JP6723078B2 - シリンダ内流動再現試験方法、シリンダ内流動再現試験装置及びスクリュ形状の設計方法 - Google Patents

シリンダ内流動再現試験方法、シリンダ内流動再現試験装置及びスクリュ形状の設計方法 Download PDF

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Description

本発明は、射出成形機又は押出成形機の実機シリンダ内における実機スクリュによる溶融流動体の流動状態を再現するためのシリンダ内流動再現試験方法及びシリンダ内流動再現試験装置並びにこれらを利用したスクリュ形状の設計方法に関する。
射出成形又は押出成形においては、典型的には、成形材料として熱可塑性樹脂が用いられ、スクリュ式の可塑化機構によって熱可塑性樹脂の可塑化が行われる。具体的には、熱可塑性樹脂が、ホッパーから、周囲にヒータを設けて加熱したシリンダ内に供給され、加熱シリンダ内のスクリュの回転により可塑化されるとともに前方に運ばれる。
可塑化した溶融樹脂の流動状態は、得られる成形品の物性や品質に大きな影響を与えるため、従来、これを最適化するための諸条件を見出すべく、種々の検討が行われてきた。
このような検討の1つとして、コンピュータによる流動解析技術を利用することが試みられている(例えば、2軸押出機における樹脂の流動解析方法及びスクリュ設計方法として、特許文献1参照。)。
特開2001−1386号公報
近年のコンピュータの進化に伴い、コンピュータによる流動解析技術の向上は著しいが、コンピュータ上のシミュレーションは、条件を仮定した近似的な計算に基づくものであるから、シミュレーション結果と現実との間に差異が生じる可能性は排除できない。従って、現実との差異を検証することなくコンピュータ上のシミュレーション結果を鵜呑みにすることは適切ではない。
特に、現実に起こっている現象の理解が不十分であれば、コンピュータ上のシミュレーションは不完全なものとなり、シミュレーション結果と現実との間に差異が生じ易くなる。
ところが、射出成形及び押出成形に関連する技術は多岐にわたり、また、今後も改良・発展していくものであるから、現実に起こっている現象を正しく理解することは容易ではない。
例えば、特許文献1に記載のように、2軸押出機においては、1軸押出機とは別途の考察を要する。また、射出成形及び押出成形は、上述のように、いずれも同様の可塑化機構を備えるものであるものの、射出成形ではスクリュが間欠的に回転し軸方向に往復運動するのに対し、押出成形ではスクリュが連続的に回転するという違いがあるなど、一律に論じられない面がある。
また、現実に起こっている現象の理解が十分に確立されていない一例として、繊維強化複合材料の射出成形を挙げることができる。
繊維強化複合材料は、軽量でありながら、比強度、耐久性、比衝撃性に優れる。
そのため、CO2増加による地球温暖化に代表される環境問題が産業界にとって最重要課題と認識され、輸送構造物においては低燃費化を実現する動きが活発になっている中において、繊維強化複合材料は、その有力な手段として、航空、船舶、自動車など幅広い用途で用いられている。
繊維強化複合材料の成形方法としては、ハンドレイアップによる手作業から、プレスを利用したもの、連続的に成形できるものなど、多種多様の方法が知られている。
ここで、複合材料製品の製造コストのうち、成形コストが占める割合が大きいことから、成形方法は重要なポイントである。そして、射出成形法は複雑な形状でも金型の形状を変えることで短時間かつ容易に成形できることから、生産性が良く、自動車業界など、様々な業界で幅広く使用されている。そのため、繊維強化複合材料の成形方法の1つとして、射出成形法が検討されている。
繊維強化複合材料の射出成形においては、例えば、強化繊維の束に樹脂で含浸させたペレットを混練溶融し、金型に高速・高圧で充填し、急冷して金型から取り出して成形する。
ここで、繊維強化複合材料の射出成形においては、繊維を成形品中に均一に分散させることができ、繊維折損が少ないスクリュ形状を開発する必要がある。繊維強化複合材料の射出成形品は強化繊維の状態に大きく影響を受け、繊維長が長いほど引張強度が高くなり、繊維分散性が良いほど外観形状が良くなるからである。
しかし、繊維強化複合材料の射出成形を想定したコンピュータ上のシミュレーションを行う場合、実際にシリンダ内を観察し、繊維が折損しないという現象を確認するわけではないし、どのパラメータが繊維分散性向上に最も影響を及ぼしているのか、1つ1つ検証することは困難であるなど、一定の限界がある。
そのため、コンピュータ上のシミュレーションにおいて所望の結果が得られたとしても、実際に射出成形を行った場合には期待される結果が得られないことがあり得る。
このように、繊維強化複合材料の射出成形においても、現実に起こっている現象をより正確に理解しなければ、コンピュータ上のシミュレーション結果と現実との間に差異が生じる可能性を排除できない。
しかし、射出成形は、高温、高圧の条件下で行われるため、シリンダ内での溶融樹脂の流動状態を正しく理解することは困難である。
従って、実機での検証によっても、スクリュ形状や成形条件等を如何に改良するべきかについて、十分な情報を得ることは困難である(成形品からある程度の情報を得ることはできるものの十分な情報とは言い難い。)。
その結果、コンピュータ上のシミュレーションと実機による成形品の作製・検証とを繰り返すこととなり、多大なコストと時間を要する。
以上のような現状に鑑み、本発明は、射出成形機又は押出成形機の実機シリンダ内における実機スクリュによる溶融流動体の流動状態を低コストで再現することができ、かつ、再現された流動状態の分析も容易であるシリンダ内流動再現試験方法及びシリンダ内流動再現試験装置と、これらを利用したスクリュ形状の設計方法を提供することを目的としている。
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を備える。
すなわち、本発明にかかるシリンダ内流動再現試験方法は、繊維強化複合材料の成形の際の射出成形機又は押出成形機の実機シリンダ内における実機スクリュによる溶融流動体の流動状態を再現するための構成部材として、前記実機シリンダに対応する可視シリンダと、前記実機スクリュに対応し、前記可視シリンダ内に配置される3Dプリンタ製の試作スクリュと、前記溶融流動体に対応し、前記可視シリンダ内に供給される、強化繊維が添加された擬似流体とを用い、前記可視シリンダ内において、前記試作スクリュの作動と前記擬似流体の供給とを行うことにより、実機シリンダ内における実機スクリュによる溶融流動体の流動状態並びに強化繊維の開繊及び折損を再現する。
また、本発明にかかるシリンダ内流動再現試験装置は、繊維強化複合材料の成形の際の射出成形機又は押出成形機の実機シリンダ内における実機スクリュによる溶融流動体の流動状態を再現するための構成部材として、前記実機シリンダに対応する可視シリンダと、前記実機スクリュに対応し、前記可視シリンダ内に配置される3Dプリンタ製の試作スクリュと、前記溶融流動体に対応し、前記可視シリンダ内に供給される、強化繊維が添加された擬似流体とを備える。
さらに、本発明にかかるスクリュ形状の設計方法は、上記本発明のシリンダ内流動再現試験方法により前記試作スクリュを評価する試作スクリュ評価工程を含む。
本発明のシリンダ内流動再現試験方法及びシリンダ内流動再現試験装置によれば、可視シリンダを通してシリンダ内部を外部から観察することができ、画像解析や動画解析も可能であって、再現された流動状態の分析が容易である。
また、3Dプリンタ製の試作スクリュを用いるので、実機を用いて試行錯誤を行う場合と比較して格段に低コストである。
また、擬似流体を溶融流動体に対応するものとして用いるので、実機検証の如き厳しい条件(高温、高圧)を設定する必要はない。
本発明のスクリュ形状の設計方法は、上記本発明のシリンダ内流動再現試験方法により前記試作スクリュを評価する試作スクリュ評価工程を含むので、上に述べた本発明のシリンダ内流動再現試験方法と同様の効果を有する。また、試作スクリュを3Dプリンタで造形するための3Dデータは、コンピュータ上のシミュレーションに用いることもできるので、コンピュータ上のシミュレーションと、シリンダ内流動再現試験方法による試作スクリュ評価とを容易に連関させることができるという利点もある。その結果として、両者相俟って、スクリュ形状の設計を極めて効率的に行うことができる。
本発明のスクリュ形状の設計方法の一実施形態を示すフロー図である。 実施例で検証した3種のスクリュ形状の3D画像である。 実施例のシミュレーションにおいて、各スクリュタイプにおける平均せん断応力を示すグラフである。 実施例のシミュレーションにおいて、ダルメージタイプとダルメージ+バックタイプにおける位置別せん断速度を示すグラフである。 平均せん断応力の変化率とガラス繊維の折損率の関係を示すグラフである。 実施例のシミュレーションにおいて、ダルメージタイプとダルメージ+バックタイプにおける滞留時間を示すグラフである。 実施例のシミュレーションにおいて、各スクリュタイプにおける総せん断ひずみ量を示すグラフである。 実施例のモデル実験に使用したガラス繊維の写真である。 200℃又は260℃におけるせん断速度と粘度との関係を示すグラフである。 実施例のモデル実験に使用した試作スクリュの写真である。 実施例のモデル実験に使用したトレーサーの写真である。 実施例のモデル実験における計測地点A及びBを示す写真(左)と3D画像(右)である。 実施例のモデル実験において、各試作スクリュにおける残存繊維長を示すグラフである。 実施例のモデル実験における残存繊維長と、シミュレーションにおける平均せん断応力との関係を示すグラフである。 実施例のモデル実験における残存繊維長の分布を示すグラフである。 実施例のモデル実験において、スタンダードタイプの試作スクリュを用いた場合の可視シリンダ内の繊維画像を示す写真である。 実施例のモデル実験において、ダルメージタイプの試作スクリュを用いた場合の可視シリンダ内の繊維画像を示す写真である。 実施例のモデル実験において、ダルメージ+バックタイプの試作スクリュを用いた場合の可視シリンダ内の繊維画像を示す写真である。 実施例のモデル実験において、ダルメージタイプとダルメージ+バックタイプの試作スクリュにおける滞留時間(全体評価)の結果を示すグラフである。 実施例のモデル実験において、ダルメージタイプとダルメージ+バックタイプの試作スクリュにおける軸方向速度(A地点におけるx軸方向速度)の結果を示すグラフである。 実施例のモデル実験において、ダルメージタイプとダルメージ+バックタイプの試作スクリュにおける軸方向速度(B地点におけるx軸方向速度)の結果を示すグラフである。 実施例のモデル実験において、ダルメージタイプとダルメージ+バックタイプの試作スクリュにおける明度変化率を示すグラフである。
以下、本発明にかかるシリンダ内流動再現試験方法、シリンダ内流動再現試験装置及びスクリュ形状の設計方法の好ましい実施形態について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
〔シリンダ内流動再現試験装置〕
本発明のシリンダ内流動再現試験装置は、射出成形機又は押出成形機の実機シリンダ内における実機スクリュによる溶融流動体の流動状態を再現するための構成部材として、前記実機シリンダに対応する可視シリンダと、前記実機スクリュに対応し、前記可視シリンダ内に配置される3Dプリンタ製の試作スクリュと、前記溶融流動体に対応し、前記可視シリンダ内に供給される擬似流体とを備える。
一般に、射出成形機及び押出成形機は、いずれも、周囲にヒータを配置したシリンダと、シリンダ内に挿入されたスクリュとを備えている。
そして、成形材料がホッパーから加熱シリンダ内に供給され、スクリュの回転により可塑化されるとともに前方に運ばれる、という共通の可塑化機構を備える。
射出成形機では、通常、上記可塑化機構により可塑化した溶融流動体がシリンダ出口に接続された金型に射出され、金型内で冷却・固化される。
押出成形機では、通常、上記可塑化機構により可塑化した溶融流動体がシリンダ出口に取り付けられたダイから押し出され、冷却と引き取りが行われた後、切断又は巻き取られる。
本発明に関し、「実機シリンダ」又は「実機スクリュ」というときは、上記のように実際に目的の成形品を製造するための射出成形機又は押出成形機におけるシリンダ又はスクリュを指す。これらの用語は、単に、後述する本発明の試験装置や試験方法における「可視シリンダ」や「試作スクリュ」と区別するための便宜上の呼称に過ぎず、それ以上の限定を含意するものではない。
また、「可視シリンダ」、「試作スクリュ」及び「擬似流体」は、それぞれ、「実機シリンダ」、「実機スクリュ」及び「溶融流動体」に「対応」するものである。
なお、「可視シリンダ」、「試作スクリュ」及び「擬似流体」が、それぞれ、「実機シリンダ」、「実機スクリュ」及び「溶融流動体」と同様の作用を生じて、「可視シリンダ内における試作スクリュによる擬似流体の流動状態」として、「射出成形機又は押出成形機の実機シリンダ内における実機スクリュによる溶融流動体の流動状態」を推測可能な流動状態をもたらすものであれば、「可視シリンダ」、「試作スクリュ」及び「擬似流体」が、それぞれ、「実機シリンダ」、「実機スクリュ」及び「溶融流動体」に「対応」しているということができる。
従って、上記のような意味で「対応」していれば、「可視シリンダ」は「実機シリンダ」と同じ材質である必要はないし、寸法を拡大又は縮小しても良いし、「実機シリンダ」の一部に相当する部分のみからなるものであっても良い。「試作スクリュ」及び「擬似流体」も同様に解釈されるべきである。
以下、各構成部材について、一般的な説明をさらに行う。
<可視シリンダ>
実機シリンダは、通常、外部から観察することができない。しかも、射出成形機や押出成形機の実機シリンダ内は、成形材料の可塑化の際に、通常、高温、高圧となるので、実機シリンダを可視材料で製造することは困難である。
これに対し、本発明のシリンダ内流動再現試験装置は、3Dプリンタ製の試作スクリュや擬似流体を用いるので、可視シリンダに対する負荷は実機と比べて格段に少ない。
従って、可視シリンダの材料としては、多種多様の材料が適用でき、例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネートなどの透明樹脂や、ガラスなどが挙げられる。
なお、可視シリンダは、その全体が可視性を備えているものであってもよいし、その一部が可視性を備えているものであってもよい。
<試作スクリュ>
試作スクリュは、3Dプリンタ製であり、実機スクリュと比較して、短時間、低コストでの作製が可能である。
3Dプリンタによる造形は、付加製造法とも呼ばれ、材料を付着することによって物体を3次元形状の数値表現から作製するプロセスである。
3Dプリンタの製造方式としては、結合剤噴射、指向性エネルギー堆積、材料押出、材料噴射、粉末床溶融結合、シート積層、液槽光重合など、様々な方式が知られているが、本発明は、これらのいずれにも限定されるものではなく、適宜選択して適用することができる。
試作スクリュの材料としては、3Dプリンタにより容易に作製でき、低コストであることから、ABS樹脂などの樹脂材料が好ましい。
3Dプリンタによれば、3Dデータを用いて、所望の形状を備える試作スクリュを造形することができる。
所望の形状を表現した3Dデータを作成する方法としては、例えば、3D−CADソフトウェアや3D−CGソフトウェアを用いたコンピュータ上でのモデリング、3Dスキャンによる方法、リバースエンジニアリングなどを挙げることができ、本発明は、これらのいずれにも限定されるものではない。
<擬似流体>
擬似流体としては、実機において可塑化した溶融流動体の流動状態を再現できるものであれば特に限定されない。
例えば、シリコンオイルは、一般に無色透明の液体であり、分子量などの違いにより粘度調整がし易い上、耐熱性や、粘度安定性にも優れている(広い温度範囲で粘度変化が少ない)などの特性を有することから、擬似流体として好適に利用することができる。
ところで、成形材料には、種々の添加剤が含まれている場合がある。
例えば、成形品の物性を向上させたり、改良させたりする目的で機能性添加剤が用いられる場合がある。より具体的には、例えば、繊維強化複合材料における繊維材料などが挙げられる。
そこで、擬似流体にも、このような添加剤が含まれていても良く、そうすることで、当該添加剤の分散状態をも再現することができる。
なお、擬似流体中に分散する添加剤としては、実際の成形品の成形に用いられる添加剤を用いても良いし、これと異なるが同様の挙動を示す擬似的な添加剤を用いても良い。
さらに、擬似流体の流動状態を、より確実かつ正確に分析するため、擬似流体の流れを追跡するトレーサーを擬似流体に含有させてもよい。
トレーサーは、擬似流体の流れを追跡するという機能を十分に発揮させるため、着色されたものを用いることが好ましい。
トレーサーの材料は、特に限定されず、例えば、ポリプロピレンなどが好適である。
〔シリンダ内流動再現試験方法〕
本発明のシリンダ内流動再現試験方法においては、可視シリンダ、試作スクリュ、擬似流体の構成部材を用いる。これらの構成部材については、本発明のシリンダ内流動再現試験装置に関して、既に説明した。
本発明のシリンダ内流動再現試験方法においては、前記可視シリンダ内において、前記試作スクリュの作動と前記擬似流体の供給とを行うことにより、実機シリンダ内における実機スクリュによる溶融流動体の流動状態を再現する。
そのため、可視シリンダ内における試作スクリュによる擬似流体の流動状態を分析することによって、実機シリンダ内における実機スクリュによる溶融流動体の流動状態を推測することができる。
具体的な分析方法としては、もっとも単純なものとして、例えば、擬似流体の流動状態を、可視シリンダの外部から肉眼によって観察する方法が挙げられる。
また、擬似流体の流動状態を、可視シリンダの外部から撮影することにより、画像解析や動画解析といった高度な分析を行うこともできる。
擬似流体中に、上述したような添加剤が含まれていても良く、そうすることで、当該添加剤の分散状態をも再現、分析することができる。
例えば、上述の繊維強化複合材料の成形においては、溶融樹脂中に、添加剤として繊維材料が分散された状態となる。従って、繊維強化複合材料の成形を想定したシリンダ内流動再現試験方法においては、添加剤として繊維材料を擬似流体中に分散させ、その分散状態を評価することが好ましい。
この場合、繊維材料の折損についても、肉眼、画像解析、動画解析などによって詳細に分析することができる。
擬似流体が添加剤を含むものである場合、画像解析として、可視シリンダ内の2以上の地点(例えば、可視シリンダの入口側と出口側)の明度を測定し、各地点間の明度の変化率を用いて、擬似流体中の添加剤の分散性を評価するという解析方法が好ましく採用できる。明度に代えて、色相、彩度などを分析に利用しても良い。
例えば、繊維強化複合材料の成形を想定した再現試験において、強化繊維の色が白、スクリュの色が黒である場合、強化繊維が開繊している場合はスクリュの黒が、他方、強化繊維が開繊していない場合は強化繊維の白が多く占めることになり、これを明度として数値化して分析することができる。
さらに、上述したように、擬似流体が、当該擬似流体中に上述したトレーサーを含むものであってもよく、これにより、擬似流体の流動状態を、より確実かつ正確に分析することができる。
トレーサーは、特に、画像解析、動画解析によって、有用な情報を与える。
〔スクリュ形状の設計方法〕
本発明のスクリュ形状の設計方法は、上記本発明のシリンダ内流動再現試験方法により前記試作スクリュを評価する試作スクリュ評価工程を含む。
試作スクリュの形状と流動状態との関係を分析することにより、所望の特性を備えるスクリュ形状を見出すことができる。
本発明のスクリュ形状の設計方法は、試作スクリュ評価工程の他に、シミュレーション工程を含むことが好ましい。
3Dプリンタで試作スクリュ形状を造形する場合、3Dデータを用いることになるが、この3Dデータは、そのまま、あるいは適宜ファイル形式を変換するなどして、コンピュータ上でのシミュレーションに容易に利用することができるので、シミュレーション工程と試作スクリュ評価工程とは、技術的手法として、関連させ易い。
しかも、試作スクリュ評価工程では、シミュレーション工程では見出し難い実際の流動状態の分析が可能である。そして、その評価結果をシミュレーション工程に反映させることで、シミュレーション結果の信頼性向上にも繋がる。
従って、試作スクリュ評価工程の後、当該試作スクリュ評価工程における評価結果を考慮して、再度、シミュレーション工程を行うことが好ましく、特に、所望の特性を有するスクリュ形状が得られるまで、シミュレーション工程と試作スクリュ評価工程とを繰り返し行うことが好ましい。
より具体的には、図1に示すように、3Dデータの設計、シミュレーション、試作スクリュの製作・検証をサイクルとした開発フローを構築することが好ましい。
この開発フローを実施すれば、実機検証によらずに、低コストかつ短時間で、所望の特性を有するスクリュ形状を見出すことができる。しかも、開発フローの過程において、特にサイクルを繰り返すほど、シミュレーション結果の信頼性が向上することとなる。
なお、シミュレーションの具体的な方法については、解析対象によっても種々異なり、特定の方法に限定されるものではない。
以下、実施例を用いて、適宜図面を参照しつつ、本発明にかかるシリンダ内流動再現試験方法、シリンダ内流動再現試験装置及びスクリュ形状の設計方法について、さらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
本実施例では、スクリュの3Dデータを作成し、次いで、3Dデータを用いてシミュレーションを行い、次いで、3Dデータを3Dプリンタで造形した試作スクリュについてモデル実験を行った。シミュレーション、モデル実験では、繊維強化複合材料の射出成形を想定している。
以下、これらについて詳述する。
1 スクリュの3Dデータ
3D−CADソフトウェアであるCreo-parametricを用いて、形状の異なる3つのスクリュ(直径24mm)の3D−CADデータを作成した。これら3つのスクリュの形状を、図2(a)〜(c)に示す。
図2(a)に示すスクリュ(以下、このスクリュ又はその形状について、「スタンダードタイプ」又は「Standard」と称する場合がある。)は、一般的なスクリュである。
図2(b)に示すスクリュ(以下、このスクリュ又はその形状について、「ダルメージタイプ」又は「Dulmadge」と称する場合がある。)は、フライト部分にダルメージ形状といわれる溝が設けてあるため、通常の形状に比べて高混練となり、繊維分散性が良くなる。
図2(c)に示すスクリュ(以下、このスクリュ又はその形状について、「ダルメージ+バックタイプ」又は「Dulmadge+back」と称する場合がある。)は、ダルメージ部の途中に1ピッチ分の逆ネジを付けたスクリュで、樹脂を逆流させるような機能を有しており、部分的に滞留時間が増加するように設計されたスクリュである。
各スクリュの供給部の軸径d1、計量部の軸径d2、スクリュ長さとスクリュ外径の比L/D、供給部と計量部における1ピッチあたりのシリンダとスクリュの空間容積比CR(圧縮比)を下表1に示す。
2 シミュレーション
2・1 解析方法
上記3Dデータを用いて、有限要素法を用いたペレット可塑化時の流動を想定したシミュレーションを行った。
中でも、繊維強化複合材料の機械的強度や成形品の外観に大きく影響を及ぼす残存繊維長と繊維分散性に影響を与える平均せん断応力及び総せん断ひずみ量に注目した。
特に、繊維分散性と相関のある総せん断ひずみ量については、せん断速度と時間積分で構成されているため、総せん断ひずみ量と滞留時間との関係についても調査した。
2・1・1 モデル及びメッシュ
解析モデル及びメッシュ作成には形状、メッシュ作成ソフトウェアICEM(ANSYS)を用いた。スクリュの長さは200mm、流路は長さ210mm、シリンダ内径に相当する流路外径は24.1mm、内径13.8mmの円管とした。スクリュのメッシュはテトラ、プリズムメッシュによって作成し、流路円管のメッシュはヘキサメッシュによって作成した。
2・1・2 方程式
有限要素法を用いた数値計算には粘性、粘弾性流体解析ソフトウェアPOLYFLOW(ANSYS)を用いた。POLYFLOWはMST(Mesh Superimpose Technique)という別に作成した流路とスクリュのメッシュを重ねて解析することができる。POLYFLOWはマルチフロンタルソルバーを採用し、ガウスの消去法によって支配方程式を解く。非線形の場合はニュートン・ラプソン法又はピカード法を用いる。
2・1・3 流動条件
有限要素法による数値解析を行った。数値解析を行う際、以下の条件を設定した。
1.比ニュートン流体で、流体は非等温とする。
2.高粘性であるため慣性力、重力は無視する。
3.流体は完全溶融、完全充満しているものとする。
4.固体表面上においてすべりがない。
流体は完全溶融したポリプロピレンを想定し、粘度のせん断速度依存性には、下式(1)に示すBird Carreauモデルを、温度依存性には、下式(2)に示すArrhenius lowモデルを用いた。
上式(1)において、F:粘度、γドット:せん断速度、η0:ゼロせん断速度、η∞:∞せん断速度、λ:べき乗則が起こるせん断速度、n:べき乗則指数である。
上式(2)において、α:活性化エネルギー比、Tα:基準温度、T0:絶対温度である。
以上これらのモデルから下式(3)に示す温度依存粘度を定義した。
2・1・4 粒子追跡法
粒子追跡法は2ステップからなる空間二次精度のラグランジュ法を使用して粒子を追跡している。あらかじめ有限要素法により流動場を求め、ラグランジュ法を用いた下式(4)及び下式(5)により粒子が新しい位置に前進する。本解析では時間t=0において流路入口からランダムに1000個の粒子を0−30秒間流入した。
上式(4)及び(5)において、xi:粒子の位置、ui:速度ベクトル、Δt:時間刻みである。
2・1・5 評価方法
有限要素法によって求めた流れ場を利用し、入口から粒子を1000個流す粒子追跡を行った。これにより下式(6)を用いて平均せん断応力を求め、繊維長を評価した。
また、下式(7)を用いて総せん断ひずみ量を求め分散性を評価した。
上式(6)において、τmean:平均せん断応力、τ(t):せん断応力、tp:滞留時間である。
上式(7)において、εtotal:総せん断ひずみ量、γドット(t):せん断速度である。
2・2 シミュレーション結果及び考察
2・2・1 溶融樹脂中における繊維折損の要因
図3に各スクリュタイプにおける平均せん断応力を示す。
また、図4にダルメージ+バックタイプの逆ネジ付近の位置別せん断速度を示す。
さらに、平均せん断応力の変化率とガラス繊維の折損率とは、図5に示すような相関を示すことが判明している。
図5よりガラス繊維の折損は、平均せん断応力による影響が大きいことがわかる。これにより、平均せん断応力は、スクリュ形状の性能を検証する上で、重要なパラメータの1つといえる。
ここで、図3について考察する。
まず、スタンダードタイプとダルメージタイプの2種を比較すると1条フルフライトのスタンダードタイプよりも3条フルフライトに切り欠きが付いている形状の方が高いせん断応力を発生することが分かった。このため、ダルメージタイプは、繊維折損が多く生じると考えられる。
次に、ダルメージタイプとダルメージ+バックタイプを比較すると、ダルメージ+バックタイプの方が高いせん断応力が発生した。これは、ダルメージ部の途中にある1ピッチ分の逆ネジによって樹脂が逆流することで複雑な流れが発生し、図4のようにダルメージタイプに比べて急激にせん断速度が増加するためであると考えられる。
以上から、平均せん断応力はダルメージ+バックタイプ、ダルメージタイプ、スタンダードタイプの順に高くなったため、この順に繊維折損が起こりやすいと考えられる。
しかし、過去の研究(井上 玲,田中 達也,荒尾 与史彦,野元 將義,下楠園 壮,“射出成形におけるスクリュ形状の違いによるFRTPの繊維長と分散性”,成形加工,vol26,No.6(2014),pp.276−285参照。)によれば、高い平均せん断応力が発生するスクリュ形状でも、樹脂が完全に溶融している場合、繊維はほとんど折損しないこともいくつかの実験で分かってきている。この点については、シミュレーションのみから考察することは困難であるので、後述のモデル実験で検証することとした。
2・2・2 溶融樹脂中における繊維分散性の要因
本実施例の目的の1つは、繊維分散性の向上をさせるスクリュ形状の最適化であるため、数値解析であるならば総せん断ひずみ量を大きくすることが目標となる。そこで、上式(7)に注目すると、tp:滞留時間が長くなるようなスクリュ形状を考案すればよいことになる。
そこで、過去の研究(井上 玲,田中 達也,荒尾 与史彦,野元 將義,下楠園 壮,“射出成形におけるスクリュ形状の違いによるFRTPの繊維長と分散性”,成形加工,vol26,No.6(2014),pp.276−285参照。)において一番繊維分散性が良好であったダルメージスクリュに注目し、ダルメージ部の途中に1ピッチ分の逆ネジを付けることで、樹脂を逆流させるような形状を設け、部分的に滞留時間が増加するようなスクリュ形状によって繊維分散性向上を試みた。
ここで、繊維分散性については、数値解析で算出される総せん断ひずみ量との相関があることが判明している。そこで、総せん断ひずみ量の大小で繊維分散性の良し悪しを推測した。
図6に各スクリュタイプにおける滞留時間を示す。
図7に各スクリュタイプにおける総せん断ひずみ量を示す。
図6より、ダルメージタイプより、逆ネジが付いているダルメージ+バックタイプの方が、滞留時間が大きくなっている。これは、逆ねじ部によって樹脂がせき止められるか、あるいは逆流するためであると理解される。
そこで、この滞留時間の差が総せん断ひずみ量にどのように影響するのかを考察する。
図7をみると、ダルメージ+バックタイプの方がダルメージタイプよりも高い総せん断ひずみ量であった。これは、ダルメージ+バックタイプの方が、滞留時間が増加しているためである。
以上の結果より、滞留時間を部分的に増加させる形状は、繊維分散性の向上を期待される。この点については、後述のモデル実験でさらに検証することとした。
3 試作スクリュを用いたモデル実験
上述のとおり、ガラス繊維の折損については、平均せん断応力による影響が大きいと考えられる一方で、高い平均せん断応力が発生するスクリュ形状であっても、樹脂が完全に溶融している場合、繊維は折損しにくいこともいくつかの実験から分かってきている。
しかし、実際にシリンダ内を観察することは困難であったため、繊維がどのように折れているかについては、明らかになっていない。
また、繊維分散性については、現在までスクリュ内における繊維挙動を可視化できていないために、繊維の開繊及び分散メカニズムが明らかにされていなかった。
そこで、以下では、擬似流体を用いて完全溶融樹脂を再現し、透明なアクリルシリンダを用いて、ガラス繊維の挙動を可視化し、擬似流体中における繊維折損、擬似流体中の繊維分散性の2つの観点からの検証を行った。
3・1 実験方法
3・1・1 擬似流体中における繊維折損
3・1・1・a 実験試料及び実験装置
試料には、ガラスロービングを12〜14mmにカットしたものを用いた(図8)。また、溶融樹脂に代わる擬似流体として、高粘度のシリコンオイル(信越化学工業(株)製のKF−96H−6万cs)を用いた。
本実験では、ポリプロピレン(PP)を260℃に加熱溶融した場合を想定し、また射出工程はなく計量工程のみであるため、せん断速度域は、約20〜500 1/sとなる。この場合、図9及び下表2に示すように、24.3〜608 1/sのせん断速度域に対応するため、動粘度に換算すると7.2〜15.9万csに相当する。代表粘度を12万csとすると、本実験で用いたシリコンオイルは、実際の溶融樹脂の約1/2倍の動粘度となる。
ここで、図9及び表2は、PP単体の粘度データを示すものである。
実験装置には、東洋機械金属社製の射出成形機(PLASTR ET−40V)を用い、可視シリンダには、アクリルパイプを用いた。
試作スクリュは、上述の3Dデータ(上記「1 スクリュの3Dデータ」参照。)を用いて、武藤工業株式会社製の3Dプリンタ(CubeX Duo)により造形した。
ガラス繊維が白色のため、試作スクリュの材料は、黒のABS樹脂とし、図10に示すように、いくつかのエレメントに分けて造形した。
また、試作スクリュの全長は492mmとし、先端100mmに各種特徴のあるスクリュを設置し、その他は、図10の右図に示すように、フルフライトスクリュとした。
動画撮影には、フォトロン社製の高速度カメラ(FASTCAM−512PCI)を用いた。
実験条件を表3に示す。
3・1・1・b 残存繊維長の測定方法
計量後に可視シリンダ先端に装着してあるバルブを開にし、先端に溜まったガラス繊維とシリコンオイルを採取した。取り出した繊維を平らな容器に分散させ、実体顕微鏡にて繊維を撮影した。撮影した画像をパソコンに取り込み、画像処理ソフトを用いて繊維長を測定した。測定本数は各試作スクリュで400本とした。
繊維長の評価方法には、下式(8)の重量平均繊維長LWを用いた。ここで、Lは各繊維長である。
3・1・2 擬似流体中における繊維分散性
3・1・2・a 実験試料及び実験装置
実験試料及び実験装置は、上記擬似流体中における繊維折損における実験試料及び実験装置と同様であり(上記3・1・1・a参照)、その他、シリコンオイルの挙動を観察するためのトレーサーとして、大きさ2mm×1mmの着色PP(図11)を用いた。
また、動画解解析ソフトには、DITECT社製のDippMotionPROを用い、画像解析ソフトには、GIPM2を用いた。
3・1・2・b 滞留時間及び軸方向速度の測定方法
高速度カメラを用いて、計量中の試作スクリュを通過するトレーサーを撮影し、2種類の方法で滞留時間を測定した。
・滞留時間(全体評価):
トレーサーが試作スクリュ先端に至るまでの時間を計測した。具体的には、各種試作スクリュ形状の始まる位置にトレーサーを配置し、試作スクリュを回転させる。計量中にトレーサーが試作スクリュ先端に至るまでの時間を計測した。
・滞留時間(部分評価):
各種試作スクリュ中を通過するトレーサーの半回転する際の軸方向速度と滞留する時間を計測した。具体的には、動画解析ソフトDippMotionPROを用いて下記の方法で計測した。
すなわち、まず、図12に示すように計測地点をA、Bと定める。ただし、A地点は、逆ネジ部の手前に位置し、B地点は逆ネジ部中に位置している。現フレーム値(X,Y)、前フレーム値(X1,Y1)、フレーム間時間:Tを定義し、x軸方向速度Vxを下式(9)で算出した。ここで、試作スクリュ先端に向かっている場合は負の値に、逆流している場合は正の値となる。
3・1・2・c 繊維分散性測定方法
本実験では、ガラス繊維が白色であるため、開繊した場合は試作スクリュの色である黒色となり、開繊していない場合は、白色が多くを占めることになる。そこで、各試作スクリュの入口、出口付近において5×5mmの画像を抽出し、画像解析ソフトGIMP2にて明度を表すヒストグラムの平均値を用いて、各試作スクリュの入口から出口付近へのガラス繊維画像の明度変化率U[%]を求めた。
明度変化率U[%]の算出式を下式(10)に示す。Uが大きい場合は、繊維分散性が良いと判断し、Uが小さい場合は、繊維分散性が悪いと判断することができる。
3・2 試作スクリュを用いたモデル実験の結果・考察
3・2・1 擬似流体中における繊維折損
3・2・1・a 繊維長測定結果
図13に各試作スクリュにおける残存繊維長を測定した結果を示す。
図14に残存繊維長とシミュレーションで算出した平均せん断応力(上記「2 シミュレーション」参照。)の相関図を示す。
図15に各試作スクリュの残存繊維長分布を示す。
図13より、どの試作スクリュにおいても重量平均繊維長は、約10mmであった。投入したガラス繊維の初期繊維長が12〜14mmであることを考慮すると、繊維折損率は、約16.7〜28.5%であった。
ここで、図15をみると、残存繊維長の分布は、どの試作スクリュにおいても約9〜13mmの領域で約70%を占めている。これより、動粘度6万csのシリコンオイル中であるならば、繊維が折れにくいことが分かった。また、実際の射出成形において投入する繊維の初期繊維長は9mmであるため、上記の結果から繊維はほとんど折れないことが予想される。
次に、図14をみると、平均せん断応力の大小にかかわらず重量平均繊維長がほとんど変わらないことが見て取れる。
従って、ダルメージ+バックタイプのような高いせん断応力を発生させるスクリュ形状であっても、動粘度6万csの溶融樹脂中であれば、繊維は折れにくいことが分かった。
3・2・1・b 動画観察
高速度カメラで撮影した動画から、擬似流体中の繊維の挙動を観察した。
図16にスタンダードタイプにおける繊維画像を示す。
図17にダルメージタイプにおける繊維画像を示す。
図18にダルメージ+バックタイプにおける繊維画像を示す。
ここでは、図17、18に注目し、繊維がどのように折れているかについて考察する。
各試作スクリュともに初期繊維長に比べてピッチが狭いため、ガラス繊維のいくつかは、曲がった状態で運ばれていることが確認できた。しかし、動画観察では、繊維が曲がった状態から折損する現象は見られなかった。従って、曲げによる繊維折損は、起こりくいことがわかった。
3・2・2 擬似流体中における繊維分散性
3・2・2・a 繊維分散性測定結果
図19に滞留時間(全体評価)の結果を示す。
図19より、ダルメージタイプよりもダルメージ+バックタイプの方がより滞留時間が増加しているのが分かる。これはダルメージ+バックタイプに付いている逆ねじ部によってシリコンオイルがせき止められるか、あるいは逆流するためであると理解される。この結果は、図6に示すシミュレーション結果と符合する。
ここで、実際に逆ネジ部でシリコンオイルがせき止められているのか否か、動画解析によってさらに詳しく調査した。
図20、21に、滞留時間(部分評価)の結果を示す。
これらの図からB点の方がA地点に比べて、ダルメージ+バックタイプの軸方向速度が遅くなっていることが分かる。つまり、逆ネジ部に近づくほど速度が落ちているため、シリコンオイルがせき止められることが確認された。
次に、上記滞留時間についての結果が、繊維分散性にどのような影響を及ぼすかを調査した。
図22に各試作スクリュの入口から出口へのガラス繊維画像の明度変化率の結果を示す。
図22より、ダルメージ+バックタイプの方がダルメージタイプよりもより高い明度変化率となった。つまり、ダルメージ+バックタイプの方がより高い繊維分散性が期待できる。これは、ダルメージ部にある逆ネジによってシリコンオイル及びガラス繊維が滞留し、より長い時間複雑な流れや逆ネジ形状の影響を受けて繊維の開繊が進んだためと考えられる。図7を参照しつつ述べたように、シミュレーションにおいても、総せん断ひずみ量は、ダルメージ+バックタイプの方がダルメージタイプよりも増加していることから(上記2・2・2参照。)、滞留時間を部分的に増やすことによって繊維分散性を向上できることが分かった。
3・2・2・b 動画観察
高速度カメラで撮影した動画から、擬似流体中の繊維の挙動を観察した。
まず、図16について考察する。スタンダードタイプの場合、ほとんどのガラス繊維が終始、束のまま流れていった。これは、ガラス繊維の長さに比べてピッチも広く、またシングルフライトであるために、シミュレーションにより算出したように、総せん断ひずみ量が小さかったからと考えられる(図7も参照。)。
一方で、試作スクリュ先端に行くにつれて一部繊維の開繊が見られた。これは、溝が徐々に浅くなるため、高いせん断応力が発生したためと考えられる。ゆえに、浅溝部では、せん断応力により繊維が開繊することが分かった。
次に、図17、18について考察する。
各試作スクリュともピッチがガラス繊維よりも小さいので、フライト間に一部曲がった状態で繊維が運ばれ、時間とともに開繊することが確認できた。一方で、切り欠き部での直接的な開繊は確認することができなかった。
ダルメージタイプとダルメージ+バックタイプを比較すると、ダルメージ+バックタイプの方が出口付近でほとんど開繊された状態であった。これに関しては、逆ネジによってガラス繊維が滞留し、より長い時間逆ねじ部が生み出した複雑な流れにさらされていたことが動画から確認できた。ただし、逆ねじの形状によってはガラス繊維が引っかかるため逆ねじ部に付ける切り欠きの形状は改善の余地がある。
4. 総括
上記実施例では、シミュレーション及びモデル実験により、次のことが分かった。
(1)1条フルフライトのスタンダードタイプよりも3条フルフライトに切り欠きが付いているダルメージタイプの方が高いせん断応力を発生することが分かった(上記シミュレーション結果及び考察、特に、図3、4参照。)。
(2)ダルメージ部の途中に1ピッチ分の逆ネジを付けることによって滞留時間が増加するため、総せん断ひずみ量を増加させることができた(上記シミュレーション結果及び考察、特に、図6,7参照。)。
(3)動粘度6万csの溶融樹脂中であれば、繊維は折れにくいことがわかった(上記モデル実験結果及び考察、特に、図13〜15参照。)。
(4)ガラス繊維の初期繊維長が9mmである場合、完全溶融樹脂中の繊維は、ほとんど折れないことが予想される(上記モデル実験結果及び考察、特に、図15参照。)。
(5)曲げによる繊維折損は、起こりくいことがわかった(上記モデル実験結果及び考察、特に、図16〜18参照。)。
(6)浅溝部では、せん断応力により繊維が開繊することがわかった(上記モデル実験結果及び考察、特に、図16〜18参照。)。
(7)滞留時間を部分的に増加させる形状を付けることによって、繊維分散性を向上させることができる(上記シミュレーション結果及び考察、特に図5〜7、並びに上記モデル実験結果及び考察、特に、図19〜22参照。)。
このように、本発明によれば、シミュレーションのみでは理解が困難な事項(例えば、せん断応力と繊維折損との関係性や、溶融樹脂中の強化繊維の開繊及び分散メカニズム)についても、モデル実験により考察することができた。しかも、実機を用いる必要がないため、コスト、時間の大幅な短縮を実現できるものであった。
なお、上記実施例は、あくまでも本発明を適用した一例について詳説したものに過ぎない。しかし、当業者は、上記実施例を含む明細書の開示に基づき、流動状態の異なる他の種々の成形法においても、本発明を容易に適用し得るであろう。
本発明は、射出成形機又は押出成形機の実機シリンダ内における実機スクリュによる溶融流動体の流動状態を再現し、分析するための方法、装置として好適に利用でき、特に、スクリュ形状の開発を低コスト・短時間で行う手法として好適に利用することができる。

Claims (11)

  1. 繊維強化複合材料の成形の際の射出成形機又は押出成形機の実機シリンダ内における実機スクリュによる溶融流動体の流動状態を再現するための構成部材として、
    前記実機シリンダに対応する可視シリンダと、
    前記実機スクリュに対応し、前記可視シリンダ内に配置される3Dプリンタ製の試作スクリュと、
    前記溶融流動体に対応し、前記可視シリンダ内に供給される、強化繊維が添加された擬似流体と
    を用い、
    前記可視シリンダ内において、前記試作スクリュの作動と前記擬似流体の供給とを行うことにより、実機シリンダ内における実機スクリュによる溶融流動体の流動状態並びに強化繊維の開繊及び折損を再現する、
    シリンダ内流動再現試験方法。
  2. 記可視シリンダの外部から内部を撮影し、前記可視シリンダ内の2以上の地点の明度を測定し、各地点間の明度の変化率を用いて、前記擬似流体中の強化繊維の開繊の度合いを評価する、請求項に記載のシリンダ内流動再現試験方法。
  3. 前記擬似流体がシリコンオイルである、請求項1又は2に記載のシリンダ内流動再現試験方法。
  4. 前記擬似流体が当該擬似流体の流れを追跡するためのトレーサーを含み、前記可視シリンダの外部から内部を撮影して動画解析することにより、前記擬似流体中の前記トレーサーの滞留時間を測定する、請求項1から3までのいずれかに記載のシリンダ内流動再現試験方法。
  5. 繊維強化複合材料の成形の際の射出成形機又は押出成形機の実機シリンダ内における実機スクリュによる溶融流動体の流動状態を再現するための構成部材として、
    前記実機シリンダに対応する可視シリンダと、
    前記実機スクリュに対応し、前記可視シリンダ内に配置される3Dプリンタ製の試作スクリュと、
    前記溶融流動体に対応し、前記可視シリンダ内に供給される、強化繊維が添加された擬似流体と
    を備える、シリンダ内流動再現試験装置。
  6. 前記擬似流体がシリコンオイルである、請求項5に記載のシリンダ内流動再現試験装置。
  7. 前記擬似流体が当該擬似流体の流れを追跡するトレーサーを含む、請求項5又は6に記載のシリンダ内流動再現試験装置。
  8. 請求項1から4までのいずれかに記載のシリンダ内流動再現試験方法により前記試作スクリュを評価する試作スクリュ評価工程を含む、スクリュ形状の設計方法。
  9. スクリュの3Dデータを1種以上用いて、射出成形機又は押出成形機の実機シリンダ内における実機スクリュによる溶融流動体の流動状態をコンピュータ上でシミュレーションし、前記シミュレーションにより所望の計算結果が得られる3Dデータを決定するシミュレーション工程を含み、前記シミュレーション工程により決定した3Dデータを3Dプリンタで造形して作製した試作スクリュを前記試作スクリュ評価工程に用いる、請求項8に記載のスクリュ形状の設計方法。
  10. 前記試作スクリュ評価工程の後、当該試作スクリュ評価工程における評価結果を考慮して、再度、前記シミュレーション工程を行う、請求項9に記載のスクリュ形状の設計方法。
  11. 所望の特性を有するスクリュ形状が得られるまで、前記シミュレーション工程と前記試作スクリュ評価工程とを繰り返し行う、請求項10に記載のスクリュ形状の設計方法。
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