次に、添付図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。最初に、図2を参照して、本発明に係る実施形態の骨固定システムに含まれる第1の伸縮可能な骨固定部材10の構成について説明する。
[第1の伸縮可能な骨固定部材10]この骨固定部材10は、特に限定されるものではないが、図2に示すように、全体として軸状に構成されている。図示例では、軸線10xに沿って延長された直線状に形成される。骨固定部材10は、第1の軸状体10Aと、第2の軸状体10Bとを有する。この第1の軸状体10Aと第2の軸状体10Bは、軸線10xの方向に相互にスライド可能な伸縮構造、図示例の場合にはテレスコピック構造を構成し、その結果、骨固定部材10は軸線10xの方向に伸縮可能に構成される。また、第1の軸状体10Aは、特に限定されるものではないが、導入時の抵抗を低減し、骨折部の整復状態に影響を与え難い平滑な外表面を有し、ねじなどの突起構造を備えない外形を有することが望ましい。
第1の軸状体10Aは骨固定部材10の先端側に配置され、第2の軸状体10Bは骨固定部材10の基端側に配置される。第1の軸状体10Aは、先端が閉塞された筒状のスリーブ11と、その内部に収容されたピン12とを有する。スリーブ11の先端部の側面には側部開口11aが形成され、この側部開口11aからピン12の先端の湾曲した係合フック部12aが出没可能となるように構成されている。ピン12が先端側へ押し出されたとき、係合フック部12aは、スリーブ11の上記側部開口11aの内部に隣接して形成された傾斜した案内面11bに当接して側部開口11aの側へ押し出される。これにより、係合フック部12aは、軸線10xと交差する方向である、側部開口11aの外側へ向けて突出する。なお、上記の側部開口11a及び係合フック部12aは、軸線10xに沿った方向の同一位置若しくは異なる位置においてそれぞれ出没可能となるように、複数設けられていてもよい。
スリーブ11の基端には基端開口11cが形成され、この基端開口11cはピン12の基端部12bに対する操作を可能にする。基端開口11cの内側には雌ねじ部11dが形成され、基端開口11cから挿入される図示しない導入工具の内側軸の先端の雄ねじ部に螺合可能となるように構成される。基端開口11cには切り欠き部などからなる工具係合部11eが設けられ、前記導入工具の外側軸の先端と当接し、相互に嵌合する。上記導入工具は、前記工具係合部11eと前記外側軸の軸線方向の嵌合状態が前記内側軸によって保持されることによって、前記スリーブ11に対して軸線方向及び回転方向のいずれにも固定される。例えば、上記導入工具は、外側軸の基端部が内側軸の基端部によって前記スリーブ11に対して軸線方向に締め付けられることによって接続状態とされる。
ピン12の基端部12bは係合フック部12aが図示例のように側部開口11a内に格納されている状態で、スリーブ11の基端開口11cからさらに基端側へ突出するように構成される。ピン12の基端部12bに隣接する部分には、抜去時において用いられる図示しない抜去工具の摘出軸の先端ねじ孔に接続するための雄ねじ部12cが形成されている。また、図示しないが、係合フック部12aが側部開口11aから十分に突出した状態では、基端部12bの軸線方向の位置は基端開口11cとほぼ一致する。これにより、係合フック部12aが骨と係合している場合には、基端開口11cからの基端部12bの突出量が存在しないか、或いは、存在したとしても医学的に問題にならない範囲内に収まるように構成される。なお、係合フック部12aは、骨の内部から骨(後述する例では、骨折線よりも奥側の骨頭部Z)に係合する第1の骨係合構造であって、軸線10xと交差する方向に移動可能に構成された可動係合部に相当する。
第2の軸状体10Bは、筒状のバレル部13と、このバレル部13の基端部から軸線10xの一方側へ張り出すように形成されたプレート部14とを有する。バレル部13は、第1の軸状体10Aの上記スリーブ11の基端側部分を、当該スリーブ11を軸線10xに沿ってスライド可能となるように収容している。第1の軸状体10Aは、バレル部13の先端開口13aから先端側へ突出して伸びている。また、バレル部13の基端には基端開口13bが設けられ、この基端開口13bを通して、スリーブ11やピン12の基端部分に対する前記導入工具や前記抜去工具などを用いた各種の操作が可能になっている。なお、スリーブ11の外周面には、リング状の溝などから構成される1又は複数の軸線方向の目印11gを適宜に形成してもよい。図示例の場合には、目印11gは軸線方向の複数個所に形成されている。この目印11gは、第1の伸縮可能な骨固定部材10の伸縮状態を、透視的に確認可能な態様(X線画像などの放射線画像により視認可能となる態様)で示すものである。図示例のように三本目の目印11gの位置がバレル部13の先端開口13aの縁部に一致していれば、骨固定部材10が伸長状態にあることを知ることができ、また、一本目の目印11gが先端開口13aに一致すれば、骨固定部材10が短縮状態にあることを知ることができる。
図示例の場合、スリーブ11の外周面の形状とバレル部13の内周面の形状との間の関係により、上記テレスコピック構造のスライド範囲Lは制限されている。このスライド範囲Lは、第1の軸状体10Aが基端側へスライドし、第2の軸状体10Bの内部に最も引き込まれた位置で、スリーブ11の基端開口11cがバレル部13の基端開口13bとほぼ一致するように構成される。ただし、実際には完全に一致する必要はない。これにより、係合フック部12aが骨内に突出しているときには、ピン12の基端部12bやスリーブ11の基端開口11cは、バレル部13の基端開口13bより突出しないか、或いは、医学的に問題のない程度の突出量の範囲に収まる。図示例の場合には、ピン12の基端部12bとスリーブ11の基端開口11cは、いずれもバレル部13の基端開口13bより突出しない。このように、スライド可能な範囲が引き込み側に制限されているため、第1の軸状体10Aが第2の軸状体10Bの内部に最も引き込まれた状態であっても、第1の軸状体10Aの基端がバレル部13の基端開口13bから突出しないか、或いは、医学的に問題が生じない範囲の突出量に抑制される。
なお、スリーブ11の外周に止め輪11fを装着することにより、第1の軸状体10Aが第2の軸状体10Bから引き出される側にもスライド可能な範囲が制限される。これにより、第1の軸状体10Aを第2の軸状体10Bから分離すること(軸線方向先端側への抜き取り)ができないように構成される。
また、本実施形態では、第1の軸状体10Aと第2の軸状体10Bが相互にスライド可能に構成されている上記スライド範囲Lの全範囲にわたって、第1の軸状体10Aと第2の軸状体10Bとが軸線10xの周りに回転可能に接続されている。ただし、上述のように伸縮可能なスライド範囲Lのうちの一部において、第1の軸状体10Aと第2の軸状体10Bとが軸線10xの周りに回転可能であるが、他の部分において、第1の軸状体10Aと第2の軸状体10Bとが軸線10xの周りに回転できないように構成されていてもよい。このとき、上記一部は、手術時において術者が手技的に容易に位置決めできる位置であることが好ましい。例えば、テレスコピック構造が伸長状態にあるときだけ両軸状体が相互に回転可能であり、多少でも短縮した中間状態及び短縮状態では相互に回転できないように構成することができるし、これとは逆に、伸長状態と中間状態で回転不能、短縮状態で回転可能とすることもできる。これにより、第1の軸状体10Aと第2の軸状体10Bを軸線10xの周りの任意の相対的角度関係に設定することが可能になる。すなわち、第1の軸状体10Aをプレート部14の角度姿勢に対して任意の角度関係に設定することが可能になる。
前述のように、第1の軸状体10Aと第2の軸状体10Bとが上記スライド範囲Lの一部において相互に回転可能に構成され、上記一部以外の他の部分において相互に回転規制されるように構成される場合には、回転規制によりさらなる効果が得られる。例えば、第1の軸状体10Aが第2の軸状体10Bの内部に最も引き込まれた短縮状態では、第1の軸状体10Aと第2の軸状体10Bが図示例と同様に相互に回転自在となるように構成されるが、上記短縮状態から多少でも第1の軸状体10Aが第2の軸状体10Bから引き出された状態、すなわち、伸長状態及び中間状態では、第1の軸状体10Aと第2の軸状体10Bの相互の軸線周りの回転が規制されるようにしてもよい。
この回転規制を行うための構造は、第1の軸状体10Aの基端側の外周面(スリーブ11の基端側の外周面)と、第2の軸状体10Bの基端側の内周面(バレル部13の基端側の内周面)とが非円形の相互に回転方向に係合可能となるような相互に嵌合可能な断面形状を、上記スライド範囲Lの一部において相互に嵌合し、他の部分においては嵌合しないように備えることにより構成できる。このように構成すると、手術中において第1の軸状体10Aと第2の軸状体10Bの間の相対的な回転姿勢を変更したい場合(例えば、第1の骨係合構造の回転姿勢を調整したり設定したりする際)には、上記スライド範囲Lの中の上記一部に対応する伸縮状態(例えば、上記短縮状態)とし、上記回転姿勢を維持したい場合(例えば、係合フック部12aを突出させた後、或いはその直前など)には、上記一部以外の他の部分に対応する伸縮状態(例えば、上記伸長状態及び中間状態)とすればよい。これにより、第1の骨係合構造の回転姿勢の調整や設定を可能にしつつ、骨固定部材10の骨(例えば、骨頭部Z)に対する回旋規制作用を単独でも得ることができるため、骨固定部材の導入本数に拘わらず、骨固定システムの回旋方向の負荷に対する保持力(剛性)を高めることができる。
なお、本実施形態のように、基本的には第1の軸状体10Aと第2の軸状体10Bを軸線10xの周りに相互に回転可能に構成しておくが、事後的に、回転規制手段により、第1の軸状体10Aと第2の軸状体10Bが軸線10xの周りに相互に回転規制されるように構成してもよい。この回転規制手段としては、例えば、スリーブ11の基端開口11cの開口縁に形成した非円形断面を備える係合内面部と、バレル部13の基端開口13bの開口縁に形成した非円形断面を備える係合内面部と、これらの係合内面部に共に挿入可能であり、かつ、両係合内面部に対して軸線周りに係合可能な部材であって、ピン12の基端側部分を挿通させる貫通した軸孔を備えた嵌合部材(図示せず)などを用いることができる。この嵌合部材を基端開口11cと基端開口13bに挿入することにより、第1の軸状体10Aと第2の軸状体10Bが相互に回転できなくなる。なお、回転規制手段としては、上記嵌合部材のように装着時において回転規制を行う部材を用いるものでもよく、或いは、常に装着された状態にあるが、特定の位置若しくは姿勢となったときに回転規制を行う部材を用いるものでもよい。
プレート部14は、骨の外面に当接する態様で係合する骨固定部材10の基端部であって、バレル部13の基端部から軸線10xの一方側へ張り出している。プレート部14には、基端開口13bと並列するように形成された開口部14aが形成されている。ここで、開口部14aの軸線14xは、軸線10xと平行に設定されている。開口部14aは、軸線14xに沿って先端側(図示左側)に向けて縮径する円錐台状に形成されている。開口部14aには、内部ねじ山14bが形成されている。この内部ねじ山14bは、後述する他方の骨固定部材20の頭部25に形成された雄ねじ25aと螺合可能に構成される。なお、本発明においては、軸線10xと14xは平行に限らず、両軸線が並行して伸びるように構成されていればよい。ここで、並行とは互いに他方に沿って伸びることを意味し、伸びる方向に見たときに相互の間隔が変わらないこと、すなわち、相互に平行であることを要しない。
プレート部14は、バレル部13と一体に構成されている。これにより、後述するように、伸縮可能な骨固定部材を別体のプレートに対して連結する(ロッキング固定する)ことが不要になるため、手術時の作業量を軽減できる。また、プレート部14は、軸線10xに対して一方側にのみ張り出し、その一方側の先端に開口部14aが配置されているので、コンパクトに構成できる。特に、プレート部14は、軸線10xから上記一方側へ向かう方向に延長された平面形状を備えているため、さらにコンパクトに構成される。プレート部14のコンパクト化は、手術時の要切開範囲の低減により低侵襲性をもたらす。なお、本発明においては、プレート部14は軸線10xの一方側にのみ張り出す態様に制限されるものではなく、複数の方向に張り出すように構成されていてもよく、また、或る角度範囲において、或いは、全方位に対して、広がるように構成されていてもよい。
プレート部14の軸線10xの方向の先端側に設けられる底面(骨の表面に対面する側の面)14cには、ざぐり形状を備えた形状加工部14dが形成されている。この形状加工部14dは、図4等に示す態様で骨固定部材10を骨に装着した場合に、上記底面14cを外側部Yの対面する部分の表面形状に近づけるために、上記軸線10xと14xを結ぶ線に対して斜めに交差する幅方向に見たときに当該幅方向の両側に面形状の差が生ずるようにした加工部分である。図示例の場合、形状加工部14dは、プレート部14の底面14cのうちの軸線14xの通過位置(開口部14aの中央)の周囲(開口部14aの周縁)にある面部分において主として設けられている。ただし、図示例に限られず、形状加工部14dを底面14c全体に亘って適宜の面形状で形成するようにしても構わない。図4に示すように、本実施形態では、プレート部14は外側部Y上においてプレート部14の軸線が角度φだけ傾けた姿勢となるように設置される。このため、プレート部14の底面14cのうち、軸線10xが通過する位置の周囲にある第1の面部分と、第2の軸線14xが通過する位置(開口部14aの中心)の周囲にある第2の面部分(開口部14aの周縁部)との間に、大腿骨の軸線方向の距離Laだけでなく、当該軸線方向と直交する幅方向の距離Lwも存在することとなる。上記距離Laは、上記両面部分が図4に示すように曲率の異なる骨の表面BaとBb上に設置される原因となる。一方、上記の幅方向の距離Lwは、上記両面部分が対面する骨の表面BaとBbの表面角度が相互に異なる原因となる。
特に、後者の幅方向の距離Lwにより、骨の表面Baの角度と表面Bbの角度とが幅方向にて異なるため、底面14cを整合性よく骨の表面上に設置するには、骨の表面角度の変化に合わせて形状加工する必要がある。本実施形態では、上記底面14cのうちの上記第2の面部分の幅方向の片側(図示右側)にざぐり形状とした形状加工部14dを設けている。これによって、上記骨の表面角度の差異により生ずる底面14cと骨の表面との間の不整合性を低減している。なお、本実施形態では、上記第2の面部分の幅方向の片側(図4の右側)をざぐり加工した形状としているが、上記第2の面部分の幅方向の反対側(図4の左側)を厚肉化してもよく、或いは、上記第1の面部分において、幅方向の片側(図4の右側)を厚肉化したり、幅方向の反対側(図4の左側)をざぐり加工した形状としたりしてもよい。
また、上記の構成に加えて、上記の距離Laに伴う幅方向の曲率の大小などの骨の表面形状の差異に起因する底面14cとの不整合性をも低減するために、底面14cの上記第1の面部分の面形状と、上記第2の面部分の面形状とが異なるように、底面14cの形状を構成してもよい。このようにすると、プレート部14の外側部Yに対する設置性をさらに高めることができる。
なお、図4に示す骨の表面BaとBbに対する底面14cの断面形状の図は、表面Baに対面する上記第1の面部分の面形状と、表面Bbに対面する上記第2の面部分の面形状とが同じになるように形成した場合(すなわち、上記形状加工部14dを設けない場合)を示している。図示の場合には、表面BaとBbの角度変化により、表面Bbに対する底面14cの整合性が悪化していることがわかる。ここで、図示の角度θは、大腿骨の骨幹部に対して骨頭部Zが斜め前方へ突出する角度である前捻角に対応して、骨固定部材10を外側部Yから頚部Xを介して骨頭部Zに導入する際の後述する第2の軸線10sの向きが前方へ傾斜する際の傾斜角度を示している。ここで、本実施形態で示す図示例の各器具10,20はいずれも左大腿骨用である。右大腿骨用の場合には、上記傾斜角度θは逆向きに設定される。
次に、図3を参照して、第2の伸縮可能な骨固定部材20について説明する。
[他方の骨固定部材20]この骨固定部材20は、特に限定されるものではないが、図3に示すように、全体として軸状に構成されている。図示例では、軸線20xに沿って延長された直線状に形成される。骨固定部材20は、第1の軸状体20Aと、第2の軸状体20Bとを有する。この第1の軸状体20Aと第2の軸状体20Bは、軸線20xの方向に相互にスライド可能な伸縮構造、より具体的にはテレスコピック構造を構成し、その結果、骨固定部材20は軸線20xの方向に伸縮可能に構成される。また、第1の軸状体20Aは、特に限定されるものではないが、導入時の抵抗を低減し、骨折部の整復状態に影響を与え難い平滑な外表面を有し、ねじなどの突起構造を備えない外形を有することが望ましい。
第1の軸状体20Aは骨固定部材20の先端側に配置され、第2の軸状体20Bは骨固定部材20の基端側に配置される。第1の軸状体20Aは、先端が閉塞された筒状のスリーブ21と、その内部に収容されたピン22とを有する。スリーブ21の先端部の側面には側部開口21aが形成され、この側部開口21aからピン22の先端の湾曲した係合フック部22aが出没可能となるように構成されている。ピン22が先端側へ押し出されたとき、係合フック部22aは、スリーブ21の上記側部開口21aの内部に隣接して形成された傾斜した案内面21bに当接して側部開口21aの側へ押し出される。これにより、係合フック部22aは、軸線20xと交差する方向である、側部開口21aの外側へ向けて突出する。なお、上記の側部開口21aと係合フック部22aは、軸線20xに沿った方向の同一位置若しくは異なる位置においてそれぞれ出没可能となるように、複数設けられていてもよい。
スリーブ21の基端には基端開口21cが形成され、この基端開口21cはピン22の基端部22bに対する操作を可能にする。基端開口21cの内側には雌ねじ部21dが形成され、基端開口21cから挿入される図示しない導入工具の内側軸の先端の雄ねじ部に螺合可能となるように構成される。基端開口21cには切り欠き部などからなる工具係合部21eが設けられ、前記導入工具の外側軸の先端と当接し、相互に嵌合する。上記導入工具は、前記工具係合部21eと前記外側軸の軸線方向の嵌合状態が前記内側軸によって保持されることによって、前記スリーブ21に対して軸線方向及び回転方向のいずれにも固定される。例えば、上記導入工具は、外側軸の基端部が内側軸の基端部によって前記スリーブ21に対して軸線方向に締め付けられることによって接続状態とされる。
ピン22の基端部22bは係合フック部22aが図示例のように側部開口21a内に格納されている状態で、スリーブ21の基端開口21cからさらに基端側へ突出するように構成される。ピン22の基端部22bに隣接する部分には、抜去時において用いられる図示しない抜去工具の摘出軸の先端ねじ孔に接続するための雄ねじ部22cが形成されている。また、図示しないが、係合フック部22aが側部開口21aから十分に突出した状態では、基端部22bの軸線方向の位置は基端開口21cとほぼ一致する。これにより、係合フック部22aが骨と係合している場合には、基端開口21cからの基端部22bの突出量が存在しないか、或いは、存在したとしても医学的に問題にならない範囲内に収まるように構成される。なお、係合フック部22aは、骨の内部から骨(後述する例では、骨折線よりも奥側の骨頭部Z)に係合する第1の骨係合構造であって、軸線20xと交差する方向に移動可能に構成された可動係合部に相当する。
第2の軸状体20Bは、筒状のバレル構造23を有する。図示例では、バレル構造23のみにより第2の軸状体20Bが構成される。このバレル構造23は、先端側はほぼ平滑な円筒面状の外面を備え、軸線20xを中心とする回転体状の基本形状を備えている。このバレル構造23の基端側には、上記円筒面状の外面上において骨係合用の雄ねじ24が設けられている。雄ねじ24は、第1及び第2の伸縮可能な骨固定部材10,20が第1の軸状体10A,20Aの側から導入される骨(図示例では大腿骨近位部)の表面下(図示例では外側部Yの直下)の皮質に係合する第2の骨係合構造である。バレル構造23は、第1の軸状体20Aの上記スリーブ21の基端側部分を、軸線20xに沿ってスライド可能に収容している。第1の軸状体20Aは、バレル構造23の先端開口23aから先端側へ突出して伸びている。また、バレル構造23の基端には基端開口23bが設けられ、この基端開口23bを通して、スリーブ21やピン22の基端部分に対する前記導入工具や前記抜去工具などを用いた各種の操作が可能になっている。なお、目印21gは上記目印11gと同様である。
図示例の場合、スリーブ21の外周面の形状とバレル構造23の内周面の形状との間の関係により、第1の軸状体20Aと第2の軸状体20Bが相互にスライド可能に構成されている範囲がスライド範囲Lに制限されている。このスライド範囲Lは、第1の軸状体20Aが基端側へスライドし、第2の軸状体20B(バレル構造23)の内部に最も引き込まれた位置で、スリーブ21の基端開口21cがバレル構造23の基端開口23bとほぼ一致するように構成される。ただし、実際には完全に一致する必要はない。これにより、係合フック部22aが骨内に突出しているときには、ピン22の基端部22bは基端開口21cより突出しないか、或いは、医学的に問題のない程度の突出量の範囲に収まる。図示例の場合には、ピン22の基端部22bとスリーブ21の基端開口21cは、いずれもバレル構造23の基端開口23bより突出しない。このように、スライド可能な範囲が引き込み側に制限されているため、第1の軸状体20Aが第2の軸状体20Bの内部に最も引き込まれた短縮状態であっても、第1の軸状体20Aの一部がバレル構造23の基端開口23bから突出しないか、或いは、医学的に問題が生じない範囲の突出量に抑制される。
なお、スリーブ21の外周に止め輪21fを装着することにより、第1の軸状体10Aが第2の軸状体10Bから引き出される側にもスライド可能な範囲が制限される。これにより、第1の軸状体20Aを第2の軸状体20Bから分離すること(軸線方向先端側への抜き取り)ができないように構成される。
また、本実施形態では、第1の軸状体20Aと第2の軸状体20Bが相互にスライド可能に構成されている上記スライド範囲Lの全範囲にわたって、第1の軸状体20Aと第2の軸状体20Bとが軸線20xの周りに回転可能に接続されている。ただし、上述のように伸縮可能なスライド範囲Lのうちの一部において、第1の軸状体20Aと第2の軸状体20Bとが軸線20xの周りに回転可能であるが、他の部分において、第1の軸状体20Aと第2の軸状体20Bとが軸線20xの周りに回転できないように構成されていてもよい。このとき、上記一部は、手術時において術者が手技的に容易に位置決めできる位置であることが好ましい。例えば、テレスコピック構造が伸長状態にあるときだけ両軸状体が相互に回転可能であり、多少でも短縮した中間状態と短縮状態では相互に回転できないように構成することができるし、これとは逆に、伸長状態と中間状態で回転不能、短縮状態で回転可能とすることもできる。これにより、第1の軸状体10Aと第2の軸状体10Bを軸線10xの周りの任意の相対的角度関係に設定することが可能になる。すなわち、第1の軸状体20Aを骨係合用の雄ねじ24やロッキング用の雄ねじ25aの角度姿勢に対して任意の角度関係に設定することが可能になる。
前述のように、第1の軸状体20Aと第2の軸状体20Bとが上記スライド範囲Lの一部において相互に回転可能に構成され、上記一部以外の他の部分において相互に回転規制されるように構成される場合には、回転規制によりさらなる効果が得られる。例えば、第1の軸状体20Aが第2の軸状体20Bの内部に最も引き込まれた短縮状態では、第1の軸状体20Aと第2の軸状体20Bが図示例と同様に相互に回転自在となるように構成されるが、上記短縮状態から多少でも第1の軸状体20Aが第2の軸状体20Bから引き出された状態、すなわち、伸長状態及び中間状態では、第1の軸状体20Aと第2の軸状体20Bの相互の軸線周りの回転が規制されるようにしてもよい。
この回転規制を行うための構造は、第1の軸状体20Aの基端側の外周面(スリーブ21の基端側の外周面)と、第2の軸状体20Bの基端側の内周面(バレル構造23の基端側の内周面)とが非円形の相互に回転方向に係合可能となるような相互に嵌合可能な断面形状を、上記スライド範囲Lの一部において相互に嵌合し、他の部分においては嵌合しないように備えることにより構成できる。このように構成すると、手術中において第1の軸状体20Aと第2の軸状体20Bの間の相対的な回転姿勢を変更したい場合(例えば、第1の骨係合構造の回転姿勢を調整したり設定したりする際)には、上記スライド範囲Lの中の上記一部に対応する伸縮状態(例えば、上記短縮状態)とし、上記回転姿勢を維持したい場合(例えば、係合フック部22aを突出させた後、或いはその直前など)には、上記一部以外の他の部分に対応する伸縮状態(例えば、上記伸長状態及び中間状態)とすればよい。これにより、第1の骨係合構造の回転姿勢の調整や設定を可能にしつつ、骨固定部材20の骨(例えば、骨頭部Z)に対する回旋規制作用を単独でも得ることができるため、骨固定部材の導入本数に拘わらず、骨固定システムの回旋方向の負荷に対する保持力(剛性)を高めることができる。
なお、本実施形態のように、基本的には第1の軸状体20Aと第2の軸状体20Bを軸線20xの周りに相互に回転可能に構成しておくが、事後的に、回転規制手段により、第1の軸状体20Aと第2の軸状体20Bが軸線20xの周りに相互に回転規制されるように構成してもよい。この回転規制手段としては、例えば、スリーブ21の基端開口21cの開口縁に形成した非円形断面を備える係合内面部と、バレル構造23の基端開口23bの開口縁に形成した非円形断面を備える係合内面部と、これらの係合内面部に共に挿入可能であり、かつ、両係合内面部に対して軸線周りに係合可能な部材であって、ピン12の基端側部分を挿通させる貫通した軸孔を備えた嵌合部材(図示せず)などを用いることができる。この嵌合部材を基端開口21cと基端開口23bに挿入することにより、第1の軸状体20Aと第2の軸状体20Bが相互に回転できなくなる。なお、回転規制手段としては、上記嵌合部材のように装着時において回転規制を行う部材を用いるものでもよく、或いは、常に装着された状態にあるが、特定の位置若しくは姿勢となったときに回転規制を行う部材を用いるものでもよい。
上記骨係合用の雄ねじ24は、骨の皮質(図示例では外側部Yの皮質)に係合するためのねじ山であり、セルフタッピングを可能にするための正タッピング刃24a(図示例では3箇所)及び逆タッピング刃24b(図示例では2箇所)を備えている。ここで、正タッピング刃24aは、バレル構造23を骨の下穴にねじ込んでいくときのセルフタッピング用である。また、逆タッピング刃24bは、骨固定部材20の抜去時にバレル構造23を骨から抜き取る際のセルフタッピング用である。後者は、治癒過程において形成された仮骨をタッピングすることにより、骨固定部材20を抜取り可能にするために設けられている。
バレル構造23の基端には、基端側へ進むほど拡径した円錐台状の頭部25が形成される。この頭部25は、バレル構造23の他の部分と同様に、軸線20xを中心とする回転体状の基本形状を備える。そして、頭部25の上記基本形状の外周上には、ロッキング用の雄ねじ25aが形成されている。このロッキング用の雄ねじ25aは、図示例では2条ねじである。骨の表面下の皮質に雄ねじ24がねじ込まれていく(タッピングされていく)過程において、雄ねじ25aが開口部14aの内部ねじ山14bに同期して螺合していくように、ロッキング用の雄ねじ25aと、上記骨係合用の雄ねじ24は、相互に同じリードSを有するねじ構造を備えることが好ましい。頭部25の内部にはレンチなどの工具に係合し、第2の軸状体20Bを回転駆動させるための、六角穴構造などの工具係合部25bが形成される。なお、雄ねじ25aは、頭部25やプレート部14の開口部14aの周辺の厚みを低減しても十分な軸力を得るために多条ねじ(図示例では2条ねじ)となっている。
なお、第2の伸縮可能な骨固定部材20とプレート部14の開口部14aとは、第2の伸縮可能な骨固定部材20の第1の軸状体20Aの全体と、第2の軸状体20Bの頭部25(より詳細には頭部25の基端)以外の部分を全て開口部14aに挿通可能となるように寸法付けられている。これにより、先に第1の伸縮可能な骨固定部材10を第1の軸状体10Aの側から骨(大腿骨近位部)に導入し、第2の軸状体10Bのプレート部14を骨の表面(外側部Y)上に配置した状態としてから、第2の伸縮可能な骨固定部材20を開口部14aを通して骨(大腿骨近位部)に導入することが可能になる。
次に、上記実施形態の骨固定部材10,20を用いた図1に示す適用態様の例について説明する。
[第1適用態様]この態様は、大腿骨頚部骨折(内側骨折)への適用例であり、大腿骨の頚部Xの骨折線を跨いで、二つの骨固定部材10,20を大腿骨の外側部Yから骨頭部Zの内側にまで導入している。遠位側に導入される骨固定部材20は、図4に示すように、外側部Yから頚部Xの遠位側の皮質の内面に支持されるように導入され、近位側に導入される骨固定部材10は、外側部Yから頚部Xの後方の皮質の内面に支持されるように導入される。これにより、骨固定部材10、20は、外側部Yと、頚部Xの遠位側と、頚部Xの後方との3か所の皮質にそれぞれ支持された状態となる。
上記の態様では、まず、遠位側の骨固定部材20を導入する第1の基準線20sに沿ってガイドピンの挿入と、ドリルやリーマなどの穿孔具による下穴の穿孔とを行う。この第1の基準線20sは、頚部Xの遠位側の皮質の内側を通過し、骨頭部Zの内部に向かう。そして、この第1の基準線20sに沿って導入されたガイドピンや穿孔具などを基準として、頚部Xの後方の皮質の内側を通過する第2の基準線10sを設定し、ガイドピンの挿入、下穴の穿孔を行う。第2の基準線10sの設定位置は、患者の頚部Xの大きさによって異なる。しかし、図4に示すように、本実施形態の骨固定部材10と骨固定部材20との間隔(これは、軸線10xと20xの間隔、すなわち、軸線10xとプレート部14の開口部14aの軸線14xとの間隔と等しい。)Gは一定である。このため、頚部Xのサイズの大小に拘わらず、第2の基準線10sに沿って骨固定部材10を挿入したときに後方の皮質の内側に接触するように、角度φを調整して、それぞれ第2の基準線10sの位置を設定する。すなわち、頚部Xが大きい場合には角度φを大きくし、頚部Xが小さい場合には角度φを小さくして、骨固定部材10が頚部Xの後方の皮質に接するように第2の基準線10sの位置を調整する。
なお、第1の基準線20sと第2の基準線10sは基本的には平行であるが、状況に応じて適宜の相互姿勢関係に設定することができる。この相互姿勢関係を確保するために、図示しないガイド器具を用いる。このガイド器具は、二本の骨固定部材20にそれぞれ対応する第1の基準線と第2の基準線の間の相互姿勢関係を規定するものであり、通常は両基準線を平行に設定する平行ガイド器具である。また、上記の相互姿勢関係をプレート部14の開口部14aを用いて定めることも可能である。なお、図示例のように、骨癒合過程における骨折部の短縮作用(骨頭短縮)に対応するには、骨固定部材10と20が相互に平行に導入される必要がある。
次に、第2の基準線10sに沿って導入されたガイドピンなどにより、近位側の骨固定部材10を第2の基準線10sに沿って導入する。このとき、骨固定部材10は、プレート部14の開口部14aが第1の基準線20sに沿って導入されたガイドピンや穿孔具、或いは、これらに接続された各種の工具に挿通される態様で、第2の基準線10sに沿って導入される。この骨固定部材10の導入は、スリーブ11の雌ねじ部11dに螺合するとともに、工具係合部11eに係合する上記の導入工具を用いる。この導入工具は、スリーブ11に対して第2の基準線10sに沿った軸線方向と、第2の基準線10sの周りの回転方向の双方に固定される。このとき、骨固定部材10の挿入深さと、側部開口11aの開口の向き、及び、係合フック部12aの突出の向きが定まる。
骨固定部材10において、第1の軸状体10Aと第2の軸状体10Bのスライド量は、上記導入工具により適宜に設定することができる。骨固定部材10が最も長くなる状態、すなわち、伸長状態である場合には、導入工具で第1の軸状体10Aを穿孔部に押し込むことにより、第2の軸状体10Bのプレート部14を外側部Y上に当接させる。この状態で別のピン操作工具によりピン12の基端部12bを押し込むことで、係合フック部12aを側部開口11aから骨内に突出させることができ、第1の軸状体10Aを骨に係合させることができる。
本実施形態において、骨固定部材10は伸縮可能に構成されているため、第1の軸状体10Aと第2の軸状体10Bの伸縮構造を上記スライド範囲L内の任意の中間状態で用いることも可能である。この場合には、導入工具によって第1の軸状体10Aの導入深さを適宜に設定し、そこでピン操作工具により係合フック部12aを突出させ、骨に係合させる。その後、必要に応じて、第2の軸状体10Bを他の器具などで押し込み、外側部Yの表面に当接させる。このような係合フック部12aの係合位置の深さ調整は、患者の骨頭位置と骨固定部材10のサイズとの関係、患者の骨頭部Z内の骨質の良否などに応じて医師が手術中に判断する必要があるため、骨固定部材10のスライド構造は、インプラントのサイズ別準備数量を低減できる点と手術時のサイズ交換作業が不要になる点で極めて効果的である。
上述のようにして骨固定部材10の設置が完了すると、その後、ガイドピン等により規定される第1の基準線20sに沿って骨固定部材20を導入する。この骨固定部材20においても、上記と同様に、スリーブ21の基端において軸線方向及び回転方向に固定される導入工具を用いる。第1の軸状体20Aが穿孔部内に導入され、第2の軸状体20Bの骨係合用の雄ねじ24が外側部Yに到達すると、工具係合部25bに係合させた回転駆動工具により第2の軸状体20B(バレル構造23)を回転し、雄ねじ24を骨にねじ込んでいく。雄ねじ24は、正タッピング刃24aによるセルフタッピングにより穿孔部の周囲をタッピングしながらねじ込まれ、これにより、雄ねじ24は外側部Yの表面下の皮質にしっかりと係合する。
このとき、頭部25は、骨固定部材10のプレート部14に形成された開口部14aに挿入され、その内部ねじ山14bにロッキング用の雄ねじ25aが螺合する。ロッキング用のねじ孔である開口部14aの内部ねじ山14bとロッキング用の雄ねじ25aの螺合により、骨固定部材20の第2の軸状体20Bはプレート部14に対して固定される。すなわち、第2の軸状体20Bは、ロッキング効果により、プレート部14に対して軸線20xの方向に固定された状態となる。一方、第2の軸状体20Bは骨係合用の雄ねじ24により外側部Yの皮質にも係合している。このことは、ロッキング構造を介して、プレート部14(ひいては骨固定部材10の軸線10x)が外側部Yに対してしっかりと固定されることを意味する。また、上記ロッキング構造の効果は、骨固定部材20のプレート部14或いは外側部Yに対する角度安定性を保証する。この角度安定性は、骨固定部材10と20の間の相互姿勢(平行度)の剛性を増強するとともに、骨係合用の雄ねじ24を介して骨固定部材10,20の骨の表面近傍の皮質(外側部Y)に対する固定力を高める。
最後に、第1の軸状体20Aが適切な深度に配置されていることを確認した後に、ピン操作工具により係合フック部22aを側部開口21aから突出させ、骨に係合させる。このとき、第1の軸状体20Aに固定された上記導入工具により、第1の軸状体20Aと第2の軸状体20Bとの間の軸線方向の位置関係が適切な一定の関係(例えば、伸長状態)に維持されるように構成すれば、回転駆動工具による第2の軸状体20Bのねじ込み作業が終了すると、その時点で第1の軸状体20Aが穿孔部内の適切な深度に配置されることになるため、そのまま係合フック部22aを突出させることができる。このようにするためには、例えば、第1の軸状体20Aの基端に接続された導入工具と、第2の軸状体20Bの基端に接続された回転駆動工具とが相互に連結されたとき、導入工具の第1の軸状体20Aに対する接続位置と回転駆動工具の第2の軸状体20Bとの接続位置との間の軸線方向の位置関係により、骨固定部材20の伸縮構造を常に伸長状態その他の一定の伸縮状態となるように保持する構成とすればよい。
以上説明したように、第1の骨係合構造を備えた第1の軸状体10A、20Aと、この第1の軸状体10A,20Aとの間で伸縮構造を構成する第2の軸状体10B、20Bとを有する、伸縮可能な骨固定部材10,20を含むことにより、骨の表面上や表面下(外側部Y)の皮質に骨固定部材10.20の基端側部分である第2の軸状体10B,20Bを骨にしっかりと固定した上で、骨固定部材10,20の先端側部分に設けた第1の骨係合構造の軸線方向の位置(係合位置)を任意に変更し、調整及び設定することができる。これにより、本実施形態は、骨粗鬆症などの脆弱な骨質や、Garden分類のステージIIIやIVの不安定な転位型などの複雑な骨折態様にも適用可能な柔軟で確実な対応性を有する骨固定システムとなる。
特に、第2の軸状体10B,20Bに対する第1の骨係合構造の係合位置が移動可能に構成されることにより、骨の治癒過程における短縮作用(骨頭短縮)への順応性を確保できる。このため、骨の表面近傍箇所にある骨部分(骨折線よりも表面側にある部分、例えば、外側部Y)に対して第2の軸状体10B,20Bをスライド可能な状態に設置する必要がなくなり、第2の軸状体10B,20Bを上記骨部分に対しては密着性の高い態様で適用することが可能になる。したがって、複数の骨固定部材が骨の表面下の皮質に共に支持されるように適用できることから、骨固定部材10と20の間の相対姿勢を維持するための剛性を大幅に向上できる。これにより、例えば、骨固定部材10と20の間にX型回旋転位(チョップスティックス現象)が生ずることなどを回避できる。このような固定態様は、骨固定システム全体の剛性が向上することにより、骨粗鬆症などの脆弱な骨に対する局所的な圧迫の危険性を回避できる点でも有利である。
本実施形態の場合、具体的には、骨固定部材10,20は、第1の軸状体10A,20Aと第2の軸状体10B,20Bが伸縮構造によりスライド可能に構成されるため、プレート部14や雄ねじ24により外側部Yに係合される第2の軸状体10B,20Bに対して、第1の軸状体10A,20Aの第1の骨係合構造(係合フック部12a,22a)が骨頭部Zに係合する位置(穿孔部内の深さ)を第1の基準線20s及び第2の基準線10sに沿って適宜に設定することができる。
特に、第1の骨係合構造を係合フック部12a,22aなどの可動係合部を備えたものとした場合には、第1の軸状体10A,20Aと第2の軸状体10B,20Bが相互に軸線周りに回転可能に接続されていることにより、係合フック部12a,22aなどの可動係合部が骨内に突出する向きも、第2の軸状体10B,20Bの軸線周りの回転姿勢によらず、任意に設定することができる。このように、骨折線よりも奥側にある部分(骨頭部Z)に対する第1の骨係合構造を備えるとともに、骨折線よりも表面側にある部分(外側部Y)に対する第2の骨係合構造を備えた骨固定システムにおいて、第1の骨係合構造の深さと向きを任意に設定することができるため、骨質や骨折態様に合わせて柔軟かつ確実に対応することが可能になる。
なお、上記の第1の軸状体10A,20Aと第2の軸状体10B,20Bの間の軸線周りの回転可能な接続構造は、上記骨固定部材10の角度φを適値に設定しつつ、係合フック部12aを最適な向きに設定する場合、或いは、上記骨固定部材20の頭部25のロッキング用の雄ねじ25aを適切に開口部14aの内部ねじ山14bに螺合させつつ、係合フック部22aを最適な向きに設定する場合には、いずれも、極めて有効な構造となる。
さらに、本実施形態では、外形において低侵襲のフックピンや骨ねじと同等の骨固定部材を用いるため、手術負担も少なくて足りる。また、第1の骨係合構造もフックピンと同等であるため、上記の理由によりX型回旋転位などが回避されている状況では、不安定型骨折においても比較的強固な固定が得られることが期待できる。特に、前述のように、第2の軸状体10Bと20Bとの間の連結部分(プレート部14及び頭部25)が骨の表面近傍(外側部Y)に対してしっかりと固定されるため、フックピンや骨ねじの落下による疼痛の発生などの弱点も本実施形態では生じない。また、本実施形態の骨固定部材10,20はいずれも伸縮構造を備えていることにより、小児骨頭すべり症の治療などのように骨の成長が早い場合に手術時点で短縮状態若しくは中間状態とすることにより、骨の成長と共に第1の軸状体が骨頭内に骨係合した状態で伸長するため、骨固定部材の基端(頭部)を骨面から大きく突出させておく必要がないことから、骨面からの突出に起因する疼痛を患者に与えることもなくなるとともに、不具合の発生及びこれに起因する再手術も不要となる。
本実施形態の場合、具体的には、骨固定部材10の第2の軸状体10Bはプレート部14を介して骨固定部材20の第2の軸状体20Bに接続され、この第2の軸状体10Bは、雄ねじ24により外側部Yの皮質に係合するとともに、雄ねじ25aによりプレート部14に対してロッキングされるため、骨の表面に対する圧迫や骨折線の両側の骨部分の間における圧迫を高めなくても、骨固定部材10,20は、相互に既定の相互姿勢で固定されると同時に、骨の表面近傍(外側部Y)に対しても強固に固定され得る。また、プレート部14と雄ねじ25aのロッキングは、本質的にはプレート部14の骨表面(外側部Yの表面)への圧迫を不要とするので、血行の阻害などによる合併症を防止できる。なお、前述のように、第2の骨係合構造(骨係合用の雄ねじ24)を介して間接的に骨表面近傍(外側部Y)に対するプレート部14のしっかりとした固定状態を実現することができる。
さらに、本実施形態では、第2の軸状体10Bの軸線10x周りの回転角度姿勢を変えることにより、遠位側に導入される骨固定部材20の第1の基準線20sに対する近位側に導入される骨固定部材10の第2の基準線10sの方位(図4の角度φで定まる。)を任意に設定することができる。したがって、患者の大腿骨のサイズに合わせて上記方位を調整することにより、頚部Xの遠位側の皮質に内接する位置に設定した第1の基準線20sに対して、頚部Xの近位側の後方の皮質に内接する位置に第2の基準線10sを確実に設定することができる。第1の基準線20sと第2の基準線10sの間隔Gは、骨固定部材10と20に適合した間隔Gに対応する図示しないパラレルガイド器具などを用いて設定することができる。特に、図示例のように、プレート部14が基端部から軸線10x(第2の基準線10s)の一方側のみに張り出し、当該一方側の端部に開口部14aを備えることにより、プレート部14の専有面積を、骨固定部材10と20を接続するために必要な最小限にとどめることができるため、さらなる低侵襲化により手術負担をさらに軽減できる。この場合、プレート部14の形状が軸線10xと14xを結ぶ方向に延長された形状であれば、さらにコンパクト化される点で望ましい。
このとき、プレート部14の底面14cが形状加工部14dによって外側部Yの骨表面により適合しやすい面形状を備えるように構成されている。上述のように、プレート部14の軸線10xが通過する位置と、プレート部14の開口部14aの軸線14xが通過する位置との間に、大腿骨の軸線と直交する平面上の幅方向の距離Lwが存在する。これにより、上記底面14cのうちの第1の面部分が対面する骨の表面Baと、第2の面部分が対面する骨の表面Bbとでは、上記距離Lwにより底面14cに対面する表面角度が異なるものとなる。このようなの骨の表面角度の場所による変化は、プレート部14の底面14cのとの間の整合性を悪化させる。より具体的には、プレート部14の底面14cの面形状を、骨の表面BaとBbのうちの一方(図示例ではBa)に合わせて形成すると、他方(図示例ではBb)に対する不整合性が増大してしまう。そこで、上述のように、上記第1の面部分と上記第2の面部分との少なくとも一方において、軸線10xと第2の軸線14xを結ぶ方向に対して交差する幅方向に見て当該幅方向の両側に面形状の差が生ずるように、すなわち両側が相互に対称形状とは異なる面形状となるように構成するための形状加工部14dを設けることにより、上記整合性を改善することができる。
骨質や骨折態様によっては、三本目の骨固定部材が必要とされる場合もあるが、上述のように患者の患部サイズに適合した位置に二本の骨固定部材10,20が導入されているため、三本目は、好ましくは二本の骨固定部材10,20に接続若しくは連結されずに、最適な位置、例えば、頚部の近位側の前方の皮質に内接する位置に導入することができる。なお、三本目として骨固定部材20を用いる場合には、プレート部14にもう一つの開口部14aを形成し、上記と同様に、頭部25をロッキング固定させるようにしてもよい。
開口部14aの内部ねじ山と頭部25の雄ねじ25aとの螺合によるロッキング固定は、骨係合用の雄ねじ24とロッキング用の雄ねじ25aとが同期している(リードが一致している)構成により、プレート部14の骨面からの不適切な離反、ロッキングねじ(内部ねじ山14bと雄ねじ25a)の不完全なねじ込み状態、骨係合用の雄ねじ24のタッピングにより形成された骨のねじ山の破壊などを防止できる。また、上記の構成は、第2の伸縮可能な骨固定部材20の第2の軸状体20Bのねじ込み時において、この時点におけるプレート部14の骨表面(外側部Yの表面)に対する位置のままで、プレート部14がロッキング固定されることを意味する。したがって、ねじ込み完了後のプレート部14の位置をねじ込み作業時において設定することができる。なお、雄ねじ25aを図示例のように多条ねじとすることにより、プレート部14や頭部25の厚みを制限しつつ、ねじの軸力を確保して確実なロッキング固定を実現できる。なお、以上の点は、プレート部14に対するものに限らず、後述するプレート15のような独立したプレートに対する場合も同様である。
本実施形態の骨固定部材10は、プレート部14の開口部14aに連結される骨固定部材20を、軸線10xと平行な軸線20xを有する姿勢で、しかも、短い間隔Gで固定する。このため、CHSタイプの骨固定システムのように、プレート部を横止めスクリューで固定する必要がないとともに、プレート部の面積も小さくて足り、しかも、横止めスクリューのねじ込み作業のための切開範囲も不要となるから、低侵襲性を維持できる。
次に、図5を参照して、上記とは別の適用態様の例について説明する。
[第2適用態様]この態様では、骨固定部材20を二本用いることによって上記と同様の骨折部分を固定する。個々の骨固定部材20の導入方法は上記の第1適用態様における骨固定部材20の導入方法と同様に行うことができる。また、二本の骨固定部材20,20の間の導入手順は、上記第1適用態様における骨固定部材10と20の間の手順と同様に行うことが可能である。
この適用態様では、個々の骨固定部材20が相互に接続されずに大腿骨の近位部に装着される。このとき、各骨固定部材20の第1の軸状体20Aは、それぞれが突出する係合フック部22aによって骨頭部Zの内部に係合し、第2の軸状体20Bは、それぞれが第2の骨係合構造である雄ねじ24によって外側部Yの皮質に係合する。したがって、この場合においても、第1適用態様と同様に、二本の骨固定部材20,20は、頚部Xの遠位側の皮質、及び、近位側の皮質、並びに、外側部Yの皮質の合計3箇所において支持された状態となる。なお、この場合にも、上記第1適用態様と同様に、三本目の骨固定部材20をさらに導入してもよい。
図5に示す二本若しくは三本の骨固定部材20は、別に用意されたプレート15(図示破線)によって間接的に相互に連結されたり接続されたりするようにしてもよい。プレート15は、骨固定部材20の本数に対応する数若しくはそれ以上の開口部15aを備えていることが好ましい。開口部15aの数は、具体的には、複数であることが好ましく、図示例では二つであるが、三つ以上でもよい。開口部15aの少なくとも一つは、上記開口部14aと同様に、円錐台状の開口内面に内部ねじ山15bを備えたロッキング用のねじ孔であることが好ましい。この場合、骨固定部材20の頭部25は円錐台状の頭部外周面にロッキング用の雄ねじ25aを備え、この雄ねじ25aは開口部15aの内部ねじ山15bに螺合する。開口部15aが図示例のように二つの場合、一方の開口部15aがプレート15の一方の端部に形成され、他方の開口部15aがプレート15の他方の端部に形成されたものであったり、これらの開口部15aを結ぶ方向に延長されたプレート形状であったりすることにより、プレート15をコンパクト化することで低侵襲性を確保できるため、手術負担を軽減できる。
本実施形態の場合には、骨固定部材20の第2の軸状体20Bは、第2の骨係合構造である雄ねじ24により外側部Yの皮質に係合するため、プレート15は、ロッキング構造を介して第2の軸状体20Bに固定されることにより、間接的に外側部Yに固定される。したがって、第1適用態様と同様に、外側部Y上の骨固定部材20の頭部25やプレート15が外側部Yから離間して突出することにより患者に疼痛を与えるなどの不具合が生じない。また、骨の治癒過程における短縮作用(骨頭短縮)への順応性は、第1の軸状体20Aと第2の軸状体20Bの間のスライド動作によって確保できるため、上記第1適用態様と同様に、第2の軸状体20Bと骨折線よりも表面側にある骨部分とをスライド可能に構成する必要はない。したがって、第2の軸状体20Bを上記骨部分に対しては十分に支持される態様で導入することができるから、複数の骨固定部材20と20の間の相対的姿勢の、荷重負荷に対する剛性を高めることができる。
なお、本発明の骨固定システムは、上記実施形態に記載の構成に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づく種々の異なる態様を含む。たとえば、上記開口部14a、15aなどの各所の開口部は、いずれも、完全な孔形状ではなく、切り欠き状であっても構わない。また、第1の軸状体に設けられる第1の骨係合構造としては、上記実施形態の係合フック部に限らず、先端が全方位に拡径する構造であってもよく、また、スクリュー(ねじ)やブレードなどであっても構わない。
また、第1適用態様において、図1とは逆に、骨固定部材10を遠位側に導入し、骨固定部材20を近位側に導入しても構わない。また、骨固定部材10と20のいずれか一方が伸縮可能な骨固定部材であれば、他方は単なる骨ねじやフックピンなどの伸縮可能でない骨固定部材であっても構わない。同様に、第2適用態様においても、二本の骨固定部材20のうちのいずれか一方が伸縮可能な骨固定部材であれば、他方は単なる骨ねじやフックピンなどの伸縮可能でない骨固定部材であっても構わない。ただし、上記のいずれの場合でも、伸縮可能でない骨固定部材は、骨の表面近傍の皮質にのみ係合するように構成されることが望ましい。
さらに、骨固定部材10の第2の軸状体10Bを、プレート部14を削除して、バレル部13の基端に頭部を備えた構造とし、図5に二点鎖線で示す独立したプレート15を上記プレート部14の代わりに用いて、上記頭部をプレート15の一方の開口部15aに係合させてもよい。この場合に、上記頭部に開口部15aの内部ねじ山15bに螺合するロッキング用の雄ねじを形成することが好ましいことはもちろんである。
上記の適用態様では、大腿骨近位部に適用した例を示したが、本発明に係る骨固定システムは、寸法を適宜に変更することにより、各部の各種の骨折態様に用いることができる。特に、大腿骨や上腕骨などの長管骨の骨端部に用いることにより多大な効果を得ることが可能である。