図1は例示的な統合型設備100の概略図である。図1を参照して統合型設備100が説明される。
統合型設備100は、石炭の燃焼の下で生成された蒸気の熱膨張圧を用いて発電する発電設備200及び木質系バイオマス(以下、「バイオマス」と称される)に対する発酵処理を実行し水素を生成する水素生成設備300が統合されることによって構築される。「統合」との用語は、発電設備200及び水素生成設備300の中で生じた物がこれらのうち一方から他方へ供給されること、若しくは、これらの間で交換されることを意味している。発電設備200は発電された電力の一部及び発電に利用された蒸気を水素生成設備300へ供給する。水素生成設備300は発電設備200からの電力供給下で動作し、蒸気の熱を用いてバイオマスに含まれる多糖類(セルロースやヘミセルロース)から網目状分子構造を有するリグニンを分離させる。リグニンが分離された後にバイオマスは発酵処理され、水素が作り出される。発酵処理の後に残ったバイオマスの残渣(以下、発酵残渣と称される)及び発酵処理の結果生じた水素の一部は水素生成設備300から発電設備200へ供給される。発酵残渣及び水素は発電設備200内で蒸気を作り出すための燃焼に供される。発電設備200及び水素生成設備300の概略的な構造が以下に説明される。
発電設備200は石炭の燃焼の下で生成された蒸気の熱膨張圧を用いて発電するので、発電設備200内で水又は蒸気を循環させる循環部位と、循環部位によって循環されている水又は蒸気に与えられる熱を作り出す熱源部位と、循環部位によって循環されている水又は蒸気を熱源部位によって作り出された熱に曝す加熱部位と、蒸気の膨張の下で発電する発電部位と、を有している。これらの部位が以下に説明される。
循環部位として、発電設備200は水が加熱部位を通過し加熱部位での加熱によって生成された蒸気が発電部位を通過するように形成された循環経路201と、水を加熱部位に送り出す給水ポンプ225と、給水ポンプ225の水源として機能する復水器224と、を有している。復水器224及び給水ポンプ225は循環経路201上に配置されている。給水ポンプ225は復水器224から水を吸い出し、吸い出された水を加熱部位へ送り出す。給水ポンプ225によって送り出された水は循環経路201に沿って流れ加熱部位に到達する。加熱部位は水を加熱し蒸気を生成する。蒸気は循環経路201に沿って流れ発電部位に到達する。発電部位は蒸気の熱膨張圧を利用して発電する。発電に利用された蒸気は循環経路201に沿って流れ復水器224に到達する。復水器224は蒸気を冷却し水に戻す。水は復水器224内に一時的に貯留される。復水器224内で貯留された水は給水ポンプ225によって再度加熱部位に送り出される。
加熱部位での加熱処理に利用される熱を作り出す熱源部位として、発電設備200は粉砕器210と2つのバーナ211,212とを有している。粉砕器210は石炭を粉砕する部位である。バーナ211は粉砕された石炭及び水素生成設備300から供給された水素を含有するパージガスを燃焼する部位である。バーナ212は水素生成設備300から供給された発酵残渣を燃焼する部位である。バーナ211,212は循環経路201の近くに配置されている。バーナ211,212が発酵残渣、水素及び石炭を燃焼する結果生じた加熱ガスは循環経路201内の水又は蒸気と熱交換し、加熱ガスの熱は循環経路201内の水又は蒸気に与えられる。
加熱ガスの熱に水又は蒸気を曝す加熱部位として、発電設備200は蒸発器221、過熱器222及び再熱器223を有している。蒸発器221、過熱器222及び再熱器223は循環経路201上に配置されている。蒸発器221、過熱器222及び再熱器223は上述のバーナ211,212とともにボイラ220を形成している。蒸発器221は上述の給水ポンプ225が送り出した水が流入するように循環経路201に配置されている。蒸発器221は、給水ポンプ225から供給された水を加熱し蒸気化するための部位である。蒸発器221で作り出された蒸気を更に加熱し過熱蒸気を作り出すための部位として過熱器222が設けられている。過熱器222が作り出した過熱蒸気の膨張圧力は発電部位での発電に利用される。発電処理の結果低下した蒸気の温度をある程度回復させるための部位として再熱器223が設けられている。再熱器223は蒸気の温度をある程度回復する。再熱器223を通過した蒸気は発電処理に再度利用される。発電処理に利用された蒸気は上述の復水器224に最終的に流入する。復水器224での冷却の結果得られた水は給水ポンプ225によって蒸発器221へ供給される。
水又は蒸気の循環経路201上に蒸気の熱膨張の下で発電する発電部位が配置される。発電部位はタービン231,232と、これらのタービン231,232に連結された発電機233と、を含む。タービン231は過熱器222によって作り出された過熱蒸気の膨張の下で発電機233を回転させる部位である。タービン232はタービン231で仕事をした後の蒸気を用いて発電機233を回転させる部位である。発電機233はタービン231,232によって駆動され電力を作り出す部位である。発電機233での発電に利用された蒸気の圧力は大きく低下する。
発電機233での発電のためにタービン232内で膨張した蒸気の多くは上述の如く復水器224へ供給される。タービン232内の蒸気の一部は抽気され水素生成設備300へ供給される。水素生成設備300へは蒸気だけでなく発電機233が作り出した電力の一部も供給される。水素生成設備300は発電機233からの電力供給の下で動作する。水素生成設備300の概略的な機能及び構造が以下に説明される。
水素生成設備300は、バイオマスを機械的及び熱的に処理した後に加水分解する。加水分解前及び加水分解中にバイオマスに加えられる熱によってバイオマスに含まれる多糖類からリグニンが分離される。リグニンが分離された多糖類は、加水分解の結果単糖化される。加水分解処理の後、水素生成設備300はバイオマスを発酵させる。水素生成設備300はその後、バイオマスの発酵の結果生じた発酵ガスに含まれる水素を精製する。水素生成設備300は精製の過程でパージ(排気)された水素の一部を発電設備200へ供給する。水素生成設備300は水素だけでなく発酵ガスを得るために行われた発酵処理の結果生じた発酵残渣を発電設備200へ供給する。これらの機能を達成する部位が以下に説明される。
バイオマスを機械的及び熱的に処理する部位として、水素生成設備300は工水槽311と、スラリー化部312と、熱交換器313,314,315と、を有する。工水槽311には、バイオマスをスラリー化するための工水が貯蔵されている。スラリー化部312はバイオマスを裁断するとともに工水槽311から供給された工水と裁断されたバイオマスとを混合し工水と裁断されたバイオマスとからなるスラリーを作り出す部位である。スラリーは熱交換器313,314,315へ送られる。熱交換器313,314,315はスラリーを順次加熱する部位である。熱交換器313,314,315がスラリーに与えた熱は、スラリー中のバイオマスに含まれる多糖類からリグニンを分離させる。
加熱されたスラリーは加水分解処理に曝される。加水分解処理を行う部位として、水素生成設備300は分解槽321と貯蔵設備322とを有する。貯蔵設備322には加水分解に用いられる希硫酸や加水分解処理の後に行われる発酵処理に用いられる培養液といった様々な処理材料が収容されている。分解槽321は希硫酸を用いてスラリーを加水分解する部位である。加水分解の結果、バイオマスに含まれる多糖類は単糖化される。
加水分解処理後のスラリーは発酵処理に曝される。発酵処理を行う部位として、水素生成設備300は培養槽331と発酵槽332とを有する。培養槽331は工水槽311から供給された工水、貯蔵設備322から供給された培養液及び分解槽321から供給されたスラリー(リグニンの分離後)を用いて発酵菌を培養する部位である。発酵槽332は培養槽331で培養された発酵菌を用いて分解槽321から供給されたスラリー(リグニンの分離後)を発酵させる部位である。スラリーの発酵の結果生じた発酵ガスに含まれる水素ガスはその後精製される。
発酵ガスから水素ガスを精製する部位として、水素生成設備300はガス圧縮部341と水素精製部342とを有する。発酵ガスから水素ガスを精製するためにある程度高い圧力が必要とされる。水素ガスの精製のために必要な圧力を得るために発酵ガスを加圧する部位としてガス圧縮部341が設けられている。ガス圧縮部341によって圧縮されたガスから圧力変動吸着法(PSA法:Pressure Swing Absorption)の下で水素ガスを分離及び精製する部位として水素精製部342が設けられている。水素精製部342には発酵ガス中の水素ガス以外の成分(以下、「不純成分」と称される)を吸着する吸着剤が充填されている。
水素ガス及び不純成分を含む発酵ガスは上述の如く、発酵槽332内でのスラリーの発酵から得られる。スラリーが発酵されると発酵ガスだけでなく発酵残渣も生ずる。発酵残渣は上述の如く、発電設備200のバーナ212によって燃焼される。発酵残渣がバーナ212による燃焼に資するように、水素生成設備300は発酵残渣に含まれる固体成分を液体成分から分離する分離部350を有する。固体成分には主にリグニンが含まれる。固体成分は水素生成設備300の分離部350から発電設備200のバーナ212へ供給される。
水素生成設備300は発電設備200からの電力の供給下で水素ガスの精製のための様々な処理と、発電設備200への水素ガス及び発酵残渣の供給とを行う。水素生成設備300の動作が以下に説明される。
水素生成設備300のスラリー化部312にバイオマスが供給される。バイオマスはスラリー化部312で裁断される。スラリー化部312は工水槽311から供給された工水を裁断されたバイオマスと混合しスラリーを作り出す。スラリーはスラリー化部312から熱交換器313,314,315を通じて分解槽321へ送られる。
熱交換器313,314には上述の発酵処理の結果生じた発酵残渣及び上述の加水分解処理の後のスラリーがそれぞれ流入する一方で熱交換器315には発電設備200のタービン232から抽気された蒸気が熱交換媒体として流入する。タービン232から熱交換器315へ流入する蒸気は150℃〜200℃である。熱交換器315で高温の蒸気と熱交換したスラリーも高温になる。高温のスラリーは熱交換器315から分解槽321に供給され分解槽321内で加水分解処理を受けた後、熱交換器314に熱交換媒体として流入する。分解槽321から熱交換器314へ流入するスラリーの温度は熱交換器315から流出するスラリーの温度よりも低くなっているけれどもスラリー化部312から送り出されたスラリーの温度よりは十分に高い。したがって、熱交換器314においてもスラリー化部312から送り出されたスラリーは加熱される。熱交換器313には熱交換媒体として発酵槽332から排出された発酵残渣が流入する。発酵槽332での発酵処理は上述の加水分解処理の後工程であるので、発酵処理が行われる発酵槽332から熱交換器313へ流入する発酵残渣は加水分解処理が行われる分解槽から熱交換器314へ流入するスラリーよりも低温になっているけれども、スラリー化部312から送り出されたスラリーよりは十分に高温である。したがって、熱交換器313においてもスラリー化部312から送り出されたスラリーは加熱される。熱交換器313,314,315がスラリーに順次与えた熱はスラリー中のバイオマスに含まれる多糖類からリグニンを分離する。
熱交換器313,314,315によって順次加熱されたスラリーは分解槽321へ流入する。スラリーは分解槽321で加水分解される。分解槽321が貯蔵設備322から受け取った希硫酸は加水分解の助剤として機能する。加水分解の結果、バイオマスに含まれる多糖類は単糖に変わる。この結果、後続する発酵処理が好適に行われる。
加水分解処理後のスラリーの一部は上述の熱交換器314に送られる。熱交換器314へ送られたスラリーは上述の如くスラリー化部312から送り出されたスラリーとの熱交換に用いられる。熱交換器314での熱交換の後、加水分解処理後のスラリーは発酵槽332へ供給される。
加水分解処理後のスラリーは培養槽331へも供給される。培養槽331へ送られたスラリーは発酵処理に用いられる発酵菌の培養に利用される。発酵菌の培養のために培養槽331へは工水が工水槽311から供給されるとともに培養液が貯蔵設備322から供給される。これらの原料を用いて培養された発酵菌は培養槽331から発酵槽332へ供給される。すなわち、発酵槽332は発酵菌及び加水分解後のスラリーを培養槽331及び熱交換器314からそれぞれ受け取る。
発酵槽332内で加水分解後のスラリー中のバイオマスは発酵される。発酵の結果、発酵槽332内で発酵ガスが生ずるとともに発酵残渣が残る。発酵ガスは発酵槽332からガス圧縮部341へ供給される一方で、発酵残渣は上述の熱交換器313へ熱交換媒体として供給される。熱交換器313を通過した発酵残渣は分離部350に流入する。発酵残渣は分離部350で固体成分と液体成分とに分けられる。発酵残渣の液体成分は廃棄される一方で発酵残渣の固体成分は発電設備200のバーナ212へ供給される。
発酵残渣とともに発酵槽332内で生じた発酵ガスはガス圧縮部341に送られ、ガス圧縮部341内で圧縮及び加圧される。加圧された発酵ガスはガス圧縮部341から水素精製部342へ供給される。
水素精製部342内の吸着剤は高圧環境下で不純成分を吸着し、水素精製部342内で高純度の水素を含む製品ガスが作り出される。不純成分の吸着の後、吸着剤の吸着能力は低下する。吸着能力の回復のために水素精製部342内は低圧環境に設定される。低圧環境下で不純成分は吸着剤から分離される。吸着剤から分離した不純成分を水素精製部342から放出するために高圧環境下で作り出された高純度の水素の一部が低圧環境下にある水素精製部342に供給される。この結果、不純成分及び水素を含む混合気体(以下、「パージガス」と称される)が水素精製部342から放出される。パージガスはその後、水素精製部342から発電設備200のバーナ211へ供給される。したがって、発電設備200はパージガスと発酵残渣とを水素生成設備300から受け取る。これらは発電設備200内で燃焼される。発電設備200の動作が以下に説明される。
発電設備200の粉砕器210に石炭及び一次空気が供給される。粉砕器210は石炭を粉砕する。粉砕された石炭は一次空気とともにバーナ211へ供給される。バーナ211には石炭の効率的な燃焼を促すための空気量を得るために二次空気が供給される。二次空気には水素生成設備300の水素精製部342から放出されたパージガスが混合される。パージガスが混合された二次空気の供給の下でバーナ211は微細化された石炭を燃焼する。
バーナ211とともに水又は蒸気を加熱するための熱源として用いられるバーナ212には水素生成設備300の分離部350によって液体成分から分離された発酵残渣の固体成分が供給される。固体成分には水素生成設備300の熱交換器313,314,315がスラリーに供給した熱によって多糖類から分離されたリグニンが多く含まれている。リグニンを多く含む固体成分はバーナ212によって燃焼される。
バーナ211,212による燃焼から得られた加熱ガスの熱は水又は蒸気の加熱に利用される。蒸気の生成のために給水ポンプ225は蒸発器221へ水を送る。水はバーナ211,212による燃焼から得られた加熱ガスの熱に蒸発器221内で曝され蒸気化する。蒸発器221で生じた蒸気は過熱器222へ流入する。過熱器222において蒸気は更に加熱され過熱蒸気に変わる。過熱蒸気は過熱器222からタービン231に流入する。タービン231内で過熱蒸気は膨張し、タービン231内での回転運動を引き起こす。タービン231内の回転運動は発電機233へ伝達される。発電機233はタービン231の回転運動の下で回転し電力を作り出す。
タービン231で仕事をした蒸気は再熱器223を通じてタービン232へ送られる。蒸気はタービン232内で膨張し、タービン232内での回転運動を引き起こす。タービン232内の回転運動は発電機233へ伝達される。発電機233はタービン232の回転運動の下で回転し電力を作り出す。
タービン232から蒸気の一部が抽気される一方で、残りの蒸気は復水器224に送られる。復水器224は蒸気を冷却し水に戻す。復水器224での冷却の結果得られた水は給水ポンプ225によって蒸発器221へ送られる。
復水器224に送られることなくタービン232から抽気された蒸気は水素生成設備300の熱交換器315に熱交換媒体として供給される。上述の如く、熱交換器315に供給された蒸気の熱はバイオマススラリーを加熱し、バイオマスに含まれる多糖類からのリグニンの分離に利用される。
蒸気、水素及び発酵残渣が発電設備200と水素生成設備300との間で交換される結果、発電設備200から排出される二酸化炭素の量は低い水準に抑えられる。二酸化炭素の排出量の低減の効果が以下に説明される。
水素生成設備300内において蒸気の熱はバイオマスに含まれる多糖類からのリグニンの分離に利用されている。水素生成設備300が原料ベースで2000t/dayの規模であるとき、水素生成設備300の熱交換器313,314,315での加熱処理に必要とされる熱量は、米国エネルギ省のNational Renewable Energy Laboratoryのデータに基づき9.64×106kcal/hと試算される。
水素生成設備300内での加熱処理のために発電設備200のタービン232から抽気される蒸気の圧力及び温度が1MP、280℃であるとの仮定の下で二酸化炭素の排出量の低減の効果が以下に試算される。1MP、280℃の圧力及び温度は、一般的な石炭火力発電において復水器に排出される蒸気の圧力及び温度を鑑みて仮定されている。蒸気の圧力及び温度が1MP、280℃であると仮定されるとき、タービン232から抽気される蒸気のエンタルピは716kcal/kgである。
タービン232から抽気される蒸気は水素生成設備300の熱交換器315へ熱交換媒体として供給される。熱交換器315において蒸気から熱を受け取ったスラリーはその後加水分解処理を受けるので、熱交換器315で加熱されたスラリーは加水分解処理に適した温度に設定される必要がある。以下の試算では、加熱分解処理に適した温度として150℃の温度が仮定されている。加えて、熱交換器315での加熱温度差(すなわち、熱交換器315内での蒸気とスラリーとの温度差)は一般的な熱交換器の性能を考慮して20℃と仮定されている。この場合、熱交換器315内での蒸気の温度は170℃と試算される。このときの飽和蒸気圧は0.8MPaと試算される。熱交換器315内での蒸気のエンタルピは、これらの値に基づいて172kcal/kgと試算される。
試算されたこれらのエンタルピ値及び水素生成設備300の規模の試算値から水素生成設備300で用いられる蒸気の量は以下の数式の如く算出される。
復水器224に導入される蒸気が発電に用いられたときの発電効率が以下に試算される。一般的な復水器の真空度が722mmHgであることを考慮して算出された飽和蒸気のエンタルピは611kcal/kgとなる。タービン効率が100%であるとの仮定の下で発電効率の最大値が以下の数式の如く算出される。
発電効率の最大値は14.7%にすぎないので、復水器224に導入される蒸気は発電設備200での仕事をほとんど終えているということができる。従来の石炭火力発電において仕事を終えた蒸気は復水器で棄てられている。すなわち、蒸気が有するエネルギの85.3%(=100%−14.7%)に相当する熱エネルギが棄てられているということができる。
上述の発電効率(14.7%)の下で得られる電力は以下の数式の如く試算される。
2166kWの電力はタービン232から低圧の蒸気が抽気されることなく発電が行われる条件下での試算値である。タービン232からの抽気がない条件下での発電設備200の発電量(以下の数式の右辺)とタービン232からの抽気がある条件下での発電設備200の発電量(以下の数式の左辺)との間で以下の等式が成り立つ。以下の数式の左辺は、タービン232から抽気がなされた後の発電設備200の発電効率を記号「ξ」で表している。以下の等式に関して、2166kW(数3を参照)の電力を生み出す蒸気は水素生成設備300で利用されるので損失としては勘定されていない。
上述の数式から算出される発電効率「ξ」は40.05%である。発電効率の増加は二酸化炭素の排出量の削減に帰結する。二酸化炭素の排出量の削減効果は、以下の数式から算出される。
上述の試算から発電に不要となった蒸気が発電設備200から水素生成設備300へ供給される結果、0.13%もの二酸化炭素の排出量の削減効果が試算される。加えて、水素生成設備300から発電設備200への水素の供給も二酸化炭素の排出量の低減に貢献する。水素生成設備300から発電設備200への水素の供給の結果得られる二酸化炭素の排出量の削減効果が以下に説明される。
水素生成設備300から発電設備200への水素の供給に水素精製部342から放出されたパージガスが利用される。水素精製部342から放出されるパージガスの流量及び組成が図2に示されている。図2に示されるデータは、米国エネルギ省のNational Renewable Energy Laboratoryが公開している情報に基づいている。
図2のデータは、水素精製部342から放出されるパージガスには28.4%の水素が含まれていることを示している。パージガス中の他の成分のほとんどは二酸化炭素である。パージガスは上述の如く、発電設備200のバーナ211へ二次空気とともに供給される。発電設備200のバーナ211が燃焼する石炭の発熱量は6322kcal/kgと見積もられる。発電設備200の発電効率が40%であることを考慮すると、石炭流量は以下の数式から算出される。
上述の石炭流量の下でバーナ211に供給される空気の量(すなわち、燃焼空気量)が以下に試算される。石炭が1.2の空気比で燃焼するとき1.2の空気比のうち0.2を1次空気が占め、残りの1を2次空気が占めているとの仮定の下で、以下の数式は2次空気の流量を算出している。
上式によって算出された流量の2次空気に水素生成設備300の水素精製部342から放出されたパージガス全て(15229Nm3/h:図2の流量の合計欄を参照)が混合されたときに混合ガスに占める水素(4318Nm3/h:図2の流量の水素の欄を参照)の割合は以下の数式に示される如く0.126%にすぎない。この割合は水素の爆発下限(LEL:Lower Explosive Limit)の5%よりも遙かに小さい。
水素の理論燃焼空気量(1.88Nm3/Nm3)を考慮して水素の燃焼に必要とされる空気の量は以下の数式から算出されるように二次空気の0.236%にすぎないと見積もられる。したがって、水素の燃焼のための特別な設計は発電設備200のボイラ220に必要とされない。
ボイラ220内での水素の燃焼の結果得られる発電量は以下の数式から算出される如く、6123kWと見積もられる。
水素の燃焼に基づく発電量の試算から、6123kW分の石炭が水素に置き換えられることが可能であるということができる。水素はカーボンニュートラルなバイオマスから得られているので、以下の数式から0.6%の二酸化炭素の削減効果が得られると試算される。
水素の燃焼に基づく発電量の試算値が6123kW(数10を参照)であるのに対してタービン232から抽気された蒸気から試算された発電量は2166kW(数3を参照)である。このことは、発電設備200が蒸気を水素生成設備300へ与える一方で水素を水素生成設備300から受け取る結果大きな発電量が得られることを意味する。
水素の燃焼の結果得られる発電量が水素生成設備300で使用される電力量と以下に比較される。水素生成設備300の水素の製造量が1549kg/hであるとき、水素生成設備300の電力原単位は、米国エネルギ省のNational Renewable Energy Laboratoryが公開している情報に基づき4.1kWh/kgH2と見積もられる。この条件に基づいて、水素生成設備300が必要とする電力量は以下の数式に示されるように6351kWであると試算される。この値は水素の燃焼の結果得られる発電量の試算値(6123kW)に略等しい。
上述の比較から、水素の燃焼の結果得られた電力は水素生成設備300によって消費されるということができる。水素生成設備300で消費される電力を補う量の電力を発電設備200は石炭を燃焼し発電する必要があるので、発電設備200から水素生成設備300への電力供給がなされる場合には、上述の数11の試算値の0.6%は二酸化炭素の削減効果として見積もられるべきではない。しかしながら、水素生成設備300が発電設備200から電力を受け取らないならば、0.6%の試算値は二酸化炭素の削減効果として見積もられる。
水素に加えて、発酵残渣が水素生成設備300から発電設備200へ供給される。発酵残渣(水素生成設備300の発酵槽332から分離部350へ流れる発酵残渣)の組成が図3に示されている。図3に示されるデータは、米国エネルギ省のNational Renewable Energy Laboratoryが公開している情報に基づいている。図1及び図3を参照して、発酵残渣の供給の結果得られる二酸化炭素の削減効果が以下に試算される。
図3のデータに示されるように、リグニンは6000kcal/kg−dry baseの熱量を有している。リグニンを多く含む発酵残渣の熱量は図3のデータに示されるように3012kcal/kgと見積もられる。発酵残渣から得られる発電量は以下の数式に示される如く算出される。以下の数式では発酵残渣に含まれる水分(48.8%)の煙突ロスが組み込まれているけれども、水分の多くは水素生成設備300の分離部350によって取り除かれるので、下記の試算値を上回る発電量が期待される。
水素生成設備300が消費する電力(=6351kW:数12を参照)が控除されたとしても、83939kWの発電量が得られる。この場合、二酸化炭素の削減効果は以下の数式に示される如く8.4%であると見積もられる。
上述の実施形態によれば、発電設備200は蒸気の圧力を利用して発電する。発電設備200のタービン231,232内で蒸気は膨張するので蒸気の圧力が低下する。減圧された蒸気の熱は水素生成設備300の熱交換器313,314,315でのバイオマススラリーの加熱に利用される。したがって蒸気の熱エネルギは有効に利用される。
蒸気の熱はバイオマスに含まれる多糖類からリグニンを分離するために用いられる。バイオマスは多糖類が単糖化される分解槽321内及び分解槽321へ流入するスラリーを加熱する熱交換器313,314,315内で蒸気由来の熱に曝されるので、発酵処理が行われる発酵槽332にバイオマスが流入する前にリグニンは分離される。バイオマスの発酵を阻害するリグニンが分離されているので、発酵槽332ではバイオマスの発酵が好適に行われる。
バイオマスからリグニンを分離するために蒸気が発電設備200から水素生成設備300へ供給される。加えて、発電設備200が作り出した電力の一部も水素生成設備300に供給される。水素生成設備300は発電設備200からの電力供給の下で動作する。発電設備200が燃焼する石炭は質及び量において安定的な燃料であるので、発電設備200は電力を安定的に作り出すことができる。すなわち、発電設備200は水素生成設備300に安定的に供給することができる。したがって、水素生成設備300は発電設備200からの電力供給下で安定的に動作することができる。
水素生成設備300の水素精製部342は圧力変動吸着法(PSA法:Pressure Swing Absorption)を用いて水素を精製する。パージガスは水素生成設備300から発電設備200へ供給され、パージガス中の水素は発電のために発電設備200のボイラ220内で燃焼されるので、パージガスは有効に利用される。
パージガスだけでなく発酵残渣も有効に利用される。発酵残渣はパージガス中の水素と同様に水素生成設備300から発電設備200へ供給され、発電設備200のボイラ220内で燃焼される。発酵残渣に含まれるリグニンは大きな熱量を有しているので、発電設備200の中では発酵残渣は大きな発電量を得るのに有効に利用される。発酵残渣の燃焼に由来する発電量に相当する分の石炭の燃焼が削減されるので、二酸化炭素は大幅に削減される。
上述の実施形態に関して、蒸気の圧力を利用して所定の仕事を実行する第1設備として石炭を燃焼し発電する発電設備200が例示されている。しかしながら、第1設備は石炭ガス化複合発電(IGCC:Integrated Coal Gasification Combined Cycle)、ガスタービンコンバインドサイクル(GTCC:Gas Tarbin Combined Cycle)、バイオマス発電、バイオマスCHP(熱電併給)、ゴミ発電、メタン発酵発電、製鉄や窯業で用いられる工業炉であってもよい。これらは燃焼及び熱回収の工程を有している。これらが共通して有するプロセス要素の概略図が図4に示されている。
図4に示されるプロセス要素は、図1を参照して説明されたボイラ220に相当する部位である。図4はプロセス要素として、燃焼装置240と熱回収装置250とを示している。燃焼装置240は図1を参照して説明された発電設備200のバーナ211,212に相当する部位である。第1設備として列記された上述の設備に関して、燃焼装置240は石炭ガス化複合発電及びガスタービンコンバインドサイクルのガスタービン、バイオマスCHP及びメタン発酵発電のガスエンジン、ゴミ発電のゴミ焼却部、工業炉の高温加熱部位それぞれに相当している。熱回収装置250は図1を参照して説明された発電設備200の蒸発器221、過熱器222及び再熱器223に対応する部位である。第1設備として列記された上述の設備に関して、熱回収装置250は、ゴミ発電、工業炉、石炭ガス化複合発電及びガスタービンコンバインドサイクルの廃熱ボイラ及びメタン発酵発電及びバイオマスCHPの廃熱ボイラ又は給湯器に対応する。バイオマス発電に関して、バイオマス発電の燃焼装置240及び熱回収装置250は図1を参照して説明された発電設備200と同様に一体化され発電用ボイラを形成する構造が一般的である。
燃焼装置240には燃料及び空気が供給される。燃料の一部として発酵残渣が用いられる。空気には水素が混合される。燃焼装置240で燃料が燃焼される結果、高温ガスが生成される。高温ガスは熱回収装置250内での熱交換処理に用いられる。熱回収装置250には水や油といった作動流体が流入する。作動流体が高温ガスと熱交換した後、作動流体の熱膨張圧は所定の仕事に利用される。所定の仕事の後の作動流体の熱は水素生成設備300の熱交換器313,314,315でのバイオマスとの熱交換に利用される。
上述の実施形態に関して、バイオマスを発酵する第2設備として水素生成設備300が例示されている。しかしながら、第2設備はバイオマスを発酵し、水素以外の物(例えば、輸送機の燃料として用いられる炭化水素やアルコールといった化成品)を生成する様々な装置であってもよい。例えば、第2設備はバイオマスを発酵しエタノールを生成するエタノール生成設備であってもよい。一般的なエタノール生成設備の概略図が図5に示されている。
エタノール生成設備は、リグニン分離部310、加水分解部321A、培養部331A、発酵部332A、分離回収部342A、排水処理部361、水処理部362、ボイラ及び発電部363を有している。リグニン分離部310はエタノールを生成するための発酵用の事前処理をバイオマス原料に対して行う部位であり、バイオマス原料に含まれる多糖類に結合したリグニンはリグニン分離部310で分離される。したがって、リグニン分離部310は図1を参照して説明されたスラリー化部312、熱交換器313,314,315に相当する部位である。加水分解部321A、培養部331A、発酵部332A及び分離回収部342Aは図1を参照して説明された分解槽321、培養槽331、発酵槽332及び水素精製部342に対応する部位である。加水分解部321Aにはリグニン分離部310でのリグニン分離処理後のバイオマスが供給される。バイオマスの多糖類は加水分解部321Aでの加水分解処理によって単糖化される。加水分解処理に必要とされる酵素は培養部331Aで培養される。酵素は培養部331Aから加水分解部321Aへ供給される。加水分解部321Aでの加水分解処理後のバイオマスは発酵部332Aへ供給され、発酵部332Aで発酵される。発酵部332Aでのバイオマスの発酵の結果、エタノールを含有する発酵液が生成される。発酵液は発酵部332Aから分離回収部342Aへ供給される。分離回収部342Aは発酵液からエタノールを回収し、他の成分は排水として処理される。
分離回収部342Aでの回収処理の結果生じた排水は排水処理部361で所定の処理を受けた後、循環水としてエタノール生成設備内で循環される。循環水の冷却や流量調整といった所定の処理を行う部位として水処理部362がエタノール生成設備に設けられている。
エタノール生成設備の一部としてボイラ及び発電部363が用いられている。ボイラ及び発電部363が生成した蒸気の熱はリグニン分離部310でのリグニンの分離や分離回収部342Aでのエタノールの回収に利用される。ボイラ及び発電部363は、図5に示されるエタノール生成設備が図1を参照して説明された発電設備200に統合されるならば必要とされない。ボイラ及び発電部363からの蒸気に代えて、発電設備200のタービン232から抽気された蒸気がリグニン分離部310及び分離回収部342Aに供給される。
発電設備200内での燃焼に発酵部332Aでの発酵によって生じた発酵残渣が利用可能である。エタノール生成設備から発電設備200へ発酵残渣が供給されると、発電設備200から排出される二酸化炭素は大幅に削減される。しかしながら、発酵残渣は発電設備200へ供給されなくてもよい。
エタノール生成設備が発電設備200と統合されるとき、発電設備200はエタノール生成設備へ電力を供給してもよい。しかしながら、エタノール生成設備は他の電力供給源からの電力で動作してもよい。
エタノール生成設備が発電設備200と統合されるとき、エタノール生成設備が生成したエタノールの一部は発電設備200のボイラ220内での燃焼に利用されてもよい。しかしながら、エタノールは発電設備200へ供給されなくてもよい。