微細孔が形成された部品は、例えば、COガスセンサー、車載用の燃料噴射ノズル、マイクロホンフィルターなど幅広い分野で使用されている。この種の部品に形成されている微細孔は、高い精度が要求されることが一般的である。例えば、COガスセンサーには、微細孔が形成されている拡散制御板と呼ばれている部品が存在しており、当該拡散制御板に形成されている微細孔の場合においては、孔径の許容範囲は「100μm±5μm」というような高い精度が要求されている。また、他の分野においては、より許容範囲の狭い高精度な微細孔が要求される場合もある。このため、この種の微細孔は、当該微細孔を形成した後に、当該微細孔の適否を高精度に検査することが必要となる。
従来、微細孔の適否を検査するには、孔径を測定して、その測定結果に基づいて、当該微細孔の適否を判定することが一般的に行われている。微細孔の孔径を測定する装置は従来から種々存在する(例えば、特許文献1参照。)。
特許文献1に記載されている孔径測定装置は、微細孔を有するダイスの孔径を測定する装置であるが、微細孔の孔径を測定するという観点では、上記したCOガスセンサー、車載用の燃料噴射ノズル、マイクロホンフィルターに形成されている微細孔の径を測定するということと共通する。特許文献1に記載されている孔径測定装置は、ダイスの孔を顕微鏡の拡大画像として取得し、取得した拡大画像を画像処理することによって孔径を測定するものである。
特許文献1に記載されている孔径測定装置は、顕微鏡の拡大画像を取得して、取得した拡大画像を画像処理して孔径を測定するといった工程を行う必要があるため、測定に時間がかかるといった課題がある。特に、COガスセンサーに用いられる拡散制御板のように、全数検査する必要がある部品においては、個々の部品を短時間で測定可能であることが要求され、可能であれば、当該部品の製造工程の流れの中で孔径の測定を行って適否の判定を行うことが要求される。
一方、特許文献1に記載されている孔径測定装置によって、仮に、高精度な孔径が測定できたとしても、さらなる課題がある。ここでは、COガスセンサー900を例にとって説明する。
図11は、COガスセンサー900を説明するために示す図である。なお、図11(a)は、COガスセンサー900の内部構造を模式的に示す断面図であり、図11(b)はCOガスセンサー900に用いられている拡散制御板923を取り出して示す拡大斜視図である。COガスセンサー900は、図11に示すように、導電性部材でなる円筒形状の筐体910と、筐体910の一端側(上端側とする。)に設けられたガス感知部920とを有している。
筐体910は内部に空間部を有しており、当該空間部には蒸留水930が所定量だけ貯留されている。ガス感知部920は、活性炭フィルター921が内部に充填されているセンサーキャップ922と、ステンレスなど所定の剛性を有する部材でなる拡散制御板923と、2枚のパッキングレイヤー924の間に挟み込まれた膜−電極接合体と925と、ステンレスなどでなるワッシャー926とを有し、これらが積層された状態となっている。活性炭フィルター921は、検知対象となるCOガス以外の雑ガスに対する感度を軽減させるためのものである。
センサーキャップ922には、気体を取り込む気体取り込み孔922aが形成され、何らかの原因で例えば大気中にCOガスが存在した場合、当該COガスは気体取り込み孔922aからCOガスセンサー900内に侵入するようになっている。また、センサーキャップ922の下端側には流体流通孔927が設けられ、ワッシャー926にも流体流通孔928が設けられている。
拡散制御板923は、外径が8.5mm程度で、厚みが100μm程度の円盤状をなし、中心部には微細孔929が設けられている。このような構成の拡散制御板923は、大気中からのCOガスを膜−電極接合体925に送り込むための機能と、筐体910内に貯留されている蒸留水930によって発生する水蒸気の拡散を制御する機能とを有するものである。このため、拡散制御板923に形成されている微細孔929は高い精度が要求され、その精度はCOガスセンサーとしての性能に大きな影響を与える。
ここで、当該微細孔が例えばプレス加工によって形成された場合、打ち抜き方向にバリが生じることが多い。このため、部品の表側と裏側とでは微細孔の孔径が異なったものとなる場合も多く、また、バリは打ち抜き方向だけではなく、微細孔内に存在する場合もある。
打ち抜き方向にバリが存在することによって、拡散制御板の表面側と裏面側とでは微細孔の孔径が異なったものとなると、表面側の孔径(表面径という。)と裏面側の孔径(裏面径という。)とをそれぞれ測定する必要があり、測定に多くの時間を要する。なお、この場合、表面径及び裏面径のいずれかが許容範囲から外れていれば、その段階で当該微細孔は不適正であると判定せざるをえず、当該拡散制御板は不適正品(NG品)として扱われてしまう。このため、拡散制御板の製造工程における歩留まりが悪く、生産効率が低くなってしまうといった課題もある。
しかしながら、表面径及び裏面径のいずれかがわずかに外れていても、当該拡散制御板を上記したCOガスセンサーの拡散制御板として用いて、実際にCOガス検知試験を行うと、適正なCOガス検知動作を行う場合もある。このような拡散制御板についても孔径のみの検査では上記したようにNG品と判定される。
また、バリが微細孔内に存在していると、拡散制御板の表面径及び裏面径を測定しただけでは、当該微細孔929が本当に適正なものであるか否かは判定できない場合もある。例えば、拡散制御板の表面径及び裏面径を測定した結果、適正品と判定された場合であっても、当該拡散制御板を実際に上記したようなCOガスセンサーに組み込んでCOガス検知試験を行ったところ、適正な検査が行えなかったということもあり得る。
このように、特許文献1に記載されている孔径測定装置を用いて微細孔の孔径を測定し、その測定結果に基づいて微細孔の検査を行った場合、個々の部品(例えば、拡散制御板)に形成されている微細孔を短時間で検査することができず、また、孔径のみによる検査となってしまうため、実情に即した検査結果が得られないといった課題がある。
このような課題を解決した従来技術として、特許文献2に記載されている微細孔検査装置及び微細孔検査方法がある。特許文献2に記載されている微細孔検査装置及び微細孔検査方法は、微細孔の適否を、スピーカーとマイクロホンとによる音響技術を用いて、微細孔の容積すなわち流体の流量を表すパラメーターを電気信号(電圧値)として取得し、取得した電気信号に基づいて微細孔の適否を検査するものである。特に、100μm付近の孔径については、±5μm程度を許容範囲として高精度な検査が可能となる。
このことから、特許文献2に記載されている微細孔検査装置及び微細孔検査方法は、特に、直径100μm程度の微細孔に対し、大掛かりな装置を必要することなく、かつ、短時間での高精度な検査が可能となる優れた検査装置であると言える。
特に、特許文献2に記載されている微細孔検査装置及び微細孔検査方法においては、孔径による検査で不適正品とされた部品であっても、実際には、適正品であると判定できるため、部品の製造工程における歩留まりを向上させることができる。
例えば、微細孔を孔径に基づいて適否を判断すると、仮に、105μmの目標値に対する許容範囲を±5μmとした場合、表孔径が104.47μmで裏孔径が109.758μmの微細孔を有する部品については、表孔径及び裏孔径のいずれもが、「105μm±5μm」をクリアしている。一方、表孔径は104.368μmで、裏孔径が111.424μmである場合には、表孔径は「105μm±5μm」をクリアしているが、裏孔径は「105μm±5μm」から外れている。このため、当該微細孔を有する部品は不適正品(NG品)とされる。
しかしながら、これらの各部品を特許文献2に記載されている微細孔検査装置及び微細孔検査方法を用いてそれぞれマイクロホンから得られる電圧値を見ると、ともに得られた電圧値が例えば「1.41mV」であって、NGサンプルにおいて得られた電圧値も同じく「1.41mV」であったとする。ここで、「1.41mV」という電圧値を出力したこれら各部品をCOガスセンサーの拡散制御板として用いた場合に、適正なCOガス検知動作を行うことが、繰り返しのCOガス検知試験によって確かめられている場合には、これら各試験用サンプルの両方が、適正品であると判定されることとなる。これは、微細孔の適否を孔径によって判定するのではなく、微細孔の容積(流体の流量)によって判定したためである。すなわち、微細孔の容積(流体の流量)が適正な値となっていれば、当該微細孔は適切なCOガス検知動作を行うということである。
このように、微細孔の容積(流体の流量)によって判定することによって、孔径による検査で不適正品とされた部品であっても、実際には、適正品であると判定できるため、部品の製造工程における歩留まりを向上させることができる。なお、この場合のNGサンプルは、孔径に基づいて不適正品とされたものであるが、適切なCOガス検知動作を行うことが確かめられているため、適正品であると判定して何ら差し支えのない部品である。
特許文献2に記載されている微細孔検査装置及び微細孔検査方法は、特に、直径100μm程度の微細孔に対し、大掛かりな装置を必要することなく、かつ、短時間での高精度な検査が可能となり、しかも、孔径による検査で不適正品とされた部品であっても、実際には、適正品であると判定できるため、部品の製造工程における歩留まりを向上させることができるといった優れた効果を有するものである。
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、実施形態に係る微細孔検査装置10を説明するために示す図である。なお、図1は実施形態に係る微細孔検査装置10の構成を模式的に示す断面図である。
実施形態に係る微細孔検査装置10は、図1に示すように、内部に空間部を有する密閉型(ほぼ密閉型を含む。)の筐体100と、筐体100の内部を仕切ることによって筐体100の内部に第1空間部101及び第2空間部102を形成するとともに、微細孔201が形成されている部品200を載置可能な部品載置部材150と、第1空間部101において部品載置部材150とは反対側に設けられており低周波音を出力するスピーカー160と、第2空間部102において部品載置部材150とは反対側に設けられている標準マイクロホン170と、スピーカー160に低周波信号を与える低周波信号発生器180と、標準マイクロホン170から出力される電気信号に基づいて微細孔の検査結果を出力する検査結果出力部130と、信号分析器140とを備える。なお、信号分析器140の機能については後述する。
標準マイクロホン170が出力する電気信号は、スピーカー160が出力する低周波音に応じた周波数を有するとともに微細孔201を通過する流体(この場合、空気)の流量に依存した電圧値を有する正弦波電圧である。
このため、信号分析器140は、標準マイクロホン170から出力される正弦波電圧から実効値(電圧実効値と表記する場合もある。)を求める機能を有している。また、信号分析器140は、標準マイクロホン170から出力される正弦波電圧から電圧実効値を求める機能として、ある特定の周期目(例えば、5周期目など)の電圧実効値を求める機能及び所定区間に含まれる各周期ごとの電圧実効値を求めて、求めた各周期ごとの電圧実効値の平均値を求める機能などを有している。なお、所定区間というのは、例えば、1周期目から10周期目までであったり、5周期目から10周期目までであったりというように、任意の区間を意味している。
また、検査結果出力部130は、実施形態に係る微細孔検査装置10においては、信号分析器140によって求められた電圧実効値に基づいて微細孔の適否を判定し、その判定結果を出力(例えば、表示)する機能を有するものとする。
具体的には、当該検査結果出力部130は、部品200を部品載置部材150に載置して、スピーカー160から低周波音を出力したときに、標準マイクロホン170から出力される正弦波電圧から求められた電圧実効値が所定の値であるか否か(許容範囲内か否か)を判定して、当該電圧実効値が許容範囲内であれば、当該微細孔は適正(OK)であるとし、当該電圧実効値が許容範囲から外れていれば、当該部品は不適正(NG)とするというように、適否の判定結果を出力するものであるとする。なお、微細孔が適正(OK)であるということは、当該検査対象部品が適正(OK)であることを意味し、微細孔が不適正(NG)であるということは、当該検査対象部品が不適正(NG)であることを意味するものとする。
筐体100は、一方の面が開口面となっていて他方の面が閉塞面となっている筒状(例えば、円筒形とする。)をなす筐体本体部110と、当該筐体本体部110の開口面を覆うように着脱自在に取り付け可能な蓋体120と、を有している。筐体本体部110は、当該筐体本体部110の内部における閉塞面の側には、スピーカー160がダイヤフラム(図示せず。)を上向きとするように設けられており、当該筐体本体部110の開口面の側には、部品載置部材150がスピーカー160との間に第1空間部101を形成するように設けられている。なお、実施形態に係る微細孔検査装置10においては、筐体本体部110は、円筒形としたが、円筒形に限られることなく、断面が多角形(5角形以上の多角形が好ましい。)の筒状であってもよい。
具体的には、実施形態に係る微細孔検査装置10においては、筐体本体部110の閉塞面の内面(底面111ともいう。)よりも上方に鍔部112が筐体本体部110の内壁113の全周に渡って突設されており、当該鍔部112の中央部にスピーカー160を取り付けるようにしている。これにより、筐体本体部110の内部において、スピーカー160と筐体本体部110の底面111との間には空間部(第3空間部とする。)103が形成される。
一方、蓋体は120には標準マイクロホン170が取り付けられており、当該蓋体120を筐体本体部110に取り付けた状態としたときには、当該蓋体120と部品載置部材150との間で、第2空間部102が形成される。また、当該蓋体120は、部品200の周縁部を押さえることができる部品押さえ部121が設けられている。これにより、蓋体120を筐体本体部110に装着することによって、部品押さえ部121が部品200の周縁部を押さえた状態となる。これによって、部品200を適切な位置で一時的に固定でき、部品200がずれたりすることを防止できる。なお、蓋体120は筐体本体部110に密閉状態で装着されるものとする。
ところで、筐体100(筐体本体部110及び蓋体120)は、非磁性材でなることが好ましい。これは、蓋体120に取り付けられる標準マイクロホン170は、微弱な音も高精度に計測できる精密な構造となっているため、磁化されている物体を近づけると受信精度の低下を招くといった問題が発生するおそれあるためであり、実施形態に係る微細孔検査装置10においては、筐体100の材料として真鍮が用いられている。また、筐体100は、スピーカー160から出力される低周波音に共振しないように、筐体100の肉厚をある程度厚くするとともに重量もある程度重くすることが好ましい。なお、筐体100の固有振動数が、スピーカー160から出力される低周波音の周波数よりも高ければ、筐体100の肉厚及び重量についてはそれほど考慮しなくてもよい場合もある。
部品載置部材150は、微細孔201よりも大径の開口151を有し、当該開口151によって第1空間部101と第2空間部102とを連通可能とする。なお、部品200というのは、検査すべき検査対象部品と、当該検査対象部品が適正であるか否かを判定するための試験データ(後述する。)を取得する際に用いる試験用サンプルとの両方を含むものである。すなわち、試験データを取得する際には、部品載置部材150には、部品200として試験用サンプルを載置して試験を行い、検査対象部品の検査を行う際には、部品載置部材150には、部品200として検査対象部品を載置して検査を行う。なお、検査対象部品を部品とした場合には、「検査対象部品200」と表記する。また、試験用サンプル及び当該試験用サンプルを用いた試験データの取得については後述する。
また、部品載置部材150には、部品200を部品載置面152の所定位置に載置することができるように位置決め部153が設けられていることが好ましい。この位置決め部153は、例えば、部品200の形状に合わせた凹状の窪みなどでよい。このような位置決め部153を設けることにより、当該位置決め部153に部品200を載置すれば、部品200に形成されている微細孔201が、部品載置部材150に形成されている開口151に対して適切な位置関係となる。それによって、スピーカー160と微細孔201と標準マイクロホン170との位置関係が適切な位置関係となり、スピーカー160で発した低周波音が微細孔201を適切に通過するようになるとともに、微細孔201を通過した低周波音を標準マイクロホン170で適切に受信できるようになる。
スピーカー160は、低周波信号発生器180が発生する低周波信号(正弦波電圧)によって低周波音を発生し、当該低周波音は部品載置部材150の開口151を通して第2空間部102側に出力される。
標準マイクロホン170は、微弱な音も高精度に計測できる高感度なマイクロホンである。当該標準マイクロホン170は、受信部(音入力部)171が部品載置部材150に載置されている部品200の微細孔201に対向するように蓋体120に取り付けられている。これによって、標準マイクロホン170は、部品200を部品載置部材150の上端面(部品載置面152)に載置した場合には、部品200に形成されている微細孔201を通過してくるスピーカー160からの低周波音を確実に受信できるようになる。ところで、標準マイクロホン170は、実施形態に係る微細孔検査装置10においては、コンデンサー型の標準マイクロホンであるが、コンデンサー型の標準マイクロホンと同等の性能を有するものであれば、他の種類のマイクロホンを用いてもよい。
なお、以下の説明においては、「標準マイクロホン170」を単に「マイクロホン170」と略記する場合もある。
このように蓋体120に取り付けられているマイクロホン170は、部品200に形成されている微細孔201が部品載置部材150の開口151に位置するように部品が当該部品載置部材150に載置された状態で、スピーカー160が低周波音を出力すると、微細孔201を通過する空気の流量に依存した電気信号(正弦波電圧)を出力する。
低周波信号発生器180は、スピーカー160から低周波音を発生させるための低周波信号(正弦波電圧)を発するものである。ここで、低周波音としては、1Hz〜300Hz程度を想定しているが、スピーカー160からは可能な限り低い周波数の音を発するようにすることが好ましいため、低周波信号発生器180から出力する低周波信号は、1Hz〜20Hz程度とすることが好ましく、実施形態に係る微細孔検査装置10においては、スピーカー160の性能上の面を考慮して、10Hzの低周波信号を出力するものとする。それによって、実施形態に係る微細孔検査装置10においては、スピーカー160は10Hzの低周波音を出力する。
なお、実施形態に係る微細孔検査装置10において、部品200としての検査対象部品は、100μm程度又は100μm未満の微細孔が形成されている部品(例えば、COガスセンサー、車載用の燃料噴射ノズル、マイクロホンフィルターなどを例示できるが、実施形態に係る微細孔検査装置10においては、COガスセンサーに用いられる拡散制御板(図11(b)参照。)と同様の部品であるとする。
続いて、異なった孔径の微細孔が形成されている複数の試験用サンプルを用いて行った試験例について説明する。この試験は、異なった径の微細孔が形成されている複数の試験用サンプルを用意して、当該複数の試験用サンプルを1枚ずつ部品載置部材150に載置した状態で、スピーカー160から低周波音を出力したときに、マイクロホン170から出力される正弦波電圧から電圧実効値を求める。このような試験を行う際に用いた試験用サンプルとしては、次のようなサンプルを用意した。
図2は、試験用サンプルの一例を示す図である。試験用サンプルとしては、図2に示すように、110μmの試験用サンプル、105μmの試験用サンプル、100μmの試験用サンプル、90μmの試験用サンプル、80μmの試験用サンプル、70μmの試験用サンプル、60μmの試験用サンプル、50μmの試験用サンプルを用意した。なお、これら各試験用サンプルは、それぞれの試験用サンプルの名称として「110μmサンプル」、「105μmサンプル」、「100μmサンプル」というように表記する。これら各試験用サンプルに形成されている微細孔は、殆どが放電加工によって形成されたものであるが、105μmの試験用サンプルについては、プレス加工によって形成されたものも示されている。このプレス加工によって形成された試験用サンプルを「105μmプレス加工サンプル」とする。
これら各試験用サンプルの名称として付与されている微細孔の径(例えば、110μm、105μm、100μm、・・・)は、当該各試験用サンプルに形成されている微細孔の径そのものではない。すなわち、試験用サンプルの名称として付与されている微細孔の径(例えば、110μm、105μm、100μm、・・・)は目標値であり、各試験用サンプルに形成されている微細孔の実際の径は、目標値とは多少異なったものとなっている。
すなわち、110μmサンプルというのは、110μmを目標値として微細孔を形成したものであり、105μmサンプルというのは、105μmを目標値として微細孔を形成したものである。例えば、110μmサンプルを例にとれば、110μmを目標値として微細孔を形成した結果、それを高精度な計測が可能な顕微鏡(例えば、レーザー顕微鏡)で計測したところ、当該微細孔の表面径が112.4μm、裏面径が104.2μmであり、表面径(112.4μm)と裏面径(104.2μm)との平均径(表裏平均径という。)を求めると108.3μmであった。同様に、105μmサンプルを例にとれば、105μmを目標値として微細孔を形成した結果、それを例えばレーザー顕微鏡で計測したところ、表面径が104.8μm、裏面径が100.6μmであった。
なお、この明細書において、「微細孔の径」は「微細孔径」と表記する場合もあり、また、単に「孔径」と表記する場合もある。そして、これら「微細孔の径」、「微細孔径」又は「孔径」というのは、表裏平均径を指すものとする。
図3は、各試験用サンプルのうち2種類の試験用サンプルに形成されている微細孔のレーザー顕微鏡画像を示す図である。図3においては、上記各試験用サンプルのうち、放電加工によって微細孔が形成された110μmサンプルにおける顕微鏡画像と、プレス加工によって微細孔が形成された100μmサンプルにおける顕微鏡画像が例示されている。
図3において、黒く塗りつぶされている領域が微細孔である。図3に示すように、各試験用サンプルは、表面径と裏面径とが異なる。すなわち、微細孔が放電加工によって形成された110μmサンプルにおいては、微細孔の表面径が112.4μm、裏面径が104.2μmであり、その表裏平均径は、108.3μmであった。一方、微細孔がプレス加工によって形成された105μmプレス加工サンプルおいては、微細孔の表面径が99.8μm、裏面径が104.8μmであり、プレス加工サンプルの場合、放電加工によるものと異なり裏面径の方が表面径よりも大きくなっている。但し、その表裏平均径は、102.3μmであり、放電加工による105μmサンプルとほぼ同様である。
このように、各試験用サンプルは、表面径と裏面径とが異なった値となるが、これら表面径と裏面径とが異なる各試験用サンプルを実施形態に係る微細孔検査装置10において、当該サンプルの表側が上向きとなるようにして、部品載置部材150に載置したときにマイクロホン170が出力する電気信号と、当該サンプルの裏側が上向きとなるようして、部品載置部材150に載置したときにマイクロホン170が出力する電気信号との差をとると、その差は、無視できる程度の差であった。
このことから、部品を表側が上向きとなるように部品載置部材150の部品載置面152に載置しても、裏面が上向きとなるように部品載置面に載置しても、得られる電気信号に殆ど差はないということが言える。これは、実際に検査対象部品を検査する場合、個々の部品を部品載置部材150に載置する際には、部品の表裏を意識する必要がないことを意味している。このため、検査の高速化が図れる。
図4は、図2に示す各試験用サンプルを用いて試験を行ったときの各試験用サンプルにおいてマイクロホン170の出力電圧(正弦波電圧)を示す図である。図4において、縦軸はマイクロホン170から出力される出力電圧(ボルト(V))を表しており、横軸は時間(秒(sec))を表している。なお、この試験においては、低周波信号発生器180からスピーカー160に与えられる低周波信号の周波数は10Hzとしている。
また、図4においては、図2に示す各試験用サンプルのうち、100μm付近の試験用サンプルとして、110μmサンプル、105μmサンプル及び90μmサンプルの出力電圧を例示している。すなわち、図4(a)は110μmサンプルの出力電圧を示す図であり、図4(b)は105μmサンプルの出力電圧を示す図であり、図4(c)は90μmサンプルの出力電圧を示す図である。なお、図4においては、図示は省略されているが、他のサンプルについても同様に、個々のサンプルごとにてマイクロホン170からの出力電圧を得た。図4に示すように、1周期目からの数周期目までは、出力電圧の最大値の変動が比較的大きく、5周期目以降となると、出力電圧の最大値は安定してくることがわかる。
図5は、各試験用サンプルにおける各周期ごとの電圧実効値の平均値に対する変動量を表す図である。なお、「各周期ごとの電圧実効値」というのは、図4に示すマイクロホンの出力電圧(正弦波電圧)から求められた各周期ごとの電圧実効値であり、また、「各周期ごとの電圧実効値の平均値に対する変動量」というのは、1周期目から所定周期目までの電圧実効値の平均値に対する変動量(差分)を表すものである。ここでは、平均値を「0.00V」として、当該平均値「0.00V」に対する変動量(V)を表している。
また、図5においては、各試験用サンプルのうち、110μmサンプル、105μmサンプル、90μmサンプルについての変動量が例示されており、図5(a)は110μmサンプルの各周期ごとの電圧実効値の平均値に対する変動量を表す図であり、図5(b)は105μmサンプルの各周期ごとの電圧実効値の平均値に対する変動量を表す図であり、図5(c)は90μmサンプルの各周期ごとの電圧実効値の平均値に対する変動量を表す図である。
なお、電圧実効値の平均値に対する変動量を求める際においては、1周期目から20周期目までの各周期ごとの電圧実効値の平均値に対する変動量を求めたが、図5においては、1周期目から10周期目までの各周期ごとの電圧実効値の平均値に対する変動量が図示されており、11周期目以降の変動量の図示は省略されている。また、図5は、スピーカーが出力する低周波音の周波数は10Hzの場合である。
図5に示すように、各試験用サンプル(110μmサンプル、105μmサンプル及び90μmサンプル)の各周期ごとの電圧実効値の平均値に対する変動量は、2周期目以降は急激に減少して、5周期目以降となると、平均値に対する変動量は小さく、かつ、安定する傾向にあることがわかる。すなわち、5周期目以降の所定区間(この場合、5周期目から10周期目までの区間)においては、電圧実効値の平均値に対する変動量が一定値以下に収まっているといえる。
なお、上記したように、図5においては、11周期目以降の変動量の図示は省略されているが、11周期目以降においても、5周期目から10周期目と同様の傾向にある。このことから、検査対象部品を検査する際には、マイクロホン170からの出力電圧(正弦波電圧)の少なくとも2周期目以降の出力電圧(正弦電圧)の電圧実効値を用いることが好ましいが、変動がより小さく、かつ、より安定する5周期目以降の出力電圧の実効値を用いることがより好ましいことがわかる。このため、実施形態に係る微細孔検査装置10においては、検査対象部品の検査を行う際には、5周期目以降の所定周期目の電圧実効値を用いて、当該検査対象部品に形成されている微細孔の検査を行うものとする。
図6は、各試験用サンプルにおける各周期ごとの電圧実効値の平均値に対する変動量を数値で詳細に示した図である。なお、図6は図5と同様に、各周期ごとの電圧実効値の平均値に対する変動量を示したものである。なお、図5においては、11周期目以降については図示が省略されていたが、図6においては、1周期目から20周期目までの各周期ごとの電圧実効値の平均値に対する変動量が示されており、かつ、各周期ごとの変動量が数値で示されている。また、図6においては、110μmサンプル、105μmサンプル、100μmサンプル、90μmサンプルの4つの試験用サンプルについての変動量が示されている。
なお、図6においては変動量を表す数値の単位はボルト(V)で示されており、正の値は平均値(0,00V)に対してプラス側の変動量(V)であり、負の値は平均値に対してマイナス側の変動量である。また、図6において、下欄に記載されている最大値(5−20)及び最小値(5−20)は、上記した各試験用サンプルにおいて、変動量がより小さく、かつ、より安定する5周期目から20周期目までの間における変動量(平均値に対する変動量)の最大値及び最小値を示すものである。
例えば、90μmサンプルにおいては、5周期目から20周期目における変動量(平均値に対する変動量)の最大値及び最小値は、5周期目の「−0.00662V(6.62mV)」が最大値であり、10周期目の「−0.00060V(0.60mV)」が最小値である。また、95μmサンプルにおいては、5周期目から20周期目における変動量(平均値に対する変動量)の最大値及び最小値は、5周期目の「−0.00537V(5.37mV)」が最大値であり、18周期目の「−0.00073V(0.73mV)」が最小値である。他の試験用サンプル(105μmサンプル及び110μmサンプル)においても同様に、5周期目から20周期目における変動量(平均値に対する変動量)の最大値及び最小値が示されている。
従って、例えば、90μmサンプルにおける5周期目から20周期の変動量の幅(平均値に対する変動量の幅)は、絶対値で考えた場合、最大でも6.62mVであり、100μmサンプルにおける5周期目から20周期の変動量の幅(平均値に対する変動量の幅)は、絶対値で考えた場合、最大でも5.37mVである。また、105μmサンプルにおける5周期目から20周期の変動量の幅(平均値に対する変動量の幅)は、絶対値で考えた場合、最大でも5.01mVであり、また、110μmサンプルにおける5周期目から20周期の変動量の幅(平均値に対する変動量の幅)は、絶対値で考えた場合、最大でも3.5mVである。
図7は、各試験用サンプルに形成されている微細孔径と5周期目の電圧実効値との関係を示す図である。なお、図7において、黒色の丸印は、微細孔が放電加工により形成された試験用サンプル(放電加工サンプル)の電圧実効値を示すものであり、白抜きの丸印は、微細孔がプレス加工によって形成された試験用サンプル(プレス加工サンプル)の電圧実効値を示している。この場合、プレス加工サンプルは、105μmサンプル(表裏平均径102,3μm)1つのみしか示されていないが、ほぼ同じ径を有する放電加工品とほぼ同じ電圧実効値が得られている。このため、表裏平均径がほぼ同じであれば、放電加工品であってもプレス加工品であってもほぼ同じ電圧実効値が得られることがわかる。
図8は、各試験用サンプルに形成されている微細孔径と5周期目から20周期目までの電圧実効値の平均値との関係を示す図である。各試験用サンプルにおける5周期目以降の電圧実効値は変動量が小さく、かつ、安定しているため、各試験用サンプルごとに求められた5周期目から20周期目までの電圧実効値の平均(平均電圧実効値と表記する場合もある。)は、図7に示す5周期目の電圧実効値とほぼ同様の電圧実効値となる。また、この場合も、微細孔径(表裏平均径)がほぼ同じであれば、放電加工品であってもプレス加工品であってもほぼ同じ平均電圧実効値が得られることがわかる。
次に、実施形態に係る微細孔検査装置10によって、微細孔をほぼ±1μmの精度で検査可能であることについて説明する。ここでは、レーザー顕微鏡などで測定して微細孔径が既知となっている試験用サンプル(105μmサンプル、100μmサンプル及び90μmサンプル)を用いて、これら各試験用サンプルを図1に示す微細孔検査装置10の部品載置部材150に載置して、スピーカー160から10Hzの低周波音を発したときに、マイクロホン170からの出力電圧によって求められる電圧実効値がそれぞれどのような範囲に入っていれば、当該微細孔をほぼ±1μmの精度で検査可能であるかを調べる。
まずは、表裏平均径が102.7μmの微細孔を有する試験用サンプル(105μmサンプル)の場合について説明する。当該試験用サンプル(105μmサンプル)における5周期目から20周期目の平均電圧実効値V(5−20)は、図8に示すように、実測値として0.7897V(789.7mV)が得られている。ここで、当該平均電圧実効値V(5−20)=789.7mVを基準としたプラス側及びマイナス側におけるそれぞれの1μm当たりの電圧実効値(mV/μm)を求める。
このプラス側及びマイナス側におけるそれぞれの1μm当たりの電圧実効値は、その前後の微細孔径を有する試験用サンプル(ここでは、108.3μmの微細孔を有する110μmサンプルと98.6μmの微細孔を有する100μmサンプル)の電圧実効値から求めることができる。
すなわち、図8に示すように、110μmサンプル(微細孔径108.3μm)における平均電圧実効値V(5−20)は、実測値として0.9338V(933.8mV)が得られており、100μmサンプル(微細孔径98.6μm)における平均電圧実効値V(5−20)は、実測値として0.7255V(725.5mV)が得られている。
これらから、105μmサンプル(微細孔径102.7μm)の電圧実効値V(5−20)を基準としたプラス側の1μm当たりの電圧実効値は、(933.8mV−789.7mV)÷(108.3μm−102.7μm)=25.7mV/μmと求めることができる。
一方、105μmサンプル(微細孔径102.7μm)の電圧実効値を基準としてマイナス側の1μm当たりの電圧実効値は、(789.7mV−725.5mV)÷(102.7μm−98.6μm)=15.7mV/μmと求めることができる。
このようにして得られた1μm当たりの電圧実効値は、正確に1μm当たりの電圧実効値を表すものとは言えない場合もあるが、ほぼ1μm当たりの電圧実効値として扱っても差し支えないといえる。
ここで、102.7μmの微細孔(105μmサンプル)における5周期目以降の電圧実効値の変動量は、当該変動量を絶対値で考えたときの最大値が5.01mV(図6参照。)である。このため、102.7μmの微細孔を有する部品をほぼ±1μmの精度で検査する場合においては、当該変動量の最大値(5.01mV)を考慮して、当該部品においてマイクロホン170から出力される電圧実効値が、プラス側においては789.7mV+(25.7mV−5.01mV)=789.7mV+20.69mV=810.39mVまでを許容範囲として設定し、マイナス側においては、789.7mV−(15.7mV−5.01mV)=789.7mV−10.69mV=779.01mVまでを許容範囲として設定すればよいこととなる。
すなわち、微細孔が形成されている部品を微細孔検査装置10の部品載置部材150に載置して、スピーカーから10Hzの低周波音を発したときに、マイクロホン170の出力電圧(正弦波電圧)から求められる電圧実効値(例えば、5周期目の電圧実効値)が、779.01mV〜810.39mVの範囲に入っていれば、当該部品に形成されている微細孔の孔径は102.7μmであり、しかも、当該孔径をほぼ1μmの精度で検査できることとなる。
また、表裏平均径が98.6μmの微細孔を有する試験用サンプル(100μmサンプル)を±1μm程度の精度で検査する場合においても同様である。当該試験用サンプル(100μmサンプル)における5周期目から20周期目の平均電圧実効値V(5−20)は、図8に示すように、実測値として0.7255V(725.5mV)が得られている。ここで、当該平均電圧実効値V(5−20)=725.5mVを基準としたプラス側及びマイナス側におけるそれぞれの1μm当たりの電圧実効値(mV/μm)を求める。
このプラス側及びマイナス側におけるそれぞれの1μm当たりの電圧実効値は、その前後の微細孔径を有する試験用サンプル(ここでは、102.7μmの微細孔を有する105μmサンプルと91.3μmの微細孔を有する90μmサンプル)の電圧実効値から求めることができる。
すなわち、図8に示すように、微細孔径(102.7μm)における平均電圧実効値V(5−20)は、実測値として0.7897V(789.7mV)が得られており、微細孔径(91.3μm)における平均電圧実効値V(5−20)は、実測値として0.5892V(589.2mV)が得られている。
ここで、98.6μmの電圧実効値を基準としてプラス側の1μm当たりの電圧実効値は、(789.7mV−725.5mV)÷(102.7μm−98.6μm)=15.66mV/μmとなる。
一方、98.6μmの電圧実効値を基準としてマイナス側の1μm当たりの電圧実効値は、(725.5mV−589.2mV)÷(98.6μm−91.3μm)=18.67mV/μmとなる。
このようにして得られた1μm当たりの電圧実効値は、正確に1μm当たりの電圧実効値を表すものではないが、ほぼ1μm当たりの電圧実効値として扱っても差し支えないものである。
ここで、98.6μmの微細孔(100μmサンプル)における5周期目以降の電圧実効値の変動量は、当該変動量を絶対値で考えたときの最大値が5.37mV(図6参照。)である。このため、98.6μmの微細孔を有する部品をほぼ±1μmの精度で検査する場合においては、当該部品においてマイクロホン170から出力される電圧実効値が、プラス側においては725.5mV+(15.66mV−5.37mV)=725.5mV+10.29mV=735.79mVまでを許容範囲として設定し、マイナス側においては725.5mV−(18.4mV−5.37mV)=725.5mV−13.03mV=712,47mVまでを許容範囲とすればよいこととなる。
すなわち、微細孔が形成されている部品を微細孔検査装置10の部品載置部材150に載置して、スピーカーから10Hzの低周波音を発したときに、マイクロホン170の出力電圧(正弦波電圧)から求められる電圧実効値(例えば、5周期目の電圧実効値)が、712.47mV〜735.79mVの範囲に入っていれば、当該部品に形成されている微細孔の孔径は98.6μmであり、しかも、当該孔径をほぼ1μmの精度で検査できることとなる。
また、表裏平均径が91.3μmの微細孔を有する試験用サンプル(90μmサンプル)を±1μm程度の精度で検査する場合においても同様である。当該微細孔径(91.3μm)における5周期目から20周期目の平均電圧実効値V(5−20)は、図8に示すように、実測値として0.5892V(589.2mV)が得られている。ここで、当該平均電圧実効値V(5−20)=589.2mVを基準としてプラス側及びマイナス側におけるそれぞれの1μm当たりの電圧実効値(mV/μm)を求める。
このプラス側及びマイナス側におけるそれぞれの1μm当たりの電圧実効値は、その前後の微細孔径を有するサンプル(ここでは、98.6μmの微細孔を有する100μmサンプルと76.6μmの微細孔を有する80μmサンプル)の電圧実効値から求めることができる。
すなわち、図8に示すように、微細孔径(98.6μm)における平均電圧実効値V(5−20)は、実測値として0.7255V(725.5mV)が得られており、微細孔径(76.6μm)における平均電圧実効値V(5−20)は、実測値として0.3525V(352.5mV)が得られている。
ここで、91.3μmの電圧実効値を基準としてプラス側の1μm当たりの電圧実効値は、(725.5mV−589.2mV)÷(98.6μm−91.3μm)=18.7mV/μmとなる。
一方、91.3μmの電圧実効値を基準としてマイナス側の1μm当たりの電圧実効値は、(589.2mV−325.5mV)÷(91.3μm−76.6μm)=16.1mV/μmとなる。
このようにして得られた1μm当たりの電圧実効値も、正確に1μm当たりの電圧実効値を表すものではないが、ほぼ1μm当たりの電圧実効値として扱っても差し支えないものである。
ここで、91.3μmの微細孔(90μmサンプル)における5周期目以降の電圧実効値の変動量は、当該変動量を絶対値で考えたときの最大値が6.62mV(図6参照。)である。このため、91.3μmの微細孔を有する部品をほぼ±1μmの精度で検査する場合においては、当該部品においてマイクロホン170から出力される電圧実効値が、プラス側においては589.2mV+(18.7mV−6.62mV)=589.2mV+12.1mV=601.28mVまでを許容範囲として設定し、マイナス側においては589.2mV−(16.1mV−6.62mV)=589.2−9.48mV=579.72mVまでを許容範囲として設定すればよいこととなる。
すなわち、微細孔が形成されている部品を微細孔検査装置10の部品載置部材150に載置して、スピーカーから10Hzの低周波音を発したときに、マイクロホン170の出力電圧(正弦波電圧)から求められる電圧実効値(例えば、5周期目の電圧実効値)が、579.72mV〜601.28mVの範囲に入っていれば、当該部品に形成されている微細孔の孔径は91.3μmであり、しかも、当該孔径をほぼ1μmの精度で検査できることとなる。
このように、実施形態に係る微細孔検査装置10によれば、100μm程度の径を有する微細孔をほぼ1μmの精度で検査することができる。なお、100μmよりも十分に小さい径を有する微細孔であっても、100μm程度の径を有する微細孔に準じた精度で検査可能である。
続いて、実際の検査を行う場合、すなわち、検査対象部品を検査する場合について説明する。検査対象部品を検査する場合には、当該検査対象部品は、微細孔の孔径が目標とする孔径になっているとは限らない。例えば、100μmの微細孔を形成しようとした場合、100μmを目標として微細孔が形成されたものであり、目標とする微細孔径に対して多少の誤差を有している場合が多い。このような検査対象部品に形成されている微細孔の検査は次のようにして行うことができる。
すなわち、異なった孔径の微細孔が形成されている複数の試験用サンプルを用いて、個々の試験用サンプルごとに特定の流体を流通させる試験を行った結果、適正な流量を流通可能であることが確かめられた試験用サンプルを適正サンプルとする。そして、当該適正サンプルを部品載置部材150に載置した状態でスピーカー160が低周波音を出力したときにマイクロホン170からの正弦波電圧から信号分析器140によって電圧実効値を求める。適正サンプルを部品載置部材150に載置したときに得られる電圧実効値を「基準電圧実効値」とする。当該「基準電圧実効値」は予め取得しておく。
その後、検査対象部品の検査を行う際には、当該検査対象部品を部品載置部材150に載置した状態でスピーカー160が低周波音を出力したときにマイクロホン170からの正弦波電圧から信号分析器140によって電圧実効値を求める。当該検査対象部品を部品載置部材150に載置したときに得られた電圧実効値を「検査対象電圧実効値」とする。
そして、検査結果出力部130においては、すでに取得されている基準電圧実効値と、検査対象部品に対応して得られた検査対象電圧実効値とに基づいて微細孔の検査結果を出力する。以下、具体的に説明する。
検査対象部品としては、微細孔を有する種々の部品を例示できるが、前述したようなCOガスセンサーの拡散制御板であるとする。ここでは、拡散制御板に形成すべき微細孔が100μmであったとすると、100μmを目標値として微細孔を形成した拡散制御板を複数枚作成し、当該複数枚の拡散制御板を個々にCOガスセンサー900に取り付けてガス検知動作を行い、適正なCOガス検知動作を行った拡散制御板を「適正サンプル」とする。
この適正サンプルをレーザー顕微鏡で表面径と裏面径とを測定し、それぞれの平均(表裏平均径)を求める。ここでは、当該適正サンプルに形成されている微細孔の表裏平均径が、この場合、説明の簡略化のため、上記100μmサンプルと同様に、98.6μmであったとする。
すなわち、当該拡散制御板は、微細孔径(表裏平均径)が98.6μmのときに適正なCOガス検知動作を行うということである。このため、上述した100μmサンプル(微細孔の表裏平均径が102.7μm)で行った試験と同様、当該拡散制御板によって得られる5周期目の電圧実効値が712.47mV〜735.79mVの範囲に入っていれば、当該部品(拡散制御板)をほぼ1μmの精度で検査できる。このため、順次製造される多数の拡散制御板を検査する際には、個々の拡散制御板を実施形態に係る微細孔検査装置10に取り付けて、検査結果出力部130によって、マイクロホン170から出力される5周期目の電圧実効値が712.47mV〜736.33mVの範囲に入っているか否かを判定し、その判定結果を出力する。このように、検査結果出力部130は、信号分析器140によって求められた電気信号(電圧実効値)に基づいて微細孔の検査結果を出力する。なお、実施形態に係る微細孔検査装置10においては、検査結果出力部130は、信号分析器140によって求められた電気信号(電圧実効値)に基づいて微細孔の適否を判定し、その判定結果を出力(例えば、表示)する。
具体的には、実施形態に係る微細孔検査装置10の部品載置部材150に検査対象部品(拡散制御板)を載置して、スピーカー160から10Hzの低周波音を出力すると、マイクロホン170からは微細孔に依存した出力電圧が出力され、当該出力電圧は信号分析器140に入力される。
信号分析器140では、マイクロホン170からの出力電圧から5周期目の電圧実効値を求めて当該電圧実効値を検査結果出力部130に与える。そして、検査結果出力部130では、マイクロホン170から出力される5周期目の電圧実効値が712.47mV〜735.79mVの範囲に入っているか否かを判定し、5周期目の電圧実効値が712.47mV〜735.79mVの範囲に入っていれば、当該検査対象部品はOK品とし、5周期目の電圧実効値が712.47mV〜735.79mVの範囲から外れていれば、当該検査対象部品はNG品として、その結果を出力する。このように、検査結果出力部130は、信号分析器140によって求められた電気信号(電圧実効値)に基づいて微細孔の検査結果を出力する。なお、実施形態に係る微細孔検査装置10においては、検査結果出力部130は、信号分析器140によって求められた電気信号(電圧実効値)に基づいて微細孔の適否を判定し、その判定結果を出力(例えば、表示)する。これにより、個々の拡散制御板をOK品とNG品とに容易に区別できる。
このように、実施形態に係る微細孔検査装置10の部品載置部材150においては、検査対象部品を載置して、マイクロホン170からの出力電圧置(電圧実効値)の値が所定範囲に入っているか否かを判定するだけで、当該検査対象部品を評価することができる。また、マイクロホン170からの出力電圧置(電圧実効値)の値が所定範囲に入っているか否かの判定を行う際には、マイクロホン170からの出力電圧置(電圧実効値)の5周期目の電圧実効値を判定対象とすればよい。
このことから、実施形態に係る微細孔検査装置10の部品載置部材150においては、短時間で検査対象部品を検査することができ、しかも、検査対象部品200に形成されている微細孔を例えば±1μm程度の精度で検査することができる。前述したように、拡散制御板は、±5μmの精度が要求されるとしているが、実施形態に係る微細孔検査装置10においては、拡散制御板に形成されている微細孔を例えば±1μm程度の精度で検査することができるため、より高精度な微細孔検査が可能となり、高い精度が要求される拡散制御板を短時間で大量に検査可能となる。
また、拡散制御板だけでなく、車載用の燃料噴射ノズルなど高い精度が要求される部品検査にも好適なものとなる。このように、実施形態に係る微細孔検査装置は、短時間で大量の検査が可能となるため、特に、全数検査を必要とする部品に形成されている微細孔検査装置として好適なものとなる。
なお、この場合、説明を簡略化するため、適正サンプルの表裏平均径が上述した100μmサンプル(微細孔径98.6μm)と同じ表裏平均径である場合を説明したが、適正サンプルの表裏平均径が、図2において示した試験用サンプルにはない微細孔径を有する場合であっても、ほぼ同様の手順で検査することができる。
なお、本発明は上記各実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能となるものである。たとえば、下記に示すような変形実施も可能である。
(1)上記実施形態においては、検査結果出力部130は、信号分析器140によって求められた電圧実効値に基づいて微細孔の適否を判定し、その判定結果を出力(例えば、表示)する機能を有するものとしたが、これに限られるものではなく、例えば、検査結果出力部130は、検査対象部品に対応して求められた電圧実効値(信号分析器140によって求められた電圧実効値のうち所定周期目の電圧実効値)を出力(表示)する電圧計であってもよい。この場合、電圧計に出力(表示)されている電圧実効値から当該検査対象部品の適否を判定することができる。例えば、電圧計に出力(表示)されている所定周期目(例えば5周期目)の電圧実効値が、所定範囲(例えば、712.47mV〜735.79mVの範囲)に入っていれば、当該部品に形成されている微細孔は「OK」であり、712.47mV〜735.79mVの範囲から外れていれば「NG」というように判定する。
また、信号分析器140によって求められる電圧実効値と微細孔径との関係をあらかじめ求めておき、信号分析器140によって求められた電圧実効値に基づいて微細孔径を出力(表示)するようにしてもよい。
(2)上記実施形態においては、スピーカー160を10Hzの低周波信号で駆動することによってスピーカー160から10Hzの低周波音を発する場合を例示したが、スピーカー160を駆動する低周波信号は10Hzに限られるものではない。例えば、スピーカー160の性能が許せば、より低い周波数の信号でスピーカー160を駆動させるようにしてもよい。このように、より低い周波数の信号でスピーカー160を駆動させて、スピーカー160から、より低周波の音を発生させることにより、マイクロホン170の出力電圧(正弦波電圧)から求められる電圧実効値の変動量をより小さく、かつ、より安定させることができるとともに、当該電圧実効値の分解能をより高くすることができる。
図9は、スピーカー160を駆動する低周波信号を5Hzとした場合の各周期ごとの出力電圧値の変動量を表す図である。図9は上述の実施形態を説明に用いた図5に対応する図であり、10Hzの場合との対比を表している。図9において、一点鎖線は5Hzの場合の変動量を表しており、実線は10Hzの場合の変動量(図5と同じもの)を表している。図9(a)は110μmサンプルの各周期ごとの電圧実効値の平均値に対する変動量を表す図であり、図9(b)は105μmサンプルの各周期ごとの電圧実効値の平均値に対する変動量を表す図であり、図9(c)は90μmサンプルの各周期ごとの電圧実効値の平均値に対する変動量を表す図である。図9によれば、スピーカー160を駆動する低周波信号を5Hzとした場合は、変動量がより小さく、かつ、安定する。
図10は、スピーカー160を駆動する低周波信号を5Hzとした場合の各試験用サンプルに形成されている微細孔径と5周期目の電圧実効値との関係を示す図である。図10は上述の実施形態を説明に用いた図7に対応する図であり、10Hzの場合との対比を表している。図10において、破線は5Hzの場合の変動量を表しており、実線は10Hzの場合の変動量(図7と同じもの)を表している。図10によれば、スピーカー160を駆動する低周波信号を5Hzとした場合は、各微細孔においてマイクロホン170から出力される電圧の分解能をより高くすることができる。
図9及び図10によれば、スピーカー160を駆動する低周波信号を5Hzとすると、より高精度な微細孔の検査が可能となる。従って、スピーカー160が5Hzの低周波信号に長期間の使用に耐え得る性能を有していれば、スピーカー160を駆動する低周波信号を5Hzというような低い周波数の信号としてもよい。
なお、微細孔検査の許容範囲を±1μmというような高い精度にこだわらなければ、スピーカー160を駆動する低周波信号を10Hzよりも十分高い周波数(例えば100Hz〜300Hzといった周波数)とすることも可能である。
(3)上記各実施形態においては、微細孔の評価を行う電気信号としては、マイクロホン170の出力電圧から得られた電圧実効値を用いた場合を例示したが、電圧実効値に限られるものではなく、他の電気信号としてもよい。例えば、スピーカー160を駆動するための低周波信号(正弦波電圧)とマイクロホン170から出力される出力信号(正弦波電圧)との位相差に基づいて微細孔の評価を行うようにすることも可能である。これは、微細孔径の大きさに応じて位相差に違いが生じる可能性があることを利用するものである。
このように、位相差を用いて微細孔の評価を行う場合、低周波信号発生器180からの低周波信号(正弦波電圧)をスピーカー160だけでなく信号分析器140にも与え、信号分析器140においては、低周波信号発生器180からの低周波信号(正弦波電圧)とマイクロホン170からの出力信号(正弦波電圧)とに基づいて位相差を求めるようにする。この場合、スピーカー160を駆動する低周波信号を可能な限り低周波(例えば、5Hz以下)とすることが好ましく、5Hz以下の低周波とすることによって、スピーカー160を駆動するための低周波信号(正弦波電圧)とマイクロホン170から出力される出力信号(正弦波電圧)との位相差の分解能を高めることができる。また、電圧実効値と位相差とを組み合わせて微細孔の評価を行うようにしてもよい。
(4)上記各実施形態において用いた微細孔検査装置10の形状や構造も図1に示すものに限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能である。例えば、検査対象部品200の位置決めを行う位置決め部153や検査対象部品を押さえる押さえ部121などは、実施形態に係る微細孔検査装置10において示したものに限られるものではなく、種々の構造とすることが可能である。また、検査対象部品200が円盤状である場合の外径の大きさも1種類だけでなく、種々の外径のものを検査対象とするような構造とすることも可能である。また、検査対象部品200の形状も円形である必要はなく、種々の形状のものを検査可能となるような構造とすることができ、また、厚みも種々の厚みのものを検査可能とするような構造とすることができる。
(5)上記各実施形態においては、1つの部品に形成されている微細孔は1つである場合を例示したが、1つの部品に微細孔が複数個存在する場合にも適用することができる。また、微細孔の断面形状は円形(真円)である場合を例示したが、円形に限られるものではなく、例えば、楕円などであってもよい。
(6)上記実施形態においては、微細孔は部品の表面と裏面との間を面に直交するように形成されている場合を例示したが、微細孔が部品の面に対して斜めに形成されていても上述の実施形態において説明した検査の実施が可能である。例えば、部品の面に対して例えば70度、45度、20度の角度で同じ径の微細孔を形成したものを70度サンプル、45度サンプル、20度サンプルとして製造し、これら各サンプルについて、マイクロホン170が検出した音圧レベルを計測する試験を行ったところ、微細孔の角度の違いを検出できた。
ただし、このような試験を行う際に、微細孔の角度を変えると、微細孔の面積が異なってくるので、単純な音圧レベルでの比較ができないため、音圧レベル/孔面積を求めて「孔面積当たりの音圧レベル」で比較した。その結果、微細孔の角度によって、「孔面積当たりの音圧レベル」が異なってくることが確かめられた。この結果から、部品に形成されている微細孔の角度の管理も可能となる。例えば、微細孔が正しい角度で形成されているか否かを判定することができる。