JP6760168B2 - 固溶度の評価方法 - Google Patents

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本発明は、無機酸化物材料中のアルカリ土類金属酸化物に対する二価金属酸化物の固溶度の評価方法に関する。
従来から製鉄プロセスで生成される製鋼スラグは、一般の土木・構造物材料等の成型体材料として広く使用されている。しかしながら、製鋼スラグ中に存在する精錬過程で溶融せずに残存した未さい化の酸化カルシウム(CaO)及び酸化マグネシウム(MgO)、又は溶融スラグが冷却され凝固する過程で晶出した酸化カルシウム及び酸化マグネシウムは、それぞれ遊離酸化カルシウム(f−CaO)及び遊離酸化マグネシウム(f−MgO)と呼ばれている。遊離酸化カルシウム及び遊離酸化マグネシウムは、成型体中で、以下の式(1)及び式(2)に示されるように、水分と共存すると水和反応によって、それぞれ水酸化カルシウム(Ca(OH))及び水酸化マグネシウム(Mg(OH))に変化する。その際に、成型体の体積が2倍以上に膨張するため、成型体中に亀裂が発生し、粉化や破壊を引き起こす原因となっていた。
CaO+HO→Ca(OH) ・・・(1)
MgO+HO→Mg(OH) ・・・(2)
例えば、製鉄プロセスで発生する製鋼スラグをセメントの代替材料として使用することが行われている。しかしながら、この材料(製鋼スラグ)を道路路盤材等に利用した場合に、上記f−CaOやf−MgOの水和反応に起因する体積膨張によって、路盤に凹凸や亀裂が生じ、車両の走行に支障をきたす等の問題が生ずる。このため、例えば、MgOを含む製鋼スラグを道路路盤材として使用する場合には、JIS A 5015の「水浸膨張試験」(非特許文献1)に準じて測定される水浸膨張比が1.5%以下である条件を満足することが要求されている。
また、f−CaO及びf−MgO中には、純粋なCaO及びMgOとは異なる二価金属酸化物との固溶体が含まれる場合がある。水和膨脹を引き起こすf−CaO又はf−MgOに酸化鉄(II)(FeO)又は酸化マンガン(MnO)が固溶することによって、水和膨脹が抑制されることが報告されている。例えば、非特許文献2には、(CaO)1−x(MnO)固溶体中のMnOの固溶度xが0.4を超えると、急激に水和膨脹が抑制されることが開示されている。また、非特許文献3には、(CaO)1−x(FeO)及び(CaO)1−x(MnO)固溶体を合成し、X線回折(X−Ray Diffraction、以下XRDと表記する)から求められた格子定数と固溶度xとの関係から、エージング前後の転炉スラグ中の固溶度xの変化を評価することが可能であり、また、水和反応性は固溶度に依存し、固溶度が高くなると水和しにくくなることが開示されている。さらに、非特許文献4には、(MgO)0.90(FeO)0.10固溶体の水和反応は純MgOと比較して大幅に抑制されることが開示されている。以上のような理由によって、製鋼スラグの有効利用を促進し、その体積膨張によるトラブルを回避するためには、f−CaO及びf−MgOに対する二価金属酸化物の固溶度を精度良く評価することが重要となる。
以下、アルカリ土類金属の酸化物として、MgOを例にとって説明を進める。
MgOに対するFeOの固溶度を評価する方法として、非特許文献4には、(MgO)1−x(FeO)固溶体中のFeOの固溶度xを0.05〜0.7の範囲で変化させた固溶体を合成し、XRDから求められた格子定数aと固溶度xとの関係を求めた結果、以下の式(3)が成り立つことが開示されている。
a(nm)=0.0092x+0.4211(相関係数R=0.9956) ・・・(3)
さらに、合成した固溶体を蒸気エージングによって水和させた試料について、上記式(3)を用いてエージング前後での固溶度xの値を比較したところ、エージング後の試料の固溶度が、僅かながら増加する(x:0.10→0.11)ことが開示されている。
JIS A 5015「水浸膨張試験」 當房博幸,松永久宏,熊谷正人,田口整司,GIL Ludovic共著、「製鋼スラグの発生量低減と資源化―鉄鋼スラグの基礎と応用研究会最終報告書―」、日本鉄鋼協会 研究会、鉄鋼スラグの基礎と応用研究会編、(1997)227. 西之原一平,加瀬直樹,丸岡敬和,平井昭司,江場宏美共著、「鉄と鋼」、99(2013)10. 小野篤史,江場宏美共著、「第51回X線分析討論会要旨集」、(2015)169.
しかしながら、前述の評価方法はいくつかの問題点を有している。まず、非特許文献4に開示された方法は、XRDの回折角からFeOの固溶度xを推定する方法であるが、固溶度xの変化量に対する格子定数aの変化量が非常に小さい(式(3)の傾きが小さい)。そのため、僅かな回折角の位置(2θ)の変化からFeOの固溶度を求める際に誤差が生じやすい。例えば、FeOの固溶度xが0.10及び0.11の場合、式(3)から求められる格子定数aはそれぞれ0.4220及び0.4221である。XRDにおける(200)の回折ピークの格子面間隔dと格子定数aの関係はd=a/2である。したがって、これらの値をブラッグの条件式(2dsinθ=nλ、ここで、nは整数=1、λはX線の波長=0.1541nm)に代入して求めた(200)の回折ピークの位置2θは、それぞれ42.84°及び42.83°と算出される。つまり、固溶度の0.01の差が、回折角0.01°の差に相当する。
以上のように、上述した特許文献及び非特許文献で提案された従来技術は、MgOに対するFeOの固溶度の差に対するXRDの回折ピークの位置(2θ)のずれが非常に小さいため、FeOの固溶度を求める際に誤差が生じやすいという問題があった。そのため、上述した技術では、二価金属酸化物の固溶度を高い精度で評価することは困難であった。
このような従来技術の現状に鑑みて、本発明は、従来技術に対して、二価金属酸化物の固溶度をより精度高く評価する方法を提供することを目的とする。
本発明者は上記した課題の解決のため、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance、以下NMRと表記する)をMgOに対するFeOの固溶度の評価に適用する方法について鋭意検討し、以下を要旨とする発明に至った。
(1)無機酸化物材料中のアルカリ土類金属酸化物(MO)に対する二価金属酸化物(M’O)の固溶度の評価方法であって、アルカリ土類金属酸化物(MO)に対する二価金属酸化物(M’O)の固溶度xが未知である(MO)1−x(M’O)固溶体の固体NMRスペクトルを測定する工程と、測定により得られた上記固体NMRスペクトルのシグナルに基づく情報を用いて、固溶度xを評価する工程と、を含むことを特徴とする、固溶度の評価方法。
(2)上記固体NMRスペクトルのシグナルに基づく情報は、上記固体NMRスペクトルのピーク位置であることを特徴とする、(1)に記載の固溶度の評価方法。
(3)上記固溶度xを評価する工程において、上記アルカリ土類金属酸化物に対する上記二価金属酸化物の固溶度がそれぞれ異なるよう合成された複数の検量用固溶体について測定された複数の固体NMRスペクトルから特定される複数の検量用ピーク位置と、上記複数の検量用固溶体の上記二価金属酸化物の固溶度との関係を用いて、上記固溶度xを評価することを特徴とする、(2)に記載の固溶度の評価方法。
(4)上記固体NMRスペクトルのシグナルに基づく情報は、上記固体NMRスペクトルのピークの半値幅であることを特徴とする、(1)に記載の固溶度の評価方法。
(5)上記固溶度xを評価する工程において、上記アルカリ土類金属酸化物に対する上記二価金属酸化物の固溶度がそれぞれ異なるよう合成された複数の検量用固溶体について測定された複数の固体NMRスペクトルから特定される複数の検量用ピーク半値幅と、上記複数の検量用固溶体の上記二価金属酸化物の固溶度との関係を用いて、上記固溶度xを評価することを特徴とする、(4)に記載の固溶度の評価方法。
(6)上記固体NMRスペクトルのシグナルに基づく情報は、上記固体NMRスペクトルの主ピーク強度に対するスピニングサイドバンド強度の比率であることを特徴とする、(1)に記載の固溶度の評価方法。
(7)上記固溶度xを評価する工程において、上記アルカリ土類金属酸化物に対する上記二価金属酸化物の固溶度がそれぞれ異なるよう合成された複数の検量用固溶体について測定された複数の固体NMRスペクトルから特定される複数の検量用の主ピーク強度に対するスピニングサイドバンド強度の比率と、上記複数の検量用固溶体の上記二価金属酸化物の固溶度との関係を用いて、上記固溶度xを評価することを特徴とする、(6)に記載の固溶度の評価方法。
(8)上記無機酸化物材料は、製鋼スラグを含むことを特徴とする、(1)〜(7)のいずれか1項に記載の固溶度の評価方法。
(9)上記アルカリ土類金属酸化物は、酸化カルシウム(CaO)又は酸化マグネシウム(MgO)であることを特徴とする、(1)〜(8)のいずれか1項に記載の固溶度の評価方法。
(10)上記二価金属酸化物は、酸化鉄(II)(FeO)又は酸化マンガン(II)(MnO)であることを特徴とする、(1)〜(9)のいずれか1項に記載の固溶度の評価方法。
(11)上記アルカリ土類金属酸化物がMgOであり、かつ、上記二価金属酸化物がFeOである場合において、上記固溶度xの評価範囲は、0≦x≦0.2の範囲であることを特徴とする、(1)〜(10)のいずれか1項に記載の固溶度の評価方法。
(12)上記固体NMRスペクトル測定は、43Caまたは25Mg核の固体NMRスペクトル測定であることを特徴とする、(1)〜(11)のいずれか1項に記載の固溶度の評価方法。
(13)MAS(Magic Angle Spinning:マジック角回転)法を用いて上記固体NMRスペクトル測定を行うことを特徴とする、(1)〜(12)のいずれか1項に記載の固溶度の評価方法。
以上説明したように本発明によれば、無機酸化物材料中のアルカリ土類金属酸化物に対する二価金属酸化物の固溶度を精度良く評価することが可能となり、鉄鋼業における利用価値は極めて高いものである。
(MgO)1−x(FeO)固溶体(0≦x≦0.2)のFeOの固溶度xを変化させたときの25Mg MAS NMRスペクトルの一例を示す図である。 (MgO)1−x(FeO)固溶体(x=0〜0.2)の25Mg MAS NMRスペクトルのピーク位置δとFeOの固溶度xとの相関の一例を示すグラフである。 (MgO)1−x(FeO)固溶体(0≦x≦0.2)のFeOの固溶度xを変化させたときの25Mg MAS NMRスペクトルの一例を示す図である。 (MgO)1−x(FeO)固溶体の25Mg MAS NMRスペクトルのピークの半値幅を縦軸に、FeOの固溶度xを横軸にとった相関図の一例である。 (MgO)1−x(MnO)固溶体(0≦x≦0.2)のMnOの固溶度xを変化させたときの25Mg MAS NMRスペクトルの一例を示す図である。 (MgO)1−x(MnO)固溶体の25Mg MAS NMRスペクトルのピークの半値幅を縦軸に、MnOの固溶度xを横軸にとった相関図の一例である。 (MgO)1−x(FeO)固溶体(0≦x≦0.2)のFeOの固溶度xを変化させたときの25Mg MAS NMRスペクトルの一例を示す図である。 (MgO)1−x(FeO)固溶体の25Mg MAS NMRスペクトルのピークの主ピーク強度に対するスピニングサイドバンド強度の比率を縦軸に、FeOの固溶度xを横軸にとった相関図の一例である。 (MgO)1−x(MnO)固溶体(0≦x≦0.2)のMnOの固溶度xを変化させたときの25Mg MAS NMRスペクトルの一例を示す図である。 (MgO)1−x(MnO)固溶体の25Mg MAS NMRスペクトルのピークの主ピーク強度に対するスピニングサイドバンド強度の比率を縦軸に、MnOの固溶度xを横軸にとった相関図の一例である。 (MgO)0.93(FeO)0.07固溶体の25Mg MAS NMRスペクトルの一例を示す図である。 製鋼スラグAの25Mg MAS NMRスペクトルの一例を示す図である。 (MgO)1−x(FeO)固溶体(x=0〜0.2)のXRDパターンから得られた格子定数aとFeOの固溶度xとの相関の一例を示すグラフである。 (MgO)0.93(FeO)0.07のXRDパターンの一例を示す図である。 製鋼スラグBの25Mg MAS NMRスペクトルの一例を示す図である。 製鋼スラグCの25Mg MAS NMRスペクトルの一例を示す図である。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
以下に説明する本発明の一実施形態では、まず、試薬のアルカリ土類金属酸化物(MO)と二価金属酸化物(M’O)を所定の割合で混合、焼成して合成した、複数の(MO)1−x(M’O)固溶体(検量用固溶体)の固体NMRスペクトル測定を行う。
次に、得られた当該検量用固溶体のNMRスペクトルのシグナルに基づく情報と、当該検量用固溶体に固溶する二価金属酸化物の固溶度xとの相関を示す図(相関図)を作成し、当該相関図により示される、検量用のNMRスペクトルから得られたシグナルに基づく情報と検量用固溶体の二価金属酸化物の固溶度xとの関係を得る。ここで、シグナルとは、NMRスペクトルにおける共鳴ピークを意味する。かかるシグナルには、例えば、固溶体の主ピークに由来するシグナルや、固溶体のスピニングサイドバンドに由来するシグナルが含まれる。
当該関係を取得したあとにおいて、二価金属酸化物の固溶度xが未知の無機酸化物材料に対して固体NMRスペクトル測定を行い、得られた固体NMRスペクトルのシグナルに基づく情報を上記の関係に適用させることにより、アルカリ土類金属酸化物に対する二価金属酸化物の固溶度xを評価する。
これにより、二価金属酸化物の固溶度を精度良く評価することができる。この技術は、無機酸化物材料の管理及び利用指針として適用可能である。
以下の各実施形態では、上述した検量用固溶体のNMRスペクトルのシグナルに基づく情報として、以下の情報を用いる例を説明する。
(1)第1の実施形態:ピーク位置
(2)第2の実施形態:ピーク半値幅
(3)第3の実施形態:主ピーク強度に対するスピニングサイドバンド強度の比率(強度比率)
<1.第1の実施形態>
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
本実施形態では、まず、試薬のアルカリ土類金属酸化物(MO)と二価金属酸化物(M’O)を所定の割合で混合、焼成して合成した、複数の(MO)1−x(M’O)固溶体(検量用固溶体)の固体NMRスペクトル測定を行う。次に、得られた当該検量用固溶体のNMRスペクトルのピーク位置(検量用ピーク位置)と、当該検量用固溶体に固溶する二価金属酸化物の固溶度xとの相関を示す図(相関図)を作成し、当該相関図により示される検量用ピーク位置と検量用固溶体の二価金属酸化物の固溶度xとの関係を得る。当該関係を取得したあとにおいて、二価金属酸化物の固溶度xが未知の無機酸化物材料に対して固体NMRスペクトル測定を行い、得られた固体NMRスペクトルのピーク位置を上記の関係に適用させることにより、アルカリ土類金属酸化物に対する二価金属酸化物の固溶度xを評価する。
本発明者らは、まず、無機酸化物材料中のアルカリ土類金属酸化物に対する二価金属酸化物の固溶度を評価する際には、固体NMR測定が有効であることを見出した。
固体NMRでは、試料内部を含めた試料全体の構造を明らかにでき、結合相手元素や結合角といった局所構造のわずかな差異に対しても、得られるピーク位置(化学シフト値)が敏感である。そこで、本発明者らは、無機酸化物材料について、(MO)1−x(M’O)固溶体の二価金属酸化物の固溶度xに応じて固体NMRスペクトルのピーク位置が変化することを利用すれば、例えば、上記非特許文献等に開示されたXRDの回折ピーク位置の変化に基づく方法よりも、より高い精度で固溶度xを求められることを見出した。
以下、本発明の第1の実施形態として、無機酸化物材料の固体25Mg NMRスペクトルを測定し、得られた固体25Mg NMRスペクトルのピーク位置を用いて当該無機酸化物材料中のMgOに対するFeOの固溶度xを評価するための方法について説明する。
すなわち、本実施形態において、無機酸化物材料中のMgOに対するFeOの固溶度xの評価は、無機酸化物材料について得られる固体25Mg NMRスペクトルのピーク位置を用いて行うことができる。FeOの固溶度xに対して、(MgO)1−x(FeO)固溶体に係る固体25Mg NMRスペクトルは特定のピーク位置を示す。すなわち、測定された固溶体の固体25Mg NMRスペクトルのピーク位置から、無機酸化物材料中のMgOに対するFeOの固溶度xを評価することができる。
固体25Mg NMRスペクトル測定においては、化学シフト異方性や双極子相互作用によるピークの広幅化を防ぐために、25Mg マジック角回転(Magic Angle Spinning、以下、MASと略称する)法を適用することが好ましい。MAS法は、回転軸が静磁場に対してマジック角(54.7°)だけ傾斜した角度で測定試料を回転させることによって、化学シフト異方性や双極子相互作用を低減させることが可能な手法である。以下、MAS法を適用させて得られる固体25Mg NMRスペクトルを、25Mg MAS NMRスペクトルとも称する。
さらに、本発明者らは、本実施形態に係る技術が適用可能なFeOの固溶度xの評価範囲についても検討した。(MgO)1−x(FeO)固溶体において、FeOの固溶度xが増加するに従ってFe2+の磁性に起因するスピニングサイドバンドの強度が増加することにより、主ピークの強度が減少する。さらに、固溶度xの増加に応じて、主ピークの半値幅も増加する。そして、FeOの固溶度xが0.2を超えると、主ピークの感度の低下及び半値幅の増加が顕著となり、精度の良い固体25Mg NMRスペクトルを得るのは不可能となった。このことから、本実施形態に係る技術が適用可能なFeOの固溶度xの評価範囲は、0≦x≦0.2であることを、本発明者らは見出した。当該評価範囲内である固溶度xについて、本実施形態に係る技術により当該固溶度xを精度高く評価することが可能である。非特許文献4では実機の製鋼スラグ中の(MgO)1−x(FeO)固溶体の固溶度がXRDによって求められており、当該文献にはx=0.15との値が得られていることが開示されている。当該文献によれば、当該固溶度x=0.15を示す(MgO)1−x(FeO)固溶体では、水和反応が顕著に抑制されている。したがって、(MgO)1−x(FeO)固溶体の固溶度xの評価可能な範囲(0≦x≦0.2)において(MgO)1−x(FeO)固溶体による水和反応の抑制効果が生じ得るので、固溶度xの評価範囲は上記に示す範囲(0≦x≦0.2)で十分であると考えられる。
図1に、(MgO)1−x(FeO)固溶体(0≦x≦0.2)のFeOの固溶度xを変化させたときの25Mg MAS NMRスペクトルの一例を示す。なお、図1の横軸は化学シフト値を示し、その単位はppmである。
図1に示す一番下のスペクトルは、FeOが固溶していないMgO試薬(つまり、固溶度x=0)の25Mg MAS NMRスペクトルである。図1に示すように、固溶度x=0の25Mg MAS NMRスペクトルの26.34ppmの位置に、ほぼ左右対称な先鋭化したピークが観測された。
また、図1に示すように、FeOの固溶度xの増加に伴い、(MgO)1−x(FeO)固溶体の25Mg MAS NMRスペクトルのピークが、26.34ppmから高周波数(低磁場)側へシフトしていく様子が観測された。
表1に、各FeOの固溶度xにおける25Mg MAS NMRスペクトルから得られたピーク位置の一例を示す。
Figure 0006760168
本実施形態では、まず、異なるFeOの固溶度xを示す複数の(MgO)1−x(FeO)固溶体(検量用固溶体)に対して25Mg MAS NMRスペクトルを測定し、各スペクトルから得られる固溶体のピーク位置δ(検量用ピーク位置)と、FeOの固溶度xとの関係を示す相関図を予め作成する。
図2に、(MgO)1−x(FeO)固溶体(固溶度x=0、0.1、0.2、0.3、0.5、1.0、2.0)の25Mg MAS NMRスペクトルのピーク位置δを縦軸に、FeOの固溶度xを横軸にとった相関図の一例を示す。図2の縦軸の単位はppmである。図2に示す相関図は、例えば、(MgO)1−x(FeO)固溶体のピーク位置δと、FeOの固溶度xとを2次元グラフにプロットし、各プロットの間を補間することにより作成される。図2に示すように、固溶体中のFeOの固溶度xに依存して、25Mg MAS NMRスペクトルで得られたピーク位置δが変化することが判った。
さらに、本発明者らは、図2で示されたFeOの固溶度xは、ピーク位置δに対して2次関数で精度良くフィットできることを見出した。例えば、図2に示した各プロットについては、FeOの固溶度xとピーク位置δとの間に、以下の式(4)が成り立つ。
δ(ppm)=760.3x−17.05x+26.48(相関係数R=0.9999) ・・・(4)
無機酸化物材料に存在するMgO中のFeOの固溶度xが未知であるような評価すべき無機酸化物材料について、25Mg MAS NMRスペクトルを測定し、25Mg MAS NMRスペクトルの示すピーク位置を図2に示す相関図から定まる関係(例えば、上記式(4))に適用させることにより、当該無機酸化物材料中のMgOに対するFeOの固溶度xを精度良く評価することが可能となる。なお、上記式(4)は二次関数により表現される近似曲線がFeOの固溶度xおよびピーク位置δの関係を最も精度よく反映しているが、当該関係は、他の関数等を用いた公知のフィッティング手法により表現されてもよい。
以上説明した本実施形態によれば、無機酸化物材料中のMgOに対するFeOの固溶度を精度良く評価することが可能となり、鉄鋼業における利用価値は極めて高いものである。
なお、例えば、図2に示したピーク位置δと固溶度xの相関図、及び上記式(4)に示したピーク位置δと固溶度xの関係を示す式は、あくまでも具体例に過ぎない。上記式(4)に示す関係式の関数の次元及び係数の具体値は、検量実験により得られる既知の固溶度xに対するピーク位置δの値に応じて適宜設定される。
また、上記実施形態では、MgOに対するFeOの固溶度xが評価されたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、MgOに対するMnOの固溶度xについても上記実施形態に係る評価方法を用いて評価することが可能である。また、CaOに対するFeO又はMnOの固溶度xについても、上記実施形態に係る評価方法を用いて評価することが可能である。すなわち、アルカリ土類金属酸化物中に二価金属酸化物が固溶することにより固溶体を形成するものであれば、あらゆる固溶体における当該二価金属酸化物の固溶度xについて、上記実施形態に係る評価方法を用いて評価することが可能である。
<2.第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
本実施形態では、まず、試薬のアルカリ土類金属酸化物(MO)と二価金属酸化物(M’O)を所定の割合で混合、焼成して合成した、複数の(MO)1−x(M’O)固溶体(検量用固溶体)の固体NMRスペクトル測定を行う。次に、得られた当該検量用固溶体のNMRスペクトルのピークの半値幅(検量用ピーク半値幅)と、当該検量用固溶体に固溶する二価金属酸化物の固溶度xとの相関を示す図(相関図)を作成し、当該相関図により示される検量用ピーク半値幅と検量用固溶体の二価金属酸化物の固溶度xとの関係を得る。当該関係を取得したあとにおいて、二価金属酸化物の固溶度xが未知の無機酸化物材料に対して固体NMRスペクトル測定を行い、得られた固体NMRスペクトルのピークの半値幅を上記の関係に適用させることにより、アルカリ土類金属酸化物に対する二価金属酸化物の固溶度xを評価する。
本発明者らは、無機酸化物材料について、(MO)1−x(M’O)固溶体の二価金属酸化物の固溶度xに応じて固体NMRスペクトルのピークの半値幅が変化することを利用すれば、例えば、上記非特許文献等に開示されたXRDの回折ピーク位置の変化に基づく方法よりも、より高い精度で固溶度xを求められることを見出した。
以下、本発明の第2の実施形態として、無機酸化物材料の固体25Mg NMRスペクトルを測定し、得られた固体25Mg NMRスペクトルのピークの半値幅を用いて当該無機酸化物材料中のMgOに対するFeOの固溶度xを評価するための方法について説明する。
すなわち、本実施形態において、無機酸化物材料中のMgOに対するFeOの固溶度xの評価は、無機酸化物材料について得られる固体25Mg NMRスペクトルのピークの半値幅を用いて行うことができる。FeOの固溶度xに対して、(MgO)1−x(FeO)固溶体に係る固体25Mg NMRスペクトルのピークは特定の半値幅を示す。すなわち、測定された固溶体の固体25Mg NMRスペクトルのピークの半値幅から、無機酸化物材料中のMgOに対するFeOの固溶度xを評価することができる。
なお、本実施形態においても、固体25Mg NMRスペクトル測定においては、化学シフト異方性や双極子相互作用によるピークの広幅化を防ぐために、MAS法を適用することが好ましい。
さらに、本発明者らは、本実施形態に係る技術が適用可能なFeOの固溶度xの評価範囲についても検討した。(MgO)1−x(FeO)固溶体において、FeOの固溶度xが0.2を超えると、主ピークの感度の低下が顕著となり、精度の良い固体25Mg NMRスペクトルを得るのは不可能となった。このことから、本実施形態に係る技術が適用可能なFeOの固溶度xの評価範囲は、0≦x≦0.2であることを、本発明者らは見出した。上記の第1の実施形態で述べたように、(MgO)1−x(FeO)固溶体の固溶度xの評価可能な範囲(0≦x≦0.2)において(MgO)1−x(FeO)固溶体による水和反応の抑制効果が生じ得るので、固溶度xの評価範囲は上記に示す範囲(0≦x≦0.2)で十分であると考えられる。
図3に、(MgO)1−x(FeO)固溶体(0≦x≦0.2)のFeOの固溶度xを変化させたときの25Mg MAS NMRスペクトルの一例を示す。なお、図3の横軸は化学シフト値を示し、その単位はppmである。
図3に示す一番下のスペクトルは、FeOが固溶していないMgO試薬(つまり、固溶度x=0)の25Mg MAS NMRスペクトルである。図3に示すように、固溶度x=0の25Mg MAS NMRスペクトルでは、左右対称な先鋭化したピークが観測された。
また、図3に示すように、FeOの固溶度xの増加に伴い、(MgO)1−x(FeO)固溶体の25Mg MAS NMRスペクトルのピークの半値幅が増加していく様子が観測された。
表2に、各FeOの固溶度xにおける25Mg MAS NMRスペクトルから得られたピークの半値幅の一例を示す。
Figure 0006760168
本実施形態では、まず、異なるFeOの固溶度xを示す複数の(MgO)1−x(FeO)固溶体(検量用固溶体)に対して25Mg MAS NMRスペクトルを測定し、各スペクトルから得られる固溶体のピークの半値幅(検量用ピーク半値幅)と、FeOの固溶度xとの関係を示す相関図を予め作成する。
図4に、(MgO)1−x(FeO)固溶体(固溶度x=0、0.01、0.02、0.03、0.05、0.07、0.1、0.2)の25Mg MAS NMRスペクトルのピークの半値幅を縦軸に、FeOの固溶度xを横軸にとった相関図の一例を示す。図4に示す相関図は、例えば、(MgO)1−x(FeO)固溶体のピークの半値幅と、FeOの固溶度xとを2次元グラフにプロットし、各プロットの間を補間することにより作成される。この際、多項式近似やプロット間を直線で結ぶことによって各プロット間の補間することができる。図4に示すように、固溶体中のFeOの固溶度xに依存して、25Mg MAS NMRスペクトルで得られたピークの半値幅が変化することが判った。
さらに、本発明者らは、図4で示されたFeOの固溶度xは、ピークの半値幅に対して2次関数で精度良くフィットできることを見出した。例えば、図4に示した各プロットについては、FeOの固溶度xとピークの半値幅FWHM(Full Width at Half Maximum)との間に、以下の式(5)が成り立つ。
FWHM(ppm)=2666.4x+57.086x−0.0755(相関係数R=0.9982) ・・・(5)
無機酸化物材料に存在するMgO中のFeOの固溶度xが未知であるような評価すべき無機酸化物材料について、25Mg MAS NMRスペクトルを測定し、25Mg MAS NMRスペクトルの示すピークの半値幅を図4に示す相関図から定まる関係(例えば、上記式(5))に適用させることにより、当該無機酸化物材料中のMgOに対するFeOの固溶度xを精度良く評価することが可能となる。なお、上記式(5)は二次関数により表現される近似曲線がFeOの固溶度xおよびピークの半値幅FWHMの関係を最も精度よく反映しているが、当該関係は、他の関数等を用いた公知のフィッティング手法やプロット間を直線で結ぶことにより表現されてもよい。
また、発明者らは、MgOに対するMnOの固溶度の評価についても検討した。
図5に、(MgO)1−x(MnO)固溶体(0≦x≦0.2)のMnOの固溶度xを変化させたときの25Mg MAS NMRスペクトルの一例を示す。なお、図5の横軸は化学シフト値を示し、その単位はppmである。
図5に示す一番下のスペクトルは、MnOが固溶していないMgO試薬(つまり、固溶度x=0)の25Mg MAS NMRスペクトルであり、図3に示した一番下のスペクトルと同じものである。
図5に示すように、MnOの固溶度xの増加に伴い、(MgO)1−x(MnO)固溶体の25Mg MAS NMRスペクトルのピークの半値幅が増加していく様子が観測された。
表3に、各MnOの固溶度xにおける25Mg MAS NMRスペクトルから得られたピークの半値幅の一例を示す。
Figure 0006760168
本実施形態では、まず、異なるMnOの固溶度xを示す複数の(MgO)1−x(MnO)固溶体(検量用固溶体)に対して25Mg MAS NMRスペクトルを測定し、各スペクトルから得られる固溶体のピークの半値幅(検量用ピーク半値幅)と、MnOの固溶度xとの関係を示す相関図を予め作成する。
図6に、(MgO)1−x(MnO)固溶体(固溶度x=0、0.01、0.02、0.03、0.05、0.07、0.1、0.2)の25Mg MAS NMRスペクトルのピークの半値幅を縦軸に、MnOの固溶度xを横軸にとった相関図の一例を示す。図6に示す相関図は、例えば、(MgO)1−x(MnO)固溶体のピークの半値幅と、MnOの固溶度xとを2次元グラフにプロットし、各プロットの間を補間することにより作成される。この際、多項式近似やプロット間を直線で結ぶことによって各プロット間の補間することができる。図6に示すように、固溶体中のMnOの固溶度xに依存して、25Mg MAS NMRスペクトルで得られたピークの半値幅が変化することが判った。
無機酸化物材料に存在するMgO中のMnOの固溶度xが未知であるような評価すべき無機酸化物材料について、25Mg MAS NMRスペクトルを測定し、25Mg MAS NMRスペクトルの示すピークの半値幅を図6に示す相関図から定まる関係に適用させることにより、当該無機酸化物材料中のMgOに対するMnOの固溶度xを精度良く評価することが可能となる。なお、MnOの固溶度xおよびピークの半値幅FWHMの関係は、図4とは異なり2次関数でフィットしなかったため、例えば、図6に示すプロット間を直線で結ぶことにより表現される。
本実施形態に係る固溶度の評価方法について補足する。例えば、特開2014−21072号公報において、無機酸化物材料中のエトリンガイトの水分量を、27Al固体NMRスペクトルのピークの半値幅から求める方法が開示されている。これは、エトリンガイトを構成するエトリンガイト分子から、水分子が脱離することによって、結晶性が低下してエトリンガイト中のAlの周囲の構造に分布ができるためであると考えられる。
一方、本実施形態において、FeOまたはMnO固溶度の増加に伴い25Mg固体NMRスペクトルのピークの半値幅が増加する現象については、結晶性の低下によるものではない。すなわち、かかる現象は、立方晶の結晶系を有するMgOのMg2+イオンをFe2+またはMn2+イオンが置換することによって、Mgの周囲の構造が変化することによるものである。
以上のように、25Mg固体NMRスペクトルの半値幅が増加していく原因は、特開2014−21072号公報における27Al固体NMRスペクトルの半値幅の増加の原因とは異なる。そのため、FeOまたはMnO固溶度の増加に伴い25Mg固体NMRスペクトルのピークの半値幅が増加する事実は、従来技術から容易に想像しうるものではない。
以上説明した本実施形態によれば、無機酸化物材料中のMgOに対するFeOまたはMnOの固溶度を精度良く評価することが可能となり、鉄鋼業における利用価値は極めて高いものである。
なお、例えば、図4に示したピークの半値幅と固溶度xの相関図、及び上記式(5)に示したピークの半値幅と固溶度xの関係を示す式は、あくまでも具体例に過ぎず、検量実験により得られる既知の固溶度xに対するピークの半値幅の値に応じて適宜設定される。図6に示したピークの半値幅と固溶度xの相関図についても、あくまでも具体例に過ぎない。
また、上記実施形態では、MgOに対するFeOまたはMnOの固溶度xが評価されたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、CaOに対するFeO又はMnOの固溶度xについても、上記実施形態に係る評価方法を用いて評価することが可能である。すなわち、アルカリ土類金属酸化物中に二価金属酸化物が固溶することにより固溶体を形成するものであれば、あらゆる固溶体における当該二価金属酸化物の固溶度xについて、上記実施形態に係る評価方法を用いて評価することが可能である。
<3.第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
本実施形態では、まず、試薬のアルカリ土類金属酸化物(MO)と二価金属酸化物(M’O)を所定の割合で混合、焼成して合成した、複数の(MO)1−x(M’O)固溶体(検量用固溶体)の固体NMRスペクトル測定を行う。次に、得られた当該検量用固溶体のNMRスペクトルの主ピーク強度に対するスピニングサイドバンド強度の比率(検量用強度比率)と、当該検量用固溶体に固溶する二価金属酸化物の固溶度xとの相関を示す図(相関図)を作成し、当該相関図により示される検量用強度比率と検量用固溶体の二価金属酸化物の固溶度xとの関係を得る。当該関係を取得したあとにおいて、二価金属酸化物の固溶度xが未知の無機酸化物材料に対して固体NMRスペクトル測定を行い、得られた固体NMRスペクトルのピークの主ピーク強度に対するスピニングサイドバンド強度の比率を上記の関係に適用させることにより、アルカリ土類金属酸化物に対する二価金属酸化物の固溶度xを評価する。
なお、スピニングサイドバンドとは、NMRスペクトルに作用する異方的な相互作用(化学シフト異方性、双極子相互作用、四極子相互作用等)の存在により、主ピークから試料回転周波数の整数倍離れた位置に出現する随伴線である。これを用いることにより、二価金属酸化物の固溶度を精度良く評価することができる。この技術は、無機酸化物材料の管理及び利用指針として適用可能である。
本発明者らは、無機酸化物材料について、(MO)1−x(M’O)固溶体の二価金属酸化物の固溶度xに応じて固体NMRスペクトルのピークの主ピーク強度に対するスピニングサイドバンド強度の比率が変化することを利用すれば、例えば、上記非特許文献等に開示されたXRDの回折ピーク位置の変化に基づく方法よりも、より高い精度で固溶度xを求められることを見出した。
以下、本発明の第3の実施形態として、無機酸化物材料の固体25Mg NMRスペクトルを測定し、得られた固体25Mg NMRスペクトルの主ピーク強度に対するスピニングサイドバンド強度の比率を用いて当該無機酸化物材料中のMgOに対するFeOの固溶度xを評価するための方法について説明する。
すなわち、本実施形態において、無機酸化物材料中のMgOに対するFeOの固溶度xの評価は、無機酸化物材料について得られる固体25Mg NMRスペクトルの主ピーク強度に対するスピニングサイドバンド強度の比率を用いて行うことができる。FeOの固溶度xに対して、(MgO)1−x(FeO)固溶体に係る固体25Mg NMRスペクトルのピークは特定の主ピーク強度に対するスピニングサイドバンド強度の比率を示す。すなわち、測定された固溶体の固体25Mg NMRスペクトルのピークの主ピーク強度に対するスピニングサイドバンド強度の比率から、無機酸化物材料中のMgOに対するFeOの固溶度xを評価することができる。
なお、本実施形態においても、固体25Mg NMRスペクトル測定においては、化学シフト異方性や双極子相互作用によるピークの広幅化を防ぐために、MAS法を適用することが好ましい。
さらに、本発明者らは、本実施形態に係る技術が適用可能なFeOの固溶度xの評価範囲についても検討した。(MgO)1−x(FeO)固溶体において、FeOの固溶度xが増加するに従ってFe2+の磁性に起因するスピニングサイドバンドの強度が増加する。そして、FeOの固溶度xが0.2を超えると、主ピークの感度の低下及び半値幅の増加が顕著となり、精度の良い固体25Mg NMRスペクトルを得るのは不可能となった。このことから、本実施形態に係る技術が適用可能なFeOの固溶度xの評価範囲は、0≦x≦0.2であることを、本発明者らは見出した。上記の第1の実施形態で述べたように、(MgO)1−x(FeO)固溶体の固溶度xの評価可能な範囲(0≦x≦0.2)において(MgO)1−x(FeO)固溶体による水和反応の抑制効果が生じ得るので、固溶度xの評価範囲は上記に示す範囲(0≦x≦0.2)で十分であると考えられる。
図7に、(MgO)1−x(FeO)固溶体(0≦x≦0.2)のFeOの固溶度xを変化させたときの25Mg MAS NMRスペクトルの一例を示す。なお、図7の横軸は化学シフト値を示し、その単位はppmである。また、*は主ピークのスピニングサイドバンドを示す。
図7に示す一番下のスペクトルは、FeOが固溶していないMgO試薬(つまり、固溶度x=0)の25Mg MAS NMRスペクトルである。図7に示すように、固溶度x=0の25Mg MAS NMRスペクトルでは、左右対称な先鋭化した主ピークが観測された。
また、図7に示すように、主ピークから試料回転周波数である10kHz離れた位置にスピニングサイドバンドが観測され、FeOの固溶度xの増加に伴い、(MgO)1−x(FeO)固溶体の25Mg MAS NMRスペクトルの主ピークに随伴するスピニングサイドバンド強度が増加していく様子が観測された。
表4に、各FeOの固溶度xにおける25Mg MAS NMRスペクトルから得られたピークの主ピーク強度に対するスピニングサイドバンド強度の比率の一例を示す。
Figure 0006760168
本実施形態では、まず、異なるFeOの固溶度xを示す複数の(MgO)1−x(FeO)固溶体(検量用固溶体)に対して25Mg MAS NMRスペクトルを測定し、各スペクトルから得られる固溶体のピークの主ピーク強度に対するスピニングサイドバンド強度の比率(検量用強度比率)と、FeOの固溶度xとの関係を示す相関図を予め作成する。
本実施形態において、固体25Mg NMRスペクトルから、主ピークに随伴するスピニングサイドバンド強度を求める場合、観測される全てのスピニングサイドバンド強度を合算した強度を採用しても良い。ただし、主ピークから離れるほどにスピニングサイドバンドの強度は極端に低下していくので、より簡便な方法として第1スピニングサイドバンドの強度のみを考慮することもできる。この場合、主ピークに対して高磁場(低周波数)側あるいは低磁場(高周波数)側に観測される第1スピニングサイドバンドのどちらかの強度を採用するか、高磁場側および低磁場側に観測される第1スピニングサイドバンドの合算値を採用しても良い。
図8に、(MgO)1−x(FeO)固溶体(固溶度x=0、0.1、0.2、0.3、0.5、0.7、1.0、2.0)の25Mg MAS NMRスペクトルのピークの主ピーク強度に対するスピニングサイドバンド強度の比率を縦軸に、FeOの固溶度xを横軸にとった相関図の一例を示す。図8に示す相関図は、例えば、(MgO)1−x(FeO)固溶体のピークの主ピーク強度に対する第1スピニングサイドバンド強度の合算値の比率と、FeOの固溶度xとを2次元グラフにプロットし、各プロットの間を補間することにより作成される。この際、多項式近似やプロット間を直線で結ぶことによって各プロット間の補間することができる。図8に示すように、固溶体中のFeOの固溶度xに依存して、25Mg MAS NMRスペクトルで得られたピークの主ピーク強度に対するスピニングサイドバンド強度の比率が変化することが判った。
無機酸化物材料に存在するMgO中のFeOの固溶度xが未知であるような評価すべき無機酸化物材料について、25Mg MAS NMRスペクトルを測定し、25Mg MAS NMRスペクトルの示すピークの主ピーク強度に対するスピニングサイドバンド強度の比率を図8に示す相関図から定まる関係に適用させることにより、当該無機酸化物材料中のMgOに対するFeOの固溶度xを精度良く評価することが可能となる。なお、当該関係は、関数等を用いた公知のフィッティング手法やプロット間を直線で結ぶことにより表現される。
また、発明者らは、MgOに対するMnOの固溶度の評価についても検討した。
図9に、(MgO)1−x(MnO)固溶体(0≦x≦0.2)のMnOの固溶度xを変化させたときの25Mg MAS NMRスペクトルの一例を示す。なお、図9の横軸は化学シフト値を示し、その単位はppmである。また、*は主ピークのスピニングサイドバンドを示す。
図9に示す一番下のスペクトルは、MnOが固溶していないMgO試薬(つまり、固溶度x=0)の25Mg MAS NMRスペクトルであり、図7に示した一番下のスペクトルと同じものである。
また、図9に示すように、主ピークから試料回転周波数である10kHz離れた位置にスピニングサイドバンドが観測され、MnOの固溶度xの増加に伴い、(MgO)1−x(MnO)固溶体の25Mg MAS NMRスペクトルの主ピークに随伴するスピニングサイドバンド強度が増加していく様子が観測された。
表5に、各MnOの固溶度xにおける25Mg MAS NMRスペクトルから得られたピークの主ピーク強度に対するスピニングサイドバンド強度の比率の一例を示す。
Figure 0006760168
本実施形態では、まず、異なるMnOの固溶度xを示す複数の(MgO)1−x(MnO)固溶体(検量用固溶体)に対して25Mg MAS NMRスペクトルを測定し、各スペクトルから得られる固溶体のピークの主ピーク強度に対するスピニングサイドバンド強度の比率(検量用強度比率)と、MnOの固溶度xとの関係を示す相関図を予め作成する。
本発明において、固体25Mg NMRスペクトルから、主ピークに随伴するスピニングサイドバンド強度を求める場合、観測される全てのスピニングサイドバンド強度を合算した強度を採用しても良いが、主ピークから離れるほどにスピニングサイドバンドの強度は極端に低下していくので、より簡便な方法として第1スピニングサイドバンドの強度のみを考慮することもできる。この場合、主ピークに対して高磁場(低周波数)側あるいは低磁場(高周波数)側に観測される第1スピニングサイドバンドのどちらかの強度を採用するか、高磁場側および低磁場側に観測される第1スピニングサイドバンドの合算値を採用しても良い。
図10に、(MgO)1−x(MnO)固溶体(固溶度x=0、0.1、0.2、0.3、0.5、0.7、1.0、2.0)の25Mg MAS NMRスペクトルのピークの主ピーク強度に対するスピニングサイドバンド強度の比率を縦軸に、MnOの固溶度xを横軸にとった相関図の一例を示す。図10に示す相関図は、例えば、(MgO)1−x(MnO)固溶体のピークの主ピーク強度に対する第1スピニングサイドバンド強度の合算値の比率と、MnOの固溶度xとを2次元グラフにプロットし、各プロットの間を補間することにより作成される。この際、多項式近似やプロット間を直線で結ぶことによって各プロット間の補間することができる。図10に示すように、固溶体中のMnOの固溶度xに依存して、25Mg MAS NMRスペクトルで得られたピークの主ピーク強度に対するスピニングサイドバンド強度の比率が変化することが判った。
無機酸化物材料に存在するMgO中のMnOの固溶度xが未知であるような評価すべき無機酸化物材料について、25Mg MAS NMRスペクトルを測定し、25Mg MAS NMRスペクトルの示すピークの主ピーク強度に対するスピニングサイドバンド強度の比率を図10に示す相関図から定まる関係に適用させることにより、当該無機酸化物材料中のMgOに対するMnOの固溶度xを精度良く評価することが可能となる。なお、当該関係は、関数等を用いた公知のフィッティング手法やプロット間を直線で結ぶことにより表現される。
以上説明した本実施形態によれば、無機酸化物材料中のMgOに対するFeOまたはMnOの固溶度を精度良く評価することが可能となり、鉄鋼業における利用価値は極めて高いものである。
なお、例えば、図8および図10に示した主ピーク強度に対するスピニングサイドバンド強度の比率と固溶度xの相関図は、あくまでも具体例に過ぎず、検量実験により得られる既知の固溶度xに対するピークの主ピーク強度に対するスピニングサイドバンド強度の比率の値に応じて適宜設定される。
また、上記実施形態では、MgOに対するFeOまたはMnOの固溶度xが評価されたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、CaOに対するFeO又はMnOの固溶度xについても、上記実施形態に係る評価方法を用いて評価することが可能である。すなわち、アルカリ土類金属酸化物中に二価金属酸化物が固溶することにより固溶体を形成するものであれば、あらゆる固溶体における当該二価金属酸化物の固溶度xについて、上記実施形態に係る評価方法を用いて評価することが可能である。
なお、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
以下に本発明の内容を具体的に説明するための実施例を示すが、本発明は実施例に限定されるものではない。
次に、本発明の実施例について説明する。以下では、(1)ピーク位置、(2)ピークの半値幅、および(3)主ピーク強度に対するスピニングサイドバンド強度の比率を用いた場合の実施例について説明する。
(1)ピーク位置
(実施例1)
実施例1では、モル比でMgO:FeO=93:7となるようにMgO試薬及びFeO試薬を予め混合した後、錠剤成形器を用いてペレットを作製した。この混合物のペレットをAr雰囲気下で1000℃で42時間焼成することによって、(MgO)0.93(FeO)0.07固溶体の単相を得た。合成した(MgO)0.93(FeO)0.07固溶体の一部を直径5.0mmの固体NMR測定用試料管に均一になるように充填した後、500MHz固体NMR装置(測定磁場強度=11.7T)にセットし、固体NMR測定用試料管を外部磁場に対してマジック角(54.7°)だけ傾斜し、10kHzの速度で回転させた。このときの25Mg核の共鳴周波数は、30.599MHzであった。MgSO水溶液から得られる25Mg MAS NMRスペクトルのピーク位置を0ppmとし、当該ピーク位置を25Mg MAS NMRの化学シフト基準とした。25Mg MAS NMRスペクトルの測定にはスピンエコー法を用いた。
以上の条件下で、(MgO)0.93(FeO)0.07固溶体の25Mg MAS NMRスペクトルを測定した。前記固溶体の25Mg MAS NMRスペクトルを図11に示す。なお、図11の横軸の単位はppmである。
図11に示すように、28.93ppmに(MgO)0.93(FeO)0.07固溶体の25Mg MAS NMRスペクトルのピークが観測された。上記式(4)にδ=28.93ppmを代入した場合、推定されるFeOの固溶度xは、x=0.069となった。仕込みのFeOの固溶度xはx=0.07であったことから、実測値と推定値との差は僅かΔx=0.001であった。したがって、非常に高い精度でFeOの固溶度xを評価できることがわかった。
(実施例2)
実施例2では、製鋼スラグAの一部を直径5.0mmの固体NMR測定用試料管に均一になるように充填した後、500MHz固体NMR装置(測定磁場強度=11.7T)にセットし、固体NMR測定用試料管を外部磁場に対してマジック角(54.7°)だけ傾斜し、10kHzの速度で回転させた。このときの25Mg核の共鳴周波数は、30.599MHzであった。MgSO水溶液から得られる25Mg MAS NMRスペクトルのピーク位置を0ppmとし、当該ピーク位置を25Mg MAS NMRの化学シフト基準とした。25Mg MAS NMRスペクトルの測定にはスピンエコー法を用いた。
表6に、蛍光X線分光法を用いた元素分析により求めた製鋼スラグAの成分分析値を示す。
Figure 0006760168
以上の条件下で、製鋼スラグAの25Mg MAS NMRスペクトルを測定した。前記製鋼スラグAの25Mg MAS NMRスペクトルを図12に示す。なお、図12の横軸の単位はppmである。
図12に示すように、27.00ppmに製鋼スラグAの25Mg MAS NMRスペクトルのピークが観測された。上記式(4)にδ=27.00ppmを代入した場合、推定されるMgOに対するFeOの固溶度xはx=0.04となった。このことから、製鋼スラグA中のMgOに対するFeOの固溶度xはx=0.04であり、平均的な固溶体の組成は(MgO)0.96(FeO)0.04であることが判った。
(比較例1)
比較例1では、実施例1と同様の焼成条件で(MgO)1−x(FeO)固溶体(x=0、0.1、0.2、0.3、0.5、1.0、2.0)の単相を合成した。合成した(MgO)1−x(FeO)固溶体に対して、XRD測定時の角度標準として10mass%の金属Si粉末を混合した試料の一部をXRD測定用試料ホルダに均一になるように充填した。その後、当該試料ホルダをCu線源(X線の波長λ=0.1541nm)を有するXRD装置にセットし、2θ/θ法を用いて、固溶体についての2θ=20°〜80°の範囲のXRDパターンを測定した。
XRDパターンから得られた格子定数aを縦軸に、FeOの固溶度xを横軸にとった相関図の一例を図13に示す。図13の縦軸の単位はnmである。図13に示すように、固溶体中のFeOの固溶度xが増加するに従い、格子定数aはほぼ直線的に増加している。図13に示すプロットから、格子定数aと固溶度xとの間に、以下の式(6)が成り立つ。
a(nm)=0.0130x+0.4211(相関係数R=0.9975) ・・・(6)
次に、上記式(6)を用いて、別途合成した(MgO)0.93(FeO)0.07固溶体のXRDパターンを測定した。前記固溶体のXRDパターンを図14に示す。なお、図14の横軸の単位は2θ(°)である。
図14において、2θ=42.85°に(200)の回折ピークが観測された。ブラッグの条件式に従い、格子定数aを求めたところ、a=0.4218nmとなった。一方、式(3)にa=0.4218nmを代入した場合、推定されるFeOの固溶度xはx=0.054となった。仕込みのFeOの固溶度xはx=0.07であったことから、実測値と推定値との差はΔx=0.016であり、実施例1で示した本発明による実測値と推定値との差(Δx=0.001)に比べて大きい。そのため、XRD測定により得られる格子定数を用いて固溶度xを評価する方法では、精度良くFeOの固溶度xを評価することは困難であった。
以上の実施例及び比較例から、固溶体の25Mg MAS NMRスペクトルのピーク位置を用いることにより、当該固溶体の固溶度xをより精度高く評価することが可能であることが示された。
(2)ピークの半値幅
(実施例3)
実施例3では、モル比でMgO:FeO=96:4となるようにMgO試薬及びFeO試薬を予め混合した後、錠剤成形器を用いてペレットを作製した。この混合物のペレットをAr雰囲気下で1000℃で42時間焼成することによって、(MgO)0.96(FeO)0.04固溶体の単相を得た。合成した(MgO)0.96(FeO)0.04固溶体の一部を直径5.0mmの固体NMR測定用試料管に均一になるように充填した後、500MHz固体NMR装置(測定磁場強度=11.7T)にセットし、固体NMR測定用試料管を外部磁場に対してマジック角(54.7°)だけ傾斜し、10kHzの速度で回転させた。このときの25Mg核の共鳴周波数は、30.599MHzであった。MgSO水溶液から得られる25Mg MAS NMRスペクトルのピーク位置を0ppmとし、当該ピーク位置を25Mg MAS NMRの化学シフト基準とした。25Mg MAS NMRスペクトルの測定にはスピンエコー法を用いた。
以上の条件下で、(MgO)0.96(FeO)0.04固溶体の25Mg MAS NMRスペクトルを測定した結果得られたピークの半値幅は6.78ppmであった。上記式(5)に半値幅=6.78ppmを代入した場合、推定されるFeOの固溶度xは、x=0.041となった。仕込みのFeOの固溶度xはx=0.04であったことから、実測値と推定値との差は僅かΔx=0.001であった。したがって、固溶度が低い場合においても非常に高い精度でFeOの固溶度xを評価できることがわかった。
(実施例4)
実施例4では、製鋼スラグBの一部を直径5.0mmの固体NMR測定用試料管に均一になるように充填した後、500MHz固体NMR装置(測定磁場強度=11.7T)にセットし、固体NMR測定用試料管を外部磁場に対してマジック角(54.7°)だけ傾斜し、10kHzの速度で回転させた。このときの25Mg核の共鳴周波数は、30.599MHzであった。MgSO水溶液から得られる25Mg MAS NMRスペクトルのピーク位置を0ppmとし、当該ピーク位置を25Mg MAS NMRの化学シフト基準とした。25Mg MAS NMRスペクトルの測定にはスピンエコー法を用いた。
表7に、蛍光X線分光法を用いた元素分析により求めた製鋼スラグBの成分分析値を示す。なお、製鋼スラグB中のMnO濃度は検出下限以下であった。
Figure 0006760168
以上の条件下で、製鋼スラグBの25Mg MAS NMRスペクトルを測定した。前記製鋼スラグBの25Mg MAS NMRスペクトルを図15に示す。なお、図15の横軸の単位はppmである。
製鋼スラグBの25Mg MAS NMRスペクトルのピークの半値幅は3.46ppmであった。製鋼スラグB中に存在するMnO濃度は検出下限以下であったため、当該スラグ中のMgOに固溶した酸化物はFeOのみであると考えることができる。そこで、上記式(5)に半値幅=3.46ppmを代入した場合、推定されるMgOに対するFeOの固溶度xはx=0.027となった。このことから、製鋼スラグB中のMgOに対するFeOの固溶度xはx=0.027であり、平均的な固溶体の組成は(MgO)0.973(FeO)0.027であることが判った。
(比較例2)
比較例2では、実施例3と同様の焼成条件で(MgO)1−x(FeO)固溶体(x=0、0.01、0.02、0.03、0.05、0.1、0.2)の単相を合成した。合成した(MgO)1−x(FeO)固溶体に対して、XRD測定時の角度標準として10mass%の金属Si粉末を混合した試料の一部をXRD測定用試料ホルダに均一になるように充填した。その後、当該試料ホルダをCu線源(X線の波長λ=0.1541nm)を有するXRD装置にセットし、2θ/θ法を用いて、固溶体についての2θ=20°〜80°の範囲のXRDパターンを測定した。
固溶体中のFeOの固溶度xが増加するに従い、格子定数aはほぼ直線的に増加しており、格子定数aと固溶度xとの間に、以下の式(7)が成り立つ。
a(nm)=0.0130x+0.4211(相関係数R=0.9975) ・・・(7)
次に、上記式(7)を用いて、別途合成した(MgO)0.96(FeO)0.04固溶体のXRDパターンを測定したところ、2θ=42.89°に(200)の回折ピークが観測された。ブラッグの条件式に従い、格子定数aを求めたところ、a=0.4215nmとなった。一方、式(3)にa=0.4215nmを代入した場合、推定されるFeOの固溶度xはx=0.031となった。仕込みのFeOの固溶度xはx=0.04であったことから、実測値と推定値との差はΔx=0.009であり、実施例3で示した本発明による実測値と推定値との差(Δx=0.001)に比べて大きい。そのため、XRD測定により得られる格子定数を用いて固溶度xを評価する方法では、精度良くFeOの固溶度xを評価することは困難であった。
以上の実施例及び比較例から、固溶体の25Mg MAS NMRスペクトルのピークの半値幅を用いることにより、当該固溶体の固溶度xをより精度高く評価することが可能であることが示された。
(3)主ピーク強度に対するスピニングサイドバンド強度の比率
(実施例5)
実施例5では、モル比でMgO:FeO=96:4となるようにMgO試薬及びFeO試薬を予め混合した後、錠剤成形器を用いてペレットを作製した。この混合物のペレットをAr雰囲気下で1000℃で42時間焼成することによって、(MgO)0.96(FeO)0.04固溶体の単相を得た。合成した(MgO)0.96(FeO)0.04固溶体の一部を直径5.0mmの固体NMR測定用試料管に均一になるように充填した後、500MHz固体NMR装置(測定磁場強度=11.7T)にセットし、固体NMR測定用試料管を外部磁場に対してマジック角(54.7°)だけ傾斜し、10kHzの速度で回転させた。このときの25Mg核の共鳴周波数は、30.599MHzであった。MgSO水溶液から得られる25Mg MAS NMRスペクトルのピーク位置を0ppmとし、当該ピーク位置を25Mg MAS NMRの化学シフト基準とした。25Mg MAS NMRスペクトルの測定にはスピンエコー法を用いた。
以上の条件下で、(MgO)0.96(FeO)0.04固溶体の25Mg MAS NMRスペクトルを測定した結果得られた主ピーク強度に対する第1スピニングサイドバンド強度の合算値の比率は73.2%であった。この値は上記の表4中のFeO固溶度xが0.03と0.05のときの主ピーク強度に対する第1スピニングサイドバンド強度の合算値の比率の間に位置しているため、図8中のx=0.03と0.05を結ぶ線分に図8の縦軸の値として72.2%を代入した場合、推定されるFeOの固溶度xは、x=0.039となった。仕込みのFeOの固溶度xはx=0.04であったことから、実測値と推定値との差は僅かΔx=0.001であった。したがって、固溶度が低い場合においても非常に高い精度でFeOの固溶度xを評価できることがわかった。
(実施例6)
実施例6では、製鋼スラグCの一部を直径5.0mmの固体NMR測定用試料管に均一になるように充填した後、500MHz固体NMR装置(測定磁場強度=11.7T)にセットし、固体NMR測定用試料管を外部磁場に対してマジック角(54.7°)だけ傾斜し、10kHzの速度で回転させた。このときの25Mg核の共鳴周波数は、30.599MHzであった。MgSO水溶液から得られる25Mg MAS NMRスペクトルのピーク位置を0ppmとし、当該ピーク位置を25Mg MAS NMRの化学シフト基準とした。25Mg MAS NMRスペクトルの測定にはスピンエコー法を用いた。
表8に、蛍光X線分光法を用いた元素分析により求めた製鋼スラグCの成分分析値を示す。製鋼スラグC中のMnO濃度は検出下限以下であった。
Figure 0006760168
以上の条件下で、製鋼スラグCの25Mg MAS NMRスペクトルを測定した。前記製鋼スラグCの25Mg MAS NMRスペクトルを図16に示す。なお、図16の横軸の単位はppmである。*および●は、それぞれ主ピークのスピニングサイドバンドおよびMgSiのスピニングサイドバンドを示す。ここで、MgSiはf−MgO定量用の内標準物質として、製鋼スラグCに添加されたものであり、本発明とは無関係であり、考慮しなくて良い。
製鋼スラグCの25Mg MAS NMRスペクトルの主ピーク強度に対する第1スピニングサイドバンド強度の合算値の比率は75.5%であった。製鋼スラグC中に存在するMnO濃度は検出下限以下であったため、当該スラグ中のMgOに固溶した酸化物はFeOのみであると考えることができる。製鋼スラグCの主ピーク強度に対する第1スピニングサイドバンド強度の合算値の比率(75.5%)は、上記の表4中のFeO固溶度xが0.03と0.05のときの主ピーク強度に対する第1スピニングサイドバンド強度の合算値の比率の間に位置しているため、図8中のx=0.03と0.05を結ぶ線分に図8の縦軸の値として75.5%を代入した場合、推定されるMgOに対するFeOの固溶度xはx=0.040となった。このことから、製鋼スラグC中のMgOに対するFeOの固溶度xはx=0.040であり、平均的な固溶体の組成は(MgO)0.960(FeO)0.040であることが判った。
(比較例3)
比較例3では、実施例5と同様の焼成条件で(MgO)1−x(FeO)固溶体(x=0、0.1、0.2、0.3、0.5、1.0、2.0)の単相を合成した。合成した(MgO)1−x(FeO)固溶体に対して、XRD測定時の角度標準として10mass%の金属Si粉末を混合した試料の一部をXRD測定用試料ホルダに均一になるように充填した。その後、当該試料ホルダをCu線源(X線の波長λ=0.1541nm)を有するXRD装置にセットし、2θ/θ法を用いて、固溶体についての2θ=20°〜80°の範囲のXRDパターンを測定した。
固溶体中のFeOの固溶度xが増加するに従い、格子定数aはほぼ直線的に増加しており、格子定数aと固溶度xとの間に、以下の式(8)が成り立つ。
a(nm)=0.0130x+0.4211(相関係数R=0.9975) ・・・(8)
次に、上記式(8)を用いて、別途合成した(MgO)0.96(FeO)0.04固溶体のXRDパターンを測定したところ、2θ=42.89°に(200)の回折ピークが観測された。ブラッグの条件式に従い、格子定数aを求めたところ、a=0.4215nmとなった。一方、式(3)にa=0.4215nmを代入した場合、推定されるFeOの固溶度xはx=0.031となった。仕込みのFeOの固溶度xはx=0.04であったことから、実測値と推定値との差はΔx=0.009であり、実施例5で示した本発明による実測値と推定値との差(Δx=0.001)に比べて大きい。そのため、XRD測定により得られる格子定数を用いて固溶度xを評価する方法では、精度良くFeOの固溶度xを評価することは困難であった。
以上の実施例及び比較例から、固溶体の25Mg MAS NMRスペクトルの主ピーク強度に対するスピニングサイドバンド強度の比率を用いることにより、当該固溶体の固溶度xをより精度高く評価することが可能であることが示された。

Claims (13)

  1. 無機酸化物材料中のアルカリ土類金属酸化物(MO)に対する二価金属酸化物(M’O)の固溶度の評価方法であって、
    アルカリ土類金属酸化物(MO)に対する二価金属酸化物(M’O)の固溶度xが未知である(MO)1−x(M’O)固溶体の固体NMRスペクトルを測定する工程と、
    測定により得られた前記固体NMRスペクトルのシグナルに基づく情報を用いて、固溶度xを評価する工程と、
    を含むことを特徴とする、固溶度の評価方法。
  2. 前記固体NMRスペクトルのシグナルに基づく情報は、前記固体NMRスペクトルのピーク位置であることを特徴とする、請求項1に記載の固溶度の評価方法。
  3. 前記固溶度xを評価する工程において、
    前記アルカリ土類金属酸化物に対する前記二価金属酸化物の固溶度がそれぞれ異なるよう合成された複数の検量用固溶体について測定された複数の固体NMRスペクトルから特定される複数の検量用ピーク位置と、前記複数の検量用固溶体の前記二価金属酸化物の固溶度との関係を用いて、前記固溶度xを評価することを特徴とする、請求項2に記載の固溶度の評価方法。
  4. 前記固体NMRスペクトルのシグナルに基づく情報は、前記固体NMRスペクトルのピークの半値幅であることを特徴とする、請求項1に記載の固溶度の評価方法。
  5. 前記固溶度xを評価する工程において、
    前記アルカリ土類金属酸化物に対する前記二価金属酸化物の固溶度がそれぞれ異なるよう合成された複数の検量用固溶体について測定された複数の固体NMRスペクトルから特定される複数の検量用ピーク半値幅と、前記複数の検量用固溶体の前記二価金属酸化物の固溶度との関係を用いて、前記固溶度xを評価することを特徴とする、請求項4に記載の固溶度の評価方法。
  6. 前記固体NMRスペクトルのシグナルに基づく情報は、前記固体NMRスペクトルの主ピーク強度に対するスピニングサイドバンド強度の比率であることを特徴とする、請求項1に記載の固溶度の評価方法。
  7. 前記固溶度xを評価する工程において、
    前記アルカリ土類金属酸化物に対する前記二価金属酸化物の固溶度がそれぞれ異なるよう合成された複数の検量用固溶体について測定された複数の固体NMRスペクトルから特定される複数の検量用の主ピーク強度に対するスピニングサイドバンド強度の比率と、前記複数の検量用固溶体の前記二価金属酸化物の固溶度との関係を用いて、前記固溶度xを評価することを特徴とする、請求項6に記載の固溶度の評価方法。
  8. 前記無機酸化物材料は、製鋼スラグを含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の固溶度の評価方法。
  9. 前記アルカリ土類金属酸化物は、酸化カルシウム(CaO)又は酸化マグネシウム(MgO)であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の固溶度の評価方法。
  10. 前記二価金属酸化物は、酸化鉄(II)(FeO)又は酸化マンガン(II)(MnO)であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の固溶度の評価方法。
  11. 前記アルカリ土類金属酸化物がMgOであり、かつ、前記二価金属酸化物がFeOである場合において、
    前記固溶度xの評価範囲は、0≦x≦0.2の範囲であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の固溶度の評価方法。
  12. 前記固体NMRスペクトル測定は、43Caまたは25Mg核の固体NMRスペクトル測定であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の固溶度の評価方法。
  13. MAS(Magic Angle Spinning:マジック角回転)法を用いて前記固体NMRスペクトル測定を行うことを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の固溶度の評価方法。
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