JP6962273B2 - 内在性ペプチド同定用スペクトルライブラリ作成方法、内在性ペプチド同定方法、及び内在性ペプチド同定装置 - Google Patents

内在性ペプチド同定用スペクトルライブラリ作成方法、内在性ペプチド同定方法、及び内在性ペプチド同定装置 Download PDF

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本発明は、生体内で産生される内在性ペプチドを質量分析を利用して同定する際に使用されるスペクトルライブラリの作成方法、内在性ペプチドを質量分析を利用して同定する同定方法、及び同定装置に関する。
生体内でタンパク質が分解酵素により切断されて産生されたペプチドは一般に、内在性ペプチドと呼ばれる。内在性ペプチドの中で生理機能を有するペプチドは生理活性ペプチドと呼ばれ、その産生や代謝は生体内で厳密に制御されている。一方、活性を持たない内在性ペプチドであっても、その産生量の変化と疾患との関連が示唆されるものが少なくない。そのため、例えば、特定の細胞や組織において特異的に産生され、血液や尿等の体液中に分泌又は排出される内在性ペプチドは、非侵襲性の各種診断マーカーとして有用である。
内在性ペプチドの産生には様々な分解酵素が関わっているため、通常、一種類の前駆体タンパク質からアミノ酸配列(以下、アミノ酸配列を単に「配列」という場合がある)が異なる複数のペプチドバリアント(以下、単にバリアントという場合がある)が産生される。切断部位となるアミノ酸残基がわずか1残基の相違でしかない場合であっても、こうしたバリアントを厳密に区別して検出する手法として、質量分析法は非常に優れた方法であり、昨今、広く用いられるようになってきている。
一般に、質量分析を利用してペプチドを同定する際には、プロテオーム解析において広く使用されているタンパク質同定法であるタンパク質配列データベース検索法(非特許文献1参照、以下、単にデータベース検索法という)や、スペクトル検索法(非特許文献2参照)などが用いられることが多い。
データベース検索法は現在ペプチド同定に最も広く使用されている方法であり、そのための代表的なソフトウェアとして、マトリクスサイエンス(Matrix Science)社が提供している検索エンジンであるマスコット(Mascot)に含まれるMS/MSイオンサーチ(非特許文献1参照)がよく知られている。データベース検索法では、測定対象のタンパク質又はペプチドを含む試料に対して酵素消化を行うことによって該タンパク質又はペプチドを断片化し、得られた断片ペプチドの混合物に対しMS/MS(=MS2)測定を行ってMS2スペクトルを取得する。そして、タンパク質配列データベースに収録されている様々なタンパク質を同じ酵素で消化して得られる仮想ペプチドの理論的なMS2スペクトルデータを計算し、算出された理論MS2スペクトルと実測によるMS2スペクトルとを照合することにより、目的とするタンパク質やペプチドのアミノ酸配列を推定しそれらを同定する。
しかしながら、上述したように、内在性ペプチドでは様々な分解酵素が分解に関与するために分解様式がかなり多様であり、酵素によるアミノ酸配列上の切断部位も絞りにくい。そのため、内在性ペプチドのバリアントをデータベース検索法により同定するには、前駆体タンパク質のアミノ酸配列におけるありとあらゆる部位での切断を想定してタンパク質配列データベースについての検索を行う必要がある。そうすると、データベース検索における探索空間がプロテオーム解析の場合の1000倍近くまで拡がってしまう。そのため、検索に時間を要するだけではなく、統計的に有意なペプチド候補が得られにくくなるため、実測のMS2スペクトルの品質が良好であったとしてもプロテオーム解析と比べると同定感度がかなり低いものとなるおそれがある。
一方、スペクトル検索法では、試料に対して得られた実測のMS2スペクトルをスペクトルライブラリに収録されているMS2スペクトルデータと照合し、複数のピークの質量電荷比m/zの一致性などを判断してアミノ酸配列を推定することにより、目的のペプチドを同定する。この場合、検索対象はスペクトルライブラリに予め収録されているMS2スペクトルに限られるため、データベース検索法のように探索空間が膨大になるおそれはない。また、実測データとスペクトルライブラリ上のデータとの間で、プロダクトイオンの強度プロファイルの類似度を同定の確からしさの指標値であるスコアに反映することができ、そのスコアの精度を高めることができるという特徴がある。
しかしながら、一般的なスペクトル検索法では、実測によるMS2スペクトルとスペクトルライブラリに収録済みであるMS2スペクトルとでしかプロダクトイオンの強度プロファイルの照合が行われないので、データベース検索法と比べると検索の網羅性が劣ることが避けられない。また、同じタンパク質由来であって切断部位は異なるものの部分配列が共通するペプチドに関するMS2スペクトルについて、スペクトルライブラリに収録されているMS2スペクトルに対する適切な処理を行わずにプロダクトイオンの強度プロファイルの照合を行なうと、切断部位の相違等に起因する該強度プロファイルの不一致のために十分な検索性能が得られない。また、同一のペプチドであってもプリカーサイオンの価数の相違等によってプロダクトイオンの強度プロファイルが著しく変動するような場合には、やはり期待されるような検索性能が得られない。
国際公開第2017/047580号公報
「マトリクス・サイエンス−マスコット−MS/MS・イオンズ・サーチ(Matrix Science -Mascot- MS/MS Ions Search)」、[online]、マトリクス・サイエンス社(Matrix Science Ltd.)、[平成30年4月5日検索]、インターネット<URL: http://www.matrixscience.com/cgi/search_form.pl?FORMVER=2&SEARCH=MIS > ステフェン(Stephen E. Stein)、ほか1名、「オプティマイゼイション・アンド・テスティング・オブ・マス・スペクトラル・ライブラリ・サーチ・アルゴリズムス・フォー・コンパウンド・アイデンティフィケイション(Optimization and Testing of Mass Spectral Library Search Algorithms for Compound Identification)」 ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・ソサイエティ・マス・スペクトロメトリ(JASMS)、Vol.5、1994年、pp.859-866 村瀬雅樹、ほか6名、「新規内在性ペプチド同定ソフトウエアの尿試料への適用」、日本プロテオーム学会2016年大会((JHUPO第14回大会)、2P-07
上述したように、内在性ペプチドには生理機能の上で重要な働きを有するものもあるため、試料中の未知の内在性ペプチドを同定しその構造を解析することは医療、製薬、生理学などの分野において非常に重要である。また、生理機能を持たないペプチドであっても、特定の疾病の罹患等によってその構造や産生量が特異的に変化するものはバイオマーカーとして有用であるため、その構造や産生量が変化していないかどうか等を把握することは疾病の診断や治療を行ううえで重要である。しかしながら、質量分析を利用した内在性ペプチドの同定手法は現在まで確立されているとはいえない。
本発明はこうした課題に鑑みて成されたものであり、その一つの目的は、既知のマススペクトルが収録されているスペクトルライブラリを参照するスペクトル検索法を利用して内在性ペプチドの同定を行う際に、ペプチドの同定数つまりは同定感度を向上させることができる内在性ペプチド同定方法及び同定装置を提供することである。
また本発明の他の目的は、そうしたスペクトル検索法により内在性ペプチドを同定する際に好適なスペクトルライブラリを作成することができる内在性ペプチド同定用スペクトルライブラリ作成方法を提供することである。
上記一つの課題を解決するために成された本発明に係る内在性ペプチド同定用スペクトルライブラリ作成方法は、試料中の内在性ペプチドのアミノ酸配列を質量分析を利用したスペクトル検索法により推定して該ペプチドを同定する際に参照されるスペクトルライブラリを作成する内在性ペプチド同定用スペクトルライブラリ作成方法であって、
a)アミノ酸配列が未知である又は既知であるライブラリ作成用内在性ペプチドを含む試料に対しMS1測定を実行しMS1スペクトルを取得するMS1測定実行ステップと、
b)前記ライブラリ作成用内在性ペプチドを含む試料に対し、後記プリカーサイオン選定ステップで選定されたプリカーサイオンについてのMS2(=MS/MS)測定を実行しMS2スペクトルを取得するMS2測定実行ステップと、
c)前記MS2測定実行ステップで得られた実測MS2スペクトルに対して網羅的なペプチド同定手法による同定処理を実施することにより、前記ライブラリ作成用内在性ペプチドのアミノ酸配列を同定する又は確認するペプチド同定ステップと、
d)前記ペプチド同定ステップにおいてアミノ酸配列の同定が可能であった又はアミノ酸配列が正当であることが確認されたときに、同一ペプチド由来のMS2スペクトルの中から同定信頼度の高さ若しくは同定時に帰属されたピークの品質の高さを示す指標値に基づいて、相対的に若しくは絶対的に品質が高いMS2スペクトルを選別して、又は、相対的に若しくは絶対的に品質が高い複数のMS2スペクトルを結合し合成することで、品質を向上させた新たなMS2スペクトルを作成し、該選別した又は作成したMS2スペクトルに基づく情報をスペクトルライブラリに登録するライブラリ登録ステップと、
e)前記ライブラリ作成用内在性ペプチドについてのMS1スペクトルに基づいてMS2測定でターゲットとするプリカーサイオンを選定するものであって、前記ライブラリ登録ステップにおいて、既に実施されたMS2測定で得られたMS2スペクトルの品質が相対的に若しくは絶対的に低いと判定された場合、又は、同定の結果、帰属されたプロダクトイオンが少なく部分構造情報量が少ないと判定された場合に、前記MS2測定実行ステップによるMS2測定を再度実施するためのプリカーサイオンを新たに選定するプリカーサイオン選定ステップと、
を有することを特徴としている。
また本発明に係る第1の態様に係る内在性ペプチド同定装置は、上記発明に係る内在性ペプチド同定用スペクトルライブラリ作成方法を実施する装置であり、試料中の内在性ペプチドのアミノ酸配列をスペクトル検索法により推定して該ペプチドを同定する内在性ペプチド同定装置であって、
a)スペクトル検索法によるペプチド同定時に参照される、アミノ酸配列が既知である内在性ペプチドのMS2スペクトルが収録されているスペクトルライブラリと、
b)MS1測定及びMS2測定が可能である質量分析部と、
c)アミノ酸配列が未知である又は既知であるライブラリ作成用内在性ペプチドを含む試料に対しMS1測定を実行してMS1スペクトルを取得するように前記質量分析部を制御するMS1測定実行制御部と、
d)前記ライブラリ作成用内在性ペプチドを含む試料に対し、後記プリカーサイオン選定部により選定されたプリカーサイオンをターゲットとするMS2測定を実行しMS2スペクトルを取得するように前記質量分析部を制御するMS2測定実行制御部と、
e)前記MS2測定実行制御部の制御の下で得られた実測MS2スペクトルに対して網羅的なペプチド同定手法による同定処理を実施することにより、前記ライブラリ作成用内在性ペプチドのアミノ酸配列を同定する又は確認するペプチド同定部と、
f)前記ペプチド同定部によりアミノ酸配列の同定が可能であった又はアミノ酸配列が正当であることが確認されたときに、同一ペプチド由来のMS2スペクトルの中から同定信頼度の高さ若しくは同定時に帰属されたピークの品質の高さを示す指標値に基づいて相対的に若しくは絶対的に品質が高いMS2スペクトルを選別して、又は、相対的に若しくは絶対的に品質が高い複数のMS2スペクトルを結合し合成することで、品質を向上させた新たなMS2スペクトルを作成し、該選別した又は作成したMS2スペクトルに基づく情報を前記スペクトルライブラリに登録するライブラリ登録部と、
g)前記ライブラリ作成用内在性ペプチドについてのMS1スペクトルに基づいてMS2測定でターゲットとするプリカーサイオンを選定するものであって、前記ライブラリ登録部において、既に実施されたMS2測定で得られたMS2スペクトルの品質が相対的に若しくは絶対的に低いと判定された場合、又は、同定の結果、帰属されたプロダクトイオンが少なく部分構造情報量が少ないと判定された場合に、前記MS2測定実行制御部による制御の下でMS2測定を再度実施するためのプリカーサイオンを新たに選定するプリカーサイオン選定部と、
を備えることを特徴としている。
上記ライブラリ作成用内在性ペプチドはアミノ酸配列が既知であっても未知であってもよい。アミノ酸配列が未知である場合、ペプチド同定ステップでは、実測MS2スペクトルに対して網羅的なペプチド同定手法による同定処理を実施することにより、ライブラリ作成用内在性ペプチドのアミノ酸配列が同定される。一方、アミノ酸配列が既知である場合には、ペプチド同定ステップでは、上記同定処理のほかに、実測MS2スペクトルから検出されたピーク強度やSN比などを基準として選定された主要ピークと、既知のペプチドから生成されると推定されるプロダクトイオンとの一致度に基づいて、推定されたアミノ酸配列が正当かどうかの確認が行われてもよい。
また本発明においてMS1測定やMS2測定の際には、MS2測定が可能である種々の方式の質量分析装置を利用することができる。例えば、タンデム飛行時間型質量分析装置(TOF/TOFMS)、四重極飛行時間型質量分析装置(q−TOFMS)、イオントラップ飛行時間型質量分析装置(IT−TOFMS)、イオントラップ型質量分析装置(IT−MS)、リニアイオントラップ型質量分析装置(LIT−MS)などを利用することが可能である。また、1台の質量分析装置においてMS1測定とMS2測定とを実施しなくてもよく、例えばMS1測定はMS2測定ができないタイプの質量分析装置、例えば飛行時間型質量分析装置(TOFMS)等で行い、MS2測定はMS2測定が可能である上記のような各種の質量分析装置を用いて実施しても構わない。
上記第1の態様の内在性ペプチド同定装置により実施される本発明に係る内在性ペプチド同定用スペクトルライブラリ作成方法において、プリカーサイオン選定ステップでは、実測のMS1スペクトルに基づいて、MS2測定でターゲットとされるプリカーサイオンが選定される。未知試料では、プリカーサイオン強度や質量電荷比を基準として、一度の測定でより多くの同定可能なスペクトルが得られるようにプリカーサイオンが選定される。一方、既知試料の場合には、既知ペプチドの一覧の中から適宜のプリカーサイオンが選定される。ただし、既に或るプリカーサイオンについてMS2測定が実施されており、そのMS2測定により取得された実測のMS2スペクトルの品質が相対的に又は絶対的に低いと判定されている場合には、そのMS2測定におけるプリカーサイオンとは別のプリカーサイオンが再MS2測定のターゲットとして選定される。
プリカーサ選定ステップにおいて、MS2測定を再度実施するためのプリカーサイオンを新たに選定する際には、同定信頼度の高さ、又は同定時に帰属された複数のプロダクトイオンの強度の総和やSN比の総和などを指標として品質の高さを判定すればよい。ここで所定の判定閾値に満たない低品質のMS 2 スペクトルしか得られていなかった場合には、データの積算回数を初回のMS 2 測定時よりも増やすなどの測定条件を変更するとよい。一方、帰属された系列イオンの種類によりイオン生成量に著しく偏りがある場合には、部分構造情報量が不足していると判定してもよい。例えば、y系列イオンとb系列イオンについて、それぞれのプロダクトイオンの強度の総和やSN比の総和の比が1:10などの所定の閾値以上に偏っている場合などには、部分構造情報量が不足しているとみなして構わない。
このように部分構造情報量が不足している場合には、再測定するプリカーサイオンを選択するために、プリカーサイオンの価数と、同定された又は正当であることが確認されたライブラリ作成用内在性ペプチドのアミノ酸組成と、の少なくともいずれかを利用するとよい。即ち、同じアミノ酸配列であってもプリカーサイオンの価数が異なると開裂の態様が相違するし、また、アミノ酸配列中に塩基性アミノ酸(リシン、アルギニン、ヒスチジン、トリプトファンなど)が存在するときにはその個数とプリカーサイオンの価数との関係によって開裂の態様が相違する。具体的には、プリカーサイオンの価数が塩基性アミノ酸の個数以下であると、アミノ酸配列上でプロダクトイオンの生成に偏りが生じて検出可能なプロダクトイオン数が減少し、MS2スペクトルの品質が低くなる傾向にある。そのような場合には、プリカーサイオンの価数が塩基性アミノ酸の個数よりも大きくなるようにプリカーサイオンを選定するとよい。
MS2測定実行ステップでは上述のように選定されたプリカーサイオンをターゲットとするMS2測定を実行してMS2スペクトルを取得する。ペプチド同定ステップでは、得られた実測MS2スペクトルに対して網羅的なペプチド同定手法による同定処理を実施することにより、ライブラリ作成用内在性ペプチドのアミノ酸配列を同定する又は確認する。この網羅的なペプチド同定手法とは典型的にはタンパク質データベースを用いたデータベース検索法である。一例として、特許文献1及び非特許文献3に記載されている既存の内在性ペプチド同定用配列データベース検索ソフトウェアを利用することができる。網羅的なペプチド同定手法を用いることにより、同じ前駆体タンパク質由来の多様なペプチドバリアントも同定することができる。
ライブラリ登録ステップでは、アミノ酸配列の同定が可能であった又はアミノ酸配列が正当であることが確認された場合に、そのライブラリ作成用内在性ペプチドについてのMS2スペクトルにおいて観測されるプロダクトイオンの系列を確認し、ペアであるイオン系列(例えばy系列とb系列)のイオンが偏りなく検出されているか否かを判定することでMS2スペクトルの品質を評価する。そして、同一ペプチド由来の複数のMS2スペクトルの中から相対的に又は絶対的に品質が高いMS2スペクトルを選別するか、或いは、相対的に又は絶対的に品質が高い複数のMS2スペクトルを結合し合成することで新たなMS2スペクトルを作成する。同一ペプチドから質量電荷比が相違する複数の異なるMS 2 スペクトルが得られた場合には、各MS 2 スペクトルから検出されたプロダクトイオンの同位体分布に対してデコンボリューションの手法を適用し、各MS 2 スペクトルから同一の質量電荷比を持つプロダクトイオンの質量を算出して作成したピークリストを結合してもよい。そして、その選別した又は作成したMS2スペクトルから得られるピークの質量電荷比などのスペクトル情報をアミノ酸配列の情報と共にスペクトルライブラリに登録する。
このようにして本発明に係る内在性ペプチド同定用スペクトルライブラリ作成方法では、網羅的なペプチド同定手法で同定されたペプチドバリアントについての高い品質のMS2スペクトルを収録したスペクトルライブラリを構築することができる。また、同一のペプチドについてプリカーサイオンの価数の相違などに起因して開裂様式が異なるプロダクトイオンの強度プロファイルを示すMS2スペクトルを、スペクトルライブラリに収録することもできる。
また上記一つの課題を解決するために成された本発明に係る内在性ペプチド同定方法は、試料中の内在性ペプチドのアミノ酸配列を質量分析を利用したスペクトル検索法により推定して該ペプチドを同定する内在性ペプチド同定方法であって、
a)目的の内在性ペプチドを含む試料に対しMS2測定を実行してMS2スペクトルを取得するMS2測定実行ステップと、
b)前記MS2測定実行ステップで得られた実測MS2スペクトルについてスペクトルライブラリを用いたスペクトル検索を行うことでペプチドを推定するものであって
b1)スペクトルライブラリに収録されているMS2スペクトルに対応するプリカーサイオンのアミノ酸配列のN末端側及びC末端側の一若しくは複数のアミノ酸残基を除去する又は一若しくは複数のアミノ酸残基を付加しつつ、MS2測定のターゲットであるプリカーサイオンの質量電荷比と一致するものを探索することで、ペプチドバリアントのアミノ酸配列を推定するバリアント配列推定ステップと、
b2)前記バリアント配列推定ステップによるペプチドバリアントのアミノ酸配列推定に利用された元のMS2スペクトルに基づいて、該ペプチドバリアントに対応するMS2スペクトルを生成するスペクトル生成ステップと、
b3)前記スペクトル生成ステップにおいて得られたMS2スペクトルと前記実測MS2スペクトルとを照合して類似度を求め、該類似度に基づいて前記ペプチドバリアントのアミノ酸配列を推定する類似度算出ステップと、
を有することを特徴としている。
また本発明に係る第2の態様に係る内在性ペプチド同定装置は、上記発明に係る内在性ペプチド同定方法を実施する装置であり、試料中の内在性ペプチドのアミノ酸配列をスペクトル検索法により推定して該ペプチドを同定する内在性ペプチド同定装置であって、
a)前記スペクトル検索法に利用される既知の内在性ペプチドのMS2スペクトルが収録されているスペクトルライブラリと、
b)MS2測定が可能である質量分析部と、
c)目的とする内在性ペプチドを含む試料に対してMS2測定を実施してMS2スペクトルを取得するように前記質量分析部を制御するMS2測定実行制御部と、
d)前記MS2測定実行制御部の制御の下で得られた実測MS2スペクトルについてスペクトルライブラリを用いたスペクトル検索を行うことでペプチドを推定するものであって
d1)スペクトルライブラリに収録されているMS2スペクトルに対応するプリカーサイオンのアミノ酸配列のN末端側及びC末端側の一若しくは複数のアミノ酸残基を除去する又は一若しくは複数のアミノ酸残基を付加しつつ、MS2測定のターゲットであるプリカーサイオンの質量電荷比と一致するものを探索することで、ペプチドバリアントのアミノ酸配列を推定するバリアント配列推定部と、
d2)前記バリアント配列推定部によるペプチドバリアントのアミノ酸配列推定に利用された元のMS2スペクトルに基づいて、該ペプチドバリアントに対応するMS2スペクトルを生成するスペクトル生成部と、
d3)前記スペクトル生成部において得られたMS2スペクトルと前記実測MS2スペクトルとを照合して類似度を求め、該類似度に基づいて前記ペプチドバリアントのアミノ酸配列を推定する類似度算出部と、
を備えることを特徴としている。
上記第2の態様に係る内在性ペプチド同定装置により実施される本発明に係る内在性ペプチド同定方法において、MS2測定実行ステップでは、目的とする未知の内在性ペプチドを含む試料に対してMS2測定を実行してMS2スペクトルを取得する。一般的なスペクトル検索法では、この実測MS2スペクトルをスペクトルライブラリに収録されているMS2スペクトルと直接的に照合することでペプチドの同定を試みるが、ここでは、まずバリアント配列推定ステップにおいてペプチドバリアントのアミノ酸配列が推定される。即ち、スペクトルライブラリに収録されている各MS2スペクトルについて、MS2スペクトルに対応するプリカーサイオンのアミノ酸配列のN末端側及びC末端側の一若しくは複数のアミノ酸残基を除去する又は一若しくは複数のアミノ酸残基を付加しつつ、MS2測定のターゲットであるプリカーサイオンの質量電荷比と一致するものの探索が試みられる。そして、プリカーサイオンの質量電荷比と一致する(質量差が所定範囲内である)ものが見つかったならば、それがペプチドバリアントのアミノ酸配列であると推定する。
次いで、スペクトル生成ステップでは、見いだされたペプチドバリアントのアミノ酸配列推定に利用された元のMS2スペクトルに基づいて、上記のアミノ酸残基の付加や除去に対応した質量を各ピークの質量電荷比に加算したり減算したりすることで、ペプチドバリアントに対応するMS2スペクトルを生成する。ここで生成されるMS2スペクトルはN末端側断片のMS2スペクトルとC末端側断片のMS2スペクトルに相当するものである。そして、類似度算出ステップでは、こうして得られたMS2スペクトルと実測MS2スペクトルとについてプロダクトイオンの強度プロファイルの一致性に基づく類似度を求める。即ち、スペクトルライブラリに収録されているMS2スペクトルそのものではなく、ペプチドバリアントを考慮して、つまりは切断部位が多様であることを考慮して変形させたMS2スペクトルと実測MS2スペクトルとの照合によるスペクトル検索が実施される。
本発明に係る内在性ペプチド同定用スペクトルライブラリ作成方法及び本発明の第1の態様による内在性ペプチド同定装置によれば、スペクトル検索法により内在性ペプチドを同定する際に好適な、つまりは内在性ペプチドの同定感度が高いスペクトルライブラリを作成することができる。また本発明に係る内在性ペプチド同定方法及び本発明の第2の態様による内在性ペプチド同定装置によれば、従来に比べて、内在性ペプチドの同定感度を向上させることができる。
本発明の一実施例である内在性ペプチド同定システムのブロック構成図。 本実施例の内在性ペプチド同定システムにおけるスペクトルライブラリ作成の処理の流れを示すフローチャート。 本実施例の内在性ペプチド同定システムにおけるペプチド同定の処理の流れを示すフローチャート。 [M+H]+=m/z 1510.9であるウロモジュリンペプチド[配列:SVIDQSRVLNLGPI](2価)のMS2スペクトルにおけるピークの帰属結果を示す図。 [M+H]+=m/z 1581.9であるウロモジュリンペプチド[配列:IDQSRVLNLGPITR](2価)のMS2スペクトルにおけるピークの帰属結果を示す図。 [M+H]+=m/z 1581.9であるウロモジュリンペプチド[配列:IDQSRVLNLGPITR](3価)のMS2スペクトルにおけるピークの帰属結果を示す図。 本実施例の内在性ペプチド同定システムにおけるペプチド同定処理の一例の説明図。 本実施例の内在性ペプチド同定システムにおけるペプチド同定処理を実施したときの、照合先のMS2スペクトルと照合元(実測)のMS2スペクトルとの間の類似度の分布を示す図。
まず本発明に係る内在性ペプチド同定システムの一実施例について、添付図面を参照して説明する。
図1は本実施例による内在性ペプチド同定システムのブロック構成図である。
この内在性ペプチド同定システムは、質量分析部1と、データ処理部2と、タンパク質配列データベース3とを備える。また、データ処理部2は、機能ブロックとして、スペクトル解析部21と、プリカーサイオン選定部22と、ペプチド同定部23と、ライブラリ登録処理部24と、スペクトルライブラリ25と、解析結果出力部26とを備える。さらに、ペプチド同定部23は、データベース(DB)検索実行部231と、スペクトル検索実行部232とを含み、該スペクトル検索実行部232は、バリアント配列推定部2321、スペクトル合成部2322、及び、類似度算出部2323、を備える。
通常、データ処理部2は、パーソナルコンピュータ又はより高性能なワークステーション等をハードウェア資源とし、該コンピュータにインストールされた専用の制御・処理ソフトウェアを該コンピュータ上で動作させることでそれぞれの機能を達成する構成である。
この内在性ペプチド同定システムは、スペクトルライブラリ25に事前に格納されている多数の内在性ペプチドについてのマススペクトル(MS2スペクトル)の情報を用いて、分析対象である試料に含まれる内在性ペプチドのペプチド配列(アミノ酸配列)を推定し、決定されたアミノ酸配列をペプチド同定結果として解析結果出力部26から出力するものである。
質量分析部1はペプチドを含む試料に対してMS2測定が可能である質量分析装置であり、高スループットで且つ質量分解能や質量精度が高いことが望ましい。例えば、MALDIイオン源とタンデム飛行時間型質量分析装置を組み合わせたMALDI−TOF/TOFMSのほか、四重極飛行時間型質量分析装置(q−TOF MS)、イオントラップ飛行時間型質量分析装置(IT−TOFMS)、イオントラップ型質量分析装置(IT−MS)、リニアイオントラップ型質量分析装置(LIT−MS)などを用いることができる。
質量分析部1では試料に対してMS1測定を行うことで、所定の質量電荷比範囲に亘るイオンの信号強度を示すMS1スペクトルデータを取得する。又は、試料に対して所定のプリカーサイオンについてのMS2測定を行うことで、所定の質量電荷比範囲に亘るプロダクトイオンの信号強度を示すMS2スペクトルデータを取得する。得られたスペクトル(MS1スペクトル又はMS2スペクトル)データはスペクトル解析部21に入力され、スペクトル解析部21はスペクトルデータに基づいて所定の基準に従いピークを抽出し、ピークの質量電荷比や信号強度などを含むスペクトル情報を作成する。
ペプチド同定部23においてデータベース検索実行部231は、与えられた実測MS2スペクトルのスペクトル情報とタンパク質配列データベース3とに基づいて、タンパク質配列データベース検索法によるペプチド同定処理を実行する。なお、このデータベース検索実行部231によるペプチド同定処理は後述するスペクトルライブラリ作成時にのみ実施される。このときに使用されるタンパク質配列データベース3としては、様々な既存のタンパク質データベース、例えばスイスバイオインフォマティクス研究所(略称:SIB)等が提供している「Swiss-Prot」、米国国立生物工学情報センター(略称:NCBI)が提供している「NCBI Nr」などを用いることができる。
ライブラリ登録処理部24は、データベース検索実行部231によりペプチド配列が同定された又は確認された内在性ペプチドのスペクトル情報を、スペクトルライブラリ25に登録する。スペクトルライブラリ25に登録されるデータは、MS2スペクトルから抽出されたイオンピーク(質量電荷比、信号強度、価数)のピークリスト、及び、プリカーサイオンの質量電荷比を含む。また、MS2スペクトル上のイオンピークの質量電荷比を価数に依らず1価イオン相当の質量電荷比に変換し、つまりは多価イオンが観測されるMS2スペクトルを1価イオンのMS2スペクトルに変換したうえで該MS2スペクトルから得られるピークリストをスペクトルライブラリ25に登録してもよい。
スペクトル検索実行部232は、与えられた実測MS2スペクトルのスペクトル情報と上述のようにスペクトルライブラリ25に登録されているスペクトル情報とに基づいて、目的とする内在性ペプチドのアミノ酸配列を推定する。上述したように、このときにはタンパク質配列データベース3は使用されず、データベース検索実行部231も機能しない。
プリカーサイオン選定部22は、実測のMS1スペクトルに基づいてMS2測定のためのプリカーサイオンを選定するが、或るプリカーサイオンについてのMS2測定によってMS2スペクトルが得られている場合には、そのMS2スペクトルの品質を評価し、その品質が低い場合には、実測のMS1スペクトルに基づいて別の質量電荷比のプリカーサイオンを選定する機能を有する。ここで、別の質量電荷比のプリカーサイオンを選定する際には、プリカーサイオンの価数と、測定済みのMS2スペクトルに基づくデータベース検索によって同定されたペプチドのアミノ酸配列中に存在する塩基性アミノ酸配列数とを利用することができる。また、ペアであるy系列イオンとb系列イオンの一方のみが検出され、他方が実質的に検出されないとき、つまりはプロダクトイオンの量にイオン系列に関する偏りがあるときに、MS2スペクトルの品質が低いと判断すればよい。
次に、本実施例の内在性ペプチド同定システムにおける特徴的な処理動作を説明する。
[スペクトルライブラリ作成処理]
本実施例の内在性ペプチド同定システムでは、まず、アミノ酸配列が既知である又は未知であるライブラリ作成用内在性ペプチドを実測し同定した結果に基づいて、スペクトルライブラリ25を作成しておく。このスペクトルライブラリ作成処理について、図2に示すフローチャートを参照して説明する。
質量分析部1は、ライブラリ作成用内在性ペプチドを含む試料について質量分析(MS1測定)を実行しMS1スペクトルを取得する(ステップS10)。スペクトル解析部21は得られたMS1スペクトル上でピークを抽出し、プリカーサイオン選定部22は複数のピークの中から所定の基準に従いMS2測定対象のプリカーサイオンを1又は複数選定する。例えば、信号強度が所定の閾値以上であるイオンピークをプリカーサイオンとして選定すればよい。そして質量分析部1は、上記ライブラリ作成用内在性ペプチドを含む試料に対し、選定された1又は複数のプリカーサイオンについてのMS2測定をそれぞれ実行し、MS2スペクトルを取得する(ステップS11)。
スペクトル解析部21は得られたMS2スペクトル上でプロダクトイオン由来のピークを抽出してピークリストを作成し、このリストを含むスペクトル情報をペプチド同定部23に入力する。データベース検索実行部231は、タンパク質配列データベース3に収録されているタンパク質又はペプチドのアミノ酸配列を利用して、網羅的にライブラリ作成用内在性ペプチドの同定を試みる(ステップS12)。なお、このときのデータベース検索実行部231における同定処理は、本発明者らが開発した、特許文献1及び非特許文献3に記載の既存の内在性ペプチド同定用配列データベース検索ソフトウェアを利用することができる。もちろん、このときのペプチド同定法はこれに限らないが、できるだけ網羅的な同定であることが望ましい。
ペプチドが同定できたならば、ライブラリ登録処理部24はその同定に使用されたMS2スペクトルの品質を評価する。具体的には例えば、同定されたライブラリ作成用内在性ペプチドについての実測MS2スペクトルにおいて観測されるプロダクトイオンの系列を確認し、ペアであるy系列とb系列のイオンが同じ程度の信号強度で観測されているか否か、即ち、偏りなく検出されているか否かを判定する。そして、その判定結果を指標化して指標値が所定の閾値を超えるものを品質が高いMS2スペクトル、閾値未満のものを品質が低いMS2スペクトルであるとみなす。或いは、同定の際に同時に得られるスコアなどの同定信頼度を示す指標値に基づいてMS2スペクトルの品質の高低を判断してもよい。そして、品質の高いと判定されたMS2スペクトルがあれば、そのMS2スペクトルに基づくスペクトル情報をライブラリ登録候補として選定する(ステップS13)。
また、同定された一つのペプチドに由来するMS2スペクトルが複数あり、それらがいずれも高い品質であると判定された場合には、その高品質である複数のMS2スペクトルを結合し合成することで新たなMS2スペクトルを作成し、これをライブラリ登録候補として選定してもよい。さらにまた、同一ペプチドに由来する複数の異なる強度プロファイルのMS 2 スペクトルが得られた場合には、各MS 2 スペクトルにおいて検出されたプロダクトイオンの同位体分布に対しデコンボリューションを行い、各MS 2 スペクトルから同一の質量電荷比を持つプロダクトイオンの質量を算出して作成したピークリストを結合し、これをライブラリ登録候補としてもよい。
なお、ライブラリ作成用内在性ペプチドのアミノ酸配列が既知である場合、上記ステップS12では、その既知であるアミノ酸配列を用いて同定結果が正しいか否かを確認し、同定結果が正しくなければ、上記ステップS13の処理をパスしてステップS14へ進めばよい(図2では記載を省略)。同定結果であるアミノ酸配列の確認は、例えば、実測により得られたMS2スペクトルにおいて検出された複数のピークの中でピーク強度やSN比などを基準として選定された主要ピークと、既知のペプチドからCIDにより生成されると推定されるプロダクトイオンとの質量電荷比の一致度に基づいて行うことができる。一方、ライブラリ作成用内在性ペプチドのアミノ酸配列が未知である場合には、ステップS12において同定された結果が正しいとみなしてステップS13の処理を実施すればよい。
ステップS13の処理のあと、プリカーサイオン選定部22は、必要に応じて、実測のMS1スペクトルに基づいて再度MS2測定を行うべきプリカーサイオンがあるか否かを確認し、適切なプリカーサイオンの選定を試みる(ステップS14)。具体的には、ステップS13でMS2スペクトルの品質が低いと判定されてライブラリ登録候補が選定されなかったときにプリカーサイオンの再選定を行うとよい。また、ステップS12での同定により帰属された系列イオンの種類によってイオン生成量に著しく偏りがある場合には、部分構造情報量が不足していると判断してプリカーサイオンの再選定を行うとよい。具体的には例えば、y系列イオンのプロダクトイオンに対応するピークの信号強度の総和又はSN比の総和と、b系列イオンのプロダクトイオンに対応するピークの信号強度の総和又はSN比の総和とをそれぞれ計算し、その強度総和の比又はSN比総和の比が1:10など所定の閾値以上に差がある場合などには、部分構造情報量が不足していると推定すればよい。
後述するように、同じアミノ酸配列のイオン種であってもイオンの価数が異なると、或いは、そのイオンの価数とアミノ酸配列中の塩基性アミノ酸の数との関係によって、CIDによる開裂の態様が相違し、その結果、MS2スペクトルにおけるプロダクトイオンの強度プロファイルが相違することがある。そこで、プリカーサイオンの再選定方法としては例えば、同じイオン種で価数が異なるイオンピークがMS1スペクトルで観測されるか否かを判定し、観測される場合にそれをプリカーサイオンとして再選定すればよい。
こうした再測定対象のプリカーサイオン候補が存在しなければ、ステップS15からS17へと進み、ライブラリ登録処理部24は、ステップS13でライブラリ登録候補として挙げたMS2スペクトルのスペクトル情報を抽出して、アミノ酸配列情報等と共にスペクトルライブラリ25に登録する。一方、再測定対象のプリカーサイオン候補が存在する場合には、ステップS15からS16へと進み、質量分析部1はプリカーサイオン選定部22で新たに選定されたプリカーサイオンをターゲットとするMS2測定を実行する。そして、新たなMS2スペクトルが得られたならばステップS16からS12へと戻り、そのMS2スペクトルについて上述したようにステップS12以降の処理を繰り返す。
以上のようにして、本実施例の内在性ペプチド同定システムでは、ライブラリ作成用内在性ペプチドを実測し同定した結果に基づいて、事前にスペクトルライブラリ25を作成しておく。
[スペクトルライブラリ作成の具体例]
上記手順によるスペクトルライブラリ作成の具体的な一例を説明する。ここでは、質量分析部1としてMALDI−TOFMS又はLC−IT−TOFMSを用い、ヒトの尿由来の試料に対しMS2測定を実施しMS2スペクトルを取得した。このMS2スペクトルに基づいて既存の内在性ペプチド同定用配列データベース検索ソフトウェアを用いてペプチドの同定を試みた結果、下の表1に示す価数が2である二種のウロモジュリンペプチド(ペプチドバリアント)が同定された。ここで使用した内在性ペプチド同定用配列データベース検索ソフトウェアは本発明者らが開発したものであり、特許文献1及び非特許文献3に記載のものである。
Figure 0006962273
表1において、[M+H]+は多価イオンを1価イオンに換算した場合の質量電荷比m/z、Chargeはプリカーサイオンの価数、Sequenceは同定されたペプチドのアミノ酸配列、Start AAはウロモジュリン前駆体タンパク質において同定されたペプチドのN末端のアミノ酸残基番号、End AAはウロモジュリン前駆体タンパク質において同定されたペプチドのC末端のアミノ酸残基番号、Basic AAはウロモジュリン前駆体タンパク質において同定されたペプチド中の塩基性アミノ酸の数、である。
次に、上記の同定された各ペプチドに対応する実測のMS2スペクトルの品質を評価するために、それら実測のMS2スペクトル上で観測される各プロダクトイオンピークについて、y/b系列イオンとしての帰属を試みた。図4は、[M+H]+=m/z 1510.9であるウロモジュリンペプチド[配列:SVIDQSRVLNLGPI](2価)のMS2スペクトルにおけるピークの帰属結果を示す図である。この図から明らかであるように、このウロモジュリンペプチドをプリカーサイオンとしたMS2スペクトルでは、ペアであるy系列イオンとb系列イオンとがほぼ満遍なく生成されている。したがって、このMS2スペクトルの品質は高いということができる。
一方、図5は、[M+H]+=m/z 1581.9であるウロモジュリンペプチド[配列:IDQSRVLNLGPITR](2価)のMS2スペクトルにおけるピーク帰属結果を示す図である。この図から、このウロモジュリンペプチドをプリカーサイオンとしたMS2スペクトルでは、専らy系列イオンのみが観測され、b系列イオンは殆ど検出されていないことが分かる。即ち、ペアであるy/b系列イオンが偏って生成されており、このMS2スペクトルの品質は相対的に低いということができる。
同定された上記二つのペプチドはいずれも価数が2であり、プリカーサイオンの質量電荷比にも大きな差はない。しかしながら、それらペプチドのアミノ酸組成を調べると、塩基性アミノ酸残基(Arg又はHis、Lys)の数が[M+H]+=m/z 1510.9のペプチドでは1個であるのに対し、[M+H]+=m/z 1581.9のペプチドでは2個であり、プリカーサイオンの価数と同じ値であることが判明した。
プリカーサイオンの価数が塩基性アミノ酸の数以下である場合(この例では、[M+H]+=m/z 1581.9(2価)のペプチドの場合)、CIDによる開裂やその開裂後の電荷の保持に関与するプロトンが塩基性アミノ酸の側鎖に長くとどまってしまいペプチド主鎖上を自由に移動できない。そのため、CIDの開裂によって生成される各プロダクトイオンの量に主鎖上での偏りが生じる可能性が高くなる。図5に示したMS2スペクトルにおいてb系列イオンが殆ど検出されないのは、こうした理由によるものと推定される。
そこで、MS2スペクトルが低品質であると判定された[M+H]+=m/z 1581.9(2価)のペプチドイオンに代わるプリカーサイオンとして、同じペプチドの3価のイオンに着目した。この3価のイオンではプリカーサイオンの価数が塩基性アミノ酸の数よりも大きいので、2価のイオンに比べてb系列のプロダクトイオンが検出される可能性が高くなる筈である。そこで、[M+H]+=m/z 1581.9であるウロモジュリンペプチド[配列:IDQSRVLNLGPITR](3価)をターゲットとするMS2測定を実行し、それにより得られたMS2スペクトルにおけるピークの帰属を試みたところ、図6に示す結果が得られた。
この場合、上述した2価のウロモジュリンペプチドと[M+H]+は同じであるものの、y系列イオンとともにb系列イオンも生成されていることが確認できた。したがって、この場合には、[M+H]+=m/z 1510.9であるウロモジュリンペプチド[配列:SVIDQSRVLNLGPI](2価)のMS2スペクトルとともに、この[M+H]+=m/z 1581.9であるウロモジュリンペプチド[配列:IDQSRVLNLGPITR](3価)のMS2スペクトルをスペクトルライブラリ25に登録すればよい。
なお、図2に示したフローチャートでは、ステップS14及びS16において必要に応じて再測定対象のプリカーサイオンを選定し、その選定されたプリカーサイオンについてのMS2測定を実施するようにしているが、取得できるMS2スペクトルの数に上限が設定されているなどの理由によって、同じ分子由来のプリカーサイオンについて価数が相違する複数のプリカーサイオンに対するMS2スペクトルを取得できない場合もある。その場合には、同一分子由来であって価数のみが異なる2個以上のピークが検出されたときに価数が最も高い又は価数が高いほうのピークを優先してプリカーサイオンを定め、MS2測定を実行するとよい。何故なら、そのほうが、y系列イオン、b系列イオンが満遍なく観測される、つまりは品質の高いMS2スペクトルが得られる可能性が高いからである。
[スペクトル検索によるペプチド同定処理]
次に、事前にスペクトルライブラリ25が構築されている状態の下で実施される目的とする内在性ペプチドの同定処理について図3に示すフローチャートを参照して説明する。
質量分析部1は、同定対象である未知の内在性ペプチドを含む目的試料についてMS2測定を実行し、MS2スペクトルを取得する(ステップS20)。スペクトル解析部21は得られたMS2スペクトル上でピークを抽出してピークリストを作成し、このピークリストとプリカーサイオンの質量電荷比、さらには前駆体タンパク質のアミノ酸配列などの照合元の情報をペプチド同定部23に入力する。この場合、ペプチド同定部23においてデータベース検索実行部231ではなくスペクトル検索実行部232が以下のような処理を実行する。
まず、バリアント配列推定部2321はスペクトルライブラリ25から照合先となる一つのMS2スペクトルを選定する(ステップS21)。なお、未知の内在性ペプチドについて何らかの条件で絞り込みが可能である場合には、スペクトルライブラリ25に収録されている内在性ペプチドをその絞り込み条件に従って絞り込み、その絞り込みに残ったペプチドに対応するMS2スペクトルの一つを選定すればよい。
バリアント配列推定部2321は、選定した一つのMS2スペクトルに対応するアミノ酸配列のN末端側及びC末端側でそれぞれ一又は複数のアミノ酸残基を除去したり逆に一又は複数のアミノ酸残基を付加したりすることで、上記照合元のMS2スペクトルのプリカーサイオンと質量電荷比が一致する(実際には質量電荷比の差が所定の許容値以内となる)ようなバリアントのアミノ酸配列を探索する(ステップS22)。アミノ酸残基を付加する際には、照合元のMS2スペクトルに対応する前駆体タンパク質のアミノ酸配列を参照すればよい。
ステップS22で該当するバリアントのアミノ酸配列が見つからなかった場合には、ステップS23でNoと判定されステップS26に進み、スペクトルライブラリ25に収録されている全MS2スペクトル(又は絞り込み後の全MS2スペクトル)についてステップS21〜S23又はS21〜S25の処理が終了したか否かを判定する。そして、未処理のMS2スペクトルがあればステップS26からS21に戻り、スペクトルライブラリ25において別のMS2スペクトルを選定して処理を繰り返す。
一方、ステップS22で該当するバリアントのアミノ酸配列が見つかった場合には、ステップS23からS24へと進み、照合先のMS2スペクトルに基づいてペプチドバリアントのC末端側断片スペクトルとN末端側断片スペクトルとのペアであるMS2スペクトルペアを作成する。具体的には、ステップS22においてバリアントのアミノ酸配列を推定する際に一方の末端から除去したアミノ酸残基に相当する分の質量をMS2スペクトルの各ピークの質量電荷比から差し引いたプリフィックススペクトルと、上記バリアントのアミノ酸配列を推定する際に他方の末端に付加したアミノ酸残基に相当する分の質量をMS2スペクトルの各ピークの質量電荷比に加えたサフィックススペクトルとを作成する。
なお、検索性能の低下や誤検出を防ぐために、照合先のMS2スペクトルにおいてサフィックススペクトルには不要であるN末端断片ピークとして帰属されるピークが検出された場合には、該ピークがサフィックススペクトルに含まれないように除去してもよい。また同様に、照合先のMS2スペクトルにおいてプリフィックススペクトルには不要であるC末端断片ピークとして帰属されるピークが検出された場合には、該ピークがプリフィックススペクトルに含まれないように除去してもよい。
そのあと類似度算出部2323は、上記MS2スペクトルペアと照合元である実測のMS2スペクトルとについて類似度を算出し、その類似度算出結果を照合先に情報と共に一旦保存する(ステップS25)。例えば類似度スコアは、照合元のMS2スペクトルと照合先のサフィックススペクトルとの内積、及び、照合元のMS2スペクトルと照合先のプリフィックススペクトルとの内積、の和とすることができる。ただし、内積のみならず確率モデルベースのものなど、一般的にスペクトル検索に使われる様々な類似度の算出方式(例えば非特許文献2参照)を採用することができる。また、MS2測定時のピーク生成量や検出量のばらつきの影響による誤同定を抑えるために、ピーク強度に代えてピーク強度の対数をとったものを用いて類似度を算出するようにしてもよい。また、ステップS24においてMS2スペクトルペアとして求まったサフィックススペクトルとプリフィックススペクトルとについて独立に類似度スコアを算出してそれらを加算するのではなく、その二つのMS2スペクトルのピーク列を一つのMS2スペクトルに統合した上で、二つのMS2スペクトルを合成したMS2スペクトルを仮に作成し、そのMS2スペクトルと照合元のMS2スペクトルとから類似度スコアを算出してもよい。
類似度スコアが得られたならば上記ステップS26の判定処理を行い、スペクトルライブラリ25に未処理のMS2スペクトルがあればステップS21に戻る。一方、ステップS26でYesと判定されると、類似度算出部2323は一時保存されている類似度算出結果を確認し、最も高い類似度が所定の閾値以上であるか否かを判定することで同定が可能であったか否かを判定する(ステップS27)。同定が可能であると判定されると、最も高い類似度を示す又は類似度が所定閾値以上であるペプチドバリアントのアミノ酸配列の情報を同定結果として解析結果出力部26に出力し、例えば表示画面上に表示してユーザに提示する(ステップS29)。
一方、ステップS27で同定不可であると判定されると、プリカーサイオン選定部22は、目的試料に対してすでに実行されたMS2測定とは異なるプリカーサイオンを選定し(ステップS28)ステップS20に戻って再度MS2測定を実行する。そのあとは、得られたMS2 ペクトルに基づいてステップS21〜S27の処理を実行する。具体的には例えば、照合元MS2スペクトルのプリカーサイオンと1価当たりの質量電荷比が同一であり且つ価数が高いプリカーサイオンがMS1スペクトル上にないかどうか探索し、MS2測定を実行可能である程度の信号強度を示すピークがMS1スペクトル上で見つかった場合に、このイオンを新たなプリカーサイオンとして再度MS2測定を実施するとよい。ただし、再MS2測定のためのプリカーサイオンの選定方法は、これに限るものではない。
なお、スペクトルライブラリ25に登録されている全てのMS2スペクトルに対して同定閾値以上となるペプチドが見つからなかった場合、すぐに同定不可と判定するのではなく、サフィックススペクトルとプリフィックススペクトルのいずれか一方に対してのみの類似度スコアを算出し直し、高い類似度スコアが得られるほうのMS 2 スペクトルからペプチドバリアントを求めてもよい。この場合、上記理由により、推定したペプチドバリアントのアミノ酸配列に含まれる塩基性アミノ酸残基数がプリカーサイオンの価数以上である場合に妥当な推定結果であるとしてもよい。そして、こうしたスペクトル検索を行っても同定に至らなかった場合に同定不可(ステップS27でNo)と判定すればよい。
[ペプチド同定の具体例]
上記手順によるスペクトル検索によるペプチド同定処理の具体的な一例を説明する。ここでは、ヒトの尿由来の試料に対してMS2測定を行うことで得られたMS2スペクトルをスペクトル検索の照合元とする。いま、このMS2スペクトルは、[M+H]+=m/z 982.6をターゲットとするものであるとする。また、スペクトルライブラリ25上に登録されている[M+H]+=m/z 1510.9のウロモジュリンペプチド[配列:SVIDQSRVLNLGPI](2価)のMS2スペクトルを照合先としてスペクトル検索を試みたものとする。
バリアント配列推定部2321は、照合先のペプチドのアミノ酸配列である[SVIDQSRVLNLGPI]のN末端側及びC末端側のアミノ酸配列を元のアミノ酸残基を少なくとも1個以上残すという条件の下で伸縮させつつ、プリカーサイオン([M+H]+)の質量電荷比が照合元の質量電荷比m/z 982.6となるアミノ酸配列がないかどうか探索を行った。その結果、ペプチドバリアントのアミノ酸配列は、N末端側のアミノ酸残基を7個(つまりはSVIDQSR)削除し、C末端側のアミノ酸を前駆体タンパク質配列を参考として2残基だけ伸長した配列[VLNLGPITR]であると推定された。
これを受けてスペクトル合成部2322は、図7に示すように、照合先である[M+H]+=m/z 1510.9のペプチドのMS2スペクトルを大元のシードスペクトルとして、その照合先のペプチドのアミノ酸配列のN末端から推定される配列VLNLGPITRとの差分である7残基分の質量電荷比に相当する785.4Daを差し引いたプリフィックススペクトルを作成した。また同様に、C末端側の差分である2残基分の質量電荷比に相当する257.15Daを加算してサフィックススペクトルを作成した。
類似度算出部2323は、上述したように、照合元のMS2スペクトルと上記サフィックススペクトルとの内積、及び、照合元のMS2スペクトルと上記プリフィックススペクトルとの内積、の和により類似度スコアを算出した。
図8は、照合先のMS2スペクトル(プリカーサイオンm/z 1510及び1912)と実測のMS2スペクトルとの間で算出した類似度スコアの分布を示す図である。横軸は質量電荷比、縦軸は類似度スコアである。
この結果によれば、類似性のない照合先のMS2スペクトルとの類似度スコアは0.2程度以下、過去に同定されたウロモジュリンペプチドのうち照合先ペプチドと1残基以上重複するペプチドのMS2スペクトルとの類似度スコアは0.2〜1.0程度、同一ペプチドのMS2スペクトルとの類似度スコアは1.4程度に分布していた。そこで、同定されているか否かを判定するための類似度スコアの閾値を0.2に定めた。そのうえで、照合元のMS2スペクトルをMS2スペクトルペアと照合して類似度スコアを算出したところ、類似度スコアは0.63となった。これは上記の閾値以上であり、照合元のMS2スペクトル(プリカーサイオンm/z 982.6)からアミノ酸配列がVLNLGPITRであるペプチドバリアントの同定が可能であることが確認できた。
なお、上記実施例では、多価イオンを1価イオンに変換したあとの質量電荷比をスペクトル情報としてスペクトルライブラリ25に登録していたが、こうした変換を行わなくてもスペクトル情報に含まれる価数の情報を参照することにより、上記説明と同様の検索処理を実施可能であることは明白である。
また、上記実施例は本発明の一例にすぎず、上記記載の変形例以外でも、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加等を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
1…質量分析部
2…データ処理部
21…スペクトル解析部
22…プリカーサイオン選定部
23…ペプチド同定部
231…データベース(DB)検索実行部
232…スペクトル検索実行部
2321…バリアント配列推定部
2322…スペクトル合成部
2323…類似度算出部
24…ライブラリ登録処理部
25…スペクトルライブラリ
26…解析結果出力部
3…タンパク質配列データベース

Claims (6)

  1. 試料中の内在性ペプチドのアミノ酸配列を質量分析を利用したスペクトル検索法により推定して該ペプチドを同定する際に参照されるスペクトルライブラリを作成する内在性ペプチド同定用スペクトルライブラリ作成方法であって、
    a)アミノ酸配列が未知である又は既知であるライブラリ作成用内在性ペプチドを含む試料に対しMS1測定を実行しMS1スペクトルを取得するMS1測定実行ステップと、
    b)前記ライブラリ作成用内在性ペプチドを含む試料に対し、後記プリカーサイオン選定ステップで選定されたプリカーサイオンについてのMS2(=MS/MS)測定を実行しMS2スペクトルを取得するMS2測定実行ステップと、
    c)前記MS2測定実行ステップで得られた実測MS2スペクトルに対して網羅的なペプチド同定手法による同定処理を実施することにより、前記ライブラリ作成用内在性ペプチドのアミノ酸配列を同定する又は確認するペプチド同定ステップと、
    d)前記ペプチド同定ステップにおいてアミノ酸配列の同定が可能であった又はアミノ酸配列が正当であることが確認されたときに、同一ペプチド由来のMS2スペクトルの中から同定信頼度の高さ若しくは同定時に帰属されたピークの品質の高さを示す指標値に基づいて、相対的に若しくは絶対的に品質が高いMS2スペクトルを選別して、又は、相対的に若しくは絶対的に品質が高い複数のMS2スペクトルを結合し合成することで、品質を向上させた新たなMS2スペクトルを作成し、該選別した又は作成したMS2スペクトルに基づく情報をスペクトルライブラリに登録するライブラリ登録ステップと、
    e)前記ライブラリ作成用内在性ペプチドについてのMS1スペクトルに基づいてMS2測定でターゲットとするプリカーサイオンを選定するものであって、前記ライブラリ登録ステップにおいて、既に実施されたMS2測定で得られたMS2スペクトルの品質が相対的に若しくは絶対的に低いと判定された場合、又は、同定の結果、帰属されたプロダクトイオンが少なく部分構造情報量が少ないと判定された場合に、前記MS2測定実行ステップによるMS2測定を再度実施するためのプリカーサイオンを新たに選定するプリカーサイオン選定ステップと、
    を有することを特徴とする内在性ペプチド同定用スペクトルライブラリ作成方法。
  2. 請求項1に記載の内在性ペプチド同定用スペクトルライブラリ作成方法であって、
    前記プリカーサイオン選定ステップでは、プリカーサイオンの価数と、同定された又は正当であることが確認されたライブラリ作成用内在性ペプチドのアミノ酸組成と、の少なくともいずれかを利用してMS2測定を再度実施するためのプリカーサイオンを新たに選定することを特徴とする内在性ペプチド同定用スペクトルライブラリ作成方法。
  3. 試料中の内在性ペプチドのアミノ酸配列をスペクトル検索法により推定して該ペプチドを同定する内在性ペプチド同定装置であって、
    a)スペクトル検索法によるペプチド同定時に参照される、アミノ酸配列が既知である内在性ペプチドのMS2スペクトルが収録されているスペクトルライブラリと、
    b)MS1測定及びMS2測定が可能である質量分析部と、
    c)アミノ酸配列が未知である又は既知であるライブラリ作成用内在性ペプチドを含む試料に対しMS1測定を実行してMS1スペクトルを取得するように前記質量分析部を制御するMS1測定実行制御部と、
    d)前記ライブラリ作成用内在性ペプチドを含む試料に対し、後記プリカーサイオン選定部により選定されたプリカーサイオンをターゲットとするMS2測定を実行しMS2スペクトルを取得するように前記質量分析部を制御するMS2測定実行制御部と、
    e)前記MS2測定実行制御部の制御の下で得られた実測MS2スペクトルに対して網羅的なペプチド同定手法による同定処理を実施することにより、前記ライブラリ作成用内在性ペプチドのアミノ酸配列を同定する又は確認するペプチド同定部と、
    f)前記ペプチド同定部によりアミノ酸配列の同定が可能であった又はアミノ酸配列が正当であることが確認されたときに、同一ペプチド由来のMS2スペクトルの中から同定信頼度の高さ若しくは同定時に帰属されたピークの品質の高さを示す指標値に基づいて相対的に若しくは絶対的に品質が高いMS2スペクトルを選別して、又は、相対的に若しくは絶対的に品質が高い複数のMS2スペクトルを結合し合成することで、品質を向上させた新たなMS2スペクトルを作成し、該選別した又は作成したMS2スペクトルに基づく情報を前記スペクトルライブラリに登録するライブラリ登録部と、
    g)前記ライブラリ作成用内在性ペプチドについてのMS1スペクトルに基づいてMS2測定でターゲットとするプリカーサイオンを選定するものであって、前記ライブラリ登録部において、既に実施されたMS2測定で得られたMS2スペクトルの品質が相対的に若しくは絶対的に低いと判定された場合、又は、同定の結果、帰属されたプロダクトイオンが少なく部分構造情報量が少ないと判定された場合に、前記MS2測定実行制御部による制御の下でMS2測定を再度実施するためのプリカーサイオンを新たに選定するプリカーサイオン選定部と、
    を備えることを特徴とする内在性ペプチド同定装置。
  4. 請求項3に記載の内在性ペプチド同定装置であって、
    前記プリカーサイオン選定部は、プリカーサイオンの価数と、同定された又は正当であることが確認されたライブラリ作成用内在性ペプチドのアミノ酸組成と、の少なくともいずれかを利用してMS2測定を再度実施するためのプリカーサイオンを新たに選定することを特徴とする内在性ペプチド同定装置。
  5. 試料中の内在性ペプチドのアミノ酸配列を質量分析を利用したスペクトル検索法により推定して該ペプチドを同定する内在性ペプチド同定方法であって、
    a)目的の内在性ペプチドを含む試料に対しMS2測定を実行してMS2スペクトルを取得するMS2測定実行ステップと、
    b)前記MS2測定実行ステップで得られた実測MS2スペクトルについてスペクトルライブラリを用いたスペクトル検索を行うことでペプチドを推定するものであって
    b1)スペクトルライブラリに収録されているMS2スペクトルに対応するプリカーサイオンのアミノ酸配列のN末端側及びC末端側の一若しくは複数のアミノ酸残基を除去する又は一若しくは複数のアミノ酸残基を付加しつつ、MS2測定のターゲットであるプリカーサイオンの質量電荷比と一致するものを探索することで、ペプチドバリアントのアミノ酸配列を推定するバリアント配列推定ステップと、
    b2)前記バリアント配列推定ステップによるペプチドバリアントのアミノ酸配列推定に利用された元のMS2スペクトルに基づいて、該ペプチドバリアントに対応するMS2スペクトルを生成するスペクトル生成ステップと、
    b3)前記スペクトル生成ステップにおいて得られたMS2スペクトルと前記実測MS2スペクトルとを照合して類似度を求め、該類似度に基づいて前記ペプチドバリアントのアミノ酸配列を推定する類似度算出ステップと、
    を有することを特徴とする内在性ペプチド同定方法。
  6. 試料中の内在性ペプチドのアミノ酸配列をスペクトル検索法により推定して該ペプチドを同定する内在性ペプチド同定装置であって、
    a)前記スペクトル検索法に利用される既知の内在性ペプチドのMS2スペクトルが収録されているスペクトルライブラリと、
    b)MS2測定が可能である質量分析部と、
    c)目的とする内在性ペプチドを含む試料に対してMS2測定を実施してMS2スペクトルを取得するように前記質量分析部を制御するMS2測定実行制御部と、
    d)前記MS2測定実行制御部の制御の下で得られた実測MS2スペクトルについてスペクトルライブラリを用いたスペクトル検索を行うことでペプチドを推定するものであって
    d1)スペクトルライブラリに収録されているMS2スペクトルに対応するプリカーサイオンのアミノ酸配列のN末端側及びC末端側の一若しくは複数のアミノ酸残基を除去する又は一若しくは複数のアミノ酸残基を付加しつつ、MS2測定のターゲットであるプリカーサイオンの質量電荷比と一致するものを探索することで、ペプチドバリアントのアミノ酸配列を推定するバリアント配列推定部と、
    d2)前記バリアント配列推定部によるペプチドバリアントのアミノ酸配列推定に利用された元のMS2スペクトルに基づいて、該ペプチドバリアントに対応するMS2スペクトルを生成するスペクトル生成部と、
    d3)前記スペクトル生成部において得られたMS2スペクトルと前記実測MS2スペクトルとを照合して類似度を求め、該類似度に基づいて前記ペプチドバリアントのアミノ酸配列を推定する類似度算出部と、
    を備えることを特徴とする内在性ペプチド同定装置。
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