JP6830660B2 - がんの治療薬のスクリーニング方法 - Google Patents

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Description

本発明は、がんの治療薬をスクリーニングする方法に関する。
近年、がん治療において、分子標的薬、すなわち、がん細胞の増殖・進展に関わる重要な細胞内シグナルに関係するタンパク質を直接標的とした治療薬が有効であることが多く示されており、新規な創薬標的となり得るタンパク質の探索が盛んにおこなわれている。がん治療の標的候補タンパク質として、がん細胞で特有あるいは過剰に発現している遺伝子によってコードされるタンパク質が例示される。マイクロアレイ法などの網羅的解析により、このような標的候補タンパク質をコードする遺伝子を多く見出すことは可能であるが、その中から実際にがん治療の標的となり得るタンパク質をコードする真の標的遺伝子を特定するのには過度の実験を要する。
また、体細胞を初期化する技術が開発され、がん細胞を初期化する試みがなされているが(非特許文献1)、このような試みは、がん細胞そのものの性質を変えることに主眼が置かれており、がん細胞の初期化を利用したがんの治療薬のスクリーニングについての報告はない。
Kosaka T, et al, Cancer Sci. 104:1017-1026, 2013
本発明の課題は、がんの治療薬をスクリーニングする方法を提供することにある。
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、がん細胞を初期化する際に、既知標的遺伝子(即ち、がん細胞の増殖・進展に関わる重要な細胞内シグナルに関係することが既知のタンパク質をコードする遺伝子)の発現を抑制すると、初期化が亢進すること、言い換えれば、これらの標的遺伝子にコードされるタンパク質は、がん細胞としての特徴を維持し、がん細胞の運命変更を抑制する作用があることを見出した。さらに、本発明者らは、当該初期化の亢進は、トランスポーザブルエレメントの発現に依拠することを見出した。そこで、既存の分子標的薬の標的タンパク質を発現するがん細胞を、該分子標的薬と接触させて該標的タンパク質の活性を抑制したところ、トランスポーザブルエレメントの発現が上昇することを確認した。従って、有効な標的タンパク質が既知のがん細胞におけるトランスポーザブルエレメントの発現が、被験物質との接触下で増加した場合、当該被験物質が当該標的タンパク質の活性を抑制する機能を有すると確認できることが明らかとなった。また、任意のがん細胞を対象とした場合でも、被験物質が当該がん細胞におけるトランスポーザブルエレメントの発現を増加させた場合、当該被験物質は、当該がん細胞の増殖・進展に関わる細胞内シグナルに関係する何らかのタンパク質の活性を抑制する機能を有すると推定できるので、標的タンパク質(標的遺伝子)を同定することなく、がん治療薬の候補物質を直接スクリーニングすることが可能となる。
本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の方法を提供する。
[1]下記の工程を含む、がんの治療薬をスクリーニングする方法;
(i)対象となるがん細胞において、被験物質との接触下または非接触下でトランスポーザブルエレメントの発現量を測定する工程、および
(ii)被験物質との接触下において、非接触下と比較して前記トランスポーザブルエレメントの発現量が増加した場合、当該被験物質をがんの治療薬として選出する工程。
[2]前記トランスポーザブルエレメントが、レトロトランスポゾンまたはその断片である、[1]に記載の方法。
[3]前記トランスポーザブルエレメントが、内在性レトロウィルス、LINE、SINEおよびその断片から選択される少なくとも一つの配列である、[2]に記載の方法。
[4]前記トランスポーザブルエレメントが、HERV-H、HERV-W、L1-ORF2、ERVKおよびその断片から選択される少なくとも一つの配列である、[2]に記載の方法。
[5]下記の工程を含む、がん治療薬の創薬標的となり得るタンパク質の同定方法;
(i)被験タンパク質をコードする遺伝子を、発現制御可能な形態で含むがん細胞内で、該遺伝子を発現する条件下または該遺伝子の発現が抑制された条件下で、トランスポーザブルエレメントの発現量を測定する工程、および
(ii)該遺伝子の発現が抑制された条件下において、該遺伝子を発現する条件下と比較して前記トランスポーザブルエレメントの発現量が増加した場合、当該被験タンパク質をがんの治療薬の創薬標的となり得るタンパク質として選出する工程。
本発明により、標的遺伝子を同定する必要がなく、分子標的薬となるがんの治療薬を直接スクリーニングすることが可能となる。
図1Aは、EWS/ATF1の発現誘導と初期化因子の導入の方法を記載した概略図を示す。図1Bは、EWS/ATF1を発現誘導した(DOX 0.2μg/ml)場合または誘導しなかった(DOX 0μg/ml)場合における初期化因子の導入後のサルコーマ細胞株G1297の位相差顕微鏡像を示す。図1Cは、EWS/ATF1を発現誘導した(DOX 0.2または0.1μg/ml)場合または誘導しなかった(DOX 0μg/ml)場合における初期化因子の導入後のコロニー形成数を測定した結果を示す。図1Dは、サルコーマ細胞株G1297から樹立したiPS細胞株(C-1、C-2、C-3およびC-4)へ0.2μg/mlのDOX添加によるEWS/ATF1の発現誘導をRT-PCRで確認した結果を示す。図1Eは、サルコーマ細胞株G1297および同細胞株から樹立したiPS細胞株における染色体マイクロアレイ(CGHアレイ)解析の結果を示す。図1Fは、iPS細胞株(C-1、C-2、C-3およびC-4)におけるNanogの発現をRT-PCRで測定した結果(左図)およびiPS細胞株をNanogおよびDAPIで染色した染色像(右図)を示す。図1Gは、サルコーマ細胞株G1297から樹立したiPS細胞をヌードマウスの皮下に移植して形成されたテラトーマの染色像を示す。図1Hは、サルコーマ細胞株G1297から樹立したiPS細胞を胚盤胞へ注入し、発生したキメラマウスの写真を示す。図1Iは、サルコーマ細胞株G1297へ初期化因子(4F)導入後4日目にEWS/ATF1を発現誘導した(DOX 0.2または0.1μg/ml)場合または誘導しなかった(DOX 0μg/ml)場合における4F導入後10日目にSSEA1の陽性率を測定したFACSの結果を示す。図1Jは、マウス胚性線維芽細胞(MEF)へ初期化因子(4F)導入後4日目にEWS/ATF1を発現誘導した(DOX 0.2または0.1μg/ml)場合または誘導しなかった(DOX 0μg/ml)場合における4F導入後10日目にSSEA1の陽性率を測定したFACSの結果を示す。図1Kは、サルコーマ細胞株G1297へ初期化因子(4F)導入またはGFP導入後4日目にEWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合または誘導しなかった(OFF)場合において、4F導入またはGFP導入後6日目の細胞から回収したRNAを用いてマイクロアレイ解析をした結果を示す。図1Lは、EWS/ATF1の発現誘導とMYOD1を導入する方法を記載した概略図を示す。図1Mは、サルコーマ細胞株G1297へMYOD1を導入した細胞において、EWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合または誘導しなかった(OFF)場合でのMyogeninの発現をRT-PCRで測定した結果を示す。図1Nは、サルコーマ細胞株G1297へMYOD1を導入した細胞において、EWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合または誘導しなかった(OFF)場合において、Myosin heavy chain(MHC)およびDAPIで染色した染色像(左図)およびMyosin heavy chainの発現をRT-PCRで測定した結果(右図)を示す。図1 Oは、サルコーマ細胞株G1297へMYOD1導入またはGFP導入後4日目にEWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合または誘導しなかった(OFF)場合において、MYOD1導入またはGFP導入後6日目の細胞から回収したRNAを用いてマイクロアレイ解析をした結果を示す。 図2Aは、サルコーマ細胞株G1297においてEWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合または誘導しなかった(OFF)場合でのEWS/ATF1により誘導される遺伝子の転写開始サイト(TSS)(左図)およびEWS/ATF1の結合サイト(EWS/ATF1-binding sites)(右図)におけるH3K4me3およびH3K27Acに対する抗体を用いたChIP-seq解析ならびにFAIRE-seq解析の結果を示す。図中、赤色は、当該サイトでのH3K4me3(ヒストンH3の4番目のリジン残基がトリメチル化)されたヒストンの量、H3K27Ac(ヒストンH3の27番目のリジン残基がアセチル化)されたヒストンの量またはヒストンへの非結合量を意味する。図2Bは、サルコーマ細胞株G1297においてEWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合または誘導しなかった(OFF)場合での、第12染色体におけるH3K4me3およびH3K27Acに対する抗体を用いたChIP-seq解析ならびにFAIRE-seq解析の結果を示す。図中、EWS/ATF1(HA)は、EWS/ATF1の結合領域を示し、H3K4me3、H3K27AcおよびFAIREは、それぞれ、H3K4me3されたヒストンの量、H3K27Acされたヒストンの量およびヒストンへの非結合量のピークを示す。図2Cは、サルコーマ細胞株G1297においてEWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合または誘導しなかった(OFF)場合での、トランスポーザブルエレメント近辺におけるH3K9me3に対する抗体を用いたChIP-seq解析の結果を示す。図中、縦軸は、EWS/ATF1を誘導しなかった(OFF)場合のRPM (read per million)に対するEWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合のRPMの対数を示す。従って、値が高いことは、EWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合に当該領域にてH3K9me3が亢進していることを意味する。図2Dは、サルコーマ細胞株G1297にてEWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合または誘導しなかった(OFF)場合でのL1(左図)およびMMERVK10c(右図)の発現をRT-PCRで測定した結果を示す。図2Eは、サルコーマ細胞株G1297においてEWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合または誘導しなかった(OFF)場合での、EWS/ATF1により誘導される遺伝子の転写開始サイト(TSS)近辺におけるH3K9me3に対する抗体を用いたChIP-seq解析の結果を示す。図中、縦軸は、EWS/ATF1を誘導しなかった(OFF)場合のRPM (read per million)に対するEWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合のRPMの対数を示す。図2Fは、ES細胞、体細胞、サルコーマ細胞株G1297においてEWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合または誘導しなかった(OFF)場合でのERVK領域におけるCpGサイトでのReduced Representation Bisulfite Sequencing (RRBS)解析の結果を示す。 図3Aは、EWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合または誘導しなかった(OFF)場合でのES細胞のOct3/4、NanogおよびSox2結合サイトでのH3K9me3量を測定した結果を示す。図中、濃淡は、当該H3K9me3量を示す。図3Bは、EWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合または誘導しなかった(OFF)場合での筋管細胞のMYOD1結合サイトでのH3K9me3量を測定した結果を示す。図中、濃淡は、当該H3K9me3量を示す。図3Cは、EWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合または誘導しなかった(OFF)場合でのES細胞のOct3/4結合サイトでのOct3/4量を測定した結果を示す。図3Dは、サルコーマ細胞株G1297へ初期化因子(4F)導入またはGFP導入後4日目にEWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合または誘導しなかった(OFF)場合での、4F導入またはGFP導入後6日目の細胞から回収したRNAのうちOct3/4によって調整される遺伝子の発現をマイクロアレイによって解析した結果を示す。図3Eは、サルコーマ細胞株G1297へMYOD1導入した細胞においてEWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合または誘導しなかった(OFF)場合もしくは、EWS/ATF1を発現誘導(ON)し、RNAiによりSuv39h1、Suv39h2またはEzh2の発現を抑制した場合でのMyogeninの発現をRT-PCRで測定した結果を示す。図3Fは、サルコーマ細胞株G1297へMYOD1導入またはGFP導入後4日目にEWS/ATF1を発現誘導(ON)させ、Suv39h1の発現抑制した(siSuv39h1)場合または発現抑制しなかった(siControl)場合でのMYOD1導入またはGFP導入後6日目の細胞から回収したRNAを用いてマイクロアレイ解析をした結果を示す。図3Gは、図3Fの結果において、Suv39h1の発現抑制した場合に発現が増加した遺伝子のgene ontology (GO) termを示す。 図4Aは、MP-CCS-SY細胞株へ初期化因子、MYOD1またはGFPおよびsiRNAの導入の方法を記載した概略図を示す。図4Bは、MP-CCS-SY細胞株へ初期化因子(+4F)またはGFPを導入した場合における、RNAiによりEWS/ATF1の発現抑制した(siEWS/ATF1)場合または発現抑制しなかった(siControl)場合でのPODXLの発現をRT-PCRで測定した結果(左図)、およびMP-CCS-SY細胞株へMYOD1またはGFPを導入した場合における、RNAiによりEWS/ATF1の発現抑制した(siEWS/ATF1)場合または発現抑制しなかった(siControl)場合でのMyogeninの発現をRT-PCRで測定した結果(右図)を示す。図4Cは、HCC827またはSK-BR3細胞株へ初期化因子の導入および各薬剤の添加方法を記載した概略図を示す。図4Dは、SK-BR3細胞株へ初期化因子を導入した(Dox(4F)+)場合または導入しなかった(Dox(4F)-)場合におけるDMSO、5FUまたはLapatinib(Lap)を添加した場合でのPODXLの発現をRT-PCRで測定した結果(左図)、およびHCC827細胞株へ初期化因子を導入した(Dox(4F)+)場合または導入しなかった(Dox(4F)-)場合における、DMSO、5FUまたはGefitinib(Gef)を添加した場合でのPODXLの発現をRT-PCRで測定した結果(右図)を示す。図4Eは、SK-BR3細胞株へ初期化因子を導入した(Dox(4F)+)場合または導入しなかった(Dox(4F)-)場合におけるLapatinib(Lap)またはDMSOを添加した場合でのマイクロアレイ解析の結果(左図)、およびHCC827細胞株へ初期化因子を導入した(Dox(4F)+)場合または導入しなかった(Dox(4F)-)場合における、Gefitinib(Gef)またはDMSOを添加した場合でのマイクロアレイ解析の結果(右図)を示す。図4Fは、SK-BR3細胞株にてLapatinib(Lap)またはDMSOを添加した場合でのL1 OFR2(左図)およびHERV-W(右図)の発現をRT-PCRで測定した結果を示す。図4Gは、HCC827細胞株にてGefitinib(Gef)またはDMSOを添加した場合でのL1 OFR2(左図)およびHERV-W(右図)の発現をRT-PCRで測定した結果を示す。図4Hは、SK-BR3細胞株へ初期化因子を導入した(Dox(4F)+)場合または導入しなかった(Dox(4F)-)場合におけるLapatinib(Lap)またはDMSOを添加した場合でのHERVH関連遺伝子についてマイクロアレイ解析をした結果を示す。図4Iは、SK-BR3細胞株へLapatinib(Lap)またはDMSOを添加した場合での全ての遺伝子またはHERVH関連遺伝子の発現についてマイクロアレイ解析をした結果(左図)およびHCC827細胞株へGefitinib(Gef)またはDMSO添加した場合での全ての遺伝子またはHERVH関連遺伝子の発現についてマイクロアレイ解析をした結果(右図)を示す。 図5Aは、サルコーマ細胞株G1297へドキシサイクリン(DOX) 0、0.1、0.2、1または2μg/mlを添加して培養した際の増殖曲線を示す。図5Bは、サルコーマ細胞株G1297へ初期化因子を導入した(+4F)場合または導入しなかった(-4F)場合において、EWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合または誘導しなかった(OFF)場合でのOct3/4量をウェスタンブロッティング法で測定した結果を示す。図5Cは、EWS/ATF1を発現誘導しなかった(DOX 0μg/ml)場合における初期化因子の導入後に樹立されたiPS細胞の位相差顕微鏡像を示す。図5Dは、サルコーマ細胞株G1297においてEWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合または誘導しなかった(OFF)場合でのOct3/4およびNanogの発現量をRT-PCR法で測定した結果を示す。図中、ESC(ES細胞)は陽性対照として用いた。図5Eは、EWS/ATF1の発現誘導と初期化因子の導入の方法を記載した概略図を示す。図5Fは、サルコーマ細胞株G1297へ初期化因子を導入した(+4F)細胞または導入しなかった(GFP)細胞において、EWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合または誘導しなかった(OFF)場合でのCadh1(左図)およびEpcam(右図)の発現をRT-PCRで測定した結果を示す。 図6Aは、サルコーマ細胞株G1297においてEWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合または誘導しなかった(OFF)場合での全遺伝子の転写開始サイト(TSS)におけるH3K4me3およびH3K27Acに対する抗体を用いたChIP-seq解析ならびにFAIRE-seq解析の結果を示す。図6Bは、サルコーマ細胞株G1297においてEWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合または誘導しなかった(OFF)場合でのERVKの転写開始サイト(TSS)近辺におけるH3K9me3に対する抗体を用いたChIP-seq解析の結果を示す。図中、縦軸は、EWS/ATF1を誘導しなかった(OFF)場合のRPM (read per million)に対するEWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合のRPMの対数を示す。従って、値が高いことは、EWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合において当該領域でのH3K9me3が亢進していることを意味する。図6Cは、サルコーマ細胞株G1297においてEWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合または誘導しなかった(OFF)場合での第15染色体におけるH3K9me3に対する抗体を用いたChIP-seq解析の結果を示す。LTR/ERVKの転写領域を下図に示す。図6Dは、サルコーマ細胞株G1297においてEWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合または誘導しなかった(OFF)場合での、トランスポーザブルエレメント近辺およびEWS/ATF1により誘導される遺伝子の転写開始サイト(TSS)におけるH3K9me3に対する抗体を用いたChIP-seq解析(ランダムマッピング法)の結果を示す。図中、縦軸は、EWS/ATF1を誘導しなかった(OFF)場合のRPM (read per million)に対するEWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合のRPMの対数を示す。従って、値が高いことは、EWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合に当該領域にてH3K9me3が亢進していることを意味する。 図7Aは、ES細胞、体細胞、サルコーマ細胞株G1297においてEWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合または誘導しなかった(OFF)場合での転写開始サイト(TSS)、EWS/ATF1結合サイト、Oct3/4結合サイト、Sox2結合サイトおよびNanog結合サイトにおけるCpGサイトでのReduced Representation Bisulfite Sequencing (RRBS)解析の結果を示す。図7Bは、EWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合または誘導しなかった(OFF)場合での神経幹細胞のAscl1結合サイトでのH3K9me3量を測定した結果を示す。図中、濃淡は、当該H3K9me3量を示す。図7Cは、EWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合または誘導しなかった(OFF)場合でのES細胞のOct3/4結合サイトにおけるH3K4me3およびH3K27Acに対する抗体を用いたChIP-seq解析ならびにFAIRE-seq解析の結果(左図)および筋管細胞のMyoD1結合サイトにおけるH3K4me3およびH3K27Acに対する抗体を用いたChIP-seq解析ならびにFAIRE-seq解析の結果(右図)を示す。 図8Aは、ChIP解析のためのEWS/ATF1を発現誘導と初期化因子の導入の方法を記載した概略図を示す。図8Bは、サルコーマ細胞株G1297へMyoD1導入またはGFP導入後4日目にEWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合、または誘導しなかった(OFF)場合におけるMyoD1導入またはGFP導入後6日目の細胞から回収したRNAのうち、MyoD1によって調整される遺伝子の発現をマイクロアレイによって解析した結果を示す。図8Cは、サルコーマ細胞株G1297へEWS/ATF1を発現誘導した(ON)場合または誘導しなかった(OFF)場合における、ヒストン修飾酵素(Suv39h1、Suv39h2、Eed、Suz12およびEzh2)の発現をRT-PCRで確認した結果を示す。各ヒストン修飾酵素において、左のバーはEWS/ATF1を発現誘導したもの(EWS/ATF1 ON)、右のバーはEWS/ATF1を発現誘導しなかったもの(EWS/ATF1 OFF)を示す。 図9Aは、RT-PCR解析のためのEWS/ATF1を発現誘導とMyoD1の導入および各siRNAの導入の方法を記載した概略図ならびに各ヒストン修飾酵素(Suv39h1、Suv39h2、Ezh2、Suz12およびEed)の発現抑制の効果を示す。図9Bは、サルコーマ細胞株G1297にてRNAiによりSuv39h1またはEzh2の発現抑制を行った場合におけるL1 promoterの発現をRT-PCRで測定した結果を示す。図9Cは、初期化因子を導入するためのPiggyBacベクターのコンストラクトおよびSK-BR3へ導入後の細胞の位相差像および蛍光像を示す。 図10は、A549細胞株へ初期化因子を導入した(Dox(4F)+)場合または導入しなかった(Dox(4F)-)場合におけるDMSO、5FU(1mMまたは10mM)またはGefitinib(Gef)(10mMまたは50mM)を添加した場合でのPODXLの発現をRT-PCRで測定した結果を示す。 図11Aは、H2228およびKBM7へのレトロウィルスによる初期化因子(4F)の導入と、抗がん剤(Alectinib、Imatinib)の導入の方法を記載した概略図を示す。図11Bは、H2228およびKBM7へ初期化因子を導入した場合において、H2228にAlectinib(0μM(control)、1μMまたは10μM)を添加した場合、およびKBM7にImatinib(0μM(control)を添加)、1μMまたは10μM)を添加した場合でのL1の発現をRT-PCRで測定し、転写レベルをGAPDH値で標準化した結果を示す。 図12Aは、マウスサルコーマ細胞株G1297へEWS/ATF1を発現誘導した(DoxON)場合または誘導しなかった(DoxOFF)場合において、それぞれ初期化因子を導入した(+4F)場合または導入しなかった場合での第8染色体のERVK遺伝子座におけるRNA-seq解析の結果を示す。図12Bは、DoxONおよびDoxOFFの場合におけるERVKの発現をRT-PCRで測定し、転写レベルをβ-アクチン(Actb)値で標準化した結果を示す。
本発明は、下記の工程を含む、がんの治療薬をスクリーニングする方法を提供する;
(i)対象となるがん細胞へ、被験物質との接触下でトランスポーザブルエレメントの発現を測定する工程、および
(ii)被験物質と接触させる条件下において、接触させない条件下より前記トランスポーザブルエレメントの発現が増加した場合、当該被験物質をがんの治療薬として選出する工程。
がん細胞
本発明において、がんとは、悪性腫瘍を意味し、癌腫(上皮細胞由来の悪性腫瘍)、肉腫、その他白血病などを含み、特定のがんに限定されない。また、本発明で用いるがん細胞とは、悪性腫瘍を構成する細胞であり、株化された細胞であっても生体内から単離された細胞であってもよい。また、本発明で用いるがん細胞は、有効な標的タンパク質が既知(即ち、ある既存の分子標的薬に対して感受性であることが既知)のがん細胞(例えば、EWS/ATF1融合遺伝子強制発現がん細胞、ゲフィチニブ感受性の変異EGFR発現がん細胞、ラパチニブ感受性のHER2-増幅がん細胞、アレクチニブ感受性のEML4-ALK融合遺伝子発現がん細胞、イマチニブ感受性の慢性骨髄性白血病細胞など)であってもよいし、有効な標的タンパク質が不明のがん細胞であってもよい。
被験物質
本発明のスクリーニング方法においては、任意の被験物質を用いることができ、いかなる公知化合物および新規化合物であってもよく、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、微生物発酵産物、海洋生物由来の抽出物、植物抽出物、核酸(特にsiRNA)、精製タンパク質または粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成低分子化合物、天然化合物等が挙げられる。本発明において、被験物質はまた、(1)生物学的ライブラリー法、(2)デコンヴォルーションを用いる合成ライブラリー法、(3)「1ビーズ1化合物(one-bead one-compound)」ライブラリー法、及び(4)アフィニティクロマトグラフィ選別を使用する合成ライブラリー法を含む当技術分野で公知のコンビナトリアルライブラリー法における多くのアプローチのいずれかを使用して得ることができる。アフィニティクロマトグラフィ選別を使用する生物学的ライブラリー法はペプチドライブラリーに限定されるが、その他の4つのアプローチはペプチド、非ペプチドオリゴマー、または化合物の低分子化合物ライブラリーに適用できる(Lam (1997) Anticancer Drug Des. 12: 145-67)。分子ライブラリーの合成方法の例は、当技術分野において見出され得る(DeWitt et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6909-13; Erb et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91: 11422-6; Zuckermann et al. (1994) J. Med. Chem. 37: 2678-85; Cho et al. (1993) Science 261: 1303-5; Carell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2059; Carell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2061; Gallop et al. (1994) J. Med. Chem. 37: 1233-51)。化合物ライブラリーは、溶液(Houghten (1992) Bio/Techniques 13: 412-21を参照のこと)またはビーズ(Lam (1991) Nature 354: 82-4)、チップ(Fodor (1993) Nature 364: 555-6)、細菌(米国特許第5,223,409号)、胞子(米国特許第5,571,698号、同第5,403,484号、及び同第5,223,409号)、プラスミド(Cull et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 1865-9)若しくはファージ(Scott and Smith (1990) Science 249: 386-90; Devlin (1990) Science 249: 404-6; Cwirla et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 6378-82; Felici (1991) J. Mol. Biol. 222: 301-10; 米国特許出願第2002103360号)として作製され得る。
がん細胞と被験物質の接触は、がん細胞の培養液へ適宜被験物質を添加することによって行われても良く、本発明において、がん細胞の培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えばIMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、培地は、例えば、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン、脂肪酸、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオールグリセロール、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、サイトカインなどの1つ以上の物質も含有し得る。
培養温度、CO濃度等の他の培養条件は適宜設定できる。培養温度は、特に限定されるものではないが、例えば約30〜40℃、好ましくは約37℃である。また、CO濃度は、例えば約1〜10%、好ましくは約5%である。O2濃度は、1〜20%である。また、O濃度は、1〜10%であってもよい。
がん細胞と被験物質の接触時間は特に限定されないが、1時間、2時間、6時間、12時間、1日、1.5日、2日またはそれ以上が例示される。
エピジェネティック修飾は、メチル化DNAを濃縮する方法、バイサルファイト処理による塩基置換を利用する方法、またはメチル化感受性の制限酵素を利用する方法により、DNAのメチル化を解析する方法や、解析目的の修飾ヒストン抗体でクロマチン免疫沈降法(ChIP)を行い、濃縮物をRT-PCRや次世代シークエンサーにより解析する方法(ChIP-seq解析)、ゲノム上のオープンクロマチン領域を、FAIRE法で抽出し次世代シークエンサーを用いて解析する方法(FAIRE-seq解析)などにより解析することができる。
トランスポーザブルエレメント
本発明において、トランスポーザブルエレメントとは、可動遺伝因子またはトランスポゾンと呼ばれるゲノム上を移動または複写されゲノム内へ挿入される遺伝子配列を意味する。本発明のがんの治療薬のスクリーニングの指標として用いる好ましいトランスポーザブルエレメントは、レトロトランスポゾンである。本発明において、レトロトランスポゾンとは、RNAに複写される配列であることから、当該複写されたRNAを指標として用いることができる。本発明において、レトロトランスポゾンは、LTR(long terminal repeat)型レトロトランスポゾン(内在性レトロウィルス)と非 LTR 型レトロトランスポゾンを含む。LTR型レトロトランスポゾンとして、HERV-E、HERV-F、HERV-H、HERV-K、HERV-L、HERV-T、HERV-W、HERV-FRD、ERV9、HML-1、HML-2、HML-3、HML-4、HML-5、HML-6、HML-9HML-10およびERVKから成る群より選択される遺伝子が例示され、非 LTR 型レトロトランスポゾンとして、LINE(長鎖散在反復配列)またはSINE(短鎖散在反復配列)が例示される。LINEとして、オープンリーディングフレーム(ORF)1とORF2というエンドヌクレアーゼ/逆転写酵素をコードするLINE-1 (L1) レトロトランスポゾンが例示される。
当該トランスポーザブルエレメントの配列は、適宜、NCBIのデータベースより入手でき、この配列情報を用いて、トランスポーザブルエレメントまたはその断片の発現量を逆転写酵素PCR分析、定量的な逆転写酵素PCR分析、ノーザン・ブロット分析、免疫組織化学、アレイ分析、RNA-seq解析およびそれらの組合せによって測定することができる。また、トランスポーザブルエレメントまたはその断片の発現は、DNAのメチル化やヒストン修飾などのエピジェネティック修飾の解析により評価することができる。
がんの治療薬をスクリーニングするためのキット
本発明において、がんの治療薬をスクリーニングするためのキットは、上述したトランスポーザブルエレメントの発現量を測定するために用いるプライマーまたはプローブを含む。
本発明において、がんの治療薬をスクリーニングするためのキットは、さらに、測定手順を記載した書面や説明書を含んでもよい。あるいは有効な標的タンパク質(ここで、有効な標的タンパク質とは上記と同義である)の異なる種々のがん細胞のパネルをさらに含んでもよい。
本発明の別の側面においては、がん治療薬の創薬標的となり得るタンパク質の同定方法が提供される。本同定方法は下記の工程:
(i)被験タンパク質をコードする遺伝子(候補遺伝子)を、発現制御可能な形態で含むがん細胞内で、候補遺伝子を発現する条件下または該遺伝子の発現が抑制された条件下で、トランスポーザブルエレメントの発現量を測定する工程、および
(ii)候補遺伝子の発現が抑制された条件下において、該遺伝子を発現する条件下と比較して前記トランスポーザブルエレメントの発現量が増加した場合、当該被験タンパク質をがんの治療薬の創薬標的となり得るタンパク質として選出する工程
を含むことを特徴とする。
ここで、候補遺伝子としては、がん細胞における遺伝子発現をマイクロアレイ等を用いて網羅的に解析した結果同定される、がん細胞に特有に発現している遺伝子やがん細胞で高発現している遺伝子が挙げられる。
また、発現制御可能な形態とは、候補遺伝子の発現のON/OFFが可能な形態を意味し、例えば、候補遺伝子が、誘導プロモーター(例、メタロチオネインプロモーター(重金属イオンで誘導)、ヒートショックタンパク質プロモーター(ヒートショックで誘導)、Tet-ON/Tet-OFF系プロモーター(テトラサイクリン又はその誘導体の添加又は除去で誘導)、ステロイド応答性プロモーター(ステロイドホルモン又はその誘導体で誘導)等)の制御下におかれた発現ベクター等が挙げられる。
トランスポーザブルエレメントの発現の確認・評価については、上記したがん治療薬のスクリーニング方法と同様である。
本発明を以下の実施例でさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はそれら実施例によってなんら限定されるものではない。
がん細胞の初期化に対するがん遺伝子の効果を調べるため、Yamada K, et al, J Clin Invest. 123:600-610, 2013に記載のEWS/ATF1融合遺伝子をドキシサイクリン(Dox)依存的に誘導可能なマウスサルコーマ細胞株(G1297株とも称す)を用いた。なお、当該サルコーマ細胞は、EWS/ATF1の発現停止によりin vitroでの増殖停止およびin vivoでの腫瘍の退縮が確認されている。
0.2 μg/mlのドキシサイクリン添加によるEWS/ATF1を発現誘導することでマウスES細胞の増殖に影響が出ないことから、EWS/ATF1は、導入した初期化因子の発現量に影響を与えないことを確認した(図5A、図5Bおよび図5D)。
続いて、G1297に初期化因子を導入することにより、G1297が初期化されるのか否かについて確認した。EWS/ATF1を発現させたサルコーマ細胞では、初期化因子(4F:Oct3/4, Sox2, Klf4, および c-Myc)をレトロウィルスにより導入してもiPS細胞様コロニーは観察されなかった。一方、EWS/ATF1の発現を停止させた場合は、4Fの発現によりiPS細胞様コロニーが確認された(図1A〜C)。このiPS細胞様コロニーをピックアップすることによりiPS細胞様細胞株を樹立した(図5C)。なお、iPS細胞の誘導は、次の方法により行った。Oct3/4、Sox2、Klf4およびc-MycをpMXs-basedレトロウィルスベクターを用いて、それぞれPlat-E細胞へ導入し、ウィルス含有上清を回収し、0.45μmセルロースアセテートフィルターでろ過した。G1297を60-mmディッシュあたり8×105の細胞を播種し、ウィルス含有上清を用いて感染させ、感染後3日目にLIF含有ES培地に交換し培養した。
樹立したiPS細胞様細胞株は、親サルコーマ細胞と同様にドキシサイクリン依存的にEWS/ATF1を発現することが確認された(図1D)。さらに、いくつかの染色体異常も同様に観察され、当該iPS細胞様細胞株がサルコーマ細胞由来であることが確認された(図1E)。当該サルコーマ細胞由来のiPS細胞様細胞における、Nanogおよび内在性のOct3/4 (Pou5f1)などの多能性関連遺伝子の発現をES細胞と比較したところ、大きな違いは見られなかった(図1Fおよび図5D)。なお、RT-PCRは次の方法を用いて行った。RNeasy Plus Mini kit (Qiagen, Hilden, Germany)を使用して全RNAを単離した。Go-taq qPCR Master Mix(Promega, Madison, USA)を使用して定量的real-time PCR解析を行った。転写レベルをβ-actinまたはGAPDH値で標準化した。
サルコーマ細胞の初期化の効率は、0.06%であり、このことは、MEFの初期化効率よりも低いことが示された。得られたiPS細胞様細胞を免疫不全マウスの皮下に投与したところ、テラトーマが形成され、さらに、胚盤胞に注入することでキメラマウスを作成できた(図1Gおよび図1H)。
以上より、EWS/ATF1発現依存性サルコーマ細胞では、EWS/ATF1の発現を抑制することで初期化により多能性細胞を得られることが確認された。この結果は、EWS/ATF1発現依存性サルコーマ細胞の初期化において、EWS/ATF1は抑制的に働くことを示している。
続いて、EWS/ATF1を介したがん細胞の初期化不全のメカニズムを解析した。まず、SSEA1陽性細胞の発生をFACS解析することで初期化の早期における現象を確認した(図1I)。その結果、SSEA1陽性細胞数は、Dox濃度依存的に減少することが確認された。このことから、EWS/ATF1は、初期化の早期段階から阻害することが示唆された。また、線維芽細胞の初期化における最初の事象である間葉-上皮移行のマーカーの発現をマイクロアレイによって調べたところ、EWS/ATF1の発現抑制後、これらの遺伝子が有意に上昇することが確認された。一方、EWS/ATF1の発現は、MEFでは、初期化によるSSEA1陽性細胞の発生を抑制していないことから(図1J)、EWS/ATF1の発現はサルコーマ細胞に特異的な初期化抑制をもたらすことが示唆された。
がん遺伝子の発現が、4Fの導入時の転写応答においていかなる影響を与えるかを調べるため、4Fを導入した際のサルコーマ細胞(4F−サルコーマ細胞)または陰性対照としてGFPを導入した際のサルコーマ細胞のマイクロアレイ解析をEWS/ATF1の発現させた場合と発現させなかった場合それぞれについて行った(図5E)。なお、マイクロアレイ解析は、Mouse Gene 1.0 ST Array (Affymetrix Inc., Santa Clara, USA)を使用して行った。すべてのデータ解析は、GeneSpring GX software program (version 12; Agilent Technology, Santa Clara, USA)を使用して行った。
その結果、4F−サルコーマ細胞においてEWS/ATF1の発現を抑制することで多くの遺伝子が上昇または下降することが確認された(図1K)。発現が変化した遺伝子は、EWS/ATF1を発現した4F-サルコーマ細胞においても同様に上昇または下降していたが、EWS/ATF1が発現していない4F-サルコーマ細胞に比べて、変化の違いは小さかった(図5F)。以上より、EWS/ATF1の発現は、サルコーマ細胞における運命変更を抑制していることが示唆された。
さらにMYOD1の導入による骨格筋分化誘導へのEWS/ATF1の発現の影響を調べた(図1L)。その結果、初期骨格筋分化マーカーであるMyogenin(MYOG)の発現が、MYOD1導入サルコーマ細胞(MYOD1−サルコーマ細胞)においてEWS/ATF1発現抑制後、有意に上方制御されていることが確認された(図1M)。また、MHC(myosin heavy chain)陽性細胞は、EWS/ATF1 が発現していないMYOD1−サルコーマ細胞において有意に増加していた(図1N)。MYOD1の導入による初期転写応答をマイクロアレイ法で分析したところ、EWS/ATF1発現したサルコーマ細胞と比べて、EWS/ATF1を発現しない細胞では、MYOD1の導入による遺伝子変化数が増加した(図1 O)。骨格筋分化誘導関連遺伝子(例えば、Myogenin)は、EWS/ATF1の発現抑制されたサルコーマ細胞においてMYOD1の導入により大きく上方制御されることが示された。一方、筋細胞の分化形質転換は、EWS/ATF1発現により抑制されることが確認された。
以上の結果より、EWS/ATF1の発現は、細胞運命を変える外来性の転写因子に対する転写応答を制限することが示唆された。
このような転写制御は、エピジェネティック制御が深く関与していると考えられることから、EWS/ATF1発現依存性サルコーマ細胞におけるEWS/ATF1の発現によって調節されるエピジェネティック修飾を調べた。
まず、EWS/ATF1発現の効果をChIP-seq解析およびFAIRE-seq解析を用いて調べた(図2Aおよび図6A)。前述のようにEWS/ATF1のターゲット遺伝子の発現が上方に制御をされているにもかかわらず、EWS/ATF1により誘導された遺伝子の転写開始サイト(TSS)では、活性化プロモーターの指標であるH3K4me3は、変化が観察されなかった。しかし、EWS/ATF1の発現により、TSS ではなくTSSから離れたEWS/ATF1の結合サイトにおける、活性化エンハンサーの指標であるH3K27Acの促進は確認された。以上の結果より、遠位制御サイトにおいてエンハンサー活性が転写の増加に関連していることが示唆された。
FAIRE-seq解析により、EWS/ATF1の発現によるオープンクロマチンのピークは、EWS/ATF1結合サイトにあること、およびEWS/ATF1の発現抑制によりこのオープンクロマチンピークが消えることが確認された(図2B)。この結果は、EWS/ATF1結合サイトでのエピジェネティック修飾による活性化が、転写の増加に密接に関連していることを示唆している。
続いて、抑制型ヒストンマーカーに注目して解析を行った。EWS/ATF1の発現は、EWS/ATF1発現依存性サルコーマ細胞のトランスポーザブルエレメント(ERVs, LINEsおよびSINEs)においてH3K9me3を増加させることが見出された(図2C、図6B、図6Cおよび図6D)。このことから、EWS/ATF1発現依存性サルコーマ細胞においてEWS/ATF1の発現を抑制し、トランスポーザブルエレメントの発現を確認したところ、トランスポーザブルエレメントであるL1およびMMERVK10cの発現が増加することが確認された(図2D)。さらに、TSS領域でH3K9me3を確認したところ、EWS/ATF1の発現により適度な増幅を引き起こすことが見出された(図2E)。一方、RRBS(Reduced Representation Bisulfite Sequencing)分析を行ったところ、ERVs、TSS領域、Oct3/4結合サイト、Nanog結合サイトおよび Sox2結合サイトにおける、EWS/ATF1発現の有無によるDNAメチル化のレベルの違いは見出されなかった(図2Fおよび図7A)。
以上の結果は、EWS/ATF1が活性と抑制のヒストン修飾の両方を誘導することから、EWS/ATF1を発現するサルコーマ細胞では、複雑なヒストンのメチル化修飾を有することを示唆している。
トランスポーザブルエレメントは、細胞を特徴づける転写ネットワークに重要な役割を果たす主要な転写因子の結合サイトを有することから、EWS/ATF1発現の効果を調べた。ES細胞の多能性を維持するためのコア制御ネットワークは、Oct3/4, Nanog, および Sox2を介した協調的な活性化からなることが報告されている。そこで、ES細胞のOct3/4、Nanogおよび Sox2の結合サイトでのH3K9me3修飾へのEWS/ATF1の影響を調べたところ、H3K9me3が増加することが見出された(図3A)。同様に、神経幹細胞におけるAscl1結合サイトおよび筋管におけるMyoD1結合サイトにおいて、EWS/ATF1の発現によりH3K9me3が亢進することも見出された(図3Bおよび図7B)。
一方、ES細胞のOct3/4結合サイトおよび筋管のMyoD1結合サイトにおける活性型ヒストンマーカーであるH3K4me3 および H3K27Acの量は、EWS/ATF1の発現によって変化しなかった(図7C)。同様に、オープンクロマチンピークも変化しなかった(図7C)。これらの結果より、EWS/ATF1の発現が、H3K9me3を亢進して細胞の運命決定因子の発現を抑制する可能性があることが示唆された。
EWS/ATF1と導入初期化因子の結合を調べるために、V5でタグ化したOct3/4をSox2、Klf4および c-Mycとともに導入し、抗V5抗体を使用してChIP-seq解析を行った(図8A)。その結果、ES細胞のOct3/4 結合サイトへのV5タグ化Oct3/4結合は、EWS/ATF1の発現によって抑制されなかった(図3C)。
続いて、Oct3/4結合サイトに隣接する遺伝子の発現をEWS/ATF1の発現の有無において、マイクロアレイ解析を行ったところ、EWS/ATF1を発現しない4F−サルコーマ細胞において多くのOct3/4結合サイトに隣接する遺伝子が上方または下方制御されていたが、EWS/ATF1が発現する場合には、上方または下方制御される遺伝子の数が制限された(図3D)。同様に、MyoD1結合サイトに関連する転写活性化は、EWS/ATF1が発現する場合、抑制されていることが確認された(図8B)。
H3K9me3の関係を調べるため、EWS/ATF1の発現とヒストンメチルトランスフェラーゼの発現量の関係を調べた。その結果、H3K9メチルトランスフェラーゼであるSuv39h1/Suv39h2およびH3K27メチルトランスフェラーゼであるEzh2が、EWS/ATF1の発現によって上方制御されることが確認された(図8C)。
続いて、これらのメチルトランスフェラーゼのEWS/ATF1による発現誘導を抑制した場合のMYOD1の制御遺伝子の発現を調べた。実験方法および各メチルトランスフェラーゼのsiRNAの効果を(図9A)に記載した。その結果、サルコーマ細胞においてSuv39h1をノックダウンすると、L1の発現が増加した(図9B)。また、Suv39h1およびSuv39h2をノックダウンすると、EWS/ATF1が発現していても、Myogeninの発現誘導を有意に増加させた(図3E)。さらに、Suv39h1を抑制し、MYOD1を導入または導入しなかった場合の遺伝子変化をマイクロアレイ法により解析したところ、Myogeninを含むMYOD1によって誘導される遺伝子の発現量が増加することが明らかとなった(図3F)。一方、Ezh2 または Eedをノックダウンした場合であっても、MYOD1によってMyogeninの発現が誘導されなかった。この結果より、EWS/ATF1によりH3K9メチルトランスフェラーゼの発現が誘導されることによって、サルコーマ細胞において、細胞の運命を決定づける遺伝子の転写を抑制することが示唆された。
次に、ヒト明細胞肉腫(CCS)細胞株の初期化におけるEWS/ATF1の発現の効果を調べた。4Fを導入したCCS細胞においてEWS/ATF1をノックダウンしたところ(図4A)、ヒト初期化の初期マーカーであるTRA-1-60をコードするPODXLの発現を増加させたが(図4B)、完全に初期化されたiPS細胞を樹立することはできなかった。同様に、MYOD1を導入したCCS細胞においてEWS/ATF1をノックダウンしたところ、MYOGの発現の増加が認められた(図4B)。
この他にも、がん遺伝子のシグナル活性化が、細胞の初期化に与える影響を調べた。上皮増殖因子レセプター(EGFR)変異肺がん細胞株HCC827およびHER2−増幅乳がん細胞株SK-BR-3を実験に使用した。なお、これらのがん細胞株は、それぞれEGFR特異的チロシンキナーゼおよびHER2チロシンキナーゼ阻害剤に感受性である。HCC827およびSK-BR-3へDox誘導性4FをPBトランスポゾンを用いて導入し(図9C)、それぞれEGFRチロシンキナーゼ阻害剤であるgefitinibおよびHER2チロシンキナーゼ阻害剤lapatinibの初期化に対する効果を調べた(図4C)。その結果、4F導入SK-BR-3において、lapatinibを50%阻害濃度(IC50)で処置したところ、初期化マーカーであるPODXLの発現を促進したが(図4D)、ヒトがん細胞株から完全に初期化されたiPS細胞の樹立までは成功しなかった。一方、5-フルオロウラシル(5FU)をIC50濃度で処置してもPODXLの発現は増加しなかった(図4D)。同様に、4Fを導入したHCC827において、gefitinibをIC50濃度で処置したところ、PODXLの発現を促進したが、5FUをIC50濃度で処置してもPODXLの発現は増加しなかった(図4D)。一方、野生型EGFRを有する肺がん細胞株A549では、4F導入時のgefitinib処置によってもPODXLの発現は上昇しなかった(図10)。マイクロアレイ解析によって、HCC827 およびSK-BR-3への4Fの導入時または非導入時の遺伝子発現変化を調べた。それぞれgefitinibおよびlapatinibで処置したところ、PODXLやNANOGを含む多くの遺伝子が上方または下方制御されることが明らかとなった(図4E)。これらの結果により、主要ながん遺伝子シグナルが、安定的な転写ネットワークを介してがん細胞の特徴を維持することが示唆された。
次に、HCC827、SK-BR-3およびG1297以外のがん細胞についても、本発明のスクリーニング方法に適用可能であるかについて評価した。すなわち、既知のがん細胞種である、EML4-ALK融合遺伝子を発現する非小細胞肺がん細胞株H2228、および慢性骨髄性白血病細胞株KBM7を用いて評価した。ここで、H2228細胞株はALK阻害剤であるAlectinibに感受性を示すこと、KBM7細胞株はBcr-Ablチロシンキナーゼ阻害薬であるImatinibに感受性を示すことが知られている。H2228およびKBM7へ初期化因子(4F:Oct3/4、Sox2、Klf4およびc-Myc)をレトロウィルスによって導入し、感染1日目に、H2228の培養培地に1μMまたは10μMとなるようにAlectinibを添加し、一方でKBM7の培養培地に1μMまたは10μMとなるようにImatinibを添加した。感染後3日目にそれぞれAlectinib(1μM、10μM)およびImatinib(1μM、10μM)を含有したRPMI1640+10%FBS, GlutaMax, PS(ペニシリン、ストレプトマイシン)培地(H2228用)、IMDM+10%FBS, GlutaMax, PS培地(KBM7用)に交換し、2日後(感染から5日目後)にRNeasy Plus Mini Kit (Qiagen, Hilden, Germany)を使用して全RNAを抽出し、Go-Taq qPCR Master Mix (Promega, Madison, USA)を使用して定量的RT-PCR解析を行い、転写レベルをGAPDH値で標準化した(図11A)。結果を図11Bに示す。H2228初期化細胞株では、1μM Alectinib処理を行った場合に、LINE1(L1)トランスポーザブルエレメントの発現上昇が認められた。また、KBM7初期化細胞株では、Imanitibの濃度依存的にL1トランスポーザブルエレメントの発現上昇が認められた。
以上の結果より、本発明のスクリーニング方法に使用できるがん細胞は、特定の細胞種に限定されず、広く様々ながん細胞種に適用が可能であることが示唆された。
ChIP-seq解析によって、SK-BR-3およびHCC827において、それぞれlapatinibおよびgefitinibで処置したところ、トランスポーザブルエレメントでH3K9me3が減少することが明らかとなった。同様に、トランスポーザブルエレメント(L1またはHERV-Wの発現量が増加した(図4F、図4G)。マイクロアレイ解析によって、SK-BR-3およびHCC827 への4Fの導入時または非導入時のHERVH関連遺伝子の発現変化を調べたところ、それぞれlapatinibおよびgefitinibで処置することにより、HERVH関連遺伝子が上方制御されることが明らかとなった(図4Hおよび図4I)。特に、HERVH関連遺伝子が、4Fの導入によるヒトがん細胞における薬剤によるがん遺伝子シグナルの阻害により、あらゆる遺伝子の中で優先的に影響を受けることが確認された(図4I)。
さらに、G1297株の発現解析から、EWS/ATF1の発現抑制時に発現誘導が認められるトランスポーザブルエレメントの同定を試みた。実験手順は、図5Eの概略図と同じであり、Dox添加によりEWS/ATF1を発現させたG1297株に、初期化因子(+4F)またはGFPをレトロウィルスにより導入し、導入4日後にDox添加を停止した細胞(DoxOFF)と、Dox添加を続けた細胞(DoxON)におけるトランスポーザブルエレメントの発現をRNA-seq解析によって調べた。その結果、図12Aに示されるように、EWS/ATF1の発現を抑制することで優位に発現上昇が認められるERVKトランスポーザブルエレメントを同定した。なお、RNA-seq解析は次の方法を用いて行った。それぞれの細胞からRNeasy Plus Mini Kit (Qiagen, Hilden, Germany)を使用して全RNAを抽出した後に、TruSeq Stranded Total RNA with Ribo-Zero Gold LT sample Prep kit (illumina)を用いてライブラリーを作成した。KAPA Library Quantification kits(日本ジェネティクス)を用いて濃度定量後、Hiseq PE Rapid Cluster kit v2-HSを用いて、Hiseq2500(illumina)にてシーケンスを行った。シーケンスデータは、TopHatソフトウェアおよびCufflinksソフトウェアを用いて解析し、IGV(Integrative Genomics Viewer)により可視化した。また、定量的RT-PCRにおいても、EWS/ATF1発現抑制時に優位にERVKトランスポーザブルエレメントの発現量が上昇することが認められた(図12B)。
以上の結果より、上記の同定したERVKトランスポーザブルエレメントは、本発明のスクリーニング方法に適用可能であることが示された。
以上のように、がん遺伝子シグナルによってがん細胞の特徴が維持されること、すなわちがん細胞の初期化を阻害することが示された。一方、がん遺伝子をターゲットとする抗がん剤が、がん細胞の初期化の早期段階を促進することも示された。これらの結果は、がん遺伝子シグナルを阻害する薬剤によって、がん細胞が、細胞の運命の変更に対して寛容な状態になり得ることを示している。従って、がん細胞における特定のシグナルを阻害する薬剤の初期化への影響を調べることによって、重要ながん遺伝子のシグナルを検出することが可能となる。
一方、がん細胞は環境への適応性を有し、それゆえ生存し進行を続け得る。がんの分子標的薬に対する初期応答のあと、大多数のがんは抵抗性を獲得し、疾患の再発を引き起こす。しかし、がん細胞が薬剤に対して抵抗性を獲得するメカニズムは、完全に理解されているわけではないが、がん遺伝子シグナルの阻害によりエピジェネティック修飾の変化を介するゆるやかな転写抑制の解除により、外部からの初期化を強いられたがん細胞が適応性を獲得できるという現象は、抵抗性獲得のメカニズムをサポートするものである。
一般に、がん細胞がトランスポーザブルエレメントにおいてDNAメチル化のレベルを減少させると言われているが、薬剤の添加によるトランスポーザブルエレメントにおける抑制型ヒストンマーカーの減少ががん細胞の適応性を高めるという考察と矛盾するものではない。がん遺伝子シグナルの阻害を通して獲得した適応性によって、がん細胞の運命が薬剤抵抗性細胞へと変更し得ることが考えられ、分子標的薬で処置したときにがん細胞が生き残るための新しいメカニズムが提供されることが予想される。
これは、抗がん剤のような、がん遺伝子シグナルを妨げる化合物の同定を目指す現状を否定するようにも見える。しかし、本研究の知見に基づいて、重要ながん遺伝子経路およびがん細胞適応性の両方をターゲットとする併用療法が、がん患者を治療する効果的な方法になり得ることが示唆される。
本出願は、日本で出願された特許出願特願2015− 77267(出願日:2015年 4月 3日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。

Claims (5)

  1. 下記の工程を含む、がんの治療薬をスクリーニングする方法;
    (i)対象となるがん細胞内に外来性の初期化因子を導入し、当該細胞内で被験物質との接触下または非接触下でトランスポーザブルエレメントの発現量を測定する工程、および
    (ii)被験物質との接触下において、非接触下と比較して前記トランスポーザブルエレメントの発現量が増加した場合、当該被験物質をがんの治療薬として選出する工程。
  2. 前記トランスポーザブルエレメントが、レトロトランスポゾンまたはその断片である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記トランスポーザブルエレメントが、内在性レトロウィルス、LINE、SINEおよびその断片から選択される少なくとも一つの配列である、請求項2に記載の方法。
  4. 前記トランスポーザブルエレメントが、HERV-H、HERV-W、L1-ORF2、ERVKおよびその断片から選択される少なくとも一つの配列である、請求項2に記載の方法。
  5. 下記の工程を含む、がん治療薬の創薬標的となり得るタンパク質の同定方法;
    (i)被験タンパク質をコードする遺伝子を、発現制御可能な形態で含むがん細胞内に外来性の初期化因子を導入し、当該細胞内で該遺伝子を発現する条件下または該遺伝子の発現が抑制された条件下で、トランスポーザブルエレメントの発現量を測定する工程、および
    (ii)該遺伝子の発現が抑制された条件下において、該遺伝子を発現する条件下と比較して前記トランスポーザブルエレメントの発現量が増加した場合、当該被験タンパク質をがんの治療薬の創薬標的となり得るタンパク質として選出する工程。
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