JP6925016B2 - 貫通孔と流路を一体化したマイクロ流体輸送構造体およびその製造方法 - Google Patents

貫通孔と流路を一体化したマイクロ流体輸送構造体およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は細胞などの固形粒子を含んだ液体を輸送し、所定の位置に滴下するための貫通孔を有する輸送構造体とその製造方法に関するものである。
ライフサイエンスとケミストリ分野では、μTAS(micro total analysis system)という微小な流路や反応器を内蔵した装置を使った研究開発が盛んに行われている。μTASを使った研究開発ではマイクロ流路と反応器を複雑に組み合わせた構造体を作り、液体や細胞などの固形粒子を含んだ溶液を混合、合成、反応などを行う試みが行われている。特にバイオチップの研究分野では、最近、幹細胞を用いた再生医療技術などに希少な幹細胞を分離する方法として、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)によるマイクロ・セルソーティングや細胞機能評価の技術が活発に開発されている。
細胞は生体の基本的な構成要素であり、機能解明が課題とされている。多細胞生物における組織は、複数種の細胞が集合した3 次元構造を持ち、個々の細胞は周囲細胞との相互作用で機能を変化させる。生体内では、複数種の細胞が特定の配置状態を取り、相互作用により個々の細胞機能が調節されている。細胞間相互作用とは、二つ以上の細胞間で起こる物理的・生理的なコミュニケーションを指しており、細胞間のシグナル伝達物質を介した仕組みと細胞同士が直接接触して行う仕組みがある。生体内に見られる細胞の特異的な配列を生体外実験環境下にて再構築し、細胞機能を解析することは、医学・生物学の研究を大きく進展させる。生体外で3 次元生体組織を再構築できれば、その現象を高効率に解析することが可能になる。単一細胞レベルでの再構築には、単一細胞を緻密に3 次元的に組み上げるシステムが必要となる。
また、細胞を用いた薬物検査や、毒性試験、遺伝子注入などを行うとき、多数の細胞を整列配置し、個々を識別しながら継続的に観察することが望まれている。現在、生体のメカニズムの解明、医療のための計測や治療、細胞や遺伝子レベルでの操作などに幅広くマイクロマシーニング技術が応用されている。
μTASは、シリコンやガラスなどの基板上に、高精度な微細加工を施し、化学合成や、化学分析の単位操作である混合、反応、検出や分離回収といった様々な要素をマイクロ化して基板上に集積化したものが一般的である。
μTASの一例として、特許文献1には、試料流体が流入する試料流入部と、試料流体が流出する試料流出部と、試料流入部と試料流出部とを接続する試料流路とからなる複数のフロースルーセルが配設された帯状シートからなるラボオンチップの技術が開示されている。
かかるμTASの場合、化学的に安定な基板としてシリコンウェハーやガラス、石英などが用いられることが多かったが、これらの基板上に流路等を形成するには剛性の高い硬い基板表面を高精度に切削加工しなければならず、製作が容易ではない。このため、特許文献1では基板として加工の容易な樹脂が好ましいとの記載がある。更に、流路内部に有機溶媒を使用する際には、無機系材料あるいは有機系材料で架橋された剛性高い材料を使用することが望ましいとの記載がある。また、親油性あるいは親水性を付与したい部分については、プラズマ処理などによりヒドロキシ基などを形成する方法などが開示されている。
特許文献2には、従来のシリコンウェハーやガラス、石英などの基板を備えたμTASと比較して、製作が容易かつ安価で大量生産に適した実用的なμTASを提供することを目的に、溝状の流路が表面に形成されたプラスチック基板を型押し加工や射出成形により溝加工は容易にできることを開示している。プラスチック基板は光硬化樹脂の一つであるPDMS(Polydimethylsiloxane)を使い、エンボス加工などによりサブミクロンオーダーの構造をプラスチック基板上にパターン転写することができ、プラスチック同士の接合も容易である結果、量産性のすぐれたμTASが実現できるとしている。かかるプラスチック基板がPMMAで構成する場合は、フォトリソグラフで容易にプラスチック基板の表面に高精度にパターンを形成することができる。これら特許文献1および2では、流路と孔とを一体的に形成する技術は開示されていない上に、流路は剛性の高い材料で構成している。パイレックス(登録商標)ガラスの加工では、SF6プラズマを用いた異方性エッチングで孔加工が可能である。(非特許文献1)
かかるμTASは液体を反応器へ輸送したり、所定の位置に液体を滴下する機能を実現しているが、実際に液体をμTASに流し込むためのホースとμTASの入口との接合は入口径が数100μm〜数mm程度と非常に小さく極めて難しく、かつ信頼性に乏しいものである。通常、機器の液体流入口とホースの接続においては、機器側にタケノコ状の継手を設け、その継手にホースの内側が接するようにホースを差し込み、バンド金具でホースを締め付ける方法が広く行われている。このような接続方法は確立されていない。
かかるμTASによる細胞を含む液体の輸送方法は、流路内に細胞トラップのための構造物を設け、細胞を配置する方法が試みられていて、比較的短時間で配置可能であるが、高い細胞密度を必要とするため、単一細胞同士の本質的な挙動の評価が出来ないという欠点がある。また、誘電泳動を利用した細胞配置の方法も試みられているが、細胞懸濁液が電極に触れることにより変性が起こり、細胞にダメージが残る欠点がある。(非特許文献2)
これまで単一細胞をノズルから吐出するインクジェット法(非特許文献3)による細胞パターニングが報告されている。この手法では、単一ノズルの内部を光学的に観察し、各ノズルには検出系と信号処理部を設けているため、構造が複雑である。ノズル数に対して、検出系と信号処理部数が比例するため、スループットの向上は困難である。細胞数を増やして組織レベルを高速に構築するには、複数ノズルをアレイ状に連結することになるが、検出系と信号処理部もノズル数に比例して用意する必要がある。細胞を所定な位置に滴下する簡易な方法として、細胞の存在を検出せずに、流路抵抗に基づく流体力学的な設計方法を用いて流路や細胞を突出させるノズルを設計し、その設計を忠実に実現する製造方法を用いてマイクロ流体輸送構造体を製作して、細胞を自動的に配置するものは実現していない。
特開2004−156925号公報 特開2006−153823号公報
Xinghua Li, Takashi Abe, Yongxun Liu, and Masayoshi Esashi, Fabrication of High-Density Electrical Feed-Throughs by Deep-Reactive-Ion Etching of Pyrex Glass, Journal of Microelectromechanical Systems Volume: 11, Issue: 6, (2002) 625-630. Chih-Hao Wang,Gwo-Bin Lee,Pneumatically driven peristaltic micropumps utilizing serpentine-shape channels,J. Micromech. Microeng,16 (2006) 341-348. Azmi Yusof, Helen Keegan, Cathy D. Spillane, Orla M. Sheils, Cara M. Martin, John J. O'Leary, Roland Zengerlead and Peter Koltay, Inkjet-like printing of single-cells, Lab Chip, 11, (2011) 2447-2454. Shinji Sugiura, Tatsuya Oda,Yasuyuki Aoyagi,Mitsuo Satake, Nobuhiro ohkohchi, mitsutoshi Nakajima, Tubular gel fabrication and cell encapsulation in laminar flow stream formed by microfabricated nozzle arrey, The Royal Society of Chemistry 2008
しかしながら、かかるμTASに使う透明基板は一般的にはシリコン基板が利用され、基板厚さ400μm程度で貫通孔直径は60μm程度しかできず(非特許文献4)、流路抵抗を小さくして細胞サイズに適するような流路と貫通孔を形成することは難しかった。また、細胞を滴下するための貫通孔の径寸法に対する深さ寸法の割合(アスペクト比)の限界は5から7しか実現できない。基板の厚みを薄くすることで貫通孔の深さを小さくして流体抵抗を下げようとすれば、基板の剛性が低くなることから、ハンドリング時やウェットエッチング時の気液界面で簡単に破壊しやすくなる。ガラスをウェットエッチングで溶解した場合は、等方性のエッチングになることから、アスペクト比を1よりも小さくすることが難しい。また、孔直径が50 μmで深さ150 μmの孔を空けるのに10時間もの長時間を要しており、生産性が極めて悪く実用性に乏しい。
こうした生産性の悪さばかりか、単一細胞を滴下するのに最適な孔直径で流路抵抗の小さいノズルが実現されておらず、単一細胞を取扱うマイクロ流体輸送構造体がいまだ提供されていない。
また、かかるμTASを構成する流路を含む構造体が剛性の高い材料で作られており、ノズルからの液滴の突出を制御するには、複雑な機構が必要で小型化が実現できていない。
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、マイクロ流体、例えば単一細胞等を含む液体を効率よく輸送する流路と滴下するのに適した直径と深さを有する貫通孔で構成されたマイクロ流体輸送構造体およびその製造方法を提供するところにある。
この目的を達成するために請求項1記載の下部構造体と上部構造体とを一体化してなるマイクロ流体輸送構造体であって、前記下部構造体は、液体輸送流路を形成するための側壁部と底面部を備え、該底面部に径寸法に対する深さ寸法の割合(アスペクト比)を1.0以下とする複数の貫通孔を設け、前記上部構造体は、前記下部構造体に積層され、前記液体輸送流路を形成するための上面部を有して構成されていることを特徴とするマイクロ流体輸送構造体である。
請求項2記載の前記下部構造体は、光硬化性樹脂によって構成されるものであり、基板上に成膜された犠牲層の表面に形成され、かつ犠牲層を除去した残部によって構成されたものであることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流体輸送構造体である。
請求項3記載の前記上部構造体は、上面部から適宜間隔を有する隔壁を備え、該隔壁と前記下部構造体との間に液体輸送流路が形成されるとともに、該隔壁と前記上面部との間に加圧空気を流入させる空圧用流路が形成されており、前記隔壁は、弾性材料によって形成された可動膜であり、前記可動膜は、可動領域と固定領域とに区分され、可動領域は、前記下部構造体の複数の貫通孔のそれぞれに対向する適宜範囲において変形可能であり、固定領域は、可動領域を除く範囲において前記上面部に支持されるものであることを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロ流体輸送構造体である。
請求項4記載の前記可動領域は、円形とする範囲に形成された円形領域であり、該円形領域は、前記下部構造体の複数の貫通孔の中心軸の延長線近傍を中心とする円形に形成されたものであることを特徴とする請求項3に記載のマクロ流体輸送構造体である。
請求項5記載の前記円形領域は、前記貫通孔の中心軸の延長線から偏った位置を中心とする円形で形成されたものである請求項4に記載のマイクロ流体輸送構造体である。
請求項6記載の製造方法は、請求項1または2に記載のマイクロ流体輸送構造体の製造方法であって、上部構造体形成工程と、下部構造体形成工程と、一体化工程とを含み、前記上部構造体形成工程は、基板上に液体輸送流路予定領域に合致する形状を突起させたモールド型を形成するモールド型形成工程と、上部構成材料を前記モールド型に充填する上部構成材料充填工程と、該上部構成材料を硬化させた後に前記モールド型から離型する離型工程と、離型された成型物の一部を穿孔する穿孔工程とを含み、前記下部構造体形成工程は、基板上に犠牲層を成膜する犠牲層成膜工程と、前記犠牲膜の表面に前記貫通孔に相当する部分を除き、液体輸送流路形成領域に下部構成材料をパターニングする流路底面構成工程と、前記犠牲層を除去することによって基板と下部構成材料とを分離させる分離工程とを含み、前記一体化工程は、前記上部構造体形成工程によって形成された構造体と、前記下部構造体形成工程によって形成された構造体とを、それぞれの液体輸送流路予定領域と液体輸送流路形成領域とが合致する状態で貼り合わせる貼合わせ工程を含むものであることを特徴とするマイクロ流体輸送構造体の製造方法である。
請求項7記載の製造方法は、請求項3〜5のいずれかに記載のマイクロ流体輸送構造体の製造方法であって、上部構造体形成工程と、下部構造体形成工程と、一体化工程とを含み、さらに、上部構造体形成工程は、空圧用流路形成工程と、可動膜形成工程と、積層工程と、液体供給孔形成工程とを含み、前記空圧用流路形成工程は、基板上に空圧用流路予定領域に合致する形状を突起させたモールド型を形成するモールド型形成工程と、上部構成材料を前記モールド型に充填する上部構成材料充填工程と、該上部構成材料を硬化させた後に前記モールド型から離型する離型工程と、離型された成型物の一部を穿孔する第1の穿孔工程とを含み、前記可動膜形成工程は、基板上に弾性材料により可動膜予定層を形成する弾性材料成膜工程を含み、前記積層工程は、前記弾性材料成膜工程により形成された可動膜予定層の表面に、前記空圧用流路形成工程によって形成された構造体を貼り合わせる第1の貼合わせ工程を含み、前記液体供給孔形成工程は、前記空圧用流路形成工程によって形成された構造体と前記可動膜予定層とが積層される領域の一部を穿孔する第2の穿孔工程を含み、前記下部構造体形成工程は、基板上に犠牲層を成膜する犠牲層成膜工程と、前記犠牲層の表面に前記貫通孔に相当する部分を除き、液体輸送流路形成領域に下部構成材料をパターニングする流路底面構成工程と、前記犠牲層を除去することによって基板と下部構成材料とを分離させる分離工程とを含み、前記一体化工程は、前記上部構造体形成工程によって形成された構造体と、前記下部構造体形成工程によって形成された構造体とを、それぞれの液体輸送流路予定領域と液体輸送流路形成領域とが合致する状態で貼り合わせる第2の貼合わせ工程を含むものであることを特徴とするマイクロ流体輸送構造体の製造方法である。
本発明のマイクロ流体輸送構造体は、マイクロ流体、例えば単一細胞などの固形粒子を含む液体を輸送できる流路と、径寸法と深さ寸法の割合を示すアスペクト比が1.0以下の貫通孔とで構成されるので、マイクロ液体を所定の位置に精度よく滴下できるという効果がある。
は、マイクロ流体輸送構造体の基本断面模式図である。 は、マイクロ流体輸送構造体であって空圧用流路およびバルブを付加した構造体の断面模式図である。 は、単一細胞のインクジェトの細胞突出の原理を示す断面模式図である。 は、マイクロ流体輸送構造体の設計方法を説明するためのモデルとして一例として16個の孔とノズルを備えたノズルアレイの模式図である。 は、図4のノズルアレイの斜視図である。 は、図4の内、4個のノズルを直列に接続して構成したノズルアレイの等価回路である。 は、マイクロ流体輸送構造体のノズル部分の等価回路である。 は、マイクロ流体輸送構造体のバブル断面における等価回路である。 は、マイクロ流体輸送構造体の製造工程である。 は、流路底部の可動膜を作製する工程のスピンコート回転数と膜厚の関係である。 は、実験で作製したノズルアレイの上面から観察した写真である。 は、図11に示したA-A’で示したノズルアレイの断面観察写真である。 は、バルブ動作実験前後のノズルアレイの上面からの観察写真である。
以下に本発明の実施形態について詳細に説明する。図1は、マイクロ流体輸送構造体1の基本断面模式図である。この図には流路の一部に3個の貫通孔31が設けてあるが、一例にすぎず、用途により適宜変更できることは言うまでもない。
本実施形態のマイクロ流体輸送構造体1は剛性の高い材料で構成された下部構造体3と上面部有してなる上部構造体2を接合した構造体である。下部構造体には所定の位置に溝32が設けられ、その下部構造体の溝の底部には、液体および細胞を滴下するための貫通孔31が複数個設けられている。上部構造体と下部構造体を接合することで下部構造体の溝の蓋となり、両端が解放された流路を構成することができ、形成した流路32の両端は液体の出入り口21である。弾性体で作られている出入り口21はホース先に取付けたタケノコ状の継手を差し込むことで液体の流入を行う。
図2は、図1のマイクロ流体輸送構造体1の上部構造体2を部分的に変形した形態を示すものであり、この実施形態は、下部構造体3の貫通孔31の上部付近にあたる部分にバルブ機能を発現する隔壁24とその上部に空間23を配置した空圧用流路25を設けたものである。隔壁は一部または全部が弾性体で作られているため、可動膜として作用する。図2において、可動膜として機能する隔壁24の部分的領域は、貫通孔(円形孔)31に対し、その中心線上を中心とする円形としたものを例示として示すものであるが、この位置や範囲または形状等については適宜変更することができる。上部構造体に設けた空圧用流路には、片端に加圧空気の流入口22を設ける。この図には流路の一部に3個の貫通孔が設け、貫通孔の上部付近にバルブ機能を発現する可動膜と空間を配置した空圧用流路を設けた構造体であるが、一例にすぎず、用途により適宜変更できることは言うまでもない。
図1と図2は、上部構造体の構成に違いがあるが、その他は同一構造であるため、はじめに共通となる部分について詳細に説明する。
上部構造体2の弾性体は有機材料であり、具体的にはかかる弾性を有する有機材料はシリコーンエラストマー、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、ポリウレタン、熱硬化性ポリエステル、シリコーンハイドロゲルなどが例示できる。液滴および細胞の動きを観察する場合には、透明材料であるPDMSが好適である。
下部構造体3は光硬化性樹脂で、光照射部分にパターンができるネガ型、感光していない部分にパターンができるポジ型の両方の光硬化性樹脂が使用でき、好ましくは、透明体で10μmオーダーの厚膜にも形成でき、上部にも多層で構造体を形成する性質を有するものである。具体的には かかる光硬化性樹脂は、エポキシ系の化学増感型で厚膜のネガレジスト、ポリイミド系レジスト、アクリル系レジスト、ノボラック系レジストなどのフォトレジストなどが例示できる。
上部構造体と下部構造体を接合して作る流路の断面形状は矩形、三角形、台形、平行四辺形にしてもよい。流路の長さ、幅、高さは任意に決めることができ、これらの設計パラメータで単一細胞を流す際の流路抵抗が決まる。
本実施形態のマイクロ流体輸送構造体の流路の寸法は流路に流すマイクロ流体に含まれる細胞などの固形粒子の種類によって設計するが、高さ5〜300μm、幅10〜1,000μmの範囲である。単一細胞をモノマーで被覆したものを含んだ溶液を流す場合には、単一細胞の寸法を考慮して高さは30 μm、幅は50 μmが好適である。細胞を効率よく流動させるためには、後述するノズルアレイの流路を各部の流路抵抗に基づき適切に設計する必要があり、ノズルから細胞を突出させるためには、ノズル部の流路抵抗はその他の流路の抵抗より低くする必要がある。ノズルを構成する貫通孔の流路抵抗は孔直径と孔部の下部構造体の肉厚で決まる。細胞を輸送する流路は細胞による閉塞を防ぐには大きくすることが望ましいが、一方では細胞の輸送の制御性を高めるためには、細胞の大きさに近く小さくすることが望ましく、モノマーで被覆した単一細胞の輸送には幅50 μm、高さ30 μm程度である。ノズルの貫通孔は、被覆した単一細胞を精度よく所定の位置に滴下するためには、直径を被覆細胞の大きさに適したサイズとしてデッドボリューム(輸送機能に関係のない空間)最小化することが良い。ノズルの流路抵抗をその他流路の流路抵抗より低くし、細胞を精度良く所定の位置に滴下するためには、ノズルの貫通孔のアスペクト比が1.0以下であり、孔の直径は、取扱う細胞にモノマーで被覆した粒子径よりわずかに大きいことが好適である。好ましくはアスペクト比が0.5で貫通孔部の直径を40μm、孔深さを20μmである。アスペクト比は1.0付近であれば、本実施形態の範囲内である。
上部構造体の一部に設けたバルブ機能を有する構造を図2で説明する。下部構造体に設けた貫通孔31の上部付近の上部構造体の底面部分の隔壁24付近に空間23を設け、その空間に加圧空気を送り込むための空圧用流路25と空気の入口22を設ける。上部構造体に設けた空間23の底部の隔壁24は弾性体であり可動膜として機能し肉厚は所定の加圧空気によってバルブ機能を発現できるように変形しうる厚さである。可動膜24の厚さは上部構造体の空圧用流路の部分の厚さと同等でも良いが、好適にはより薄くして、可動応答性を高め、低い加圧で所定の膨らみが得られる厚さが好ましい。入口22から空気によって加圧した際に可動膜24は壁によって支えられた他の部分より変形するため、貫通孔に対するバルブとして機能させることができる。上部構造体の弾性率は構造体としての構造保持強度、バルブ動作のための膜としての動作性能によって、その用途に応じて適切に選定する。細胞を滴下する場合には、流路4の中を液体と共に細胞を貫通孔に向かって移動させるには、細胞を含んだ液体は流れている必要があるため、バルブは完全に閉状態ではなく、細胞を通さない程度に開口を維持し、液体が貫通孔31を通し外部へ流れるように可動膜の膨らみを制御する。バルブとして動作させたときの可動膜24の変形の最下点は下部構造体の貫通孔31の中心線と一致していても良いが、好適には細胞の滴下をせき止め、液体のみが流れる程度の開口になったときに可動膜24の膨らみが貫通孔の上部と接触するように、可動膜24の膨らみの最下点が貫通孔中心よりずれているほうが、可動膜24の変形によって膜が下部構造体にあたるため、制御しやすい。
本実施形態のマイクロ流体輸送構造体を使った単一細胞プリンタの動作を詳細に説明する。
図3は、マイクロ流体輸送構造体を使った単一細胞プリンタの被覆した単一細胞の突出動作の概念図である。単一細胞プリンタは単一細胞をモノマーで被覆する構造部と被覆した単一細胞を所定の時間にノズル部に移動させるためのバルブ機能を持った可動膜24を備えたバルブ部と細胞一個ずつを突出するための貫通孔31を備えたノズル部で構成した単位構造をアレイ状に配置したノズルアレイで構成する。ただし、図3には、単一細胞をモノマーで被覆する構造部は図示していない。
まず単一細胞と光硬化性モノマーを混ぜた液体を流路に流し込み単一細胞を被覆する。次に図中のバルブ閉状態の図に示すように、被覆細胞は図中の左端に示した白抜き矢印のように上部構造体の可動膜24の膨張によって、細胞がトラップされる程度に閉塞したバルブまで液体の流れに従って移動し、細胞がトラップされる。図中には、白抜きの矢印で液体の流れを示している。その後、所定のタイミングで空間23の圧力が低下させて、可動膜24が元の位置にもどることでバルブとして開口し流路に設けた貫通孔31から外部へ被覆細胞が突出する。図示のように、可動膜24の中心は、貫通孔31の中心線から偏った位置に設けられており、その結果として、空間23の圧力を高くして、流路内に(貫通孔31へ向かって)膨出させた状態(バルブ『閉』状態)では、可動膜24の一部が貫通孔31の一部端縁に当接した状態においても、反対側の端縁との間に所定範囲のクリアランスを形成させることができる。これにより、バルブが『閉』状態であっても液体のみを貫通孔31から下方へ流下させることができる。なお、可動膜24の中心を貫通孔31の中心線上に設ける場合には、空間23の圧力を制御するものとし、貫通孔31の端縁との間に所定のクリアランスを形成させるように構成してもよい。
次に、ノズルアレイの流路の設計方法について詳細に説明する。図4は本実施形態のマイクロ流体輸送構造体の貫通孔31を4個直列にバイパス流路5で連結し1セットを構成し、それを4セット並列に接続しアレイ状に配置し、その一端6を液体の入口、他端7を出口としたノズルアレイである。液体は入口6から紙面の下方に向かって流れる。図5はこのアレイの斜視図である。図4の平面図上の破線囲った部分は、図6の流路モデルを等価回路に置き換えた範囲である。ただし、出口7に至る流路は省略した。図4と図5のアレイ構造は、一例にすぎず、用途により適宜変更できることは言うまでもない。
微小流路内の流量Q [m3/s]は数1にて求められる。
Figure 0006925016
Δp[Pa]は圧力差、R[Pa・s・m-3]は流路抵抗である。また、ハーゲンポアズイユの法則より、数2が成立する。
Figure 0006925016
ここで、η [Pa・s]は粘度、L[m]は流路長、γH[m]は流路の水力半径である。なお、本実施例の設計流路は矩形の流路形状を有していることから、水力半径γHは、数3より算出した。
Figure 0006925016
ここで、De [m]は等価直径、Af [m]は流路断面積、W [m]は流路断面周囲長である。数1、数2より、流路抵抗は数4で計算することができる。
Figure 0006925016
ノズルアレイの流路抵抗は、各流路の流体抵抗を用いて等価回路として計算できる。N個の流路が直列に配置されたときの等価流路抵抗は、RH,eq = RH,1 + RH,2 + … + RH,Nとなる。また並列に配置されたときは、1/RH,eq = 1/RH,1 + 1/RH,2+… +1/RH,Nとなる。直列と並列を組み合わせた流路ネットワークの場合でも、上記の式を利用して合成の流路抵抗を計算できる。したがって、流量比は流路寸法のみによって定まる流路抵抗から決定されるため、各流路抵抗を求め、流路寸法が決定できる。
図6はノズルアレイの設計方法を説明するために用いた流路モデル等価回路平面図である。図6の等価回路流路モデルは、図4の平面図上の破線囲った部分8の等価回路である。図中のRは流路抵抗であり、それぞれに付記されている添え字の数字は流路の番号を示している。バルブを形成するダイアフラムに圧力をかけ、閉塞した状態のため流路が細胞直径未満の直径となった状態では、バルブを連結したバイパス流路5より出口7の方向への流速が早くなるように貫通孔31に至る枝分かれした流路を設計する。細胞を捕獲する手法は、流量比を制御してトラップする方法を採用した。流量比は、流路寸法のみによって定まる流路抵抗の比から設計する。ノズルの貫通孔への流量 は出口に向かう流量より大きくなるように、言い換えるとノズルの孔への流体抵抗は 出口への流体抵抗より小さくなるように設計する。
次に同一の流路モデルを等価回路に置き換えて計算した。図6中に示したRは流路抵抗で、流路モデルの等価回路の通常時の流路内抵抗である。また、細胞がトラップされた場合の等価回路でRt1=Rt2=Rt3=0になると仮定している。図7はノズル付近の流路等価回路である。図中の白抜き矢印は流量である。ノズルの孔へ向かう流量Qt4は、バイパス流路の流量QBypassより大きくなるようにするため、ノズル孔へ向かう流路抵抗Rt4は、バイパス流路抵抗RBypassより小さくなるように流路設計を行う。
このことから、Lとrに添え字を付け、各流路の流路長、水力半径とすると、数5のように書き換えられる。
Figure 0006925016
図8はバイパス流路からバルブの貫通孔31までの抵抗Rt4を細分化した等価回路であり、全体の流路抵抗は数6で表すことができる。最終的には数7を満たすように流路設計を行う。また、流路の長さと半径で表すと数8のように表される。
Figure 0006925016
Figure 0006925016
Figure 0006925016
次に本実施形態のマイクロ流体輸送構造体の製造方法を詳細に説明する。
図9はノズルアレイの作製工程を示す模式図である。図9に基づいて工程を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は本発明を具体化した一例にすぎず、本発明の主旨を変更しない範囲で、本実施形態を適宜変更できることは言うまでもないことである。
工程1/上部構造体の作製工程:本実施形態のマイクロ流体輸送構造体の上部構造体2を作成するための基板10の表面をアセトンで洗浄し、続けてイソプロパノール(IPA)で置換・リンスする。基板は平坦で、工程中に変形・歪が起きなければどのような材料でも使うことができる。具体的にはかかる基板はSiウェハー、ガラスウェハー、石英ウェハー、SiC(シリコンカーバイド)ウェハー、サファイアウェハー、化合物半導体ウェハーとしてGaP(リン化ガリウム)ウェハー、GaAs(ヒ化ガリウム)ウェハー、InP(リン化インジウム)ウェハー、GaN(窒化ガリウム)ウェハーが使用できる。また、連続生産するためにフィルム基板を使うこともでき、具体的にはポリイミドやPETなどの耐熱性フィルムが使用できる。更に基板として、表面に金属や有機材料の薄膜を有したものも同様に使用できる。
つぎにフォトレジストをスピンコート法などの手法で基板表面に均一な膜厚に塗布する。その後、半導体製造工程で用いるマスクに所定の流路や構造物を形成し、フォトリソグラフィによりフォトレジスト膜を必要な形状にパターニングし、上部構造体のモールド型12とする。フォトレジスト膜をフォトリソグラフィによってパターニングする以外に機械加工によってモールド型を作製することもできる。
次に、上部構造体を作るため、有機材料の主剤と硬化剤を所定の割合で計量し、真空撹拌脱泡ミキサーによって液中の気泡を除去しながら撹拌混合する。主剤と硬化剤の比率は架橋の割合を変えるために選択することができる。撹拌した有機材料を流路モールド型に流し込み、更に真空チャンバに入れ樹脂材料中の気泡を除去する。その後、有機材料の硬化条件に合わせた温度と時間で硬化する。硬化後、上部構造体をモールド型から取り外し、必要に応じ入口に相当する所定の位置にパンチを用いて所定の穴をあけ、上部構造体の一部品2aを完成する。
工程2/バルブの製作工程:本実施形態の工程2は空圧用流路とバルブを設ける上部構造体を作製する工程である。本実施形態の上部構造体にバルブが無い場合はこの工程は省略される。工程1の製作時と同様に同一の有機材料の主剤と硬化剤を所定の割合で真空脱泡しながら混合し、その後、スピンコーターで基板10上にコートする。ここで用いる基板は上部構造体に使う有機材料に対して容易に離型できるものを用い、好適にはSiウェハー基板を用いる。その後、所定の硬化条件で硬化させ膜2bを得る。図10は一例として有機材料としてPDMSを用いたときにスピンコーターの60秒印加時で、回転数を変えた場合のPDMS膜厚変化である。膜厚を変えることで可動性能が変化し、バルブ動作の圧力や応答性を変えることができる。
次に、工程1で作製した上部構造体の一部品2aと基板上にスピンコートにより成膜し、その後、硬化した膜2bをプラズマ処理装置内に置き空気雰囲気中でプラズマ処理する。上部構造体はシリコーン系樹脂材料を使用でき、大気圧プラズマ、真空紫外光照射装置でも表面が励起できる。その後、両構造体を貼り合わせ、加熱することで接合する。その後、基板を機械的に取り外すことで空圧用流路と可動膜を備えた上部構造体2ができる。貼り合わせは、接着剤などの他の接合方法を適宜使用することもできる。
工程3/下部構造体の作製工程:上部構造体と同様に下部構造体の製作時には同様の基板10を用いる。基板から製作後の下部構造体を何らの機械的ストレスを与えることなく離型するため、あらかじめ基板の上に犠牲層11を形成する。基板に直接下部構造体を作製して機械的に引き剥がすと20μm程度の厚さしかない底部は損傷してしまうため、底部は機械的な強度が必要となり肉厚の限界がある。本実施形態では機械的ストレスを与えることなく下部構造体を基板から分離するため、溶剤に溶ける犠牲層をあらかじめ基板上に形成する。溶剤は下部構造体に化学的に反応することなく犠牲層のみを溶かすものである。本実施形態の下部構造体の有機材料に対応した、かかる犠牲層の材料の選択において、感光性樹脂、ポリビニルアルコール、でんぷん、デキストリン、アミロース、ゼラチン、寒天、カラギーナン、ペクチン又はローガストビーンガムから選択される一以上の有機材料を用いることができる。かかる犠牲層としては、アルカリ溶液に溶解するPolyaliphatic imide copolymerやPolydimethylglutarimideからなるリフトオフレジストも利用できる。かかる犠牲層は、これらの溶液をプラズマ処理した基板表面にスピンコート法で成膜することができる。かかる犠牲層は、基板上に製膜した二酸化珪素、スピン・オン・ガラス、金属(アルミニウムやクロム、金、銀など)の薄膜も利用することもできる。このときの製膜方法は、薄膜の材料に応じて、スピンコーターやスリットコーター、吹き付け等による塗布、又は物理蒸着(PVD)や化学蒸着(CVD)による蒸着などの従来公知の手法によって行うことができる。薄膜の製膜厚さは、作製する流路形状により適宜設定される。
成膜した犠牲層11上にフォトレジストをスピンコート法で塗布し、貫通孔形状をパターニングしたマスクによりフォトリソグラフィによりフォトレジスト層に貫通孔を形成する。次に、この層の上に同様の工程を繰り返し、流路形状をパターニングしたマスクによりフォトリソグラフィによりフォトレジスト層に流路の底部と壁を形成する。流路の深さや構造はフォトレジストの塗布条件と回数を変えることでコントロールできる。
工程4/上部構造体と下部構造体の接合:作製した上部構造体2および下部構造体3をプラズマ処理装置に置きN2プラズマ処理を施す。プラズマ処理装置は直流、交流、高周波の 3 種類の放電形態でも同様の結果が得られる。また、上部構造体の材料としてPDMSを用いる場合には、その表面処理には、アミノ基で修飾するシランカップリング剤を利用しても同様の効果が得られる。光硬化性の材料を変えた場合は、アミノ基で修飾するシランカップリング剤を利用することで、シリコーン系樹脂材料と強固な接合が得られる。その後、実体顕微鏡を用いて部品の接合位置をアライメントし、上部構造体と下部構造体を貼り合わせた後、加熱することで接合する。加熱は時間を短縮するために使用されるが、材料が軟化しない温度範囲である常温〜300℃にて接合が実現できる。かかる上部構造体と下部構造体の接合方法は、材料の選定によって異なることは言うまでもないことである。
工程5/基板の取り外し: 犠牲層11の溶剤に浸漬し、犠牲層を溶解することで基板から接合体を分離しマイクロ流体輸送構造体1を得る。前述の犠牲層を、有機材料又を用いて形成した場合は、この剥離工程において、再溶解可能な温度とした溶媒を用いて溶解させて基板から剥離してマイクロ流体輸送構造体1を得る。本実施例以外では犠牲層の材料に応じて、溶媒を選択して溶解して構造を基板から剥離できる。また、超音波や溶液撹拌を行うことで、溶液の接触量を増やすことができ犠牲層の溶解を促進でき、短時間で剥離することができる。
上記マイクロ流体輸送構造体の製造方法に関しても本発明の範囲内である。
以下、本発明の製造方法による効果を検証するための実験例を説明する。
実験で作製したノズルアレイの設計値を表1のように設定した。数7の右辺を計算した結果、0.55となり、数7を満たす設計を行うことができた。
Figure 0006925016
本実施形態の製造方法に基づいて作製したノズルアレイの作製条件を工程ごとに説明する。
工程1/上部構造体の作製工程:基板として用いるSiウェハー(3インチ)表面をアセトンで洗浄し、続けてイソプロパノール(IPA)で置換・リンスした。つぎにフォトレジストSU-8 3050をスピンコート法で基板表面に均一な膜厚に塗布した。その後、フォトマスクに所定の流路を形成し、フォトリソグラフィによりフォトレジスト膜を流路形状にエッチングし、流路のモールド型を作製した。表2は詳細なプロセス条件である。
Figure 0006925016
次に、上部構造体の材料としてPDMS(東レダウゴーニング社製 Silpot 184)を使い、主剤と硬化剤を10:1の割合で計量し、真空撹拌脱泡ミキサーによって液中の気泡を除去しながら撹拌混合した。撹拌後PDMSを流路モールド型に流し込み、更に真空チャンバに入れPDMS中の気泡を除去した。その後、常温にて24時間静置して硬化させる。硬化後PDMSを流路のモールド型から取り外し、入口に相当する所定の位置にパンチを用いて直径0.5 mmの穴をあけた。
工程2/バルブの製作工程:工程1の製作時と同様にPDMSの主剤と硬化剤を10:1の割合で真空脱泡しながら混合し、その後、スピンコーターでSiウェハー上にPDMSをコートする。スピンコーターの動作条件は、slope(5s)→500rpm(20s)→slope(5s)→3000rpm(60s)→slope(10s))とした。その後、ホットプレートにて80℃、40 min加熱し硬化させた。
Siウェハー上にPDMS膜に工程1で作製した部品を接合する。これらをプラズマ処理装置内に配置して、酸素を含む空気のプラズマにて45秒間処理して表面を活性化する。その後、両者を貼り合わせ、ホットプレートにて80℃、15分加熱することで接合した。
工程3/下部構造体の製作工程:犠牲層の材料にはデキストラン(和光純薬工業社製Dextran 分子量60,000)を選択し、これを純水中に10 w/v%の割合で混合し、デキストラン水溶液を調製した。本溶液をプラズマ処理したシリコンウェハー表面にスピンコート法で塗布した。
成膜したデキストラン膜の上にフォトレジスト(SU-8 3050)をスピンコート法で塗布し、貫通孔と流路形状をそれぞれパターニングしたマスクによりフォトリソグラフィにより貫通孔と流路形状を形成した。表3はこのフォトリソグラフィプロセス条件である。
Figure 0006925016
工程4/上部構造体と下部構造体の接合:上部構造体のPDMS可動膜にプラズマ処理装置(株式会社真空デバイス PIB-20B)にて、N2プラズマ処理(ガス流量10 sccm、雰囲気圧50 Pa、電流値20 mA、処理時間2 min30 s)を施した。その後、実体顕微鏡を用いて上部構造体と下部構造体の接合位置をアライメントし、貼り合わせた後、ホットプレートにて120℃、15分間加熱することで接合した。加熱は時間を短縮するために使用されるが、材料が軟化しない温度範囲である常温〜300℃にて接合が実現できる。
工程5/基板の取り外し:50℃の純水中に浸漬し、犠牲層であるデキストランを溶解して、シリコン基板からマイクロ流体輸送構造体デバイスを分離した。
以上のように製造方法の実施形態によってマイクロ流体輸送構造体を製造することができる。
図11は、実施例で作製したノズルアレイを底部から倒立顕微鏡(株式会社ニコン、ECLIPSE Ti)で観察した像である。観察像には、流体を流すための『細胞用流路』と貫通孔となっている『開口』およびバルブ機能を発現するための空圧用流路が形成されていることが見える。上部構造体(SU-8層)と下部構造体(PDMS層)接合面のアライメントのズレは5μm以内に収まった。このことから、可動膜を所定の貫通孔上部に設置できていて、可動膜はバルブ機能を発現するように変形させるのに必要な精度であった。
図12は図11のA-A’断面でカットし、観察した顕微鏡像である。空圧流路部分の流路高さは51.4±0.4μm(n=4)である。また、細胞捕獲用流路の開口部(SU-8 1st)の高さは18.4±0.4μm(n=4)、流路部(SU-8 2nd)の高さが27.4±0.5μm(n=4)であった。ノズルの貫通孔の開口径は39.0±1.4μm(n=16)で、そのアスペクト比は0.46程度であった。ここでのn数は、測定した数を表す。
細胞捕獲時のPDMS製バルブ部分はダイアフラム構造となっており、空圧を変化させることで操作できる。ダイアフラム構造を作っているPDMS製の上部構造体の膜厚を変えたデバイスを用意しコンプレッサでゲージ圧190 kPaまでの空圧を印加した。膜厚を3条件で変化させたの各マイクロ流体輸送構造体において190 kPaまでの空圧印加を行うと、バルブの動作を確認できた。実験後のバルブの損傷は見られなかった。この際、バルブは計算上空圧印加により最大20μm程度の変形しており、細胞を捕獲できる変形である。空圧の印加は、真空圧から破損しないゲージ圧300kPaまで印加して、バルブを変形することができる。
図13はPDMS製可動膜厚が17.3μmのバルブアレイで、空圧印加前後を比較した顕微鏡像である。PDMSで作製した空圧流路が変形し、拡大しているが、30秒間程度の空圧印加に問題なく耐えた。
1 マイクロ流体輸送構造体
2 上部構造体
2a 上部構造体の一部品
2b 成膜・硬化した膜
3 下部構造体
4 溝
5 バイパス流路
6 流路の一端(入口)
7 流路の他端(出口)
8 等価回路の設定した範囲
10 基板
11 犠牲層
12 モールド型
21 出入り口
22 流入口
23 空間
24 隔壁
31 貫通孔
32 流路

Claims (5)

  1. 下部構造体と上部構造体とを一体化してな、前記下部構造体は、液体輸送流路を形成するための側壁部と底面部を備え、該底面部に径寸法39.0±1.4μmとしたときの該径寸法に対する深さ寸法の割合(アスペクト比)を1.0以下とする複数の貫通孔を設け、前記上部構造体は、前記下部構造体に積層され、前記液体輸送流路を形成するための上面部を有して構成されているマイクロ流体輸送構造体の製造方法であって、
    上部構造体形成工程と、下部構造体形成工程と、一体化工程と、分離工程とを含み、
    前記上部構造体形成工程は、基板上に液体輸送流路予定領域に合致する形状を突起させたモールド型を形成するモールド型形成工程と、上部構成材料を前記モールド型に充填する上部構成材料充填工程と、該上部構成材料を硬化させた後に前記モールド型から離型する離型工程と、離型された成型物の一部を穿孔する穿孔工程とを含み、
    前記下部構造体形成工程は、基板上に犠牲層を成膜する犠牲層成膜工程と、前記犠牲膜の表面に前記貫通孔に相当する部分を除き、液体輸送流路形成領域に下部構成材料をパターニングする流路底面構成工程とを含み、
    前記一体化工程は、前記上部構造体形成工程によって形成された構造体と、前記下部構造体形成工程によって形成された構造体とを、それぞれの液体輸送流路予定領域と液体輸送流路形成領域とが合致する状態で貼り合わせる貼合わせ工程を含み、
    前記分離工程は、前記一体化工程後において、前記犠牲層を除去することによって基板と下部構成材料とを分離させるものである
    ことを特徴とするマイクロ流体輸送構造体の製造方法。
  2. 下部構造体と上部構造体とを一体化してなり、前記下部構造体は、液体輸送流路を形成するための側壁部と底面部を備え、該底面部に径寸法39.0±1.4μmとしたときの該径寸法に対する深さ寸法の割合(アスペクト比)を1.0以下とする複数の貫通孔を設け、前記上部構造体は、前記下部構造体に積層され、前記液体輸送流路を形成するための上面部を有して構成されており、前記上部構造体は、上面部から適宜間隔を有する隔壁を備え、該隔壁と前記下部構造体との間に液体輸送流路が形成されるとともに、該隔壁と前記上面部との間に加圧空気を流入させる空圧用流路が形成されており、前記隔壁は、弾性材料によって形成された可動膜であり、前記可動膜は、可動領域と固定領域とに区分され、可動領域は、前記下部構造体の複数の貫通孔のそれぞれに対向する適宜範囲において変形可能であり、固定領域は、可動領域を除く範囲において前記上面部に支持されるものであるマイクロ流体輸送構造体の製造方法であって、
    上部構造体形成工程と、下部構造体形成工程と、一体化工程と、分離工程とを含み、
    さらに、上部構造体形成工程は、空圧用流路形成工程と、可動膜形成工程と、積層工程と、液体供給孔形成工程とを含み、
    記空圧用流路形成工程は、基板上に空圧用流路予定領域に合致する形状を突起させたモールド型を形成するモールド型形成工程と、上部構成材料を前記モールド型に充填する上部構成材料充填工程と、該上部構成材料を硬化させた後に前記モールド型から離型する離型工程と、離型された成型物の一部を穿孔する第1の穿孔工程とを含み、
    前記可動膜形成工程は、基板上に弾性材料により可動膜予定層を形成する弾性材料成膜工程を含み、
    前記積層工程は、前記弾性材料成膜工程により形成された可動膜予定層の表面に、前記空圧用流路形成工程によって形成された構造体を貼り合わせる第1の貼合わせ工程を含み、
    前記液体供給孔形成工程は、前記空圧用流路形成工程によって形成された構造体と前記可動膜予定層とが積層される領域の一部を穿孔する第2の穿孔工程を含み、
    前記下部構造体形成工程は、基板上に犠牲層を成膜する犠牲層成膜工程と、前記犠牲層の表面に前記貫通孔に相当する部分を除き、液体輸送流路形成領域に下部構成材料をパターニングする流路底面構成工程を含み、
    前記一体化工程は、前記上部構造体形成工程によって形成された構造体と、前記下部構造体形成工程によって形成された構造体とを、それぞれの液体輸送流路予定領域と液体輸送流路形成領域とが合致する状態で貼り合わせる第2の貼合わせ工程を含み、
    前記分離工程は、前記一体化工程後において、前記犠牲層を除去することによって基板と下部構成材料とを分離させるものである
    ことを特徴とするマイクロ流体輸送構造体の製造方法。
  3. 前記可動膜形成工程は、円形の可動膜予定層を形成することにより円形領域を設けるものであり、該円形領域の中心が前記下部構造体形成工程により形成される複数の貫通孔の中心軸の延長線上となるように形成されるものである請求項2に記載のマイクロ流体輸送構造体の製造方法。
  4. 前記可動膜形成工程は、円形の可動膜予定層を形成することにより円形領域を設けるものであり、該円形領域の中心が前記下部構造体形成工程により形成される複数の貫通孔の中心軸の延長線から偏った位置となるように形成されるものである請求項2に記載のマイクロ流体輸送構造体の製造方法。
  5. 下部構造体と上部構造体とを一体化してなるマイクロ流体輸送構造体であって、前記下部構造体は、液体輸送流路を形成するための側壁部と底面部を備え、該底面部に径寸法に対する深さ寸法の割合(アスペクト比)を1.0以下とする複数の貫通孔を設け、前記上部構造体は、前記下部構造体に積層され、前記液体輸送流路を形成するための上面部を有して構成されており、
    前記上部構造体は、上面部から適宜間隔を有する隔壁を備え、該隔壁と前記下部構造体との間に液体輸送流路が形成されるとともに、該隔壁と前記上面部との間に加圧空気を流入させる空圧用流路が形成されており、前記隔壁は、弾性材料によって形成された可動膜であり、前記可動膜は、可動領域と固定領域とに区分され、可動領域は、前記下部構造体の複数の貫通孔のそれぞれに対向する適宜範囲において変形可能であり、固定領域は、可動領域を除く範囲において前記上面部に支持されるものであり、
    前記可動領域は、円形とする範囲に形成された円形領域であり、
    前記円形領域は、前記貫通孔の中心軸の延長線から偏った位置を中心とする円形で形成されたものであることを特徴とするマイクロ流体輸送構造体。
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