(1)本発明の電気化学センサの概要
図2は、本発明の電気化学センサに設けられる電極形成板3の一部を拡大した概略図である。図2に示すように、電極形成板3は、一方の面にサンプル溶液10aが存在し、他方の面に電気化学発光溶液10bが存在しており、サンプル溶液10a及び電気化学発光溶液10bを仕切っている。
電極形成板3は、絶縁部材からなる基板3aを備え、この基板3aの板厚方向を貫通するように検出電極3bが形成されている。これにより、検出電極3bは、一端がサンプル溶液10aに接し、他端が電気化学発光溶液10bに接している。
ここで、サンプル溶液10aは、還元反応を起こす検出対象分子を含んでいる。ここでは、検出対象分子の一例として、フェリシアン化カリウムを用いて説明する。また、電気化学発光溶液10bは、酸化反応により発光する発光物質を含んでいる。ここでは、電気化学発光溶液10bの一例として、発光物質の一例としてルテニウム錯体(Ru(bpy(bipyridine:ビピリジン))3)を含んだ、[Ru(bpy)3]Cl2とトリプロピルアミン(Trypropylamine:TPA)の混合水溶液を用いて説明する。
駆動電極8a,8b間に所定の電位が印加されると、サンプル溶液10aに接している検出電極3bの一端でサンプル溶液10a内の検出対象分子が還元される(図中、「red」と表記)。これにより、電気化学発光溶液10bに接している検出電極3bの他端では、電気化学発光溶液10b内の発光物質が酸化し(図中、「OX」と表記)、これに伴い電気化学発光溶液10bで発光(電気化学発光とも称する)L1が生じる。
ここでの例では、図3に示すように、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10b内のRu(bpy)3 2+とTPAが酸化され、その後、酸化したRu(bpy)3 3+がTPA*(*は励起状態を示す)から電子を得て還元されて励起状態となる。励起状態となったRu(bpy)3 3+*は光を発して基底状態に戻る。このようにして、検出電極3bの一端でサンプル溶液10a内の検出対象分子が還元されると、これに応じて検出電極3bの他端では電気化学発光溶液10b内の発光物質が酸化され、発光物質が励起状態から基底状態に戻る過程で電気化学発光L1が生じる。
以上より、図4Aに示すように、本発明の発光原理を利用した電気化学センサ1は、従来と同様に、検出電極3bをアレイ状に配置させた際、リード線が無くても、検出電極3bの一端でサンプル溶液10a内の検出対象分子を還元させることで、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10b内の発光物質の酸化による電気化学発光L1が生じる。
よって、電気化学センサ1は、検出電極3bからそれぞれリード線を引き出す必要がない分、各検出電極3bの間隔を狭めることができるので、高密度に検出電極3bをアレイ状に配置させることができる。かくして、電気化学センサ1では、各検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10bの酸化により生じる電気化学発光L1を基にサンプル溶液10aのイメージングを行う際、高密度に検出電極3bが配置されている分、図4Bに示すように、発光L1が高解像に写った画像(解析データ)100bが得られ、正確な解析結果を得ることができる。
(2)第1実施形態
(2−1)第1実施形態による電気化学センサの全体構成
次に、上述した本発明の電気化学センサの具体的な構成について以下説明する。図5に示すように、本発明の電気化学センサ1は、サンプル溶液保持部2と、電極形成板3と、電気化学発光溶液保持部4と、光学顕微鏡5と、撮像部6と、画像処理部7とを備えており、サンプル溶液保持部2及び電気化学発光溶液保持部4の間に電極形成板3が設けられた構成を有する。なお、図2は、図5の領域ER1を拡大した概略図となる。
サンプル溶液保持部2は、例えば、アクリル等の樹脂部材により形成されたプレート2aを有しており、プレート2aの枠に囲まれた液体保持領域2b内にサンプル溶液10aを保持している。
プレート2aには、電極形成板3と対向する領域に開口部2cが形成されている。これにより、サンプル溶液保持部2は、液体保持領域2b内のサンプル溶液10aが開口部2cで電極形成板3の一方の面に接している。
サンプル溶液保持部2のプレート2aには、第1の駆動電極8aが設置されており、サンプル溶液10a内に駆動電極8aが浸漬されている。また、本実施形態の場合、サンプル溶液10aには、参照電極8cが浸漬されている。
サンプル溶液保持部2に電極形成板3を介在させて設けられる電気化学発光溶液保持部4は、例えば、アクリル等の樹脂部材により形成されたプレート4aを有しており、プレート4aの枠に囲まれた液体保持領域4b内に電気化学発光溶液10bを保持している。
プレート4aには、電極形成板3と対向する領域に開口部4cが形成されている。これにより、電気化学発光溶液保持部4は、液体保持領域4b内の電気化学発光溶液10bが開口部4cで電極形成板3の他方の面に接している。
電気化学発光溶液保持部4には、電極形成板3と対向する底面領域に、ガラス等の透明部材により形成された透明基板4dが設けられている。これにより、電気化学発光溶液10bに接する電極形成板3の他面を、透明基板4dを介して撮像部6により撮像することができる。
電気化学発光溶液保持部4のプレート4aには、上述した第1の駆動電極8aと対となる第2の駆動電極8bが設置されており、電気化学発光溶液10b内に駆動電極8bが浸漬されている。
電極形成板3は、サンプル溶液10aと電気化学発光溶液10bとを仕切る基板3aを備えており、基板3aには、複数の検出電極3bがアレイ状に配置されている。基板3aは、例えばエポキシ樹脂等の絶縁部材により板状に形成されており、サンプル溶液保持部2の開口部2cと、電気化学発光溶液保持部4の開口部4cとを封止している。
これにより、基板3aは、サンプル溶液保持部2に保持されたサンプル溶液10aと開口部2cにおいて一面が接し、電気化学発光溶液保持部4で保持された電気化学発光溶液10bと開口部4cにおいて他面が接している。なお、基板3aの板厚は、サンプル溶液10aと電気化学発光溶液10bとを仕切れ、かつ、所定の機械的強度を担保することができれば、種々の板厚まで薄くすることができる。
また、基板3aの板厚は、特に限定されず、検出電極3bの一端でサンプル溶液10a内の検出対象分子が還元されることによって、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10b内の発光物質を酸化させて発光させることが可能な板厚であればよい。
基板3aにおいてアレイ状に配置された検出電極3bは、例えば、金属部材や導電性カーボン等のように、導電性部材により柱状に形成されており、基板3aの板厚方向を貫通するように形成されている。これにより、検出電極3bは、一端がサンプル溶液10aに接し、他端が電気化学発光溶液10bに接している。
ここで、電気化学発光溶液10bに接している各検出電極3bの他端は、電気化学発光溶液保持部4に設けられた透明基板4d及び光学顕微鏡5を介して撮像部6により撮像される。光学顕微鏡5は、対物レンズ5aとミラー5bとを備えており、撮像部6は、これら対物レンズ5a及びミラー5bを介して、検出電極3bがアレイ状に配置された電極形成板3のセンサエリアを撮像する。
なお、本実施形態の場合、撮像部6は、光学顕微鏡5を介して各検出電極3bの他端を撮像しているが、本発明はこれに限らず、例えば、電極形成板3の透明基板4dに撮像部6を直接設け、光学顕微鏡5を介さずに各検出電極3bの他端を撮像部6により撮像するようにしてもよい。
撮像部6は、例えばCCDカメラであり、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10bの酸化によって生じる発光L1を撮像し、取得した撮像画像を画像処理部7に出力する。画像処理部7は、解析部7aと提示部7bとを備えており、これら解析部7a及び提示部7bによって撮像画像に対して各種処理を実行する(後述する)。このようにして得られた処理結果を基に、電気化学センサ1を使用する作業者はサンプル溶液10aの解析を行うことができる。
(2−2)サンプル溶液保持部、電極形成板及び電気化学発光溶液保持部の構成
次に、図6を用いて、サンプル溶液保持部2、電極形成板3及び電気化学発光溶液保持部4の詳細な構成について以下説明する。なお、図5は、図6のA−A部分、B−B部分及びC−C部分の側断面構成を示した断面図である。
図6に示すように、サンプル溶液保持部2のプレート2aには、電極形成板3と対向した領域に形成された開口部2cの他に、駆動電極8aが設けられる開口部2eが形成されている。この開口部2eには、底面領域に板状の駆動電極8aが設けられており、当該駆動電極8aにより底面領域が封止されて液体保持領域2fが形成されている。この液体保持領域2fには、サンプル溶液10aが保持されている。
サンプル溶液保持部2のプレート2aは、駆動電極8aが設けられた液体保持領域2fと、電極形成板3が配置される開口部2cの液体保持領域2bとが連通し、液体保持領域2f内の駆動電極8aによりサンプル溶液10aに電位が印加されると、開口部2cの液体保持領域2b内で保持されているサンプル溶液10aにも電位が印加される。
なお、駆動電極8aは、検出電極3bでの反応を律速しないために、その大きさは、サンプル溶液10aに触れている、各検出電極3bの一端の接触面積の合計の10倍以上であることが望ましい。
一方、電気化学発光溶液保持部4のプレート4aには、電極形成板3と対向した領域に形成された開口部4cの他に、駆動電極8bが設けられる開口部4eが形成されている。この開口部4eには、底面領域に板状の駆動電極8bが設けられており、当該駆動電極8bにより底面領域が封止されて液体保持領域4fが形成されている。この液体保持領域4fには、電気化学発光溶液10bが保持されている。
電気化学発光溶液保持部4のプレート4aは、駆動電極8bが設けられた液体保持領域4fと、電極形成板3が配置される開口部4cの液体保持領域4bとが連通し、液体保持領域4f内の駆動電極8bにより電気化学発光溶液10bに電位が印加されると、開口部4cの液体保持領域4b内で保持されている電気化学発光溶液10bにも電位が印加される。
なお、駆動電極8bは、検出電極での反応を律速しないために、その大きさは、サンプル溶液10aに触れている検出電極面積の合計の10倍以上であることが望ましい。
次に、電極形成板3について説明する。本実施形態の場合、電極形成板3は、円盤状に形成されており、図7に示すように、複数の検出電極3bがアレイ状に配置されたセンサエリアを有する。ここでは、このセンサエリアは上面から見て六角形状に形成されている。
基板3aにおいてアレイ状に配置される検出電極3bは、例えば、5μm以下の間隔で配置されることが望ましい。本実施形態の電気化学センサ1において、検出電極3bが5μm以下の間隔で配置されていれば、サンプル溶液10a内の微細な物質移動のイメージングが可能となる。検出電極3bの間隔は小さいほどよいが、後述する撮像部6での光学限界もあるため、検出電極3bは500nm以上の間隔で配置されることが望ましい。
なお、検出電極3bの配置間隔は等間隔であることが望ましいが、本発明はこれに限らず、検出電極3bをアレイ状に配置させた際に一方向と他方向とで検出電極3bの配置間隔を変化させてもよい。
本実施形態の場合、各検出電極3bは同じ大きさ、同じ形状からなり、例えば円柱状に形成されている。検出電極3bの直径は、例えば5μm以下であることが望ましい。本実施形態の電気化学センサ1において、検出電極3bの直径を5μm以下とすれば、サンプル溶液10a内の微細な物質移動のイメージングが可能となる。また、検出電極3bを500nmの間隔で配置する場合、検出電極3bの配置領域を考慮し、検出電極3bの直径は500nm±50nmであることが望ましい。
なお、ここでは、検出電極3bがアレイ状に配置されるセンサエリアを、上面から見て六角形状に形成したが、本発明はこれに限らず、センサエリアを上面から見て三角形状や四角形状、円形状等に形成してもよい。検出電極3bがアレイ状に配置されるセンサエリアを上面から見て四角形状に形成した場合には、少なくとも縦×横が50μm以上×50μm以上であり、検出電極3bが縦×横で3つ以上×3つ以上であることが望ましい。このようなセンサエリアを確保することで、サンプル溶液10a内の微細な物質移動のイメージングが可能となる。また、センサエリアは、ある程度大きな試料を解析することを考慮し、例えば、直径4mm以上であることがより好ましい。
ここで、駆動電極8a,8b間に印加される電位は、検出電極3bの一端でサンプル溶液10aの検出対象分子が還元され、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10b内の発光物質が発光する電位に設定すればよい。
(2−3)電極形成板の製造方法
次に、電極形成板3の製造方法について説明する。以下、代表的な製造方法について順に説明する。なお、以下の各製造方法により製造された電極形成板3は、予め準備したサンプル溶液保持部2及び電気化学発光溶液保持部4(準備工程)の間に設けられ(設置工程)、図5に示すような構成の電気化学センサ1になり得る。
(2−3−1)第1の製造方法
電極形成板3の第1の製造方法としては、始めに、図8Aに示すように、例えば、導電性部材を予め棒状に形成した棒状部材(例えば、金ワイヤ)を検出電極3bとして用意する。次いで、図8Bに示すように、検出電極3bの周側面に、エポキシ等の絶縁部材をコーティングしてゆき絶縁層3cを形成する。次いで、図8Cに示すように、周側面に絶縁層3cを形成した検出電極3bを束ねて、その周辺を絶縁層3cと同じ絶縁部材により固め、検出電極3bがアレイ状に配置されたセンサエリアを形成する。
次いで、アレイ状に検出電極3bを配置させたセンサエリアの周辺にも、絶縁層3cと同じ絶縁部材で板状部を形成することで、基板3aに複数の検出電極3bがアレイ状に配置された電極形成板3(図7)を製造することができる。
(2−3−2)第2の製造方法
次いで、電極形成板3の他の製造方法としては、始めに、図9Aに示すように、絶縁部材によって所定の板厚に形成した基板3aを用意し、基板3aの板厚方向を貫通する貫通孔3dを、基板3aに対してアレイ状に形成する(貫通孔形成工程)。なお、基板3aに貫通孔3dを穿設する手法は、エッチング等の公知の手法を適用すればよい。
次いで、図9Bに示すように、各貫通孔3d内を金属部材により埋めて検出電極3bを形成することで、基板3aに複数の検出電極3bがアレイ状に配置された電極形成板3(図7)を製造することができる(電極形成板作製工程、検出電極形成工程)。
ここで、貫通孔3d内に検出電極3bを形成する手法としては、図10に示すように、例えば、水にHAuCl4(塩化金酸)等を含有させた金酸溶液12aと、水又はエタノールにNaBH4(水素化ホウ素ナトリウム)等を含有させた還元剤溶液12bとを、基板3aの各貫通孔3d内で接触させる。これより、基板3aの各貫通孔3d内に金を析出させることができ、各貫通孔3dを金部材で埋めた検出電極3bを形成することができる。
なお、検証試験によって、金酸溶液12aとして、HAuCl4を50mM含んだ水溶液を用い、還元剤溶液12bとして、NaBH4を50mM含んだ水溶液と、NaBH4を50mM含んだエタノールとを用いることで、基板3aの各貫通孔3d内に金を析出させ、各貫通孔3dに検出電極3bを形成できることを確認している。
(2−3−3)第3の製造方法
次に、カーボンからなる検出電極3bを有した電極形成板3の製造方法について説明する。この場合、絶縁部材によって所定の板厚に形成した基板3aを用意し、基板3aの板厚方向を貫通する貫通孔3dを、基板3aに対してアレイ状に形成する(貫通孔形成工程)。
次いで、図11Aに示すように、基板3aの一面にカーボンペースト13を塗布してゆき、基板3aの各貫通孔3d内をカーボンペースト13により埋め、カーボンペースト13により貫通孔3dを塞いだ閉塞部13bを形成する。この際、閉塞部13bの他端が基板3aの他面と揃うように、貫通孔3d内にカーボンペースト13が充填される。
次いで、所定の加熱温度で所定時間(例えば、120℃で30分)、カーボンペースト13を焼成することにより、基板3aの各貫通孔3dに検出電極3bを形成する。次いで、基板3aの一面にある余分なカーボン層13aを、アセトン等の除去液で除去することにより、図11Bに示すように、基板3aの一面に検出電極3bの一端が揃った電極形成板3を形成することができる。
(2−4)解析部による定量性評価
次に、電気化学センサ1での発光強度の定量性評価について以下説明する。ここでは、図5に示すような電気化学センサ1を作製し、発光強度の定量性評価を確認する検証試験を行った。この場合、検出対象分子を含むサンプル溶液10aとしては、濃度0.1MのKCl水溶液(塩化カリウム水溶液)にフェリシアン化カリウムを含有させたフェリシアン化カリウム溶液を用いた。電気化学発光溶液10bとしては、[Ru(bpy)3]Cl2の濃度を10mMとし、TPAの濃度を100mMとした、濃度1MのKCl水溶液(塩化カリウム水溶液)を用いた。
ポテンショスタットの対極端子、作用電極端子及び参照電極端子にそれぞれ、駆動電極8a,8b及び参照電極8cを接続し、ポテンショスタットを用いて駆動電極8bに参照電極8cに対して−1.1Vの電位(以下、検出電位とも称する)を印加し、撮像部6として設けたCCDカメラによって、検出電極3bの他端で生じる電気化学発光溶液10bの発光L1を撮像し、得られた撮像画像から発光強度を確認した。
この際、KCl水溶液内のフェリシアン化カリウムの濃度を、0.0mM、2.5mM、5.0mM、7.5mM及び10mMとしたサンプル溶液10aをそれぞれ用い、フェリシアン化カリウムの濃度を変えたときに発光強度がどのように変化するかを確認した。その結果、図12A及び図12Bに示すような結果が得られた。
図12Aは、CCDカメラにより撮像した白黒の撮像画像であり、フェリシアン化カリウムの濃度が高くなるに従って発光L1を示す白色が濃くなってゆき、発光強度が大きくなることが目視により確認することができた。また、撮像画像毎にそれぞれ3点の白色を任意に選択し、白色の度合いから発光強度を特定した。そして、特定した発光強度の平均値を算出し、得られた算出結果を、図12Bに示すように、濃度を横軸とし、発光強度を縦軸としてグラフに示した。図12Bのnは測定の実施回数を示し、R2は決定係数を示す。図12B中の黒丸は3回の実験結果の平均値を示し、エラーバーは3回の実験結果の±標準偏差を示す。
図12Bに示すように、検出対象分子の濃度が高くなるに従って発光強度も大きくなることが確認できた。このことから、発光強度を基に検出対象分子の濃度の定量性評価が行えることが確認できた。
そこで、本実施形態では、図5に示した電気化学センサ1に、電気化学発光溶液10bにおける発光強度を基に、サンプル溶液10a内における検出対象分子の濃度の定量性評価を行う解析部7aを設けるようにした。
この場合、電気化学センサ1を用いて、サンプル溶液10a内の検出対象分子の濃度と、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10bが発光する発光強度との関係を予め調べておき、図12Bに示すように、検出対象分子の濃度と発光強度との関係を示す検量線を作製する。
解析部7aは、検出対象分子の濃度と発光強度との関係を表した検量線を予め記憶する。その後、解析部7aは、撮像部6により取得した撮像画像を受け取ると、画像処理ソフトを用いて撮像画像から発光強度を算出し、検量線に基づいてサンプル溶液10a内の検出対象分子の濃度を特定する。
以上のような構成とすることで、電気化学センサ1では、撮像部6により取得した撮像画像に基づいてサンプル溶液10a内の検出対象分子の濃度を自動的に特定することができる。
なお、解析部7aは、撮像画像から電気化学発光溶液10bでの発光強度を特定する際、画像処理ソフトにより、予め規定した輝度値以上の画素を特定し、これら画素の輝度値の平均値を算出するようにしてもよく、また、所定輝度値以上の画素集団を特定し、全ての画素集団、又は、所定数の画素集団の輝度値の平均値を算出して、電気化学発光溶液10bでの発光強度を算出するようにしてもよい。また、画像処理部7では、撮像画像を生成する際、検出電極が写る位置間を数値計算により補間し、輝度値が滑らかに移り変わるような撮像画像を生成してもよい。
(2−5)提示部による拡散イメージの提示
次に、上述した「(2−4)解析部による定量性評価」の検証試験により用いた、図5に示す電気化学センサ1を用い、サンプル溶液10a内の検出対象分子の移動を、電気化学発光溶液10bの発光変化により確認できるか否かについて検証試験を行った。
ここでは、サンプル溶液10a内で検出対象分子が移動してゆく過程を実現するために、濃度0.1MのKCl水溶液(塩化カリウム水溶液)内に、濃度が50mMのフェリシアン化カリウムを注入してゆき、KCl水溶液内にフェリシアン化カリウムを拡散させていった。
なお、電気化学発光溶液10bは、上述した「(2−4)解析部による定量性評価」の検証試験で用いた電気化学発光溶液10bと同じものを用いた。また、参照電極8cに対して−1.1Vの検出電位を、駆動電極8bに印加し、サンプル溶液(KCl水溶液)10a内にフェリシアン化カリウムを拡散させていったときに、撮像部6として設けたCCDカメラによって、検出電極3bの他端で生じる電気化学発光溶液10bの発光を所定時間間隔で撮像していった。
その結果、図13に示すような結果が得られた。図13Aは、サンプル溶液10a内にフェリシアン化カリウムを注入した直後(0.0s)に、検出電極3bの他端での電気化学発光溶液10bを、撮像部6により撮像したときの写真である。図13Bは、サンプル溶液10a内にフェリシアン化カリウムを注入してから1.8s経過後に、検出電極3bの他端での電気化学発光溶液10bを、撮像部6により撮像したときの写真である。
図13Cは、サンプル溶液10a内にフェリシアン化カリウムを注入してから4.0s経過後に、検出電極3bの他端での電気化学発光溶液10bを、撮像部6により撮像したときの写真である。図13Dは、サンプル溶液10a内にフェリシアン化カリウムを注入してから8.3s経過後に、検出電極3bの他端での電気化学発光溶液10bを、撮像部6により撮像したときの写真である。
図13A〜図13Dの結果から、発光箇所が時間経過とともに次第に移動してゆくことが確認でき、また、発光強度も次第に大きくなることが確認できた。このことから、検出電極3bの他端で生じる電気化学発光溶液10bの発光L1の時間的変化を観察することで、サンプル溶液10a内における検出対象分子の移動イメージが得られることが確認できた。
そこで、本実施形態では、図5に示した電気化学センサ1に、電気化学発光溶液10bにおける発光箇所の変化を基に、サンプル溶液10a内における検出対象分子の拡散イメージを提示する提示部7bを設けるようにした。提示部7bは、例えば液晶ディスプレイ等の表示部を備えており、撮像部6で時系列順に取得した撮像画像を、表示部に順次表示させる。
これにより、電気化学センサ1では、サンプル溶液10a内における検出対象分子の移動イメージを、電気化学センサ1の使用者に対して目視確認させることができる。
(2−6)サンプル溶液について
上述した実施形態においては、サンプル溶液10a内で還元反応が起こる検出対象分子の一例として、フェリシアン化カリウムを適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、サンプル内で還元反応が起きる物質であれば、その他種々の物質を検出対象分子として適用することができる。
他の検出対象分子として、例えば、過酸化水素(H2O2)を適用することができる。ここで、過酸化水素を検出対象分子として含有させたサンプル溶液10aを用いて、電気化学センサ1において、電気化学発光溶液10bの発光を基に過酸化水素を検出できるか否かの検証試験を行った。
この検証試験では、上述した「(2−4)解析部による定量性評価」の検証試験により用いた、図5に示す電気化学センサ1を用いた。また、電気化学発光溶液10bも、上述した「(2−4)解析部による定量性評価」の検証試験と同じものを用いた。
サンプル溶液10aとしては、過酸化水素の濃度を3.8mMとした濃度0.1MのKCl溶液を用意した。また、比較例のサンプル溶液10aとして、過酸化水素を含まない濃度0.1MのKCl溶液を用意した。
参照電極8cに対して−1.8Vとした検出電位を、駆動電極8bに印加し、上記の各サンプル溶液10aを用いたときに、検出電極3bの他端で生じる電気化学発光溶液10bの発光を、撮像部6として設けたCCDカメラによって撮像した。その結果、図14A及び図14Bの結果が得られた。
図14Aは、過酸化水素が含まれていないサンプル溶液10aでの結果であり、図14Bは、過酸化水素の濃度を3.8mMとしたサンプル溶液10aでの結果である。図14Aから、過酸化水素が含まれていないサンプル溶液10aでは、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10bが発光しないことが確認できた。
一方、図14Bから、過酸化水素の濃度を3.8mMとしたサンプル溶液10aでは、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10bが発光することが確認できた。
次に、駆動電極8bに印加する検出電位を変えて、電気化学センサ1の過酸化水素の検出能評価を行った。この検証試験では、過酸化水素の濃度を5.0mMとしたリン酸緩衝生理食塩水(Phosphate buffered saline:PBS)をサンプル溶液10aとして用いた点と、駆動電極8bに印加する検出電位を変えた点以外は、上記の検証試験と同じ条件とした。
駆動電極8bに印加する検出電位は、−0.0V、−0.5V、−1.0V、−1.5V、−2.0V及び−2.5Vとした。そして、検出電位を印加後30s後に、検出電極3bの他端を撮像部6により撮像した。その結果、図15に示すような撮像画像が得られた。
図15の上段の写真は、過酸化水素が含まれていないサンプル溶液10aを用いたときの結果を示し、下段の写真は、過酸化水素の濃度を5.0mMとしたサンプル溶液10aを用いたときの結果を示す。
過酸化水素の濃度を5.0mMとしたサンプル溶液10aを用いたときの検証結果から、駆動電極8bに印加する検出電位を−1.5Vとすると、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10bの発光が明確になることが分かった。この検証試験の条件において、過酸化水素を検出する場合は、駆動電極8bに−2.0V程度の検出電位を印加することが望ましいことが分かった。
なお、過酸化水素が含まれていないサンプル溶液10aでも、駆動電極8bに印加する検出電位を−2.5Vとすると、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10bが発光している状態が撮像画像内に現れたが、これはサンプル溶液10a内の溶存酸素の還元に起因するものと考えられる。
以上より、本発明の電気化学センサ1では、検出電極3bの一端でサンプル溶液10a内の過酸化水素を還元させることで、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10b内の発光物質の酸化による電気化学発光が生じることが確認できた。よって、上述した電気化学センサ1は、過酸化水素の検出用にも用いることができる。
(2−7)電気化学発光溶液について
上述した実施形態においては、検出電極3bの他端で酸化することにより発光する電気化学発光溶液として、[Ru(bpy)3]Cl2とトリプロピルアミン(TPA)の混合水溶液を用いた場合について述べたが、本発明はこれに限らない。本発明では、検出電極3bの一端でサンプル溶液10a内の検出対象分子を還元させることで、検出電極3bの他端で発光物質の酸化が生じて発光する種々の電気化学発光溶液を適用できる。
例えば、他の電気化学発光溶液としては、ルミノール(Luminol)と過酸化水素(H2O2)の混合溶液(Luminol/H2O2)を適用してもよい。この場合、下記のような酸化反応によって発光する。
また、他の電気化学発光溶液としては、下記の化学式で示されるIr(ppy)3とトリプロピルアミン(TPA)の混合溶液を適用してもよい。
(2−8)作用及び効果
以上の構成において、電気化学センサ1では、サンプル溶液10aを保持するサンプル溶液保持部2と、電気化学発光溶液10bを保持する電気化学発光溶液保持部4と、の間に電極形成板3を設けるようにした。また、電極形成板3は、サンプル溶液10aと電気化学発光溶液10bとを仕切る基板3aに、複数の検出電極3bをアレイ状に設け、各検出電極3bを、基板3aの板厚方向を貫通するように設けるようにした。
これにより、各検出電極3bは、一端がサンプル溶液10aに接し、他端が電気化学発光溶液10bに接した構成となり、一端でサンプル溶液10a内の検出対象分子が還元されることによって、他端で電気化学発光溶液10b内の発光物質を酸化させて発光させることができる。
このように、電気化学センサ1では、各検出電極3bにリード線を設けなくても、電気化学発光溶液10bの発光を基にサンプル溶液10a内の検出対象分子を確認できるので、リード線が不要となる分、検出電極3bを高密度で配置させることができる。よって、電気化学センサ1では、検出電極3bを高密度で配置できる分だけ、高解像の解析データを得ることができ、従来よりも一段と正確に検出対象分子の解析を行うことができる。
(2−9)電気化学発光溶液の発光物質が還元により発光する場合
上述した実施形態においては、検出電極3bの一端でサンプル溶液10a内の検出対象分子が「還元」されることによって、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10b内の発光物質を「酸化」させて発光させる場合について述べたが、本発明はこれに限らない。例えば、検出電極3bの一端でサンプル溶液10a内の検出対象分子が「酸化」されることによって、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10b内の発光物質を「還元」させて発光させる電気化学センサであってもよい。
この場合、電気化学センサの構成は、図5に示した、上述の電気化学センサ1と同じ構成となるものの、使用するサンプル溶液10a及び電気化学発光溶液10bが異なるものとなる。
検出電極3bの一端で検出対象分子が「酸化」されるサンプル溶液10aとしては、アルカリフォスファターゼ(ALP)や、ドーパミンを含んだサンプル溶液10aを適用することができる。なお、ドーパミンは神経細胞から放出される物質であることから、ドーパミンを検出する電気化学センサとすることで、神経細胞の活動を解析することができる。
一方、検出電極3bの他端で発光物質を「還元」させて発光させる電気化学発光溶液10bとしては、下記の化学式で示すように、ルテニウム錯体(Ru(bpy)3 2+)とペルオキソ二硫酸イオン(S2O8 2−)を含む混合溶液を適用することができる。
また、検出電極3bの他端で発光物質を「還元」させて発光させる電気化学発光溶液10bとしては、下記の化学式で示される溶液を適用してもよい。
以上の構成であっても、上述した第1実施形態と同様の効果を得ることができるとともに、サンプル溶液10a内で酸化する検出対象分子であっても、電気化学発光溶液10bの発光を基にサンプル溶液10a内の検出対象分子を確認できる。
(3)第2実施形態
(3−1)第2実施形態の電気化学センサの構成
次に、自己誘発レドックスサイクルを発現可能な第2実施形態の電気化学センサについて以下説明する。第2実施形態の電気化学センサは、図5に示した第1実施形態の電気化学センサ1と基本的構成は同じであり、図16に示すような酸化用電極17aが設けられている点で相違している。
なお、図16に示す電気化学センサ16は、上述した第1実施形態と異なる酸化用電極17aに着目したものであり、第1実施形態と同じであるサンプル溶液保持部2や電気化学発光溶液保持部4、光学顕微鏡5、撮像部6、画像処理部7、駆動電極8a,8b及び参照電極8cの各構成については省略している。
第2実施形態の電気化学センサ16は、電極形成板3の各検出電極3bの一端と対向するようにサンプル溶液10a内に酸化用電極17aが配置されている。本実施形態の場合、酸化用電極17aは、ガラス基板18の表面に板状に形成されており、当該ガラス基板18によってサンプル溶液10a内に支持されている。酸化用電極17aは、例えば白金等の導電性部材により形成されている。また、酸化用電極17aは、電源等には接続されていないフローティング電極であってもよく、電源に接続して電位を印加してもよく、駆動電極8aと兼用であってもよい。
このような構成を有する電気化学センサ16では、駆動電極8b及び対極8aに電位が印加され、検出電極3bの一端でサンプル溶液10a内で検出対象分子が還元されると、還元された検出対象分子が、当該検出電極3bと対向配置された酸化用電極17aで酸化される。また、酸化用電極17aで酸化されたサンプル溶液10a内の検出対象分子は、再び、検出電極3bの一端で還元される。
このようにして、電気化学センサ16では、サンプル溶液10a内の検出対象分子が還元と酸化とを繰り返す自己誘発レドックスサイクルを発現させることができる。検出対象分子が還元と酸化とを繰り返す自己誘発レドックスサイクルを発現した領域ER2では、検出電極3bの一端で検出対象分子が繰り返し還元されるため、その分、酸化用電極17aを設けなかった領域ER3に比して、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10bの酸化が進み発光L1の強度が増強される。
なお、図16に示す電気化学センサ16では、酸化用電極17aが検出電極3bと対向配置されている領域ER2と、酸化用電極17aが検出電極3bと対向配置されていない領域ER3と、を比較するために、電極形成板3の一部の検出電極3bにのみ酸化用電極17aを対向させているが、電極形成板3の検出電極3bがアレイ状に配置されたセンサエリア全てに対向するように酸化用電極17aを設けることが望ましい。
(3−2)検証試験
次に、酸化用電極17aを設けることで、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10bの発光強度が増強されるか否かを確認する検証試験を行った。この検証試験に用いる電気化学センサ及び電気化学発光溶液10bは、上述した「(2−4)解析部による定量性評価」の検証試験と同じものを用いた。サンプル溶液10aは、フェリシアン化カリウムの濃度を5.0mMとしたサンプル溶液10aを用いた。
そして、図17Aに示すように、所定の大きさでなる板状のガラス基板18を用意し、ガラス基板18の半分の領域に、スパッタによって白金(Pt)を成膜し、酸化用電極17aを形成した。
次いで、図17Bに示すように、検出電極3bがアレイ状に配置された電極形成板3のセンサエリアと、サンプル溶液10a内で対向するように、酸化用電極17aを有するガラス基板18をサンプル溶液保持部2に設置した。この際、検出電極3bがアレイ状に配置された電極形成板3のセンサエリアの半分だけが酸化用電極17aと対向するようにし、当該センサエリアの残りの半分の領域はガラス基板18のみが対向するようにした。
次いで、駆動電極8bに−1.1Vの検出電位を印加し、撮像部6として設けたCCDカメラによって、検出電極3bの他端で生じる電気化学発光溶液10bの発光L1を撮像した。その結果、図17Cのような撮像画像が得られた。
図17Cから、ガラス基板18のみを対向させた領域に比べて、酸化用電極17aを対向させた領域の方が、発光L1を示す白色の輝度が大きくなっており、酸化用電極17aを設けることで発光強度が増強することが確認できた。
(3−3)作用及び効果
以上の構成において、第2実施形態による電気化学センサでも、上述した第1実施形態と同様に、各検出電極3bにリード線を設けなくても、電気化学発光溶液10bの発光を基にサンプル溶液10a内の検出対象分子を確認できるので、リード線が不要となる分、検出電極3bを高密度で配置させることができる。よって、第2実施形態の電気化学センサでも、検出電極3bを高密度で配置できる分だけ、高解像の解析データを得ることができ、従来よりも一段と正確に検出対象分子の解析を行うことができる。
また、第2実施形態の電気化学センサでは、サンプル溶液10a内の検出対象分子が還元と酸化とを繰り返す自己誘発レドックスサイクルを発現させることができるので、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10b内の発光物質の酸化が進み、電気化学発光溶液10b内の発光強度を増強させることができる。さらに、駆動電極8bに印加する電位を下げた場合でも、自己誘発レドックスサイクルの発現により、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10bを発光させることができる。
(3−4)サンプル溶液内に還元用電極を設け、かつ発光物質が還元により発光する電気化学発光溶液を用いた場合
上述した実施形態においては、検出電極3bの一端でサンプル溶液10a内の検出対象分子が「還元」されることによって、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10b内の発光物質を「酸化」させて発光させる電気化学センサに対して、サンプル溶液10a内に酸化用電極17aを設けた場合について述べたが、本発明はこれに限らない。
例えば、検出電極3bの一端でサンプル溶液10a内の検出対象分子が「酸化」されることによって、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10b内の発光物質を「還元」させて発光させる電気化学センサに対して、サンプル溶液10a内に還元用電極を設けても、上記と同様の効果を得ることができる。
この場合、還元用電極は、図16に示した酸化用電極17aと同一の構成となるものの、使用するサンプル溶液10a及び電気化学発光溶液10bが異なるものとなる。なお、還元用電極は、図16に示した酸化用電極17aと同一の構成となるため、ここではその説明は省略する。
検出電極3bの一端で検出対象分子が「酸化」されるサンプル溶液10aを用い、検出電極3bの他端で発光物質を「還元」させて発光させる電気化学発光溶液10bを用いることで、サンプル溶液10a内の還元用電極により、サンプル溶液10a内の検出対象分子が還元と酸化とを繰り返す自己誘発レドックスサイクルを発現させることができ、上記と同様の効果を得ることができる。
(3−5)電気化学発光溶液内に還元用電極を設けた他の実施形態
(3−5−1)電気化学発光溶液内に還元用電極を設けた構成
上述した第2実施形態においては、サンプル溶液保持部2に、サンプル溶液10a内で検出電極3bとの間で自己誘発レドックスサイクルを発現させる酸化用電極17aを設け、検出電極3bの他端で発生する電気化学発光溶液10b内の発光物質の発光強度を増強させた場合について述べたが、本発明はこれに限らない。
例えば、電気化学発光溶液保持部4に、電気化学発光溶液10b内で検出電極3bとの間で自己誘発レドックスサイクルを発現させる還元用電極を設けるようにしてもよい。このような構成であっても、上述した第2実施形態と同様に、検出電極3bの一端で検出対象分子が還元されることで、検出電極3bの他端で発生する電気化学発光溶液10b内の発光物質の発光強度を増強させることができる。
図18は、電気化学発光溶液10b内で検出電極3bとの間で自己誘発レドックスサイクルを発現させる還元用電極17bを設けた電気化学センサの一例を示す。この場合、上述した第1実施形態の電気化学センサ1と基本的構成は同じであり、図18に示すような還元用電極17bが設けられている点のみが相違しているため、ここでは、サンプル溶液保持部2や電気化学発光溶液保持部4、光学顕微鏡5、撮像部6、画像処理部7、駆動電極8a,8b及び参照電極8cの各構成については省略している。
この場合、還元用電極17bは、ITO(Tndium Tin Oxide)等の透明導電性部材により板状に形成されており、電極形成板3の検出電極3bの他端に対向するように、電気化学発光溶液保持部4(図示せず)の透明基板4d上に形成される。還元用電極17bは、電源等には接続されていないフローティング電極であってもよく、電源に接続して電位を印加してもよく、駆動電極8bと兼用であってもよい。
還元用電極17bが設けられた電気化学センサでも、駆動電極8bに電位が印加され、検出電極3bの一端でサンプル溶液10a内の検出対象分子が還元され、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10b内の発光物質が酸化されると発光する。この際、還元用電極17bは、検出電極3bの他端で酸化された電気化学発光溶液10b内の発光物質を還元する。これにより、還元用電極17bで還元された電気化学発光溶液10bは、再び、検出電極3bの他端で発光物質が酸化されて発光する。
このようにして、還元用電極17bを設けた電気化学センサでは、電気化学発光溶液10b内で酸化と還元とを繰り返す自己誘発レドックスサイクルを発現させることができ、上述した第2実施形態と同様に、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10b内の発光物質の酸化と還元とが繰り返され、その分、発光L1の強度が増強する。
また、還元用電極17bは透明導電性部材により形成されていることから、透明基板4dの下側から各検出電極3bの他端を撮像部6により撮像する際、透明基板4d上に還元用電極17bを設けても、各検出電極3bの他端を撮像することができる。
(3−5−2)電気化学発光溶液内の発光物質による発光の正しい解析手法
ここで、図18に示すように、検出電極3bがアレイ状に配置された電極形成板3のセンサエリア内で発生する電気化学発光溶液10b内の発光物質の発光を、撮像部6によって局所的に観察するためには、光学顕微鏡5(図5)により拡大率を上げる必要がある。そのため、電極形成板3と、光学顕微鏡5の対物レンズ5aとの距離を極力小さくすることが望ましい。
よって、図18に示すように、還元用電極17bを設けた構成でも、電極形成板3と還元用電極17bとの距離H1を小さく選定することが望ましい。ここで、電極形成板3と還元用電極17bとの距離H1を小さくすると、その分、電極形成板3と還元用電極17bとの間にある電気化学発光溶液10b内の発光物質の存在領域が小さくなる。
ここで、サンプル溶液10a内の検出対象分子を電気化学発光溶液10bの発光L1によって正しく解析するためには、検出電極3bの一端でサンプル溶液10a内の還元反応が律速になる必要がある。しかしながら、このように電気化学発光溶液10bの存在領域が小さくなると、電気化学発光溶液10b内において検出電極3bの他端に拡散する発光物質が不足してしまい、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10b内の発光物質の酸化反応が律速になる恐れがある。この場合、サンプル溶液10a内の検出対象分子を電気化学発光溶液10bの発光によって正しく解析することが難しい。
この点、図18に示した、還元用電極17bを設けた構成では、電極形成板3と還元用電極17bとの距離H1を小さくし、電気化学発光溶液10bを極薄層としても、電極形成板3と還元用電極17bとの距離H1を小さくした分だけ効率的に自己誘発レドックスサイクルを発現させることができる。このため、還元用電極17bを設けた構成では、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10b内の酸化反応が律速にならずに、サンプル溶液10a内の検出対象分子を、電気化学発光溶液10bの発光L1によって正しく解析することができる。
なお、図19に示すように、還元用電極17bを設けない構成とした場合には、電気化学発光溶液10b内において検出電極3bの他端に拡散する発光物質が不足してしまうことを抑制するために、例えば、所定方向A1に新たな電気化学発光溶液10bを供給することが望ましい。これにより、電極形成板3と透明基板4dとの距離H2を小さくし、電気化学発光溶液10bを極薄層としても、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10b内の酸化反応が律速にならずに、サンプル溶液10a内の検出対象分子を、電気化学発光溶液10bの発光L1によって正しく解析することができる。
以上のように、還元用電極17bを設けた電気化学センサでは、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10b内の発光物質の酸化と還元とを繰り返す自己誘発レドックスサイクルを発現させることができるので、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10b内の発光物質の酸化が進み、電気化学発光溶液10b内の発光強度を大きくさせることができる。
(3−5−3)電気化学発光溶液内に酸化用電極を設け、かつ発光物質が還元により発光する電気化学発光溶液を用いた場合
上述した実施形態においては、検出電極3bの一端でサンプル溶液10a内の検出対象分子が「還元」されることによって、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10b内の発光物質を「酸化」させて発光させる電気化学センサに対して、電気化学発光溶液10b内に還元用電極17bを設けた場合について述べたが、本発明はこれに限らない。
例えば、検出電極3bの一端でサンプル溶液10a内の検出対象分子が「酸化」されることによって、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10b内の発光物質を「還元」させて発光させる電気化学センサに、電気化学発光溶液10b内に酸化用電極を設けても、上記と同様の効果を得ることができる。
この場合、酸化用電極は、図18に示した還元用電極17bと同一の構成となるものの、使用するサンプル溶液10a及び電気化学発光溶液10bが異なるものとなる。なお、酸化用電極は、図18に示した還元用電極17bと同一の構成となるため、ここではその説明は省略する。
ここでは、検出電極3bの一端で検出対象分子が「酸化」されるサンプル溶液10aを用い、検出電極3bの他端で発光物質を「還元」させて発光させる電気化学発光溶液10bを用いることで、電気化学発光溶液10b内の酸化用電極により、電気化学発光溶液10b内の発光物質が還元と酸化とを繰り返す自己誘発レドックスサイクルを発現させることができ、上記と同様の効果を得ることができる。
なお、第2実施形態では、サンプル溶液10a内に酸化用電極17a(還元用電極)を設けるか、又は、電気化学発光溶液10b内に還元用電極17b(酸化用電極)を設け、いずれか一方のみを設けた電気化学センサについて説明したが、本発明はこれに限らず、酸化用電極17a及び還元用電極17b(還元用電極及び酸化用電極)の両方を設けた電気化学センサとしてもよい。
(4)第3実施形態
(4−1)発光物質が酸化により発光する電気化学発光溶液を用いた場合
次に、サンプル溶液内に含まれる測定物質から、酸化反応により検出対象分子を得る場合について以下説明する。図20に示す第3実施形態の電気化学センサは、図5に示した第1実施形態の電気化学センサ1と基本的構成は同じであり、図20に示すような酸化用電極20が設けられている点で相違している。
なお、図20は、上述した第1実施形態と異なる酸化用電極20に着目したものであり、第1実施形態と同じであるサンプル溶液保持部2や電気化学発光溶液保持部4、光学顕微鏡5、撮像部6、画像処理部7、駆動電極8a,8b及び参照電極8cの各構成については省略している。
第3実施形態の電気化学センサは、電極形成板3の各検出電極3bの一端と対向するようにサンプル溶液10a内に酸化用電極20が配置されている。本実施形態の場合、酸化用電極20は、板状に形成されており、サンプル溶液保持部2(図示せず)によりサンプル溶液10a内に支持されている。酸化用電極20は、例えば白金等の導電性部材により形成されている。また、酸化用電極20は、電源等には接続されていないフローティング電極であってもよく、電源に接続して電位を印加してもよく、駆動電極8aと兼用であってもよい。
サンプル溶液10aには、酸化反応に基づいて検出対象分子が得られる測定物質が含まれている。第3実施形態では、測定物質としては、例えば、アルカリフォスファターゼ(ALP)を適用することができる。なお、その他の測定物質として、ドーパミンを適用してもよい。
第3実施形態の電気化学センサでは、サンプル溶液10a内の測定物質を検出する際、駆動電極8a,8b(図5)間に電位が印加される。これにより、サンプル溶液10a内では、酸化用電極20により酸化反応が起こり、測定物質に基づいて検出対象分子が生成される。
酸化用電極20による酸化によって得られた、サンプル溶液10a内の検出対象分子は、酸化用電極20と対向する検出電極3bの一端で還元される。このように、第3実施形態の電気化学センサでは、酸化用電極20を設けることで、サンプル溶液10a内の測定物質が、酸化反応により検出される分子であっても、酸化用電極20を設けることで、酸化反応により検出対象分子を得られ、検出電極3bの一端でサンプル溶液10a内で検出対象分子を還元されることができる。よって、上述した第1実施形態等と同様に、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10b内の発光物質を酸化させて発光させることができる。
ここで、図21は、サンプル溶液10a内の測定物質として、アルカリフォスファターゼ(ALP)を適用した際に、サンプル溶液10a内で発生する酸化還元反応を示した概略図である。この場合、サンプル溶液10aでは、パラアミノフェニルリン酸を基質とし、ALPにより生成されるパラアミノフェノール(pAP)を、酸化用電極20によって、一旦酸化してキノンイミン(QI)を生成させる。次いで、検出電極3bの一端でQIを還元することにより、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10b内の発光物質を酸化させて発光させることができる。
なお、第3実施形態の電気化学センサでは、酸化用電極20でサンプル溶液10a内の測定物質を効率的に酸化させるために、電極形成板3の検出電極3bがアレイ状に配置されたセンサエリア全てに対向するように酸化用電極20を設けることが望ましい。
以上の構成において、第3実施形態による電気化学センサでも、上述した第1実施形態と同様に、各検出電極3bにリード線を設けなくても、電気化学発光溶液10bの発光を基にサンプル溶液10a内の測定物質を確認できるので、リード線が不要となる分、検出電極3bを高密度で配置させることができる。よって、第2実施形態の電気化学センサでも、検出電極3bを高密度で配置できる分だけ、高解像の解析データを得ることができ、従来よりも一段と正確に検出対象分子の解析を行うことができる。
(4−2)発光物質が還元により発光する電気化学発光溶液を用いた場合
上述した実施形態においては、サンプル溶液10a内に含まれる測定物質から、酸化用電極20による酸化反応により検出対象分子を得、検出電極3bの一端でサンプル溶液10a内の検出対象分子が「還元」されることによって、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10b内の発光物質を「酸化」させて発光させる電気化学センサについて述べたが、本発明はこれに限らない。
例えば、サンプル溶液10a内に還元用電極を設け、サンプル溶液10a内に含まれる測定物質から、還元用電極による還元反応により検出対象分子を得、検出電極3bの一端でサンプル溶液10a内の検出対象分子が「酸化」されることによって、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10b内の発光物質を「還元」させて発光させる電気化学センサであってもよい。
この場合、還元用電極は、図20に示した酸化用電極20と同一の構成となるものの、使用するサンプル溶液10a及び電気化学発光溶液10bが異なり、サンプル溶液10a内で還元反応を起こさせるものである。なお、還元用電極は、図20に示した酸化用電極20と同一の構成となるため、ここではその説明は省略する。
この実施形態により、検出電極3bの他端で発光物質を「還元」させて発光させる電気化学発光溶液10b(例えば上記の化3等)を用いても、サンプル溶液10a内に還元用電極を設けることで、還元反応に基づいて検出対象分子が得られるサンプル溶液10aの測定物質について、上記と同様に、電気化学発光溶液10b内の発光物質の発光を基に検出することができる。
なお、第3実施形態の電気化学センサでも、上述した第2実施形態の還元用電極17b(酸化用電極)を電気化学発光溶液10b内に設けることで、電気化学発光溶液10b内で酸化と還元とを繰り返す自己誘発レドックスサイクルを発現させるようにしてもよい。また、第3実施形態の電気化学センサでも、上述した第2実施形態の酸化用電極17a(還元用電極)をサンプル溶液10a内に設けることで、サンプル溶液10a内で酸化と還元とを繰り返す自己誘発レドックスサイクルを発現させるようにしてもよい。この場合、電気化学発光溶液10b内の発光L1を増強できる。
(5)第4実施形態
(5−1)第4実施形態の電気化学センサの概要
次に、本発明の電気化学センサを利用して、サンプル溶液10a内における、グルコースやグルタミン酸、尿酸、ピルビン酸、アミノ酸、アルコール、コレステロール、マルトース等の測定物質を検出可能な第4実施形態について以下説明する。
図22は、第4実施形態の電気化学センサの概要を説明するための概略図である。第4実施形態では、図5に示した第1実施形態の電気化学センサ1と基本的構成は同じであるが、上記の測定物質と酸素との反応を触媒し、過酸化水素を発生させるオキシダーゼを設ける点で相違する。
第4実施形態では、サンプル溶液10a内において、オキシダーゼにより測定物質を酸化させて酸化体とし、この酸化反応によって過酸化水素を発生させる。これにより、検出電極3bでは、一端でサンプル溶液10a内の過酸化水素が還元され、これに応じて他端で電気化学発光溶液10bが酸化し、この酸化反応により電気化学発光溶液10bを発光させることができる。
(5−2)第4実施形態の電気化学センサの構成
次に、このように、オキシダーゼを利用して測定物質を検出する電気化学センサの構成について以下説明する。図23は、第4実施形態の電気化学センサ22を示しており、図5に示した第1実施形態の電気化学センサ1とは、検出対象分子ではない測定対象が含まれたサンプル溶液10aを使用する点と、グルタミン酸反応酵素層24a及び乳酸反応酵素層24bをサンプル溶液10a内に設けている点とで相違する。
なお、サンプル溶液保持部2や電気化学発光溶液保持部4、図示しない光学顕微鏡5、画像処理部7等の各構成については、図5に示した第1実施形態の電気化学センサ1と同じであるため、ここではその説明は省略する。
第4実施形態の電気化学センサ22は、サンプル溶液10a内の測定物質として、例えばグルタミン酸及び乳酸を適用する場合を例として説明する。この場合、サンプル溶液10aには、グルタミン酸溶液及び乳酸溶液が含まれる。
電極形成板3には、サンプル溶液10aと接する一方の面に、層状のグルタミン酸反応酵素層24a及び乳酸反応酵素層24bが設けられている。これらグルタミン酸反応酵素層24a及び乳酸反応酵素層24bは、図24に示すように、電極形成板3にアレイ状に設けられており、同じくアレイ状に配置された検出電極3b(図示せず)の一端をそれぞれ覆うように形成されている。
本実施形態では、グルタミン酸反応酵素層24aと、乳酸反応酵素層24bとが交互に配置された列が並走するように規則的に並んでいる。なお、図23に示す電極形成板3の断面は、図24の電極形成板3のD−D部分の側断面の一部を示すものである。本実施形態の場合、グルタミン酸反応酵素層24a及び乳酸反応酵素層24bは、円盤状に形成されており、図23に示すように、幅W1及び厚さが同じに選定されている。
グルタミン酸反応酵素層24aは、例えばグルタミン酸と酸化反応して過酸化水素を生成するグルタミン酸オキシダーゼ等により形成されている。このグルタミン酸反応酵素層24aは、駆動電極8a,8b間に電位が印加された際に、サンプル溶液10aにグルタミン酸が含まれていると、当該グルタミン酸とグルタミン酸オキシダーゼとが酸化反応して過酸化水素を生成する。
これにより、グルタミン酸反応酵素層24aが一端に配置された検出電極3bは、グルタミン酸反応酵素層24aで生成された過酸化水素を一端で還元し、この還元反応によって他端で電気化学発光溶液10b内の発光物質を酸化させて発光させることができる。かくして、グルタミン酸反応酵素層24aが設けられた検出電極3bは、グルタミン酸検出用の電極として機能する。
一方、乳酸反応酵素層24bは、例えば乳酸と酸化反応して過酸化水素を生成する乳酸オキシダーゼ等により形成されている。この乳酸反応酵素層24bは、駆動電極8a,8b間に電位が印加された際に、サンプル溶液10aに乳酸が含まれていると、当該乳酸と乳酸オキシダーゼとが酸化反応して過酸化水素を生成する。
これにより、乳酸反応酵素層24bが一端に配置された検出電極3bは、乳酸反応酵素層24bで生成された過酸化水素を一端で還元し、この還元反応によって他端で電気化学発光溶液10b内の発光物質を酸化させて発光させることができる。かくして、乳酸反応酵素層24bが設けられた検出電極3bは、乳酸検出用の電極として機能する。
以上の構成において、第4実施形態の電気化学センサ22は、検出電極3bの他端で生じる電気化学発光溶液10b内の発光物質の発光状況を撮像部6により撮像し、得られた撮像画像から発光強度を確認することで、サンプル溶液10a内に含まれている測定物質であるグルタミン酸及び乳酸を検出することができる。
なお、第4実施形態の電気化学センサ22では、撮像画像内でのグルタミン酸反応酵素層24a及び乳酸反応酵素層24bの各位置を画像処理部7に予め記憶しており、例えば、撮像画像に撮像された電気化学発光溶液10bの発光位置と、撮像画像内のグルタミン酸反応酵素層24a及び乳酸反応酵素層24bの位置とを比較する。
これにより、電気化学センサ22では、撮像画像に撮像された電気化学発光溶液10bの発光位置から、サンプル溶液10a内に含まれるグルタミン酸及び乳酸を、区別して同時に検出することができる。
また、第4実施形態の電気化学センサ22でも、上述した「(2−4)解析部による定量性評価」と同様に、解析部7aによって、電気化学発光溶液10bにおける発光強度を基に、サンプル溶液10a内における測定物質(この場合、グルタミン酸及び乳酸)の濃度の定量性評価を行うことができる。
具体的には、電気化学センサ22を用いて、サンプル溶液10a内の測定物質の濃度と、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10b内の発光物質が発光する発光強度との関係を予め調べておき、測定物質の濃度と発光強度との関係を示す検量線を作製する。
解析部7aは、測定物質の濃度と発光強度との関係を表した検量線を予め記憶する。解析部7aは、撮像部6により取得した撮像画像を受け取ると、画像処理ソフトを用いて撮像画像から発光強度を算出し、検量線に基づいてサンプル溶液10a内の測定物質の濃度を特定することができる。以上のような構成とすることで、第4実施形態の電気化学センサ22でも、撮像部6により取得した撮像画像に基づいてサンプル溶液10a内の測定物質の濃度を自動的に特定することができる。
さらに、第4実施形態の電気化学センサ22でも、上述した「(2−5)提示部による拡散イメージの提示」と同様に、提示部7bによって、電気化学発光溶液10bにおける発光箇所の変化を基に、サンプル溶液10a内における測定物質(この場合、グルタミン酸及び乳酸)の拡散イメージを提示することができる。
提示部7bは、撮像部6で時系列順に取得した撮像画像を、表示部に順次表示させる。これにより、電気化学センサ22でも、サンプル溶液10a内における測定物質の拡散イメージを、電気化学センサ22の使用者に対して目視確認させることができる。
(5−3)酵素層の製造方法
グルタミン酸反応酵素層24a及び乳酸反応酵素層24bは、次のような手順により製造することができる。例えば、グルタミン酸オキシダーゼを含む酵素溶液と、乳酸オキシダーゼを含む酵素溶液とを作製し、ナノインジェクションプリンタを使用して、これらを電極形成板3の表面にアレイ状に滴下してゆく。そして、電極形成板3の表面にアレイ状に滴下した酵素溶液を乾燥させ、電極形成板3の表面に吸着固化させることでグルタミン酸反応酵素層24a及び乳酸反応酵素層24bを形成できる。
より具体的には、リン酸緩衝液で1mg/mLに調製したグルタミン酸オキシダーゼまたは乳酸オキシダーゼと、5mg/mウシ血清アルブミンと1.25wt%グルタルアルデヒドを等量ずつ混合した酵素溶液をナノインジェクションプリンタのインクとして使用することにより、グルタミン酸反応酵素層24a及び乳酸反応酵素層24bを形成できる。
(5−4)作用及び効果
以上の構成において、第4実施形態による電気化学センサ22でも、上述した第1実施形態と同様に、各検出電極3bにリード線を設けなくても、電気化学発光溶液10bの発光を基にサンプル溶液10a内の過酸化水素を確認できるので、リード線が不要となる分、検出電極3bを高密度で配置させることができる。
また、これに加えて、第4実施形態の電気化学センサ22では、サンプル溶液10a内に測定物質(この場合、グルタミン酸及び乳酸)と酸化反応して過酸化水素を生成するグルタミン酸反応酵素層24a及び乳酸反応酵素層24bを設けるようにした。従って、第4実施形態の電気化学センサ22では、サンプル溶液10a内の測定物質がグルタミン酸反応酵素層24a及び乳酸反応酵素層24bのオキシダーゼにより酸化され、この酸化反応によって過酸化水素を発生させることができる。これにより、検出電極3bの一端でサンプル溶液10a内の過酸化水素が還元されることで、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10b内の発光物質が酸化し、この酸化反応により電気化学発光溶液10b内の発光物質を発光させることができる。
よって、第4実施形態の電気化学センサ22では、サンプル溶液10a内の測定物質を検出する際、検出電極3bを高密度で配置できる分だけ、高解像の解析データを得ることができ、従来よりも一段と正確に過酸化水素(検出対象分子)の解析を行え、これを基に測定物質の解析をも行うことができる。
(5−5)他の実施形態
(5−5−1)その他の酵素層について
なお、上述した第4実施形態においては、サンプル溶液10a内のグルタミン酸及び乳酸を検出可能な電気化学センサ22について説明したが、本発明はこれに限らず、上述したように、グルコースや尿酸、ピルビン酸、アミノ酸、アルコール、コレステロール、マルトース等の測定物質を検出する電気化学センサとしてもよい。この場合、測定物質毎に、測定物質と酸化反応して過酸化水素を生成する下記の表1の酵素を含む酵素層を設ければよい。
なお、グルコースオキシダーゼ(GOx)を含む酵素層を形成する場合には、下記の手順により製造することができる。先ず、グルコースオキシダーゼ溶液とウシ血清アルブミン(BSA)水溶液とを混合した後、グルタルアルデヒド(GA)溶液を混合して混合溶液を作製する。
作製した混合溶液を、ナノインクジェットプリンタにより電極形成板3上に滴下してゆき、一晩自然乾燥させる。これにより、グルタルアルデヒド(GA)がグルコースオキシダーゼ(GOx)のアミノ基とウシ血清アルブミン(BSA)のアミノ基を架橋し、ウシ血清アルブミン(BSA)と電極形成板3との疎水性相互作用で吸着固定し、これにより電極形成板3上に酵素層を形成することができる。
(5−5−2)電子伝達メディエータ層を設けた構成
上述した第4実施形態においては、電極形成板3の上にグルタミン酸反応酵素層24a及び乳酸反応酵素層24bを直接形成した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、図25及び図26に示すように、電極形成板3と酵素層24との間に、電子伝達メディエータ層25a,25bを設けるようにしてもよい。
図25は、HRP配置−Osポリマーフィルム(BAS株式会社製)を、電子伝達メディエータ層25aとして設けた例である。このような電子伝達メディエータ層25aを設けることで、酵素層24から検出電極3bへの電子移動を電子伝達メディエータ層25aが仲介し、酵素層24から検出電極3bへの電子移動を促進することができる。
また、図26は、プルシアンブル−により形成されたプルシアンブル−層を、電子伝達メディエータ層25bとして設けた例である。このような電子伝達メディエータ層25bを設けても、酵素層24から検出電極3bへの電子移動を電子伝達メディエータ層25bが仲介し、酵素層24から検出電極3bへの電子移動を促進することができる。
(5−5−3)酵素層の構成に関する他の実施形態
なお、上述した第4実施形態においては、異なる種類の酵素で形成したグルタミン酸反応酵素層24a及び乳酸反応酵素層24bを設けた場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば、図27に示すように、一方のグルタミン酸反応酵素層24aのみを電極形成板3上に形成するようにしてもよい。また、乳酸反応酵素層24bのみを電極形成板3上に形成するようにしてもよく、さらに、3種以上の酵素層を電極形成板3上に形成するようにしてもよい。
また、上述した実施形態においては、グルタミン酸反応酵素層24a及び乳酸反応酵素層24bを電極形成板3の一方の面上に形成してサンプル溶液10a内に浸漬させるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らない。例えば、図28に示すように、電極形成板3の表面には形成せずに、電極形成板3から所定距離離れた位置に酵素層24を配置するようにしてもよい。
この場合、ガラス等でなる支持基板27の表面に酵素層24を形成する。支持基板27は、電極形成板3の一方の面から所定距離離れた位置に酵素層24が配置されるように、図示しないサンプル溶液保持部2に設けられる。これにより、酵素層24をサンプル溶液10aに浸漬させ、上述した第4実施形態と同様の効果を得ることができる。
(5−5−4)酵素層を設けた電気化学センサにおいて、発光物質が還元により発光する電気化学発光溶液を用いた場合
上述した第4実施形態においては、検出電極3bの一端でサンプル溶液10a内の検出対象分子が「還元」されることによって、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10b内の発光物質を「酸化」させて発光させる電気化学センサ22に対して、サンプル溶液10a内に酵素層を設けて、測定物質を検出する場合ついて述べたが、本発明はこれに限らない。
例えば、検出電極3bの一端でサンプル溶液10a内の検出対象分子が「酸化」されることによって、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10b内の発光物質を「還元」させて発光させる電気化学センサに対して、サンプル溶液10a内に酵素層を設けて、測定物質を検出するようにしてもよい。
この場合、電気化学センサの構成は、図23、図27、図28等に示した、上述の電気化学センサと同じ構成になるものの、使用する電気化学発光溶液10bのみが異なるものとなる。検出電極3bの他端で発光物質を「還元」させて発光させる電気化学発光溶液10bとしては、上記の化3〜化7の化学式で示される溶液を適用することができる。
このように、発光物質を「還元」させて発光させる電気化学発光溶液10bを用いた場合には、酵素層(例えば、グルタミン酸反応酵素層24a及び乳酸反応酵素層24b)によりサンプル溶液10a内で発生する過酸化水素を、還元検出するのではなく、酸化検出することになる。サンプル溶液10a内に発生する、この過酸化水素が検出電極3bの一端で酸化されることによって、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10b内の発光物質を「還元」させて発光させることになる。このような構成であっても、上述した第4実施形態と同様の効果を得ることができる。
(6)検出電極の他の実施形態
上述した第1実施形態から第4実施形態においては、検出電極として、サンプル溶液10aに接する一端と、電気化学発光溶液10bに接する他端とが同じ直径に選定された円柱状の検出電極3bを設けるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らない。例えば、サンプル溶液10aに接する一端の面積を、電気化学発光溶液10bに接する他端の面積よりも小さくした柱状の検出電極であってもよい。
例えば、図29Aに示すように、サンプル溶液10aに接する一端に球状の電極部30を設け、電極部30によりサンプル溶液10aに接する面積を大きくした検出電極3bを適用してもよい。このような電極部30を一端に有した検出電極3bがアレイ状に配置された電極形成板29では、電極部30により検出電極3bがサンプル溶液10aと接する面積を増大させることができる。これにより、検出電極3bの電極部30でサンプル溶液10a内の検出対象分子の還元反応が促進し、その分、検出電極3bの他端で電気化学発光溶液10b内の発光物質の酸化が進み発光強度を増強させることができる。
なお、上述した第4実施形態における酵素層は平板状に形成する必要はないため、球状の電極部30を検出電極3bの一端に設けた場合には、当該電極部30上に酵素層を形成すればよい。
また、その他の検出電極としては、図29Bに示すように、円錐状の検出電極32を設け、検出電極32の平面を一端としてサンプル溶液10aに接するように設け、検出電極32の頂点を他端として電気化学発光溶液10bに接するように設けるようにしてもよい。
さらに、その他の検出電極としては、円柱状の検出電極3bの一端を基板3aの表面から突出させてサンプル溶液10a内に露出させたり、或いは、段差を設けた円錐状や円柱状の検出電極等を設けたりして、検出電極の一端でサンプル溶液10aとの接触面性を増大できれば種々の形状でなる検出電極を適用してもよい。
また、上述した第1実施形態から第4実施形態においては、円柱状の検出電極3bの軸方向が互いに平行に並ぶように各検出電極3bを配置させた電極形成板3について説明したが、本発明はこれに限らない。例えば、図30に示すように、基板3aの所定位置を中心Cにして、検出電極35の軸方向がサンプル溶液保持部のサンプル溶液10aから電気化学発光溶液保持部の電気化学発光溶液10bに向かって末広がりに延びている電極形成板34を適用してもよい。
この場合、例えば、中心Cに位置する検出電極35は、サンプル溶液10aから電気化学発光溶液10bに垂直に向かう方向に軸方向が選定され、中心Cから遠ざかるに従って、検出電極35の他端35bが一端35aよりも中心Cから遠ざかる位置に形成される。
ここで、図31は、第1実施形態等で適用した、軸方向が平行に並んだ検出電極3bと、中心Cを基準に、サンプル溶液10aから電気化学発光溶液10bに向かって軸方向が末広がりに延びている検出電極35とを比較した概略図である。
軸方向が平行に並んだ検出電極3bでは、サンプル溶液10a内の検出対象分子を緻密に検出するために一端の間隔を小さくすると、他端でも間隔が小さくなる。その結果、検出電極3bの他端で生じる電気化学発光溶液10bの発光L1が重なってしまい、撮像部6により解像度が高い撮像画像が得られ難い場合もある。
これに対して、中心Cを基準に、サンプル溶液10aから電気化学発光溶液10bに向かって軸方向が末広がりに延びている検出電極35では、検出電極35の一端35aの間隔を小さくしても、他端35bの間隔を広げることができる。よって、検出電極35の他端35bで生じる電気化学発光溶液10bの発光L1が重ならずに、撮像部6により解像度が高い撮像画像を得ることができる。これにより、回折限界を超えた分解能でのイメージングが可能になる。
なお、このような他端35bが放射状に広がった検出電極35は、下記の手順により製造することができる。図32に示すように、金属部材によって板状の土台35c上に、軸方向が所定の中心Cに向かう棒状の検出電極35を形成する。このような検出電極35は、土台35c上での金属成長により形成してもよく、また、ナノインクジェットプリンタを用いて形成してもよい。
その後、土台35c上に絶縁部材を流して検出電極35を絶縁部材内に埋没させた後、絶縁部材を固化させて基板3aを形成する。そして、土台35cが設けられた領域ER4を、平坦処理を行い、検出電極35の他端を基板3aから露出させる。これにより、検出電極35の一端35aの間隔よりも他端35bの間隔を大きくした、末広がりの検出電極35を有する電極形成板34を製造できる。
また、上述した第1実施形態から第4実施形態においては、駆動電極8a,8b及び参照電極8cを設けた構成を適用したが、本発明はこれに限らない。検出電極の一端でサンプル溶液10aの検出対象分子が還元される電位を発生できれば、駆動電極8a,8bのみを設ける等、種々の構成としてもよい。
なお、上述した第1実施形態から第4実施形態については、それぞれ他の実施形態の構成を組み合わせた構成としてもよい。