以下、本発明の軌道地盤変位測定装置および軌道地盤補修方法の実施の形態について、図面を参照して説明する。
本実施の形態の軌道地盤変位測定装置および軌道地盤補修方法は、例えば、製鉄所の連続鋳造設備と圧延設備の間においてスラブを運搬する運搬台車が走行する線路軌道に適用されるものであり、この線路軌道は、屋内と屋外にまたがって設けられている。
図1に示すように、線路軌道(軌道)2の横には、運搬台車(車両)1と同程度の高さとなるように、線路軌道2に沿ってトロリー4が設けられている。運搬台車1は、その側部に設けられたトロリーシュー11を通じて、トロリー4から受電することで、エネルギーを得て走行する。
本実施の形態の軌道地盤変位測定装置20は、運搬台車1の側部に取り付けられ、運搬台車1とトロリー4との距離を複数の高さ方向の位置で測定する2次元レーザー距離計(距離計)21と、2次元レーザー距離計21によって測定された距離の前記高さ方向の分布からトロリー4の高さを取得し、このトロリー4の高さから線路軌道2の地盤3の変位Dを求めるコンピュータ(算出部)22とを有し、この地盤3の変位Dを求めるために用いられる。そして、本実施の形態の軌道地盤補修方法は、軌道地盤変位測定装置20によって常時測定される線路軌道2の地盤3の変位Dが、予め定められた閾値を超えるとき、この閾値を超える変位Dが発生した軌道位置を特定し、この走行位置の地盤3を補修するものである。これにより、線路軌道2の地盤3の変位Dの発生によって、運搬台車1のトロリーシュー11とトロリー4との位置関係がずれて、トロリーシュー11とトロリー4との接触不良などによる給電トラブルが発生するのを未然に防ぎ、運搬台車1を常時確実に走行させ、操業の安定性を確保するものである。
スラブを運搬する運搬台車1において、三相交流電源が用いられる場合は、高さ方向に三対のトロリー4、トロリーシュー11が設けられることになるが、図1および後述する図2では、簡略化のため一対のみ図示している。
2次元レーザー距離計21は、運搬台車1の側部に取り付けられ、トロリー4の高さを含む所定の高さ方向範囲および所定の軌道方向範囲である測定領域Mにわたり、運搬台車1の側方からトロリー4に向けてラインレーザーを照射し、測定対象からのレーザー反射光を受光することによって、測定対象までの距離を測定するものであり、具体的には、2次元レーザー距離計21から、トロリー4またはトロリー4の背後に存在する障害物までの水平距離を測定する。この水平距離の測定値から、トロリー4の側面の形状や高さに関する情報が得られる。
本実施の形態では、2次元レーザー距離計21の測定領域Mは、高さ方向(地盤3の変位Dの発生方向)200mm×軌道方向2000mmであり、この測定領域M内における高さ方向、軌道方向の分解能はそれぞれ、0.2mm、2mmであり、合計1000×1000画素である。これら画素の各々について、レーザー距離計21からの測定対象までの水平距離が測定される。
コンピュータ22は、汎用パーソナルコンピュータやマイクロコンピュータなどにより構成され、2次元レーザー距離計21によって得られた距離の測定値を、後述のとおり処理する。
本実施の形態では、コンピュータ22は運搬台車1に搭載されるが、これに代えて、例えば運搬台車1外部の陸上にコンピュータ22を設置する構成とすることも可能である。2次元レーザー距離計21によって得られた距離の測定値は、無線または有線によってコンピュータ22に送信され、後述のとおり処理される。
図2は、運搬台車1の線路軌道2の地盤3が沈下して、地盤3の変位Dが発生した状況における、運搬台車1のトロリーシュー11とトロリー4との接触部および2次元レーザー距離計21の近傍を示す、拡大図である。
線路軌道2が敷設された当初の状態では、運搬台車1のトロリーシュー11の高さがトロリー4の高さと一致するように設計されている。しかし、運搬台車1およびこれに積載されるスラブの重量により、線路軌道2の地盤3が沈下し、地盤3に変位Dが発生することがある。地盤3が沈下した場合は、線路軌道2も同様に沈下して、運搬台車1全体が下がるため、トロリーシュー11の高さも下がる。よって、運搬台車1のトロリーシュー11の高さは、トロリー4の高さよりも低くなる。この運搬台車1のトロリーシュー11の高さとトロリー4の高さとの間に生じるずれの大きさが、地盤3の変位Dに相当する。
図2に示すように、運搬台車1の側部の、2次元レーザー距離計21が取り付けられる箇所は、トロリー4の高さを測定する際の基準点10とされる。コンピュータ22は、トロリー4の高さを、この基準点10に対する相対高さHとして取得する。一方、基準点10に対するトロリーシュー11の相対高さLは、トロリーシュー11が運搬台車1に固定されているので、一定値である。コンピュータ22は、トロリー4とトロリーシュー11の各々の上記基準点10に対する相対高さH、Lの差(H−L)により、地盤3の変位D=H−Lを取得する。
なお、図2では、2次元レーザー距離計21が、トロリーシュー11よりもLだけ低い高さに取り付けられた場合が示されているが、2次元レーザー距離計21が、トロリーシュー11と同じ高さに取り付けられるように設計すれば、L=0となり、地盤変位DはD=Hとして簡単に取得できる。
線路軌道2の地盤3の変位Dが大きい場合は、上記基準点10に対するトロリー4の相対高さHが測定領域M内で大きく変動することとなるため、トロリー4が常に測定領域M内に収まるように、トロリーシュー11と同じ高さに2次元レーザー距離計21を設置し、トロリー4をレーザーの照射点と同じ高さとすることが好ましい。
2次元レーザー距離計21およびコンピュータ22による、トロリー4の高さの取得方法を、図3(a)〜(c)を参照して具体的に説明する。
2次元レーザー距離計21は、測定領域M、すなわち高さ方向(地盤3の変位Dの発生方向)200mm、軌道方向2000mmにわたり、1000×1000画素の各々について、2次元レーザー距離計21からトロリー4までの水平距離を測定する。
図3(a)は、2次元レーザー距離計21によって測定領域M全体について測定された、2次元レーザー距離計21からトロリー4までの水平距離の測定値を、グレースケールで示したものであり、水平距離の測定値が小さいほど淡色、大きい程濃色で示している。
図3(a)では、上述のとおり、2次元レーザー距離計21をトロリーシュー11と同じ高さに取り付けることで、2次元レーザー距離計21の基準点10に対するトロリーシュー11の相対高さLが0となる場合を前提にして、縦軸の地盤変位方向高さの値を示している。すなわち、図3(a)の縦軸の地盤変位方向高さは、2次元レーザー距離計21の基準点10に対するトロリー4の相対高さHを示しており、H=0のとき2次元レーザー距離計21の基準点10とトロリー4は同じ高さにある。
具体的には、2次元レーザー距離計21の高さ方向の測定領域1000画素の中心である500画素位置を、基準点10とし、この基準点10からトロリー4の鉛直方向断面(以下、「断面」という)の中心までの高さHが、地盤3の変位Dと等しい値になるようにしている。
トロリー4が存在する高さにおいては、水平距離の測定値は、2次元レーザー距離計21からトロリー4の側面までの水平距離に対応する。また、トロリー4が存在しない高さにおいては、2次元レーザー距離計21は、トロリー4よりも遠方の障害物までの水平距離を測定することとなるため、水平距離の測定値は、大きな値をとることとなる。
図3(a)では、高さが約−10mm〜約+10mmの位置に淡色の帯状域31が表れているが、これは、この高さにトロリー4が存在して、水平距離の測定値が小さくなるためである。このように、2次元レーザー距離計21の水平方向の測定値が小さくなる高さから、トロリー4の高さを特定することが出来る。
トロリー4の高さの基準は、各設備によって異なるが、本実施の形態では、図3(a)の帯状域31の幅の中央点を、トロリー4の高さとする。図3(a)の軌道方向各位置において、トロリー4の高さを取得することで、軌道方向各位置における地盤3の変位Dも取得できる。
ただし、本実施の形態では、線路軌道2が屋内と屋外にまたがって設けられるとともに、距離計として2次元レーザー距離計21を用いるため、屋外の強い太陽光や室内の強い照明などの外乱によって、測定ノイズが発生することがある。図3(a)では、軌道方向位置が0〜約1100mmの範囲では、高さが約+40mm〜+60mmの位置にも淡色の帯状域32が表れており、水平距離の測定値が小さくなっているが、これは、この軌道方向位置の範囲で外乱が存在することにより、測定ノイズが発生したものである。
図3(b)は、図3(a)において測定ノイズが含まれる軌道方向位置1000mm(図3(a)の点線参照)において、高さ方向−50〜50mmにわたって分布する1000画素の水平距離の測定値の分布パターン(プロファイル)を示したものである。図3(b)中、31aは2次元レーザー距離計21からトロリー4までの水平距離、32aは太陽光や照明などの外乱によって生じた測定ノイズである。図3(b)では、トロリー4の高さではなく測定ノイズ部分で、水平距離の測定値が最小となっている。
次に、コンピュータ22で、2次元レーザー距離計21によって測定された水平距離の測定値から、トロリー4の高さを取得し、このトロリー4の高さから地盤3の変位Dを取得する手法について、図3(c)を参照して説明する。
図3(b)に示すように、2次元レーザー距離計21による水平距離の測定値は、トロリー4の上端と下端の高さで急激に変化するため、この二つの変化点の中央の高さ(トロリー4の上端の高さと下端高さの中央の高さ)を、トロリー4の高さとして取得することも考えられる。しかし、変化点を検出すべく、2次元レーザー距離計21による水平距離の測定値の分布パターン(プロファイル)を高さ方向に微分すると、トロリー4が強い鏡面性を有するため、上記変化点付近でデータ欠損が生じ、微分値が得られない場合がある。そこで、本実施の形態では、下記のとおりパターンマッチングを用いて、トロリー4の高さを判定している。
つまり、コンピュータ22が地盤3の変位Dを算出するにあたって、パターンマッチングを用いて、2次元レーザー距離計21の測定領域M内でトロリー4の高さを判定する。パターンマッチングとは、データ中に、特定のパターンが出現するかどうか、またどこに出現するかを特定する手法であり、これを用いてデータ中の文字や図形などを検索することができる。具体的なパターンマッチングの計算方法としては、例えばMathWorks社の数値解析ソフトウェア「MATLAB」(登録商標)および拡張パッケージ「Image Processing Toolbox」の「normxcorr2関数(正規化された2次元相互相関)」([online]、[2019年2月25日検索]、インターネット<URL:https://jp.mathworks.com/help/images/ref/normxcorr2.html>)を使用できる。
本実施の形態の軌道地盤変位測定装置20では、パターンマッチングの評価基準となる基準パターンを、トロリー4の断面形状に基づいて設定する。本実施の形態では、トロリー4の断面形状として一次元の断面情報を用いて、基準パターンを設定するが、これに代えて、例えば、所定の軌道方向範囲内におけるトロリー4の断面形状に基づいて基準パターンを設定しても良い。
コンピュータ22は、測定領域M内の各軌道方向位置における水平距離の測定値の分布パターンを2次元レーザー距離計21から取得し、基準パターンに対するこの水平距離の分布パターンの相関係数を算出して、パターンマッチングの度合いを示す評価値とする。この評価値を、2次元レーザー距離計21の測定領域M内の各高さ位置について計算する。
図3(c)は、図3(b)と同じ軌道方向位置1000mm(図3(a)の点線参照)において、高さ方向−40〜60mmにわたって分布する500画素の水平距離の測定値の分布パターンについて、上記パターンマッチングを行った評価値の分布を示したものである。
コンピュータ22は、このパターンマッチングの評価値のピークが生じる高さを、トロリー4の高さとして取得し、このトロリー4の高さから軌道2の地盤3の変位Dを取得する。
図3(c)のパターンマッチング評価値の曲線においては、31bはトロリー4の高さで生じる評価値のピーク、32bは測定ノイズに起因して生じる評価値のピークであり、パターンマッチングの評価値の分布のピークが二つ表れている。
トロリー4の断面形状が複雑であれば、これに対応する基準パターンも複雑になる。よって、2次元レーザー距離計21による水平距離の測定値に測定ノイズが含まれている場合においても、測定ノイズと基準パターンの相関係数は小さく、パターンマッチングの評価値の分布は、ピークが一つとみなせる単峰性となり、トロリー4の高さでパターンマッチングの評価値が最大となる。
そして、パターンマッチングの評価値の分布が単峰性であれば、測定ノイズが発生していないか、あるいは測定ノイズが発生していてもトロリー4の高さを誤判定する恐れが無いため、コンピュータ22はパターンマッチングの評価値の最大値が生じる高さをトロリー4の高さとして取得する。
しかし、トロリー4の断面形状が複雑でない場合、図3(c)のように、トロリー4の高さで生じる評価値と、測定ノイズに起因して生じる評価値の区別ができない。特に、図3(c)のように、トロリー4の高さではなく測定ノイズ部分で、パターンマッチングの評価値の最大値が生じる場合には、この最大値が生じる高さをトロリー4の高さとして取得すると、トロリー4の高さの誤判定が発生してしまう。
ここで、2次元レーザー距離計21の測定領域Mにおいて、トロリー4の高さの判定に影響を及ぼす太陽光や屋内照明に起因する測定ノイズは、トロリー4と異なる高さに発生することを、発明者らは発見した。
そこで、測定ノイズによるトロリー4の高さの誤判定を防ぐため、図4(a)に示すように、まず最初に、コンピュータ22は、2次元レーザー距離計21の測定領域M内の軌道方向位置0〜2000mmのうち、パターンマッチングの評価値の分布が単峰性となるようないずれかの軌道方向位置を特定し、これを初期位置P0として設定するとともに、この初期位置P0において取得されたトロリー4の高さを、初期トロリー高さH0として設定する。もし、測定領域M内の軌道方向位置1〜2000mmにおいて、パターンマッチングの評価値の分布が単峰性となるような軌道方向位置を特定できない場合には、運搬台車1を線路軌道2に沿って移動させることで測定領域M全体を変更し、変更後の測定領域M内の軌道方向位置0〜2000mmのうちいずれかの軌道方向位置で、パターンマッチングの評価値の分布が単峰性となるような軌道方向位置を特定する。そして、初期トロリー高さH0を含み、2次元レーザー距離計21の測定領域Mよりも狭い制限高さ方向範囲Sを設定する。
本実施の形態では、制限高さ方向範囲Sの大きさを、トロリー4の断面の上下方向の幅(20mm)よりも少し大きい30mmとした。制限高さ方向範囲Sの大きさは、これに限られるものでなく、トロリー4と異なる高さに発生する測定ノイズを、制限高さ方向範囲S外に排除できる大きさであれば良い。
次いで、図4(b)に示すように、コンピュータ22は、初期位置P0に隣接する隣接位置P1におけるトロリー4の高さを取得する。隣接位置P1は、初期位置P0から、トロリー4の高さの測定間隔だけ軌道方向に移動した位置である。なお、トロリー4の高さの測定間隔は、予め設定しておく。本実施の形態では、トロリー4の高さの測定を、2次元レーザー距離計21の測定領域M内で、全ピクセルについて行うが、測定領域M内の軌道方向位置0〜2000mmに存在する画素数は1000であるから、測定間隔は2mmとなる。したがって、隣接位置P1は、初期位置P0の画素に隣接する画素の位置、すなわち初期位置P0から軌道方向に2mm移動した位置である。この隣接位置P1における水平距離の測定値についてもパターンマッチングを行い、このパターンマッチングの評価値の、制限高さ方向範囲S内における最大値が生じる高さを、この隣接位置P1におけるトロリー4の高さとして取得しても良いが、計算負荷が大きい。そこで、これに代えて、隣接位置P1ではパターンマッチングを省略し、制限高さ方向範囲S内において水平距離の測定値の最小値を特定し、この最小値に対する水平距離の測定値の変化率が所定値以内となる地盤変位方向高さの範囲を取得し、この地盤変位方向高さの範囲の最大値と最小値の中央値を、トロリー4の高さとして取得することで、計算負荷を大幅に軽減できる。上記変化率は、例えば、水平距離の測定値の最小値の10%に設定することができる。あるいは、水平距離の測定値が最小値となる地盤変位方向高さをそのままトロリー4の高さとして取得してもよい。
このように、隣接位置P1におけるトロリー4の高さの取得を、測定領域Mの高さ方向範囲よりも狭い制限高さ方向範囲Sに限定して行うことで、測定ノイズが制限高さ方向範囲Sの外に排除され、測定ノイズの影響を受けることなくトロリー4の高さを正しく取得できる。
さらに、図4(a)に示すように、コンピュータ22は、隣接位置P1にさらに隣接する隣接位置P2におけるトロリー4の高さH2を取得する。このとき、先の隣接位置P1において取得されたトロリー4の高さH1を用いて初期トロリー高さをH0からH1に変更し、変更後の初期トロリー高さH1を基準として制限高さ方向範囲Sを再設定した上で、隣接位置P2におけるトロリー4の高さH2の取得を、修正後の制限高さ方向範囲Sに限定して行う。
図4(b)では、隣接位置P1における水平距離の測定値を実線で、隣接位置P2における水平距離の測定値を破線で、それぞれ示している。図4(b)に示すように、隣接位置P2では測定ノイズが発生しているが、この測定ノイズは、制限高さ方向範囲Sの外に排除されている。
この処理を繰り返すことにより、初期位置P0以外の軌道方向位置において、測定ノイズの有無に関わらず、トロリー4の高さHを正しく取得できる。
2次元レーザー距離計21の測定領域Mの、軌道方向2000mmの範囲内におけるパターンマッチングの処理順序については、2次元レーザー距離計21により水平距離の測定値が得られる度に、単純に軌道方向位置0mmから順に処理を行っても良い。ただし、運搬台車1が走行する線路軌道2の水平方向の位置は不変であるので、線路軌道2において測定ノイズが発生しにくい水平方向の位置を予め調べて特定しておき、このような軌道方向位置を初期位置P0としてパターンマッチングを開始すると良い。このようにすれば、初期位置P0におけるパターンマッチングの評価値の分布を確実に単峰性とすることができ、算出部22による処理を大幅に簡略化でき、軌道地盤変位測定装置20のコスト低減を図ることができる。
上に説明した、軌道地盤変位測定装置20による線路軌道2の地盤3の変位Dの測定処理の流れを、図5のフローチャートを参照して改めて説明すると、次のようになる。
まず、ステップS1において、軌道地盤変位測定装置20は、運搬台車1が線路軌道2のいずれかの位置にある状態で、地盤3の変位Dの測定処理を開始する。
次いで、ステップS2において、2次元レーザー距離計21は、測定領域M、すなわち高さ方向(地盤3の変位Dの発生方向)200mm、軌道方向2000mmにわたり、1000×1000画素の各々について、2次元レーザー距離計21からトロリー4までの水平距離を測定する。
次いで、ステップS3において、コンピュータ22は、2次元レーザー距離計21の測定領域Mの、軌道方向2000mmの範囲内において、いずれかの軌道方向位置を選択する。
次いで、ステップS4において、コンピュータ22は、2次元レーザー距離計21の、上記軌道方向位置の各画素における、水平距離の測定値の分布パターン(プロファイル)を取得する。
次いで、ステップS5において、コンピュータ22は、ステップS4で取得された測定値の分布パターンを、トロリー4の断面形状に基づいて予め設定された基準パターンと比較し、両者の相関係数を算出して、パターンマッチングの度合いを示す評価値の分布を取得する。
次いで、ステップS6において、コンピュータ22は、ステップS5で取得されたパターンマッチングの評価値の分布が単峰性であるか否かを判定する。ステップS6で単峰性でない(No)と判定された場合は、ステップS7に進む。
ステップS7では、前のステップで選択された軌道方向位置を、2次元レーザー距離計21の測定領域Mの、軌道方向2000mmの範囲内において変更するか、または運搬台車1を線路軌道2に沿って移動させることで測定領域M全体を変更し、ステップS3に戻る。そして再び、ステップS3以降の処理を繰り返す。
ステップS6で、パターンマッチングの評価値の分布が単峰性である(Yes)と判定された場合は、ステップS8に進む。
ステップS8では、コンピュータ22は、ステップS6でパターンマッチングの評価値の分布が単峰性であると判定された軌道方向位置を、初期位置P0として設定する(図4(a)参照)。
次いで、ステップS9では、コンピュータ22は、ステップS6で単峰性であると判定された、パターンマッチングの評価値の最大値が生じる高さを、この初期位置P0におけるトロリー4の高さH0として取得する(図4(a)参照)。
ステップS10では、コンピュータ22は、ステップS9で取得されたトロリー4の高さにH0に基づいて、初期位置P0における地盤3の変位Dを取得する。本実施の形態では、上述のとおり、2次元レーザー距離計21をトロリーシュー11と同じ高さに取り付けており、2次元レーザー距離計21の画素の中心である基準点10に対するトロリー4の相対高さHが地盤3の変位Dと等しい値になるので、初期位置P0における地盤3の変位Dは、D=H0と算出される。
ステップS11では、コンピュータ22は、初期位置P0から、トロリー4の高さの測定間隔だけ軌道方向に移動した隣接位置P1を設定する。本実施の形態では、上述のとおり、2次元レーザー距離計21の初期位置P0の画素に隣接する画素の位置が、隣接位置P1となる。
ステップS12では、コンピュータ22は、初期位置P0において取得されたトロリー4の高さH0を初期トロリー高さとし、この初期トロリー高さH0を基準として初期トロリー高さH0を含むとともに、測定領域Mの高さ方向範囲よりも狭い制限高さ方向範囲Sを設定する(図4(a)参照)。
ステップS13では、コンピュータ22は、2次元レーザー距離計21の、上記隣接位置P1の各画素における、水平距離の測定値の分布パターンを取得する。
ステップS14では、コンピュータ22は、上記制限高さ方向範囲S内において、隣接位置P1の水平距離の測定値の最小値が生じる高さの中央値(図4(a)、図4(b)参照)を、隣接位置P1におけるトロリー4の高さH1(図4(b)中では「H」として示す)として取得する。
ステップS15は、コンピュータ22は、ステップS14で取得されたトロリー4の高さH1(H)に基づいて、隣接位置P1における地盤3の変位Dを取得する。
ステップS16では、コンピュータ22は、2次元レーザー距離計21の測定領域M内の全軌道方向位置で、地盤3の変位Dの取得が終了しているか否かを判定する。ステップS16で、2次元レーザー距離計21の測定領域M内の全軌道方向位置での地盤3の変位Dの取得が終了していない(No)と判定された場合は、ステップS17に進む。
ステップS17では、コンピュータ22は、隣接位置P1から、トロリー4の高さの測定間隔だけ軌道方向にさらに移動した位置を、新たな隣接位置P2として再設定する。本実施の形態では、上述のとおり、2次元レーザー距離計21の、再設定前の隣接位置P1の画素に隣接する画素の位置が、再設定後の隣接位置P2となる。
ステップS18では、コンピュータ22は、再設定前の隣接位置P1において取得されたトロリー4の高さH1を基準として、このトロリー4の高さH1を含むように、制限高さ方向範囲Sを再設定する(図4(a)参照)。そして、ステップS13に戻り、再びステップS13以降の処理を繰り返す。
ステップS16で、2次元レーザー距離計21の測定領域M内の全軌道方向位置での地盤3の変位Dの取得が終了している(Yes)と判定された場合は、ステップS19に進む。
ステップS19では、コンピュータ22は、線路軌道2のうち、地盤3の変位Dの測定対象とする部分の全長にわたって、地盤3の変位Dの取得が終了しているか否かを判定する。ステップS19で、線路軌道2のうち、地盤3の変位Dの測定対象とする部分の全長にわたって、地盤3の変位Dの取得が終了していない(No)と判定された場合は、ステップS20に進む。
ステップS20では、コンピュータ22は、運搬台車1を線路軌道2に沿って、2次元レーザー距離計21の測定領域Mの軌道方向2000mmよりも小さい距離だけ走行させて、2次元レーザー距離計21の測定領域M全体を移動する。ステップS20における測定領域Mの移動距離は、測定領域Mの軌道方向の幅(本実施の形態では2000mm)よりもわずかに小さい大きさにすると、測定領域Mの移動回数が少なくなり、測定効率上好ましい。
ステップS21では、コンピュータ22は、ステップS17と同様の方法により、隣接位置P(N−1)から、トロリー4の高さの測定間隔だけ軌道方向にさらに移動した位置を、新たな隣接位置PNとして再設定する(ここで、Nは自然数)。このステップS21の処理は、移動後の測定領域Mの各画素の位置と、移動前の測定領域Mの各画素の位置とを、ステップS20における測定領域Mの移動距離、すなわち運搬台車1の走行距離を用いて対応付けることにより行う。本実施の形態では、移動前の測定領域Mに存在する、再設定前の隣接位置P(N−1)の画素と同じ軌道方向位置にある、移動後の測定領域Mの画素を特定する。そして、移動後の測定領域Mにおいて、上記のとおり特定された画素に隣接する画素の位置が、再設定後の隣接位置PNとなる。
ステップS22では、コンピュータ22は、ステップS18と同様の方法により、再設定前の隣接位置P(N−1)において取得されたトロリー4の高さH(N−1)を基準として、このトロリー4の高さH(N−1)を含むように、制限高さ方向範囲Sを再設定する(図4(a)参照)。そして、ステップS13に戻り、再びステップS13以降の処理を繰り返す。
ステップS19で、線路軌道2のうち、地盤3の変位Dの測定対象とする部分の全長にわたって、地盤3の変位Dの取得が終了している(Yes)と判定された場合は、ステップS23に進み、軌道地盤変位測定装置20による線路軌道2の地盤3の変位Dの測定処理を終了する。
図6は、本実施の形態の軌道地盤変位測定装置20によって、図3(a)に示す測定領域Mでの水平距離の測定値に基づいて取得した、線路軌道2の軌道方向各位置における地盤3の変位Dを示すグラフである。図3(a)に示されるとおり、屋外の太陽光や室内照明などの強い外乱による測定ノイズが2次元レーザー距離計21による測定値に含まれていても、図6のように安定して地盤変位を測定することができる。
そして、本実施の形態の軌道地盤補修方法は、軌道地盤変位測定装置20によって上記のとおり測定された線路軌道2の地盤3の変位Dが予め定めた閾値を超えるような、運搬台車1の走行位置の地盤3を補修して、この走行位置における上記変位Dが前記閾値以内となるようにする。この軌道地盤補修方法について、以下に具体的に説明する。
まず、軌道地盤変位測定装置20により、線路軌道2の地盤3の変位Dを、線路軌道2の各軌道方向位置で測定する。図7に、軌道地盤変位測定装置20により測定された、地盤3の変位Dの例を示す。図7では、地盤3の変位Dの測定値を、測定開始からの経過時間である測定時刻との関係として示している。図7では、線路軌道2の軌道長2000mmの区間毎に算出された、地盤3の変位Dの平均値をプロットして示している。
各測定時刻は、運搬台車1の走行位置、すなわち線路軌道2の軌道方向位置と対応する。すなわち、地盤3の変位Dの各測定値について、線路軌道2の軌道方向位置を、測定時間と運搬台車1の速度とから算出できる。
図7に示す、地盤3の変位Dの測定値の例では、線路軌道2のほとんどの軌道方向位置では、地盤3の変位Dの測定値は0mmに近く、地盤3の変位Dはほとんど生じていない一方で、地盤3の変位Dの測定値が大きい領域Aも生じている。この領域Aでは、線路軌道2が、雨風に晒される屋外に設けられており、この領域Aを重量の大きな運搬台車1が繰り返し走行すると、線路軌道2の地盤3が沈下して変位Dが大きく生じやすいものと考えられる。
本実施の形態の軌道地盤補修方法では、上述のとおり、地盤3の変位Dが、予め定めた閾値以内となるように、地盤3を補修する。この閾値は、例えば、運搬台車1のトロリーシュー11の鉛直方向長さを基準として設定できる。すなわち、トロリーシュー11の鉛直方向の中央からトロリーシュー11の上端まで、およびトロリーシュー11の鉛直方向の中央からトロリーシュー11の下端の長さを基準として、上記閾値を設定し、線路軌道2の地盤3の変位Dがこの閾値以内となるように地盤3を補修する。これにより、トロリー4の高さが、運搬台車1のトロリーシュー11の上端よりも高くなったり、下端よりも低くなったりして、運搬台車1への給電トラブルが生じることを防止できる。
本実施の形態では、運搬台車1のトロリーシュー11の鉛直方向の中央から上端、下端までの長さが90mm(鉛直方向の全長が180mm)であることを基準として、余裕を見て90mmの1/3の30mmを地盤3の変位Dの閾値として設定し、運搬台車1への給電トラブルを確実に防止するようにしている。
図7に示す、地盤3の変位Dの測定値の例では、地盤3の変位Dが、閾値30mmを超える軌道方向位置が、上記領域A中の地点1〜3の3箇所で発生している。これら地点1〜3の各々について、突き固めにより地盤3を補修したときの、補修前後の地盤3の変位Dを比較して、図8に示す。線路軌道2の地盤3の変位Dが、閾値30mmを超える地点1〜3において、突き固めにより地盤3を補修することで、これら地点1〜3における地盤3の変位Dを、補修前よりも小さくできている。
本実施の形態の軌道地盤変位測定装置20によれば、運搬台車1の線路軌道2の地盤3上に存在する構造物による影響を受けることなく、迅速かつ自動的に、運搬台車1の下部の線路軌道2の地盤3の変位Dを正確に測定することができる。
特に、トロリー4とトロリーシュー11は、給電のため常時接触させる必要があるので、これらの間すなわち2次元レーザー距離計21の測定領域M内には、障害物は存在しない。よって、2次元レーザー距離計21による距離の測定値には、障害物に起因する測定ノイズが発生せず、地盤3の変位Dを正確に測定することが可能になる。
また、本実施の形態の軌道地盤変位測定装置20では、2次元レーザー距離計21によって測定された水平距離の測定値の分布パターンを、トロリー4の断面形状に基づいて設定される基準パターンと比較するパターンマッチングの評価値が単峰性である場合に、この評価値の分布のピークが生じる高さを、トロリー4の高さとして取得するので、太陽光や室内照明などの外乱に起因する測定ノイズの影響を排除して、これらの外乱の影響を受けずに、地盤の変位をさらに正確に測定することができる。
また、本発明の軌道地盤変位測定装置および軌道地盤補修方法は、製鉄所におけるスラブの運搬台車1に限らず、軌道に沿って設けられたトロリーから受電して走行するあらゆる車両の軌道の地盤の変位を測定して補修するために適用可能である。
また、本発明の軌道地盤補修方法によれば、軌道地盤変位測定装置によって測定された地盤の変位が、予め定めた閾値を超えるような、車両の走行位置を特定し、この走行位置の地盤を補修することで、車両のトロリーシューとトロリーとの接触不良などによる給電トラブルを簡単かつ確実に防止でき、安定的に車両の走行を行える。
なお、上記実施の形態では、距離計として2次元レーザー距離計21を用いたが、距離計はこれに限られるものではなく、レーザー距離計以外の光学式距離計や超音波距離計を用いることも可能であるし、また2次元距離計に代えて、2台のカメラなどを用いたステレオ手法を用いることも可能である。また、上記実施の形態では、地盤3の変位Dの閾値を、運搬台車1のトロリーシュー11の鉛直方向の中央から上端、下端までの長さを基準として、30mm以内に設定したが、閾値の設定方法はこれに限られるものではない。