詳細な説明
本明細書で言及された参考文献は全て、完全に記載された場合と同様に、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。別段の定義がない限り、本明細書において使用される全ての技術的用語及び科学的用語は、本発明が属する分野の当業者に共通に理解されるものと同じ意味を有している。Allenら,Remington:The Science and Practice of Pharmacy 22版,Pharmaceutical Press(September 15,2012)、Hornyakら,Introduction to Nanoscience and Nanotechnology,CRC Press (2008)、Singleton及びSainsbury,Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 3版,改訂版,J.Wiley&Sons(New York,NY 2006)、Smith,March's Advanced Organic Chemistry Reactions,Mechanisms and Structure 7版,J.Wiley&Sons (New York,NY 2013)、Singleton,Dictionary of DNA and Genome Technology 3版,Wiley−Blackwell(November 28,2012)、及びGreen及びSambrook,Molecular Cloning:A Laboratory Manual 4版,Cold Spring Harbor Laboratory Press(Cold Spring Harbor,NY 2012)は、当業者にとって本出願で使用する多くの用語の一般的な便覧となる。抗体の調製方法の参考文献については、Greenfield,Antibodies A Laboratory Manual 2版,Cold Spring Harbor Press(Cold Spring Harbor NY,2013)、Kohler及びMilstein,Derivation of specific antibody−producing tissue culture and tumor lines by cell fusion,Eur.J.Immunol.1976 Jul,6(7):511−9、Queen及びSelick,Humanized immunoglobulins,米国特許第5,585,089号(1996年12月)、及びRiechmannら,Reshaping human antibodies for therapy,Nature 1988 Mar 24,332(6162):323−7を参照されたい。
小児科学については、Schwartzら,The 5−Minute Pediatric Consult 4版,Lippincott Williams&Wilkins,(June 16,2005)、Robertsonら,The Harriet Lane Handbook:A Manual for Pediatric House Officers 17版,Mosby(June 24,2005)、及びHayら,Current Diagnosis and Treatment in Pediatrics(Current Pediatrics Diagnosis&Treatment)18版,McGraw−Hill Medical(September 25,2006)を参照されたい。
当業者は、本明細書に記載するものと類似した、または同等である多くの方法及び材料を承知しており、これらを本発明の実施に使用し得る。事実、本発明は、いかなる場合も記載されている方法及び材料に限定されない。本発明の目的では、以下の用語は次のように定義される。
別段の指定のない限り、本出願の特定の実施形態を記述する文脈において(特に特許請求の範囲の文脈において)使用される用語「a」及び「an」及び「the」及び類似の指示対象は、単数及び複数の両方に適用されると見なすことができる。本明細書の値の範囲の記述は、単にその範囲内に当てはまる各独立した値を個別に参照する簡便な方法として提供されるものである。本明細書で特に指示しない限り、各単一値はそれが本明細書に個別に記述された場合と同様に本明細書に組み込まれる。本明細書に記載する全ての方法は、本明細書で特に指定されない限り、または特に文脈上の明確な矛盾がない限り、任意の好適な順序で実施することができる。本明細書の特定の実施形態に関して示される、全ての例または例示的な語(例えば、「such as」)の使用は、単に本出願を詳細に解明することを目的としており、別途特許請求の範囲に記載されない限り、本出願の範囲を限定するものではない。略語「e.g.」は、ラテン語の「exempli gratia」に由来しており、非限定的実施例を示すために、本明細書で使用される。したがって、略語「e.g.」は用語「for example」と同義である。本明細書のいかなる語も、特許請求の範囲に記載されていない任意の要素が本出願の実施に必須であることを示すものと解釈すべきではない。
本明細書で使用される場合、用語「comprising」または「comprises」は、ある実施形態に有用である組成物、方法及びその対応する成分に関して使用されるが、有用であるかどうかを問わず、指定されていない要素も包含する余地がある。一般に本明細書で使用される用語は、通常「開放的」用語であること(例えば、用語「including」は「を含んでいるが、限定されない」と解釈されるべきであり、用語「having」は「少なくとも有する」と解釈されるべきであり、用語「includes」は「含むが、限定されない」と解釈されるべきであるなど)を意図することを当業者は理解されよう。
「有益な結果」は、病状の重症度の軽減または緩和、病状の悪化防止、病状の治癒、病状の発生予防、患者が病状を発症する確率の低減、及び患者の生命または余命の延長を含み得るが、決してこれらに限定されない。有益なまたは望ましい臨床結果として、1つ以上の症状の緩和、欠損範囲の減少、疾患進行状態の安定化(即ち、悪化させない)、転移または侵襲性の遅延化または緩徐化、及び疾患に伴う症状の改善または緩和が挙げられるが、これらに限定されない。治療には、治療を受けていない対象と比較した、対象の死亡率減少または寿命延長も含む。
本明細書で使用される場合、用語「投与する」は本明細書で開示する薬剤を、所望する部位に少なくとも部分的に薬剤を局在化させる方法または経路で、対象に配置することを指す。
本明細書で使用される場合、用語「試料」または「生体試料」は、生物学的生体から取得または分離された試料、例えば、対象から得た体液試料を意味する。例示的な生体試料としては、口腔粘膜細胞、粘液、全血、血液、血清、血漿、尿、唾液、精液、リンパ液、糞便抽出物、痰、その他の体液若しくは生体流体、細胞試料、組織試料、腫瘍試料、及び/または腫瘍生検などが挙げられるが、これらに限定されない。この用語には、上述の試料の混合物も含まれる。用語「試料」には、未処理の、または前処理された(若しくは事前に処理された)生体試料も含まれる。いくつかの実施形態では、試料は、対象から得た1種以上の細胞を含み得る。いくつかの実施形態では、試料は腫瘍細胞の試料であり得、例えば、試料は癌細胞、腫瘍からの細胞及び/または腫瘍生検を含み得る。
本明細書で使用される場合、「対象」はヒトまたは動物を意味する。通常、動物は、脊椎動物、例えば霊長類、齧歯類、家畜または狩猟動物である。霊長類としては、チンパンジー、カニクイザル、クモザル及びマカク、例えばアカゲザルが挙げられる。齧歯類としては、マウス、ラット、ウッドチャック、フェレット、ウサギ及びハムスターが挙げられる。家畜及び狩猟動物としては、ウシ、ウマ、ブタ、シカ、バイソン、バッファロー、家ネコなどのネコ科動物、及びイヌ、キツネ、オオカミなどのイヌ科動物が挙げられる。用語「患者」、「個体」及び「対象」は、本明細書で同義に用いられる。一実施形態では、対象は哺乳動物である。哺乳動物は、ヒト、ヒト以外の霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマまたはウシであり得るが、これらの例に限定されない。加えて、本明細書に記載の方法を用いて、家畜化された動物及び/またはペットを治療することができる。
対象とは、モニタリングを必要とする疾患状態(例えば、癌または感染症)またはこのような疾患状態に関連する1つ以上の合併症を罹患しているまたは有していると以前に診断または同定されたもの、及び場合によって疾患状態または疾患/病状に関連する1つ以上の合併症の治療を既に実施しているものであり得る。あるいは、対象は、疾患状態または疾患/症状に関連する1つ以上の合併症を有すると以前に診断されなかった対象でもあり得る。例えば、対象は、疾患状態または疾患状態に関連した1つ以上の合併症に対する1つ以上の危険因子を呈している対象、または危険因子を呈していない対象であり得る。特定の疾患状態の治療を「必要とする対象」は、その疾患/病状を有する対象、その症状、またはその疾患を発症する危険性を有すると診断された対象であり得る。
本明細書で使用される場合、用語「有効量」は、本明細書で開示する1つ以上のペプチド、またはその突然変異体、変異体、類似体若しくは誘導体を含む医薬組成物が、疾患または障害の少なくとも1つ以上の症状を軽減するための量を指し、所望の効果を提供するのに十分な薬学的組成物の量を言う。本明細書で使用される場合、用語「治療的有効量」は、いかなる医療的処置にも適用できる妥当なベネフィット/リスク比で障害を治療するための組成物の十分量を意味する。
治療的にまたは予防的に有意な症状の軽減とは、対照または未処置の対象、またはErbB4活性化因子(例えばニューレグリン−4)の投与前の対象の状態と比較して、測定されたパラメータが、例えば、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約125%、少なくとも約150%またはそれ以上である。測定された、または測定可能なパラメータには、疾患を臨床的に検出可能なマーカー、例えば、レベルの上昇または低下を示す生物学的マーカー、ならびに臨床的に許容された、線維症及び/または炎症についての症状の尺度またはマーカーに関連するパラメータを含む。ただし、本明細書で開示される組成物及び製剤の合計の一日用量は、堅実な医学的判断の範囲内で主治医によって決定されることが理解されよう。必要とされる厳密な量は、治療される疾患の種類、対象の性別、年齢及び体重などの要因に応じて異なる。
本発明で使用される場合、用語「治療する」、「治療」、「治療すること」または「改善」は、治療的処置を指し、疾患または障害に伴う病状の進行または重症度を後退、緩和、改善、阻害、緩徐化または停止することを目的とするものである。用語「治療すること」には、(肝臓または肺の)線維症、IBD、急性肝損傷、COPD、アテローム性動脈硬化症、放射線療法誘発性の腸障害または糖尿病などの病状、疾患または障害の少なくとも1つの有害事象または症状を軽減または緩和することを含む。治療は通常、1つ以上の症状または臨床マーカーが低下する場合に「有効」である。あるいは、治療は疾患の進行が減少するまたは停止する場合に「有効」である。即ち、「治療」には、単に症状またはマーカーの改善にとどまらず、治療をしない場合に予測される症状の進行または悪化を少なくとも緩徐化する停止も含む。有益な、または望ましい臨床結果としては、検出可能な、または検出不可能な、1つ以上の症状の緩和、疾患の範囲の減少、疾患状態の安定化(即ち、悪化しない)、疾患の進行の遅延化または緩徐化、疾患状態の遅延化または一時的緩和、及び(部分的または完全な)改善などが挙げられるが、これらに限定されない。疾患の「治療」という用語はまた、(一時的緩和療法を含めた)疾患の症状または副作用の軽減をもたらすことも含む。
本明細書で使用される場合、「炎症性腸疾患」または「IBD」は、クローン病及び潰瘍性大腸炎を含む炎症性の病状を指すが、これらに限定されない。IBDに加えて、ErbB4活性化因子(ニューレグリン−4など)によって標的となり得る腸の炎症性病状として、壊死性腸炎、膠原線維性大腸炎、リンパ球性大腸炎、虚血性大腸炎、転換大腸炎、ベーチェット病、胃腸炎及び分類不能大腸炎が挙げられる。
本明細書で使用される場合、「ErbB4+炎症性マクロファージ」は、ErbB4を発現する炎症性マクロファージを指す。
本明細書で使用される場合、「ErbB4+マクロファージ」マクロファージは、ErbB4を発現し、炎症性マクロファージであるマクロファージを指す。
本明細書で使用される場合、「薬剤」とは、医薬組成物または組成物を指す。
長期にわたる炎症を防止するためには、攻撃対象の消散後に組織から炎症性マクロファージが有効にクリアランスされることが重要である。クリアランスの不良は、炎症性腸疾患などの病状の一因となり得るため、治療的な標的であり得る。しかしながら、炎症性マクロファージの終結を誘発するシグナル伝達経路の規定は不完全である。本発明者らは、以前はマクロファージ生物学上の役割が未知であった、ErbB4受容体チロシンキナーゼが、この過程に関与するかどうかを試験した。インビトロでは、培養マウス及びヒトマクロファージの炎症性活性化は、ErbB4の発現を誘発したが、対照的に、他のファミリーメンバーのErbBは、炎症性細胞内に誘発されず、それ以外の自然免疫系統(樹状細胞、好中球)は検出可能なレベルのErbB4を発現しなかった。ErbB4リガンドであるニューレグリン−4(NRG4)を用いた、活性化された炎症性マクロファージの治療は、アポトーシスを誘発した。ErbB4は炎症性細胞内のミトコンドリアに局在化し、アポトーシスはErbB4細胞内ドメインの切断断片を産生するプロテアーゼに依存した。このことは、この断片及びミトコンドリア経路のアポトーシスが必要であることを示唆した。インビボでは、C57Bl/6マウスの実験的なDSS大腸炎の間、ErbB4が炎症性マクロファージに高度に発現した。このモデルの活動性炎症はNRG4の発現を抑制した。このことから、マクロファージが持続し炎症が続いている可能性がある。大腸炎時の外因性NRG4の投与が、結腸マクロファージ数を減少させ、炎症を改善することは、この概念と一致する。これらのデータは、マクロファージのアポトーシスにおけるErbB4の新規な役割を規定し、大腸炎の消散を促進できるフィードバック阻害の機構を示すものである。特定の理論に束縛されるものではないが、発明者は、ErbB4によるシグナル伝達が炎症性Mφの生存及び/または機能を低減する抗炎症性フィードバック阻害機構として機能すると想定している。本仮説の当然の帰結として、炎症性Mφ上のErbB4は大腸炎の消散を促進することから、IBDの潜在的な治療対象である。
治療法
したがって、本明細書では、ErbB4+Mφ数の増加が見られることと関連した疾患状態の症状を治療、抑制、軽減及び/または疾患状態の予防を促進する方法を提供する。本方法は、疾患状態の症状を治療、抑制、軽減する及び/または疾患状態の予防を促進するような、ErbB4活性化因子を提供することと、対象に有効量の活性化因子を投与することを含む。いくつかの実施形態では、ErbB4の活性化因子は、小分子、ペプチド、抗体またはその断片、及び核酸分子からなる群から選択される。一実施形態では、ErbB4活性化因子は、ニューレグリン−4またはその薬学的な等価物、類似体、誘導体、模倣体若しくは塩である。各種実施形態において、疾患状態は、炎症性腸疾患、壊死性腸炎、急性肺損傷、肝線維症、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、COPD、アテローム性動脈硬化症、またはI型糖尿病である。一実施形態では、基準値と比較して、ErbB4+Mφ数の増加が見られる。
本明細書ではまた、ErbB4+Mφの発現増加によりErbB4+Mφ数の増加が見られる対象での、炎症性腸疾患の症状を治療、抑制、軽減及び/またはその予防を促進する方法も提供する。本方法は、ErbB4+Mφの発現が増加した対象での、炎症性腸疾患の症状を治療、抑制、軽減する及び/またはその予防を促進するような、ErbB4活性化因子を提供すること、及び対象に有効量の活性化因子を投与することを含む。いくつかの実施形態では、ErbB4の活性化因子は、小分子、ペプチド、抗体またはその断片、及び核酸分子からなる群から選択される。一実施形態では、ErbB4活性化因子は、ニューレグリン−4またはその薬学的な等価物、類似体、誘導体、模倣体若しくは塩である。各種実施形態において、ErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)を、炎症性腸疾患の既存治療と併用しても良い。例えば、ErbB4活性化因子は、炎症性腸疾患を治療するために、既存療法、例えば、食事の変更ならびに治療薬の投与、例えば限定するものではないが、スルファサラジン(Azulfadine)、メサラミン(Asacol、Pentasa)、アザチオプリン(Imuran)、6−MP(Purinethol)、サイクロスポリン、メトトレキサート、インフリキシマブ(Remicade)、ブデソニド(Entocort EC)及びコルチコステロイド(プレドニソン)の投与と併用しても良い。ErbB4活性化因子と共に用いることができる既存療法の用量は、当業者に明らかである。一実施形態では、ErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)及びIBDの既存療法を、逐次的に施しても良い。別の実施形態では、ErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)及びIBDの既存療法を、同時に施しても良い。
更に本明細書では、ErbB4+Mφ数の増加が見られる対象において、壊死性腸炎の症状を治療、抑制、軽減及び/またはその予防を促進する方法を提供する。本方法は、ErbB4+Mφの発現が増加した対象での、壊死性腸炎の症状を治療、抑制、軽減する及び/またはその予防を促進するような、ErbB4活性化因子を提供すること、及び対象に有効量の活性化因子を投与することを含む。いくつかの実施形態では、ErbB4の活性化因子は、小分子、ペプチド、抗体またはその断片、及び核酸分子からなる群から選択される。一実施形態では、ErbB4活性化因子は、ニューレグリン−4またはその薬学的な等価物、類似体、誘導体、模倣体若しくは塩である。各種実施形態において、ErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)を、壊死性腸炎の既存治療、例えば限定するものではないが、経腸栄養の停止、経鼻胃管減圧の実施、広域抗生物質、静脈内輸液補助及び手術の開始と併用しても良い(Sharma,R及びHudak,M.Clin Perinatol.2013 Mar;40(1):27-51、Kasivajjula H及びMaheshwari A.Indian J Pediatr.2014 May;81(5):489−97)。一実施形態では、ErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)及び壊死性腸炎の既存療法を、逐次的に施しても良い。別の実施形態では、ErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)及び壊死性腸炎の既存療法を、同時に施しても良い。
本明細書では、必要とする対象での、放射線療法誘発性の腸障害の症状を治療、抑制、軽減する及び/またはその予防を促進する方法も提供する。本方法は、対象での、放射線療法誘発性の腸障害の症状を治療、抑制、軽減する及び/またはその予防を促進するような、ErbB4活性化因子を提供すること、及び対象に有効量の活性化因子を投与することを含む。いくつかの実施形態では、ErbB4の活性化因子は、小分子、ペプチド、抗体またはその断片、及び核酸分子からなる群から選択される。一実施形態では、ErbB4活性化因子は、ニューレグリン−4またはその薬学的な等価物、類似体、誘導体、模倣体若しくは塩である。
本明細書では、必要とする対象での、急性肺損傷(ALI)の症状を治療、抑制、軽減する及び/またはその予防を促進する方法も提供する。本方法は、対象での、ALIの症状を治療、抑制、軽減する及び/またはその予防を促進するような、ErbB4活性化因子を提供すること、及び対象に有効量の活性化因子を投与することを含む。いくつかの実施形態では、ErbB4の活性化因子は、小分子、ペプチド、抗体またはその断片、及び核酸分子からなる群から選択される。一実施形態では、ErbB4活性化因子は、ニューレグリン−4またはその薬学的な等価物、類似体、誘導体、模倣体若しくは塩である。各種実施形態において、ErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)を、ALIの既存治療または潜在的(新規)治療と併用しても良い。例えば、ErbB4活性化因子は、換気療法及び換気療法以外を含む既存療法と併用しても良い。ALIのための付加的治療として、スタチン、骨髄由来間葉幹細胞、エアゾール療法、コルチコステロイド、ベータ受容体アドレナリン作動薬及び血管拡張剤の使用が挙げられるが、これらに限定されない(Jain R,DalNogare A.Pharmacological therapy for acute respiratory distress syndrome. Mayo Clin Proc.2006;81:205−212、Groshaus HE,Manocha S,Walley KR,Russell JA.Mechanisms of beta−receptor stimulation−induced improvement of acute lung injury and pulmonary edema.Crit Care.2004;8:234−242、Wheeler AP,Bernard GR.Acute lung injury and the acute respiratory distress syndrome:a clinical review.Lancet.2007;369:1553−1564、Johnson,E.及びMatthay,M.J Aerosol Med Pulm Drug Deliv.2010 Aug;23(4):243-252;Sweeney RMら,Semin Respir Crit Care Med.2013 Aug;34(4):487−98)。一実施形態では、ErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)及びALIの既存療法を、逐次的に施しても良い。別の実施形態では、ErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)及びALIの既存療法を、同時に施しても良い。
本明細書では、必要とする対象での、肝線維症の症状を治療、抑制、軽減する及び/またはその予防を促進する方法も提供する。本方法は、対象での、肝線維症の症状を治療、抑制、軽減する及び/またはその予防を促進するような、ErbB4活性化因子を提供すること、及び対象に有効量の活性化因子を投与することを含む。いくつかの実施形態では、ErbB4の活性化因子は、小分子、ペプチド、抗体またはその断片、及び核酸分子からなる群から選択される。一実施形態では、ErbB4活性化因子は、ニューレグリン−4またはその薬学的な等価物、類似体、誘導体、模倣体若しくは塩である。各種実施形態において、ErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)を、肝線維症の既存治療、例えば限定するものではないが、食事の変更、ライフスタイルの変更、抗線維化薬、抗炎症剤及び抗酸化剤と併用しても良い(Bataller,R.及びBrenner,D.J Clin Invest.2005 Feb 1 115(2):209-218、Detlef Schuppan及びYong Ook Kim.Evolving therapies for liver fibrosis.J Clin Invest.2013;123(5):1887−1901)。一実施形態では、ErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)及び肝線維症の既存療法を、逐次的に施しても良い。別の実施形態では、ErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)及び肝線維症の既存療法を、同時に施しても良い。
本明細書では、必要とする対象での、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の症状を治療、抑制、軽減する及び/またはその予防を促進する方法も提供する。本方法は、対象での、非アルコール性脂肪肝炎の症状を治療、抑制、軽減する及び/またはその予防を促進するような、ErbB4活性化因子を提供すること、及び対象に有効量の活性化因子を投与することを含む。いくつかの実施形態では、ErbB4の活性化因子は、小分子、ペプチド、抗体またはその断片、及び核酸分子からなる群から選択される。一実施形態では、ErbB4活性化因子は、ニューレグリン−4またはその薬学的な等価物、類似体、誘導体、模倣体若しくは塩である。各種実施形態において、ErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)を、非アルコール性脂肪肝炎の既存治療、例えば限定するものではないが、食事の変更、ライフスタイルの変更、総コレステロール値の低下(例えば、スタチンの使用)、減量、運動、アルコール消費の低減若しくは中断、またはこれらの組み合わせと併用しても良い。一実施形態では、ErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)及びNASHの既存療法を、逐次的に施しても良い。別の実施形態では、ErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)及びNASHの既存療法を、同時に施しても良い。
本明細書では、必要とする対象での、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の症状を治療、抑制、軽減する及び/またはその予防を促進する方法も提供する。本方法は、対象での、COPDの症状を治療、抑制、軽減する及び/またはその予防を促進するような、ErbB4活性化因子を提供すること、及び対象に有効量の活性化因子を投与することを含む。いくつかの実施形態では、ErbB4の活性化因子は、小分子、ペプチド、抗体またはその断片、及び核酸分子からなる群から選択される。一実施形態では、ErbB4活性化因子は、ニューレグリン−4またはその薬学的な等価物、類似体、誘導体、模倣体若しくは塩である。各種実施形態において、ErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)を、COPDの既存治療、例えば限定するものではないが、食事の変更、ライフスタイルの変更、短時間作用型の気管支拡張薬、長時間作用型の気管支拡張薬、ホスホジエステラーゼ−4(PDE4)阻害剤(ロフルミラストなど)、コルチコステロイド及びメチルキサンチンと併用しても良い(Hobart L.,Jeffrey,K.及びKarine,T.Treatment of Stable Chronic Obstructive Pulmonary Disease:the GOLD Guidelines.Am Fam Physician.2013 Nov 15;88(10):655−663)。一実施形態では、ErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)及びCOPDの既存療法を、逐次的に施しても良い。別の実施形態では、ErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)及びCOPDの既存療法を、同時に施しても良い。
本明細書では、必要とする対象での、アテローム性動脈硬化症の症状を治療、抑制、軽減する及び/またはその予防を促進する方法も提供する。本方法は、対象での、アテローム性動脈硬化症の症状を治療、抑制、軽減する及び/またはその予防を促進するような、ErbB4活性化因子を提供すること、及び対象に有効量の活性化因子を投与することを含む。いくつかの実施形態では、ErbB4の活性化因子は、小分子、ペプチド、抗体またはその断片、及び核酸分子からなる群から選択される。一実施形態では、ErbB4活性化因子は、ニューレグリン−4またはその薬学的な等価物、類似体、誘導体、模倣体若しくは塩である。各種実施形態において、ErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)を、アテローム性動脈硬化症の既存治療、例えば限定するものではないが、食事の変更、ライフスタイルの変更、スタチン、抗血小板薬、ベータ受容体遮断薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、カルシウム拮抗剤、PCSK9阻害剤と併用しても良い(Tabas,I.ら,Recent insights into the cellular biology of atherosclerosis.April 13,2015.The Journal of Cell Biology vol209/no.1,pg13−22;、Weber,C.及びNoels,H.Atherosclerosis:current pathogenesis and therapeutic options.Nature Medicine Vol.17,pg.1410-1422 (2011))。一実施形態では、ErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)及びアテローム性動脈硬化症の既存療法を、逐次的に施しても良い。別の実施形態では、ErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)及びアテローム性動脈硬化症の既存療法を、同時に施しても良い。
本明細書では、必要とする対象での、糖尿病の症状を治療、抑制、軽減する及び/またはその予防を促進する方法も提供する。本方法は、対象での、糖尿病の症状を治療、抑制、軽減する及び/またはその予防を促進するような、ErbB4活性化因子を提供すること、及び対象に有効量の活性化因子を投与することを含む。一実施形態では、糖尿病はI型糖尿病である。いくつかの実施形態では、ErbB4の活性化因子は、小分子、ペプチド、抗体またはその断片、及び核酸分子からなる群から選択される。一実施形態では、ErbB4活性化因子は、ニューレグリン−4またはその薬学的な等価物、類似体、誘導体、模倣体若しくは塩である。各種実施形態において、ErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)を、I型糖尿病の既存治療、例えば限定するものではないが、食事の変更、ライフスタイルの変更及びインスリン療法と併用しても良い(Chiang,Jら.Type 1 Diabetes Through the Life Span:A Position Statement of the American Diabetes Association.Diabetes Care July 2014 vol.37 no.7,pg.2034−2054)。一実施形態では、ErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)及びI型糖尿病の既存療法を、逐次的に施しても良い。別の実施形態では、ErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)及びI型糖尿病の既存療法を、同時に施しても良い。
本明細書に記載する方法の各種実施形態では、基準値は、通常の(即ち、健常な、または対照となる)対象におけるErbB4+マクロファージの平均数または中央数である。更に別の実施形態では、基準値は、疾患状態と診断された対象、及び前記疾患状態の治療を受けている、または受けた対象におけるErbB4+マクロファージの平均数または中央数である。代表的実施形態では、基準値に対して、疾患状態の対象でのErbB4+炎症性Mφは、少なくとも、または約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%増加する。代表的実施形態では、基準値に対して、疾患状態の対象でのErbB4+炎症性Mφは、少なくともまたは約2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、15倍、20倍、25倍、30倍、35倍、40倍、45倍、50倍、55倍、60倍、65倍、70倍、75倍、80倍、85倍、90倍、95倍、100倍またはこれらの組み合わせに増加する。
本明細書ではまた、必要とする対象でのErbB4+Mφの細胞死を誘発する方法も提供する。本方法は、対象での、ErbB4+Mφの細胞死を誘発するような、ErbB4活性化因子を提供すること、及び対象に有効量の活性化因子を投与することを含む。いくつかの実施形態では、ErbB4の活性化因子は、小分子、ペプチド、抗体またはその断片、及び核酸分子からなる群から選択される。一実施形態では、ErbB4活性化因子は、ニューレグリン−4またはその薬学的な等価物、類似体、誘導体、模倣体若しくは塩である。一実施形態では、対象はIBDを有している。更に別の実施形態では、対象は壊死性腸炎を有している。別の実施形態では、対象は急性肺損傷を有している。更に別の実施形態では、対象は肝線維症を有している。別の実施形態では、対象はアテローム性動脈硬化症を有している。更に別の実施形態では、対象は慢性閉塞性肺疾患(COPD)を有している。付加的な実施形態では、対象はI型糖尿病を有している。
いくつかの実施形態では、ErbB4の活性化因子は、直接的な活性化因子であり、例えば、ErbB4のリン酸化を誘発または増加させることにより、活性化因子とErbB4とを結合させ、ErbB4を活性化する。いくつかの実施形態では、ErbB4の活性化因子は、間接的なErbB4活性化因子であり、活性化因子がErbB4の阻害因子を阻害して、ErbB4を活性化する。一実施形態では、ErbB4活性化因子はニューレグリン−4である。
本明細書では、対象がErbB4の活性化因子を用いた治療を受けている、または受けた場合に、ErbB4+Mφ数の増加に伴う疾患状態の治療の有効性を評価するためのアッセイも提供する。アッセイには、対象から試料を採取すること、試料を分析して試料中のErbB4+Mφのレベルを判定すること、ErbB4+Mφのレベルが基準値に対して減少している場合に治療が有効であると判定し、あるいはErbB4+Mφのレベルが基準値に対して変化しないか、または増加する場合には治療が無効であると判定することを含む。一実施形態では、基準値は、治療開始前の対象のErbB4+Mφのレベルである。一実施形態では、基準値が、通常の(例えば、健常な)対象のErbB4+Mφのレベルである場合に、対象からの試料中のErbB4+Mφのレベルが、基準値のErbB4+Mφのレベルと同様である場合に治療を有効であると判定する。一実施形態では、疾患状態はIBDである。更に別の実施形態では、疾患状態は壊死性腸炎である。別の実施形態では、疾患状態は急性肺損傷である。更に別の実施形態では、疾患状態は肝線維症である。別の実施形態では、疾患状態はアテローム性動脈硬化症である。更に別の実施形態では、疾患状態は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)である。付加的な実施形態では、疾患状態はI型糖尿病である。
特許請求の範囲に記載された方法に使用するErbB4活性化因子を、各種方法、例えば限定するものではないが、エアゾール、経鼻、経口、経粘膜、経皮、非経口、舌下、埋込型ポンプ、連続注入、局所塗布、浣腸、カプセル及び/または注射を利用して投与して良い。いくつかの実施形態では、疾患状態はNECまたはIBDであり、ErbB4活性化因子は経口投与される。いくつかの実施形態では、疾患状態は急性肺損傷であり、ErbB4活性化因子の投与様式はエアゾールである。
本発明によって治療される対象は、哺乳動物の対象、例えばヒト、サル、類人猿、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヤギ、ブタ、ウサギ、マウス及びラットを含む。
治療的用量
本発明のいくつかの実施形態では、組成物中のErbB4活性化因子の有効量は、約1〜10mg/日、10〜50mg/日、50〜100mg/日、100〜150mg/日、150〜200mg/日、100〜200mg/日、200〜300mg/日、300〜400mg/日、400〜500mg/日、500〜600mg/日、600〜700mg/日、700〜800mg/日、800〜900mg/日、900〜1000mg/日、1000〜1100mg/日、1100〜1200mg/日、1200〜1300mg/日、1300〜1400mg/日、1400〜1500mg/日、1500〜1600mg/日、1600〜1700mg/日、1700〜1800mg/日、1800〜1900mg/日、1900〜2000mg/日、2000〜2100mg/日、2100〜2200mg/日、2200〜2300mg/日、2300〜2400mg/日、2400〜2500mg/日、2500〜2600mg/日、2600〜2700mg/日、2700〜2800mg/日、2800〜2900mg/日または2900〜3000mg/日の範囲内であり得る。本発明の一実施形態では、ErbB4は、ニューレグリン−4またはその薬学的な等価物、類似体、誘導体、模倣体若しくは塩である。
本明細書の更に別の実施形態では、特許請求の範囲に記載の方法で使用されるErbB4活性化因子の有効量は、0.001〜0.005mg/kg、0.005〜0.01mg/kg、0.01〜0.02mg/kg、0.02〜0.04mg/kg、0.04〜0.06mg/kg、0.06〜0.08mg/kg、0.08〜1mg/kg、1〜5mg/kg、5〜10mg/kg、5〜7mg/kg、6〜7mg/kg、6〜8mg/kg、7〜8mg/kg、7〜10mg/kg、10〜15mg/kg、15〜20mg/kg、20〜25mg/kg、25〜30mg/kg、30〜35mg/kg、35〜40mg/kg、40〜45mg/kg、45〜50mg/kg、10〜50mg/kg、50〜100mg/kg、100〜150mg/kg、150〜200mg/kg、100〜200mg/kg、200〜300mg/kg、300〜400mg/kg、400〜500mg/kg、500〜600mg/kg、600〜700mg/kg、700〜800mg/kg、800〜900mg/kg、900〜1000mg/kg、1000〜1100mg/kg、1100〜1200mg/kg、1200〜1300mg/kg、1300〜1400mg/kg、1400〜1500mg/kg、1500〜1600mg/kg、1600〜1700mg/kg、1700〜1800mg/kg、1800〜1900mg/kg、1900〜2000mg/kg、2000〜2100mg/kg、2100〜2200mg/kg、2200〜2300mg/kg、2300〜2400mg/kg、2400〜2500mg/kg、2500〜2600mg/kg、2600〜2700mg/kg、2700〜2800mg/kg、2800〜2900mg/kgまたは2900〜3000mg/kgの範囲内であり得る。本発明の一実施形態では、ErbB4活性化因子は、ニューレグリン−4またはその薬学的な等価物、類似体、誘導体、模倣体若しくは塩である。
有効量のErbB4活性化因子、例えばニューレグリン−4の通常用量は、既知の治療的化合物を用いる場合は製造業者によって推奨される範囲内であり、またインビトロ反応または動物モデルでの反応ごとに当業者に指示される範囲内であり得る。実際の容量は、医師の判断、患者の病状、例えば、関連する培養細胞または組織培養された組織試料のインビトロ反応性、または適切な動物モデルで観察された反応に基づいた治療方法の効果に依存し得る。各種実施形態では、ErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)の有効量は、対象に有効量のErbB4活性化因子を投与するためには、1日1回(SID/QD)、1日2回(BID)、1日3回(TID)、1日4回(QID)、またはそれ以上であって良く、その場合の有効量は本明細書に記載された、いずれか1以上の用量である。各種実施形態では、ErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)は、対象が疾患状態を発症する前、発症中、または発症後に対象に投与される。いくつかの実施形態では、組成物は、1日に1〜3回または週に1〜7回、対象に投与される。いくつかの実施形態では、組成物は、1〜5日、1〜5週、1〜5か月または1〜5年の間、対象に投与される。
医薬組成物
各種実施形態では、本発明は、有効量のニューレグリン−4などのErbB4活性化因子、または治療的有効量のニューレグリン−4などのErbB4活性化因子若しくはその薬学的な等価物、類似体、誘導体、模倣体若しくは塩と、薬学的に許容される賦形剤/担体とを含むか、それらからなるか、または本質的にそれらからなる医薬組成物を提供する。「薬学的に許容される賦形剤」とは、一般に安全で非毒性であり、望ましい医薬組成物の調製に有用な賦形剤を意味し、ヒトの薬学的使用のためだけでなく獣医学的使用のためにも許容される賦形剤を含む。このような賦形剤は、固体、液体、半固体、またはエアゾール組成物の場合には気体であっても良い。
各種実施形態において、本発明による医薬組成物は、任意の投与経路を介した送達に合わせて製剤化することができる。「投与経路」は、当該技術分野で既知のいずれかの投与経路を指すことができ、エアゾール、浣腸、経鼻、経口、舌下、経粘膜、経皮、非経口または経腸を含み得るが、これらに限定されない。「非経口」は、一般に、眼窩内、注入、動脈内、嚢内、心臓内、皮内、筋肉内、腹腔内、肺内、脊髄内、胸骨内、鞘内、子宮内、静脈内、くも膜下、被膜下、皮下、経粘膜または経気管を含む、注射に関連する投与経路を指す。非経口経路による場合、組成物は、注入または注射用の溶液または懸濁液の形態であっても良く、または凍結乾燥粉末としての形態であっても良い。非経口経路による場合、組成物は、注入または注射用の溶液または懸濁液の形態であっても良い。経腸経路による場合、医薬組成物は、制御された放出を可能にする錠剤、ゲルカプセル、糖衣錠、シロップ、懸濁液、溶液、粉末、顆粒、エマルジョン、ミクロスフェア若しくはナノスフェア、または脂質ベシクル若しくはポリマーベシクルの形態であり得る。
本明細書で使用される場合、用語「非経口投与」及び「非経口投与された」は、経腸及び局所投与以外の投与様式、通常は注射によるものを指す。本明細書で使用される場合、用語「全身投与」、「全身投与された」、「末梢投与」及び「末梢投与された」は、標的部位、組織または器官への直接的な投与ではなく、対象の循環系に入ることで代謝及び他の同様の作用を受けるような、ErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)の投与を指す。
「薬学的に許容される賦形剤」とは、一般に安全で非毒性であり、望ましい医薬組成物の調製に有用な賦形剤を意味し、ヒトの薬学的使用のためだけでなく獣医学的使用のためにも許容される賦形剤を含む。このような賦形剤は、固体、液体、半固体、またはエアゾール組成物の場合には気体であっても良い。
本発明による医薬組成物は、いかなる薬学的に許容される担体も含有することができる。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」は、目的の化合物を、1つの組織、器官または身体の一部から、別の組織、器官または身体の一部へと運ぶまたは輸送することに関与する、薬学的に許容される材料、組成物またはビヒクルを指す。例えば、担体は、液体または固体の充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒、またはカプセル化材料またはこれらの組合せであって良い。担体の各成分は、製剤の他の成分と適合性でなければならないという点で、「薬学的に許容される」ものでなければならない。担体の各成分は、それが接触し得る任意の組織または器官との接触に使用するのにも適していなければならない。このことは、担体の各成分が、毒性、刺激、アレルギー反応、免疫原性またはその治療上の有益性を過度に上回る任意の他の合併症の危険性を備えていてはならないことを意味する。
本発明による医薬組成物は、経口投与用に、カプセル化、錠剤化またはエマルジョン若しくはシロップ剤に調製することもできる。薬学的に許容される固体または液体担体を、組成物を増強または安定化するために、あるいは組成物の調製を容易にするために添加しても良い。液体担体として、シロップ、ピーナッツ油、オリーブ油、グリセリン、生理食塩水、アルコール及び水が挙げられる。固体単体として、デンプン、ラクトース、硫酸カルシウム、二水和物、石膏、ステアリン酸マグネシウム若しくはステアリン酸、タルク、ペクチン、アカシア、寒天、またはゼラチンが挙げられる。担体には、単独でまたはワックスに加えて、グリセリルモノステアレートまたはグリセリルジステアレートなどの徐放性材料も含むことができる。
医薬製剤は、錠剤形態のための製粉、混合、造粒、及び必要な場合には圧縮を伴うか、あるいは硬質ゼラチンのカプセル形態のための製粉、混合及び充填を伴う、従来の薬学技術に従って作製される。液体担体が使用される場合、製剤はシロップ、エリキシル、エマルジョンまたは水性若しくは非水性懸濁液の形態である。このような液体製剤は、直接経口投与するか、または軟質ゼラチンカプセルに充填することができる。
本発明による医薬組成物は、治療的有効量で送達され得る。厳密な治療的有効量は、所与の対象における治療の有効性の点で最も有効な結果をもたらす組成物の量である。この量は、様々な要因に依存して変化し、要因には、治療化合物の特性(活性、薬物動態、薬力学及び生物学的利用能を含む)、対象の生理的状態(年齢、性別、疾患の種類及び段階、一般的身体状態、所与の用量に対する応答性ならびに薬剤の種類を含む)、製剤において薬学的に許容される1または複数の担体の性質及び投与経路を含むが、これらに限定されない。臨床及び薬理学技術分野の当業者であれば、決められた実験を通じて、例えば、化合物の投与に対する対象の反応をモニタリングすること、及びそれに応じて用量を調整することにより、治療的有効量を決定できるであろう。追加のガイダンスについては、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(Gennaro編,20版,Williams&Wilkins PA,USA)(2000)を参照されたい。
治療剤は単回投与または複数回投与にて患者に投与することができる。複数回投与の場合、各回の間隔を、例えば1時間、3時間、6時間、8時間、1日、2日、1週間、2週間または1か月ごとに分けて投与しても良い。例えば、治療剤を、例えば2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、10週間、15週間、20週間またはそれ以上の間隔で投与することができる。各種実施形態において、組成物は、1日に1〜3回または週に1〜7回、対象に投与される。各種実施形態では、組成物は、1〜5日、1〜5週、1〜5か月または1〜5年の間、対象に投与される。特定の対照についての具体的な用量レジメンは、個々の必要性に応じて、及び組成物の投与を管理または監督する個人の職業的判断に応じて、経時的に調整すべきであることを理解すべきである。例えば、低用量では十分な治療的活性が得られない場合に、治療剤の用量を増加することができる。最終的に主治医が適切な量及び用量レジメンを決定することになるが、本明細書で開示するErbB4活性化因子またはその薬学的な等価物、類似体、誘導体、模倣体若しくは塩の治療的有効量は、0.0001、0.01、0.01 0.1、1、5、10、25、50、100、500または1,000mg/kgまたはμg/kg用量で与えることができる。有効用量はインビトロまたは動物モデル試験のバイオアッセイまたはシステムから導出される用量反応曲線から推定することができる。
本明細書で使用される有効量は、疾患の症状の発生を遅延化する、疾患の症状の過程を変更する(例えば、限定するものではないが、疾患の症状の進行を緩徐化する)、または疾患の症状を後退させるのに十分な量も含み得る。したがって、正確な「有効量」を特定することは不可能である。しかしながら、いずれの所与の症例においても、決められた実験のみを使用して、当業者が適切な「有効量」を決定することができる。
有効量、毒性及び治療効果は、細胞培養または実験動物において、例えばLD50(集団の50%にとっての致死用量)及びED50(集団の50%での治療的有効用量)を決定するための標準的な薬学的手順によって、決定することができる。用いる剤形及び利用される投与経路に応じて、用量を変えることができる。毒性効果と治療効果との間の用量比は、治療指数であり、LD50/ED50比として表すことができる。治療指数の大きい組成物及び方法が好ましい。治療的有効量は最初に細胞培養アッセイから推定することができる。また、細胞培養または適切な動物モデルにて決定されるIC50(即ち、症状の最大半数阻害を達成する、ErbB4活性化薬剤の濃度)を含む範囲の循環血漿中濃度を動物モデルで達成する用量を処方することができる。血漿中濃度は、例えば、高速液体クロマトグラフィにより測定できる。何らかの特定の用量の効果を、適切なバイオアッセイによってモニターすることができる。医師は用量を決定して、観察された治療効果に合わせて、必要に応じて調整することができる。
用語「薬学的に許容される」は、堅実な医学的判断の範囲内にあり、過度の毒性、刺激、アレルギー反応または他の問題若しくは合併症を伴うことなく、ヒト及び動物の組織に接触させて使用するのに適しており、妥当なベネフィット/リスク比に見合った化合物、材料、組成物及び/または剤形を指す。本明細書で使用される場合、用語「薬学的に許容される担体」または「薬学的に許容される賦形剤」は、液体または個体の充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒、媒体、封入材料、製造助剤(例えば、潤滑剤、タルクマグネシウム、カルシウム若しくは亜鉛のステアレートまたはステアリン酸)、または溶媒封入材料などの、ErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)の安定性、溶解性または活性の維持に関与する、薬学的に許容される材料、組成物またはビヒクルを意味する。各担体は、この製剤の他の成分と適合性があり、かつ患者に有害でないという意味において「許容される」ものでなければならない。薬学的に許容される担体として機能し得る材料の一部の例として、(1)ラクトース、グルコース及びスクロースなどの糖、(2)コーンスターチ及び馬鈴薯澱粉などのデンプン、(3)カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、微結晶セルロース及び酢酸セルロースなどのセルロース及びその誘導体、(4)トラガント末、(5)麦芽、(6)ゼラチン、(7)ココアバター及び坐剤用ワックスなどの賦形剤、(8)ピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油及び大豆油などの油、(9)プロピレングリコールなどのグリコール、(10)グリセリン、ソルビトール、マンニトール及びプロピレングルコール(PEG)などのポリオール、(11)エチルオレエート及びエチルラウレートなどのエステル、(12)寒天、(13)水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムなどの緩衝剤、(14)アルギン酸、(15)パイロジェンフリー溶液、(16)等張生理食塩水、(17)リンゲル溶液、(18)pH緩衝液、(19)ポリエステル、ポリカーボネート及び/またはポリ無水物、(20)ポリペプチド及びアミノ酸などの充填剤、(21)血清アルブミン、HDL及びLDLなどの血清成分、(22)エタノールなどのC2〜C12アルコール、ならびに(23)薬学的処方に用いられる他の適合可能な非毒性物質が挙げられる。製剤に遊離剤、コーティング剤、防腐剤及び酸化防止剤が存在しても良い。「賦形剤」、「担体」、「薬学的に許容される担体」またはそれに類する用語は、本明細書で同じ意味で用いられる。
本明細書に記載するErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)は、化合物を固体、液体またはゲル形態で対象に投与するために特別に処方することができる。これには、(1)例えば、無菌液若しくは懸濁液としての、例えば、皮下、筋肉内、腹腔内、静脈内若しくは硬膜外注射による非経口投与、または徐放性製剤、(2)例えば、皮膚に適用されるクリーム、軟膏または徐放性パッチ若しくはスプレーとしての局所塗布、(3)例えば、ペッサリー、クリーム若しくはフォームとしての膣内若しくは直腸内投与、(4)眼球内、(5)経皮、(6)経粘膜、(7)経鼻または(8)舌下に適合させたものを含む。加えて、本明細書に記載するErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)は、患者に埋め込むこと、またはドラッグデリバリーシステムを用いて注入することができる。例えば、Urquhartら,Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol.24:199−236(1984)、Lewis編."Controlled Release of Pesticides and Pharmaceuticals"(Plenum Press,New York,1981)、米国特許第3,773,919号及び同第3,270,960号を参照されたい。
本明細書に記載する方法で使用できる製剤の更なる実施形態及びErbB4の活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)の投与様式を、以下に示す。
非経口剤形ErbB4活性化因子(例えばニューレグリン−4)の非経口剤形は、様々な経路によって対象に投与することもでき、皮下、静脈内(ボーラス注射を含む)、筋肉内、腹腔内及び動脈内を含むがこれらに限定されない。非経口剤形の投与は、通常、汚染物質に対する患者の自然防御力を回避するので、非経口剤形は、無菌であるか、または患者への投与前に殺菌できることが好ましい。非経口剤形の例として、注射用に準備された溶液、注射用の薬学的に許容されるビヒクル中で溶解または懸濁して準備する乾燥生成物、注射用に準備された懸濁液、放出制御性の非経口剤形及びエマルジョンが挙げられるが、これらに限定されない。
本開示の非経口剤形を提供するために使用できる好適なビヒクルは、当業者に周知である。非限定的例としては、滅菌水;USP注射用水;生理食塩水;グルコース溶液;限定されないが、塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、デキストロース注射液、デキストロース及び塩化ナトリウム注射液、ならびに乳酸リンゲル注射液などの水溶性ビヒクル;限定されないが、エチルアルコール、ポリエチレングリコール及びプロピレングリコールなどの水混和性ビヒクル;限定されないが、コーン油、綿実油、ピーナッツ油、ゴマ油、エチルオレエート、イソプロピルミリステート及び安息香酸ベンジルなどの非水性ビヒクルが挙げられる。
エアゾール製剤ErbB4活性化因子(例えばニューレグリン−4)は、適切な噴射剤、例えば、従来のアジュバントを有する、プロパン、ブタンまたはイソブタンのような炭化水素噴射剤と共に、加圧エアゾール容器内に封入することができる。ErbB4活性化因子(例えばニューレグリン−4)を、ネブライザーまたは噴霧器の非加圧形態で投与することもできる。ErbB4活性化因子(例えばニューレグリン−4)は、例えば、吸入器を用いて、乾燥粉末の形態で気道に直接投与することもできる。
好適な粉末組成物の例として、ラクトースと完全に混合されたErbB4活性化因子(例えばニューレグリン−4)の粉末製剤、または気管支内投与において許容される他の不活性粉末が挙げられる。粉末組成物は、エアゾールディスペンサーによって投与することも、カプセルを貫通して吸入に適した安定流で粉末を噴出する装置へ、対象が挿入可能な壊れやすいカプセルに入れることもできる。組成物には、噴射剤、界面活性剤及び共溶媒を含むことができ、好適な絞り弁によって閉じる従来のエアゾール容器に充填することができる。
気道に送達するためのエアゾールは、当技術分野において既知である。例えば、Adjei,A.及びGarren,J.Pharm.Res.,1:565−569(1990)、Zanen,P.及びLamm,J.W.J.Int.J.Pharm.,114:111−115(1995)、Gonda,I."Aerosols for delivery of therapeutic an diagnostic agents to the respiratory tract,"in Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems,6:273−313(1990)、Andersonら,Am.Rev.Respir.Dis.,140:1317−1324(1989)、ペプチド及びタンパク質の全身送達にも可能であるエアゾール(Patton及びPlatz,Advanced Drug Delivery Reviews,8:179−196(1992)、Timsinaら,Int.J.Pharm.,101:1−13 (1995)、及びTansey,I.P.,Spray Technol.Market,4:26−29(1994)、French,D.L.,Edwards,D.A.及びNiven,R.W.,Aerosol Sci.,27:769−783(1996)、Visser,J.,Powder Technology 58:1−10(1989)、Rudt,S.及びR.H.Muller,J.Controlled Release,22:263−272(1992)、Tabata,Y,及びY.Ikada,Biomed.Mater.Res.,22:837−858(1988)、Wall,D.A.,Drug Delivery,2:10 1−20 1995)、Patton,J.及びPlatz,R.,Adv.Drug Del.Rev.,8:179−196(1992)、Bryon,P.,Adv.Drug.Del.Rev.,5:107−132(1990)、Patton,J.S.ら,Controlled Release,28:1579−85(1994)、Damms,B.及びBains,W.,Nature Biotechnology(1996)、Niven,R.W.ら,Pharm.Res.,12(9);1343−1349(1995)、ならびにKobayashi,S.ら,Pharm.Res.,13(1):80−83(1996)を参照されたい。これら全ての内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
水は一部の化合物の劣化を促し得るため、本明細書に記載するErbB4活性化因子(例えばニューレグリン−4)の製剤は、活性成分として開示された化合物を含む無水医薬組成物及び剤形を更に包含する。例えば、水の添加(例えば、5%)は、貯蔵寿命または製剤の経時的安定性などの特徴を判定するために、長期保存をシミュレートする手段として医薬分野において広く受け入れられている。例えば、Jens T.Carstensen,Drug Stability:Principles&Practice,379−80(2版,Marcel Dekker,NY,N.Y.:1995)を参照されたい。本開示の無水医薬組成物及び剤形は、無水または低水分の含有成分及び低水分または低湿度条件を使用して調製することができる。製造、包装及び/または保管時に水分及び/または湿気との大幅な接触が予期される場合、ラクトース、及び一級または二級アミンを含む少なくとも1つの活性成分を含む医薬組成物及び剤形は、無水であることが好ましい。無水組成物は、水への露出を防止するための既知の材料を使用して包装され、好適な処方書キット内に封入できることが好ましい。好適な包装の例として、気密封止箔、プラスチック、乾燥剤の有無を問わない単位用量容器(例えば、バイアル)、ブリスターパック及びストリップパックが挙げられるが、これらに限定されない。
放出制御性及び徐放性剤形。本明細書に記載する方法のいくつかの実施形態では、ErbB4活性化因子(例えばニューレグリン−4)は、放出制御性または徐放性手段によって、対象に投与することができる。理想的には、医学的治療に最適に設計された放出制御性製剤の使用は、最小限の時間で病状を治癒または制御するために、用いる原薬が最小限であることを特徴とする。放出制御性製剤の利点としては、1)薬物活性の延長、2)用量頻度の削減、3)患者コンプライアンスの向上、4)薬物総使用量の減少、5)局所副作用または全身副作用の軽減、6)薬物蓄積の最小化、7)血中濃度の変動軽減、8)治療有効性の改善、9)薬物活性の相乗作用または損失の低減、及び10)疾患または病状の速度制御の改善が挙げられる(Kim,Cherng−ju,Controlled Release Dosage Form Design,2(Technomic Publishing, Lancaster,Pa.:2000)。放出制御性製剤を使用すると、化合物の作用開始、作用持続時間、治療可能時間域内の血漿濃度及びピーク血中濃度を制御することができる。特に、放出制御性または徐放性の剤形または製剤を使用すると、式(I)の化合物の最大効果が確実に達成される一方で、薬物の過小量投与(即ち、最小治療レベル以下になる)ならびに薬物の毒性基準の超過の両方により生じ得る、潜在的副作用及び安全性の懸念を最小限に抑えることができる。
様々な既知の放出制御性または徐放性の剤形、製剤及び装置を、本明細書に記載するErbB4活性化因子(例えば、ニューレグリン−4)の用途に適合させることができる。例として、それぞれの全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第3,845,770号、同第3,916,899号、同第3,536,809号、同第3,598,123号、同第4,008,719号、同第5674,533号、同第5,059,595号、同第5,591,767号、同第5,120,548号、同第5,073,543号、同第5,639,476号、同第5,354,556号、同第5,733,566号、同第6,365,185 B1号の記載が挙げられるが、これらに限定されない。これらの剤形を使用すると、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、他のポリマーマトリックス、ゲル類、浸透膜、浸透圧システム(例えばOROS(登録商標)(Alza Corporation,Mountain View,Calif.USA))、多層コーティング、微小粒子、リポソーム、若しくはミクロスフィアまたはこれらの組み合わせを使用して、様々な比率で所望の放出プロファイルを実現し、1つ以上の活性成分の放出を緩徐化または制御することができる。加えて、イオン交換物質を使用すると、固定化した吸着性の塩形態の開示された化合物を調製し、それにより薬物の制御された送達をもたらすことができる。特定の陰イオン交換樹脂の例として、Duolite(登録商標)A568及びDuolite(登録商標)AP143(Rohm&Haas,Spring House,Pa.USA)が挙げられるが、これらに限定されない。
いくつかの実施形態では、本明細書に記載する方法に用いられるErbB4活性化因子(例えばニューレグリン−4)は、徐放的にまたは律動的に対象に投与される。パルス療法は、同じ量の組成物を経時的に不連続に投与する形態ではなく、同じ用量の組成物を頻度を減らして投与するか、または用量を減らして投与する構成である。徐放性またはパルス投与は、障害が持続的に対象に生じているとき、例えば対象が持続性症状または慢性症状のウイルス感染症を有する場合に特に好ましい。パルスごとに用量を減らすことができるため、治療期間にわたり患者に投与されるErbB4活性化因子(例えばニューレグリン−4)の総量が最小化される。
パルス間の間隔は、必要な場合、当業者が決定することができる。多くの場合、パルス間の間隔は、次のパルスの送達前に、組成物または組成物の活性成分が、対象に全く検出されないときに、別の用量の組成物を投与することによって、算出することができる。間隔は、組成物の生体内半減期から算出することもできる。間隔は、生体内半減期より長いか、または組成物半減期の2倍、3倍、4倍、5倍及び更には10倍長くなるように算出され得る。注入または他の形態の患者への送達により、組成物をパルス投与するための各種方法及び装置は、米国特許第4,747,825号、同第4,723,958号、同第4,948,592号、同第4,965,251号及び同第5,403,590号に開示されている。
キット
本発明はまた、炎症性腸疾患、壊死性大腸炎、COPD、アテローム性動脈硬化症、I型糖尿病、ALI、放射線療法誘発性の腸障害、肝線維症、NASH、胃腸炎または尿路感染症を治療するキットにも関する。キットは、本発明の組成物のうちの少なくとも1つを含む、材料または成分の組み合わせである。したがって、いくつかの実施形態では、本キットは、上記のニューレグリン−4などのErbB4活性化因子、またはその薬学的な等価物、類似体、誘導体、模倣体若しくは塩を含む組成物を含有する。
本発明のキットを構成する成分の正確な性質は、その意図された目的に依存する。一実施形態では、キットは、特にヒト対象のために構成される。更に別の実施形態では、キットは、農場動物、家畜及び実験動物などの対象を治療する、獣医学的用途のために構成されるが、これらに限定されない。
使用説明書がキットに含まれる場合がある。「使用説明書」は、通常は、対象における炎症性腸疾患、壊死性大腸炎、COPD、アテローム性動脈硬化症、I型糖尿病、急性肺損傷または肝線維症などを治療するために、キットの成分を使用して望ましい結果を得るべく用いられる技術を説明する具体的な表示を含む。キットには、当業者によって容易に理解されるような、測定器具、希釈剤、緩衝剤、薬学的に許容される担体、シリンジまたは他の有用な道具類などの、他の有用な構成要素も含む場合がある。
キットに組み立てられた材料または成分を、それらの操作性及び有用性を維持する任意の簡便かつ好適な方法で格納し、施術者に提供することができる。例えば、成分は、溶解、脱水または凍結乾燥形態であり得、それらは室温、冷蔵または冷凍温度で提供することができる。成分は通常、好適な包装材料に収容されている。本明細書で使用される場合、用語「包装材料」は、本発明の組成物などのキットの内容物を収容するために使用される1つ以上の物理的構造物を指す。包装材料は、好ましくは無菌の、汚染のない環境を提供するために、周知の方法で構成される。本明細書で使用される場合、用語「パッケージ」は、個々のキット成分を保持することができる、ガラス、プラスチック、紙、箔及びそれに類するものなどの好適な固体マトリックスまたは材料を指す。したがって、例えば、パッケージは、ニューレグリン−4などのErbB4活性化因子、またはその薬学的な等価物、類似体、誘導体、模倣体若しくは塩を含む好適な量の本発明の組成物を収容するために使用されるボトルであり得る。包装材料は、一般に、キット及び/またはその成分の内容及び/または目的を示す外部ラベルを有する。
以下の実施例は、特許請求の範囲に記載された本発明を詳細に例示するために提供されており、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。具体的な材料が言及されている範囲で、実施例は例示だけを目的としており、本発明を限定するものではない。当業者は、本発明の能力を行使することなく、かつ本発明の範囲から逸脱することなく、同等の手段または反応物質を開発することができる。
長期にわたる炎症を防止するためには、攻撃対象の消散後に組織から炎症性マクロファージが有効にクリアランスされることが重要である。クリアランスの不良は、炎症性腸疾患などの病状の一因となり得るため、治療的な標的であり得る。しかしながら、炎症性マクロファージの終結を誘発するシグナル伝達経路の規定は不完全である。本発明者らは、以前はマクロファージ生物学上の役割が未知であった、ErbB4受容体チロシンキナーゼが、マクロファージのクリアランスに関与するかどうかを試験した。
急性DSS大腸炎の発症中に、ErbB4リガンドであるニューレグリン−4(NRG4)を投与した場合としない場合とで、マクロファージ上でのErbB4の発現及びC57Bl/6マウスの結腸でのマクロファージを、フローサイトメトリーによって評価した。培養したマウス及びヒトの一次マクロファージを活性化させ、NRG4で処置し、アポトーシスを測定した。骨髄系統にErbB4を欠損するマウスを、DSS大腸炎に罹患させ、大腸炎の重症度及び回復度を分析した。
DSS大腸炎発症中のマウスでは、ErbB4が炎症性マクロファージ上で高度に発現した。炎症性活性は、インビトロのマウス及びヒトのマクロファージ上でErbB4を誘発した。これらの細胞上でのErbB4の活性化によって、ErbB4細胞内ドメイン断片のタンパク分解産生に依存するアポトーシスが生じた。活動性炎症がNRG4の発現を抑制したことから、この欠損がマクロファージの持続及び炎症進行を可能にしていると見なされ得る。大腸炎時の外因性NRG4の投与が、結腸マクロファージ数を減少させ、炎症を改善することは、この概念と一致する。更に、骨髄性系統のErbB4を欠損しているマウスは、大腸炎の悪化を呈し、回復することはなかった。これらのデータは、マクロファージのアポトーシスにおけるErbB4の新規な役割を規定し、大腸炎の消散を促進できるフィードバック阻害の機構を示すものである。
実施例1
マクロファージの炎症性活性は、ErbB4の発現を誘発する
Mφは、細菌のクリアランスに関与する炎症性M1サブセットから、恒常性及び治癒促進性反応に関与する抗炎症性M2サブセットに至る一連の広範な特徴を有する。骨髄由来Mφを図1の実験に使用した。これは、骨髄由来細胞が、容易に増殖可能なナイーブ単球/Mφ集団の代表であり、この集団がM1またはM2表現型に確実に分化され、炎症中の腸内組織へのマクロファージ補充源となり得るためである。
炎症性活性によって、Mφ内でErbB4が調節されるかどうか判定するため、M1分化したMφ及び対照MφからRNAを収集し、全4つのErbBファミリーメンバーの発現について、定量的リアルタイムPCR(qPCR)により分析した。ErbB4は、炎症性活性により10倍誘発され(図1A;対照(PBS)またはIFNγ/LPSで刺激された(Stim)Mφ、**はp<0.01、n=4マウス)、増加を示した唯一のファミリーメンバーであった。LPS後のMφ上での免疫蛍光分析でも、膜及び核に局在したErbB4染色の顕著な増加を示し(図1E)、ErbB4受容体の全長及び切断された細胞内ドメイン両方での発現(図1F)と一致した。
実施例2
補充されたマクロファージ上でErbB4が誘発される
C57BL/6マウスに3%のデキストラン硫酸ナトリウム水溶液(DSS)を4日間与え(急性期)、以降の3日間は、DSSを与えなかった(炎症期)。一方の対照群には、7日間DSSを与えなかった。結腸組織を収集して、ディスパーゼII及びコラゲナーゼを使用して消化した後、F4/80、CD11b、Ly6C及びErbB4で染色した。細胞を、LSR II FACS装置にてフローサイトメトリーにより処理し、FloJoを使用して解析した。
図2に示すように、結腸のDSS誘発に続く、炎症期及び急性期両方でErbB4+マクロファージ数の増加が見られる。このことは、ErbB4+マクロファージが主に大腸炎時の循環から補充されることを示す。
実施例3
ニューレグリン−4は、炎症性M1で刺激されたマクロファージのアポトーシスを誘発する
IFNγ/LPS処理したMφを、NRG4(100ng/mL)+/−ErbB4遮断抗体(E4BA:2μg/mL)に48時間曝露し、Cell Titer Blue assay(Promega)によって計数した。n=4、*はp<0.01である。図3Aに示すように、ErbB4の活性化により、培養中の生存可能なM1分化されたMφの数が減少した。
CMG14−12の条件培地を使用して、骨髄由来マクロファージを生成し、96穴プレートに配置した。次に、ニューレグリン−4(NRG4)またはErbB4中和抗体(E4BA)ありまたはなしで、細胞をIFNγで一晩処理した後、LPS(10ng/mL)処理した。48時間後、細胞を4%のパラホルムアルデヒドで固定して染色し、切断されたカスパーゼ−3及びDAPIを検出した。図3Bに示すように、ニューレグリン−4処理は、高確率の細胞で、アポトーシスの標識である切断されたカスパーゼ−3の発現を誘発した。
実施例4
ニューレグリン−4の発現は、DSS大腸炎で消失する
IBDでは、ErbB4に特異的なリガンドNRG4の結腸発現の減少、それによるNRG4−ErbB4シグナル伝達能の減少が見られる。これがDSS大腸炎モデルで再現されるかを判定するため、3%のDSSで4日間処理したマウス(急性)及び4日間のDSS処理後、3日間DSSなしであったマウス(回復)からの結腸粘膜擦過から調製したRNAで、NRG4の発現を分析した。未処理のマウスと比較して、急性DSS群及び回復DSS群は、NRG4の発現が有意に低下している(図4)。
実施例5
LysM/ErbB4FFマウスは、DSSにおいて大幅な体重減少を示す
マクロファージを含む骨髄細胞系統にErbB4を欠損したマウス(LysM/ErbB4FF)及び欠損のない同腹仔対照(ErbB4FF)を3%のDSSで処理し、6日過ぎからDSSを排除した。体重を大腸炎の重症度を示す尺度として毎日記録した。
図5に示すように、LysM/ErbB4FFマウスは同腹仔対照よりも多く体重が減少し、マクロファージ内のErbB4の欠損が大腸炎の重症度を高める結果を示した。
実施例6
マクロファージ流入時のNRG4治療は、大腸炎を改善する
C57BL/6マウスに3%のデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)水溶液を4日間与え、以降の3日間はDSSを与えなかった。マクロファージが結腸に補充される、実験最後の4日間に、腹腔内注射により、毎日、ニューレグリン−4(100μg/kg)またはPBSを送達した。体重を大腸炎の重症度を示す指標として毎日記録した。7日目に、マクロファージ流入のフローサイトメトリー分析及びマクロファージ発現性の炎症性サイトカインのqRT−PCR分析のため結腸組織を収集した(図6A)。フローサイトメトリー実験のために、結腸組織をディスパーゼII及びコラゲナーゼを使用して消化した後、F4/80及びCD11bで染色した。細胞を、LSR II FACS装置にてフローサイトメトリーにより処理し、FloJoを使用して解析した。qRT−PCR分析のために、RNAを結腸組織から単離し、cDNAに変換して、TaqManマスターミックス及びプライマーを使用してサイトカインの発現を分析した。
ニューレグリン−4で処理されたマウスでは、DSSが誘発する体重減が阻止され(図6B)、PBS処理されたマウスと比較して、マクロファージ発現性のサイトカイン(IFNγ、TNF及びIL−6(図6C))の発現が低下した。フローサイトメトリーによるF4/80+CD11b+マクロファージの分析により、DSSによる大腸炎の誘発後に、NRG4治療がマクロファージ数の低下をもたらしたことが明らかとなった(図6D)。
実施例7
ErbB4を発現しているマクロファージは、呼吸器炎症に存在する
ErbB4を発現しているマクロファージが呼吸器炎症にも存在するかどうかを試験するために、Buckleyら,Eur Respir J.2015(PMID: 26160872)に従って、50ng/肺ヒト組換えアネキシンVを、8週齢のC57BL/6マウスからの肺切片には気管内点滴注入により、8週齢のC57BLマウスには気管内エアゾールにより、2週間、週2回ずつ攻撃投与した。アネキシンVの最後の投与後14日目(最初の点滴注入から28日目)に、肺を固定し、パラフィン包埋して、切片化した。ErbB4及びF4/80(マクロファージマーカー)で切片を染色した。損傷した肺に、ErbB4+マクロファージ(図7、画像で矢印により示された例)が容易に検出された。
実施例8
動物実験:全ての動物は、Children's Hospital Los Angeles Institutional Animal Care and Use Committee(Animal Welfare Assurance #A3276−01)により認可及び監視された。マウスは、Children's Hospital Los AngelesのAAALAC認証動物療養施設で、不断の水及び食餌を有する標準条件下に収容された。実験には、Jackson Laboratoryから入手した、8〜12週齢のC57Bl/6マウスを使用した。急性大腸炎を発症させるため、3%(w/v)のデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を飲水で4日間、マウスに与えた後(損傷期)、以降の3日間は飲水にDSSを含有しなかった(炎症期)。以前に記載されたように(Lin W,Ma C,Su F,Jiang Y,Lai R,Zhang Tら,Raf kinase inhibitor protein mediates intestinal epithelial cell apoptosis and promotes IBDs in humans and mice.Gut.2016;gutjnl-2015-310096)、完全に固まった糞を0、液状便を4とする0〜4までの一連の段階別に糞便のスコアを記録した。
骨髄マクロファージ及び樹状細胞の培養:マウスから単離した骨髄を、M−CSFを含有する濾過されたCMG14−12条件培地(1:20)にて培養し、以前に記載されたように骨髄由来マクロファージ(BMDM)を生成した(Takeshita S,Kaji K,Kudo A.Identification and characterization of the new osteoclast progenitor with macrophage phenotypes being able to differentiate into mature osteoclasts.J Bone Miner Res.2000;15(8):1477-88、Kawane K,Fukuyama H,Yoshida H,Nagase H,Ohsawa Y,Uchiyama Yら,Impaired thymic development in mouse embryos deficient in apoptotic DNA degradation.Nat Immunol.2003;4(2):138-44、Okabe Y,Medzhitov R.Tissue−specific signals control reversible program of localization and functional polarization of macrophages.Cell.2014;157(4):832-44)。または、20ng/mLのGM−CSF(Thermo Scientific,PMC2015)にて、以前に記載されたように骨髄由来樹状細胞(BMDC)を生成した(Inaba K,Inaba M,Romani N,Aya H,Deguchi M,Ikehara Sら,Generation of large numbers of dendritic cells from mouse bone marrow cultures supplemented with granulocyte/macrophage colonystimulating factor.JExpMed.1992;176:1693-702)。BMDMでは、3日目に付着細胞を洗浄して、7〜8日目の実験までM−CSF含有培地を再供給した。M1分化させるため、細胞を100U/mLのIFNγによって16時間、前処理し、その後、100ng/mLのLPSによって刺激した。M2分化させるため、細胞を10ng/mLのIL−4(Gibco,PMC0046)にて刺激した。BMDCでは、培養3日目にGM−CSFを細胞に再供給した。7日後、付着細胞(富化された樹状細胞群)を、新しい実験用プレートにゆっくりと移した。以前に記載されたように、好中球を、パーコールによる密度勾配分離によってC57/Bl7マウスの骨髄から単離した(Boxio R,Bossenmeyer−Pourie C,Steinckwich N,Dournon C,Nuse O.Mouse bone marrow contains large numbers of functionally competent neutrophils.J Leukoc Biol.2004 Jan 14;75(4):604-11)。簡潔には、100%のパーコール(GE Life Sciences,17−0891−01)(パーコール9部:PBS1部)を、PBSを使用して78%、69%及び52%溶液に希釈して、骨髄を最上層として5mL管中に重層した。1500gで30分間遠心後、78%と69%との境界にある細胞層を単離して、次の試験に使用した。
免疫蛍光染色:カバーグラス上で増殖したBMDMを、30分間、氷冷アセトンで固定し、10%のヤギ血清で室温にて1時間ブロッキングして、1:200比の一次抗体及びErbB4(Santa Cruz,sc−283)と共に一晩培養した。抗原性ペプチドの競合対照を実施して、特異性を確認した。細胞を洗浄し、室温にて1時間、1:1000の二次ウサギ抗マウスAlexafluor−555(Life Technologies)で培養した後、DAPI(Vector Labs,H−1500)を含むVectashield封入剤によって封入した。
リアルタイムPCR:オンカラムでのRNA単離及び精製(OMEGA Biotek)を使用して、細胞及び組織からRNAを収集し、高効率cDNA逆転写酵素キット(Applied Biosystems,4368814)にてcDNAを生成した。発現の定量分析を、TaqManアッセイ(EGFR(Mm01187858_m1)、ErbB2(Mm00658541_m1)、ErbB3(Mm01159999_m1)、ErbB4(Mm01256793_m1)、NRG4(Mm00446254_m1)、IFNγ(Mm01168134_m1)、IL1β(Mm00434228_m1)、TNF(Mm00443258_m1)、IL6(Mm00446190_m1)及びIL12(Mm00434169_m1)、HPRT(Mm03024075_m1)を使用して、Applied Biosystems StepOneサーモサイクラーにて実施した。変化倍率は、2−ΔΔCt法(Livak KJ,Schmittgen TD.Analysis of relative gene expression data using real−time quantitative PCR and.Methods.2001;25(4):402-8)を使用して算出した。結果は、参照遺伝子としてHPRTを使用して、対照群または非治療群と比較した遺伝子発現の平均倍率変化として表す。
ウエスタンブロッティング:細胞及び組織からタンパク質溶解物を収集し、Halt Protease阻害物質カクテル(Thermo Scientific,#1861278)ならびにホスファターゼ阻害剤カクテル2及び3(Sigma,P5726 及び P0044)を含む、RIPA緩衝液中で溶解した(Frey MR,Edelblum KL,Mullane MT,Liang D,Polk DB.The ErbB4 Growth Factor Receptor Is Required for Colon Epithelial Cell Survival in the Presence of TNF.Gastroenterology.2009;136(1):217-26)。タンパク質濃度は、DCタンパク質アッセイ(Bio−Rad,#500)によって測定した。30μgのタンパク質/コンディショニングを、SDS−PAGE(Thermo Scientific,NW0412A)によって分離し、ニトロセルロースメンブレンへ転写した。メンブレンを5%乳でブロッキングし、1:1000のEGFR(Cell Signaling #4267)、1:1000のErbB2(Cell Signaling #2165)、1:1000のErbB3(Cell Signaling #12708)、4℃で一晩の場合には1:1000のウサギ抗ErbB4(Santa Cruz,sc−283)、または室温にて1時間の場合には1:10,000のマウス抗アクチン(Sigma,A1978)を用いて標識し、続いて室温にて1時間、1:10,000のIRDyeをコンジュゲートしたロバ抗ウサギ(LI−COR,#926−68023)及びロバ抗マウス(LI−COR,#926−32212)にて標識し、Odysseyイメージング装置(LI−COR)で定量化した。
マウス細胞の生存率及びアポトーシスのアッセイ:1ウェルにつき細胞40,000個となるように、BMDMを96穴プレートに入れた。細胞を洗浄して、10%の加熱不活化したFBS、100U/mLのペニシリン及びストレプトマイシン、ならびに所与の100U/mLのIFNγを加えたDMEM中で一晩プレート培養した。一部の実験では、更に細胞を、2μg/mLのErbB4中和抗体(Millipore,05−478)(Jay SM,Kurtagic E,Alvarez LM,De Picciotto S, Sanchez E,Hawkins JFら,Engineered bivalent ligands to bias ErbB receptor−mediated signaling and phenotypes.J Biol Chem.2011;286(31):27729-40)で30分間、前処理した後、100ng/mLのNRG4(Reprokine)と共に1時間、続いてLPS(100ng/mL)と共に48時間、培養した。結果に記載されているようにNRG4及びLPSによる治療前に、一部の細胞を、10μMのメタロプロテアーゼ阻害剤GM6001(Tocris,#2983)、10μMのγ−セクレターゼ阻害剤DAPT(Tocris,#2634)または3μMのADAM17阻害剤GW280264X(Aobious,Inc.)にて前処理した。相対的な細胞数を、製造業者の取扱説明書(Promega,G8081)に従って、Cell Titer Blue(レサズリンベースのアッセイ)によって測定した。BMDM中の活性なカスパーゼ−3を分析するため、細胞を氷冷アセトンで30分間、固定し、Alexa Fluor 488(Cell Signaling,#9669)にプレコンジュゲートされたカスパーゼ−3断片に対する抗体と共に4℃で一晩培養した。翌日、細胞をPBSで5分ずつ5回洗浄して、画像撮影した。アポトーシスイベントを累積的に観察するため、本発明者らは、アネキシンV染色により膜ホスファチジルセリンの反転の分析を実施した。治療後の細胞を、アネキシンVアポトーシスキット(Life Technologies,V13241)を使用してアネキシンV及びプロピジウムヨウ化物で染色し、LSR IIフローサイトメーター(BD Biosciences)にて分析した。
ヒト骨髄細胞の一次培養、MDM分化及び細胞生存率:Yale Universityの施設内倫理委員会によって承認及び監視されるプロトコルに従って、インフォームドコンセントを得た。乾癬、SLE、リウマチ様関節炎、多発性硬化症、I型真性糖尿病、クローン病及び潰瘍性大腸炎を含む自己免疫/炎症性疾患の個人歴若しくは家族歴のない健常な個人、またはHIV歴のない健常な個人を募集した。Ficoll−Paque(GE Dharmacon)を使用して、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)を単離した。CD14ポジティブセレクション(Miltenyi Biotec)または接着によって単球をPBMCから精製して、純度を試験し、M−CSF(10ng/mL)(Shenandoah Technology)を加えて、7日間培養し、10%のウシ胎児血清(Sigma−Aldrich)の存在下でMDMに分化させた。MDMを、NRG4あり、またはなしで、100ng/mLのLPS(Sigma−Aldrich)及び20ng/mLのIFN−γ(R&D Systems)(M1分化)または20ng/mLのIL−4(R&D Systems)(M2分化)で刺激した。記載の場合では、Amaxa Nucleofectorテクノロジー(Amaxa,San Diego,CA)を使用して、ErbB4(GE Dharmacon)に対する、100nMのスクランブルしたsiRNA、またはON−TARGETplus SMARTpool siRNA(4種類の商用設計済みsiRNAのプール)を培養液に導入した。アネキシンV(eBiosciences)を用いてフローサイトメトリーによってアポトーシスを検出した。透過性細胞中の細胞内タンパク質を、抗ErbB4(Abcam,ab32375)を用いてフローサイトメトリーによって検出した。
フローサイトメトリー:単一の細胞懸濁液を生成するために、以前に記載されたように、結腸粘膜を単離して、2%の熱不活化FBS、0.2mg/mLのディスパーゼII(Sigma,D4693)、2mg/mLのコラゲナーゼD(Roche,#11088882001)及び0.2mg/mLのDNase I(Sigma,DN25)を含む、100mLのDMEM中にて37℃で30分間、消化した(Punit S,Dube PE,Liu CY,Girish N,Washington MK,Polk DB.Tumor Necrosis Factor Receptor 2 Restricts the Pathogenicity of CD8+T Cells in Mice with Colitis.Gastroenterology.2015;149(4):993-1005.e2)。個体群分析の実験のため、4%のホルムアルデヒドで細胞を固定し、続いて0.01%のサポニンで透過処理した。FACS緩衝液(PBS+1%の熱不活性化FBS)中でFcBlock(BD Biosciences,553142,1:100)と共に15分間、細胞を培養し、続いて抗体F4/80−Alexafluor 488(Life Technologies,MF48020,1:100)、CD11b−APC(Life Technologies,RM2805,1:100)、及びLy6C−BV421(BD Biosciences,562727,1:100)をプレコンジュゲートした蛍光色素分子と共に、30分間培養した。また、モノクローナルErbB4に対する一次抗体(Abcam,ab32375,1:40)と共に30分間、続いて抗ウサギPE(Abcam,A10542,1:100)と共に30分間、細胞を培養した。細胞をLSR IIフローサイトメーター(BD Biosciences)にて分析した。
統計方法:統計解析及びプロットは、Prism(GraphPad Software)を使用して生成した。平均+/−SEMをバーグラフで記述した。多重比較の補正のため、必要に応じて、スチューデントt検定またはANOVA後のTukey事後検定を使用して、統計的差を判定した。統計的有意差は、p<0.05と指定した。
マクロファージの古典的活性化はErbB4の発現を誘発する一方で、代替的活性化はそれを阻害する
ErbB受容体チロシンキナーゼは、その上皮細胞増殖及び遊走での役割について主に研究されてきた。しかしながら、最近の研究で、このファミリーの一部のメンバーはマクロファージを含む免疫細胞にも存在することが明らかになった(TynyakovSamra E,Auriel E,Levy−Amir Y,Karni A.Reduced ErbB4 Expression in Immune Cells of Patients with Relapsing Remitting Multiple Sclerosis.Mult Scler Int.2011;2011:561262、Lu N,Wang L,Cao H,Liu L,Van L,Washington MKら,Activation of the Epidermal Growth Factor Receptor in Macrophages Regulates Cytokine Production and Experimental Colitis.J Immunol.2015;192(3):1013-23)。この受容体ファミリーのうち生化学的に最も異なるメンバーであるErbB4は、炎症した組織中に誘発される(Bernard JK,McCann SP,Bhardwaj V,Washington MK,Frey MR.Neuregulin−4 is a survival factor for colon epithelial cells both in culture and in vivo.J Biol Chem.2012 Nov 16;287(47):39850-8)が、マクロファージ中で役割を有するかどうかについては検討されていなかった。
マクロファージは、様々な炎症性及び抗炎症性機能に加え、組織修復を実行する一連のサブタイプを従えて存在する。マクロファージを、細菌クリアランスに関与する炎症性状態(古典的活性化M1)、または恒常性及び治癒促進性反応に関与する抗炎症性状態(代替活性化M2)へと誘導することで、インビトロでその機能を実験的に評価することができる(Mosser DM,Edwards JP.Exploring the full spectrum of macrophage activation.Nat Rev Immunol.2008;8(12):958- 69)。本発明者らは、骨髄由来マクロファージ(BMDM)を産生して、M1及びM2状態へと分化させ、qPCRによってErbBファミリーメンバーの発現パターンを測定した。インターフェロン(IFN)γ+リポポリサッカリド(LPS)による古典的活性化は、6時間後に10倍のErbB4を誘発した。一方、対照的に、他のErbBファミリーメンバーであるEGFR、ErbB2及びErbB3は全て有意に減少した(図1A)。本発明者らは、IFNγ+LPSによる炎症性活性化の後、継代マクロファージ細胞株、RAW267.01中でのErbB4のmRNAの誘導も観察した(データ示さず)。この反応が炎症性M1活性化に特異的であったかどうかを試験するために、本発明者らは、インターロイキン(IL)−4による、マクロファージのM2状態への代替的分化についても検討した。M2分化は、ErbB4を誘発せず、代わりにErbB4の発現の有意な減少をもたらした(図1B)。これらのデータは、マクロファージ集団の中で、ErbB4は主に炎症性細胞に限られていることを示唆している。
他の自然免疫細胞(樹状細胞及び好中球)も、細菌の細胞膜LPSに反応し得るため(Ling GS,Bennett J,Woollard KJ,Szajna M,Fossati−Jimack L,Taylor PRら,Integrin CD11b positively regulates TLR4−induced signalling pathways in dendritic cells but not in macrophages.Nat Commun.2014;5:3039-51)、ErbB4の誘発が、生来の骨髄性細胞におけるTLR4誘発性シグナル伝達の一般的特徴であるかどうかを、骨髄由来樹状細胞(BMDC)をIFNγ+LPSに曝露する、または骨髄から単離した好中球をLPSに曝露することにより試験した。LPSによって刺激されたBMDCは、異なるプロファイルのErbB調節を示し、ErbB4はこれらの細胞に検出されなかった(図1C)。更に、LPSによって刺激された骨髄から単離された好中球も、ErbB4は検出不能なレベルであった(図1D)。このことは、LPSによるErbB4の誘発は、一般的なTLR4反応よりむしろ、マクロファージに特異的な結果であることを示唆している。
タンパク質レベルでM1マクロファージにErbB4が誘発されることを確認するために、免疫蛍光法及びウエスタンブロット分析を実施した。LPSを攻撃投与されたマクロファージ上の免疫蛍光染色は、形質膜及び細胞内の両方で、ErbB4タンパク質発現の上昇を示した(図1E)。このパターンは、全長形態及びタンパク質分解により切断された細胞内ドメイン(4ICD)形態の受容体両方の発現と一致している(Williams CC,Allison JG,Vidal GA,Burow ME,Beckman BS,Marrero Lら,The ERBB4/HER4 receptor tyrosine kinase regulates gene expression by functioning as a STAT5A nuclear chaperone.J Cell Biol.2004;167(3):469-78)。ErbB4タンパク質の誘発(全長及び4ICDの両方)は、ナイーブとM1マクロファージとの対比(図1F)及びLPS処理されたRAW267.01細胞のウエスタンブロット分析によっても観察された。
ErbB4に特異的なリガンドNRG4は、炎症性マクロファージアポトーシスを誘発する
炎症性マクロファージ生物学におけるErbB4の役割を決定するために、腸組織に発現したErbB4に特異的なリガンドNRG4を使用して、これらの細胞のシグナル伝達を刺激した。48時間の処置後、M2マクロファージではなくM1マクロファージにおいて細胞数の有意な減少を観察した。これは、NRG4がM1マクロファージの増殖または生存を選択的に阻害することを示している(図8A)。マクロファージのLPS活性化が、細胞増殖を停止させることが報告されており、本発明者らはEdU染色によって培養組織内でこのことを確認した。更に、NRG4の有無に関わらず、EdUの取り込み率に変化は見られず、増殖に対する効果は除外された。そこで、ErbB4活性化が細胞死を誘発しているかどうかを検討した。NRG4への曝露により、切断されたカスパーゼ−3の染色に有意な増加が生じた(図8B)。このことは、これらの細胞の末期アポトーシスが進行していることを表す。この反応はErbB4中和抗体による前処理によってブロックされたことから、NRG4−ErbB4結合の必要性を示した。経時的なアポトーシスの累積イベントを評価する、別のアポトーシス指標として、アネキシンV分析を実施した。切断されたカスパーゼ−3の結果と同様に、アネキシンV染色は、NRG4による治療に反応してアポトーシスの有意な増加を示した(図8C)。これらの結果は、炎症性マクロファージ内でのErbB4シグナル伝達の刺激が、これらの細胞の蓄積を制限する機構であることを示唆している。
NRG4により誘発されるマクロファージ死は、プロテアーゼ活性を必要とする
(TACE/ADAM17、続いてγ−セクレターゼによる)ErbB4のリガンド誘導性の2段階タンパク質分解切断は、一部の細胞型で発生する。その結果、生じる可溶性の4ICD細胞内ドメイン断片は、細胞質、核またはミトコンドリアに局在し、細胞挙動を調節し得る(図9A)。特に、乳癌細胞では、4ICDとミトコンドリアとの結合がアポトーシスを刺激するが(Naresh A,Long W,Vidal GA,Wimley WC,Marrero L,Sartor CIら,The ERBB4/HER4 intracellular domain 4ICD is a BH3−only protein promoting apoptosis of breast cancer cells.Cancer Res.2006;66(12):6412-20)、非形質転換細胞において、これは観察されなかった。本発明者らは、プロテアーゼ阻害剤を使用して、この機構がNRG4により誘発されるマクロファージアポトーシスで役割を果たし得るかどうかを試験した。γ−セクレターゼ(DAPT,10μM)、広範なメタロプロテアーゼ活性(GM6001,10μM)またはTACE/ADAM17(GW280264X,3μM)のいずれかの阻害は、NRG4により誘発される細胞死を妨げた(図9B)。この観察と一致して、ErbB4はNRG4による治療後、マクロファージ内のミトコンドリアと共局在した(図9C)。このことは、NRG4の効果が4ICD世代を経て、場合によりミトコンドリアのアポトーシス経路を刺激し得ることを示唆している。
古典的活性化されたヒトマクロファージは、ErbB4を発現し、NRG4刺激に応答してアポトーシスを受ける
ヒト生物学と本発明者らの知見との関連を評価するために、末梢血単核細胞(PBMC)から、マクロファージを産生して分化させ、フローサイトメトリーによりErbB4の発現を評価した。マウス細胞と同様に、ヒトマクロファージの炎症性M1活性化はErbB4の発現を誘発し、ここではフローサイトメトリーによりタンパク質の発現を評価した(図10A)。誘発は、刺激後少なくとも96時間持続した。このことは、リガンドに対する応答能が経時的に維持されることを示唆している。これらの細胞のM2代替的活性化は、ErbB4のレベルに影響を及ぼさなかった(図10A)。マウスでの知見と同様に、NRG4への曝露は、アネキシンV染色により測定されたように、ヒトM1マクロファージの用量依存的アポトーシスを誘発した(図10B)。siRNAによる効果的なErbB4ノックダウン(図10C)は、この反応を阻害し(図10B)、受容体特異性が確認された。本発明者らの知見は、複数種間でのマクロファージ生物学においてErbB4のシグナル伝達軸が果たす保存的な役割を示唆しており、ヒトの健康維持にこのフィードバック機構が潜在的に関連することを裏付けている。
ErbB4は、DSS大腸炎時に誘発され、Ly6C+炎症性マクロファージに発現する
マクロファージで発現したErbB4が、生体内での腸炎症性疾患に役割を果たしているかどうかを判定するために、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)によるマウス大腸炎の実験的モデルにおいて、補充されたマクロファージでErbB4が発現するかどうかを試験した。このモデルで、Ly6C+炎症性マクロファージの流入は、病原性にとって重要である(Axelsson LG,Landstrom E,Goldschmidt TJ,Gronberg A,Bylund−Fellenius AC.Dextran sulfate sodium (DSS) induced experimental colitis in immunodeficient mice:effects in CD4(+)−cell depleted,athymic and NK−cell depleted SCID mice.Inflamm Res.1996;45(4):181-91、Zigmond E,Varol C,Farache J,Elmaliah E,Satpathy AT,Friedlander Gら,Ly6Chi monocytes in the inflamed colon give rise to proinflammatory effector cells and migratory antigen−presenting cells.Immunity.2012;37(6):1076-90)。3%(w/v)のDSSを飲水で4日間、マウスに与え、急性結腸損傷(損傷期)を誘発させ、以降の3日間はDSSを与えなかった(炎症期)。以前に公開済みの知見(Frey MR,Edelblum KL,Mullane MT,Liang D,Polk DB.The ErbB4 Growth Factor Receptor Is Required for Colon Epithelial Cell Survival in the Presence of TNF.Gastroenterology.2009;136(1):217-26)と一致して、単細胞分離された粘膜のフローサイトメトリー分析によって、結腸内のErbB4+細胞が全体的に増加することを確認した(図11A)。また、予測通りに、結腸内のF4/80+/CD11b+マクロファージ数は、7日目の炎症期に有意に増加した(図11B)。これらの細胞でのErbB4の発現の特徴を決定するために、ErbB4に加えて、炎症時に、組織に補充される炎症単球/マクロファージを表すLy6Cについても、F4/80+/CD11b+集団を分析した。炎症期までに、Ly6C+/ErbB4+マクロファージの新規集団が、結腸内に出現した(図11C)。ErbB4+マクロファージの大多数はLy6C+であったため、Ly6C−/ErbB4+集団に有意な変化はなかった。総合すると、これらの結果は、炎症時に結腸に補充された炎症性Ly6C+マクロファージに、ErbB4が発現することを示している。
NRG4はDSS大腸炎によって抑制され、炎症を起こした結腸のマクロファージ量は再投与により減少する
ヒトIBD及びマウス慢性大腸炎では、ErbB4に特異的なリガンドNRG4の発現が消失し、ErbB4シグナル伝達軸が調節不全になる可能性があることを前述した(Bernard JK,McCann SP,Bhardwaj V,Washington MK,Frey MR.Neuregulin−4 is a survival factor for colon epithelial cells both in culture and in vivo.J Biol Chem.2012 Nov 16;287(47):39850-8)。NRG4は結腸間葉に最も顕著に発現するが(Bernard JK, McCann SP,Bhardwaj V,Washington MK,Frey MR.Neuregulin−4 is a survival factor for colon epithelial cells both in culture and in vivo.J Biol Chem.2012 Nov 16;287(47):39850-8)、Feng及びTeitelbaumは、上皮の発現も検出し(Feng Y,Tsai Y,Xiao W,Ralls MW,Stoeck A,Wilson CLら,Loss of ADAM17−Mediated Tumor Necrosis Factor Alpha Signaling in Intestinal Cells Attenuates Mucosal Atrophy in a Mouse Model of Parenteral Nutrition.Mol Cell Biol.2015;35(21):3604-21)、本発明者らは腸細胞及び免疫細胞での発現調節を検出した。このように、NRG4は、結腸の複数の細胞型に由来する可能性が高い。大腸炎でのNRG4の消失が、損傷/炎症サイクル早期の急性進行状態によって引き起こされるかどうかを判定するため、3%(w/v)のDSSを4日間与え(損傷期)、DSS後3日間経つ(炎症期)マウスからの結腸組織を分析した。NRG4の発現は損傷期に減少し、更に炎症期の間も、ダウンレギュレーションが観察された。このことは、NRG4の抑制が、早期に結腸内で発生し、炎症性マクロファージが補充される間、維持されることを示す(図12A)。予測されたように、組織及びマクロファージで誘導される炎症性サイトカイン、TNF、IFNγ、IL1β及びIL−12の増加は、DSS処置以降も観察された(図12A)。以前の報告は、炎症性サイトカインが脂肪細胞内(Wang GX,Zhao XY,Meng ZX,Kern M,Dietrich A,Chen Zら,The brown fat−enriched secreted factor Nrg4 preserves metabolic homeostasis through attenuation of hepatic lipogenesis.Nat Med.2014 Nov 17;20(12):1436-43)、または腸内(Feng Y,Tsai Y,Xiao W,Ralls MW,Stoeck A,Wilson CLら,Loss of ADAM17−Mediated Tumor Necrosis Factor Alpha Signaling in Intestinal Cells Attenuates Mucosal Atrophy in a Mouse Model of Parenteral Nutrition.Mol Cell Biol.2015;35(21):3604-21、Feng Y,Teitelbaum DH.Epidermal growth factor/TNF−α transactivation modulates epithelial cell proliferation and apoptosis in a mouse model of parenteral nutrition.Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol.2012;302(2):G236-49)でのNRG4の発現を阻害し得ることを示唆した。これらの観察結果と一致して、TNFとNRG4との間に有意な負の相関(r=−0.421、p=0.02)が見られた(図12B、C)。これらの観察結果は、結腸炎症の開始時に、NRG4の発現の阻害が急性的に発生することを示しており、IBDにおいてNRG4が消失することを示した本発明者らの先の研究を強化するものである。更に、これらの知見は、NRG4の発現がTNFによって直接、またはTNFを誘発する同じ病原性プロセスによって抑制され得ることを示唆している。
大腸炎時にNRG4の交換により、マクロファージ集団が治療的に変化するかどうかを試験するために、マウスにDSSを与え、大腸炎が確定された後、4日目〜7日目のマクロファージ流入が最大である期間にNRG4(100μg/kg)を毎日腹腔内注射して治療した(図11B)。NRG4治療により、DSSにより誘発された体重減から回復し(図12D)、マクロファージにより発現された炎症性サイトカインTNF、IL6及びIFNγのレベルが低下し(図12E)、大腸短縮及び下痢が改善された(図12F)。F4/80HI/CD11bHI細胞の結腸単一細胞懸濁液のフローサイトメトリー分析は、本発明者らのインビトロでの観察と一致し、NRG4治療が結腸組織においてマクロファージ数を36%減少させることを示した(図12G、H)。したがって、確定された急性大腸炎において治療的に与えられた場合、NRG4は結腸でのマクロファージ数を減少させ、疾患を改善する。
炎症の調節不全はIBDを含めた多くの慢性疾患の根源的な特徴である。一過性の損傷及び外来性微生物との相互作用が頻繁である腸管においては、組織炎症を急速かつ攻撃的に開始し、攻撃対象を効果的に消失させる必要があるが、宿主損傷及び慢性を防止するために効率的に緩和されることも必要である。したがって、抗炎症フィードバック機構は、恒常性を維持するために炎症性反応を速やかに終結させなければならない。本明細書で本発明者らは、ErbB4のシグナル伝達がこのような機構の一例を示すという新規の知見を報告している。これは、炎症性マクロファージ死による結腸炎症の消散を促進する、数少ない既知の組織由来シグナルの1つである。
マクロファージは、腸内炎症の重要な媒介因子である。炎症性Ly6C+マクロファージは、適応免疫応答の補充及び活性化を調製し、上皮損傷及びバリア機能の喪失をもたらし得る炎症因子(TNF、IFNγ、IL−1β、IL−12)を攻撃的に分泌する。したがって、異常な、または慢性の炎症を防止するためには、これらの細胞の厳密な制御が必要である。動物モデルでは、血流から補充されたLy6C+マクロファージが炎症を増強する。このことは、過敏性反応が疾患の一因となり得ることを示唆している。対照的に、組織常在性マクロファージ集団(CX3CR1 +)は抗炎症シグナルを統合して、分泌することにより、腸炎を予防し、組織の修復及び回復を促進する。マクロファージ集団における、サブセットに特異的な調節機構を特定することは、これらの集団の治療的な利用に向けた重要なステップである。本発明者らの結果は、ErbB4がナイーブまたは抗炎症性のマクロファージではなく、Ly6C+炎症性マクロファージの細胞生存を特異的に制限する、重要なシグナル伝達経路であることを示している(図8)。
このデータは、マクロファージの炎症性活性化がErbB4受容体の強固な発現を誘発すること、及び急性大腸炎が、ErbB4を発現するマクロファージの補充と関連することを示している(図1及び図11)。近年、数多くの研究報告で、従来、上皮細胞機能の調節への関与が示唆されていた増殖因子受容体、例えばEGFR/ErbBファミリーメンバー、FGFR及びIGF−Rなどが、造血細胞系統にも発現することが明らかにされた。しかしながら、現在まで、その発現を調節するもの、またはErbB受容体が免疫細胞において果たす役割については、ほとんどわかっていない。増殖因子シグナルは、上皮内での確立された増殖促進機能及び生存機能と比べて、免疫細胞内では極めて異なる機能を実行し得る。しかしながら、マクロファージサブタイプの発現、マクロファージ生物学におけるErbB4の機能的役割、及び結腸マクロファージでのErbB4の発現は、現在まで特定されていなかった。
マクロファージ内のErbB4シグナル伝達が細胞死を導くという知見は、非形質転換細胞に関する以前の研究において、主に生存促進性の役割が観察されたという点で予想外に思われるだろう(Maatta JA,Sundvall M,Junttila TT,Peri L,Laine VJO,Isola Jら,Proteolytic cleavage and phosphorylation of a tumor−associated ErbB4 isoform promote ligand−independent survival and cancer cell growth.Mol Biol Cell.2006;17(1):67-79、Kang HG,Jenabi JM,Zhang J,Keshelava N,Shimada H,May WAら,E−cadherin cell−cell adhesion in Ewing tumor cells mediates suppression of anoikis through activation of the ErbB4 tyrosine kinase.Cancer Res.2007;67(7):3094-105;Bernard JK,McCann SP,Bhardwaj V,Washington MK,Frey MR.Neuregulin−4 is a survival factor for colon epithelial cells both in culture and in vivo.J Biol Chem.2012 Nov 16;287(47):39850-8)。乳癌細胞でのErbB4に対するアポトーシス反応は以前に観察されていたが、本発明者らの知見はマクロファージについての類似の機構に関わり得るものである。マクロファージ(図9)及び乳癌細胞いずれの場合にも、受容体の切断及び4ICD細胞内シグナル伝達断片の産生を示す可能性が高い、ニューレグリンで刺激されるアポトーシスに、タンパク分解活性が必要であると思われる。NRG4治療されたマクロファージでは、免疫染色パターンが、ミトコンドリアに対する4ICDの局在と一致しており、ミトコンドリア媒介性アポトーシスが作用様式であり得る(図9C)。相対的な受容体のレベルが役割を果たしているか、または4ICDの局在性を調節する細胞内シャペロンの発現差(細胞質、核、ミトコンドリアの対比)が関与している場合がある。更に、ErbB4は、シグナル伝達結果の差の一因となり得る複数のスプライス変異体を有する。例えば、細胞質ドメインの変異体CYT1は、PI3Kシグナル伝達を誘発するSH2結合部を有し、これに対してCYT2変異体は有しない。Eleniusのグループは、繊維芽細胞を使用して、アイソフォームの特異的反応を比較し、代替的状況下で、ErbB4が細胞生存または細胞死のいずれをも促進できることを示した。マクロファージのシグナル伝達結果における、スプライシング、環境的状況及び他の相互作用経路の相対的役割を評価するため、更なる研究が必要である。
マクロファージによって発生する自然炎症は、主に自己制限プロセスと考えられてきた。しかしながら、粘膜炎症の消散は活性プロセスであることが明らかになりつつある。したがって、炎症の消散する機構を理解することが、この分野の重要な課題として浮上した。マクロファージのクリアランスを誘導する機構は、よく理解されていない。慢性炎症において、これらの細胞は循環からの補充によって継続的に補給され、フィードフォワードループを生成し得る。慢性炎症の一因となり得る1つの態様は、これらの細胞の適切な自己終結の不全である。大腸炎では、NRG4の発現が阻害され、ErbB4のシグナル伝達回路が不完全、または変更されることになる。本明細書で、本発明者らは、NRG4のこの消失が急性大腸炎モデルの早期に発生すること、及びNRG4レベルがTNF発現と負に相関していること(図12)を示すことによって以前の知見を強化した。DSS大腸炎の損傷が誘発された後、消失したNRG4を外因性投与によって補充し、この回路を終結することにより、炎症が有意に減衰し、結腸マクロファージ数が減少した(図12)。ErbB4の発現は、骨髄由来の樹状細胞及び好中球で検出されなかった(図1)。マクロファージは、ErbB4の発現が検出された唯一の骨髄細胞であることから、本発明者らのNRG4レスキュー実験の結果と合わせて、この知見は、マクロファージのErbB4シグナル伝達が大腸炎の抗炎症フィードバック機構であるという見解を裏付ける。NRG4のダウンレギュレーションが、攻撃に対する最大限の自然免疫応答のために必要であり得、再発現の不全は慢性大腸炎の一因となり得る可能性がある。将来の研究によって、結腸でのNRG4の主要な細胞源及びNRG4の発現を調節する方法を特定することにより、慢性大腸炎の原因である可能性がある機構に対する洞察が得られるであろう。更に、マクロファージは免疫応答の発生を形成する初期の応答細胞であるため、マクロファージでのErbB4の消失が、大腸炎の発生及び消散に関与し得る方法で、適応免疫にどのような影響を与え、微生物相などの局在化因子を潜在的に変化させるかを理解するには、長期のインビボ研究が必要となる。
要約すると、本発明者らのデータは、炎症時に、ErbB4がフィードバック阻害の様式として、マクロファージに誘発されることを示している。ErbB4の活性化は、炎症性マクロファージのクリアランスを誘発し、回復を促進する。NRG4の外因性投与、またはこれらの細胞でのErbB4シグナル伝達を活性化する他の方法を特定することは、IBD患者及び慢性のマクロファージ依存的炎症を有する他の患者の疾患を緩和するための有望な手法である。更に、異なる細胞型では、ErbB4のシグナル伝達が正反対の役割をすること、即ち、マクロファージのアポトーシスを誘導する一方で、上皮の生存を支援することは、損傷及び炎症に対して、ErbB4のシグナル伝達が協調的な回復促進の役割を果たすことを示唆している。
本発明の各種実施形態は上述した通りである。これらの記述は上記の実施形態を直接説明しているが、本明細書に記載されかつ説明される具体的な実施形態に対して、当業者は改変及び/または変形例を考案し得ることが理解される。本記述の範囲内に含まれる、いかなるこのような改変及び/または変化も同様にその中に含まれることが意図される。特に記載のない限り、本明細書及び特許請求の範囲における単語及び用語は、当技術分野の当業者にとって、通常及び使い慣れた意味を与えられることを本発明者らは意図する。
本発明の各種実施形態に関する前述の記述は、本出願の提出時点で本出願人に既知であるものを提示しており、例示及び説明目的を意図したものである。本発明の記載は、網羅的であることも、開示された厳密な形態に本発明を限定することも意図しておらず、上記の教示に照らして多くの改変及び変形例が可能である。記載された実施形態は、本発明の原理及びその実際の適用を説明するため、かつ、当業者が、企図される特定の用途に適合するように、各種実施形態に及び各種改変を加えて本発明を利用できるようにするために有用である。したがって、本発明は本発明を実施するために開示された特定の実施形態に限定されるものではないことが意図される。
本発明の特定の実施形態を提示及び記載したが、本明細書の教示に基づいて、本発明及びそれよりも広い態様から逸脱することなく、変更及び改変を行えることは当業者に明らかであろう。一般に本明細書で使用される用語は、通常「開放的」用語であること(例えば、用語「including」は「を含んでいるが、限定されない」と解釈されるべきであり、用語「having」は「少なくとも有する」と解釈されるべきであり、用語「includes」は「含むが、限定されない」と解釈されるべきであるなど)を意図することを当業者は理解されよう。