JP6699044B2 - 染色方法および観察方法 - Google Patents

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Description

本発明は、染色方法および観察方法に関する。
近年、生活習慣病、高齢化による腎炎が増加している。腎炎の増加に伴う透析導入によって医療費が増加しており、社会問題となっている。そのため、腎炎の研究や、病理診断技術の研究は、特に重要性が高まっている。
腎炎の研究や病理診断において、特異的蛋白に対する抗原抗体反応を利用した免疫電子顕微鏡法(免疫電顕法)は、細胞や組織の微細構造の情報が得られるとともに、蛋白の局在を可視化することができるため、注目されている。抗原抗体反応を利用した染色方法は、例えば、特許文献1に開示されている。
ここで、電子顕微鏡で撮影される電子顕微鏡像(以下「電顕像」ともいう)は、通常、2次元の画像である。しかしながら、近年、電子顕微鏡を用いて3次元微細構造を観察する方法の開発が進められている。その1つとして、SBF−SEM(Serial block−face scanning electron microscopy)が知られている。
SBF−SEMは、組み込み式ミクロトームによる表層切削とSEMによる試料の断面観察とを交互に反復することにより、数百μm以上に及ぶ比較的広範囲の領域から、透過型電子顕微鏡による連続切片観察に類似した画像を、数nm程度の解像度で迅速に取得する手法である。
免疫電顕法とSBF−SEM等の3次元微細構造を観察する方法を組み合わせることで、組織や細胞の形態を3次元的に解析できるとともに、特定の分子を3次元組織構造中で同定できる(3D免疫電顕法)。
特開2015−219109号公報
腎臓ネフロンの一部である糸球体は、腎動脈から枝分かれした毛細血管のかたまりである。この糸球体全体(または糸球体を含む腎臓ネフロン全体)を、3D免疫電顕法を用いて解析を行うことで、詳細な病理診断が可能となり、また、腎臓の形態学的な新たな知見が得られる可能性がある。
3D免疫電顕法を適用して解析を行うためには、対象となる試料切片を3次元的に免疫染色しなければならない。すなわち、試料切片の厚さ方向に、抗体を浸透させなければならない。しかしながら、抗体の細胞組織への浸透度は、10μm〜15μm程度である。したがって、厚さ方向の解析範囲(観察範囲)は、試料切片の表面から10μm〜15μm程度に限定されてしまう。このような狭い解析範囲では、糸球体全体を3D免疫電顕法を用いて解析することはできない。
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様
に係る目的の1つは、試料をより深くまで染色することができる染色方法を提供することにある。また、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、上記染色方法を含む観察方法を提供することにある。
(1)本発明に係る染色方法は、
管腔構造を有する生体試料の染色方法であって、
前記生体試料から試料切片を切り出す工程と、
前記試料切片を切り出す工程の後に、前記試料切片を凍結させ、凍結した前記試料切片を融解して、免疫染色に用いられる抗体の前記試料切片に対する浸透性を高める工程と
前記抗体の浸透性を高める工程の後に、前記試料切片を0度以上4度以下に保ちつつ、前記試料切片にマイクロウェーブを照射することによって前記試料切片中の抗原を賦活化する工程と、
前記試料切片を、免疫染色する工程と、
を含み、
前記試料切片を切り出す工程では、前記試料切片の切断面に前記管腔構造の開口が形成されるように前記試料切片を切り出し、
前記試料切片を免疫染色する工程では、前記試料切片の切断面に形成された前記管腔構造の開口から前記管腔構造内に抗体を供給する
このような染色方法では、試料切片の切断面に管腔構造の開口が形成されるように試料切片を切り出すため、抗体は試料切片の切断面に形成された開口から管腔構造を通って試料切片に浸透する。したがって、このような染色方法では、試料切片をより深くまで染色することができる。さらに、このような染色方法では、抗体の浸透性を高める工程の後に、試料切片中の抗原を賦活化する工程を行うため、抗原をより効果的に賦活化することができる。さらに、このような染色方法では、試料切片を凍結させ、凍結した試料切片を融解することにより、固定によって凝固、収縮等した組織を緩和することができるため、抗体の浸透性を高めることができる。さらに、このような染色方法では、抗原を賦活化する工程において、細胞や組織に与えるダメージを低減することができる。さらに、このような染色方法では、抗体が試料切片の切断面に形成された開口から管腔構造内に供給されるため、試料切片をより深くまで染色することができる。
)本発明に係る染色方法において、
前記抗体の浸透性を高める工程の前に、前記試料切片に氷晶防止処理を行う工程を含んでいてもよい。
このような染色方法では、抗体の浸透性を高める工程において試料切片を凍結させる際に、試料切片に氷晶が形成されることを防止することができる。
)本発明に係る染色方法において、
前記試料切片を切り出す工程では、前記試料切片を液中で切り出してもよい。
このような染色方法では、試料切片の切断面に管腔構造の開口を形成することができる。
)本発明に係る染色方法において、
前記試料切片を切り出す工程では、前記試料切片の厚さが2μm以上500μm以下になるように前記試料切片を切り出してもよい。
)本発明に係る染色方法において、
前記生体試料は、腎臓であってもよい。
)本発明に係る観察方法は、
本発明に係る染色方法を用いて前記試料切片を染色する工程と、
染色された前記試料切片の表面の切削と、前記試料切片の表面の撮影と、を繰り返し行うことによって、連続断面画像を撮影する工程と、
前記連続断面画像から立体像を再構築する工程と、
を含む。
このような観察方法では、本発明に係る染色方法を用いて試料切片を染色するため、試料切片をより深くまで染色することができる。したがって、このような観察方法では、試料切片の厚さ方向において広い範囲の観察(解析)が可能である。
第1実施形態に係る染色方法の一例を示すフローチャート。 生体試料から切り出された試料切片を模式的に示す図。 試料切片を免疫染色する工程を模式的に示す図。 試料切片を免疫染色する工程を模式的に示す図。 染色された試料切片の表面の切削と、試料切片の表面の撮影と、を繰り返し行う工程を説明するための図。 本実施例の染色方法で染色された組織切片の免疫電顕像。 本実施例の染色方法で染色された組織切片の免疫電顕像。 本実施例の染色方法で染色された組織切片の免疫電顕像。 本実施例の染色方法で染色された組織切片の免疫電顕像。 本実施例の染色方法で染色された組織切片の免疫電顕像。 免疫電顕における陽性コントロールを観察した結果と陰性コントロールを観察した結果を比較した図。 免疫電顕における陽性コントロールを観察した結果と陰性コントロールを観察した結果を比較した図。 第2実施形態に係る染色方法の一例を示すフローチャート。
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
1. 第1実施形態
1.1. 試料
本実施形態に係る染色方法が適用できる試料は、管腔構造を有する生体試料である。
管腔構造を有する生体試料とは、管状または袋状の構造を有する生体試料をいう。管腔構造を有する生体試料としては、管腔臓器(消化管、循環器系、呼吸器系など)が挙げられる。また、組織学的分類において充実性臓器(腎臓、肝臓、精巣、肺、脾臓、胸腺など)でも、腎臓ネフロン(糸球体および尿細管)や精巣(曲精細管)のようにその内部に管腔構造(管状または袋状の構造)を有する臓器は、本実施形態に係る染色方法を適用できる。
なお、本実施形態に係る生体試料は、ヒトの臓器であってもよいし、ヒト以外の動物の臓器であってもよい。
1.2. 染色方法
図1は、第1実施形態に係る染色方法の一例を示すフローチャートである。以下、電子顕微鏡(例えばSBF−SEM)用の試料を染色する例について説明する。
(1)試料切片の切り出し(S10)
まず、固定された生体試料から試料切片を切り出す。
図2は、生体試料から切り出された試料切片2を模式的に示す図である。図2に示すように、試料切片2は、試料切片2の切断面に管腔構造4の開口5が形成されるように切り出される。すなわち、生体試料から試料切片2を切り出すことによって、管腔構造4が切断されて、切断面に開口5が形成される。
管腔構造4の開口5は、後述する免疫染色に用いられる抗体を開口5から管腔構造4内に供給可能な大きさを有している。図2に示す例では、管腔構造4の開口5は、試料切片2の2つの切断面(上面および下面)に形成されているが、一方の切断面のみに形成されていてもよい。管腔構造4の開口5が形成される試料切片2の切断面は、平滑である。
試料切片2の厚さTは、2μm以上500μm以下である。このように試料切片2を厚く切り出すことで、例えば生体試料が腎臓である場合、試料切片2に腎臓ネフロン全体を含めることも可能である。試料切片2の厚さTは、観察対象の大きさに合わせて2μm以上500μm以下の範囲で適宜設定可能である。また、試料切片2の面積(試料切片2を厚さ方向から見たときの大きさ)は、特に限定されず、観察対象の大きさに合わせて適宜設定可能である。
試料切片2の切り出しは、液中(例えばホルマリン中)で行われる。例えば、生体試料を溶液に浸した状態でマイクロスライサーを用いて切り出す(スライスする)ことで、試料切片2を液中で切り出すことができる。試料切片2を液中で切り出すことによって、試料切片2の切断面に管腔構造4の開口5を形成することができる。例えば、乾燥した状態の生体試料から試料切片2を切り出した場合、切断面に形成されるはずの管腔構造4の開口5はつぶれてしまい、抗体を管腔構造4内に供給できない。
なお、上記では、マイクロスライサーを用いて試料切片2を切り出す例について説明したが、試料切片2を切り出す手法は特に限定されず、例えばニードルバイオプシーや、メス等を用いて試料切片2を切り出してもよい。
また、上記では、試料切片2を液中で切り出す例について説明したが、試料切片2を切り出す方法は、これに限定されない。例えば、凍結固定された生体試料を割断して試料切片2を切り出すことによっても、試料切片2の割断面(切断面)に管腔構造4の開口5を形成することができる。
(2)氷晶防止処理(S20)
次に、試料切片2に氷晶防止処理を行う。氷晶防止処理は、例えば、試料切片2をスクロース溶液に浸けることで行われる。なお、ここでは、氷晶防止剤としてスクロース溶液を用いたが、ジメチルオキシド(DMSO)などその他の氷晶防止剤を用いることも可能である。
試料切片2に対して氷晶防止処理を行うことにより、試料切片2を凍らせたときに、組織内に大きな氷晶が形成されることを防ぐことができる。なお、試料切片2が電子顕微鏡用の試料となる場合、組織内に形成される氷はガラス質氷(アモルファス状態の氷)であることが望ましい。
(3)抗体の浸透性を高める処理(S30)
次に、免疫染色に用いられる抗体の試料切片2に対する浸透性を高める処理を行う。抗体の浸透性を高める処理は、例えば、試料切片2を凍結させた後、凍結した試料切片2を融解することで行われる。
試料切片2の凍結は、液体窒素が気化したガスで試料切片2を凍らせた後に、凍った試料切片2を液体窒素に浸すことで行われる。
試料切片2の融解は、液体窒素から試料切片2を取り出して、大気中において室温に戻すことで行われる。なお、凍結および融解は、試料切片2を金属材料(例えばアルミホイル)に接触させた状態で行ってもよい。これにより、凍結した試料切片2を融解する際に、試料切片2の温度の上昇を緩やかにすることができる。
試料切片2を凍結させた後、凍結した試料切片2を融解することにより、抗体の試料切片2に対する浸透性を高めることができる。試料切片2では、ホルマリン等の固定剤による固定により組織が凝固、収縮等して抗体の浸透性が低下するが、上記のように凍結融解処理を行うことにより、組織の凝固、収縮等を緩和して抗体の浸透性を高めることができる。
なお、試料切片2の凍結および融解を、複数回繰り返してもよい。これにより、抗体の浸透性をより高めることができる。
(4)抗原賦活化処理(S40)
次に、試料切片2中の抗原を賦活化する。抗原の賦活化とは、マスキングされたエピトープ(抗原決定基)に抗体がアクセスできるようにすることをいう。例えば、ホルマリン等の固定剤は、アルデヒド基を含んでおり、このアルデヒド基は、メチレン架橋反応を起こす。メチレン架橋には、安定した強固な固定作用があるため、抗原を失活させ、抗原抗体反応を起こりにくくさせてしまう(マスキング)。このようにしてマスキングされたエピトープを、抗原賦活化処理により露出させて抗体がアクセスできる状態にする。
抗原賦活化処理は、例えば、試料切片2を0度以上4度以下に保ちつつ、試料切片2にマイクロウェーブを照射することで行われる。例えば、抗原賦活化処理は、クエン酸緩衝液に浸漬された試料切片2が入った容器を氷等で冷却した状態で電子レンジに入れて、マイクロウェーブを照射することで行われる。このとき、試料切片2の温度が、常に0度以
上4度以下に維持されるようにする。例えば、電子レンジの出力を小さくして、氷中で複数回に分けて試料切片2にマイクロウェーブを照射してもよい。
本実施形態では、抗原賦活化処理は、熱によって抗原を賦活化するのではなく、マイクロウェーブの照射による分子運動(分子振動)によってマスキングを除去して抗原を賦活化する。したがって、例えば、熱によって抗原を賦活化する場合と比べて、細胞や組織に与えるダメージを低減することができる。
なお、上記では、試料切片2をクエン酸緩衝液に浸してマイクロウェーブを照射する例について説明したが、試料切片2を浸す液は特に限定されず、水やキレート剤等であってもよい。
また、上記では、抗原賦活化処理として、試料切片2を0度以上4度以下に保ちつつ、マイクロウェーブを照射する例について説明したが、抗原賦活化処理はこれに限定されない。例えば、トリプシン、ペプシン、プロテアーゼ等の蛋白分解酵素を用いて抗原賦活化処理を行ってもよいし、温浴槽やオートクレーブなどを用いて熱による抗原賦活化処理を行ってもよい。
(5)ブロッキング処理(S50)
次に、ブロッキング処理を行う。ブロッキング処理は、免疫染色の非特異性反応を防ぐために行われる。ブロッキング処理は、既知のブロッキング液を用いて行われる。
(6)免疫染色(S60)
次に、試料切片2を免疫染色する。免疫染色とは、抗原性を有する物質(蛋白)に対して特異的に結合する抗体を作用させて抗原抗体反応を起こすことで、組織や細胞中の物質(蛋白)を検出する手法をいう。
免疫染色は、直接法で行ってもよいし、間接法で行ってもよい。
直接法とは、抗原に直接反応する抗体(1次抗体)を標識し、抗原抗体反応を行う方法である。
また、間接法とは、抗原に対する抗体(1次抗体)には標識せずに、1次抗体を抗原とする2次抗体あるいは3次抗体を標識して複数回の抗原抗体反応を行う方法である。
図3および図4は、試料切片2を免疫染色する工程を模式的に示す図である。
試料切片2中の抗原に抗体(1次抗体、2次抗体)を反応させる際には、試料切片2の切断面に抗体を含む抗体溶液を滴下、または試料切片2を抗体溶液に浸すなどして、抗体が試料切片2の切断面に形成された管腔構造4の開口5から管腔構造4内に供給されるようにする。これにより、図3に示すように、抗体(抗体溶液)6は、開口5から管腔構造4内に入り、管腔構造4内を流れる。そして、図4に示すように、管腔構造4内の抗体6は、管腔構造4内から試料切片2に浸透する。このように、抗体6は、試料切片2の表面からだけでなく、管腔構造4内からも浸透する。この結果、試料切片2は、深くまで染色される。例えば、2μm以上500μm以下の厚さTを持つ試料切片2であっても、試料切片2全体の染色が可能である。
1次抗体反応および2次抗体反応の後に、免疫電顕観察に必要な重金属の標識を1次抗体に直接、または標識2次抗体に結合させる。例えば、標識酵素にペルオキシダーゼ、発色基質にジアミノベンジジンを用いたDAB法を用いてもよいし、抗体に金粒子を結合さ
せたゴールドエンハンス法や、金粒子にさらに銀を付着させたシルバーエンハンス法を用いてもよい。
(7)導電染色(S70)
次に、試料切片2を導電染色する。導電染色は、試料切片2の導電性および最終的な画像のコントラストを高めるために行う。導電染色は、例えば、還元オスミウムを用いて行われる(OTO(osmium−thiocarbohydrazide−osmium)法)。
以上の工程により、生体試料(試料切片2)を染色することができる。
本実施形態では、上記の方法により試料切片2を染色した後に、試料切片2をエポキシ樹脂などで包埋する。これにより、電子顕微鏡(SBF−SEM)用の試料を作製することができる。
本実施形態に係る染色方法は、例えば、以下の特徴を有する。
本実施形態に係る染色方法では、試料切片2の切断面に管腔構造4の開口5が形成されるように試料切片2を切り出すため、抗体は、切断面に形成された開口5から管腔構造4を通って試料切片2に浸透する。したがって、本実施形態に係る染色方法によれば、試料切片2をより深くまで染色することができる。
本実施形態に係る染色方法では、試料切片2を凍結させた後、凍結した試料切片2を融解することにより、抗体の浸透性を高めることができる。
本実施形態に係る染色方法では、試料切片2を0度以上4度以下に保ちつつ、マイクロウェーブの照射による分子運動(分子振動)によってマスキングを除去して、抗原を賦活化する。そのため、例えば、熱によって抗原を賦活化した場合と比べて、抗原を賦活化する工程において、細胞や組織に与えるダメージを低減することができる。
例えば、熱によって抗原を賦活化した場合、加えられた熱によって細胞や組織がダメージを受けてしまう場合がある。特に、電子顕微鏡による高分解能観察では、この細胞や組織のダメージが像に影響を与えるため、良好な電顕像が得られない場合がある。これに対して、本実施形態によれば、細胞や組織に与えるダメージを低減することができるため、高分解能観察においても良好な電顕像を得ることができる。
本実施形態に係る染色方法では、抗体の浸透性を高める工程の後に、試料切片2中の抗原を賦活化する工程が行われるため、固定による組織の凝固、収縮等が緩和された状態で、マイクロウェーブの照射による分子運動によってマスキング除去を行うことができる。したがって、例えば組織が凝固、収縮した状態で、マイクロウェーブの照射による分子運動によるマスキング除去を行う場合と比べて、抗原をより効果的に賦活化することができる。この結果、抗原抗体反応を効果的に行うことができ、抗原抗体反応の感度および特異性を高めることができる。
このように本実施形態に係る染色方法では、組織や細胞に与えるダメージを低減でき、かつ、抗原抗体反応を効果的に行うことができるため、超微細構造(5nm以下の構造)を保持することができる。したがって、本実施形態に係る染色方法を適用して試料を染色することにより、細胞や組織の微細構造や特異的蛋白の局在を高い分解能(例えば5nm以下の分解能)で解析可能である。よって、本実施形態に係る染色方法は、高分解能、高精度が要求される分析(観察)に用いられる試料の染色に好適である。また、本実施形態
に係る染色方法は、超微細構造を保持できるとともに、厚さ方向の解析範囲(観察範囲)を広げることもできるため、3D免疫電顕法用の試料の染色に特に好適である。
1.3. 観察方法
本実施形態に係る観察方法は、上述した本実施形態に係る染色方法を用いて試料切片を染色する工程と、染色された試料切片の表面の切削と試料切片の表面の撮影とを繰り返し行う工程と、を含む。
図5は、染色された試料切片の表面の切削と試料切片の表面の撮影とを繰り返し行う工程を説明するための図である。
試料切片2の表面の切削と試料切片2の表面の撮影とを繰り返し行う工程は、例えば、図5に示すように、SBF−SEMによって行われる。すなわち、本工程では、組み込み式ミクロトーム10による表層切削とSEM20による試料切片2の断面観察とが繰り返し行われる。これにより、連続断面画像を撮影することができ、連続断面画像から立体像を再構築することができる。
なお、試料切片の表面の切削はミクロトームに限定されず、例えば、FIB(Focused Ion Beam)装置を用いてもよい。
本実施形態に係る観察方法では、本実施形態に係る染色方法を用いて試料切片を染色するため、試料切片2をより深くまで染色することができる。したがって、本実施形態に係る観察方法では、試料切片2の厚さ方向において広い範囲の観察(解析)が可能である。さらに、本実施形態に係る観察方法では、細胞や組織の微細構造や特異的蛋白の局在を高い分解能(例えば5nm以下の分解能)で解析可能である。
1.4. 実施例
以下、実施例を挙げて本実施形態をさらに詳細に説明するが、本発明はこれによって制限されるものではない。
(1)材料
正常マウス(11周齢メス)の腎臓
(2)抗体
(2−1)1次抗体
・抗 IgM−ヤギ IgG抗体(Bethyl社製)
(2−2)標識2次抗体
・抗ヤギIgG−ウサギFab−Horse radish peroxidase (HRP)標識抗体(abcam社製)
(2−3)標識2次抗体との反応試薬
・Diaminobenzidine(DAB)発色kit(Thermo Fisher SCIENTIFIC社製)
(3)手順
マウスを灌流固定し、腎臓を取り出した。固定剤は、4%パラフォルムアルデヒドを含む0.1Mリン酸緩衝液を用いた。
次に、マイクロスライサーを用いて腎臓を薄く切り出して、150μmの厚さの組織切
片を作製した。
次に、組織切片を、4℃の10%ショ糖を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、4℃の20%ショ糖を含むリン酸緩衝生理食塩水、4℃の30%ショ糖を含むリン酸緩衝生理食塩水に、この順番で、それぞれ1〜2時間浸けて、氷晶防止処理を行った。
次に、凍結融解処理を行った。具体的には、14μm厚のアルミホイルの裏面(光沢が無い方)を表にして4枚重ねており、このアルミホイルに組織切片を載置し、余分な30%ショ糖を含むリン酸緩衝生理食塩水を取り去った。そして、組織切片が載置されたアルミホイルを液体窒素の液面に近づけ、液体窒素が気化した窒素ガス(−196℃程度)で組織切片を凍らせた。次に、凍った組織切片をアルミホイルに載置された状態で液体窒素に1分間浸した。次に、組織切片をアルミホイルに載置された状態のまま液体窒素から取り出して、室温で融解した。最後に、融解した組織切片をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄した。
次に、抗原賦活化処理を行った。具体的には、まず、10mMクエン酸緩衝液(pH6.0)に浸された組織切片が入った容器を電子レンジに入れた。そして、電子レンジを出力80Wで30秒間動作させることを3回繰り返した。電子レンジが動作している間も、当該容器を氷上に置くことで、組織切片の温度を4℃に保った。最後に、組織切片をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄した。
次に、免疫染色の非特異性反応を防ぐために、ブロッキングを行った。ブロッキング液は、5% Gelatin from cold Water fish skinと1%正常ヤギ血清含むリン酸緩衝生理食塩水を用いた。ブロッキングは、4℃で30分間行った。最後に、組織切片をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄した。
また、1次抗体についても同様に、1次抗体をブロッキング液で希釈後、30分間、4℃の状態においた。
次に、1次抗体反応を行った。1次抗体反応は、ドライバス中(37℃)で60分間行った。1次抗体反応を行った後、組織切片をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄した。
次に、組織切片をスライドガラス上に載せて標識2次抗体と発色試薬の反応を行った。反応は、光学顕微鏡で確認しながら行った。反応時間は、5分とした。標識2次抗体と発色試薬の反応を行った後、組織切片をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄した。
次に、2.5%グルタールアルデヒドを含む0.1Mリン酸緩衝液を用いて、追加固定(4℃、1時間)を行った。
次に、還元オスミウムを用いて、導電性ブロック染色(OTO法)を行った。
次に、組織切片をカーボン樹脂入りエポキシレジンに熱重合にて包埋した。
次に、包埋された組織切片の余分なエポキシレジンをトリミングし、SBF−SEM用の金属試料台に載せた。
次に、イオンコーターで試料表面30nm〜40nmの厚さの金蒸着を行った。
このようにして作製された試料を、SBF−SEMにより電子顕微鏡観察を行い、電顕像を取得した。
(4)実験結果
(4−1)3D免疫電顕
図6〜図10は、本実施例の染色方法で染色された組織切片の免疫電顕像である。
図6は、免疫グロブリンM(IgM)抗体を用いたマウス腎臓組織の免疫電顕像である。
図7は、図6に示す領域bを拡大して撮影した免疫電顕像である。図7の右上の写真の矢印は、糸球体のメサンギウム細胞内に取り込まれたIgMの陽性像を示している。
図8は、図6に示す領域bをSBF−SEMにより断面観察を行って得られた連続断面画像(140枚)を、3次元立体構築した立体像である。図8の矢印は、IgM抗体を用いたマウス腎臓組織の免疫電顕の陽性部位を示している。
図9は、図8に示す立体像からIgMの陽性像が明瞭な箇所を抽出したものである。図9の矢印は、IgMの陽性像を示している。メサンギウム細胞と足細胞は、糸球体を構成する細胞である。
図10は、図8に示す立体像の再構築に用いられた連続断面画像である。図10では、140枚の断面画像に、それぞれD1〜D140の番号を付している。図10の矢印は、IgM抗体を用いたマウス腎臓組織の免疫電顕の陽性部位を示している。
図6に示すように、本実施例では、数百μm以上に及ぶ広範囲から電顕像が得られた。また、図7に示すように、D1〜D140の各断面画像はいずれも良好な免疫電顕像であり、図8に示すように、良好な立体像を再構築できた。この結果から、本実施例では、組織切片を深くまで(組織切片の表面から100μm以上の深さまで)染色できることがわかる。また、図8〜図10に示す結果から、本実施例では、腎臓組織の超微細構造および蛋白発現を、3次元的に、高い分解能(5nm以下の分解能)で解析可能であることがわかる。
なお、比較例として、管腔構造を有さない脳(海馬など)のカベオリンやミトコンドリアについて本実施例と同様の手順で染色を行ったが、組織表面から10μm〜15μm程度しか染色できなかった。
(4−2)免疫電顕における陽性コントロールと陰性コントロールの比較1
図6〜図10に示す免疫電顕の陽性所見を比較するための陰性コントロールを作製した。陰性コントロールは、1次抗体(IgM抗体)反応のみを上記手順から除き、他の条件はすべて同じにして作製した。
そして、陽性コントロールおよび陰性コントロールについて、1次抗体に特異的に反応する2次抗体に標識されたホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)とディアミノベンチジン(DAB)による反応産物とオスミウムとの重金属の沈着による高電子密度領域を観察した。
陰性コントロールをとる理由としては、組織細胞自体に含まれる内在性ペルオキシダーゼとDABによる反応産物との重金属の沈着も高電子密度領域を形成し、バックグラウンドとして検出されるためである。
図11は、免疫電顕における陽性コントロールを観察した結果(紙面左側)と陰性コン
トロールを観察した結果(紙面右側)を比較した図である。なお、これらの免疫電顕像は、同一条件で撮影した。
図11の陽性コントロールを観察した結果の黒矢印は、IgM抗体の陽性所見を示している。これに対して、陰性コントロールの対応する箇所(白矢印参照)は、コントラストが弱い。この結果から、本実施例の染色方法は、特異性が高いことがわかる。
(4−3)免疫電顕における陽性コントロールと陰性コントロールの比較2
上記の免疫電顕における陽性コントロールと陰性コントロールの比較1と同様の実験を糸球体の全体像についても行った。
図12は、免疫電顕における陽性コントロールを観察した結果(紙面左側)と陰性コントロールを観察した結果(紙面右側)を比較した図である。なお、これらの免疫電顕像は、同一条件で観察した。
図12の陽性コントロールを観察した結果の黒矢印は、IgM抗体の陽性所見を示している。これに対して、陰性コントロールの対応する箇所(白矢印参照)は、コントラストが弱い。この結果からも、本実施例の染色方法は、特異性が高いことがわかる。
2. 第2実施形態
上述した第1実施形態では、固定された生体試料から試料切片を切り出して、免疫染色を行っていたが、第2実施形態では、固定が行われていない生体試料から試料切片を切り出す点で異なっている。
2.1. 試料
本実施形態に係る染色方法が適用できる試料は、第1実施形態と同様に、管腔構造を有する生体試料である。そのため、本実施形態に係る試料についての詳細な説明は省略する。
2.2. 染色方法
図13は、第2実施形態に係る染色方法の一例を示すフローチャートである。
(1)試料切片の切り出し(S100)
まず、生体試料から試料切片を切り出す。本実施形態では、試料切片の切り出しは、生体試料が固定されていない点を除いて、上述した図1に示す試料切片の切り出し(S10)と同様に行われる。
(2)免疫染色(S200)
次に、試料切片を免疫染色する。本実施形態では、生体試料(試料切片)が固定されていないため、エピトープがマスキングされない。したがって、抗体の浸透性を高める処理(S30)、抗原賦活化処理(S40)を行わなくてもよい。また、抗体の浸透性を高める処理(S30)を行わなくてもよいため、氷晶防止処理(S20)も行わなくてよい。
したがって、本実施形態では、試料切片を切り出した後、直ちに試料切片を免疫染色することができる。免疫染色処理(S200)は、上述した図1に示す免疫染色処理(S60)と同様に行われる。
なお、ブロッキング処理(S50)や導電染色する処理(S70)は、必要に応じて行ってもよいし、行わなくてもよい。
以上の工程により、生体試料(試料切片)を染色することができる。
本実施形態に係る染色方法によれば、上述した第1実施形態に係る染色方法と同様に、試料切片の切断面に管腔構造4の開口5が形成されるように試料切片2を切り出すため、試料切片をより深くまで染色することができる。
3. 変形例
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
上述した第1実施形態では、電子顕微鏡用(SBF−SEM用)の試料を染色する例について説明したが、本発明に係る染色方法は、電子顕微鏡用以外の試料の染色にも適用可能である。本発明に係る染色方法は、例えば、CT(Computed Tomography)、マイクロCT、MRI(magnetic resonance imaging)、軟X線装置、超解像度顕微鏡等の各種顕微鏡等に用いられる試料を染色するためにも適用できる。
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
2…試料切片、4…管腔構造、5…開口、6…抗体、10…ミクロトーム、20…SEM

Claims (6)

  1. 管腔構造を有する生体試料の染色方法であって、
    前記生体試料から試料切片を切り出す工程と、
    前記試料切片を切り出す工程の後に、前記試料切片を凍結させ、凍結した前記試料切片を融解して、免疫染色に用いられる抗体の前記試料切片に対する浸透性を高める工程と
    前記抗体の浸透性を高める工程の後に、前記試料切片を0度以上4度以下に保ちつつ、前記試料切片にマイクロウェーブを照射することによって前記試料切片中の抗原を賦活化する工程と、
    前記試料切片を、免疫染色する工程と、
    を含み、
    前記試料切片を切り出す工程では、前記試料切片の切断面に前記管腔構造の開口が形成されるように前記試料切片を切り出し、
    前記試料切片を免疫染色する工程では、前記試料切片の切断面に形成された前記管腔構造の開口から前記管腔構造内に抗体を供給する、染色方法。
  2. 請求項において、
    前記抗体の浸透性を高める工程の前に、前記試料切片に氷晶防止処理を行う工程を含む、染色方法。
  3. 請求項1または2において、
    前記試料切片を切り出す工程では、前記試料切片を液中で切り出す、染色方法。
  4. 請求項1ないしのいずれか1項において、
    前記試料切片を切り出す工程では、前記試料切片の厚さが2μm以上500μm以下になるように前記試料切片を切り出す、染色方法。
  5. 請求項1ないしのいずれか1項において、
    前記生体試料は、腎臓である、染色方法。
  6. 請求項1ないしのいずれか1項に記載の染色方法を用いて前記試料切片を染色する工程と、
    染色された前記試料切片の表面の切削と、前記試料切片の表面の撮影と、を繰り返し行うことによって、連続断面画像を撮影する工程と、
    前記連続断面画像から立体像を再構築する工程と、
    を含む、観察方法。
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