以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は好ましい例示であり、本発明はこの例示に限定されるものではない。
図1は、一実施形態における立体造形用データ生成プログラムにより生成された立体造形用データを用いて立体物を造形する立体造形装置10が動作する環境の構成図である。
立体造形装置10は、USBポートやパラレルポート等を介してプリンタサーバ20に接続されており、プリンタサーバ20との間でデータの送受信が可能である。プリンタサーバ20は、一般的なプリンタサーバと同様に、立体造形装置10に対するプリントジョブの管理及び制御を行うコンピュータであり、ネットワーク30に接続されている。ネットワーク30は、有線又は無線の通信網である。端末40は、立体造形装置10を利用するコンピュータであり、立体造形用データ生成プログラムは端末40の内部に実装されている。端末40は、立体物の造形を行う際に、プリント要求(造形要求)とともに、この立体物を造形する上で用いられる立体造形用データをネットワーク30を介してプリンタサーバ20に送信する。
プリンタサーバ20は、端末40からのプリント要求を受信すると、これを1つのプリントジョブとしてキューに挿入するとともに、プリント要求に伴って送信された立体造形用データを受信する。立体造形装置10によりプリントジョブが開始されると、プリンタサーバ20は、立体造形用データを小出しにして立体造形装置10に送信する。このとき、立体造形装置10に送信されるデータ量は、プリンタサーバ20の内部に実装されている制御プログラムによって適量に調整される。1つのプリントジョブに対する立体造形用データが全て立体造形装置10に送り出され、立体造形装置10がこれらのデータによる動作を終えると、立体造形装置10はプリント(造形)を終了する。
なお、この図においては、端末40がプリンタサーバ20を介して立体造形装置10を利用する場合の構成を例に挙げて説明したが、プリンタサーバ20を介することなく端末40に立体造形装置10を直接接続して利用したり、或いは、立体造形用データが格納されたUSBメモリやSDカード等の記憶媒体をセットすることにより立体造形装置10を単独で(端末40から切断された状態で)利用することも可能である。
図2は、一実施形態における立体造形用データ生成プログラムが動作する環境の構成図である。立体造形用データ生成プログラムは、上述したように端末40の内部に実装されている。
端末40は、一般的なコンピュータの機能が搭載されたコンピュータであり、ハードウェアとしては、CPU41、RAM42、ネットワークインタフェース(I/F)43、HDD44の他、マウス、キーボード又はタッチパネル等の入力デバイス45や、液晶ディスプレイ等の表示デバイス46を備えている。また、ソフトウェアとしては、端末40には、立体形状を表すポリゴンの集合体からなるポリゴンデータ(例えば、STL形式のデータ)を出力する3Dモデリングソフト47、3Dモデリングソフト17から出力されたポリゴンデータに基づいて立体造形用データを生成する立体造形用データ生成ソフト100、端末40が立体造形装置10を利用する上で必要となるプリンタドライバ48等がインストールされている。ここで、立体造形用データ生成ソフト100は、いわゆる「スライサ」であり、一実施形態の立体造形用データ生成プログラムにより実装されている。
3Dモデリングソフト17により出力されたポリゴンデータが立体造形用データ生成ソフト100に入力されると、立体造形用データ生成ソフト100は、ポリゴンデータにより形作られる立体形状を平板状にスライス(水平に切断)する処理を積層方向(高さ方向)に繰り返し行い、これにより生じた各層を形成するためのパスを決定して、決定したパスに沿って材料を吐出させるための命令データを次々と生成していく。そして、立体形状を構成する全ての層を形成するための命令データが生成されると、立体造形用データ生成ソフト100は、これらの命令データの集合体を立体造形用データ(例えば、G-Code形式のデータ)として出力する。立体物の造形を行う際には、端末40は、プリンタドライバ48を介しネットワークインタフェース43を通じて、プリント要求及び立体造形用データをプリンタサーバ20に送信する。
なお、この図においては、立体造形装置10を利用する端末40に3Dモデリングソフト47がインストールされている場合の構成を例に挙げて説明したが、3Dモデリングソフト47は必ずしもインストールされている必要はなく、立体造形用データ生成ソフト100に対して造形対象とする立体物を形作るポリゴンデータが入力できればよい。また、端末40には、必要に応じてその他のソフトウェアや外部デバイス等が装備されていてもよい。
また、上述したように、立体造形用データ生成ソフト100の実体は一実施形態の立体造形用データ生成プログラムであるため、以下の説明においては、立体造形用データ生成ソフト100を立体造形用データ生成プログラム100として参照することとする。
図3は、立体造形装置10の外観図であり、立体造形装置10を正面側の上方からみた様子を表している。
立体造形装置10は、ゴムを主成分とする材料RUで立体物を造形する上で必要な構成を備えている。先ず、筐体11の上部には、材料RUを押し出す押出機12が固定されている。押出機12は、その内部に単軸スクリュー式の構造体とヒータとを有している。材料RUは、押出機12に供給される前の段階では固体の状態であるが、押出機12に供給されると、内部のヒータにより加硫しない程度の温度まで加熱されて溶融する。溶融した材料RUのフィラメントは、スクリューの正回転に伴って、押出機12の先端部をなす吐出ノズル13の吐出孔14から流動化した状態で下方へ吐出される。
なお、材料RUは、予め、原材料となる天然ゴムや合成ゴムを素練りして十分な可塑性を与え配合剤を混ざり易くしてから、補強材、充填剤、軟化剤、加硫剤等からなる配合剤を加えて混練りをした上で、シート状に圧延したものをリボン状(帯状)に切断して生成されている。押出機12に対しては、リボン状の材料RUが供給される。
また、筐体11の内部には、造形台16及び移動体17が設けられている。移動体17は、立体造形装置10の幅方向(X軸方向)に移動可能なX軸ステージ17xと、立体造形装置10の奥行方向(Y軸方向)に移動可能なY軸ステージ17yと、立体造形装置10の高さ方向(Z軸方向)に移動可能なZ軸ステージ17zとを備えるとともに、これらの各ステージを所定の方向に移動させるモータを内蔵している。造形台16は、移動体17の最上部に配置されており、移動体17をなす各ステージの動きに連動して、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の3方向に移動可能である。造形台16を所望の方向に移動させることにより、造形台16と吐出ノズル13との位置関係、ひいては造形台16に対する材料RUの吐出位置(吐出ノズル13の相対的な位置)を変化させることができる。このようにして、吐出ノズル13から材料RUを吐出させつつ造形台16を移動させることにより、立体物OBを構成する複数の層が次々と重ねて形成されていき、立体物OBが造形される。造形された立体物OBに対しては、さらに常圧下での高温加熱を行うことにより加硫処理が行われ、最終的に立体物OBが完成する。
なお、造形台16の下にはヒータが装備されており、造形台16は、吐出された材料RUが加硫しない程度の温度に加熱される。造形台16を加熱することにより、吐出された材料RUが急速に冷えて固化するのを防止することができ、造形台16と最下層との間、及び、隣接する各層間における接着性を確保すること(造形途中での剥離を防止すること)が可能となる。
筐体11の内部で造形台16の上方に広がる空間における位置は、3次元の座標(X座標,Y座標,Z座標)で管理されている。立体物OBを造形する際に用いられる立体造形用データは、材料RUを吐出して各層を形成する(塗り潰す)線を描く上で必要となる命令(例えば、移動先の座標や移動速度を指示する命令や、材料RUの吐出幅を指示する命令等)が羅列された膨大なデータで構成されている。つまり、造形台16の動きは、これらの命令データに応じて細やかに制御され、造形台16に対する線の形状(直線、曲線、円形等)やその描かれ方(吐出孔14からの材料RUの吐出態様)についても、生成された命令データにより制御されることとなる。
図4は、立体造形用データ生成プログラム100の機能ブロック図である。この図に示されるように、立体造形用データ生成プログラム100は、各種設定部110、立体形状入力部120、立体切断部130、断面分析部140、パス決定部150、空間分析部160及び生成データ出力部170を有している。
各種設定部110は、立体造形用データ生成プログラム100が機能する上で必要となる各種の閾値やパラメータ値(例えば、材料RUの積層ピッチ(形成される層の高さ)の範囲や材料RUを温めるヒータの温度等)、描く形状のパターン等を予め設定する。各種設定部110はまた、端末40(立体造形装置10)の利用者向けの設定画面を提供し、この設定画面を介して利用者によりなされた設定内容を、端末40の内部記憶領域(HDD44)に格納する。
立体形状入力部120は、立体形状を形作るポリゴンデータを入力する。より具体的には、立体形状入力部120は、3D−CAD等の3Dモデリングソフトにより出力されたポリゴンデータを読み込む。ポリゴンデータは、端末40からアクセス可能な記憶領域(例えば、HDD44や別途接続された外部記憶媒体等)に格納されている。
立体切断部130は、立体形状入力部120に入力されたポリゴンデータにより形作られる立体形状を複数の平板形状に(高さの異なる複数の位置で水平に)切断し、積層方向(高さ方向)に積み重ねられた複数の層に分割する。
断面分析部140は、立体切断部130により切断された各断面、すなわち分割された各層について、その形状や各種設定部110に設定された性質等の特性を分析する。
パス決定部150は、断面分析部140により分析された結果を踏まえて、各層を形成するための材料RUを吐出する経路、経路を辿る上での順序や方向や速度、材料RUの吐出幅や吐出量等、経路に関する詳細事項(以下、これらをまとめて「パス」と略称する。)を仮決定する。また、後述する空間分析部160により分析された結果を踏まえて、仮決定されたパスを必要に応じて変更し、その上でパスを本決定(最終的に採用)する。そして、パス決定部150は、本決定されたパスを示す命令データを生成する。
空間分析部160は、パス決定部150により仮決定されたパスに沿って各層が造形された場合に、材料RUが充填されない領域(以下、「非造形領域」と称する。)が各層のどの位置にどのように(太さや形状等)生じるかを分析する。また、空間分析部160は、各層における非造形領域内の各地点から造形される立体物OBの外縁までの距離を分析する。なお、非造形領域には、吐出された材料RUにより描かれる線の下部に意図せずに生じる空隙や、材料RUの内部充填率(密度)を意図的に低くして造形する場合に生じる空隙、造形上の調整として線の端部に設けられる空隙等が含まれる。一方、例えば容器を造形する場合に内部に形成される収容空間のように、敢えて形状が空間として造形された領域は、非造形領域には含まれない。
生成データ出力部170は、パス決定部150により生成された命令データの集合体、すなわち立体造形用データを出力する。
材料RUを用いて立体物OBを造形する際には、主成分であるゴムの特性に起因して様々な現象が生じうる。より具体的には、材料RUにより立体物OBを造形する際には、内部に空隙が生じ易い。また、立体物OBの造形後に行う加硫処理の過程では、内部の空隙に閉じ込められた空気が膨張して立体物OBの形状を大きく変化させ、造形に影響を及ぼしうる。そのため、これらの現象を踏まえて、最終的に想定される形状で立体物OBが造形されるようなパスを決定する必要がある。本実施形態においては、特にパス決定部150及び空間分析部160が、上記のような現象を踏まえて立体物を良好に造形するための役割を担っている。
なお、ゴムの特性に起因して生じうる現象及びその現象への対応策については、別の図面を参照しながら詳しく後述する。
図5は、立体造形用データ生成処理の手順例を示すフローチャートである。立体造形用データ生成処理は、立体造形装置10を利用して立体物を造形する際に必要となる立体造形用データを生成するための処理である。
このフローチャートに示される各ステップを実行するのは立体造形用データ生成プログラム100であるが、立体造形用データ生成プログラム100を動作させる主体は端末40のCPU41であり、厳密にはCPU41が各ステップを立体造形用データ生成プログラム100が有する各機能部110〜170に実行させる。以下、手順例に沿って説明する。
ステップS200:CPU41は、立体形状入力部120に立体形状入力処理を実行させる。この処理では、立体形状入力部120は、造形対象とする立体物の形状を形作るポリゴンデータを読み込む。
ステップS210:CPU41は、立体切断部130に立体切断処理を実行させる。この処理では、立体切断部130は、前ステップS200で読み込まれたポリゴンデータにより形作られる立体形状を平板状(水平)に切断する処理を積層方向(高さ方向)に繰り返す。
ステップS220:CPU41は、断面分析部140に処理の対象とする層を更新させる。より具体的には、断面分析部140は、前ステップS210で立体形状が切断されたことにより生じた複数の層を下から順に1つずつ、後続する処理(ステップS230)の対象としてセットする。したがって、ステップS220が最初に実行される際には、最も下に位置する層が後続する処理の対象としてセットされる。
ステップS230:CPU41は、断面分析部140、パス決定部150及び空間分析部160に層形成用データ生成処理を実行させる。この処理では、各機能部140〜160は、対象としてセットされた層(以下、「対象層」と称する。)に着目し、その層の特性(形状や性質)やそれ以下の層において非造形領域が生じる位置を分析した上で、対象層を形成するための最適化したパスを決定し、そのパスに対応した命令データを生成する。なお、具体的な処理の内容については、次の図面を参照しながらさらに後述する。
ステップS240:CPU41は、断面分析部140に未処理の層、すなわち未だ層形成用データ生成処理の対象とされていない層が残っているか否かを確認させる。未処理の層が残っている場合(ステップS240:Yes)、CPU41はステップS220に戻り、以降のステップを繰り返し実行する。一方、未処理の層が残っていない場合(ステップS240:No)、CPU41はステップS250に進む。
ステップS250:CPU41は、生成データ出力部170に生成データ出力処理を実行させる。この処理では、生成データ出力部170は、立体形状を構成する全ての層を対象としてステップS230が実行されたことにより生成された命令データの集合体を、立体造形用データとして出力する。
以上の手順を終えると、CPU41は、1つの立体物に対する立体造形用データの生成を終了する。
なお、生成データ出力処理の実行前に、各層に対する命令データを全体的に見直し、必要に応じて生成データを補正する処理を実行させてもよい。例えば、上記のステップS230(層形成用データ生成処理)では、対象層以下の層における非造形領域の分析結果に基づいて対象層に対する最適化したパスが決定されるが、生成データ出力処理の実行前には全ての層に対するパスが決定済みであるため、この段階で各層に対するパスの見直しを行い、対象層の上に隣接する層における非造形領域の分析結果も踏まえ必要に応じてパスを再決定し、その上で再決定されたパスを示す命令データを生成させてもよい。
図6は、層形成用データ生成処理の手順例を示すフローチャートである。層形成用データ生成処理は、立体造形装置10を利用して造形する立体物を構成する各層を形成(造形)する際に必要となる命令データを生成するための処理である。なお、各ステップの実行主体については、図5における場合と同様である。以下、手順例に沿って説明する。
ステップS300:CPU41は、断面分析部140に断面を分析させる。より具体的には、断面分析部140は、対象層の特性(形状や性質)を分析する。
ステップS310:CPU41は、パス決定部150にパスを仮決定させる。より具体的には、パス決定部150は、前ステップS300での対象層の分析結果を踏まえて、対象層に対する描線経路(どのような経路に沿って材料RUを吐出させるか)及びその描線態様(経路に沿ってどのように材料RUを吐出させるか)を暫定的に決定する。描線態様としては、例えば、線を描く順序や方向や速度、材料RUの吐出幅や吐出量、各経路における材料RUの着地先と吐出ノズル13の先端(ノズル先端15)との間隔等が詳細に決定される。なお、描線態様は各経路の状況に応じて決定されるため、1つの経路全体に対して同一の態様が決定される場合もあれば、1つ経路を複数の部位に細分化し個々の部位に対して異なる態様が決定される場合もある。
ステップS320:CPU41は、空間分析部160に非造形領域を分析させる。より具体的には、空間分析部160は、前ステップS310で仮決定されたパスに沿って対象層が造形された場合に非造形領域が生じる位置を分析した上で、非造形領域内の各地点から立体物OBの外縁までの最短距離、及び、非造形領域を通じた立体物OBの外縁までの最短距離を分析する。
ステップS330:CPU41は、空間分析部160に分析結果に基づく判定を行わせる。具体的には、空間分析部160は、前ステップS320での分析結果に基づいて、非造形領域内のいずれかの地点において空気が閉じ込められる可能性が高い(立体物OBの外部に空気を逃がすことが困難である)か否かを判定する。そして、空気が閉じ込められる可能性が高い地点が存在すると判定された場合には(ステップS330:Yes)、CPU41はステップS340に進む。一方、空気が閉じ込められる可能性が高い地点が存在しないと判定された場合には(ステップS330:No)、CPU41はステップS350に進む。
ステップS340:CPU41は、パス決定部150に仮決定したパスを変更して本決定させる。より具体的には、パス決定部150は、ステップS310で仮決定されたパスを見直し、非造形領域内の空気を外部に逃がし易いパスに変更した上で、変更後のパスを採用する。
ステップS350:CPU41は、パス決定部150に仮決定したパスのまま本決定させる。より具体的には、パス決定部150は、ステップS310で仮決定されたパスを変更することなくそのまま採用する。
ステップS360:CPU41は、パス決定部150に命令データを生成させる。より具体的には、パス決定部150は、対象層に対するパスを示す命令データ、すなわちステップS340,S350により本決定されたパスに対応する命令データを生成する。
以上の手順を終えると、CPU41は、1つの層(対象層)に対する命令データの生成を終了する。
図7は、ゴムを主成分とする材料RUを吐出して描かれる線の特徴を説明する図であり、材料RUにより形成された3枚の層S1〜S3が積層された状態を表している。このうち、(A)は正面図であり、(B)は(A)中のVII−VII切断線に沿って切断した場合の理想的な垂直断面図であり、(C)は(A)中のVII−VII切断線に沿って切断した場合の現実的な垂直断面図である。なお、発明の理解を容易とするために、材料RUで描かれた各線の輪郭や形成される空隙の大きさは誇張して表現されている。
例えば、図7中(A)に示されるように、材料RUを吐出して幅方向に描かれた複数の線により形成された層が次々と積層されているとする。このとき、図7中(B)に示されるように、隣接し合う複数の線の間(例えば、線L11と線L12の間や線L21と線L22の間)に空隙が一切生じないことが理想的である。
しかしながら、吐出孔14は略円筒状の形状をなしているため、材料RUは吐出孔14から円柱状に下方へ押し出される。また、吐出孔14の先端(開口)はノズル先端15に取り囲まれており、造形時には吐出孔14から円柱状に押し出された材料RUをノズル先端15で着地先に押し当てるようにして、線が描かれていく。そのため、描かれた線の下部には、材料RUが円柱状に押し出されたことの名残で角が曲線状に形成される一方、線の上部は、ノズル先端15に均されて略平坦な形状に形成される。また、吐出された材料RUには主成分とするゴムの特性により粘度が高い上に収縮性も作用するため、曲線状の角が一切形成されないように線を描くことは非常に困難である。したがって、実際の造形時には、図7中(C)に示されるように、材料RUを吐出して描かれた隣接し合う複数の線の間には空隙GPが形成される。
立体物OBを構成する全ての層が形成された後(立体物OBの造形後)には加硫処理が施されるが、この加硫処理は常圧下で行われるため、高圧下で行われる加硫処理のように内部の空気を十分に外部へ逃がすことができない。そのため、空隙GPの形成状況によっては、加硫処理の過程で空隙Gに閉じ込められた空気が膨張して立体物OBの内部が発泡したような状態となり(以下、このような現象を「発泡現象」と称する。)、立体物OBの形状が加硫処理の前後で大きく変化する虞がある。
発泡現象は、立体物OBの仕上がり形状を乱す要因と捉えれば、解決すべき課題となるのに対し、所望の膨張を発生させる作用と捉えれば、積極的に活用しうる対象となる。発明者は、層の形成態様を変えることで発泡現象をある程度まで制御可能であることを試行錯誤の末に見出した。そこで、以下では、発泡現象を抑制するための実施形態を第1実施形態として説明し、発泡現象を促進させるための実施形態を第2実施形態として説明することとする。
〔各層の形成態様:第1実施形態〕
図8は、立体物OBを構成する各層を形成する上での第1実施形態におけるパスの決定態様を示す平面図である。
第1実施形態は、発泡現象を抑制するための実施形態である。第1実施形態においては、先ず対象層に対するパスを仮決定し、対象層が仮決定されたパスに沿って造形された場合にどの位置に空隙GPが生じるかを分析する。そして、いずれかの空隙GPが空気を外部に逃がしにくい位置、すなわち空気を外部に逃がすための空気出口EXから遠い位置に生じると分析された場合には、仮決定されたパスを変更して、いずれの空隙GPからも遠くない位置に空気出口EXが設けられるようにする。以下、パスの決定態様を手順例に沿って説明する。
図8中(A):対象層S1の形状は、例えば、略長方形であり、長辺が短辺の2倍を超える長さを有している。
図8中(B):このような形状をなす対象層S1に対して、例えば、ジグザグ状(九十九折状)のパス、すなわち対向する2辺の間で交互に折り返しながら隣接する直線を連続的に描くパスが仮決定される。上述したように、材料RUを吐出して描かれた隣接し合う複数の線の間には空隙GPが形成されるため、仮決定されたパスに沿って対象層S1が造形されると、対象層S1を塗り潰す過程で隣接し合う複数の線の間(図中の対象層S1内に示した実線に沿う位置)に空隙GPが生じることとなる。そして、対象層S1の外縁まで延びるようにして生じた空隙GPの外縁側の端部が、空気出口EXとなる。仮決定されたパスによれば、空気出口EXは左右に3ヵ所ずつ、合計6ヵ所に設けられる。
ここでは例として、空隙GP内の3つの地点P1〜P3を示しているが、地点P1は空気出口EXに比較的近く、地点P2は空気出口EXから少し離れており、地点P3は空気出口EXから比較的遠くに位置している。空気出口EXから遠いほど、その位置にある空気の空隙GPを通じた空気出口EXまでの移動距離は長くなる。また、空隙GPの太さは造形状況によるため一定でなく、非常に細い箇所もあるため、空隙GPが連なっているからといって空気が必ずしも空気出口EXまで移動できる(外部に逃げられる)とは限らない。したがって、このバスに沿って造形された場合には、加硫処理の過程で特に地点P3に存在する空気を外部に逃がすことが困難となり空気が内部に閉じ込められる可能性が高い。
図8中(C):そこで、図8中(B)で仮決定されたパスが変更される。先ず、対象層S1の形状を踏まえて、対象層S1の領域全体が左右に分割される。
図8中(D):次に、分割により生じた左右の各領域に対して、それぞれジグザグ状のパスが再決定される。再決定されたパスに沿って対象層S1が造形されると、左右の各領域を塗り潰す過程で隣接し合う複数の線の間に加えて、左右の領域間にも空隙GPが生じることとなる。これにより、対象層S1に設けられる空気出口EXの数が2ヵ所増加し、合計8ヵ所となる。左右の領域間に生じる空隙GPは、空気出口EXの総数を増加させるだけでなく、幅方向に延びる空隙GPを手前側又は奥側から外部に連通させており、外部への近道となる点において非常に有益といえる。
パス変更前と比較してみると、地点P1に関しては変化が生じていないが、地点P2,P3はいずれも、連通可能な空気出口EXが2ヵ所に増えた上に、空気出口EXまでの最短距離が短縮されている。そして、空隙GP内のいずれの地点からも空気出口EXが遠くない位置(より具体的には、所定の距離内)に設けられている。したがって、このようにしてパスを変更することにより、立体物OBの内部に生じた空隙GPに存在する空気を空気出口EXを介して外部に逃がし易くすることができる。よって、第1実施形態によれば、内部に閉じ込められた空気の膨張に起因して生じる加硫処理の前後における立体物OBの変形を未然に回避して、立体物OBを良好に造形することが可能となる。
なお、上記のパス変更の態様は、あくまで一例として挙げたものであり、これに限定されない。本実施形態においては、経路のパターンとして、渦巻、同心円、ジグザグ、格子、ハニカム等が予め用意されており、これらの中から対象層S1の形状等を踏まえていずれかのパターンが選択されてパスが仮決定される。また、仮決定されたパスの変更には、領域の分割を伴う場合と伴わない場合とがあり、いずれの場合においても、塗り潰しを行う各領域に対するパスの再決定がなされる。パスの再決定では、パターンの変更(例えば、渦巻からジグザグへの変更)や、パターンの回転(例えば、対象層S1の右側と左側で折り返すジグザグ(横ジグザグ)を、手前側と奥側で折り返すジグザグ(縦ジグザグ)にする変更)等が行われる。
図9は、対象層S1に対する変更後のパスを示す平面図であり、図8中(D)を拡大して一部に網掛けを施したものである。
材料吐出法においては、線の一端(始端)で材料の吐出を開始し、パスに沿って造形台(又は吐出ノズル)を移動させながら材料の吐出を継続し、線の他端(終端)で材料の吐出を終了するのが一般的である。また、線をジグザグ状に描く際にも、やはり同様にパスに沿って造形台(又は吐出ノズル)を移動させながら材料の吐出を行うが、折り返し地点に達すると瞬間的に材料の吐出を中断し、造形台(又は吐出ノズル)の移動及び移動方向の切り替えを行い、その上で造形台(又は吐出ノズル)の逆方向への移動及び材料の吐出を再開する。つまり、ジグザグ状の線においては、線の両端に加えて、折り返し地点もまた終端となりかつ始端ともなる。そこで、以下の説明においては、材料の吐出を開始又は再開する位置を「経路内の始端」と称し、材料の吐出を終了又は中断する位置を「経路内の終端」と称することとする。
図9中において網掛けが施されている部位は、左右の各領域を塗り潰す線を描き始める位置、線を折り返す位置、又は、線を描き終える位置のいずれかに該当する。網掛けが施されたこれらの部位に対する材料RUの吐出量が多いと、空気出口EXが材料RUにより塞がれる虞がある。空気出口EXが塞がれると、空隙GPに存在する空気を加硫処理の過程で外部に逃がすことができず、結果として立体物OBを変形させてしまう。
そこで、本実施形態においては、経路内の始端又は終端において、材料RUの吐出量を他の部位より減らすことで端部の形状を略楕円形にしたり、或いは始端又は終端の位置をずらすことで端部を短くしたりしている。こうすることで、経路内の始端又は終端にも空隙GPを生じさせることができ、空気出口EXを確実に設けることができる。したがって、加硫処理の過程で空気を外部に逃がすことが可能となる。
図10は、パスの変更態様の別の一例を示す平面図である。なお、図10における対象層S1の形状は、図8に示した対象層S1と同一であり、また、図10における3つの地点P1〜P3は、図8に示した対象層S1内の3つの地点P1〜P3と同一である。
図10(A):対象層にS1に対し、例えば、図8中(B)で示した左右に対向する2辺の間で交互に折り返すジグザグ状のパスが仮決定される。仮決定されたパスにおいては、空気出口EXが左右に3ヵ所ずつ、合計6ヵ所に設けられる。ここで、発明の理解を容易とするために、パスで設定された線幅を「1」とした場合の空隙GP内の各地点から対象層S1の外縁までの距離を分析する。図中に破線で示した目盛1つ分が距離「1」に該当する。また、ここでは例として、空隙GP内の3つの地点P1〜P3について分析するが、実際には空隙GP内の全ての地点についての分析がなされる。
先ず、地点P1は、空隙GPを通じた空気出口EXまでの最短距離(以下、「連通距離」と称する。)が「2」であり、対象層S1の外縁までの最短距離(以下、「外縁距離」と称する。)もまた「2」である。したがって、地点P1における連通距離と外縁距離との差DP1は「0」である。図中では、このことを「DP1(2,2)=0」と表している(表し方は、他の地点においても同様。)。また、地点P2は、連通距離が「10」であり、外縁距離が「3」であるから、地点P2における差DP2は「7」である。そして、地点P3は、連通距離が「17」であり、外縁距離が「1」であるから、地点P2における差DP3は「16」である。この分析結果から、地点P3では、連通距離と外縁距離との差が特に大きいことが分かる。
ここで、本実施形態においては、空隙GP内の各地点における連通距離と外縁距離との差が所定の範囲内(例えば「12未満」)であれば、仮決定されたパスがそのまま採用されるのに対し、所定の範囲を超える(例えば「12以上」)であれば、仮決定されたパスが変更される。図10中(A)に示したパスでは、少なくとも地点P3における連通距離と外縁距離との差が所定の範囲を超えているため、仮決定されたパスは変更されることとなる。
図10中(B):対象層S1に対するパスが変更され、先ず領域全体が左右に分割された後に、例えば、左側の領域に対して横ジグザグ状のパスが再決定されるとともに、右側の領域に対して縦ジグザグ状のパスが再決定される。再決定されたパスにおいては、空気出口EXが左側に3ヵ所、奥側と手前側に5ヵ所ずつ、合計13カ所に設けられる。
ここで再び、3つの地点P1〜P3における距離を分析する。先ず、地点P1は、連通距離が「2」であり、外縁距離もまた「2」であるから、地点P1における差DP1は「0」である。また、地点P2は、連通距離が「4」であり、外縁距離が「3」であるから、地点P2における差DP2は「1」である。そして、地点P3は、連通距離が「3」であり、外縁距離が「1」であるから、地点P3における差DP3は「2」である。この分析結果から、いずれの地点においても、連通距離と外縁距離との差が所定の範囲内(例えば「12未満」)に収まっていることが分かる。したがって、再決定されたパスが採用される。
なお、再決定されたパスにおいても空隙GP内のいずれかの地点において連通距離と外縁距離との差が所定の範囲を超える場合には、そのパスは採用されない。そのような場合には、空隙GP内の全ての地点における連通距離と外縁距離との差が所定の範囲内に収まるまで、パスの再決定が繰り返しなされることとなる。
図11は、パスの変更態様のさらなる一例を示す平面図である。なお、図11における対象層S1の形状は、略正方形であるものとする。また、図11中(A)及び図11中(B)において、3つの地点P1〜P3の各位置は同一である。
図11中(A):対象層S1に対し、例えば、渦巻状のパスが仮決定される。渦巻状に線を描く際に生じる空隙GPはやはり渦巻状に連なっていくことから、仮決定されたパスにおいては、空気出口EXが渦巻きの最外周の端部に隣接する1ヵ所にのみ設けられる。空隙GP内の地点が渦巻きの中心に近いほど、空気出口EXからは遠くなり、連通距離も大きくなる。
ここで、渦巻状に線を描く際に生じる空隙GP内の3つの地点P1〜P3における距離を分析する。先ず、地点P1は、連通距離が「5」であり、外縁距離が「1」であるから、地点P1における差DP1は「4」である。また、地点P2は、連通距離が「38」であり、外縁距離が「2」であるから、地点P2における差DP2は「36」である。そして、渦巻きの中心に当たる地点P3は、連通距離が「64」であり、外縁距離が「4」であるから、地点P3における差DP3は「60」である。この分析結果から、分析した3地点のうち、連通距離と外縁距離との差が所定の範囲内(例えば「12未満」)に収まっているのは地点P1のみであり、地点P2,P3では所定の範囲を大きく超えていることが分かる。したがって、仮決定されたパスは変更されることとなる。
図11中(B):対象層S1に対するパスが変更され、例えば、横ジグザグ状のパスが再決定される。再決定されたパスにおいては、空気出口EXが左右に4ヵ所ずつ、合計8ヵ所に設けられる。
ここで再び、3つの地点P1〜P3における距離を分析する。先ず、地点P1は、空隙GPを通じた空気出口EXまでの距離が「5」であり、対象層S1の外縁までの最短距離が「1」であるから、地点P1における差DP1は「4」である。また、地点P2は、空隙GPを通じた空気出口EXまでの距離が「2」であり、対象層S1の外縁までの最短距離が「2」であるから、地点P2における差DP2は「0」である。そして、地点P3は、空隙GPを通じた空気出口EXまでの距離が「4」であり、対象層S1の外縁までの最短距離が「4」であるから、地点P3における差DP3は「0」である。この分析結果から、地点P2,P3における連通距離が大幅に短縮されていること、また、いずれの地点においても、連通距離と外縁距離との差が所定の範囲内(例えば「12未満」)に収まっていることが分かる。したがって、再決定されたパスが採用される。
〔第1実施形態により造形された立体物の加硫処理前後における形状〕
図12は、第1実施形態により造形された立体物OBの加硫処理の前後における形状を示す図である。説明の便宜のため、ここでは、各層の形状が略正方形であり、立体物OBが10枚の層で構成されるものとする。
図12中(A):第1実施形態における各層の形成態様を示す平面図である。第1実施形態においては、略正方形をなす対象層S1に対し、例えば、ジグザグ状に線を描くパスが本決定され、本決定されたパスに沿って線を描くことにより対象層S1が形成される。そして、形成された複数の層が次々と積層されていき、立体物OBが造形される。
第1実施形態においては、線がジグザグ状に描かれることから、各層内の空隙GPのいずれの地点からも外部に連通し易い位置に空気出口EXが設けられる。したがって、空隙GPが層内のどの位置に生じていても、その位置に存在する空気を外部に容易に逃がすことができ、結果として、加硫処理の際に立体物OBの内部に空気が閉じ込められるのを回避することができる。
図12中(B):加硫処理前の立体物OBを示す正面図である。立体物OBは、層S1〜S10の10枚の層が積層されてなる。加硫処理を行う前の段階では、第1実施形態により造形された立体物OBは、想定通りの形状をなしている。
図12中(C):加硫処理後の立体物OBを示す正面図である。加硫処理を行った後の段階でも、第1実施形態により造形された立体物OBは、加硫処理を行う前の形状を概ね維持している。加硫処理の前後において立体物OBの形状を維持することができたのは、加硫処理の過程で立体物OBの内部に空気が閉じ込められなかったためである。上述したように、第1実施形態においては、各層にて適切な位置に空気出口EXが設けられるため、立体物OBの内部の空隙GPに存在する空気を外部に逃がし易い。したがって、加硫処理の過程で生じ得る立体物OBの変形を回避することができる。
〔比較例により造形された立体物の加硫処理前後における形状〕
図13は、比較例として第1実施形態とは異なる態様により造形された立体物OB´の加硫処理の前後における形状を示す図である。発明の理解を容易とするために、ここでは、各層の形状及び立体物OBを構成する層の枚数は、図12における場合と同一であるものとする。
図13中(A):比較例における各層の形成態様を示す平面図である。比較例においては、例えば、対象層S1´に対し、渦巻状に線を描くパスが本決定される。そして、本決定されたパスに沿って線を描くことにより対象層S1´が形成される。そして、形成された複数の層が次々と積層されていき、立体物OB´が造形される。
比較例においては、線が渦巻状に描かれることから、空気出口EXが各層に1ヵ所しか設けられない。したがって、空隙GPの位置が空気出口EXから離れているほど、その位置に存在する空気は外部に逃がし難くなる。具体的には、対象層S1´の外周に近い位置の空隙GPに存在する空気は、比較的容易に外部に逃がすことができるが、対象層S1´の中央部に近い位置の空隙GPに存在する空気は、空隙GPを通じて空気出口EXに到達するまでの距離が長いため、外部に逃がすことが困難である。その結果、加硫処理の際に立体物OB´の内部に空気が閉じ込められ易くなる。
図13中(B):加硫処理前の立体物OB´を示す正面図である。立体物OB´は、層S1´〜S10´の10枚の層が積層されてなる。加硫処理を行う前の段階では、比較例により造形された立体物OB´は、想定通りの形状をなしている。
図13中(C):加硫処理後の立体物OB´を示す正面図である。加硫処理を行った後の段階では、比較例により造形された立体物OB´は大きく変形している。具体的には、立体物OB´は、中央部に向かうにつれて高さ方向に大きく膨張しており、また、この膨張に引きずられて上部にいくほど幅が徐々に拡がっている。このような形状の変化は、加硫処理の過程で立体物OB´の内部に閉じ込められた空気が膨張したことにより生じている。上述したように、空隙GPの位置が空気出口EXから離れているほど、すなわち、比較例における各層の形成態様によれば空隙GPの位置が各層の中央に近いほど、そこに存在する空気は外部に逃がし難くなる。そして、立体物OB´の内部に空気が閉じ込められると、加硫処理の過程で高熱を受けて空気が膨張するため、立体物OB´の形状を想定から大きく乱してしまう。
以上のように、比較例により造形された立体物OB´は、空気を外部に逃がすことが困難であり空気が内部に閉じ込められることから、加硫処理の前後で形状が大きく変化(空気の膨張により変形)する。これに対し、第1実施形態により造形された立体物OBは、空気を外部に容易に逃がすことができるため、加硫処理の前後で形状が概ね維持される。このことから、第1実施形態の優位性は明らかである。
〔各層の形成態様:第2実施形態〕
図14は、立体物OBを構成する各層を形成する上での第2実施形態における形成態様を示す正面図である。第2実施形態は、発泡現象を促進させるための実施形態である。第2実施形態においては、敢えて膨張させたい部位に適度な空隙GPを生じさせるように線を描くパスを決定する。
なお、以降の図においては、未だ塗り潰されていない領域を白色で示し、既に塗り潰された領域を薄い灰色で示し、説明される手順によって塗り潰される領域を濃い灰色で示すこととする。また、説明の便宜のため、ここでは立体物OBが5枚の層で構成されるものとする。以下、手順例に沿って説明する。
図14中(A):各層に対し、例えば、正面側から背面側(図14の手前側から奥側)に向かって延びる複数の線を描くパスが決定される。このとき、発泡現象を意図的に促進させたい部位における積層ピッチは、その他の部位における通常の積層ピッチH1(H1=h)よりも大幅に小さくしたH2(例えば、H2=h/2)に設定される。
図14中(B):決定されたパスに沿って、各層に対する描線(線による塗り潰し)が開始される。先ず、造形台16の上に5本の線L11〜L15が通常の積層ピッチH1で描かれることにより、第1層S1が形成される。
図14中(C):次に、第1層S1の上に5本の線L21〜L25が通常の半分の積層ピッチH2で描かれることにより、第2層S2が形成される。
図14中(D):さらに、第2層S2の上に5本の線L31〜L35が通常の積層ピッチH1で描かれることにより第3層S3が形成され、第3層S3の上に5本の線L41〜L45が通常の半分の積層ピッチH2で描かれることにより第4層S4が形成され、第4層S4の上に5本の線L51〜L55が通常の積層ピッチH1で描かれることにより第5層S5が形成される。以上の手順を経て、5枚の層S1〜S5からなる立体物OBが造形される。
積層ピッチ(材料RUの吐出率)を大幅に下げて吐出すると、材料RUは、ノズル先端15と着地先との間に挟まれて擦られることでぼろぼろと離散した状態となり、不均一な形状で固まり易くなることが確認されている。したがって、上記のようにして形成された第2層S2及び第4層S4の内部、より正確には、第2層S2及び第4層S4とこれら各層の上に重ねるようにして形成された第3層S3及び第5層S5との間には、空隙GPが各所に生じることとなる。
なお、図示の例においては、同一の層内における積層ピッチを一定としているが、これに限定されず、同一の層内であっても発泡現象を意図的に促進させたい部位とそれ以外の部位とで積層ピッチを異ならせてもよい。
図15は、第2実施形態により造形された立体物OBの加硫処理の前後における形状を示す図である。
図15中(A):加硫処理前の立体物OBを示す正面図である。第2実施形態により造形された立体物OBは、通常の積層ピッチH1(H1=h)で形成された3枚の層S1,S3,S5と、通常の半分の積層ピッチH2(H2=h/2)で形成された2枚の層S2,S4で構成されているため、立体物OB全体としての高さHAは概ね4hである。
図15中(B):加硫処理後の立体物OBを示す正面図である。第2実施形態により造形された立体物OBにおいては、その一部を構成する層S2,S4の各所に空隙GPが生じていたため、これらの空隙GPに存在していた空気が加硫処理の過程で高熱を受けて各層の内部で膨張したことにより、層S2,S4は、いずれも加硫処理を行う前より大きく膨れ上がっている。その結果、立体物OB全体としての高さHAは、加硫処理を行う前よりも高くなっている。
このように、第2実施形態によれば、敢えて膨張させたい部位に対し積層ピッチを通常よりも大幅に下げて線を描くことにより、その部位の内部各所に空隙GPを敢えて生じさせることができ、加硫処理に伴い意図的に発泡現象を促進させて所望の形状を得ることが可能となる。
なお、積層ピッチを通常よりも大幅に下げて描かれた線(形成された層)における空隙GPの発生度合い(加硫処理の過程での膨張度合い)は、積層ピッチの下げ幅を変化させることにより調整が可能である。また、積層ピッチを通常よりも大幅に下げる代わりに、材料RUを吐出することなく層の上部をノズル先端15で擦るだけでも、同様の作用が生じることが確認されている。具体的には、敢えて膨張させたい部位の直下に位置する層の上部にノズル先端15を当接させた状態で造形台16を水平方向に移動させると、直下の層の表面は、ノズル先端15により擦られて不均一かつ微細に削られて荒らされた状態となる。これにより、直下の層とその真上に形成される層との間の各所に空隙GPが生じ易くなるため、発泡現象を促進させることが可能となる。
本発明は、上述した実施形態に制約されることなく、種々に変更して実施することが可能である。また、実施形態を説明する過程で挙げた各種数値はあくまで例示であり、上述した内容に限定されるものではない。
上述した実施形態においては、材料RUとして、ゴムに加硫剤等の配合剤を加えたものを用いているが、これに代えて、ウレタン樹脂やシリコン樹脂等のようなゴム状の合成樹脂を用いることも可能である。材料RUに加硫剤が加えられていない場合には、造形された立体物OBに対する加硫処理は不要となる。
上述した実施形態においては、造形に材料RUを用いているが、これに代えて、水溶性樹脂を用いてもよい。実施形態の態様により水溶性樹脂を用いてサポート材を造形すると、造形されるサポート材の各所に空気の逃がし口が設けられることとなるが、これらの空気の逃がし口は、見方を変えると水の導入口となる。したがって、このような構成によれば、立体物の造形後におけるサポート材内部への水の取り込みが容易となるため、サポート材を効率よく水に溶解させることができ、立体物からのサポート材の除去に要する時間を短縮させることが可能となる。
さらには、材料RUに代えて、熱可塑性樹脂を用いてもよい。通常、熱可塑性樹脂で造形された立体物に対しては、樹脂が冷却する過程で生じる内部の歪みを加熱により取り除くアニール処理が施される。アニール処理の過程では、程度は異なるものの上述した実施形態における加硫処理の過程と同様の現象が発生する虞がある。したがって、このような構成によれば、熱可塑性樹脂で造形された立体物の内部に存在する空気をアニール処理の過程で外部に逃がすことができ、立体物の形状を良好に維持することが可能となる。
上述した実施形態においては、押出機12が固定され造形台16が移動可能とされた立体造形装置10が用いているが、これに限定されず、造形台が固定され押出機が移動可能とされた立体造形装置を用いてもよい。また、そのような立体造形装置は、デルタ状に配置された2本で1ペアの軸3組の移動可能な部位に吐出ノズルが支持されているタイプのもの(いわゆる「デルタ型3Dプリンタ」)であってもよいし、吐出された材料を回転軸で巻き取っていく構造を有する特に円筒形状の造形に適したタイプのもの(いわゆる「旋盤型3Dプリンタ」)であってもよい。或いは、吐出ノズルを支持させたロボットアームを立体造形装置として用いることも可能である。