以下、一実施形態のモータ制御装置について図面を参照して説明する。まず、モータ制御装置に関わる圧縮機および冷凍サイクルの構成を図1に示す。この圧縮機および冷凍サイクルは、例えば空気調和機や熱源機に搭載される。
図1において、圧縮機1は、円筒状の密閉のケース1aで覆われている。このケース1aの上部および下部に吐出管2および吸込管3がそれぞれ取付けられている。吐出管2には凝縮器(放熱器)31の一端が配管接続され、凝縮器31の他端に膨張弁32を介して蒸発器(吸熱器)33の一端が配管接続されている。蒸発器33の他端は、アキュームレータ34を介して吸込管3に配管接続されている。
ケース1a内には、ブラシレスDCモータ(モータと略称する)10および圧縮機構部20が収容されている。モータ10は、ケース1aの内周面に接する状態に配置された筒状のステータ11、このステータ11の内側に収容されたロータ12、このロータ12を回転自在に支持する回転軸(シャフト)13を含み、例えば4個の永久磁石をロータ12に埋設してなるいわゆる4極モータ、あるいは6個の永久磁石をロータ12に埋設してなるいわゆる6極モータである。回転軸13は、圧縮機構部20側に延びて圧縮機構部20の中心部を通る。圧縮機構部20は、吸込管3と連通する1つの圧縮室(シリンダ)21、この圧縮室21内の回転軸13に偏心状態で装着されたクランク14、このクランク14の外周面に装着されたローラ22などを有するいわゆるシングル・ロータリ型であって、吸込管3から流入するガス冷媒を圧縮室21に吸込み、吸込んだガス冷媒をローラ22の偏心回転により圧縮室21内で圧縮し、圧縮したガス冷媒を圧縮室21からケース1a内に吐出する。吐出されたガス冷媒は、吐出管2を通って凝縮器31に流れる。
本実施形態のモータ制御装置の構成を図2に示す。
交流電源41に全波整流器等からなるコンバータ42の入力端が接続され、コンバータ42の出力端にインバータ43の入力端が接続されている。コンバータ42は、交流電源41の電圧を直流電圧に変換する。インバータ43は、コンバータ42の出力電圧をスイッチングにより所定周波数の3相交流電流に変換する。このインバータ43の出力により圧縮機1のモータ10が動作する。インバータ43とモータ10との間の通電ラインに、モータ10の各相巻線に流れる電流(モータ電流という)Imを検知する電流センサ44が配置されている。電流センサ44の出力信号は、コントローラ50に送られる。
コントローラ50は、モータ電流Imの界磁成分Idおよびトルク成分Iqを検出し、検出した界磁成分Idおよびトルク成分Iqからモータ10の回転速度ωestを推定し、この推定回転速度ωestを目標回転速度ωrefに至らせるための界磁成分目標値Idtおよびトルク成分目標値Iqtを求め、上記検出した界磁成分Idおよびトルク成分Iqが界磁成分目標値Idtおよびトルク成分目標値Iqtとなるようにインバータ43のスイッチングを制御するもので、この処理を実現する手段として電流検出部51、速度推定演算部52、積分部53、加減算部54、減算部55、速度制御部56、演算部57、減算部58、加算部59、減算部60、電流制御部61,62、PWM信号生成部63などを含む。
また、コントローラ50は、回転軸13の振動ひいてはケース1aの振動を抑制する手段として速度変動検出部64、Iq補正部65、および上記減算部58などを含むとともに、Iq補正部65のトルク成分補正値Iqxを調整する手段として調整部66および上記加減算部54などを含む。
上記電流検出部51は、モータ10の巻線に流れる電流(モータ電流という)Imを電流センサ44の出力信号から検出し、検出したモータ電流Imおよび後述の積分部53で得られる回転電気角θestに基づく演算により、モータ10におけるロータ軸上の界磁軸(d軸)座標およびトルク軸(q軸)座標にそれぞれ換算された界磁成分(界磁成分電流あるいはd軸電流ともいう)Idおよびトルク成分(トルク成分電流あるいはq軸電流ともいう)Iqを検出する。また、電流検出部51は、モータ電流Imの検出に際し、そのモータ電流Imの振幅のピーク値Impを検出する。
上記速度推定演算部52は、電流検出部51で検出される界磁成分Idおよびトルク成分Iqに基づく演算により、モータ10の回転速度ωestを推定する。上記積分部53は、速度推定演算部52で推定される回転速度(推定回転速度という)ωestを積分することにより、モータ10におけるロータ12の回転位置である回転電気角θestを検出する。この回転電気角θestは、電流検出部51、PWM信号生成部63、速度変動検出部64に通知される。
上記加減算部54は、調整部66から速度補正値ωaを受けた場合にその速度補正値ωaをモータ10の目標回転速度ωrefに対し加算または減算し、調整部66から速度補正値ωaを受けない場合はモータ10の目標回転速度ωrefをそのままスルーして出力する。上記減算部55は、加減算部54を経た目標回転速度ωrefと速度推定演算部52の推定回転速度ωestとの速度偏差Δωを得る。
上記速度制御部56は、減算部55で得られる速度偏差Δωを比例・積分制御(PI制御)演算することにより、推定回転速度ωestが目標回転速度ωrefに至るのに必要なトルク成分目標値Iqrefを求める。上記演算部57は、速度制御部56で得られるトルク成分目標値Iqrefに基づき、界磁成分目標値Idrefを求める。上記減算部58は、演算部57で得られる界磁成分目標値Idrefと電流検出部51で得られる界磁成分Idとの偏差ΔIdを求める。上記加算部59は、Iq補正部65で得られるトルク成分補正値Iqxを速度制御部56で得られるトルク成分目標値Iqrefに加算する。上記減算部60は、加算部59を経たトルク成分目標値Iqrefと電流検出部51で検出されるトルク成分Iqとの偏差ΔIqを求める。
上記電流制御部61は、減算部58で得られる偏差ΔIdの比例・積分制御(PI制御)演算により、モータ10におけるロータ軸上のd軸座標に換算した界磁成分電圧Vdを求める。上記電流制御部62は、減算部60で得られる偏差ΔIqの比例・積分制御(PI制御)演算により、モータ10におけるロータ軸上のq軸座標に換算したトルク成分電圧Vqを求める。上記PWM信号生成部63は、界磁成分電圧Vd、トルク成分電圧Vq、および回転電気角θestに応じて、インバータ43に対するスイッチング用のパルス幅変調信号(PWM信号という)を生成する。このPWM信号により、インバータ43の各スイッチング素子がオン,オフ動作し、モータ10の各相巻線に対する駆動電圧Vu,Vv,Vwがインバータ43から出力される。
上記速度変動検出部64は、積分部53で得られる回転電気角θestに基づくモータ10の1回転ごとに、その1回転中に生じる推定回転速度ωestの変動幅(最大値と最小値との差)Δωestを回転軸13の振動成分として検出する。推定回転速度ωestおよび回転軸13の振動変位の周波数分析の結果を図3に示しており、推定回転速度ωestの変動幅Δωestと回転軸13の振動変位とは相間関係にある。
上記Iq補正部(補正手段)65は、速度変動検出部64で検出される変動幅Δωestを設定値Δωsに収めるためのトルク成分補正値Iqxを求める。このトルク成分補正値Iqxは、回転電気角θestに応じて周期的に変化する。回転速度が低下する大きな駆動トルクが必要な回転電気角θest領域においては、大きな補正値となり、回転速度が高い駆動トルクが小さくて済む回転電気角θest領域においては小さな補正値、マイナスも可、となる。このトルク成分補正値Iqxの周期的変化は、圧縮機のトルク変動の1周期をなぞることが望ましいが、正弦波の半周期波形で近似することもできる。以下、トルク成分補正値Iqxの大小関係については、その最大値(ピーク値)を基準としてその大きさを説明する。
このトルク成分補正値Iqxは加算部59に供給される。加算部59は、上記のように、Iq補正部65からのトルク成分補正値Iqxをトルク成分目標値Iqrefに加算する。
回転軸13に加わる負荷トルクは、モータ10が1回転する期間において変動する。この負荷トルクの変動に伴って推定回転速度ωestも変動し、その推定回転速度ωestのモータ1回転中の変動が回転軸13の振動ひいてはケース1aの振動となって現われる。
この振動を抑制するため、速度変動検出部64、Iq補正部65、および加算部59により、推定回転速度ωestのモータ10の1回転中の変動幅Δωestを検出し、その変動幅Δωestが設定値Δωsに収まるようにトルク成分目標値Iqrefをフィードバック補正している。このフィードバック補正を行う速度変動検出部64およびIq補正部65の制御いわゆるトルク制御ルーチンを図4に示す。図中の符号S1,S2…は処理のステップを示す。まず、速度変動検出部64は、モータ10が1回転する期間において、負荷トルクの変動に伴う推定回転速度ωestの変動幅Δωestを検出する(S1)。Iq補正部65は、検出された変動幅Δωestが設定値Δωsより大きい場合(S2のYES)、直前の1回転期間の変動幅Δωestに対するトルク成分補正値Iqxより所定値大きいトルク成分補正値Iqxを発する(Iqx増加;S3)。検出された変動幅Δωestが設定値Δωsより小さい場合(S2のNO,S4のYES)、Iq補正部65は、直前の1回転期間の変動幅Δωestに対するトルク成分補正値Iqxより所定値だけ小さいトルク成分補正値Iqxを発する(Iqx減少;S5)。そして、Iq補正部65は、検出された変動幅Δωestが設定値Δωsと同じになると(S2のNO,S4のNO)、その時点のトルク成分補正値Iqxを保持、すなわち調整を行わない(S6)。
上記調整部66は、主要な機能として次の(1)(2)の手段を有する。
(1)電流検出部51で検出されるピーク値Impが電流保護用の規定値(第2規定値)Imp2以上の場合に、モータ電流Imを抑制するべく、推定回転速度ωestの変動幅Δωestに対するIq補正部65内の設定値Δωsを所定値ずつ増加し、その設定値Δωsが閾値Δωs1より大きくなった場合に目標回転速度ωrefを補正する第1調整手段。
(2)電流検出部51で検出されるピーク値Impが規定値(第1規定値)Imp1未満に低下した場合に、上記目標回転速度ωrefの補正および上記設定値Δωsの増加を解除する、すなわち目標回転速度ωrefを本来の値に戻すとともに設定値Δωsを初期値Δωs0に戻す第2調整手段。
上記第1調整手段による目標回転速度ωrefの補正は、速度補正値ωaを調整部66から加減算部54に供給することにより行う。空気調和機において、圧縮機1の負荷は回転数に比例して増加するため、モータ電流Imの実効値についても回転数に比例して増加する。一方で、モータ1回転中の負荷トルク変動は、慣性の影響により回転数が低い方が大きく、高くなるにつれて小さくなるため、トルク成分補正値Iqxも回転数が低い方が大きく、高くなるにつれて小さくなる。従って、モータ電流Imのピーク値Impは、図5に示すように、回転速度ωestが所定値ωest1未満の領域において回転速度ωestの増加に伴い下降し、回転速度ωestが所定値ωest1以上の領域において回転速度ωestの増加に伴い上昇する。このため、調整部66は、推定回転速度ωestが所定値ωest1未満の領域にあれば目標回転速度ωrefを増大方向に補正するための一定値を速度補正値ωaとして発し、推定回転速度ωestが所定値ωest1以上であれば目標回転速度ωrefを減少方向に補正するための一定値を速度補正値ωaとして発する。
1つの圧縮室21を有するシングル・ロータリ型の圧縮機1では、モータ10の1回転ごとに、負荷トルクが変動する。この負荷トルク変動は、実際の吸込みと吐出冷媒の圧力差や周囲温度等によって変化する。そして、冷凍サイクルの負荷が重い場合、すなわち圧縮機1の高低圧差が大きい場合には、負荷トルクの変動幅(最大値と最小値との差)が大きくなり、これに伴い、モータ10の1回転中の回転速度(推定回転速度)ωestの変動幅(速度の最大値と最小値との差)Δωestも大きくなる。この変動幅Δωestを設定値Δωs範囲内に収めるために、トルク成分目標値Iqrefを増加させることになる。また、モータ10の1回転において負荷トルクが最大となるタイミングで、トルク成分目標値Iqrefが最も大きくなる。補正量が大きくなると、モータ電流Imのピーク値Imp(瞬時値)が増加し、電流保護用の規定値Imp2に達することがある。このとき、モータ電流Imを抑制するためにモータ10の回転速度ωestを低減制御する電流保護モードに入ってしまう。この電流保護モードに入ってモータ10の回転速度ωestが減少すると、推定回転速度ωestの変動幅Δωestが、回転速度ωestに対して相対的に増加するため、トルク成分目標値Iqrefに対する補正量が再び大きくなる。こうなると、電流保護モードに入ってもピーク電流Impが下がらず、最終的に電流増加によるモータ10の停止に至ってしまう。
この不具合を防ぐため、図6および図7に示す処理を調整部66が実行する。図6は制御を示すフローチャート。図7は当該フローチャートに基づく制御によるモータ10の負荷の大きさ、ピーク値Imp、設定値Δωs、目標回転数ωrefの状態変化の一例を示す。図6中の符号S11,S12…は処理のステップを示す。
インバータ43の運転時、調整部66は、まず推定回転速度ωestの変動幅Δωestに対するIq補正部65内の設定値Δωsを初期値Δωs0に設定し(S11)、電流検出部51で検出されるピーク値Impが電流保護用の規定値Imp2以上であるか否かを判定する(S12)。
ピーク値Impが規定値Imp2未満の場合(S12のNo)、調整部66は、ピーク値Impが規定値Imp1以下の状態にあるか否かを判定する(S18)。ピーク値Impが規定値Imp1以下の状態にない場合(S18のNO)、調整部66は、特別な処理を施すことなくS12の判定に戻り、ここからの処理を繰り返す。
ピーク値Impが規定値Imp2以上の場合(S12のYES)、調整部66は、Iq補正部65内の設定値Δωsが閾値Δωs1未満の状態にあるか否かを判定する(S13)。設定値Δωsが閾値Δωs1未満の状態にあれば(S13のYES)、調整部66は、設定値Δωsの増加が可能であるとの判断の下に、Iq補正部65内の設定値Δωsを所定値だけ増加し(S14)、S12の判定に戻る。
S12のピーク値Impの判定に戻った段階で、ピーク値Impがまだ規定値Imp2以上の状態にあって(S12のYES)、かつ補正部65内の設定値Δωsが閾値Δωs1未満の状態にあれば(S13のYES)、調整部66は、Iq補正部65内の設定値Δωsをさらに所定値だけ増加する(S14)。ここで、設定値Δωsを増加させるというのは、図4のトルク補正値Iqxの制御からは、トルク成分補正値Iqxを減少させる方向に制御することを意味している。
このように、ピーク値Impが規定値Imp2に達した段階で設定値Δωsを増加することにより、モータ10の1回転において負荷トルクが最大となるタイミングでも、Iq補正部65が発するトルク成分補正値Iqxの増加を抑制し、よってトルク成分目標値Iqrefに対する補正量の増加を抑制することができる。これにより、モータ電流Imの上昇を抑制することができる。しかしながら、設定値Δωsを増加させることは、モータの速度変動の許容幅を拡大することになり、回転軸13の振動ひいてはケース1aの振動を増加させることになる。
ピーク値Impが規定値Imp2以上の状態にあるまま(S12のYES)、設定値Δωsの増加を繰り返すと、そのうちに設定値Δωsが閾値Δωs1に達する。上述の通り、設定値Δωsの増加は、1回転中の回転速度の変動幅を拡大することを意味する。設定値Δωsを増加させると、圧縮機の振動の増加を招き、大きな騒音発生や圧縮機に繋がる配管の応力破壊等の許容できない状態に至ることがないように、これ以上は許容できない速度変動幅として閾値Δωs1は設定されている。
ピーク値Impが規定値Imp2以上の状態にあるまま(S12のYES)、設定値Δωsが閾値Δωs1に達した場合(S13のNO)、調整部66は、設定値Δωsの増加をこれ以上は許容できない頭打ちの状態になったとの判断の下に、モータ電流Imを抑制するための目標回転速度ωrefの補正処理に移行するべく、推定回転速度ωestが所定値(変曲点)ωest1以上であるか否かを判定する(S15)。
推定回転速度ωestが所定値ωest1以上の場合(S15のYES)、調整部66は、減算補正用の速度補正値ωaを発して目標回転速度ωrefを減少方向に補正する(S16)。推定回転速度ωestが所定値ωest1未満の場合(S15のNO)、調整部66は、加算補正用の速度補正値ωaを発して目標回転速度ωrefを増大方向に補正する(S17)。こうして目標回転速度ωrefを補正することにより、モータ電流Imを抑制することができる。この補正後、調整部66は、S12の判定に戻る。
S12のピーク値Impの判定に戻った段階で、ピーク値Impがまだ規定値Imp2以上の状態にあって(S12のYES)、かつ補正部65内の設定値Δωsが閾値Δωs1以上の状態にあれば(S13のNO)、調整部66は、S15からの目標回転速度ωrefの補正処理を繰り返す。
このように、設定値Δωsの増加を繰り返したにもかかわらずモータ電流Imが抑制されないまま設定値Δωsの増加処理が頭打ちの状態になった場合は、設定値Δωsの増加を続けたまま目標回転速度ωrefの補正処理を加えるので、モータ電流Imを確実に抑制することができる。
ピーク値Impが規定値Imp2未満に低下した場合(S12のNO)、調整部66は、ピーク値Impが規定値Imp1以下の状態にあるか否かを判定する(S18)。
ピーク値Impが規定値Imp1以下の状態にない場合(S18のNO)、調整部66は、S12の判定に戻る。この場合、調整部66は、目標回転速度ωrefの補正処理を実行中であればそれを継続し、設定値Δωsの低減処理を実行中であればそれも継続する。
ピーク値Impが規定値Imp1以下に低下した場合(S18のYES)、調整部66は、目標回転速度ωrefの補正処理が継続中であるか否かを判定する(S19)。目標回転速度ωrefの補正処理が継続中であれば(S19のYES)、調整部66は、目標回転速度ωrefの補正処理を解除し(S20)、続いてS12の判定に戻る。
S12のピーク値Impの判定に戻った段階で、ピーク値Impが規定値Imp2未満で(S12のNO)、ピーク値Impが規定値Imp1以下で(S18のYES)、かつ目標回転速度ωrefの補正処理が終わっていれば(S19のNO)、調整部66は、設定値Δωsの増加処理が継続中であるか否か(つまり設定値Δωsが初期値Δωs0より大きいか否か)を判定する(S21)。
設定値Δωsの増加処理が継続中であれば(S21のYES)、調整部66は、設定値Δωsの増加処理を解除(つまり設定値Δωsを初期値Δωs0に設定)し(S22)、続いてS12の判定に戻る。そして、ピーク値Impが規定値Imp2未満で(S12のNO)、ピーク値Impが規定値Imp1以下で(S18のYES)、かつ目標回転速度ωrefの補正処理が終わっていて(S19のNO)、かつ設定値Δωsの増加処理が終わっていれば(S21のNO)、調整部66は、S12の判定に戻る。これで一連の調整処理が終了となる。
なお、S21のYESの場合、調整部66は、即座に設定値Δωsの増加処理を解除(つまり設定値Δωsを初期値Δωs0に設定)したが、すでに設定値Δωsを大きい値にまで変更している状況下、例えば、Δωs1となっている等の状態で、急激に設定値Δωsを変更すると、図4のS3の処理において、トルク成分補正値Iqxを急激かつ大きく増加することになる。この結果、インバータ43によるモータ10の駆動が不安定になって脱調を引き起こす可能性もある。そこで、S21のYESの場合に、即座に設定値Δωsを初期値Δωs0に戻すのではなく、所定時間ごとに設定値Δωsを徐々に減少させ、ある程度の時間を掛けて初期値Δωs0となるように制御することで、モータ駆動が不安定な状態にならないようにしても良い。
なお、本実施形態においては、検出した界磁成分Idおよびトルク成分Iqからモータ10の回転速度ωestを推定するセンサレスタイプのモータ制御について説明したが、モータの10の回転位置を検知するセンサを設けそのセンサ出力からモータ10の回転速度ωestを求めるタイプのモータ制御においても同様の制御が適用可能である。
また、本実施形態においては、モータ10の1回転期間における推定回転速度ωestの変動幅ωestに対する設定値Δωsを増加する制御を実行したが、この制御は結果的にトルク成分目標値Iqrefをトルク成分補正値Iqxで補正させるものであることから、トルク成分補正値Iqxに対する設定値Iqxsを設け、トルク成分補正値Iqxがこの設定値Iqxsを超えた場合にトルク成分補正値Iqxを低減する制御を実行しても良い。
さらに、本実施形態においては、ピーク値Impが規定値(第1規定値)Imp1未満に低下した場合に目標回転速度ωrefの補正および設定値Δωsの増加を解除する制御(第2調整手段)を採用したが、ピーク値Impが規定値(第2規定値)Imp2より低い状態で所定時間経過した場合に目標回転速度ωrefの補正および設定値Δωsの増加を解除する制御を採用してもよい。
また、圧縮機構部20の回転に伴って生じる周期的な速度変動の1周期は、圧縮機構部20の構造に依存する。たとえば、2つの圧縮室のローラが互いに180°ずれた位置に配置される構造の圧縮機構部20を有する2シリンダタイプの圧縮機においては、速度変動の1周期はモータ10の機械的回転角において180°、すなわちモータの半周期、となる。このような2シリンダタイプの圧縮機のモータに対しても本実施形態と同様の制御が適用可能である。このような2シリンダタイプの圧縮機のモータでは推定回転速度ωestの変動幅Δωestはモータの1周期中ではなく、任意の半周期中としても良い。すなわち、回転速度の変動幅Δωestは、周期的な圧縮機の軸トルク変動の1周期分を最低期間とする範囲内での速度変動の幅、その期間における最小速度と最大速度の差、であれば良い。
上記実施形態および変形例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態および変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、書き換え、変更を行うことができる。これら実施形態や変形は、発明の範囲は要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。