本明細書において使用される場合、「母性発現3(Meg3)」(GTL2;FP504;prebp1;PRO0518;PRO2160;LINC00023;NCRNA00023;又はonco-lncRNA-83としても公知である)は、母性発現され、インプリントされるlncRNA(Zhangら, (2010), Endocrinology 151(3) 939-47)を示す。ヒトMEG3遺伝子は染色体14q32.2に、マウスMeg3遺伝子は遠位染色体12に見出される。lncRNA Meg3は腫瘍抑制因子として作用することが公知である(Zhangら, (2003), J. Clin. Endocrinol. Metab. 88(11):5119-26)。より詳細には、Meg3は多数の正常組織において発現されるが、その発現は、様々な組織起源の複数の癌細胞株において失われている。Meg3はインビトロで腫瘍細胞増殖を抑制する。Meg3はまた腫瘍抑制因子p53と相互作用し、p53標的遺伝子発現を制御する。Meg3の欠失はインビボで血管新生を増強する。Meg3はさらに、マウス及びヒトにおいて出生前及び出生後の成長及び分化を制御する上で必須の役割を果たすことが公知である(Takahashiら(2009), Hum. Molec. Genet., 18:1879-1888)。その上、Meg3は内皮細胞の老化に関与する(Boon (2015), Physiology, Proc Physiol Soc 34, SA022)。最後に、ヒト及びマウスの線維性肝においてMeg3レベルの低下が検出された(Heら(2014), Biochim Biophys Acta, 1842(11):2204-15)。しかし、出願人の知る限り、心臓リモデリングにおけるMeg3の役割は、本発明によって初めて開示される。
本明細書中で用いる「ncRNA」又は「ノンコーディング(非コード)RNA」なる語は、タンパク質に翻訳されない機能性RNA分子を示す。非コードRNAが転写されるDNA配列は、当技術分野ではしばしばRNA遺伝子と称される。「lncRNA」又は「長鎖ノンコーディング(非コード)RNA」なる語は当技術分野で一般に用いられており、200個を超えるヌクレオチドを含むncRNAを示す。本明細書中で以下にさらに詳細に述べられるように、すべての公知のマウス及びヒトMeg3アイソフォームが200個を超えるヌクレオチドを有する。よって、Meg3はlncRNAである。
Meg3の発現を抑制する化合物は、本発明によれば、lncRNA Meg3をコードする遺伝子の転写を低下させる又は防止する化合物である。そのような化合物には、転写装置を妨げる、並びに/又は前記遺伝子のプロモーター及び/若しくはプロモーターから離れた発現制御エレメント、例えばエンハンサーとのその相互作用を妨げる化合物が含まれる。Meg3の発現を抑制する化合物は、例えば、lncRNAの発現を制御するプロモーター領域に特異的に干渉することにより、前記lncRNAの発現を特異的に抑制する。好ましくは、Meg3の転写は、少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%、例えば少なくとも90%又は95%、より一層好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは約100%低減される(例えば、当該化合物の非存在下において同一の実験セットアップと比較した場合に)。
本発明に従う、Meg3の活性を抑制する化合物は、前記lncRNAがその機能をより低い効率で果たすようにする。Meg3の活性を抑制する化合物は前記lncRNAの活性を特異的に抑制する。好ましくは、Meg3の活性は、少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%、例えば少なくとも90%又は95%、より一層好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは約100%低減される(例えば、当該化合物の非存在下において同一の実験セットアップと比較した場合に)。RNAの活性の低減を測定するための手段及び方法は当技術分野で確立されており、例えば、Esauら, (2004), JBC, 279:52361-52365又はGribbingsら, (2009), Nature Cell Biology 11, 1143-1149に記載されている。Meg3の活性を抑制する化合物はアンチセンス分子、siRNA、shRNA、抗体、リボザイム、アプタマー又は小分子でありうる。これら及び他の化合物は本明細書中で以下にさらに詳細に説明される。
抑制性化合物の効率は、阻害剤の存在下の活性のレベルを阻害剤の非存在下の活性レベルと比較する方法によって定量されうる。例えば、形成されるMeg3の量の変化は、その活性の測定に使用しうる。さらなる例としては、形成されるMMP2の量の変化は、その活性の測定に使用しうる(MMP2のダウンレギュレーションによるMeg3のダウンレギュレーションが、付随する実施例において示されていることに留意する)。そのような方法は、幾つかの抑制性化合物の効率を同時に試験するために、ハイスループット形式で行われうる。ハイスループットアッセイは、生化学アッセイ、細胞アッセイ又は他のアッセイに関わらず、一般に、マイクロタイタープレートのウェル内で実施可能であり、この場合、各プレートは96、384又は1536ウェルを含有しうる。周囲温度以外の温度でのインキュベーション及び試験化合物とアッセイ混合物との接触を含む、プレートの取り扱いは、好ましくは、ピペット装置を含む1以上のコンピューター制御ロボットシステムの影響を受ける。試験化合物の大きなライブラリーをスクリーニングし、及び/又は短時間でスクリーニングを行う場合、例えば10、20、30、40、50又は100個の試験化合物の混合物が各ウェルに添加されうる。ウェルが、予想される活性を示す場合、試験化合物の前記混合物は、前記活性を与える前記混合物中の1以上の試験化合物を特定するためにデコンボリューションされうる。
Meg3の発現及び/又は活性を抑制する化合物は、小胞、例えばリポソームとして製剤化してもよい。リポソームは、薬物送達の観点から、それらがもたらすその特異性及び作用持続時間ゆえに、大きな関心を集めている。リポソーム送達系は、siRNAのような核酸をインビボで細胞に効果的に送達させるために使用されている(Zimmermannら, (2006) Nature, 441:111-114)。リポソームは、親油性物質から構成される膜と水性内部とを有する単層又は多層の小胞である。水性部分は、送達される組成物を含む。カチオン性リポソームは、細胞壁に融合することができるという利点を有する。非カチオン性リポソームは、同じ位効率的に細胞壁に融合することはできないが、インビボでマクロファージ及び他の細胞によって貪食される。
Meg3の発現及び/又は活性を抑制する化合物は、好適な投与量で対象に投与されうる。投与レジメンは主治医及び臨床的要因によって決定される。医学分野において周知のとおり、任意の1人の患者のための投与量は、患者のサイズ、体表面積、年齢、投与される個々の化合物、性別、投与の時間及び経路、一般的健康状態、並びに同時に投与される他の薬物を含む多数の要因に左右される。与えられた状況に関する治療的有効量は通常の実験によって容易に決定され、通常の臨床家又は医師の技量及び判断の範囲内である。一般に、医薬組成物の規則的投与としてのレジメンは1日当たり1μg〜5g単位の範囲内であるべきである。しかし、より好ましい投与量は1日当たり0.01mg〜100mgの範囲内であり、さらにより好ましくは0.01mg〜50mgの範囲内であり、最も好ましくは0.01mg〜10mgの範囲内である。さらに、例えば前記化合物がsiRNAなどの核酸分子を含むか又はそれであるならば、投与される医薬組成物の薬学的に効果的な全体量は、典型的には体重1kg当たり約75mg未満、例えば体重1kg当たり約70、60、50、40、30、20、10、5、2、1、0.5、0.1、0.05、0.01、0.005、0.001又は0.0005mg未満である。より好ましくは、当該量は体重1kg当たり2000nmol未満の核酸分子であり、例えば、体重1kg当たり1500、750、300、150、75、15、7.5、1.5、0.75、0.15、0.075、0.015、0.0075、0.0015、0.00075又は0.00015nmol未満である。
変化を観察するために必要な治療期間、及び反応が起きるための治療後の期間は、望まれる効果によって変わる。個別の量は、当業者に周知の標準の試験によって決定されうる。好適な試験は、例えば、Tamhane and Logan (2002), “Multiple Test Procedures for Identifying the Minimum Effective and Maximum Safe Doses of a Drug”, Journal of the American statistical association, 97(457):1-9に述べられている。
Meg3の発現及び/又は活性を抑制する化合物は、好ましくは医薬上許容される担体又は賦形剤と混合されて医薬組成物とする。「医薬上許容される担体又は賦形剤とは任意のタイプの無毒性の固体、半固体又は液体の充填剤、希釈剤、カプセル化材料又は製剤助剤を意味する(Handbook of Pharmaceutical Excipients 6ed. 2010, Pharmaceutical Press発行も参照されたい)。Meg3の発現及び/又は活性を抑制する化合物又は医薬組成物は、任意選択で標準の医薬上許容される担体又は賦形剤を含む投与単位剤形で、例えば、経口で、非経口で、例えば、皮下で、血管内に、筋内に、腹腔内に、くも膜下腔内に、経皮的に、経粘膜的に、硬膜下に、イオントフォレーシスによって局所的(locally)に若しくは局所的に(topically)、舌下に、吸入噴霧若しくはエアロゾルによって、直腸に、などによって投与されうる。
心臓リモデリングなる語は、本明細書において心臓の構造(例えば、大きさ、重量、形状)の変化として規定される。心臓リモデリングは、神経ホルモン活性化に付随して、血行動態の負荷及び/又は心損傷に反応して発生しうる。リモデリングは生理的又は病理学的なものとして記載されうる。例えば、病理学的な(又は不健康な)心臓リモデリングは、例えば、健康的な運動又は妊娠に対する心臓の正常な反応である、生理的(又は健康的な)心臓リモデリング(「スポーツ心臓」のような心臓リモデリング)とは区別されるべきものである。健康な被験者の中ではボートの漕ぎ手又はサイクリストは平均左心室壁厚が1.3センチメートルの最大の心臓を有する傾向にあり、一方、平均成人では1.1センチメートルである。心臓リモデリングは、本発明によれば、不健康な心臓リモデリング又は病理学的リモデリング、例えば、ストレス又は疾患、例えば高血圧、心筋損傷(心筋梗塞)、心不全又は神経ホルモンに反応する心臓リモデリングである。リモデリング過程は、好ましくは心筋重量の増加を含む。
圧負荷のマウスモデル(すなわちTACマウス)についての本明細書において以下の実施例から理解されうるように、lncRNA Meg3は心臓リモデリングの発症において役割を果たす。より詳細には、実施例において心臓リモデリングは横行大動脈狭窄(TAC)によってC57Bl/6Nマウスにおいて誘導され、心臓線維芽細胞を含む心臓細胞が手術の13週後TAC及びシャム(sham)マウスから単離された。TAC及びシャム心臓線維芽細胞におけるLncRNAプロファイリングは、Arraystar's Mouse LncRNA Expression Microarray V2.0により行った。Meg3は、心臓線維芽細胞において最も多いlncRNAであり圧負荷中に最も強く調節されるものの中から同定された。リアルタイムPCRによりTAC線維芽細胞におけるMeg3のダウンレギュレーションが確認された一方で、心筋細胞又は内皮細胞では何ら調節は観察されなかった。さらに、健康なマウスの心筋細胞及び内皮細胞におけるMeg3の発現レベルは、健康なマウスの心臓線維芽細胞において見出される転写産物レベルのそれぞれ2%及び20%のみを示した。心臓におけるMeg3発現は、TACの過程の間にダイナミックに調節され、アップレギュレーションは圧負荷の4週後に起き、ダウンレギュレーションは6週後にのみ明らかになるようである。成体マウスから単離された初代培養心臓線維芽細胞では、Meg3は核lncRNAであり、細胞クロマチンに厳密に局在しているようである。マウス及びヒト心臓線維芽細胞においてアンチセンスオリゴヌクレオチド(LNA GapmeRs、Exiqon)のトランスフェクションによりこのlncRNAをサイレンシングすると、サイトカイン、ケモカイン、成長因子及びMMPを含む、心臓リモデリングに関わる幾つかの遺伝子の転写調節をもたらした。特に、Meg3のインビトロサイレンシングは、MMP2のダウンレギュレーション、及びMMP2転写のTGF-ベータに誘導される増加の抑制を伴う。MMP2欠失はTAC誘導性心臓リモデリングのマウスモデルにおいて肥大及び線維症を回復させ、拡張機能の改善をもたらすことが報告されている(Matsusaka Hら, Hypertension. 2006 Apr; 47(4):711-7. Epub 2006 Feb 27)。本明細書における以下の実施例では、マウスを6週のTAC、及び1週目から終点までのMeg3の持続的サイレンシングに供した。サイレンシングはLNA GapmeRsにより達成され、MMP2のTAC誘導性のアップレギュレーションを防止し、心臓線維症の低減、線維化促進分子の発現の減少、肥大マーカーの発現の低下、及び心筋細胞断面積の減少に裏付けられるように、心臓リモデリングを大幅に低減した。駆出率及び短縮率はMeg3レベルによって影響されなかったが、パルスドップラー心エコー検査により測定された左心室心筋機能指数は、指数の数値がシャムマウスのものと同等であり、心臓の機能的改善を明らかにした。さらに、Meg3のインビボの薬理学的サイレンシングは、炎症細胞の浸潤の増加、又は、後期心臓リモデリング段階に発生しMMP2レベルを追い抜いて心不全をもたらすことが報告されているMMP9発現の増加をもたらさなかった(Givvimani S.ら, Arch Physiol Biochem. 2010 May;116(2):63-72)。Meg3のサイレンシングがTAC後のLV重量を減少させ、心臓収縮能に影響せずに大幅により良い心臓拡張機能をもたらすこともまた実施例において示される。これらの実験上の知見に基づいて、心臓におけるMeg3のサイレンシングが心臓リモデリングの治療及び予防のための治療アプローチであることが示されている。
本発明の第1態様の好ましい実施形態によれば、心臓リモデリングは駆出率が保たれた心不全(HFpEF)である。
駆出率が保たれた心不全(HFpEF)(拡張期心不全とも呼ばれる)は、心不全の徴候及び症状が正常な駆出率(>50%)を伴って顕在化するものとして一般に理解されている。HFpEFは心臓リモデリング、特に左心室コンプライアンスの減少を特徴とし、左心室の圧力増大をもたらす。したがって、求心性リモデリング(LV肥大を有する、又は有しない)が多くのHFpEF患者に見られる。左心房サイズの増大もまた、左心室心臓拡張機能不良の結果としてHFpEFでしばしばみられる。うっ血性心不全、心房細動及び肺高血圧の発症のリスクが増大する。危険因子は、高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙及び閉塞性睡眠時無呼吸である。HFpEF患者の罹患率及び死亡率は、心不全(HF)かつEF低下の患者(すなわち、HFrEF患者)で観察される数値と類似している。しかし、これまで効果的な治療はHFpEFに対して何ら見つかっていない(Borlaug及びPaulusら, (2014), Eur Heart J., 32(6):670-679)。この理由により、本明細書に開示される治療手段及び方法は、HFpEF患者又はHFpEFになるリスクのある患者にとって特に重要である。本明細書に開示される抗MEG3アプローチは、HFpEFの治療及び予防のための理想的なアプローチであるようである。
本発明の第1態様の別の好ましい実施形態によれば、心臓リモデリングは、駆出率が低下した心不全(HFrEF)、心筋梗塞に関係した心臓リモデリング、遺伝性心疾患に関連した心臓リモデリング、心肥大及び/又は心線維症である。
Meg3の抑制の心臓リモデリングに対する直接的な効果は、心臓リモデリングのために十分に確立されたTACマウスモデルに基づいて、本願の実施例において示される(Meiら、(2006), Clin Exp Pharmacol Physiol.; 33(9):773-9.)。以下により詳細に説明されるように、この好ましい実施形態において列挙されるすべての心臓病態は心臓リモデリングに関連し、したがって、Meg3の発現及び/又は活性を抑制する化合物によって、本発明に従って治療又は予防されうる。
駆出率が低下した心不全(HFrEF)(収縮期心不全とも呼ばれる)は、心不全の徴候及び症状が40%未満の駆出率を伴って顕在化するものとして一般に理解されている。HFrEFは、一般的に、左心室が収縮機能不良を伴いながら膨張し拡大する際に発生する。HF患者の約50%がHFpEFを有し、心不全患者の約50%がHFrEFを有する。HfpEFとちょうど同じように、HFrEFは心臓リモデリング、特に左心室コンプライアンスの低下を特徴とし、左心室における圧力の増大をもたらす。
心筋梗塞(MI)は一般的に心臓発作として知られている。MIは、血流が心臓の一部に止まる際に発生し、心筋に損傷を引き起こす。MIの後、典型的には梗塞後心臓リモデリングが観察される。より詳細には、MIによって引き起こされる心筋の急性の喪失は、結果として負荷条件の急激な増加をもたらし、これは、梗塞境界域、及び離れた非梗塞心筋を巻き込んだ特有なパターンのリモデリングを誘導する。筋細胞壊死及びその結果として起きる負荷の増大は、拡大、肥大、及び分散型膠原瘢痕の形成を含む修復変化を開始しその後調節する、生化学的細胞内シグナリング過程のカスケードの引き金を引く。特に、心室リモデリングは、MIの後、拡張力が膠原瘢痕の張力によって均衡されるまで、数週又は数か月持続しうる。MI後の梗塞後心臓リモデリングは本明細書において「心筋梗塞関連心臓リモデリング」と称する。
遺伝性(genetic)(又は遺伝性(inherited))心疾患は、世代から世代へ受け渡される遺伝子の変化によって引き起こされる。多くの異なるタイプの心疾患は遺伝しうる。例として、遺伝性心筋症と呼ばれる、心筋に影響する病態、例えば、肥大型心筋症、拡張型心筋症、ファブリー病(Morbus Fabry disease)、アミロイドーシス及び不整脈原性右室心筋症が挙げられる。これらの例にはまた心臓リモデリングも含まれる。心臓リモデリングに関連する遺伝性心疾患の具体的な例は、以下に限定されないが、遺伝性肥大型心筋症(例えば、家族性肥大型心筋症)又はファブリー病(Morbus Fabry disease)が含まれる。
心肥大は、筋細胞数の増加を伴わない心臓サイズの増加として定義される。これは心臓壁の肥厚をもたらす。病理学的な心肥大は、高血圧、弁疾患及び心筋梗塞(MI)のような種々の形態のストレスに起因する血行力学的過負荷に応答して生じる。心臓の長期的な肥大成長は心臓不整脈、心不全をもたらし、突然死を招きうる(Frey and Olso (2003), Annu Rev Physiol; 65: 45-79)。したがって、心肥大は、本発明においては、不健康な心肥大(又は病的肥大)、例えば、ストレス又は疾患、例えば高血圧、心筋傷害(心筋梗塞)、心不全又は神経ホルモンに応答する心肥大である。
一般に線維症(線維化)は、線維芽細胞の増殖、及び細胞外マトリクス(ECM)タンパク質の過剰な沈着を特徴とする瘢痕化過程であり、これは器官の構造と機能の異常につながる。心線維症は、したがって、心筋における線維芽細胞の増殖、及びECMタンパク質(特にコラーゲン)の過剰な沈着を指す。線維芽細胞の増殖は一般的に心臓、特に心臓弁の異常な肥厚につながる。線維性ECMは、硬直の増大を引き起こし、進行性心不全を結果としてもたらす心筋細胞内の病理学的なシグナリングを誘導する。また、過剰なECMは、心筋細胞の機械-電気的カップリングを損ない、不整脈のリスクを増加させる。線維芽細胞は、過剰な線維性ECMの沈着の主要原因であり、活性化線維芽細胞はパラクリン機構によって心筋細胞の肥大化を直接引き起こし、心臓機能障害にさらに寄与しうる(Krenningら, (2010), J Cell Physiol; 225(3):631-637)。
本発明の第1態様のより好ましい実施形態によれば、心肥大は心室肥大、好ましくは左心室肥大であり、かつ/又は心線維症は心室線維症、好ましくは左心室線維症である。
心肥大のほとんどの症例並びに心線維症のほとんどの症例は、心室に影響を及ぼす。左心室肥大及び線維症がより一般的であるが、心肥大及び線維症は右心室又は両方の心室でも生じうる。心室は、肺(右心室)又は体の残りの部分(左心室)に血液を送り出す心臓の室である。
本発明の第1態様のさらに好ましい実施形態によれば、Meg3は配列番号1〜21からなる群より選択される核酸配列を含む又はそれからなる。
本発明によれば、「核酸配列」又は「ヌクレオチド配列」なる語は、DNA及びRNAを含む。配列番号1〜21はlncRNA Meg3の配列であり、したがって一本鎖RNA配列である。本明細書において以下でさらに詳述されるように、Meg3の発現を抑制するヌクレオチドベースの化合物は、DNA配列(例えばLNA GapmeR)又はRNA配列(例えばsiRNA)を含みうる。また、本明細書において以下でさらに詳述されるように、Meg3の発現を抑制するヌクレオチドベースの化合物は、一本鎖(例えばLNA GapmerR)または二本鎖(例えばsiRNA)であってもよい。「核酸配列」なる語は、本発明によれば、「ポリヌクレオチド配列」なる語と互換的に使用される。短い「核酸配列」はまた、本明細書において「オリゴヌクレオチド配列」と呼ばれる。オリゴヌクレオチド配列は長さが50ヌクレオチド未満であり、好ましくは40ヌクレオチド未満であり、最も好ましくは30ヌクレオチド未満である。
ヒトでは、MEG3の少なくとも12の異なるアイソフォームが選択的スプライシングによって生成される(Zhangら, (2010), Endocrinology; 151(3):939-947)。またマウスではMeg3の複数のアイソフォームが見出された(Schuster-Gosslerら, (1998), Dev Dyn; 212(2):214-28)。本明細書では、配列番号1〜7はマウスMeg3のこれまでに知られている7つの異なるアイソフォーム(本明細書ではマウスMeg3アイソフォーム1〜7と称する)を示す。7つのマウスアイソフォームはすべて配列番号8のコア配列を共有し、このコア配列はマウスMeg3遺伝子のエキソン5に対応する。配列番号9〜20はヒトMeg3の公知の12の異なるアイソフォームを示す(本明細書ではヒトMeg3アイソフォーム1〜12と称する)。12のヒトアイソフォームはすべて配列番号21のコア配列を共有し、このコア配列はヒトMeg3遺伝子のエキソン5に対応する。マウス及びヒトMeg3のコア配列は進化上高度に保存されており、配列同一性が89%である。したがって、Meg3は配列番号8又は配列番号21の核酸配列を含み、より好ましくは配列番号21のヒトMeg3コア配列を含む。配列番号1〜7及び9〜20は200ヌクレオチドを超える配列、すなわち706〜14548ヌクレオチドの範囲の配列を含む。したがって配列番号1〜7及び9〜20はlncRNAである。
本発明の第1態様のさらにその上好ましい実施形態によれば、Meg3の発現及び/又は活性を抑制する化合物は、小分子阻害剤、ヌクレオチドベースの阻害剤、又はアミノ酸ベースの阻害剤である。
小分子阻害剤は、定義上ポリマーではない低分子量有機化合物である。本発明の小分子は、Meg3に高親和性で結合し、その上Meg3の活性を抑制する分子である。小分子の上限分子量は、好ましくは1500Daであり、より好ましくは1000Daであり、最も好ましくは800Daであり、これは、それが細胞内の作用部位に到達しうるように細胞膜を急速に拡散する可能性をもたらす。小有機分子のライブラリー、及び特異的標的分子、本願の場合ではlncRNA Meg3であり、好ましくは配列番号1〜21からなる群より選択されるポリヌクレオチドでそのようなライブラリーをスクリーニングするためのハイスループット技術。配列番号1〜21のうち、配列番号8及び21が好ましく、配列番号21が最も好ましい。配列番号8のマウスMeg3コア配列を標的とすることによって、公知のすべてのマウスMeg3アイソフォームを抑制することが可能であり、配列番号21のヒトMeg3コア配列を標的とすることによって、公知のすべてのヒトMeg3アイソフォームを抑制することが可能である。配列番号8及び21の89%の配列相同性を考えると、単一の小分子阻害剤によってマウス及びヒトMeg3アイソフォームを標的とすることもまた可能でありうる。
ヌクレオチドベースの阻害剤は核酸配列を含む又はそれからなる。核酸は好ましくは配列番号1〜21のうち1つ以上の少なくとも12個の連続的ヌクレオチドの核酸配列に相補的である。配列番号1〜21のうち、配列番号8及び21が好ましく、配列番号21が最も好ましい。ヌクレオチドベースの阻害剤は、RNA、DNA、又はその両方を含む又はそれからなりうる。本発明のヌクレオチドベースの阻害剤はMeg3に特異的に結合し、その上Meg3の活性を抑制する分子である。本明細書で使用される場合、特異的結合とは、阻害剤がlncRNA Meg3を特異的に標的とし、特に他の細胞核酸分子に対して、実質的にいかなるオフターゲット抑制効果も生じないことを意味する。配列番号8に特異的に結合するヌクレオチドベースの阻害剤は、公知のすべてのマウスMeg3アイソフォームを抑制することが可能であり、配列番号21に特異的に結合するヌクレオチドベースの阻害剤は、公知のすべてのヒトMeg3アイソフォームを特異的に抑制することが可能である。配列番号8及び21の89%の配列相同性を考えると、マウス及びヒトMeg3アイソフォームを特異的に抑制するヌクレオチドベースの阻害剤を選択又は設計することもまた可能でありうる。
アミノ酸ベースの阻害剤は、アミノ酸配列、好ましくは少なくとも25個のアミノ酸配列、より好ましくは少なくとも50アミノ酸を含む又はそれからなる。本発明のアミノ酸ベースの阻害剤は、Meg3に特異的に結合し、その上Meg3の活性を抑制する分子である。アミノ酸ベースの阻害剤は、好ましくは天然アミノ酸を含むが、非天然アミノ酸をも含みうる。アミノ酸ベースの阻害剤は好ましくは、配列番号1〜21のうち1つ以上から選択される核酸配列に特異的に結合するように選択又は設計される。配列番号1〜21のうち、配列番号8及び21が好ましく、配列番号21が最も好ましい。配列番号8に特異的に結合するアミノ酸ベースの阻害剤は、公知のすべてのマウスMeg3アイソフォームを抑制することが可能であり、配列番号21に特異的に結合するアミノ酸ベースの阻害剤は、公知のすべてのヒトMeg3アイソフォームを特異的に抑制することが可能である。配列番号8及び21の89%の配列相同性を考えると、マウス及びヒトMeg3アイソフォームを特異的に抑制するアミノ酸ベースの阻害剤を選択又は設計することもまた可能でありうる。
本発明の第1態様のさらにその上好ましい実施形態によれば、ヌクレオチドベースの阻害剤はアプタマー、リボザイム、siRNA、shRNA又はアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、LNA-GapmeR、Antagomir又はantimiR)であり、アミノ酸ベースの阻害剤は抗体又はタンパク質薬物である。
本実施形態のアプタマー、リボザイム、抗体、タンパク質薬物、siRNA、shRNA又はアンチセンスオリゴヌクレオチドは、Meg3に特異的に結合し、それによってMeg3の活性を抑制する。
本発明における「アプタマー」なる語は、他の分子と結合する能力に基づいてランダムプールから選択された、天然のD-コンホメーション又はL-コンホメーション(「シュピーゲルマー」)のいずれかであるDNA又はRNA分子を意味する。核酸、タンパク質、有機低分子化合物、更には生物全体に結合するアプタマーが選択されている。アプタマーのデータベースはhttp://aptamer.icmb.utexas.edu/で管理されている。より詳細には、アプタマーはDNA若しくはRNAアプタマー又はペプチドアプタマーとして分類されうる。前者はオリゴヌクレオチドの(通常は短い)鎖からなり、後者は、両末端においてタンパク質スカフォールドに結合した短い可変ペプチドドメインからなる。核酸アプタマーは、反復ラウンドのインビトロ選択によって、又は同等に、SELEX(指数関数的富化によるリガンドの系統的進化)によって操作されて、小分子、タンパク質、核酸、そして更には細胞、組織及び生物のような様々な分子標的に結合するようにされた核酸種である。本発明により想定される分子標的は、核酸、すなわち、lncRNA Meg3である。したがって、アプタマーは本発明の標的分子に対して産生されうる。アプタマーは、一般に使用されている生体分子、特に抗体の分子認識特性に匹敵する分子認識特性をもたらすため、バイオテクノロジー及び治療用途に有用である。アプタマーは、それらの識別的な認識に加えて、試験管内で完全に操作可能であり、化学合成によって容易に産生され、所望の保存特性を有し、治療用途において免疫原性をほとんど又は全く惹起しないため、抗体と比較した場合の利点をもたらす。非修飾アプタマーは数分〜数時間の半減期で血流から迅速に除去される。これは、主に、ヌクレアーゼ分解、及び腎臓による身体からのクリアランスによるものであり、アプタマーに固有の低い分子量の結果である。アプタマーの迅速なクリアランスはインビボ診断イメージングのような用途において有利でありうる。2'-フッ素置換ピリミジン、ポリエチレングリコール(PEG)結合などのような幾つかの修飾が科学者に利用可能であり、それにより、アプタマーの半減期が日又は更には週の時間スケールにまで容易に増加されうる。
「リボザイム」なる語は、タンパク質の非存在下で酵素として作用するRNA分子を意味する。これらのRNA分子は触媒的又は自己触媒的に作用し、例えば特定の標的部位で他のRNAを切断しうるが、それらは、リボソームのアミノトランスフェラーゼ活性を触媒することも見出されている。適切な標的部位及び対応するリボザイムの選択は、例えばZaher及びUnrau (2007), RNA 13(7):1017-1026に記載されているとおりに行われうる。よく特徴づけされた小さな自己切断性RNAの例として、ハンマーヘッド、ヘアピン、肝炎デルタウイルス、及びインビトロ選択リード依存性リボザイムが挙げられる。これらの小さな触媒の構成は、グループIイントロンのようなより大きなリボザイムのものとは対照的である。触媒的自己切断の原理は過去10年間に十分に確立された。ハンマーヘッドリボザイムは、リボザイム活性を有するRNA分子の中で最もよく特徴付けられている。ハンマーヘッド構造は異種RNA配列内に組み込まれることが可能であること、及びそれによってリボザイム活性がこれらの分子に転移されうることが示されたため、標的配列が潜在的合致切断部位を含有するならば、ほとんどあらゆる標的配列に対する触媒配列が作製されうるようである。ハンマーヘッドリボザイムを構築する基本原理は以下の通りである。GUC(又はCUC)トリプレットを含有する、RNAの関心領域を選択する。各々6〜8ヌクレオチドを有する2つのオリゴヌクレオチド鎖を採取し、それらの間に触媒ハンマーヘッド配列を挿入する。このタイプの分子を多数の標的配列について合成した。それらは、インビトロ及び場合によってはインビボで触媒活性を示した。最良の結果は、通常、短いリボザイム及び標的配列で得られる。標的配列は本発明によればRNA配列であるから、Meg3を特異的に切断することが可能であるリボザイムの生成では、Meg3が真正の標的である。
アプタマー及びリボザイムはロックト核酸(LNA)のような修飾ヌクレオチドを含みうる。
本発明において用いる「抗体」なる語は、例えば、ポリクローナル又はモノクローナル抗体を含む。更に、結合特異性を依然として保持しているその誘導体又は断片も「抗体」なる語に含まれる。抗体フラグメント又は誘導体は、とりわけ、Fab又はFab 'フラグメント、Fd、F(ab')2、Fv又はscFvフラグメント、単一ドメインVH又はV様ドメイン、例えばVhH又はV-NARドメイン、及び多量体形態、例えばミニボディ、ジアボディ、トリボディ、テトラボディ、又は化学的にコンジュゲート化されたFab'-多量体を含む(例えば、Altshulerら, Biochemistry (Mosc). 2010 Dec; 75(13):1584-605、Holliger及びHudson, Nat Biotechnol., 2005; 23(9):1126-36を参照されたい)。「抗体」なる語はまた、キメラ(ヒト定常ドメイン、非ヒト可変ドメイン)、一本鎖及びヒト化(非ヒトCDR以外はヒト抗体)抗体などの実施形態も含む。抗体及びそのフラグメントの製造のための様々な技術は当技術分野で周知であり、例えば、Altshulerら, Biochemistry (Mosc). 2010 Dec; 75(13):1584-605に記載されている。したがって、ポリクローナル抗体は、添加物及びアジュバントと混合された抗原での免疫化の後の動物の血液から入手可能であり、モノクローナル抗体は、連続細胞株培養によって産生される抗体を与える任意の技術によって製造されうる。そのような技術の例は、例えばHarlow及びLane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1988並びにHarlow and Lane, Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1999に記載されており、Koehler及びMilstein, Nature 256 (1975), 495-497により最初に記載されたハイブリドーマ技術、トリオーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(例えば、Kozbor, Immunology Today 4 (1983), 72; Milstein, C (1999), BioEssays 21 (11): 966-73.を参照されたい)及びヒトモノクローナル抗体を産生するEBV-ハイブリドーマ技術(Coleら, Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc. (1985), 77-96)を含む。更に、組換え抗体はモノクローナル抗体から入手可能であり、あるいはファージ、リボソーム、mRNA又は細胞ディスプレイのような様々なディスプレイ法を用いてデノボ(de novo)製造されうる。組換え(ヒト化)抗体又はそのフラグメントの発現のための適切な系は、例えば、細菌、酵母、昆虫、哺乳類細胞株又はトランスジェニック動物若しくは植物(例えば、米国特許第6,080,560号; Holliger及びHudson, Nat Biotechnol., 2005; 23(9):1126-36)から選択されうる。更に、一本鎖抗体の製造に関して記載されている技術(とりわけ、米国特許第4,946,778号を参照されたい)は、本発明の標的に特異的な一本鎖抗体を製造するために適合させることができる。BIAcore系で使用される表面プラズモン共鳴を用いて、ファージ抗体の効率を高めることができる。
「タンパク質薬物」なる語は、ヒトタンパク質の誘導体であるデザイナー薬物を示す。これらのタンパク質は、十分に確立されたスクリーニング法によってタンパク質薬物を作製するための骨格(スカフォールド)として使用される(Tomlinsonら(2004), Nature Biotechnology, 22(5): 521-522を参照されたい)。タンパク質薬物を設計するための骨格として役立つヒトタンパク質の非限定的な例としては、トランスフェリン、C型レクチン、トリネクチン、ドメイン抗体、クニッツドメイン、リポカリン及びFyn SH3ドメインが挙げられる。
RNAのダウンレギュレーションのためのアンチセンス技術は十分に確立されており、様々な疾患を治療するために当技術分野で幅広く使用されている。アンチセンス技術の基本的な考えは、相補性に基づく対合の優れた特異性によって、選択された標的RNAをサイレンシングするためにオリゴヌクレオチドを使用することである(Re, Ochsner J. 2000 Oct; 2(4): 233-236)。本明細書において以下でsiRNA、shRNA及びアンチセンスオリゴヌクレオチドのアンチセンス構築物化合物クラスの詳細が提供される。本明細書において以下でさらに詳細に述べるように、アンチセンスオリゴヌクレオチドは一本鎖アンチセンス構築物である一方で、siRNA及びshRNAは一方の鎖がアンチセンスオリゴヌクレオチド配列を含む(すなわち、所謂アンチセンス鎖)、二本鎖アンチセンス構築物である。これらの化合物クラスのすべてが標的RNAのダウンレギュレーション又は抑制を達成するために使用されうる。
本発明によれば、アンチセンス構築物全般、並びに本明細書に記載される特定のクラスのアンチセンス構築物全部の標的は、lncRNA Meg3である。したがって、標的は好ましくは配列番号1〜21のうち1つ以上から選択される核酸配列である。配列番号1〜21のうち配列番号8及び21が好ましく、配列番号21が最も好ましい。配列番号8を標的とすることによって、公知のすべてのマウスMeg3アイソフォームをダウンレギュレートすることが可能であり、配列番号21を標的とすることによって、公知のすべてのヒトMeg3アイソフォームをダウンレギュレートすることが可能である。配列番号8及び21の89%の配列相同性を考えると、単一のアンチセンス構築物によってマウス及びヒトMeg3アイソフォームを標的とすることもまた可能でありうる。
配列番号21について、並びに配列番号9〜20(これは配列番号21のコア配列を含む)について、アンチセンス構築物は、配列番号22の18ヌクレオチド又は配列番号22の部分配列に示される配列番号21の一部を標的としないことがさらに好ましい。配列番号22に示されるヒトMeg3コア配列の一部は、DNM3反対鎖/アンチセンスRNA、miRNA 3120及びmiRNA 214に100%同一である。したがって、標的が配列番号22又はその部分配列である場合は、オフターゲット効果を排除できない。アンチセンス構築物の相補的核酸配列、又はそれによって含まれる相補核酸配列の配列番号22との部分的重複は、オフターゲット効果を伴わずにMeg3の特異的抑制が達成される限り、一般的に許容可能である。オフターゲットが何らダウンレギュレートされないことを保証するためにすべてのオフターゲットに対して十分な数のヌクレオチドミスマッチを有するアンチセンス構築物を設計することは、アンチセンス技術の分野では日常的な事項である。
本発明における「siRNA」なる語は低分子干渉RNA(短い干渉RNA又はサイレンシングRNAとしても公知である)を意味する。siRNAは、生物学において様々な役割を果たす、12〜30、好ましくは18〜30、より好ましくは20〜25、最も好ましくは21〜23又は21ヌクレオチド長の二本鎖RNA分子のクラスである。最も顕著なことに、siRNAは、siRNAが特定の遺伝子の発現を妨害するRNA干渉(RNAi)経路に関与する。RNAi経路におけるそれらの役割に加えて、siRNAはまた、例えば抗ウイルスメカニズムとして、又はゲノムのクロマチン構造を形成する際に、RNAi関連経路において作用する。siRNAは、明確な構造、すなわち、短い二本鎖のRNA(dsRNA)を有し、有利には、オーバーハング(突出部)を有する少なくとも1つのRNA鎖を伴う。各鎖は、典型的には、5'リン酸基及び3'ヒドロキシル(-OH)基を有する。この構造は、長いdsRNA又は小さなヘアピンRNAのいずれかをsiRNAに変換する酵素であるダイサー(dicer)によるプロセシングの結果である。siRNAはまた、細胞内に外因的に(人工的に)導入されて、関心のある遺伝子の特異的ノックダウンをもたらしうる。したがって、配列が知られている任意の遺伝子は、原則として、適切に操作されたsiRNAとの配列相補性に基づいて標的化されうる。二本鎖RNA分子又はその代謝加工産物は、標的特異的核酸修飾、特にRNA干渉及び/又はDNAメチル化を媒介しうる。また、好ましくは、少なくとも1つのRNA鎖は5'-及び/又は3'-オーバーハングを有する。好ましくは、二本鎖の一端又は両端は、1〜5ヌクレオチド、より好ましくは1〜3ヌクレオチド、最も好ましくは2ヌクレオチドの3'-オーバーハングを有する。一般に、siRNAとして作用するのに適した任意のRNA分子が本発明において想定される。最も効率的なサイレンシングは、2ntの3'-オーバーハングを有するように対になった、21ntのセンス及び21ntのアンチセンス鎖から構成されるsiRNA二本鎖を使用して、これまでに得られている。2ntの3'オーバーハングの配列は、第1の塩基対に隣接する不対ヌクレオチドに限定された標的認識の特異性に小さな寄与をする(Elbashirら, Nature. 2001 May 24; 411(6836):494-8)。3 'オーバーハング中の2'-デオキシヌクレオチドはリボヌクレオチドと同等に効率的であるが、しばしば、安価に合成でき、おそらく、ヌクレアーゼに対して、より耐性である。本発明のsiRNAは、本明細書において上述の配列番号1〜21のうちの好ましい標的配列を含む、配列番号1〜21から選択される1つ以上の少なくとも13ヌクレオチド、少なくとも14ヌクレオチド、少なくとも15ヌクレオチド、少なくとも16ヌクレオチド、少なくとも17ヌクレオチド、少なくとも18ヌクレオチド、少なくとも19ヌクレオチド、少なくとも20ヌクレオチド、又は少なくとも21ヌクレオチド(この順序で好ましさが増加する)に相補的な配列を含む又はそれからなるアンチセンス鎖を含む。例えば、配列番号9〜21について、アンチセンス構築物は部分配列である配列番号22又はその部分配列を標的としないことがさらに好ましい。これらの少なくとも13ヌクレオチド、少なくとも14ヌクレオチド、少なくとも15ヌクレオチド、少なくとも16ヌクレオチド、少なくとも17ヌクレオチド、少なくとも18ヌクレオチド、少なくとも19ヌクレオチド、少なくとも20ヌクレオチド、又は少なくとも21ヌクレオチドは、好ましくは、本明細書において上述の配列番号1〜21のうちの好ましい標的配列を含む、配列番号1〜21から選択される1つ以上の連続部分である、すなわち、該ヌクレオチドはそれぞれの配列番号において連続している。例えば、配列番号9〜21について、アンチセンス構築物は部分配列である配列番号22又はその部分配列を標的としないことがさらに好ましい。
siRNAの好ましい例は、エンドリボヌクレアーゼにより調製されたsiRNA(esiRNA)である。esiRNAは、大腸菌(Escherichia coli)RNaseIII又はダイサーのようなエンドリボヌクレアーゼによる長い二本鎖RNA(dsRNA)の切断から生じるsiRNAオリゴの混合物である。esiRNAはRNA干渉(RNAi)のための化学合成siRNAの利用のもう1つの概念である。esiRNAの生成のために、lncRNA鋳型のcDNAをPCRによって増幅し、2つのバクテリオファージ-プロモーター配列でタグ付けすることが可能である。ついで、RNAポリメラーゼを使用して、標的遺伝子cDNAに相補的な長い二本鎖RNAを生成させる。ついで、この相補的RNAは大腸菌(Escherichia coli)由来のRNアーゼIIIで消化されて、18〜25塩基対の長さを有するsiRNAの短い重複断片を与えうる。短い二本鎖RNAのこの複雑な混合物は、インビボでのダイサー(Dicer)切断によって生成される混合物に類似しており、したがって、エンドリボヌクレアーゼ調製siRNA又は短いesiRNAと称される。したがって、esiRNAは、同じmRNA配列を全てが標的とするsiRNAの不均一混合物である。esiRNAは非常に特異的かつ効果的な遺伝子サイレンシングをもたらす。
本発明における「shRNA」は、短いヘアピンRNAであり、これは、RNA干渉を介して遺伝子発現をサイレンシングするためにも使用されうる(タイトな)ヘアピンターンを作るRNAの配列である。shRNAは、好ましくは、その発現のためにU6プロモーターを利用する。shRNAヘアピン構造は細胞機構によってsiRNAに切断され、ついでこれはRNA誘導性サイレンシング複合体(RISC)に結合する。この複合体は、それに結合しているshRNAに合致したmRNAに結合し、それを切断する。本発明のshRNAは、本明細書において上述の配列番号1〜21のうちの好ましい標的配列を含む、配列番号1〜21から選択される1つ以上の少なくとも13ヌクレオチド、少なくとも14ヌクレオチド、少なくとも15ヌクレオチド、少なくとも16ヌクレオチド、少なくとも17ヌクレオチド、少なくとも18ヌクレオチド、少なくとも19ヌクレオチド、少なくとも20ヌクレオチド、又は少なくとも21ヌクレオチド(この順序で好ましさが増加する)に相補的な配列を含む又はそれからなるアンチセンス鎖を含む。例えば、配列番号9〜21について、アンチセンス構築物は部分配列である配列番号22又はその部分配列を標的としないことがさらに好ましい。これらの少なくとも13ヌクレオチド、少なくとも14ヌクレオチド、少なくとも15ヌクレオチド、少なくとも16ヌクレオチド、少なくとも17ヌクレオチド、少なくとも18ヌクレオチド、少なくとも19ヌクレオチド、少なくとも20ヌクレオチド、又は少なくとも21ヌクレオチドは、好ましくは、本明細書において上述の配列番号1〜21のうちの好ましい標的配列を含む、配列番号1〜21から選択される1つ以上の連続部分である、すなわち、該ヌクレオチドはそれぞれの配列番号において連続している。例えば、配列番号9〜21について、アンチセンス構築物は部分配列である配列番号22又はその部分配列を標的としないことがさらに好ましい。
「アンチセンスオリゴヌクレオチド」なる語は、本発明によれば、ワトソン-クリック型塩基対ハイブリダイゼーションによってlncRNA Meg3に相補的であり、それによってMeg3の活性が遮断される一本鎖ヌクレオチド配列を意味する。アンチセンスオリゴヌクレオチドは修飾されなくてもよいし、あるいは化学修飾されてもよい。一般に、アンチセンスオリゴヌクレオチドは比較的短い(好ましくは13〜25ヌクレオチドの間)。さらに、アンチセンスオリゴヌクレオチドはMeg3に特異的である、すなわち、アンチセンスオリゴヌクレオチドは標的細胞/生物に存在する標的のプール全体においてユニークな配列にハイブリダイズする。本発明に従うアンチセンスオリゴヌクレオチドは、本明細書において上述の配列番号1〜21のうちの好ましい標的配列を含む、配列番号1〜21から選択される1つ以上の少なくとも13ヌクレオチド、少なくとも14ヌクレオチド、少なくとも15ヌクレオチド、少なくとも16ヌクレオチド、少なくとも17ヌクレオチド、少なくとも18ヌクレオチド、少なくとも19ヌクレオチド、少なくとも20ヌクレオチド、少なくとも21ヌクレオチド、少なくとも22ヌクレオチド、少なくとも23ヌクレオチド、少なくとも24ヌクレオチド、又は少なくとも25ヌクレオチド(この順序で好ましさが増加する)に相補的な配列を含む又はそれからなる。例えば、配列番号9〜21について、アンチセンス構築物は部分配列である配列番号22又はその部分配列を標的としないことがさらに好ましい。これらの少なくとも13ヌクレオチド、少なくとも14ヌクレオチド、少なくとも15ヌクレオチド、少なくとも16ヌクレオチド、少なくとも17ヌクレオチド、少なくとも18ヌクレオチド、少なくとも19ヌクレオチド、少なくとも20ヌクレオチド、少なくとも21ヌクレオチド、少なくとも22ヌクレオチド、少なくとも23ヌクレオチド、少なくとも24ヌクレオチド、又は少なくとも25ヌクレオチドは、好ましくは、本明細書において上述の配列番号1〜21のうちの好ましい標的配列を含む、配列番号1〜21から選択される1つ以上の連続部分である、すなわち、該ヌクレオチドはそれぞれの配列番号において連続している。例えば、配列番号9〜21について、アンチセンス構築物は部分配列である配列番号22又はその部分配列を標的としないことがさらに好ましい。
アンチセンスオリゴヌクレオチドは好ましくはLNA-GapmeR、Antagomir又はantimiRである。
LNA-GapmeR又は単にGapmeRは、mRNA及びlncRNA機能の効率の高い抑制のために使用される強力なアンチセンスオリゴヌクレオチドである。GapmeRは、RNase H依存的な相補的RNA標的の分解によって機能する。GapmeRは、mRNA及びlncRNAのノックダウンのための、siRNAの優れた代替物である。GapmeRは、有利には、トランスフェクション試薬なしに細胞によって取り込まれる。GapmeRはLNAのブロックに隣接するDNAモノマーの中央伸長を含有する。GapmeRは好ましくは14〜16ヌクレオチド長であり、場合により完全にホスホロチオエート化される。DNAギャップは標的RNAのRNAse Hに媒介された分解を活性化し、核内で転写産物を直接標的化するのにも適している。本発明によるLNA-GapmeRは、本明細書において上述の配列番号1〜21のうち好ましい標的配列を含む、配列番号1〜21から選択される1つ以上の少なくとも13ヌクレオチド、少なくとも14ヌクレオチド、又は少なくとも15ヌクレオチド(この順序で好ましさが増加する)に相補的な配列を含む。例えば、配列番号9〜21について、アンチセンス構築物は部分配列である配列番号22又はその部分配列を標的としないことがさらに好ましい。これらの少なくとも13ヌクレオチド、少なくとも14ヌクレオチド、又は少なくとも15ヌクレオチドは、好ましくは、本明細書において上述の配列番号1〜21のうちの好ましい標的配列を含む、配列番号1〜21から選択される1つ以上の連続部分である、すなわち、該ヌクレオチドはそれぞれの配列番号において連続している。例えば、配列番号9〜21について、アンチセンス構築物は部分配列である配列番号22又はその部分配列を標的としないことがさらに好ましい。配列番号23のマウスMeg3ヌクレオチドを標的とするLNA-GapmeRがlncRNA Meg3をダウンレギュレートするために本願の以下の実施例において使用される。配列番号24は、配列番号23のマウスMeg3ヌクレオチドに対応するヒトMeg3ヌクレオチドを示す。したがって、本発明によるLNA-GapmeRは、より好ましくは配列番号23又は配列番号24に相補的な配列、最も好ましくは配列番号24に相補的な配列を含む。以下の実施例では、配列番号71、72及び73の3つの抗ヒトMeg3 LNA-GapmeRがヒト心臓線維芽細胞においてlncRNA Meg3をダウンレギュレートするために使用される。したがって、本発明によるLNA-GapmeRはまた、最も好ましくは、配列番号71〜73のいずれか1つの配列を含む。配列番号71〜73の中では配列番号71が最も好ましい。LNA-GapmeR技術は十分に確立されている。LNA-GapmeRは確立されたアルゴリズムを使用して日常的に設計される。選択された標的に対するLNA-GapmeRは、例えばExiqonから、陽性対照及び陰性対照を含み、市販されている。
すでに述べたように、AntimiRは、miRNAに相補的になるように当初設計されたオリゴヌクレオチド阻害剤である。miRNAに対するAntimiRは、特定のmiRNA機能の理解を得るためのツールとして、及び可能性のある治療剤として広範に使用されている。本明細書において使用される場合、AntimiRはlncRNA Meg3に対して相補的になるように設計される。AntimiRは好ましくは長さが14〜23ヌクレオチドである。本発明によるAntimiRは、より好ましくは、本明細書において上述の配列番号1〜21のうちの好ましい標的配列を含む、配列番号1〜21から選択される1つ以上の少なくとも15ヌクレオチド、少なくとも16ヌクレオチド、少なくとも17ヌクレオチド、少なくとも18ヌクレオチド、少なくとも19ヌクレオチド、少なくとも20ヌクレオチド、少なくとも21ヌクレオチド、少なくとも22ヌクレオチド、又は少なくとも23ヌクレオチド(この順序で好ましさが増加する)に相補的な配列を含む又はそれからなる。例えば、配列番号9〜21について、アンチセンス構築物は部分配列である配列番号22又はその部分配列を標的としないことがさらに好ましい。これらの少なくとも15ヌクレオチド、少なくとも16ヌクレオチド、少なくとも17ヌクレオチド、少なくとも18ヌクレオチド、少なくとも19ヌクレオチド、少なくとも20ヌクレオチド、少なくとも21ヌクレオチド、少なくとも22ヌクレオチド、又は23ヌクレオチドは、好ましくは、本明細書において上述の配列番号1〜21のうちの好ましい標的配列を含む、配列番号1〜21から選択される1つ以上の連続部分である、すなわち、該ヌクレオチドはそれぞれの配列番号において連続している。
AntimiRは好ましくはAntagomiRである。AntagomiRは合成2-O-メチルRNAオリゴヌクレオチドであり、好ましくは、選択された標的RNAに対して好ましくは完全に相補的な21〜23ヌクレオチドのものである。AntagomiRは当初はmiRNAに対して設計されたが、lncRNAに対しても設計しうる。本発明によるAntagomiRは、したがって、好ましくは、本明細書において上述の配列番号1〜21のうちの好ましい標的配列を含む、配列番号1〜21から選択される1つ以上の21〜23ヌクレオチドに相補的な配列を含む。例えば、配列番号9〜21について、アンチセンス構築物は部分配列である配列番号22又はその部分配列を標的としないことがさらに好ましい。これらの21〜23ヌクレオチドは、好ましくは、本明細書において上述の配列番号1〜21のうちの好ましい標的配列を含む、配列番号1〜21から選択される1つ以上の連続部分に相補的である、すなわち、該ヌクレオチドはそれぞれの配列番号において連続している。AntagomiRは好ましくは、2'-OMe修飾塩基(リボースの2'-ヒドロキシルがメトキシ基で置換される)、最初の2塩基及び最後の4塩基上のホスホロチオエート(ホスホジエステル結合をホスホロチオエートに変化させる)と共に、及びヒドロキシプロリン修飾結合により3'端にコレステロールモチーフを付加して、合成される。例えば、配列番号9〜21について、アンチセンス構築物は部分配列である配列番号22又はその部分配列を標的としないことがさらに好ましい。2'-OMe及びホスホロチオエート修飾の付加は、生物学的安定性を改善する一方、コレステロールのコンジュゲーションはAntagomiRの分布及び細胞透過性を高める。
本発明のアンチセンス分子(アンチセンスオリゴヌクレオチド、例えばLNA-GapmeR、Antagomir、antimiRを含む)、siRNA及びshRNAは好ましくは標準の核酸合成機を使用して化学合成される。核酸配列合成試薬の供給元はProligo(Hamburg、Germany)、DharmaconResearch(Lafayette、CO、USA)、PierceChemical(part of Perbio Science、Rockford、IL、USA)、GlenResearch(Sterling、VA、USA)、ChemGenes(Ashland、MA、USA)、及びCruachem(Glasgow、UK)を含む。
アンチセンス分子(アンチセンスオリゴヌクレオチド、例えばLNA-GapmeR、Antagomir、antimiRを含む)、siRNA及びshRNAがインビボでlncRNAを強力に、しかし可逆的にサイレンシング又は抑制する能力は、これらの分子を本発明の医薬組成物における使用に特によく適したものにする。ヒトへのsiRNAの投与方法は、De Fougerollesら, Current Opinion in Pharmacology, 2008, 8:280-285に記載されている。そのような方法は、アンチセンスオリゴヌクレオチド又はshRNAのような他の小型RNA分子の投与にも適している。したがって、そのような医薬組成物は、生理食塩水として直接製剤化して、リポソームベース及びポリマーベースのナノ粒子アプローチを介して、コンジュゲート化又は複合体化医薬組成物として、あるいはウイルス送達系を介して投与されうる。直接投与は組織への注射、鼻腔内及び気管内投与を含む。リポソームベース及びポリマーベースのナノ粒子アプローチは、カチオン性脂質であるジェンザイム脂質(Genzyme Lipid)(GL)67、カチオン性リポソーム、キトサンナノ粒子及びカチオン性細胞浸透性ペプチド(CPP)を含む。コンジュゲート化又は複合体化医薬組成物はPEI複合体化アンチセンス分子(アンチセンスオリゴヌクレオチドを含む)、siRNA、又はshRNAを含む。更に、ウイルス送達系はインフルエンザウイルスエンベロープ及びビロソームを含む。
アンチセンス分子(アンチセンスオリゴヌクレオチド、例えばLNA-GapmeR、Antagomir、antimiRを含む)、siRNA及びshRNAは、ロックト核酸(LNA)のような修飾ヌクレオチドを含みうる。LNAヌクレオチドのリボース部分は、2'酸素と4'炭素とを接続する追加的な架橋で修飾されている。該架橋は、A型二本鎖でしばしば見出される3'エンド(ノース)コンホメーションでリボースを「ロック(固定)」する。必要に応じて、LNAヌクレオチドはオリゴヌクレオチド中のDNA又はRNA残基と混合されうる。そのようなオリゴマーは化学的に合成され、商業的に入手可能である。ロックされたリボースコンホメーションは塩基の重層及びバックボーンの予備構成を増強する。これはオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーション特性(融解温度)を大幅に増加させる。
本発明の第1態様のさらに好ましい実施形態によれば、ヌクレオチドベースの阻害剤は、(a)配列番号1〜21から選択される核酸配列の少なくとも12個の連続的ヌクレオチドに相補的な核酸配列を含む又はそれからなる核酸配列、(b)配列番号1〜21から選択される1以上の核酸配列の相補鎖に少なくとも70%同一である核酸配列を含む又はそれからなる核酸配列、(c)(a)又は(b)に記載の核酸配列を含む又はそれからなる核酸配列であって、DNA又はRNAである核酸配列、(d)(a)〜(c)のいずれか1つにおいて定められている核酸配列を発現する発現ベクターであって、好ましくは心臓特異的プロモーター及び/又は線維芽細胞特異的プロモーターの制御下で該核酸配列を発現する発現ベクター、又は(e)(d)の発現ベクターを含む宿主を含む。
この好ましい実施形態の項目(a)〜(c)において規定される核酸配列は、本明細書において上述の配列番号1〜21のうち好ましい標的配列を含む、配列番号1〜21のうちの1つ以上によって規定されるMeg3のヌクレオチドに相補的な配列を含む又はそれからなる。例えば、配列番号9〜21について、アンチセンス構築物は部分配列である配列番号22又はその部分配列を標的としないことがさらに好ましい。したがって、項目(a)〜(c)において規定される核酸配列は、アンチセンス核酸配列を含む又はそれである。
本発明のこのさらに好ましい実施形態の項目(a)に従う核酸配列は、本明細書において上述の配列番号1〜21のうちの好ましい標的配列を含む、配列番号1〜21から選択される1つ以上の少なくとも13ヌクレオチド、少なくとも14ヌクレオチド、少なくとも15ヌクレオチド、少なくとも16ヌクレオチド、少なくとも17ヌクレオチド、少なくとも18ヌクレオチド、少なくとも19ヌクレオチド、少なくとも20ヌクレオチド、少なくとも21ヌクレオチド(この順序で好ましさが増加する)に相補的な配列を含む又はそれからなる。例えば、配列番号9〜21について、アンチセンス構築物は部分配列である配列番号22又はその部分配列を標的としないことがさらに好ましい。これらの少なくとも13ヌクレオチド、少なくとも14ヌクレオチド、少なくとも15ヌクレオチド、少なくとも16ヌクレオチド、少なくとも17ヌクレオチド、少なくとも18ヌクレオチド、少なくとも19ヌクレオチド、少なくとも20ヌクレオチド、又は少なくとも21ヌクレオチドは、好ましくは、本明細書において上述の配列番号1〜21のうちの好ましい標的配列を含む、配列番号1〜21から選択される1つ以上の連続部分である、すなわち、該ヌクレオチドはそれぞれの配列番号において連続している。例えば、配列番号9〜21について、アンチセンス構築物は部分配列である配列番号22又はその部分配列を標的としないことがさらに好ましい。項目(a)に従う核酸配列の形式は、配列番号1〜21から選択される核酸配列に相補的な少なくとも12個の連続的ヌクレオチドを含む又はそれからなる限り、特に限定されない。項目(a)に従う核酸配列は、アンチセンスオリゴヌクレオチドを含む又はそれからなる。したがって、項目(a)に従う核酸配列は、相補性に基づく対合の優れた特異性によって、選択された標的RNAをサイレンシングするためにオリゴヌクレオチドを使用することである、アンチセンス技術の上述の基本原理を反映する。よって、項目(a)に従う核酸配列は、好ましくは本明細書において上で規定されたようにsiRNA、shRNA又はアンチセンスオリゴヌクレオチドの形式であることが理解されるべきである。アンチセンスオリゴヌクレオチドは好ましくは本明細書において上で規定されたようにLNA-GapmeR、AntagomiR又はantimiRである。
配列番号1〜21から選択される1つ以上の核酸配列の相補鎖に対して少なくとも70%の同一性を必要とする項目(b)に従う核酸配列は、アンチセンスオリゴヌクレオチドを含み、配列番号1〜21から選択される核酸配列の少なくとも12個の連続的ヌクレオチドを含む項目(a)に従う核酸配列よりもかなり長い。配列番号1〜21の中では、配列番号21が最も短い配列であり、配列番号21は96ヌクレオチドを含む。したがって配列番号21の相補鎖に対して少なくとも70%同一である配列は、少なくとも68ヌクレオチドを含む必要がある。本発明の上の好ましい実施形態の項目(b)に従う核酸配列は、標的lncRNA Meg3と相互作用することができる、より具体的にはそれとハイブリダイズすることができる。ハイブリッドの形成によってlncRNA Meg3の機能は低減される、又は遮断される。
配列番号1〜21から選択される配列に関連した項目(b)に従う分子の配列同一性は、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92.5%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、及び100%(この順序で好ましさが増加する)である。配列番号1〜21のうち、配列番号8及び21が好ましく、配列番号21が最も好ましい。配列番号1〜21の各々に関連した配列同一性は、個別に選択することができる。例えば、非限定的な例としては、配列番号8に関連して少なくとも90%であり、配列番号21に関連して少なくとも95%である。配列同一性を決定するための手段及び方法は当技術分野で公知である。好ましくは、配列番号1〜21の1つ以上に対する配列同一性を決定するためにBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)プログラムを使用する。配列番号1〜21の1つ以上の相補鎖に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列を含む核酸配列の最も好ましい例は配列番号8及び/又は21の相補鎖である。
項目(c)に従う核酸配列では、ヌクレオチド配列はRNA又はDNAであってもよい。RNA又はDNAは化学修飾されたRNAヌクレオチド又はDNAヌクレオチドを含む。一般に知られているようにRNAはヌクレオチドUを含む一方で、DNAはヌクレオチドTを含む。
上の好ましい実施形態の項目(d)及び(e)によれば、阻害剤はまた、項目(a)〜(c)のいずれか1つに規定される核酸配列をそれぞれ生じることができる、発現ベクター又は宿主であってもよい。
発現ベクターは標的細胞に特定の転写産物を導入するために使用されるプラスミドであってもよい。発現ベクターが細胞内に存在すると、遺伝子にコードされるタンパク質が、細胞の転写及び翻訳機構リボソーム複合体によって生産される。プラスミドは一般に、エンハンサー及び/又はプロモーター領域として作用し、転写産物の効率的な転写をもたらす制御配列を含むように操作される。本発明によれば、発現ベクターは好ましくは心臓特異的プロモーター及び/又は線維芽細胞特異的プロモーターを含有する。心臓特異的プロモーターは、例えばBoeckerら, (2004), Mol Imagin.; 3(2):69-75から、当技術分野において公知である。心臓特異的プロモーターの使用は、核酸配列が心臓でのみ発現されることを保証し、他の器官における発現による潜在的な望まれない副作用を回避しうる。線維芽細胞特異的発現のためのプロモーターは、例えば、Takedaら, (2010), J Ciin Invest. 2010; 120(1):254-265又はHemmingsら, (2014), Heart; 100:A19-A20から、当技術分野において同様に周知である。線維芽細胞特異的プロモーターの使用は、核酸配列が線維芽細胞でのみ発現されることを保証し、他の細胞種、例えば内皮細胞における発現による潜在的な望まれない副作用を回避しうる。同上Takedaら(2010)に記載される線維芽細胞特異的プロモーターは特に心臓線維芽細胞に特異的である。したがって、心臓特異的かつ線維芽細胞特異的なプロモーターもまた公知であり、最も好ましくは本発明の文脈においてプロモーターとして使用される。これは、そのようなプロモーターは、他の器官並びに他の細胞種における発現による潜在的な望まれない副作用を回避しうるためである。
発現ベクターの非限定的な例には、原核性プラスミドベクター、例えば、pUC系列、pBluescript(Stratagene)、発現ベクターのpET系列(Novagen)又はpCRTOPO(Invitrogen)、及び哺乳類細胞における発現に和合性のベクター、例えばpREP(Invitrogen)、pcDNA3(Invitrogen)、pCEP4(Invitrogen)、pMC1neo(Stratagene)、pXT1(Stratagene)、pSG5(Stratagene)、EBO-pSV2neo、pBPV-1、pdBPVMMTneo、pRSVgpt、pRSVneo、pSV2-dhfr、pIZD35、pLXIN、pSIR(Clontech)、pIRES-EGFP(Clontech)、pEAK-10(Edge Biosystems) pTriEx-Hygro(Novagen)及びpCINeo(Promega)が含まれる。ピキア・パストリス(Pichia pastoris)に適したプラスミドベクターの例は、例えば、プラスミドpAO815、pPIC9K及びpPIC3.5K(全てIntvitrogen)を含む。医薬組成物の製剤の場合、優良医薬品製造基準に従って適当なベクターが選択される。そのようなベクターは、当技術分野において、例えばAusubelら, Hum Gene Ther. 2011 Apr; 22(4): 489-97又はAllayら, Hum Gene Ther. May 2011; 22(5): 595-604から公知である。
典型的な哺乳類発現ベクターは、mRNAの転写の開始を媒介するプロモーターエレメント、タンパク質コード配列、並びに転写の終結及び転写産物のポリアデニル化に必要なシグナルを含有する。更に、複製起点、薬剤耐性遺伝子、調節因子(誘導性プロモーターの一部として)のようなエレメントも含まれうる。lacプロモーターは、原核細胞に有用な典型的な誘導性プロモーターであり、これは、ラクトース類似体であるイソプロピルチオール-b-D-ガラクトシド(「IPTG」)を使用して誘導されうる。組換え発現及び分泌のためには、関心のあるポリヌクレオチドは、例えば、pHEN4(Ghahroudiら, 1997, FEBS Letters 414:521-526に記載されている)と称されるファージミドにおける遺伝子IIIとpelBリーダーシグナル(これは組換えタンパク質をペリプラズムに導く)との間に連結されうる。追加的なエレメントには、エンハンサー、コザック(Kozak)配列、並びにRNAスプライシングのためのドナー及びアクセプター部位に隣接する介在配列が含まれうるであろう。高効率転写は、SV40由来の初期及び後期プロモーター、レトロウイルス、例えばRSV、HTLVI、HIVIに由来する長末端反復配列(LTR)、並びにサイトメガロウイルス(CMV)の初期プロモーターを使用して達成されうる。しかし、細胞エレメント(例えば、ヒトアクチンプロモーター)も使用されうる。本発明の実施に使用される適当な発現ベクターには、例えば、pSVL及びpMSG(Pharmacia, Uppsala, Sweden)、pRSVcat(ATCC 37152)、pSV2dhfr(ATCC 37146)及びpBC12MI(ATCC 67109)のようなベクターが含まれる。あるいは、組換え(ポリ)ペプチドは、染色体内に組み込まれた遺伝子構築物を含有する安定な細胞株において発現されうる。dhfr、gpt、ネオマイシン、ハイグロマイシンのような選択マーカーとのコトランスフェクションは、トランスフェクトされた細胞の同定及び単離を可能にする。トランスフェクトされた核酸は、コードされた(ポリ)ペプチドを大量に発現するように増幅されることも可能である。DHFR(ジヒドロ葉酸レダクターゼ)マーカーは、関心のある遺伝子の数百又は更には数千コピーを保有する細胞株を開発するために有用である。もう1つの有用な選択マーカーとしては、酵素グルタミンシンターゼ(GS)が挙げられる(Murphyら, 1991, Biochem J. 227:277-279; Bebbingtonら, 1992, Bio / Technology 10: 169-175)。これらのマーカーを使用して、哺乳類細胞を選択培地内で増殖させ、最高の耐性を有する細胞を選択する。前記のとおり、発現ベクターは、好ましくは、少なくとも1つの選択マーカーを含む。そのようなマーカーには、ジヒドロ葉酸レダクターゼ、真核細胞培養のためのG418又はネオマイシン耐性、並びに大腸菌(E. coli)及び他の細菌における培養のためのテトラサイクリン、カナマイシン又はアンピシリン耐性遺伝子が含まれる。ベクター修飾技術に関しては、Sambrook及びRussel (2001), Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3 Vol.を参照されたい。一般に、ベクターは、クローニング又は発現のための1以上の複製起点(ori)及び継代系、宿主における選択のための1以上のマーカー、例えば抗生物質耐性、並びに1以上の発現カセットを含有しうる。適当な複製起点(ori)には、例えばCol E1、SV40ウイルス及びM13複製起点が含まれる。
ベクター内に挿入される配列は、例えば、標準的な方法によって合成可能であり、あるいは天然源から単離されうる。転写調節エレメント及び/又は他のアミノ酸コード配列へのコード配列の連結は、確立された方法を用いて行われうる。原核生物又は真核細胞における発現を保証する転写調節エレメント(発現カセットの一部)は当業者に周知である。これらのエレメントは、転写の開始を保証する調節配列(例えば、翻訳開始コドン、プロモーター、エンハンサー、及び/又はインスレーター)、内部リボソーム侵入部位(IRES)(Owens, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98 (2001), 1471-1476)、そして場合によっては、転写の終結及び転写産物の安定化を保証するポリAシグナルを含む。追加的な調節エレメントには、転写及び翻訳エンハンサー、並びに/又は天然で付随している又は異種のプロモーター領域が含まれうる。好ましくは、本発明の前記の好ましい実施形態の項目(a)で定められているヌクレオチド配列は、原核細胞又は真核細胞における発現を可能にするそのような発現制御配列に作動的に連結される。
宿主は原核細胞又は真核細胞でありうる。適当な真核宿主は哺乳動物細胞、両生類細胞、魚類細胞、昆虫細胞、真菌細胞又は植物細胞でありうる。細菌細胞の代表例としては大腸菌(E. coli)、ストレプトマイセス(Streptomyces)及びサルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)細胞が挙げられ、真菌細胞の代表例としては酵母細胞が挙げられ、昆虫細胞の代表例としてはショウジョウバエ(Drosophila)S2及びスポドプテラ(Spodoptera)Sf9細胞が挙げられる。細胞は哺乳類細胞、例えばヒト細胞であることが好ましい。使用されうる哺乳類宿主細胞には、ヒトHela、293、H9及びJurkat細胞、マウスNIH3T3及びC127細胞、COS 1、COS 7及びCV1、ウズラQC1-3細胞、マウスL細胞、及びチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞が含まれる。細胞は細胞株の一部、好ましくはヒト細胞株の一部でありうる。前記宿主細胞のための適当な培地及び条件は当技術分野において公知である。宿主は、好ましくは、宿主細胞、より好ましくは、単離された宿主細胞である。宿主はまた、好ましくは、非ヒト宿主である。
第2態様では、本発明は、患者において心臓リモデリングを診断するための方法であって、(a)前記患者から得られたサンプル中のMeg3の発現レベルを検出するステップ、及び任意選択で(b)(a)で得られた前記発現レベルを、少なくとも1の健康な対象から得られたサンプル中のMeg3の発現レベルと、又は少なくとも1の健康な対象のサンプルから得られた予め決定された基準と比較するステップを含み、ここでMeg3の2倍よりも大きなダウンレギュレーションが患者における心臓リモデリングの指標となる方法に関する。
また本発明の第2態様に関連して、心臓リモデリングは、好ましくは駆出率が保たれた心不全(HFpEF)であり、及び/又は好ましくは駆出率が低下した心不全(HFrEF)、心筋梗塞に関係した心臓リモデリング、遺伝性心疾患に関連した心臓リモデリング、心肥大及び/又は心線維症である。心肥大は好ましくは心室肥大、より好ましくは左心室肥大であり、及び/又は心線維症は好ましくは心室線維症、より好ましくは左心室線維症である。
さらに、また本発明の第2態様に関連して、Meg3は好ましくは配列番号1〜21からなる群より選択される核酸配列を含む又はそれからなる。配列番号1〜21のうち、配列番号8及び21が好ましく、配列番号21が最も好ましい。配列番号8を検出することによってすべてのマウスMeg3アイソフォームを同時に検出することができ、配列番号21を検出することによってすべてのヒトMeg3アイソフォームを同時に検出することができる。これに関連して本発明の第2態様に従う方法は、配列番号1〜21のいずれか1つに対して少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも94%、少なくとも96%、少なくとも98%、少なくとも99%、及び少なくとも99.5%(この順序で好ましさが増加する)同一である1以上のlncRNAの発現レベルを検出し、比較することをも含みうることが理解されるべきである。本発明の第2態様に従う方法は、さらに、配列番号1〜21のいずれか1つから10個以下、例えば5、4、3、2又は1個(この順序で好ましさが増加する)のヌクレオチドが異なる1以上のlncRNAの発現レベルを検出し、比較することを含みうる。ヌクレオチドの相違はヌクレオチドの付加、欠失及び/又は置換でありうる。また、発現が比較される配列は、相同であっても、10個以下、例えば5、4、3、2又は1個(この順序で好ましさが増加する)のヌクレオチドが互いに異なりうる。
「サンプル」なる語は組織サンプル又は体液サンプルを意味する。体液サンプルは、好ましくは、血液、血清、血漿、尿、唾液、羊水、脳脊髄液及びリンパ液から選択される。組織サンプルは、好ましくは、臓器サンプル、好ましくは心臓サンプルである。この方法を体液サンプルに適用する場合、lncRNA Meg3の発現レベルはlncRNA Meg3の濃度に対応すると理解されるべきである。なぜなら、lncRNAは体液中で直接発現されるのではなく、lncRNAを発現する細胞から体液中に分泌されるからである。
本明細書で言及される「患者」又は「対象(被験者)」は好ましくはヒトである。
「Meg3の発現レベルを検出する」なる語は、Meg3の量又は収率を決定することを意味する。Meg3は最初は細胞内、特に心臓線維芽細胞内で発現される。本発明においては、lncRNA Meg3は患者のサンプル、特に心臓組織サンプルにおいて検出されうることが見出された。したがって、「サンプルにおいて発現される」Meg3は、本明細書において以下でさらに詳細に記載されている手段及び方法によって発現レベルがサンプルにおいて検出されうるMeg3である。試験サンプルにおいてMeg3がダウンレギュレートされていると言えるのは、Meg3の量又は収率が対照サンプルにおけるMeg3の量又は収率と比較して有意に小さい場合である。
上述の診断方法によれば、対照サンプルは少なくとも1の健康な対象から得られたサンプルか、又は少なくとも1の健康な対象のサンプルから得られた予め決定された基準のいずれかである。健康な対象、特に心臓病態のない健康な対象は、医師によって日常的に特定されうる。少なくとも1の健康な対象は、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも5、及び少なくとも10(この順序で好ましさが増加する)の健康な対象である。1よりも多い健康な対象を用いることによって、個別のMeg3発現レベルの差を釣り合わせることができる。予め決定された基準の使用については、本発明の診断方法の文脈の中では、少なくとも1の健康な対象のサンプルにおいてMeg3発現レベルを決定することは必要ではない、又は常に必要というわけではないことが留意される。少なくとも1の健康な対象のサンプルから得られたMeg3発現レベルが利用可能になれば、予め決定された基準として本発明の診断方法において使用することができる。
サンプルにおける発現レベルは、当技術分野で利用可能な任意の適当な手段及び方法により定量されうる。一般に、相対的及び絶対的な定量化の手段及び方法が用いられうる。絶対的定量化においては、既知の標準又は対照は必要ではない。発現レベルは直接的に定量化されうる。当技術分野で周知のとおり、絶対的定量化は、予め決定された標準曲線に基づくものでありうる。相対的定量においては、発現レベルは基準(例えば、既知の対照発現レベル)に対して定量化される。対照の非存在下でも、例えば蛍光強度を比較する場合、発現レベルを相対的に定量化することが可能である。
RNA濃度を評価するための方法は、例えば、核酸に結合し、結合すると選択的に蛍光を発する色素の蛍光強度を測定することを含みうる。そのような方法は逆転写反応及びcDNAの産生を含み、この場合、cDNAの量を決定し、それにより、RNAの量を間接的に決定する。RNA濃度が低すぎて分光測光法では正確に評価できない場合、及び/又は260nmで吸収する汚染物質が分光光度法による正確な定量化を困難若しくは不可能にする場合、蛍光に基づく方法が特に有用である。
異なるサンプル間でlncRNAの発現レベルを比較する場合、比較の信頼性は、好ましくは、潜在的なサンプル間変動を補正するための不変の内在性対照(参照遺伝子の発現)を含めることにより改善される。不変の内在性対照に対するそのような標準化は当技術分野において通常行われている。例えば、リアルタイムRT-PCR(例えば、Bustin, Journal of Molecular Endocrinology, (2002) 29, 23-39を参照されたい)又はマイクロアレイ発現分析(例えば、Calza及びBalwitan, Methods Mol Biol. 2010; 673: 37-52を参照されたい)における、発現レベルの標準化のための手段及び方法は十分に確立されている。また、小さなRNAの配列の発現レベルの標準化のための方法が確立されている(例えば、Mestdaghら(2009) Genome Biol.; 10(6): R64を参照されたい)。本発明において発現レベルを決定するためにRT-PCR又はマイクロアレイを用いる場合、発現レベルは、好ましくは、スパイクイン(spiked-in)RNAに対して標準化される(例えば、McCormickら(2011), Silence, 2:2を参照されたい)。既知量のスパイクインRNAを、調製中のサンプルと混合する。より好ましくは、RNA単離プロセスを行う前に、該RNAをサンプルに外部から添加する。スパイクインRNA技術は周知であり、多数の製造業者から市販キットが入手可能である。スパイクインRNAは、好ましくは、スパイクイン シー・エレガンス(C. elegans)RNAである。
本明細書において以下の実施例では、配列番号25及び26のプライマーペアがマウスMeg3の発現レベルを検出するために使用され、配列番号59及び60のプライマーペアがヒトMeg3の発現レベルを検出するために使用され、ここで奇数はフォワードプライマーであり、偶数はリバースプライマーである。これらのプライマーペアの1つが好ましくは本発明の第2態様に従う診断方法において使用される。これらのプライマーペアの1つが、同様に好ましくは、本明細書において後述の本発明のキットに組み込まれる。2倍よりも大きなダウンレギュレーションは、3倍よりも大きなダウンレギュレーション、4倍よりも大きなダウンレギュレーション、5倍よりも大きなダウンレギュレーション、6倍よりも大きなダウンレギュレーション、7倍よりも大きなダウンレギュレーション、及び8倍よりも大きなダウンレギュレーション(この順序で好ましさが増加する)である。ダウンレギュレーションの閾値が高いほど、本発明の第2態様の方法の信頼性が増加しうる。
本明細書において上でより詳細に議論されたように、TACの過程におけるMeg3の発現は、圧負荷後6週後及びそれ以降にダウンレギュレートされることが実施例において示される。第6週から先ではまた、惹起された圧負荷に対する心臓の適応応答として心臓リモデリングが発生する。この理由により、少なくとも1の健康な対象のMeg3発現、又は少なくとも1の健康な対象のサンプルから得られた予め決定された基準と比較して、試験患者におけるMeg3発現の少なくとも2倍のダウンレギュレーションが心臓リモデリングの指標となることが期待されうる。よって、Meg3発現レベルの測定は、心臓リモデリングの診断に有用であることが期待される。
本発明の第2態様の好ましい実施形態によれば、サンプルは心臓組織サンプルである。本発明の第2態様のより好ましい実施形態によれば、心臓組織サンプルは心臓線維芽細胞を含む又はそれからなる。本発明の第2態様のさらにより好ましい実施形態によれば、心臓組織サンプルは心臓組織のクロマチン画分を含む又はそれである。
本明細書において以下の実施例から理解できるように、Meg3のダウンレギュレーションは心臓組織サンプル、特にそのようなサンプルの心臓線維芽細胞において例示される。以下に記載される実施例の文脈において、lncRNA Meg3を心臓組織のクロマチン画分において見出すことができることもまた示された。
本発明の第2態様のさらに好ましい実施形態によれば、Meg3の発現レベルの検出は、(a)定量的PCR、好ましくは定量的リアルタイムPCR、又は(b)鋳型/RNA増幅方法、及びそれに続く、蛍光若しくは発光に基づく定量方法を用いるMeg3の発現レベルの決定を含む。
定量的PCR(qPCR)では、増幅産物の量は、蛍光レポーター分子を使用して蛍光強度に関連づけられる。初期鋳型量を計算するために蛍光シグナルが測定される時点は反応終了時(終点半定量的PCR)であっても、増幅が尚も進行中(リアルタイムqPCR)であってもよい。
終点半定量的PCRにおいては、増幅反応が完了した後、通常は30〜40サイクル後に蛍光データを収集し、この最終蛍光を用いて、PCR前に存在する鋳型の量を逆算する。
感度及び再現性がより高いリアルタイムqPCR法は、増幅が進行するにつれて各サイクルで蛍光を測定する。これは、試薬の制限、阻害剤の蓄積又はポリメラーゼの不活性化が増幅効率に影響を及ぼし始める前に、増幅の指数関数的段階中の蛍光シグナルに基づく鋳型の定量を可能にする。反応のこれらのより早いサイクルでの蛍光読み取りは、増幅された鋳型量を測定し、この場合、反応は、終点におけるよりも再現性がサンプル間で遥かに高い。
鋳型/RNA増幅方法、及びそれに続く、蛍光又は発光に基づく定量方法を用いるlncRNA Meg3の発現レベルの決定の非限定的な例としては、転写媒介増幅(TMA)及びハイブリダイゼーション保護アッセイ(HPA)が挙げられる。より詳細には、そのような方法は、Meg3に相補的な1以上のオリゴヌクレオチド(「捕捉オリゴヌクレオチド」)をハイブリダイズさせることを含みうる。ついで、ハイブリダイズした標的配列を磁気微粒子上に捕捉し、それを磁場内でサンプルから分離する。外来成分を除去するために洗浄工程が利用されうる。標的増幅は典型的にはTMAによって行い、TMAは、2つの酵素、すなわち、モロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)逆転写酵素及びT7 RNAポリメラーゼを利用する、転写に基づく核酸増幅法である。Meg3に対して特有のプライマーセット、好ましくは配列番号25及び26のプライマーペア、又は配列番号59及び60のプライマーペアを使用する。標的配列のDNAコピー(T7 RNAポリメラーゼのプロモーター配列を含む)を得るために逆転写酵素を使用する。T7 RNAポリメラーゼはDNAコピーからのRNAアンプリコンの複数コピーを産生する。Meg3発現レベルの検出は、1以上のアンプリコンに相補的な一本鎖化学発光標識核酸プローブを使用するHPAにより達成される。好ましくは、識別可能な様態で標識されたプローブを各標的アンプリコンに対して使用する。標識核酸プローブはアンプリコンに特異的にハイブリダイズする。ついで「選択試薬」が、ハイブリダイズしていないプローブ上の標識を不活性化することにより、ハイブリダイズしたプローブとハイブリダイズしていないプローブとを区別する。検出工程中に、ハイブリダイズしたプローブにより産生された化学発光シグナルをルミノメーターで測定し、「相対光単位」(RLU)として表し、それによりMeg3発現レベルを定量する。
本発明の第2態様のさらに好ましい実施形態によれば、該方法は、Meg3の発現レベルの検出の前に、試験患者のサンプル及び/又は健康な患者のサンプル中のRNAの予備増幅工程を含む。
予備増幅工程の実施は、少量の(試験及び/又は対照)サンプルしか利用できない場合に特に有利である。予備増幅工程は、発現レベルの分析に進む前に、サンプル内のRNAの量を増加させる。RNAの予備増幅のための手段及び方法は当技術分野で周知である(例えば、Vermeulenら (2009) BMC Res Notes., 2: 235を参照されたい)。試験サンプル及び対照サンプル中の両方のRNAを予備増幅する場合には、好ましくは、対照サンプルと比較した場合の試験サンプルのRNAの相対量が維持されるように、予備増幅工程には同じ方法を用いる。試験サンプル又は対照サンプルのRNAのみを予備増幅する場合、あるいはそれらの2つのRNAサンプルを、異なる方法により予備増幅する場合には、発現レベルデータを予備増幅工程に関して標準化する必要があるかもしれない。例えば、Mestdaghら (2009), Genome Biology 2009, 10:R64を参照されたい。
第3の態様においては、本発明は、患者における心臓リモデリングを診断するためのキットであって、Meg3の発現レベルの検出のための手段と、該キットの使用方法の説明書とを含むキットに関する。
キットの使用方法の説明書は、好ましくは、とりわけ、lncRNA Meg3の低い発現レベルが心臓リモデリングの指標となることを知らせる。
Meg3の発現レベルの検出のための手段は、好ましくは、(i)定量的PCR、好ましくは定量的リアルタイムPCR、又は(ii)鋳型/RNA増幅方法、及びそれに続く、蛍光若しくは発光に基づく定量方法を用いるMeg3の発現レベルの決定に必要とされる手段である。これらの手段は本発明の第2態様に関して本明細書において上でさらに詳細に記載されており、キットに含まれていてもよい。したがって、該手段は、好ましくは、Meg3に特異的にハイブリダイズする蛍光ハイブリダイゼーションプローブ又はプライマーのようなオリゴヌクレオチドを含む。キットの追加的成分は蛍光又は発光色素であり、これは、好ましくは、該オリゴヌクレオチドに結合している。また、キットの追加的成分は、酵素、例えば逆転写酵素及び/又はポリメラーゼでありうる。
また本発明の第3態様に関連して、Meg3は好ましくは配列番号1〜21からなる群より選択される核酸配列を含む又はそれからなる。配列番号1〜21のうち、配列番号8及び21が好ましく、配列番号21が最も好ましい。これに関連して、キットはまた配列番号1〜21のいずれか1つに対して少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも94%、少なくとも96%、少なくとも98%、少なくとも99%、及び少なくとも99.5%(この順序で好ましさが増加する)同一であるlncRNAを検出するための手段を含みうることが理解されるべきである。キットはさらに配列番号1〜21のいずれか1つから10個以下、例えば5、4、3、2又は1個(この順序で好ましさが増加する)のヌクレオチドが異なる1以上のlncRNAの発現レベルを検出し、比較することを含みうる。ヌクレオチドの相違はヌクレオチドの付加、欠失及び/又は置換でありうる。
キットの種々の成分が、1以上の容器、例えば1以上のバイアル内にパッケージングされうる。該バイアルは、該成分に加えて、保存剤又は保存用バッファーを含みうる。
本発明の第3態様の好ましい実施形態によれば、該手段は、Meg3の発現レベルの特異的検出に使用されるプライマーペアである。
配列番号25及び26、並びに配列番号59及び60のプライマーペアが、本発明の第2態様に従う方法に関連して本明細書において上に記載される。これらのプライマーペアの1つは好ましくはMeg3の発現レベルの検出のための手段として本発明のキットに組み込まれる。
本明細書の中、特に特許請求の範囲の中で特徴づけられる実施形態に関して、従属請求項中に記載される各実施形態は、当該従属請求項が従属する各請求項(独立又は従属)の各実施形態に組み合わせられる。例えば、3つの選択肢A、B及びCを記載する独立請求項1、3つの選択肢D、E及びFを記載する従属請求項2、並びに請求項1及び2に従属し3つの選択肢G、H及びIを記載する請求項3の場合、他に特に記載がない限り、明細書は組み合わせA、D、G;A、D、H;A、D、I;A、E、G;A、E、H;A、E、I;A、F、G;A、F、H;A、F、I;B、D、G;B、D、H;B、D、I;B、E、G;B、E、H;B、E、I;B、F、G;B、F、H;B、F、I;C、D、G;C、D、H;C、D、I;C、E、G;C、E、H;C、E、I;C、F、G;C、F、H;C、F、Iに対応する実施形態をはっきりと開示することが理解されるべきである。
同様に、独立及び/又は従属請求項が選択肢を記載しない場合においても、従属請求項が先行する請求項の大部分を後ろから引用する場合、それによって網羅される発明特定事項のすべての組み合わせが明確に開示されているものと考えられることが理解される。例えば、独立請求項1、請求項1を後ろから引用する従属請求項2、並びに請求項2及び1の両方を後ろから引用する従属請求項3の場合、請求項3及び1の発明特定事項の組み合わせは、請求項3、2及び1の発明特定事項の組み合わせであるものとして明確かつはっきりと開示されていることになる。請求項1〜3のいずれか1項を引用するさらなる従属請求項4が存在する場合には、請求項4及び1の発明特定事項の組み合わせ、請求項4、2及び1の発明特定事項の組み合わせ、請求項4、3及び1の発明特定事項の組み合わせ、並びに請求項4、3、2及び1の発明特定事項の組み合わせが明確かつはっきりと開示されていることになる。
実施例は本発明を例示するものである。
実施例1 材料と方法
クロマチン免疫沈降
Mmp-2プロモーター上のP53結合部位の予測については、Jasparコア脊椎動物データベースを使用し、Mmp-2転写開始部位の直接上流の1000bp領域をTP53マトリックスモデル(Homo Sapiens)でスキャンした。ChIPについては、MAGnify Kit(ThermoFisher)を製造者の推奨に従って使用した。実験条件1つ当たり、2×106の初代成体マウスCFを10cmペトリディッシュ中に播種した。細胞の架橋結合は、トリプシン処理なしで、ディッシュ上に直接行った。超音波処理は、高出力で30秒ON、30秒OFFの16サイクルで、Bioruptor UCD-200TM-EXにおいて行った。200.000細胞を各免疫沈降に使用した。P53については、4μgのマウスモノクローナル抗P53抗体(Cell Signaling 2524S)を使用し、一方、IgG対照IPについては、4μgマウスモノクローナルアイソタイプ対照(Cell Signaling 5415S)を使用した。
大動脈縮窄術、及び心臓線維芽細胞におけるlncRNAプロファイリング
心臓圧負荷を生じるため、雄C57BL/6Nマウス(8〜10週齢)を過去に記載されている1とおりにTACに供した。lncRNAマイクロアレイ解析については、手術の13週後に得られたシャム又はTAC群(1群当たりn=3マウス)に由来する心臓線維芽細胞に由来するRNAを、Arraystar Mouse LncRNA Microarray v 2.0(Arraystarlnc)を使用して網羅的lncRNAプロファイリングに供した。
lncRNA検出のための心臓細胞の単離
わずかに改変され、また、1%FBSを含有するAMCF培地(10.8g MEM、10%NaHCO3、2ng/mlビタミンB12、1×ペニシリン/ストレプトマイシン)中の1時間のプレプレーティングステップにより心臓線維芽細胞を、及びCD146(LSEC)MicroBeads(Miltenyi Biotec)を用いたCD146陽性細胞のMACSソーティングにより内皮細胞を得るように拡大された、過去に記載された逆灌流法2に従って、成体マウス心筋細胞を単離した。
RNA単離
製造者の指示に従ってRNeasy Mini Kit(Qiagen)又はTriFast法(Peqlab)を使用して凍結組織、凍結細胞ペレット又は培養細胞に由来する全RNAを単離した。
lncRNA、mRNA、及びゲノム領域のマイクロアレイ検証及び量的検出のためのqRT-PCR解析
iScript Select cDNA合成キット(Bio-Rad)を用いてcDNAを合成し,以下に列挙されるプライマー及びiQ SYBR Green Mix(Bio-Rad)を製造者のプロトコールに従って使用してリアルタイムRT-qPCR解析を行った。遺伝子特異的発現レベルを、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Hprt)又はb-アクチン(ActB)のレベルに対して標準化した。
上の表におけるプライマー配列は配列番号25〜50及び配列番号53〜70に対応し、ここで、2つの連続する配列番号の各ペア(例えば、配列番号25及び26)は上に示されるプライマーペアの1つに対応する。
初代成体マウス心臓線維芽細胞の単離
初代マウス心臓線維芽細胞は、37℃にて標準的なコラゲナーゼ2に基づく消化によって雄C57BL/6Nマウス(8〜10週齢)の心臓から単離された。結果として得られた細胞懸濁液は、1%ペニシリン/ストレプトマイシン及び10%FBSを含むDMEM中で1時間から最大一晩までプレプレーティングした。2回の継代後、ビメンチン及びFsp-1の免疫染色によって示されるように、細胞集団は主に心臓線維芽細胞から構成される。継代数2〜4の細胞をすべての実験で使用した。TGF-ベータI処理(R&D systems #7666-MB-005)は、10ng/mlの濃度で、48時間、5%又は0.1%FBS中で、細胞のトランスフェクション直後に行った。
細胞成分分画
心臓線維芽細胞の、細胞質、核可溶性、及びクロマチン結合性の画分への断片化は、過去に記載されている3とおりに行った。
ヒト線維芽細胞
ヒト心臓線維芽細胞は、Promocellから購入し、0.1ml/ml FBS、1ng/ml Basic Fibroblast Growth Factor(Promocell)及び5μg/mlインスリン(Promocell)を含むFibroblast Growth Medium 3(Promocell)中で培養した。
GapmeRのトランスフェクション
細胞を、48時間、50nMの濃度のGapmeRで一過性トランスフェクションした。
Mouse Meg3:5′-AAAGCAGCGAGTGTA-3′(配列番号51);
negative control A:5′-AACACGTCTATACGC-3′(配列番号52);
Human Meg3 B:5’-TGAGCATAGCAAAGGT-3’(配列番号71);
Human Meg3 C:5’-ACCAGGAAGGAGACGA-3’(配列番号72);
Human Meg3 E:5’-CTTTGGAACCGCATCA-3’(配列番号73)。
すべてのトランスフェクションはLipofectamine 2000試薬(Invitrogen)を製造者のプロトコールに従って使用して行った。
Meg3サイレンシング後のトランスクリプトームプロファイリング
RNAはGapmeRに媒介されたMeg3のサイレンシング後に心臓線維芽細胞から得られ、マイクロアレイ解析(mRNA-Microarray_Ag4x44k_SC、Agilent Technologies)に供された。Goエンリッチメント及びKEGGパスウェイ解析は、DAVID6.7機能予測ツールを使用して行った。
ザイモグラフィー
マウス心臓線維芽細胞の上清中、又はマウス心筋組織中のMMP2活性を、ゲルザイモグラフィーによって解析した。Amicon Ultra-0.5 Centrifugal Filter Unit with Ultracel-30 membrane(Millipore)を用いて濃縮された無血清細胞培養上清、又は心筋組織抽出物を、過去に述べられた4とおり、1mg/mlゼラチンを含有する10%SDS-ゲルで解析した。
ギャップマーの注射
輸送媒体としての生理食塩水(0.9%NaCl)中の20mg/kgの用量のGapmeR-Meg3(5’AAAGCAGCGAGTGTA3’)(配列番号51)又はGapmeR negative control B(5’GCTCCCTTCAATCCAA3’)(配列番号52)(両方ともにExiqonから)をTAC手術1週後に開始して腹腔内注射によって10日毎に送達した。手術の6週後に、心臓機能及び形態計測上の変化を、心エコー検査(Vevo 2100、VisualSoncis)及びミラーカテーテル法(1F、PVR-1000、Millar Instruments)によって評価し、心臓を生化学的解析のために除去した。
細胞周期解析
細胞周期解析については、細胞をGapmeRのトランスフェクション前に72時間飢餓状態に置き、リポソームトランスフェクションの48時間後に回収した。上清を取り除き、PIを含有する200μl Guava Cell Cycle Reagentを添加し、数回上下にピペッティングすることによって十分に混合した。暗所にて室温で30分のインキュベーション後、各細胞サンプルの単一細胞をGuava easyCyte装置を用いてフローサイトメトリーによって解析し、各単一事象からサイズと蛍光強度を測定した。結果として得られた生データは、細胞周期のG1、S、又はG2/M期における細胞のパーセンテージを得るためにFlowJoソフトウェアを使用してさらに解析した。
アポトーシスの検出
アポトーシスの評価については、Caspase-Glo 3/7 assay(Promega)を製造者の推奨に従って使用した。手短に述べれば、リポソームトランスフェクションの48時間後、100μlのCaspase-Glo 3/7試薬を96ウェルプレートの各ウェルに添加し、数回ピペッティングすることによって培地と混合した。ついで、プレートを1時間、暗所にて、室温に保った。その後、発生した発光をプレートリーダールミノメーター(Synergy HT Reader, BioTek)にて、1分時間間隔で取得された11リードの平均発光として定量した。
蛍光顕微鏡及び組織学
線維症(線維化)の組織学的検査については、左心室のパラフィン切片をシリウスレッド及びピクリン酸で染色してコラーゲン沈着を可視化した。コラーゲン含量は、各心臓切片における面積のパーセンテージとして計算された。左心室心筋の凍結切片は、コムギ胚芽凝集素染色をAlexa Fluor 488(Invitrogen)と組み合わせることによって可視化された。心筋細胞の細胞表面積は、NIS-Elements BR 3.2パッケージ(Nikon Instruments Inc.)を使用して計算された。心臓における炎症性細胞浸潤及び毛細血管密度の定量のためそれぞれCD45及びCD31に対して免疫蛍光法を実施した。NIS-Elements BR 3.2パッケージ(Nikon Instruments Inc.)を使用して蛍光細胞を数えた。
統計学的解析
統計学的解析については、GraphPad 6(GraphPadソフトウェア)を使用した。データは平均±SEMとして表示される。2群間の統計学的比較は、対応のない両側スチューデントt検定によって評価した。2よりも多い群の比較には、Bonferroni又はTurkeyポストテストにより補正された一元配置ANOVAを行った。すべての場合でP≦0.05を統計学的に有意であると考えた。
実施例2 結果
TACマウスから単離された心臓線維芽細胞におけるMeg3
母性発現遺伝子3(Meg3転写産物バリアント3、NR_027652.1)は、シャム手術と比較して13週の横行大動脈狭窄(TAC)を受けるマウスから単離された心臓線維芽細胞(CF)において最も高い標準化強度(標準化強度のlog2>8)及び倍率変化(FC)値(FC TAC対シャム>2.5)を示すlncRNAの中から見出された。
リアルタイムPCRによってTAC線維芽細胞におけるMeg3のダウンレギュレーションが確認された一方で、心筋細胞又は内皮細胞では何の調節も観察されなかった(図1A)。さらに、健康なマウスの心筋細胞及び内皮細胞におけるMeg3の発現レベルは、CFにおいて見出された転写産物レベルのそれぞれたった2%及び20%を示した(図1B)。
心臓線維芽細胞におけるMeg3のクロマチン結合及びサイレンシング
成体マウスから単離され、インビトロにて継代数2〜4で培養されたCFでは、Meg3はクロマチン結合lncRNAとして発現される(図2A)。アンチセンスLNA GapmeRを使用することによって、出願人はCFにおけるMeg3の発現を約75%サイレンシングすることができた(図2B)。
心臓線維芽細胞トランスクリプトームに対するMeg3のサイレンシングの効果
核クロマチン区画への厳密な結合、及び遺伝子発現の転写制御におけるMeg3の役割を記載する過去の報告5を考えて、心臓線維芽細胞トランスクリプトームに対するMeg3サイレンシングの効果をマイクロアレイ解析により調べた。Meg3のGapmeRに媒介されたサイレンシングの結果として、1041遺伝子のアップレギュレーション、及び848遺伝子のダウンレギュレーションがもたらされた(FC≧2、p値≦0.05)(図3A)。ダウンレギュレートされた遺伝子のGOタームエンリッチメント解析(図3B)により、Meg3のサイレンシングは、分泌シグナリング分子、例えば成長因子、サイトカイン及びケモカイン、並びにマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)を含む、膜結合型及び細胞外タンパク質が制御から外れることと強く結びついていることが明らかになった。
MMP2転写はMeg3レベルによって影響される
特に、マトリックスメタロプロテイナーゼ-2(MMP2)の転写は、TGF-ベータが存在する場合と存在しない場合の両方においてMeg3レベルによって影響される(図4A)。したがって、分泌活性型のMMP2は、Meg3のサイレンシング後に培養CFの上清中で減少する(図4B)。
TACの過程におけるMeg3及びMMP2の発現
インビボでは、Meg3及びMMP2の心筋の発現は、TACの過程においてダイナミックな変化を受ける。Meg3は4週のTACの後にアップレギュレートされ、6週後にわずかにダウンレギュレートされ、13週後により強くダウンレギュレートされる(図5)。同様に、MMP2はTACの1週目にアップレギュレートされ、恐らく4〜6週にピークに達し、13週後再び減少する(図5)。
TACマウスにおけるMeg3のインビボサイレンシング
過去の報告は、MMP2の抑制は心臓に有益であり、拡張機能障害の病態における肥大及び線維症を低減するかもしれないことを示唆している6。Meg3アンチセンスLNA GapmeRの腹腔内注射は、注射の5日後に心臓線維芽細胞においてMeg3のサイレンシングを誘導することが可能であった(図6A)。したがって、成体マウスにおけるTAC、及び手術の1週後のMeg3サイレンシング(図6B)が実施された。
TACの6週後、サイレンシング効率、並びにMMP2の発現並びに肥大及び線維症のマーカーの発現をリアルタイムPCRによって解析した。Meg3のサイレンシングの成功は、TAC誘導性のMMP2増加の完全な抑制を伴った(図7A)。TGF-ベータアイソフォーム並びにCTGFの心筋の発現は、Meg3のサイレンシングの後に減少した(図7B)。加えて、肥大マーカーBNP及びANPは、陰性対照群と比較してTAC + GapmeR Meg3群において減少を示した(図7B)。組織学的解析により、線維症(線維化)レベルの減少及び心筋細胞断面積の減少が明らかにされた(図7C+7D)。
パルスドップラー心エコー検査により測定された左心室心筋機能指数は、指数の数値がシャムマウスのものと同等であり、心臓の機能的改善を明らかにした(図8)。
さらに、インビボのMeg3の薬理学的抑制は、心臓リモデリングの後期に起きてMMP2レベルを追い越し心不全をもたらすことが報告されているMMP9発現の増加(図9)、及び心筋における炎症性細胞の浸潤の増加のいずれももたらさなかった(図9)。
上述の結果に基づき、心臓におけるMeg3のサイレンシングは、MMP2の抑制、及び左心室圧負荷の病態、特に駆出率が保たれた心不全(HFpEF)における心臓機能の改善を達成する有望な治療アプローチであることが予想される。本明細書において上述のように、特にこの患者の部分群は、心臓線維症の抑制に焦点を絞った新しい心臓治療薬物を緊急に必要としている。抗Meg3アプローチは、この患者群のための理想的アプローチであることが予想される。
実施例3 さらなる結果
Meg3は培養マウスCFにおけるMmp-2のプロモーターへのP53の結合に影響する
Meg3のサイレンシングに続いて起きるMmp-2発現のダウンレギュレーションは、P53によって媒介されることが見出された。実際に、Jasparデータベースを使用して、P53結合部位がMmp-2転写開始部位の上流の1000bp領域中に予測された。クロマチン免疫沈降により、線維芽細胞をTGF-ベータIで刺激する場合、P53がそのような部位に結合しうることが示された(図10a)。しかし、Meg3の発現がGapmeRトランスフェクションによってノックダウンされる場合、Mmp-2プロモーターへのP53の結合は起きず、Mmp-2転写が弱められる(図10b)。
興味深いことに、P53標的であり細胞周期調節因子であるCdkn1a(p21)の発現は、Meg3のサイレンシングによって影響されなかった。結果として、マウスCFにおけるMeg3サイレンシングに続いて、細胞周期の進行又はアポトーシスには何ら変化が検出されなかった(図11)。
インビボのMeg3のサイレンシングは、6週のTAC後に心筋のMMP2の活性化を弱める
6週のTACを受けるマウスにおけるGapmeR Meg3の注射に続いて、活性MMP-2の心筋レベルをゲルザイモグラフィーによって検出した。Meg3の予防的サイレンシングの後、活性MMP-2レベルが有意に低下した(図12)。
インビボのMeg3のサイレンシングは、6週のTAC後に毛細血管密度に影響しない
Mmp-2及びMeg3は両方とも血管新生に影響すると記載されているため(Boonら, J Am Coll Cardiol 2016 Dec 13;68(23):2589-2591及びGivvimaniら, Arch Physiol Biochem 2010 May; 116(2):63-72)、6週のTAC及びGapmeRの注射を受けるマウスにおいて毛細血管密度を評価した。シャム及びTACマウスの間で、並びにGapmeR対照又はGapmeR Meg3を与えられるTACマウスの間で、何ら有意差は見いだされなかった(図13)。
インビボのMeg3のサイレンシングは、6週のTAC後にLV重量を減少させ、心臓の収縮に影響せずに拡張機能を改善する
GapmeR Meg3を注射したTACマウスにおけるECM沈着の減少及びCMC肥大レベルの低下は、心エコー検査により測定される、心室中隔(IVS)及びLV後壁(LVPW)の両方の厚みの減少に反映された。したがって、心エコー検査のLV重量は、TAC + GapmeR対照群に比べてTAC + GapmeR Meg3群において減少した(図14)
一方、LV径、並びに駆出率及び短縮率はMeg3のサイレンシングによって影響されなかった(図15)。
パルスドップラー心エコー検査によって評価される、より良好な心筋機能があることに加えて、血行動態測定によって、Meg3のサイレンシングはTAC後の有意に良好な拡張機能を伴うことが確認された。一方、心臓収縮はMeg3のレベルによって有意に影響されなかったため、Meg3のレベルは心筋収縮ではなく心臓の受動的性質に選択的に影響するようである(図16及び17)。
ヒトCFにおけるMeg3のサイレンシングはMmp-2、Col1a1、アルファ-SMA及びCtgfのRNAレベルの低下をもたらす
ヒトMeg3を標的とする3つの異なるGapmeRデザインでヒトCFをトランスフェクションした。Mmp-2、Col1a1、アルファ-SMA及びCtgfのレベルを、トランスフェクションの48時間後にリアルタイムPCRによって測定した。ヒトCFにおけるMeg3ノックダウン後、すべての遺伝子がより低いレベルで発現していた(図18)。
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