JP6931218B2 - 細胞膜の損傷修復促進剤 - Google Patents

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Description

本発明は、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMP−activated protein kinase;AMPK)活性化剤を有効成分として含有する細胞膜の損傷修復促進剤や、被験者の骨格筋から採取された生体試料におけるAMPKのサブユニットの発現を検出する工程を含む、ディスフェルリン異常症の診断のためのデータを収集する方法等に関する。
成人期に発症する遺伝性筋疾患としては、種々の筋変性疾患、代謝性疾患、ミトコンドリア関連疾患、一部の炎症性疾患等が知られており、なかでも、筋変性疾患である筋ジストロフィー及び遠位型ミオパチーは罹患者数において比較的高い割合を占める。筋ジストロフィーは、筋線維の変性・壊死を主病変とし、臨床的には進行性の筋力低下と筋萎縮を呈する遺伝性疾患と定義されている。筋ジストロフィーには様々な病型が存在するが、特に成人発症で問題となるのは、腰帯部などの近位筋が好んで侵される肢帯型筋ジストロフィー(Limb-Girdle Muscular Dystrophy:以下、「LGMD」ということがある)である。現在までに、LGMDに関連する20以上の遺伝子が明らかにされており、遺伝形式及び原因遺伝子別に分類がなされているが、LGMDの臨床的特徴は多様である(非特許文献1及び2)。一方、遠位型ミオパチーは、四肢遠位部優位の進行性筋力低下・萎縮を呈する筋変性疾患であり、三好型遠位型ミオパチー、縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー、及び眼咽頭遠位型ミオパチーの3つの主要な病型に分類されるが、より広汎なスペクトラムを持つ症候群であると考えられている(非特許文献3)。
1998年に、常染色体劣性遺伝性疾患である三好型遠位型ミオパチー(MIM#254130)の原因遺伝子として、ディスフェルリン(dysferlin)タンパク質をコードするDYSF遺伝子が同定された(非特許文献4)。さらに、DYSF遺伝子は肢帯型筋ジストロフィー2B型(MIM#253601;以下、「LGMD2B」という)の原因であることも明らかとなった(非特許文献5)。これらの異なる臨床像を呈する疾患群とDYSF遺伝子変異との関連が明らかとなったことから、dysferlinopathy(ディスフェルリン異常症)という疾患概念が確立された。以下に述べるように、ディスフェルリン異常症の病態や発症メカニズムについては多くの研究がなされているが、ディスフェルリン異常症に対する有効な治療方法はいまだ確立されていない。
三好型遠位型ミオパチー及びLGMD2Bは、下腿屈筋の障害が顕著であること、血清CK値の上昇が著しいこと、骨格筋病理においてジストロフィー性所見に加え細胞浸潤が顕著であること等の共通の臨床的・筋病理的特徴を有する。ディスフェルリン異常症が疑われる場合には、抗ディスフェルリン抗体を用いた筋病理組織の免疫組織染色や、生検筋のウェスタンブロット解析を行い、ディスフェルリンタンパク質の局在や発現レベルを評価する。患者において、ディスフェルリンタンパク質の発現が完全に欠損している場合にはディスフェルリン異常症の可能性が高いが(非特許文献5)、ディスフェルリンタンパク質の局在が異常である場合や、ディスフェルリンタンパク質の発現レベルが低下している場合には、ディスフェルリン異常症以外の疾患による二次的な異常の可能性も考えられる。このため、ディスフェルリン異常症の最終的な診断確定のためには遺伝子診断が必要となる。
現在までに、多数のDYSF遺伝子変異陽性患者の臨床症状の解析の結果から、DYSF遺伝子変異と臨床症状との関連が明らかにされてきている(非特許文献6及び7)。また、2015年には、次世代シークエンサーを用いた研究により、ディスフェルリン異常症患者及び、それと表現型が類似した患者における遺伝学的背景が明らかにされた(非特許文献8)。これらの研究から、ディスフェルリン欠損の病態は、DYSF遺伝子自体の変異による一次性ディスフェルリン異常症だけではなく、カルパイン3(calpain 3)遺伝子変異などに起因する二次性のディスフェルリン異常症の病態にも関与していることが明らかにされている(非特許文献8)。以上のことから、ディスフェルリン異常症の研究は筋ジストロフィー全体の病態解明にも寄与するものと考えられる。
DYSF遺伝子は、2番染色体(2p13.3−p13.1)に存在し、55エクソン、6,243bpからなる巨大遺伝子である(非特許文献9)。また、DYSF遺伝子によってコードされるディスフェルリンタンパク質は、筋細胞の細胞膜に局在する約230kDaの非常に大きな膜タンパク質であり、カルシウム依存性膜融合や筋線維修復等に重要な役割を果たしていると考えられている(非特許文献10及び11、及び図1)。また、骨格筋細胞においては、損傷を受けた細胞膜にディスフェルリンがパッチ状に凝集し、膜修復に関与することが知られている。さらに、近年、AHNAK、カベオリン−3(Caveolin-3)、ビンキュリン(Vinculin)、MG53/TRIM72等が、ディスフェルリンと相互作用することが明らかにされ、これらのディスフェルリン結合タンパク質が筋細胞膜修復に関与する可能性が示唆されている(非特許文献12〜17)。なかでも、TRIM72はジストロフィン欠損mdxマウス(デュシェンヌ型筋ジストロフィーモデルマウス)への投与により、骨格筋損傷の減少することが明らかにされており、筋ジストロフィーの治療に有効である可能性が示唆されている(非特許文献18)。
以上のことから、新たなディスフェルリン結合タンパク質を同定することにより、ディスフェルリン異常症を含む様々な筋変性疾患における筋細胞膜修復機能障害の分子メカニズムの一端を解明できる可能性が考えられる。しかし、ディスフェルリンは非常に大きな膜タンパク質であり、様々な因子と複合体を形成すると考えられるため、免疫沈降等の通常のアプローチでは、ディスフェルリン結合タンパク質の全容を明らかにすることは困難であった。
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本発明の課題は、新規ディスフェルリン結合タンパク質を同定して、細胞膜修復におけるその役割を解明することにより、該ディスフェルリン結合タンパク質を標的とした細胞膜の損傷修復促進剤や、ディスフェルリン異常症の診断のためのデータを収集する方法等を提供することにある。
ディスフェルリンは、7つのC2ドメイン(C2A〜C2G)、2つのDysFドメイン(DysFC及びDysFN)、及び3つのFerドメインを持つ(Fer、FerA、及びFerB)を有するタンパク質である(図2)。C2ドメインはリン脂質に結合するドメインであり、特に、C2Aドメインはカルシウム依存的にリン脂質に結合することが知られている(文献「Therrien, C., Dodig, D., Karpati, G. & Sinnreich, M. Mutation impact on dysferlin inferred from database analysis and computer-based structural predictions. J Neurol Sci 250, 71-78 (2006).」参照)。従来のディスフェルリン結合タンパク質に関する研究は、このC2ドメインに焦点を当てて行われており、C2ドメイン以外の領域と結合する因子についてはこれまで全く研究されていなかった。
一方、ディスフェルリンの3番目のC2ドメイン(C2Cドメイン)と4番目のC2ドメイン(C2Dドメイン)とに挟まれた領域(以下、「第II領域」ともいう)には、機能ドメインであるDysFが存在する(図2)。このことから、本発明者らは、骨格筋細胞の膜修復機構において、ディスフェルリンが、その第II領域と他の機能性タンパク質との結合を介して、巨大な足場タンパク質として働いているという独自の仮説を立てた。このような仮説に基づいて、本発明者らは、ディスフェルリン第II領域と結合する因子を探索することによって、ディスフェルリン異常症の治療標的となり得る、新規ディスフェルリン結合タンパク質を同定することができるのではないかと考えた。
そこで、本発明者らは、ディスフェルリン第II領域を結合させたアフィニティビーズを作製し、このアフィニティビーズを用いてディスフェルリン第II領域と相互作用するタンパク質を探索した。その結果、新規ディスフェルリン結合タンパク質として、AMP活性化プロテインキナーゼγ1(AMPKγ1)、及びprotein phosphatase 1 catalytic subunit alpha(PPP1CA)を同定することに成功した。
AMPKγ1は、AMPK複合体を形成するサブユニットの一つである。また、PPP1CAは、AMPK複合体のサブユニットAMPKαの脱リン酸化を介して、AMPK複合体の活性調節に関与することが知られている。これらのことから、本発明者らは、筋細胞の膜修復機構において、AMPK複合体及びその活性化が何らかの役割を果たしている可能性があると考え、(1)ディスフェルリン異常症モデルマウスにおけるAMPK複合体の発現レベル及び局在の変化、(2)マウス骨格筋におけるAMPK複合体の局在に及ぼす膜損傷の影響、(3)マウス筋芽細胞の膜修復機能に及ぼすAMPKのγ1、α1、又はα2サブユニットのノックダウンの影響、及び、(4)ディスフェルリン異常症患者由来の筋芽細胞(line107細胞)の膜修復機能に及ぼすAMPK活性化剤(AICAR)の影響を調べた。
そして、実験の結果、(1)ディスフェルリン異常症モデルマウスの骨格筋組織においては、正常マウスと比較して、AMPKγ1の発現レベルが低下すること、(2)マウス筋細胞においては、膜損傷の直後からAMPKγ1が損傷部位に集積すること、(3)AMPKγ1及びα1サブユニットのノックダウンによりマウス筋芽細胞の膜修復機能が低下すること、(4)line107細胞の膜修復機能がAICAR処理により改善することを明らかにした。これらの結果から、本発明者らは、ディスフェルリン異常症の筋細胞における膜修復機能異常に、AMPK(特に、AMPKγ1)の発現の低下が関与する可能性があること、さらに、AMPKを活性化させることによりディスフェルリン異常症の筋細胞において低下した膜修復機能を改善できる可能性があることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、(1)AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)活性化剤を有効成分として含有する、細胞膜の損傷修復促進剤や、(2)AMPK活性化剤が、アカデシン、メトホルミン、A−769662(6,7-Dihydro-4-hydroxy-3-(2'-hydroxy[1,1'-biphenyl]-4-yl)-6-oxo-thieno[2,3-b]pyridine-5-carbonitrile)、フェンホルミン、ブホルミン、チエノピリドン、レスベラトロール、ヌートカトン、アディポネクチン、及びそれらの塩からなる群より選択される1又は2以上の物質である、上記(1)に記載の損傷修復促進剤や、(3)AMPK活性化剤がアカデシンである、上記(1)又は(2)に記載の損傷修復促進剤や、(4)細胞膜が骨格筋細胞の細胞膜である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の損傷修復促進剤に関する。
また、本発明は、(5)(i)被験者の骨格筋から採取された生体試料におけるAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)のサブユニットの発現を検出する工程であって、前記サブユニットが、AMPKのα1サブユニット、α2サブユニット、β1サブユニット、β2サブユニット、γ1サブユニット、γ2サブユニット、及びγ3サブユニットからなる群より選択される1又は2以上のサブユニットである、工程;(ii)前記工程(i)により検出されたサブユニットの発現と、ディスフェルリン異常症でないヒトの骨格筋から採取された生体試料におけるサブユニットの発現とを比較・評価する工程;の工程(i)及び(ii)を含む、ディスフェルリン異常症の診断のためのデータを収集する方法や、(6)サブユニットがAMPKのγ1サブユニットである、上記(5)記載の方法や、(7)ディスフェルリン異常症が、三好型遠位型ミオパチー又は肢帯型筋ジストロフィー2B型である、上記(5)又は(6)に記載の方法や、(8)AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)のα1サブユニット、α2サブユニット、β1サブユニット、β2サブユニット、γ1サブユニット、γ2サブユニット、及びγ3サブユニットからなる群より選択される1又は2以上のサブユニットに特異的に結合する抗体、又はその標識物を含む、ディスフェルリン異常症を診断するためのキット、(9)サブユニットが、AMPKのγ1サブユニットである、上記(8)に記載のキットや、(10)ディスフェルリン異常症が、三好型遠位型ミオパチー又は肢帯型筋ジストロフィー2B型である、上記(8)又は(9)に記載のキットや、(11)AMPKのα1サブユニット、α2サブユニット、β1サブユニット、β2サブユニット、γ1サブユニット、γ2サブユニット、及びγ3サブユニットからなる群より選択される1又は2以上のサブユニットをコードするmRNAを特異的に検出するプライマー又はプローブ、若しくはそれらの標識物を含む、ディスフェルリン異常症を診断するためのキットや、(12)サブユニットが、AMPKのγ1サブユニットである、上記(11)に記載のキットや、(13)ディスフェルリン異常症が、三好型遠位型ミオパチー又は肢帯型筋ジストロフィー2B型である、上記(11)又は(12)に記載のキットに関する。
さらに、本発明の実施の他の形態として、AMPK活性化剤を、細胞膜の損傷修復促進を必要とする対象(患者)に投与する工程を備えた、細胞膜の損傷修復機能の異常又は低下を伴う症状若しくは疾患を予防又は治療する方法や、細胞膜の損傷修復機能の異常又は低下を伴う症状若しくは疾患の予防又は治療剤として使用するためのAMPK活性化剤や、細胞膜の損傷修復機能の異常又は低下を伴う症状若しくは疾患の予防又は治療における使用のためのAMPK活性化剤や、細胞膜の損傷修復機能の異常又は低下を伴う症状若しくは疾患の予防又は治療剤を製造するためのAMPK活性化剤の使用や、細胞膜の損傷修復促進剤として使用するためのAMPK活性化剤や、細胞膜の損傷修復促進における使用のためのAMPK活性化剤や、細胞膜の損傷修復促進剤を製造するためのAMPK活性化剤の使用を挙げることができる。
本発明において、骨格筋細胞の細胞膜に局在するディスフェルリンが、AMPK複合体やPPP1CAと結合する足場タンパク質として機能すること、さらに、AMPK複合体を活性化させることにより、ディスフェルリン異常症における骨格筋細胞の膜修復可能性の低下が改善できる可能性がはじめて明らかにされた。これらの結果は、AMPK複合体の活性化物質が、細胞膜の損傷修復促進剤として有効であることを示すとともに、骨格筋組織又は細胞におけるAMPK複合体の発現レベルを指標として、ディスフェルリン異常症の診断のためのデータを収集することが可能であることを示している。
筋細胞膜における、ディスフェルリンと他の関連タンパク質との関係を示す図である。ジストロフィンを中心として形成される糖タンパク質複合体は、骨格筋の基底膜から細胞膜をつなぎ、物理的な強度を維持している。ディスフェルリンは筋細胞膜上に局在しているとされ、カベオリン−3やカルパイン3等のタンパク質と結合することが知られている。 ディスフェルリンタンパク質の構造を示す図である。ディスフェルリンタンパク質は、7つのC2ドメイン(C2A〜C2G)、3つのFerドメイン、及び2つのDysFドメインを持つ。また、ディスフェルリンタンパク質のC末端付近には膜貫通ドメイン(Transmembrane domain)が存在する。本研究においては、C2CドメインとC2Dドメインに挟まれた、FerA、FerB、DysFN、及びDysFCを含む領域を「第II領域」と呼ぶ。さらに、第II領域のうちのN末端側の、FerAドメインを含む領域を「第II−1領域」と呼び、第II領域のうちのC末端側の、FerA、FerB、DysFN、及びDysFCを含む領域を「第II−2領域」と呼ぶ。 ディスフェルリン結合タンパク質の同定について示す図である。図3aは、SDS−PAGE及びCBB染色により、ディスフェルリン第II領域、第II−1領域、第II−2領域の組換えポリペプチドの発現が確認されたことを示す図である。図3bは、HEK293T細胞の細胞抽出液を用いて、ディスフェルリン第II領域、第II−1領域、第II−2領域の組換えポリペプチドと結合するタンパク質を精製し、SDS−PAGE及び銀染色を行った結果を示す図である。図中、「M」はサイズマーカー(BenchMark Protein Ladder、Life technologies社製)を、「MBP」はMBPタグコントロールを、「MBP−DYSF−II」はMBPタグが付加されたディスフェルリン第II領域ポリペプチドを、「MBP−DYSF−II−1」はMBPタグが付加されたディスフェルリン第II−1領域ポリペプチドを、「MBP−DYSF−II−2」はMBPタグが付加されたディスフェルリン第II−2領域ポリペプチドをそれぞれ示す。MBPタグコントロールと、各組換えポリペプチドにおけるバンドを比較して、図3bの四角で囲まれたバンドを切り出し、LC/MS/MSにより質量分析を行った。その結果、HSP70、PPP1CA、及びAMPKγ1を、ディスフェルリン第II領域の結合タンパク質として同定した。 ディスフェルリン欠損マウスの骨格筋細胞における、AMPK複合体の局在を示す図である。図4aは、正常マウス(SWR/J)及びディスフェルリン欠損マウス(SJL/Jマウス)の骨格筋組織におけるAMPKγ1の発現を、免疫染色により調べた結果を示す。正常マウス及びディスフェルリン欠損マウスにおいて、AMPKγ1は主に細胞質に局在するが、その一部は細胞膜にも局在する。また、ディスフェルリン欠損マウスの骨格筋組織におけるAMPKγ1の染色シグナルは、正常マウスと比較して、弱いものであった。図4bは、正常マウス(SWR/J)及びディスフェルリン欠損マウス(SJL/Jマウス)の骨格筋組織におけるAMPKα1の発現を、免疫染色により調べた結果を示す。AMPKα1は主に細胞質に局在するが、その一部は細胞膜にも局在する。図中、白線は50μmを示す。 細胞膜損傷部位へのAMPKγ1の集積を示す図である。AMPKγ1−GFPを導入したマウス短趾屈筋をレーザーで損傷させ、その間のAMPKγ1の動態をライブイメージングにより観察した。一番左側の3つの図中、矢印で示す線は、レーザーによる膜損傷部位を示す。また、FM4−64は損傷部位に集積するマーカーである。AMPKγ1は、筋組織が損傷を受けてから10秒〜2分後まで損傷部位(矢印で示される部位)に集積した。図中、白線は10μmを示す。 AMPKγ1のノックダウンにより膜修復機能が低下することを示す図である。図6aは、コントロール細胞及び2種類のsiRNA(#1及び2)でAMPKγ1をノックダウンした細胞における、AMPKγ1発現レベルをウェスタンブロットにより確認した結果を示す。GAPDHは内部標準として用いた。図6bは、内部標準により、コントロール細胞及びAMPKγ1ノックダウン細胞(#1及び2)のAMPKγ1発現量を定量化した結果を示す。図6cは、蛍光色素FM1−43の存在下で、コントロール細胞及びAMPKγ1ノックダウン細胞の細胞膜をレーザーにより損傷させて、それぞれの細胞におけるFM1−43集積の程度をライブイメージングにより観察した結果を示す。AMPKγ1ノックダウン細胞では、コントロール細胞と比較して、有意なFM1−43の集積亢進が認められた。図中、黒丸はレーザー照射部位を、白線は10μmをそれぞれ示す。図6dは、蛍光色素FM1−43の存在下で細胞膜を損傷させた後の(0〜120秒後)、コントロール細胞及びAMPKγ1ノックダウン細胞中の蛍光強度の変化(ΔF/F0)を示す。データは平均値±標準誤差で示し、Wilcoxon検定を行った。図中、*はP<0.05を示す。 細胞膜損傷部位へのAMPKα1及びAMPKα2の集積を示す図である。AMPKγ1−GFPを導入したマウス短趾屈筋をレーザーで損傷させ、その間のAMPKγ1の動態をライブイメージングにより観察した。一番左側の2つの図中、矢印が示す線は、レーザーによる膜損傷部位を示す。AMPKγ1は、筋組織が損傷を受けてから10秒〜2分後まで損傷部位(矢印で示される部位)に集積した。白線は10μmを示す。 AMPKα1のノックダウンにより細胞膜修復機能が低下することを示す図である。図8aは、コントロール細胞及び2種類のsiRNA(#1及び2)でAMPKα1をノックダウンした細胞における、AMPKα1発現レベルをウェスタンブロットにより確認した結果を示す。GAPDHは内部標準として用いた。図8bは、内部標準により、コントロール細胞及びAMPKα1ノックダウン細胞(#1及び2)のAMPKα1発現量を定量化した結果を示す。図8cは、蛍光色素FM1−43の存在下で、コントロール細胞及びAMPKγ1ノックダウン細胞の細胞膜をレーザーにより損傷させて、それぞれの細胞におけるFM1−43集積の程度をライブイメージングにより観察した結果を示す。AMPKγ1ノックダウン細胞では、コントロール細胞と比較して、有意なFM1−43の集積亢進が認められた。図中、矢印のすぐ先はレーザー照射部位を、白線は10μmをそれぞれ示す。図8dは、蛍光色素FM1−43の存在下で細胞膜を損傷させた後の(0〜120秒後)、コントロール細胞及びAMPKγ1ノックダウン細胞中の蛍光強度の変化(ΔF/F0)を示す。データは平均値±標準誤差で示し、Wilcoxon検定を行った。図中、*はP<0.05を示す。図8eは、コントロール細胞及び2種類のsiRNA(#1及び2)でAMPKα2をノックダウンした細胞における、AMPKα2発現レベルをウェスタンブロットにより確認した結果を示す。GAPDHは内部標準として用いた。図8fは、内部標準により、コントロール細胞及びAMPKα2ノックダウン細胞(#1及び2)のAMPKα2発現量を定量化した結果を示す。図8gは、蛍光色素FM1−43の存在下で細胞膜を損傷させた後の(0〜120秒後)、コントロール細胞及びAMPKα2ノックダウン細胞中の蛍光強度の変化(ΔF/F0)を示す。データは平均値±標準誤差で示し、Wilcoxon検定を行った。図中、*はP<0.05を示す。 正常ヒト細胞(KM155)及びディスフェルリン異常症患者細胞(line107)における、カルシウムイオノフォアによるAMPKαのリン酸化を示す図である。KM155及びline107に、1μMのイオノマイシンを添加して3分間インキュベートし、リン酸化AMPKαの発現をウェスタンブロットにより調べた。 ディスフェルリン異常症患者細胞の膜修復機能がAMPK活性化剤により改善することを示す図である。図10aは、正常ヒト細胞(KM155)及びディスフェルリン異常症患者細胞(line107)における、ディスフェルリン、AMPKα、及びリン酸化AMPKαの発現をウェスタンブロットにより調べた結果を示す図である。KM155と比較して、line107細胞ではディスフェルリン発現レベルの低下が認められた。また、line107細胞にAMPK活性化剤(AICAR)を添加すると、リン酸化AMPKαの発現が増加した。図10bは、内部標準(GAPDH)により、KM155細胞及びline107細胞におけるディスフェルリン発現量を定量化した結果を示す。図10cは、蛍光色素FM1−43の存在下で細胞膜を損傷させた後の(0〜120秒後)、KM155及びline107細胞中の蛍光強度の変化(ΔF/F0)を示す。データは平均値±標準誤差で示し、Wilcoxon検定を行った。図中、*はP<0.05を示す。line107細胞におけるFM1−43集積の程度は、KM155と比較して有意に高かった。図10dは、内部標準(GAPDH)により、KM155細胞と、無処理又はGAPDH処理を行ったline107細胞とにおける、リン酸化AMPKαの発現量を定量化した結果を示す。図10eは、蛍光色素FM1−43の存在下で、無処理又はAICAR処理を行ったline107細胞の細胞膜をレーザーにより損傷させて、それぞれの細胞におけるFM1−43集積の程度をライブイメージングにより観察した結果を示す。図10fは、蛍光色素FM1−43の存在下で細胞膜を損傷させた後の(0〜120秒後)、無処理又はAICAR処理を行ったline107細胞中の蛍光強度の変化(ΔF/F0)を示す。データは平均値±標準誤差で示し、Wilcoxon検定を行った。図中、*はP<0.05を示す。AICARを添加したline107細胞においては、無処理のline107細胞と比較して、膜損傷後のFM1−43の集積の程度が有意に低下した。
本発明の損傷修復促進剤としては、AMPK活性化剤を有効成分として含有し、細胞膜の損傷修復機能を改善及び/又は向上させるものであれば特に制限されない。本発明の損傷修復促進剤は、細胞膜が損傷を受けた際に、ディスフェルリンとの相互作用を介して損傷部位に凝集するAMPK複合体を活性化させることによって、細胞膜修復を促進することができる。上記AMPK活性化剤としては、AMPKが有する触媒(リン酸化する)作用を活性化できるものであれば特に制限されず、例えば、アカデシン(5-Aminoimidazole-4-carboxamide ribonucleotide、AICARとも呼ばれる)、メトホルミン、A−769662(6,7-Dihydro-4-hydroxy-3-(2'-hydroxy[1,1'-biphenyl]-4-yl)-6-oxo-thieno[2,3-b]pyridine-5-carbonitrile)、フェンホルミン、ブホルミン、チエノピリドン、レスベラトロール、ヌートカトン、アディポネクチン、及びそれらの塩からなる群より選択される1又は2以上の物質を好適に挙げることができる他、ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP4)阻害剤(例えば、シタグリプチン、ビルダグリプチン、サクサグリプチン、アログリプチン、L−スレオ−イソロイシルピロリジド、L−アロ−イソロイシルチアゾリジド、若しくはL−アロ−イソロイシルピロリジド、又はそれらの塩)やグルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)受容体作動薬(例えば、リラグルチド、セマグルチド、タスポグルチド、アルビグルチド、タスポグルチド、デュラグルチド、若しくはエキセナチドLAR、又はそれらの塩)を挙げることができる(文献「Kimberly A Coughlan, et al. AMPK activation: a therapeutic target for type 2 diabetes?. Diabetes Metab Syndr Obes 2014」参照)。AMPK活性化剤における塩としては、特に制限されず、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩;シュウ酸塩、マロン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩等の有機酸塩;ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、リジン塩、アルギニン塩、ヒスチジン塩等のアミノ酸塩などを挙げることができる。上記AMPK活性化剤としては、アカデシン、メトホルミン、A−769662及びそれらの塩からなる群より選択される1又は2以上の物質であることが好ましく、アカデシン及び/又はメトホルミン塩酸塩であることがより好ましく、アカデシンであることがさらに好ましい。
本発明の損傷修復促進剤は、細胞(好ましくは、骨格筋細胞、心筋細胞、末梢血単球細胞等の野生型個体においてディスフェルリンを発現する細胞)膜の損傷修復を促進する作用を有する。このため、本発明の損傷修復促進剤は、細胞膜の損傷修復機能の異常又は低下を伴う症状又は疾患の予防又は改善(治療)剤に有利に適用することができる。かかる細胞膜の損傷修復機能の異常又は低下を伴う症状又は疾患としては、具体的には、三好型遠位型ミオパチー、肢帯型筋ジストロフィー2B型等のディスフェルリン異常症、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、ベッカー型先天性筋緊張症、エメリー−ドレフュス型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、眼咽頭筋ジストロフィー、原発性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症、多発筋炎、ギラン−バレー症候群、アンダーセン−タウィル症候群、ベスレムミオパチー、球脊髄性筋萎縮症、カルニチン欠損、カルニチンパルミチルトランスフェラーゼ欠損、セントラルコア病、中心核ミオパチー、シャルコー−マリー−トゥース病、先天性筋無力症候群、先天性筋強直性ジストロフィー(ウォーカー−ワールブルグ症候群)、コーリ病(脱分枝酵素欠損症)、デジュリーヌ−ソッタス病、皮膚筋炎、遠位筋ジストロフィー、筋緊張性ジストロフィー(筋強直性ジストロフィー)、内分泌性ミオパチー、エーレンバーグ病(先天性パラミオトニア)、フィンランド型遠位型ミオパチー、フォーブズ病、フリードライヒ運動失調症、福山型先天性筋ジストロフィー、糖原病2型、3型、5型、7型、9型、10型、11型、Gowers−Laing遠位型ミオパチー、遺伝性封入体筋炎、甲状腺機能亢進性ミオパチー、甲状腺機能低下性ミオパチー、封入体筋炎、遺伝性ミオパチー、インテグリン欠損型先天性筋ジストロフィー、ケネディ病(球脊髄性筋萎縮症)、乳酸デヒドロゲナーゼ欠損症、ランバート−イートン筋無力症候群、肢帯型筋ジストロフィー、マックアードル病、メロシン欠損型先天性筋ジストロフィー、ミトコンドリアミオパチー、運動ニューロン疾患、筋・眼・脳病、重症筋無力症、ミオアデニレートデアミナーゼ欠乏症、筋原線維性ミオパチー、筋型ホスホリラーゼ欠損症、先天性筋緊張症(トムセン病)、筋細管ミオパチー、筋強直性ジストロフィー、ネマリンミオパチー、野中型遠位型ミオパチー、先天性パラミオトニア、ピアソン症候群、周期性四肢麻痺、ホスホフルクトキナーゼ欠損症(垂井病)、ホスホグリセレートキナーゼ欠損症、ホスホグリセレートムターゼ欠損症、ホスホリラーゼ欠損症、ポンペ病(酸マルターゼ欠損症)、進行性外眼筋麻痺、ウェランダー型遠位型ミオパチー、ZASP関連性ミオパチー等の筋原生疾患を挙げることができる。
また、上記本発明の損傷修復促進剤は、常法によって適宜の製剤とすることができ、例えば、薬学的に許容し得る担体若しくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、防腐剤、結合剤をさらに含有することもできる。さらに、本発明の損傷修復促進剤を、それを必要とする患者に投与する場合の投与経路としては、例えば、経口、筋肉内、皮下、直腸内、経粘膜、腸内、骨髄内、鞘内、直接心室内、静脈内、硝子体内、腹腔内、鼻腔内、又は眼内注射を挙げることができる。投与経路は、対象の年齢や病状、併用する他の薬剤などを考慮して適宜選択することができる。
本発明の損傷修復促進剤を、それを必要とする患者に投与する場合の投与量としては、有効成分の種類、病状の重さ、治療方針、患者の年齢、体重、性別、全般的な健康状態、及び患者の遺伝的背景に応じて、当業者が適宜選択することができる。例えば、本発明の損傷修復促進剤としてメトホルミン塩酸塩を投与する場合、その投与量や投与方法は、2型糖尿病治療におけるメトホルミン塩酸塩の投与量に準拠して選択することができる。具体的には、成人患者に対して500mg/日のメトホルミン塩酸塩の投与から開始し、該患者における効果を確認しながら、500〜2,250mg/日、好ましくは1,000〜2,000mg/日、より好ましくは750〜1,500mg/日のメトホルミン塩酸塩を投与することができる。また、メトホルミン塩酸塩の投与は、1日2〜3回に分けて、食前又は食後に経口投与により行うことができる。
本発明のディスフェルリン異常症の診断のためのデータを収集する方法としては、(i)被験者の骨格筋から採取された生体試料におけるAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)のサブユニットの発現を検出する工程であって、前記サブユニットが、α1サブユニット、α2サブユニット、β1サブユニット、β2サブユニット、γ1サブユニット、γ2サブユニット、及びγ3サブユニットからなる群より選択される1又は2以上のサブユニットである工程;(ii)前記工程(i)により検出されたサブユニットの発現と、ディスフェルリン異常症でないヒトの骨格筋から採取された生体試料におけるサブユニットの発現とを比較・評価する工程;の工程(i)及び(ii)を含むものであれば制限されないが、特に、工程(i)においてAMPKのγ1サブユニットの発現を検出する方法であることが好ましい。ここで「ディスフェルリン異常症」とは、ディスフェルリンをコードするDYSF遺伝子変異の変異によって引き起こされる神経筋疾患を意味し、例えば、三好型遠位型ミオパチー、肢帯型筋ジストロフィー2B型等を好適に挙げることができる。なお、本発明におけるデータを収集する方法は、医師による診断を補助する方法であって、医師による診断行為を含まない。
上記データを収集する方法において使用される「生体試料」としては、被験者又はディスフェルリン異常症でないヒトの骨格筋から採取された試料であれば、外科的処置により採取されたものであっても、生検により部分的に採取されたものであってもよい。上記「被験者」とは、ディスフェルリン異常症を発症している又は発症しているかどうか不明なヒトや、ディスフェルリン異常症かどうか識別が困難な筋原性疾患を発症しているヒトを意味し、また、「ディスフェルリン異常症でないヒト」とは、健常者や医師等当業者が通常用いる基準に照らして明らかにディスフェルリン異常症を発症していないと判断されるヒトを意味する。上記「骨格筋」としては、特に制限されないが、例えば、外側広筋、内側広筋、大腿直筋、中間広筋、上腕二頭筋、前脛骨筋、後脛骨筋、腓腹筋、ヒラメ筋、三角筋、広背筋、胸鎖乳突筋、肋間筋等を好適に挙げることができる。本発明において、生体試料は、凍結処理が施された凍結組織、病理組織学的処理が施された病理組織のいずれであってもよい他、採取された骨格筋組織から単離された細胞若しくはその培養細胞、又はそれらの細胞抽出液であってもよい。上記「被験者の骨格筋から採取された生体試料」と上記「ディスフェルリン異常症でないヒトの骨格筋から採取された生体試料」とは、同一の処置が施されたものであることが好ましい。
本発明のデータを収集する方法において「発現を検出する」とは、AMPK複合体を形成する、α1サブユニット、α2サブユニット、β1サブユニット、β2サブユニット、γ1サブユニット、γ2サブユニット、及びγ3サブユニットからなる群より選択される1又は2以上のサブユニット(以下、これらを総称して「AMPKサブユニット」という場合がある)のタンパク質若しくはmRNAの、存在の有無を確認すること、定量すること、及び/又は可視化することをいう。上記工程(i)において検出対象とされるAMPKサブユニットとしては、特に制限されないが、少なくともγ1サブユニットを含むものであることが好ましく、γ1サブユニットとα1サブユニット、α2サブユニット、β1サブユニット、β2サブユニット、γ2サブユニット、及びγ3サブユニットからなる群より選択される1又は2以上のサブユニットとの組合せであることがさらに好ましい。
AMPKサブユニットのタンパク質の発現を検出する方法としては、AMPKサブユニットタンパク質の一部又は全部を特異的に検出できる方法であればどのような方法であってもよく、例えば、免疫染色法、ウェスタンブロット法、ELISA法、フローサイトメトリー法、免疫沈降法、HPLC/MS(質量分析)法、CE/MS法、MS/MS法、LC/MS/MS法、ライブイメージング法などを挙げることができるが、なかでも、免疫染色法及びウェスタンブロット法を好適に挙げることができる。免疫染色法は、抗体を用いて目的分子を染色する方法であればよく、例えば、実体顕微鏡や位相差顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡、蛍光顕微鏡、電子顕微鏡などを用いて観察し検出することができる。免疫組織染色においては、AMPKサブユニットに対する標識された一次抗体を用いて、又はAMPKサブユニットに対する一次抗体及び標識された二次抗体を用いて、生体試料から作製された病理組織を染色することにより検出することもできる。一次抗体や二次抗体の標識としては、検出可能な標識物質であればよく、FITC、Cy3、Cy5、Rhodamine、Alexa fluor(登録商標、インビトロジェン社製)などの蛍光物質や、ペルオキシダーゼやアルカリホスファターゼなどの酵素、ビオチンなどのタンパク質、DIG(ジゴキシゲニン)などのハプテン、金コロイド、放射性同位体元素などを挙げることができる。ペルオキシダーゼ標識は、DAB(ジアミノベンジジ)法、ニッケルDAB法で検出することもでき、アルカリホスファターゼ標識はNBT/BCIP反応で検出することもできる。また、他にTSA法(tyramide signal amplification)やビオチン・アビジン反応を利用した増感法なども適宜組み合わせて使用することができる。上記ウェスタンブロット法としては、生体試料からタンパク質を抽出して、SDSを含むポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)で分画し、PVDF又はニトロセルロースメンブレンに転写し、抗体により検出する方法を挙げることができ、メンブレンに付着したタンパク質をAMPKサブユニットに対する標識された一次抗体を用いて、又はAMPKサブユニットに対する一次抗体及び標識された二次抗体を用いて検出することができる。免疫染色法、ウェスタンブロット法等に用いる抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体のいずれであってもよく、市販のものを使用できる他、常法により作製することもできる。
また、AMPKサブユニットのmRNAを検出する方法としては、AMPKサブユニットをコードするmRNA又はその逆転写物(cDNA)の一部若しくは全部を特異的に検出できる方法であればどのような方法であってもよく、例えば、生体試料中の細胞から全RNAを抽出・精製し、AMPKサブユニットをコードするmRNAに相補的な塩基配列からなるプローブを用いたノーザンブロッティング法で検出する方法や、生体試料中の細胞における全RNAを抽出・精製し、逆転写酵素を用いてcDNAを合成した後、AMPKサブユニットをコードするmRNA由来のcDNAを特異的に増幅するプライマー対を用いた、競合的PCR法、リアルタイムPCR法等の定量PCR法で検出する方法や、細胞における全RNAを精製し、逆転写酵素を用いてcDNAを合成した後、ビオチンやジゴキシゲニンなどでcDNAをラベルし、蛍光物質が標識されたビオチンに対する親和性の高いアビジンやジゴキシゲニンを認識する抗体などで間接的にAMPKサブユニットをコードするcDNAを標識した後、ガラス、シリコン、プラスチックなどのハイブリダイゼーションに使用可能な支持体上に固定化された、AMPKサブユニットをコードするcDNAに相補的な塩基配列からなるプローブを用いたマイクロアレイで検出する方法等を挙げることができる。これらの方法に用いられるプローブやプライマーは、AMPKサブユニットをコードする遺伝子の配列情報に基づいて適宜設計し、適当なオリゴヌクレオチド合成装置を用いて適宜作製することができる。
本発明のデータを収集する方法において「比較・評価する」とは、被験者の骨格筋から採取された生体試料におけるAMPKサブユニットのタンパク質又はかかるサブユニットをコードするmRNAの発現と、ディスフェルリン異常症でないヒトの骨格筋から採取された生体試料における対応するタンパク質又はmRNAの発現とを比較して、発現量の変化又は局在の変化が認められるかを判定することをいう。上記データを収集する方法において、例えば、被験者の骨格筋から採取された生体試料におけるAMPKγ1サブユニットのタンパク質又はかかるサブユニットをコードするmRNAの発現量が、ディスフェルリン異常症でないヒトの骨格筋から採取された生体試料における該タンパク質の発現量よりも低下しているというデータが得られた場合には、上記被験者はディスフェルリン異常症を発症している可能性が高い、又は発症リスクがあると判定することができる。
本発明はさらに、ディスフェルリン異常症を診断するためのキットにも関する。本発明のキットは、AMPKのα1サブユニット、α2サブユニット、β1サブユニット、β2サブユニット、γ1サブユニット、γ2サブユニット、及びγ3サブユニットからなる群より選択される1又は2以上のサブユニットのタンパク質若しくはかかるサブユニットをコードするmRNAを検出することができる物質を含むものであれば特に制限されない。AMPKサブユニットタンパク質を検出することができる物質としては、AMPKサブユニットタンパク質の一部又は全部を特異的に検出できる物質であれば特に制限されないが、例えば、AMPKサブユニットタンパク質に結合する抗体を好適に挙げることができ、γ1サブユニットと結合する抗体をさらに好適に挙げることができる。また、AMPKサブユニットmRNAを検出することができる物質としては、AMPKサブユニットをコードするmRNA又はその逆転写物(cDNA)の一部若しくは全部を特異的に検出できる物質であれば特に制限されないが、例えば、前記mRNAに相補的な塩基配列からなるヌクレオチド又はその一部配列を含むヌクレオチドからなるプローブや該ヌクレオチドを固相化したマイクロアレイ、前記cDNAの塩基配列からなるヌクレオチド又はその一部配列を含むヌクレオチドをターゲットとしたリアルタイムPCR法に用いられるプライマーセットを挙げることができる。本発明のキットは、さらに、希釈剤、洗浄用緩衝液、標準物質、基質試薬等の他、ディスフェルリン異常症の診断のためのデータを収集し得る旨が記載された取扱説明書を含んでいてもよく、簡便に検査できるよう構成されたものが好ましい。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。なお、実施例に記載の全ての実験は、東北大学遺伝子組換え実験安全専門委員会及び動物実験専門委員会の承認を得た後、国立大学法人東北大学における動物実験等に関する規定に沿って行った。
1.材料と方法
1−1 細胞株及び培養液
1)HEK293T細胞株(SV40 large T antigenを発現するヒト腎臓上皮由来細胞株)、及びC2C12細胞株(マウス筋芽細胞株)を、ATCC(American Type Culture Collection)より入手した。HEK293T細胞株及びC2C12細胞株は、10%FBS、ペニシリン/ストレプトマイシン/L−グルタミン、及び必須アミノ酸液を含むRPMI1640培養液(Wako社製、189−02025)を用い、5%CO/20%O、37℃条件下で培養した(以下、かかる培養液を単に「DMEM培養液」という)。
2)RH−30細胞株(不活性型p53を発現するヒト横紋筋肉腫細胞株)は、10%FBS、ペニシリン/ストレプトマイシン/L−グルタミン、及び必須アミノ酸液を含むRPMI1640培養液(GIBCO社製)を用い、5%CO/20%O、37℃条件下で培養した(以下、かかる培養液を単に「RPMI1640培養液」という)。
3)line107細胞(ディスフェルリン異常症患者由来の筋芽細胞株)、及びKM155細胞(健常者由来の筋芽細胞株)は、Jain Foundationより供与された(文献「Philippi, S., et al. Dysferlin deficient immortalized human myoblasts and myotubes as a useful tool to study dysferlinopathy. PLoS Curr 4, RRN1298 (2012).」参照)。line107細胞及びKM155細胞は、20%ウシ胎児血清、2.5ng/mL HGF(Hepatocyte Growth Factor、Invitrogen社製)0.1μMデキサメタゾン(Sigma-Aldrich社製)、及び50μg/mlゲンタマイシンを含む1 vol 199培地(Invitrogen社製)/4 vol DMEMを用いて、5%CO/20%O、37℃条件下で培養した。なお、以下の表1に示す通り、line107細胞では、1つのアレルはスプライシング異常により、もう1つのアレルはミスセンスによりDYSF遺伝子の機能異常が引き起こされる。これらの変異により、line107細胞では、ディスフェルリンの299番目のグリシン(G)がアルギニン(R)に置換された変異ディスフェルリンタンパク質(G299R)が発現する。
Figure 0006931218
1−2 ディスフェルリン第II、第II−1、及び第II−2領域の発現ベクターの構築
ヒトディスフェルリンタンパク質アイソフォーム1(配列番号19)の第481〜第1140番目のアミノ酸残基からなるポリペプチド(以下、「ディスフェルリン第II領域」ということがある)、前記第II領域中のN末端側の領域である第481〜第780番目のアミノ酸残基からなるポリペプチド(以下、便宜上「ディスフェルリン第II−1領域」ということがある)、又は前記第II領域中のC末端側の領域である第661〜第1140番目のアミノ酸残基からなるポリペプチド(以下、便宜上「ディスフェルリン第II−2領域」ということがある)をそれぞれコードする遺伝子領域を、ヒト臓器30種のcDNAクローン(Human Universal QUICK-Clone cDNA II、Clonetech社製)を鋳型としたPCRにより増幅した(図2参照)。得られた増幅産物を、制限酵素ZhoI又はSalIと、NotIとで処理し、MBPベクター(Clontech社製)のマルチクローニングサイト(MCS)に挿入することにより、MBPタグを付加したディスフェルリン第II領域、第II−1領域、及び第II−2領域ポリペプチドを発現する3種の発現ベクターを構築した。上記PCRに用いたプライマーセットは表2に示す。
Figure 0006931218
1−3 ディスフェルリン第II、第II−1、及び第II−2領域結合ビーズの作製
定法に従って、上記「1−2」で構築した3種の発現ベクターを大腸菌(E. coli)に導入し、MBPタグを付加したディスフェルリン第II、第II−1、及び第II−2領域ポリペプチドを発現させた。得られた大腸菌の細胞抽出液に、抗MBP抗体結合ビーズ(Anti-MBP Magnetic Beads、NEW ENGLAND Biolabs社製)を加え、ローテーターを使用して4℃で2時間インキュベートした。インキュベート後のビーズを、NE緩衝液(50mM HEPES[pH7.5]、0.35M 塩化ナトリウム、0.1% NP−40、Protease inhibitor cocktail)で2回洗浄し(4℃、2,000rpm、2分間遠心)、次に、1.2M 塩化ナトリウム洗浄緩衝液(50mM HEPES[pH7.5]、1.2M 塩化ナトリウム)で2回洗浄した(4℃、2,000rpm、2分間遠心)。さらに、PBSで1回洗浄して(4℃、2,000rpm、2分間遠心)、3種のビーズ(ディスフェルリン第II結合ビーズ、ディスフェルリン第II−1結合ビーズ、及びディスフェルリン第II−2領域結合ビーズ)を作製した。
1−4 HEK293T細胞抽出液の調製
HEK293T細胞を15cmディッシュで70〜80%コンフルエントになるまで培養し、NE緩衝液で一度洗浄した後に回収した。回収した細胞を遠心して上清を除去し、得られたペレットにNE緩衝液を3〜4mL加えた後に、超音波破砕した。破砕したHEK293T細胞を、12,000rpmで30分間遠心し、上清を回収した。回収した上清に、RNaseI(10mg/mL)、DNaseI(10mg/mL)、及びBenzonase(50U/mL)を加え、タンパク質低吸着性フィルター(Φ0.45μm)で濾過し、HEK293T細胞抽出液を調製した。
1−5 ディスフェルリン第II、第II−1、及び第II−2領域結合ビーズと、HEK293T細胞抽出液とのインキュベーション
上記「1−4」で調製した細胞抽出液に、上記「1−3」で作製した3種のビーズをそれぞれ加え、ローテーターを使用して4℃で3〜4時間インキュベートした。インキュベート後のビーズを1,200rpmで2分間遠心した後に、0.15M 塩化ナトリウム洗浄緩衝液(50mM HEPES[pH7.5]、0.15M 塩化ナトリウム、0.1% NP−40)で3回洗浄した(4℃、1,800rpm、2分間)。上清を除去した後に、さらに、PBSを加えて2回洗浄した(4℃、1,800rpm、2分間)。
1−6 ディスフェルリン第II、第II−1、及び第II−2領域と結合するタンパク質の溶出
洗浄後の各ビーズに溶出緩衝液(50mM HEPES[pH.7.5]、1.2M NaCl)を加え、チューブを3〜4回転倒攪拌した後に、遠心して(4℃、15,000rpm、2分間)、それぞれの上清を回収した。次に、得られた上清を、遠心式限外ろ過フィルター(アミコンウルトラ4、MERCK MILLIPORE社製)を用いて脱塩・濃縮し、ディスフェルリン第II、第II−1、又は第II−2領域に結合するタンパク質を含む溶液を調製した。
1−7 SDS−PAGE
上記「1−6」で調製した溶液に、SDS−PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)用サンプルバッファー(2X)を等量混合して95℃で3分間加熱し、SDS−PAGE用サンプルを作製した。SDS−PAGE用サンプルをポリアミドゲル(5−20%SuperSep Ace、Wako社製)にアプライし、200V定電圧、60分間条件下でSDS−PAGEを行った。
1−8 質量分析
上記「1−7」のSDS−PAGE後のポリアミドゲルを、Silver Stain MS Kit(Wako社製)を用いた銀染色した。銀染色により検出されたバンドを含むゲルを切り出し、定法に従って、脱色、システイン残基の還元処理、及びアルキル化処理を行った後、トリプシンによりゲル内消化を行った。消化されたペプチド断片を抽出して脱塩処理し、質量分析用試料を調製した。続いて、定法に従って、nanoLC−MS/MS装置(DiNa HPLC system、KYA TECH Corporation社製、QSTAR XL、Applied Biosystems社製)による上記質量分析用試料の解析を行った。得られた質量分析データからMascot search(MS/MS Ion Search)によりタンパク質を同定した。
1−9 ウェスタンブロット
また、上記「1−7」のSDS−PAGEの後のポリアミドゲルを、PVDFメンブレン(Polyvinylidene difluoride、Millipore社製)にセミドライ法により転写させ、5%BSA/PBS溶液(50mM Tris[pH7.6]、0.15M 塩化ナトリウム、0.05% Tween20)、又は5% スキムミルク/TBST溶液を用いてブロッキングした。次に、4種類の一次抗体(抗AMPKγ1ウサギポリクローナル抗体[ab32508、1:200倍希釈、abcam社製]、抗AMPKαウサギポリクローナル抗体[#2532、1:1,000倍希釈、CST社製]、抗リン酸化AMPKα[Thr172]ウサギポリクローナル抗体[#2531、1:1,000倍希釈、CST社製]、及び抗ディスフェルリンマウスモノクローナル抗体[NCL-Hamlet、1:500倍希釈、Novocastra社製])存在下、4℃で一晩インキュベートした。メンブレンをTBST溶液で3回洗浄した後、HRP標識抗ウサギIgG抗体(♯7074、1:2,000倍希釈、CST社製)、又はHRP標識抗マウスIgG抗体(♯7076、1:2,000倍希釈、CST社製)存在下、室温で1時間インキュベートした。メンブレンをTBST溶液で3回洗浄した後、ECL(enhanced chemiluminescence)prime試薬(GE Healthcare社製)による化学発光を行った。当該発光の検出は、LAS−3000イメージリーダー(富士フィルム社製)を用いて行った。
1−10 免疫組織染色法
摘出した腓腹筋を、コルクの上にトラガントガム固定し、液体窒素で冷却したメチルブタン内で瞬間凍結させた。10μmの厚さの凍結切片を作製し、染色まで−80℃で冷凍保存した。凍結切片サンプルを、4%パラホルムアルデヒド溶液中で20分固定し、PBSで3回洗浄した後、ブロッキング溶液(5%ウシ血清アルブミン含有PBS)を用いて室内で1時間ブロッキングを行った。次いで、2種類の一次抗体(抗ディスフェルリンマウスモノクローナル抗体[NCL-Hamlet、1:500倍希釈、Novocastra社製]、及び抗AMPKγ1ウサギモノクローナル抗体[ab32382、1:500倍希釈、abcam社製])存在下、4℃で一晩インキュベートした。凍結切片サンプルを、PBSで3回洗浄した後、Alexa Fluor 488標識抗マウスIgG抗体(Life Technologies社製)及びAlexa Fluor 555標識抗ウサギIgG抗体(Life Technologies社製)存在下、室温で1時間インキュベートした。凍結切片サンプルをPBSで3回洗浄し、Vectashieldマウンティングメディウム(Vector Labs社製)を用いて封入した。蛍光画像は、蛍光顕微鏡(BZ-X700、キーエンス社製)を用いて40倍の倍率で取得した。
1−11 カルシウムイオノフォア
カルシウムイオノフォア(イオノマイシン、Wako社製)をDMSO中に溶解し、1mmoL/Lのイオノマイシンストック溶液を調整した。かかるストック溶液を、DMEM培養液を用いて10μmoL/Lの濃度に調整し、イオノマイシンの濃度が最終的に1μmとなるように、培養プレートに加えた。37℃で3分間培養した後、培養細胞からのタンパク質の抽出を行った。
1−12 RNA干渉
以下の表3に示すSilencer Select siRNAs(Life Technologies社製)を、リポフェクション試薬(lipofectamine RNAiMAX、Life Technologies社製)を用いて、C2C12細胞にトランスフェクションした。トランスフェクションは、リポフェクション試薬に添付の使用説明書に従って行った。
Figure 0006931218
1−13 GFP融合AMPKサブユニット発現ベクターの作製
AMPKを構成する3種のサブユニットをコードする遺伝子(AMPKγ1、AMPKα1、及びAMPKα2遺伝子;加齢学研究所の菅野新一郎先生より供与された)を、pEGFP−C1(Clonetech社製)のMCSに挿入することにより、GFP融合AMPKサブユニット発現ベクター(GFP融合AMPKγ1発現ベクター、GFP融合AMPKα1発現ベクター、及びGFP融合AMPKα2発現ベクター)を作製した。
1−14 分離筋束内の膜修復関連タンパク質のライブイメージング
上記「1−13」で作製した3種のGFP融合AMPKサブユニット発現ベクターを、エレクトロポレーション(ニードル幅 3mm、86V、50msパルス幅、パルス3回×2、0.01−0.04A、Pulse Generator、CUY21EDIT、Bex社製)により、4週齢のC57BL6/Jマウス(日本クレア社製)の短趾屈筋に導入した。導入から7日後のマウスを頸椎脱臼により安楽死させ、短趾屈筋を採取し、細胞膜損傷修復アッセイを行った。アッセイは、以前の報告に従って行った(文献「Bansal, D., et al. Defective membrane repair in dysferlin-deficient muscular dystrophy. Nature 423, 168-172 (2003).」参照)。2種類の損傷マーカー試薬(FM1−43試薬及びFM4−64試薬[Life Technologies社製])をD−PBSで希釈した。FM1−43試薬又はFM4−64試薬存在下で、短趾屈筋を二光子レーザー(Sa-Ti/820nm、Chameleon、30W、Coherent社製)により損傷させ、488、594又は820nmの波長の光による励起を行った。高感度拡張検出器ユニット(LSM BiG、Zeiss社製)を取り付けた正立型多光子レーザー顕微鏡(NL0710、Zeiss社製)を用いて、筋束内の筋細胞のライブイメージングを行った。
1−15 AMPK活性化剤
ディスフェルリン異常症由来の不死化骨格筋細胞株を、AMPK活性化剤であるAICAR(Sigma-Aldrich社製)存在下で培養し、膜修復に対する影響を確認した。AICARの使用濃度は、文献「Lanner, J.T., et al. AICAR prevents heat-induced sudden death in RyR1 mutant mice independent of AMPK activation. Nat Med 18, 244-251 (2012).」、「Ljubicic, V., Khogali, S., Renaud, J.M. & Jasmin, B.J. Chronic AMPK stimulation attenuates adaptive signaling in dystrophic skeletal muscle. Am J Physiol Cell Physiol 302, C110-121 (2012).」、及び「Pernicova, I. & Korbonits, M. Metformin--mode of action and clinical implications for diabetes and cancer. Nat Rev Endocrinol 10, 143-156 (2014).」を参考にして、1mMとした。また、AICARのAMPK活性効果を最大限に引き出すため、ディスフェルリン異常症由来の不死化骨格筋細胞株を、血清非存在下のDMEM培養液中で一晩培養した後、AICARを添加し、その後1〜9時間の間に、二光子レーザー(Sa-Ti/820nm、Chameleon、30W、Coherent社製)によるレーザー膜損傷を行った。
1−16 免疫組織染色
AMPKの細胞内局在を確認するために、ディスフェルリンを欠損するSJL/Jマウス(DYSF遺伝子の4つ目のC2ドメイン部位コード領域に171塩基長のインフレーム欠失を有するマウス、日本クレア社製)の免疫組織染色を、上記「1−10」の方法に従って行った。また、コントロールとしてSWR/Jマウス(日本クレア社製)を用いた。なお、以前の報告(文献「Suzuki, N., et al. Expression profiling with progression of dystrophic change in dysferlin deficient mice (SJL). Neurosci Res 52, 47-60 (2005).」参照)に基づいて、実験には組織学的変化の乏しい3ヶ月齢のSJL/Jマウスを用いた。
1−17 統計解析
データは平均値±標準誤差で示した。一元又は二元配置分散分析(ANOVA)後、多群の比較にはノンパラメトリック検定(Wilcoxon検定)を行った。P<0.05を有意とした。すべての解析は統計解析ソフト(JMP、SAS Institute社製)を用いた。
2.結果
2−1 ディスフェルリン結合タンパク質の同定
ディスフェルリンの第II領域は、2つのFerドメイン(FerA及びFerB)と、2つのDysFドメイン(DysFC及びDysFN)を有するが、これまでこの領域の機能については全く注目されていなかった。本発明者らは、骨格筋細胞の膜修復機構において、ディスフェルリンが、その第II領域と他の機能性タンパク質との結合を介して、巨大な足場タンパク質として働いているという独自の仮説を立てた。そして、本研究では、ディスフェルリン第II領域を結合させたアフィニティビーズを作製し、このビーズを用いてディスフェルリン結合タンパク質の同定を試みた。
かかるアフィニティビーズを作製するために、MBPタグを付加したディスフェルリン第II領域、第II−1領域、及び第II−2領域ポリペプチドを大腸菌に発現させ、想定される分子量の位置にバンドが検出されることを確認した(図3aの矢印参照)。これらのポリペプチドを用いて作製した3種のアフィニティビーズ(ディスフェルリン第II結合ビーズ、第II−1結合ビーズ、及び第II−2領域結合ビーズ)に、HEK293T細胞(ヒト腎細胞)抽出液を加えて、ディスフェルリン第II、第II−1、及び第II−2領域と相互作用する分子を抽出し、質量分析を行った。ここで本発明者らは、以下のように考えた結果、ディスフェルリンを発現する筋細胞ではなく、ディスフェルリンを発現しない腎細胞を用いてスクリーニングを行うこととした。
1)筋細胞以外の細胞種を使用することによって、これまでに知られていなかったより多くのディスフェルリン結合タンパク質候補をスクリーニングできる可能性があること:
2)筋細胞においては、微量のディスフェルリン結合タンパク質は既にディスフェルリンとの複合体を形成しているために、上記ビーズとは結合できない可能性があること:
3)ディスフェルリンを発現しない腎細胞では、そのような微量のディスフェルリン結合タンパク質がフリーの状態で存在しており、より効率的に上記ビーズと結合することができる可能性があること:
以上の実験の結果、新規ディスフェルリン結合タンパク質として、AMPKγ1及びPPP1CAを同定した(図3b参照)。
2−2 筋委縮とAMPK複合体に関する従来の知見
AMPKは、エネルギー代謝を担うタンパク質キナーゼである(文献「Hardie, D.G. AMPK--sensing energy while talking to other signaling pathways. Cell Metab 20, 939-952 (2014).」参照)。AMPKは、触媒作用を有するαサブユニットと、調節作用を有するβ及びγサブユニットから構成されるヘテロ三量体である。また、それぞれのサブユニットには異なる遺伝子によってコードされる7種のアイソフォーム(α1、α2、β1、β2、γ1、γ2、及びγ3)が存在する。AMPKαは、PP1(PPP1CA、PPP1CB)、PPP2CAによる脱リン酸化によって、酵素活性が調節されることが知られている。また、本研究においても、AMPKγ1とPPP1CAとがともにディスフェルリンと結合することが明らかとなった。さらに、筋萎縮の病態において、AMPKシグナリングの関与を示唆する複数の報告がある(文献「Ljubicic, V., Burt, M. & Jasmin, B.J. The therapeutic potential of skeletal muscle plasticity in Duchenne muscular dystrophy: phenotypic modifiers as pharmacologic targets. FASEB J 28, 548-568 (2014).」、及び「Ljubicic, V. & Jasmin, B.J. AMP-activated protein kinase at the nexus of therapeutic skeletal muscle plasticity in Duchenne muscular dystrophy. Trends Mol Med 19, 614-624 (2013).」参照)。以上のことから、ディスフェルリン異常症の病態にAMPK複合体とその活性化が関わっている可能性が考えられた。そこで、本発明者らは、ディスフェルリンとAMPK複合体の関係、及び膜修復機構におけるAMPK複合体の役割について、さらに解析を進めた。
2−3 AMPK複合体の局在
最初に、ディスフェルリン遺伝子異常がAMPKファミリーの局在に及ぼす影響を、SJL/Jマウスを用いて検討した。SJL/Jマウスは、ディスフェルリン遺伝子の4つ目のC2ドメイン部位に171bpのインフレーム欠失を有しており、ディスフェルリンタンパク質の発現量が低下することが確認されている(文献「Suzuki, N., et al. Expression profiling with progression of dystrophic change in dysferlin deficient mice (SJL). Neurosci Res 52, 47-60 (2005).」参照)。本研究では、組織学的な変化が乏しい3ヶ月齢のSJL/JマウスにおけるAMPK複合体の局在を調べた。また、コントロールとしてディスフェルリン変異が無く、遺伝的バックグラウンドが近いSWR/Jマウスを用いた。図4に免疫染色の結果を示す。SJL/Jマウスにおけるディスフェルリンの染色像は、SWR/Jマウスと比較して減弱していた。また、SWR/Jマウスでは、AMPKγ1は主に細胞質に局在するが、一部細胞膜にも存在していた(図4a)。一方、SJL/Jマウスでは、SWR/Jマウスと比較して、AMPKγ1を発現する筋線維が減少していた。また、SJL/JマウスにおけるAMPKαの局在は主に細胞質で認められたが、一部細胞膜にも局在が認められた。AMPKαはAMPKγ1と同様の分布を示した(図4b)。
2−4 膜修復機能へのAMPKγ1の関与
次に、骨格筋におけるAMPKγ1の膜修復機能を調べるために、エレクトロポレーションによりC57/BL6Jマウスの短趾屈筋にAMPKγ1−GFPを導入し、FM4−64試薬の存在下で筋束内の筋細胞のライブイメージングを行った。この結果、定常時には、AMPKγ1は、骨格筋の細胞質に存在していることが明らかとなった(図5)。これは、図4の結果を裏付けるものである。一方、レーザー膜損傷を行った場合には、損傷部位(赤線)にFM4−64が集積したことから、膜損傷が起こっていることが確認された。また、レーザー膜損傷を行った場合、損傷部位を取り囲むようにAMPKγ1−GFPが集積することが観察された(図5下段)。AMPKγ1−GFPの集積は、損傷後10秒以内に起こり、その後3分以上維持されることが分かった(図5)。
さらに、RNA干渉によりAMPKγ1発現をノックダウンしたC2C12細胞を作製した(図6a及びb)。また、コントロール細胞として、ネガティブコントロールsiRNAを上記ノックダウン細胞と同様の手法によりトランスフェクションした細胞を作製した。FM1−43試薬の存在下で、上記AMPKγ1ノックダウンC2C12細胞のレーザー膜損傷を行ったところ、コントロール細胞と比較して、蛍光色素が細胞内に拡がっていることが観察された(図6c)。また、FM1−43試薬の細胞内流入の程度を、細胞内の蛍光強度を定量することにより数値化した結果、AMPKγ1ノックダウンC2C12細胞において、FM1−43試薬の細胞内流入が有意に増加していることが示された(図6d)。これらの結果から、AMPKγ1の発現が減少すると細胞膜修復機能が低下することが明らかになった。
2−5 膜修復機能へのAMPKα1の関与
上述のように、AMPK複合体においてAMPKγ1は調節因子として働いている。このため、本発明者らは、AMPK複合体において触媒サブユニットとして機能しているAMPKα1又はα2が膜修復機能に関わっている可能性があると考えた。そこで、AMPKγ1と同様の実験により、AMPKα1及びα2の膜修復機能を検討した。C57/B6Jマウス分離筋束内にAMPKα−GFPを発現させて、レーザー膜損傷を行い、ライブイメージングで蛍光を観察した。その結果、AMPKα1及びα2はともに膜損傷部位に集積することが分かった。また、AMPKγ1と同様に、AMPKα1及びα2の集積は損傷後10秒以内に起こり、3分以上続くことが分かった(図7)。次に、C2C12細胞において、AMPKα1及びα2をそれぞれノックダウンし(図8a、b、e、及びf)、FM1−43試薬存在下で、レーザー膜損傷を行った。その結果、AMPKα1ノックダウン細胞では、コントロール細胞と比較して、有意な膜修復機能の低下が確認された(図8c及びd)。一方、AMPKα2ノックダウン細胞では、一部の時間帯で有意差がみられるにとどまった(図8g)。これらの結果から、触媒サブユニットとしては、AMPKα1がより強く膜修復機能に関わっていることが示された。
発明者らは、AMPK複合体による膜修復機構には、膜損傷時に細胞内に流入するカルシウムイオンによるAMPK複合体のリン酸化と、それに伴うAMPK複合体の膜損傷部位への局在変化や膜修復機能の励起が関与するのではないか考えた。そこで、カルシウムイオノフォアを用いてline107細胞及びKM155細胞にカルシウム過剰細胞内流入を引き起こし、AMPKのリン酸化の変化をウェスタンブロティング法で評価した(図9)。その結果、line107細胞及びKM155細胞において、カルシウムイオノフォアによりAMPKがリン酸化されることを確認した。また、2つの細胞間でAMPKのリン酸化の程度に有意差は認められなかった(図9)。
2−6 AMPKの活性化がline107細胞に及ぼす影響
以上の結果から、AMPK複合体が骨格筋細胞膜修復に関与することが明らかになった。そこでディスフェルリン異常症患者由来細胞で見られる膜修復異常が、AMPKの活性調節により改善するか否かを検討した。まず、line107細胞及びKM155細胞におけるディスフェルリンタンパク質発現量を評価した結果、line107細胞では、KM155細胞と比較して、ディスフェルリンタンパク質発現量が著しく少ないことが確認された(図10a及びb)。次に、line107細胞では、KM155と比較して、レーザー膜損傷後の蛍光タンパク質流入量が有意に増加していることが確認された(図10c)。
AMPK複合体は、αサブユニットのセリン172基質のリン酸化によって、生理的活性が得られる(文献「Salminen, A., Kaarniranta, K. & Kauppinen, A. Age-related changes in AMPK activation: Role for AMPK phosphatases and inhibitory phosphorylation by upstream signaling pathways. Ageing Res Rev 28, 15-26 (2016).」)。そこで、AMPKの活性化がline107細胞に及ぼす影響を検討した。実験には、AMPKを活性化させる薬剤として5-Aminoimidazole 4-carboxamide ribonucleotide(AICAR)を、先行研究と同様の濃度(1mM)で使用した(文献「Egawa, T., et al. AICAR-induced activation of AMPK negatively regulates myotube hypertrophy through the HSP72-mediated pathway in C2C12 skeletal muscle cells. American journal of physiology. Endocrinology and metabolism 306, E344-354 (2014).」及び「Zhou, G., et al. Role of AMP-activated protein kinase in mechanism of metformin action. The Journal of clinical investigation 108, 1167-1174 (2001).」参照)。line107細胞を血清飢餓状態で培養した後に、AICARを添加した結果、AMPKのリン酸化の割合が平常時に比べて約3倍に増加した(図10d)。また、line107細胞では、AICARを添加することによりレーザー膜損傷による蛍光タンパク質の拡散が抑制されることが観察された(図10e及びf)。
3.考察
筋細胞膜の修復機構に関与する分子の全容は解明されておらず、同定されていないディスフェルリン結合タンパク質が存在していると考えられる。TRIM72に関する論文(文献「Cai, C., et al. MG53 nucleates assembly of cell membrane repair machinery. Nat Cell Biol 11, 56-64 (2009).」、「Weisleder, N., et al. Recombinant MG53 protein modulates therapeutic cell membrane repair in treatment of muscular dystrophy. Sci Transl Med 4, 139ra185 (2012).」、及び「Alloush, J. & Weisleder, N. TRIM proteins in therapeutic membrane repair of muscular dystrophy. JAMA Neurol 70, 928-931 (2013).」)が示すように、ディスフェルリン結合タンパク質の同定がディスフェルリン異常症の治療に結びつく可能性がある。ある特定のタンパク質と結合する別のタンパク質を同定する方法としては、タグ付きタンパク質を用いた免疫沈降法による解析方法が一般的であり、このような方法を用いて、既にいくつかのディスフェルリン結合タンパク質が同定されている。しかしながら、結合タンパク質の存在量が少ない場合や、ディスフェルリンのように非常に大きな膜タンパク質と結合するタンパク質を探索する場合には、このような方法による同定は困難である。
実際に、これまでに本発明者らも、抗ディスフェルリン抗体による免疫沈降と、培養細胞の抽出物を用いたウェスタンブロットとを組み合わせてディスフェルリン結合タンパク質の同定を試みたが、ディスフェルリン結合タンパク質を同定することはできなかった。これは、培養細胞中に存在するディスフェルリン結合タンパク質の量が少ないことが原因と考えられた。そこで、本研究では、ディスフェルリン分子が持つ特定のドメイン(具体的には、ディスフェルリンタンパク質において、機能が未知のDysFドメイン及びFerドメインを含む、3番目と4番目のC2ドメインに挟まれた、「第II領域」と名付けた部分)に着目して、ディスフェルリン結合タンパク質の同定を試みた。
このようなアプローチの結果、新規ディスフェルリン結合タンパク質として、AMPKγ1及びPPP1CAを同定することに成功した。ここで、AMPKγ1はAMPK複合体を形成するサブユニットの一つであり、また、AMPK複合体は筋萎縮に対する有効な治療ターゲットとして注目されていること、さらに、ジストロフィン(Dystrophin)異常症のモデル動物ではAMPK活性化により運動機能が改善することが報告されていることから(文献「Lanner, J.T., et al. AICAR prevents heat-induced sudden death in RyR1 mutant mice independent of AMPK activation. Nat Med 18, 244-251 (2012).」、「Ljubicic, V. & Jasmin, B.J. AMP-activated protein kinase at the nexus of therapeutic skeletal muscle plasticity in Duchenne muscular dystrophy. Trends Mol Med 19, 614-624 (2013).」、及び「Garbincius, J.F. & Michele, D.E. Dystrophin-glycoprotein complex regulates muscle nitric oxide production through mechanoregulation of AMPK signaling. Proc Natl Acad Sci U S A 112, 13663-13668 (2015).」)、本研究ではディスフェルリン異常症におけるAMPK複合体の役割について解析を進めた。また、AMPKγ1ノックアウトマウスでは、赤血球膜の脆弱性から貧血となり巨大脾腫をきたすという報告があるが(文献「Foretz, M., et al. The AMPKgamma1 subunit plays an essential role in erythrocyte membrane elasticity, and its genetic inactivation induces splenomegaly and anemia. FASEB J 25, 337-347 (2011).」)、AMPKγ1ノックアウトによる骨格筋への影響は詳細に調べられていないことからも、AMPK複合体と骨格筋の膜修復機能と関連について検証することは意義があると考えられた。
特に、AMPK複合体の発現量、局在、及び活性化が、ディスフェルリンによって影響を受けるかどうかは興味深い点であった。本研究の結果から、AMPKγ1が細胞質に局在することが明らかとなった。また、本研究で使用したSJL/Jマウスは、ディスフェルリンの4番目のC2ドメインに変異を有していることから、第II領域に結合するAMPKγ1の発現や局在はSJL/Jマウスでは変化しない可能性が考えられた。しかし、免疫染色の結果、SJL/Jマウスの骨格筋組織では、コントロールマウス(SWR/Jマウス)と比較して、AMPKγ1のタンパク質発現が減少していることが示された(図4)。
本研究により、AMPK複合体がディスフェルリンとともに骨格筋の膜修復機構において重要な働きを担っていることが明らかになった。そして、AMPK活性化剤の投与実験の結果から、AMPKを活性化することでディスフェルリン変異を有する細胞における膜修復機能が改善することが示された。本研究では、AMPK活性化剤としてAICAR(アカデシンとも呼ばれる)を使用したが、A−769662(6,7-Dihydro-4-hydroxy-3-(2'-hydroxy[1,1'-biphenyl]-4-yl)-6-oxo-thieno[2,3-b]pyridine-5-carbonitrile)、メトホルミン等の他の公知のAMPK活性化剤も同様に、ディスフェルリン変異症における膜修復機能の改善に有効であると推測される。なかでも、メトホルミンは2型糖尿病治療の第一選択として長年使用されていること、さらに、経口投与によりヒト骨格筋のAMPKを活性化することが報告されていることから(文献「Musi, N., et al. Metformin increases AMP-activated protein kinase activity in skeletal muscle of subjects with type 2 diabetes. Diabetes 51, 2074-2081 (2002).」参照)、ディスフェルリン異常症の治療・改善のための利用が強く期待できる。
ディスフェルリン異常症は治療法が全くない疾患である。本発明においては、これまで注目されてこなかったディスフェルリンの第II領域(C2CドメインとC2Dドメインとに挟まれた領域)のポリペプチド断片を用いることにより、AMPKγ1及びPPP1CAがディスフェルリン結合タンパク質であることが明らかにされた。さらに、ディスフェルリン異常症患者においては筋細胞におけるAMPKγ1発現が低下する可能性があること、また、ディスフェルリン異常症患者における筋細胞の膜修復機能の低下が、AMPK活性化剤によって改善する可能性があることが明らかにされた。本発明は、ディスフェルリン異常症の治療及び/又は診断のために有用であると考えられる。

Claims (11)

  1. AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)活性化剤を有効成分として含有する、ディスフェルリン異常症における骨格筋細胞の細胞膜の損傷修復促進剤であって、前記AMPK活性化剤が、アカデシン、メトホルミン、A−769662(6,7-Dihydro-4-hydroxy-3-(2'-hydroxy[1,1'-biphenyl]-4-yl)-6-oxo-thieno[2,3-b]pyridine-5-carbonitrile)、フェンホルミン、ブホルミン、チエノピリドン、レスベラトロール、ヌートカトン、アディポネクチン、及びそれらの塩からなる群より選択される1又は2以上の物質である、前記損傷修復促進剤
  2. AMPK活性化剤がアカデシンである、請求項1に記載の損傷修復促進剤。
  3. 以下の工程(i)及び(ii)を含む、ディスフェルリン異常症の診断のためのデータを収集する方法。
    (i)被験者の骨格筋から採取された生体試料におけるAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)のサブユニットの発現を検出する工程であって、前記サブユニットが、AMPKのα1サブユニット、α2サブユニット、β1サブユニット、β2サブユニット、γ1サブユニット、γ2サブユニット、及びγ3サブユニットからなる群より選択される1又は2以上のサブユニットである、工程;
    (ii)前記工程(i)により検出されたサブユニットの発現と、ディスフェルリン異常症でないヒトの骨格筋から採取された生体試料におけるサブユニットの発現とを比較・評価する工程;
  4. サブユニットが、AMPKのγ1サブユニットである、請求項記載の方法。
  5. ディスフェルリン異常症が、三好型遠位型ミオパチー又は肢帯型筋ジストロフィー2B型である、請求項又はに記載の方法。
  6. AMPKのα1サブユニット、α2サブユニット、β1サブユニット、β2サブユニット、γ1サブユニット、γ2サブユニット、及びγ3サブユニットからなる群より選択される1又は2以上のサブユニットに特異的に結合する抗体、又はその標識物を含む、ディスフェルリン異常症を診断するためのキット。
  7. サブユニットが、AMPKのγ1サブユニットである、請求項に記載のキット。
  8. ディスフェルリン異常症が、三好型遠位型ミオパチー又は肢帯型筋ジストロフィー2B型である、請求項又はに記載のキット。
  9. AMPKのα1サブユニット、α2サブユニット、β1サブユニット、β2サブユニット、γ1サブユニット、γ2サブユニット、及びγ3サブユニットからなる群より選択される1又は2以上のサブユニットをコードするmRNAを特異的に検出するプライマー又はプローブ、若しくはそれらの標識物を含む、ディスフェルリン異常症を診断するためのキット。
  10. サブユニットが、AMPKのγ1サブユニットである、請求項に記載のキット。
  11. ディスフェルリン異常症が、三好型遠位型ミオパチー又は肢帯型筋ジストロフィー2B型である、請求項又は10に記載のキット。
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