前記課題を解決するためになされた第1の発明は、複数の基地局装置から新たな接続先となる基地局装置を選択して、その基地局装置と無線通信を行う端末装置であって、前記基地局装置との間で無線通信を行う通信部と、この通信部を介して前記基地局装置と通信を行いながらユーザが要求する情報処理を行うユーザアプリケーション部を有する制御部と、を備え、前記通信部は、前記基地局装置から送信される、当該端末装置が接続可能な接続先候補としての基地局装置に関する接続先候補情報を含む接続先候補通知の制御メッセージを受信し、前記制御部は、前記接続先候補情報に基づいて、新たな接続先とする前記基地局装置を選択した後に、その選択した基地局装置による新たな通信環境に適合した処理を前記ユーザアプリケーション部に行わせるための事前準備の制御を実施し、前記通信部は、前記事前準備の制御が完了すると、接続先変更要求の制御メッセージを前記基地局装置に送信する構成とする。
これによると、接続先変更要求の制御メッセージを送信するタイミングは端末装置に委ねられているため、接続先変更要求の制御メッセージを送信する前に、事前準備の制御を実施することで、端末装置と基地局装置との間での制御メッセージのやり取りに支障が生じることなく、事前準備の制御のために十分な時間を確保することができる。また、新たな接続先とする基地局装置を選択した後に、その選択した基地局装置に応じた事前準備の制御を実施するため、事前準備の制御が無駄になることを避けることができる。
また、第2の発明は、前記ユーザアプリケーション部は、当該ユーザアプリケーション部の要求する通信条件に基づいて、新たな接続先とする前記基地局装置を選択する構成とする。
これによると、新たな接続先とする基地局装置を選択する接続先選択処理を、通信を必要とするユーザアプリケーション部自体が行うため、接続先選択処理を適切に行うことができる。
また、第3の発明は、前記制御部は、帯域推定を行う帯域推定部を有し、この帯域推定部は、前記事前準備の制御として、前記新たな接続先として選択した基地局装置の通信能力に基づいて、伝送レートを決定する構成とする。
これによると、伝送レートの調整のために発生する制御遅延を低減することができる。
また、第4の発明は、前記帯域推定部は、現在通信中の基地局装置のシステム容量が、新たな接続先として選択された基地局装置のシステム容量よりも所定値以下の場合に、帯域推定のパラメータを初期化する構成とする。
これによると、帯域推定の追従遅延を低減することができる。
また、第5の発明は、前記制御部は、カメラを制御するカメラ制御部を有し、このカメラ制御部は、前記事前準備の制御として、前記新たな接続先として選択した基地局装置の通信能力に基づいて、前記カメラの動作条件を調整する構成とする。
これによると、カメラの動作条件の調整のために発生する制御遅延を低減することができる。
また、第6の発明は、前記制御部は、配信データ受信制御部を有し、この配信データ受信制御部は、前記事前準備の制御として、前記新たな接続先として選択した基地局装置の通信能力に基づいて、データ配信に関するパラメータを調整する構成とする。
これによると、配信パラメータの調整のために発生する制御遅延を低減することができる。
また、第7の発明は、複数の基地局装置から端末装置の新たな接続先となる前記基地局装置を選択して、その基地局装置と前記端末装置との間で無線通信を行う通信システムであって、前記基地局装置は、前記端末装置との間で無線通信を行う通信部と、当該端末装置が接続可能な接続先候補としての基地局装置に関する接続先候補情報を生成する制御部と、を備え、前記通信部は、前記接続先候補情報を含む接続先候補通知の制御メッセージを送信し、前記端末装置は、前記基地局装置との間で無線通信を行う通信部と、この通信部を介して前記基地局装置と通信を行いながらユーザが要求する情報処理を行うユーザアプリケーション部を有する制御部と、を備え、前記通信部は、前記基地局装置から送信される前記接続先候補通知の制御メッセージを受信し、前記制御部は、前記接続先候補情報に基づいて、新たな接続先とする前記基地局装置を選択した後に、その選択した基地局装置による新たな通信環境に適合した処理を前記ユーザアプリケーション部に行わせるための事前準備の制御を実施し、前記通信部は、前記事前準備の制御が完了すると、接続先変更要求の制御メッセージを前記基地局装置に送信する構成とする。
これによると、第1の発明と同様に、制御メッセージのやり取りに支障が生じることなく、事前準備の制御のために十分な時間を確保することができる。
また、第8の発明は、複数の基地局装置から端末装置の新たな接続先となる基地局装置を選択して、その基地局装置と前記端末装置との間で無線通信を行う接続先変更方法であって、前記端末装置において、前記基地局装置から送信される、当該端末装置が接続可能な接続先候補としての基地局装置に関する接続先候補情報を含む接続先候補通知の制御メッセージを受信し、前記接続先候補情報に基づいて、新たな接続先とする前記基地局装置を選択した後に、その選択した基地局装置による新たな通信環境に適合した処理をユーザアプリケーションに行わせるための事前準備の制御を実施し、前記事前準備の制御が完了すると、接続先変更要求の制御メッセージを前記基地局装置に送信する構成とする。
これによると、第1の発明と同様に、制御メッセージのやり取りに支障が生じることなく、事前準備の制御のために十分な時間を確保することができる。
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る通信システムの全体構成図である。
この通信システムは、端末装置1と、この端末装置1と無線通信を行う第1の基地局装置2、第2の基地局装置3および第3の基地局装置4と、を備えている。この通信システムは、いわゆるヘテロジニアスネットワークであり、第1の基地局装置2、第2の基地局装置3および第3の基地局装置4は、RAT(Radio Access Technology:無線通信方式)が異なる。
端末装置1は、スマートフォンやタブレット端末などであり、基地局装置2〜4のいずれか1つまたは複数と通信を行うことができるようになっており、この複数の基地局装置2〜4の中から適切な接続先が選択されて、その選択された基地局装置を利用した通信が端末装置1で行われる。
第1の基地局装置2は、携帯電話用の無線通信方式のうち、LTEのように、UHF帯(周波数:300MHz〜3GHz)を利用した無線通信を行うものであり、マクロセル基地局となり、セル半径が例えば1km〜25km程度となる。また、この第1の基地局装置2は、制御信号を伝送するための制御プレーン(C−Plane)の基地局となる。
第2の基地局装置3は、携帯電話用の無線通信方式のうち、5Gのように、高周波数帯、すなわち、高SHF帯(周波数:6GHz〜30GHz)、またはEHF帯(周波数:主に30GHz〜60GHz)を利用した無線通信を行うものであり、スモールセル基地局となり、セル半径が例えば10m〜3km程度となる。また、この第2の基地局装置3は、ユーザデータを伝送するためのユーザプレーン(U−Plane)の基地局となる。
この第2の基地局装置3は、第1の基地局装置2の通信エリア内に複数設置され、第1の基地局装置2および第2の基地局装置3の各通信エリアが重複しており、端末装置1は、第1の基地局装置2および第2の基地局装置3の両方を同時に利用することができ、また、複数の第2の基地局装置3を同時に利用することができる。
また、第1の基地局装置2および第2の基地局装置3はX2インタフェースを介して相互に接続されている。第1の基地局装置2と第2の基地局装置3とが制御メッセージをやりとりして、端末装置1の接続先の変更(追加および切替)に関する処理を行う。また、第1の基地局装置2および第2の基地局装置3は、S1インタフェースおよび上位のコアネットワーク(上位通信ネットワーク)を介してインターネットに接続されている。
第3の基地局装置4は、第1の基地局装置2および第2の基地局装置3のような携帯電話用の無線通信方式以外の無線通信方式、例えば、Wi−Fi(登録商標)やWiGig(登録商標)などの無線LANの無線通信方式により端末装置1と無線通信を行う。また、この第3の基地局装置4はインターネットに接続されている。
次に、端末装置1、第1の基地局装置2および第2の基地局装置3で行われる基本的な手順について説明する。図2は、端末装置1、第1の基地局装置2および第2の基地局装置3で行われる基本的な処理の手順を示すシーケンス図である。
図2(A)に示す例は、現在通信中の第1の基地局装置2から新たな接続先となる第1の基地局装置2に切り替える場合である。図2において、現在通信中の第1の基地局装置2を、「第1の基地局装置(既存)」と表記し、切替先の第1の基地局装置2を、「第1の基地局装置(切替先)」と表記している。
この場合には、まず、端末装置1の伝送制御部において、検出された第1の基地局装置2(切替先)を対象にして無線品質測定を行い、その測定結果である無線品質測定値(受信電力、S/N等)を含む測定報告(例えば、Measurement Report)の制御メッセージを現在通信中の第1の基地局装置2に送信する。
現在通信中の第1の基地局装置2では、端末装置1から送信される測定報告の制御メッセージを受信すると、その測定報告に含まれる無線品質測定値に基づいて品質判定を行い、切替先の第1の基地局装置2を決定する。そして、接続要求(例えば、Handover request)の制御メッセージを切替先の第1の基地局装置2に送信する。
切替先の第1の基地局装置2では、現在通信中の第1の基地局装置2から送信される接続要求の制御メッセージを受信すると、確認応答(例えば、Handover request ACK)の制御メッセージを現在通信中の第1の基地局装置2に送信する。
現在通信中の第1の基地局装置2では、切替先の第1の基地局装置2から送信される確認応答の制御メッセージを受信すると、切替指示(例えば、Mobility from EUTRA command)の制御メッセージを端末装置1に送信する。
端末装置1では、現在通信中の第1の基地局装置2から送信される切替指示の制御メッセージを受信すると、接続先切替処理を行い、切替完了(例えば、Handover Complete)の制御メッセージを切替先の第1の基地局装置2に送信する。これにより、端末装置1が、切替先の第1の基地局装置2との間で通信を開始することができる。
図2(B)に示す例は、現在通信中の第1の基地局装置2の他に新たな接続先となる第2の基地局装置3を追加する場合である。
この場合には、まず、端末装置1の伝送制御部において、検出された第2の基地局装置3を対象にして無線品質測定を行い、その測定結果である無線品質測定値(受信電力、S/N等)を含む測定報告(例えば、Measurement Report)の制御メッセージを現在通信中の第1の基地局装置2に送信する。
現在通信中の第1の基地局装置2では、端末装置1から送信される測定報告の制御メッセージを受信すると、その測定報告に含まれる無線品質測定値に基づいて品質判定を行い、追加の第2の基地局装置3を決定する。そして、接続要求(例えば、SCG Addition Indication)の制御メッセージを追加の第2の基地局装置3に送信する。
追加の第2の基地局装置3では、端末装置1と現在通信中の第1の基地局装置2から送信される接続要求の制御メッセージを受信すると、確認応答(例えば、SCG Addition/Modification Request)の制御メッセージを第1の基地局装置2に送信する。
端末装置1と現在通信中の第1の基地局装置2では、追加の第2の基地局装置3から送信される確認応答の制御メッセージを受信すると、追加指示(例えば、RRC Connection Reconfiguration)の制御メッセージを端末装置1に送信する。
端末装置1では、現在通信中の第1の基地局装置2から送信される追加指示の制御メッセージを受信すると、後述するような接続先追加処理を行い、追加完了(例えば、RRC Connection Reconfiguration Complete)の制御メッセージを追加の第2の基地局装置3に送信する。これにより、端末装置1が、現在通信中の第1の基地局装置2および追加の第2の基地局装置3との間での通信を開始することができる。
さて、本実施形態では、第1の基地局装置2との間で制御メッセージをやり取りして接続先を選択する接続先選択制御のプログラムが、個別のユーザアプリケーションプログラムに組み込まれており、このユーザアプリケーションプログラムをプロセッサで実行することで実現されるユーザアプリケーション部のうち、端末装置1の通信条件を規定するユーザアプリケーション部が、以下に説明するように、第1の基地局装置2との間で制御メッセージをやり取りして接続先を選択する接続先選択制御(接続先切替および接続先追加に関する制御)を行う。
特に、本実施形態では、フォアグラウンドで動作しているユーザアプリケーション部を端末装置1の通信条件を規定するユーザアプリケーション部とする。なお、フォアグラウンドおよびバックグラウンドに関係なく、優先度が高いユーザアプリケーション部が接続先選択制御を行うようにしてもよい。この場合、ユーザがユーザアプリケーション部に優先度を予め設定しておけばよい。
なお、ユーザアプリケーション部とは別に、ユーザアプリケーション部を監視する監視アプリケーション部を設けて、この監視アプリケーション部に接続先選択制御を行わせるようにしてもよい。すなわち、監視アプリケーション部が、通信中のユーザアプリケーション部を監視対象として、そのユーザアプリケーション部の種類や動作状況などに基づいて、接続先を決定するようにしてもよい。
この場合、監視アプリケーション部は、フォアグラウンドで動作しているユーザアプリケーション部を監視対象とすればよい。また、ユーザがユーザアプリケーション部に優先度を設定して、監視アプリケーション部が、優先度が高いアプリケーションを監視対象に選択するようにしてもよい。また、一定時間内の通信量が最大となるユーザアプリケーション部を監視対象とするようにしてもよい。
また、本実施形態では、接続先変更(接続先切替または接続先追加)により新たな接続先とする基地局装置との間での通信を開始した際の制御遅延を低減するため、接続先変更に係る制御メッセージをやり取りする接続先変更の準備過程で、接続先変更後の新たな通信環境に適合した処理をユーザアプリケーション部に行わせるための事前準備の制御を実施する。特に本実施形態では、トランスポート層に関する処理を行うアプリケーションプログラムをプロセッサで実行することで実現されるトランスポート部が、以下に説明するように、事前準備の制御を実施する。
次に、接続先切替の場合の手順について説明する。図3は、接続先切替の場合の手順を示すシーケンス図である。端末装置1は、アプリケーション部と、トランスポート部と、伝送制御部とに分けて示す。また、前述したように、第2の基地局装置3は、マクロセル基地局である第1の基地局装置2の通信エリア内に複数設置されるスモールセル基地局である。なお、図3に示す例は、端末装置1が、通信中である第2の基地局装置3(切替元)との通信を切断して、接続先を別の第2の基地局装置3(切替先)に切り替える場合である。
端末装置1では、既に動作中のユーザアプリケーション部が第1の基地局装置2および第2の基地局装置3と通信中である。ここで、新たに別のユーザアプリケーション部が起動すると、そのユーザアプリケーション部が通信条件判定を行う。
この通信条件判定は、現在通信中の第2の基地局装置3が、ユーザアプリケーション部の要求する通信条件を満足するか否かを判定する。ここで、現在通信中の第2の基地局装置3が、ユーザアプリケーション部の要求する通信条件を満足せず、接続先切替が必要と判断した場合には、候補要求の制御メッセージを、伝送制御部を介して第1の基地局装置2に送信する。一方、現在通信中の第2の基地局装置3が、ユーザアプリケーション部の要求する通信条件を満足し、接続先切替の必要がないと判断した場合には、候補要求の制御メッセージの送信は行わない。
この候補要求の制御メッセージは、端末装置1が接続可能な接続先候補としての第2の基地局装置3(切替先)に関する接続先候補情報(接続先候補リスト)を第1の基地局装置2に要求するものである。
具体的には、この候補要求の制御メッセージは、接続先候補情報の提供の要否に関する情報、ユーザアプリケーションの用途(マッシブブロードバンド、ミッションクリティカル、マッシブコネクションなど)に関する情報、ユーザ種別(人物、自動車、ロボット、ドローン、船舶、飛行機、気球、センサなど)に関する情報などを含む。ここで、ユーザとは、端末装置1のユーザアプリケーションの利用主体であり、ユーザアプリケーションは、端末装置1を所持する人物が利用する場合や、端末装置1に設けられたセンサが利用する場合や、端末装置1が搭載された機器が利用する場合がある。なお、ユーザ種別に関する情報は、端末装置1を利用する人物などが予め入力しておくようにすればよい。
また、端末装置1では、伝送制御部において、検出された第2の基地局装置3(この場合、切替元と切替先の両方)を対象にした無線品質測定を行い、検出された第2の基地局装置3ごとの無線品質測定値(受信電力、S/N等)を含む測定報告の制御メッセージを第1の基地局装置2に送信する。
なお、本実施形態では、測定報告の制御メッセージとは別に候補要求の制御メッセージを送信するようにしたが、前記のような候補要求の制御メッセージに含まれる情報を、測定報告の制御メッセージに含めて送信するようにしてもよい。また、測定報告の制御メッセージでは、検出された第2の基地局装置3ごとの測定結果をまとめて送信すればよいが、検出された第2の基地局装置3ごとの測定結果を個別の制御メッセージで送信するようにしてもよい。
次に、第1の基地局装置2は、端末装置1から送信される候補要求の制御メッセージおよび測定報告の制御メッセージを受信すると、第2の基地局装置3(この場合、切替元と切替先の両方)に関する品質判定を行い、接続先候補となる第2の基地局装置3に関する接続先候補情報(接続先候補リスト)を生成する。そして、その接続先候補情報を含む接続先候補通知の制御メッセージを端末装置1に送信する。
この接続先候補通知の制御メッセージは、接続先候補となる第2の基地局装置3ごとのRAT、周波数、セルID、SSIDなどの情報を含む。ここで、周波数は、接続先候補となる第2の基地局装置3で通信に利用される周波数である。セルIDやSSIDは、第2の基地局装置3を識別するための識別子である。なお、RATや周波数は省略するようにしてもよい。
また、この接続先候補通知の制御メッセージには、第1の基地局装置2でしか取得することができない補足情報を付加するようにしてもよい。具体的には、接続先候補となる第2の基地局装置3と端末装置1との間の通信の混雑度に関する情報を付加するようにしてもよい。この混雑度に関する情報としては、アクティブユーザ数(RRC(Radio Resource Control)で接続中の端末装置1)や、無線リソース使用率などである。また、接続先候補となる第2の基地局装置3に接続されたMEC(Mobile Edge Computing)サーバに関する情報を付加するようにしてもよい。このMECサーバに関する情報としては、コンテンツキャッシュの有無、RTT(Round-Trip Time)などである。また、予測スループット値や、第2の基地局装置3の位置情報を付加するようにしてもよい。
次に、端末装置1のユーザアプリケーション部は、第1の基地局装置2から送信される接続先候補通知の制御メッセージを、伝送制御部を介して受信すると、その接続先候補通知の制御メッセージに含まれる接続先候補情報に基づいて、接続先選択処理を行う。この処理では、接続先候補情報で接続先候補として列挙された第2の基地局装置3の中から、最適な接続先を選択し、その接続先の無線品質測定値を取得する。
次に、端末装置1のユーザアプリケーション部は、接続先選択結果の制御メッセージをトランスポート部に送信する。
この接続先選択結果の制御メッセージは、新たな接続先として選択した第2の基地局装置3をトランスポート部に通知して、トランスポート部に事前準備の制御を要求するものであり、接続先選択処理の選択結果に関する情報を含む。すなわち、接続先として選択した第2の基地局装置3の識別情報、具体的には、接続先として選択した第2の基地局装置3に関するRAT、周波数、セルID、SSIDなどの情報を含む。
次に、端末装置1のトランスポート部は、ユーザアプリケーション部から送信される接続先選択結果の制御メッセージを受信すると、事前準備の制御として、現在通信中の基地局装置および新たな接続先として選択した基地局装置の通信能力に基づいて、使用帯域を推定する帯域推定(伝送レート決定)を行う。トランスポート部において、事前準備の制御すなわち帯域推定が完了すると、帯域推定結果の制御メッセージをユーザアプリケーション部に送信する。
次に、端末装置1のユーザアプリケーション部は、トランスポート部から送信される帯域推定結果の制御メッセージを受信すると、この帯域推定結果の制御メッセージに含まれる帯域推定値に基づいて、符号化レート制御を行う。ユーザアプリケーション部において、符号化レート制御が完了すると、接続先切替要求の制御メッセージを、伝送制御部を介して第1の基地局装置2に送信する。
この接続先切替要求の制御メッセージは、選択した接続先の第2の基地局装置3との接続を要求するものであり、接続先選択処理の選択結果に関する情報を含む。すなわち、接続先として選択した第2の基地局装置3の識別情報、具体的には、接続先として選択した第2の基地局装置3に関するRAT、周波数、セルID、SSIDなどの情報と、接続先として選択した第2の基地局装置3を対象にした無線品質測定の測定結果である無線品質測定値(受信電力やS/N)とを含む。なお、RATや周波数は省略するようにしてもよい。
次に、第1の基地局装置2では、端末装置1から送信される接続先切替要求の制御メッセージを受信すると、端末装置1が接続先として選択した第2の基地局装置3に関する品質判定を再度行う。ここで、品質が所定の条件を満たす場合には、端末装置1が接続先として選択した第2の基地局装置3を接続先に決定して、その第2の基地局装置3(切替先)に接続要求の制御メッセージを送信する。そして、第2の基地局装置3から送信される確認応答の制御メッセージを受信すると、切替指示の制御メッセージを端末装置1に送信する。
次に、端末装置1の伝送制御部では、第1の基地局装置2から送信される切替指示の制御メッセージを受信すると、切替処理を実施して、第1の基地局装置2に切替完了の制御メッセージを送信する。これにより、接続先とした選択した第2の基地局装置3との接続が確立され、端末装置1で動作中のユーザアプリケーション部は、接続先とした選択した第2の基地局装置3との間で通信を行うことができる。
また、第1の基地局装置2では、端末装置1から送信される切替完了の制御メッセージを受信すると、切替元の第2の基地局装置3に切断要求の制御メッセージを送信する。切替元の第2の基地局装置3では、第1の基地局装置2から送信される切断要求の制御メッセージを受信すると、切断処理を行い、確認応答の制御メッセージを第1の基地局装置2に送信する。以上の処理により、端末装置1は、第1の基地局装置2および第2の基地局装置3(切替先)と通信中となる。
次に、接続先追加の場合の手順について説明する。図4は、接続先追加の場合の手順を示すシーケンス図である。なお、図4に示す例は、通信中である第1の基地局装置2および第2の基地局装置3の他に、接続先に新たに別の第2の基地局装置3を追加する場合である。図4において、現在通信中の第2の基地局装置3を、「第2の基地局装置(既存)」と表記し、追加される第2の基地局装置3を、「第2の基地局装置(新規)」と表記している。
接続先追加の場合には、図3に示した接続先切替の場合と略同一であるが、特に、図3に示した通信を切断する第2の基地局装置3との間での制御メッセージ(切断要求、確認応答)のやり取りが、図4にはない点で異なっている。
また、図4に示す接続先追加の場合には、通信条件判定において、現在通信中の第2の基地局装置3が、ユーザアプリケーション部の要求する通信条件を満足せず、接続先追加が必要と判断した場合に、候補要求の制御メッセージを送信する。
また、図3に示した接続先切替の場合に、端末装置1と第1の基地局装置2との間でやり取りされる接続先切替要求、切替指示、切替完了の各制御メッセージが、図4に示す接続先追加の場合には、接続先追加要求、追加指示、追加完了の各制御メッセージとなる。なお、接続先追加要求の制御メッセージの内容は、接続先切替要求の制御メッセージと同様である。
なお、図3および図4に示す例では、新たなユーザアプリケーション部が起動した際に、接続先選択制御を開始するようにしたが、この接続先選択制御は、種々のタイミングで開始することができる。例えば、端末装置1が非通信状態から通信状態に遷移した場合や、フォアグラウンドで動作しているユーザアプリケーション部がバックグラウンドに変更された場合や、ユーザアプリケーション部の優先度がユーザにより変更された場合に、接続先選択制御を開始するようにしてもよい。また、ユーザアプリケーション部とは別に、ユーザアプリケーション部を監視する監視アプリケーション部を設けるようにしてもよく、この場合、監視アプリケーション部の監視対象となるユーザアプリケーション部が変更された場合に、接続先選択制御を開始する。
また、接続先選択制御を開始する際に通信条件判定を省略することもできる。例えば、図3および図4に示した例では、新たにアプリケーション部が起動すると、通信条件判定を行うことなく、候補要求の制御メッセージを第1の基地局装置2に送信するようにしてもよい。
なお、図3および図4に示す例では、携帯電話用の無線通信方式による第1の基地局装置2および第2の基地局装置3のみを対象にした例を示したが、無線LANなどの携帯電話用の無線通信方式以外の無線通信方式による第3の基地局装置4を対象にして接続先変更(接続先切替または接続先追加)を行うことも可能である。
ところで、端末装置1および基地局装置2〜4の間では前記のように種々の制御メッセージが送受信されるが、この制御メッセージによる接続先変更(接続先切替または接続先追加)は、MAC(Media Access Control)、PDCP(Packet Data Convergence Protocol)、TCP(Transmission Control Protocol)のいずれかのレイヤで行えばよい。特に、MACにおいてはキャリアアグリゲーション、TCPにおいてはマルチパスTCPを利用するとよい。また、接続先変更(接続先切替または接続先追加)を行う場合には、RRC(Radio Resource Control)のレイヤで制御メッセージの送受信を行うようにするとよい。
このように本実施形態では、新たな接続先とする基地局装置2〜4を選択する接続先選択処理を端末装置1が行い、接続先選択結果を含む接続先変更要求(接続先切替要求、接続先追加要求)の制御メッセージを送信するタイミングは、端末装置1に委ねられている。このため、端末装置1が任意のタイミングで接続先変更要求の制御メッセージを送信することができる。したがって、ユーザアプリケーション部のための事前準備の制御のために十分な時間(例えば100ms)を確保することができる。
なお、接続先変更(接続先切替または接続先追加)に係る制御メッセージをやり取りする接続先変更の準備過程で、ユーザアプリケーション部のための事前準備の制御を実施するため、接続先変更の準備期間が長くなり、特に接続先切替(ハンドオーバ)の場合には、接続先切替に要する時間が長くなることで、通信が途切れることが懸念されるが、基地局装置2〜4の通信エリアが重複しているため、通信が途切れることはない。
次に、端末装置1のハードウェア構成について説明する。図5は、端末装置1のハードウェア構成を示すブロック図である。
端末装置1は、プロセッサ(制御部)11と、無線インタフェース(通信部)12と、アンテナ13と、メモリ(ワークメモリ)14と、フラッシュメモリやメモリカードなどの記憶デバイス15と、入出力部16と、を備えている。記憶デバイス15は、プロセッサ11で実行されるプログラムなどを格納する。また、入出力部16は、ディスプレイ、スピーカー、操作キーなどで構成される。
次に、第1の基地局装置2のハードウェア構成について説明する。図6は、第1の基地局装置2のハードウェア構成を示すブロック図である。
第1の基地局装置2は、プロセッサ(制御部)21と、無線インタフェース22と、アンテナ23と、メモリ(ワークメモリ)24と、HDD(Hard Disk Device)などの記憶デバイス25と、ネットワークインタフェース26と、を備えている。
記憶デバイス25は、プロセッサ21で実行されるプログラムなどを格納する。無線インタフェース22およびアンテナ23は、端末装置1との間で無線通信を行う。ネットワークインタフェース26は、第2の基地局装置3およびコアネットワークとの間で通信を行う。
なお、第2の基地局装置3および第3の基地局装置4も、第1の基地局装置2と同様のハードウェア構成を有している。
次に、端末装置1の機能的な構成について説明する。図7は、端末装置1の機能ブロック図である。
端末装置1は、ユーザアプリケーション部31と、トランスポート部32と、伝送制御部33と、を備えている。
伝送制御部33は、通信部51と、制御メッセージ送受信部52と、品質測定部53と、を備えている。通信部51は、無線インタフェース12およびアンテナ13(図5参照)により構成される。制御メッセージ送受信部52および品質測定部53は、記憶デバイス15(図5参照)に記憶された伝送制御用プログラムをプロセッサ11に実行させることで実現される。
通信部51は、基地局装置2〜4との間で通信を行う。
制御メッセージ送受信部52は、通信部51を介して、基地局装置2〜4との間で制御メッセージ(測定報告、切替指示、切替完了、追加指示、追加完了)の送受信を行う。
品質測定部53では、基地局装置2〜4を対象にした無線品質測定を行い、無線品質測定値(受信電力、S/N等)を取得する。
トランスポート部32は、トランスポート層に関する処理を行うものであり、帯域推定部61を備えている。
帯域推定部61では、ユーザアプリケーション部31のための事前準備の制御として、現在通信中の基地局装置2〜4および新たな接続先として選択した基地局装置2〜4の通信能力に基づいて、帯域推定(伝送レート決定)を行う。特に本実施形態では、ユーザアプリケーション部31が映像伝送に関するものであるとすると、帯域推定部61では、最適レート制御、すなわち、TFRC(TCP-friendly rate control)により、TCP(Transmission Control Protocol)の使用帯域を推定する帯域推定(伝送レート決定)を行う。
ユーザアプリケーション部31は、制御メッセージ送受信部41と、通信条件判定部42と、接続先選択部43と、符号化レート制御部44と、を備えている。このユーザアプリケーション部31は、記憶デバイス15(図5参照)に記憶されたアプリケーションプログラムをプロセッサ11に実行させることで実現される。
制御メッセージ送受信部41では、通信部51を介して、基地局装置2〜4との間で制御メッセージ(候補要求、接続先候補通知、接続先切替要求、接続先追加要求)を送受信する。また、制御メッセージ送受信部41では、トランスポート部32との間で制御メッセージ(接続先選択結果、帯域推定結果)を送受信する。
通信条件判定部42では、現在通信中の基地局装置2〜4が、ユーザアプリケーション部31の要求する通信条件を満足するか否かを判定する。ここで、現在通信中の基地局装置2〜4が、ユーザアプリケーション部31の要求する通信条件を満足しない場合には、接続先切替または接続先追加が必要と判断して、制御メッセージ送受信部41において、候補要求の制御メッセージを生成して、その候補要求の制御メッセージを、通信部51を介して基地局装置2〜4に送信する。
ここで、例えば、ユーザアプリケーション部31が、音声通話に関するものである場合には、音声の途切れや瞬断を低減するため、低速でも切替頻度が少なくなるように、セル半径が大きいことが通信条件として要求される。また、ユーザアプリケーション部31が、動画視聴(VOD:Video On Demand)に関するものである場合には、ダウンロード時間を短縮するために、通信速度が速いことが通信条件として要求される。
また、ユーザアプリケーション部31が、車両を制御対象とする自動運転用車載アプリアプリケーションである場合には、ブレーキやステアリングなどの自動運転制御を行うことから、安全性を確保するために、車両が走行中の場合には、遅延時間が短いことが通信条件として要求される。一方、車両が停車中の場合には、車上荒し等の犯罪の状況を映した映像をリアルタイムで伝送するため、通信速度が高いことが通信条件として要求される。
また、ユーザアプリケーション部31が、監視カメラを制御対象とする監視カメラ用アプリケーションである場合には、犯罪や事故などの異常が起きていないことを安定的に通知するため、異常が検知されない通常時には、接続安定性が高いことが通信条件として要求される。一方、異常を検知した場合には、犯罪の状況を映した映像をリアルタイムで伝送するため、通信速度が高いことが通信条件として要求される。
この通信条件判定部42は、端末装置1が非通信状態から通信状態に遷移した場合、通信条件を規定するユーザアプリケーション部31が変更された場合の少なくともいずれかの場合に通信条件判定を行う。
ここで、通信条件を規定するユーザアプリケーション部31が変更された場合とは、フォアグラウンドで動作しているユーザアプリケーション部31がバックグラウンドに変更された場合や、ユーザアプリケーション部31の優先度がユーザにより変更された場合に、接続先選択制御を開始するようにしてもよい。また、ユーザアプリケーション部とは別に、ユーザアプリケーション部を監視する監視アプリケーション部を設けるようにしてもよく、この場合、監視アプリケーション部の監視対象となるユーザアプリケーション部が変更された場合に、接続先選択制御を開始する。
接続先選択部43では、基地局装置2〜4から取得した接続先候補通知の制御メッセージに含まれる接続先候補情報と、ユーザやアプリケーションプログラムにより指定される接続先選択方針とに基づいて、接続先を選択する。この接続先選択部43で接続先を選択すると、制御メッセージ送受信部41において、接続先追加要求または接続先切替要求の制御メッセージを生成して、その接続先追加要求または接続先切替要求の制御メッセージを、通信部51を介して基地局装置2〜4に送信する。
この接続先選択部43では、ユーザアプリケーション部31の種別や状態、ユーザアプリケーション部31を利用するユーザ(利用主体)の種別や状態、端末装置1の状態などに基づいて、接続先の選択を行う。ここで、ユーザアプリケーション部31の種別とは、データのダウンロードを行うものか否かや、リアルタイム系(音声や映像)および非リアルタイム系のいずれであるかなどに関するものである。ユーザアプリケーション部31の状態とは、残通信量や、フォアグラウンド状態およびバックグラウンド状態のいずれであるかに関するものである。ユーザの種別とは、人、ロボット、車、船、飛行機、気球、ドローン、センサなどである。ユーザの状態とは、移動速度、位置、危険度(交差点付近等)などである。端末装置1の状態とは、電池残量や発熱量などである。
符号化レート制御部44では、トランスポート部32から送信される帯域推定結果の制御メッセージに含まれる帯域推定結果情報(伝送レート)に基づいて、情報源符号化のビットレートを調整する。
なお、本実施形態では、ユーザアプリケーション部31が、自身がフォアグラウンドで動作していることを検知すると、そのユーザアプリケーション部31の各部が前記の処理を実施する。
次に、第1の基地局装置2の機能的な構成について説明する。図8は、第1の基地局装置2の機能ブロック図である。
第1の基地局装置2は、通信部71と、制御メッセージ送受信部72と、品質判定部73と、を備えている。通信部71は、無線インタフェース22、アンテナ23、およびネットワークインタフェース26(図6参照)により構成される。制御メッセージ送受信部72、品質判定部73は、記憶デバイス25に記憶された伝送制御用プログラムをプロセッサ21(図6参照)に実行させることで実現される。
通信部71は、端末装置1および第2の基地局装置3との間で通信を行う。
制御メッセージ送受信部72は、端末装置1および第2の基地局装置3との間で制御メッセージの送受信を行う。具体的には、端末装置1から送信される候補要求、測定報告、接続先切替要求、接続先追加要求、切替完了、追加完了を受信し、接続先候補通知、切替指示、追加指示を端末装置1に送信する。また、接続要求、切断要求を第2の基地局装置3に送信し、第2の基地局装置3から送信される確認応答を受信する。
品質判定部73では、端末装置1から送信される候補要求および測定報告を制御メッセージ送受信部で受信すると、測定報告に含まれる第2の基地局装置3ごとの通信品質情報と、自装置で収集した第2の基地局装置3に関する情報とに基づいて、第2の基地局装置3に関する品質判定を行い、端末装置1が接続可能な接続先候補となる第2の基地局装置3に関する接続先候補情報(接続先候補リスト)を生成する。この品質判定部73で接続先候補情報が生成すると、制御メッセージ送受信部72において、接続先候補情報を含む接続先候補通知の制御メッセージを生成して、その接続先候補通知の制御メッセージを端末装置1に送信する。
次に、端末装置1の接続先選択部43で行われる処理について説明する。図9は、端末装置1の接続先選択部43で行われる処理の手順の一例を示すフロー図である。
高SHF帯セル(第1の基地局装置2)は高速通信(10Gbps以上)が可能なため、ダウンロードや通信量が大きい場合には高SHF帯セルが適している。一方、アプリケーションのユーザがセンサ系であれば通信量が小さいため、高SHF帯セルを選択する必要がない。また、高SHF帯セルでは、通信エリアが狭いため、端末装置1の移動速度が高いと、通信エリアを短時間で通過するため、高SHF帯セルは不適切である。また、高SHF帯セルでは、高周波回路の使用や、遮蔽に弱く切断率が高いためにバックアップ回線を同時接続する必要があるなどの理由で、電力消費が大きいため、端末装置1の電池残量が少ない場合には、高SHF帯セルは不適切である。
そこで、本実施形態では、端末装置1の接続先選択部43において、アプリケーションがデータのダウンロードを行う種別のものであるか否かの判定(ST101)と、アプリケーションの残通信量が所定のしきい値を超えるか否かの判定(ST102)と、アプリケーションのユーザが人物であるか否かの判定(ST103)と、端末装置1の移動速度が所定のしきい値より低いか否かの判定(ST104)と、端末装置1の電池残量が所定のしきい値を超えるか否かの判定(ST105)と、を順次行う。
そして、アプリケーションがデータのダウンロードを行う種別のものであり(ST101でYes)、アプリケーションの残通信量が所定のしきい値を超え(ST102でYes)と、アプリケーションのユーザが人物であり(ST103でYes)と、端末装置の移動速度が所定のしきい値より低く(ST104でYes)と、端末装置の電池残量が所定のしきい値を超える場合に(ST105でYes)、高SHF帯セルを選択し(ST106)、それ以外の場合には(ST101〜ST105でNo)、その他のRATのセル(例えばLTEの第2の基地局装置3)を接続先に選択する(ST107)。
なお、接続先選択の手順は、これに限定されるものではなく、この他に種々の手順が可能である。
次に、端末装置1の帯域推定部61で行われる処理について説明する。図10は、端末装置1の帯域推定部61で行われる処理の概要を示す説明図である。図11は、端末装置1の帯域推定部61で行われる処理の手順の一例を示すフロー図である。
ここでは、端末装置1のユーザアプリケーション部31が映像伝送に関するものであり、トランスポート部32の帯域推定部61では、最適レート制御、すなわち、TFRC(TCP-friendly rate control)による帯域推定(伝送レート決定)が行われるものとする。この最適レート制御では、パケットロスが増加することで動画や音声の再生時に途切れが発生するような場合に、使用帯域を小さくしてパケットロスを減らす制御が行われ、また、パケットロスが略なくなった場合には、使用帯域を大きくする制御が行われる。
ここで、システム容量(最大帯域)が小さい基地局装置からシステム容量が大きい基地局装置に切り替える場合を例に説明すると、図10に実線で示すように、接続先となる基地局装置が切り替えられることで、可用帯域(実質的に使用可能な帯域)が大きく変化する。このとき、最適レート制御により、図10において一点鎖線で示す比較例のように、帯域推定値が徐々に変化する。このため、可用帯域を有効利用することができない。
そこで、本実施形態では、帯域推定追従性能を向上させるために帯域推定のパラメータを初期化する。具体的には、パケット廃棄イベント率pを0とする初期化を行う。
すなわち、図11に示すように、まず、現在通信中の基地局装置(在圏セル)のシステム容量が、新たな接続先として選択された基地局装置(遷移的セル)のシステム容量と比較して閾値(Th)を超えて大きいか否かを判定する(ST201)。ここで、現在通信中の基地局装置(在圏セル)のシステム容量が新たな接続先となる基地局装置(遷移的セル)のシステム容量よりも閾値(Th)を超えて大きくない場合には(ST201でNo)、パケット廃棄イベント率pを0に設定する初期化を行う(ST202)。
一方、現在通信中の基地局装置(在圏セル)のシステム容量が新たな接続先となる基地局装置(遷移的セル)のシステム容量よりも閾値(Th)を超えて大きい場合には(ST201でYes)、パケット廃棄イベント率pの初期化は行わない。
次に、帯域推定値X_calcを算出する(ST203)。このとき、図11に示す式1により帯域推定値X_calcが算出される。
次に、伝送レートXを算出する(ST204)。このとき、パケット廃棄イベント率pが正である場合には、図11に示す式2により伝送レートXが算出される。この式2では、伝送レートを大きく変化させることができる。一方、パケット廃棄イベント率pが正でない場合には、図11に示す式3により伝送レートXが算出される。この式3では、伝送レートが小刻みに変化する。
なお、式1〜式3は、RFC(Request For Comment)3448に規定されたものである。
このように、本実施形態では、現在通信中の基地局装置のシステム容量(最大帯域)が小さく、かつ、新たな接続先として選択された基地局装置のシステム容量が大きい場合に、パケット廃棄イベント率pを0とする初期化を行う。
これにより、図10において点線で示す実施例のように、接続先変更により可用帯域が増大する場合には、この可用帯域の変化に追従するように帯域推定値が大きく変化し、帯域推定追従性能を向上させることができる。このため、新たな接続先となる基地局装置との間で通信が開始された時点から、可用帯域を有効利用した高品質な映像伝送が可能となる。また、接続先変更により可用帯域が減少する場合には、パケットロスの抑制が可能となる。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。図12は、第2実施形態に係る端末装置1の機能ブロック図である。なお、ここで特に言及しない点は前記の実施形態と同様である。
端末装置1は、第1実施形態(図7参照)と同様に、ユーザアプリケーション部31と、トランスポート部32と、伝送制御部33と、を備えており、さらに、本実施形態では、カメラ81を備えている。
ユーザアプリケーション部31は、監視カメラシステムやビデオ会議システムなどにおいてカメラ81で撮影した映像を配信するものであり、第1実施形態(図7参照)と同様に、制御メッセージ送受信部41と、通信条件判定部42と、接続先選択部43と、符号化レート制御部44と、を備えており、さらに、本実施形態では、カメラ制御部82を備えている。
カメラ制御部82では、事前準備の制御として、新たな接続先として選択した基地局装置2〜4の通信能力に基づいて、カメラ81の動作条件、具体的にはカメラ81の画角(視野角)を調整する制御が行われる。この場合、接続先選択部43において新たな接続先とする基地局装置2〜4が選択されると、その新たな接続先とする基地局装置2〜4に関する接続先選択結果情報が接続先選択部43からカメラ制御部82に送信され、カメラ制御部82において接続先選択結果情報に基づいてカメラ81の動作条件を調整する制御が行われる。
なお、本実施形態では、カメラ81を制御する例を説明したが、カメラ以外のハードウェアデバイスを制御する場合も同様に適用することができる。
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。図13は、第3実施形態に係る端末装置1の機能ブロック図である。なお、ここで特に言及しない点は前記の実施形態と同様である。
端末装置1は、第1実施形態(図7参照)と同様に、ユーザアプリケーション部31と、トランスポート部32と、伝送制御部33と、を備えている。また、端末装置1は、基地局装置2〜3を介して、ストリーミング配信サービスを行う配信サーバ装置91との間で通信を行うことができる。
ユーザアプリケーション部31は、配信サーバ装置91から配信されるストリーミングコンテンツ(動画や音声)を再生するものであり、第1実施形態(図7参照)と同様に、制御メッセージ送受信部41と、通信条件判定部42と、接続先選択部43と、接続先通知部と、符号化レート制御部44と、を備えており、さらに、本実施形態では、配信データ受信制御部92を備えている。
配信データ受信制御部92では、事前準備の制御として、配信サーバ装置91との間でネゴシエーションを行い、新たな接続先として選択した基地局装置の通信能力に基づいて、配信サーバ装置91からのデータ配信に関するパラメータを調整する制御が行われる。この場合、接続先選択部43において新たな接続先とする基地局装置2〜3が選択されると、その新たな接続先とする基地局装置に関する接続先選択結果情報が接続先選択部43から配信データ受信制御部92に送信され、配信データ受信制御部92において接続先選択結果情報に基づいてデータ配信に関するパラメータを調整する制御が行われる。
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施形態にも適用できる。また、上記の実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施形態とすることも可能である。
例えば、前記の実施形態では、新たな接続先とする基地局装置を選択する接続先選択処理を、ユーザアプリケーション部または監視アプリケーション部が行うようにしたが、伝送制御部が行うようにしてもよい。
また、前記の実施形態では、図3および図4に示したように、接続先選択の直後に事前準備の制御を行うようにしたが、第1の基地局装置から送信される接続先変更指示(切替指示または追加指示)の制御メッセージを受信した後に、接続先変更完了(切替完了または追加完了)の制御メッセージを送信する前に、事前準備の制御を実施するようにしてもよい。また、品質測定の後に測定報告の制御メッセージを送信する前に、事前準備の制御を実施するようにしてもよい。