JP6873364B2 - ロアスプリングシートの製造方法及びその製造方法により製造されたロアスプリングシート - Google Patents

ロアスプリングシートの製造方法及びその製造方法により製造されたロアスプリングシート Download PDF

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Description

本発明は、ロアスプリングシートの製造方法及びその製造方法により製造されたロアスプリングシートに関する。
二輪車、四輪車等の車両には、車両への衝撃を吸収するための懸架装置が搭載される。懸架装置には、衝撃を吸収するスプリングと、そのスプリングの下方に配置され、車両の荷重が作用するロアスプリングシートとが備えられる。ロアスプリングシートは通常は金属製であるが、車両の軽量化の観点から、樹脂製のロアスプリングシートが検討されている。
ロアスプリングシートは上面視で円形状であることから、円形状の成型品に関する成型技術の適用が検討される。このような技術として、特許文献1には、強化繊維入りの溶融樹脂をゲートからキャビティ内に射出することにより、前記キャビティ内で前記強化繊維入りの溶融樹脂が合流してウェルドラインが形成される筒状品の射出成形金型において、前記キャビティは、前記筒状品の内周面側を形作るセンターピンと、前記筒状品の外周面側を形作る外駒との間に形成され、前記外駒は、前記センターピンに対して移動させられることにより、前記センターピンとの間隔を変えて、前記キャビティ内の前記強化繊維入りの溶融樹脂を強制的に流動させ、前記ウェルドラインの前記強化繊維の向きを乱す、ことを特徴とする筒状品の射出成形金型が記載されている。
特開2016−155225号公報
特許文献1に記載の技術では、成型に際して形成されるウェルドライン(「ウェルド」と同義)部分の強度の向上が図られている(特に段落0009参照)。しかし、前記のように、ロアスプリングシートには車両の荷重が作用する。特に、車両に衝撃がかかった場合には、ロアスプリングシートに作用する荷重が瞬間的に大きくなる。ここで、特にウェルドラインの部分においては、上方からの荷重に弱く、破損(変形を含む、以下同じ)が生じる起点となり易い。そのため、ロアスプリングシートに上方からの大きな荷重が瞬間的に作用すると、特にウェルドラインの部分で破損し易くなる。
本発明はこのような課題に鑑みて為されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、特に瞬間的に大きな荷重が作用した場合にも破損し難い高強度なロアスプリングシートの製造方法及びその製造方法により製造されたロアスプリングシートを提供することである。
本発明者らは前記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、以下の知見を見出して本発明を完成させた。即ち、本発明の要旨は、車両の懸架装置に備えられるロアスプリングシートを製造する方法であって、ディスクゲート方式の射出成型用金型の内部に、成型用樹脂であり、熱可塑性樹脂と、無機繊維と、エラストマと、を含むロアスプリングシート用材料を中央から流し込み、流し込まれた前記ロアスプリングシート用材料が前記射出成型用金型の内部を放射状に広がって成型されることでロアスプリングシートを製造することを特徴とする、ロアスプリングシートの製造方法に関する。その他の解決手段は発明を実施するための形態において後記する。
本発明によれば、ウェルドラインの形成を防止し、特に瞬間的に大きな力が作用した場合にも破損し難い高強度なロアスプリングシートとすることができる。
第一実施形態の懸架装置の断面図である。 第一実施形態の懸架装置に備えられるロアスプリングシート及びその下方に備えられる金属シートの上方斜視図である。 第一実施形態の懸架装置に備えられるロアスプリングシートの下方斜視図である。 第一実施形態の懸架装置に備えられるロアスプリングシートの上面図である。 第一実施形態の懸架装置に備えられるロアスプリングシートの射出成型用金型を示す図である。 図5に示す射出成型用金型を使用して得られたロアスプリングシートにおいて、成型中の樹脂の流れを示す図である。
以下、本発明を実施するための形態(本実施形態)について、図面を適宜参照しながら説明するが、本実施形態は以下の内容に何ら制限されるものではなく、本発明の要旨を損なわない範囲で任意に変更して実施することができる。また、参照する各図はいずれも模式的なものであり、本発明は図示の例に何ら制限されるものではない。
図1は、第一実施形態の懸架装置1の断面図である。懸架装置1は、ストラット式サスペンションであり、減衰機構(図示しない)を内蔵するシリンダ10と、シリンダ10内に収納されたピストン(図示しない)を支持するピストンロッド20と、を備える。これらのうち、シリンダ10は、円筒状の外シリンダ11を有する。外シリンダ11の内部には、いずれも図示しないが、円筒状の内シリンダと、この内シリンダ内を紙面上下方向に往復動するピストンと、減衰力を発生する複数のバルブ装置とが備えられる。
ピストンロッド20は、円柱状又は円筒状の部材である。以下、ピストンロッド20の中心軸20aの方向(前記の中心線方向)を、単に「上下方向」という。ピストンロッド20には、その下端側に、シリンダ10内に収納されるピストン(図示しない)が取り付けられる。さらに、その上端側に、ナット21が取り付けられる。
懸架装置1は、さらに、シリンダ10の外側に配置されたコイルスプリング30と、シリンダ10の外周に取り付けられてコイルスプリング30の下端部を支持する下スプリングシート31と、を備える。そして、懸架装置1は、上端部側に取り付けられてコイルスプリング30の上端部を支持する上スプリングシート36と、コイルスプリング30と上スプリングシート36との間に介在する上シートラバー37と、を備える。
これらのうち、コイルスプリング30は、例えば、両端部の座巻数が1/2である左巻きに、断面円形の金属線材を屈曲させることによりコイル状に成形された圧縮ばねである。下スプリングシート31は、金属シート310及びロアスプリングシート320を備える。これらの詳細は図2を参照しながら後記する。上シートラバー37は、コイルスプリング30の上端部と上スプリングシート36との間に介在する円環状の円環状部位371と、円環状部位371の下端部から下方に伸びる蛇腹状のダストカバー372とを備える。円環状部位371とダストカバー374とは連続するように一体に成型される。
懸架装置1は、ピストンロッド20の上端部側に取り付けられて、この懸架装置1を車両(図示しない)に取り付けるための車体側取付ブラケット40を備える。また、懸架装置1は、シリンダ10の下端部側に固定されて、この懸架装置1を車輪(図示しない)に取り付けるための車輪側取付ブラケット50を備える。また、懸架装置1は、シリンダ10における上下方向の中央部に固定されて、スタビライザ(図示しない)の端部を連結するためのスタビライザ取付アーム51を備える。
懸架装置1は、上スプリングシート36と車体側取付ブラケット40の下マウントベース43(後記する)との間に配置された円環状のベアリング38を備える。また、懸架装置1は、上スプリングシート36に溶接され、上スプリングシート36とベアリング38との間に介在する円環状の金属板39を備える。これらのうち、車体側取付ブラケット40は、上下方向に並べて配置された凹状の部材及び凸状の部材(いずれも図示しない)から構成されるステー41を備える。さらに、車体側取付ブラケット40は、上下方向に並べて配置された上マウントベース42及び下マウントベース43と、ステー41と上マウントベース42との間に設けられたマウントラバー44とを備える。そして、下マウントベース43の下面には、バンプラバー61(後記する)を保持する凸状のバンプラバー保持部材45が溶接される。
車体側取付ブラケット40は、ステー41がピストンロッド20の上端部に挿入されてナット21で締結されることにより、ピストンロッド20に装着される。また、車体側取付ブラケット40は、上マウントベース42及び下マウントベース43に貫通されたボルト46により車体に取り付けられる。
懸架装置1は、シリンダ10から飛び出しているピストンロッド20の外周を囲むように配置されたバンプラバー61を備えている。バンプラバー61は、下端部(車輪側)から上端部(車体側)に向けて外径が段々と大きくなるように形成されている。そして、バンプラバー61の上端部が、車体側取付ブラケット40のバンプラバー保持部材45の内側に嵌め込まれている。
懸架装置1は、車両が路面から受ける衝撃力をコイルスプリング30の弾発力により吸収するように伸縮する。そして、懸架装置1は、その伸縮に伴うピストンの往復動時に、シリンダ10に内蔵された減衰機構が発生する減衰力により、伸縮の際に生じる振動を抑制する。なお、懸架装置1が車両に取り付けられた状態において、車輪が旋回するのに伴ってシリンダ10とともに下スプリングシート31及びコイルスプリング30が回転する。
図2は、第一実施形態の懸架装置1に備えられるロアスプリングシート320及びその下方に備えられる金属シート310の上方斜視図である。ロアスプリングシート320は中心軸20aの方向から視て(即ち上面視で)円形状を呈し、シリンダ10に垂直な方向に延在する部品である。このロアスプリングシート320は、コイルスプリング30が載置される面である上面と、当該面とは反対側の面(コイルスプリング30が載置される面とは反対側の面)である下面とを備える。ロアスプリングシート320には、その中央に上方に向かって伸びる円筒部321が形成されている。円筒部321の内周面321aは曲面で構成され、この円筒部321には前記のシリンダ10が挿入される。また、円筒部321の内周面321aの下方には、ロアスプリングシート320の射出成型(後記する)時に使用したゲートの跡321b(ゲート跡321b)が形成される。なお、図2では図示していないが、ゲート跡は、図示しているゲート跡321bの反対側側面にももう一つ、同じように形成される。
ロアスプリングシート320の上面には、円筒部321と同心円状にリブ部333が形成される。このリブ部333は、円周方向に等間隔で、円筒部321から外方向に向かって延びるリブ部333bで補強される。
また、ロアスプリングシート320の上面には、円筒部321とリブ部333aとの間に、載置部324が形成される。その載置部324には、図示しないシートラバーを介して、前記の図1を参照しながら説明したコイルスプリング30が載置される。具体的には、コイルスプリング30は、載置部324のガイド部328とガイド部329との間に形成された半円弧状の載置面327に、シートラバーを介して載置される。
また、ガイド部328とガイド部329との間には、シートラバーの下方に形成された凸部(図示しない)を嵌めてシートラバーを固定するために、凹状のシートラバー固定部324a(図4参照)が形成される。ちなみに、シートラバーの下方に凹部を形成し、この凹部に嵌るように、ロアスプリングシート320に凸状のシートラバー固定部324aを形成してもよい。この場合、シートラバー固定部324aの形状に対応するように、後記する射出成型用金型500の形状を変更すればよい。なお、シートラバー固定部324aは、ロアスプリングシート320にコイルスプリング30を載置した際にコイルスプリング30の下方となる直下に形成される。ただし、シートラバー固定部324aの形成位置は、コイルスプリング30の外側や内側となる位置であってもよい。さらには、シートラバー固定部324aは一つに限られず、複数形成されてもよい。
コイルスプリング30は、コイルスプリング30及びシートラバーの下側端部が突起部330に突き当たるように、載置される。これにより、コイルスプリング30及びシートラバーの周方向の回転が制限される。
ロアスプリングシート320は、車両の懸架装置1に備えられるロアスプリングシート用の材料(成型用樹脂)により構成される。即ち、ロアスプリングシート320は、ロアスプリングシート用材料製である。ロアスプリングシート用材料は、熱可塑性樹脂と、無機繊維と、エラストマとを含んで構成されるものであることが好ましい。これらのうち、熱可塑性樹脂が含まれることで、熱を利用して、ロアスプリングシート320の射出成型が容易となる。熱可塑性樹脂は、例えばポリアミド樹脂(6−ナイロン、6,6−ナイロン等)、ポリアセタール樹脂(ポリオキシメチレン樹脂;POM)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等である。なお、熱可塑性樹脂は、一種が単独で使用されてもよく、二種以上が任意の比率及び組み合わせで使用されてもよい。
ロアスプリングシート320に含まれる無機繊維は、ロアスプリングシート320の強度を高めるものである。特に、詳細は後記するが、コイルスプリング30に瞬間的に大きな荷重が作用したときに、ロアスプリングシート30の破損(変形も含む、以下同じ)が防止される。無機繊維は、例えばガラス繊維、金属繊維等である。なお、無機繊維は、一種が単独で使用されてもよく、二種以上が任意の比率及び組み合わせで使用されてもよい。
無機繊維の長さとしては、特に制限されないが、ロアスプリングシート320において、10μm〜100μm程度になっていることが好ましい。また、無機繊維は、通常は、複数の繊維が絡み合って束となっているものであるが、それぞれの繊維の径として10μm〜20μm程度であることが好ましい。また、無機繊維の長さは、無機繊維の径よりも長いことが好ましい。無機繊維の形状がこのような形状になることで、無機繊維により奏される効果が特に十分に発揮され、ロアスプリングシート320の強度がより高まる。
ロアスプリングシート320に含まれるエラストマ(弾性体)は、弾性を有するものである。エラストマは、ロアスプリングシート320に瞬間的に大きな荷重が作用した場合に、その荷重を吸収することで破損を防止するものである。具体的には、ロアスプリングシート320に熱可塑性樹脂及びエラストマの双方が含まれていることで、瞬間的に大きな荷重が作用したときに、弾性を有するエラストマに優先的に荷重が作用する。そのため、エラストマがその荷重を吸収し、その分だけ熱可塑性樹脂に作用する荷重が減少する。これにより、ロアスプリングシート320の破損が防止される。
エラストマは、弾性を有するものであれば任意であるが、例えば、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、熱可塑性エラストマ(TPE)、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)等が挙げられる。なお、エラストマは、一種が単独で使用されてもよく、二種以上が任意の比率及び組み合わせで使用されてもよい。
熱可塑性樹脂と無機繊維とエラストマとの含有比は任意であるが、無機繊維の含有量は、ロアスプリングシート用の材料(成型用樹脂)の全体に対して、50質量%以下であることが好ましい。これにより、ロアスプリングシート320に瞬間的に大きな荷重が作用したときでも無機繊維に荷重が集中することが防止される。これにより、無機繊維の破損が十分に防止され、ロアスプリングシート320の強度がより向上する。
また、熱可塑性樹脂とエラストマとの混合比率も特に制限されない。従って、熱可塑性樹脂にエラストマが含まれていれば、ロアスプリングシート320に瞬間的な大きな荷重が作用したときに熱可塑性樹脂とエラストマとに分散し、ロアスプリングシート320の強度が向上する。
ただし、ロアスプリングシート320では、前記の熱可塑性樹脂及びエラストマは相溶していることが好ましい。即ち、熱可塑性樹脂及びエラストマは、いずれも一様に溶け合った状態であることが好ましい。これにより、ロアスプリングシート320に瞬間的に大きな荷重が作用したときにエラストマにのみ応力が集中することが防止され、ロアスプリングシート320の全体に存在するエラストマに荷重が作用する。そのため、荷重が十分に分散し、ロアスプリングシート320の強度がより向上する。
ロアスプリングシート用材料には、前記のもののほかにも任意の添加剤が含まれていてもよい。任意の添加剤としては、例えば、熱安定剤、滑剤等が挙げられる。熱安定剤は、ロアスプリングシート320の化学的耐久性を向上させるものであり、例えば、エポキシ化合物等の有機系安定剤、銅塩、マンガン塩等の金属塩系安定剤等が挙げられる。また、滑剤は、樹脂内部及び成型機械との摩擦発熱性を低下させるとともに、金型からの離型性を向上させて成型加工性を向上させるものである。滑剤としては、例えば、ステアリン酸、脂肪酸エステル、ワックス等が挙げられる。
ロアスプリングシート320の強度として、23℃、ノッチ付きで測定したシャルピー衝撃強度が20kJ/m以上であることが好ましい。シャルピー衝撃強度が20kJ/m以上であることで、ロアスプリングシート320の特に瞬間的な大きな荷重に対する強度を十分に高め、破損が十分に防止される。なお、シャルピー衝撃強度は、ISO−179によって測定することができる。
ロアスプリングシート320の強度として、引張強さが100MPa以上であることが好ましい。引張強さが100MPa以上であることで、ロアスプリングシート320の延び易さが向上し、瞬間的に大きな荷重が作用しても割れにくくなる。なお、引張強さは、ISO−527によって測定することができる。
ロアスプリングシート320の強度として、引張弾性率が15GPa以下であることが好ましい。引張弾性率が15GPa以下であることで、ロアスプリングシート320の延び易さが向上し、瞬間的に大きな荷重が作用しても割れにくくなる。なお、引張弾性率は、ISO−527によって測定することができる。
なお、ロアスプリングシート320は、詳細は図5等を参照しながら後記するロアスプリングシート320の製造方法により製造可能である。
金属シート310は、上方に向かって伸び、前記のシリンダ10が挿入される円筒部311と、その下方に形成されたD字状部312と、ロアスプリングシート320が載置される載置部314とを備える。これらのうち、円筒部311及びD字状部312は、ロアスプリングシート320の円筒部321に挿入される。このとき、詳細は図3を参照しながら後記するが、ロアスプリングシート320の下方端部にも、D字状部322aが形成される。従って、このD字状部322aと、前記のD字状部312との位置決めが行われる。なお、ロアスプリングシート320の下面には、コイルスプリング30の下方となる位置に金属シート310の載置部314が配置される。
図3は、第一実施形態の懸架装置1に備えられるロアスプリングシート320の下方斜視図である。ロアスプリングシート320の下面には、その一部が平坦になったD字状部322aを有する円筒部322が形成される。そして、この円筒部322の同心円状にリブ部327aが形成される。即ち、ロアスプリングシート320のうち、懸架装置1を構成するコイルスプリング30が配置される面の側とは反対側の面には、リブ部327aが形成されている。このリブ部327aは、円周方向に等間隔で外側に向かって伸びる327bで補強される。
図4は、第一実施形態の懸架装置1に備えられるロアスプリングシート320の上面図である。この図4には、前記の図2を参照しながら説明した金属シート310の載置部314を一点鎖線で示している。前記のように、金属シート310の円筒部311等がロアスプリングシート320の円筒部321に挿入される際、D字状部322aとD字状部312との位置決めが行われる。これにより、図4に示すように、ロアスプリングシート320の載置面327の位置と、載置部314とが重なるようになっている。この載置面327には前記のようにコイルスプリング30が載置される。そのため、載置面327の下方に金属シート310の載置部314が配置されることで、載置面327の補強が行われる。
前記のように、ロアスプリングシート320は、熱可塑性樹脂と、無機繊維と、エラストマとを含んだロアスプリングシート用材料により構成されることが好ましい。そして、無機繊維は、図4において太破線で示すように、ロアスプリングシート320において中心軸20aを中心とした放射状に配向している。なお、シートラバー固定部324aの近傍では無機繊維は厳密な放射状には配向しないが、ここでは図示の簡略化のために放射状に示している(詳細は図6等を参照しながら後記する)。従って、懸架装置1を構成するコイルスプリング30が載置される部分には、無機繊維が放射状に配向している。これにより、コイルスプリング30が折損してロアスプリングシート320に接触したとしても、無機繊維によりロアスプリングシート320が補強された結果、破損が防止される。
なお、本願発明においては、少なくとも突起や穴の周囲又は突起や穴がある部分の径方向外側において、必ずしも放射状に配向されていないものも「放射状」に含むものとする。特に、ロアスプリングシート320を例えばディスゲート方式の射出成型で作製する場合、無機繊維は、例えば突起や穴を設ける部分においては樹脂の流れに沿った配向となる。そのため、これらの部分では無機繊維が必ずしも放射状に配向しない可能性があるが、ロアスプリングシート320において中心軸20aを中心とした放射状になっていれば、本願発明の範疇に含まれるものとする。また、ロアスプリングシート320がディスクゲート方式以外の方法で製造される場合であっても、ロアスプリングシート320の全体で無機繊維が放射状(概ね放射状であってもよい)になっていれば、本願発明の範疇に含まれるものとする。
図5は、第一実施形態の懸架装置1に備えられるロアスプリングシート320の射出成型用金型500を示す図である。車両の懸架装置1に備えられるロアスプリングシート320は、この射出成型用金型500に、成型用樹脂である前記ロアスプリングシート用材料が流し込まれて成型されることで製造される。
射出成型用金型500は、上金型501及び下金型502を備える。そして、上金型501と下金型502との間に成型用樹脂を流し込み冷却固化させた後、図5に二点鎖線で示すように上金型501及び下金型502を取り外すことで、図2等に示したロアスプリングシート320が得られる。
下金型502には、図2を参照しながら説明した載置面327及びガイド部328,329に対応する位置に、凸部533及び凹部531,532が形成される。また、シートラバー固定部324a(図4参照)が形成される位置に、凸部(図示しない)が形成される。この凸部は、射出成型用金型500の内部に形成される。従って、詳細は後記するが、上金型501の中央に形成されたスプール520から成型用樹脂が内部に流し込まれた際、この凸部を挟むようにして、径方向で外側に向かって成型用樹脂が流れることになる。また、この凸部は、射出成型用金型500を使用して製造されたロアスプリングシート320の載置面327にコイルスプリング30が載置された際に、コイルスプリング30の下方となる直下に形成される。
射出成型用金型500は、ディスクゲート方式の射出成型用の金型である。上金型501の上方には、成型用樹脂が流し込まれるスプール520と、円板状のディスク(ディスク型のライナ)521と、ゲート522,523とが形成される。このゲート522,523は、前記の図2を参照しながら説明した円筒部321の内周面321aの下方に接続される。従って、成型用樹脂は、射出成型用金型500の内部に、射出成型用金型500の中央から流し込まれる。より具体的には、射出成型用金型500において、ロアスプリングシート320の円筒部321に対応する位置から成型用樹脂であるロアスプリングシート用材料が流し込まれる。そして、流し込まれた成型用樹脂が射出成型用金型500の内部を放射状に広がって成型されることで、上面視で円形状のロアスプリングシート320が製造される。
ただし、射出成型用金型500を取り外すことで得られたロアスプリングシート320には、ゲート522,523の部分の樹脂が内周面321aに残っている。そこで、ロアスプリングシート320が射出成型用金型520から取り出された後、このゲート522,523の部分の樹脂が切断除去される。これにより、前記の図2に示したような、円筒部321の内周面321aにゲート跡321bが形成されたロアスプリングシート320が製造される。
ゲート522,523の大きさ(図5における上下方向の長さ。肉厚)は、成型用樹脂の成分によっても異なるため一概にはいえないが、成型用樹脂の流動性等を考慮して適宜設定すればよい。具体的には例えば、成型用樹脂が、熱可塑性樹脂と、無機繊維と、エラストマとを含む場合には、成型用樹脂の流動性を向上させ、かつ、切断除去されるゲートを少なくして歩留まりを良くする観点から、例えば2mm程度とすることができる。
射出成型用金型500に成型用樹脂を流し込む際、流し込まれる成型用樹脂は溶融している。成型用樹脂を溶融する際に行われる加熱温度は特に制限されず、成型用樹脂の成分に応じて適宜設定すればよい。例えば、成型用樹脂が、熱可塑性樹脂と、無機繊維と、エラストマとを含む場合には、加熱温度は例えば250℃〜350℃程度に設定することができる。
図6は、図5に示す射出成型用金型500を使用して得られたロアスプリングシート320において、成型中に射出成型用金型500の内部での樹脂の流れを示す図である。前記の図5を参照しながら説明したように、成型用樹脂は、円筒部321の下側端から射出成型用金型500に流し込まれる。そして、流し込まれた成型用樹脂は、図6において太線矢印に示すように、載置部324に対応する射出成型用金型500の内部を流れ、ロアスプリングシート320の外側に向かって流れる。そのため、成型用樹脂に含まれる無機繊維は、ロアスプリングシート320の中央から放射状に配向する。
ロアスプリングシート320には、前記のように、シートラバーを固定するシートラバー固定部324aが形成される。そして、金型500の内部には、このシートラバー固定部324aに対応する位置に凸部が形成される。そして、このシートラバー固定部324aは、シートラバーを介してコイルスプリング30が載置される載置面327に形成されている。そのため、凸部の外側(即ちシートラバー固定部324aの外側)にウェルド351が形成されたとしても、ウェルド351はコイルスプリング30の外側に形成されることになる。よって、コイルスプリング30が折損してコイルスプリング30が載置面327に衝突しても、載置面327の部分にはウェルド351が存在しないことから、ロアスプリングシート320が破損しにくい。そのため、ロアスプリングシート320の強度が高められる。
前記のように、ロアスプリングシート320は上面視で円形状である。そのため、その中央から成型用樹脂を流し込むディスクゲート方式の射出成型用金型500を使用することで、放射状に成型用樹脂が流れる際にその流れを妨げる部材が無いことから、ウェルドが形成し難い。一方で、例えばピンゲート方式等を採用すれば、射出成型用金型において一方向にのみ成型用樹脂が流れる。その結果、成型用樹脂が流し込まれるゲート部から視て、円筒部321の裏になるところでウェルドが形成し易い。その結果、このウェルドの部分の強度が低下し易くなり、ロアスプリングシート320に瞬間的に大きな荷重が作用したときに破損し易くなる。
また、このようにして製造されたロアスプリングシート320では、無機繊維の配向が放射状に揃っている。そのため、ロアスプリングシート320に大きな荷重が作用したときでも、無機繊維に比較的均等に力がかかる。この結果、無機繊維に局所的に大きな荷重がかかることが防止され、無機繊維の破損が防止される。
ただし、ディスクゲート方式で成型用樹脂を射出成型用金型500に流し込んだとしても、ゲート522,523(図4参照)からある程度遠ざかれば、無機繊維の配向が乱れやすい。しかし、そのような場合であっても、ゲート522,523を起点として、ある程度の距離では無機繊維が配向する。従って、前記の製造方法により製造されたロアスプリングシート320では、ある程度の距離では無機繊維が放射状に揃っているが、例えばその縁部等においては、その配向が放射状に揃っていない可能性がある。
どの程度の距離まで配向が揃い、どの程度よりも遠くなると配向が乱れるかは、射出条件のわずかな相違(例えば射出成型用金型500の内表面に存在するわずかな凹凸等)によって異なる可能性がある。ただ、このような場合であっても、ディスクゲート方式によりロアスプリングシート320を製造すれば、ゲート522,523を起点として、ある程度の距離では無機繊維を放射状に配向させることができる。特に、ロアスプリングシート320の縁部では、無機繊維が放射状に配向していることが好ましいものの、当該縁部において無機繊維の配向が乱れたとしても、ロアスプリングシート320の全体強度にほとんど影響はない。そのため、ディスクゲート方式によりロアスプリングシート320を製造すれば、ロアスプリングシート320の強度を十分に高めることができる。
例えばコイルスプリング30が折損した場合には、折損したコイルスプリング30は載置部327に接触する。そして、載置部327にコイルスプリング30が接触すると、載置部327には下方に向かう荷重が作用することになる。しかし、円筒部321と載置面324とのつなぎ目の部分には無機繊維が径方向に配向しているから、つなぎ目の角部を起点とする変形が生じにくい。従って、ディスクゲート方式の射出成型用金型500を使用し、少なくともある程度の距離では無機繊維を径方向に十分に配向させることで、ロアスプリングシート320の強度が高められる。これにより、特に瞬間的に大きな荷重が作用した場合にも破損し難い高強度なロアスプリングシート320が製造される。
また、仮にウェルドが形成されたとしても、一方向にのみ成型用樹脂が流れる場合と比較して(即ち例えばピンゲート方式の場合と比較して)、ゲート部からロアスプリングシート320の末端までの距離が短い。そのため、ディスクゲート方式では、溶融した成型用樹脂は、温度が大きく低下することなく末端まで流れる。これにより、成型用樹脂は高温のままウェルドの部分に到達し、ウェルドの部分での成型用樹脂同士が混ざり合い易い。そのため、ウェルドにおける強度低下が抑制され、ロアスプリングシート320の高強度化が図られる。
1 懸架装置
10 シリンダ
30 コイルスプリング
311 円筒部
320 ロアスプリングシート
321b ゲート跡
324a シートラバー固定部
500 射出成型用金型
511 凸部

Claims (5)

  1. 車両の懸架装置に備えられるロアスプリングシートを製造する方法であって、
    ディスクゲート方式の射出成型用金型の内部に、成型用樹脂であり、熱可塑性樹脂と、無機繊維と、エラストマと、を含むロアスプリングシート用材料を中央から流し込み、流し込まれた前記ロアスプリングシート用材料が前記射出成型用金型の内部を放射状に広がって成型されることでロアスプリングシートを製造することを特徴とする、ロアスプリングシートの製造方法。
  2. 前記射出成型用金型の内部には、当該射出成型用金型を使用して製造された前記ロアスプリングシートの載置面にコイルスプリングが載置された際に、当該コイルスプリングの下方となる位置に凸部又は凹部が形成され、
    前記ロアスプリングシート用材料を前記射出成型用金型の内部に流し込み成型した後、前記射出成型用金型から取り外すことで、前記コイルスプリングの下方となる位置に、前記懸架装置に備えられるシートラバーを固定するシートラバー固定部が形成されることを特徴とする、請求項1に記載のロアスプリングシートの製造方法。
  3. 前記ロアスプリングシートの中央には、前記懸架装置を構成するシリンダが挿入される円筒部が形成され、
    前記射出成型用金型において、前記ロアスプリングシートの当該円筒部に対応する位置から前記ロアスプリングシート用材料が流し込まれることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のロアスプリングシートの製造方法。
  4. 請求項1〜請求項の何れか1項に記載のロアスプリングシートの製造方法により製造されたことを特徴とする、ロアスプリングシート。
  5. 前記ロアスプリングシートの中央には、前記懸架装置を構成するシリンダが挿入される円筒部が形成され、
    当該円筒部の内周面にはゲート跡が形成されていることを特徴とする、請求項に記載のロアスプリングシート。
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