JP6725057B2 - 電気泳動解析方法、電気泳動解析装置及び電気泳動解析プログラム - Google Patents
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Description
本発明は、電気泳動波形に対する波形解析によりRNA分子の品質を評価する電気泳動解析方法、電気泳動解析装置及び電気泳動解析プログラムに関するものである。
RNA(リボ核酸)の品質を評価する際に、電気泳動解析装置が用いられる場合がある。RNAは、酵素(RNase)、熱、紫外線などの各種要因によって分解され、劣化する。このRNAの劣化の程度は、RNAサンプルに対する電気泳動により得られた電気泳動波形(エレクトロフェログラム)の形状を解析することにより評価することが可能である。また、電気泳動波形に対する波形解析により得られたRNAの劣化情報は、遺伝子発現研究において重要なパラメータとして扱われる。
RNAの劣化情報として、RIN、RINe、RQS、RQI、RQN、RISなどの各種指標が提供されている。これらの劣化指標は、RNAサンプルから得られる電気泳動波形における特定の波形領域(時間範囲)を用いて算出される値であり、指標ごとに使用する波形領域が異なっている。
図8は、RNAサンプルから得られる電気泳動波形における各波形領域について説明するための図である。この図8に示すように、RNAサンプルから得られる電気泳動波形には、18Sフラグメントのピーク(18SピークP101)と、28Sフラグメントのピーク(28SピークP102)とが含まれている。上記のような各劣化指標は、いずれも18SピークP101及び28SピークP102を用いて算出されている。
劣化指標の一例であるRINは、例えばAgilent Technologies社により提供される2100BioAnalyzerにおいて用いられる劣化指標である。この劣化指標RINは、18Sピークを含む波形領域及び28Sピークを含む波形領域の他、5Sピークを含む波形領域などの他の波形領域も用いて算出される(例えば、下記特許文献1及び非特許文献1参照)。
劣化指標の別の例であるRQIは、例えばBio−Rad社により提供されるExperionにおいて用いられる劣化指標である。この劣化指標RQIは、18Sピークを含む波形領域及び28Sピークを含む波形領域の他、18Sピークの直前の波形領域も用いて算出される(例えば、下記特許文献2及び非特許文献2参照)。
劣化指標のさらに別の例であるRQSは、例えばPerkin Elmer社により提供されるLabChip GXにおいて用いられる劣化指標である。この劣化指標RQSは、18Sピーク及び28Sピークをベースとした4つの特徴量の線形結合によって劣化指標が算出される(例えば、下記非特許文献3参照)。
Andreas Schroeder 外9名、「The RIN: an RNA integrity number for assigning integrity values to RNA measurements」、[online]、2006年1月31日、BioMed Central、[2017年2月9日検索]、インターネット〈URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1413964/〉
Vladimir Denisov 外4名、「Development and validation of RQI: an RNA quality indicator for the Experion automated electrophoresis system」、[online]、2008年、Bio-Rad Laboratories, Inc.、[2017年2月9日検索]、インターネット〈URL:http://www.gene-quantification.com/Bio-Rad-bulletin-5761.pdf〉
「RNA Quality Score (RQS) Calculation and Correlation to RIN」、[online]、2009年11月9日、Caliper Life Sciences, Inc.、[2017年2月9日検索]、インターネット〈URL:https://rtsf.natsci.msu.edu/genomics/tech-notes/caliper-gx-rin-calculations/〉
上記のような従来から用いられている劣化指標は、18Sピーク及び28Sピークを用いて算出されるが、これらの18Sピーク及び28Sピークは、RNAの劣化に伴ってピーク強度が減少し、やがて消失するという特性がある。そのため、ある程度劣化したRNAの品質を評価する場合には、精度よく評価できないという問題がある。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、劣化したRNAであっても精度よく品質を評価することができる電気泳動解析方法、電気泳動解析装置及び電気泳動解析プログラムを提供することを目的とする。
本願発明者は、鋭意検討の結果、RNAの電気泳動波形における18Sピークよりも低分子側の領域(ファーストリージョン)に、RNAの劣化に伴って現れる劣化生成物ピークが存在し、この劣化生成物ピークがRNAの劣化とともに低分子側にシフトすることを見出した。より具体的には、劣化する前のRNAの電気泳動波形には、18Sピーク及び28Sピークが存在しているが、これらの18Sピーク及び28SピークはRNAの劣化に伴ってピーク強度が減少し、28Sピークが消失した後、18Sピークが消失する。そして、さらにRNAが劣化すると、劣化生成物ピークが現れ、RNAの劣化とともに低分子側にシフトし、やがて消失する。
(1)本発明に係る電気泳動解析方法は、電気泳動波形に対する波形解析によりRNAの品質を評価する電気泳動解析方法であって、電気泳動波形中の18Sピークよりも低分子側の領域にRNAの劣化に伴って現れる劣化生成物ピークの位置に応じた特徴量に基づいて、RNAの品質を評価する。
このような構成によれば、電気泳動波形中の劣化生成物ピークの位置に応じた特徴量に基づいて、劣化したRNAの品質を評価することができる。すなわち、劣化生成物ピークは、18Sピークが消失する程度までRNAが劣化した後、18Sピークよりも低分子側の領域にRNAの劣化に伴って現れ、RNAの劣化とともに低分子側にシフトするため、この劣化生成物ピークの位置に応じた特徴量に基づいて、劣化したRNAであっても精度よく品質を評価することができる。
(2)前記劣化生成物ピークの位置に応じた特徴量は、前記劣化生成物ピークのピークトップの位置を表す値であってもよい。
このような構成によれば、劣化生成物ピークのピークトップの位置を用いて、劣化生成物ピークの位置に応じた特徴量を的確に表すことができる。したがって、当該特徴量に基づいて、劣化したRNAであっても精度よく品質を評価することができる。
(3)前記劣化生成物ピークの位置に応じた特徴量は、前記劣化生成物ピークの面積を低分子側領域と高分子側領域に分割したときの面積比を表す値であってもよい。
このような構成によれば、劣化生成物ピークの面積を低分子側領域と高分子側領域に分割したときの面積比を用いて、劣化生成物ピークの位置に応じた特徴量を的確に表すことができる。したがって、当該特徴量に基づいて、劣化したRNAであっても精度よく品質を評価することができる。
(4)前記劣化生成物ピークの位置に応じた特徴量は、前記劣化生成物ピークの重心位置を表す値であってもよい。
このような構成によれば、劣化生成物ピークの重心位置を用いて、劣化生成物ピークの位置に応じた特徴量を的確に表すことができる。したがって、当該特徴量に基づいて、劣化したRNAであっても精度よく品質を評価することができる。
(5)前記劣化生成物ピークの位置に応じた特徴量と、18Sピーク又は28Sピークに基づく特徴量とを用いて、RNAの品質を評価してもよい。
このような構成によれば、RNAがある程度劣化するまでは、18Sピーク又は28Sピークに基づく特徴量を用いてRNAの品質を評価し、RNAがある程度劣化した後は、劣化生成物ピークの位置に応じた特徴量を用いてRNAの品質を評価することができる。したがって、RNAの劣化状態をより広い範囲にわたって評価することができる。
(6)本発明に係る電気泳動解析装置は、電気泳動波形に対する波形解析によりRNAの品質を評価する電気泳動解析装置であって、電気泳動波形中の18Sピークよりも低分子側の領域にRNAの劣化に伴って現れる劣化生成物ピークの位置に応じた特徴量に基づいて、RNAの品質を表す品質値を算出する品質値算出部を備える。
(7)本発明に係る電気泳動解析プログラムは、電気泳動波形に対する波形解析によりRNAの品質を評価する電気泳動解析プログラムであって、電気泳動波形中の18Sピークよりも低分子側の領域にRNAの劣化に伴って現れる劣化生成物ピークの位置に応じた特徴量に基づいて、RNAの品質を表す品質値を算出する品質値算出部としてコンピュータを機能させる。
本発明によれば、劣化生成物ピークは、18Sピークが消失する程度までRNAが劣化した後、18Sピークよりも低分子側の領域にRNAの劣化に伴って現れ、RNAの劣化とともに低分子側にシフトするため、この劣化生成物ピークの位置に応じた特徴量に基づいて、劣化したRNAであっても精度よく品質を評価することができる。
1.電気泳動解析装置の電気的構成
図1は、本発明の一実施形態に係る電気泳動解析装置の電気的構成を示したブロック図である。この電気泳動解析装置は、電気泳動を用いてサンプル中の成分を分離し、その分離された成分を検出部1で検出するための装置である。本実施形態に係る電気泳動解析装置は、例えばサンプルの流路が形成されたマイクロチップ(図示せず)を備えており、泳動媒体(分離バッファ)が充填された上記流路内に液体サンプルを注入し、所定の電圧を印加することにより、液体サンプルを電気泳動させることができる。
図1は、本発明の一実施形態に係る電気泳動解析装置の電気的構成を示したブロック図である。この電気泳動解析装置は、電気泳動を用いてサンプル中の成分を分離し、その分離された成分を検出部1で検出するための装置である。本実施形態に係る電気泳動解析装置は、例えばサンプルの流路が形成されたマイクロチップ(図示せず)を備えており、泳動媒体(分離バッファ)が充填された上記流路内に液体サンプルを注入し、所定の電圧を印加することにより、液体サンプルを電気泳動させることができる。
この電気泳動解析装置には、上記検出部1の他に、データ処理部2及び記憶部3が備えられている。データ処理部2は、例えばCPU(Central Processing Unit)を含む構成であり、当該CPUがプログラムを実行することにより、波形取得部21及び品質評価処理部22などとして機能する。また、記憶部3は、例えばROM(Read-Only Memory)、RAM(Random-Access Memory)及びハードディスクなどにより構成されている。
波形取得部21は、検出部1からの検出信号に基づいて、電気泳動波形のデータを取得し、そのデータを記憶部3に記憶させる。電気泳動波形は、検出部1における検出信号の強度が経過時間に対応付けられた波形データであり、電気泳動により分離されたサンプル中の各成分に対応するピークが現れる。
品質評価処理部22は、記憶部3に記憶されている電気泳動波形に対する波形解析により、サンプルの品質を評価する処理を行う。本実施形態では、サンプルとしてRNA(リボ核酸)が用いられ、電気泳動によりRNAの品質を評価する場合について説明する。品質評価処理部22には、例えば波形前処理部221、サイズ軸変換部222、特徴量算出部223及び品質値算出部224などが含まれる。
波形前処理部221は、記憶部3に記憶されている電気泳動波形に対して、ノイズ除去やベースライン補正などの各種前処理を必要に応じて実行する。波形データからノイズを除去したり、ベースラインを補正したりする処理については周知であるため、詳細な説明を省略する。
サイズ軸変換部222は、波形前処理部221により前処理が行われた電気泳動波形に対して、時間軸をサイズ軸に変換する処理を行う。このとき、外部標準物質から得られる波形(ラダー波形)を用いて、時間軸がサイズ軸に変換される。サイズ軸は、例えばnt(ヌクレオチド)単位で表されてもよいし、インデックス単位で表されてもよい。
特徴量算出部223は、サイズ軸変換部222により時間軸がサイズ軸に変換された電気泳動波形に基づいて、特徴量を算出する処理を行う。この特徴量を算出する処理については後述するが、本実施形態では、電気泳動波形中の特定のピークの位置に応じた特徴量が算出される。
品質値算出部224は、特徴量算出部223により算出された電気泳動波形に固有の特徴量に基づいて、RNAの品質を表す品質値を算出する処理を行う。このとき、特徴量算出部223により算出された特徴量が、そのまま品質値として算出されてもよいし、特徴量とは異なる品質値が算出されてもよい。また、必要に応じて線形変換などの処理が行われることにより、特徴量が品質値に変換されてもよい。このようにして算出された品質値に基づいて、RNAの品質を評価することができる。
2.RNAの電気泳動波形
図2は、品質が異なる12個のRNAをサンプルとして得られた電気泳動波形を示す図である。サンプル1の品質が最も高く、サンプル12に向かうにつれて徐々に品質が劣化している。
図2は、品質が異なる12個のRNAをサンプルとして得られた電気泳動波形を示す図である。サンプル1の品質が最も高く、サンプル12に向かうにつれて徐々に品質が劣化している。
RNAの電気泳動波形には、18Sフラグメントのピーク(18SピークP1)と、28Sフラグメントのピーク(28SピークP2)とが含まれることが知られている。これらの18SピークP1及び28SピークP2は、RNAの劣化に伴ってピーク強度が減少するという特性がある。図2の例では、サンプル1における18SピークP1の強度が、サンプル2,3,4,・・・と徐々に減少し、サンプル5ではほぼ消失している。また、サンプル1における28SピークP2の強度は、サンプル2,3,・・・と徐々に減少し、サンプル4ではほぼ消失している。
その一方で、電気泳動波形中の18Sピークよりも低分子側(泳動時間が短い側)の領域に着目すると、18SピークP1及び28SピークP2が消失する程度までRNAが劣化したサンプル6において、RNAの劣化に伴い生じる新たなピーク(劣化生成物ピークP3)が現れている。この劣化生成物ピークP3は、そのピーク強度がサンプル7,8,9,・・・と徐々に増加しながら、ピークトップ位置が低分子側に徐々にシフトする。そして、さらにRNAが劣化すると、ピークトップ位置がサンプル10,11,・・・と低分子側に徐々にシフトし続けながら、ピーク強度が徐々に減少し、サンプル12ではほぼ消失する。
本実施形態では、電気泳動波形中の18Sピークよりも低分子側の領域(特にファーストリージョン内)に現れる上記劣化生成物ピークP3を用いて、その位置に応じた特徴量を算出し、算出された特徴量に基づいてRNAの品質を評価する。すなわち、劣化生成物ピークP3は、18SピークP1が消失する程度までRNAが劣化した後、18SピークP1よりも低分子側の領域にRNAの劣化に伴って現れ、RNAの劣化とともに低分子側にシフトするため、この劣化生成物ピークP3の位置に応じた特徴量に基づいて、劣化したRNAであっても精度よく品質を評価することができる。
3.品質評価の第1実施例
RNAの品質を評価する方法の第1実施例では、劣化生成物ピークP3のピークトップ位置を表す値が、劣化生成物ピークP3の位置に応じた特徴量(ピークトップ位置特徴量f1)として用いられる。
RNAの品質を評価する方法の第1実施例では、劣化生成物ピークP3のピークトップ位置を表す値が、劣化生成物ピークP3の位置に応じた特徴量(ピークトップ位置特徴量f1)として用いられる。
例えば、サイズ軸の値をiとし、そのサイズにおける電気泳動波形の強度をe[i]とした場合に、ピークトップ位置特徴量f1は下記式(1)で表される。式(1)において、Rは劣化生成物ピークP3が生じ得る領域(例えばファーストリージョン)である。
すなわち、劣化生成物ピークP3が生じ得る領域R内において、e[i]のargmaxを算出することにより、領域R内でe[i]を最大にするiの値がピークトップ位置特徴量f1として算出される。このピークトップ位置特徴量f1の値は、RNAの劣化とともに変化(減少)するため、その変化に基づいてRNAの品質を評価することができる。このように、劣化生成物ピークP3のピークトップの位置を用いて、劣化生成物ピークP3の位置に応じた特徴量(ピークトップ位置特徴量f1)を的確に表すことができるため、当該特徴量に基づいて、劣化したRNAであっても精度よく品質を評価することができる。
4.品質評価の第2実施例
RNAの品質を評価する方法の第2実施例では、劣化生成物ピークP3の面積を低分子側領域(FPF)と高分子側領域(FPL)に分割したときの各領域の面積比を表す値が、劣化生成物ピークP3の位置に応じた特徴量(ピーク面積比特徴量f2)として用いられる。
RNAの品質を評価する方法の第2実施例では、劣化生成物ピークP3の面積を低分子側領域(FPF)と高分子側領域(FPL)に分割したときの各領域の面積比を表す値が、劣化生成物ピークP3の位置に応じた特徴量(ピーク面積比特徴量f2)として用いられる。
図3は、FPFとFPLの面積比について説明するための図である。この図3に示すように、劣化生成物ピークP3が生じ得る領域R内に局所領域(FPF+FPL)が予め設定され、その領域がFPFとFPLに二等分される。この場合、FPFの領域内における劣化生成物ピークP3の面積SFPFは下記式(2)で表され、FPLの領域内における劣化生成物ピークP3の面積SFPLは下記式(3)で表される。
上記式(4)で表される面積比がピーク面積比特徴量f2として用いられる。このピーク面積比特徴量f2の値は、RNAが劣化して劣化生成物ピークP3の位置がシフトするのに伴って変化するため、その変化に基づいてRNAの品質を評価することができる。このように、劣化生成物ピークP3の面積を低分子側領域FPFと高分子側領域FPLに分割したときの面積比を用いて、劣化生成物ピークP3の位置に応じた特徴量(ピーク面積比特徴量f2)を的確に表すことができる。したがって、当該特徴量に基づいて、劣化したRNAであっても精度よく品質を評価することができる。
5.品質評価の第3実施例
RNAの品質を評価する方法の第3実施例では、劣化生成物ピークP3の重心位置を表す値が、劣化生成物ピークP3の位置に応じた特徴量(ピーク重心特徴量f3)として用いられる。劣化生成物ピークP3が生じ得る領域R内における信号値の重心は、下記式(5)で表され、この値がピーク重心特徴量f3として算出される。
RNAの品質を評価する方法の第3実施例では、劣化生成物ピークP3の重心位置を表す値が、劣化生成物ピークP3の位置に応じた特徴量(ピーク重心特徴量f3)として用いられる。劣化生成物ピークP3が生じ得る領域R内における信号値の重心は、下記式(5)で表され、この値がピーク重心特徴量f3として算出される。
上記式(5)で表されるピーク重心特徴量f3は、RNAが劣化して劣化生成物ピークP3の位置がシフトするのに伴って変化するため、その変化に基づいてRNAの品質を評価することができる。このように、劣化生成物ピークP3の重心位置を用いて、劣化生成物ピークP3の位置に応じた特徴量(ピーク重心特徴量f3)を的確に表すことができる。したがって、当該特徴量に基づいて、劣化したRNAであっても精度よく品質を評価することができる。
6.各特徴量についての実験結果
図4は、劣化生成物ピークP3の位置に応じた各特徴量とRNAの品質との関係を示す実験結果である。この実験では、12段階で劣化させたHuman LiverのtotalRNAの電気泳動波形(図2参照)を用いて、ピークトップ位置特徴量f1、ピーク面積比特徴量f2、ピーク重心特徴量f3をそれぞれ算出した。図4には、算出された特徴量(品質値)を各サンプル1〜12に対応付けてプロットした結果が示されている。
図4は、劣化生成物ピークP3の位置に応じた各特徴量とRNAの品質との関係を示す実験結果である。この実験では、12段階で劣化させたHuman LiverのtotalRNAの電気泳動波形(図2参照)を用いて、ピークトップ位置特徴量f1、ピーク面積比特徴量f2、ピーク重心特徴量f3をそれぞれ算出した。図4には、算出された特徴量(品質値)を各サンプル1〜12に対応付けてプロットした結果が示されている。
この図4に示すように、いずれの特徴量についても、RNAの品質が劣化するにつれて減少している。特に、劣化レベルが8以上、すなわちサンプル8の程度までRNAが劣化すると、品質の変化を容易に区別することができるため、劣化したRNAであっても精度よく品質を評価できることが確認できる。
7.品質値算出処理のフローチャート
図5は、データ処理部2が品質値を算出する際の処理を示したフローチャートである。まず、データ処理部2は、検出部1からの検出信号に基づいて、波形取得部21により電気泳動波形のデータを取得し、そのデータを記憶部3に記憶させる(ステップS101)。その後、記憶部3に記憶されている電気泳動波形に対して、波形前処理部221により前処理が行われる(ステップS102)。そして、前処理が行われた電気泳動波形に対して、サイズ軸変換部222により時間軸をサイズ軸に変換する処理が行われる(ステップS103)。
図5は、データ処理部2が品質値を算出する際の処理を示したフローチャートである。まず、データ処理部2は、検出部1からの検出信号に基づいて、波形取得部21により電気泳動波形のデータを取得し、そのデータを記憶部3に記憶させる(ステップS101)。その後、記憶部3に記憶されている電気泳動波形に対して、波形前処理部221により前処理が行われる(ステップS102)。そして、前処理が行われた電気泳動波形に対して、サイズ軸変換部222により時間軸をサイズ軸に変換する処理が行われる(ステップS103)。
本実施形態では、電気泳動波形中の18Sピークよりも低分子側の領域のみに着目して、ピークトップ位置特徴量f1、ピーク面積比特徴量f2、ピーク重心特徴量f3などの特徴量のいずれかが特徴量算出部223により算出される(ステップS104)。そして、当該特徴量が、品質値算出部224によりRNAの品質を表す品質値に変換される(ステップS105)。
8.品質値算出処理の第1変形例
図6は、データ処理部2が品質値を算出する際の処理の第1変形例を示したフローチャートである。まず、データ処理部2は、検出部1からの検出信号に基づいて、波形取得部21により電気泳動波形のデータを取得し、そのデータを記憶部3に記憶させる(ステップS201)。その後、記憶部3に記憶されている電気泳動波形に対して、波形前処理部221により前処理が行われる(ステップS202)。そして、前処理が行われた電気泳動波形に対して、サイズ軸変換部222により時間軸をサイズ軸に変換する処理が行われる(ステップS203)。
図6は、データ処理部2が品質値を算出する際の処理の第1変形例を示したフローチャートである。まず、データ処理部2は、検出部1からの検出信号に基づいて、波形取得部21により電気泳動波形のデータを取得し、そのデータを記憶部3に記憶させる(ステップS201)。その後、記憶部3に記憶されている電気泳動波形に対して、波形前処理部221により前処理が行われる(ステップS202)。そして、前処理が行われた電気泳動波形に対して、サイズ軸変換部222により時間軸をサイズ軸に変換する処理が行われる(ステップS203)。
この変形例では、電気泳動波形中の18Sピークよりも低分子側の領域だけでなく、18Sピーク及び28Sピークにも着目して、RNAの品質を表す品質値が算出される。具体的には、ピークトップ位置特徴量f1、ピーク面積比特徴量f2、ピーク重心特徴量f3などの低品質のRNAの特徴量(低品質特徴量)だけでなく、18Sピーク及び28Sピークに基づく高品質特徴量も用いて、品質値が算出される。この場合、特徴量算出部223は、低品質特徴量に加えて、高品質特徴量も公知のアルゴリズムにより算出する(ステップS204)。
品質値算出部224は、特徴量算出部223により算出された低品質特徴量及び高品質特徴量に基づいて、線形結合により品質値を算出する(ステップS205)。具体的には、ピークトップ位置特徴量f1、ピーク面積比特徴量f2、ピーク重心特徴量f3などの低品質特徴量をfLとし、18Sピーク及び28Sピークに基づく高品質特徴量をfHとした場合に、係数C0、C1、C2を用いて、品質値Q1を下記式(6)で表すことができる。
Q1=C0+C1fL+C2fH ・・・(6)
Q1=C0+C1fL+C2fH ・・・(6)
このように、本実施形態では、劣化生成物ピークP3の位置に応じた特徴量(低品質特徴量fL)と、18Sピーク及び28Sピークに基づく特徴量(高品質特徴量fH)とを用いて、品質値Q1が算出され、その品質値Q1に基づいてRNAの品質を評価することができる。これにより、RNAがある程度劣化するまでは、高品質特徴量fHを用いてRNAの品質を評価し、RNAがある程度劣化した後は、低品質特徴量fLを用いてRNAの品質を評価することができる。したがって、RNAの劣化状態をより広い範囲にわたって評価することができる。ただし、高品質特徴量fHは、18Sピーク及び28Sピークの両方を用いて算出されるものに限らず、18Sピーク又は28Sピークのいずれか一方を用いて算出されるものであってもよい。この場合、18Sピークや28Sピーク以外の領域も併用して高品質特徴量を算出することにより、18Sピークなどに基づく高品質特徴量、又は、28Sピークなどに基づく高品質特徴量としてもよい。
9.品質値算出処理の第2変形例
図7は、データ処理部2が品質値を算出する際の処理の第2変形例を示したフローチャートである。まず、データ処理部2は、検出部1からの検出信号に基づいて、波形取得部21により電気泳動波形のデータを取得し、そのデータを記憶部3に記憶させる(ステップS301)。その後、記憶部3に記憶されている電気泳動波形に対して、波形前処理部221により前処理が行われる(ステップS302)。そして、前処理が行われた電気泳動波形に対して、サイズ軸変換部222により時間軸をサイズ軸に変換する処理が行われる(ステップS303)。
図7は、データ処理部2が品質値を算出する際の処理の第2変形例を示したフローチャートである。まず、データ処理部2は、検出部1からの検出信号に基づいて、波形取得部21により電気泳動波形のデータを取得し、そのデータを記憶部3に記憶させる(ステップS301)。その後、記憶部3に記憶されている電気泳動波形に対して、波形前処理部221により前処理が行われる(ステップS302)。そして、前処理が行われた電気泳動波形に対して、サイズ軸変換部222により時間軸をサイズ軸に変換する処理が行われる(ステップS303)。
この変形例では、電気泳動波形中の18Sピークよりも低分子側の領域だけでなく、18Sピーク及び28Sピークにも着目して、RNAの品質を表す品質値が算出される。具体的には、ピークトップ位置特徴量f1、ピーク面積比特徴量f2、ピーク重心特徴量f3などの低品質のRNAの特徴量(低品質特徴量)と、18Sピーク及び28Sピークに基づく高品質特徴量とを切り替えて、品質値が算出される。この場合、特徴量算出部223は、低品質特徴量に加えて、高品質特徴量も公知のアルゴリズムにより算出する(ステップS304)。
品質値算出部224は、高品質特徴量が一定値以下であるか否かに応じて、低品質特徴量又は高品質特徴量のいずれ一方に切り換え(ステップS305)、その特徴量に基づいて品質値を算出する(ステップS306)。具体的には、ピークトップ位置特徴量f1、ピーク面積比特徴量f2、ピーク重心特徴量f3などの低品質特徴量をfLとし、18Sピーク及び28Sピークに基づく高品質特徴量をfHとした場合に、係数C01、C02、C1、C2を用いて、品質値Q2を下記式(7)、(8)で表すことができる。すなわち、高品質特徴量fHが一定値αより大きければ式(7)を用い、高品質特徴量fHが一定値α以下であれば式(8)を用いて、品質値Q2が算出される。
Q2=C01+C1fH (fH>α) ・・・(7)
Q2=C02+C2fL (fH≦α) ・・・(8)
Q2=C01+C1fH (fH>α) ・・・(7)
Q2=C02+C2fL (fH≦α) ・・・(8)
このように、本実施形態では、劣化生成物ピークP3の位置に応じた特徴量(低品質特徴量fL)と、18Sピーク及び28Sピークに基づく特徴量(高品質特徴量fH)とを用いて、品質値Q2が算出され、その品質値Q2に基づいてRNAの品質を評価することができる。これにより、RNAがある程度劣化するまでは、高品質特徴量fHを用いてRNAの品質を評価し、RNAがある程度劣化した後は、低品質特徴量fLを用いてRNAの品質を評価することができる。したがって、RNAの劣化状態をより広い範囲にわたって評価することができる。ただし、高品質特徴量fHは、18Sピーク及び28Sピークの両方を用いて算出されるものに限らず、18Sピーク又は28Sピークのいずれか一方を用いて算出されるものであってもよい。この場合、18Sピークや28Sピーク以外の領域も併用して高品質特徴量を算出することにより、18Sピークなどに基づく高品質特徴量、又は、28Sピークなどに基づく高品質特徴量としてもよい。
以上の実施形態では、電気泳動解析装置の処理により、本発明に係る電気泳動解析方法が行われるような構成について説明した。しかし、このような構成に限らず、電気泳動解析方法の各ステップの少なくとも一部がユーザにより手動で行われてもよい。
また、上述のような電気泳動解析装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム(電気泳動解析プログラム)を提供することも可能である。この場合、前記プログラムは、記憶媒体に記憶された状態で提供されるような構成であってもよいし、プログラム自体が提供されるような構成であってもよい。
1 検出部
2 データ処理部
3 記憶部
21 波形取得部
22 品質評価処理部
221 波形前処理部
222 サイズ軸変換部
223 特徴量算出部
224 品質値算出部
2 データ処理部
3 記憶部
21 波形取得部
22 品質評価処理部
221 波形前処理部
222 サイズ軸変換部
223 特徴量算出部
224 品質値算出部
Claims (7)
- 電気泳動波形に対する波形解析によりRNAの品質を評価する電気泳動解析方法であって、
電気泳動波形中の18Sピークよりも低分子側の領域にRNAの劣化に伴って現れる劣化生成物ピークの位置に応じた特徴量に基づいて、RNAの品質を評価することを特徴とする電気泳動解析方法。 - 前記劣化生成物ピークの位置に応じた特徴量は、前記劣化生成物ピークのピークトップの位置を表す値であることを特徴とする請求項1に記載の電気泳動解析方法。
- 前記劣化生成物ピークの位置に応じた特徴量は、前記劣化生成物ピークの面積を低分子側領域と高分子側領域に分割したときの面積比を表す値であることを特徴とする請求項1に記載の電気泳動解析方法。
- 前記劣化生成物ピークの位置に応じた特徴量は、前記劣化生成物ピークの重心位置を表す値であることを特徴とする請求項1に記載の電気泳動解析方法。
- 前記劣化生成物ピークの位置に応じた特徴量と、18Sピーク又は28Sピークに基づく特徴量とを用いて、RNAの品質を評価することを特徴とする請求項1に記載の電気泳動解析方法。
- 電気泳動波形に対する波形解析によりRNAの品質を評価する電気泳動解析装置であって、
電気泳動波形中の18Sピークよりも低分子側の領域にRNAの劣化に伴って現れる劣化生成物ピークの位置に応じた特徴量に基づいて、RNAの品質を表す品質値を算出する品質値算出部を備えることを特徴とする電気泳動解析装置。 - 電気泳動波形に対する波形解析によりRNAの品質を評価する電気泳動解析プログラムであって、
電気泳動波形中の18Sピークよりも低分子側の領域にRNAの劣化に伴って現れる劣化生成物ピークの位置に応じた特徴量に基づいて、RNAの品質を表す品質値を算出する品質値算出部としてコンピュータを機能させることを特徴とする電気泳動解析プログラム。
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