に超純水で10倍に希釈した溶液を測定に用いた。マイクロRNA担持効率の算出においては、まず、30分後の反応液を遠心し、上澄みに含まれるマイクロRNA量を測定した。反応液中に添加したマイクロRNA量と上澄みに含まれるマイクロRNA量の差を試料に担持されたマイクロRNA量とし、その値を反応液中に添加したDNA量で割った値をDNA担持効率とした。
[構造評価結果]
SEM観察の結果、生成した試料はいずれも一次粒子径80nm程度のナノ粒子であった(図22)。ICPによる化学分析から算出したCa/Pモル比ならびにCa/Feモル比もほぼ同じであった(図23上)。他方で、反応液中のマイクロRNAの含有量が多いほど、粒子へのマイクロRNAならびにフェルカルボトラン担持効率は低下した(図23下)。また、マイクロRNAの粒子への担持量はCaP-Fer-miRNA(2) < CaP-Fer-miRNA(3) ≒ CaP-Fer-miRNA(4)であった。すなわち、マイクロRNAの担持量が増加するにつれて、フェルカルボトラン担持効率(フェルカルボトラン担持量と比例)が低下する傾向が見られた。
[試料の分散性評価]
得られた試料を洗浄後に注射用水に分散させた。60分以上静置した溶液を超音波処理(1分)した後に、動的光散乱法(DLS)による粒子径分布測定、ならびに、電気泳動光散乱法(ELS)によるゼータ電位測定を行った。
[分散性評価結果]
DLSによる粒子径分布測定において、CaP-Fer-miRNA(1)は多分散となった。一方で、CaP-Fer-miRNA(2)、CaP-Fer-miRNA(3)、CaP-Fer-miRNA(4)では、平均粒子径がいずれも90nm~100nmとなり、百ナノメートルサイズの単分散粒子として存在することが確認された(図24)。また、粒子のゼータ電位は、反応液中のマイクロRNA濃度に関わらず、-14mV~-13mVと、比較的大きな負の値になった。実施例3のDNAと同様に、マイクロRNAに含まれるリン酸基が粒子表面で負電荷を有する状態で存在し、粒子の分散性を向上させたと考えられる。
(実施例5)
タンパク質(第3担持物)の担持に関し、フェルカルボトランとヘパリンとタンパク質を含む分散性リン酸カルシウムナノ粒子を検討した。
第1担持物としてフェルカルボトランを、第2担持物としてヘパリンを、第3担持物としてタンパク質(塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF))を用いることで、分散性リン酸カルシウムナノ粒子を作製できることを見出した。
[試料の作製]
第1担持物の原料液として、フェルカルボトラン注射液(リゾビスト(登録商標)注(共和クリティケア株式会社))を用いた。また、第2担持物の原料液として、ヘパリンナトリウム注射液(ヘパリンNaロック用100単位/mLシリンジ「オーツカ」(大塚製薬株式会社))を用いた。第3担持物としては、ヒト由来のbFGFゲノム遺伝子の発現により組換え体で産生されるタンパク質であるトラフェルミン(フィブラストスプレー500(科研製薬株式会社))を生理食塩水(大塚生食注(大塚製薬株式会社))に溶解させた溶液を用いた。第1担持物、第2担持物の原料液、第3担持物の溶解液、ならびに、カルシウム含有液、リン酸含有液、pH調整剤を混合し、実施例1と同様にして反応液を調製した(最終濃度として、Ca:5.15mM、P:2.57mM、Fe:0.25mM、bFGF:4μg/mL、他にNa、K、Clなどを含む)。これらの反応液を、37℃のインキュベーターで30分静置した。30分後、注射用水で析出物を洗浄し、遠心操作(8000rpm、5分)で試料を回収した。なお、得られた試料をCaP-Fer-Hep-bFGFと記す。使用した医療用注射液及びその使用量(mL)を表5にまとめる。
Figure 0006998008000005
[試料の構造評価・分散性評価]
得られた試料について、その形態をSEM観察により調べた。SEM観察においては、試料をシリコン基板上で乾燥させ、実施前に試料上に金を蒸着した。また、得られた試料を洗浄後に注射用水に分散させた。この分散液を静置し、静置後30分に写真撮影をした。また、この溶液を超音波処理(1分)した後に、動的光散乱法(DLS)による粒子径分布測定、ならびに、電気泳動光散乱法(ELS)によるゼータ電位測定を行った。
[構造評価・分散性評価結果]
SEM観察の結果、生成した試料は一次粒子径150nm程度のナノ粒子であった(図25)。分散液では、30分静置後にも沈降は認められず、良好な粒子分散性が示唆された(図26左)。DLSによる粒子径分布測定において、CaP-Fer-Hep-bFGFは平均粒子径が230nmとなり、数百ナノメートルサイズの単分散粒子として存在することが確認された(図26右)。また、粒子のゼータ電位は、-18mVと、比較的大きな負の値になった。bFGFの存在下でも、ヘパリンのスルホ基、及びカルボキシル基が、粒子表面で負電荷を有する状態で存在することで、同粒子に大きな負のゼータ電位を与えたと考えられる。比較的大きな負のゼータ電位による粒子相互の反発により、粒子は単分散状態を維持できたと考えられる。

Claims (18)

  1. リン酸カルシウムと、第1担持物と、第2担持物と、を含み、
    前記第1担持物が有機物に被覆された無機ナノ粒子であり、
    前記第2担持物が分散剤である、分散性リン酸カルシウムナノ粒子であって、
    前記第1担持物と、第2担持物とは、前記分散性リン酸カルシウムナノ粒子の表面及び内部に担持される、
    分散性リン酸カルシウムナノ粒子。
  2. 前記無機ナノ粒子が磁性酸化鉄ナノ粒子、金ナノ粒子、メソポーラスシリカナノ粒子、希土類含有無機ナノ粒子、銀ナノ粒子又はホウ素含有無機ナノ粒子である、
    請求項1に記載の分散性リン酸カルシウムナノ粒子。
  3. 第3担持物をさらに含み、
    前記第3担持物が薬剤であり、
    前記第3担持物は、前記分散性リン酸カルシウムナノ粒子の表面及び内部に担持される、
    請求項1に記載の分散性リン酸カルシウムナノ粒子。
  4. 前記有機物が、カルボキシデキストラン、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール誘導体、ポリヒドロキシエチルメタクリレート又は2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマーである、
    請求項1に記載の分散性リン酸カルシウムナノ粒子。
  5. 前記分散剤が、核酸、ヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、糖鎖、抗体、酵素又は補酵素である、
    請求項1に記載の分散性リン酸カルシウムナノ粒子。
  6. 前記リン酸カルシウムが非晶質リン酸カルシウムである、
    請求項1に記載の分散性リン酸カルシウムナノ粒子。
  7. 前記第1担持物として無機ナノ粒子薬剤と、前記第2担持物として有機分子薬剤を含む請求項1に記載の分散性リン酸カルシウムナノ粒子。
  8. 前記無機ナノ粒子が磁性酸化鉄薬剤である請求項1に記載の分散性リン酸カルシウムナノ粒子。
  9. 前記分散性リン酸カルシウムナノ粒子の、ゼータ電位の絶対値が10mV以上である、
    請求項1に記載の分散性リン酸カルシウムナノ粒子。
  10. 第1担持物と第2担持物とカルシウム含有液とリン酸含有液とを混合して過飽和溶液を調製し、
    前記混合後に、前記過飽和溶液を撹拌し、
    前記撹拌後に過飽和溶液を一定時間静置することを含み、
    前記第1担持物が無機ナノ粒子であり、
    前記第2担持物が分散剤である、
    分散性リン酸カルシウムナノ粒子の製造方法。
  11. 請求項1~9のいずれか一項に記載の分散性リン酸カルシウムナノ粒子を含む医薬品。
  12. 請求項1~9のいずれか一項に記載の分散性リン酸カルシウムナノ粒子を製造する作製キット医薬品。
  13. カルシウム含有液と、リン酸含有液と、第1担持物原料液と、第2担持物原料液と、を含み、
    前記第1担持物が有機物に被覆された無機ナノ粒子であり、
    前記第2担持物が分散剤である、
    分散性リン酸カルシウムナノ粒子作製キット医薬品。
  14. 前記無機ナノ粒子が磁性酸化鉄ナノ粒子、金ナノ粒子、メソポーラスシリカナノ粒子、希土類含有無機ナノ粒子、銀ナノ粒子又はホウ素含有無機ナノ粒子である、
    請求項13に記載の分散性リン酸カルシウムナノ粒子作製キット医薬品。
  15. 第3担持物原料液をさらに含み、
    前記第3担持物が薬剤である、
    請求項13に記載の分散性リン酸カルシウムナノ粒子作製キット医薬品。
  16. 前記有機物が、カルボキシデキストラン、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール誘導体、ポリヒドロキシエチルメタクリレート又は2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマーである、
    請求項13に記載の分散性リン酸カルシウムナノ粒子作製キット医薬品。
  17. 前記分散剤が、核酸、ヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、糖鎖、抗体、酵素又は補酵素である、
    請求項13に記載の分散性リン酸カルシウムナノ粒子作製キット医薬品。
  18. 前記無機ナノ粒子が磁性酸化鉄薬剤である請求項13に記載の分散性リン酸カルシウムナノ粒子作製キット医薬品。
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