JP6911472B2 - 薄層化無機層状化合物の製造方法 - Google Patents

薄層化無機層状化合物の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、薄層化無機層状化合物の製造方法に関する。
従来、黒鉛、六方晶窒化ホウ素、二硫化モリブデン、及び窒化炭素等の無機層状化合物が知られている。無機層状化合物の変性物の例として、特許文献1には、所定の酸化度(酸素含有量)、電気伝導率及び熱伝導率を有する酸化グラフェンが開示されている。
特開2016−199434号公報
しかし、従来の無機層状化合物又は上記酸化グラフェン等の無機層状化合物の変性物は、有機溶剤等の媒体に分散させて微粉化させようとしても、その多くが凝集して媒体中に沈殿してしまい、安定した分散液を得ることが困難であることを本発明者らは見出した。
そこで本発明の目的は、有機溶剤等の媒体中で微細に分散させることが可能な、薄層化無機層状化合物の製造方法を提供することにある。
本発明は、有機化合物が付着した薄層化無機層状化合物の製造方法であって、薄層化前の無機層状化合物、該無機層状化合物に付着する有機化合物及びこれらの分散媒を含む分散液にせん断力を付与し、該無機層状化合物に該有機化合物を付着させながら薄層化を行う、製造方法を提供する。
無機層状化合物は、有機化合物と比較して耐熱性に優れ、層間の相互作用が生じにくい。そのため、無機層状化合物は、有機樹脂における機械特性又は耐熱性の向上剤、又は潤滑剤等として使用されてきた。さらに、2004年、アンドレ・ガイムとコンスタンチン・ノボセロフにより、テープ剥離により黒鉛からグラフェンを製造する方法が報告されて以来、無機層状化合物を薄層化した、薄層化無機層状化合物が有する優れた物理特性(導電性、熱導電性、機械特性、高比表面積、及び透明性等)が着目され、薄層化無機層状化合物を産業上応用するための研究開発がなされている。
薄層化無機層状化合物を有機樹脂に添加する際には、微粉化させることが好ましい。薄層化無機層状化合物の微粉末を得る方法としては、例えば、無機層状化合物を有機溶剤に分散させる方法があり、薄層化無機層状化合物を有機溶剤に微分散させるためには、超音波照射を行う方法が考えられる。しかし、この方法においては長時間の超音波照射が必要であることに加え、薄層化無機層状化合物の分散状態を長時間保つことが困難であり、再凝集が起こりやすい。また、薄層化無機層状化合物として酸化グラフェンを使用した場合、酸化グラフェンは、エタノール又はイソプロパノール(IPA)等のアルコール系溶媒には分散するものの、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の有機溶剤には分散しにくい。そのため、無機層状化合物の微粉末を得るために使用できる有機溶剤が制限される。
本発明の製造方法は、上記のような問題点を解決するものであり、無機層状化合物に有機化合物を付着させながらせん断力を付与しつつ薄層化するものであることから、得られる薄層化無機層状化合物を、有機溶剤等の媒体中で微細に分散させることが可能になる。また、微細に分散された薄層化無機層状化合物は、有機物が付着しておりまたサイズが微細なため、有機樹脂等のバインダー樹脂への添加が容易であるのみならず、分散性が非常に優れることから、得られる樹脂の物理的・化学的特性が向上する。
せん断力は、好ましくは、対向する2の部材間に分散液を存在させた状態で、部材間の間隔が保持されるようにして、部材の少なくとも一つを移動させることにより付与される。これにより、得られる薄層化無機層状化合物を有機溶剤等の媒体中で微細に分散させることが可能となり、有機樹脂等のバインダー樹脂に添加した場合の樹脂の特性を更に高めることが可能となる。
部材の一つを、貫通孔が形成された多孔体とし、貫通孔を通過させることで、部材間に分散液を提供し、部材間の間隔が保持されるようにして、部材の少なくとも一つを移動させることにより、せん断力を付与してもよい。この場合、貫通孔が形成されている多孔体の貫通孔に、分散液を通過させた直後に、通過方向に略垂直に分散液に対してせん断力を付与させることができる。分散液を部材の貫通孔に通過させてからせん断力を付与することにより、せん断応力を更に高めることができる。このために、得られる薄層化無機層状化合物は、有機溶剤等の媒体中でさらに微細に且つ安定的に分散される。
他の態様として、部材をいずれも、非多孔体とし、部材間に分散液を流通させながら、部材間の間隔が保持されるようにして、部材の少なくとも一つを移動させることにより、せん断力を付与させるようにしてもよい。この場合、部材が相対的に反対方向に変位し、その部材の間で分散液が流動するために、せん断応力を高めることができる。このために、得られる薄層化無機層状化合物は、有機溶剤等の媒体中でさらに微細に且つ安定的に分散される。
本発明の製造方法においては、分散液のせん断応力が5Pa以上となるように、せん断力を付与することが好ましい。これにより、無機層状化合物の薄層化を効率よく行うことができ、また十分なサイズへの微粉化が可能になる。
有機化合物は、好ましくは、有機過酸化物及びアゾ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、せん断力の付与は、好ましくは、有機化合物がラジカルを発生させる条件で行われる。これにより、有機過酸化物及びアゾ化合物から発生するラジカルが無機層状化合物に固定化し、薄層化が進みやすくなる。
薄層化の後に、分散体と同一又は異なる分散媒中で、分散体に超音波を照射することもできる。これにより、有機樹脂への添加に適した薄層化無機層状化合物の微粉末を効率よく得ることができる。また、得られた微粉末は、有機樹脂に対する分散性も優れている。
本発明によれば、有機溶剤等の媒体中で微細に分散させることが可能な、薄層化無機層状化合物の製造方法を提供することができる。
以下、本発明の実施形態を説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
本実施形態に係る薄層化無機層状化合物の製造方法は、薄層化前の無機層状化合物と、この無機層状化合物に付着する有機化合物と、これらの分散媒体を含む分散液にせん断力を付与し、無機層状化合物に有機化合物を付着させながら薄層化を行う方法である。
ここで、「有機化合物が付着した薄層化無機層状化合物」とは、有機化合物が固定化された薄層化無機層状化合物をいう。固定化された形態としては、有機化合物が物理的な相互作用により薄層化無機層状化合物に固着している形態、有機化合物が化学的反応により薄層化無機層状化合物に結合している形態が挙げられる。
薄層化前の無機層状化合物(以下、単に「無機層状化合物」ともいう。)は、層状構造を有する無機化合物である。無機層状化合物は、黒鉛(グラファイト)、グラフェン、酸化グラフェン、二硫化モリブデン、窒化ホウ素、窒化炭素、粘度鉱物、又は層状遷移金属酸化物等であってよい。無機層状化合物は、コスト的に有利なことから、好ましくは黒鉛である。黒鉛は、α黒鉛であってもβ黒鉛であってもよい。また、黒鉛の層間の空隙には電子供与体又は電子受容体元素がインタカレートされていてもよい。適用可能な黒鉛を例示すれば、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、人造黒鉛、又は炭素層の層間に硫酸等がインタカレートした膨張黒鉛が挙げられる。
無機層状化合物の代表例である黒鉛は、炭素原子がSP結合で六角形格子状に平面状に繋がった単層が積層した構造を有しており、積層数としては、数百〜数千層が一般的である。上記単層が1層からなるものはグラフェンと呼ばれているが、単層が数層〜100層程度のものも、グラフェンと慣用的に呼ばれる場合がある。
薄層化無機層状化合物は、無機層状化合物から層の一部を取り出したものをいい、薄層化前の積層数未満、1層以上であればよい。薄層化無機層状化合物は、薄層化前の無機層状化合物の層数の1/10以下の層数を有することが好ましく、10層以下であることがより好ましい。黒鉛又はグラフェンを薄層化する場合、上述した単層が1〜数十層になるように薄層化することが好ましく、10層以下とすることがより好ましい。
無機層状化合物の平均粒径は、0.05μm以上であってよく、せん断力が印加できる大きさであれば平均粒径の上限は特に制限されない。ただし、薄層化後の薄層化無機層状化合物が、有機溶剤、有機樹脂へ微分散しやすくなるように、300μm以下であることが好ましい。平均粒径は、レーザ回折・散乱法によって測定される。
無機層状化合物に付着する有機化合物は、好ましくは、加熱によって活性ラジカルを発生する化合物である。有機化合物は、好ましくは、有機過酸化物及びアゾ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
有機過酸化物は、ジアシルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステル、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、又はシリルパーオキサイドであってよい。
ジアシルパーオキサイドは、イソブチルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、スクシニックパーオキサイド、ベンゾイルパーオキシトルエン、ベンゾイルパーオキサイド、トルオイルパーオキサイド等であってよい。ジアルキルパーオキサイドは、α,α’ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、又はt−ブチルクミルパーオキサイド等であってよい。
パーオキシジカーボネートは、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシメトキシパーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシルパーオキシ)ジカーボネート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、又はジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネート等であってよい。パーオキシエステルは、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオエデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノネート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノネート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノネート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシアセテート、又はジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサヒドロテレフタレート等であってよい。
パーオキシケタールは、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、又は2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)デカン等であってよい。ハイドロパーオキサイドは、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、又はクメンハイドロパーオキサイド等であってよい。シリルパーオキサイドは、t−ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、ビス(t−ブチル)ジメチルシリルパーオキサイド、t−ブチルトリビニルシリルパーオキサイド、ビス(t−ブチル)ジビニルシリルパーオキサイド、トリス(t−ブチル)ビニルシリルパーオキサイド、t−ブチルトリアリルシリルパーオキサイド、ビス(t−ブチル)ジアリルシリルパーオキサイド、又はトリス(t−ブチル)アリルシリルパーオキサイド等であってよい。
アゾ化合物は、2,2’−アゾビス(イソブチルニトリル)、2,2’−アゾビス[N−2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミジン]、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)等であってよい。アゾ化合物は、好ましくは、N−カルボキシアルキルアミジン骨格を有する化合物であり、例えば、2,2’−アゾビス[N−2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]である。
無機層状化合物と有機化合物とを含む分散液を構成する分散媒は、特に制限されない。水、NMP、ポリエチレングリコールは、一般的な溶媒で入手しやすく、安価なため好ましい。また、分散媒に分散剤又は増粘材を添加すると、微分散がしやすくなるため好ましい。
分散液中の無機層状化合物の含有量は、分散液全体にせん断力が付与される粘度となる含有量であれば特に限定されないが、好ましくは70質量%以下である。70質量%以下であれば、せん断力を十分に付与することができる。
せん断力の付与は、対向する2の部材間に分散液を流通させた状態で、部材間の間隔が保持されるようにして、部材の少なくとも一つを移動させることにより付与されるとよい。部材の形状は限定されず、板状であってよいし、円筒状であってもよい。板状部材を用いる場合は、例えば一方の板状部材を他の板状部材と所定の間隔を設けて並行に配置し、これらの一方を並行方向に移動させるか、両方を相互に反対方向に移動させればよい。円筒状部材を用いる場合は、一方の円筒状部材を他の円筒状部材の内部に同心円状に所定の間隔を設けて配置させ、これらの一方を回転させるか、両方を相互に反対方向に回転させればよい。2の部材間の間隔は、せん断力を付与する無機層状化合物の大きさ以上であって、且つ所望のせん弾力が印加されれば特に限定されないが、間隔が小さいほど部材の移動に伴い発生するせん弾力が大きくなるため好ましい。2の部材間の間隔は、好ましくは5mm以下であり、より好ましくは2mm以下であり、更に好ましくは1mm以下である。
2の部材はいずれも非多孔体であってよいが、2の部材のうちの一つは、貫通孔が形成された多孔体とすることができる。多孔体に形成された貫通孔に分散液を通過させることにより、2の部材間に分散液を提供し、その直後に2の部材間に存在する分散液にせん断力を付与することにより、せん断応力を高めることができる。多孔体の形状は限定されず、板状多孔体であってよく、円筒状多孔体であってもよい。
部材が板状多孔体である場合、この板状多孔体と板状非多孔体とを所定の間隔を保って平行に配置し、板状多孔体の貫通孔を通して、2つの板状体の間の間隙に分散液を提供する。間隙に分散液が提供されると同時に、2つの板状体の変位が生じるために、分散体に対してせん断力が付与される。なお、せん断力を更に高めるために、板状非多孔体は、板状多孔体に対向する面に凹凸が形成されていてもよい。
部材が円筒状多孔体である場合、この円筒状多孔体の外側に、円筒状非多孔体を配置する。このとき、円筒断面が同心円状になるように2の部材を配置する。そして、円筒状多孔体の内面側から、円筒状非多孔体に対向する面側に向けて、貫通孔を通して分散液を提供し、両部材の間の間隙に分散液を存在させた状態で、2つの部材のうちの少なくとも一方を回転させて、分散体に対してせん断力を付与する。なお、せん断力を更に高めるために、円筒状非多孔体は、円筒状多孔体に対向する面に凹凸が形成されていてもよい。
上記いずれの場合も、多孔体の貫通孔に分散液を通過させた直後に、通過方向に略垂直にせん断力が付与される。なお、通過方向に対して90°±5°程度であれば略垂直とみなすことができる。
2の部材をいずれも非多孔体とし、この部材間に分散液を流通させながら、部材間の間隔が保持されるようにして、部材の少なくとも一つを移動させることにより、分散液にせん断力を付与してもよい。相対的に変位する2つの部材の間の間隙に分散体を流通させることから、高いせん断力が分散液に付与される。この場合において、2つの板状非多孔体を並行に配して、せん断力の付与を行っても、2つの円筒状非多孔体を、円筒断面が同心円状になるように配置して、せん断力の付与を行ってもよい。2つの部材の間の間隙への分散体の導入は、部材の端面から行うことができる。
2つの円筒状非多孔体を用いる装置としては、例えば、Holl Partners LLC製のHoll−Reactorが挙げられ、円筒状多孔体と円筒状非多孔体を用いる装置としては、プライミクス株式会社製のフィルミックス30型が挙げられる。これらは一般的に薄膜旋回型高速ミキサーと呼ばれる。Holl−Reactorは、中空円筒状の撹拌槽内に所定の間隔を設けて非多孔体の円筒状部材を有している。分散液が撹拌槽と円筒状部材との間に投入され、円筒状部材が高速回転することにより、分散液の表面と撹拌槽の内面との相対速度差によるずれによって、分散液にせん断力が付与される。また、フィルミックス30型は、撹拌槽内に、多孔体として、貫通孔が形成されている円筒部を有している。分散液が円筒部の内側より投入され、円筒部が高速回転すると、遠心力により円筒部の内側から外側へ分散液が押し付けられて、貫通孔を通過する。貫通孔を通過した分散液は撹拌槽の内面に密着しながら回転するが、このとき、分散液の表面と撹拌槽の内面との相対速度差によるずれによって、貫通孔の通過方向に略垂直にせん断力が付与される。
薄膜旋回型高速ミキサーを使用する場合のずり速度は、好ましくは10m/s以上、より好ましくは30m/s以上、更に好ましくは50m/s以上であってよい。撹拌速度が20m/s以上であると、無機層状化合物の薄層化を効率よく行うことができる。ずり速度の上限は特に限定されないが、高速になるほど発熱が激しくなり、溶媒の沸点を超えてくるため、装置の冷却能力に応じて適宜設定される。
分散液は、せん断力の付与の際に流動するエネルギーが熱エネルギーに変換されるため、加熱されてよい。分散液が加熱されることにより、有機化合物がラジカルを発生させて、無機層状化合物に更に付着しやすくなる。分散液はせん断力の付与前に予め加熱されていてもよい。
分散液の処理温度は、使用する過酸化物、アゾ化合物の半減期温度に応じて適宜設定される。ラジカル発生反応を効率よく生じさせるためには、10時間半減期温度の5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることが更に好ましい。また、分散液の処理温度は、10時間半減期温度の60度以下で処理することが好ましい。処理温度が60℃以下であれば、副反応が起こりにくくなり、且つ、アゾ化合物の場合、急激な発泡が抑制される。
分散液のせん断応力は、好ましくは5Pa以上であり、より好ましくは30Pa以上であり、更に好ましくは100Pa以上であり、特に好ましくは500Pa以上である。なお、せん断応力(F)は、以下の式(1)により算出することができる。
F=η×v÷t (1)
[式(1)中、ηはせん断流粘度であり、分散液の粘度(Pa・s)を表す。vは分散液のずり速度(m/s)、tはせん断応力付与時の分散液の厚み(m)を表す。]
本実施形態に係る製造方法によって製造された薄層化無機層状化合物は、有機化合物が付着しているため、有機溶剤中で凝集しにくく、微細に分散させることができる。
本実施形態においては、薄層化無機層状化合物の微粉末を得るために、薄層化無機層状化合物を有機溶剤と共存させて超音波を照射する工程を更に備えてもよい。すなわち、薄層化無機層状化合物を有機溶剤中に分散させた後、超音波を照射し、その上澄み液を採取し、有機溶剤を揮発させることで、薄層化無機層状化合物の微粉末を得ることができる。
有機溶剤は、上述した分散媒と同一でも異なっていてもよく、NMP等の極性溶媒、又は、トルエン等の非極性溶媒であってよい。
本実施形態に係る方法により薄層化無機層状化合物の微粉末を製造すれば、得られた微粉末は有機樹脂への分散性が優れ、有機樹脂中で凝集しにくいものとなる。
本実施形態に係る方法により製造された薄層化無機層状化合物の微粉末は、例えば、有機樹脂における機械特性又は耐熱性の向上剤、又は潤滑剤等として使用することができる。有機樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、ポリアミドイミド樹脂等であってよい。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
無機層状化合物としての天然鱗片状黒鉛(XD100、平均粒径250μm、伊藤黒鉛工業株式会社製)0.15gと、有機化合物としてのトルオイルパーオキサイド(ナイパーBMT、日油株式会社製)1.15gとを、分散媒としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP、室温粘度約2mPa・s)10gに分散させて分散液を調製した。分散液を高速撹拌装置(フィルミックス30型、プライミクス株式会社製)に投入し、処理温度40℃にて30分間撹拌した。このときのせん断応力は、5MPa(処理速度10m/s、分散液厚み2mm)であった。処理後の分散液を、ポリテトラフルオロエチレン製フィルターを用いて、300mLの水で洗浄し、その後更に100mLのアセトンで洗浄・ろ過した。残渣を70℃で3時間乾燥させることにより、有機化合物が付着した薄層化無機層状化合物を得た。
(実施例2)
実施例1において、トルオイルパーオキサイドに代えて、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン(パーヘキサ25Z、日油株式会社製)1.15gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして薄層化無機層状化合物を得た。
(実施例3)
実施例1において、トルオイルパーオキサイドに代えて、2,2’−アゾビス(イソブチルニトリル)(和光純薬株式会社製)0.8gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして薄層化無機層状化合物を得た。
(実施例4)
実施例1において、トルオイルパーオキサイドに代えて、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン](和光純薬株式会社製)1.7gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして薄層化無機層状化合物を得た。
(実施例5)
実施例4において、鱗片状黒鉛を、平均粒径25μmの天然鱗片状黒鉛(青島田庄石墨有限公司製)に変更した以外は、実施例4と同様にして薄層化無機層状化合物を得た。
(実施例6)
実施例4において、鱗片状黒鉛に代えて、平均粒径2.4μmのグラフェン(GNH−XZ、グラフェンプラットフォーム株式会社製)に変更した以外は、実施例4と同様にして薄層化無機層状化合物を得た。
(比較例1〜3)
比較例1〜3においては、実施例1、実施例5、及び実施例6で用いた無機層状化合物を、そのまま用いた。
(積層数の測定)
実施例1〜6及び比較例1〜3の薄層化無機層状化合物又は無機層状化合物について、X線回折装置(EMPYREAN、PANALYTICAL社製)を用いて、広角X線回折法測定から求めた結晶子サイズと面間隔から積層数を算出した。具体的には、層構造に対応する002面に対応する2θピーク(26°付近)から面間隔を、以下の式(2)に示すシェラーの式及び式(3)により結晶子サイズを求めた。結果を表1及び表2に示す。
結晶子サイズ(nm)=Kλ/βcosθ (2)
β=βe−βo (3)
[式(2)及び式(3)中、K=0.9、λ=0.15406、βe:回折ピークの半値幅、βo:半値幅の補正値(0.07°)を表す。]
(付着量の評価)
実施例1〜6及び比較例1〜3の薄層化無機層状化合物又は無機層状化合物について、熱重量測定(TG−DTA)により有機化合物の付着量を評価した。有機化合物の付着量については、昇温速度10℃/min、窒素雰囲気下、温度範囲30〜800℃の条件で熱重量測定を行い、以下の式(4)により算出した。結果を表1及び表2に示す。
付着量(質量%)=(B−A)/B×100 (4)
[式(4)中、Aは薄層化無機層状化合物の600℃における熱分解後の残存率を、Bは薄層化前の無機層状化合物の600℃における熱分解後の残存率を示す。]
(有機溶剤に対する分散性の評価)
実施例1〜6及び比較例1〜3の薄層化無機層状化合物又は無機層状化合物5mgを、10mLのNMP又はトルエン中に添加し、42kHzで30分間、超音波を照射した。超音波照射後、上澄み液を採取し、乾燥後の質量を秤量することにより上澄み液中に含まれる薄層化無機層状化合物(無機層状化合物)の質量を秤量した。比較例1〜3の無機層状化合物と比較して、質量が増加した場合を「○」、質量変化が見られない場合、若しくは質量が減少した場合を「×」として評価した。結果を表1及び表2に示す。
Figure 0006911472
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表1に示すように、実施例1〜6における、有機化合物が付着した薄層化無機層状化合物においては、NMP又はトルエンの少なくとも一方の有機溶剤に対する分散性が向上しており、比較例1〜3の無機層状化合物と比較して、有機溶剤への分散性が向上した。
本発明は、有機溶剤中で微細に分散させることが可能な薄層化無機層状化合物を製造することが可能となり、薄層化無機層状化合物の微粉末を効率よく製造することが可能となる。

Claims (6)

  1. 有機化合物が付着した薄層化無機層状化合物の製造方法であって、
    薄層化前の無機層状化合物、該無機層状化合物に付着する有機化合物及びこれらの分散媒を含む分散液にせん断力を付与し、該無機層状化合物に該有機化合物を付着させながら薄層化を行い、
    前記有機化合物は有機過酸化物及びアゾ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
    前記せん断力の付与は、前記有機化合物がラジカルを発生させる条件で行われる、製造方法。
  2. 前記せん断力は、
    対向する2の部材間に前記分散液を存在させた状態で、前記部材間の間隔が保持されるようにして、前記部材の少なくとも一つを移動させることにより付与される、請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記部材の一つは、貫通孔が形成された多孔体であり、
    前記貫通孔を通過させることで、前記部材間に前記分散液を提供し、
    前記部材間の間隔が保持されるようにして、前記部材の少なくとも一つを移動させる、請求項2に記載の製造方法。
  4. 前記部材はいずれも、非多孔体であり、
    前記部材間に前記分散液を流通させながら、前記部材間の間隔が保持されるようにして、前記部材の少なくとも一つを移動させる、請求項2に記載の製造方法。
  5. 前記分散液のせん断応力が5Pa以上となるように前記せん断力を付与する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
  6. 前記薄層化の後に、前記分散媒と同一又は異なる分散媒中で、分散媒に超音波を照射する、請求項1〜のいずれか一項に記載の製造方法。
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