以下、図面を参照しながら、本発明に係る中空構造体の実施の形態を詳細に説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
(中空構造体の構造)
まず、実施の形態に係る中空構造体10の構造について説明する。図1は、実施の形態に係る中空構造体10の構造を例示する図である。本実施の形態では、中空構造体10の一例として、医療・ヘルスケア分野などで利用されるマイクロニードルアレイを例に挙げて説明する。しかし中空構造体10の適用例はこれに限定されない。図1(a)は本実施の形態の中空構造体10を斜めから見た斜視図、図1(b)は本実施の形態の中空構造体10を上方から見た平面図、図1(c)は中空構造体10を横から見た図1(a)のI−I線に沿う縦断面図である。
図1(c)を参照して中空構造体10の構造を説明する。図1(c)に示すように、中空構造体10は、基体11と、基体11から突出する突出部13と、を有する。基体11には、第1の中空部12aが設けられている。突出部13には、第1の中空部12aと外部とに連通する第2の中空部12bが設けられている。この例では、基体11には、複数の第1の中空部12aが設けられ、複数の第1の中空部12aごとに突出部13が設けられている。つまり、基体11には、複数の第1の中空部12aと1対1に対応する複数の突出部13が設けられている。以下では、説明の便宜上、第1の中空部12aと、該第1の中空部12aと連続する第2の中空部12bとを合わせて中空部12と称する場合がある。
また図1(b)で参照されるように、突出部13及び第1の中空部12aは、平面視において行列上に配置される。なお、基板11に設けられた複数の第1の中空部12aは、連続する隔壁15によって仕切られている。つまり隣り合う第1の中空部12aは隔壁15を共有している。
なお、便宜上、基体11において突出部13側を上側又は一方の側、その反対側を下側又は他方の側とする。又、各部位の突出部13側の面を上面又は一方の面、その反対側の面を底面又は他方の面とする。但し、中空構造体10は天地逆の状態で用いることができ、又は任意の角度で配置することができる。そして、平面視とは対象物を基体11の上面11aの法線方向から視ることを指し、平面形状とは対象物を基体11の上面11aの法線方向から視た形状を指すものとする。
以下、中空構造体10の各構成要素について詳説する。中空構造体10において、第1の中空部12aは基体11の底面を貫通しておらず、第1の中空部12aの下面側は閉鎖されている。第1の中空部12aの形状は、例えば、略正四角柱状や略正六角柱状、略正円柱状とすることができる。特に略正六角柱状とした場合は、中空構造体10は、略正六角柱状の第1の中空部12aを行列状に配置したハニカム構造とすることもできる。第1の中空部12aのピッチPは、例えば、400μm程度とすることができる。このピッチPは突出部13のピッチであると考えることもできる。隣接する第1の中空部12a間の隔壁15の最薄部の厚さtは、例えば、20μm程度とすることができる。
また、第1の中空部12aごとに設けられる突出部13は中空形状であり、突出部13には第2の中空部12bが設けられている。突出部13は上下方向に貫通しており、突出部13の上側の開口である第2の開口部14bは、外側と連通しており、解放されている。突出部13の下側の開口である第1の開口部14aは、第1の中空部12aと連通している。つまり、第2の中空部12bにおいて、第1の中空部12aと連通する開口が第1の開口部14aであり、外部と連通する開口が第2の開口部14bである。第1の中空部12aと第2の中空部12bの間に物理的な障壁は存在しない。しかし本実施の形態では、便宜上、第1の中空部12aと第2の中空部12bの境界は、基体11の上面であると定義する。なお、以後は基体11の上面を表面部11aと定義する。
第2の中空部12bの形状は、例えば、突出部13の先端に向けて先細りしており、略円すい状や略四角すい状とすることができる。本実施の形態では、突出部13は先細り形状となっているため、第2の開口部14bの面積は、第1の開口部14aの面積よりも小さい。範囲としては、第2の開口部14bの径φ2は、第1の開口部14aの径φ1の5分の1以下であることが好ましい。なお、中空構造体10をマイクロニードルとして利用する際の一例としては、第2の開口部14bの径φ2は30μm以下であることが好ましい。かつ、第1の開口部14aと第2の開口部14bとの距離が、40μm以上200μm以下であることがより好ましい。これらの数値範囲をとることで破壊されにくく、中空部12に色々な液体を注入することができ、かつさまざまな用途に使用が可能である。この例では、第2の開口部14bの径φ2は30μm以下であり、例えばφ2を10μm程度とすることができる。第1の開口部14aの直径φ1は150μm程度とすることができる。また第1の開口部14a及び第2の開口部14bの平面形状は略楕円や略正円、略多角形など、様々な形状をとりえる。
また、突出部13の先端は針形状である。突出部13の先端が針形状であることで、使用用途が広がる。また、突出部13の先端が針形状であることで、中空構造体10を後述の製造方法で製造したあとに、突出部13の針形状部分の長さを適宜切り取るなどして調整することが可能である。よって、たとえば複数の中空部12が設けられた中空構造体10を製造する場合でも、ひとつの中空構造体10において、第1の開口部14aの径φ1や第2の開口部14bの径φ2をあわせて調整することができ、各突出部13の寸法安定性が担保された中空構造体10を得ることができる。
表面部11aから突出部13の先端までの高さH1は、例えば、150μm程度とすることができる。基体11の高さ(底面から表面部11aまでの高さ)H2は、例えば、650μm程度とすることができる。なお、ここで示した各形状と各数値は、あくまで一例である。これらの形状は図2を参照して後述するように、様々な形状をとりえる。また各数値は用途に応じて適宜決定することができる。以降の数値例についても同様である。
図2は、実施の形態に係る中空構造体の突出部13を例示する部分拡大断面図である。図2に示すように、突出部13は、様々な形状をとり得る。突出部13は、先端に向けてテーパ形状であることが好ましい。微細な突出部13は通常衝撃に弱いが、先端に向けてテーパ形状をとることで、突出部13の根本部分が折れることを防ぐ。このことから、中空構造体10を保管する際においても破壊を防ぎ、寸法安定性が担保される。
例えば、図2(a)に示すように、突出部13は、柱状形状の柱状部13sとテーパ形状のテーパ部13tとを含む構成とすることができる。図2(a)の例では、表面部11aと突出部13のテーパ形状が連続し、突出部13の先端に向かって、テーパ形状から柱状形状へと連続している。柱状部13sは、基体11の表面部11aに対して突出部13の外側の面である外側面13oが略垂直となる部分である。テーパ部13tは、基体11の表面部11aに対して、突出部13の内側の面である内側面13iまたは外側面13oが、突出部13の先端に向かって指数関数的に先細りとなる部分である。
なお柱状部13sの壁面の厚さ(内側面13iと外側面13oとの距離)は、1μm以下程度と極薄く形成されている。よって、内側面13iと外側面13oは柱状部13sにおいて略並行であり、基体の表面部11aに対して略直角である。すなわち、柱状部13sは上下方向の位置によらず、第2の中空部12bの中空形状の直径は一定と言える。一方で、テーパ部13tは上方に行くほど中空形状の直径が小さくなる。
以上に突出部13が柱状部13sとテーパ部13tとを含む構成を説明した。また図2(b)のように、突出部13はテーパ部13tのみから構成される形態であってもよい。
突出部13を、柱状部13sを含む構成とすることにより、成形加工のばらつきを吸収して第2の開口部14bの直径φ2の寸法安定性を向上できる。すなわち、第2の開口部14bの直径φ2の寸法ばらつきを小さくできる。又、後述の製造方法で詳説するが、加工条件を変えることにより、同一のテンプレートで第2の開口部14bの直径φ2を変えずに突出部13の長さのみを変えることができる。
突出部13を、テーパ部13tを含む構成とすることにより、内部応力が拡散しやすくなり、突出部13の強度を向上できる。
また突出部13を、テーパ部13tのみから構成する場合は、突出部13の先端に向かうに連れて、第2の開口部14bの面積は小さくなる。よって突出部13の長さ(表面部11aから突出部13先端までの高さ)を調整することで、第2の開口部14bの直径φ2を可変に設定できる。つまり、用途に応じて突出部13の長さを調整することで、第2の開口部14bの直径φ2を所望の値に設定することができる。また同じテンプレートを用いても、加工条件を第2の開口部14bの直径φ2の寸法を制御することができる。その結果、テンプレートの種類を増やすことなく、製造コストを低減できる。なお、第1の開口部14aの直径φ1が可変であることについては、後述のテンプレートの形状で詳しく説明する。
突出部13は中空形状かつ微細な針形状で、製造時及び使用時に破損しやすい。そこで突出部13の土台となる、基体の表面部11aから突出部13へと連続する部分の壁面を厚くすることで、破損を防ぐことができる。そこでテーパ部13tの壁面の厚みは、突出部13の先端から基体の表面部11aに連れて肉厚となることが好ましい。
次に、本実施の形態に係る中空構造体10の形成材料について示す。
中空構造体10は、中空構造体形状への変形過程では流動性と延性(薄膜化で破損しない性質)を持ち、又、形成後は固化する、塑性変形機能を有する材料から形成される。塑性変形機能の一例として刺激硬化性がある。刺激は、たとえば、光(紫外線、赤外線など)、熱、電気、などである。本実施の形態では、中空構造体形成材料の一例として、紫外線照射により硬化する紫外線硬化性樹脂を用いて説明する。
中空構造体形成材料は、本実施の形態に限定されず、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を用いてもよい。また中空構造体形成材料は樹脂に限定されず、塑性変形機能を有する金属を用いてもよい。
次に、本実施形態の中空構造体10の適用例を示すが、実施用途はこの一例に限定されるものではない。
複数の第1の中空部12aおよび突出部13が配列された中空構造体10は、例えば、図1(a)のようなパッチ形状のマイクロニードルアレイとして用いることができる。具体的には、突出部13に設けられた第2の開口部14bから中空部12に薬液等の機能材料を注入し、皮膚等に突出部13の第2の開口部14bを押し当てる。そして、パッチの底部(基体11の突出部13と反対側の底面)から突出部13の方向に指等で押圧することにより、薬液等の機能材料を体内に注入することができる。パッチはテープ等で皮膚に貼り付けても良い。
中空構造体10は突出部13が設けられたことで、肌に直接触れやすくなり、毛等の障害物の影響を抑制することができる。又、中空構造体10は、例えば、突出部13の高さH1が150μm程度であり、突出部13がテーパ状に先細りとなり、かつ、突出部13の壁の厚さも突出部13の先端側ほど薄くなっている。そのため、楔効果が得られ、注射針と同様の効果を示し、表皮に容易に刺すことができる。
なお、中空構造体10をマイクロニードルアレイ以外に使用する場合であって、例えば、可騰性を有する固体に刺す場合には、対象物を切り裂いて第2の開口部14bが埋まることなく対象物に進入できる。
本実施の形態では、第2の開口部14bは、第1の開口部14aの面を並行にして設けているが、これに限定されない。後述する製造方法で中空構造体10を形成した後に、突出部13の先端を斜めに切ることで、第1の開口部14aの面と、第2の開口部14bの面とを傾斜させて、突出部13を対象物に刺しやすい形状とすることができる。
また製造方法で後述するが、中空構造体10において、隣接する第1の中空部12aや、第2の中空部12aと突出部13は一体化して形成されている。つまり、中空構造体10は、各第1の中空部12aや各突出部13を別に形成して接着等した構造ではない。この構造により、中空構造体10全体としての強度が大きくなると共に、中空部12内に液体等を入れた場合に液体等の漏れが生じ難くなる。
突出部13の高さH1が150μm程度の中空構造体10であれば、隔壁15の厚さtは10μmから20μm程度と薄いため、底部を押圧した際は第1の中空部12aを変形させることが可能である。このことで、中空部12から外部へ液体を効率的に排出させることができる上に、液体等の漏れも防ぐことができる。加えて、中空構造体10の底面や側面にテープ等で保護層を設けることで、液体を保持する中空構造体10の強度を増し、押圧時の破損を防ぐことができる。
なお、各中空部12には同一種の液体を注入する必要はなく、種類の異なる液体を注入してもよい。
(中空構造体の製造方法)
次に、実施の形態に係る中空構造体10の製造方法について説明する。図3、図4は、実施の形態に係る中空構造体10の製造工程を例示する図である。なお、本製造工程で使用する型のことを、明細書中でテンプレートと呼ぶこともある。図5は製造工程の中で加圧時のテンプレート380の逆テーパ部近傍の部分拡大をした断面図である。図5(a)が加圧前、図5(b)が加圧後を表す。図6は製造工程の中で減圧時のテンプレートの逆テーパ部近傍の部分拡大をした断面図である。図6(a)が減圧前、図6(b)が減圧後を表す。
本実施の形態に係る中空構造体10の製造方法は、上面から深さ方向に離れるほど径が小さくなる凹部390有する型(テンプレート380)の上面に、塑性変形機能を有する中空構造体形成材料342を設ける第1の工程と、中空構造体形成材料342をテンプレート380側に押圧し、中空構造体形成材料342を凹部390の少なくとも一部に進入させる第2の工程と、一部が凹部390に進入した状態の中空構造体形成材料342を気体(ガス)の圧力によって押し上げて、中空構造体形成材料342に中空部12を形成する第3の工程と、中空部12が形成された中空構造体形成材料342をテンプレート380からはがす第4の工程と、を有する。以下で詳説する。
まず、第1の工程として図3(a)に示す工程では、テンプレート380を準備する。テンプレート380は、中空構造体10となる中空構造体形成材料342を膨らませ、中空構造体形状を形成するための部材であり、中空構造体10の表面形状やピッチを決定する。テンプレート380は、例えば、ニッケル、シリコン、ステンレス、銅等を用いて形成することができる。
本実施の形態で用いるテンプレート380は、ガス透過性を有する高分子物質で構成される。より具体的には、テンプレート380は、ゴムの一例であるシリコーンゴム(PDMS)で構成される。図7に示すように、テンプレート380は、上面380aから深さ方向に形成された複数の凹部390を備えている。シリコーンゴム(PDMS)のようなガス透過性を有するテンプレート380を用いることにより、加圧時にガス加圧力が発生した際にテンプレート380内部にガスを溶解させ、減圧時にガス圧力が負圧になった際にテンプレート380内部からガスを噴出させることができる。
凹部390は、上面380aの近傍に逆テーパ部390tを形成している。より具体的には、凹部390は上面380a付近の径が大きく、テンプレートの上面380aから底面に向かうに連れて凹部390の径が小さくなる逆テーパ形状に形成されている。また、凹部390の深さ方向の長さは、所望の中空構造体10の突出部13の長さよりも長く設けられたテンプレート380を準備する必要がある。
次に、図3(b)に示す工程では、テンプレート380の上面380aを中空構造体形成材料342で被覆する。具体的には、保護材341と、予め保護材341にスピンコート法等により塗布した中空体形成材料342とからなる中空構造体基材340を、中空体形成材料342をテンプレート380側に向けて、テンプレート380の上面380aに配置する。
中空構造体形成材料342は、中空構造体形状への変形過程では流動性と延性(薄膜化で破損しない性質)を持ち、又、形成後は固化する材料である。中空体形成材料342としては、例えば、紫外線照射により硬化する紫外線硬化性樹脂を用いることができる。中空体形成材料342の厚さは、例えば、5〜200μm程度とすることができる。
中空構造体基材340をテンプレート380の上面380aに配置後、張り合わせ装置の加圧ローラ350により中空構造体基材340を矢印B方向に加圧しながら、加圧ローラ350を矢印C方向に移動させる。これにより、中空構造体基材340をテンプレート380の上面380aに貼り付けて密着させる。この際、中空構造体基材340とテンプレート380の上面380aとの間に気泡が入らないようにするため、中空構造体基材340の端部からテンプレート380の上面380aに貼り付けを開始することが好ましい。加圧ローラ350を矢印C方向に移動させる速度は、例えば、50mm/s程度とすることができる。
なお、この工程では、テンプレート380の凹部390に必要以上に中空構造体形成材料342が入り込まないように、矢印B方向に加圧する圧力の制御を行なっている。具体的には、矢印B方向の圧力は、次工程の押圧装置360の圧力よりも小さく設定されており、例えば、20kPa程度とすることができる。
次に、第2の工程として図3(c)に示す工程では、中空構造体形成材料342をテンプレート380側に押圧し、中空構造体形成材料342の一部を夫々の凹部390に進入させると同時に、中空構造体形成材料342の内部に含まれるガスをテンプレート380の内部に溶解させる。
凹部390と中空構造体形成材料342に囲まれた空間は密閉空間であり、密閉空間内の気圧(大気圧)よりもテンプレート380の外部の気圧を高くすることで、不均等力が発生し、中空構造体基材340はテンプレート380へと押圧される。それにともない、凹部390に中空構造体形成材料342が進入を開始する。なお、中空構造体形成材料342は高粘度であるため、流動抵抗が大きく、ある程度進入した時点で、流動速度は非常に遅くなる。
以下、本実施形態における図3(c)の工程の具体的な内容を説明する。図3(c)に示すように、テンプレート380に中空構造体基材340を積層した押圧対象物を、押圧装置360の容器内に配置する。押圧装置360は、中空構造体基材340とテンプレート380に均一及び所望の圧力を発生させる装置である。押圧装置360としては、例えば、所定の容器内に押圧対象物を配置し、容器内に空気を充填し空圧制御する装置を用いることができる。押圧装置360において、圧力媒体に空気等のガスを用いることにより、均一な圧力を発生することができる。
押圧対象物を押圧装置360の容器内に配置し、押圧装置360の空圧制御により押圧対象物を矢印D方向に押圧する。これにより、中空構造体形成材料342をテンプレート380に押し付けて変形させる。そして中空構造体形成材料342の一部を、テンプレート380の上面380aに設けられた複数の凹部390に進入させる。
この際、矢印D方向の圧力を制御することで、テンプレート380への中空構造体形成材料342の凹部390への進入量を制御することができる。矢印D方向の圧力は、前工程の加圧ローラ350の圧力よりも大きく設定されており、例えば、60kPa程度とすることができる。押圧時間は、例えば、60秒程度とすることができる。なお、第2の工程の押圧が終了した段階で、図5に示されるように、凹部390に進入した中空構造体形成材料342で充溢されずに、凹部390と進入した中空体形成材料342の間には中空形状が設けられることが好ましい。より具体的には、凹部390が、詳細はテンプレートの形状で後述する。
前述したように、本実施の形態では、テンプレート380はガス透過性を有する高分子物質で構成されることを特徴とする。より具体的には、テンプレート380の材料として、特にガス透過性が高いシリコーンゴム(PDMS)を用いているため、押圧対象物を押圧するガスがテンプレート380の内部に溶解し、高い圧力とならない。よって、中空構造体形成材料342は、比較的低圧条件下で凹部390の深くまで入り込むことができる。
図3(c)に示される押圧工程は加圧ローラ350等の他の加圧手段で行うことも可能だが、押圧装置360のような、容器内の押圧対象物に対して均等に圧力をかけることができる装置を用いて押圧する方がより好ましい。理由としては以下の通りである。
中空構造体10の突出部13は極微細であるため、各凹部390へと進入する中空構造体形成材料342の量を均一、均等に制御する必要がある。加圧ローラを使用した場合は、中空構造体基材340への押圧時に、上下方向に加えてローラの進行方向にも圧力がかかる。可騰性を有する中空構造体形成材料342が中空構造体基材340の平面方向へ延性し、テンプレート380の凹部390へのもぐりこみ量にばらつきが生じ、寸法安定性に乏しい。
そこで押圧手段として押圧装置360を使用し、中空構造体基材340の上側から下側へ、均等な圧力が全面にかかることで、各凹部390における中空構造体形成材料342が進入する量が横方向に等しくなり、中空構造体10の寸法安定性を保つことができる。また押圧時間を変化させることで、突出部13の長さが任意に決定できるため、突出部13の寸法制御を容易に行うことができる。
次に、第3の工程として図4(a)に示す工程では、一部が凹部390に進入した状態の中空構造体形成材料342をガスの圧力によって押し上げて、中空構造体形成材料342に、第1の中空部12aに相当する中空部22と、第2の中空部12bに相当する中空部24と、を含む中空部12を形成する。
ここでは、凹部390のうち中空構造体形成材料342が進入していない空間は密閉空間であり、第3の工程では、密閉空間内の気圧を外部の気圧よりも高くして、中空構造体形成材料342を押し上げる。テンプレート380の外部の気圧が、密閉空間の気圧よりも低くなると、不均等力が発生し、材料は延伸し中空部12を形成する。
以下、図4(a)に示す工程の具体的な内容を説明する。まずテンプレート380上に中空構造体基材340を積層した減圧対象物を、減圧装置370の容器内に配置する。減圧装置370は、各凹部390の密閉空間に貯留する空気を抜いて真空を発生させる装置である。図6(a)(b)は減圧時の凹部390を拡大した様子である。
なお、減圧装置370は、紫外線を透過する窓を付帯しているものが好ましい。減圧状態のままで中空体形成材料342を硬化することができるため、圧力の変動による中空構造体10の変形を避けることができて、寸法安定性が保ちやすい。
減圧装置370の容器内を減圧することで相対的に圧力差が発生し、夫々の凹部390の内側面に中空構造体形成材料342を残留させながら、夫々の凹部390を介してテンプレート380の上面380aを被覆する中空構造体形成材料342側にガスが供給される。ガスは、テンプレート380の内部に溶解させたガスも含まれる。なお、図4(a)の多数の矢印は、ガスの流れを模式的に示したものである。
ガスは、テンプレート380と中空構造体形成材料342との間で膨張し、中空体形成材料342を押し上げようとする。このとき、図6(a)に示されるように、中空構造体形成材料342は、凹部390の一部に進入している。その状態で減圧することで、図6(b)に示すように、テンプレート380と中空構造体形成材料342との間の密閉空間内のガスは膨張し、一部が凹部390に進入した状態の中空構造体形成材料342を押し上げていく。このとき、中空構造体形成材料342のうちテンプレート380と密着している部分には流動が起こらないので、ガスは中空構造体形成材料342を押し広げるように膨張していく。
その結果、テンプレート380の上面380aを被覆する中空構造体形成材料342に夫々の凹部390に対応する複数の中空部22が独立して形成される。これと共に、夫々の凹部390に進入させた中空体形成材料342に中空部22と、連通する中空部24を備えた凸部23(突出部13に相当)が形成される。
図1(b)や図3、図4で参照されるように、テンプレート380は隣り合った複数の凹部390が隣接して設けられている。よって隣接する突出部13及び第1の中空部12aは同時に形成される。このテンプレート380の構造により、減圧時に各第1の中空部12aから隔壁15への圧力が一定となり、複数の第1の中空部12aの容積は等しくなる。
減圧装置370による減圧力は、例えば、30kPa程度とすることができる。減圧時間は、例えば、40秒程度とすることができる。第1の中空部12a及び突出部13を形成後、減圧装置370の窓を介して、紫外線照射装置から中空体基材340に紫外線を照射し、中空構造体形成材料342を硬化させる。
減圧装置370による減圧力や減圧時間を変えることにより、第1の中空部12aの大きさを制御できる。例えば、減圧装置370による減圧力を小さくしたり、減圧時間を短くしたりすると小さな第1の中空部12aが形成される。減圧装置370による減圧力は、例えば、30kPa程度とすることができる。減圧時間は、例えば、60秒程度とすることができる。
次に、第4の工程として図4(b)に示す工程では、テンプレート380の上面380aから、中空構造体形状を形成した中空構造体基材340を剥離する。例えば、ピンセット状の剥離治具を用いて中空構造体基材340を挟み、矢印E方向に引き上げることで、テンプレート380の上面380aから剥離できる。なお、テンプレート380を拡大した図7からわかるとおり、テンプレート380の凹部390には、テンプレート380の上面380aの近傍に逆テーパ部390tが形成されて間口が大きくなっているため、離型抵抗が小さくなり、中空構造体形状が崩れることなく、中空構造体基材340を容易に離型(剥離)できる。
これにより、図1に示す中空構造体10が完成する。なお、図3〜図6では、中空構造体形成材料342が、図1とは上下反転した状態で描かれている。
また、本実施の形態では、テンプレート380にシリコーンゴム(PDMS)等のガス透過性の高い高分子物質の材料を使用している。そのため、第1に、低圧での押圧が可能となり、高圧力の押圧装置が不要である。第2に、低圧の押圧で凹部390と中空体形成材料342の空間のガスを除去することができるため、両者の密着(転写)性を向上できる。第3に、低圧での押圧が可能となり、テンプレート380を変形させたり、破壊させたりすることを抑制できる。
ここで、突出部13の形状の制御について説明する。
減圧時に形成される突出部13及び第2の中空部14bの形状は、テンプレート380の形状や、前工程である押圧装置360の押圧条件により制御することができる。加圧時に凹部390に進入する中空構造体形成材料342をもぐりこみ量と称する。押圧装置360の押圧力が小さい場合は、もぐりこみ量が少なく、押圧装置360の押圧力をあげ、温度を上げるほど、もぐりこみ量が大きくなる。
又、押圧力を大きくすると、突出部13の高さH1は大きくなり、第2の開口部14bの直径φ2は小さくなる。但し、押圧力を大きくしても、突出部13の柱状部13sの中空形状の径は殆ど変化しない。例えば図7に示されるテンプレート380は、上面380aから深さ方向に形成された複数の凹部390を備えている。また凹部390は、深さ方向に向けて逆テーパ形状をとる逆テーパ部390tと、ストレート部390sからなる。なお、テンプレート380の逆テーパ部390tの形状を変えれば、当然、突出部13の形状も変化する。
このように、テンプレート380の逆テーパ部390tの形状を調整することにより、突出部13の形状を制御できる。又、図3(c)の加圧時の押圧装置360の押圧条件や、温度を調整することにより、逆テーパ部390tの形状は一定であっても、突出部13の高さH1及び開口部14の直径φ1を制御できる。又、押圧装置360の押圧条件を調整することにより、突出部13の柱状部13sの直径を一定とした状態で、突出部13の高さH1を大きくすることができる。
なお、テンプレート380の形状は、ガス透過性の有無によっても変えることが出来る。詳しくはテンプレートの形状で後述する。
また、加圧および減圧を行い、内部空間とテンプレート380の外部との圧力差を生じさせて、不均等力により突出部13を形成している。図5(b)、図6(b)の黒色矢印は、材料の流動を示すが、テンプレート380の壁面へと押しつけるようにして凹部390に進入する。よって凹部390と材料の粘着性が弱く、減圧時にテンプレート380から材料が途中ではがれ、突出部13の寸法がばらつくことを防ぐことができる。また剥離時も、突出部13の寸法を変えることなく寸法安定性を保った中空構造体を形成することが可能となる。
以上の中空構造体の製造方法をもとに、加圧時の条件(圧力、温度)をパラメータとして、突出部13の寸法を計測した。この例では、テンプレート380の材料にシリコンゴム(PDMS)を使用し、テンプレート380として図7の形状のテンプレート380を使用して中空構造体10を製造した。なお加圧は15秒とし、減圧は53kPaで15秒〜50秒である。なおテンプレート380の形状は、後で詳説する。
実施例Aとして、第2の工程時に圧力が160kPa、温度が80度として押圧条件を設定し、中空構造体を作成した場合、第2の開口部14bは24μm、突出物13の高さは69μmとなった。
実施例Bとして、第2の工程時に圧力が200kPa、温度が24度として押圧条件を設定し、中空構造体を作成した場合、第2の開口部14aは27μm、突出物13の高さは88μmとなった。
実施例Cとして、第2の工程時に圧力が200kPa、温度が80度として押圧条件を設定し、中空構造体を作成した場合、第2の開口部14bは15μm、突出物13の高さは104μmとなった。
実施例Dとして、第2の工程時に圧力が400kPa、温度が80度として押圧条件を設定し、中空構造体を作成した場合、第2の開口部14bは9μm、突出物13の高さは180μmとなった。
実施例Fとして、第2の工程時に圧力が160kPa、温度が24度として押圧条件を設定し、中空構造体を作成した場合、第2の開口部14bは48μm、突出物13の高さは43μmとなった。
マイクロニードルは、突出部13の高さが60μm以上あるものが通常使われている。よってテンプレートにPDMSを使用して製造する場合、適切な温度は24度〜80度である。また適切な圧力の範囲は160kPaから400kPaである。温度を24度とした場合は、押圧を少なくとも200kPaで行い、押圧圧力を160kPaとした場合は少なくとも80度の温度とすることで、60μm以上の突出物13を形成することができる。
突出部13の寸法は、押圧条件の温度、時間、圧力を調整することで適宜決定することができる。一例として、材料の粘度を低下させるために高温状態にし、材料が流動しやすい状態で、加圧時の圧力を増大することで、凹部390への中空構造体形成材料342のもぐりこみ量が増え、長い突出部13を形成することが出来る。また中空構造体10の第1の中空部12aの容積は、中空構造体形成材料342の厚さを適宜変えることでも、容易に調整することができる。
また、これらの最適値は中空構造体形成材料342が持つ粘度・性質によっても異なる。粘度が低い形成材料で長い突出部13を有する中空構造体10を形成する際は、より高圧・高温下で加圧する。粘度が高い形成材料の場合は、より低圧・低温化で加圧する。
寸法安定性を計測するために、第2の開口部14bが5μmの中空構造体10を34000個作成した。各中空構造体10に対し3方向からの写真をとり、突出部13の高さ、および第2の開口部14bの誤差が5〜10μmの範囲に収まるものを成功としてカウントした結果、不良の中空構造体10は289で、不良率は0.9%であった。
[テンプレートの形状]
以下に、テンプレート380の形状を詳説する。テンプレート380の構造を変えることで、様々な形状の中空構造体10を製造可能である。例えばテンプレート380として、図7に示す形状のテンプレート380を使用することもできるし、図8に示す形状のテンプレート480を使用することもできる。
図7に示す形状のテンプレート380(第1のテンプレート)について説明する。図7の例では、凹部390は、上面から深さ方向に離れるほど径が小さくなる逆テーパ形状が設けられている。より具体的には、凹部390の上面からテンプレート380内部に入り込んでいる内壁は弧形状となっている。弧の半径は2.5μm程度である。
凹部390の内壁は、逆テーパ形状とストレート形状の内壁を有していても良いし、逆テーパ形状だけで構成されていてもよい。所望の中空構造体10の形状や突出部13の長さにあわせたテンプレート380を使用することができる。
本実施の形態では、凹部390の第2の開口部14bの直径φ2にあたる部分を150μm、隣り合う凹部390間のピッチを400μm、テンプレート380の厚みを3mm、凹部390の弧の半径は2.5μmとした。また、第2の工程で中空構造体基材340をテンプレート380に押し付ける際に、もぐりこみ量が多く、凹部390内の密閉空間を中空構造体形成材料342で充填しないように、凹部390はテンプレート380の上面380aから深さ方向に十分深くまで設けることが好ましい。
次に図8に示す形状のテンプレート480(第2のテンプレート)について説明する。図8の例では、テンプレート480は金属材料で構成される。このように、ガス透過性の低い金属材料(ニッケル、クロム、ステンレス、胴など)で構成した場合は、減圧時にテンプレート480の内部の空気を膨張させるため、図8に示されるように、テンプレート480の凹部490に、あらかじめ空気を貯留できる空間を別途設けることが好ましい。この空気(ガス)が貯留する空間を、ガス貯留空間と称し、以下説明する。
中空形状のガス貯留空間は、凹部480の下側に、凹部480に連通する形で設ける。以下では便宜上、ガス貯留空間を、基板上面から連続し、かつ外部と連通している凹部490と、凹部490に連通する貯留部410にわけて詳説するが、両者の間に物理的な障壁はない。
凹部490において中空構造体形成材料342で被覆される側とは反対側に、凹部490よりも容積が大きく、かつ空気が貯留する貯留部410が設けられている。そして、製造方法の中で第3の工程では、凹部490のうち中空構造体形成材料342が進入していない空間と、該空間に連続する貯留部410と、からなる密閉空間の気圧を外部の気圧よりも高くして、中空構造体形成材料342を押し上げる。
図8を参照するように、貯留部410の径は凹部490の水平方向の径よりも大きいことが好ましい。より具体的には、貯留部410の体積は、所望の中空構造体10の中空部12の体積と同等か、それより大きいことが好ましい。その理由を以下に示す。
テンプレート480に貼付された中空構造体形成材料342を減圧することで、密閉空間である貯留部410内の空気が膨張する。そこで、貯留部410内の空気が凹部490を介し、中空構造体形成材料342の下部から上部へ押し上がるようにして移動することにより中空構造体形成材料342に中空部12が形成される。
しかし、テンプレート480がガス透過性の低い材料で形成された場合は、加圧や減圧をした際にテンプレート480の外側からガス貯留空間へ空気を透過させることが難しい。よって、中空部12は、ガス貯留空間内の空気のみにより形成されることとなるため、貯留部410の体積が所望の中空構造体の中空部12の体積よりも小さい場合は、減圧時間や圧力を調整しても、中空構造体10に貯留部410以上に容積が大きい中空部12を設けることは難しい。
なお、図7に例示したテンプレート380のように、ガス透過性の高い材料で形成されたテンプレート380の場合は、加圧や減圧をした際にテンプレート380の外側と内部空間の間で、ガスを透過することができる。そこで所望の中空部の体積よりもガス貯留空間の体積が小さくても良い。また別途貯留部410を設けずに、凹部390の形成材料が充填していない部分をガス貯留空間として機能させることができる。
図8に示された例では、凹部490は上下方向に貫通している。貫通している場合は、製造方法の第2、第3の工程(加圧・減圧)時には、テンプレート480の下面に保護材となるシート420を敷くなどして、貫通孔の下面を塞ぎ、テンプレート480の内部にガス貯留空間となる密閉空間を形成する。シートは、減圧・加圧時に変形しないように、可撓性が低い材質であるとなお良い。図8では、下面に敷くシートは30μmと3mmとした。なお凹部490が貫通しておらず、貯留部410がテンプレート480の底面を有していても良い。
貯留部410を別途設けたテンプレート480の数値の一例としては、凹部490の水平方向の径は5μm、深さ方向の長さは15μm、貯留部410の水平方向の径は凹部の径よりも大きい20μm、深さ方向の長さは30μmである。貯留部410の体積は、凹部490の体積よりも大きい。凹部490の水平方向の径は、所望の中空構造体10の突出部13及び第2の開口部14bの径φ2と等しくなる。
なお上記で説明した製造方法は、テンプレート480でも同様にして中空構造体を形成することが可能である。
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
以上に説明したように、本実施形態では、上面380aから深さ方向に離れるほど径が小さくなる凹部390を有するテンプレート380を用いて中空構造体10を製造する。より具体的には、中空構造体形成材料342をテンプレート380の凹部390の少なくとも一部に進入させ、一部が凹部390に進入した状態の中空構造体形成材料342をガスの圧力によって押し上げて中空部22を形成し、中空部22が形成された中空構造体形成材料342をテンプレート380から剥離するという工程を経て中空構造体10が製造される。本実施形態では、テンプレート380の凹部390は、上面380aから深さ方向に離れるにつれて、ゆるやかにカーブしていく形状を有している(逆テーパ形状を有している)ので、凹部390に進入した中空構造体形成材料342を剥離する際の離型抵抗が小さくなる。これにより、剥離時における突出部13の変形や破損を抑制できるため、寸法安定性を確保できる。
以上の逆テーパ形状の特徴をもったテンプレート380を使うことで、第1の開口部14aの面積が第2の開口部14bの面積よりも大きい第2の中空部12bを有する突出部13を備えた中空構造体10を製造することができる。つまり、逆テーパ形状を有するテンプレート380のメリットが反映された中空構造体10を得ることができるので、寸法安定性が担保された中空構造体10を得ることができる。
又、上記の実施の形態では、中空構造体10をマイクロニードルに使用する例を示したが、中空構造体10を他の分野で使用してもよい。中空構造体10は、例えば、細胞の足場材、化粧品の化粧パッチ、エネルギー分野(電池のフィルタ、セル、セパレータ等)、環境分野(ガスフィルタ、排ガス浄化装置等)、光学分野(マイクロレンズの遮光等)等の様々な分野に適用可能である。