JP6720433B2 - イソプレンの製造方法 - Google Patents

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本発明は、イソプレンの製造方法に関し、より詳細には、非可食性バイオマスを原料とするイソプレンの製造方法に関する。
従来、合成ゴム(ポリイソプレン)の原料であるイソプレン(2−メチル−1,3−ブタジエン;C5H8)は、専ら、ナフサ分解のC5留分から分離・精製されているところ、将来の石油資源の枯渇に備えて、石油資源に依存しないイソプレンの製造方法が求められている。
一方、天然ゴムのモノマーであるイソプレンは、植物の葉緑体内で2-C-メチル-D-エリトリトール-4-リン酸経路(MEP経路、非メバロン酸経路)によって生成されることが知られており、この生成反応を司るイソプレンシンターゼ遺伝子がポプラ(ポプラ・アルバ×ポプラ・トレムラ、ポプラ・アルバ、ポプラ・ニグラ)やクズから単離されている(非特許文献1)。
近年、これら植物由来のイソプレンシンターゼ遺伝子を宿主細胞に導入することによってイソプレンを生化学的に合成することが検討されており、シアノバクテリア(Synechocystis)、サッカロミセス・セレビジエ(酵母;Saccharomyces cerevisiae)、大腸菌(Escherichia coli)、バチルス・サブティリス(枯草菌;Bacillus subtilis)を宿主とし、サトウキビなどの穀物(可食性バイオマス)を原料としてイソプレンを生化学的に合成した例が報告されている(例えば、非特許文献2、非特許文献3、特許文献1)。
しかしながら、原料にサトウキビなどの穀物を使用する場合、飼料・食糧用途との競合による価格高騰が懸念されるという問題があり、また、飢餓で苦しむ発展途上国を尻目にそのような穀物を工業用途に利用することに道義的な問題もある。
特表2011−505841号公報 Sharkey, T. D., Yeh, S., Wiberley, A. E., Falbel, T. G., Gong, D. M., Fernandez, D. E.,"Evolution of the isoprene biosynthetic pathway in Kudzu." Plant Physiology,1 37(2).700-712. Hong, S. Y., Zurbriggen, A. S.,Melis, A."Isoprene hydrocarbons production upon heterologous transformation of Saccharomyces cerevisiae." Journal of Applied Microbiology. 113. 52-65.(2012). Zurbriggen, A., Kirst, H., Melis, A. "Isoprene Production Via the Mevalonic Acid Pathway in Escherichia coli (Bacteria) ." Bioenergy Research,5(4). 814-828 (2012).
本発明は、上記従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、本発明は、非可食性バイオマスを原料としてイソプレンを製造するための新規な製造方法を提供することを目的とする。
本発明者は、非可食性バイオマスを原料としてイソプレンを製造する方法について鋭意検討を行う過程で、木質系バイオマスや草本系バイオマスに含まれるリグノセルロースを炭素源とする着想を得た。そして、リグノセルロース分解酵素を持つ担子菌にイソプレンシンターゼ遺伝子を導入してなる形質転換体が、リグノセルロースを炭素源としてイソプレンモノマーを生化学的に合成することを実験により明らかにし、本発明に至ったのである。
すなわち、本発明によれば、担子菌においてイソプレンシンターゼを発現するためにコドンが最適化されたイソプレンシンターゼ遺伝子を該担子菌に導入してなる形質転換体を、非可食性バイオマス由来のリグノセルロースを炭素源として培養することを特徴とするイソプレンの製造方法が提供される。
上述したように、本発明によれば、非可食性バイオマスを原料としてイソプレンを製造するための新規な製造方法が提供される。
以下、本発明を実施の形態をもって説明するが、本発明は、以下に示す実施の形態に限定されるものではない。
まず、イソプレンシンターゼ遺伝子を導入する宿主細胞として用いる担子菌について説明する。
本発明の宿主に用いる担子菌としては、リグノセルロース上に生育できる担子菌であればどのような種類でも良く、例えば、ハラタケ類、ヒダナシタケ類に属する担子菌や、ヒラタケ属、マイタケ属、エノキタケ属、シイタケ属、スギタケ属、フミヅキタケ属、ハラタケ属、スエヒロタケ属、セリポリオプシス属、ディコミタス属、トラメテス属、ファネロケエテ属に属する担子菌を利用できる。具体的な微生物としては、例えば、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)、マイタケ(Grifola frondosa)、エノキタケ(Flammulina velutipes)、シイタケ(Lentinula edodes)、スエヒロタケ(Schizophyllum commune)、セリポリオプシス・サブバーミスポーラ(Ceriporiopsis subvermispora)、ディコミタス・スクアレンス(Dichomitus squalens)、ファネロケエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)を用いることができるが、これ以外の担子菌を用いることもできる。
これらの担子菌は、例えば、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)であれば、Spanish Type Culture Collection からCECT 20311として入手可能な株を使用できる。また、マイタケ(Grifola frondosa)であれば、例えば独立行政法人製品評価技術機構(NITE)から、NBRC 4911株として入手可能な株を使用できる。また、エノキタケ(Flammulina velutipes)であれば、例えば、NITEからNBRC 4901として入手可能な株を使用できる。また、シイタケ(Lentinula edodes)であれば、例えばNITEから、NBRC 31116株として入手可能な株を使用できる。また、スエヒロタケ(Schizophyllum commune)であれば、例えばNITEから、NBRC 4928株として入手可能な株を使用できる。
また、エノキタケ(Flammulina velutipes)であれば、例えばNITEからNBRC 30493株として入手可能な株を使用できる。また、アラゲカワラタケ(Trametes hirsuta)であれば、例えばNITEから、NBRC4917株として入手可能な株を使用できる。また、セリポリオプシス・サブバーミスポーラ(Ceriporiopsis subvermispora)であれば、例えばATCC(American Type Culture Collection)から、ATCC 90467株として入手可能な株を使用できる。また、ディコミタス・スクアレンス(Dichomitus squalens)であれば、例えばATCC201541株として入手可能な株を使用できる。また、ファネロケエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)であれば、例えばATCC20696株として入手可能な株を使用できる。
以上、宿主細胞として用いる担子菌について説明したが、次に、本発明において用いるプロモーターおよびイソプレンシンターゼ遺伝子について説明する。
本発明に用いる担子菌においてイソプレンシンターゼ遺伝子を発現させるために使用可能な担子菌由来のプロモーターとしては、プロモーターの作用を有する遺伝子断片であれば特に限定されることなく、あらゆる遺伝子のプロモーターを使用することができる。例えば担子菌のGPD(グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ)遺伝子プロモーター、ras遺伝子プロモーター、β-tublin遺伝子プロモーター、リグニン分解酵素遺伝子プロモーター、セルラーゼ遺伝子プロモーター等が挙げられる。これらのプロモーターは、ジーンバンクに登録される配列、文献記載の配列等に基づいて周知のゲノムクローニングまたはPCR法によっても取得可能である。あるいは、寄託されている遺伝子については、分譲請求により入手可能なものを利用することができる。
本発明においては、例えば、公知であるポプラ(ポプラ・アルバ×ポプラ・トレムラ、ポプラ・アルバ、ポプラ・ニグラ)やクズから単離したイソプレンシンターゼ遺伝子を使用してもよいが、本遺伝子配列の情報を元に合成したイソプレンシンターゼ遺伝子を使用することが好ましい。イソプレンシンターゼ遺伝子を合成する場合、コドン使用頻度を基に担子菌に適した遺伝子配列に変換して使用することが好ましい。
本発明者は、ポプラ(ポプラ・アルバ×ポプラ・トレムラ、ポプラ・アルバ、ポプラ・ニグラ)とクズ由来のイソプレン合成遺伝子情報を用いて試行錯誤した結果、担子菌においてイソプレンシンターゼを発現するためにコドンが最適化されたイソプレンシンターゼ遺伝子の合成に成功した。当該イソプレンシンターゼ遺伝子は、配列番号1および配列番号2に示す塩基配列を有する。なお、配列番号1および配列番号2に示す塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加される配列であっても、担子菌においてイソプレンシンターゼを発現させうるものであれば、本発明におけるイソプレンシンターゼ遺伝子として使用することができる。
以上、プロモーターおよびイソプレンシンターゼ遺伝子ついて説明したが、次に、本発明において炭素源として用いるリグノセルロースについて説明する。
本発明において炭素源として用いるリグノセルロースは、光合成により生産される有機資源であり、エネルギー源または化学原料として利用可能であり、生産量と利用量の調和をとれば、炭酸ガスを増加させることなく永久に利用できる再生可能資源である。リグノセルロースは、細胞内含有成分、リグニン、ヘミセルロース、セルロース等の成分により構成されており、成分比はバイオマスの種類によって異なっている。例えば、木質系のリグノセルロースは、約5%の細胞内含有成分、20〜25%のリグニン、20〜25%のヘミセルロース、約50%のセルロースから構成されている。
本発明に用いるリグノセルロースの種類は特に限定されず、木質系バイオマスや草本系バイオマスを用いることができる。木質系バイオマスとしては、例えば、マツ、スギ、モミ、トウヒ、ダグラスファーまたはラジアータパイン等の針葉樹や、ブナ、カバ、ハンノキ、カエデ、ユーカリ、ポプラ、アカシア、ラワン、アスペンまたはゴム等の広葉樹の木材をあげることができる。草本系バイオマスであれば、例えば、ケナフ、マニラ麻、コーンストーバー、コーンコブ、タケ、バガス、麦わら、コットンリンター、アシ、亜麻、楮または三椏のいずれでも用いることができる。また、これらのリグノセルロースが、単独に使用されても良いし、複数の種類を使用しても良い。
また、リグノセルロースは、物理的に破砕された状態で使用することが好ましく、例えば、木質系バイオマスであれば、機械的に2〜3cm、厚さ約5 mmの大きさに小片化した木材チップが挙げられる。また、リグノセルロースとしては、紙、古紙、パルプを用いることができる。紙・パルプを分離・取得する方法としては、化学パルプ化法、機械パルプ化法およびセミケミカルパルプ化法などの公知の方法を使用できる。当該公知の方法として「Sambrook, J et al., Molecular Cloning 2nd ed., 9.47-9.58, Cold Spring Harbor Lab. press (1989))」に記載される方法を例示することができる。
パルプの製造原料としてはどのようなものでも良く、木材、ケナフ、マニラ麻、コーンストーバー、コーンコブ、タケ、バガス、麦わら、コットンリンター、アシ、亜麻、楮または三椏のいずれでも用いることができる。パルプ中に含まれる化学組成は、セルロース、ヘミセルロースが多く含まれていることが好ましいが、リグニンが含まれていても良い。
本発明に用いるリグノセルロースの前処理法としては、前処理後のリグノセルロースの比表面積を、前処理前と比べて増加させる方法、あるいは、前処理によりリグニンが部分的に除去され、前処理後のリグノセルロース中のリグニン含有量が低下するのであれば、どのような前処理を施しても良い。
例えば、前処理によりリグノセルロースの比表面積を増加させる物理的方法としては、公知の機械パルプの製造法を用いることができる。また、前処理によりリグノセルロース中のリグニン含有量を低下させる化学的方法としては、公知の化学パルプの製造法を用いることができる。上述した公知の方法として、「紙パルプ製造技術シリーズ、第1巻クラフトパルプ、第2巻メカニカルパルプ、紙パルプ技術協会編」に記載される方法を例示することができる。
また、前処理の際に使用する薬品には制限がなく、例えば、水酸化ナトリウム、硫化ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カルシウム、オゾン、酸素、塩素、次亜塩素酸、過酸化水素、二酸化塩素を単独、または複数組み合わせて使用することができる。また、上記の薬品存在下、あるいは非存在下で、リグノセルロースを高温高圧下で処理する方法も用いることができる。また、前処理時に、アントラキノン等のキノン構造を有する薬品や界面活性剤を同時に添加しても良い。
以上、炭素源として用いるリグノセルロースについて説明したが、次に、本発明の方法における担子菌の形質転換について説明する。
本発明に用いるベクターの種類は特に限定されないが、自律複製可能または染色体中に相同組換え可能なベクターを使用することができる。プラスミド、ファージを含むウイルス、コスミドなどである。ベクターは、選択マーカー、複製開始点、ターミネーター、ポリリンカー、エンハンサー、リボゾーム結合部位などを適宜含むことができる。種々のベクターが市販されているか、あるいは、文献等に記載されている。
ベクターへの遺伝子の連結は、例えば、公知の方法を用いて実施することができる。当該公知の方法として「Sambrook, J et al., Molecular Cloning 2nd ed., 9.47-9.58, Cold Spring Harbor Lab. press (1989))」に記載される方法を例示することができる。組換えDNAを環状のまま形質転換に用いることも可能である。また他の生物由来の遺伝子を同時に形質転換することを避けるために、必要な領域のみを切り出して形質転換に供することも可能である。
本発明における形質転換法は、公知の方法を用いることができる。当該公知の方法として「Honda, Y. Matsuyama, T. Irie, T., Watanabe, T., Kuwahara, M. “Carboxin resistance transformation of the homobasidiomycete fungus Pleurotus ostreatus.” Current Genetics. 37(2),209-212(2000).」に記載される方法の他、塩化カルシウム/PEG法、エレクトロポーレション法、プロトプラスト法、リポフェクション法などを例示できるが、これらに限定されない。
以上、担子菌の形質転換について説明したが、次に、形質転換体の培養方法について説明する。
本発明における形質転換体の培養方法としては、形質転換体をバッチ培養法、流加培養法、連続培養法等の公知の発酵方法を用いて培養する方法が挙げられる。
バッチ培養法は、発酵開始時に培地組成物を仕込み、形質転換体を培地に植菌し、pHや酸素濃度等の制御を行いながら形質転換体の培養を行う方法である。バッチ培養法による形質転換体の培養において、形質転換体は、穏やかな誘導期から対数増殖期を経て最終的に成長速度が減少または停止する定常期に至る。イソプレンは、対数増殖期や定常期の形質転換体によって産出される。
流加培養法は、発酵プロセスが進行するに従い徐々に炭素源を添加する方法である。流加培養法は、カタボライト抑制により形質転換体の代謝が抑制される傾向があり、培地中の炭素源の量を制限することが好ましいときに有効である。流加培養法は、制限された量または過剰な量のリグノセルロース、あるいは前処理後のリグノセルロースを炭素源として用いて行うことができる。
連続培養法は、一定の速度でバイオリアクターに所定量の培地を連続的に供給しながら、同時に同量の培養液を抜き取る培養法である。連続培養法では培養物を一定の高密度に保つことができ、培養液中の形質転換体は主に対数増殖期にある。適宜、培地の一部または全部を入れ換えることにより、栄養素の補給を行うことができ、形質転換体の生育に悪影響を及ぼす可能性のある代謝副産物、及び死細胞の蓄積を防ぐことができる。
本発明の形質転換体の培養に用いる培地は、本発明の形質転換体が生育できるのであればどのような培地も用いることができる。炭素源としては、例えば、グルコース、セロビオース、デンプン、非晶性セルロース等を使用することができる。また、窒素源としては、例えば、酵母エキス、ペプトン、各種アミノ酸、大豆粕、コーンスティープリカー、尿素や各種無機窒素などの窒素化合物を用いることができる。さらに、必要に応じて、各種塩類やビタミン、ミネラル等を適宜用いることができる。また、形質転換体を滅菌水とともに粉砕し、リグノセルロース材料に対して植菌して培養することができるが、この際、リグノセルロースに上記培地を添加して処理してもよい。
本発明における多糖類から単糖類への加水分解は、主に形質転換体が生産するセルラーゼやヘミセルラーゼにより行うことができ、リグノセルロース中に含まれるリグニンは、主に形質転換体が生産するリグニン分解酵素により分解をすることができるが、イソプレンモノマーの生産量を増加させる上で、形質転換体を培養する培地に対して、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、リグニン分解酵素の中から選ばれる少なくとも一種類の酵素を添加することが好ましい。例えば、形質転換の培養時にセルラーゼ、ヘミセルラーゼ、リグニン分解酵素を含む微生物の培養液を添加しても良いし、市販のセルラーゼ、ヘミセルラーゼ、リグニン分解酵素を添加しても良い。また、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、リグニン分解酵素を生産する微生物を、形質転換体と共に培養しても良い。
本発明に用いるセルラーゼを含む微生物が培養する培養液、並びにセルラーゼは、どのような微生物由来でも良く、細菌であれば、例えばアセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum), セルロモナス・フィミ(Cellulomonas fimi)、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)由来のセルラーゼを使用できるし、糸状菌であれば、例えば、アルペルギルス・アクレータス(Aspergillus aculeatus),アスペルギルス・ナイジャー(Aspergilus niger)、ヒューミコラ・グリセア(Humicola grisea),ヒューミコラ・インソレンス(Humicola insolens),トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei), トリコデルマ・ビリデイ(Trichoderma viridie)の生産するセルラーゼを用いることができる。
本発明に用いるセルラーゼを構成する酵素としては、エンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ、セロビオースデヒドロゲナーゼ、β-グルコシダーゼの中で、いずれか一種類以上含まれることが好ましく、例えば市販のセルラーゼであるCellic CTec3(Novozemes社製)やAccellerase(DuPont Industrial Biosciences)を用いることができる。
また、本発明に用いるヘミセルラーゼとしては、本発明に用いるリグノセルロースが広葉樹の場合や、草本系リグノセルロースの場合には、主にキシラナーゼが含まれていることが望ましく、リグノセルロースが針葉樹である場合には、主にマンナナーゼを含むことが望ましい。また、本発明に用いるリグニン分解酵素としては、担子菌由来のマンガンペルオキシダーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、バーサタイルペルオキシダーゼを用いることができる。マンガンペルオキシダーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、バーサタイルペルオキシダーゼを使用する場合には、過酸化水素を添加することにより、酵素反応を効率的に行うことができる。
以上、形質転換体の培養方法について説明したが、次に、担子菌由来の形質転換体とリグノセルロースからイソプレンモノマーを製造する方法について説明する。
本発明に使用するリグノセルロース、ならびに前処理後のリグノセルロースは、本発明の形質転換体が十分に生育するのであれば、滅菌をすることなくそのまま用いることができるが、他の微生物の殺菌を実施した方が本発明の形質転換体が生育しやすいのであれば、オートクレーブやスチーミング等の処理により、リグノセルロース材料を予め処理することが好ましい。
リグノセルロース、ならびに前処理後のリグノセルロースを、本発明の形質転換体で処理する温度は10〜60℃が好ましく、さらに好ましくは20〜30℃である。液体培養を行う際のリグノセルロース中の水分は80%以上が好ましく、固体培養を行う際のリグノセルロース中の水分は20〜80%、好ましくは30〜50 %とするのがよく、形質転換体を接種後のリグノセルロースへの空気供給量は、担子菌が十分に生育可能であれば必要ないが、通常、液体培養の場合には、培地容積1L当たりに供給する空気量が毎分0.001〜1 L/(L・min)(以下、空気供給量の単位 L/(L・min)をvvmと称する)とするのがよく、好ましくは、培地容積当たり0.01 vvm〜0.1 vvmである。また、固体培養の場合には、対チップもしくはリグノセルロース材料容積1L当たりに供給する空気量が毎分0.001 vvm〜1 vvmとするのがよく、好ましくは、対チップもしくはリグノセルロース材料容積当たり0.01 vvm〜0.1 vvmである。
本発明の形質転換体は、培地中の炭素源から、イソプレンモノマーを主にアウトガスとして生産するため、形質転換体から発生するガスを採取することにより、イソプレンモノマーが回収される。また、イソプレンモノマーを重合してイソプレンポリマー生成する工程は、当該分野で公知の任意の方法により行うことができる。イソプレンポリマーを製造時において使用するイソプレンモノマー原料中に存在する形質転換体由来のイソプレンモノマーの割合には制約がなく、任意を割合で使用することができる。
以上、説明したように、本発明によれば、リグノセルロースを炭素源としてイソプレンを生化学的に合成することが可能になるので、コスト面や道義上の問題を抱える可食性バイオマスに依存することなく、木質系バイオマスや草本系バイオマスなどの非可食性バイオマスを原料としてイソプレンを効率的に製造することが可能になる。
以上、本発明について実施形態をもって説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、当業者が推考しうる実施態様の範囲内において、本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されない。
<実施例1:担子菌用イソプレンシンターゼ遺伝子の調製>
(1−1)Pueraria montana var.lobata(クズ)由来イソプレンシンターゼ遺伝子の調製
P.montana var.lobata(クズ)由来のイソプレンシンターゼの塩基配列、及びアミノ酸配列は公知である(アクセッション番号: AAQ84170)。担子菌に効率的にイソプレンシンターゼ発現させるために、担子菌におけるコドン使用頻度を基に、P.montana(クズ)由来のイソプレンシンターゼ遺伝子の塩基配列を担子菌のために最適化し、更に葉緑体移行シグナルを切断した配列番号1に示す塩基配列を有するイソプレンシンターゼ遺伝子を設計後、DNAの化学合成を行い、これをIspSKBと名付けた。IspSKBは、pUC18(タカラバイオ社製)にクローニングし、pIspSKBと名付けた。
(1−2)Populus alba × Populus tremula(ポプラ)由来イソプレンシンターゼ遺伝子の調製
P.alba × P.tremula(ポプラ)由来、イソプレンシンターゼの塩基配列、及びアミノ酸配列は公知である(アクセッション番号: CAC35696)。担子菌で効率的にイソプレンシンターゼ発現させるために、担子菌におけるコドン使用頻度を基に、P.alba × P.tremula(ポプラ)由来のイソプレンシンターゼ遺伝子の塩基配列を担子菌のために最適化し、更に葉緑体移行シグナルを切断した配列番号2に示す塩基配列を有するイソプレンシンターゼ遺伝子を設計後、DNAの化学合成を行い、IspSPBと名付けた。IspSPBはpUC18(タカラバイオ社製)にクローニングし、得られたプラスミドをpIspSPBと名付けた。
<実施例2:担子菌[ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)]由来GPDプロモーターを用いた担子菌用イソプレンシンターゼ発現ベクターの構築>
(2−1)Pueraria montana var.lobata(クズ)由来担子菌用イソプレンシンターゼ発現ベクターの構築
ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)におけるイソプレンシンターゼ発現ベクターの構築は、公知の方法であるダブルジョイントPCR法を用いて行った。具体的には、「Yu, J. H., Hamari, Z., Han, K. H., Seo, J. A., Reyes-Dominguez,Y., Scazzocchio, “C.Double-joint PCR: a PCR-based molecular tool for gene manipulations in filamentous fungi.” Fungal Genetics and Biology. 41(11). 973-981. (2004).」に記載された方法に則ってイソプレンシンターゼ発現ベクターを構築した。
実施例(1−1)で作製したクズ由来担子菌用イソプレンシンターゼ遺伝子(IspSKB)を担子菌で発現させるために、プロモーターとして恒常的な発現が知られているヒラタケ(P. ostreatus)のGPD遺伝子のプロモーター領域を用いた。ヒラタケ(P. ostreatus)のGPD遺伝子のプロモーター領域を得るために、ヒラタケ(P. ostreatus)のゲノムDNAをテンプレートにして、配列番号3、配列番号4に示す塩基配列を有するプライマーを用いてPCR反応を行った。PCR酵素には、東洋紡より販売されているKOD plusを利用し、94℃で1分間、60℃で1分間、72℃で2分間PCR反応を30サイクル行った。増幅後の1kbpのDNA断片は、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN社製)を用いて精製を行った。
また、実施例(1−1)で作製した担子菌用に最適化したP.montana var.lobata(クズ)由来のイソプレンシンターゼの塩基配列(IspSKB)を含むプラスミドpIspSKBをテンプレートとして、PCR反応を行いDNA断片の増幅を行った。PCR酵素には東洋紡より販売されているKOD plusを利用し、配列番号5、配列番号6に示す塩基配列を有するプライマーを用いた。表1に示す組成で、94℃で1分間、60℃で1分間、72℃で2分間PCR反応を30サイクル行った。増幅後のDNA断片は、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN社製)を用いて精製を行った。
次に、IspSKBの発現の安定化を目的として、ヒラタケ(P. ostreatus)のマンガンペルオキシダーゼ(MnP)遺伝子の3’末端領域(0.8 kbp)の増幅を、ヒラタケ(P. ostreatus)のゲノムDNAをテンプレートにして行った。PCR反応には、配列番号7、配列番号8に示す塩基配列を有するプライマーを用いて、PCR酵素には東洋紡より販売されているKOD plusを利用し、94℃で1分間、60℃で1分間、72℃で2分間PCR反応を30サイクル行った。得られた0.8 kbpのDNA断片は、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN社製)を用いて精製を行った。
続いて、上記PCRで増幅した(1)ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)のGPDプロモーター領域、(2)担子菌用の最適化したイソプレン合成遺伝子、(3)ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)のマンガンパーオキシダーゼ(MnP)遺伝子を用いて、PCR酵素には東洋紡より販売されているKOD plusを利用し、PCR反応を行った。PCRの条件としては、94℃で1分間、60℃で10分間、72℃で5分間を30サイクル行った。PCR後のDNA断片は、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN社製)を用いて精製を行った。
続いて、配列番号9、配列番号10に示す塩基配列を有するプライマーにより、PCR反応を行った。反応後のDNA断片は、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN社製)を用いて精製を行った。また、TOPO TA Cloning Kit(Invitrogen社製)を用いて、クローニングを行った。この結果得られたベクターを、pGPDIspSKBmpと名付けた。なお、塩基配列の決定は、得られたDNA断片をApplied Biosystems社製塩基配列解析試薬を用いてPCR反応を行い、反応産物をApplied Biosystems社製DNAシーケンサABI PRISM 310自動塩基配列決定装置を用いた。
(2−2)Populus alba ×Populus tremula(ポプラ)由来イソプレンシンターゼ発現ベクターの構築
実施例(1−2)で作製したP. alba × P. tremula(ポプラ)由来担子菌用イソプレンシンターゼ遺伝子(IspSpB)を担子菌で発現させるために、pIspSPBをテンプレートとして、PCR反応を行い、担子菌用に最適化したポプラ由来イソプレン合成遺伝子の増幅を行った。配列番号11、配列番号12に示す塩基配列を有するプライマーを用いて、PCR酵素には、東洋紡より販売されているKOD plusを利用し、94℃で1分間、60℃で1分間、72℃で2分間PCR反応を30サイクル行った。増幅後のDNA断片は、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN社製)を用いて精製を行った。
また、ヒラタケのGPD遺伝子のプロモーター領域(1kbp)のPCRによるDNA断片の増幅は、配列番号13、14に記載のプライマーを用いる以外は、実施例(2-1)と同様の方法でPCR反応と精製を実施した。また、ヒラタケ(P. ostreatus)のマンガンペルオキシダーゼ(MnP)遺伝子の3’末端領域(0.8 kbp)のPCRによるDNA断片の増幅は、配列番号15、16に示す塩基配列を有するプライマーを用い、実施例(2-1)と同様の方法でPCR反応と精製を実施した。
続いて、上記PCRで増幅した(1)ヒラタケ(P. ostreatus)のGPDプロモーター領域、(2)担子菌用の最適化したポプラ由来イソプレン合成遺伝子、(3)ヒラタケ(P. ostreatus)のマンガンパーオキシダーゼ(MnP)遺伝子を用いて、PCR反応を行った。PCR酵素には東洋紡より販売されているKOD plusを利用し、PCRの条件としては、94℃で1分間、60℃で10分間、72℃で5分間を30サイクル行った。PCR後のDNA断片は、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN社製)を用いて精製を行った。
続いて、配列番号17、18に示す塩基配列を有するプライマーを用いて、PCR酵素には東洋紡より販売されているKOD plusを利用し、PCR反応を行った。反応後のDNA断片は、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN社製)を用いて精製を行った。また、TOPO TA Cloning Kit(Invitrogen社製)を用いて、クローニングを行った。この結果得られたベクターを、pGPDIspSPBmpと名付けた。なお、塩基配列の決定は、得られたDNA断片をApplied Biosystems社製塩基配列解析試薬を用いてPCR反応を行い、反応産物をApplied Biosystems社製DNAシーケンサABI PRISM 310自動塩基配列決定装置を用いて塩基配列を決定した。
<実施例3:イソプレン合成遺伝子発現ベクターによるヒラタケ(Pleurotus ostreatus)の形質転換>
(3−1)菌糸体の培養

直径6 mm前後のガラスビーズを約30個入れた500 ml容三角フラスコにSMY培地(シュークロース1 %、麦芽エキス1 %、酵母エキス0.4 %)100 mlを分注して滅菌後、ヒラタケ(P. ostreatus CECT20311)の平板寒天培地から直径5 mmの寒天片をコルクボーラーで打ち抜きSMY培地に植菌し、28 ℃で7日間静置培養した(前培養)。ただし、菌糸を細分化するために、1日に1〜2回振り混ぜた。次に、1L容の三角フラスコにSMY培地200 mlを分注し、さらに回転子を入れ、滅菌後、前培養菌糸をナイロンメッシュ(孔径30μm)で濾集後、全量を植菌し28 ℃で培養した。なお、スターラーで1日2時間程度撹拌することにより菌糸を細分化した。この培養を4日間行った。
(3−2)プロトプラストの調製
上記液体培養菌糸をナイロンメッシュ(孔径30μm)で濾集し、浸透圧調節溶液(0.5 M MgSO4、50mlマレイン酸バッファー(pH 5.6))で洗浄した。次に、湿菌体100 mgあたり1 mlの細胞壁分解酵素液に懸濁し、緩やかに振盪しながら28℃で3時間インキュベートしてプロトプラストを遊離させた。細胞壁溶解酵素として、次の市販酵素製剤を組み合わせて使用した。即ち、セルラーゼ・オノズカ(cellulase ONOZUKA RS;ヤクルト社製)5 mg、ヤタラーゼ(Yatalase;宝酒造社製)10 mgを上記浸透圧調節溶液1 mgに溶解して酵素液として用いた。
(3−3)プロトプラストの精製
上記酵素反応液からナイロンメッシュ(孔径30μm)で菌糸断片を除いた後、プロトプラストの回収率を高めるため、ナイロンメッシュ上に残存する菌糸断片とプロトプラストを上記浸透圧調節溶液で1回洗浄した。得られたプロトプラスト懸濁液を遠心分離(1,000×g、5分間)し、上静を除去し、4 mlの1Mシュークロースを含む20 mM MOPS緩衝液(pH 6.3)で再懸濁後、遠心操作を繰り返し、上記1Mシュークロース溶液で2回洗浄した。沈殿物に1Mソルビトールを含む20 mM MES緩衝液(pH 6.4)に40 mM塩化カルシウムを加えた溶液500μlに懸濁し、プロトプラスト懸濁液とした。この懸濁液を4℃で保存した。プロトプラスト濃度は血球計算盤を用いて、直接検鏡により求めた。すべての遠心操作はスウィングローターで1,000×g、5分間、室温で行った。
(3−4)Pueraria montana var.lobata(クズ)由来担子菌用イソプレンシンターゼ発現ベクターを用いた形質転換
実施例(3−3)で作製した約100個/100μlのプロトプラスト懸濁液100μlに対して、実施例(2−1)で作製したPueraria montana var.lobata(クズ)由来担子菌用イソプレンシンターゼ発現ベクター(pGPDIspSKBmp)と、公知の方法で作製したヒラタケ由来のカルボキシン耐性遺伝子をそれぞれ2μg添加し、30分間氷冷した。次に、プロトプラストDNA混合液に対して等量のPEG溶液(50 % PEG 3,400を含む20 mM MOPS緩衝液(pH6.4))を加え、さらに30分間氷冷した。次に、0.5 Mシュークロースを含む最小寒天培地(寒天1%)10mlに緩やかに混和して固化し、28℃で培養した。上記シャーレを28℃で数日間培養を行った。3日後カルボキシン2μg/mlを含む最小寒天培地10mlを重層し、さらに培養を継続した。重層後、生育した形質転換体を選抜した。
(3−5)Populus alba ×Populus tremula(ポプラ)由来担子菌用イソプレンシンターゼ発現ベクターを用いた形質転換
実施例(3−3)で作製した約100個/100μlのプロトプラスト懸濁液100μlに対して、実施例(2−2)で作製したPopulus alba ×Populus tremula(ポプラ)由来担子菌用イソプレンシンターゼ発現ベクター(pGPDIspSPBmp)と、公知の方法で作製したヒラタケ由来のカルボキシン耐性遺伝子をそれぞれ2μg添加し、30分間氷冷した。次に、プロトプラストDNA混合液に対して等量のPEG溶液(50 % PEG 3,400を含む20 mM MOPS緩衝液(pH6.4))を加え、さらに30分間氷冷した。次に、0.5 Mシュークロースを含む最小寒天培地(寒天1%)10mlに緩やかに混和して固化し、28℃で培養した。上記シャーレを28℃で数日間培養を行った。3日後カルボキシン2μg/mlを含む最小寒天培地10mlを重層し、さらに培養を継続した。重層後、生育した形質転換体を選抜した。
<実施例4:液体培地を用いた形質転換体の培養>
(4−1)Pueraria montana var.lobata(クズ)由来担子菌用イソプレンシンターゼ発現ベクター(pGPDIspSKBmp)を用いた形質転換体の液体培養
(実施例3−4)で作製した形質転換体は、ポテトデキストロース寒天培地上で28 ℃にて培養した後、4℃で保存した。このプレートから直径5mmのコルクボーラーで打ち抜いた切片を5個ずつ、グルコース・ペプトン培地(グルコース3 %、ポリペプトン1 %、KH2PO4 0.15 %、MgSO4 0.05 %、リン酸でpH 5.0に調製)を100 ml含む300 ml容三角フラスコに植菌し、28℃、100 rpmで1週間振盪培養した(前培養)。
培養後、菌体をろ別し、菌体に残存した培地を滅菌水で洗浄した。菌体は滅菌水と共に、ワーリングブレンダーで45秒間処理し、酸素脱リグニン後広葉樹パルプ(10wt%)含有するペプトン培地(ポリペプトン1 %、KH2PO4 0.15 %、MgSO4 0.05 %、リン酸でpH 5.0に調製)100 ml含む300 ml容三角フラスコに植菌し、28℃、100 rpmで5日間培養を行い(本培養)、経時的にフラスコ内の気相部分をシリンジでサンプリングを行い、ガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS-QP2010 SE, 島津製作所(株))を用いてイソプレンの定量分析を行った。この結果、1.80gのイソプレンが生産された。一方、比較例として作製したヒラタケ由来のカルボキシン耐性遺伝子のみを導入した形質転換体では、イソプレンは生産されなかった。
(4−2)Populus alba ×Populus tremula(ポプラ)由来担子菌用イソプレンシンターゼ発現ベクター(pGPDIspSPBmp)を用いた形質転換体の液体培養
実施例(3−5)で作製した形質転換体は、ポテトデキストロース寒天培地上で28 ℃にて培養した後、4℃で保存した。このプレートから直径5mmのコルクボーラーで打ち抜いた切片を5個ずつ、グルコース・ペプトン培地(グルコース3 %、ポリペプトン1 %、KH2PO4 0.15 %、MgSO4 0.05 %、リン酸でpH 5.0に調製)を100 ml含む300 ml容三角フラスコに植菌し、28℃、100 rpmで1週間振盪培養した(前培養)。
培養後、菌体をろ別し、菌体に残存した培地を滅菌水で洗浄した。菌体は滅菌水と共に、ワーリングブレンダーで45秒間処理し、酸素脱リグニン後広葉樹パルプ(10wt%)を100 ml含む300 ml容三角フラスコに植菌し、28℃、100 rpmで5日間培養を行い(本培養)、経時的にフラスコ内の気相部分をシリンジでサンプリングを行い、ガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS-QP2010 SE, 島津製作所(株))を用いてイソプレンの定量分析を行った。この結果、1.89gのイソプレンが生産された。一方、比較例として作製したヒラタケ由来のカルボキシン耐性遺伝子のみを導入した形質転換体では、イソプレンは生産されなかった。
<実施例5:固体培地を用いた形質転換体の培養>
(5−1)Pueraria montana var.lobata(クズ)由来担子菌用イソプレンシンターゼ発現ベクター(pGPDIspSKBmp)を用いた形質転換体の固体培養
(実施例3−4)で作製した形質転換株をポテトデキストロース寒天培地上で28 ℃にて培養した後、4℃で保存した。このプレートから直径5mmのコルクボーラーで打ち抜いた切片を5個ずつ、グルコース・ペプトン培地(グルコース3 %、ポリペプトン1 %、KH2PO4 0.15 %、MgSO4 0.05 %、リン酸でpH 5.0に調製)100 mlを含む300 ml容三角フラスコに植菌し、28℃、100 rpmで1週間振盪培養した。培養後、菌体をろ別し、菌体に残存した培地を滅菌水で洗浄した。菌体は滅菌水と共に、ワーリングブレンダーで45秒間処理し、絶乾重量1 kgの広葉樹チップに対し、菌体の乾燥重量が5 mgになるように植菌した。植菌後は菌が全体に行き渡るようによく撹拌した。培養は28 ℃で通気をしながら2週間培養を行った。この時、チップ含水率が40〜65 %になるように随時飽和水蒸気を通気させた。また、通気する際の通気量は対チップ当り、0.01 vvmになるように行った。排気ガス中に含まれるイソプレン含有量は、ガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS-QP2010 SE, 島津製作所(株))を用いて分析を行った。この結果、培養日数14日間で、絶乾重量1kgの広葉樹チップから、17.5 gのイソプレンを生産することができた。一方、比較例として作製したヒラタケ由来のカルボキシン耐性遺伝子のみを導入した形質転換体では、イソプレンは生産されなかった。
(5−2)Populus alba ×Populus tremula(ポプラ)由来担子菌用イソプレンシンターゼ発現ベクター(pGPDIspSPBmp)を用いた形質転換体の固体培養
(実施例3−5)で作製した形質転換株をポテトデキストロース寒天培地上で28 ℃にて培養した後、4℃で保存した。このプレートから直径5mmのコルクボーラーで打ち抜いた切片を5個ずつ、グルコース・ペプトン培地(グルコース3 %、ポリペプトン1 %、KH2PO4 0.15 %、MgSO4 0.05 %、リン酸でpH 5.0に調製)100 mlを含む300 ml容三角フラスコに植菌し、28℃、100rpmで1週間振盪培養した。培養後、菌体をろ別し、菌体に残存した培地を滅菌水で洗浄した。菌体は滅菌水と共に、ワーリングブレンダーで45秒間処理し、絶乾重量1 kgの広葉樹チップに対し、菌体の乾燥重量が5 mgになるように植菌した。植菌後は菌が全体に行き渡るようによく撹拌した。培養は28 ℃で通気をしながら2週間培養を行った。この時、チップ含水率が40〜65 %になるように随時飽和水蒸気を通気させた。また、通気する際の通気量は対チップ当り、0.01 vvmになるように行った。排気ガス中に含まれるイソプレン含有量は、ガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS-QP2010 SE, 島津製作所(株))を用いて分析を行った。この結果、培養日数14日間で、絶乾重量1kgの広葉樹チップから、18.8gのイソプレンを生産することができた。一方、比較例として作製したヒラタケ由来のカルボキシン耐性遺伝子のみを導入した形質転換体では、イソプレンは生産されなかった。
<実施例6:セルラーゼ存在下における形質転換体の培養>
(実施例4−1)における形質転換体の本培養の際に、培地中の酵素活性が、10U/mLになるように市販セルラーゼ(Cellic CTec3, Novozymes社製)を酸素脱リグニン後広葉樹パルプ(10wt%)含有するペプトン培地に添加し、(実施例4−1)と同じ条件で形質転換体を培養後、イソプレンの定量分析を行った。この結果、2.00gのイソプレンを生産することができた。
<実施例7:ヘミセルラーゼ存在下における形質転換体の培養>
(実施例4−1)における形質転換体の本培養の際に、培地中の酵素活性が、10U/mLになるように、アスペルギルス・ナイジャー(Aspergillus niger)由来のヘミセルラーゼ(シグマ・アルドリッチ社製)を酸素脱リグニン後広葉樹パルプ(10wt%)含有するペプトン培地に添加し、実施例4−1)と同じ条件で形質転換体を培養後、イソプレンの定量分析を行った。この結果、1.98gのイソプレンを生産することができた。
<実施例8:リグニン分解酵素存在下における形質転換体の培養>
(実施例4−1)における形質転換体の本培養の際に、培地中の酵素活性が、10U/mLになるように、トラメテス・ベルシカラ(カワラタケ;Trametes versicolor)由来のラッカーゼ(シグマ・アルドリッチ社製)を酸素脱リグニン後広葉樹パルプ(10wt%)含有するペプトン培地に添加し、実施例(4−1)と同じ条件で形質転換体を培養後、イソプレンの定量分析を行った。この結果、1.95gのイソプレンを生産することができた。
<実施例9:セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、リグニン分解酵素存在下における形質転換体の培養>
(実施例4−1)における形質転換体の本培養の際に、培地中の酵素活性が、それぞれ10U/mLになるように、セルラーゼ(Cellic CTec3, Novozymes社製)、アスペルギルス・ナイジャー(Aspergillus niger)由来のヘミセルラーゼ(シグマ・アルドリッチ社製)、トラメテス・ベルシカラ(カワラタケ;Trametes versicolor)由来のラッカーゼ(シグマ・アルドリッチ社製)を酸素脱リグニン後広葉樹パルプ(10wt%)含有するペプトン培地に添加し、実施例(4−1)と同じ条件で形質転換体を培養後、イソプレンの定量分析を行った。この結果、3.98gのイソプレンを生産することができた。
<実施例10:セルラーゼ、ヘミセルラーゼ存在下における形質転換体の培養>
(実施例4−1)における形質転換体の本培養の際に、培地中の酵素活性が、それぞれ10U/mLになるように、セルラーゼ(Cellic CTec3, Novozymes社製)、アスペルギルス・ナイジャー(Aspergillus niger)由来のヘミセルラーゼ(シグマ・アルドリッチ社製)を酸素脱リグニン後広葉樹パルプ(10wt%)含有するペプトン培地に添加し、実施例(4−1)と同じ条件で形質転換体を培養後、イソプレンの定量分析を行った。この結果、2.44gのイソプレンを生産することができた。
<実施例11:セルラーゼ、リグニン分解酵素存在下における形質転換体の培養>
(実施例4−1)における形質転換体の本培養の際に、培地中の酵素活性が、それぞれ10U/mLになるように、セルラーゼ(Cellic CTec3, Novozymes社製)、トラメテス・ベルシカラ(カワラタケ;Trametes versicolor)由来のラッカーゼ(シグマ・アルドリッチ社製)を酸素脱リグニン後広葉樹パルプ(10wt%)含有するペプトン培地に添加し、実施例(4−1)と同じ条件で形質転換体を培養後、イソプレンの定量分析を行った。この結果、2.40gのイソプレンを生産することができた。
<実施例12:ヘミセルラーゼ、リグニン分解酵素存在下における形質転換体の培養>
実施例(4−1)における形質転換体の本培養の際に、培地中の酵素活性が、それぞれ10U/mLになるように、アスペルギルス・ナイジャー(Aspergillus niger)由来のヘミセルラーゼ(シグマ・アルドリッチ社製)、トラメテス・ベルシカラ(カワラタケ;Trametes versicolor)由来のラッカーゼ(シグマ・アルドリッチ社製)を酸素脱リグニン後広葉樹パルプ(10wt%)含有するペプトン培地に添加し、実施例(4−1)と同じ条件で形質転換体を培養後、イソプレンの定量分析を行った。この結果、2.33gのイソプレンを生産することができた。
上述した各実施例におけるイソプレン生産量を下記表1にまとめて示す。

Claims (14)

  1. 担子菌においてイソプレンシンターゼを発現するためにコドンが最適化されたイソプレンシンターゼ遺伝子であって、配列番号1に記載の塩基配列または該塩基配列に対して1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列で表されるイソプレンシンターゼ遺伝子。
  2. 担子菌においてイソプレンシンターゼを発現するためにコドンが最適化されたイソプレンシンターゼ遺伝子であって、配列番号2に記載の塩基配列または該塩基配列に対して1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列で表されるイソプレンシンターゼ遺伝子。
  3. 請求項1または2に記載のイソプレンシンターゼ遺伝子を含む発現ベクター。
  4. グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GPD)遺伝子、β-tubulin遺伝子、Ras遺伝子、リグニン分解酵素遺伝子、セルラーゼ遺伝子の中から選ばれる1つの遺伝子をプロモーターとして含む、請求項3に記載の発現ベクター。
  5. 請求項3または4に記載の発現ベクターを担子菌に導入してなる形質転換体。
  6. 前記担子菌がハラタケ類、またはヒダナシタケ類に属する、請求項5に記載の形質転換体。
  7. 前記担子菌が、ヒラタケ属、マイタケ属、エノキタケ属、シイタケ属、スギタケ属、フミヅキタケ属、ハラタケ属、スエヒロタケ属、セリポリオプシス属、ディコミタス属、トラメテス属、ファネロケエテ属に属する、請求項5に記載の形質転換体。
  8. 非可食性バイオマス由来のリグノセルロースを炭素源として請求項5〜7のいずれか一項に記載の形質転換体を培養することを特徴とするイソプレンの製造方法。
  9. 形質転換体の培養時に、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、リグニン分解酵素の中から選ばれる少なくとも一種類の酵素を培地に添加することを特徴とする、請求項8に記載の製造方法。
  10. 前記リグノセルロースに対して化学的方法または物理的方法の少なくとも一方で前処理を施すことを特徴とする、請求項8または9に記載の製造方法。
  11. 前記非可食性バイオマスは、木質系バイオマスおよび草本系バイオマスの少なくとも一方を含む、請求項8〜10のいずれか一項に記載の製造方法。
  12. 前記非可食性バイオマスは、パルプ、バガス、コーンストーバーの中から選ばれる少なくとも一種類のバイオマスを含む、請求項8〜10のいずれか一項に記載の製造方法。
  13. 請求項8〜10のいずれか一項に記載の製造方法によって製造されるイソプレンモノマーを重合することによって製造されるイソプレンポリマーの製造方法。
  14. 請求項5〜7のいずれか一項に記載の形質転換体においてイソプレンシンターゼを発現させることを特徴とするイソプレンシンターゼの製造方法。
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