JP6776145B2 - 炭素材料の評価方法 - Google Patents

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Description

本開示は、炭素材料の評価方法に関し、特にラマンスペクトルを用いた炭素材料の評価方法に関する。
ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、グラファイト、フラーレン、及びカーボンナノチューブ等の様々な炭素材料が知られており、その応用が検討されている。中でも、sp2炭素、sp3炭素及び水素を含むアモルファス構造のDLCは表面平滑性、低摩擦性及び化学的不活性性等の性質を有し、表面コーティングやトライボロジーの分野における応用が進められている。
一方、DLCの特性は、sp2炭素、sp3炭素及び水素の比率によって大きく変化する。このため、用途に応じて最適な比率のDLCを用いることが検討されている。しかし、組成比が同じであるにもかかわらず、特性が異なっている場合もあり、組成比以外の構造的なパラメータを評価することが望まれている。
DLCをはじめとするsp2炭素、sp3炭素及び水素を含む炭素材料の評価に、ラマンスペクトルを用いることが検討されている。ラマンスペクトルを用いて炭素材料を評価する場合には、スペクトルがD(Disorder)バンドとG(Graphite)バンドの2つのピークから構成されていると解釈して、これらを分離し、DバンドとGバンドとのピーク強度の比等を指標とすることが一般的である(例えば特許文献1を参照。)。
特開2008−116268号公報
しかしながら、従来の評価方法は、モデルを単純化しすぎており、sp2炭素、sp3炭素及び水素を含む炭素材料を正しく評価することは困難である。
本開示の課題は、炭素材料のラマンスペクトルをその構造をより反映した複数のバンドに分割し、sp2炭素、sp3炭素及び水素を含む炭素材料についても詳細な評価を可能にすることである。
本開示の炭素材料の評価方法の一態様は、炭素材料のラマンスペクトルを、ガウス関数を重畳したローレンツ関数及びガウス関数を重畳したBWF関数(Breit‐Wigner‐Fano)を用いてカーブフィッティングして複数のバンドに分離し、分離したバンドそれぞれのピーク位置、面積及び強度のうちの少なくとも一つに基づいて、炭素材料の特性を評価する。
炭素材料の評価方法の一態様において、複数のバンドは、Nバンド、Dバンド、G-バンド、G+バンド及びD’バンドの5つであり、
Nバンド、Dバンド、G+バンド及びD’バンドは、共通のガウス関数を重畳したローレンツ関数を用いてフィッティングし、
-バンドは、ガウス関数を重畳したBWF関数を用いてカーブフィッティングする。
炭素材料の評価方法の一態様において、全カーブフィッティングは、以下の式(1)を用いて行うことができる。
Figure 0006776145
式(1)において、LN(ν)、LD(ν)、LG+(ν)及びLD'(ν)は、それぞれN、D、G+及びD’バンドのローレンツ関数であり、式(2)により表され、BG-(ν)はG-バンドのBWF関数であり、式(3)により表される。G(ν)は式4により表される共通のガウス関数である。
Figure 0006776145
Figure 0006776145
Figure 0006776145
式(1)〜式(4)において、ΓLxはxバンド(xはN、D、G+及びD’)のローレンツ曲線の半値幅(FWHM)である。ILx0はxバンドの強度定数である。qはG-バンドのBWF関数の非対称パラメータである。ΓBG-は1/q=0のときのG-バンドのBWF曲線の半値幅である。IBG-0はG-バンドの強度定数である。ΓGは共通のガウス関数の半値幅である。
本開示の炭素材料の評価方法によれば、sp2炭素、sp3炭素及び水素を含む炭素材料についても詳細に評価することができる。
本開示の炭素材料の評価方法の手順を示すフロー図である。 ラマンスペクトルのカーブフィッティングの一例を示す図である。 炭素材料の構造モデルを示す図である。
本実施形態においては、二次元グラフェンシートを炭素材料のラマン散乱に関する基本構造とする。二次元グラフェンシートは、炭素の最安定構造の1つである六員環(ベンゼン)を基本成分とする。二次元グラフェンシートの対称性は、D6h点群に属する。D6h点群は、4つのラマン活性モードを有し、それぞれ固有の対応する2階テンソルを示す。具体的には、A1gモードに2つ、E1gモード及びE2gモードにそれぞれ1つである。このうち、1つのA1gモードと、E2gモードとが二次元グラフェンシートに関してラマン活性である。A1gモードの振動座標は、x2+y2であり、E2gモードの振動座標は、x2−y2及びxyである。グラフェンシートの場合、A1gモードがDバンドに帰属され、E2gモードがGバンドに帰属される。ただし、Gバンドの振動は、sp3炭素を含む結合に対しても活性である。
本実施形態の炭素材料の評価方法においては、ラマンスペクトルを、1220cm-1付近のN(Network)バンド、1330cm-1付近のDバンド、1480cm-1付近のG-バンド、1560cm-1付近のG+バンド、1620cm-1付近のD’バンドの5つの活性バンドに分割する。Nバンド、Dバンド、G+バンド及びD’バンドは、共通のガウス関数を重畳したローレンツ関数であるフォークト関数を用いたカーブフィッティングにより分割し、G-バンドは、他のバンドと同じガウス関数を重畳したBWF(Breit‐Wigner‐Fano)関数を用いたカーブフィッティングにより分割する。
Nバンドは、E1gモードに由来する。E1gモードは、xz及びyz座標を有しており、いずれもz軸成分が寄与するので、二次元グラフェンシートでは観測されない。E1gモードは、sp3炭素のみからなるダイヤモンド結晶が属する、O点群のT2gモードの三重縮退(|xy|=|yz|=|zx|)が崩れた場合の三次元不均一伸縮振動に対応する。Nバンドは、歪み芳香環等のsp2炭素の三次元的振動を表すだけではなく、Gバンドの振動のように、sp3炭素の三次元的振動に対しても活性である。従って、Nバンドの位置及び強度等は、DLC膜のダイヤモンド性を評価する指標となり得る。
Dバンドは、A1gモードに由来する。A1gモードは、x2+y2座標とz2座標とを有している。このうち二次元のx2+y2座標は、円を表しており、その振動は呼吸振動と呼ばれている。これは、等しい結合から構成される芳香環に特有である。しかし、環が等価で、結晶性の場合、隣り合う環の振動は打ち消されうるので、このバンドはD(Disorder)バンドと呼ばれており、それは芳香環クラスターの数及びその欠陥あたりのサイズを表す指標となる。
1gモードは、もう一つのテンソルz2を有しており、これはD’バンドに帰属される。D’バンドは、向かい合う芳香環クラスター間の伸縮振動を意味するので、その密度を表す指標となる。DバンドとD’バンドの対は、グラフェンシートが何らかの損傷を受けた際に現れる。
Gバンドは、E2gモードに由来する。E2gモードはx2−y2座標及びxy座標を有している。関数x2−y2=r2は双曲線であるが、rの変動は結合の伸縮を表す。このため、Gバンドのx2−y2座標は、sp2炭素・sp3炭素の両方の炭素−炭素結合の伸縮振動に対応する。Gバンドの座標は、座標原点に対するπ/4の回転によって、もう1つのxy座標と一致する。そのため、一般に、これらの座標は区別できない。
sp2炭素のみから構成される完全なグラフェンシート又は歪みのないグラファイトは、単一で鋭いGバンドピークを示す。一方、金属性カーボンナノチューブにおいては、Gバンドが高波数側のG+バンドと低波数側のG-バンドとに分裂することが知られている。前者はチューブ軸方向の振動を示し、後者は歪みの大きい円周方向の振動を示す。また、グラフェンシートに強制的に歪みを加えることによっても、Gバンドは同様にG+バンドとG-バンドの2つに分裂し、歪みが強くなるに従い、バンドの分裂は大きくなる。従って、G-バンドとG+バンドとの比率は、sp2炭素の歪み、ひいてはDLC膜全体の歪みの大きさを表す指標となる。
本実施形態の炭素材料の評価方法においては、N、D、G-、G+及びD’の5つのラマン活性バンドの全カーブフィッティングを、ラマンシフト(ν)の関数である式(1)を用いて行う。
Figure 0006776145
N(ν)、LD(ν)、LG+(ν)及びLD'(ν)は、それぞれN、D、G+及びD’バンドのローレンツ関数であり、式(2)により表され、BG-(ν)はG-バンドのBWF(Breit‐Wigner‐Fano)関数であり、式(3)により表される。G(ν)は式4により表される共通のガウス関数であり、全てのバンドに等しく寄与する。
Figure 0006776145
Figure 0006776145
Figure 0006776145
式(1)〜式(4)において、ΓLxはxバンド(xはN、D、G+及びD’)のローレンツ成分の半値幅(FWHM)である。ILx0はxバンドの強度定数である。qはG-バンドのBWF関数の非対称パラメータであり、その逆数はG-バンドのフォノンと何らかの電子連続体との間の相互作用の指標となる。ΓBG-は1/q=0のときのG-バンドのBWF曲線の半値幅である。IBG-0はG-バンドの強度定数である。ΓGは共通のガウス関数の半値幅である。G-バンドのBWF曲線は、1/q=0とした場合、ローレンツ曲線に還元できる。qは、不連続のフォノンと電子連続体との間の二次的な相互作用と関連し、成分量には寄与しない。G-バンドの成分量は、1/q=0とした場合のフォークト曲線から求められる。
以下に本実施形態のカーブフィッティング手順を説明する。まず、図1に示すように、ステップ1(S1)として解析対象のラマンスペクトルのバックグラウンドを除去する。バックグラウンドの除去は定法により行うことができる。次に、ステップ2(S2)としてDバンドを除く各バンドのローレンツ成分の半値幅(ΓLN、ΓLG+、ΓLD'、ΓBG-)の値に、同測定条件における高配向熱分解グラファイト(HOPG)のGバンドの半値幅値を適用する。この後、ステップ3(S3)として各バンドの強度定数(ILN0、ILD0、ILG+0、ILD'0、IBG-0)及びG-バンドの非対称パラメータ(q)の調整、ガウス関数の半値幅(ΓG)の調整、Dバンドのローレンツ成分の半値幅(ΓLD)の調整を行う。ステップ3を繰り返すことによりフィッティングを最適化する。
本実施形態においては、ガウス関数を重畳したローレンツ関数(フォークト関数)及びガウス関数を重畳したBWF関数を用いてN、D、G-、G+及びD’の5つのラマン活性バンドに分離する例を示したが、全ての炭素材料において必ず5つのバンドに分離する必要はなく、炭素材料の組成、構造等に応じて不要なバンドについては割愛することができる。例えば、純粋なグラファイトやダイヤモンドの場合にはそれぞれ、GバンドとNバンドとを用いればよい。
以下に実施例を用いて本願発明をより詳細に説明する。以下の実施例は、例示であり本願発明をこれに限定するものではない。
<試料の作製>
光電子制御プラズマCVD(PA−PECVD)法、イオン化蒸着(ID)法及び非平衡マグネトロンスパッタリング(UBMS)法により、基板上にDLC膜を形成した。基板には重ドープされた面方位が[100]のn型シリコン(Si)基板を用いた。基板上を石英カバーで覆うことにより8mm×8mmの領域に成膜領域を限定した。
PA−PECVD法の場合、基板を陰極ステージ上に配置し、紫外光を照射することにより、基板から光電子を放出させた。紫外光の光源には、波長172nmのキセノンエキシマランプを用いた。対向陽極は紫外光を通すためにすのこ状とし、放電ギャップは12mmとした。原料ガスは、メタンとアルゴンとの混合気体とした。成膜の際にチャンバ内の圧力は200Paとし、陰極ステージ温度は150℃とした。メタン(CH4)とアルゴン(Ar)との比率を変えることにより、試料1〜6の6種類のサンプルを形成した。
ID法の場合、ベンゼン(C66)ガスをフィラメントからの熱電子攻撃によってイオン化し、これを適当な電圧で加速させて、基板にぶつけて成膜した。これにより試料7を得た。
UBMS法の場合、グラファイトをターゲットとした非平衡マグネトロン放電において、同アルゴン雰囲気中へのメタンガスの添加量を制御することによって、3種類のサンプルを作製した。CH4とArとの比率を変えることにより、試料8〜10の3種類のサンプルを形成した。
<電気的特性の測定>
LCRメータ(E4980A、アジレント社製)及び半導体パラメータアナライザー(4155C、アジレント社製)を用いて、各試料の比誘電率及び絶縁破壊強度を測定した。
測定の際に、各試料の表面に、一般的なフォトリソグラフィー及び電子ビーム蒸着を用いて、上部電極を形成した。上部電極は、厚さが250nmの金及び厚さが20nmのパラジウムからなる積層膜とした。上部電極は100μm角とした。下部電極は基板の裏面とした。上部電極と下部電極との間に、直流バイアス電圧を印加して走査することにより絶縁破壊強度を測定した。また、1MHz・10mVの交流摂動を加えた直流バイアス電圧を印加することにより比誘電率を測定した。
<ラマンスペクトルの測定>
ラマンスペクトルは、顕微ラマン分光装置(Nanofinder30、東京インスツルメンツ社製)により測定した。光源には、Nd:YVO4レーザ(JUNO J050S-11-11-11、昭和オプトロニクス社製)を用い、波長はその第二高調波である532nmとした。得られたスペクトルを式(1)を用いてカーブフィッティングした。フィッティングにおいて、N、G-、G+及びD’バンドの半値幅を、HOPGの実験値である16cm-1とした。G-バンドを表すBWF関数の1/qは、薄膜が絶縁性では0であるが、導電性が大きくなると、負の値となった。フィッティングにより得られた各バンドについて相対面積(比面積)を求めた。各バンドの相対面積は、各バンドの面積をスペクトル全体の面積で割った値とした。ただし、G-バンドの成分量は、1/q=0とした場合のフォークト曲線から求めた。
図2に試料1のラマンスペクトルをフィッティングした例を示す。N、D、G-、G+及びD’の5つのバンドに分離されている。
表1には、各試料の製造条件及び測定結果をまとめて示す。PA−PECVD法により作製した試料においては、メタン濃度が増大するに従い、Dバンドの相対面積が増大し、G+バンド及びG-バンドの相対面積が減少した。D’バンドの相対面積は、メタン濃度が増大すると僅かに増大しており、Nバンドの面積はメタン濃度にかかわらずほぼ一定であった。また、比誘電率は、メタン濃度が増大すると、一旦上昇した後、低下した。絶縁破壊強度は、メタン濃度が上昇すると、次第に低下した。
このような比誘電率及び絶縁破壊強度の挙動は、図3に示すようなsp2クラスターの島が、sp2炭素、sp3炭素及び水素からなる誘電性媒体の海(sp2/sp3/Hマトリックス)に浮かんでいる構造が形成されたモデルにより説明できる。sp2クラスターは導電性物質とみなすことができる。一方、誘電性媒体の海に含まれるsp2炭素は、その分子又はクラスターが非常に小さく導電性を発現しない。膜全体の比誘電率は、sp2クラスター直径と、誘電性媒体の海自体の比誘電率とによって決定される。一方、絶縁破壊強度は、sp2クラスターの成長に従い低下する。
成膜の際におけるメタン比率(CH4/Ar)が低い場合には、sp2クラスターは多分散である。この状態のsp2クラスターは脂肪族性が優勢で、欠陥あたりの大きさは大きい。また、水素終端結合の数が少なく、歪みは小さい。メタン比率が高くなると、sp2クラスターが成長しつつ、芳香族性が強くなる。この状態では、sp2クラスターの成長が歪み空間の影響によるsp2/sp3/Hマトリックスの比誘電率の低下よりも優勢であり、膜全体の比誘電率は上昇する。しかし、メタン比率がさらに高くなると、sp2クラスターの芳香族成長はより進むものの、欠陥あたりの大きさは小さくなる。また、炭素−水素結合は増加して大きな空間を作り出し、内部歪みを生じさせる。このため、sp2クラスターの成長よりもsp2/sp3/Hマトリックスの比誘電率の低下が優勢となり、膜全体の比誘電率は低下する。一方、正分極の絶縁破壊強度は、メタン比率の増大に伴って単調に減少する。これは、sp2クラスターの成長により、sp2/sp3/Hマトリックスかかる電界が強くなるためである。
このようなモデルに対して、ラマンスペクトルの各バンドを当てはめると、例えば、G+バンドの位置は、メタン比率が高くなるに従い、低波数側から高波数側にシフトしている。このことから、少なくともG+バンドの位置により、sp2クラスターの芳香族性を評価することができる。また、Dバンドの面積及びDバンドの半値幅ΓLDの値は、メタン比率が高くなるに従い、次第に大きくなり、さらにメタン比率が増加すると、Dバンドの面積及びΓLDが急激に上昇する。このことから、少なくともDバンドの面積及びDバンドの半値幅からsp2クラスターの成長度合い及び欠陥生成などに起因する結晶性からの崩れ(乱雑度)を評価することができる。例えば、Dバンドの半値幅は、DLC膜の欠陥密度の指標となりうる。このように、DLC膜のラマンスペクトルをN、D、G-、G+及びD’の5つのバンドに分離し、各バンドのピーク位置、強度及び面積のうちの少なくとも一つを指標として用いることにより、DLC膜の内部構造を評価することができる。また、DLC膜に限らずsp2炭素、sp3炭素及び水素を含む他の炭素材料についても評価することができる。
Figure 0006776145
PA−PECVD法により形成した試料1、ID法により形成した試料7及びUMBS法により形成した試料8を比較すると、Dバンドの面積は、UMBS法により形成した試料8が最も大きく、PA−PECVD法により形成した試料1が最も小さくなった。また、G-バンドの面積とG+バンドの面積との比(G-/G+)は、UMBS法により形成した試料8が最も大きく、PA−PECVD法により形成した試料1が最も小さくなった。
成膜の際のArイオンのアシストは、PA−PECVD法では強く、ID法はPA−PECVD法よりも弱く、UBMS法はID法よりも弱い。このため、Dバンドの面積及びG-/G+の比は、成膜の際のイオンアシストの違いを反映している。成膜の際のイオンアシストが強い方が、sp2クラスターの欠陥解消と歪み緩和が生じやすいと考えられ、Dバンドの面積及びG-/G+の比の値はそれぞれ、sp2クラスターの欠陥密度及び歪み量の指標となる。
UBMS法により形成した試料8〜10を比較すると、CH4の割合が小さくなるほどDバンド及びG-バンドの面積が大きくなっている。UBMS法において、CH4の割合が小さくなると、成膜時にチャンバ内存在するCH3ラジカルの量が少なくなる。CH3ラジカルの量が低下することにより、sp2クラスターの欠陥及び歪みが大きくなり、Dバンド及びG-バンドの面積が増大したと考えられる。
このように、ラマンスペクトルをN、D、G-、G+及びD’の5つのバンドに分離して評価することにより、DLC膜等のsp2炭素、sp3炭素及び水素を含む炭素材料についても、その構造を評価することができる。また、成膜方法及び成膜条件等を明らかにすることができる。
この他、ラマンスペクトルをN、D、G-、G+及びD’の5つのバンドに分離して評価することにより、膜の歪み及びそれに由来する硬さや摩擦係数などの機械特性、比誘電率や電気抵抗率などの電気特性が評価できる。
なお、本実施例において、各バンドの面積を用いて評価した。面積を用いることにより異なる半値幅を有するバンドを比較することが容易となる。しかし、面積に代えてピーク高さ(強度)を用いて評価することもできる。
本開示の炭素材料の評価方法は、ラマンスペクトルをN、D、G-、G+及びD’の5つのバンドに分離することにより、sp2炭素、sp3炭素及び水素を含む炭素材料についても詳細に評価することができ、炭素材料の評価方法として有用である。

Claims (2)

  1. 炭素材料のラマンスペクトルを、ガウス関数を重畳したローレンツ関数(フォークト関数)及びガウス関数を重畳したBWF関数を用いてカーブフィッティングして複数のバンドに分離し、
    分離したバンドそれぞれのピーク位置、面積及び強度のうちの少なくとも一つに基づいて、前記炭素材料の特性を評価し、
    前記複数のバンドは、Nバンド、Dバンド、G - バンド、G + バンド及びD’バンドの5つであり、
    Nバンド、Dバンド、G + バンド及びD’バンドは、前記ガウス関数を重畳したローレンツ関数によりカーブフィッティングし、
    - バンドは、前記ガウス関数を重畳したBWF関数を用いてカーブフィッティングする、炭素材料の評価方法。
  2. 前記カーブフィッティングは、以下の式(1)を用いて行う、請求項に記載の炭素材料の評価方法。
    Figure 0006776145
    式(1)において、LN(ν)、LD(ν)、LG+(ν)及びLD'(ν)は、それぞれN、D、G+及びD’バンドのローレンツ関数であり、式(2)により表され、BG-(ν)はG-バンドのBWF(Breit‐Wigner‐Fano)関数であり、式(3)により表される。G(ν)は式4により表される共通のガウス関数である。
    Figure 0006776145
    Figure 0006776145
    Figure 0006776145
    式(1)〜式(4)において、ΓLxはxバンド(xはN、D、G+及びD’)のローレンツ曲線の半値幅(FWHM)である。ILx0はxバンドの強度定数である。qはG-バンドのBWF関数の非対称パラメータである。ΓBG-は1/q=0のときのG-バンドのBWF曲線の半値幅である。IBG-0はG-バンドの強度定数である。ΓGは共通のガウス関数の半値幅である。
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