しかし,従来の電磁誘導法による金属埋設深さ(かぶり厚さ)の計測方法は,埋設深さが比較的小さい場合(例えば建築物の上部構造のように鉄筋のかぶり厚さが100mm未満の比較的浅い部分)には適用できるが,埋設深さが大きい場合(例えば基礎杭のように鉄筋のかぶり厚さが200〜300mm程度の比較的深い部分等)には適用が難しい問題点がある。埋設深さが大きい場合に電磁誘導法の適用が難しい理由は,磁界の伝搬距離が長くなるので磁界の距離減衰によって計測精度が低下するからである。また他の理由として,構造物内部の金属(鉄筋)は通常所要ピッチで近接して並設されるため,埋設深さが大きくなるに従って見かけ上のピッチが狭くなり,隣接する金属の影響によって電磁誘導法の計測精度が低下する問題点もある。
構造物内部の金属のピッチが狭くなると電磁誘導法の計測精度が低下する理由を,鉄筋コンクリート構造物内部の電磁誘導による簡易2次元の距離減衰伝達特性モデルを示す図12を参照して,本発明の理解に必要な程度で説明する。図12に示す電磁誘導法のプローブ10は,励磁コイル11と検出コイル15とが同じコイルで兼用され,そのコイル(11+15)に励磁装置12がケーブル13を介して接続されるように構成されたものであり,構造物1の表面に設置されている。また,プローブ10の鉛直下方の構造物1の内部には,構造物表面と平行な所要深さLの平面上に複数の金属2i,2(i+1),2(i+2),……が所要ピッチSで規則的に埋設されている。コイル(11+15)と各金属2iとの間の距離di,及びコイル(11+15)と各金属2iとを結ぶ直線が鉛直線となす角度θiは,それぞれ各金属2の埋設深さLとピッチSとから算出することができる。
図12において,励磁装置12によりコイル(11+15)に励磁磁界を発生させて各金属2iを励磁するが,各金属2iの励磁の強さBiはプローブ10から金属2iまでの距離diと励磁磁界の伝達特性Dt(θi),qtとを用いて,近似的に(1)式のように表すことができる。(1)式において,Atは励磁装置12による励磁の大きさ(比例定数)を表し,Dt(θi)はプローブ10の角度依存特性を表し,qtは励磁磁界の距離減衰特性(指数)を表す。励磁磁界の角度依存特性Dt(θi)及び距離減衰特性qtは,プローブ10の形状等に依存するパラメータである。
Bi=At・Dt(θi)・(1/diqt) ………………………………(1)
他方,励磁磁界により励磁された各金属2は,電磁誘導(渦電流誘起)及び磁化により二次磁界を発生する。コイル(11+15)により検出される各金属2iからの二次磁界の強さHiは,二次磁界の伝達特性Dr(θi),qrを用いて,近似的に(2)式のように表すことができる。(2)式において,Arは励磁の強さに比例して生じる二次磁界源の大きさ(比例定数)を表し,Dr(θi)は二次磁界源である各金属2iの角度依存特性を表し,qrは二次磁界の距離減衰特性(指数)を表す。二次磁界の角度依存特性Dr(θi)及び距離減衰特性qrは,プローブ10の形状等に依存するパラメータである。コイル(11+15)により検出される二次磁界の強度(検出レベル)Hは,一次の伝達近似により,各金属2iからの二次磁界Hiの単純加算値として(3)式のように表すことができる。
Hi=Ar・Bi・Dr(θi)・(1/diqr) ………………………(2)
H=ΣHi …………………………………………………………………………(3)
(3)式は,コイル(11+15)の二次磁界強度HがピッチS及び埋設深さLの関係式であることを示している。そこで,図12において金属2のピッチSを300mm,150mm,75mm,25mm,10mm,1mm(金属板相当)と切り替えながら,(3)式によりコイル(11+15)で検出される二次磁界強度Hと埋設深さLとの関係式を算出した数値シミュレーション結果を図13及び図14に示す。図13は,プローブ10の角度依存特性Dt(θi)及び二次磁界源の角度依存特性Dr(θi)をそれぞれcosθiで近似し,距離減衰特性qt及び二次磁界源の距離減衰特性qrをそれぞれ3としたシミュレーション結果である。また図14は,角度依存特性Dt(θi),Dr(θi)をcosθiで近似する点は同じであるが,距離減衰特性qt,qrを2としたシミュレーション結果である。
図13及び図14のシミュレーション結果は何れも,金属2の埋設深さLが大きくなるとコイル(11+15)で検出される二次磁界強度Hが距離減衰により小さくなることを示している。また,ピッチSが狭くなると二次磁界強度Hは大きくなるが,ピッチSが狭くなるにつれて二次磁界強度Hが急激に変動することを示している。すなわち,埋設深さLが大きくなると見かけ上のピッチSが狭くなり,二次磁界強度Hが小さくなると共に急激に変動するようになるので,二次磁界強度Hから埋設深さLを計測する精度が低下する。このため,鉄筋コンクリート構造物の基礎杭のような埋設深さLが大きい部分は,電磁誘導法によって金属2の埋設深さを精度よく計測することが難しくなる。
近年は,構造物の品質確保・品質管理の観点から,構造物の様々な部位の鉄筋その他の金属の埋設深さを高い精度で計測する要望が高まっており,構造物の上部構造だけでなく基礎杭等についても金属埋設深さを精度よく計測することが求められている。ピッチSが狭くても,また埋設深さLが大きくなっても,埋設深さLを精度よく計測できる技術の開発が求められている。
そこで本発明の目的は,構造物内部に深く埋設され又は狭いピッチで埋設された金属の埋設深さを精度よく計測する方法及び装置を提供することにある。
図1の実施例及び図3の流れ図を参照するに,本発明による金属埋設深さ計測方法は,金属2が所要ピッチSで埋設された構造物1の表面に励磁コイル11と複数の検出コイル15m,15nとを所定間隔Wで配置し(図3のステップS002),励磁コイル11の発生する励磁磁界Bで構造物1の内部の金属2を励磁すると共に各検出コイル15m,15nで金属2の二次磁界Hm,Hnを検出し(図3のステップS003),各検出コイル15m,15nの検出磁界強度Hm,Hnの相対比R(=Hn/Hm)に基づき構造物内部の金属2の埋設深さLを計測してなるものである(図3のステップS004)。
また,図1の実施例を参照するに,本発明による金属埋設深さ計測装置は,金属2が所要ピッチSで埋設された構造物1の表面に所定間隔Wで配置する励磁コイル11と複数の検出コイル15m,15n,励磁コイル11に励磁磁界Bを発生させる励磁装置12,各検出コイル15m,15nで検出された構造物内部の金属2の二次磁界強度Hm,Hnの相対比R(=Hn/Hm)を算出する算出手段23,及び相対比Rに基づき構造物内部の金属2の埋設深さLを計測する計測手段24を備えてなるものである。
好ましい実施例では,図5に示すように,励磁装置12により励磁コイル11を断続的に励磁させ,各検出コイル15m,15nにより励磁磁界Bの遮断時の金属2の二次磁界Hm,Hnを検出する。
更に好ましい実施例では,図1に示すように,金属2の所要ピッチSを仮定又は想定したうえで予め求めた各検出コイル15m,15nの検出磁界強度Hm,Hnの相対比R(=Hn/Hm)と金属2の埋設深さLとの関係式(例えば,所要ピッチSを1mm以下と仮定した図7の関係式F1)を記憶する記憶手段21を設け(図3のステップS001参照),計測手段24により構造物1の表面に配置した各検出コイル15m,15nの検出磁界強度Hm,Hnの相対比R(=Hn/Hm)と関係式Fとから構造物内部の金属2の埋設深さLを計測する(図3のステップS004参照)。
望ましい実施例では,図1に示すように,励磁コイル11と複数の検出コイル15m,15nとの所定間隔Wを変更する間隔調整手段41を設け,励磁コイル11と各検出コイル15m,15nとの所定間隔Wを変えながら予め求めた各検出コイル15m,15nの二次磁界強度Hm,Hnの相対比R(=Hn/Hm)と金属2の埋設深さLとの関係式F(例えば,所要ピッチSを1mm以下と仮定した図7の関係式F1と図8の関係式F2)を記憶手段21に記憶し,算出手段23により構造物1の表面に配置した励磁コイル11と複数の検出コイル15m,15nとの所定間隔Wを変えながら各検出コイル15m,15nの検出磁界強度Hm,Hnの相対比R(=Hn/Hm)を算出し,計測手段24により異なる所定間隔Wにおける各検出コイル15m,15nの検出磁界強度Hm,Hnの相対比Rと関係式Fとから構造物内部の金属2の埋設深さLを計測する(図3のステップS006〜S009参照)。
他の望ましい実施例では,図4に示すように,励磁コイル11及び複数の検出コイル15m,15nを構造物表面に浮かせて配置すると共に構造物表面との浮上距離Pを変更する浮上調整手段42,43を設け,算出手段23により励磁コイル11及び複数の検出コイル15m,15nと構造物表面からの浮上距離Pを変えながら各検出コイル15m,15nの検出磁界強度Hm,Hnの相対比R(=Hn/Hm)を算出し,計測手段24により異なる浮上距離Pにおける各検出コイル15m,15nの検出磁界強度Hm,Hnの相対比Rと関係式F(例えば,所要ピッチSを1mm以下と仮定した図7の関係式F1と図10の関係式F4)とから構造物内部の金属2の埋設深さLを計測する(図3のステップS006〜S009参照)。
本発明による金属埋設深さ計測方法及び装置は,金属2が所要ピッチSで埋設された構造物1の表面に励磁コイル11と複数の検出コイル15m,15nとを所定間隔Wで配置し,励磁コイル11の発生する励磁磁界Bで構造物1の内部の金属2を励磁すると共に各検出コイル15m,15nで金属2の二次磁界Hm,Hnを検出し,各検出コイル15m,15nの検出磁界強度Hm,Hnの相対比R(=Hn/Hm)に基づき構造物内部の金属2の埋設深さLを計測するので,次の有利な効果を奏する。
(イ)各検出コイル15の検出磁界強度H(絶対値)は金属2の埋設深さLが大きくなると値が小さくなり,金属2のピッチSが狭くなると値が大きく変動するが,複数の検出コイル15m,15nの検出磁界強度Hm,Hnの相対比Rは,金属2の埋設深さLが大きくなっても値が小さくならず,ピッチSが狭くなっても値が大きく変動しないので,相対比Rに基づき深く埋設された金属2の埋設深さLを精度よく計測することができる。
(ロ)また,相対比Rは金属2のピッチSに対する依存性が小さく,とくに金属2の埋設深さLが深くなるほど依存性が小さくなるので,相対比Rに基づくことでピッチSの狭い金属2の埋設深さLを精度よく計測することができる。
(ハ)構造物内部の金属2のピッチSが不明であっても,金属2のピッチSを仮定又は想定したうえで相対比Rと埋設深さLとの関係式Fを予め求めることにより,金属2の埋設深さLを計測することができる
(ニ)例えば,金属2のピッチSが狭くなると相対比Rの値はピッチSが1mm以下の場合(複数の金属2が連続した金属板5に相当する場合)に近付くので,ピッチSが1mm以下であると仮定又は想定して関係式Fを予め求めておくことにより,ピッチSが不明の金属2の相対比Rから埋設深さLを計測することができる。
(ホ)ピッチSが1mm以下の関係式Fを用いると,金属2のピッチSが比較的広い場合又は埋設深さLが比較的浅い場合等には誤差を生じうるが,コイル11,15m,15nの所定間隔Wを変更することで金属2のピッチSに対する相対比Rの依存性が変化するので,異なる所定間隔Wの関係式Fを利用して金属2の埋設深さLを計測することにより,ピッチSが不明の金属2の埋設深さLを精度よく計測することができる。
(ヘ)或いは,コイル11,15m,15nの所定間隔Wを変更しなくても,コイル11,15m,15nを構造物表面に浮かせて配置すると共に構造物表面との浮上距離Pを変更し,異なる浮上距離Pの相対比Rを利用して金属2の埋設深さLを計測することにより,ピッチSが不明の金属2の埋設深さLを精度よく計測することができる。
図1は,鉄筋コンクリート構造物1の内部の鉄筋2の埋設深さ(かぶり厚さ)Lの計測に本発明の計測装置を適用した実施例を示す。図示例の計測装置は,励磁コイル11と,励磁コイル11に励磁磁界Bを発生させる励磁装置12と,複数の検出コイル15m,15nと,各検出コイル15m,15nに接続されたコンピュータ20とを含んでいる。各検出コイル15m,15nの検出値(検出電圧)Vをコンピュータ20に入力し,コンピュータ20により構造物内部の金属2の埋設深さLを計測する。図示例のコンピュータ20は,後述する関係式F等を記憶する記憶手段21と,算出した埋設深さLを表示するディスプレイ,プリンタ等の出力装置30とを有する。なお,励磁装置12はコンピュータ20と分離された独立の構成とすることもできるが,図示例では励磁装置12をコンピュータ20に組み込まれた一体の構成としている。
図1の鉄筋コンクリート構造物1の内部には,構造物表面とほぼ平行な一定深さの平面上に,複数の鉄筋2i,2(i+1),2(i+2),……が所要ピッチSで規則的に埋設されている。以下,金属2を鉄筋とした図示例を参照して本発明を説明するが,本発明の適用対象の構造物1は鉄筋コンクリート構造物に限らず,適用対象の金属2も鉄筋に限定されるわけではない。鉄骨,鉄板その他の金属2が所要ピッチSで埋設された構造物1に本発明を広く適用することができ,その金属2の埋設深さLを計測することができる。
図示例の励磁コイル11は,従来の電磁誘導法の励磁プローブ10と同様に,一方の検出コイル15mと同一コイルを兼用して一体的に構成されており,構造物1の表面に設置する。また,図示例の検出コイル15nは,単独で検出プローブ16を構成しており,励磁プローブ10から所定間隔Wだけ離れた構造物1の表面に設置する。ただし,励磁コイル11と検出コイル15mとは必ずしも一体的に構成されている必要はなく,励磁コイル11と励磁装置12とにより励磁プローブ10を構成し,検出コイル15m,15nはそれぞれ単独の検出プローブとしてもよい。その場合は,励磁コイル11と複数の検出コイル15m,15nとをそれぞれ所定間隔Wm,Wnだけ離して構造物表面に設置する。
励磁コイル11は,励磁装置12により励磁されて構造物内部に励磁磁界Bを発生する。その励磁磁界Bに応答して構造物内部の各金属2は渦電流誘起による二次磁界を発生し,その二次磁界が検出コイル15m,15nにより検出される。図12を参照して上述した構造物内部の電磁誘導による簡易2次元の距離減衰伝達特性モデルを用いると,図1の各検出コイル15m,15nにより検出される二次磁界強度Hm,Hnは,各金属2が励磁コイル11及び検出コイル15m,15nの鉛直下方に存在すると仮定すると,各金属2iからの二次磁界Hiの総和として,それぞれ近似的に(11)式及び(12)式のように表すことができる。
Hm=ΣHi
=Σ(Ar・Bi・Dr(θim)・(1/dimqr)) …………(11)
Hn=ΣHi
=Σ(Ar・Bi・Dr(θin)・(1/dinqr)) …………(12)
(11)式及び(12)式において,Biは(1)式で定まる励磁磁界Bによる各金属2iの励磁の強さ,比例定数Arは励磁の強さに比例して生じる二次磁界源の大きさを表す。磁界の角度依存特性Dr(θim),Dr(θin),及び距離減衰特性qrm,qrnは,それぞれコイル11,15m,15nの形状等に依存するパラメータである。検出コイル15m,15nから各金属2iまでの距離dim,din,及び検出コイル15m,15nと各金属2iとを結ぶ直線が鉛直線となす角度θim及びθinは,いずれも埋設深さL及びピッチSから算出することができる。
好ましくは,励磁装置12により励磁コイル11を断続的に励磁させ,各検出コイル15m,15nにより励磁磁界Bの遮断時の金属2の二次磁界Hm,Hnを検出する。図5(A)は,励磁装置12からのパルス信号(ON/OFF信号)により励磁コイル11を断続的に励磁する方式(パルス励磁方式)の励磁プローブ10の一例を示す。図示例の励磁プローブ10は,励磁コイル11と検出コイル15mとを一体のプローブコイル(11+15)として構成したものであり,励磁装置12の励磁信号(パルス)を加えることによりプローブコイル(励磁コイル11)に励磁磁界を発生させ,励磁信号(パルス)の遮断時にプローブコイル(検出コイル15m)に生じる誘起電圧Vを検出手段22に入力して金属2の二次磁界Hを検出する。検出手段22の一例は,プローブ10の内蔵回路又はコンピュータ20の内蔵プログラムである。
図5(B)は,プローブコイル(検出コイル15m)の動作シークエンスを示す。励磁信号がパルス(電位)の立下り時に急速に遮断されると,構造物内部の励磁磁界に急激な変化が起こり,プローブコイル(検出コイル15m)自身に誘起電圧V1が発生すると同時に,構造物内部の金属2に電磁誘導(渦電流誘起)により渦電流磁束が発生する。この金属2の渦電流磁束は,等価的にプローブコイルのインダクタンスを変化させ(逆誘起電圧の発生),プローブコイル(検出コイル15m)の誘起電圧レベルをV1からV2に低下させる。この誘起電圧V2への変化が(11)式の二次磁界強度Hmに相当する。検出手段22は,例えば金属2が存在しない場合の検出コイル15nの誘起電圧V1(零点較正)を予め記憶し,誘起電圧V2への変化を金属2の二次磁界強度Hmとして検出する。
また図5(C)は,検出コイル15nの動作シークエンスを示す。励磁磁界の急激な遮断は,プローブコイル(励磁コイル11)から所定間隔Wだけ離れた検出コイル15nにも誘起電圧V1を発生させるが,構造物内部に金属2が存在する場合は,その金属2の渦電流磁束の影響により検出コイル15nの誘起電圧レベルがV1からV2に低下する。この誘起電圧V2への変化が(12)式の二次磁界強度Hnに相当する。検出手段22は,例えば金属2が存在しない場合の検出コイル15nの誘起電圧V1(零点較正)を予め記憶し,誘起電圧V2への変化を金属2の二次磁界強度Hnとして検出する。
図5に示すようなパルス励磁方式は,励磁コイル11を常時駆動する必要がなく,励磁磁界を遮断する瞬間の急激な磁界変化を利用して金属2の二次磁界強度Hm,Hnを検出するので,検出の省電力化を図ることができる。ただし,本発明で用いる励磁装置12はパルス方式に限定されるわけではなく,例えば特定の周波数の励磁によって励磁コイル11を連続的に励磁する方式とすることも可能である。その場合は,検出コイル15m,15nにより励磁磁界Bと構造物内部の金属2の二次磁界Hm,Hnとが重畳された磁界が検出されるので,検出手段22において検出された重畳磁界から励磁磁界Bを除算することにより金属2の二次磁界強度Hm,Hnを検出する。
図1に示すように,各検出コイル15m,15nの検出電圧V(誘起電圧)をコンピュータ20に入力する。図示例のコンピュータ20は,内蔵プログラムとして,各検出コイル15m,15nの検出電圧Vから上述したように金属2の二次磁界強度Hm,Hnを検出する検出手段22と,金属2の二次磁界強度Hm,Hnの相対比R(=Hn/Hm,(13)式参照)を算出する算出手段23と,その相対比Rに基づき構造物内部の金属2の埋設深さLを計測する計測手段24と,算出した埋設深さLを出力装置30に表示する出力手段25とを有する。(13)式は,相対比RとピッチS及び埋設深さLとの関係式を示していることになる。
R=Hn/Hm ……………………………………………………………………(13)
各検出コイル15m,15nで検出される二次磁界強度Hm,Hnは,上述したように金属2の埋設深さLが大きくなるほど距離減衰によって値が小さくなり,金属2のピッチSが狭くなると値が大きく変動する。それに対して(13)式の二次磁界強度Hm,Hnの相対比Rは,埋設深さLが大きくなっても値が小さくならず,ピッチSが狭くなっても値が大きく変動しない。従って,相対比Rに基づくことで,深く埋設された金属2又はピッチSの狭い金属2の埋設深さLを精度よく計測できる。
(13)式の相対比Rに基づき金属2の埋設深さLを精度よく計測できることを,図1の簡易2次元距離減衰伝達特性モデルを参照して説明する。図1において,構造物内部の金属2のピッチSを図6(A)〜(C)に示すように300mm,150mm,75mm,25mm,10mm,1mmに切り替えながら,相対比Rと埋設深さL及びピッチSとの関係を算出した数値シミュレーション結果を図7及び図8に示す。図7は,検出コイル15m,15nの所定間隔W=100mmで構造物表面に載置し,磁界の角度依存特性Dt(θi),Dr(θi)をcosθiで近似し,磁界の距離減衰特性qt,qrを3とした場合のシミュレーション結果である。また図8は,角度依存特性Dt(θi),Dr(θi)をcosθiで近似し,距離減衰特性qt,qrを3とした点は図7と同じであるが,検出コイル15m,15nを所定間隔W=300mmで構造物表面に載置した場合のシミュレーション結果である。
図7及び図8のシミュレーション結果は,金属2の埋設深さLが深くなるほど相対比Rが大きくなり,しかもピッチSが狭くなるほど相対比Rが大きくなることを示している。従って,例えば構造物内部の金属2のピッチSが既知である場合に,そのピッチSに対応する相対比Rと埋設深さLとの関係式((13)式)を用いることにより,比較的深い金属2やピッチSの狭い金属2の埋設深さLをコンピュータ20の計測手段24により精度よく計測することができる。
また,構造物内部の金属2のピッチSが不明であっても,金属2のピッチSを仮定又は想定したうえで相対比Rと埋設深さLとの関係式((13)式)を求めることにより,金属2の埋設深さLをコンピュータ20の計測手段24で計測することができる。例えば,図7のシミュレーション結果は,相対比RのピッチSに対する依存性が小さく,とくに金属2の埋設深さLが深くなるほどピッチSに対する依存性が顕著に小さくなることを示しており,例えばピッチSが75mm以下になると,ピッチSに拘わらず相対比RはピッチSが1mm(複数の金属2が連続した金属板5に相当する場合)とほぼ同じ値に近付く。図8のシミュレーション結果も,相対比RのピッチSに対する依存性が小さく,例えばピッチSが150mm以下になると相対比RはピッチSが1mm以下の場合に近付くことを示している。従って,例えばピッチSが最小限であると仮定又は想定し,図2のようにピッチSが1mm以下の金属板5の埋設深さLと相対比Rとの関係式F1(図7参照)を求めておけば,その関係式F1と相対比Rとに基づき,コンピュータ20の計測手段24によりピッチSが不明の金属2の埋設深さLを計測することができる。
もっとも,構造物内部の金属2のピッチSは必ずしも1mm以下を仮定又は想定する必要はなく,必要な計測精度に準じた金属2のピッチSを仮定又は想定して関係式F1を設定することができる。例えばピッチSが比較的狭い75mm,又は25mmであると仮定又は想定して関係式F1を設定する(図7及び図8参照)。また,ピッチSは必ずしも一定であると仮定又は想定する必要はなく,鉄筋等の金属2がランダムなピッチSで配置されていると仮定又は想定して関係式F1を設定することも可能である。関係式F1の設定当初の計測精度が低い場合であっても,その関係式F1を用いて実施した計測誤差を何らかの方法(例えば直接計測との対比等)で検出し,その検出した誤差に準じて間接的に関係式F1を補正していくことも考えられる。
なお,図7及び図8のように異なる所定間隔Wにおける検出コイル15m,15nの二次磁界強度Hm,Hnの相対比Rを検出する場合は,図1に示すように,励磁コイル11及び複数の検出コイル15m,15nの所定間隔Wを変更する間隔調整手段41を設けることができる。間隔調整手段41によりコイル11,15m,15nの所定間隔Wを変更しながら,励磁コイル11により励磁磁界を発生させ,各検出コイル15m,15nにより二次磁界強度Hm,Hnを検出することにより,コンピュータ20の算出手段23により異なる所定間隔Wにおける相対比Rを算出することができる。
図3は,図1の計測装置を用いて構造物内部の金属2の埋設深さLを計測する方法の流れ図の一例を示す。先ずステップS001において,例えば電磁誘導による距離減衰伝達特性モデルDを用いて(3)式のような各検出コイル15m,15nの検出磁界強度Hm,Hnの相対比Rと金属2の埋設深さLとの関係式Fを求め,コンピュータ20の記憶手段21に記憶する。例えば構造物内部の金属2のピッチSが既知である場合は,そのピッチSに対応した関係式Fを求めて記憶する。また,金属2のピッチSが不明である場合は,例えばピッチSが1mm以下であると仮定又は想定し,図2のような金属板5の埋設深さL(対向間隙G)と相対比Rとの関係式F1(図7参照)を求めて記憶する。
図3のステップS001において距離減衰伝達特性モデルDを用いて関係式Fを設定する場合は,励磁コイル11及び検出コイル15m,15nの形状等に依存するパラメータ,例えば(3)式の角度依存特性Dr(θim)及びDr(θin),距離減衰特性qrm及びqrn等を,予め工場又は実験室等において事前に較正することができる。例えば図9は,角度依存特性Dt(θi),Dr(θi)をcosθiで近似し,検出コイル15m,15nの所定間隔Wを300mmとした点は図7と同じであるが,距離減衰特性qt,qrを2としたシミュレーション結果を示す。事前の較正により距離減衰特性qt,qrが2であると判明した時は,図7及び図8の関係式に代えて,図9の関係式を記憶手段21に記憶する。
或いは,図3のステップS001において,図2のような金属板5に励磁コイル11及び検出コイル15m,15nを対向させ,金属板5とコイル11,15m,15nとの対向間隙Gを変えながら各検出コイル15m,15nで検出される金属板5の二次磁界強度Hm,Hnの相対比Rを算出することにより,相対比Rと金属2の埋設深さL(対向間隙G)との関係式F1を実験的に求めて記憶手段21に記憶してもよい。上述したように,相対比RのピッチSに対する依存性は小さいので,ピッチSがゼロの金属板5(若しくは例えば1mm程度の小さいピッチSで並べた鉄筋等の金属)との対向間隙G(埋設深さL)と相対比Rとの関係式F1を求めておけば,その関係式F1を用いてピッチSが不明の金属2の埋設深さLを計測することができる。
図3のステップS001において関係式Fを実験的に設定する場合は,図2に示すように,金属板5とコイル11,15m,15nとの対向間隙Gを計測する対向間隙計測手段27をコンピュータ20に接続し,コンピュータ20に内蔵プログラムとして関係式設定手段26を設けることができる。例えば,金属板5(又は複数の金属2)とコイル11,15m,15nとの対向間隙Gを変えながら,対向間隙計測手段27で計測された対向間隙Gと各検出コイル15m,15nで検出された電圧とをコンピュータ20に入力し,関係式設定手段26により各検出コイル15m,15nで検出される金属板5(又は複数の金属2)の二次磁界強度Hm,Hnの相対比Rと対向間隙Gとの関係式F1を設定して記憶手段2に記憶する。
次いで図3のステップS002において,構造物1の表面に励磁コイル11と複数の検出コイル15m,15nとを所定間隔W(例えば図7に示す間隔100mm)で配置する。ステップS003において励磁コイル11に励磁磁界Bを発生させて構造物1の内部の金属2を励磁し,励磁された金属2の発生する二次磁界Hm,Hnを各検出コイル15m,15nで検出し,各検出コイル15m,15nの検出電圧をコンピュータ20に入力する。コンピュータ20の検出手段22により各検出コイル15m,15nの検出電圧から金属2の二次磁界強度Hm,Hnを検出し,算出手段23により二次磁界強度Hm,Hnの相対比Rを算出する。
図3のステップS004において,記憶手段21に記憶した関係式Fと算出手段23で算出した相対比Rとから,コンピュータ20の計測手段24により構造物内部の金属2の埋設深さLを計測する。例えば構造物内部の金属2のピッチSが既知である場合は,ステップS001で設定したそのピッチSに対応する関係式に基づき,構造物内部の金属2の埋設深さLを計測する。或いは構造物内部の金属2のピッチSが不明である場合は,ステップS001で設定したピッチSが例えば1mm以下の関係式F1(図7参照)に基づき,ピッチSが未知の金属2の埋設深さLを計測する。
図3のステップS005において構造物内部の金属2のピッチSが不明であるか否かを判断し,ピッチSが既知である場合はステップS010に進み,ステップS004で算出した埋設深さLを出力装置30に表示する。ピッチSが不明である場合はステップS006に進み,間隔調整手段41により励磁コイル11及び複数の検出コイル15m,15nの所定間隔Wを変更したうえで,ステップS003〜S004と同様に金属2の埋設深さLの計測を繰り返す(ステップS007〜S008)。
上述したように,相対比Rは金属2のピッチSに対する依存性が小さいので,金属2のピッチSが不明であっても,ピッチSが1mm以下の関係式F1(図7参照)に基づき金属2の埋設深さLを計測できるが,ピッチSが比較的広い場合等には計測結果に誤差が含まれる。例えば,図7において相対比Rが0.7である場合に,関係式F1に基づき埋設深さがL1(≒130mm)であると計測されるが,仮に構造物内部の金属2の真のピッチSが150mm程度であるとすると,真の埋設深さL0(≒170mm)との間に誤差ΔL(≒40mm)を生じる。
図3のステップS007〜S008は,励磁コイル11と複数の検出コイル15m,15nとの所定間隔Wを変えることで金属2のピッチSに対する相対比Rの依存性が変化することを利用するため,ステップS003〜S004と異なる所定間隔Wで金属2の埋設深さLを計測する。例えば所定間隔Wを300mmとした図8の関係式F2は,所定間隔Wを100mmとした図7の関係式F1に比して,ピッチSに対する相対比Rの依存性が更に小さくなっている。異なる所定間隔Wの関係式F1,F2を利用して金属2の埋設深さLを計測することにより,ピッチSが不明の金属2の埋設深さLの計測精度を高めることができる。
異なる所定間隔Wの関係式F1,F2を利用する場合は,図3のステップS001において,励磁コイル11と複数の検出コイル15m,15nとの所定間隔Wを変えながら,例えば図2のような金属板5の埋設深さL(対向間隙G)と相対比Rとの関係式F1,F2(例えば図7の関係式F1と図8の関係式F2)を求め,異なる所定間隔Wの関係式F1,F2をコンピュータ20の記憶手段21に記憶しておく。そしてステップS006において例えば間隔調整手段41によりコイル11,15m,15nの所定間隔Wを例えば100mm(図7)から300mm(図8)に広げたのち,ステップS007において励磁コイル11を励磁して構造物内部の金属2を励磁し,各検出コイル15m,15nで金属2の発生する二次磁界Hm,Hnを検出し,各検出コイル15m,15nで検出された二次磁界強度Hm,Hnの相対比Rを算出する。
図3のステップS008において,広げた所定間隔Wの関係式F2(図8)と相対比Rとから,コンピュータ20の計測手段24により構造物内部の金属2の埋設深さLを計測する。例えば,図8において相対比Rが0.1程度であれば,関係式F2に基づき埋設深さがL1(≒130mm)であると計測される。或いは相対比Rが0.2程度であれば,関係式F2に基づき埋設深さがL2(≒160mm)であると計測される。
次いでステップS009において,異なる所定間隔Wの関係式F1,F2に基づき計測した金属2の埋設深さLの相違が,許容誤差内であるか否かを判断する。例えば,ステップS004において所定間隔W=100mmの関係式F1(図7)に基づき埋設深さがL1(≒130mm)であると計測され,ステップS008において所定間隔W=300mmの関係式F2(図8)に基づき埋設深さが同じL1であると計測された場合は,埋設深さLの相違が許容誤差内であると判断してステップS010に進み,ステップS004及びS008で算出した埋設深さLを出力装置30に表示する。
或いは,ステップS004において所定間隔W=100mmの関係式F1(図7)に基づき埋設深さがL1(≒130mm)であると計測されたが,ステップS008において所定間隔W=300mmの関係式F2(図8)に基づき埋設深さがL2(≒160mm)であると計測された場合は,ステップS009において埋設深さLの相違(≒30mm)が許容誤差内であるか否かを判断する。埋設深さLの相違が許容誤差内であると判断される場合はステップS010に進み,ステップS008で算出した埋設深さLを出力装置30に表示する。埋設深さLの相違が許容誤差を超えたと判断される場合はステップS006に戻り,間隔調整手段41によりコイル11,15m,15nの所定間隔Wを変更したうえで上述したステップS007〜S008を繰り返す。ステップS009における許容誤差は,必要とされる金属2の埋設深さLの計測精度に応じて,例えばステップS001において設定することができる。
図8において,相対比Rが0.2程度であれば関係式F2に基づき埋設深さがL2(≒160mm)であると計測されるが,仮に構造物内部の金属2の真のピッチSが150mm程度であるとすると,真の埋設深さL0(≒170mm)との間に誤差ΔL(≒10mm)を生じる。この図8の誤差ΔLは,上述した図7において想定される誤差ΔL(≒40mm)よりは小さいが,コイル11,15m,15nの所定間隔Wを例えば400mmに広げてステップS007〜S008を繰り返すことにより,埋設深さLの計測値を真の埋設深さL0に更に近付けることができる。すなわち,異なる所定間隔Wの相対比R及び関係式Fを利用して金属2の埋設深さLを計測することにより,ピッチSが不明の金属2の埋設深さLを精度よく計測することができる。
こうして本発明の目的である「構造物内部に深く埋設され又は狭いピッチで埋設された金属の埋設深さを精度よく計測する方法及び装置」の提供を達成することができる。
図4は,鉄筋コンクリート構造物1の内部の鉄筋2の埋設深さ(かぶり厚さ)Lの計測に適用した本発明の計測装置の他の実施例を示す。図4の実施例においても,上述した図1の実施例と同様に,検出コイル15m,15nで検出される二次磁界強度Hm,Hnの相対比Rが構造物内部の金属2のピッチSに対する依存性が小さいことを利用して,上述した図3の流れ図に沿って相対比RからピッチSが不明の金属2の埋設深さLを計測する。
ただし,図1の実施例では励磁コイル11及び検出コイル15m,15nの異なる所定間隔Wにおける相対比Rを利用して金属2の埋設深さLを計測することにより,ピッチSが不明の金属2の埋設深さLの計測精度を高めているのに対し,図4の実施例では,各コイル11,15m,15nの所定間隔Wを変更することに代えて,各コイル11,15m,15nを構造物表面に浮かせて配置すると共に構造物表面との浮上距離Pを変更し,構造物表面から異なる浮上距離Pで検出される二次磁界強度Hm,Hnの相対比Rを利用して金属2の埋設深さLを計測することにより,ピッチSが不明の金属2の埋設深さLの計測精度を高めている。
図4の計測装置は,図1の計測装置と同様の励磁コイル11と励磁装置12と複数の検出コイル15m,15nとコンピュータ20とを有すると共に,励磁コイル11及び複数の検出コイル15m,15nを構造物表面に浮かせて配置する浮上台43と,構造物表面と励磁コイル11及び複数の検出コイル15m,15nとの浮上距離Pを変更する浮上調整手段42とを有する。浮上調整手段42により構造物表面からのコイル11,15m,15nの浮上距離Pを変更しながら,励磁コイル11により励磁磁界を発生させ,各検出コイル15m,15nにより二次磁界強度Hm,Hnを検出することにより,コンピュータ20の算出手段23により構造物表面から異なる浮上距離Pにおける相対比Rを算出する。
構造物表面からのコイル11,15m,15nの浮上距離Pを変えることで金属2のピッチSに対する相対比Rの依存性が変化するので,そのことを利用してピッチSが不明の金属2の埋設深さLの計測精度を高めることができる。例えば,図7は構造物表面からの浮上距離Pを0mmとした場合(検出コイル15m,15nを構造物表面に所定間隔W=100mmで載置した場合)の埋設深さLと相対比Rとの関係式F1を示しているのに対し,図10は構造物表面からの浮上距離Pを150mmとした場合(検出コイルの所定間隔Wは100mmのまま)の埋設深さLと相対比Rとの関係式F4を示しており,図7の関係式F1に比して図10の関係式F4はピッチSに対する相対比Rの依存性が更に小さくなっていることが分かる。図10の関係式F4は,図7の関係式F1を浮上距離Pだけ右側に移動したものであり,関係式F1から簡単に導き出すことができる。
また,図8は構造物表面からの浮上距離Pを0mmとした場合(検出コイル15m,15nを構造物表面に所定間隔W=300mmで載置した場合)の埋設深さLと相対比Rとの関係式F1を示しているのに対し,図11は構造物表面からの浮上距離Pを150mmとした場合(検出コイルの所定間隔Wは300mmのまま)の埋設深さLと相対比Rとの関係式F4を示しており,図8の関係式F2に比して図11の関係式F5はピッチSに対する相対比Rの依存性が小さくなっていることが分かる。図11の関係式F5も,図8の関係式F2を浮上距離Pだけ右側に移動したものであり,関係式F2から導き出すことができる。
図4の計測装置を用いて構造物内部の金属2の埋設深さLを計測する場合は,上述した図1の実施例の場合と同様に,図3のステップS001において,構造物表面からの浮上距離Pを変えながら金属2の埋設深さL(対向間隙G)と相対比Rとの関係式F1,F4(又は関係式F2,F5)を求め,異なる浮上距離Pの関係式F1,F4(又はF2,F5)をコンピュータ20の記憶手段21に記憶する。次いで,ステップS002において励磁コイル11と複数の検出コイル15m,15nとを構造物1の表面に接触させて(例えば図7に示す浮上間隔0mm)で配置する。ステップS003において励磁コイル11を励磁して金属2の二次磁界Hm,Hnを各検出コイル15m,15nで検出し,コンピュータ20の算出手段23により二次磁界強度Hm,Hnの相対比Rを算出し,ステップS004において記憶手段21の関係式Fと相対比Rとから構造物内部の金属2の埋設深さLを計測する。
図3のステップS005において構造物内部の金属2のピッチSが不明であるか否かを判断し,ピッチSが不明である場合はステップS006に進み,浮上調整手段42により構造物表面からのコイル11,15m,15nの浮上距離Pを例えば0mm(図7)から150mm(図10)に広げる。その後,ステップS007において励磁コイル11を励磁して金属2の二次磁界Hm,Hnを各検出コイル15m,15nで検出し,二次磁界強度Hm,Hnの相対比Rを算出する。ステップS008において,広げた浮上距離Pの関係式F4(図10)と相対比Rとから造物内部の金属2の埋設深さLを計測する。例えば,図10において相対比Rが0.91程度であれば関係式F4に基づき埋設深さがL1(≒130mm)であると計測され,相対比Rが0.92程度であれば関係式F4に基づき埋設深さがL2(≒160mm)であると計測される。
次いでステップS009において,異なる浮上距離Pの関係式F1,F4に基づき計測した金属2の埋設深さLの相違が,許容誤差内であるか否かを判断する。例えば,ステップS004において浮上距離P=0mmの関係式F1(図7)に基づき埋設深さがL1(≒130mm)であると計測され,ステップS008において浮上距離P=150mmの関係式F4(図10)に基づき埋設深さが同じL1であると計測された場合は,埋設深さLの相違が許容誤差内であると判断してステップS010に進み,ステップS004及びS008で算出した埋設深さLを出力装置30に表示する。
或いは,ステップS004において浮上距離P=0mmの関係式F1(図7)に基づき埋設深さがL1(≒130mm)であると計測されたが,ステップS008において浮上距離P=150mmの関係式F4(図10)に基づき埋設深さがL2(≒160mm)であると計測された場合は,ステップS009において埋設深さLの相違(≒30mm)が許容誤差内であるか否かを判断する。埋設深さLの相違が許容誤差内であると判断される場合はステップS010に進み,ステップS008で算出した埋設深さLを出力装置30に表示する。埋設深さLの相違が許容誤差を超えたと判断される場合はステップS006に戻り,浮上調整手段42により構造物表面からのコイル11,15m,15nの浮上距離Pを変更したうえで上述したステップS007〜S008を繰り返す。ステップS009における許容誤差は,必要とされる金属2の埋設深さLの計測精度に応じて,例えばステップS001において設定することができる。
図10においても,仮に構造物内部の金属2の真のピッチSが150mm程度であるとすると,真の埋設深さL0(≒170mm)との間に誤差ΔL(≒10mm)を生じうる。この図10の誤差ΔLは,上述した図7において想定される誤差ΔL(≒40mm)よりは小さいが,構造物表面からのコイル11,15m,15nの浮上距離Pを例えば200mmに広げてステップS007〜S008を繰り返すことにより,埋設深さLの計測値を真の埋設深さL0に更に近付けることができる。すなわち,異なる浮上距離Pで検出される相対比R及び関係式Fを利用して金属2の埋設深さLを計測することにより,ピッチSが不明の金属2の埋設深さLを精度よく計測することができる。