JP6722201B2 - 内眼手術時の酸化ストレス障害に対する水素分子含有予防又は治療薬 - Google Patents

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Description

本発明は内眼手術時の酸化ストレス障害予防又は治療薬に関する。特に、白内障超音波乳化吸引術によって生じる角膜の障害を抑制するために投与される酸化ストレス障害予防又は治療薬に関する。
外科的手術自体が組織への侵襲行為であるため、その結果として酸化ストレスを生じる。特に眼科領域の顕微鏡内眼手術では、強い光源下で眼球の圧迫操作が行われることから、眼組織が光障害や一過性の虚血再潅流障害に起因する酸化ストレスに曝される。酸化ストレスに起因する角膜や網膜組織の障害は予後を悪化させる要因となるため、その適切な治療法が求められている。
白内障は水晶体が混濁した状態をいう。白内障の患者数は高齢化に伴い増加傾向にあり、厚生労働省の統計から日本の総患者数はおよそ100万人程度である。白内障の、眼球内から濁った水晶体を取り出し、瞳孔領を透明化させる必要がある。白内障超音波乳化吸引術は最も広く行われている内眼手術である。白内障超音波乳化吸引術は今日の成人や老人の白内障手術術式の主流で、円周状に水晶体前嚢を切開後、超音波により水晶体の核を破砕し、乳化した核及び皮質を吸引する手法である。超音波は生体に対して破壊的エネルギーとなる機械的な作用を示す。液体に溶解した気体が超音波により微細な気泡と化す現象であるキャビテーションが機械的作用の主な理由であり、これを用いて核を破砕する。しかし、虹彩と角膜に挟まれた前房内で超音波発振が行われるため、角膜内皮細胞に障害が生じる。障害は超音波によって生じる酸化ストレスによる間接的な作用による可能性が示唆されている。障害により水疱性角膜症に移行すると治療にはドナーから提供される角膜移植が必要となる。白内障手術による水疱性角膜症への移行は1000件に1件程度の割合で生じ、日本では年間およそ1000人程度を数えることになり、臨床上大きな問題となっている。
内眼手術としては、硝子体手術においても酸化ストレスが発生し、これが予後に影響することが知られている。硝子体手術は混濁した硝子体を切除し、人工房水あるいは気体、シリコンオイルなどと置換する手術である。従来、高度の光暴露により網膜視細胞で酸化ストレス障害が生じることが報告されているが、硝子体手術においても、術中に用いられる眼内イルミネーションによる光暴露が過酸化脂質の増加などの酸化ストレスを伴う細胞障害を引き起こすことが問題となっている。また、単純な前部硝子体切除のみでも残存硝子体中アスコルビン酸濃度の減少が報告されており、毛様体上皮細胞から硝子体中に拡散するアスコルビン酸が硝子体切除によって生じた酸化ストレスにより消費されてしまう可能性が示唆されている。さらに空気灌流に伴う網膜組織障害や、インドシアニングリーンなどの染色液による網膜組織障害においても、機械的要因に加えてフリーラジカルの関与が大きいと考えられており、硝子体手術は操作手技そのものが網膜細胞への酸化ストレスとなる可能性が示唆されている。
内眼手術による酸化ストレス障害を抑制する試みがなされてきた(特許文献1を参照)。白内障超音波乳化吸引術時には前房内に粘弾性物質(ヒアルロン酸ナトリウム)を注入するが、その酸化ストレス障害抑制効果は限定的である。ビタミンCの効果は実験的には示されているが、副作用の可能性もあり応用に至っていない。硝子体手術では、ラジカルスカベンジャー製剤の有効性について報告されているが、投与法や薬剤の分子量などにより障害組織への到達性に限界があり、副作用の可能性も否定できない。このように内眼手術における酸化ストレス障害を抑制する適切な手段がないのが現状である。
特表2003−507419号公報
本発明は、水素分子を含む内眼手術時の酸化ストレス障害予防又は治療薬、特に白内障超音波乳化吸引術を行う際に投与される水素分子含有酸化ストレス障害予防又は治療薬の提供を目的とする。
発明者らは、ウサギを用いた前房内超音波振動による角膜障害モデル実験において、水素分子含有酸化ストレス障害予防又は治療薬として水素含有灌流液で前房を灌流することにより、酸化ストレス障害の指標となる角膜の混濁が著しく減少することを見いだした。これは、白内障超音波乳化吸引術などの内眼手術時の予防又は治療効果を著しく向上させ得る。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 水素分子を含む内眼手術用酸化ストレス障害予防又は治療薬。
[2] 水素分子が0.4mM以上含まれる、[1]の内眼手術用酸化ストレス障害予防又は治療薬。
[3] 灌流液である[1]又は[2]の内眼手術用酸化ストレス障害予防又は治療薬。
[4] 白内障超音波乳化吸引術の際に投与するための、[1]〜[3]のいずれかの内眼手術用酸化ストレス障害予防又は治療薬。
[5] 内眼手術時に眼へ連続的に灌流投与するための、[4]の内眼手術用酸化ストレス障害予防又は治療薬。
[6] 粘弾性物質の注入と併用される、[4]の内眼手術用酸化ストレス障害予防又は治療薬。
白内障超音波乳化吸引術などの内眼手術時に本発明の水素分子を含んだ内眼手術用酸化ストレス障害予防又は治療薬を眼内で灌流することにより、外科的侵襲、光障害及び一過性の虚血再潅流障害などに起因する酸化ストレス障害を予防することができ、予後を良好に保ち、予防又は治療効果を上げることが可能である。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2016−009784号の開示内容を包含する。
水素ガス入りアクリルボックス下に24時間留置した内眼手術用酸化ストレス障害予防又は治療薬の取り出し後の水素濃度変化を示す図である。 水素ガス入りアクリルボックス下に1週間留置した内眼手術用酸化ストレス障害予防又は治療薬の取り出し後の水素濃度変化を示す図である。 通常灌流液を使用時の角膜浮腫による混濁(図の矢印部分)を示す図である。 水素含有灌流液を使用した場合の角膜(混濁が見られない)の状態を示す図である。 通常灌流液を使用時の角膜浮腫による混濁(白く濁っている)を示す図である。 水素含有灌流液を使用した場合の角膜(透明度が高い)の状態を示す図である。 超音波により増加した角膜濁度の水素含有灌流液による有意な抑制を示す図である。 酸化ストレスによって誘導されるHO−1の水素含有灌流液による有意な抑制を示す図である。 超音波処置によって出現した角膜内皮4−HNE陽性細胞を示す図である。 水素含有灌流液使用時の超音波処置によって出現した角膜内皮4−HNE陽性細胞を示す図である。 超音波処置によって出現した角膜内皮4−HNE陽性細胞数の水素含有灌流液による有意な抑制を示す図である。 超音波処置によって出現した角膜内皮8−OHdG陽性細胞を示す図である。 水素含有灌流液使用時の超音波処置によって出現した角膜内皮8−OHdG陽性細胞を示す図である。 超音波処置によって出現した角膜内皮8−OHdG陽性細胞数の水素含有灌流液による有意な抑制を示す図である。 術前における両眼の前眼部写真(A−1とB−1)と角膜内皮細胞写真(A−2とB−2)である。 術後1日目の前眼部写真(A−1とB−1)と角膜内皮細胞写真(A−2とB−2)である。 術後3週目の前眼部写真(A−1とB−1)と角膜内皮細胞写真(A−2とB−2)である。 術後3週目に前眼部解析装置により角膜厚をマッピングした結果を示す図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の内眼手術用酸化ストレス障害予防又は治療薬は、少なくとも水素分子を含む液体組成物である。水素分子は水又は水溶液中にある程度の時間溶けていることができる。このような水素分子が飽和状態の水又は水溶液は、加圧下において水素ガスを水又は水溶液に溶解させた後に圧力を取り除くことによって簡単に製造し得る。例えば、水溶液を0.4MPa以上の水素ガス圧下に数時間、好ましくは1〜3時間おけばよい。あるいは、水素ガスを満たした容器に水溶液を数日間、好ましくは1日程度入れておけばよい。あるいは大量に水素水を製造する装置を用いて短時間で製造してもよい。このような装置としては、管路を流れている加圧状態の液体に対して直接加圧状態の水素ガスを接触させることにより、水素分子を液体に効率的且つ迅速に溶解させる装置が挙げられる。
25℃、1気圧において水素分子は水1L当たり17.5ml溶存し得る(約0.8mM)。本発明の水素分子を含む液体組成物である内眼手術用酸化ストレス障害予防又は治療薬は、水溶液1L当たり、0.1mM以上、好ましくは0.4mM以上、特に好ましくは0.5mM以上の水素分子を含む。
本発明の内眼手術用酸化ストレス障害予防又は治療薬は、好ましくは眼灌流液として使用される。
本発明の内眼手術用酸化ストレス障害予防又は治療薬は、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム水和物、塩化ナトリウム、リン酸水素ナトリウム水和物、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム水和物、クエン酸ナトリウム水和物、水酸化ナトリウム、塩酸、ブドウ糖などを含む眼灌流液に水素を溶解させ製造することができる。本発明の内眼手術用酸化ストレス障害予防又は治療薬は、さらに、通常の眼灌流液に用いられる角膜内皮のバリアー機能保護作用やポンプ機能保護作用を示す添加剤を含有させることができる。このような添加剤としては、例えばオキシグルタチオンが用いられる。pHは眼灌流液に許容される範囲内にあればよく、およそpH7〜8の範囲が好ましい。
本発明の内眼手術用酸化ストレス障害予防又は治療薬は、白内障超音波乳化吸引術などの内眼手術による予防又は治療を行う際に眼灌流液として投与すればよい。眼灌流液を用いる内眼手術にこれを用いることができ、そうした手術には白内障、硝子体、緑内障手術などを挙げることができる。白内障手術には嚢内摘出術、嚢外摘出術(後房型眼内レンズ挿入術)、超音波乳化吸引術などが挙げられる。硝子体手術には糖尿病網膜症手術、網膜剥離手術などが挙げられる。また、緑内障手術では虹彩切除、トラベクレクトミー、前房形成術などが挙げられる。
本発明の内眼手術用酸化ストレス障害予防又は治療薬の1回の内眼手術における使用量は特に限定されるものでは無い。使用量は術式及び手術時間などにより適宜増減する。およその目安は以下の通りである。
白内障手術 20〜500mL
硝子体手術 50〜4,000mL
緑内障手術 20〜50mL
白内障超音波乳化吸引術では、角膜の形状維持による手術の容易性と角膜内皮細胞の保護を目的に使用されるヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸エステルナトリウム等の粘弾性物質から成る眼粘弾剤と併用することができる。眼粘弾剤を眼内に注入後、円周状に水晶体前嚢を切開する。ここで本発明の内眼手術用酸化ストレス障害予防又は治療薬を灌流液として水晶体内に注入しながら、超音波により水晶体の核を破砕し、乳化した核及び皮質を吸引する。さらに眼内レンズを挿入後、内眼手術用酸化ストレス障害予防又は治療薬を用いることで眼圧を正常復帰させることができる。これにより超音波によって生じる酸化ストレス障害の抑制が可能となり、水疱性角膜症への移行が抑制される。
本発明の内眼手術用酸化ストレス障害予防又は治療薬を灌流液として用いた場合の効果は、肉眼又は顕微鏡下で角膜の混濁の有無を観察することにより確認することができる。本発明の内眼手術用酸化ストレス障害予防又は治療薬を用いることにより角膜の混濁が有意に抑制される。
また、酸化ストレスにより誘導される因子であるヘムオキシゲナーゼ−1(HO−1)の角膜内皮細胞における発現を確認してもよい。発現は、mRNAの測定により確認することも、タンパク質の測定により確認することもできる。本発明の内眼手術用酸化ストレス障害予防又は治療薬を用いることにより角膜内皮細胞におけるHO−1の発現は有意に抑制される。
また、角膜内皮細胞における酸化ストレスマーカーとして脂質の過酸化を示す4−ヒドロキシノネナール(4−HNE)と核酸の酸化を示す8−ヒドロキシ−2−デオキシグアノシン(8−OHdG)を測定してもよい。本発明の内眼手術用酸化ストレス障害予防又は治療薬を用いることにより4−ヒドロキシノネナール(4−HNE)又は8−ヒドロキシ−2−デオキシグアノシン(8−OHdG)陽性細胞数は有意に減少する。
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実施例では家兎を用いた前房内超音波振動による角膜障害モデルを作製し、作製時に内眼手術用酸化ストレス障害予防又は治療薬を灌流することで本発明の効力を確認した。障害モデル作製から5時間後、各解析を行った。動物の取り扱いは日本医科大学動物実験委員会の承認を得て、眼及び視覚研究における動物利用のARVO宣言に従った。
臨床における実施例では、高度な両白内障の患者について両眼で超音波水晶体乳化吸引術を実施し、片眼にのみ水素含有眼内灌流液を使用することで本発明の効力を確認した。臨床研究は日本医科大学倫理委員会の承認を得て、厚生労働省の「臨床研究に関する倫理指針」に従った。
内眼手術用酸化ストレス障害予防又は治療薬を以下の方法で調製した。オペガード(登録商標)ネオキット眼内灌流液0.0184%(千寿製薬)1袋(500mL)を100%の水素ガスで満たしたアクリルボックス(内寸 260W x 260D x 100H、アクリル真空デシケーターSNS型;サンプラテック製)に24時間又は1週間留置した。次いで、アクリルボックスから取り出した後の眼内灌流液内水素濃度変化を測定した。水素濃度の測定には、測定直前に純水とその水素飽和水で2点補正したニードルタイプの水素センサー(H2−N;Unisense製)を使用した。24時間留置では開封時の水素濃度は0.49mM(飽和の60%)であった。さらに開封後30分では0.41mM(飽和の50%)であった(図1)。また、1週間留置では開封時の水素濃度は0.53mM(飽和の65%)であった。さらに開封後30分では0.45mM(飽和の55%)であった(図2)。本実施例では、ボックスに24時間留置して開封後30分を経た内眼手術用酸化ストレス障害予防又は治療薬を便宜上「水素含有灌流液」、水素添加前の灌流液を「通常灌流液」と呼び、以下の実施例に用いた。
ケタミン(30mg/kg体重、商品名ケタラール;第一三共)とキシラジン(4mg/kg体重、商品名セラクタール;バイエル薬品)を用いて常法に従い麻酔をかけた家兎(体重は2.5kgから3.0kg、日本白色ウサギ;日本エスエルシー)を横向けにし、眼球に散瞳薬としてトロピカミド・フェニレフリン点眼液(商品名ミドリンP点眼液;参天製薬)と点眼麻酔としてオキシブプロカイン塩酸塩液(商品名ベノキシール点眼液;参天製薬)を点眼した。眼科用スリットナイフで角膜切開を行い、白内障手術装置(Stellaris(登録商標);ボシュロム)に接続した超音波チップを前房内に挿入した。白内障手術装置をヒトの白内障手術での使用時と同等の条件(超音波出力30%、連続発振90秒、吸引圧185mmHg、灌流ボトル高75cm、灌流量25mL/分)に設定して超音波発振を行った。発振後、超音波チップを引き抜いて家兎を安静にさせた。
超音波発振5時間に前眼部を手術顕微鏡で確認した。通常灌流液を使用した場合、角膜浮腫による混濁を確認した(図3;矢印)。水素含有灌流液を使用した場合、ほとんどのケースで角膜混濁を認めなかった(図4)。
超音波発振5時間に角膜を円形に切り出し実体顕微鏡でデジタル画像(幅240mm x 高さ180mmを幅640ピクセル x 高さ480ピクセル)を撮影した。通常灌流液を使用した角膜(図5)に対して、水素含有灌流液を使用した角膜(図6)は超音波による混濁が減少した。角膜の混濁を評価するため、角膜中心部(500ピクセル x 500ピクセル、計250,000ピクセル)における混濁(白濁部分)を画像解析ソフトImageJ(NIH)により数値化したところ、水素含有灌流液を使用した角膜では混濁の有意な低下が見られた(図7)。
ヘムオキシゲナーゼ−1(HO−1)は酸化ストレスにより誘導される因子である。上流には転写因子のNrf2や低酸素誘導因子のHIF1が存在する。このためHO−1の発現は酸化ストレスの強弱を測定するマーカーとして用いることができる。そこで、角膜内皮細胞におけるHO−1の発現をmRNAの転写レベルで検討した。測定にはサイバーグリーンを使用した定量PCR法を用いた。具体的には、超音波発振5時間に単離した角膜からRNA抽出キット(Qiagen社)を用いて全RNAを抽出した。これをRT−PCRキット(タカラバイオ社)を用いて逆転写し、相補的DNAを得た。次いで、Takara Ex Taq(タカラバイオ社)と以下に示すDNAプライマー対を用いて定量PCRを行った。尚、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)のmRNAも同時に定量し、内部標準とした。
使用したそれぞれのDNAプライマー対は以下のとおりであった。
PCR装置は7500Fast Real−Time PCR System(ライフテクノロジー社製)を使用し、PCRサイクルは90℃10秒後、95℃5秒と60℃34秒を40回行った。その結果、超音波によって生じた活性酸素がHO−1を誘導するが、水素含有灌流液による活性酸素の減少により、HO−1の発現が有意に減少していた(図8)。
角膜内皮細胞における酸化ストレスマーカーとして脂質の過酸化を示す4−ヒドロキシノネナール(4−HNE)と核酸の酸化を示す8−ヒドロキシ−2−デオキシグアノシン(8−OHdG)について検討した。検出は4−HNE及び8−OHdGの免疫抗体染色で行った。まず、ブアン液にて1時間固定を行い、内皮細胞を上面とし角膜のフラットマウントを作製した。免疫染色はVECTASTAIN ABCシステム(フナコシ)を用い、1次抗体に用いた抗4−HNE抗体と抗8−OHdG抗体は日本老化制御研究所より入手し、各30倍の濃度で使用した。2次抗体にはビオチン標識抗マウスIgG抗体66x倍の濃度で使用した。検出にはアビジン−ビオチン標識ペルオキシダーゼ複合体とその基質である3,3’−ジアミノベンジディン(DAB)を用いた。超音波によって角膜内皮の4−HNE陽性細胞数が増加したが(図9)、水素含有灌流液によりその数は激減した(図10)。4−HNE陽性細胞数をカウントしたところ、有意な減少を見た(図11)。超音波によって角膜内皮の8−OHdG陽性細胞数が増加したが(図12)、水素含有灌流液によりその数は激減した(図13)。8−OHdG陽性細胞数をカウントしたところ、有意な減少を見た(図14)。
以上の実験から、白内障超音波乳化吸引術を含む内眼手術における酸化ストレス障害を抑制する為に、水素分子を含む内眼手術時の酸化ストレス障害予防又は治療薬で眼内を灌流することによって、予後を良好に保つことが予測できた。
エメリー分類4.5で術前視力が0.01の高度な両白内障の66才女性について、両眼で超音波水晶体乳化吸引術を実施した。
患者の詳細な症例は以下のとおりであった。
患者:
66才、女性、両白内障(エメリー分類;両4.5)
使用眼内灌流液
:右眼;水素含有眼内灌流液(実施例1に記載の方法で調製)、左眼;通常眼内灌流液(オペガードネオキット眼灌流液0.0184%、千寿製薬株式会社)
超音波発振条件:
使用機器名;Stellaris、ボシュロム・ジャパン株式会社、条件;右眼Ave27%APT 70.15秒 EPT 18.94秒 左眼Ave25% APT 67.1秒 EPT 16.78秒 (Ave;平均超音波出力、APT;実超音波発振時間、EPT;等価超音波発振時間)
視力変化:
術前;両眼0.01、術後1日目;右眼0.8左眼0.4、術後1週目;両眼0.9、術後3週目;右眼1.0 左眼0.8
角膜内皮細胞数(個/平方ミリメートル)変化:
術前;右2890 左2994、術1日目;右2833 左613、術1週目;右2899 左1106、術3週目;右2907 左1186
右眼については本発明の水素含有眼内灌流液を用い、左眼は水素を含まない通常の眼内灌流液を用いて超音波をかけて水晶体を乳化した。
図15は、術前における両眼の前眼部写真(A−1とB−1)と角膜内皮細胞写真(A−2とB−2)である。両眼の角膜内皮細胞にほとんど差はない。
図16は、術後1日目の前眼部写真(A−1とB−1)と角膜内皮細胞写真(A−2とB−2)である。通常の眼内灌流液を用いた左眼では、角膜浮腫(B−1)や角膜内皮細胞の脱落(B−2)が見られたが、水素含有眼内灌流液を用いた右眼ではそのような所見は見られなかった(A−1とA−2)。
図17は、術後3週目の前眼部写真と角膜内皮細胞写真である。通常の眼内灌流液を用いた左眼では角膜浮腫が残存(B−1)し、角膜内皮細胞数が顕著に低下(B−2)したが、水素含有眼内灌流液を用いた右眼ではそのような所見は見られなかった(A−1とA−2)。
図18は、術後3週目に前眼部解析装置(Pentacam,Oculus社,ドイツ)により角膜厚をマッピングした結果である。通常の眼内灌流液を用いた右眼では、角膜浮腫のため11時方向の角膜厚が大きくなっている(B;水色(モノクロでは白色)の部分)。
両眼での超音波発振条件はほぼ同等であったにもかかわらず、術後の視力は水素含有眼内灌流液を使用した右眼で高い値を示し、左眼で見られた角膜内皮数の減少と角膜浮腫は右眼では認められなかった。
従って、水素含有眼内灌流液を用いて手術した右眼は通常眼内灌流液を用いて手術した左眼よりも予後は顕著に良好であった。この結果は、水素含有眼内灌流液の有効性を示している。
本発明の水素分子を含む内眼手術時の酸化ストレス障害予防又は治療薬は、内眼手術において酸化ストレス障害を抑制する為に投与する内眼手術酸化ストレス障害予防又は治療薬として有用である。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
[配列表]

Claims (4)

  1. 白内障超音波乳化吸引術の際に投与するための、水素分子を0.4 mM以上及びグルタチオンを含む灌流液である、内眼手術用酸化ストレス障害予防又は治療薬。
  2. グルタチオンがオキシグルタチオンである、請求項記載の内眼手術用酸化ストレス障害予防又は治療薬。
  3. 内眼手術時に眼へ連続的に灌流投与するための、請求項1又は2に記載の内眼手術用酸化ストレス障害予防又は治療薬。
  4. 粘弾性物質の注入と併用される、請求項1又は2に記載の内眼手術用酸化ストレス障害予防又は治療薬。
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