JP6971445B2 - 芽胞状態の微生物から発生する成分を用いた抗菌剤、抗菌方法 - Google Patents

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本発明は、芽胞状態の微生物から発生する成分を利用した抗菌方法、および抗菌剤に関する。
従来、さまざまな種類の抗菌剤や抗カビ剤が開発され使用されている。その中には微生物を利用して抗菌や消臭を行うものがある。例えば、特許文献1には、バチルス属などの多種の微生物を鉱物担体に含浸させ、乾燥させることによって得られる消臭剤が記載されている。これを消臭対象の汚泥に散布することによって、汚泥の水分で微生物が活性化し、消臭を行うものである。
また、微生物を用いた抗菌方法には微生物が発生させる気化物質などを用いて空間内の抗菌を行うものがある。例えば特許文献2にはバチルス・プミルス属に属する新規微生物を用いた抗菌方法が記載されている。
特開平07−222791 特開2008−184394
特許文献1及び2に記載されているような消臭方法や抗菌方法は、基本的に微生物が活動するのに適した温度や湿度を与え、何らか方法で栄養を供給する方法で微生物を活動させ、これらの効果を得ているものである。この方法では消臭能力や抗菌能力を持つ微生物の活動範囲内の環境でしか使用できず、例えば低温環境や乾燥環境などでは効果を発揮できない。また、これらの特殊な環境で活動する微生物ももちろん存在するが、あらゆる局面での対応は難しい。
またこれらの特許文献で利用されている微生物は「芽胞」という微生物が生存できない環境におかれた微生物が、その環境に対応するために形成する状態を利用している。この形態になると微生物は活動を止め、乾燥や高温、低温などの微生物にとって危険な状況を生き延びることができるようになる。生きた微生物を商材として扱う場合に、輸送や保存は特に問題になるが、この芽胞状態を利用すればこの問題は解決し、容易に管理が可能になる。
これまで芽胞状態の微生物をそのまま利用して抗菌を行ったものはなかった。基本的に生存に適した温度や湿度や栄養を与えたり、それらが供給されるような場所で利用することで栄養化させ、微生物が活動する状態に誘導して利用していた。
また芽胞状態の微生物は休眠状態であると考えられているため、この状態の微生物が揮発性物質を出すなどして周囲に影響を与えるようなことは考えられていなかった。このため、この状態の微生物を用いた抗菌などは存在していなかった。
本発明者らは、上記事情に鑑み、微生物の消臭、抗菌に関して鋭意研究を行ったところ、芽胞状態でも、微生物が抗菌能力を発揮することを確認し、これを用いてあらゆる環境に対応する抗菌剤が得られることを見出し本発明に至った。
すなわち、本発明は、芽胞状態の微生物をそのままの状態で利用することにより、これまでの微生物抗菌材が利用できなかった環境で、微生物を利用した抗菌効果が得られることを特徴とする。
さらに微生物が直接接触状態にある箇所だけでなく、微生物から発生する物質により、非接触状態で、空間内に存在する菌類の発育を抑制することを特徴とする。
その抗菌範囲にはCladosporium属、、Aspergillus属、Trichosporon属などを含む。
前記の抗菌能力は微生物の活動範囲を超えた20℃以下の低温化環境や湿度50%以下の乾燥条件下でも発揮される。
使用する微生物としては、消臭や抗菌能力を持ち、芽胞状態を形成し、人体に害のない安全な微生物を使用できる。これらの特徴を併せ持つものとして例えばBacilluss属が挙げられる。
前記微生物としては、バチルス・プミルス(Bacillus pumilus)属に属するグラム陽性有芽胞桿菌(独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター に寄託して平成19年1月22日に受領された受番号FERM P−21162を有する微生物)、バチルス(Bacillus)属に属する新規のグラム陽性有芽胞桿菌(独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター に寄託して平成27年2月13日に受領された受番号NITE P−02007を有する微生物)等を用いることができる。この微生物は、菌類の発育抑制、または臭い成分を分解する特徴を有する。
本発明によれば、略密閉状態の空間内に存在する菌類に対して、芽胞状態の微生物から発生する揮発性成分が空気を介して吸着し、菌類の発育が抑制されるので、スプレーなどによる散布や刷毛などによる塗布といった作業を行うことなく、略密閉状態の空間内に微生物を置いておくだけで、空間内の隅々まで効果を得ることができる。また微生物の活動範囲を超えて利用が可能なので、乾燥した室内や低温化で使用できる。しかも安全性が高いため、人が生活している環境下で持続的に使用することが可能である。
本発明の芽胞微生物粉体は、略密閉状態の空間内に存在する菌類の発育抑制、または臭い成分を分解する特徴を持つ微生物、または、それを含む2種以上の微生物を微生物担体に担持させた状態で乾燥させたものである。
ここで、微生物担体とは、微生物を保持する能力を有するもののことを言い、具体的には、多孔質ガラス、セラミックス、金属酸化物、活性炭、カオリナイト、ベントナイト、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ、アンスラサイト、パーライト等の粒子状担体、デンプン、寒天、キチン、キトサン、ポリビニルアルコール、アルギン酸、ポリアクリルアミド、カラギーナン、アガロース、ゼラチン等のゲル状担体、イオン交換樹性セルロース、イオン交換樹脂、セルロース誘導体、グルタルアルデヒド、ポリアクリル酸、ウレタンポリマー等を用いることができる。また、天然、もしくは合成の高分子化合物も有効であり、セルロースを主成分とする綿、麻、パルプ材より作られる紙類もしくは天然物を変性した高分子アセテート等も用いることができる。さらに、ポリエステル、ポリウレタンを初めとする合成高分子からなる布類も使用することができる。これらは微生物の付着性が良く、微細な間隙を有するものが好ましい。また注入時に容易に浸透できる微細な材料を用いるのがより好ましい。
本発明によれば、芽胞状態の微生物によって空間内に存在する菌類の発育抑制、または臭い成分を分解する特徴を持つため、たとえば、本発明の微生物粉体を、織布や不織布などの布類に充填させて空間内に設置したり、容器に充填して載置したりするだけで、さまざまな温度や湿度環境下でも、空間内の隅々まで効果を得ることができ、取り扱いが容易となる。
本発明によれば、芽胞状態の微生物から発生する揮発性成分により、非接触状態で、空間内に存在する菌類の発育を抑制することができるので、微生物の活動範囲を超えたさまざまな環境で利用でき、合成化合物類や重金属を用いることのない安全性の高い抗菌方法とすることができる。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
(実施例1)
1−1:微生物粉体の製造方法
Bacillus属等に属する微生物は乾燥状態などの生存に適さない状態になると芽胞を形成し、乾燥や温度変化などに強い保存に適した状態となる。これを利用して、微生物培養液を多孔質物質に含浸させた後に乾燥させ、芽胞形成を促すことで芽胞微生物粉体を作成することができる。
多孔質の粉末担体としてパーライト 1kgに、使用する微生物の微生物培養液 2Lを含浸させた。その後、微生物を担持した担体を常温の乾燥下に置き、乾燥させて水分を10%以下にし、芽胞微生物粉体を作成した。微生物には、FERM P−21162株とNITE P−02007株の微生物株を用いてそれぞれ芽胞微生物粉体1、2を作成した。FERM P−21162株、NITE P−02007株は非接触抗菌能力を持つ微生物である。
また、Bacillus属の標準株であるBacillus subtilis (NBRC3134)を培養し、同様の手法でパーライトに含浸、乾燥させ、芽胞微生物粉体3とした
1−2:非接触抗菌効果の試験方法
本試験に用いた被験菌について表1に示す。表1に示すように、番号1〜2の菌は糸状菌であり、特に、番号1は、室内や浴室の壁によく繁殖する環境常在菌である。これらについては、胞子を人が吸い込むと、アレルギー(喘息)を発症することがある。番号2はアレルギー性気管支肺アスペルギルス症の原因菌である。
Figure 0006971445
芽胞微生物粉体1は被検菌番号1に対して、芽胞微生物粉体2は被検菌番号1〜2全てに対して、湿度と栄養が揃った条件で非接触抗菌試験を行うと抗菌能力があることがすでに報告されている。この報告の中で行われた試験では微生物は標準寒天培地上で栄養と湿度により、芽胞状態ではなく栄養化して効果を発揮している。今回の実施例では栄養と湿度を与えずに試験を行う。
本試験に用いる無機寒天培地の組成は,次による。
精製水 1000 mL
硝酸アンモニウム 3.0 g
りん酸二水素カリウム 1.0 g
硫酸マグネシウム七水和物 0.5 g
塩化カリウム 0.25 g
硫酸鉄(II)七水和物 0.002 g
寒天 20 g
表1に示す被験菌をPDA培地で培養し胞子を採取しリン酸緩衝液で希釈して胞子懸濁液を作製した。この胞子懸濁液を被検菌1と2を無機寒天培地のシャーレに接種し、試験培地1とした。また、培地を入れていないシャーレに芽胞微生物粉体1もしくは芽胞微生物粉体2を3g入れたものを用意した。この試験培地1と芽胞微生物粉体入りシャーレをプラスチック製の容量10Lの容器に入れ、室温で培養した。この時、蓋をわずかに開け、内部の湿度を60%程度に保った。なお、培養日数は7日間とした(以下、これを「処理区」と称す。)。
一方、試験培地1のみを上記と同様のプラスチック製の容器に入れ、室温で培養した。なお、上記と同様に、この時、蓋をわずかに開け、内部の湿度を60%程度に保ち、培養日数は7日間とした(以下、これを「対照区」と称す。)。処理区、対照区それぞれについて、発育してきた被験菌のコロニー数とサイズを計測し、発育抑制の度合いを測定した。表2に試験の結果を示す。
Figure 0006971445
表2に示すように、芽胞微生物粉体はそれぞれが栄養化している時に抗菌できていた被検菌株に対して、抗菌活性が認められた。この試験方法では芽胞微生物粉体は栄養がなく乾燥した状態に置かれており、栄養化できず芽胞のままであったと考えられる。この状況下の芽胞微生物粉体が芽胞のままの状態で揮発性成分を産生し、空気を介して、寒天培地に塗抹接種された被験菌に影響を与えし、これにより、被験菌の発育が抑制されたものと考えられる。すなわち、芽胞微生物粉体を用いることにより、乾燥条件下でも対象とする菌類に直接接触しなくても、当該菌類の発育を抑制することができることがわかる。従って、空間に芽胞微生物粉体を置くだけで、湿度などに関わらず、空間内に存在する糸状菌などの菌類の発育の抑制を、空間内の隅々まで行うことが可能となる。
上記試験結果から、芽胞微生物粉体は菌類に対して発育の抑制が可能である。
2−1:発生する揮発成分の定性
芽胞微生物粉体2gを封入した不織布袋を用いた。ブランクとしては、無菌のパーライト2gを封入した不織布袋を用いた。それぞれを50Lテドラーバッグに入れ、芽胞から産出される気体を捕集するため、MonoTrap;DSC18ディスクを1枚装着したものをテドラーバッグ上部に取り付け、32℃・65hr恒温した。DSC18ディスク1枚をジクロロメタン1000μLに浸して超音波で処理したのを抽出液として、GC分析した。発生している揮発成分の分析を行った。
以下、表3に定性試験の結果を示す。
Figure 0006971445
それぞれの芽胞微生物粉体で有機酸類やベンズアルデヒドが確認された。これらは抗菌能力もあることが知られている。
今回用いた芽胞微生物粉体を標準寒天培地に散布し栄養化させた状態で産生する気体を分析しても同様の気体が確認できる。このような寒天培地を用いて特許文献の特開2008-184394や特願2015-28161に記載されているような抗菌試験は行われている。芽胞微生物粉体でも同様の試験を試みたが、寒天からの蒸発水分により内部湿度が上昇し、乾燥状態を維持できないため断念した。しかし、栄養化した状態と芽胞状態の微生物が同様の気体を産生しているのならば、同様の抗菌効果が得られるものであると推察される。
2−2:熱処理した芽胞微生物粉体の揮発成分の定性
不織布に封入した芽胞微生物粉体を65度で24時間熱処理を行った。この後に10Lテドラーバッグに入れ、芽胞から産出される気体を捕集するため、MonoTrap;DSC18ディスクを1枚装着したものをテドラーバッグ上部に取り付け、65℃・24hr恒温した。DSC18ディスク1枚をジクロロメタン1000μLに浸して超音波で処理したのを抽出液として、GC分析した。この結果を表4に示す。
Figure 0006971445
表4に示すように熱処理していない物とまったく変わらない結果を得た。このことにより過酷な状況下でも芽胞菌がこれらの気体を産生していることがわかった。
2−3:熱処理した芽胞微生物粉体の低温化における揮発成分の定性
不織布に封入した芽胞微生物粉体を65度で24時間熱処理を行った。この後に10Lテドラーバッグに入れ、芽胞から産出される気体を捕集するため、MonoTrap;DSC18ディスクを1枚装着したものをテドラーバッグ上部に取り付け、4℃・24hr恒温した。DSC18ディスク1枚をジクロロメタン1000μLに浸して超音波で処理したのを抽出液として、GC分析した。
この結果、ベンズアルデヒドを産生していることが確認された。このことにより本来微生物が増殖できない低温下の過酷な状況下でも芽胞菌がこれらの気体を産生していることがわかった。
2−4:熱処理した微生物粉体の常温及び高温下における揮発成分の定性
芽胞微生物粉体2及び芽胞微生物粉体3を65度で24時間熱処理を行った。この後に0.1gをそれぞれ2mlのバイアル管に入れ一定の温度で1時間おいて揮発成分を回収し、GC/MS分析を行った。揮発成分を回収する温度は37℃と80℃の2パターンで行った。
芽胞微生物粉体2は37℃で回収した物からはBenzaldehyde、Acetic acid 、Isovaleric acidが確認され、80℃で回収した物からは上記の物質に加え3-Methy-l-butanol、Benzenepropanoic acid、Benzoic acidが確認された。これはどれも消臭や抗菌作用が報告されている物質である。
芽胞微生物粉体3は37℃及び80℃で回収した物どちらからもBenzaldehyde、Acetic acid 、Isovaleric acid、Butanoic acidが確認された。これはどれも消臭や抗菌作用が報告されている物質である。
芽胞微生物粉体から消臭抗菌能力のある物質の発生が確認された。これにより微生物の活動条件を整えなくてもこれらの効果を得ることが可能である。
また、Bacillus属の標準株を用いて作成した芽胞微生物粉体3でも微生物粉体1及び2と同様に抗菌消臭能力がある揮発性物質が確認されたことから、Bacillus属は微生物の活動範囲を整えなくても消臭や抗菌の効果を得ることが可能である。
2−4
3−1:芽胞微生物粒体の製造方法
前記1−1と同様の手段でゼオライトボールなどを担体に用いて粒体を作ることも可能である。
直径約10mmのゼオライトボール 800gに、NITE P−02007株の微生物株の微生物培養液400mlを含浸させた。その後、微生物を担持した担体を常温の乾燥下に置き、水分を5%以下にし、芽胞微生物粒体を作成できた。
本発明によれば、微生物の活動に適した温度や湿度に捉われずに、安全性に優れ、目的とする空間の隅々までに効果が得られる抗菌方法として、室内などの常温環境だけでなく冷蔵庫やエアコンなどのさまざまな空間に用いることができる。

Claims (6)

  1. 受託番号FERM P−21162を有する微生物、または受託番号NITE P−02007を有する微生物を芽胞状態で備え、芽胞状態のまま効果を発揮し、空間内に存在する真菌類の発育の抑制を可能とする微生物抗菌剤。
  2. 20℃以下の低温もしくは湿度50%以下の乾燥状態などの微生物が繁殖できない環境下で効果を発揮する請求項1記載の微生物抗菌剤。
  3. 芽胞状態の微生物から発生する成分により、空間内に存在するCladosporium属、Trichosporon属及びAspergillus属に属する真菌を併せて抑制が可能な、請求項1〜2いずれか記載の微生物抗菌剤。
  4. 請求項1〜3のいずれか記載の微生物抗菌剤を用いたエアコン用の微生物抗菌剤。
  5. 請求項1〜3のいずれか記載の微生物抗菌剤を用いた冷蔵庫用の微生物抗菌剤。
  6. 請求項1〜3のいずれか記載の微生物抗菌剤を用いた抗菌方法。
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