以下、図面を用いて実施例について説明する。
図1に実施例1に係る材料選択支援システムの基本構成を示す。需要者端末100は通信回線200を介して材料仕様情報サーバ300と接続される。需要者端末100は、材料利用条件入力部110と仕様項目決定部120とを有する。材料利用条件入力部110及び仕様項目決定部120は端末100のウェブブラウザ上で実行されるウェブアプリケーションとして実現されるが、この限りではなくスタンドアロンアプリケーションとして実装されてもよい。材料仕様情報サーバ300は条件分解部310と仕様情報データベースシステム320と候補出力部330とを有する。条件分解部310、仕様情報データベースシステム320及び候補出力部330は、一般的な計算機アーキテクチャで実行されるソフトウェアとして実現される。すなわち、条件分解部310、仕様情報データベースシステム320、候補出力部330に対応するプログラムが材料仕様情報サーバ300の記憶装置に格納されており、材料仕様情報サーバ300のプロセッサはそれらのプログラムを読み出して実行する。なお、材料仕様情報サーバ300は単独の計算機あるいはクラウド上で実現されてもよい。
図2は、図1の材料選択支援システムにおける動作を示すシーケンス図である。需要者が端末100の材料利用条件入力部110から材料利用条件を入力(S110)すると、入力された材料利用条件は通信回線200を介して材料仕様情報サーバ300に送信される。
「材料利用条件」には、少なくとも当該材料を用いて製造する製品または部品(以下、特に区別して言及する場合を除き、「製品」と称する)の名称を含む。材料仕様情報サーバ300から出力される仕様項目候補の精度を向上するため、「材料利用条件」には、製品の名称に加えて、製品が使用される環境、該製品を製造するために材料に加える加工を含むことが望ましい。ここで、本材料選択支援システムが様々な材料を幅広く取り扱うことを想定し、使用される環境としては材料の選定に影響を与える内容である限り、これに含まれる。例えば、材料を用いて製造する製品が部品である場合には、当該部品が使用される製品の名称なども含む。
材料仕様情報サーバ300の条件分解部310は、受信した材料利用条件を条件分解処理(S310)して、1つ以上の検索語を生成する。材料仕様情報サーバ300は生成した検索語を用いて仕様情報データベースシステム320を検索(S320)して、複数の材料特性と検索語との相関を求める。材料仕様情報サーバ300の候補出力部330は、求められた相関を基準に、複数の材料特性に対して仕様項目としての優先順位を決定(S330)し、優先順位の高い所定数の材料特性を、需要者が入力した材料利用条件に適合する仕様項目候補として端末100に送信する。
需要者は端末100の仕様項目決定部120に表示される仕様項目候補を確認(S120)して、最初に入力した材料利用条件の変更要否を判断(S121)する。材料利用条件の変更が不要の場合には仕様項目を決定(S122)し、利用条件を変更する場合には再び材料利用条件を入力(S110)する。
図3Aは、条件分解部310が実施する条件分解処理(S310)の詳細を示すフローチャートである。条件分解処理は開始(S311)されると待機状態に入り、材料利用条件の入力を待つ。材料利用条件が入力されると、材料利用条件を形態素解析(morphological analysis)(S312)して1つ以上の単語の列に分解する。形態素解析により、入力された文を辞書ファイル(辞書ファイルの言語は、材料選択支援システムにおいて入力される材料利用条件の言語に対応している)に登録された単語の原形の列に分解するとともに、各単語の品詞を同定する。材料利用条件として「有機溶剤用ポンプのボディ」と入力された場合、材料仕様情報サーバ300に保存された形態素解析用の辞書ファイルを用いて形態素解析し、単語列(「有機溶剤」「ポンプ」「ボディ」)を出力する。
検索語列を初期化した後、形態素解析して出力された単語列が材料仕様情報サーバ300にあらかじめ保存されている登録語(registered key)ファイルに登録されているか否かを確認(S313)する。登録語である場合には、出力された単語を検索語列に追加して、当該単語の類似度を1に設定(S314)する。検索語列(keyword sequence)は、検索語(keyword)とその重み(weight)との対の集合である。
単語が登録語でない場合には、単語と登録語との類似度を算出(S315)して、類似度の高い登録語を検索語列に追加(S316)する。すべての単語に対して処理が終わったかを確認(S317)して、終わってない場合にはステップS313に戻って次の単語を処理する。
単語の類似度計算には、例えば、自然言語処理の分野で知られているコサイン類似度を用いることができる。
Sij=(Vi・Vj)/(|Vi||Vj|)
ここで、Sijは単語iと単語jとの類似度(similarity)、Vi(Vj)は単語i(単語j)を表すベクトル、Vi・Vjは2つのベクトルの内積、|Vi|(|Vj|)はベクトルVi(ベクトルVj)の絶対値である。単語をベクトルで表す技術は、自然言語処理の分野で分散表現(distributed representation)または 単語埋め込み(word embedding)として知られている。単語をベクトルで表すために、材料仕様情報サーバ300は文章データベースファイル(コーパスファイル)を有している。コーパスファイルとしては、予め工学分野の文献等から収集した文章のデータベース(静的コーパス)、インターネットで該単語を検索した結果を保存した文章データベース(動的コーパス)、またはその両方を用いることができる。
形態素解析で出力した単語と登録語との類似度を算出するため、コーパスファイルを用いて単語列中の単語をベクトル表現する。一方、登録語の当該コーパスファイルに基づくベクトル表現は登録語ファイルに登録語と共に保存されている。
単語列(「有機溶剤」「ポンプ」「ボディ」)を例に、検索語列を生成する処理について、図3Bを用いて説明する。ここで、「有機溶剤」と「ボディ」は登録語ファイルに登録されておらず、「ポンプ」は登録されていたとする。
「有機溶剤」は登録語ファイルに登録されていない(S313)ので、ステップS315で登録語との類似度が算出される。これにより、「有機溶剤」に類似する登録語群3002が抽出される。類似度が閾値0.7以上の登録語を検索語に追加する設定である場合に、「有機溶剤」に由来する検索語列は検索語列3004−1となる。なお、検索語としての追加可否を決定するため、類似度に所定の閾値を設定してもよく、適切な数の登録語が検索語として追加されるように調整されてもよい。
「ポンプ」は登録語ファイルに登録されている(S313)ので、「ポンプ」に由来する検索語列は検索語列3004−2となる。
「ボディ」は登録語ファイルに登録されていない(S313)ので、ステップS315で登録語との類似度が算出される。これにより、「ボディ」に類似する登録語群3003が抽出される。類似度の高い登録語が抽出され、「ボディ」に由来する検索語列は検索語列3004−3となる。
このように、検索語は入力された単語とは必ずしも一致しない。そのため、検索語と単語との近さを表す指標として、類似度を検索語列としてセットにしておく。ただし、類似度は単語ごとに求められた値であるため、検索語列全体の中での単語列との近さを指標として表すため、類似度を正規化(weight normalization)し、各検索語の重みとする。重みの正規化は2段階で行われる。第1の正規化では各単語に対応する検索語の類似度を正規化する。正規化の方法は、例えば、各単語に対応する検索語の類似度の二乗和のルートで各類似度を除算する。検索語列3005はそのように単語ごとに類似度を正規化した値を示している。「有機溶剤」の例であれば、「有機溶剤」に対応する検索語の類似度の二乗和のルート(1.39)で3個の検索語の類似度を除算している。
第2の正規化とは、全検索語に対する正規化である。例えば、単語列にある単語の数で正規化された類似度を除算する。検索語列3006はそのように求めた重みの値を示している。この例では、正規化された類似度を単語の数3で除算している。
ステップS318では正規化済みの検索語列を{{検索語1、重み1}、・・・}の形に成型して仕様情報データベースシステム320に出力する。したがって、以下のように、検索語とその重みの対に整形した検索語列:
{{アルコール、0.215}、{石油、0.191}、{揮発性、0.168}、{ポンプ、0.333}、{胴体、0.249}、{筐体、0.221}}
が出力される。
条件分解処理(S310)はステップS318の後、待機状態に移行する。あるいは、サーバ300の管理上の要求によって条件分解処理を終了(S319)する。
図4Aは、仕様情報データベース検索処理(S320)の詳細を示すフローチャートである。仕様情報データベース検索処理は開始(S321)されると待機状態に入り、検索語列の入力を待つ。検索語列が入力されると、検索前処理として検索語列をメモリに保存して損傷相関累積ベクトルを0で初期化(S322)する。損傷相関累積ベクトル(damage-correlation accumulation vector)の詳細は後述する。
検索前処理の後、検索語列の検索語で損傷モード相関行列(damage mode correlation matrix)Dを検索(S323)する。損傷モード相関行列Dの例を図4Bに示す。損傷モード相関行列Dは、M個の登録語(registered key)とN個の損傷モード(damage mode)との相関値を納めた行列を示している。行列の値Dijは登録語i(1≦i≦M)と損傷モードj(1≦j≦N)の相関値であり、0から1までの値を取る。相関値0は登録語iでは損傷モードjを無視できることを表し、一方、相関値1は登録語iでは損傷モードjを考慮しなければならないことを表す。
損傷モードとは該材料を用いた製品開発、製品の製造、製品の使用中に発生する損傷を範疇化したものであり、例えば、破裂、変形、腐食、摩耗、壊食、溶接割れ、疲労破壊などがある。
損傷モード相関行列Dはテキストマイニングの技術を用いて作成することができる。テキストマイニングを用いて作成する場合には、例えば、用意された複数の文章の中で登録語iと損傷モードjとが一緒に出現する共起確率(co-occurrence probability)をDijとして用いることができる。工学分野の専門家が損傷モード相関行列Dを作成したり、編集したりしてもよい。例えば、先ず工学分野の専門家が損傷モード相関行列Dを作成した後、テキストマイニングによって該行列Dを拡張することができる。逆に、テキストマイニングが作成した損傷モード相関行列Dを専門家が修正することもできる。
検索処理(S323)では、損傷モード相関行列Dから検索語と一致する登録語を探して、その登録語に対応する損傷モード相関行列Dの行データ(以下、損傷相関ベクトル、damage-correlation vector)を返す処理である。例えば、a番目の検索語Kaがi番目の登録語Riと一致した場合には、{Di1,Di2,…,DiN}をKaに対応する損傷相関ベクトルとして返す。なお、検索語は図3Aで説明した処理を実行することにより、登録語であることが保証されている。
加算処理(S324)は、検索処理(S323)から出力された検索語Kaに対応する損傷相関ベクトル{Di1,Di2,…,DiN}に検索語Kaの重みWaを乗算して、損傷相関累積ベクトルAに加算する。損傷相関累積ベクトルAは損傷相関ベクトルと同じ要素数を持つベクトルで、前処理(S322)で0に初期化されている。
次にすべての検索語に対して処理が終わったかを確認(S325)して、終わってない場合にはステップS323に戻って次の検索語を処理する。このようにして検索語列の全ての検索語に対してステップS323とステップS324の処理を適用する。検索語列が終了すると、損傷相関累積ベクトルAが出力される。出力される損傷相関累積ベクトルA={A1,A2,…,AN}は、検索語列全体を基にして、各々の損傷モードに対する考慮の必要性を数値で評価したベクトルである。
乗算処理(S326)では特性−損傷相関行列(Property-damage correlation matrix)Pに損傷相関累積ベクトルAを乗算する。特性−損傷相関行列Pの例を図4Cに示す。特性−損傷相関行列PはQ個の材料の特性(property)とN個の損傷モード(damage mode)との相関値を納めたQ行N列の行列である。行列の値Pkjは特性k(1≦k≦Q)と損傷モードjとの相関値であり、0から1までの値を取る。相関値0は損傷モードjが特性kと関係ないことを表し、相関値1は損傷モードjが特性kから強く影響されることを表す。
特性とは材料の持つ性質であり、例えば、化学成分比、密度、降伏強度、引張強度、硬さ、伸び(elongation)、炭素当量(carbon equivalent)、耐孔食指数(pitting resistance equivalent number、PREN)、臨界隙間腐食温度(critical crevice corrosion temperature)、溶融温度(melting temperature)、凝固温度(solidifying temperature)、ガラス転移温度(glass transition temperature)、熱伝導率、比熱、電気伝導率、透磁率、価格、価格変動率などがある。
特性−損傷相関行列Pは、損傷モード相関行列Dと同様、テキストマイニングを利用した機械学習によって、または工学分野の専門家によって、または両方の方法で作成できる。
特性−損傷相関行列Pと損傷相関累積ベクトルAとの乗算は、線形代数学で一般的な行列とベクトルの乗算処理で行われる。即ち、乗算で得られる材料特性ベクトル(property vector)T={T1,T2,…,TQ}の要素値Tkは、以下の式で計算される。
Tk=Σj(Pkj×Aj),(j=1,2,…,N)
材料特性列出力処理(S327)は、材料特性ベクトルTkの各要素値と対応する材料特性の対からなる材料特性列を作成し、候補出力部330へ出力する。材料特性列は、
{{特性1,T1},{特性2,T2},…,{特性Q,TQ}}
のように表される。要素値Tkが大きいほど、重要な特性であると評価できる。
仕様情報データベース検索処理(S320)はステップS327の後、待機状態に移行する。あるいは、サーバ300の管理上の要求などによって終了(S328)できる。
図5は、候補出力部330が実行する優先順位決定処理(S330)の詳細を示すフローチャートである。優先順位決定処理は開始(S331)されると待機状態に入り、材料特性列の入力を待つ。材料特性列が入力されると、その要素値Tkの降順に整列(S332)する。次に降順に整列された材料特性列の先頭からB個を仕様項目候補列として出力(S333)する。仕様項目候補列は、
{{仕様項目候補1,U1},{仕様項目候補2,U2},…,{仕様項目候補B,UB}}
のように表される。
仕様項目候補列は、材料特性列を要素値Tkの降順に整列した後、先頭からB個を抽出したデータであるから、U1≧U2≧…≧UBである。出力された仕様項目候補列は、サーバ300によって、通信回線200を介して需要者側の端末100に送信される。
優先順位決定処理(S330)はステップS333の後、待機状態に移行する。あるいは、サーバ300の管理上の要求などによって終了(S334)できる。
図6に、材料仕様情報サーバ300に保存されるデータファイルを示す。材料仕様情報サーバ300には、S312処理に用いられる形態素解析用の辞書ファイル601と、S313とS315処理に用いられる登録語ファイル602と、S315処理に用いられるコーパスファイル603と、S323とS324処理に用いられる損傷モード相関行列Dファイル604と、S326処理に用いられる特性−損傷相関行列Pファイル605が保存されている。
図7は、需要者端末100における材料利用条件入力部110と仕様項目決定部120の画面の例である。図7の例では、材料利用条件入力部110と仕様項目決定部120を1つの画面の上段と下段に表示してある。画面の配置を変える、材料利用条件入力部110と仕様項目決定部120を別の画面に表示するなど、種々の変形が可能である。
図7の上段に示す材料利用条件入力部110の画面701を説明する。左側には材料利用条件の種類を選択するメニューが並んでいる。前述のように材料利用条件は製品を必須として含むため、材料利用条件の1行目702の種類は製品に固定されている。2行目以後(703,704)は使用環境、加工法などから選択できる。種類メニューの右側には検索語を入力するテキストボックス705がある。自由文を入力できる他、単語を演算子(AND、OR、NOTなど)と括弧で結合する論理式として入力することもできる。テキストボックス705の右側には複数の行の条件を結合する論理演算子706のメニューがある。画面701は3行の例を示してあるがこの限りではなく、また行数を追加するボタンを配置して需要者の必要に応じて条件行を追加できるようにしても良い。
需要者が画面の右上にある検索ボタン707をクリックすると、材料利用条件入力部110は先ず必須である製品702の検索テキストボックスにテキストが入力されているかをチェックする。テキストが入力されている場合には、材料利用条件入力部110は各検索テキストボックスの入力内容を材料仕様情報サーバ300へ送信する。製品の検索テキストボックスにテキストが入力されていない場合には、入力を促すメッセージ画面または音声またはその他信号を需要者に出力する。
材料仕様情報サーバ300が検索テキスト、即ち材料の利用条件の入力を受けて仕様項目の候補を出力する処理は、既に説明した通りであるが、論理演算子706で結合した複数行の利用条件に対する処理も、説明した処理の簡単な拡張として実行できる。複数行702〜704の利用条件に対しては、行毎の入力内容705と論理演算子706とを、利用条件として仕様情報サーバ300に送信する。仕様情報サーバ300は、複数行の利用条件の各行に対して図3Aの条件分解処理を実施して、行毎の検索語列を作成する。次に、各行に対応する検索語列毎に図4Aの仕様情報データベース検索処理(S325)までの処理を施し、行毎の損傷相間累積ベクトルAを作成する。次に、行の結合に用いられた演算子に対応して損傷相間累積ベクトルA同士の演算を行う。例えば、ANDで結合された2つの行に対応する損傷相間累積ベクトルAとA’に対して、要素単位の積で結合した結合損傷相間累積ベクトルAcを求める。
A={A1,A2,…,AN}、A’={A’1,A’2,…,A’N}とすると、
Ac={Ac1,Ac2,…,AcN}={A1×A’1,A2×A’2,…,AN×A’N}
となる。
結合損傷相間累積ベクトルAcを求めるためのベクトル同士の演算方法は、行の結合に用いられた論理演算子706に対応する。例えば、ORで結合された2つの行に対してはベクトル同士を加算し、NOTで結合された2つの行に対してはベクトル同士を減算する。以上のように、複数行の利用条件に対しては、結合演算子に対応した演算を対応する損傷相間累積ベクトルに対して実施して、図4Aの処理S325で1つの結合損傷相間累積ベクトルAcに統合し、結合損傷相間累積ベクトルAcを用いて処理S326以降の処理を行う。
図7の下段に示した仕様項目決定部120の画面711を説明する。ボックス(「項目1」〜「項目B」)712には、材料仕様情報サーバ300から受信した仕様項目候補列中の仕様項目候補1〜仕様項目候補Bが表示される。これらボックスは、クリックによって選択状態と非選択状態が切り替わる。例えば、各ボックスの初期状態を非選択状態として、ボックスを一度クリックすると選択状態になる。選択状態のボックスを再度クリックすると非選択状態に戻る。入力された材料利用条件に対して評価値の高い材料特性から順に項目1、項目2、…、項目Bと表示されるため、需要者は項目1から順に項目内容を確認して選択すればよい。需要者の項目内容確認を支援するため、項目内容の詳細情報を別途のウィンドウで表示しても良い。
仕様項目の確認と選択が終わり、見直しが不要な場合には需要者は決定ボタン713をクリックして仕様項目を決定する。需要者が見直し必要と判断した場合には、材料利用条件入力部110の入力内容を見直して再度検索する。
以上の構成および動作によって、需要者の入力した材料利用条件を利用して仕様項目の候補を需要者に提示することで、需要者が材料利用条件に適した仕様項目を指定することを支援できる。仕様情報サーバ300での条件分解処理(S310)を用いて、需要者が端末100で入力した検索テキストを登録語からなる検索語列に変換して、仕様情報データベース320を検索するため、予め登録されていなかった材料利用条件であっても仕様項目の指定を支援できる。多様な製品用途を持つ幅広い需要者層に対応する材料ECにとって好ましい特徴である。
また、仕様情報データベースシステム320に損傷モード相関行列Dと特性−損傷相関行列Pとを有し、仕様情報データベース検索処理(S320)で検索語列から損傷相関累積ベクトルAを算出して、損傷相関累積ベクトルAから材料特性列を算出して、材料特性列から仕様項目候補列を作成する。
特許文献1開示の材料選定システムにおいても、材料情報として過去における材料の損傷事例と材料加工問題事例を含めている。しかし、需要者には検索結果画面(特許文献1における最適材料選定画面)で材料毎の加工上注意や損傷事例番号を表示するだけであって、当該損傷を防止するために指定すべき仕様項目が需要者に提示されるわけではない。このため、需要者は、材料毎の事例番号に対応する損傷事例の詳細を読み、その内容と物理現象を理解した上で材料の仕様項目に自力で反映する必要があった。これは需要者の高い専門的知識を要求するものであり、かつ検索で得られる損傷事例の件数が多い場合には、損傷事例の詳細を読んで物理現象を理解して仕様項目に反映する作業は需要者にとって負担になる。
これに対し、本実施の形態では、需要者の材料利用条件において注意すべき製品の損傷モードが仕様項目候補に自動的に組み込まれるため、需要者は仕様項目決定部120での操作によって損傷防止に必要な仕様項目を簡便に指定することができる。
図8Aに、実施例1の変形例となるシーケンス図を示す。図2のシーケンス図との相違は、仕様情報サーバ300から需要者の端末100に送信される情報に損傷モード列を含む点である。損傷モード列は、損傷モード相関行列Dファイル604に保存されたN個の損傷モードと、図4Aの処理S325から出力される損傷相関累積ベクトルA={A1,A2,…,AN}(または結合損傷相間累積ベクトルAc={Ac1,Ac2,…,AcN})とを組み合せたデータであり、例えば、以下の形式を有する。
{{損傷モード1、A1}, {損傷モード2、A2},…, {損傷モードN、AN}}
損傷モード列は、例えば、図4Aの処理S326で作成して、処理S327で材料特性列と共に優先順位決定処理(図8Aの処理S330)に出力することができる。優先順位決定処理(図5参照)は、処理S332で損傷モード列もA値の降順に整列して、処理S333で損傷モード列も先頭から所定個を需要者端末100へ出力すれば良い。A値の値が大きいほど、重要な損傷モードとして評価したことになるためである。
図8Bに需要者端末100の画面の例を示す。仕様項目決定部120の画面801に考慮された損傷モード802が表示される。このように、仕様項目候補の選定根拠として損傷モードの情報を需要者に提示することで、需要者がより適切な仕様項目を指定するように支援することができる。
この点は、特に需要者が限られた情報のみを入力する材料ECで有利である。材料ECは需要者にとって外部業者であるため、需要者が材料ECに入力する材料利用条件は不完全である可能性がある。仕様項目決定部120の画面に仕様項目候補と損傷モードを一緒に表示することで、需要者は材料ECには入力していない需要者のみ知る情報を用いて仕様項目候補と損傷モードを評価して、仕様項目の決定または利用条件変更を判断することができる。
続いて、仕様情報データベースの検索処理にあたって、損傷モードに加えて、品質(quality)モードをも考慮する変形例について説明する。このため、図4Bに示した損傷モード相関行列Dの代わりに、図9Aに示す損傷・品質モード相関行列DQを用いる。また、図4Cに示した特性−損傷相関行列Pの代わりに、図9Bに示す特性−損傷・品質相関行列PRを用いる。
損傷・品質モード相関行列DQ(図9A)は、M個の登録語と、N個の損傷モードおよびK個の品質モードとの相関値を納めた行列である。また、特性−損傷・品質相関行列PR(図9B)はQ個の材料の特性と、N個の損傷モードおよびK個の品質モードとの相関値を納めた行列である。相関値は何れも0から1までの値をとる。品質モードとは製品に求められる品質を範疇化したものであり、例えば、軽量、小型、抗菌、断熱、耐熱、光沢、透明などがある。
本変形例では、仕様情報サーバ300の中に損傷モード相関行列Dファイル604に代えて損傷・品質モード相関行列DQファイルが保存され、特性−損傷相関行列Pファイル605に代えて特性−損傷・品質相関行列PRファイルが保存され(図6参照)、処理の内容は図4Aにおいてこれらのファイルを置き換えて実行する。まず、図4Aの検索前処理(S322)において、(N+K)長の損傷・品質相関累積ベクトルを0に初期化する。次に、検索処理(S323)では検索語により損傷・品質モード相関行列DQを検索して、(N+K)長の損傷・品質相関ベクトルを得る。次に処理S324で損傷・品質相関ベクトルに検索語の重みを乗算した後、損傷・品質相関累積ベクトルに加算する。処理S323及び処理S324は検索語列が終わるまで検索語を変えて繰返される(S325)。すべての検索語に対する検索が終わった後は、(N+K)長の損傷・品質相関累積ベクトルを長さNの損傷相間累積ベクトルと長さKの品質相間累積ベクトルに分解する。
処理S326では、損傷相間累積ベクトルと品質相間累積ベクトルを、各々、図9Bに示した特性−損傷・品質相関行列PRの損傷モードに対応するQ行×N列の部分行列903と、品質モードに対応するQ行×K列の部分行列904に乗算して、損傷関連材料特性ベクトルTD={TD1,TD2,…,TDQ}と品質関連材料特性ベクトルTR={TR1,TR2,…,TRQ}を得る。材料特性ベクトルTDとTRは、図4Aを用いて説明した材料特性ベクトルTと同じ長さおよび形式であるため、処理S327以後の処理は出力ベクトルを2つにするだけで他は同じでよい。2つの出力ベクトルに対応して、仕様項目決定部120の画面には、損傷関連材料特性から提示された仕様項目候補と、品質関連材料特性から提示された仕様項目候補が、別々に表示される。例えば、図7または図8Bに示した仕様項目選択部に、損傷関連の仕様項目の行と、品質関連の仕様項目の行を分けて表示すれば良い。
なお、図9A、図9Bにおいては、損傷モードに対する相関値と品質モードに対する相関値を一つの行列ファイルに統合して構成した例を示しているが、損傷・品質モード相関行列DQを、部分行列901に相当する損傷モード相関行列と部分行列902に相当する品質モード相関行列の2つの行列ファイルとして保持してもよい。同様に、特性−損傷・品質相関行列PRも、部分行列903に相当する特性−損傷相関行列と部分行列904に相当する特性−品質相関行列の2つの行列ファイルとして保持してもよい。ファイル形式に関わらず、等価な処理が可能である。
また、図8A,図8Bにおいて、考慮した損傷モード列を需要者端末100上に表示することを説明したが、同様に、考慮された損傷モードと品質モードとを需要者端末100上の仕様項目決定部120の画面に表示することも可能である。これにより、製品の損傷の回避だけでなく、製品の品質をも考慮した仕様項目候補を需要者に提示できるため、需要者のより適切な仕様項目選択を支援できる。例えば、材料利用条件に「自動車用シャフト」が入力された場合には、例えば「自動車」と相関度の高い「軽量」が品質モードとして選択され、「軽量」と相関度の高い材料特性である「密度」が仕様項目候補に追加されるといったことが期待できる。この場合は、需要者は、例えば強度といった損傷に関係の深い仕様項目のみならず、軽量性といった付加価値に関係する仕様項目を選択することができる。
図10に実施例2に係る材料選択支援システムの基本構成を示す。実施例2では、仕様項目の決定に加えて、該仕様項目を用いて材料選択までを含むことを特徴とする。需要者端末100と材料仕様情報サーバ300に加えて、材料情報サーバ400が通信回線200に接続される。材料情報サーバ400は、材料情報データベース410を有する。材料情報データベース410は複数の材料に対して材料特性毎の値を保存する。材料情報データベース410における材料特性は、仕様情報データベースシステム320に保存される特性−損傷相関行列P(または特性−損傷・品質相関行列PR)のQ個の材料特性と一致する。
なお、ここでは構成を明確にする目的で材料仕様情報サーバ300と材料情報サーバ400を分離して記述するが、材料仕様情報サーバ300が材料情報サーバ400を兼ねたり、材料情報サーバ400が材料仕様情報サーバ300を兼ねたりしてもよい。
また、需要者端末100は、材料利用条件入力部110と仕様項目決定部120に加えて、材料検索部130と材料選択部140を有する。材料検索部130と材料選択部140は典型的には需要者端末100のウェブブラウザ上で使用するウェブアプリケーションであるが、この限りではなくスタンドアロンアプリケーションであっても良い。
図11は、図10の材料選択支援システムにおける動作を示すシーケンス図である。需要者が端末100の材料利用条件入力部110から材料利用条件を入力する処理S110から需要者が仕様項目を決定する処理S122までは、実施例1と同じである。
需要者は、仕様項目を決定(S122)した後、端末100の材料検索部130に決定した仕様項目に対する仕様値を入力する。この時、材料検索部130には仕様項目決定部120で決定した仕様項目が表示される。需要者が材料の検索を開始(S131)すると、仕様項目と仕様値を含む検索条件が材料情報サーバ400へ送信される。検索開始は典型的には画面上の検索ボタンをクリックすることで行われるが、その限りではなく、音声や動作(ジェスチャー)など様々な方法が可能である。
材料情報サーバ400は検索条件を受信すると、該検索条件を用いて材料情報データベース410を検索(S410)して、検索条件を満たす材料の情報を抽出する。複数の検索条件を用いたデータベースの検索は周知の技術を用いて可能である。検索条件を満たす検索結果を需要者端末100へ送信する。
端末100が受信した検索結果は材料検索部130に表示され、需要者は検索結果として得られた材料情報を確認(S132)して、仕様値の変更要否を判断(S133)する。仕様値の変更が必要と判断した場合には、需要者は材料検索部130に入力された仕様値を変更して検索を開始(S131)する。仕様値の変更が不要と判断した場合には、需要者は材料選択部140へ移動して購入材料を決定(S141)する。
図12は、材料検索部130の画面の一例である。本画面例では、画面の右下に仕様項目決定部120で決定した仕様項目1201が表示され、各項目に対して下限値1202及び/または上限値1203を入力できる。需要者が検索ボタン1204をクリックすると、仕様項目と仕様値が検索条件として端末100のメモリに保存されて、検索条件は前述のように材料情報サーバ400に送信される。
材料情報サーバ400から受信された検索結果は端末100のメモリに保存された後、材料検索部130の画面の一部1210(左半分)に表示される。画面左上のグラフ1211は検索条件を満たした材料の数を表示する。現実には一度の検索で材料の検索を終わらせられることは稀であり、仕様値を変えて材料の絞り込み範囲を変えながら、検索を行うことが通常である。図12の画面ではこの検索履歴を容易に確認できるようにするものである。グラフ1211においては、材料検索部130は需要者が保存した結果に一連番号を付与して特定の印で表示し、未保存の結果には一連番号を付与せず保存結果とは識別可能なように別の印で表示する。需要者は保存ボタン1212をクリックして検索条件と検索結果の一式を保存できる。また、材料検索部130の画面の一部1213(画面左下)には材料の情報が表示される。
需要者は検索条件を満たす材料の数と表示された材料の情報を確認して仕様変更の要否を判断する。需要者は仕様変更が不要と判断した場合には、材料選択部140へ移動する。図12の画面例では、需要者は画面右上の結果番号入力ボックス1214に詳細情報を表示させたい結果番号を入力して、詳細ボタン1215をクリックする。
図13は、本実施の形態における材料選択部140の画面の一例である。画面には表示中の「結果番号と該当する材料の数」1301が表示される。仕様項目1302および仕様値1303には、該結果番号として保存された検索条件が表示される。材料1304の各列には該結果番号として保存された検索結果の材料情報が仕様項目毎に表示される。材料名の近くには購入する材料を選択するためのチェックボックス1305が設けられる。
需要者は材料選択部140の画面から検索条件を満たす材料の仕様値を検討して、購入する材料を判断できる。購入する材料がある場合には、需要者は該材料のチェックボックス1305をチェックした後、決定ボタン1306をクリックして購入材料を決定する。購入する材料がない場合には、需要者は戻りボタン1307をクリックして材料検索部130に移動する。
実施例2においては仕様項目を決定した後、該仕様項目を用いた購入材料の選択を簡便に行うことができる。
実施例3においては、参照材料候補を提示することで材料選択のための仕様値の入力を容易にする。実施例3の材料選択支援システムの基本構成は図10と同じである。図14は、実施例3の材料選択支援システムにおける動作を示すシーケンス図である。需要者が端末100の材料利用条件入力部110から材料利用条件を入力する処理S110から仕様情報サーバ300の条件分解処理(S310)までは、実施例1と同じである。仕様情報データベース検索処理(S320)では、条件分解処理(S310)で出力される検索語列を用いて仕様情報データベースを検索して、実施例1で説明した材料特性列に加えて参照材料列をも作成する。このため、実施例3では図4Bに示した損傷モード相関行列Dの代わりに、図15に示す損傷モード・材料相関行列DUを用いる。
損傷モード・材料相関行列DUは、M個の登録語とN個の損傷モード及びG個の材料との相関値を納めた行列を示している。損傷モード・材料相関行列DUのM行G列の部分行列1501はM個の登録語とG個の具体的な材料との相関値を納めた行列を示している。行列の値は登録語と材料の相関値であり、0から1までの値を取る。相関値0は登録語と材料とが無関係であることを示し、一方、相関値1は登録語と材料とが深い関係にある(例えば、よく使用される材料である等)を示している。実施例3では関係の深い具体的な材料名を提示可能とすることにより、需要者の材料選択を支援するものである。実施例3では仕様情報サーバ300の中に損傷モード相関行列Dファイル604に代えて損傷モード・材料相関行列DUファイルが保存される(図6参照)。処理の内容は図4Aにおいてこのファイルを置き換えて実行する。なお、部分行列1501に相当する材料相関行列を、損傷モード相関行列Dとは別ファイルとして保存していてもよい。ファイル形式に関わらず、等価な処理が実施可能である。
図4Aの検索前処理(S322)において、(N+G)長の損傷・材料相関累積ベクトルを0に初期化する。ここで、Nは損傷モードの数、Gは材料の数である。次に、検索処理(S323)で損傷モード・材料相関行列DUを検索して、(N+G)長の損傷・材料相関ベクトルを得る。次に処理S324で損傷・材料相関ベクトルに検索語の重みを乗算した後、損傷・材料相関累積ベクトルに加算する。処理S323及び処理S324は検索語列が終わるまで検索語を変えて繰返される(S325)。すべての検索語に対する検索が終わった後は、処理S326で損傷・材料相関累積ベクトルを損傷モードに対応する長さNの損傷相関累積ベクトルと、材料に対応する長さGの材料相関累積ベクトルU={U1,U2,…,UG}に分離する。処理S326は、材料相関累積ベクトルUをそのまま処理S327へ出力する。処理S326では、実施例1と同様に、損傷相関累積ベクトルを特性−損傷相関行列Pと乗算して、乗算結果を材料特性ベクトルTとして処理S327へ出力する。
処理S327は、材料特性列と同様に参照材料列を作成する。参照材料列は、
{{材料1,U1},{材料2,U2},…,{材料G,UG}}
のように表される。要素値Ulが大きいほど、関連性の高い、例えばよく使用される材料であると評価できる。
参照材料列は、材料特性列とともに、優先順位決定処理(S330)へ出力される。優先順位決定処理(S330)は、材料特性列から仕様項目候補列を作成する処理と同じ方法で参照材料候補列を作成する。すなわち、参照材料列をその要素値Ulの降順に整列した後、先頭からE個を抽出して参照材料候補列として端末100へ送信する。
参照材料候補列は仕様項目候補列とともに端末100の仕様項目決定部120に表示される。図16は本実施の形態における仕様項目決定部120の画面の一例である。画面の一部に仕様項目候補列の仕様項目1601とともに、参照材料候補列の材料1602が表示され、需要者はクリックによって参照材料を選択できる。この画面を用いて需要者は仕様項目と共に参照材料を確認(S120)して、それぞれについて決定(S122)する。
仕様項目と参照材料が決定されると、端末100は材料情報サーバ400に仕様項目と参照材料とを送信する。材料情報サーバ400は前記の材料情報データベース検索処理(S410)を行い、参照材料の情報を抽出して端末100へ送信する。参照材料の情報は端末100の材料検索部130に、対応する仕様項目と共に表示される。需要者は仕様項目に対して仕様値を入力する時に、当該仕様項目における参照材料の値を参考にして入力できる。または、材料検索部130は当該仕様項目における参照材料の値との比で仕様値を入力できる手段を持ってもよい。これにより、需要者は選択した仕様項目に簡便に仕様値を設定できる利点がある。
この点は、特に需要者にとって経験または専門知識が少ない仕様項目の仕様値を設定するときに有利である。仕様値は仕様項目の種類や単位によって大きく変化するため、需要者は、経験または専門知識が少ない仕様項目の仕様値を入力するには関連情報を調べて妥当な値を決める必要がある。本実施の形態では、入力した材料利用条件と相関の高い材料を参照材料として用い、材料検索部130に仕様項目毎の参照材料の特性値を表示することにより、需要者は関連情報を改めて調査する負担を負うことなく仕様値を入力することができる。
図17に実施例4に係る材料選択支援システムの基本構成を示す。実施例4は、実施例2または実施例3において購入材料が決定した後、購入材料を材料メーカに発注するまでの手続きを行うことを特徴とする。
材料選択支援システムは、需要者端末100、材料仕様情報サーバ300、材料情報サーバ400、材料メーカ端末2000、物流業者端末2500を有し、これらが通信回線200に接続される。
材料情報サーバ400は、材料情報データベース410、調達情報データベース420、調達情報演算部430を有する。
材料情報データベース410は、複数の材料に対して材料特性毎の値を保存する。材料情報データベース410における材料特性は、仕様情報データベースシステム320に保存される特性−損傷相関行列P(または特性−損傷・品質相関行列PR)のQ個の材料特性と一致する。
調達情報データベース420は、材料を提供する材料メーカ、材料メーカが販売している材料の販売材料情報、材料自体や材料メーカとの取引実績情報(取引日等)など発注のための見積もりなど調達に必要な調達情報が格納される。販売材料情報は複数の材料メーカから提供された情報に基づいて作成される、図18に示すような、材料メーカが提供可能な各種材料の特性、仕様、性能、品質等を表すデータである。
図18は、調達情報データベース420に保存されている販売材料情報の一例であり、「SUS304板材」に関する材料特性の例を示している。このように、調達情報データベース420において、販売材料情報は材料毎のレコードとして格納されている。材料毎レコードには、材料を提供する提供メーカ名、材料の製造(貯蔵)場所、材料名(型番)、材料特性が記録される。材料特性はさらに、材料を構成する化学組成(例えば、Crの成分比率、Moの成分比率等)、材料の物理特性(例えば、密度(比重)や硬度等)に分化される。
なお、材料毎の各レコードには、以上の情報にとどまらず、発送までに要する期間、納入量、単価、提供メーカ等の事業者を識別する識別情報(例えば、事業者識別コード、事業者識別番号等)などを含むことが望ましい。また、各レコードに記録される材料特性には、環境特性(耐熱、耐寒、耐腐食性等)、熱伝導率、電気伝導率、寸法安定性(線膨張係数)、経年特性、磁化特性等が含まれるようにしてもよい。さらに、各レコードに取引を行った実績回数を記録させてもよい。
販売材料情報は、例えば、カタログやスペックシート等の紙書類として配布されるものであってもよく、電子文書として配布されるものであってもよい。材料情報サーバ400の管理者が、例えば、各材料メーカから配布、開示、一般公開された情報を調達情報データベース420に入力してもよい。また、材料仕様情報サーバ300や材料情報サーバ400が検索エンジン等のコンピュータプログラムにより、各材料メーカのウェブサイト等から情報を取得し、調達情報データベース420に格納してもよい。
材料メーカ端末2000は、材料メーカごとに設置されている端末である。材料メーカ端末2000は、材料メーカである事業者の職員、社員等が使用するPC、サーバ等である。材料メーカは、材料メーカ端末2000を介し、材料の調達指示を受け付ける。図17の例では、調達候補となる材料メーカM1社は材料メーカ端末2000a、材料メーカM2社は材料メーカ端末2000b、材料メーカM3社は材料メーカ端末2000cをそれぞれ有している。
物流業者端末2500は、物流業者ごとに設置されている端末である。物流業者は、材料メーカから需要者の指定する材料搬入拠点への材料輸送を提供する。物流業者は、材料の輸送、配送の受託状況、輸送に係る車両の運行状況、納品完了等を管理する。物流業者端末2500は、物流業者である事業者の職員、社員等が使用するPC、WS、サーバ等である。物流業者は、物流業者端末2500を介して、指示された輸送元から輸送先への配送手配を受け付ける。さらに、物流業者端末2500は、輸送車両のドライバが所持するスマートフォン等の携帯端末、あるいは車載端末等にネットワーク200を介して接続可能とされている。図17の例では、手配候補となる物流業者L1社は物流業者端末2500a、物流業者L2社は物流業者端末2500bをそれぞれ有している。
次に、本実施例における材料発注手続きについて説明する。図19は、材料情報サーバ400により提供される材料発注手続きの一例を示すフローチャートである。より具体的には、図11または図14のフローチャートにより購入する材料が決定され(S141)、その後にその材料を提供する材料メーカに見積を依頼し、その材料を発注するまでの手続きを示したものである。
購入する材料が決定されると(S141)、需要者はこの材料について発注を行うかを需要者端末100から入力する(S150)。発注しない場合(S150でN)は、このまま終了する(S156)。一方、発注する場合(S150でY)は、発注する材料(購入希望材料)を選択する(S151)。購入決定した材料が複数あるとき、全ての材料を発注してもよいし、一部の材料のみを発注してもよい。続いて、需要者は、発注する材料の配送先を需要者端末100から入力する(S152)。配送先は、需要者端末100が設置されている場所に限らず、購入する材料を加工や組立などを行う場所あるいは、倉庫の場所などいずれの場所であっても構わない。
需要者が入力した購入希望材料と配送先情報とは材料情報サーバ400に送信され、材料情報サーバ400は、調達情報データベース420を検索し、購入希望材料毎に提供可能な材料メーカをリストアップする(S500)。具体的には、材料情報サーバ400は、販売材料情報を参照し、購入希望材料の提供が可能な材料メーカを特定し、購入希望材料ごとに、特定された材料メーカ一覧表を生成する。その後、調達情報演算部430は、S500の処理でリストアップされた材料メーカ一覧表、及び調達情報データベース420に格納された調達情報を用いて、購入希望材料毎にコスト・納期の概算を行う(S501)。
ここで、材料の配送には、物流業者の提供する少量配送サービスや大量配送サービスの利用を想定する。少量配送サービスでは、配送に係るコストは、例えば、輸送物の重量や大きさ(サイズ)、配送元および配送先の住所に基づくエリア別運賃表等から算出することが可能である。
図20に、少量配送サービスでのエリア別運賃表の例を示す。図20のエリア別運賃表では、配送元のエリア名と配送先のエリア名とが行と列とを構成し、行に記載されたエリア名と列に記載されたエリア名とが交差するカラムに配送コストが格納されている。例えば、配送元が「北海道」であり、配送先が「北海道」の場合には594円の配送コストが発生する。同様に、配送元が「北海道」であり、配送先が「沖縄」の場合には1,188円の配送コストが発生する。エリア別運賃表は、調達情報データベース420に格納されている。
図21に、輸送物サイズ別の料金テーブルの例を示す。図21の料金テーブルでは、同一エリア内の運賃が、輸送物の縦、横、奥行きの内の最大寸法別に規定される。例えば、「北海道」を同一エリアとして配送する場合は、最大寸法が60cm以上80cm未満では1,470円の配送コストが発生する。同様にして、最大寸法が80cm以上100cm未満では1,890円の配送コストが発生する。サイズ別料金テーブルも、調達情報データベース420に格納されている。
材料情報サーバ400の管理者が、少量配送サービスを提供する物流業者から配布、開示、一般公開されたエリア別運賃表やサイズ別料金テーブルを調達情報データベース420に入力してもよい。また、材料情報サーバ400または、材料情報サーバ400と連携するコンピュータが検索エンジン等のコンピュータプログラムにより、各物流業者のウェブサイト等からエリア別運賃表やサイズ別料金テーブルを取得し、調達情報データベース420に格納してもよい。
調達情報演算部430は、少量配送サービスを利用して購入材料の配送を行う際には、調達情報データベース420に格納されたエリア別運賃表やサイズ別料金テーブルを参照して、配送コストを概算することができる。
一方、大量配送サービスを利用する場合には、距離別の混載便やチャータ便、宅配便等の利用が可能である。大量配送サービスの場合は、テーブル対応による料金算定が困難な場合があるため、例えば、物流業者が提供する見積りサービスを利用する。物流業者が提供する見積りサービスは、例えば、API(Application Programming Interface)を介して利用することが可能である。図22は、調達情報演算部430がAPIを介して見積りサービスを利用する場合のデータフローの例である。
調達情報演算部430は、購入希望材料のサイズや重量、配送元の住所、配送先の住所といった配送情報を調達情報データベース420から取得し(Z1)、ネットワーク200を介して、見積りサービスを提供する物流業者のウェブサイト等に接続する。そして、材料情報サーバ400は、物流業者の提供する経路・距離検索サービスZ2、配送会社見積りサービスZ3を検索して利用する。経路・距離検索サービスZ2、配送会社見積りサービスZ3の利用の際には、材料の配送元の住所、配送先の住所、サイズや重量といった配送情報が入力される。
図22の例では、経路・距離検索サービスZ2に基づいて取得された配送元と配送先との経路に係る距離情報が、運賃見積りのための混載便見積りマスタやチャータ便見積りマスタ(Z4)に入力される。なお、経路・距離検索サービスZ2が提供されない場合には、配送会社見積りサービスZ3を介し、配送情報に基づく配送コストが見積もられる。調達情報演算部430は、物流業者の提供する経路・距離検索サービスZ2、配送会社見積りサービスZ3を介して見積もられた見積り情報を取得する。見積り情報には、配送コスト及び納期(配送期間)が含まれる。
購入希望材料の購入コストおよび発送までの期間は、調達情報データベース420に格納された販売材料情報から特定される。また、購入した材料の配送コストおよび配送期間は、図20〜図22を用いて説明したように、物流業者の提供する情報(運賃表、見積りサービス等)に基づいて特定される。
そこで、調達情報演算部430は、特定された購入コストと配送コストとを足し合せ、購入希望材料毎に調達コストを算出する。同様にして、購入希望材料毎に発送までの期間と配送期間とを足し合せ、購入希望材料毎に納期を算出する。調達情報演算部430は、算出された調達コスト、納期に基づいて、購入希望材料毎の発注先選択支援テーブルを生成する(S501)。
需要者端末100に発注候補となる材料のコスト・納期の概算を表示する(S153)ため、材料情報サーバ400は、S501にて生成した発注先選択支援テーブルに基づいて、材料調達プランテーブルPTを作成して、需要者端末100に送信する。
図23に、複数の材料調達プランを選択肢として提示する材料調達プランテーブルPTの例を示す。材料調達プランテーブルPTには、材料調達プランの例として、性能優先(重視)するプランA、コスト優先(重視)するプランB、納期優先(重視)するプランCが並列に提示される。なお、本材料調達プランにおいて、調達対象となる材料は「ステンレス(SUS304)」である。
調達プランの作成にあたり、材料情報サーバ400は、購入希望材料(ここでは、ステンレス(SUS304))について調達情報データベース420に蓄積された実績情報を検索する。検索された実績情報から、例えば購入実績の頻度(回数)を抽出する。材料情報サーバ400は、抽出した実績頻度の比較を行い、最も実績頻度の高い(取引実績回数の多い)材料及び材料メーカを特定する。ここで、抽出した実績頻度に対して取引実績の金額の多寡に応じた重み付けを行ってもよい。材料情報サーバ400は、購入希望材料毎の発注先選択支援テーブルのうち、実績頻度の高い購入材料を含むレコードの情報をプランA(性能重視)として提示する。
同様にして、材料情報サーバ400は、購入希望材料毎の発注先選択支援テーブルから調達コストの最も低いレコードを抽出し、抽出したレコードの情報をプランB(価格重視)として提示する。また、材料情報サーバ400は、購入希望材料毎の発注先選択支援テーブルから納期の最も短いレコードを抽出し、抽出したレコードの情報をプランC(納期重視)として提示する。
材料調達プランテーブルPTにおいて、「材料」カラムには各プランにおいて購入する材料メーカ、材料名、寸法等が格納される。「材料費」カラムには各プランで提示される材料の購入コストが格納される。「配送費」カラムには各プランで提示される材料の配送コストが格納される。「合計」カラムには各プランで提示される材料の調達コストが格納される。「納期(営業日)」カラムには各プランで提示される材料の納期が格納される。「流通性」カラムには、取引における流通量の大きさが表示される。流通量の大きさが表示できればどのように表示しても構わない。この実施例では3段階(大中小)で表示されている。「グローバル特性」カラムには、材料の生産国とその材料が適合している規格が表示される。材料の生産国を表示すると、需要者が日本以外の国で生産や製造する場合の調達ルートを事前に確認することができ、または、需要者が日本以外で材料を入手したい場合も生産国から直接購入することもできる。適合している規格を表示すると、その材料を使用した製品が他国に輸出することができるか否かを判断することができる。規格は、ISO(International Organization for Standardization)、JIS(Japanese Industrial Standards)、AISI(American Iron and Steel Institute)、DIN(Deutsche Industrie Normen)、RoHS(Restriction on Hazardous Substances)などの国際規格、国内規格を含む。
図23に例示したような材料調達プランテーブルPTの形態で、複数の材料調達プランの提示を受けた需要者は、各プランで提示された内容を相対的に比較し、所望の材料調達プランを選択し、材料調達の手配判断が可能になる。なお、材料情報サーバ400は、材料調達プランPTに加え、各プランの調達コストや納期を比較するグラフを表示してもよい。需要者は、材料調達プランテーブルPTに並列された各プランの調達コストおよび納期を図視化された形態で視認、比較することが可能になる。
需要者は需要者端末100に提示された複数のプランの1または複数を選択し、材料情報サーバ400に対して、選択したプランに対する見積り(見積書)の作成を依頼する(S154)。例えば、需要者は提示された調達プラン毎のコストおよび納期の情報を相対的に比較し、目的に近いコスト条件、納期条件に合致する調達プランを指定して見積りの作成依頼を行うことができる。複数のプランを選択すると相見積もりを行うことになる。
需要者が材料情報サーバ400に見積り依頼(相見積もりの場合)すると、材料情報サーバ400は、材料メーカM1社、M2社、M3社の端末2000a、2000b、2000cに選択された調達プランの材料、数量、寸法、納期等の見積りに必要な情報を送信して、見積を依頼する。材料メーカM1社、M2社、M3社は見積依頼を受けて、必要な情報を回答する。さらに、材料情報サーバ400は、材料メーカM1社、M2社、M3社の回答受けて、物流業者L1社、L2社に配送先までの配送費と配送先に届けられる配送日時を問い合わせる。物流業者L1社、L2社は、配送費と配送日時を材料情報サーバ400に回答する。材料情報サーバ400の調達情報演算部430は、材料メーカM1社、M2社、M3社及び物流業者L1社、L2社からの回答に基づいて見積書を作成する。これにより、精度の高い見積書を作成することができる。
図24は、作成される見積書の一例である。図24は、材料調達プランテーブルPTの中のプランAに対応する見積書の例である。同様に、他のプランに対応する見積書を作成可能である。見積書の作成においては、例えば、図24に示すような見積書のひな型(テンプレート)が材料情報サーバ400の調達情報データベース420に予め保持されているものとする。材料情報サーバ400は、この見積書のテンプレートを参照し、見積書の作成に必要な事項を記述する。
図24に例示の見積書において、見積書の作成を依頼した需要者の名称(会社名、担当者名)が見積書の宛先として記述される。また、材料調達プランテーブルPTに示される材料名、プランAの納期がそれぞれ見積書の「件名」、「納期」として記述される。そして、プランAに対応する内容が「摘要」、「数量」、「単価」、「金額」として記述される。なお、「備考」においては、プランAの配送コストの算出に用いた材料の配送元、配送先の住所等が記述される。
材料情報サーバ400は、作成した見積書を需要者端末100に出力する。見積書は、例えば、HTML(Hyper Text Markup Language)形式やPDF(Portable Document Format)形式で出力される。図24に例示の見積書は、需要者端末100の備えるLCD等の表示画面を介して、需要者に提示される。需要者は、見積書をみて発注を行う(S155)。需要者が発注すると、材料情報サーバ400は、需要者が発注した材料の材料メーカと物流業者に材料メーカ端末2000と物流業者端末2500を介して、材料、数量、納期など必要な情報を含む発注の指示を出す(S503)。これにより、材料情報サーバ400は、材料調達に係る複数の関連業者の選定・手配についての判断を支援するワンストップサービスの提供が可能になる。
なお、ここでは構成を明確にする目的で材料仕様情報サーバ300と材料情報サーバ400を分離して記述するが、材料仕様情報サーバ300が材料情報サーバ400を兼ねたり、材料情報サーバ400が材料仕様情報サーバ300を兼ねたりしてもよい。
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、実施例で説明した処理方法も本発明を分かりやすく説明するために例示したものであり、上記した処理方法に限定するものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。