JP6989918B1 - 植物の耐病性の向上方法 - Google Patents

植物の耐病性の向上方法 Download PDF

Info

Publication number
JP6989918B1
JP6989918B1 JP2021144722A JP2021144722A JP6989918B1 JP 6989918 B1 JP6989918 B1 JP 6989918B1 JP 2021144722 A JP2021144722 A JP 2021144722A JP 2021144722 A JP2021144722 A JP 2021144722A JP 6989918 B1 JP6989918 B1 JP 6989918B1
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
plant
disease
resistance
disease resistance
gene
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2021144722A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2023001843A (ja
Inventor
節三 田中
直喜 光畑
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
FREEZE-THAW AWAKENING TECHNOLOGY CO., LTD.
Original Assignee
FREEZE-THAW AWAKENING TECHNOLOGY CO., LTD.
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by FREEZE-THAW AWAKENING TECHNOLOGY CO., LTD. filed Critical FREEZE-THAW AWAKENING TECHNOLOGY CO., LTD.
Application granted granted Critical
Publication of JP6989918B1 publication Critical patent/JP6989918B1/ja
Publication of JP2023001843A publication Critical patent/JP2023001843A/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Landscapes

  • Breeding Of Plants And Reproduction By Means Of Culturing (AREA)

Abstract

【課題】遺伝子組み換えや農薬を使用せずに、植物の耐病性を向上させる新規の技術を提供することを課題とする。【解決手段】 植物組織を凍結する凍結工程を含む、対象植物の耐病性を向上する方法であって、前記凍結工程における凍結時最低温度は-20℃以下であり、前記凍結工程における温度降下の速度は0.8℃/日以下であり、前記凍結工程の期間は100日以上であり、前記耐病性が、べと病に対する耐性、鞭毛を有する細菌を病原とする病害への耐性、シュードモナス・シリンガエ感染症への耐性及びさび病耐性から選ばれる1種又は2種以上の耐病性であり、以下の(A)又は(B)に従って行われることを特徴とする、植物の耐病性の向上方法。(A)耐病性を向上させたい前記対象植物の植物組織を前記凍結工程に供することで、該対象植物の前記耐病性を向上する。(B)前記対象植物とは別の植物組織を前記凍結工程に供し、該別の植物組織より得た抽出液に、耐病性を向上させたい前記対象植物を接触させることで、該対象植物の前記耐病性を向上する。【選択図】なし

Description

本発明は、遺伝子操作によらずに植物の耐病性を向上する方法に関する。
人類は古来より品種改良手法により有利な性質を有する植物を作出してきた。従来の品種改良法は一定の特性を固定するために長い年月を要するものであったが、世代促進技術の登場により、固定に要する時間を短縮することが可能となっている。しかし、世代促進技術によっても固定には数年を要するという問題があった。そこで、固定の作業を必要としない葯培養などのバイオテクノロジーが開発されている。
また、有利な特性を有する植物を作出する方法として、遺伝子組み換え技術が知られている。遺伝子組み換え技術により、除草剤耐性作物、害虫抵抗性作物、耐病性作物、保存性を増大させた作物が作出されている。
一方、ある特定の処理を施すことで突然変異を誘発し、植物の特性を増強する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、ガンマ線照射と染色体倍加処理を行なう工程を含む耐寒性を付与する品種改良方法が開示されている。
また、遺伝子配列に変更を加えることなく、植物の特性を制御する方法が考案されている。例えば、特許文献2には、植物の栄養成長期において、栽培環境中に起因する塩類ストレス、寡照ストレス、強光ストレス、乾燥ストレス、過湿ストレス、高温ストレス、低温ストレス、栄養ストレス、重金属ストレス、病害ストレス、酸素欠乏ストレス、オゾンストレス、COストレス、強風ストレスなどのストレス処理をかけることで、植物の次世代における開花時期を制御する方法が開示されている。
ところで、日本のほとんどの地域は温帯に属し、北海道や東北地方は亜寒帯(冷帯)に属する。そのため、亜熱帯~熱帯地域で栽培されているような日本の気候での栽培に適していない作物については、輸入に頼っている状況にある。
この問題を解決する画期的な技術として「凍結解凍覚醒法」と呼ばれる技術(特許文献3)及びその改良技術である「酵素液法」と呼ばれる技術(特許文献4及び5)が本発明者によって開発され、これまでに非常に優れた多数の実績をあげている。例えば、凍結解凍覚醒法を適用して国産無農薬バナナが生産されており、岡山県産のものは「もんげーばなな」(登録商標)、「田中節三バナナ」(登録商標)、千葉県産のものは「奇跡のバナナ」(登録商標)という名称で販売されている。また、酵素液法を適用して小麦や米などの穀物が生産されている。
凍結解凍覚醒法は、凍結して解凍した植物組織を栽培することにより、その植物の特性を増強させる方法である。また、酵素液法は凍結した植物組織から得た抽出液に他の植物組織を接触させることによって、植物の特性を増強させる方法である。すなわち、酵素液法は、凍結解凍覚醒法を経た植物又はその植物組織の抽出液に植物組織を接触(浸漬又は散布)させることで、凍結解凍覚醒法によって増強された植物特性を接触した植物組織に伝搬させる方法といえる。実際に凍結解凍覚醒法と酵素液法で増強することができる植物特性は共通しており、具体的には、成長速度、耐寒性、耐暑性、高地順応特性及び低地順応特性などの環境順応特性、果実や種子の量や大きさ、甘味度、耐病害虫性、耐乾燥性などを増強することができる。また、凍結解凍覚醒法と酵素液法は一定の科、属、種の植物に限定されず、全ての植物に適用可能である。さらに遺伝子発現解析の結果、凍結解凍覚醒法と酵素液法の適用によって変動する遺伝子発現プロファイルは、植物種を問わず、非常に類似していることが確認されている。
特開2006-25632号公報 特開2016-182094号公報 特開2018-183112号公報 特許6830591号公報 特許6864304号公報
農作物の栽培において細菌等を病原体とする感染症は深刻な問題である。
植物の病害として例えばべと病(Dawny mildew)が知られている。べと病はべと病菌によって起こる病害であり、ツユカビ科の数種の属の糸状菌(かび)によって発生する伝染性(空気および水媒伝染)の病気である。これらの属はそれぞれいくつかの種を含んでいるが、わが国で農作物に被害をもたらす代表的な属はプシュウドペロノスポラ(Pseudoperonospora)、ペロノスポラ(Peronospora)、プラズモパラ(Plasmopara)、ブレミア(Bremia)の4属である。
野菜類によってべと病の病徴は多少異なるが、一般的には葉に輪郭が不鮮明で退緑色の斑紋を形成し、次第にこれが拡大して多角形で灰白色病斑となり、新生病斑や多湿環境下では病斑裏面には灰白色霜状のかびを生ずる。後にこれは黒色~紫黒色の不整形斑となる。
べと病菌の分生子発芽法には2種類があり、すなわち、ウリ科野菜類の分生子発芽は遊走子発芽、他の野菜類の分生子発芽は直接発芽の菌糸発芽である。前者の遊走子は気孔感染、後者の菌糸発芽は気孔と角皮感染である。分生子の発芽適温は概ね10℃前後、発病適温は(病徴発現温度)13~20℃と比較的低い。そのため、盛夏の時期の発生は少ない。宿主に侵入した病原菌は細胞内に吸器を作り養分吸収を行う。不良環境下や病徴の末期には、組織内に耐久器官である卵胞子を形成し、これが第一次伝染の役目を果たす。ホウレンソウべと病では卵胞子が種子伝染としての主要な役目を果たして伝染や発生に関与している。分生子の形成は温度、湿度、光線などの発病環境や宿主の新鮮度などに影響されるが、これらの条件が整うと繰り返し分生子が形成されて伝染、まん延を起こす。
べと病に対する農薬としては、シグナムWDG(ピラクロストロビン・ボスカリド水和剤)、ジマンダイセン水和剤(マンゼブ水和剤)、ストロビーフロアブル(クレソキシムメチル水和剤)、ダコニール1000(TPN水和剤)、ホライズンドライフロアブル(シモキサニル・ファモキサドン水和剤)、ライメイフロアブル(アミスルブロム水和剤)などが知られている。
また、農作物の病害としてさび病菌を病原とするさび病(Rust)が知られている。さび病菌で起こる病害は、糸状菌(かび)が原因で発生する空気及び水媒伝染性の病害である。野菜類に発生する言葉上でのさび病には白さび病とさび病がある。それらの病原菌である白さび病菌は分類上さび病菌とは異なり、前者は属でAlbugo(アルブゴ)属菌であり、後者はPuccinia(プクシニア)属菌である。さび病菌は絶対寄生菌で、生きた野菜の細胞に限って生活することができる、つまり人工培養ができない糸状菌である。
病斑は紡錘形あるいは楕円形で橙黄色のやや隆起した小形の斑点を生じ、表皮が破れて鐙黄色粉状の夏胞子を飛散する。晩秋には橙黄色病斑に接して黒褐色の斑点(冬胞子層)を形成する。発病が激しい時に葉が汚白色に変色してやがて枯死する。さび病は、春季から秋季まで発生するが、夏季は一時終息する。普通は4、5月および9、10月頃に発生が多い。被害植物上で冬胞子や夏胞子の形で越年し、翌春夏胞子を飛散して伝染する。春季に多発し、夏季が低温多雨の場合には秋季の発生が助長される。密植栽培で風とおしが悪く、多湿環境下では発病と伝染が盛んに行われる。
さび病に対する農薬としては、アミスター20フロアブル(アゾキシストロビン水和剤)、シグナムWDG(ピラクロストロビン・ボスカリド水和剤)、ジマンダイセン水和剤(マンゼブ水和剤)、ストロビーフロアブル(クレソキシムメチル水和剤)、トリフミン水和剤(トリフルミゾール水和剤)、ベルクート水和剤(イミノクタジンアルベシル酸塩水和剤)、などがある。
植物の病原菌としてシュードモナス・シリンガエ(Pseudomonas syringae)が知られている。シュードモナス(Pseudomonas)は、グラム陰性で好気性のガンマプロテオ細菌の属であり、シュードモナス科(Pseudomonadaceae)に属する。その属は、191の分類学的に認められた種を含み、そのうちの多くは、植物病原体である。シュードモナス属(Pseudomonas spp.)の中でも、シュードモナス・シリンガエ(P.syringae)は、繁殖力の強い植物病原体であり、50種を超える異なる病原型(pv.)として存在し、それらの多くは、高度の宿主植物特異性を示す。多くの他のシュードモナス(Pseudomonas)種も植物病原体として作用し得、他のメンバーの中でもとりわけシュードモナス・シリンガエ(P.syringae)亜群がある。例えば、シュードモナス・シリンガエ(P.syringae)病原型によって起きる商業的に重要な病気としては、石果の細菌性イモチ病、トマトの細菌性斑点病およびエンドウマメの胴枯れ病が挙げられる。また、シュードモナス・シリンガエへの感染により免疫が低下することで多様な植物種にさび病等などの損害を与えることも広く知られている。
シュードモナス・シリンガエに対する薬剤としては、例えばアシベンゾラル-S-メチル(Actigard/Bion、Syngenta)ならびに抗生物質、例えば硫酸ストレプトマイシンおよびカスガマイシンなどが知られている。
その他、菌又は真菌を病原とする植物病害として、いもち病、うどんこ病、から枯病、から黒穂病、こうじ病、ごま葉枯病、さや枯病、しみ腐病、すそ葉枯病、てんぐ巣病、なまぐさ黒穂病、ねむり病、ひょう紋病、もみ枯細菌病、萎黄病、萎凋病、疫病、黄萎病、黄化萎縮病、黄枯病、黄斑病、灰色かび病、灰星病、灰斑病、角斑病、褐条病、褐色雪腐病、褐色輪紋病、褐点病、褐斑病、褐紋病、株枯病、株腐病、乾性黒腐病、乾腐病、眼紋病、菌核病、茎疫病、茎枯病、紅色雪腐病、黒すす病、黒とう病、黒枯病、黒根病、黒根腐病、黒渋病、黒点病、黒斑病、黒腐菌核病、黒変病、黒目粒、黒葉枯病、腰折病、根朽病、根頭がんしゅ病、根腐病、紫斑病、紫紋羽病、小菌核病、小菌核腐敗病、条斑病、赤かび病、赤色菌核病、赤腐病、雪腐小粒菌核病、雪腐大粒菌核病、炭腐病、炭疽病、内穎褐変病、軟腐病、白絹病、白色疫病、白色腐敗病、白紋羽病、白葉枯病、麦角病、斑点病、苗腐病、苗立枯病、腐枯病、腐敗病、紋枯病、葉枯病、葉焼病、葉鞘褐変病、葉腐病、裸黒穂病、落葉病、立枯病、輪紋病などが知られている。これらの病害の予防のために一般的には種々の農薬が使用される。
ところで自然界には14,000種類を超える植物病原菌が存在すると推定されている。自発的移動手段をもたない植物は自然界において多くの植物病原菌と接触の機会を有するが、この接触が感染に至るケースは少ない。これは、植物が病原菌を認識し独自の免疫反応を誘導することによって病原菌の侵入を防いでいるからである。植物は、植物病原菌が侵入してきたとき、pathogen-associated molecular patterns(PAMPs)、またはmicrobe-associated molecular patterns(MAMPs)と呼ばれる植物病原菌に広く存在する分子群を認識し、PTI(PAMP-triggered immunity)と呼ばれる免疫反応を誘導する。
一方、植物病原菌側は分泌システムのひとつタイプIII分泌装置を介して植物細胞内にエフェクタータンパク質を分泌し、これによってPTIを抑制することが知られている。興味深いことに、このエフェクタータンパク質はその病原菌の宿主植物以外では、ETI(effector-triggered immunity)と呼ばれるより強力な免疫反応を誘導する認識物質として機能することもある。すなわち、このエフェクターがPTIを抑制した場合、多くの場合感染が成立するが、エフェクターがPTIを抑制せず、新たにETIを誘導した場合、感染は成立しない。このようなエフェクターの二面性と植物に存在するPTIとETIという2つの免疫システムは、植物と病原細菌が共進化してきた結果であると考えられている。
これまでに、植物のPTIを誘導することが明らかになっているPAMPとして、細菌の鞭毛タンパク質フラジェリン、翻訳伸長因子EF-Tu、リポ多糖(LPS)、ペプチドグリカン、キチンなどが報告されている。マイクロアレイなどを用いたトランスクリプトーム解析によって、これら異なるPAMPの認識によって共通の遺伝子が発現誘導されることが明らかになっており、植物は異なるPAMP認識システムを有するものの、その情報伝達機構と転写因子を介した遺伝子発現制御機構は共通であると考えられている。
上述の通り最近の鞭毛タンパク質であるフラジェリンは、PAMPとして機能する。各フラジェリン間で配列が保存されているN末端領域において認識配列を探索したところ、N末端領域の22アミノ酸残基からなるペプチド(flg22)が免疫反応を誘導することが明らかとなっている。flg22に対する認識受容体はシロイヌナズナのflg22非感受性変異体fls2(FLAGELLIN-SENSING 2)の解析によって明らかになっている。同定されたflg22の受容体であるFLS2は、細胞外にロイシンリッチリピート(LRR:leucine-rich repeat)を、細胞内にセリン/スレオニンキナーゼを有する一回膜貫通型の受容体型キナーゼ(RLK)であり、LRR XIIファミリーに属している。細胞外ドメインは28個のLRRによって構成されており、9番から15番までのLRRがフラジェリンとの結合に関与することが示されている。
上述した通り、細菌や真菌を病原とする病害への対策として農薬の仕様が挙げられるが、環境汚染や人の健康への影響が否めず、その使用は避けるべきである。しかし、農薬を使用せずに、また、遺伝子組み換えなどの方法に依らずに、これら病原菌への耐性を植物に付与する方法は知られていない。
また、遺伝子組み換えや薬剤を使用せずに、植物が本来有する免疫応答反応を強化する方法も知られていない。
このような問題に鑑み、本発明の解決すべき課題は、遺伝子組み換えや農薬を使用せずに、植物の耐病性を向上させる新規の技術を提供することにある。
本発明者らは凍結解凍覚醒法および酵素液法による処理を受けた植物についてトランスクリプトーム解析を実施した。その結果、植物の耐病性向上に寄与する顕著な遺伝子発現変動が観察されることを突き止めた。また、これらの方法によって処理を受けた植物が病害に対する高い耐性を有していることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき完成された。
上記課題を解決する本発明は、以下の通りである。
[1] 植物組織を凍結する凍結工程を含む、対象植物の耐病性を向上する方法であって、
前記凍結工程における凍結時最低温度は-20℃以下であり、前記凍結工程における温度降下の速度は0.8℃/日以下であり、前記凍結工程の期間は100日以上であり、
前記耐病性が、べと病に対する耐性、鞭毛を有する細菌を病原とする病害への耐性、シュードモナス・シリンガエ感染症への耐性及びさび病耐性から選ばれる1種又は2種以上の耐病性であり、
以下の(A)又は(B)に従って行われることを特徴とする、植物の耐病性の向上方法。

(A)耐病性を向上させたい前記対象植物の植物組織を前記凍結工程に供することで、該対象植物の前記耐病性を向上する。
(B)前記対象植物とは別の植物組織を前記凍結工程に供し、該別の植物組織より得た抽出液に、耐病性を向上させたい前記対象植物を接触させることで、該対象植物の前記耐病性を向上する。
[2] 植物組織を凍結する凍結工程を含む、対象植物における耐病性の向上に寄与する遺伝子発現量変動を誘導する方法であって、
前記凍結工程における凍結時最低温度は-20℃以下であり、前記凍結工程における温度降下の速度は0.8℃/日以下であり、前記凍結工程の期間は100日以上であり、
前記対象植物における耐病性の向上に寄与する遺伝子発現量変動が、RPPL1(Putative disease resistance RPP13-like protein 1)遺伝子又はそのオーソログの発現上昇、FLS2(Flagellin sensing 2)遺伝子又はそのオーソログの発現上昇、LRK10(Rust resistance kinase Lr10)遺伝子又はそのオーソログの発現上昇及びUGT74F2(UDP-glucosyltransferase 74F2)遺伝子又はそのオーソログの発現抑制から選ばれる、耐病性に寄与する遺伝子発現量変動であり、
以下の(A´)又は(B´)に従って行われることを特徴とする、植物の耐病性の向上に寄与する遺伝子発現量変動を誘導する方法。

(A´)耐病性の向上に寄与する遺伝子発現量変動を誘導させたい前記対象植物の植物組織を前記凍結工程に供することで、該対象植物の前記耐病性の向上に寄与する遺伝子発現量変動を誘導する。
(B´)前記対象植物とは別の植物組織を前記凍結工程に供し、該別の植物組織より得た抽出液に、耐病性の向上に寄与する遺伝子発現量変動を誘導させたい前記対象植物を接触させることで、該対象植物の前記耐病性の向上に寄与する遺伝子発現量変動を誘導する。
[3] [1]又は[2]に記載の方法を実施する工程を含む、べと病に対する耐性、鞭毛を有する細菌を病原とする病害への耐性、シュードモナス・シリンガエ感染症への耐性及びさび病耐性から選ばれる1種又は2種以上の耐病性が向上した植物を製造する方法。
[4] 凍結工程を経た植物組織から水性溶媒により抽出された抽出物を有効成分として含み、
前記凍結工程における凍結時最低温度は-20℃以下であり、前記凍結工程における温度降下の速度は0.8℃/日以下であり、前記凍結工程の期間は100日以上であり、
以下の(i)及び/又は(ii)の用途に用いられることを特徴とする、植物の耐病性向上及び/又は植物の耐病性に寄与する遺伝子発現量変動誘導用組成物。

(i)べと病に対する耐性、鞭毛を有する細菌を病原とする病害への耐性、シュードモナス・シリンガエ感染症への耐性及びさび病耐性から選ばれる耐病性を向上するための用途。
(ii)RPPL1(Putative disease resistance RPP13-like protein 1)遺伝子又はそのオーソログの発現上昇、FLS2(Flagellin sensing 2)遺伝子又はそのオーソログの発現上昇、LRK10(Rust resistance kinase Lr10)遺伝子又はそのオーソログの発現上昇及びUGT74F2遺伝子UGT74F2(UDP-glucosyltransferase 74F2)又はそのオーソログの発現抑制から選ばれる、耐病性に寄与する遺伝子発現量変動の誘導のための用途。
本発明によれば、RPPL1遺伝子、FLS2遺伝子、LRK10遺伝子の発現上昇、また、UGT74F2遺伝子の発現抑制といった耐病性に寄与する遺伝子発現変動を誘導し、これによりべと病耐性、さび病耐性、鞭毛を有する細菌への耐性、シュードモナス・シリンガエに対する耐性などを付与し、植物の耐病性を向上させることができる。
以下、本発明の実施の形態について詳述する。なお、本発明の範囲は以下に説明する実施形態に限定されないことはいうまでもない。
本発明により耐病性を向上することができる植物種に限定はない。例えばパパイア科(Caricaceae)、パイナップル科(Bromeliaceae)、バショウ科(Musaceae)、ウリ科(Cucurbitaceae)、フトモモ科 Myrtaceae、カタバミ科(Oxalidaceae)、クワ科(Moraceae)、アオイ科(Malvaceae)、アカネ科(Rubiaceae)、クスノキ科(Laureaceae)、トケイソウ科(Passifloraceae)、ムクロジ科(Sapindaceae)、フクギ科(Clusiaceae)、カキノキ科(Ebenaceae)、ミカン科(Rutaceae)、バンレイシ科(Annonaceae)、ヤシ科(Arecaceae)、サボテン科(Cactaceae)、バラ科(Rosaceae)マメ科(Fabaceae)、イネ科(Poaceae)、アブラナ科(Brassicaceae)に属する植物などを例示することができる。
より具体的には、パパイア属(Carica)、アナナス属(Ananas)、バショウ属(Musa)、ラカンカ属 Siraitia、バンジロウ属(Psidium)、ゴレンシ属(Averrhoa)、イチジク属(Ficus)、カカオ属(Theobroma)、コーヒーノキ属(Coffea)、ニッケイ属(Cinnamomum)、トケイソウ属(Passiflora)、レイシ属(Litchi)、フクギ属(Garcinia)、カキノキ属(Diospyros)、カシロミア属(Casimiroa)、バンレイシ属(Annona)、ナツメヤシ属(Phoenix)、ヒモサボテン属(Hylocereus)、サクラ属(Cerasus)、ダイズ属(Glycine)、オオムギ属(Hordeum)、コムギ属(Triticum)、トウモロコシ属(Zea)、ダイコン属(Raphanus)に属する植物などを例示することができる。
本発明は耐病性の向上方法である。ここでいう「耐病性」とは病害への耐性を意味し、その内容は限定されない。
本発明は細菌を病原とする病害への耐性向上のために適用することができる。グラム陽性菌-グラム陰性菌、好気性菌-嫌気性菌、球菌-桿菌のいずれを病原とする病害への耐性をも向上し得る。特に本発明は鞭毛を有する細菌を病原とする病害への耐性向上のために用いることが好ましい。
本発明は真菌を病原とする病害への耐性向上のために適用することができる。本発明は、糸状菌と酵母の何れを病原とする病害への耐性をも向上し得る。特に本発明は真菌のうち糸状菌を病原とする病害への耐性向上のために用いることが好ましい。
本発明は、べと病、さび病、いもち病、うどんこ病、から枯病、から黒穂病、こうじ病、ごま葉枯病、さや枯病、しみ腐病、すそ葉枯病、てんぐ巣病、なまぐさ黒穂病、ねむり病、ひょう紋病、もみ枯細菌病、萎黄病、萎凋病、疫病、黄萎病、黄化萎縮病、黄枯病、黄斑病、灰色かび病、灰星病、灰斑病、角斑病、褐条病、褐色雪腐病、褐色輪紋病、褐点病、褐斑病、褐紋病、株枯病、株腐病、乾性黒腐病、乾腐病、眼紋病、菌核病、茎疫病、茎枯病、紅色雪腐病、黒すす病、黒とう病、黒枯病、黒根病、黒根腐病、黒渋病、黒点病、黒斑病、黒腐菌核病、黒変病、黒目粒、黒葉枯病、腰折病、根朽病、根頭がんしゅ病、根腐病、紫斑病、紫紋羽病、小菌核病、小菌核腐敗病、条斑病、赤かび病、赤色菌核病、赤腐病、雪腐小粒菌核病、雪腐大粒菌核病、炭腐病、炭疽病、内穎褐変病、軟腐病、軸腐病、心腐病、花樟病、果心黒変病、基腐病、パナマ病、シガトカ病、白絹病、白色疫病、白色腐敗病、白紋羽病、白葉枯病、麦角病、斑点病、苗腐病、苗立枯病、腐枯病、腐敗病、紋枯病、葉枯病、葉焼病、葉鞘褐変病、葉腐病、裸黒穂病、落葉病、立枯病、輪紋病から選ばれる1種又は2種以上の病害への耐性向上のために用いることができる。
本発明の一つの実施形態は、根腐れ病以外の病害への耐性向上方法である。本実施形態は根腐れ病以外の病害への耐性向上を目的とするものであるが、その実施の結果、根腐れ病への耐性が付随的に向上したとしても、本実施形態の技術的範囲に当然に含まれる。
本発明の一つの実施形態は、パナマ病以外の病害への耐性向上方法である。本実施形態はパナマ病以外の病害への耐性向上を目的とするものであるが、その実施の結果、パナマ病への耐性が付随的に向上したとしても、本実施形態の技術的範囲に当然に含まれる。
本発明の適用を受けた植物においてはRPPL1(Putative disease resistance RPP13-like protein 1)遺伝子の顕著な発現向上が観察される。したがって、本発明はRPPL1遺伝子又はそのオーソログの発現向上のために適用することができる。
RPPは“Recognition of Peronospora Parasitica”の略であり、RPPL1はペロノスポラ・パラサイティカをはじめとするべと病等の原因となる糸状菌を認識し、その抵抗性をあたえるRPP13遺伝子と相同性の高い遺伝子である。RPPL1遺伝子は、RPP13遺伝子と同一の分子機能GO(ADP結合、ATP結合)、生物学的プロセスGO(防御反応)が付されている遺伝子であり、防御関連遺伝子として知られている(例えばJournal of Agricultural and Food Chemistry,2020,Vol.68,pp.11026-11037)。RPP13やRPPL1が有するNB-ARCドメインは、機能性ATPアーゼドメインである。変異解析の結果、NB-ARCドメインは抵抗性蛋白質の活性制御過程で重要な調節的役割を果たしていることが知られている(Journal of Experimental Botany,Volume59,Issue6,April 2008,Pages1383-1397.)。
本発明は上述した抵抗性蛋白質の活性調節機能を備えるNB-ARCドメインを有するRPPL1遺伝子の発現向上に起因して、べと病への耐性向上効果を奏する。
本発明の適用を受けた植物においてはFLS2(Flagellin sensing 2)遺伝子の顕著な発現向上が観察される。したがって、本発明はFLS2遺伝子又はそのオーソログの発現向上のために適用することができる。
FLS2は細菌の鞭毛タンパク質であるPAMPであるフラジェリンを認識し、免疫反応(PTI)を誘導する。FLS2遺伝子の発現向上は、鞭毛を有する細菌に対する耐性の向上をもたらす(例えば、化学と生物Vol.50,No.5,2012,363-369やPlant Signal Behav.2008 Jun;3(6):423-426.などを参照)。
したがって、本発明はFLS2遺伝子の発現向上に起因する、鞭毛を有する細菌に対する耐性向上効果を奏する。
本発明の適用を受けた植物においてはUGT74F2(UDP-glucosyltransferase 74F2)遺伝子の顕著な発現抑制が観察される。したがって、本発明はUGT74F2遺伝子又はそのオーソログの発現抑制のために適用することができる。
サリチル酸(SA)は、植物がさまざまなストレスに反応して利用するシグナル分子である。サリチル酸は、グルコースなどの低分子有機化合物と結合して不活性型のサリチル酸となり、植物体の液胞に輸送され、貯蔵されることができる。植物においては、2つの相同性のある酵素、すなわちUGT74F1及びUGT74F2が、グルコースをUDP-グルコースからSAに転移させることにより、SAのグルコース共役体が形成される。UGT74F1とUGT74F2は77%が同一であり、活性部位の残基が保存されているにもかかわらず、これらの酵素は異なる生成物の形成を触媒する。この2つの酵素を遺伝子レベルで欠失させると、細菌感染に対する表現型が異なることがわかっている。UGT74F1遺伝子の変異体では、SAのレベルが低く、シュードモナス・シリンガエからの細菌感染に対する抵抗性が低くなる。一方、UGT74F2遺伝子の変異体では、SAのレベルが高く、シュードモナス・シリンガエに対する抵抗性も高くなる。同様に、UGT74F2遺伝子を過剰発現させると、SAのレベルが低下し、シュードモナス・シリンガエに対する感受性が高まる。UGT74F1とUGT74F2は、SAをグルコース化する能力を持つことから、遊離SAのレベルを制御し、ひいては植物の病原菌に対する反応を制御することに関与している(例えばScientific Reports volume7,Article number:46629(2017)、Physiologia Plantum,Volume132,Issue4,April 2008,Pages 417-425などを参照)。
本発明の適用を受けた植物においては、UGT74F2の顕著な発現抑制が観察される。したがって、本発明はUGT74F2の顕著な発現抑制に起因する、シュードモナス・シリンガエへの感受性低減効果を発揮する。
また、本発明の適用を受けた植物においては、LRK10(Rust resistance kinase Lr10)遺伝子の顕著な発現向上が観察される。したがって、本発明はLRK10遺伝子又はそのオーソログの発現向上のために適用することができる。
LRK10は細胞外受容体ドメインとキナーゼドメインを有するタンパク質である。LRK10はRust resistance kinase Lr10とも呼ばれるタンパク質であって、さび病(rust)への耐性を植物にもたらす(例えばThe Plant Journal(1997)11(1),45-52など)。本発明はLRK10遺伝子の顕著な発現向上効果を奏することから、本発明はさび病耐性の向上のために用いることができる。
なお、本発明の適用を受けた植物は、耐寒性、成長特性、高温順応性、発芽率、成長均一性、根の張り具合、豊産性、耐病害虫性、耐乾燥性などの植物特性の顕著な向上が見られる(特許文献3、特許文献4、特許文献5などを参照)。したがって、本発明は耐病性の向上の目的に加え、これらの目的のために適用することができる。
なお、凍結解凍覚醒法(特許文献3)、酵素液法(特許文献4、5)の有用な効果として耐寒性の向上作用が挙げられる。この作用によって亜熱帯~熱帯地域で栽培されているような植物を日本のような冷涼地において栽培することが可能となる。
一方、上述したさび病の病原であるさび菌や、シュードモナス・シリンガエ、べと病の病原菌は病徴発現温度が比較的低い。そのため、熱帯植物に凍結解凍覚醒法又は酵素法を適用し、これを冷涼地で栽培する場合には、これら病徴発現温度が比較的低い病害を受ける可能性が考えられた。
しかし、凍結解凍覚醒法、酵素液法と工程が共通する本発明の適用によって、比較的低い温度域で病徴発現する病害への耐性が付与される。そのため、凍結解凍覚醒法又は酵素液法の適用による上記の懸念は払しょくされている。
本発明の耐病性向上方法の適用を受けた植物から、有性生殖以外の方法により得た次世代の植物は、増強された特性を引き継ぐ。したがって、本発明の特性増強方法により耐病性が増強された植物を得ることができれば、その植物より得られる、該植物とは独立した植物個体を発生可能な種子以外の植物組織(子株等)から発生した次世代以降の子孫も増強された特性を有する。
また、本発明の耐病性向上方法の適用を受けた植物は、接ぎ木の穂木として利用した場合であっても、増強された耐病性を発揮する。
以下、本発明の工程について詳述する。本発明は植物組織を凍結する凍結工程を含む。凍結工程に供する植物組織は限定されず、植物の種子、根、芽、茎、葉、花弁などを例示できる。凍結工程に供する際にこれら組織は、そのまま凍結してもよいし、一部を切除し、切片の形態で凍結してもよい。
凍結工程においては、植物組織を液体に浸漬した状態で凍結することが好ましい。植物組織を浸漬する液体としては、DMSO(ジメチルスルホキシド)、グリセリン、エチレングリコール、糖類などの水溶液からなる凍害防御剤を用いることが好ましい。中でも糖類水溶液、特にトレハロース水溶液を用いることが好ましい。
凍結工程における凍結時最低温度の上限は、好ましくは-20℃以下、より好ましくは-30℃以下、さらに好ましくは-40℃以下、さらに好ましくは-50℃以下、さらに好ましくは-55℃以下である。
また、凍結時最低温度の下限は、好ましくは-200℃以上、より好ましくは-150℃以上、さらに好ましくは-100℃以上、さらに好ましくは-80℃以上、さらに好ましくは-70℃以上、さらに好ましくは-65℃以上である。
凍結工程においては急速に凍結時最低温度に降下させるのではなく、緩慢に温度降下させることが好ましい。温度降下の速度は、解凍後の生存率の観点から、平均値として好ましくは0.8℃/日以下、より好ましくは0.6℃/日以下、より好ましくは0.5℃/日以下、さらに好ましくは0.3℃/日以下、さらに好ましくは0.2℃/日、さらに好ましくは0.1℃/日である。
このように緩慢に温度降下させる場合には、凍結工程においてはプログラムフリーザーを用いることが好ましい。
凍結工程の期間の下限は、好ましくは100日以上、より好ましくは120日以上、さらに好ましくは150日以上、さらに好ましくは160日以上、さらに好ましくは180日以上である。
なお、「凍結工程の期間」とは、植物組織に温度降下を開始した時点から、解凍工程を開始するまでの期間である。
本発明の耐病性向上方法は凍結工程を備えることを技術的特徴とする。かかる技術的特徴を備えることは共通であるが、本発明は主に以下の(A)又は(B)の実施形態をとることができる。

(A)耐病性を向上させたい前記対象植物の植物組織を前記凍結工程に供することで、該対象植物の前記耐病性を向上する実施形態。
(B)前記対象植物とは別の植物組織を前記凍結工程に供し、該別の植物組織より得た抽出液に、耐病性を向上させたい前記対象植物を接触させることで、該対象植物の前記耐病性を向上する実施形態。
また、本発明の耐病性の向上に寄与する遺伝子発現量変動を誘導する方法は、凍結工程を備えるという技術的特徴を備えることは共通であるが、主に以下の(A´)又は(B´)の実施形態をとることができる。

(A´)耐病性の向上に寄与する遺伝子発現量変動を誘導させたい前記対象植物の植物組織を前記凍結工程に供することで、該対象植物の前記耐病性の向上に寄与する遺伝子発現量変動を誘導する実施形態。
(B´)前記対象植物とは別の植物組織を前記凍結工程に供し、該別の植物組織より得た抽出液に、耐病性の向上に寄与する遺伝子発現量変動を誘導させたい前記対象植物を接触させることで、該対象植物の前記耐病性の向上に寄与する遺伝子発現量変動を誘導する実施形態。
以下、実施形態(A)及び実施形態(B)のそれぞれについて詳述する。なお、実施形態(A)に関する説明は実施形態(A´)の説明として準用できる。また、実施形態(B)に関する説明は実施形態(B´)の説明として準用できる。
実施形態(A)は、上述した凍結工程において、耐病性を向上させたい対象植物の植物組織を凍結する実施形態である。本実施形態において耐病性を向上させることができる植物種については、上述した通り一切の限定が無い。
本実施形態においては凍結工程を実施した後、植物組織を解凍する。解凍工程における解凍方法は特に制限されない。凍結状態の植物組織を常温に放置することで自然解凍してもよいし、凍結状態の植物組織を流水ですすぎながら解凍してもよい。
凍結工程を経た植物は耐病性を獲得している。すなわち、解凍された植物組織から発生させた植物は、凍結工程を経ていない植物に比して高い耐病性を備えている。
凍結工程に供した植物組織が植物の種子である場合には、これを常法に従い播種し、植物個体を発生させることができる。
凍結工程に供した植物組織が種子以外の植物部位である場合には、これをそのまま土壌や培地に移し発芽させてもよいし、また、細かく細断し常法に従い細胞培養を行い、カルス誘導、不定胚誘導、不定芽誘導を行うことで、植物個体を発生させることができる。
次に実施形態(B)について詳述する。実施形態(B)は、凍結工程を経た植物組織より得た抽出液に、耐病性を向上させたい対象植物又はその植物組織を接触させる実施形態である。実施形態(B)と大きく異なる点は、耐病性を向上させたい対象植物を凍結工程に供するのではない点である。実施形態(B)の大きな特徴は、凍結工程を経た植物組織の抽出液に、耐病性を向上させたい対象植物又はその植物組織を接触させる接触工程を備える点にある。
実施形態(B)は、対象植物とは別の植物組織を前記凍結工程に供し、当該凍結工程を経た植物組織から抽出液を得る抽出工程を備える。
なお、本明細書において実施形態(B)における「対象植物とは別の植物組織」とは「耐病性を向上させたい対象植物の植物組織及び耐病性の向上に寄与する遺伝子発現量変動を誘導させたい対象植物の植物組織とは別の植物組織」という意味である。言い換えると、凍結工程に供する植物組織は、後述の接触工程に供する植物組織とは別であるという意味である。
実施形態(B)において凍結工程に供する「対象植物とは別の植物組織」の植物種と、「耐病性を向上させたい対象植物」及び「耐病性の向上に寄与する遺伝子発現量変動を誘導させたい対象植物」は同種であっても異種であってもよい。
凍結工程を経た植物組織は、凍結状態のまま抽出工程に供してもよいが、好ましくは解凍してから抽出工程に供する。解凍の方法は特に限定されない。凍結状態の植物組織を常温に放置することで自然解凍してもよいし、凍結状態の植物組織を流水ですすぎながら解凍してもよい。好ましくは常温で自然解凍することが好ましい。
凍結工程と後述する抽出工程との間に選抜工程を含むことが好ましい。選抜工程は、凍結された植物組織から生きている植物組織を選抜する工程である。
選抜工程の具体的な態様は、生きている植物組織を選抜することができれば制限されない。
選抜工程の好ましい形態としては、凍結工程を経た植物組織を発酵処理することを含む方法が挙げられる。これは生きている植物組織と死んでいる植物組織の微生物による発酵などへの耐性の差異を利用する方法である。
生きている植物組織は微生物の分解などを受けることなく有形の状態を維持する。一方で、死んでいる植物組織は微生物による分解などを受け、軟化又は液状化する。そのため、発酵処理後には、生きている植物組織と死んでいる植物組織を容易に選別することができる。
発酵処理の方法は特に限定されない。凍結工程を経た植物組織を外気に放置することによって行う方法が好ましく例示できる。
この場合、放置する環境の温度の下限は、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは20℃以上である。上限は、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下である。
外気に放置する期間は発酵ができれば特に制限されず、好ましくは数日から数週間、具体的には1日~4週間を目安として挙げることができる。
発酵処理後に、死んでいる植物組織と生きている植物組織とを分離処理することが好ましい。分離処理は、死んでいる植物組織と生きている植物組織が混在するなかから、生きている植物組織を分離できれば、その具体的な態様は特に限定されない。
上述のとおり、発酵処理を経た後、死んでいる植物組織は微生物により分解され、軟化又は液状化する。そのため発酵処理を経た植物組織を洗浄することにより、死んでいる植物組織を容易に流し去り、除去することができる。洗浄としては水洗が好ましく例示できる。
実施形態(B)は凍結工程を経た植物組織から抽出液を得る抽出工程を含む。抽出の方法は特に限定されない。抽出に用いる抽剤は、好ましくは水性溶媒、より好ましくは水又は水溶液が例示できる。
抽剤は、糖類又は糖アルコールを含むことが好ましい。より具体的には、単糖類(ブドウ糖、乳糖、トレオース、アラビノース、キシロース、ガラクトース、リボース、グルコース、ソルボース、フルクトース、マンノース)、二糖類(スクロース(ショ糖)、ラクトース(乳糖)、マルトース(麦芽糖)、トレハロース、セロビオース、イソマルトース、イソトレハロース、ネオトレハロース、ネオラクトース、ツラノース、パラチノース)、その他の多糖類(三糖類:ラフィノース、メレジトース、マルトトリオース、四糖類:アカルボース、スタキオース、グリコーゲン、可溶化デンプン、アミロース、デキストリン、グルカン、β1,3-グルカン、フルクタン、N-アセチルグルコサミン、キチン、キトサン)、糖アルコール類(キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、マンニトール、マルチトール)、オリゴ糖類(ラフィノース、パノース、マルトトリオース、メレジトース、ゲンチアノース、スタキオース、シクロデキストリン、キシロオリゴ糖、セルロースオリゴ糖、ラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナンオリゴ糖)から選択される1種又は2種以上の糖類又は糖アルコールを含む抽剤を用いることが好ましい。
より好ましくは、糖類又は糖アルコールとしては、スクラロース及びトレハロースを1種又は2種を組み合わせて含む抽剤を用いる。
また、上記糖類又は糖アルコールを含まない抽剤を用いる場合には、抽出工程後に得られた抽出液に上記糖類又は糖アルコールを添加してもよい。
凍結工程を経た植物組織、より具体的には凍結工程を経て生きている植物組織を破砕する破砕処理を行うことが好ましい。破砕処理の方法としては、すりつぶし処理が好ましく例示できる。
すりつぶし処理は、ミキサー、ボールミルなどの破砕機を用いてもよいが、すり鉢を用いてすりつぶすことにより破砕するのが好ましく例示できる。
破砕処理において植物組織にかける応力は特に限定されないが、あまり応力をかけずにやさしく破砕することが好ましい。特に好ましくは、すり鉢とすりこぎ棒を用いてやさしくすりつぶす。
破砕処理にかける時間は特に限定されないが、好ましくは数十秒から数時間である。具体的には、好ましくは10秒以上、より好ましくは30秒以上が下限として挙げられる。上限としては、好ましくは10時間以下、より好ましくは5時間以下、さらに好ましくは3時間以下とする。
植物組織の破砕処理は、植物組織を抽剤に浸漬した状態で行ってもよいが、好ましくは抽剤を添加する前に行う。すなわち、破砕処理を経た植物組織を抽剤に接触させることで、抽出することが好ましい。
凍結工程を経た植物組織を抽剤に接触、より具体的には植物組織を抽剤に浸漬することで、植物組織に含まれる成分を抽剤へ移動させ、抽出液を得る。
抽出工程後、抽出液を濾過して植物組織の残渣を除去する工程を設けてもよい。
抽出工程において使用する抽剤の量は、特に限定されないが、植物組織1質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは3質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上である。
上限も特に限定されず、植物組織1質量部に対して、抽剤の量は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下である。
抽剤への浸漬時間は特に限定されない。浸漬時間の下限は、限定されないが、好ましくは1分以上、より好ましくは10分以上、さらに好ましくは30分以上を目安とすることができる。浸漬時間の上限も限定されないが、好ましくは2日以下、より好ましくは1日以下、さらに好ましくは12時間以下、さらに好ましくは6時間以下を目安とすることができる。
浸漬の際の抽剤の温度も特に限定されない。下限としては、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上が挙げられる。上限としては、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下、さらに好ましくは45℃以下、さらに好ましくは40℃以下が挙げられる。
なお、破砕処理により、植物組織に含まれる成分が溶解ないし分散した液体やペーストが得られる場合には、当該液体やペーストも「抽出液」に含まれる。
この場合には、破砕処理そのものが抽出工程を構成することとなる。
なお、本明細書において「抽出液」は、抽出工程を経て一次的に得られた抽出液のみを指す用語ではない。「抽出液」には、一次的に得られた抽出液を任意の液体で希釈した希釈液や、一次的に得られた抽出液を濃縮した濃縮液も含まれる。また、抽出乾燥物を任意の溶液に溶解して得た溶液、言い換えると、一次的に得られた抽出液を溶媒交換したものも「抽出液」に含まれる。
また、上述したように、破砕処理により、植物組織に含まれる成分が溶解ないし分散した液体やペーストが得られる場合には、当該液体やペーストも「抽出液」に含まれる。
実施形態(B)は、上述した抽出液に耐病性を向上させたい対象植物又はその植物組織を接触させる接触工程を含む。接触工程に供することで耐病性を向上させる植物は、上述の通りいずれの植物種であっても構わない。
なお、接触工程に用いる抽出液の由来である植物と、接触工程に供する植物は、種が同一であっても異なっていても良い。つまり、ある特定の植物種の植物組織を凍結・抽出して得られた抽出液に、該特定の植物種以外の植物種又はその植物組織を接触させても良い。このような異種間適用であっても、本発明の特性増強方法によれば所望の効果を得ることができる。
実施形態(B)は、接触工程の具体的態様によって、さらに以下の実施形態(B-1)及び(B-2)に分類することができる。

(B-1)凍結工程を経た植物組織より得た抽出液に、耐病性を向上させたい対象植物の植物組織を浸漬させる実施形態
(B-2)凍結工程を経た植物組織より得た抽出液を、耐病性を向上させたい対象植物に散布する実施形態

以下、それぞれの実施形態について説明する。
まず、浸漬工程を備える実施形態(B-1)について説明する。浸漬工程に供する植物組織は限定されず、植物の種子、根、芽、茎、葉、花弁などを例示できる。浸漬工程に供する際にこれら組織は、そのまま浸漬してもよいし、一部を切除し、切片の形態で浸漬してもよい。
耐病性を向上させたい植物組織が、浸漬工程の前に乾燥されていることも好ましい。植物組織の表面を乾かす程度でよいので、例えば、同植物組織を2,3日天日乾燥すること等が挙げられる。このほか、ドライヤーなどの乾燥機を用いた乾燥を行ってもよい。これにより、浸漬工程における抽出液の植物組織への浸透効率を高めることができる。
種皮を有する種子を浸漬工程に供する場合には、該種皮の厚さは、好ましくは3cm以下、より好ましくは1cm以下、より好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下であることが好ましい。種皮の厚みが上記範囲であれば、抽出液の浸透効率が良く、短時間で抽出液を種子に浸透させることができる。
このような種子としては、大麦、小麦、大豆、稲などの穀物の種子が、本発明を適用する種子の好ましい例として挙げられる。
浸漬時間は特に限定されないが、好ましくは30分以上、より好ましくは1時間以上、より好ましくは6時間以上、より好ましくは12時間以上、より好ましくは24時間以上、さらに好ましくは48時間以上、さらに好ましくは60時間以上とする。浸漬時間の上限は、好ましくは300時間以下、より好ましくは200時間以下、さらに好ましくは100時間以下とすることができる。
浸漬工程における抽出液の温度は、同工程中に雑菌が生えないような温度で行うことが好ましい。好ましくは0℃以上、より好ましくは5℃以上、さらに好ましくは10℃以上を目安として挙げることができる。上限としては、好ましくは50℃以下、より好ましくは45℃以下、さらに好ましくは40℃以下、さらに好ましくは35℃以下、さらに好ましくは30℃以下を目安として挙げることができる。
浸漬工程で使用する抽出液は、抽出工程により一次的に得られた抽出液を任意の液体で希釈した希釈液であることが好ましい。抽出工程により一次的に得られた抽出液を希釈することで、一度に多くの植物組織を浸漬工程に供することができ、生産効率を向上させることができる。
希釈倍率は特に限定されない。希釈後の希釈液の体積は、抽出に用いた植物組織の体積の好ましくは100倍以上、より好ましくは1000倍以上、さらに好ましくは5000倍以上、さらに好ましくは8000倍以上とすることができる。このような高い希釈率で希釈しても、本発明の効果を十分に得ることができる。
希釈倍率の上限は特に限定されないが、好ましくは100000倍以下、より好ましくは50000倍以下、さらに好ましくは20000倍以下、さらに好ましくは10000倍以下を目安とすることができる。
また、植物組織に抽剤を添加せずに破砕処理することで得られた液体ないしペーストを希釈することで希釈液を得る場合には、その希釈倍率は、好ましくは100倍以上、より好ましくは1000倍以上、さらに好ましくは5000倍以上、さらに好ましくは8000倍以上とすることができる。このような高い希釈率で希釈しても、本発明の効果を十分に得ることができる。
この場合の希釈倍率の上限は特に限定されないが、好ましくは100000倍以下、より好ましくは50000倍以下、さらに好ましくは20000倍以下、さらに好ましくは10000倍以下を目安とすることができる。
希釈に用いる液は、抽剤と同じく、糖類又は糖アルコールを含む液体であることが好ましい。より具体的には、単糖類(ブドウ糖、乳糖、トレオース、アラビノース、キシロース、ガラクトース、リボース、グルコース、ソルボース、フルクトース、マンノース)、二糖類(スクロース(ショ糖)、ラクトース(乳糖)、マルトース(麦芽糖)、トレハロース、セロビオース、イソマルトース、イソトレハロース、ネオトレハロース、ネオラクトース、ツラノース、パラチノース)、その他の多糖類(三糖類:ラフィノース、メレジトース、マルトトリオース、四糖類:アカルボース、スタキオース、グリコーゲン、可溶化デンプン、アミロース、デキストリン、グルカン、β1,3-グルカン、フルクタン、N-アセチルグルコサミン、キチン、キトサン)、糖アルコール類(キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、マンニトール、マルチトール)、オリゴ糖類(ラフィノース、パノース、マルトトリオース、メレジトース、ゲンチアノース、スタキオース、シクロデキストリン、キシロオリゴ糖、セルロースオリゴ糖、ラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナンオリゴ糖)から選択される1種又は2種以上の糖類又は糖アルコールを含む液体を希釈のために用いることが好ましい。
より好ましくは、糖類又は糖アルコールとしては、スクラロース及びトレハロースを1種又は2種を組み合わせて含む液体を希釈のために用いる。
浸漬工程においては、抽出液1リットル当たり、好ましくは0.5kg以上、より好ましくは1kg以上、さらに好ましくは1.5kg以上の植物組織を浸漬することが好ましい。
抽出液1リットル当たりに浸漬する植物組織の重量の上限は特に制限は無いが、好ましくは3kg以下、より好ましくは2.5kg以下とすることが好ましい。
浸漬工程においては、植物組織の全体が抽出液に浸かっている状態であることが好ましい。一度に植物組織の全体が抽出液に浸からない場合には、浸漬工程において植物組織を抽出液中で転動したり攪拌したりすることで、植物組織全体に抽出液が接触する状態を実現しても構わない。
浸漬工程を経た植物組織を栽培することにより、耐病性が向上した植物を得ることができる。浸漬工程後の植物組織は何らの処理を行うことなく、そのまま播種することができる。
栽培の方法は特に限定されない。浸漬工程に供した植物組織が植物の種子である場合には、これを常法に従い播種し、植物個体を発生させ、常法に従い栽培することができる。
浸漬工程に供した植物組織が種子以外の植物部位である場合には、これをそのまま土壌や培地に移し発芽させてもよいし、また、細かく細断し常法に従い細胞培養を行い、カルス誘導、不定胚誘導、不定芽誘導を行うことで、植物個体を発生させ、栽培することができる。
次に実施形態(B-2)について詳述する。実施形態(B-2)は、耐病性を向上させたい植物に、上述した抽出液を散布する散布工程を含む実施形態である。
なお、散布工程に用いる抽出液の由来である植物組織の植物種と、散布工程に供する植物の植物種は、同一であっても異なっていても良い。つまり、ある特定の植物種の植物組織を凍結・抽出して得られた抽出液を、該特定の植物種以外の植物種に散布しても良い。このような異種間適用であっても、耐病性の向上効果を得ることができる。
散布工程において、抽出液を散布する植物の状態は特に限定されない。散布対象とする植物は、田畑等の土壌で栽培している植物、鉢植えやプランター等で栽培している植物、水耕栽培用の培地上で栽培している植物であってもよい。
抽出液の散布方法は、特に限定されるものではなく、じょうろや既存の噴霧器を用いて行うことができる。また、抽出液を、植え付けられた植物の任意の部分、例えば、蕾、花、葉、茎、樹木の枝、土壌(根)に散布することができる。
植物の地上部に抽出液を散布する場合、土壌にも同時に散布してもよい。地上部への散布と共に土壌にも抽出液を散布することで、植物が根からも抽出液を吸収することができ、抽出液の有する特性増強の効果がより発揮される。
散布工程で使用する抽出液は、抽出工程により一次的に得られた抽出液を任意の液体で希釈した希釈液であることが好ましい。抽出工程により一次的に得られた抽出液を希釈することで、多くの植物に抽出液を散布することできる。
散布工程に用いる抽出液の希釈倍率は、特に限定されない。希釈後の希釈液の体積は、抽出に用いた植物組織の体積の好ましくは100倍以上、より好ましくは250倍以上、さらに好ましくは2500倍以上、さらに好ましくは12500倍以上、さらに好ましくは20000倍以上とすることができる。このような高い希釈率で希釈しても、本発明の効果を十分に得ることができる。
希釈倍率の上限は特に限定されないが、好ましくは1000000倍以下、より好ましくは500000倍以下、さらに好ましくは250000倍以下、さらに好ましくは125000倍以下、さらに好ましくは50000倍以下、さらに好ましくは25000倍以下を目安とすることができる。
また、植物組織に抽剤を添加せずに破砕処理することで得られた液体ないしペーストを希釈することで希釈液を得る場合には、その希釈倍率は、好ましくは100倍以上、より好ましくは250倍以上、さらに好ましくは2500倍以上、さらに好ましくは12500倍以上、さらに好ましくは20000倍以上とすることができる。このような高い希釈率で希釈しても、本発明の効果を十分に得ることができる。
この場合の希釈倍率の上限は特に限定されないが、好ましくは1000000倍以下、より好ましくは500000倍以下、さらに好ましくは250000倍以下、さらに好ましくは125000倍以下、さらに好ましくは50000倍以下、さらに好ましくは25000倍以下を目安とすることができる。
散布工程における散布量は特に限定されない。例えば、目安として植物の作付面積1m当たり好ましくは0.01リットル以上、より好ましくは0.1リットル以上、より好ましくは0.5リットル以上、さらに好ましくは1リットル以上の抽出液を散布することができる。
また、植物の作付面積1mあたり好ましくは1000リットル以下、より好ましくは100リットル以下、さらに好ましくは10リットル以下の抽出液を散布することができる。
散布処理は、栽培期間中1回のみ行っても良いし、栽培期間中に複数回行っても良い。栽培期間中に複数回の散布を行う場合には、例えば1日~1カ月毎、好ましくは2日~1週間毎に散布することができる。
その他、散布工程を備える実施形態(B-2)が適用可能な植物種、抽出液の希釈に用いる液に関しては、実施形態(B-1)の説明がそのまま当てはまる。
また、上述した実施形態(B-1)と実施形態(B-2)が組み合わさった実施形態(浸漬工程と散布工程を両方備える実施の形態)としてもよい。
以上の通り実施形態(B)を備える本発明によれば、植物の耐病性を向上させることができる。言い換えると凍結工程を経た植物の抽出液は、耐病性向上の用途に用いることができる。すなわち、発明は、凍結を経た植物組織から抽出された抽出物を含む植物の耐病性向上用組成物にもある。
本発明の耐病性向上用組成物は、上述した製造方法により製造される抽出液を含む。また、この抽出液を乾燥して溶媒を除去して得られた抽出乾燥物も本発明に含まれる。抽出乾燥物を得る方法は特に限定されないが、噴霧乾燥や凍結乾燥が挙げられる。
本発明の好ましい形態では、耐病性向上用組成物は、細菌又は真菌を病原とする病害への耐性向上のために用いられる。また、本発明の耐病性向上用組成物は、RPPL1遺伝子の発現上昇、FLS2遺伝子の発現上昇、LRK10遺伝子の発現上昇及びUGT74F2遺伝子の発現抑制から選ばれる、耐病性に寄与する遺伝子発現変動の誘導のために用いられる。また、本発明の耐病性向上用組成物は、べと病耐性、さび病耐性、鞭毛を有する細菌への耐性、シュードモナス・シリンガエに対する耐性から選ばれる耐病性の向上のために用いられる。
<試験例A1>パパイアへの適用
パパイアの種子をトレハロース水溶液に浸漬した状態で、プログラムフリーザー内に静置し凍結した。凍結は0.5℃/日の温度降下速度で180日間かけて緩慢に行い、凍結時最低温度が-60℃となるように行った。凍結したパパイアの種子を流水ですすぐことにより解凍し、これを播種し栽培した。栽培にあたっては細菌及び真菌に対する抗菌性農薬を含むいずれの農薬も用いなかった。
パパイアにおいては、パパイア軸腐病(病原:Botryodiplodia theobromae、Phomopsis sp.、Colletotrichum gloeosporioides、Fusarium solani、Ascochyta caricae)、パパイア黒腐病(病原:Erwinia sp.)、軟腐病(病原:Phytophthora nicotianae Breda de Haan)、パパイア褐斑病(病原:Corynespora cassiicola)などの病害が発生することが知られている。
本発明を適用しなかったこと以外は同条件で栽培した比較例のパパイアにおいては、細菌及び糸状菌を病原とする上述した病害の発生が一定割合観察された。一方、本発明を適用した本試験例においては、抗菌性農薬を用いなかったにも関わらず、これら病害やべと病、さび病、シュードモナス・シリンガエ感染症などが一切発生しなかった。
<試験例A2>パイナップルへの適用
パイナップルの種子を試験例A1と同様の方法により凍結解凍処理し、これを播種し栽培した。栽培にあたっては細菌及び真菌に対する抗菌性農薬を含むいずれの農薬も用いなかった。
パイナップルにおいては心腐病(病原:Phytophthora cinnamomi、Phytophthora palmivora、Phytophthora nicotianae)、花樟病(病原:Acetobacter pasteurinanus、Acetobacter peroxydans、Erwinia ananas)、果心黒変病(病原:Fusarium spp.、Penicillium spp.)、基腐病(病原:Ceratosystis paradoxa)などの病害が発生することが知られている。
本発明を適用しなかったこと以外は同条件で栽培した比較例のパイナップルにおいては、細菌及び糸状菌を病原とする上述した病害の発生が一定割合観察された。一方、本発明を適用した本試験例においては、抗菌性農薬を用いなかったにも関わらず、これら病害やべと病、さび病、シュードモナス・シリンガエ感染症などが一切発生しなかった。
<試験例A3>バナナへの適用
バナナの子株の根を輪切りにし、これを試験例A1と同様の方法により凍結解凍した。凍結解凍後の子株の根を細断し、この断片化した生長細胞塊を培地上で培養し発芽させた。ある程度成長した苗を土壌に移し栽培を行った。なお、栽培は日本の岡山県で行った。栽培にあたっては細菌及び真菌に対する抗菌性農薬を含むいずれの農薬も用いなかった。
バナナにおいてはパナマ病(病原:Fusarium oxysporum f. sp. cubense)、シガトカ病(病原:Mycosphaerella fijiensis)、炭疽病(病原:Colletotrichum musae)などを病原菌とするなどの病害が発生することが知られている。
本発明を適用しなかったこと以外は同条件で栽培した比較例のバナナにおいては、細菌及び糸状菌を病原とする上述した病害の発生が一定割合観察された。一方、本発明を適用した本試験例においては、抗菌性農薬を用いなかったにも関わらず、これら病害やべと病、さび病、シュードモナス・シリンガエ感染症などが一切発生しなかった。
<試験例A4>バナナへの適用
バナナの株元から生えたわき芽を切り取り、葉と根を切り落とし、タケノコ状に加工した。これを試験例A1と同様の方法により凍結解凍した。解凍後のわき芽を鉢に植えた。その後、茎は腐り消失したが、新芽が発芽することを確認した。この新芽を栽培した。
本発明を適用しなかったこと以外は同条件で栽培した比較例のバナナにおいては、細菌及び糸状菌を病原とする病害の発生が一定割合観察された。一方、本発明を適用した本試験例においては、抗菌性農薬を用いなかったにも関わらず、これら病害やべと病、さび病、シュードモナス・シリンガエ感染症などが一切発生しなかった。
<試験例A5>コーヒーの特性増強
コーヒーは生育が非常に難しい植物であるといわれる。雨量、日照量、温度、土質の四つの条件全てが適切な状態でなければ成長しない上に、成木し実をつけるまでに3年程度の期間を必要とする。アラビカ種はさび病に弱く、セイロン(スリランカ)、インドネシアなどで栽培されていたアラビカ種が全滅したことが知られている。中でも、ティピカ種はアラビカ種の中でも最も古い品種で、収穫量が少なく耐病性も低いため、数あるコーヒー種の中でも特に生育が難しい品種である。また、コーヒー全体の0.01%と流通量が極めて低い。
本試験例では、試験例A1と同様の手順によりティピカ種コーヒーの種子に凍結解凍処理を行い、これを岡山県において播種し栽培した。栽培にあたっては細菌及び真菌に対する抗菌性農薬を含むいずれの農薬も用いなかった。
上述の通りコーヒーにおいてはさび菌を病原菌とするさび病が最悪の病害であり、その対策が欠かせない。しかし、本試験例においては、特に耐病性が低いことが知られているティピカ種コーヒーの栽培において抗菌性農薬を含むいずれの農薬も用いなかったにも関わらず、さび病を含むいずれの病害の発生も認められなかった。また、通常は成木し実をつけるまでに3年程度の期間を要するが、本試験例においては播種後1年程度で開花・結実が観察された。
なお本発明を適用しなかったこと以外は同条件で栽培した比較例のティピカ種コーヒーにおいては、細菌及び糸状菌を病原とする上述した病害の発生が相当の割合で観察された。
<試験例A6>その他の植物種への適用
下に列挙する植物の種子を試験例A1と同様の方法により凍結解凍処理し、処理後の植物組織から植物個体を発生させ栽培した。何れの植物種の栽培においても農薬を一切使用しなかったが病害の発生は見られなかった。
羅漢果、グアバ、スターフルーツ、いちじく、カカオ、セイロンシナモン、パッションフルーツ、ライチ、マンゴスチン、ブラックサポテ、ホワイトサポテ、棘葉シュガーアップル、デーツ椰子、レッドドラゴンフルーツ、アーモンド、青首大根
なお本発明を適用しなかったこと以外は同条件で栽培した比較例の上記植物種においては、細菌及び糸状菌を病原とする病害の発生が一定の割合で観察された。
<試験例B1>パパイア抽出液を用いた小麦の耐病性向上
市販のパパイアの種子をトレハロース水溶液に浸漬した状態で、プログラムフリーザー内に静置し凍結した。凍結は0.5℃/日の温度降下速度で180日間かけて緩慢に行い、凍結時最低温度が-60℃となるように行った。
凍結したパパイアの種子を室温(25℃)で自然解凍した。これを1週間、外気(25℃)に放置した。凍結工程で死んだ種子は外気下での放置によって発酵し、軟化ないし液状化した。種子をザルに載せて水洗することで、この発酵した種子(つまり死んだ種子)を洗い流し、生きている種子のみを選別した。
ザルに残った、生きている種子をすり鉢とすりこぎ棒を用いて優しくすりつぶして破砕してペーストを得た。ペースト1ccをスクラロース及びトレハロースの水溶液で10Lに希釈し(約8000倍から10000倍に希釈)、希釈された抽出液を調製した。
希釈された抽出液10Lに対し、20kgの小麦「ふくほのか」の種子を浸漬し、72時間置いた。なお、浸漬した種子は、浸漬の前に2、3日天日で自然乾燥された状態のものを使用した。浸漬工程を経た種子を岡山県の農場において播種し、栽培した。栽培にあたっては細菌及び真菌に対する抗菌性農薬を含むいずれの農薬も用いなかった。
小麦においては、コムギ黒節病(病原:Pseudomonas syringae pv. japonica)、コムギ赤かび病(病原:Gibberella zeae、Gibberella avenacea Cook、Fusarium culmorum、Fusarium nivale、Casati f.sp.graminicola)、コムギ赤さび病(病原:Puccinia recondita Roberge ex Desmazieres)、コムギ麦角病(病原:Claviceps purpurea)、コムギ眼紋病(病原:Pseudocercosporella herpotrichoides)、コムギ裸黒穂病(病原:Ustilago nuda)、コムギ葉枯病(病原:Septoria tritici Roberge ex Desmazieres)、コムギ斑点病(病原:Cochliobolus sativus)、コムギふ枯病(病原:Leptosphaeria nodorum Mueller)、コムギいもち病(病原:Pyricularia oryzae Cavara)、コムギ株腐病(病原:Ceratobasidium gramineum)、コムギ角斑病(病原:Selenophoma donacis)、コムギから枯病(病原:Mycosphaerella hordeicola Hara)、コムギから黒穂病(病原:Urocystis agropyri)、コムギ褐色雪腐病(病原:Pythium iwayamai Ito、Pythium paddicum Hirane、Pythium horinouchiense Hirane、Pythium graminicola Subramaniam、Pythium okanoganense Lipps、Pythium vanterpoolii V. Kouyeas et H. Kouyeas、Pythium volutum Vanterpool et Truscott)、コムギ黄枯病(病原:Pythium spp.)、コムギ黄さび病(病原:Puccinia striiformis Westendorp var. striiformis)、コムギ黒変病(病原:Cladosporium herbarum)、コムギ黒点病(病原:Epicoccum purpurascens Ehrenberg ex Schlechtendahl)、コムギ紅色雪腐病(病原:Micronectriella nivalis)、コムギ黒目粒(病原:Cochliobolus sativus、Alternaria sp.)、コムギ黒さび病(病原:Puccinia graminis Persoon subsp. graminis)、コムギなまぐさ黒穂病(病原:Tilletia caries、Tilletia foetida)、コムギ黄斑病(病原:Pyrenophora tritici-repentis)、コムギ黄化萎縮病(病原:Sclerophthora macrospora)、コムギすそ葉枯病(病原:Ascochyta tritici Hori et Enjoji)、コムギ炭そ病(病原:Colletotrichum graminicola)、コムギ立枯病(病原:Gaeumannomyces graminis)、コムギうどんこ病(病原:Erysiphe graminis de Candolle f. sp. tritici Marchal)、コムギ雪腐小粒菌核病(病原:Typhula incarnata Lasch ex Fries、Typhula ishikariensis Imai)、コムギ雪腐大粒菌核病(病原:Sclerotinia borealis Bubak et Vleugel)、コムギ条斑病(病原:Cephalosporium gramineum Nisikado et Ikata)などの病害が発生することが知られている。
本発明を適用しなかったこと以外は同条件で栽培した比較例の小麦においては、細菌及び糸状菌を病原とする上述の病害の発生が一定の割合で観察された。一方、本発明を適用した本試験例においては、抗菌性農薬を用いなかったにも関わらず、これら病害やべと病、シュードモナス・シリンガエ感染症などが一切発生しなかった。
<試験例B2>パパイア抽出液を用いた小麦の耐病性向上
試験例B1と同様の手順により、パパイア種子の抽出液に浸漬した小麦の種子を得た。これを宮崎県宮崎市内の農場に播種して栽培を行った。本試験例においても、抗菌性農薬を含むいずれの農薬を用いなかった。
本発明を適用しなかったこと以外は同条件で栽培した比較例の小麦においては、細菌及び糸状菌を病原とする病害の発生が一定の割合で観察された。一方、本発明を適用した本試験例においては、抗菌性農薬を用いなかったにも関わらず、いずれの病害も一切発生しなかった。
<試験例B3>小麦抽出液を使用した小麦の耐病性向上
抽出液の調製にパパイアの種子に代えて小麦の種子を使用した以外は、試験例B1と同様の手順で試験を行った。つまり、凍結工程を経た小麦の種子から抽出液を調製し、その抽出液に小麦の種子を浸漬し、この種子を畑に播種して栽培を行った。
本発明を適用しなかったこと以外は同条件で栽培した比較例の小麦においては、細菌及び糸状菌を病原とする病害の発生が一定の割合で観察された。一方、本発明を適用した本試験例においては、抗菌性農薬を用いなかったにも関わらず、いずれの病害も一切発生しなかった。
<試験例B4>パパイア抽出液を使用したトウモロコシの耐病性向上
試験例B1と同様の方法によりパパイアの種子から抽出液を調製し、試験例B1と同様の方法によりトウモロコシの種子を当該抽出液に浸漬した。このトウモロコシの種子を中国の海南省(海南基地)において栽培した。栽培にあたっては細菌及び真菌に対する抗菌性農薬を含むいずれの農薬も用いなかった。
トウモロコシにおいては、黒穂病(病原:Ustilago maydis)、ごま葉枯病(病原:Cochliobolus heterostrophus)、すす紋病(Setosphaeria turcica)、褐斑病(病原:Kabatiella zeae)、紋枯病(病原: Thanatephorus cucumeris)、条斑細菌病(病原:Burkholderia andropogonis)、褐条病(病原:Acidovorax avenae subsp.avenae)、ひょう紋病(病原:Gloeocercospora sorghi)、いもち病(病原:Pyricularia grisea、Pyricularia sp.)、苗立枯病(病原:Fusarium avenaceum、Penicillium sp.)、ピシウム苗立枯病(病原:Pythium sylvaticum、Pythium debaryanum、Pythium ultimum、Pythium spinosum、Pythium paroecandrum)、根腐病(病原:Pythium gramincola)、根朽病(病原: Rhizoctonia solani)などの病害が発生することが知られている。
本発明を適用しなかったこと以外は同条件で栽培した比較例の小トウモロコシにおいては、細菌及び糸状菌を病原とする病害の発生が一定の割合で観察された。一方、本発明を適用した本試験例においては、抗菌性農薬を用いなかったにも関わらず、上述の病害を含むいずれの病害も一切発生しなかった。
<試験例B5>パパイア抽出液を使用した大豆の耐病性向上
試験例B1と同様の方法によりパパイアの種子から抽出液を調製し、試験例B1と同様の方法により大豆の種子を当該抽出液に浸漬した。この大豆の種子を中国において栽培した。栽培にあたっては細菌及び真菌に対する抗菌性農薬を含むいずれの農薬も用いなかった。
大豆においては、ダイズてんぐ巣病(病原:Phytoplasma)、ダイズ斑点細菌病(病原:Pseudomonas syringae pv. glycinea)、ダイズ葉焼病(病原:Xanthomonas campestris pv. glycines)、ダイズ赤かび病(病原:Fusarium roseum Link、Fusarium oxysporum Schlechtendahl)、ダイズべと病(病原:Peronospora manshurica)、ダイズ葉腐病(病原:Thanatephorus cucumeris)、ダイズ灰星病(病原:Phyllosticta sojaecola Massalongo)、ダイズ斑点病(病原:Cercospora sojina Hara)、ダイズ萎ちょう病(病原:Verticillium dahliae Klebahn)、ダイズ株枯病(病原:Ophionectria sojae Hara)、ダイズ灰斑病(病原:Pleosphaerulina americana)、ダイズ褐斑病(病原:Mycosphaerella sojae Hori)、ダイズ褐色輪紋病(病原:Corynespora cassiicola)、ダイズ褐点病(病原:Alternaria sp.)、ダイズ褐紋病(病原:Septoria glycines Hemmi)、ダイズ菌核病(病原:Sclerotinia sclerotiorum)、ダイズ黒点病(病原:Diaporthe phaseolorum)、ダイズ黒とう病(病原:Elsinoe glycines Jenkins)、ダイズ茎疫病(病原:Phytophthora sojae Kaufmann et Gerdemann)、ダイズ茎枯病(病原:Phoma sp.)、ダイズ黒枯病(病原:Peckia sp.)、ダイズ黒根病(病原:Thielaviopsis sp.)、ダイズ黒根腐病(病原:Calonectria crotalariae)、ダイズ紫紋羽病(病原:Helicobasidium mompa Tanaka)、ダイズねむり病(病原:Septogloeum sojae Yoshii et Nishizawa)、ダイズフォモプシス腐敗病(病原:Phomopsis longicolla Hobbs)、ダイズ落葉病(病原:Phialophora gregata)、ダイズリゾクトニア根腐病(病原:Rhizoctonia solani Kuhn)、ダイズ輪紋病(病原:Ascochyta phaseolorum Saccardo)、ダイズさび病(病原:Phakopsora pachyrhizi Sydow)、ダイズさや枯病(病原:Macrophoma mame Hara)、ダイズ紫斑病(病原:Cercospora kikuchii Matsumoto et Tomoyasu)、ダイズ白絹病(病原:Sclerotium rolfsii Curzi)、ダイズ白紋羽病(病原:Rosellinia necatrix Prillieux)、ダイズ炭腐病(病原:Macrophomina phaseolina)、ダイズ炭そ病(病原:Colletotrichum truncatum、Colletotrichum trifolii Bain et Essary、Glomerella glycines (Hori) Lehman et Wolf、Gloeosporium sp.)、ダイズ立枯病(病原:Fusarium oxysporum Schlechtendahl :Fries f. sp. tracheiphilum、Gibberella fujikuroi)などの病害が発生することが知られている。
本発明を適用しなかったこと以外は同条件で栽培した比較例の大豆においては、細菌及び糸状菌を病原とする病害の発生が一定の割合で観察された。一方、本発明を適用した本試験例においては、抗菌性農薬を用いなかったにも関わらず、いずれの病害も一切発生しなかった。
<試験例B6>パパイア抽出液を使用した小麦の耐病性向上
試験例B1と同様の方法によりパパイアの種子から抽出液を調製し、試験例B1と同様の方法により小麦の種子を当該抽出液に浸漬した。この小麦の種子を中国において栽培した。
本発明を適用しなかったこと以外は同条件で栽培した比較例の小麦においては、細菌及び糸状菌を病原とする病害の発生が一定の割合で観察された。一方、本発明を適用した本試験例においては、抗菌性農薬を用いなかったにも関わらず、いずれの病害も一切発生しなかった。
<試験例B7>パパイア抽出液を使用した小麦の耐病性向上
試験例B1と同様の方法によりパパイアの種子から抽出液を調製し、試験例B1と同様の方法により小麦の種子を当該抽出液に浸漬した。この小麦の種子をロシアの永久凍土に播種し栽培した。
本発明を適用しなかったこと以外は同条件で栽培した比較例の小麦においては、細菌及び糸状菌を病原とする病害の発生が一定の割合で観察された。一方、本発明を適用した本試験例においては、抗菌性農薬を用いなかったにも関わらず、いずれの病害も一切発生しなかった。
<試験例B8>小麦抽出液を用いた人参の耐病性向上
小麦の種子をトレハロース水溶液に浸漬した状態で、プログラムフリーザー内に静置し凍結した。凍結は0.5℃/日の温度降下速度で180日間かけて緩慢に行い、凍結時最低温度が-60℃となるように行った。
凍結した小麦の種子を室温(25℃)で自然解凍した。これを1週間、外気(25℃)に放置した。凍結工程で死んだ種子は外気下での放置によって発酵し、軟化ないし液状化した。種子をザルに載せて水洗することで、この発酵した種子(つまり死んだ種子)を洗い流し、生きている種子のみを選別した。
ザルに残った、生きている種子をすり鉢とすりこぎ棒を用いて優しくすりつぶして破砕してペーストを得た。ペースト1ccをスクラロース及びトレハロースの水溶液で10Lに希釈し(約8000倍から10000倍に希釈)、希釈された抽出液を調製した。
希釈された抽出液に人参の種子を浸漬し、72時間置いた、この浸漬工程を経た種子を岐阜県の土壌に播種し栽培した。栽培にあたっては細菌及び真菌に対する抗菌性農薬を含むいずれの農薬も用いなかった。
人参においては、萎黄病(病原:ファイトプラズマ)、根頭がんしゅ病(病原:Agrobacterium tumefaciens)、うどんこ病(病原:Erysiphe heraclei)、黒葉枯病(病原:Alternaria dauci)、黒斑病(病原:Alternaria radicina)、菌核病(病原:Sclerotinia intermedia)、乾腐病(病原:Sclerotinia sclerotiorum)、紫紋羽病(病原:Helicobasidium mompa)、白絹病(病原:Sclerotium rolfsii)、しみ腐病(病原:Pythium sulcatum)、根腐病(病原:Rhizoctonia solani)などの病害が発生することが知られている。
本発明を適用しなかったこと以外は同条件で栽培した比較例の人参においては、細菌及び糸状菌を病原とする病害の発生が一定の割合で観察された。一方、本発明を適用した本試験例においては、抗菌性農薬を用いなかったにも関わらず、いずれの病害も一切発生しなかった。
<試験例B9>小麦抽出液を用いた朝鮮人参の耐病性向上
試験例B8と同様の手順により小麦の種子の抽出液を得た。希釈された抽出液に朝鮮人参の根を浸漬し、72時間置いた。この浸漬工程を経た根を岡山県の土壌に植え、栽培した。栽培にあたっては細菌及び真菌に対する抗菌性農薬を含むいずれの農薬も用いなかった。
朝鮮人参においては、斑点病(病原:Alternaria panax Whetzel)、赤腐病(病原:Erwinia araliavora)、白色腐敗細菌病(病原:Erwinia sp.)、腰折病(病原:Phytophthora cactorum)、フザリウム病(病原:Fusarium solani)、乾性黒腐病(病原:Phoma panacicola)、菌核病(病原:Sclerotinia sp.)、根腐病(病原:Cylindrocarpon destructans)、白紋羽病(病原:Rosellinia necatrix Prillieux)、炭疽病(病原:Colletotrichum panacicola)、苗腐病(病原:Pythium myriotylum)、灰色かび病(病原:Botrytis cinerea)などの病害が発生することが知られている。
本発明を適用しなかったこと以外は同条件で栽培した比較例の朝鮮人参においては、細菌及び糸状菌を病原とする病害の発生が一定の割合で観察された。一方、本発明を適用した本試験例においては、抗菌性農薬を用いなかったにも関わらず、いずれの病害も一切発生しなかった。
<試験例B10>その他の植物の耐病性向上
以下に列挙する植物の種子を試験例B1と同様の方法により、パパイアの種子から抽出した抽出液で処理し、播種して栽培した。なお、栽培は日本の岡山県で行った。栽培にあたっては細菌及び真菌に対する抗菌性農薬を含むいずれの農薬も用いなかった。
コーヒー、チリヘーゼルナッツ、ゴールデンエッグフルーツ、バナナ、ドワーフココナッツ、カカオ、ライチ、パームヤシ、山椒、ドリアン、カシューナッツ、キャロブ、ポポーマンゴー、アカシア、ヒノキ、パイナップル、グアバ、アサイー、デーツ、バクパリ、ダニエリ
その結果、上に列挙した何れの植物種においても、抗菌性農薬を用いなかったにも関わらず、べと病、さび病、シュードモナス・シリンガエ感染症などを含む病害が発生しなかった。なお、本発明を適用しなかったこと以外は同条件で栽培した比較例の上記植物においては、細菌及び糸状菌を病原とする病害の発生が一定の割合で観察された。
<試験例B11>散布による特性増強(ネギ)
試験例B3と同様の方法で凍結工程を経た小麦の種子から抽出液を調製した。この抽出液を定植後2週間のネギに1株当たり約50ml、5日毎に散布して栽培した。栽培にあたっては細菌及び真菌に対する抗菌性農薬を含むいずれの農薬も用いなかった。
ネギにおいては、萎黄病(病原:ファイトプラズマ)、べと病(病原:Peronospora destructor)、萎凋病(病原:Fusarium oxysporum f. sp. cepae)、疫病(病原:Phytophthora nicotianae)、白色疫病(病原:Phytophthora porri)、黄斑病(病原:Heterosporium allii)、黒渋病(病原:Mycosphaerella allicina)、さび病(病原:Puccinia allii)、黒斑病(病原:Alternaria porri)、葉枯病(病原:Pleospora herbarum、Pleospora allii、Stemphylium botryosum)、黒腐菌核病(病原:Sclerotium cepivorum)、小菌核病(病原:Ciborinia allii)、小菌核腐敗病(病原:Botrytis squamosa)、白絹病(病原:Sclerotium rolfsii)、苗立枯病(病原:Rhizoctonia solani)、軟腐病(病原:Erwinia carotovora subsp. carotovora)などの病害が発生することが知られている。
本発明を適用しなかったこと以外は同条件で栽培した比較例のネギにおいては、細菌及び糸状菌を病原とする病害の発生が一定の割合で観察された。一方、本発明を適用した本試験例においては、抗菌性農薬を用いなかったにも関わらず、いずれの病害も一切発生しなかった。
<試験例B12>散布による稲の耐病性向上
試験例B3と同様の方法で凍結工程を経た小麦の種子から抽出液を調製した。この抽出液を稲苗に散布して栽培した。栽培にあたっては細菌及び真菌に対する抗菌性農薬を含むいずれの農薬も用いなかった。
稲においては、ばか苗病(病原:Gibberella fujikuroi)、ごま葉枯病(病原:Cochliobolus miyabeanus)、苗立枯病(病原:Rhizopus spp.、Fusarium spp.、Pythium spp.、Trichoderma spp.、Mucor spp.)、いもち病(病原:Pyricularia grisea)、紋枯病(病原:Thanatephorus cucumeris)、赤色菌核病(病原:Waitea circinata)、黄化萎縮病(病原:Sclerophthora macrospora)、稲こうじ病(病原:Claviceps virens)、褐条病(病原:Acidovorax avenae subsp. avenae)、苗立枯細菌病(病原:Burkholderia plantarii)、もみ枯細菌病(病原:Burkholderia glumae)、白葉枯病(病原:Xanthomonas oryzae pv. oryzae)、葉鞘褐変病(病原:Pseudomonas fuscovaginae)、内穎褐変病(病原:Erwinia ananas)、黄萎病(病原:Phytoplasma)などの病害が発生することが知られている。
本発明を適用しなかったこと以外は同条件で栽培した比較例の稲においては、細菌及び糸状菌を病原とする病害の発生が一定の割合で観察された。一方、本発明を適用した本試験例においては、抗菌性農薬を用いなかったにも関わらず、いずれの病害も一切発生しなかった。
<試験例B13>散布による空豆の耐病性向上
試験例B3と同様の方法で凍結工程を経た小麦の種子から抽出液を調製した。この抽出液を広島県呉市で土壌栽培している空豆に散布して栽培した。栽培にあたっては細菌及び真菌に対する抗菌性農薬を含むいずれの農薬も用いなかった。
空豆においてはソラマメ褐斑病(病原:Ascochyta fabae)、ソラマメ赤色斑点病(病原:Botrytis fabae)、ソラマメ立枯病(病原:Fusarium avenaceum、Fusarium oxysporum)、ソラマメさび病(Uromyces viciae)などの病害が発生することが知られている。
本発明を適用しなかったこと以外は同条件で栽培した比較例の空豆においては、細菌及び糸状菌を病原とする病害の発生が一定の割合で観察された。一方、本発明を適用した本試験例においては、抗菌性農薬を用いなかったにも関わらず、いずれの病害も一切発生しなかった。
<試験例B14>散布によるキャベツの耐病性向上
試験例B3と同様の方法で凍結工程を経た小麦の種子から抽出液を調製した。この抽出液をプランターで栽培しているキャベツに散布した。栽培にあたっては細菌及び真菌に対する抗菌性農薬を含むいずれの農薬も用いなかった。
キャベツにおいては、キャベツ黒腐病(病原:Xanthomonas campestris pv.)、キャベツべと病(病原:Peronospora brassicae Gaeumanncampestris)、キャベツ菌核病(病原:Sclerotinia sclerotiorum)、キャベツ苗立枯病(病原:Rhizoctonia solani Kuhn)、キャベツ輪紋病(病原:Asteromella brassicicae)、キャベツバーティシリウム萎ちょう病(病原:Verticillium dahliae Klebahn)、キャベツ軟腐病(病原:Erwinia carotovora subsp. carotovora)、キャベツ灰色かび病(病原:Botrytis cinerea)、キャベツ黒斑病(病原:Alternaria brassicae)、キャベツ根こぶ病(病原:Plasmodiophora brassicae Woronin)、キャベツ白さび病(病原:Albugo macrospora)、キャベツ黒斑細菌病(病原:Pseudomonas syringae pv. maculicola)、キャベツ腐敗病(病原:Pseudomonas marginalis pv. marginalis、Pseudomonas viridiflava)、キャベツ萎黄病(病原:Fusarium oxysporum Schlechtendahl)、キャベツ黒すす病(病原:Alternaria brassicicola)、キャベツ根朽病(病原:Phoma lingam)、キャベツうどんこ病(病原:Erysiphe polygoni de Candolle)などの病害が発生することが知られている。
本発明を適用しなかったこと以外は同条件で栽培した比較例のキャベツにおいては、細菌及び糸状菌を病原とする病害の発生が一定の割合で観察された。一方、本発明を適用した本試験例においては、抗菌性農薬を用いなかったにも関わらず、いずれの病害も一切発生しなかった。
<試験例B15>散布による特性増強(その他の植物)
試験例B3と同様の方法により小麦の種子から抽出し、この抽出液を散布しながらトマト、ピーマン、小麦、アサガオ及びスイカを栽培した。その結果、何れの植物においても病害の発生が観察されなかった。なお、本発明を適用しなかったこと以外は同条件で栽培した比較例の上記植物においては、細菌及び糸状菌を病原とする病害の発生が一定の割合で観察された。
<試験例B16>ネギ栽培におけるべと病の発病率の比較試験
試験例B3と同様の方法で凍結工程を経た小麦の種子から抽出液を調製した。広島県呉市倉橋町においてこの抽出液を散布してネギを栽培した。比較例として抽出液の散布を行わないこと以外は同条件にてネギを栽培した。
べと病が発生しやすい雨の多い6月及び9月に収穫時期を迎えたネギについて、べと病の発病率を集計し、実施例におけるべと病発生の低減率(低減率=(比較例における発病率-実施例における発病率)×100/比較例における発病率)を算出した。その結果、実施例のネギは比較例のネギと比較して、べと病の発生率が30%低減した。また、比較例のネギは長雨の影響によって細菌及び糸状菌が繁殖することでほぼ全て腐ってしまい、出荷不可能な状態となった。一方、実施例のネギは、長雨の影響をものともせず、ほぼ全て出荷可能な状態で収穫することができた。
また、雨の多い6月及び9月以外の時期に収穫時期を迎えたネギについても、べと病発生の低減率を計算した。その結果、実施例のネギは比較例のネギと比較して、べと病の発生率が70%低減した。
<試験例B18>ネギ栽培におけるさび病の発病率の比較試験
試験例B3と同様の方法で凍結工程を経た小麦の種子から抽出液を調製し、この抽出液を散布してネギを栽培した。抽出液の散布を行わないこと以外は同条件にて比較例のネギを栽培した。収穫時期を迎えたネギについて、赤さび病、白さび病の発病率を集計し、実施例における赤さび病及び白さび病の発生の低減率を算出した。その結果、実施例のネギにおける赤さび病及び白さび病の低減率は100%であった。
栽培過程において、実施例のネギにおいても赤さび病及び白さび病の病徴が観察される葉及び茎が若干発生した。しかし、これを除去することでそれ以上の感染拡大は起こらず、上述の収穫時期における病害発生の低減率100%を達成した。なお、比較例のネギにおいては、栽培過程において上記病徴の観察された葉及び茎を除去しても感染拡大を食い止めることができず、収穫時期において出荷できる状態のネギは得られなかった。
<試験例B19>ジャガイモ栽培におけるそうか病及びエキ病の発病率の比較試験
試験例B3と同様の方法で凍結工程を経た小麦の種子から抽出液を調製した。切り分けたジャガイモの種芋をこの抽出液に浸漬し、2月下旬に広島県呉市倉橋町の畑に植えた。抽出液への浸漬を行わないこと以外は同条件にて比較例のジャガイモを栽培した。
収穫時期を迎えたジャガイモについて、そうか病及びエキ病の発病率を集計し、実施例におけるそうか病及びエキ病発生の低減率を算出した。その結果、実施例のジャガイモは比較例のジャガイモと比較して、そうか病及びエキ病の発生率が100%低減した。つまり、実施例のジャガイモにおいては、そうか病及びエキ病が一切発生しなかった。
<試験例B20>春菊栽培におけるべと病の発病率の比較試験
試験例B3と同様の方法で凍結工程を経た小麦の種子から抽出液を調製し、この抽出液を散布して春菊を栽培した。抽出液の散布を行わないこと以外は同条件にて比較例の春菊を栽培した。収穫時期を迎えた春菊について、べと病の発病率を集計し、実施例におけるべと病の発生の低減率を算出した。その結果、実施例の春菊におけるべと病の低減率は100%であった。
<栽培実験のまとめ>
以上の通り、本発明の耐病性向上方法(実施形態(A)及び実施形態(B))の適用により、植物種によらず細菌及び真菌を病原とする病害耐性を含む耐病性の向上効果が得られることが実証された。
以下、栽培実験の結果を分子生物学的に分析するために実施した遺伝子発現解析試験について説明する。
<遺伝子発現解析>
本発明による処理を受けた試験例A1の実施例のパパイア、試験例A5の実施例のコーヒー、試験例A6の実施例の青首大根そして試験例B1の実施例の小麦と、本発明の処理を行わずに実施例と同一栽培条件で栽培したそれぞれの植物(比較例)から、葉を採取した。採取した葉からTotal RNAを抽出しRNA-seq解析を行った。
RNA-seq解析にあたり、リファレンスゲノムを用いないDe novo RNA sequencing法(以降、De novo RNA-seqと記載)を実施した。すなわち、転写物として得られた未知RNAのcDNA配列を、Basic Local Alignment Search Tool(BLAST)を用いて既知のデータベースcDNA 配列 (以降,リファレンスcDNA配列と記載)と比較することで、既知遺伝子と類似性の高い遺伝子転写物の発現量を調査した。リファレンスcDNA配列は、モデル植物として精度の高いシロイヌナズナcDNA配列データベースを利用し、これらに類似性の高い遺伝子転写物量を計算した。
具体的には、実施例と比較例の植物の葉から、RNA抽出キット(NucleoSpin RNA Plant,Macherey Nagel社)を用いてTotal RNA を抽出した。Agilent 2200 TapeStationを用いてTotal RNAの定量を行なった後、ライブラリー調製キット(TruSeq Stranded mRNA Sample PrepKit,Illumina社)でcDNAライブラリーを調製した。作製したライブラリーを次世代シーケンサー(HiSeq 2500,Illumina社)で配列解析し、シーケンスリードデータを取得した。取得したリードデータからCut adeptソフトウェア(v1.3)を用いてアダプター配列を除去後、低クオリティのリード配列をSickleソフトウェア(v1.200)を用いて除去した。得られたデータを用い、Trinityソフトウェア(v2.0.6)によるリファレンスシロイヌナズナcDNA配列へのDe novoアセンブルを行った。
アセンブルにより得られた転写産物の配列にBLAST解析を行い、類似性の高い遺伝子を抽出した。次に、実施例と比較例で遺伝子あたりのFragments Per Kilobase of exon per Million mapped fragments Value(FPKM値)に2倍以上の差があった発現変動遺伝子(differentially expressed gene, DEG)を抽出した。最終的に重複している遺伝子を取り除き、遺伝子発現差異を確認した。
その結果、比較例のパパイアに対して実施例のパパイアにおいては、耐病性に関与するRPPL1遺伝子の3.3倍の発現量増加、FLS2遺伝子の2.5倍の発現量増加が観察された。
比較例の青首大根に対して実施例の青首大根においては、耐病性に関与するRPPL1遺伝子の3.6倍の発現量増加、FLS2遺伝子の6.9倍の発現量増加が観察された。
比較例のコーヒーに対して実施例のコーヒーにおいては、耐病性に関与するRPPL1遺伝子の584倍の発現量増加、FLS2遺伝子の3.9倍の発現量増加、UGT74F2遺伝子の670分の1の発現量減少が観察された。
比較例の小麦に対して実施例の小麦においては、耐病性に関与するRPPL1遺伝子の36107倍の発現量増加、FLS2遺伝子の66913倍の発現量増加、UGT74F2遺伝子の110分の1の発現量減少、LRK10遺伝子の6064倍の発現量増加が観察された。
<結果のまとめ>
遺伝子発現量解析によって、本発明の適用を受けたいずれの植物においても耐病性の向上に寄与する遺伝子発現量変動が観察された。具体的には、ペロノスポラ・パラサイティカをはじめとする糸状菌を認識し、べと病への耐性を付与するRPPL1遺伝子の顕著な発現量増加、鞭毛タンパク質であるフラジェリンを認識し免疫応答を誘導するFLS2遺伝子の顕著な発現量増加、シュードモナス・シリンガエに対する感受性に関与するUGT74F2遺伝子の顕著な発現量減少、そして、さび病への耐性をもたらすLRK10遺伝子の顕著な発現量増加が観察された。
遺伝子発現量解析の結果は、試験例A1~A6及び試験例B1~B20の栽培実験において観察された優れた耐病性向上効果を分子生物学的観点から裏付けるものである。
なお、試験例B1~B20においては凍結工程を経た種子より抽出した抽出液を用いている。しかし、試験例A1~A6の結果も総合考慮すると、種子以外の植物組織から抽出した抽出液であっても、試験例B1~B20に示したものと同一の耐病性向上効果が得られることが当然に推認できる。
本願出願日当時には、凍結解凍覚醒法と酵素液法が周知であった(特許文献3~5)。凍結解凍覚醒法と酵素液法は同様の作用効果を有しており、両発明の適用を受けた植物においては、同様の遺伝子発現プロファイルの変動が観察されることがわかっている。上述の遺伝子発現解析でもこれを再確認している。
凍結解凍覚醒法と酵素液法の共通点は凍結工程であることを考慮すると、凍結工程を引き金として、エピジェネティックな変化とそれに起因する特性増強を惹起する、何らかの特定因子が生じることが合理的に導き出される。凍結解凍覚醒法においては、凍結工程を経ることで生じた前記特定因子が、植物細胞に作用することで、エピジェネティックな変化を誘起していると考えられる。一方で、酵素液法においては、凍結工程を経ることで生じた前記特定因子が抽出液に含まれており、当該抽出液に浸漬された植物組織を構成する細胞にこの特定因子が作用することで、凍結解凍覚醒法と同様のエピジェネティックな変化を植物細胞にもたらしているものと理解できる。
ここで、凍結解凍覚醒法と同工程で実施した試験例A1~A6によって、植物の種子、根、わき芽など様々な植物組織を凍結したいずれの場合であっても同様に耐病性の向上効果が得られた。つまり、上述した特性増強(耐病性向上)を惹起する前記特定因子は、凍結工程に供する植物組織の種類に依存しないこと、すなわち、凍結工程に供した全ての種類の植物組織において生じるものであることを理解することができる。
また、特性を増強したい対象の植物組織に「植物の特性増強の因子」が直接的又は間接的に作用する「作用点」が存在していなければ、当該対象の植物組織の特性増強を惹起することができないのは自明である。「作用点」としては、細胞膜上、細胞質内又は核内に存在するレセプターや、遺伝子発現を制御するシグナル伝達経路に関与するタンパク質や、転写因子などが考えられる。
この点、試験例A1~A6によって、何れの植物組織を凍結した場合であっても同様の特性増強効果が得られたことが実証されている。このことから、全ての植物組織において「植物の特性増強の因子」が作用する「作用点」が存在することが理解できる。
以上説明した試験例A1~A6の結果と技術常識から理解できる事項を踏まえて、凍結解凍覚醒法と酵素液法が植物組織の特性増強効果を発揮するメカニズムを説明する。
凍結解凍覚醒法(実施形態(A))は、凍結工程を経た植物組織に成長特性と耐寒性、そして耐病性を付与する方法であるが、上述した通り凍結工程に供する植物組織に限定は無い。つまり、その種類が何であれ植物組織を凍結すれば「植物の特性増強の因子」が生じ、当該因子の作用によりエピジェネティックな変化が起こり、遺伝子プロファイルの変化が生じることで、成長特性と耐寒性の増強が惹起される。
一方の酵素液法(実施形態(B))も凍結解凍覚醒法と同じく凍結工程を備える。酵素液法においても同様に凍結工程を経た植物組織には「植物の特性増強の因子」が生じる。上述の通り、植物組織の種類に依らず、凍結工程に供した全ての植物組織において「植物の特性増強の因子」が生じる。
その後、凍結工程を経た植物組織から抽出液を得る抽出工程が行われるが、凍結工程を経た植物組織には「植物の特性増強の因子」が含まれるため、抽出液にも「植物の特性増強の因子」が当然に含まれる。この抽出液に植物組織を接触させれば、植物組織を構成する細胞に「植物の特性増強の因子」が作用することで、凍結解凍覚醒法と同様のエピジェネティックな変化が植物細胞にもたらされるものと理解することができる。
以上をまとめると、酵素液法(実施形態(B))によって植物を処理する場合、凍結工程を経た植物組織より抽出される抽出液においては、植物組織の種類を問わず「植物の特性増強の因子」が含まれ、一方の抽出液に接触させる植物組織においてはその種類を問わず「植物の特性増強の因子」が作用する「作用点」が存在する。
したがって、実施形態(B)においては凍結工程に供する植物組織の種類に限定はなく、また接触工程に供する植物組織の種類にも限定は無いことが当然に理解できる。
本発明は農作物の生産技術に適用できる。

Claims (4)

  1. 植物組織を凍結する凍結工程を含む、対象植物の耐病性を向上する方法であって、
    前記凍結工程における凍結時最低温度は-0℃以下であり、前記凍結工程における温度降下の速度は0.8℃/日以下であり、前記凍結工程の期間は100日以上であり、
    前記耐病性が、べと病に対する耐性、鞭毛を有する細菌を病原とする病害への耐性、シュードモナス・シリンガエ感染症への耐性及びさび病耐性から選ばれる1種又は2種以上の耐病性であり、
    以下の(A)又は(B)に従って行われ
    前記凍結工程に供する前記植物組織は植物の種子、根及び芽から選ばれることを特徴とする、植物の耐病性の向上方法。

    (A)耐病性を向上させたい前記対象植物の植物組織を前記凍結工程に供することで、該対象植物の前記耐病性を向上する。
    (B)前記対象植物とは別の植物組織を前記凍結工程に供し、該別の植物組織より得た抽出液に、耐病性を向上させたい前記対象植物を接触させることで、該対象植物の前記耐病性を向上する。
  2. 植物組織を凍結する凍結工程を含む、対象植物における耐病性の向上に寄与する遺伝子発現量変動を誘導する方法であって、
    前記凍結工程における凍結時最低温度は-0℃以下であり、前記凍結工程における温度降下の速度は0.8℃/日以下であり、前記凍結工程の期間は100日以上であり、
    前記対象植物における耐病性の向上に寄与する遺伝子発現量変動が、RPPL1(Putative disease resistance RPP13-like protein 1)遺伝子又はそのオーソログの発現上昇、FLS2(Flagellin sensing 2)遺伝子又はそのオーソログの発現上昇、LRK10(Rust resistance kinase Lr10)遺伝子又はそのオーソログの発現上昇及びUGT74F2(UDP-glucosyltransferase 74F2)遺伝子又はそのオーソログの発現抑制から選ばれる、耐病性に寄与する遺伝子発現量変動であり、
    以下の(A´)又は(B´)に従って行われ
    前記凍結工程に供する前記植物組織は植物の種子、根及び芽から選ばれることを特徴とする、植物の耐病性の向上に寄与する遺伝子発現量変動を誘導する方法。

    (A´)耐病性の向上に寄与する遺伝子発現量変動を誘導させたい前記対象植物の植物組織を前記凍結工程に供することで、該対象植物の前記耐病性の向上に寄与する遺伝子発現量変動を誘導する。
    (B´)前記対象植物とは別の植物組織を前記凍結工程に供し、該別の植物組織より得た抽出液に、耐病性の向上に寄与する遺伝子発現量変動を誘導させたい前記対象植物を接触させることで、該対象植物の前記耐病性の向上に寄与する遺伝子発現量変動を誘導する。
  3. 請求項1又は2に記載の方法を実施する工程を含む、べと病に対する耐性、鞭毛を有する細菌を病原とする病害への耐性、シュードモナス・シリンガエ感染症への耐性及びさび病耐性から選ばれる1種又は2種以上の耐病性が向上した植物を製造する方法。
  4. 凍結工程を経た植物の種子、根及び芽から選ばれる植物組織から水性溶媒により抽出された抽出物を有効成分として含み、
    前記凍結工程における凍結時最低温度は-0℃以下であり、前記凍結工程における温度降下の速度は0.8℃/日以下であり、前記凍結工程の期間は100日以上であり、
    以下の(i)及び/又は(ii)の用途に用いられることを特徴とする、植物の耐病性向上及び/又は植物の耐病性に寄与する遺伝子発現量変動誘導用組成物。

    (i)べと病に対する耐性、鞭毛を有する細菌を病原とする病害への耐性、シュードモナス・シリンガエ感染症への耐性及びさび病耐性から選ばれる耐病性を向上するための用途。
    (ii)RPPL1(Putative disease resistance RPP13-like protein 1)遺伝子又はそのオーソログの発現上昇、FLS2(Flagellin sensing 2)遺伝子又はそのオーソログの発現上昇、LRK10(Rust resistance kinase Lr10)遺伝子又はそのオーソログの発現上昇及びUGT74F2(UDP-glucosyltransferase 74F2)遺伝子又はそのオーソログの発現抑制から選ばれる、耐病性に寄与する遺伝子発現量変動の誘導のための用途。
JP2021144722A 2021-06-21 2021-09-06 植物の耐病性の向上方法 Active JP6989918B1 (ja)

Applications Claiming Priority (2)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2021102104 2021-06-21
JP2021102104 2021-06-21

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP6989918B1 true JP6989918B1 (ja) 2022-02-15
JP2023001843A JP2023001843A (ja) 2023-01-06

Family

ID=80929725

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2021144722A Active JP6989918B1 (ja) 2021-06-21 2021-09-06 植物の耐病性の向上方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP6989918B1 (ja)

Citations (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2018183112A (ja) * 2017-04-27 2018-11-22 節三 田中 植物の特性を増強する方法
JP2020162598A (ja) * 2019-03-29 2020-10-08 節三 田中 植物緑葉の乾燥粉末の製造方法
JP6830591B1 (ja) * 2020-03-26 2021-02-17 節三 田中 植物の特性を増強する方法
JP6864304B1 (ja) * 2020-09-15 2021-04-28 節三 田中 植物の特性を増強する方法

Patent Citations (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2018183112A (ja) * 2017-04-27 2018-11-22 節三 田中 植物の特性を増強する方法
JP2020162598A (ja) * 2019-03-29 2020-10-08 節三 田中 植物緑葉の乾燥粉末の製造方法
JP6830591B1 (ja) * 2020-03-26 2021-02-17 節三 田中 植物の特性を増強する方法
JP6864304B1 (ja) * 2020-09-15 2021-04-28 節三 田中 植物の特性を増強する方法

Non-Patent Citations (10)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Title
"食卓からバナナが消える? 世界的なバナナ危機に挑む、熱帯産作物国産化を目指した驚きのバイオ技術, Y M, JPN6021025599, ISSN: 0004619915 *
Journal of Agricultural and Food Chemistry, 2020, Vol.68, pp.11026-11037
JOURNAL OF AGRICULTURAL AND FOOD CHEMISTRY, 2020, VOL.68, PP.11026-11037, JPN6021025601, ISSN: 0004619913 *
Journal of Biotechnology, 2016, Vol.228,pp.3-7
JOURNAL OF BIOTECHNOLOGY, 2016, VOL.228,PP.3-7, JPN6021025604, ISSN: 0004619912 *
Physiologia Plantarum, 2003,Vol.117, pp.195-205
PHYSIOLOGIA PLANTARUM, 2003,VOL.117, PP.195-205, JPN6021025597, ISSN: 0004619914 *
Ymedia,"食卓からバナナが消える? 世界的なバナナ危機に挑む、熱帯産作物国産化を目指した驚きのバイオ技術",インターネット,https://www.yanmar.com/jp/about/ymedia/article/tropicalfruits.html
植物の生長調節, 2019, Vol.54, No.1, pp.9-16
植物の生長調節, 2019, VOL.54, NO.1, PP.9-16, JPN6021025607, ISSN: 0004619911 *

Also Published As

Publication number Publication date
JP2023001843A (ja) 2023-01-06

Similar Documents

Publication Publication Date Title
Hancock Temperate fruit crop breeding: germplasm to genomics
Farooq et al. Cultivation, agronomic practices, and growth performance of buckwheat
Scorza et al. Peaches (Prunus)
Hummer et al. Emerging fruit crops
Sozzi et al. Capers and caperberries
Bento et al. Multiple genetic resistances in Capsicum spp
EP2836612B1 (en) Novel pseudomonas fluorescens strain and uses thereof in the biological control of bacterial or fungal diseases
Abbate et al. An overview on citrus mal secco disease: Approaches and strategies to select tolerant genotypes in C. limon
Das et al. Disease resistance in sorghum
Newstrom Reproductive biology and evolution of the cultivated chayote Sechium edule: Cucurbitaceae
Pua et al. Transgenic crops V
JP2020501549A (ja) 組織技術を使用した複合形質
JP6989918B1 (ja) 植物の耐病性の向上方法
Pillay et al. Banana breeding
Behera et al. Minor cucurbits
Fitch Carica papaya papaya.
Alsamir et al. Distribution of organic metabolites after Fusarium wilt incidence in tomato ('Solanum lycopersicum'L.)
Kaur et al. Potato diseases and their management
Pigna et al. Domestication of new species
KR20210157192A (ko) 탄저병 저항성을 증진시키는 고추 유래 CbNLR09 유전자
Singh Saharan et al. Genomics of Crucifer’s Host-Pathosystem: Prologue
CN107821408B (zh) 6-氮尿嘧啶在制备用于防治由植物病原菌引起的植物病害的杀菌剂中的用途
WO2021193971A1 (ja) 植物の特性を増強する方法
Ibanez et al. I. 10 Apple
Temitope Development of transgenic banana and plantains using RNAi approach for control of banana aphids

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20211006

A871 Explanation of circumstances concerning accelerated examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A871

Effective date: 20211006

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20211019

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20211105

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20211116

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20211124

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 6989918

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150