JP6984815B2 - 神経変性疾患タンパク質の異常凝集を伴って発症する神経疾患に対する予防又は治療剤、及び上記予防又は治療剤のスクリーニング方法 - Google Patents
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CAGの繰り返しが増加した変異Htt遺伝子からはアミノ末端のグルタミンの連続が長くなった変異Httタンパク質が作られ、このような変異Httタンパク質は特に異常凝集を起こしやすくなっている。
HD疾患モデルとして、R6/2マウスの病態のいくつかの特徴はヒトHDをミミックしていると一般的に受け入れられている。例えば、Httのエクソン1−Q120±5を発現するR6/2トランスジェニックマウスは、HD疾患モデルとして長い歴史がある(例えば、非特許文献1)。
Ku70はHttタンパク質と直接相互作用するタンパク質であることが知られ(例えば、非特許文献2)、Ku70のトランスジェニック過剰発現が、R6/2マウスHDモデルの寿命を最も延長する物質の1つであることが知られている(非特許文献2)。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(2)上記化合物が、上記神経変性疾患タンパク質の凝集の動態を変化させる化合物である、上記(1)に記載の予防又は治療剤。
(3)上記神経変性疾患タンパク質がアミロイドβ、タウタンパク質又はポリグルタミン病タンパク質である、(1)又は(2)に記載の予防又は治療剤。
(4)上記ポリグルタミン病タンパク質がHttタンパク質である、(3)に記載の予防又は治療剤。
(5)上記神経変性疾患タンパク質の異常凝集を伴って発症する神経疾患が、アルツハイマー型認知症、FTLD又はHDである、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の予防又は治療剤。
(7)上記予防又は治療剤が、上記神経変性疾患タンパク質の凝集の動態を変化させる化合物である、(6)に記載の予防又は治療剤をスクリーニングする方法。
(8)上記被験物質がヘプタ−ヒスチジン、アンジオテンシンIII、黄体形成ホルモン放出ホルモンペプチド断片、ヘプタ−グルタミン、ケンプチド酢酸塩、及びそれら化合物と同一性80%以上のアミノ酸配列からなりかつ上記神経変性疾患タンパク質と直接相互作用するタンパク質に対する親和性を有する化合物、並びに、ノルジヒドログアイアレチン酸エステル、スフィンゴシン−1−フォスフェート、及びそれら化合物の化学修飾化合物よりなる群から選択される少なくとも1つの化合物である、(6)又は(7)に記載のスクリーニングする方法。
(9)上記神経変性疾患タンパク質と直接相互作用するタンパク質に対する上記被験物質の親和性を単一分子蛍光分光法により測定する工程を含む(6)〜(8)のいずれか1項に記載のスクリーニングする方法。
(10)上記神経変性疾患タンパク質がアミロイドβ、タウタンパク質又はポリグルタミン病タンパク質である、(6)〜(9)のいずれか1項に記載のスクリーニングする方法。
(11)上記ポリグルタミン病タンパク質がHttタンパク質である、(10)に記載のスクリーニングする方法。
(12)上記神経変性疾患タンパク質の異常凝集を伴って発症する神経疾患が、アルツハイマー型認知症、FTLD又はHDである、(6)〜(11)のいずれか1項に記載のスクリーニングする方法。
本明細書では、アミノ酸配列におけるアミノ酸残基を、当該技術分野で周知の一文字表記(例えば、グリシン残基を「G」)又は三文字表記(例えば、グリシン残基を「Gly」)で表記する場合がある。
本発明の第1の態様に係る発明は、神経変性疾患タンパク質の異常凝集を伴って発症する神経疾患に対する予防又は治療剤であって、ヘプタ−ヒスチジン(HHHHHHH(配列番号1))(以下、7Hともいう。)、アンジオテンシンIII(RVYIHPF(配列番号2))、黄体形成ホルモン放出ホルモンペプチド断片4−10(SYGLRPG(配列番号3)−NH2)(以下、(LH−RH4−10ペプチド断片ともいう。)、ヘプタ−グルタミン(QQQQQQQ(配列番号4))(以下、7Qともいう。)、ケンプチド酢酸塩(LRRASLG(配列番号5))、及びそれら化合物と同一性80%以上のアミノ酸配列からなりかつ上記神経変性疾患タンパク質と直接相互作用するタンパク質に対する親和性を有する化合物、並びに、ノルジヒドログアイアレチン酸エステル、スフィンゴシン−1−フォスフェート(以下、S1Pともいう。)、及びそれら化合物の化学修飾化合物よりなる群から選択される少なくとも1つの化合物を有効成分とする、予防又は治療剤である。
アミノ酸の側鎖は、疎水性、電荷、大きさなどにおいてそれぞれ異なるものであるが、実質的にペプチドの3次元構造(立体構造とも言う)に影響を与えないという意味で保存性の高い幾つかの関係が、経験的にまた物理化学的な実測により知られている。例えば、アミノ酸残基の置換としては、グリシン(Gly)とプロリン(Pro)、Glyとアラニン(Ala)又はバリン(Val)、ロイシン(Leu)とイソロイシン(Ile)、グルタミン酸(Glu)とグルタミン(Gln)、アスパラギン酸(Asp)とアスパラギン(Asn)、システイン(Cys)とスレオニン(Thr)、Thrとセリン(Ser)又はAla、リジン(Lys)とアルギニン(Arg)等が挙げられる。特に、7Hにおける少なくとも1つのHの他の極性側鎖アミノ酸残基(例えば、Q)への置換、7Qにおける少なくとも1つのQの他の極性側鎖アミノ酸残基(例えば、H)への置換等も挙げられる。
ノルジヒドログアイアレチン酸エステルの化学修飾化合物、スフィンゴシン−1−フォスフェート(以下、S1Pともいう。)の化学修飾化合物における化学修飾としては、構成炭素原子の任意の位置の炭素数1〜3の直鎖状又は分岐状アルキル基(例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基等)によるアルキル化修飾等が挙げられる。
上記神経変性疾患タンパク質と直接相互作用するタンパク質としては、Httタンパク質と直接相互作用するタンパク質であり、かつ変異Httにより機能が損なわれ得る神経細胞におけるDNA損傷修復タンパク質であるKu70タンパク質等が挙げられる。
上記神経変性疾患タンパク質の凝集の動態の変化は、動的光散乱(DLS)により測定することができる。
上記ポリグルタミン病タンパク質としては、Httタンパク質、アタキシン1、アタキシン2、アタキシン3、アタキシン6、アタキシン7、TATA結合タンパク質、アトロフィン、アンドロジェン受容体等が挙げられ、Httタンパク質であることが好ましい。
アルツハイマー型認知症もしくはFTLD等の発症は、アミロイドβとタウタンパク質、もしくは、タウタンパク質、TDP43タンパク質、FUSタンパク質などの異常凝集に伴うことが知られている。
ハンチントン病の発症は、Httタンパク質の異常凝集に伴うことが知られている。
第1の態様に係る予防又は治療剤において、上記神経変性疾患タンパク質の異常凝集を伴って発症する神経疾患が、アルツハイマー型認知症、FTLD又はHDであることが好ましい。
非経口投与に適した製剤形態として、例えば安定剤、緩衝剤、保存剤、等張化剤等の添加剤を含有したものは挙げられ、さらに薬学的に許容される担体や添加物を含むものでもよい。このような担体及び添加物の例として、水、有機溶剤、高分子化合物(コラーゲン、ポリビニルアルコールなど)、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ツルビトール、ラクトース、界面活性剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明の第2の態様に係る発明は、神経変性疾患タンパク質と直接相互作用するタンパク質の親和性に対する被験物質の影響を指標として、上記神経変性疾患タンパク質の異常凝集を伴って発症する神経疾患に対する予防又は治療剤をスクリーニングする方法である。
第2の態様に係るスクリーニング方法において、スクリーニングとは、上記神経変性疾患タンパク質と直接相互作用するタンパク質の親和性に対する被験物質の影響を指標として、被験物質の母集団を少なくとも絞ることを意味する。
第2の態様に係るスクリーニング方法において、上記神経変性疾患タンパク質と直接相互作用するタンパク質としてはKu70タンパク質等が挙げられる。
第2の態様に係るスクリーニング方法において、上記予防又は治療剤が、上記神経変性疾患タンパク質の凝集の動態を変化させる化合物であることが好ましい。
合成ペプチド(オリゴないしポリペプチド)ライブラリー、化合物ライブラリー又は仮想ライブラリーの構築は当業者に公知であり、また市販の合成ペプチド(オリゴないしポリペプチド)ライブラリー、仮想ライブラリー、化合物ライブラリー又は仮想ライブラリーを使用することもできる。
なお、後述の実施例においては、19468種の低分子化合物ライブラリー、3010321種の仮想ライブラリー、アミノ酸10残基以下のポリアミンライブラリーを用いた。
上記被験物質としては、ヘプタ−ヒスチジン、アンジオテンシンIII、LH−RH4−10ペプチド断片、ヘプタ−グルタミン、ケンプチド酢酸塩、及びそれら化合物と同一性80%以上のアミノ酸配列からなりかつ上記神経変性疾患タンパク質と直接相互作用するタンパク質に対する親和性を有する化合物、並びに、ノルジヒドログアイアレチン酸エステル、スフィンゴシン−1−フォスフェート、及びそれら化合物の化学修飾化合物よりなる群から選択される少なくとも1つの化合物であることがより好ましい。
第2の態様に係るスクリーニング方法において、スクリーニング方法としては、神経変性疾患タンパク質と直接相互作用するタンパク質(例えば、Ku70タンパク質)に対する被験物質の親和性を指標とする限り、インビボ(in vivo)、インビトロ(in vitro)、インシリコ(in silico)等の任意のスクリーニング方法であってもよい。
単一分子蛍光分光法によれば、タンパク質−タンパク質間相互作用(タンパク質のいずれか一方を蛍光標識することが好ましい。)を、被験物質存在下における測定値と、被験物質非存在下における測定値とを比較することにより、被験物質の上記タンパク質に対する親和性を測定することができる。
後述の実施例においては、タンパク質精製のためのHisタグを付したKu70タンパク質(以下、Hisタグ−Ku70タンパク質ともいう。)を任意の蛍光試薬で蛍光標識したKu70タンパク質と、タンパク質精製のためのGST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)タグを付したHttタンパク質(以下、GST−Httタンパク質ともいう。)とを用いてタンパク質−タンパク質間相互作用を測定した。
単一分子蛍光分光法に用いる装置としてはMF20(オリンパス社製)等が挙げられる。
変異HttExon1と相互作用することが知られているKu70タンパク質のN末端領域であるサイト4(非特許文献2)と、被験物質との分子ドッキングシミュレーションを行うことが好ましい。
分子ドッキングシミュレーションは、例えば、ディスカバリースタジオ2.5(Dassault Systems BIOVIA社製)によって行うことができる。
LibDockはレセプター上の結合サイトへのリガンドのドッキングのためのハイスループットアルゴリズムである。
LibDockスコアによりリガンドの親和性を測定することができる。
第2の態様に係るスクリーニング方法において、インビボにおけるスクリーニング工程としては、ショウジョウバエHDモデル及びマウスHDモデルよりなる群から選択される少なくともいずれかのモデルに被験物質を投与して、寿命、体重又は運動神経機能を評価して、上記予防又は治療剤候補を選定するスクリーニング工程であることが好ましい。
上記ショウジョウバエHDモデルは、OK6運動ニューロン固有のドライバの制御下で、運動ニューロン内でHttタンパク質を発現し、化学的又は遺伝的スクリーニングにおける表現型マーカーとして寿命を使用することができる。
例えば、一般的な5%水準で検定を行うのであれば、このときの有意確率(P)が0.05未満になる場合に、帰無仮説を棄却して、被験物質投与群と、被験物質非投与群との間に有意差ありとすることができる。
第2の態様に係るスクリーニング方法は、インビボにおいて、アルツハイマー型認知症生物モデル、FTLD生物モデル又はHD生物モデルに被験物質を投与して、寿命、体重又は運動神経機能(例えばロータロッド)等を評価して、上記予防又は治療剤候補を選定するスクリーニング工程を更に含むことがより好ましい。
上記ポリグルタミン病タンパク質としては、Httタンパク質、アタキシン1、アタキシン2、アタキシン3、アタキシン6、アタキシン7、TATA結合タンパク質、アトロフィン、アンドロジェン受容体等が挙げられ、Httタンパク質であることが好ましい。
第2の態様に係るスクリーニング方法において、上記神経変性疾患タンパク質の異常凝集を伴って発症する神経疾患が、アルツハイマー型認知症、FTLD又はHDであることが好ましい。
図1に示したように、インビトロにおいて、上記被験物質の上記タンパク質に対する親和性を単一分子蛍光分光法により評価して、上記予防又は治療剤候補を選定する工程と、インシリコにおいて、上記被験物質の上記タンパク質に対する親和性を分子ドッキングシミュレーションにより評価して、上記予防又は治療剤候補を選定する工程とを組み合わせて第1のスクリーニング工程とし、
第1のスクリーニング工程で選定された上記予防又は治療剤候補を、上記タンパク質に対する親和性を単一分子蛍光分光法により評価して、上記予防又は治療剤候補を更に選定する工程を第2のスクリーニング工程とし、
第2のスクリーニング工程で選定された上記予防又は治療剤候補を、インビボにおけるスクリーニング工程としては、ショウジョウバエHDモデルに投与して、寿命を評価して、上記予防又は治療剤候補を更にまた選定するスクリーニング工程を第3のスクリーニング工程とし、
第3のスクリーニング工程で選定された上記予防又は治療剤候補を、マウスHDモデルに投与して、寿命、体重又は運動神経機能を評価して、上記予防又は治療剤候補を更にまた選定するスクリーニング工程を第4のスクリーニング工程とすることもできる。
例えば、神経変性疾患タンパク質の異常凝集を伴って発症する神経疾患患者のiPS細胞から分化した初代ニューロンの形態学的異常の治癒を、任意のマーカーを認識する任意の蛍光標識抗体を使用して顕微鏡観察により確認することができる。
まず、インビトロにおける単一分子蛍光分光法によるスクリーニング工程において使用するGST−Httタンパク質及びHisタグ−Ku70タンパク質を調製した。
(GST−Httベクター及びHis−Ku70ベクターの構築)
110又は20CAGリピートを含むヒトHtt遺伝子エクソン1のcDNAをpGEX−3X(GEヘルスケア社製)にサブクローニングした。
マウスKu70 cDNAは、5’−AAAGGATCCATGTCAGAGTGGGAGTCCTA−3’プライマー(配列番号6)及び5’−AAACTCGAGTGTTCTTCTCCAAGTGTCTGA−3’プライマー(配列番号7)を用いて、RIKEN full−length enriched mouse cDNAライブラリーから増幅し、pET28(a)(クロンテック社製)のBamHI部位及びXhoI部位にサブクローニングした。
GST−Httタンパク質のためのプラスミド及びHisタグ−Ku70タンパク質のためのプラスミドは、大腸菌ロゼッタ(DE3)(Novagen社製)のコンピテントセルに形質転換した。
形質転換細胞は37℃、200rpmでシェーカーで培養した。波長600nmにおけるODが0.3に達したときに、IPTG(1.0mMの最終濃度)を添加し、さらに37℃2時間200rpmでインキュベートした。
大腸菌細胞を遠心分離により回収し、GST−Httタンパク質については0.1%Tween20、0.1%リゾチーム(Sigma社)、及び1/500プロテアーゼ阻害剤カクテルIII−EDTAフリー(Calbiochem社製)を含むPBS20ml中で溶菌し、Hisタグ−Ku70タンパク質については、10mMイミダゾール、1%トリトンX−100、及び1/500プロテアーゼ阻害剤カクテルIII−EDTAフリー(pH8.0)を含むPBS20ml中で溶菌した。
GST−Httタンパク質については、0.1%Tween20を含有するPBSで平衡化した50%グルタチオンセファロース4B(GEヘルスケア社製)の4mlに上清を混合し、Hisタグ−Ku70タンパク質については、0.1%Tween20を含有するPBSで平衡化したNi−NTAアガロース(Qiagen社)の4mlに上清を混合した。その後、4℃で3時間ゆっくり回転した。GST−Htt懸濁液は、0.1%Tween20を含有するPBS32ml(pH8.0)で洗浄したグルタチオンセファロース4Bカラムに4℃で適用し、4℃で0.1%Tween20を含むPBS中10mMグルタチオン4mlで重力流により4回溶出した。
Hisタグ−Ku70懸濁液は、1%トリトンX−100を含有するPBS中20mMイミダゾール32ml(pH8.0)で洗浄したNi−NTAアガロースカラムに4℃で適用し、250mMイミダゾール中の10mMグルタチオン4mlで重力流により4回溶出した。
各画分を、0.01%Tween20を含有するPBSの2Lで2回、4℃で12時間透析し、撹拌した。
タンパク質標識キット(488nm及び633nm)(オリンパス社製)を用いて精製されたKu70タンパク質を蛍光色素で標識した。
室温で共焦点レーザー顕微鏡を使用して384ウェルのガラス底プレートの40μl/ウェルのサンプルの単一分子蛍光を検出するMF20(オリンパス社製)を用いて蛍光強度分布解析分極(FIDA−PO)分析及び蛍光相関分光法(FCS)分析を行った。
各サンプルは、0.01%Tween20及び1%DMSOを含有するPBS中5nMの蛍光標識Ku70タンパク質を含有した。
FIDA−PO及びFCSの取得したデータはボンフェローニ/ダン検定を用いて分析した。合計で、東京医科歯科大学のケミカルバイオロジースクリーニングセンター(http://mechpc5.tmd.ac.jp:3000/cbdb)からの19,468種の化合物を第1スクリーニングとしてスクリーニングした。
その結果のトップ177を第2スクリーニングである、再度の単一分子蛍光分光法によるインビトロスクリーニングに供した。
全てのドッキングシミュレーションは、ディスカバリースタジオ2.5(Dassault Systems BIOVIA社製)及び市販化合物のデータベースChemical Available Purchase(CAP)2006(Dassault Systems BIOVIA社製)を用い、LibDockを使用して行った。
ポリ(アミノ酸)の構造(10残基以下)は、「Build and Edit Protein」コマンドを使用して生成し、ディスカバリースタジオ3.0における結合シミュレーションに使用した。
DNAに結合したKuヘテロダイマーの結晶構造(PDB ID:1JEY)を、構造バイオインフォマティクス研究コラボレート(RCSB)タンパク質データバンク(PDB)からダウンロードし、単離されたKu70の結晶構造は複合体(1JEY)からインポートした(http://www.rcsb.org/pdb/explore/explore.do?structureid=1JEY)。
結果を図2(a)、(b)に示す。
Ku70タンパク質のN末端領域であるサイト4は、変異HttExon1と相互作用することが知られている(非特許文献2)。
図2(a)から明らかなように、N末端領域であるサイト4にある窪みにポリQが結合することがわかった。
7Q以上の長さのポリQはソフトウエアのアルゴリズムの限界と思われる原因によりシミュレートし得なかった。
図2(c)は、サイト4に対する1〜10残基の様々なポリアミノ酸のLibDockスコアを示す図であり、(d)は様々な長さのポリHのLibDockスコアを示す図である。
図2(c)及び(d)から明らかなように、7Hが最もサイト4に対して親和性が高いポリアミノ酸であることがシミュレートされた。
その結果のトップ20を第2スクリーニングの単一分子蛍光分光法によるインビトロスクリーニングに供した。
<第2スクリーニングとしての単一分子蛍光分光法によるインビトロスクリーニング>
第1スクリーニングとしての単一分子蛍光分光法によるインビトロスクリーニングと同様な方法により第1スクリーニングで選抜された化合物を更にスクリーニングした。
その結果、59種の化合物が選抜された。
59種の化合物のうちの3種は合成困難であったことから、56種について、以下の第3スクリーニングとしてのショウジョウバエHDモデルを用いたインビボスクリーニングに供した。
(ハエの調製)
全てのハエは、特に断りのない限り、コーンミール培地(9.2%コーンミール、3.85%酵母、3.8%スクロース、1.05%酒石酸カリウム、0.09%塩化カルシウム、7.6%グルコース、2.416%のnipagin、1%寒天)で飼育し、12時間:12時間の明暗サイクルで25℃湿度60%±10%で維持した。
UAS−Htt103Qトランスジェニックハエ及びOK6−Gal4トランスジェニックハエ(Tamura,T.et al.Ku70 alleviates neurodegeneration in Drosophila models of Huntington’s disease.PLoS One6,e27408(2011).)を交配して、F1処女雌ハエを、寿命のスクリーニングに供した。
スクリーニングのための化合物又はペプチドは、5mMで蒸留水又はエタノールに溶解させ、9倍量のコーンミール培地で500μMの最終濃度になるように均一に混合した。
対照培地として蒸留水又はエタノールのみ加えた。
20匹の処女雌ハエは、バイアルごとに維持し、2〜3日ごとに新鮮な培地を使用した新しいバイアルに移した。死んだハエの数を2〜3日ごとに定量した。
ハエモデルの寿命アッセイ及び後述のマウスモデルの寿命アッセイのために、ログランク検定を用いた。他の生物学的分析は、データが正規分布に従うとみなされ、平均±標準誤差として表した。スチューデントt−検定は2群比較(化学処理群対PBS適用群)のために適用した。多重グループの比較のため、チューキーのHSD検定またはDunnettの比較を適用した。有意水準1%又は5%に設定した。
図3に示したように、6の化合物で寿命延長効果がみられた。
すなわち、p<0.01でのログランク検定での寿命延長効果が、7H、アンジオテンシンIII、ケンプチド酢酸塩で見られた。
また、p<0.05でのログランク検定での寿命延長効果が、7Q、LH−RH4−10ペプチド断片、ノルジヒドログアイアレチン酸エステルで見られた。
寿命の延長は長くはなかったが、再現性ある結果であった。
結果を下記表1にまとめる。
上記6化合物のうち、7H、アンジオテンシンIII、LH−RH4−10ペプチド断片を第4スクリーニングとしてのマウスHDモデルを用いたスクリーニングに供した。
(マウスの体重試験)
上記化合物を50μg/g体重で腹腔内注入し体重変化を測定した。
結果を図4(a)に示す。
図4(a)から明らかなように、R6/2マウスは約9週齢で体重が減少に転じた。
この体重減少は死ぬまで続くが、7H、アンジオテンシンIIIの投与により体重減少が抑制されていることがわかる(各週齢でp<0.01又はp<0.05)。
マウスは、12時間の明/暗サイクル(午前8:00に点灯し午後8:00に消灯)で22℃で維持し、水及び標準飼料ペレット(クレア齧歯類ダイエットCE−2、日本クレア社製)を自由に摂取させた。ログランク検定を用いて生存曲線を分析した。
ロータロッド試験のために、マウスをロータロッド(軸径:3.2cm、車線幅5.7cm、高さ落下16.5cm;ファイブステーションロータロッドスタンドアロンフォアマウス、ENV−577M、MEDアソシエイツ社製)上に置き、回転速度を300秒間に0rpmから35rpmまで直線的に増加し、(4〜12週齢のマウス用に)追加の60秒間35rpmに維持した。
マウスに対し3日間連続の3回の試験を行った。
図4(b)から明らかなように、7Hは運動機能の改善がみられるが、アンジオテンシンIIIは運動機能の明白な改善は見られなかった。
雄のR6/2マウス及びそれらのバックグラウンドマウス(CBA/J)は、12時間の明/暗サイクル(午前8:00に点灯し午後8:00に消灯)で22℃に維持し、各実験の開始に先立って、水及び標準飼料ペレット(クレア齧歯類ダイエットCE−2、日本クレア社製)を自由に摂取させた。
PBSに溶解した化合物を3週齢から週一回の50μg/g体重でマウスに腹腔内注射した。生存率をログランク検定を用いて分析した。
図4(c)から明らかなように、7H及びアンジオテンシンIIIはいずれも寿命延長効果がみられた(p<0.05)。
一方、LH−RH4−10ペプチド断片については、3回の試験では寿命延長効果は確認できなかった。
結果を表2にまとめる。
(DLS分析(1))
DLSは、ゼータサイザーμV機器(マルバーン社製)で、化合物の存在下及び非存在下でハンチンチンの凝集の時間経過をモニターした。10μMのタンパク質を、6日間PBS緩衝液中で25℃で各3種の化合物500μMとともにインキュベートし、そのDLSシグナルを数時間毎に記録した。用語「Z平均サイズ」は、「凝集の指標(ISO−22412:2008)」として適用した。各測定は4回繰り返し、4回の測定の平均値を算出した。
結果を図5に示す。
図5中、対照は化合物非存在下10μMのGST−HttExon1−110Qである。
No.1は500μMの7H存在下であり、No.2は500μMのアンジオテンシンIII存在下であり、No.3は500μMの黄体形成ホルモン放出ホルモン断片4−10存在下である。
驚くべきことに、ハエ及びマウスHDモデルにおいてHD予防ないし治療効果を示した7H及びアンジオテンシンIIIがHttの凝集を阻害するよりはむしろ促進していることがわかる。
以上から、7H、アンジオテンシンIIIのように、GST−HttExon1−110Qの凝集の動態を少なくとも変化させることにより、神経疾患に対する予防又は治療剤候補になるといえる。
ゼータサイザーμV機器(マルバーン社製)を用いて、図6(a)に示すようにタウタンパク質における244〜369番目のアミノ酸残基からなる微小管結合ドメイン(MBD)における306〜337番目のR3イソフォームペプチド断片の凝集の時間経過を化合物の存在下及び非存在下でモニターした。
用いたR3イソフォームペプチド断片は以下の通りである。
フルオレセイン−V306QIVYKPVDLSKVTSKCGSLGNIHHKPGGGQ336−NH2(配列番号8)
結果を図6(b)に示す。
図6(b)中、対照は化合物非存在下10μMのR3イソフォームペプチド断片である。
No.1は500μMの7H存在下であり、No.2は500μMのアンジオテンシンIII存在下であり、No.3は500μMの黄体形成ホルモン放出ホルモン断片4−10存在下である。
図6(b)に示した結果から明らかなように、7H存在下のNo.1は、R3イソフォームペプチド断片の凝集が対照に対して1/10に抑制されているのに対し、アンジオテンシンIII存在下のNo.2は、R3イソフォームペプチド断片の凝集が対照に対して4〜10倍増加していることが分かる。また、黄体形成ホルモン放出ホルモン断片4−10存在下のNo.3は、R3イソフォームペプチド断片の凝集が対照とほぼ同程度であることが分かる。
以上から、7H、アンジオテンシンIIIは少なくとも、タウタンパク質の凝集の動態を変化することが分かり、アルツハイマー型認知症、FTLD等の神経疾患に対する予防又は治療剤候補であるといえる。
7H及びアンジオテンシンIII、及びLH−RH4−10ペプチド断片について、ヒトHD患者のiPS細胞から分化した初代ニューロンの形態学的異常に対する治療効果を確認した。
(iPS細胞の培養)
201B7は、RIKEN BRC(https://ja.brc.riken.jp)に由来する。HD患者のCS92iHD−57n9のiPS細胞はコーリエル医学研究所で樹立していた(https://catalog.coriell.org)。
iPS細胞の生成中発生する可能性がある異常核型の可能性を排除するためにiPS細胞株(201B7及びCS92iHD−57n9)の標準的なG−バンディング分析を実施した。
Chaddah,R.,Arntfield,M.,Runciman,S.,Clarke,L.&van der Kooy,D.Clonal neural stem cells from human embryonic stem cell colonies. J Neurosci 32,7771−7781(2012)に準じてiPS細胞の神経分化を行った。
簡単に述べると、iPS細胞が10cmの皿に播種し3μMのSB431542、3μMのCHIR99021及び3μMのデソモルヒネとともに5日間超維持した。次に、iPS細胞は、フィーダー層から剥離し、単一細胞に解離し、20ng/mlのbFGF、10ng/mLのhLIF、10μMのY27632、3μMのCHIR99021及び2μMのSB431542を伴う2×B27補充KBM培地(KHOJIN BIO社製)で10cmの細胞撥皿内で懸濁培養条件で培養しニューロスフェアを形成した。
ニューロスフェアは2回継代し、接着培養法(B27及びグルタマックスを補充したDMEM/F12)を用いて、神経細胞に分化した。ニューロンは、ポリ−L−オルニチン被覆カバーガラス及びポリ−L−リジン被覆カバーガラスに14−21日間付着させた。
細胞を、氷上で15分間、4%パラホルムアルデヒドを含有するPBSで固定し、以下のタンパク質に対する一次抗体とインキュベートした。:SSEA1(1:1000、Abcam社、ab16285)、Nanog(1:200、RCAB0004PF、リプロセル社)、βIIIチューブリン(1:1000、T8660シグマケミカル社)、αSMA(1:150、M085101、ダコ社)、及びSOX17(1:500、ab84990、アブカム社)。
次いで、細胞をPBSで洗浄し、アレクサフルオロ488結合二次抗体、アレクサフルオロ555結合二次抗体、又はアレクサフルオロ647結合二次抗体(1:500、Invitrogen社製)とインキュベートした。
また、図7(b)に示した結果から明らかなように、分化14日目で樹状突起の長さ及び分岐点数の回復が確認された。
また、図7(c)に示した結果から明らかなように、分化14日目にPSD95を使用した免疫細胞化学により7H及びアンジオテンシンIIIの添加によりスパイン密度が回復したことを明らかになった。
しかし、図7(d)に示した結果から明らかなように、図5に示したDLSの結果から予想されたように、7H、アンジオテンシンIII、及びLH−RH4−10ペプチド断片の投与群は、Htt包含体陽性神経細胞数は減少しなかった。
以上から、Htt包含体形成とは無関係にヒト神経細胞に対する7H、アンジオテンシンIII、及びLH−RH4−10ペプチド断片のHD治療効果が確認された。
変異Httノックインマウス(Wheeler, V.C., Auerbach, W., White, J.K., Srinidhi, J., Auerbach, A., Ryan, A., Duyao, M.P., Vrbanac, V., Weaver, M., Gusella, J.F. et al. (1999) Length−dependent gametic CAG repeat instability in the Huntington’s disease knock−in mouse. Hum. Mol.Genet., 8, 115−122.)を使用して、69週目(60週付近の症状発症後2か月以上後)にスフィンゴシン−1−フォスフェート(以下、S1Pともいう。)を髄腔内連続注射(200mM、0.15μl/時間)を開始した。
結果を図8及び9に示す。図8及び9中、データは平均±標準誤差として示した。チューキー検定におけるp値:*はp<0.05、**はp<0.01。図中n.s.は有意差なし。
WT(対照:C57BL/6)マウスは、上記と同じプロトコルでPBSの髄腔内注射を受けたマウスである。
図8から明らかなように、S1Pで一週間後に劇的な効果が観察され、改善は73週の観察まで継続された。注目すべきことに、処理後に運動機能の衰退が発生しなかったことがわかる。
ヒッポ経路はMstとLatsを活性化し、その後、YAPをリン酸化し、YAPの核移行を防止する。これは、ヒッポ経路の活性化が、細胞増殖及び生存を阻害することを意味する(Harvey, K. and Tapon, N. (2007) The Salvador−Warts−Hippo pathway−an emerging tumour−suppressor network. Nat. Rev. Cancer, 7, 182−191.)。
一方、S1Pの投与は核YAPシグナルの減少を回復するのに対し、Htt包含体陽性細胞数を減少させなかった。
図9(b)から明らかなように、73週齢で、変異Htt−KIマウスのRSDの皮質ニューロンにおいてER不安定性が増加したのに対し、S1Pは不安定性を回復した。
図9(a)及び(b)に示した結果から、凝集体とは無関係に、S1PはYAPの核移行を増やすことで、核内部のYAPを増やし、S1PがYAP増加による治療効果を示すことが示唆される。
Claims (3)
- 神経変性疾患タンパク質の異常凝集を伴って発症する神経疾患に対する予防又は治療剤であって、
前記「神経変性疾患タンパク質の異常凝集を伴って発症する神経疾患」が、ハンチントン病、タウタンパク質の異常凝集を伴って発症するアルツハイマー型認知症又はタウタンパク質の異常凝集を伴って発症する前頭側頭葉変性症であり、
前記神経疾患がハンチントン病であるとき、ヘプタ−ヒスチジン、アンジオテンシンIII、SYGLRPG(配列番号3)−NH2で表される黄体形成ホルモン放出ホルモンペプチド断片4−10、ヘプタ−グルタミン、ケンプチド酢酸塩、並びに、スフィンゴシン−1−フォスフェート、及びその化合物の構成炭素原子の任意の位置の炭素数1〜3の直鎖状又は分岐状アルキル基によるアルキル化修飾化合物よりなる群から選択される少なくとも1つの化合物を有効成分とし、
前記神経疾患がタウタンパク質の異常凝集を伴って発症するアルツハイマー型認知症又はタウタンパク質の異常凝集を伴って発症する前頭側頭葉変性症であるとき、ヘプタ−ヒスチジン、又はアンジオテンシンIIIを有効成分とする、予防又は治療剤。 - 神経変性疾患タンパク質と直接相互作用するタンパク質の親和性に対する被験物質の影響を指標として、前記神経変性疾患タンパク質の異常凝集を伴って発症する神経疾患に対する予防又は治療剤をスクリーニングする方法であって、
前記「神経変性疾患タンパク質の異常凝集を伴って発症する神経疾患」が、ハンチントン病、タウタンパク質の異常凝集を伴って発症するアルツハイマー型認知症又はタウタンパク質の異常凝集を伴って発症する前頭側頭葉変性症であり、
前記神経疾患がハンチントン病であるとき、前記被験物質がヘプタ−ヒスチジン、アンジオテンシンIII、SYGLRPG(配列番号3)−NH2で表される黄体形成ホルモン放出ホルモンペプチド断片4−10、ヘプタ−グルタミン、ケンプチド酢酸塩、並びに、スフィンゴシン−1−フォスフェート、及びその化合物の構成炭素原子の任意の位置の炭素数1〜3の直鎖状又は分岐状アルキル基によるアルキル化修飾化合物よりなる群から選択される少なくとも1つの化合物であり、
前記神経疾患がタウタンパク質の異常凝集を伴って発症するアルツハイマー型認知症又はタウタンパク質の異常凝集を伴って発症する前頭側頭葉変性症であるとき、前記被験物質がヘプタ−ヒスチジン、又はアンジオテンシンIIIである、方法。 - 前記神経変性疾患タンパク質と直接相互作用するタンパク質に対する前記被験物質の親和性を単一分子蛍光分光法により測定する工程を含む請求項2に記載のスクリーニングする方法。
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