以下、図面を参照しながら、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。なお、複数の図面において対応する要素には同一の符号を付す。
上述のように、宇宙物体は理論的にはある運動方程式に従って運動しているが、地球重力や大気抵抗等の抗力などに起因して予測誤差が生じる。そのため、例えば、宇宙物体の軌道把握のためには、或る程度以上の頻度で宇宙物体を観測することが好ましい。一方で、観測対象とする宇宙物体は増加しており、多くの観測対象の宇宙物体が存在している。例えば、低高度(数100km〜1000km程度)の宇宙物体の観測は、レーダで行われることがある。レーダは、例えば、複数個の物体を同時追尾する機能を備えるが、レーダのビームリソースには限りがある。そのため、多くの宇宙物体を有限なリソースで管理するために、効率的な観測計画を立案することが望ましい。
効率的な観測計画の立案のために、例えば、宇宙物体の予測誤差を考慮することが考えられる。例えば、宇宙物体の観測期間が短い場合、予測誤差が大きくなる可能性の高い。この場合、宇宙物体の軌道把握のために観測を実行することが好ましい。そのため、この様な予測誤差が大きくなる可能性の高い宇宙物体に観測の優先度を高く設定し、優先度を用いて観測計画を立案することが考えられる。
また、レーダによる宇宙物体の観測モードとして、例えば、宇宙物体の軌道予測に基づき宇宙物体を追尾(トラッキング)して観測を実行する観測するトラッキングモードと、或る空間内を走査して宇宙物体を検知し、観測を行うフェンスモードとが知られている。
トラッキングモードは、例えば、宇宙物体の軌道予測などにより予め取得した観測方向の情報を利用し、宇宙物体を追尾して観測を行う。トラッキングモードでは、予め取得した観測方向の情報を用いるが、例えば、空間内を走査して宇宙物体を検知するフェンスモードと比較して、効率的に宇宙物体の観測を行うことができる。しかしながら、トラッキングモードでは、例えば、観測対象の宇宙物体の過去の観測回数が少ないことなどに起因して軌道予測の精度が低い場合、観測方向が不正確になり、予測された観測方向に、宇宙物体が存在しない状況が生じる。また、例えば、宇宙物体が軌道制御を行ったり、大気圏に突入したりする場合、十分な観測回数の蓄積があっても、予測された観測方向には、宇宙物体が存在しない状況が生じる。
フェンスモードは、或る空間内を走査して宇宙物体を検知し、観測を行う。空間内を走査して宇宙物体を検知するため、フェンスモードでは事前に軌道などの情報が無くても観測を行うことが可能である。
この様に、トラッキングモードとフェンスモードにはそれぞれ特徴がある。そのため、例えば、予測誤差に応じてフェンスモードとトラッキングモードとを使い分けることで、効率的な観測計画を立案することができる。
また、ビームのリソースを最大限利用するために、例えば、所定の期間にレーダで捕捉される宇宙物体の数を最大化するように観測計画の立案することも考えられる。
以上で述べた様に、例えば、予測誤差と、所定期間に観測する宇宙物体の数の最大化などを考慮して、観測計画を立案することで、効率的な観測計画を立案することが可能である。以下、実施形態を例示する。
<実施形態>
図1は、いくつかの実施形態に係る観測計画立案装置100のブロック構成を例示する図である。観測計画立案装置100には、例えば、パーソナルコンピュータ(PC)、ノートPCなどのコンピュータを用いることができる。観測計画立案装置100は、例えば、制御部101及び記憶部102を含む。記憶部102は、例えば、観測計画立案プログラム、並びに後述するカタログデータ、観測モード振分情報400、及び観測優先度情報500などの情報を記憶している。これらの各部の詳細及び記憶部102に格納されている情報の詳細については後述する。
続いて、実施形態に係る観測計画の立案を説明する上で、まず「可視」を説明する。例えば、レーダ地点から見た宇宙物体視線方向がレーダ追尾範囲内にある状態を以下では「可視」と表現する。例えば、観測計画を立案する対象である観測計画立案期間:Ts〜Te(時刻)において、Nb個の宇宙物体が可視であるとする。図2は、Nb個の宇宙物体のそれぞれが可視である可視期間を表す。縦軸が、Nb個の宇宙物体であり、横軸は観測計画立案期間:Ts〜Teを表している。ここで、レーダのビームは、宇宙物体の捕捉を開始すると、レーダ追尾範囲内から外れる可視終了時刻まで、宇宙物体を追尾するものとする。
また、観測計画立案期間:Ts〜Teにおいて可視であるNb個の宇宙物体のうちのi番目の宇宙物体に対して、観測するか又はしないかを定めるパラメータXiとする。例えば、i番目の宇宙物体に対するパラメータXiを「1」に設定した場合、i番目の宇宙物体を観測対象とすることを表す。一方、i番目の宇宙物体に対するパラメータXiを「0」に設定した場合、i番目の宇宙物体を観測対象としないことを表す。図2の例では、観測対象としたXi=1の宇宙物体の可視期間を太線201で、また、観測対象としないXi=0の宇宙物体の可視期間を細い二重線202で表している。
Xi=1: 観測対象とする
Xi=0: 観測対象としない
また、観測計画立案期間:Ts〜Teにおいて可視であるNb個の宇宙物体のうちのi番目の宇宙物体の優先度を、wiで表すものとする。例えば、wiは大きいほど優先度が高いことを表してよい。一例では、優先度は1を最小の値とし、優先して観測する宇宙物体には1よりも大きな優先度が設定されてよく、一方、特に優先して観測しない宇宙物体にはwiに1が設定されてよい。
そして、例えば、Nb個の宇宙物体のそれぞれに、以上のように優先度を割り振った場合に、優先度を考慮した観測計画は、以下の式1の線形計画問題となる。
Φ=Σi=1,Nbwi・Xi ・・・式1
そして、評価値Φが最大化されるようにXiに0又は1の値を設定することで所定期間内の観測対象の宇宙物体を決定することができる。
また、上記式1ではレーダのビームのリソース(ビームの本数)の制限が考慮されていない。このビームの本数の制限を扱うために、図2に示すように観測計画立案期間:Ts〜Teを所定の時間間隔:Δτで分割し、Nt個の分割区間に分割する。ここで、Δτは、例えば、レーダビームを別の宇宙物体に切り替えるのにかかる時間以上の値に設定されてよい。そして、各分割区間の分割時刻範囲:Tk〜Tk+1においてNb個の宇宙物体について、以下のビームの本数の制約を表す式2を考慮する。ここで、Mは使用可能なビームの本数である。即ち、各分割区間において、Nb個の宇宙物体のうちで観測対象とする宇宙物体の数が、使用可能なビームの本数Mを越えないように制限する。
Σi=1,NbXi ≦M ・・・式2
for all k=1、Nt(全ての分割区間で式2を満たす)
ここで、レーダからのi番目の宇宙物体が可視になる時刻(可視開始時刻)をTaiとし、可視が終了する時刻(可視終了時刻)をTliとする。この場合に、分割時刻範囲:Tk、Tk+1において可視である宇宙物体は、以下の条件式Aを満たす宇宙物体として特定することができる。
(Tai<Tk かつ Tk+1<Tli)または
(Tai<Tk かつ Tli<Tk+1) または
(Tk+1<Tai かつ Tk+1<Tli)または
(Tk<Tai かつ Tli<Tk+1) ・・・条件式A
なお、宇宙物体は、例えば、カタログデータの物体識別番号で特定されてよい。また、条件式Aの関係を図3に示す。図3に示されるように、例えば、制御部101は、分割時刻範囲:Tk〜Tk+1と、可視開始時刻から可視終了時刻の期間:Tai〜Tliとに重なりがある宇宙物体を、分割時刻範囲:Tk、Tk+1において可視であると判定してよい。
そして、制御部101は、各分割区間毎に、Nb個の宇宙物体のうちで条件式Aにより可視である宇宙物体を特定する。そして、制御部101は、特定した可視である宇宙物体のうち観測対象とする宇宙物体の数がビームの本数Mを越えないように式2の制限を課しながら、式1が最大化されるようにNb個の宇宙物体のXiを0又は1に設定する。
例えば、制御部101は、分割区間において可視でない宇宙物体にはXi=0を設定してよい。続いて、制御部101は、Xi=1を割り当てた宇宙物体の数がビームの本数Mを越えないように式2の制限を課しながら、分割区間において可視である宇宙物体のXiに0又は1を割り当てる。それにより、制御部101は、Nb個の宇宙物体のうちで、式1が最大化されるXiの値を決定することができる。なお、各分割区間においてXi=1に設定された宇宙物体は、その分割区間において観測対象とする宇宙物体である。以上のようにして、制御部101は、優先度を考慮した効率的な宇宙物体の観測が可能な観測計画を立案することができる。
続いて、実施形態に係る観測計画の立案処理で利用するデータを例示する。
(1)カタログデータ
宇宙物体の軌道把握については、例えば、米国が最大の観測システムを有しており、約17000個の宇宙物体情報を公開し、その軌道情報を日々更新している。この様な宇宙物体情報はカタログデータと呼ばれている。カタログデータは、例えば、宇宙物体毎に以下の情報を含む。
・物体識別番号、識別名称
・発生日(打上日など)
・レーダ反射断面積 RCS(Rader Cross Section)
・軌道情報
物体識別番号、識別名称は、例えば、宇宙物体を識別するための番号及び名称である。発生日は、例えば、宇宙物体が人工衛星等である場合には、その打上日などであってよい。レーダ反射断面積(RCS)は、レーダが宇宙物体に電波を照射したときに、宇宙物体がアンテナの方向に電波を反射させる能力の尺度である。軌道情報はケプラー要素に近い形式で表現され、TLE(Two Line Element)と呼ばれる。カタログデータの軌道情報は、例えば、トラッキングモードを用いて宇宙物体を追尾する際の軌道予測に利用することができる。
(2)観測設備条件
観測設備条件はレーダの設備についての情報である。観測設備条件は、例えば、観測計画の立案処理が実行される前に、予め記憶部102に格納されていてよい。観測設備条件は例えば、以下の情報を含む。
・局位置
測地緯度 φ
経度 λ
高度 h
・観測可能範囲
高度上限 Hmax
軌道傾斜角下限 imin
レーダ反射断面積下限 RCSmin
・トラッキング範囲
仰角 EL1〜EL2
方位角半値幅 AZt※注1
レーダ捕捉距離 Rt
・フェンス範囲
仰角 Elf1〜Elf2
仰角分割幅 ΔElf
方位角半値幅 AZf※注1(AZt>AZfとする)
レーダ捕捉距離 Rf
・フェンスモード使用基準
経過時間閾値 To
観測パス閾値 Oo
※注1:観測の主軸方位をθcとすると、
トラッキング方位角範囲は θc−AZt〜θc+AZt
フェンスサーチ方位角範囲は θc−AZf〜θc+AZf
ここで、局位置は、例えば、地上でのレーダの設置位置である。局位置は、例えば、レーダの設置位置の緯度φ、経度λ、及び高度hの情報を含む。
観測可能範囲は、レーダで観測可能な宇宙物体の範囲を示す情報であり、高度上限Hmax、軌道傾斜角下限imin、及びレーダ反射断面積下限RCSminを含む。高度上限Hmaxは、レーダから観測可能な宇宙物体の高度の上限である。制御部101は、例えば、高度上限Hmax以下の高度の宇宙物体を観測可能な範囲内と判定する。同様に、軌道傾斜角下限iminは、例えば、レーダから観測可能な宇宙物体の軌道傾斜角の下限である。制御部101は、例えば、宇宙物体が軌道傾斜角下限imin以上の軌道傾斜角であればレーダから観測可能な範囲内と判定することができる。レーダ反射断面積下限RCSminは、レーダから観測可能な宇宙物体のRCSの下限である。制御部101は、例えば、レーダ反射断面積下限RCSmin以上のRCSであればレーダから観測可能な範囲内と判定することができる。
また、トラッキング範囲は、或る主軸方位において、トラッキングモードでレーダがビームを照射可能な範囲である。トラッキング範囲は、例えば、仰角EL1〜EL2、方位角半値幅AZt、及びレーダ捕捉距離Rtを含む。仰角EL1〜EL2は、レーダがトラッキングモードでビームを照射可能な仰角の範囲である。方位角半値幅AZtは、或る主軸方位においてトラッキングモードでビームを照射可能なビーム方向の半値幅である。例えば、レーダが主軸方位θcを向いている場合、レーダはビーム方向を(θc−AZt)〜(θc+AZt)の範囲で変更することができる。レーダ捕捉距離Rtは、レーダが宇宙物体を捕捉可能な距離である。レーダ捕捉距離Rt、例えば、宇宙物体までの距離やRCSなどに応じて定まる値である。
また、フェンス範囲は、或る主軸方位において、フェンスモードでレーダがビームを照射可能な範囲である。フェンス範囲は、例えば、仰角Elf1〜Elf2、仰角分割幅ΔElf、方位角半値幅AZf、及びレーダ捕捉距離Rfを含む。仰角Elf1〜Elf2は、フェンスモードでレーダが走査可能な仰角の範囲である。仰角分割幅ΔElfは、フェンスモードでレーダが仰角Elf1〜Elf2の間で仰角を走査する幅であり、例えば、レーダはΔElf刻みで仰角を走査してよい。方位角半値幅AZfは、或る主軸方位においてフェンスサーチでビームを照射可能なビーム方向の半値幅である。例えば、レーダが主軸方位θcを向いている場合、レーダはビーム方向を(θc−AZf)〜(θc+AZf)の範囲で変更することができる。なお、フェンスモードの方位角半値幅AZfは、例えば、トラッキングモードの方位角半値幅AZtよりも小さいものとする。レーダ捕捉距離Rfは、レーダで捕捉可能な距離である。レーダ捕捉距離Rf、例えば、宇宙物体までの距離やRCSなどに応じて定まる値である。
フェンスモード使用基準は、例えば、宇宙物体の観測にフェンスモードを使用するか否かを判定するための基準である。フェンスモード使用基準は、例えば、経過時間閾値Toと、観測パス閾値Ooとを含む。なお、以下の説明では、例えば、観測対象の宇宙物体の最新の軌道決定で求められた軌道位置に宇宙物体が存在する時刻を、最新軌道時刻と呼ぶ。そして、経過時間閾値Toは、宇宙物体の最新軌道時刻から、観測計画立案期間の開始時刻Tsまでの経過時間に対して設定される閾値である。例えば、最新軌道時刻から時間が経過すると軌道予測の精度は低下する傾向がある。そのため、制御部101は、例えば、経過時間が経過時間閾値To以上の長さである場合、その宇宙物体の観測モードをフェンスモードに振り分けてよい。
また、観測パス閾値Ooは、最新の軌道決定に用いた宇宙物体の観測パス数に対して設定される閾値である。例えば、軌道決定のために用いた観測のパス数が少ないと軌道予測の精度が低下する可能性がある。そのため、制御部101は、軌道決定のために用いた観測のパス数が観測パス閾値Oo以下の数であれば、その宇宙物体の観測モードをフェンスモードに振り分けてよい。フェンスモード使用基準の経過時間閾値To及び観測パス閾値Ooの更なる詳細については後述する。
(3)計算条件
計算条件は、観測計画の立案の際の計算条件の情報である。計算条件は、観測計画の立案処理が実行される前に、予め記憶部102に記憶されていてよい。計算条件は例えば、以下の情報を含む。
・観測計画の観測計画立案期間
開始時刻 Ts
終了時刻 Te
・時分割単位 Δτ
・トラッキングモードビーム本数 Bt
・フェンスモードビーム本数 Bf
・主軸方位サーチ条件
サーチ範囲 θc1〜θc2
サーチ間隔 Δθ
・可視判定間隔 Δp
・可視最小時間 pmin
・観測優先度設定条件
観測実績閾値 Odet
軌道決定実績閾値 Ndet
ここで、観測計画の観測計画立案期間Ts、Teは、観測計画を立案する対象となる期間であり、Tsは観測対象期間の開始時刻、Teは観測対象期間の終了時刻を表している。時分割単位Δτは、観測計画立案期間:Ts〜Teを分割する分割区間の長さである。Δτはレーダのビームを別の宇宙物体に切り替えるのにかかる時間以上の値に設定されてよい。
トラッキングモードビーム本数Btは、トラッキングモードに割り当てられたビームの本数を表す値である。フェンスモードビーム本数Bfは、フェンスモードに割り当てられたビームの本数を表す値である。なお、トラッキングモードビーム本数Btと、フェンスモードビーム本数Bfとは、合計がレーダで使用可能なビーム本数Mを超えないように設定されている。例えば、ユーザはレーダで使用可能なビーム本数Mを、トラッキングモードビーム本数Btと、フェンスモードビーム本数Bfに任意に振り分けてよい。また、フェンスモードで宇宙物体の走査のために用いるビームは、ビーム本数Mとは別に確保されていてよい。
主軸方位サーチ条件は、観測で用いる主軸方位の範囲θc1〜θc2と、その範囲で設定可能な角度の設定間隔Δθとの情報である。なお、主軸方位θcは、例えば、観測計画の観測計画立案期間Ts、Teにおいて固定とする。可視判定間隔Δpは、観測計画の観測計画立案期間Ts、Teにおいて或る宇宙物体が可視となるか否かを判定する時間間隔であり、可視であると判定された期間を結ぶと可視開始時刻Taiから可視終了時刻Tliまでの期間となる。可視最小時間pminは、可視と判定する最小の期間である。例えば、制御部101が、可視判定間隔毎に或る宇宙物体が可視か否かを判定した場合に、可視と判定されても、その可視の期間が可視最小時間pmin以上続かない場合、その宇宙物体を不可視と判定してよい。観測優先度設定条件は、宇宙物体の観測優先度を高い優先度に設定するか否か判定するための閾値である。観測優先度設定条件は、例えば、軌道決定実績閾値Ndet、及び観測実績閾値Odetを含む。観測実績閾値Odetは、これまでの観測において宇宙物体を観測できた回数を表す観測実績に対して設定された閾値である。例えば、観測実績がOdet以下で少ない場合、予測誤差が大きくなる恐れがあるため、制御部101は、その宇宙物体の優先度に高い値を設定してよい。軌道決定実績閾値Ndetは、これまでの観測において宇宙物体の軌道を決定できた回数である軌道決定実績に対して設定された閾値である。例えば、軌道決定実績が軌道決定実績閾値Ndet以下で少ない場合、予測誤差が大きくなる恐れがあるため、制御部101は、優先度に高い値を設定してよい。
(4)観測モード振分情報
図4は、観測モード振分情報400を例示する図である。観測モード振分情報400は、例えば、宇宙物体の観測に用いる観測モードを設定するための情報である。なお、観測モード振分情報400は、観測計画の立案処理が実行される前に、予め記憶部102に記憶されていてよい。なお、観測モード振分情報400の観測モードは、後述する観測モード振り分け処理で設定されてよく、観測計画の立案処理が実行される前には値が設定されていなくてもよい。観測モード振分情報400には、例えば、カタログデータに登録されている宇宙物体の一部又は全部についてのエントリが、登録されていてよい。観測モード振分情報400のエントリは、例えば、観測モード、物体識別番号、最新軌道時刻、観測パス数、制御時刻、及び再突入時刻の情報を含む。観測モードは、エントリに対応した宇宙物体に対して割り当てられている観測モードであり、例えば、後述する観測モード振り分け処理でトラッキングモード又はフェンスモードに設定されてよい。物体識別番号は、例えば、エントリに対応した宇宙物体に対して、カタログデータで割り振られた物体識別番号である。最新軌道時刻は、例えば、観測対象の宇宙物体の最新の軌道決定で求められた軌道位置に宇宙物体が存在する時刻である。また、観測パス数は、例えば、最新の軌道決定で用いた宇宙物体の観測パス数である。即ち、例えば、図4の上から2段目のエントリは、エントリに対応する宇宙物体の過去の10パスの観測の情報を用いて軌道決定を行い、最新軌道時刻に示す軌道位置が求められたことを示している。制御時刻は、例えば、エントリに対応する宇宙物体が人工衛星などのように軌道制御が可能である場合に、軌道制御が実行される時刻が登録される。再突入時刻は、例えば、エントリに対応する宇宙物体が大気圏に落下することが予測された時刻である。なお、軌道制御及び再突入時刻には、軌道予測で軌道を予測した予測期間内に起こることが予定されている軌道制御及び大気圏への再突入の時刻が登録されてよい。
(5)観測優先度情報
図5は、観測優先度情報500を例示する図である。観測優先度情報500は、例えば、宇宙物体に観測の優先度を設定するための情報である。なお、観測優先度情報500は、観測計画の立案処理が実行される前に、予め記憶部102に記憶されていてよい。また、制御部101は、例えば、宇宙物体の観測の実行後に観測結果に基づいて、観測優先度情報500を更新してよい。
観測優先度情報500には、例えば、カタログデータに登録されている宇宙物体の一部又は全部についてのエントリが、登録されていてよい。観測優先度情報500のエントリは、例えば、優先度wn、物体識別番号、観測情報、及びイベントなどのエントリに対応する宇宙物体についての情報を含む。観測情報は、宇宙物体の過去の観測についての情報であってよい。観測情報は、例えば、観測実績、軌道決定実績、及び最新軌道時刻を含む。イベントは、例えば、宇宙物体の軌道に変化を及ぼすイベントの発生についての情報であってよい。イベントは、例えば、制御時刻、近接時刻、及び再突入時刻などの情報を含む。なお、図5のエントリにおいて、物体識別番号、最新軌道時刻、制御時刻、及び再突入時刻は、図4の観測モード振分情報400の物体識別番号、最新軌道時刻、制御時刻、及び再突入時刻と同様の情報であってよい。優先度:wnは、例えば、エントリに対応する宇宙物体に対して設定された観測の優先度である。観測実績は、例えば、レーダでエントリに対応する宇宙物体を過去に観測した回数であってよい。例えば、観測実績は、レーダでエントリに対応する宇宙物体の観測を開始してから現在までの期間において、宇宙物体をレーダで観測した回数である。また、軌道決定実績は、例えば、レーダでエントリに対応する宇宙物体の軌道を過去に決定した回数であってよい。例えば、軌道決定実績は、レーダでエントリに対応する宇宙物体の観測を開始してから現在までの期間において、エントリに対応する宇宙物体の軌道を決定できた回数である。近接時刻には、例えば、エントリに対応する宇宙物体が別の宇宙物体に接近することが予測される時刻が登録されてよい。なお、観測優先度情報500の制御時刻、近接時刻、及び再突入時刻には、軌道予測で軌道を予測した予測期間内に起こることが予定されている制御時刻、近接、及び再突入などのイベントの時刻が登録されてよい。例えば、観測優先度情報500の制御時刻、近接時刻、及び再突入時刻は、現在時刻よりも未来において、これらのイベントが発生することが予測された時刻であってよい。
なお、制御部101は、例えば、以下の優先度設定処理を実行することで、観測優先度情報500に優先度を設定することができる。
図6は、実施形態に係る優先度設定処理を例示する図である。制御部101は、例えば、観測計画に従った宇宙物体の観測が完了すると、又は観測優先度情報500の更新指示が入力されると観測結果を用いて優先度設定処理を開始してよい。なお、観測優先度情報500の優先度以外の情報は、優先度設定処理の実行前に最新の情報に更新されていてよい。例えば、過去の観測の観測結果を基に、観測した宇宙物体に対応するエントリの観測実績、軌道決定実績、及び最新軌道時刻が更新されていてよい。また、軌道予測の結果に基づいてイベントの制御時刻、近接時刻、及び再突入時刻などが更新されていてよい。
ステップ601(以降、ステップを“S”と記載し、例えば、S601と表記する)において制御部101は、観測優先度情報500において、イベントの欄にイベントの時刻が登録されているエントリを抽出し、イベント情報700を生成する。
図7は、イベント情報700を例示する図である。制御部101は、例えば、観測優先度情報500のイベントの制御時刻、近接時刻、又は再突入時刻のいずれかの欄に時刻が登録されているエントリを抽出し、イベント情報700を生成する。そして、制御部101は、イベント情報700に登録されたエントリを、最新軌道時刻が古いもの順にソートする。なお、最新軌道時刻でソートを行うのは、例えば、図11で後述するように、最新軌道時刻が古い場合、軌道予測の精度が低下する可能性があるためである。
S602において制御部101は、観測優先度情報500に登録されているエントリのうち、イベント情報700に抽出した宇宙物体以外の残りのエントリから定常情報800を生成する。例えば、制御部101は、残りのエントリについて、軌道決定実績≦Ndetであり、且つ、観測実績≦Odetであるエントリを抽出し、定常情報800を生成してよい。
図8は、定常情報800を例示する図である。続いて、制御部101は、定常情報800のエントリを、軌道決定実績が少ない順、且つ観測実績が少ない順にソートする。なお、このソートは例えば、軌道決定実績又は観測実績の一方の値でソートした後、その値が同一のエントリについて他方の値でソートすることで実行されてよい。即ち、例えば、軌道決定実績が少ない順にソートし、軌道決定実績の値が同一のエントリについては、観測実績が少ない順にソートする。なお、軌道決定実績又は観測実績の値でソートを行うのは、例えば、軌道決定実績が少ない場合、又は観測実績が少ない場合、軌道予測の精度が低下する可能性があるためである。また更に、軌道決定実績と観測実績とがいずれも同一の値のエントリについては、例えば、最新軌道時刻からの経過時間が長くなると、軌道予測の精度が低下する可能性があるため、最新軌道時刻が古いもの順にソートしてよい。
S603において制御部101は、イベント情報700と、定常情報800とを結合して結合情報を生成し、結合情報のエントリに優先度を付与する。例えば、制御部101は、イベント情報700のエントリよりも下位に、定常情報800のエントリを結合する。そして、制御部101は、イベント情報700のソートされたエントリの上位側(最新軌道時刻の古い側)から順に高い優先度を付与する。続いて、制御部101は、定常情報のソートされたエントリの上位側(例えば、軌道決定実績又は観測実績の少ない側)から順に高い優先度を付与する。ここで付与する優先度は、例えば、本実施形態では、1を最も低い優先度としているため、1よりも大きな値であってよい。イベント情報700のエントリに、定常情報800のエントリよりも高い優先度を付与するのは、イベントが発生する場合、軌道決定実績が少ない場合や、観測実績が少ない場合よりも軌道の予測誤差が大きくなる可能性が高いためである。
S604において、制御部101は、観測優先度情報500のうちで、イベント情報700及び定常情報800に抽出されていない残りのエントリについて、優先度を付与する。なお、制御部101は、例えば、イベント情報700及び定常情報800を結合した結合情報のエントリに付与されている優先度よりも相対的に低い同一の優先度を残りのエントリに付与してよい。本実施形態では、残りのエントリに付与する優先度は、例えば1であってよい。そして、制御部101は、残りの宇宙物体のエントリを、結合情報の優先度の低い側に追加して得られた情報を、更新後の観測優先度情報500として保存し、本動作フローは終了する。
例えば、以上で述べた優先度設定処理を実行することで、予測誤差が大きくなる可能性の高い宇宙物体に高い優先度が設定されるため、予測誤差が大きくなる可能性の高い宇宙物体を優先的に観測対象として選択することが可能になる。
続いて、以上のデータを利用して、実施形態に係る観測計画の立案処理を説明する。
図9は、実施形態に係る観測計画の立案処理を例示する図である。例えば、観測計画立案装置100に、観測計画立案期間:Ts〜Teに対する観測計画立案指示が入力されると、制御部101は、図9の動作フローを開始してよい。
S901において制御部101は、例えば、観測計画立案期間:Ts〜Teにレーダから観測可能な範囲にある宇宙物体を抽出する。例えば、制御部101は、カタログデータに登録されているそれぞれの宇宙物体のTLE軌道パラメータとRCSとを1つずつ読み込み、観測設備条件の観測可能範囲のパラメータと比較する。即ち、制御部101は、例えば、カタログデータから読み出した宇宙物体のTLE軌道パラメータとRCSとが以下の3つの条件を全て満たす場合に、その宇宙物体を観測可能な範囲内と判定し、その観測可能な範囲内の宇宙物体を抽出してよい。カタログデータは、例えば、米国が公開している宇宙物体情報であってもよいし、レーダでの観測結果を用いて作成した別のカタログデータであってもよい。また、RCSが未入力のエントリについては、RCSの値をRCSminに置き換えて見えると仮定してよい。
・ペリジ高度≦Hmax
・RCS≧RCSmin
・軌道傾斜角≧imin
S902において制御部101は、抽出した観測可能な範囲内の宇宙物体のそれぞれを、観測モード振分情報400の観測モードを参照し、観測モード振り分け処理を実行する。
図10は、実施形態に係る観測モード振り分け処理を例示する図である。図10の動作フローは、例えば、図9のS902に進むと開始してよい。なお、観測モード振分情報400の観測モード以外の情報は、観測モード振り分け処理の実行前に最新の情報に更新されていてよい。例えば、過去の観測の観測結果を基に、最新軌道時刻、観測パス数が更新されていてよい。また、軌道予測の結果に基づいて制御時刻、及び再突入時刻などが更新されていてよい。
S1001において、制御部101は、観測モード振分情報400の制御時刻、又は再突入時刻などのイベントを参照する。そして、制御部101は、イベントに時刻が登録されている場合、そのエントリの観測モードをフェンスモードに振り分けてよい。これは、宇宙物体に軌道制御が行われた場合や、宇宙物体が大気圏に突入する場合、十分な観測の蓄積があっても、予測誤差が大きくなる傾向があるためである。この場合には、軌道予測を用いなくても宇宙物体を観測可能なフェンスモードでの観測は適している。そのため、制御部101は、例えば、これらのエントリをフェンスモードに振り分けてよい。
S1002において制御部101は、フェンスモード使用基準の経過時間閾値To及び観測パス閾値Ooに基づいて、宇宙物体の観測をフェンスモードに振り分けてよい。例えば、制御部101は、エントリの最新軌道時刻から観測計画立案期間の開始時刻Tsまでの経過時間が、経過時間閾値To以上の長さである場合に、そのエントリをフェンスモードに振り分けてよい。これは、経過時間が長くなると、軌道予測の精度が低下する可能性があるためである。なお、経過時間閾値Toは、例えば、経過時間が閾値未満であれば、予測誤差がトラッキングモードでの観測の許容範囲に収まることが推定される値に設定することができる。
図11は、真の軌道に対する位置誤差と観測計画立案の時期との相関を示す図である。縦軸は、真の軌道に対する位置誤差であり、横軸は時間である。そして、図11では、或る物体の観測期間1101(波線)と、予測期間1102(点線)とが示されている。ここでは、最新軌道時刻は観測期間1101にあるものとする。また、時間軸のTsは、観測計画を立案する観測計画立案期間の開始時刻である。そして、第1の宇宙物体の軌道予測の位置誤差を表す曲線111では、時刻Tsと最新軌道時刻との間の期間が長いため、時刻Tsでは予測精度が著しく低下している。一方、第2の宇宙物体の予測精度を表す曲線112では、Tsと最新軌道時刻との間の期間が短いため、時刻Tsでは位置誤差は低く、トラッキング可能な位置誤差の上限以下に抑えられている。この様に、観測対象の最新軌道時刻から観測計画立案期間の開始時刻Tsまでの期間が長いと、軌道予測の精度が低下する傾向がある。
そこで、宇宙物体の最新軌道時刻から観測計画立案期間の開始時刻Tsまでの経過時間に対し、軌道予測の位置誤差がトラッキングモードにおける宇宙物体のトラッキングにおいて許容範囲内となるように経過時間閾値Toを設定する。それにより、例えば、経過時間閾値Toよりも最新軌道時刻から観測計画立案期間の開始時刻Tsまでの経過時間が短ければ、位置誤差はトラッキングモードでの観測において許容範囲内となると推定できる。そして、制御部101は、経過時間閾値Toよりも経過時間が短ければ、その宇宙物体をトラッキングモードでの観測に振り分けてよい。一方、最新軌道時刻から観測計画立案期間の開始時刻Tsまでの経過時間が経過時間閾値To以上の長さであれば、位置誤差はトラッキングモードでの観測で許容されなくなる可能性がある。この場合、制御部101は、その宇宙物体をフェンスモードでの観測に振り分けよい。
また、制御部101は、例えば、最新の軌道決定のために用いた観測のパス数が観測パス閾値Oo以下で低ければ、その宇宙物体をフェンスモードに振り分けてよい。これは、例えば、軌道予測の精度は、軌道決定に用いられた観測パス数が少ないと低下する傾向があるためである。そこで、観測パス閾値Ooを、望ましい精度の軌道予測ができると見込まれるパス数に設定する。そして、制御部101は、例えば、軌道決定で用いた観測のパス数が観測パス閾値Ooよりも高ければ、軌道予測の精度が十分であることが推定できるため、その宇宙物体をトラッキングモードに振り分けてよい。一方、制御部101は、例えば、軌道決定で用いた観測のパス数が、観測パス閾値Oo以下で低ければ、軌道予測の精度が低下する可能性があるため、その宇宙物体をフェンスモードに振り分けてよい。
S1003において制御部101は、以上のS1001及びS1002でフェンスモードに振り分けられなかった宇宙物体を、トラッキングモードに振り分ける。
S1004において制御部101は、振り分け結果を観測モード振分情報400の観測モードに登録して観測モード振分情報400を更新し、本動作フローは終了し、フローはS903に進む。
なお、上述のように、フェンスモードでは、事前に軌道などの情報が無くても観測が可能であるため、軌道予測の精度が低下しても、宇宙物体を観測することができる。一方で、軌道予測の精度が高いことが推定される場合には、軌道予測を用いてトラッキングモードで観測を実行した方が、フェンスモードで実行される走査をしなくてもよく、効率的に宇宙物体の観測することができる。従って、以上で述べたように、軌道制御や大気圏突入などのイベントの発生や、経過時間閾値To、及び観測パス閾値Ooなどに基づいて、宇宙物体の観測モードをトラッキングモード又はフェンスモードに振り分けることで、効率的な観測が可能となる。なお、S1001及びS1002で振り分けられたフェンスモードにより観測を行う対象とする宇宙物体群を、第1の宇宙物体群と呼ぶことがある。また、S1003で振り分けられたトラッキングモードにより観測を行う対象とする宇宙物体群を、第2の宇宙物体群と呼ぶことがある。
続く、S903からS910までの処理は繰り返し処理である。制御部101は、S903において、例えば、繰り返しの度に、レーダの主軸方位サーチ条件のサーチ範囲θc1〜θc2において未だ選択していない主軸方位θcを選択する。即ち、制御部101は、例えば、繰り返しの度に、主軸方位サーチ条件のサーチ範囲θc1〜θc2において主軸方位を設定間隔Δθで動かして主軸方位θcを順次選択し、各主軸方位で処理を繰り返してよい。
S904において制御部101は、観測モード振分情報400を参照し、S902の振り分けでトラッキングモードに振り分けられた観測対象の宇宙物体に対しS905以降の処理を実行する。一方、制御部101は、S902の振り分けでフェンスモードに振り分けられた観測対象の宇宙物体に対しS907以降の処理を実行する。
続く、S905からS906において制御部101は、トラッキングモードでの観測対象の宇宙物体に対して観測計画の最適化処理を実行する。
[トラッキングモードでの観測計画の最適化]
S905において制御部101は、トラッキングモードに振り分けられた宇宙物体の全てについて、トラッキングモードでの可視開始時刻と可視終了時刻とを算出する。例えば、制御部101は、まず、観測計画立案期間:Ts、Teの間に、S903で選択された主軸方位θcにおいて、レーダのトラッキングモードでの観測可能な範囲であるトラッキング範囲を観測対象の宇宙物体が通過するか否かを判定する。なお、トラッキング範囲は、例えば、仰角EL1〜EL2、方位角半値幅AZt、及びレーダ捕捉距離Rtから決定されてよい。
続いて、制御部101は、宇宙物体がトラッキング範囲を通過する場合は、その宇宙物体についての可視開始時刻と可視終了時刻とを算出する。制御部101は、可視開始時刻と可視終了時刻とを、例えば、観測対象の宇宙物体のRCSと、レーダのレーダ捕捉距離Rtとを用いて、レーダ方程式に従い算出してよい。
S906において制御部101は、例えば、観測計画立案期間:Ts、Teにおけるトラッキングモードでの観測の評価値Ztを求める。例えば、制御部101は、観測計画立案期間:Ts、TeをΔτで区切り、各分割区間の分割時刻範囲:Tk〜Tk+1に可視開始時刻及び可視終了時刻が含まれる宇宙物体を特定する。そして、制御部101は、各分割区間毎に、特定した宇宙物体について、上述の式2の制約を満たしながら、観測優先度情報500を用いて式1の評価値Φが最大になるように線形計画問題を解き、各分割区間での評価値Φを求める。なお、トラッキングに割り当てられているビーム本数は計算条件のトラッキングモードビーム本数Btで与えられており、制御部101は、式2のビーム本数の制約として、トラッキングモードビーム本数Btを用いて計算を行ってよい。そして、制御部101は、評価値Φが最大となるケースでXi=1を設定した宇宙物体を、分割時刻範囲:Tk〜Tk+1での観測対象として特定する。なお、線形計画問題の解法は線形計画問題を解くための既存のツールを用いて実行できる。そして、制御部101は、観測計画立案期間:Ts、Teの期間内の各分割区間において、評価値Φを最大化するXi=1の宇宙物体の組みを特定することで、観測計画立案期間:Ts、Teにおけるトラッキングモードでの観測計画を立案する。また、制御部101は、各分割区間での評価値Φの最大値を合算することで、観測計画立案期間:Ts、Teに対応するトラッキングモードでの評価値Ztを算出する。
一方、制御部101は、S907からS908において、フェンスモードでの観測対象の宇宙物体に対して観測計画の最適化処理を実行する。
[フェンスモードでの観測計画の最適化]
S907において制御部101は、フェンスモードに振り分けられた宇宙物体の全てについて、フェンスモードでの可視開始時刻と可視終了時刻とを算出する。例えば、制御部101は、まず、観測計画立案期間:Ts、Teの間に、S903で選択された主軸方位θcにおいてレーダのフェンスモードでの観測可能な範囲であるフェンス範囲を観測対象の宇宙物体が通過するか否かを判定する。なお、フェンス範囲は、例えば、仰角Elf1〜Elf2と、方位角半値幅AZf、及びレーダ捕捉距離Rfから決定されてよい。
そして、制御部101は、宇宙物体がフェンス範囲を通過する場合は、その宇宙物体についての可視開始時刻と可視終了時刻とを算出する。なお、制御部101は、可視開始時刻と可視終了時刻とを、例えば、観測対象の宇宙物体のRCSと、レーダのフェンスモードでのレーダ捕捉距離Rfとを用いて、レーダ方程式に従い算出してよい。
S908において制御部101は、例えば、観測計画立案期間:Ts、Teにおけるフェンスモードでの観測の評価値Zfを求める。例えば、制御部101は、観測計画立案期間:Ts、TeをΔτで区切り、各分割区間の分割時刻範囲:Tk〜Tk+1に可視開始時刻及び可視終了時刻が含まれる宇宙物体を特定する。そして、制御部101は、各分割区間毎に、特定した宇宙物体について、上述の式2の制約を満たしながら、観測優先度情報500を用いて式1の評価値Φが最大になるように線形計画問題を解き、各分割区間での評価値Φを求める。なお、フェンスモードに割り当てられているビーム本数は計算条件のフェンスモードビーム本数Bfで与えられており、制御部101は、式2のビーム本数の制約として、フェンスモードビーム本数Bfを用いて計算を行ってよい。そして、制御部101は、評価値Φが最大となるケースでXi=1を設定した宇宙物体を、分割時刻範囲:Tk〜Tk+1での観測対象として特定する。なお、線形計画問題の解法は線形計画問題を解くための既存のツールを用いて実行できる。そして、観測計画立案期間:Ts、Teの期間内の各分割区間において、評価値Φを最大化するXi=1の宇宙物体の組みを特定することで、観測計画立案期間:Ts、Teにおけるフェンスモードでの観測計画を立案する。また、制御部101は、各分割区間での評価値Φの最大値を合算することで、観測計画立案期間:Ts、Teに対応するフェンスモードでの評価値Zfを算出する。
続く、S909において制御部101は、例えば、結果を、記憶部102に記憶されている立案結果ファイルに保存する。制御部101は、例えば、トラッキングモードでの評価値Ztと、フェンスモードでの評価値Zfとを合計して評価値Zを得る。そして、制御部101は、評価値Zと、フェンスモード及びトラッキングモードのそれぞれで各分割区間毎にXi=1となる宇宙物体の物体識別番号とをθcと関連付けて出力する。
続いて、S910において制御部101は、選択可能な全てのθcについて評価を行っているか否かを判定し、まだ未選択のθcがあればフローはS903に戻る。一方、全てのθcについて評価を実行していれば、フローはS911に進む。S911において制御部101は、各θcのうちで、算出した評価値Zが最大のときのθcを特定し、そのθcにおける観測計画を出力し、本動作フローは終了する。観測計画は、例えば、評価値Zが最大のときのθcと、そのθcで観測対象とする1又は複数の宇宙物体(Xi=1)についての物体識別番号と、その宇宙物体の可視開始時刻及び可視終了時刻の情報を含んでよい。観測計画は、更に、例えば、観測対象とする宇宙物体の観測モードと、観測を実行する分割区間の情報を含んでもよい。制御部101は、例えば、観測計画を記憶部102に出力し、保存してよい。
以上で述べた様に、実施形態によれば制御部101は、観測計画立案期間において観測可能範囲内にある複数の宇宙物体のそれぞれに観測モードを振り分ける。制御部101は、例えば、宇宙物体の最新軌道時刻から観測計画立案期間までの経過時間が経過時間閾値To以上であれば、その宇宙物体の観測をフェンスモードに振り分ける。また、制御部101は、最新軌道時刻での軌道位置の特定に用いた軌道の決定で利用された観測パス数が、観測パス閾値Oo以下で低ければ、その宇宙物体の観測をフェンスモードに振り分ける。そのため、例えば、予測誤差が大きくなる可能性のある宇宙物体をトラッキングモードで観測することを抑制でき、軌道予測で予測された方向に宇宙物体が存在しないにもかかわらず、トラッキングモードで観測を実行してしまうことを抑制できる。
また、上記の実施形態では、軌道予測で用いた予測期間に観測対象の宇宙物体に軌道制御、又は大気圏への再突入などのイベントに予定が有る場合には、制御部101は、その宇宙物体の観測モードをフェンスモードに振り分ける。上述のように、軌道制御、及び大気圏への再突入が起きた場合、その宇宙物体の軌道の予測誤差は大きくなる傾向があるが、それらの宇宙物体をトラッキングモードで観測してしまうことを抑制できる。
また、制御部101は、以上の振り分けによりフェンスモードに振り分けられていない宇宙物体の観測モードをトラッキングモードに振り分ける。予測誤差が許容範囲に収まることが推定される宇宙物体については、トラッキングモードで観測を行うことで、仰角の方向を走査するフェンスモードよりも、効率的に宇宙物体を観測することができる。
また、上記の実施形態では、宇宙物体の軌道予測で用いた予測期間における軌道制御、大気圏への再突入、又は他の宇宙物体との近接の予定と、宇宙物体の過去の観測回数及び軌道決定回数とを用いて、複数の宇宙物体のそれぞれに優先度を付与している。そして、複数の宇宙物体のそれぞれに付与された優先度と、レーダで利用可能なビーム本数とに基づいて、レーダで設定可能な複数の主軸方位のうちで、観測計画立案期間に観測で用いる主軸方位と、観測対象とする宇宙物体とを決定している。そのため、予測誤差が大きくなる恐れがある宇宙物体を優先的に観測することができ、その上で、観測できる宇宙物体の数を最大化する主軸方位を決定することができる。
従って、実施形態によれば制御部101は、予測誤差を考慮して、宇宙物体を効率的に観測可能な観測計画を立案することができる。
以上において、実施形態を例示したが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、上述の動作フローは例示であり、実施形態はこれに限定されるものではない。可能な場合には、動作フローは、処理の順番を変更して実行されてもよく、別に更なる処理を含んでもよく、又は、一部の処理が省略されてもよい。例えば、図10のS1002とS1003の処理は順序を入れ替えて実行されても、一方の処理が省略されてもよい。
また、上述の実施形態において、例えば、観測優先度情報500に登録されている優先度を用いず、例えば、全てのwiの値を1とした場合にも、上述の実施形態によれば、各分割区間内で利用されるビームリソースを最大にする主軸方位を決定することができる。従って、効率的な観測計画を立案することが可能である。
また、上述の観測モード振分情報400、観測優先度情報500、イベント情報700、及び定常情報800は、例えば、テーブルやデータベースの形式で作成されていてよい。
図12は、実施形態に係る観測計画立案装置100を実現するためのコンピュータ1200のハードウェア構成を例示する図である。図12の観測計画立案装置100を実現するためのハードウェア構成は、例えば、プロセッサ1201、メモリ1202、記憶装置1203、読取装置1204、通信インタフェース1206、及び入出力インタフェース1207を備える。なお、プロセッサ1201、メモリ1202、記憶装置1203、読取装置1204、通信インタフェース1206、入出力インタフェース1207は、例えば、バス1208を介して互いに接続されている。
プロセッサ1201は、メモリ1202を利用して例えば上述の動作フローの手順を記述した観測計画立案プログラムを実行することにより、上述した制御部101の一部または全部の機能を提供する。また、記憶部102は、例えばメモリ1202、記憶装置1203、及び着脱可能記憶媒体1205を含んでいる。観測計画立案装置100の記憶装置1203には、例えば、観測モード振分情報400、及び観測優先度情報500が記憶されている。
メモリ1202は、例えば半導体メモリであり、RAM領域及びROM領域を含んでいてよい。記憶装置1203は、例えばハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ、又は外部記憶装置である。なお、RAMは、Random Access Memoryの略称である。また、ROMは、Read Only Memoryの略称である。
読取装置1204は、プロセッサ1201の指示に従って着脱可能記憶媒体1205にアクセスする。着脱可能記憶媒体1205は、例えば、半導体デバイス(USBメモリ等)、磁気的作用により情報が入出力される媒体(磁気ディスク等)、光学的作用により情報が入出力される媒体(CD−ROM、DVD等)などにより実現される。なお、USBは、Universal Serial Busの略称である。CDは、Compact Discの略称である。DVDは、Digital Versatile Diskの略称である。
通信インタフェース1206は、プロセッサ1201の指示に従ってネットワーク1220を介してデータを送受信する。入出力インタフェース1207は、例えば、入力装置及び出力装置との間のインタフェースであってよい。入力装置は、例えばユーザからの指示を受け付けるキーボードやマウスなどのデバイスである。出力装置は、例えばディスプレーなどの表示装置、及びスピーカなどの音声装置である。
実施形態に係る各プログラムは、例えば、下記の形態で観測計画立案装置100に提供される。
(1)記憶装置1203に予めインストールされている。
(2)着脱可能記憶媒体1205により提供される。
(3)プログラムサーバなどのサーバ1230から提供される。
なお、図12を参照して述べた観測計画立案装置100を実現するためのコンピュータ1200のハードウェア構成は、例示であり、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、上述の機能部の一部または全部の機能がFPGA及びSoCなどによるハードウェアとして実装されてもよい。なお、FPGAは、Field Programmable Gate Arrayの略称である。SoCは、System-on-a-chipの略称である。
以上において、いくつかの実施形態が説明される。しかしながら、実施形態は上記の実施形態に限定されるものではなく、上述の実施形態の各種変形形態及び代替形態を包含するものとして理解されるべきである。例えば、各種実施形態は、その趣旨及び範囲を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できることが理解されよう。また、前述した実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより、種々の実施形態が実施され得ることが理解されよう。更には、実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除して又は置換して、或いは実施形態に示される構成要素にいくつかの構成要素を追加して種々の実施形態が実施され得ることが当業者には理解されよう。