以下、本発明の好適な実施形態について詳細な説明をする。
《ブレーキ摩擦材用酸化鉄粉末》
まず、本発明のブレーキ摩擦材用酸化鉄粉末について説明する。
本発明のブレーキ摩擦材用酸化鉄粉末は、ブレーキ摩擦材の製造に用いられるものであり、主として酸化鉄で構成された複数個の粒子を含むものである。
ところで、他の材料に比べて安価、安定的な入手が可能、ディスクに対する摩擦力が大きい等の特長を有していることから、ブレーキ摩擦材として、湿式合成により生成されたマグネタイト(酸化鉄)を含むものが広く用いられている。
しかしながら、従来においては、マグネタイトを用いた場合、磁化(飽和磁化)が高いことと微粒であるため、いわゆるブレーキ鳴きを生じやすいという問題があった。特に、ブレーキ摩擦材中に占めるマグネタイト(酸化鉄)の割合が高い場合にこのような問題は顕著に発生していた。ブレーキ鳴きは、ブレーキ摩擦材が摺動する際に発生する摩擦材の粉じんが磁気的に凝集し、摩擦材とローターの隙間から粉じんとして排出しにくいことにより摺動する際にローターが細かく振動することで発生する。また、従来においては、湿式合成により製造されたマグネタイトのみでは摩擦材に広く薄く存在することになるため、十分な制動力を得ることができなかった。
また、従来においては、上記のような問題の発生を抑制するために、ブレーキ摩擦材中におけるマグネタイト以外の成分を比較的高い含有率で含ませることも提案されているが、このような場合、ブレーキ摩擦材の耐磨耗性が低下する等の問題があった。
そこで、本発明者は、酸化鉄が有する特長を生かしつつ、上記のような問題の発生を効果的に防止、抑制することを目的に鋭意研究を行い、その結果、本発明に至った。
すなわち、本発明のブレーキ摩擦材用酸化鉄粉末(以下、単に、「酸化鉄粉末」とも言う)は、燃焼法イオンクロマトグラフィーによる硫黄含有量(以下、単に、「硫黄含有量」とも言う)が500ppm以下であり、かつ、磁化(飽和磁化)が20emu/g以下であることを特徴とする。
これにより、ブレーキ摩擦材が接触するディスクの酸化、腐食等を効果的に防止することができ、ブレーキ鳴きの問題を生じにくく、制動性(制動性能)に優れたブレーキ摩擦材に好適に用いることができる酸化鉄粉末を提供することができる。
特に、ブレーキ摩擦材中に占める酸化鉄粉末の割合が高い場合であっても、上記のような問題の発生を効果的に防止することができるため、ブレーキ摩擦材の制動性のさらなる向上を図ることができる。
これに対し、上記の条件を満たさない場合には、満足のいく結果が得られない。
例えば、硫黄含有量が大きすぎると、ブレーキ摩擦材が接触するディスクの酸化、腐食等が生じやすくなり、長期間にわたって、安定的にブレーキ鳴きの問題の発生を防止し、安定的に優れた制動性を得ることができない。
また、酸化鉄粉末の磁化が大きすぎると、酸化鉄粉末を含むブレーキ摩擦材は、ブレーキ鳴きの問題を生じやすいものとなる。これは、一般に、ディスクは主として鉄で構成されたものであり、酸化鉄粉末の磁化が大きすぎると、ブレーキ摺動時に発生する粉じんに含まれる酸化鉄粒子の保磁力と残留磁化がブレーキ摺動時のストレスにより大きくなり、磁気凝集してしまうことによると考えられる。
前述したように、酸化鉄粉末についての硫黄含有量は、500ppm以下であればよいが、200ppm以下であるのが好ましく、100ppm以下であるのがより好ましく、60ppm以下であるのがさらに好ましい。
これにより、ブレーキ摩擦材が接触するディスクの酸化、腐食等をより効果的に防止することができ、より長期間にわたって、安定的にブレーキ鳴きの問題の発生を防止し、安定的に優れた制動性を得ることができる。
また、前述したように、酸化鉄粉末の磁化は、20emu/g以下であればよいが、10emu/g以下であるのが好ましく、5emu/g以下であるのがより好ましく、1emu/g以下であるのがさらに好ましい。
これにより、ブレーキ鳴きの問題をより効果的に防止することができる。特に、ブレーキ摩擦材がより高い含有率で酸化鉄粉末を含む場合であっても、ブレーキ鳴きの問題を効果的に防止することができる。
なお、酸化鉄粉末中における硫黄含有量は、燃焼法イオンクロマトグラフィーによる定量分析により求めることができる。
燃焼法イオンクロマトグラフィーは、例えば、以下のような条件で行うことができる。
‐ 燃焼装置:株式会社三菱化学アナリテック製 AQF−2100H
‐ 試料量:50mg
‐ 燃焼温度:1100℃
‐ 燃焼時間:10分
‐ Ar流量:400ml/min
‐ O2流量:200ml/min
‐ 加湿Air流量:100ml/min
‐ 吸収液:過酸化水素を1%含む溶離液
‐ 分析装置:東ソー株式会社製 IC−2010
‐ カラム:TSKgel SuperIC−Anion HS(4.6mmI.D.×1cm+4.6mmI.D.×10cm)
‐ 溶離液:NaHCO3(3.8mmol/L)+Na2CO3(3.0mmol/L)
‐ 流速:1.5mL/min
‐ カラム温度:40℃
‐ 注入量:30μL
‐ 測定モード:サプレッサ方式
‐ 検出器:CM検出器
‐ 標準試料:関東化学社製陰イオン混合標準液
また、本明細書において、磁化とは、特に断りのない限り、5K・1000/4πA/mの磁場をかけたときのVSM測定により求められる磁化(飽和磁化)のことを指す。
より具体的には、例えば、以下のようにして求めることができる。すなわち、まず、内径5mm、高さ2mmのセルに酸化鉄粉末を詰めて振動試料型磁気測定装置にセットする。次に、印加磁場を加え、5K・1000/4π・A/mまで掃引し、次いで、印加磁場を減少させ、ヒステリシスカーブを作製する。このカーブのデータより磁化(飽和磁化)を求めることができる。振動試料型磁気測定装置としては、例えば、VSM−C7−10A(東英工業社製)等を用いることができる。
酸化鉄粉末の平均粒径は、1.0μm以上であるのが好ましく、10μm以上200μm以下であるのがより好ましく、20μm以上150μm以下であるのがさらに好ましく、30μm以上100μm以下であるのがもっとも好ましい。
これにより、ブレーキ摩擦材の制動性をさらに優れたものとすることができる。また、酸化鉄粉末の平均粒径が前記上限値以下であると、酸化鉄粉末を含むブレーキ摩擦材が接触するディスクに対する傷つけをより効果的に防止することができる。また、酸化鉄粉末を含むブレーキ摩擦材の耐久性をより優れたものとすることができる。特に、酸化鉄粉末の平均粒径が20μm以上50μm以下の範囲においては、酸化鉄粉末の粒径サイズと酸化鉄粉末の粒界(グレイン)サイズとのバランスが良く、長期間にわたりブレーキの制動性がよい状態を維持することができる。また、従来の湿式合成により得られたマグネタイトと比較して摩擦材中に局所的に高充填した場所とそうでない場所を均一に存在させることが可能となる。また、ブレーキ摩擦材中における酸化鉄粉末以外の成分を比較的低いものとした場合でも、酸化鉄粒子が局所的に高充填した状態が維持されるため十分な制動性が得られる。そのため、ブレーキ摩擦材の耐磨耗性の低下等の問題の発生も効果的に防止することができる。また、上記のような粒径の酸化鉄粉末は、飛散しにくく、酸化鉄粉末の取り扱いのしやすさが優れたものとなり、酸化鉄粉末の取り扱い時(例えば、ブレーキ摩擦材の製造時等)における作業者の安全性を高いものとすることができる。また、酸化鉄粉末の流動性や他の成分との混合性を優れたものとすることができるため、例えば、ブレーキ摩擦材の生産性をより優れたものとすることができる。
これに対し、酸化鉄粉末の平均粒径が小さすぎると、ブレーキ摩擦材の制動性を十分に優れたものとすることが困難となる。また、酸化鉄粉末の取り扱いのしやすさが低下し、酸化鉄粉末を取り扱う作業者の安全性確保に課題があり、また、ブレーキ摩擦材の生産性も低下する。
なお、本明細書において、平均粒径とは、特に断りのない限り、体積平均粒径のことを指す。
体積平均粒径は、例えば、以下のような測定により求めることができる。すなわち、まず、試料としての酸化鉄粉末:10gと水:80mlを100mlのビーカーに入れ、分散剤(ヘキサメタリン酸ナトリウム)を2〜3滴添加する。次いで、超音波ホモジナイザー(例えば、SMT.Co.LTD.製UH−150型等)を用い分散を行う。超音波ホモジナイザーとして、SMT.Co.LTD.製UH−150型を用いる場合には、例えば、出力レベル4に設定し、20秒間分散を行ってもよい。その後、ビーカー表面にできた泡を取り除き、マイクロトラック粒度分析計(例えば、日機装株式会社製、Model9320−X100等)に導入し、測定を行うことができる。
酸化鉄粉末についての燃焼法イオンクロマトグラフィーによる塩素含有量(以下、単に、「塩素含有量」とも言う)は、150ppm以下であるのが好ましく、100ppm以下であるのがより好ましく、20ppm以下であるのがさらに好ましく、10ppm以下であるのがもっとも好ましい。
これにより、ブレーキ摩擦材が接触するディスクの酸化、腐食等をより効果的に防止することができ、より長期間にわたって、安定的にブレーキ鳴きの問題の発生を防止し、安定的に優れた制動性を得ることができる。
これに対し、塩素含有量が大きすぎると、ブレーキ摩擦材が接触するディスクの酸化、腐食等が生じやすくなり、長期間にわたって、安定的にブレーキ鳴きの問題の発生を防止し、安定的に優れた制動性を得ることができない。
酸化鉄粉末中における塩素含有量は、燃焼法イオンクロマトグラフィーによる定量分析により求めることができる。
燃焼法イオンクロマトグラフィーは、例えば、以下のような条件で行うことができる。
‐ 燃焼装置:株式会社三菱化学アナリテック製 AQF−2100H
‐ 試料量:50mg
‐ 燃焼温度:1100℃
‐ 燃焼時間:10分
‐ Ar流量:400ml/min
‐ O2流量:200ml/min
‐ 加湿Air流量:100ml/min
‐ 吸収液:過酸化水素を1%含む溶離液
‐ 分析装置:東ソー株式会社製 IC−2010
‐ カラム:TSKgel SuperIC−Anion HS(4.6mmI.D.×1cm+4.6mmI.D.×10cm)
‐ 溶離液:NaHCO3(3.8mmol/L)+Na2CO3(3.0mmol/L)
‐ 流速:1.5mL/min
‐ カラム温度:40℃
‐ 注入量:30μL
‐ 測定モード:サプレッサ方式
‐ 検出器:CM検出器
‐ 標準試料:関東化学社製陰イオン混合標準液
酸化鉄粉末は、主として酸化鉄で構成されたものであればよいが、主としてα−Fe2O3で構成されたものであるのが好ましい。
これにより、より確実に酸化鉄粉末の磁化をより低いものとすることができる。また、酸化鉄粉末の安定性が特に優れたものとなり、酸化鉄粉末を含むブレーキ摩擦材はより長期間にわたって優れた特性を安定的に発揮することができるものとなる。
酸化鉄粉末中におけるα−Fe2O3の含有率は、90質量%以上であるのが好ましく、95質量%以上であるのがより好ましく、98質量%以上であるのがさらに好ましい。
これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
また、酸化鉄粉末は、主として、FeおよびOで構成されたものであるが、Fe、O以外の元素を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、Mn、Sr、Mg、Ti、Si、Cl、Ca、Al等が挙げられる。
酸化鉄粉末がFe、O以外の元素を含むものである場合、酸化鉄粉末中におけるFe、O以外の元素の含有率(複数種の元素を含む場合、これらの含有率の和)は、2.0質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以下であるのがより好ましく、0.5質量%以下であるのがさらに好ましい。
酸化鉄粉末を構成する粒子のうち0.8μm以下のものの占める割合は、50質量%以下であるのが好ましく、30質量%以下であるのがより好ましく、10質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、ブレーキ摩擦材の制動性をさらに優れたものとすることができる。また、酸化鉄粉末を含むブレーキ摩擦材の耐久性をさらに優れたものとすることができる。
酸化鉄粉末を構成する粒子の形状係数SF−2は、100以上150以下であるのが好ましく、100以上125以下であるのがより好ましく、100以上120以下であるのがさらに好ましい。
これにより、ブレーキ摩擦材の製造に用いる他の成分との混合性が向上する。また、上記の範囲であれば球状度が高いので単位体積当たりに含有させる酸化鉄粒子の体積を増加させやすく、ブレーキ材の様々な要求特性において感度の鈍い材料として使いやすい(使用量の多さによる特性への影響度が相対的に小さい)材料となる。
これに対し、形状係数SF−2が前記下限値未満となることはない。(SF−2=100の場合が真球を意味しているので100よりも小さくなることはない)
また、形状係数SF−2が前記上限値を超えると、粒子間の空隙が大きくなる可能性があり、高い充填量で使用できないという問題を生じる可能性がある。
形状係数SF−2は、粒子の投影周囲長を2乗した値を当該粒子の投影面積で割った値を4πで除し、さらに100倍して得られる数値であり、粒子の形状が球に近いほど100に近い値になる。
より具体的には、形状係数SF−2は、例えば、以下のような測定により求めることができる。
すなわち、例えば、日立ハイテクノロジーズ社製FE―SEM(SU−8020)を用いて酸化鉄粒子100個を観察し、画像解析ソフトウエアImageProPlusを用いて、S(投影面積)およびL(投影周囲長)を求め、下記式より算出される値を形状係数SF−2とする。そして、各粒子についての形状係数SF−2の平均値を、酸化鉄粉末を構成する粒子の形状係数SF−2として採用する。
SF−2=((L2/S)/4π)×100(Lは投影周囲長、Sは投影面積を示す)
なお、画像解析で使用するSEM画像は粒子同士が重なり合わない程度に分散した状態で撮影することが好ましく、撮影された粒子が1視野に5〜20個程度撮影できる倍率で撮影されることが好ましい。(粒径10μm以上の粒子の場合は100〜450倍程度で撮影することが好ましく、10μm以下の粒子の場合は1000〜100000倍程度で撮影することが好ましい。)
酸化鉄粉末の細孔容積は、10mm3/g以上180mm3/g以下であるのが好ましく、20mm3/g以上150mm3/g以下であるのがより好ましく、30mm3/g以上100mm3/g以下であるのがさらに好ましい。
これにより、酸化鉄粉末を含むブレーキ摩擦材の制動性をより優れたものとしつつ、酸化鉄粉末を含むブレーキ摩擦材が接触するディスクに対する傷つけをより効果的に防止することができ、ブレーキ摩擦材の耐久性をより優れたものとすることができる。また、ブレーキ摩擦材から比較的大きい酸化鉄粉末の粒子が不本意に脱落することをより効果的に防止することができる。
これに対し、酸化鉄粉末の細孔容積が前記下限値未満であると、ブレーキ摩擦材が接触するディスクに傷が付きやすくなる。また、ブレーキ摩擦材からの比較的大きい酸化鉄粉末の粒子の不本意な脱落が生じやすくなる。
また、酸化鉄粉末の細孔容積が前記上限値を超えると、酸化鉄粉末を含むブレーキ摩擦材の制動性が低いものとなりやすい。また、ブレーキ摩擦材の耐久性が低いものとなりやすい。
なお、酸化鉄粉末の細孔径および細孔容積は、例えば、水銀ポロシメーターPascal140とPascal240(ThermoFisher Scientific社製)を用いた測定により求めることができる。
酸化鉄粉末のピーク細孔径は、0.2μm以上1.2μm以下であるのが好ましく、0.3μm以上1.0μm以下であるのがより好ましい。
これにより、ブレーキ摩擦材において、酸化鉄粉末の細孔中にバインダー(結合材)をより効率よく侵入させることができ、酸化鉄粉末とバインダーとの密着性をより優れたものとすることができる。その結果、ブレーキ摩擦材の耐久性をより優れたものとすることができる。また、酸化鉄粉末を含むブレーキ摩擦材が接触するディスクに対する傷つけをより効果的に防止することができ、ブレーキ摩擦材から比較的大きい酸化鉄粉末の粒子が不本意に脱落することをより効果的に防止することができる。また、ブレーキ摩擦材の制動性をより優れたものとすることができる。
これに対し、酸化鉄粉末のピーク細孔径が前記下限値未満であると、ブレーキ摩擦材の耐久性が低いものになりやすい。また、ブレーキ摩擦材が接触するディスクに傷が付きやすくなる。また、ブレーキ摩擦材からの比較的大きい酸化鉄粉末の粒子の不本意な脱落が生じやすくなる。
また、酸化鉄粉末のピーク細孔径が前記上限値を超えると、酸化鉄粉末を含むブレーキ摩擦材の制動性が低いものとなりやすい。また、ブレーキ摩擦材の耐久性が低いものとなりやすい。
酸化鉄粉末のBET比表面積は、0.05m2/g以上1.20m2/g以下であるのが好ましく、0.10m2/g以上1.0m2/g以下であるのがより好ましく、0.15m2/g以上0.80m2/g以下であるのがさらに好ましい。
これにより、ブレーキ摩擦材において、酸化鉄粉末とバインダーとの密着性をより優れたものとすることができる。その結果、ブレーキ摩擦材の耐久性をより優れたものとすることができる。また、酸化鉄粉末を含むブレーキ摩擦材が接触するディスクに対する傷つけをより効果的に防止することができ、ブレーキ摩擦材から比較的大きい酸化鉄粉末の粒子が不本意に脱落することをより効果的に防止することができる。また、ブレーキ摩擦材の制動性をより優れたものとすることができる。
これに対し、酸化鉄粉末のBET比表面積が前記下限値未満であると、ブレーキ摩擦材が接触するディスクに傷が付きやすくなる。また、ブレーキ摩擦材からの比較的大きい酸化鉄粉末の粒子の不本意な脱落が生じやすくなる。
また、酸化鉄粉末のBET比表面積が前記上限値を超えると、酸化鉄粉末を含むブレーキ摩擦材の制動性が低いものとなりやすい。また、ブレーキ摩擦材の耐久性が低いものとなりやすい。
なお、BET比表面積は、比表面積測定装置(例えば、型式:Macsorb HM model−1208(マウンテック社製))を用いた測定により求めることができる。
本発明の酸化鉄粉末を構成する粒子は、焼成により酸化鉄微粒子が凝集することにより形成された、適切な粒径の凝集体であるのが好ましい。
本来α−Fe2O3に代表される酸化鉄は赤みが強い色味であるが、酸化鉄粉末を構成する粒子が酸化鉄微粒子の凝集体であると、α−Fe2O3で構成されたものであっても、黒色を呈するものとなる。
このように、酸化鉄粉末の構成粒子が黒色を呈するものであると、ブレーキ摩擦材の外観をより優れたものとすることができる。
酸化鉄粉末の黒色度(L*値)は、23以上31以下であるのが好ましく、25以上31以下であるのがより好ましく、27以上31以下であるのがさらに好ましい。
これにより、酸化鉄粉末を含むブレーキ摩擦材の外観をさらに優れたものとすることができる。
酸化鉄粉末の黒色度(L*値)は、23よりも小さい場合には酸化鉄粉末の粒径が小さすぎることを意味しているため好ましくない。31より大きい場合は酸化鉄粉末の粒径が大きすぎることを意味しているため好ましくない。
a*は、凝集体になる前の微粒子酸化鉄の粒径が0.1μm程度であるため赤味および黄色味が強く、焼結により凝集体になっても−0.2より小さくなることはない。a*が6より大きい場合は酸化鉄微粉末が焼結により十分凝集していないことを意味しているため好ましくない。
b*は、凝集体になる前の微粒子酸化鉄の粒径が0.1μm程度であるため赤味および黄色味が強く、焼結により凝集体になっても−3より小さくなることはない。b*が1より大きい場合は酸化鉄微粉末が焼結により十分凝集していないことを意味しているため好ましくない。
なお、黒色度(L*値)は、色差計(例えば、X−Rite社製、x−rite938等)を用いた測定により求めることができる。
酸化鉄粉末を構成する粒子は、表面処理が施されたものであってもよい。
粒子の表面処理に用いる表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤、リン酸系化合物、カルボン酸、フッ素系化合物等が挙げられる。
特に、酸化鉄粉末を構成する粒子にシランカップリング剤による表面処理が施されていると、粒子の凝集をより効果的に防止することができ、酸化鉄粉末や当該酸化鉄粉末を含む組成物の流動性、取り扱いのし易さをより向上させることができる。また、酸化鉄粉末を含む液状の組成物中における酸化鉄粉末の分散性をより向上させることができる。
シランカップリング剤としては、例えば、シリル基および炭化水素基を有するシラン化合物を用いることができるが、シランカップリング剤は、特に、炭素数が8以上10以下のアルキル基を有しているのが好ましい。
これにより、粒子の凝集をさらに効果的に防止することができ、酸化鉄粉末や当該酸化鉄粉末を含む組成物の流動性、取り扱いのし易さをさらに向上させることができる。また、酸化鉄粉末を含む液状の組成物中における酸化鉄粉末の分散性をさらに向上させることができる。
リン酸系化合物としては、例えば、ラウリルリン酸エステル、ラウリル−2リン酸エステル、ステアレス−2リン酸、2−(パーフルオロヘキシル)エチルホスホン酸のリン酸エステル等を挙げることができる。
カルボン酸としては、例えば、炭化水素基と、カルボキシル基とを有する化合物(脂肪酸)を用いることができる。このような化合物の具体例としては、デカン酸、テトラデカン酸、オクタデカン酸、cis−9−オクタデセン酸等を挙げることができる。
フッ素系化合物としては、例えば、上述したようなシランカップリング剤、リン酸系化合物、カルボン酸が有する水素原子の少なくとも一部がフッ素原子で置換された構造を有する化合物(フッ素系シラン化合物、フッ素系リン酸化合物、フッ素置換脂肪酸)等が挙げられる。
また、酸化鉄粉末のpHは、6.0以上9.0以下であるのが好ましく、6.2以上8.7以下であるのがより好ましく、6.3以上8.0以下であるのがさらに好ましい。
これにより、ブレーキ摩擦材が接触するディスクの酸化、腐食等をより効果的に防止することができ、より長期間にわたって、安定的にブレーキ鳴きの問題の発生を防止し、安定的に優れた制動性を得ることができる。
なお、本明細書において、酸化鉄粉末のpHとは、JIS K0102に準じた手順にて溶液を調製し、ガラス電極法にて測定されるpHのことを指す。
また、酸化鉄粉末の見かけ密度は、1.50g/cm3以上2.50g/cm3以下であるのが好ましく、1.60g/cm3以上2.40g/cm3以下であるのがより好ましい。
これにより、酸化鉄粉末を含むブレーキ摩擦材が接触するディスクに対する傷つけをより効果的に防止することができるとともに、ブレーキ摩擦材の耐久性をより優れたものとすることができる、特に、酸化鉄粉末の見かけ密度が上記のような範囲内の値であると、酸化鉄粉末中に適度な割合で空孔(細孔)を含ませることができる。その結果、空孔(細孔)内にバインダーをより好適に侵入させることができ、酸化鉄粉末を含むブレーキ摩擦材の制動性をより優れたものとしつつ、ブレーキ摩擦材の耐久性をより優れたものとすることができる。また、ブレーキ摩擦材から比較的大きい酸化鉄粉末の粒子が不本意に脱落することをより効果的に防止することができる。
これに対し、酸化鉄粉末の見かけ密度が前記下限値未満であると、酸化鉄粉末を含むブレーキ摩擦材の制動性が低いものとなりやすい。また、ブレーキ摩擦材の耐久性が低いものとなりやすい。
また、酸化鉄粉末の見かけ密度が前記上限値を超えると、ブレーキ摩擦材の耐久性が低いものになりやすい。また、ブレーキ摩擦材が接触するディスクに傷が付きやすくなる。また、ブレーキ摩擦材からの比較的大きい酸化鉄粉末の粒子の不本意な脱落が生じやすくなる。
《酸化鉄粉末の製造方法》
本発明の酸化鉄粉末は、いかなる方法で製造してもよいが、例えば、以下に述べるような方法により、好適に製造することができる。
例えば、本発明の酸化鉄粉末は、Fe2O3粉末を含むスラリーを噴霧、乾燥して造粒する造粒工程と、得られた造粒物を焼成する焼成工程とを有する方法により製造することができる。
このような方法を用いることにより、前述した条件を満足する酸化鉄粉末の中でも、粒径が比較的小さいもの(例えば、平均粒径が1.0μm以上100μm未満のもの)を好適に製造することができる。特に、製造過程において、酸やアルカリを用いる湿式の造粒法(例えば、特許第5760599号公報等に記載の方法)では、平均粒径が10μm以下のものしか製造できないのに対し、上記のような方法では、比較的大きい粒径の酸化鉄粉末を好適に製造することができる。また、製造過程において、酸やアルカリを用いる湿式の造粒法とは異なり、最終的に得られる酸化鉄粉末に、酸やアルカリが由来の不純物等が残存することを効果的に防止することができ、酸化鉄粉末や酸化鉄粉末を含むブレーキ摩擦材の耐久性、信頼性をより優れたものとすることができる。また、製造過程において、酸やアルカリを用いる湿式の造粒法では、酸化鉄粉末の磁化を十分に小さいものとすることが困難であるのに対し、上記のような方法では、磁化が十分に小さい酸化鉄粉末を容易に得ることができる。また、酸化鉄粉末の平均粒径を上記範囲内の値とすることにより、酸化鉄粉末を含むブレーキ摩擦材が接触するディスクに対する傷つけをさらに効果的に防止することができる。また、酸化鉄粉末を含むブレーキ摩擦材の耐久性をさらに優れたものとすることができる。
スラリーの調製には、Fe2O3粉末に加えて、例えば、水、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)等のバインダー、分散剤、カーボンブラック、木炭等を用いることができる。
ただし、スラリー中における有機物の含有率は、0.30質量%以下であるのが好ましく、0.20質量%以下であるのがより好ましい。
これにより、酸化鉄粉末の磁化をより好適に制御することができる。
また、スラリーの粘度は、0.3ポイズ以上5ポイズ以下であるのが好ましく、0.5ポイズ以上4ポイズ以下であるのがより好ましい。
これにより、スラリーの取り扱いのしやすさをより優れたものとすることができ、スラリーの噴霧、乾燥をより好適に行うことができる。その結果、所望の大きさ、形状の造粒物をより優れた生産性で製造することができる。
なお、本明細書中において、粘度とは、B型粘度計(例えば、リオン社製ビスコテスターVT−04等)を用いて25℃において測定される値をいう。
スラリーの噴霧は、例えば、スプレードライにより好適に行うことができる。
造粒工程で形成される造粒物の平均粒径は、20μm以上120μm以下であるのが好ましい。
これにより、最終的に得られる酸化鉄粉末の構成粒子が前述したような大きさとなるように、より確実に制御することができる。
焼成工程は、大気中で行うのが好ましい。
これにより、酸化鉄粉末の生産性をより優れたものとすることができるとともに、酸化鉄粉末の磁化をより好適に制御することができる。
焼成工程での加熱温度は、特に限定されないが、800℃以上1300℃以下であるのが好ましく、900℃以上1200℃以下であるのがより好ましく、950℃以上1150℃以下であるのがさらに好ましい。
これにより、酸化鉄粉末の磁化や形状(例えば、細孔容積、ピーク細孔径、BET比表面積等)等をより好適に調整することができ、ブレーキ摩擦材の制動性をより優れたものとしつつ、ブレーキ鳴きやブレーキ摩擦材が接触するディスクに対する傷つけ等の問題の発生をより効果的に防止することができる。
なお、焼成工程では、条件の異なる2段階以上の加熱処理(焼成処理)を行ってもよい。
また、本発明の酸化鉄粉末は、Fe2O3粉末を含む組成物をペレット化し、仮焼成して仮焼成体を得る仮焼成工程と、仮焼成体を粉砕した後、バインダー等を添加し、乾式混合装置を用いて造粒を行う造粒工程と、得られた造粒物に対して脱バインダー処理を行い脱脂体を得る脱バインダー工程と、脱脂体を焼成(本焼成)する本焼成工程とを有する方法により製造することができる。
これにより、前述した条件を満足する酸化鉄粉末の中でも、粒径が比較的大きいもの(例えば、平均粒径が100μm以上のもの)を好適に製造することができる。また、製造過程において、酸やアルカリを用いる湿式の造粒法とは異なり、最終的に得られる酸化鉄粉末に、酸やアルカリが由来の不純物等が残存することを効果的に防止することができ、酸化鉄粉末や酸化鉄粉末を含むブレーキ摩擦材の耐久性、信頼性をより優れたものとすることができる。また、製造過程において、酸やアルカリを用いる湿式の造粒法では、酸化鉄粉末の磁化を十分に小さいものとすることが困難であるのに対し、上記のような方法では、磁化が十分に小さい酸化鉄粉末を容易に得ることができる。また、酸化鉄粉末の平均粒径を上記範囲内の値とすることにより、ブレーキ摩擦材の制動性をさらに優れたものとすることができる。また、酸化鉄粉末を含むブレーキ摩擦材の耐久性をより優れたものとすることができる。また、酸化鉄粉末の取り扱いのしやすさがさらに優れたものとなり、酸化鉄粉末の取り扱い時(例えば、ブレーキ摩擦材の製造時等)における作業者の安全性をさらに高いものとすることができる。また、酸化鉄粉末の流動性や他の成分との混合性を優れたものとすることができるため、例えば、ブレーキ摩擦材の生産性をさらに優れたものとすることができる。
ペレットの作製は、加圧成型機を用いることにより好適に行うことができる。
仮焼成工程での加熱温度は、特に限定されないが、600℃以上1200℃以下であるのが好ましく、650℃以上1000℃以下であるのがより好ましく、700℃以上900℃以下であるのがさらに好ましい。
これにより、最終的に得られる酸化鉄粉末の磁化や形状(例えば、細孔容積、ピーク細孔径、BET比表面積等)等をより好適に調整することができ、ブレーキ摩擦材の制動性をより優れたものとしつつ、ブレーキ鳴きやブレーキ摩擦材が接触するディスクに対する傷つけ等の問題の発生をより効果的に防止することができる。
また、仮焼成工程では、2段階以上の加熱処理(焼成処理)を行ってもよい。
バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)等を用いることができる。
造粒工程で用いる乾式混合装置としては、例えば、ヘンシェルミキサー等が挙げられる。
脱バインダー工程は、本焼成工程での処理温度よりも低い温度で加熱することにより好適に行うことができる。
脱バインダー工程での加熱温度は、特に限定されないが、400℃以上1000℃以下であるのが好ましく、450℃以上900℃以下であるのがより好ましく、500℃以上800℃以下であるのがさらに好ましい。
これにより、最終的に得られる酸化鉄粉末の磁化や形状(例えば、細孔容積、ピーク細孔径、BET比表面積等)等をより好適に調整することができ、ブレーキ摩擦材の制動性をより優れたものとしつつ、ブレーキ鳴きやブレーキ摩擦材が接触するディスクに対する傷つけ等の問題の発生をより効果的に防止することができる。
本焼成工程は、大気中で行うのが好ましい。
これにより、酸化鉄粉末の生産性をより優れたものとすることができるとともに、酸化鉄粉末の磁化をより好適に制御することができる。
本焼成工程での加熱温度は、特に限定されないが、800℃以上1300℃以下であるのが好ましく、900℃以上1200℃以下であるのがより好ましく、950℃以上1150℃以下であるのがさらに好ましい。
これにより、酸化鉄粉末の磁化や形状(例えば、細孔容積、ピーク細孔径、BET比表面積等)等をより好適に調整することができ、ブレーキ摩擦材の制動性をより優れたものとしつつ、ブレーキ鳴きやブレーキ摩擦材が接触するディスクに対する傷つけ等の問題の発生をより効果的に防止することができる。
本焼成工程での加熱時間は、特に限定されないが、1時間以上24時間以下であるのが好ましい。
これにより、酸化鉄粉末の磁化や形状(例えば、細孔容積、ピーク細孔径、BET比表面積等)等をより好適に調整することができ、ブレーキ摩擦材の制動性をより優れたものとしつつ、ブレーキ鳴きやブレーキ摩擦材が接触するディスクに対する傷つけ等の問題の発生をより効果的に防止することができる。
《ブレーキ摩擦材》
次に、本発明に係るブレーキ摩擦材について説明する。
ブレーキ摩擦材は、前述した本発明の酸化鉄粉末を含むものである。
これにより、ブレーキ鳴きの問題を生じにくく、制動性に優れたブレーキ摩擦材を提供することができる。
ブレーキ摩擦材中における酸化鉄粉末の含有量は、10質量%以上90質量%以下であるのが好ましく、20質量%以上80質量%以下であるのがより好ましい。
ブレーキ摩擦材は、前述した本発明の酸化鉄粉末以外の成分を含むものであってもよい。
このような成分としては、例えば、バインダー(結合材)、有機充填材、無機充填材、繊維基材等が挙げられる。
(結合材)
結合材は、ブレーキ摩擦材に含まれる酸化鉄粉末等を結合、一体化し、ブレーキ摩擦材としての強度を向上させる機能を有するものである。
結合材は、特に限定されず、例えば、熱硬化性樹脂を用いることができる。
上記熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂;アクリル系樹脂;シリコーン樹脂;熱硬化性フッ素系樹脂;フェノール樹脂;アクリルエラストマー分散フェノール樹脂、シリコーンエラストマー分散フェノール樹脂等の各種エラストマー分散フェノール樹脂;アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、カシュー変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂、アルキルベンゼン変性フェノール樹脂等の各種変性フェノール樹脂等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
特に、良好な耐熱性、成形性、摩擦係数を与えることから、フェノール樹脂、アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、アルキルベンゼン変性フェノール樹脂を用いることが好ましい。
ブレーキ摩擦材中における結合材の含有量は、4質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、5質量%以上10質量%以下であるのがより好ましい。
これにより、ブレーキ摩擦材の強度を優れたものとしつつ、ブレーキ摩擦材の気孔率、弾性率をより適切なものとすることができ、ブレーキ鳴き等の音振性能の悪化をより効果的に防止、抑制することができる。
(有機充填材)
有機充填材は、例えば、ブレーキ摩擦材の音振性能や耐摩耗性等を向上させるための摩擦調整剤としての機能を有する。
有機充填材としては、特に限定されないが、例えば、カシューダスト、ゴム成分等を用いることができる。
カシューダストは、カシューナッツシェルオイルを硬化させたものを粉砕して得られるものである。
上記ゴム成分としては、例えば、タイヤゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム、NBR(ニトリルブタジエンゴム)、SBR(スチレンブタジエンゴム)、塩素化ブチルゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
ブレーキ摩擦材中における有機充填材の含有量は、0.5質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、1質量%以上10質量%以下であるのがより好ましく、3質量%以上8質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、ブレーキ摩擦材の弾性率が高くなること、ブレーキ鳴き等の音振性能の悪化をより効果的に防止、抑制することができ、また、耐熱性の悪化、熱履歴による強度低下をより効果的に防止、抑制することができる。
(無機充填材)
無機充填材は、例えば、摩擦材の耐熱性の悪化を避けるため、耐摩耗性を向上させるため、摩擦係数を向上するため、潤滑性を向上させるため、pHを調整するため等の目的で添加されるものである。
上記無機充填材としては、例えば、硫化錫、二硫化モリブデン、硫化鉄、三硫化アンチモン、硫化ビスマス、硫化亜鉛、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、硫酸バリウム、コークス、黒鉛、マイカ、バーミキュライト、硫酸カルシウム、タルク、クレー、ゼオライト、ムライト、クロマイト、ウォラストナイト、セピオライト、酸化チタン、酸化マグネシウム、シリカ、ドロマイト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、珪酸カルシウム、珪酸ジルコニウム、γアルミナ、二酸化マンガン、酸化亜鉛、酸化セリウム、ジルコニア、チタン酸カリウム、6チタン酸カリウム、8チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム、チタン酸ナトリウム等のチタン酸塩等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
ブレーキ摩擦材中における無機充填材の含有量は、20質量%以上80質量%以下であるのが好ましく、25質量%以上70質量%以下であるのがより好ましく、30質量%以上60質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、ブレーキ摩擦材の耐熱性をより優れたものとすることができ、ブレーキ摩擦材のその他の成分の含有量バランスの点でも好ましい。
(繊維基材)
繊維基材は、ブレーキ摩擦材において補強作用を示すものである。
繊維基材としては、金属材料やその他の無機材料で構成された無機繊維、有機材料で構成された有機繊維、これらの複合材料で構成された繊維等を用いることができ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
金属材料で構成された金属繊維としては、例えば、Al、Fe、Zn、Sn、Ti、Ni、Mg、Si、Cu等の金属やこれらのうち少なくとも1種を含む合金を主成分とする繊維を用いることができる。また、これらの金属、合金は、繊維形状以外に、粉末の形状で含有してもよい。
金属材料以外の無機材料で構成された無機繊維としては、例えば、炭素系繊維、セラミック繊維、鉱物繊維、ガラス繊維、シリケート繊維、バサルト繊維等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。当該無機繊維の中では、SiO2、Al2O3、CaO、MgO、FeO、Na2O等を任意の組み合わせで含有した生分解性鉱物繊維が好ましく、市販品としては、例えば、LAPINUS FIBERS B.V社製のRoxulシリーズ等が挙げられる。
有機材料で構成された有機繊維としては、例えば、アラミド繊維、セルロース繊維、アクリル繊維、フェノール樹脂繊維、ポリ(パラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、生分解性セラミック繊維等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
炭素系繊維としては、例えば、耐炎化繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、活性炭繊維等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
ブレーキ摩擦材中における繊維基材の含有量は、2質量%以上40質量%以下であるのが好ましく、2質量%以上20質量%以下であるのがより好ましく、2質量%以上15質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、ブレーキ摩擦材の強度を優れたものとしつつ、ブレーキ摩擦材の気孔率をより適切なものとすることができ、ブレーキ鳴き等の音振性能の悪化をより効果的に防止・抑制することができる。また、ブレーキ摩擦材の耐摩耗性をより優れたものとすることができる。また、ブレーキ摩擦材の製造時には、より優れた成形性を得ることができる。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、本発明の酸化鉄粉末の製造方法では、必要に応じて、前述した工程に加えて、他の工程(前処理工程、中間工程、後処理工程)を有していてもよい。より具体的には、例えば、分級処理を行う分級工程を有していてもよい。分級方法としては、例えば、風力分級、メッシュ濾過法、沈降法、各種篩を使った分級等が挙げられる。
また、本発明の酸化鉄粉末は、前述したような方法で製造されたものに限定されず、いかなる方法で製造されたものであってもよい。
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
《1》酸化鉄粉末の製造
各実施例および各比較例の酸化鉄粉末を以下のようにして製造した。
(実施例1)
まず、固形分が55質量%となるように、Fe2O3にカーボンブラック、水、バインダー成分としてPVA、ポリカルボン酸系分散剤を加え、ビーズミルで混合し、混合により得られたスラリーをスプレードライヤーで噴霧、乾燥することにより造粒した。
次に、電気炉を用いて、大気中、1000℃にて加熱することにより、本焼成を行った。
その後、解砕、分級を行うことにより、平均粒径が60μmの酸化鉄粉末を得た。
酸化鉄粉末の平均粒径(体積平均粒径)は、以下のような測定により求めた。すなわち、まず、試料としての酸化鉄粉末:10gと水:80mlとを100mlのビーカーに入れ、分散剤(ヘキサメタリン酸ナトリウム)を2滴添加した。次いで、超音波ホモジナイザー(SMT.Co.LTD.製UH−150型)を用い分散を行った。このとき、超音波ホモジナイザーの出力レベルを4に設定し、20秒間分散を行った。その後、ビーカー表面にできた泡を取り除き、マイクロトラック粒度分析計(例えば、日機装株式会社製、Model9320−X100等)に導入し、測定を行った。なお、後に述べる各実施例および各比較例についても同様にして求めた。ただし、平均粒径が100μm以上のものについては、x50のSEMで30粒子を撮影し、水平方向のフェレ径の平均値を平均粒径の値として採用した。
また、得られた酸化鉄粉末について、振動試料型磁気測定装置を用いて測定を行ったところ、飽和磁化:0.2349emu/gであった。
上記の磁気特性は以下のようにして求めた。すなわち、まず、内径5mm、高さ2mmのセルに酸化鉄粉末を詰めて振動試料型磁気測定装置(東英工業社製 VSM−C7−10A)にセットした。次に、印加磁場を加え、5K・1000/4π・A/mまで掃引し、次いで、印加磁場を減少させ、ヒステリシスカーブを作製した。その後、このカーブのデータより磁化を求めた。なお、後に述べる各実施例および各比較例についても同様にして求めた。
また、得られた酸化鉄粉末の細孔容積は81mm3/g、ピーク細孔径は0.51μm、BET比表面積は0.61m2/g、黒色度(L*値)は29.088、a*値は3.73、b*値は−1.04、塩素含有量は検出下限以下(2ppm以下)、硫黄含有量は13ppm、酸化鉄粉末を構成する粒子の平均形状係数SF−2は114、pHは8.62、見かけ密度は1.78g/cm3であった。
酸化鉄粉末の細孔容積、ピーク細孔径は、水銀ポロシメーターPascal140とPascal240(ThermoFisher Scientific社製)を用いて求めた。より具体的には、ディラトメーターはCD3P(粉体用)を使用し、サンプルは複数の穴を開けた市販のゼラチン製カプセルに入れて、ディラトメーター内に入れた。Pascal140で脱気後、水銀を充填し低圧領域(0〜400Kpa)を測定し、1st
Runとした。次に再び脱気と低圧領域(0〜400Kpa)の測定を行い、2nd Runとした。2nd Runの後、ディラトメーターと水銀とカプセルとサンプルを合わせた重量を測定した。次にPascal240で高圧領域(0.1Mpa〜200Mpa)を測定した。この高圧部の測定で得られた水銀圧入量をもって、酸化鉄粉末の細孔容積、細孔径分布およびピーク細孔径を求めた。また、細孔径を求める際には水銀の表面張力を480dyn/cm、接触角を141.3°として計算した。
また、BET比表面積は、比表面積測定装置(型式:Macsorb HM model−1208(マウンテック社製))を用いた測定により求めた。より具体的には、測定試料を比表面積測定装置専用の標準サンプルセルに約5g入れ、精密天秤で正確に秤量し、測定ポートに試料(酸化鉄粉末)をセットし、測定を開始した。測定は1点法で行い、測定終了時に試料の重量を入力すると、BET比表面積が自動的に算出された。なお、測定前に前処理として、測定試料を薬包紙に20g程度を取り分けた後、真空乾燥機で−0.1MPaまで脱気し−0.1MPa以下に真空度が到達していることを確認した後、200℃で2時間加熱した。測定環境は、温度;10〜30℃、湿度;相対湿度で20〜80%で、結露なしの条件とした。
黒色度(L*値)は、直径37mmのプラスチック製容器に試料(酸化鉄粒子)を充填した後、盛り上がった部分をほぼ平らになるようにすりきった後、表面にポリエチレンラップで密封した上から色差計(X−Rite社製、X−Rite938)を用いて測定した。
硫黄含有量、塩素含有量の測定は、燃焼法イオンクロマトグラフィーにて、酸化鉄粉末に含まれる陰イオン成分を下記条件で定量分析することにより行った。
‐ 燃焼装置:株式会社三菱化学アナリテック製 AQF−2100H
‐ 試料量:50mg
‐ 燃焼温度:1100℃
‐ 燃焼時間:10分
‐ Ar流量:400ml/min
‐ O2流量:200ml/min
‐ 加湿Air流量:100ml/min
‐ 吸収液:過酸化水素を1%含む溶離液
‐ 分析装置:東ソー株式会社製 IC−2010
‐ カラム:TSKgel SuperIC−Anion HS(4.6mmI.D.×1cm+4.6mmI.D.×10cm)
‐ 溶離液:NaHCO3(3.8mmol/L)+Na2CO3(3.0mmol/L)
‐ 流速:1.5mL/min
‐ カラム温度:40℃
‐ 注入量:30μL
‐ 測定モード:サプレッサ方式
‐ 検出器:CM検出器
‐ 標準試料:関東化学社製陰イオン混合標準液
なお、後に述べる各実施例および各比較例についても、上記と同様にして、硫黄含有量、塩素含有量の測定を行った。
pHの測定は、HM−20J(東亜ディーケーケー社製)を用いて、ガラス電極法で行った。酸化鉄粒子をビーカーに5gはかり取り、超純水100mLを加え、30秒攪拌した後、直ちにpH電極を投入し、pH値を読み取った。
なお、後に述べる各実施例および各比較例についても同様にして求めた。
(実施例2〜8)
スプレードライヤーでの造粒条件、焼成処理条件を調整することにより、酸化鉄粉末の条件を表2に示すようにした以外は、前記実施例1と同様に酸化鉄粉末を製造した。
(実施例9)
まず、原料としてのFe2O3に、ポリビニルアルコール(10質量%水溶液)40質量部を加え、ヘンシェルミキサーを用いて15分混合、造粒を行った。
その後、得られた造粒物に対し、800℃で脱バインダー処理を施し、有機物を除去し、ついで、大気中で、電気炉にて1000℃で、4時間保持し、本焼成を行った。
その後、解砕、分級を行うことにより、平均粒径が150μmの酸化鉄粉末を得た。
また、得られた酸化鉄粉末について、振動試料型磁気測定装置を用いて測定を行ったところ、飽和磁化:0.1678emu/gであった。
また、得られた酸化鉄粉末の細孔容積は88mm3/g、ピーク細孔径は0.42μm、BET比表面積は0.38m2/g、黒色度(L*値)は25.84、a*値は5.31、b*値は0.87、塩素含有量は35ppm、硫黄含有量は38ppm、酸化鉄粉末を構成する粒子の平均形状係数SF−2は126、pHは8.63、見かけ密度は1.61g/cm3であった。
(実施例10、11)
ヘンシェルミキサーでの造粒条件、仮焼成処理条件、本焼成処理条件を調整することにより、酸化鉄粉末の条件を表2に示すようにした以外は、前記実施例9と同様に酸化鉄粉末を製造した。
(実施例12)
スプレードライヤーでの噴霧、乾燥条件を変更した以外は、前記実施例1と同様にして酸化鉄粉末を製造した。
(比較例1)
造粒物の焼成を、ロータリーキルンを用いて非酸化性雰囲気中(窒素雰囲気中)で、加熱温度900℃という条件で行った以外は、前記実施例1と同様にして酸化鉄粉末を製造した。
(比較例2)
Fe2+を1.9mol/Lの濃度で含む硫酸第一鉄水溶液:10Lと12Nの水酸化ナトリウム水溶液:4Lとを反応器に加え、95℃において攪拌機回転数5rpm、毎分1.5Lの酸素を通気させ反応を行った。このとき、反応鉄濃度は1.36mol/Lであった。反応終了後、濾過、水洗、乾燥、粉砕を行い、酸化鉄粉末を得た。
得られた酸化鉄粉末は、平均粒径が0.6μmであった。
また、得られた酸化鉄粉末について、振動試料型磁気測定装置を用いて測定を行ったところ、飽和磁化:83.1emu/gであった。
また、得られた酸化鉄粉末の細孔容積は157mm3/g、ピーク細孔径は0.13μm、BET比表面積は3.90m2/g、黒色度(L*値)は15.31、塩素含有量は0.1ppm、硫黄含有量は750ppm、酸化鉄粉末を構成する粒子の平均形状係数SF−2は109、pHは8.44、見かけ密度は0.98g/cm3であった。
前述した各実施例および各比較例の酸化鉄粉末の製造条件を表1にまとめて示し、前述した各実施例および各比較例の酸化鉄粉末の特性等を表2にまとめて示す。なお、前記各実施例の酸化鉄粉末は、いずれも、酸化鉄粉末を構成する粒子のうち0.8μm以下のものの占める割合が5質量%以下であった。また、前記各実施例の酸化鉄粉末は、いずれも、酸化鉄粉末中におけるα−Fe2O3の含有率が99質量%以上であった。
《2》酸化鉄粒子による鉄粒子酸化度評価
前記各実施例および各比較例について、平均粒径5μmを有する鉄粒子(Ashland社製 Micropowder IRON S−1640)50gと、それぞれ得られた酸化鉄粉末12.5gとをボールミルで混合後、JIS M8212に基づいてFe(II)量を算定した。さらに、混合物を高温高湿環境下(温度45℃、相対湿度80%)に5日間暴露させた後、同様にFe(II)量を算定した。
高温高湿環境下暴露前後のFe(II)を用いた下記式から、酸化鉄粒子による鉄粒子の酸化度を算出した。
酸化度(%)=100−{(暴露後Fe(II)量)÷(暴露前のFe(II)量)×100}
《3》酸化鉄粒子を用いた成形体の製造およびFE−SEM評価
前記各実施例および各比較例について、それぞれ、得られた酸化鉄粉末4.5gと、フッ素系樹脂粉末0.5gとをボールミルで混合後、混合物1gを断面積1.13cm2の金型に投入し、50kNで加圧し、混合物の成形体を作製した。得られた成形体の加圧方向に垂直な面をイオンミリングで加工し、FE−SEMにて断面観察をおこなった。
イオンミリング装置は日立ハイテク社製IM−4000を使用し、以下の条件にて加工した。
DISCHARGE VOLTAG(放電電圧):1.5kV
ACCELERATION VOLTAGE(加速電圧):6kV
STAGE CONTROL(加工モード):C3
DISCHARGE CURRENT(イオンガン内部の放電電流):380〜450μA
ION BEAM CURRENT(イオンビーム電流):110〜140μA
GAS FLOW(アルゴンガス流量):0.07〜0.10cm3/min
加工時間:60分
FE−SEMは、日立ハイテク社製SU−8020を使用し、加速電圧1kV、LAモード、倍率450倍にて撮影し、以下の基準に従い評価した。
〇:粒子は変形しているものの、酸化鉄粒子が存在している部分と樹脂のみの部分が区別できる。
△:視野中に酸化鉄の部分が多く含まれる。
×:成形体中樹脂と酸化鉄が一様に広がる。
これらの結果を、前記各実施例および各比較例の酸化鉄粉末についてのサンプルミルによるストレス試験後の磁気特性とともに、表3にまとめて示す。
前記各実施例では、酸化鉄粒子の不本意な脱離等は認められず、優れた結果が得られた。
これに対し、硫黄含有量が多すぎる比較例2では、鉄粒子の酸化度が高い結果となりブレーキ摩擦材が接触するディスクの酸化、腐食等が生じやすくなることが懸念される結果となった。
また、酸化鉄粉末の磁化が大きすぎる比較例1、2では、ブレーキ摩擦材に添加して使用した場合、磁化が大きくブレーキの鳴きが発生されることが懸念される結果になった。