以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において同一部には原則として同一符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
(実施の形態1)
図1〜図12を用いて、本発明の実施の形態1の物理量検出装置について説明する。実施の形態1の物理量検出装置である角速度センサモジュールは、一軸の変位サーボ制御方式の振動型角速度センサである。この角速度センサモジュールは、慣性体の変位量を検出するためのセンサ要素の入出力信号に対してサーボ制御を行う変位サーボループ型回路として、図1のサーボ回路11を有する。この変位サーボループ型回路に接続される制御系回路として、図1の遅延調整回路12を有する。遅延調整回路12は、センサ要素1及びサーボ回路11を含むサーボループにおける位相遅延の状態が好適になるように調整する機能を有する。遅延調整回路12は、調整の際、サーボ回路11のサーボ制御値であるデータ信号DT0のモニタ信号DMに基づいて、サーボ電圧信号SRVに反映するための位相遅延量を計算する。遅延調整回路12は、その位相遅延量を遅延回路105に適用し、位相遅延が施されたサーボ制御信号SRV0に基づいたサーボ電圧信号SRVを生成させて、サーボループを制御させる。これによって、この角速度センサモジュールは、最適な位相遅延によるサーボ制御を維持できる。
[物理量検出装置]
図1は、実施の形態1の物理量検出装置である角速度センサモジュールの構成を示す。角速度センサモジュールは、センサ要素1、検出制御回路10、駆動制御回路20等を有する。図1では、主にセンサ要素1に接続されている検出制御回路10の機能ブロック構成を示す。この角速度センサモジュールは、従来技術の角速度センサとは異なる構成要素として、特に遅延調整回路12を有する。
センサ要素1は、角速度センサの慣性体を構成する部分であり、図2に等価回路を示し、図3に実装構造例を示す。センサ要素1は、図2のような電極及び容量を有し、図3のような駆動マス51及び検出マス52を有する。
駆動制御回路20は、センサ要素1の駆動マス51のX方向の変位ΔX(図3)に関する駆動及び検出を行う回路である。駆動制御回路20から駆動信号DRV(図2)をセンサ要素1の駆動マス51に供給し、駆動マス51から出力される駆動検出信号ASDを駆動制御回路20に入力する。
駆動制御回路20内には、図2のように搬送波発生回路30を含む。搬送波発生回路30は、搬送波信号CRRを発生し、センサ要素1の共通電極E0に供給する。搬送波信号CRRは、容量の静電容量変化を検出するために必要な交流信号である。
検出制御回路10は、センサ要素1の検出マス52のY方向の変位ΔY(図3)に関するサーボ制御を含む検出制御を行う回路である。検出制御回路10からサーボ電圧信号SRVをセンサ要素1の検出マス52に供給し、検出マス52から出力される検出信号ASSを検出制御回路10に入力する。
図1で、検出制御回路10は、大別すると、サーボ回路11、遅延調整回路12、復調回路13、データ処理回路14を有する。
サーボ回路11は、変位サーボループ型回路であり、基本的に公知の回路で構成できる。サーボ回路11は、センサ要素1の検出マス52に対するサーボ制御のループ(サーボループ、変位サーボループ等と記載する場合がある)を含む回路部分である。変位サーボループ型とは、サーボループの外側に復調回路13等が設けられている構成を指す。この変位サーボループ型回路では、復調回路13で同期検波を行う前のデータ信号DT0を、サーボ制御値として、そのすべての周波数に対しフィードバック制御をかける。なお、サーボ制御に関する他の型としては、サーボループの内側に復調回路等が設けられる構成もあるが、本実施の形態では適用しない。サーボ回路11は、サーボ制御に係わるゲインを調整する機能を有する。PIDコントローラ103は、そのゲインを調整する機能を有するサーボ制御回路である。
遅延調整回路12は、サーボ回路11に接続される制御系回路であり、サーボ回路11のサーボループにおける位相遅延の状態が最適な状態になるように自動探索による調整を行う機能を有する。なお、位相遅延は、センサ要素1で生じる位相遅延、及びサーボ回路11で生じる位相遅延を含む。遅延調整回路12は、調整の際、ループの位相遅延の状態を調整するための位相遅延量を遅延量DVAL(遅延量信号)として計算し、その遅延量DVALを適用させるように、遅延回路105に遅延量DSETを与える。遅延回路105は、データ信号DT0にその遅延量DSETによる位相遅延を施したサーボ制御信号SRV0を生成する。DAC101は、そのサーボ制御信号SRV0に基づいて、位相遅延が反映されたサーボ電圧信号SRVを生成し、センサ要素2に供給する。遅延調整回路12は、クロック信号に基づいた探索更新数毎に、最適な遅延量を探索する。探索が進むことで、位相遅延量が最適値に調整される。
[サーボ回路]
図1のサーボ回路11は、DAC(デジタルアナログ変換回路)101、アナログフロントエンド回路102、PIDコントローラ103、量子化回路104、遅延回路105を含む。
DAC101は、遅延回路105からの位相遅延が施されたサーボ制御信号SRV0に基づいて、デジタルアナログ変換を含む処理によって、位相遅延が施されたサーボ電圧信号SRVを生成し、センサ要素1の検出マス52に供給する。サーボ電圧信号SRVは、差動信号であり、正側信号SRVpと負側信号SRVnとから成る。pは正側、nは負側を示す。
アナログフロントエンド回路102は、センサ要素1の検出マス52から出力される検出信号ASSを入力する。検出信号ASSは、検出マス52の変位ΔYを表す信号である。検出信号ASSは、差動信号であり、正側信号ASSpと負側信号ASSnとから成る。アナログフロントエンド回路102は、アナログクロックCKAに基づいて動作し、検出信号ASSに対し、アナログ増幅、アナログデジタル変換を含む処理によって、検出信号ASSのデジタル値を表す信号ADCOUTを得て出力する。
PIDコントローラ103は、PID制御クロックCKPに基づいて動作する。PIDコントローラ103は、一般的なPIDコントローラを適用可能である。PIDコントローラ103は、信号ADCOUTを入力し、PID制御係数K1{KP,KI,KD}を用いながら、サーボ制御に係わるゲインを調整するPID制御を行う。PIDコントローラ103の変位目標値は0度である。PID制御係数K1は、メモリ回路123から入力される。係数KPは比例係数、係数KIは積分係数、係数KDは微分係数である。PIDコントローラ103は、PID制御結果の信号PIDOUTを出力する。
量子化回路104は、信号PIDOUTを入力し、所定のサンプリングレート、ビット数で量子化を行い、その結果のデータ信号DT0を出力する。量子化回路104は、信号PIDOUTを、16ビットよりも小さいビットになるように量子化を行う。量子化回路104の具備により、角速度センサモジュールに具備する必要があるDAC101等の回路の規模を小さくでき、装置サイズやコストの低減に寄与する。なお、量子化回路104を省略した形態も可能である。データ信号DT0は、復調回路13、遅延回路105、及びモニタ回路121へ供給される。データ信号DT0は、サーボ制御のためのサーボ制御値である。
遅延回路105は、遅延回路クロックCKDに基づいて動作し、データ信号DT0、及びモード選択回路124からの遅延量DSETを入力する。遅延回路105は、フィードバック制御のために、データ信号DT0に、遅延量DSETによる位相遅延を施して、その信号をサーボ制御信号SRV0として生成して出力する。遅延量DSETは、そのタイミングで適用すべき位相遅延量を表す信号である。
上記のように、サーボ回路11のサーボループでサーボ制御が行われる。このサーボ制御の際、適切なフィードバック制御のためには、遅延回路105で適切な位相遅延を施すことが必要である。仮に不適切な位相遅延である場合、出力信号SNSOUTの角速度において雑音の増大や発振の原因となり得る。遅延調整回路12は、適切な位相遅延のための遅延量DVALを生成し、遅延量DSETとして遅延回路105に適用する。
[復調回路]
復調回路13は、第1復調回路13A、第2復調回路13Bを有し、同期検波を行う。第1復調回路13Aは、第1同期検波クロックCKCOSに基づいて動作し、入力のデータ信号DT0に第1同期検波を行い、その結果であるコリオリ成分を表すコリオリ信号CORを出力する。第2復調回路13Bは、第2同期検波クロックCKSINに基づいて動作し、入力のデータ信号DT0に第2同期検波を行い、その結果であるエラー成分を表すエラー信号ERRを出力する。
復調回路13の回路構成例は以下である。復調回路13は、ビット毎の複数の排他的論理和回路、及びNビット加算器を含む。データ信号DT0のビット数としてNを仮定する。復調回路13は、入力のデータ信号DT0の各ビットを、対応する排他的論理和回路に入力する。例えば、第1復調回路13Aは、データ信号DT0に対し、第1同期検波クロックCKCOSによって、ビット毎の排他的論理和をとる。そのビット毎の排他的論理和信号は、Nビット加算器で加算され、出力信号であるコリオリ信号CORとして出力される。第2復調回路13Bも同様の構成である。
データ信号DT0のコードとして2の補数表現を仮定する。この場合、データ信号DT0の表現範囲は、−2^(N−1)〜2^(N−1)−1である。具体的に、N=16の場合、表現範囲は、−32768〜32767となる。なお、正側は負側よりも1だけ少ない絶対値までしか表現できない。復調回路13の出力信号は、データ信号DT0の入力に対し、クロック信号の値が1の時には、−1を乗算して符号を反転させた値となり、クロック信号の値が0の時には、+1を乗算して入力をそのまま出力とした値となる。そのため、−32768の反転の時には注意を要する。
[データ処理回路]
データ処理回路14は、復調回路13からの同期検波後の信号であるコリオリ信号COR及びエラー信号ERRを入力し、角速度(angular rate:Ω)及び角度(angle)等を計算する所定のデータ処理を行う。データ処理回路14は、計算して得た角速度及び角度を含む、角速度センサ出力情報である出力信号SNSOUTを、端子から外部へ出力する。また、データ処理回路14は、外部から端子を通じて設定情報CNFやトリガ信号TRGを受け付けて入力可能である。外部は、後述するが計算機や上位システム等である。
設定情報CNFは、メモリ回路123に格納される各種の値(遅延量DMEM(遅延量信号)、初期値INT、増減値STP、PID制御係数K1等)に関する設定情報である。データ処理回路14は、メモリ回路123に対する値の読み書きを行う機能を有する。データ処理回路14は、入力された設定情報CNFに基づいて、メモリ回路123に対する指定された値の読み出しや書き込みを行う。これにより、メモリ回路123に対する遅延量DMEM等の値の初期設定や設定更新、メモリ回路123の値の参照や外部出力、等が可能である。
トリガ信号TRGは、遅延調整回路12による遅延調整を開始させるためのトリガ信号である。外部の例えば計算機は、ユーザの操作に基づいて、トリガ信号TRGを角速度センサモジュールに入力する。データ処理回路14は、外部から受け付けたトリガ信号TRGに基づいて、遅延調整の制御のためのモード信号MDを生成し、遅延調整回路12内の部位に供給する。モード信号MDは、遅延調整を行うか否か等のモードを制御する信号である。
実施の形態1の角速度センサモジュールでは、遅延調整を自動探索モードとして行わせる機能を有する。実施の形態1では、モードとして、第1モード、第2モードを有する。第1モードは、遅延調整を行わない通常モードとする。第2モードは、遅延調整を行う自動探索モードとする。データ処理回路14は、トリガ信号TRGに応じて、それらのモードを切り替える。データ処理回路14は、トリガ信号TRGが入力されていない状態では第1モードとし、トリガ信号TRGが入力された時には第1モードから第2モードに切り替える。データ処理回路14は、第1モードの時にはモード信号MDの値を0にし、第2モードの時にはモード信号MDの値を1にする。そのモード信号MDが遅延計算回路122やモード選択回路123に入力される。
[遅延調整回路]
図1の遅延調整回路12は、モニタ回路121、遅延計算回路122、メモリ回路123、モード選択回路124を含む。
メモリ回路123には、サーボ回路11に係わる従来の設定値等が格納されていると共に、遅延調整回路12に係わる設定値等が格納されている。メモリ回路123は、ROM、RAM、及び駆動回路等を備える。メモリ回路123のROMには、予め製品出荷時から、設定値として遅延量DMEM等が格納される。また、メモリ回路123内には、PID制御係数K1{KP,KI,KD}や、遅延調整用の初期値INT及び増減値STP等の値が格納される。メモリ回路123に格納される各値は、データ処理回路14から読み書きが可能である。また、メモリ回路123内のRAMには、モード選択回路124からの遅延量DSTR(遅延量信号)が格納される。
モニタ回路121は、モニタ回路クロックCKMに基づいて動作し、サーボループの位相遅延の状態をモニタする回路である。モニタ回路121は、サーボ回路11のデータ信号DT0を入力し、サーボループの位相遅延の状態を表すモニタ信号DMを生成して出力する。モニタ回路121は、詳しくは、データ信号DT0の振幅値をモニタする。
遅延計算回路122は、遅延計算回路クロックCKC及びモード信号MDに基づいて動作し、遅延調整のための位相遅延量を計算する。遅延計算回路122は、入力のモニタ信号DMに基づいて、遅延調整のための遅延量DVALを生成して出力する。遅延量DVALは、遅延回路105に適用するための位相遅延量を表す信号である。遅延量DVALは、自動探索における遅延計算回路クロックCKCに基づいた探索更新数の時点毎の更新値である。
遅延計算回路122は、モード信号MDの値が1である時には自動探索を行い、遅延量DVALを生成して出力する。また、遅延計算回路122は、自動探索の際、メモリ回路123から入力される初期値INT及び増減値STPを用いることができる。例えば、遅延計算回路122は、モード信号MDの値が1になった時、初期値INTを適用し、その後、時点毎に増減量STPを適用する。データ処理回路14から初期値INT及び増減値STPを可変に設定可能である。初期値INT及び増減値STPを用いる場合、遅延計算回路122は、初期値INTから遅延量の探索を開始し、探索更新数毎に、遅延量を増減値STPの単位で増減して、遅延量DVALとする。
モード選択回路124は、モード選択回路クロックCKS及びモード信号MDに基づいて動作する。モード選択回路124は、遅延計算回路122からの遅延量DVAL、及びメモリ回路123からの遅延量DMEMを入力し、モード信号MDの値に応じて、それらのいずれかを選択し、遅延量DSET(遅延量信号)として出力する。モード選択回路124は、モード信号MDの値が0である第1モードの時には、遅延量DMEMを選択し、モード信号MDの値が1である第2モードの時には、遅延量DVALを選択する。
第1モードでは、遅延量DSETとして、一定の設定値である遅延量DMEMが遅延回路105に適用され、その遅延量DMEMによる位相遅延が施されたサーボ制御が行われる。第2モードでは、遅延量DSETとして、時点毎の更新値である遅延量DVALが遅延回路105に適用され、その遅延量DVALによる位相遅延が施されたサーボ制御が行われる。第2モードの期間では、遅延計算回路122での探索で遅延量DVALが更新されてゆき、次第に最適値になる。
モード選択回路124は、第2モードの時には、探索更新数毎に、更新値である遅延量DVALと同じ値(少なくとも1つ前の時点の値)を、格納値である遅延量DSTRとして、メモリ回路123に格納する。メモリ回路123は、第2モード中にその遅延量DSTRをRAMにバッファリングして保持しておく。探索の終了時、モード選択回路124は、その時の最適値である遅延量DVALに対応する遅延量DSTRを、メモリ回路123に出力している。
第2モードの期間で、遅延計算回路122における自動探索で遅延量DAVLが最適値に収束した場合には、自動探索が終了し、第2モードから第1モードに戻る(後述)。例えば、遅延計算回路122は、探索終了をデータ処理回路14に通知し、データ処理回路14は、その通知に応じて、モード信号MDの値を1から0にする。データ処理回路14は、探索終了時、メモリ回路123に通知する。もしくはデータ処理回路14からモードMDの値を0としてメモリ回路123に与えてもよい。メモリ回路123は、その通知もしくはモード信号MDに応じて、その時の最適値に対応するRAM上の遅延量DSTRを、新たな設定値である遅延量DMEMとするように、ROMの遅延量DMEMを上書き更新する。これにより、以降の第1モードでは、その新たな遅延量DMEMが適用され、好適なサーボ制御が行われる。
上記のように、遅延調整回路12は、トリガ信号TRGに基づいてモード信号MDによってモードを第1モードから第2モードに切り替えて、最適な遅延量の自動探索を行い、最適な遅延量を新たな設定値として保存して、第1モードに戻る。
なお、第2モードの遅延量の探索は、センサ要素1に角速度が加わっていない状態で行うことが望ましい。このため、探索のタイミング及びモードを、トリガ信号TRGによって外部の計算機やユーザから制御可能としている。このような制御機構を設けずに、常時に遅延量を探索する形態とした場合、センサ要素1に角速度が加わっている状態で探索が行われると、不適切な遅延量が設定される可能性がある。実施の形態1によれば、そのような可能性も回避でき、検出精度や信頼性を高めることができる。
実施の形態1では、遅延調整回路12は、センサ要素1の共振周波数f0以下のサンプリングレートで更新値である遅延量DVALを計算し、サーボ回路11に出力する。
[センサ要素−等価回路]
図2は、主にセンサ要素1の等価回路、及び駆動制御回路20の構成を示す。図2で、センサ要素1の構成を説明する。センサ要素1は、一般的な一軸の検出軸を持つ振動型角速度センサの場合、機能端子として全部で9種類の電気入出力端子がある。これらの端子は、図2の電極Exsp,Exsn,Exfp,Exfn,Eysp,Eysn,Eyfp,Eyfn、及び共通電極E0が相当する。これらの端子に対する適切な信号入出力によって角速度検出が制御される。なお、1つのセンサ要素1に複数の検出軸を備える形態とする場合、検出軸の数に対応して端子数を増やした構成とすればよい。
センサ要素1は、8個の静電容量素子を有し、図2の容量Cxsp,Cxsn,Cxfp,Cxfn,Cysp,Cysn,Cyfp,Cyfnが相当する。各静電容量素子は、電極対で構成されている。各静電容量素子の一方の端子は、搬送波信号CRRの入力端子である共通電極E0として共有されている。
容量Cxfp,Cxfnは、駆動信号DRVの入力端子となる電極Cxfp,Cxfnを有する、駆動マス51の駆動容量であり、容量Cxfpは正側容量、容量Cxfnは負側容量である。例えば、容量Cxfpは、電極Exfpと共通電極E0との対で構成されている。駆動マス51を駆動する静電気力は、[(DRVp−CRR)^2−(DRVn−CRR)^2]に比例する(ここではDRVp等は電圧値を表すとする)。この静電気力によって駆動マス51が駆動される。容量Cxsp,Cxsnは、駆動検出信号ASDの出力端子となる電極Exsp,Exsnを有する、駆動マス51の駆動検出容量であり、同様に正側容量、負側容量を有する。駆動マス52の変位は、[Cxsp−Cxsn]によって検出できる(ここではCxsp等は容量値を表すとする)。
容量Cyfp,Cyfnは、サーボ電圧信号SRVの入力端子となる電極Eyfp,Eyfnを有する、検出マス52のサーボ容量であり、同様に、正側容量、負側容量を有する。検出マス52をサーボ制御する際に印加される静電気力は、[(SRVp−CRR)^2−(SRVn−CRR)^2]に比例する。容量Cysp,Cysnは、検出信号ASSの出力端子となる電極Eysp,Eysnを有する、検出マス52の検出容量であり、同様に正側容量、負側容量を有する。検出マス52の変位は、[Cysp−Cysn]によって検出できる。
駆動信号DRVは、駆動マス51をX方向に一定の周波数及び振幅で制御して振動させるために用いられる。DAC201から出力された駆動信号DRV{DRVp,DRVn}が電極Exfp,Exfnに入力される。駆動検出信号ASDは、駆動マス51の振動状態を、容量Cxsp,Cxsnでの静電容量変化として検出するための信号である。電極Exsp,Exsnから出力された駆動検出信号ASD{ASDp,ASDn}がアナログフロントエンド回路202に入力される。
サーボ電圧信号SRVは、検出マス52がY方向に変位した時の変位ΔYを打ち消す方向に静電気力を印加するために印加される信号である。DAC101から出力されたサーボ電圧信号SRV{SRVp,SRVn}が電極Eyfp,Efynに入力される。検出信号ASSは、検出マス52の変位ΔYを静電容量変化として検出するための信号である。検出信号ASSは、検出マス52に関する振幅値及び容量値を表すアナログ電圧信号である。駆動マス51がX方向に一定の周波数及び振幅で振動している状態で角速度Ωが印加された場合、検出マス52がY方向に変位し、変位ΔYを表す検出信号ASSが出力される。電極Eysp,Eysnから出力された検出信号ASS{ASSp,ASSn}がアナログフロントエンド回路101に入力される。変位ΔXを静電容量変化として検出する際、及び変位ΔYを静電容量変化として検出する際には、同じ搬送波信号CRRが用いられる。
[駆動制御回路]
図2で、駆動制御回路20の構成を説明する。駆動制御回路20は、センサ要素1をその共振周波数f0で動作させるように適切な駆動制御を行う。駆動制御回路20は、従来一般的な角速度センサに備える駆動制御回路と同様の構成が適用可能である。駆動制御回路20は、DAC201、アナログフロントエンド回路202等を含み、公知の回路によって構成できる。駆動制御回路20は、センサ要素1の端子に駆動信号DRVを印加し、センサ要素1の端子からの駆動検出信号ASDを入力し、構成検出信号ASDに応じてフィードバック制御として駆動信号DRVを生成する。
DAC201は、駆動信号DRVを生成し、駆動マス51の電極Exfp,Exfnに供給する。駆動信号DRVは、差動信号であり、正側駆動信号DRVpと負側駆動信号DRVnとから成る。
アナログフロントエンド回路202は、駆動マス51の電極Exsp,Exsnから出力された駆動検出信号ASDを入力する。駆動検出信号ASDは、差動信号であり、正側駆動検出信号ASDpと負側駆動検出信号ASDnとから成る。アナログフロントエンド回路202は、駆動検出信号ASDをデジタル信号に変換する。アナログフロントエンド回路102,202は、サンプリングホールド回路で構成される場合、搬送波信号CRRの周波数の1倍もしくは0.5倍の周波数で動作する。復調回路13での同期検波によって低周波雑音を除去する形態の場合、アナログフロントエンド回路102,202は、0.5倍の周波数でサンプリングホールドを行う回路として構成される。
駆動制御回路20は、クロック信号として、アナログクロックCKA、PID制御クロックCKP、復調用の第1同期検波クロックCKCOS及び第2同期検波クロックCKSIN、遅延回路クロックCKD等を生成する。また、駆動制御回路20は、従来に対して新たなクロックとして、モニタ回路クロックCKM、遅延計算回路クロックCKC、モード選択回路クロックCKS等を生成する。
[センサ要素−実装構造例]
図3は、センサ要素1の機械的、物理的な実装構造例を示す。センサ要素1は、慣性体として、駆動マス51、検出マス52を有する。駆動マス51及び検出マス52は、ベース部材に対して弾性部材を介して接続されており、慣性に応じた変位が可能な構造を有する。駆動マス51は、X方向に変位し、その変位をΔXとする。検出マス52は、Y方向に変位し、その変位をΔYとする。図3で、説明上の方向及び座標系として(X,Y,Z)を示す。X方向は、第1軸に対応する第1方向であり、駆動マス51の駆動に係わる方向である。Y方向は、X方向に直交する第2軸に対応する第2方向であり、検出マス52のコリオリ検出に係わる方向である。Z方向は、X方向及びY方向に垂直な第3軸に対応する第3方向である。検出対象の角速度Ωは、Z方向の軸周りの角速度である。出力信号SNSOUTのうちの角度は、その角速度Ωの角度である。
センサ要素1では、図2の各静電容量素子が、図3の電極で構成されている。わかりやすいように、入出力信号も併せて示している。各電極の端子が、図1、図2の回路と接続されている。変位ΔX及び変位ΔYは、対応する容量の電極対の間の距離に応じた静電容量変化を表す電気信号として検出される。
[モジュール実装構成例]
図4は、図1の角速度センサモジュールの実装構成例を示す。図4の(A)は、角速度センサモジュールの実装基板を鉛直方向(Z方向)の上から見た平面図を示す。端子と入出力信号との対応関係も併せて示している。図4の(B)は、実装基板を水平方向(Y方向)から見た側面図を示す。
実装基板は、第1基板401、第2基板402を有する。第1基板401上に、第2基板402が積層されている。第2基板402には、センサ要素1が実装されている。第1基板401は、センサ要素1を支持しており、図1や図2の回路が実装されている。第1基板401の矩形の辺部には、回路と接続するための各端子に対応する電極パッド403を有する。第2基板402の矩形の辺部には、センサ要素1の各端子に対応する電極パッド404を有する。第1基板401の電極パッド403と、第2基板402の電極パッド404とが、ワイヤボンディング405を通じて物理的及び電気的に接続されている。
なお、製造業者は、第1基板401の電極パッド403に、モニタ用や試験用の回路を接続することで、位相遅延等の特性に係わるモニタや試験を行うことも可能である。サーボ電圧信号SRVと駆動信号DRVは、同一の周波数を持ち、センサ要素1の共振周波数f0及び搬送波信号CRRの周波数とおおよそ一致する。
[位相遅延]
図5は、実施の形態1の角速度センサモジュールにおける、センサ要素1に対するサーボ制御の入出力信号における位相遅延等の概念を示す。図5を用いて、駆動制御、検出制御、位相遅延等について説明する。
図5の(A)は、駆動制御回路20が生成する駆動制御信号DRV0の波形501を示し、電圧波形の時間変化を示す。駆動制御信号DRV0は、DAC201で駆動信号DRVを生成するための信号である。
図5の(B)は、駆動検出信号ASDのデジタル値に基づいた、駆動マス51の変位ΔXを表す信号の波形502を示し、変位ΔXを表す電圧波形の時間変化を示す。図2の駆動制御回路20内には、図示しないが、DAC201とアナログフロントエンド回路202との間に、変位ΔXに関する駆動制御を行う回路510を含む。回路510は、(B)の変位ΔXの信号に基づいて、適切なフィードバッグ制御を施して、(A)の駆動制御信号DRV0を生成する。
駆動制御回路20における制御として、駆動制御信号DRV0は、変位ΔXの信号と比べて、位相が90度進んでいる状態が望ましい。遅延量505は、変位ΔXの信号に対する駆動制御信号DRV0の位相遅延量を示す。つまり、遅延量505が90度の位相に相当する量に制御される状態が望ましい。これは、駆動マス51の振動周波数がセンサ要素1の共振周波数f0と一致した場合に、駆動信号DRVに対して駆動マス51の変位ΔXが90度遅れるためである。共振周波数f0は、駆動マス51を含むセンサ要素1の機械的、物理的な構造に応じて決定される周波数であり、角速度センサの特性の1つである。駆動マス51が共振周波数f0で駆動される場合、その駆動のために印加したエネルギーがロスを最小にして駆動マス51の振動運動に変換されるため、小電力化に寄与する。駆動制御回路20による駆動マス51の制御ループは上記の通りである。
図5の(C)は、検出制御回路10で、検出信号ASSのデジタル値に基づいた、検出マス52の変位ΔYを表す信号の波形を示し、変位ΔYを表す電圧波形の時間変化を示す。波形503Aは、サーボ電圧信号SRVの印加前の電圧波形を示し、波形503Bは、印加後の電圧波形を示す。検出マス52に対するサーボ制御が正しく効いている状態では、波形503Bの通り、検出信号ASSの振幅が小さくなる。これは、サーボ制御によって検出マス52の変位ΔYが小さくなっていることを示している。
図5の(D)は、サーボ制御信号SRV0の波形504を示し、電圧波形の時間変化を示す。検出制御回路10内には、DAC101とアナログフロントエンド回路102との間に、変位ΔYに関するサーボ制御を行う回路520を含む。回路520は、図1ではサーボ回路11内のPIDコントローラ103、量子化回路104、遅延回路105等が相当する。回路520は、(C)の変位ΔYの信号に基づいて、適切なフィードバック制御であるサーボ制御を施して、(D)のサーボ制御信号SRV0を生成する。
また、回路520は、図1の復調回路13及びデータ処理回路14を通じて、出力信号SNSOUTを出力する。出力信号SNSOUTは、サーボ制御信号SRV0の信号成分VSIGの振幅成分として出力される。信号成分VSIGの振幅は、駆動マス51の時間微分V=dX/dtと角速度Ωとの算術積に比例し、信号成分VSIGの周波数は、変位ΔXの信号の周波数と同じである。
サーボ制御信号SRV0における位相は、アナログフロントエンド回路102や回路520での位相遅延がゼロと仮定した場合には、変位ΔXの信号と比較して90度の位相ずれがある。遅延量506は、変位ΔYの信号の波形503Bに対するサーボ制御信号SRV0の位相遅延量を示す。この遅延量506は、90度の位相に相当する量に適切に制御された状態が望ましい。上記回路での位相遅延がゼロでない場合、上記90度の位相ずれに対して適切な位相遅延が回路520によって施される。具体的には、図1の遅延回路105で適切な遅延量による位相遅延を施したサーボ制御信号SRV0が生成される。更に、実施の形態1では、その遅延回路105に対して遅延調整回路12から遅延量DSETが適用されて、最適な位相遅延の状態に調整される仕組みである。
サーボ制御信号SRV0における直角位相成分VERRは、変位ΔXの信号と同位相であり、振幅も同じ関係にある。信号成分VSIGと直角位相成分VERRとの加算値がサーボ制御信号SRV0である。DAC101は、基本的には駆動制御用のDAC201と同様の構成であるが、構成ビット数等が一般的には異なっている。検出マス52の制御ループは上記の通りである。
振動型角速度センサの制御においては、駆動マス51の駆動制御のループと、検出マス52の検出制御のサーボループとの2つのループの適切な制御が必要であり、これらの制御をいかに高精度で高安定に行うかが、角速度センサの検出精度や安定性等に影響する。実施の形態1の角速度センサモジュールは、遅延調整回路12を用いて、検出マス52のサーボループにおける位相遅延量を最適値に調整する。これにより、高い検出精度及び高い安定性が実現される。
[比較例]
図6を用いて、実施の形態1に対する比較例の角速度センサ、及びその出荷調整工程での位相遅延の調整等について補足説明する。比較例の角速度センサは、従来一般的な振動型角速度センサであり、図1のサーボ回路11等を有するが、遅延調整回路12を有さない構成である。この角速度センサでは、センサ要素に対するサーボ制御を行う変位サーボループ型回路のうちの遅延回路において、遅延量として一定値である初期設定値が適用されている。その初期設定値は、前述のように、予め製造業者の出荷調整工程でテスト等によって求められた最適値である。
図6は、比較例の角速度センサに関する、出荷調整工程での位相遅延の調整についての説明図を示す。この調整の際の遅延量の最適値の決め方について以下に説明する。図6の(A)は、遅延量の設定値と、検出信号の最大値(MAXとする)との関係を示す。この図では、設定値に応じて、検出信号の最大値MAXがどのように変化するかを示している。なお、この遅延量の設定値は、実施の形態1では遅延量DMEMが対応する。この検出信号は、実施の形態1では検出信号ASSに基づいた信号ADCOUTが対応する。最大値MAXは、言い換えると振幅値である。なお、振幅値を得る場合、最小値の絶対値を取っても同じである。
図6の(B)は、設定値の例に応じた検出信号の波形の例を模式的に示す。この図では、各設定値の場合の最大値MAXの経時変化を示している。検出信号は、本質的にセンサ要素の共振周波数で変調された検出マスの変位情報であるため、その共振周波数で振動している波形となる。例えば、(A)で設定値が13の場合、(B)で検出信号の波形611となる。波形611の振幅値に対応する最大値は最大値621である。この最大値621は、(A)の点601に対応し、MAX≒0.21である。同様に、設定値が9の場合には波形612であり、その最大値622が点602に対応し、MAX≒0.17である。設定値が5の場合には波形613であり、その最大値623が点603に対応し、MAX≒0.15である。
出荷調整工程では、遅延量の設定値を様々に変化させて、各設定値と検出信号の最大値MAXとの関係をプロットして、(A)のような曲線600を作成する。そして、この曲線600において、遅延量の最適値が決定される。最適値は、最大値MAXが最小値となる点に対応し、本例では点603に対応し、5である。最大値MAXが最小値となる遅延量を最適値とする理由は以下である。検出信号の振幅値は、検出マスの変位量を表している。そのため、検出マスの変位を抑えるためのサーボ制御が正しく効いている状態では、検出マスの変位が最小になるためである。決定された最適値が、角速度センサのメモリに初期設定値として設定される。
従来の出荷調整工程では、上記のような作業が必要であるため、コストが増大する。また、最適値を見つけるまでに、設定値の試行数が少ない数で済むとは限らず、非常に大きな数になる場合もあり、その分コストが増大する。センサ個体に応じて特性のばらつきがある可能性があるため、個体毎に調整等が必要であり、コストが増大する。
一方、実施の形態1の角速度センサモジュールでは、上記のような遅延量の最適値を求める調整を、遅延調整回路12を用いて自動探索として実現できる。これにより、調整等のコストを大幅に低減できる。この角速度センサモジュールでは、まず、製造業者の出荷調整工程では、遅延調整回路12を用いた自動探索によって、センサ個体に応じた遅延量の最適値を短時間で容易に求めて、メモリ回路123に遅延量DMEMとして設定することができる。即ち、出荷調整工程を少ない手間、短時間、低コストで実現できる。最適値によって、センサ個体の実装に起因する特性のばらつきも吸収できる。
また、製品出荷以降、環境等によってセンサ個体の特性が変化した場合でも、遅延調整回路12を用いて同様に自動探索をかけることで、その時の特性に合わせた最適値を容易に求めて遅延量DMEMとして設定することができる。即ち、この角速度センサモジュールでは、最適な位相遅延によるサーボ制御が維持でき、高い検出精度等が維持できる。このモジュールを構成要素とする装置やシステムの信頼性向上等にも寄与できる。
[遅延調整]
図7は、実施の形態1における遅延調整回路12を用いた遅延調整についての説明図を示す。図7を用いて、自動探索によるセンサ個体に応じた最適値の決め方について説明する。遅延調整回路12では、自動探索の手順として以下を実行する。遅延調整回路12は、検出信号ASS、信号ADCOUTに基づいたサーボ制御値であるデータ信号DT0を、モニタ回路121でモニタ信号DMとして把握する。
図7の(A)は、モニタ信号DMの波形例を示す。例えば、波形701〜703を示す。波形701は、振幅値である最大値711を有する。波形702は、最大値712を有する。波形703は、最大値713を有する。モニタ回路121は、モニタ信号DMの波形から最大値を計算する。
遅延計算回路122は、第2モードで、モニタ信号DMの値に応じて、遅延回路105に適用するための遅延量DVALを探索する。遅延計算回路122は、遅延計算回路クロックCKCに基づいた探索更新数毎に、更新値である遅延量DVALを生成する。遅延計算回路122は、設定値である遅延量DMEM、または指定された初期値INTから、所定量、例えば増減量STP単位で、遅延量を変化させて、更新値である遅延量DVALを生成する。
図7の(B)は、第2モードにおける、探索更新数(Number of Update)と、更新値である遅延量DVALの値との関係を示す。曲線700は、遅延量の変化を示す。本例では、探索開始時の初期値INTを点701で示すように0とする場合を示す。探索更新数は、自動探索の際の時系列の時点に相当し、0,1,2,……で示す。また、本例では、増減値STPが+1である場合を示す。探索更新数が1の時には、遅延量DVALの値が増減値STP分増加して1となる。なお、その値1は、遅延回路105での所定の位相遅延量に関係付けられている。次に、探索更新数が2の時には、点702で示すように、遅延量DVALが2となる。同様に、探索更新数に応じて、遅延量DVALの値が増加する。例えば、探索更新数が6の時には遅延量DVALが6である。
遅延調整回路12は、遅延量DVALを遅延量DSETとして遅延回路105に適用し、その位相遅延量によるサーボ制御を試行させる。その結果、検出信号ASS、信号ADCOUT、データ信号DT0、及びモニタ信号DMが得られる。遅延調整回路12は、そのモニタ信号DMに基づいて、遅延量DVALを変化させて、最適値を探索する。
図7の(C)は、(B)に対応した、探索更新数と、サーボ制御結果のモニタ信号DMの最大値との関係を示す。曲線730は、モニタ信号DMの最大値の変化を表す。探索更新数が0の時には、モニタ信号DMの最大値が、点731で示すように、約0.183である。探索更新数が1の時には、最大値が約0.171に減少している。探索更新数が例えば2の時には、最大値が、点712で示すように、約0.161に減少している。同様に探索し、探索更新数が例えば5の時には、最大値が約0.149に減少している。探索更新数が例えば6の時には、最大値が約0.151に増加している。
遅延計算回路122は、モニタ信号DMの最大値が減少から増加に転じたので、遅延量DVALを調整し、(B)のように、探索更新数が7の時には、遅延量を5に減らして試行している。この時、モニタ信号DMの値は、(C)のように、再び約0.149に減少している。遅延計算回路122は、モニタ信号DMの値が再び減少したので、(B)のように、探索更新数が8の時には、遅延量を同じく5にして試行している。その結果、(B)の点733で示すように、モニタ信号DMの値が、同じく約0.149になっている。
上記のように、探索更新数が進むと、モニタ信号DMの最大値が、概ね一定値である小さい値(最小値740、例えば約0.149)に収束している。最大値が小さいことは、サーボ制御が正しく効いていることを示す。遅延計算回路122は、最大値が小さい値に収束しているかどうかを判定し、収束した時の遅延量を最適値とし、第2モードの自動探索を終了させる。
図7の例では、遅延量の最適値を見つけるまでに、初期値である0から開始して1ずつ増加させた場合に、遅延量DVAL=5の時に、最小値740に達している。そして、探索更新数=6〜8での試行を通じて収束判定することによって、最小値740が最適値であると判定できる。この場合、必要な探索更新数として6〜8程度の少ない数で済んでおり、短い時間で調整が終了できる。
また、初期値INT及び増減量STPは、上記例に限らず設定可能である。データ処理回路14から、初期値INT及び増減量STPをメモリ回路123に設定可能である。初期値INTや増減量STPを変えることで、調整の精度や必要時間を変更可能である。例えば、増減量STPをより細かくした場合、図7の(B)の曲線720の傾きが小さくなり、必要な探索更新数は増えるが、より細かく遅延量DVALを設定できる。例えば、増減量STPをより大きい値にした場合、曲線720の傾きが大きくなり、設定できる遅延量DVALは粗くなるが、より少ない探索更新数で探索を終了できる。また、例えば、初期値INTを比較的大きい値とし、増減量STPを−1のように負の値として、遅延量DVALを減少させる方向に探索させることもできる。
遅延計算回路122は、モニタ信号DMの値をみて、遅延量DVALを増減させながら、収束判定を行う。遅延計算回路122は、モニタ信号DMの最大値が、おおよそ一定の最小値に収束したと判定した場合、探索を終了させる。遅延計算回路122は、探索終了に応じて、探索終了をデータ処理回路14に通知する。データ処理回路14は、通知に応じてモードを第2モードから第1モードに切り替える。あるいは、遅延計算回路122自身がモード信号MDの値として0を、他の部位へ出力してもよい。
上記収束判定は、例えば以下のように実現できる。(1)遅延計算回路122は、例えば探索更新数が6の時点で、モニタ信号DMの最大値が、1つ前の時点の最小値740から増加に転じたことによって、収束したと判定し、その最小値740を最適値とみなして、探索を終了してもよい。(2)あるいは、遅延計算回路122は、例えば探索更新数が7の時点で、モニタ信号DMの最大値が、1つ前の時点から再び最小値740に減少したことによって、収束したと判定し、その最小値740を最適値とみなして、探索を終了してもよい。(3)あるいは、遅延計算回路122は、例えば探索更新数が8の時点で、モニタ信号DMの最大値が、1つ前の時点の最小値740と同じ最小値740になったことによって、収束したと判定し、その最小値740を最適値とみなして、探索を終了してもよい。収束判定の精度を高くしたい場合には、上記(3)のように、ある程度の探索更新数をかけて試行して、最小値740が1回以上連続しているかどうかを判定してもよい。収束判定方式の詳細は、上記に限らず各種可能である。
上記のように、遅延調整回路12では、収束判定を通じて遅延量の最適値が例えば5に決定され、自動探索が終了し、その最適値の遅延量DVALが、新たな遅延量DMEMとしてメモリ回路123に保存される。上記のように、実施の形態1によれば、自動探索によって遅延量の最適値を短い時間で決定可能である。
なお、変形例として、遅延計算回路122と連携するデータ処理回路14において復調回路13からの入力値に基づいて上記収束判定を行い、自動探索を終了させる制御を行ってもよい。
[DAC]
DAC101の構成例は以下である。DAC101は、デコーダ、電圧選択回路、アナログバッファ回路を含む。デコーダは、入力のサーボ制御信号SRV0をデコードし、相補の信号の中から、それぞれ1本の信号を、サーボ制御信号SRV0の値に応じて相補に選択して、2本の相補信号として出力する。相補に選択とは、2本の信号の加算値が所定値となることを指す。2本の相補信号が、電圧選択回路に入力される。電圧選択回路は、高電圧側参照電圧と低電圧側参照電圧との間に複数の抵抗が直列接続されており、隣接する各抵抗の間にスイッチ回路が接続されている。電圧選択回路は、高電圧側参照電圧と低電圧側参照電圧との電圧差を抵抗で分割した複数の電圧から1つの電圧を1つのスイッチで選択して出力する。電圧選択回路からの相補出力信号は、アナログバッファ回路で出力インピーダンス及び出力振幅が調整され、差動信号であるサーボ電圧信号SRVとして出力される。なお、サーボ電圧信号SRVとして高い電圧が必要な場合、アナログバッファ回路は、レベル変換回路としても動作するように設計される。
[アナログフロントエンド回路]
アナログフロントエンド回路102の構成例は以下である。アナログフロントエンド回路102は、容量電圧変換回路、増幅回路、アナログデジタル変換回路(ADC)を含む。アナログフロントエンド回路102のそれらの回路は、アナログクロックCKAに従って同期して動作する。なお、各回路内でアナログクロックCKAに基づいて独自のクロックを生成して動作する形態でもよい。アナログフロントエンド回路102は、検出信号ASSの振幅値及び容量値を電圧値に変換して増幅してデジタル値として出力する。
容量電圧変換回路は、検出信号ASSを入力して、その振幅値及び容量値を電圧値に変換し、変換後の電圧値を表す差動信号を出力する。容量電圧変換回路は、サンプリングホールド回路を有するスイッチト・キャパシタ回路等が適用可能である。増幅回路は、その差動信号を入力して増幅して出力する。増幅回路は、容量電圧変換回路での増幅率が十分である場合には設けなくてもよい。増幅回路は、差動入力を増幅して差動出力を得る完全差動アンプであることが望ましく、その場合、同相雑音を低減でき、ダイナミックレンジを広くできる。ADCは、その増幅後の差動信号を入力して、アナログ値からデジタル値に変換し、検出信号ASSのデジタル値を表す信号ADCOUTとして出力する。実施の形態1では、ADCとしては、ΣΔ型ADC、SAR型ADC、サイクリック型ADC等の各種の方式の回路が適用可能である。
[モニタ回路]
図8は、モニタ回路121の構成を示す。モニタ回路121は、以下の回路構成によって、データ信号DT0の時系列データにおける最大値(振幅値)をモニタ信号DMとして出力できる。モニタ回路121は、データラッチ回路121A、比較回路121B、選択回路(2:1選択回路)121C等を含む。入力のデータ信号DT0は、比較回路121Bの第1入力端子、及び選択回路121Cの第1入力端子に入力される。データラッチ回路121Aは、イネーブル付きデータラッチ回路であり、モニタ回路クロックCKMに基づいて動作し、イネーブル端子には比較回路121Bの出力の信号SELがイネーブル信号として入力される。データラッチ回路121Aは、入力データとして、選択回路121Cの出力のモニタ信号DMが入力される。データラッチ回路121Aは、イネーブル信号に応じて入力データをラッチし、出力データの信号LMAXとして出力する。信号LMAXは、比較回路121Bの第2入力端子、及び選択回路121Cの第2入力端子に入力される。データラッチ回路121Aのラッチ情報は、信号SEL=1の時に限り、その時のモニタ信号DMの値に更新される。
比較回路121Bは、入力のデータ信号DT0と、データラッチ回路121Aからの信号LMAXとを比較し、データ信号DT0の方が大きい場合には信号SEL=1を出力し、そうでない場合には信号SEL=0を出力する。信号SELは、データラッチ回路121Aのイネーブル端子に入力され、選択回路121Cの制御端子に選択信号として入力される。選択回路121Cの第1入力端子には、データ信号DT0が入力され、第2入力端子には、データラッチ回路121Bからの信号LMAXが入力される。選択回路121Cでは、信号SEL=1の時には、第1入力端子のデータ信号DT0を選択し、信号SEL=0の時には、第2入力端子の信号LMAXを選択し、モニタ信号DMとして出力する。
[遅延計算回路]
図9は、遅延計算回路122の構成を示す。遅延計算回路122は、データラッチ回路122A、比較回路122B、データラッチ回路122C、比較回路122D、選択回路122E、加算回路122F、データラッチ回路122G、選択回路122H、加算回路122I、インバータ122J、インバータ122Kを含む。入力のモニタ信号DMは、データラッチ回路122A、及び比較回路122Bの第1入力端子に入力される。入力の初期値INT及びモード信号MDは、データラッチ回路122Cの初期値端子及びモード信号端子に入力される。遅延計算回路クロックCKCは、データラッチ回路122A,122C,122Gに入力される。
データラッチ回路122Aは、遅延計算回路クロックCKCに基づいて、入力のモニタ信号DMをラッチして、1クロック分遅延させて、信号DMDとして出力する。比較回路122Bは、第1入力端子[0]にモニタ信号DMを入力し、第2入力端子[1]にデータラッチ回路122Aからの信号DMDを入力し、それらを比較し、第1入力の方が第2入力よりも大きい場合には、信号SEL0=1を出力する。信号SEL0は、選択回路122Eの制御端子に選択信号として入力される。また、信号SEL0は、インバータ122Jで反転された信号が、加算回路122Fに入力される。また、比較回路122Dの出力信号がインバータ122Kで反転された信号が加算回路122Fに入力される。加算回路122Fは、それらの入力信号を加算して出力する。その出力信号は、データラッチ回路122Cの書き込みイネーブル端子にイネーブル信号として入力される。
データラッチ回路122Cは、遅延計算回路クロックCKCに基づいて、入力データとして選択回路122Eからの出力信号である遅延量DVALを入力してラッチし、出力データとして信号LMINを出力する。信号LMINは、比較回路122Dの第2入力端子、選択回路122Eの第2入力端子に入力される。比較回路122Dは、第1入力端子にデータラッチ回路122Gからの信号DVALDを入力し、第2入力端子に信号LMINを入力する。比較回路122Dは、信号DVALDと信号LMINとを比較して、信号SEL1を出力する。信号SEL1は、インバータ122K及び選択回路122Hの制御端子に入力される。
選択回路122Eは、第1入力端子に選択回路122Hからの信号DVALUPDを入力し、第2入力端子に信号LMINを入力し、それらから一方を、信号SEL0に応じて選択して、遅延量DVALとして出力する。選択回路122Eは、信号SEL0=1の時に、信号LMINを選択し、信号SEL0=0の時に、信号DVALUPDを選択する。遅延量DVALは、データラッチ回路122Cのデータ入力端子、データラッチ回路122Gのデータ入力端子、選択回路122Hの第1入力端子に入力される。
選択回路122Hは、第1入力端子に遅延量DVALが入力され、第2入力端子に加算回路122Iからの信号MINUPDが入力される。選択回路122Hは、制御端子に入力される選択信号である信号SEL1に応じて、遅延量DVALと信号MINUPDとから選択して、信号DVALUPDとして出力する。
データラッチ回路122Gでは、遅延計算回路クロックCKCに基づいて、入力データである遅延量DVALをラッチして、1クロック分遅延させて、信号DVALDとして出力する。信号DVALDは、比較回路122Dの第1入力端子、及び加算回路122Iの第1入力端子に入力される。加算回路122Iの第2入力端子には、増減量STPが入力される。加算回路122Iは、信号DVALDに増減量STPを加算して、信号MINUPDとして出力する。
比較回路122Dは、信号DVALDと信号LMINとを比較して、それらが等しい場合には、信号SEL1=1を出力する。信号SEL0=0、かつ信号SEL1=0の時には、データラッチ回路122Cに入力されるイネーブル信号が1となり、データラッチ回路122Cのラッチ情報が遅延量DVALの値に更新される。
データラッチ回路122Cは、モード信号MDの値1の入力を契機として初期値INTを設定する。つまり、自動探索の開始時である探索更新数が0の時には、初期値INTがデータラッチ回路122Cから信号LMINとして出力される。その後の探索更新数の時には、イネーブル信号の値が1の時のみ、遅延量DVALのラッチによって信号LMINが更新される。これにより、データラッチ回路122Cは、探索中に最適な遅延量を保持することができる。
前述の収束判定の際に、遅延計算回路122では以下のように動作する。遅延計算回路122は、モニタ信号DMに基づいて、時系列の過去(少なくとも1つ前の時点)のサーボ制御値を、データラッチ回路122Aで保持する。遅延計算回路122は、比較回路122Bで、現在のサーボ制御値であるモニタ信号DMと、過去の1つ前のサーボ制御値の信号DMDとの大小関係を比較する。遅延計算回路122は、その比較結果の信号SEL0に基づいて、更新値である遅延量DVALを計算する。遅延計算回路122は、比較の結果、小さい方の値に対応する遅延量(信号DVALUPDまたは信号LMIN)を、その時の更新値の遅延量DVALとして採用する。それと共に、遅延計算回路122は、小さい方の値に対応する遅延量を、暫定的に最小値の信号LMINとしてデータラッチ回路122Cで保持しておく。
選択回路122Eの第1入力端子には、増減量STP単位で増減された遅延量の更新値(信号DVALUPD)が入力され、第2入力端子には、暫定的な最小値の信号LMINが入力される。選択回路122Eは、比較回路122Bからの信号SEL0に従い、それらの信号から選択して出力の遅延量DVALとする。
遅延計算回路122は、探索更新数を進めて遅延量を増減させたある時点で、モニタ信号DMの値の比較の結果、過去値よりも現在値が小さくなった場合(例えば図7の探索更新数=5)、その現在値(最小値740)に対応する遅延量(信号DVALUPD)を最小値(信号LMIN)として保持すると共に、その遅延量を更新値の遅延量DVALとして採用する。遅延計算回路122は、探索更新数を進めて遅延量を増減させたある時点で、モニタ信号DMの値の比較の結果、過去値よりも現在値が大きくなった場合(例えば図7の探索更新数=6)、過去値に対応する保持していた最小値(信号LMIN)を、更新値の遅延量DVALとして採用する。
[モード選択回路]
図10は、モード選択回路124の構成を示す。モード選択回路124は、データラッチ回路124A,124B、選択回路124C、データラッチ回路124Dを含む。モード信号MDは、選択回路124Cの制御端子に選択信号として入力され、データラッチ回路124Dの制御端子に入力される。設定値である遅延量DMEMは、データラッチ回路124Aに入力データとして入力される。更新値である遅延量DVALは、データラッチ回路124Bに入力データとして入力される。モード選択回路クロックCKMは、データラッチ回路124A,124B,124Dに入力される。
データラッチ回路124Aは、モード選択回路クロックCKMに基づいて、遅延量DMEMをラッチして、出力データの信号L1を出力する。信号L1は、選択回路124Cの第1入力端子に入力される。データラッチ回路124Bは、モード選択回路クロックCKMに基づいて、遅延量DVALをラッチして、出力データの信号L2を出力する。信号L2は、選択回路124Cの第2入力端子に入力される。
選択回路124Cは、モード信号MDに対応した選択信号に応じて、モード信号MDの値が0の時には、遅延量DMEMに対応した信号L1を選択し、モード信号MDの値が1の時には、遅延量DVALに対応する信号L2を選択して、遅延量DSETとして出力する。モード信号MDの値が1の時には、自動探索によって遅延量DVALが更新されている。その時には、遅延量DVALがデータラッチ回路124Dでラッチされ、ラッチ情報が遅延量DSTRとして出力されてメモリ回路123へ転送される。これにより、自動探索中には常に、メモリ回路123のRAMに遅延量DSTRが格納されて更新され続ける。探索終了、即ちモード信号MDの値が0となる時には、データラッチ回路124Dでの遅延量DSTRの出力が停止され、これにより、メモリ回路123のRAMの遅延量DSTRの更新が停止する。そのRAMの遅延量DSTRが、ROMの遅延量DMEMとして反映されることになる。
[PIDコントローラ]
図11は、PIDコントローラ103の構成を示す。PIDコントローラ103は、乗算回路103A,103B,103C、データラッチ回路103D,103F、加算回路103E,103F,103I,103J、−1倍回路103Gを含む。PIDコントローラ103は、入力信号に基づいて、比例項PDT、積分項IDT、微分項DDTを計算し、それらから、比例項PDT+積分項IDT+微分項DDTとして信号PIDOUTを得て出力する。比例項PDTは、乗算回路103Aでの係数KPと信号ADCOUTとの乗算で得られる。積分項IDTは、乗算回路103Bでの係数KIと信号SIとの乗算で得られる。信号SIは、データラッチ回路103Dと加算回路103Eとで構成される積分回路の出力信号である。データラッチ回路103Dは、PID制御クロックCKPに基づいて信号SIをラッチしてラッチデータを出力する。加算回路103Eは、そのラッチデータと信号ADCOUTとを加算して信号SIとする。
微分項DDTは、乗算回路103Cでの係数KDと信号SDとの乗算で得られる。信号SDは、データラッチ回路103Fと−1倍回路103Gと加算回路103Hとで構成される微分回路の出力信号である。データラッチ回路103Fは、信号ADCOUTをラッチしてラッチデータを出力する。−1倍回路103Gは、そのラッチデータを−1倍して出力する。加算回路103Eは、その−1倍信号と信号ADCOUTとを加算して信号SDとする。加算回路103Iは、比例項PDTと積分項IDTとを加算した信号PIDTを出力する。加算回路103Jは、信号PIDTと微分項DDTとを加算した信号を、信号PIDOUTとして出力する。
なお、PIDコントローラ103において、乗算回路103A等の乗算回路を多用すると、回路規模及び消費電力が増大する。これを防ぐために、PID制御クロックCKPを高速化し、乗算をシリアル化することによって、乗算回路の個数の低減が可能である。
[遅延回路]
図12の(A)は、遅延回路105の構成を示す。遅延回路105は、遅延回路クロックCKDに基づいて動作し、入力のデータ信号DT0に、遅延量DSETを適用した位相遅延を施して、その信号をサーボ制御信号SRV0として出力する。遅延回路105は、8個の直列接続のデータラッチ回路105A{105A1〜105A8}と、選択回路105Bとを含む。データラッチ回路105Aは、遅延回路クロックCKDのタイミングで、入力のデータ信号DT0をラッチする。8個の各データラッチ回路105Aの出力信号<0>〜<7>は、8ビットの遅延データ信号DT0D<7:0>となる。例えば、データラッチ回路105A1の出力信号<0>は、データ信号DT0に対し、遅延回路クロックCKDの1クロック分の遅延がある。同様に、出力信号<1>は2クロック分の遅延があり、出力信号<7>は8クロック分の遅延がある。このように、遅延回路クロックCKDを単位として遅延量が増える。
選択回路105Bは、遅延データ信号DT0D<7:0>と遅延量DVALとを入力し、遅延データ信号DT0D<7:0>の中から1本の信号を、遅延量DVALによって選択して、信号DMPとして出力する。信号DMPは、遅延量DVALで指定された位相遅延を有する遅延振幅信号列である。この信号DMPがサーボ制御信号SRV0となる。
図12の遅延回路105の例では、8通りの遅延量の設定が可能である。これは、センサ要素1の共振周波数f0の8倍でクロック(アナログサンプリングクロックに対応した遅延回路クロックCKD)が動作している状態を仮定している。言い換えると、オーバーサンプリング比が8倍に設定されていることを仮定している。データラッチ回路105Aの直列数は、オーバーサンプリング比に応じて大きくする必要がある。例えば、オーバーサンプリング比が16倍である場合には、16個の直列が必要である。もしくは、オーバーサンプリング比が8倍である場合に、データラッチ回路105Aをオーバーサンプリング比の半分である4個の直列にし、更に最後段にデータ極性を反転できる回路を備える構成も可能である。後者の構成では、4個の直列のデータラッチ回路105Aでデータをラッチして、最後段の回路でデータ極性をそのままで出力するか、または反転して出力するかを選択する。このような構成により、データラッチ回路105Aの個数を低減できる。
図12の(B)は、遅延回路105に係わる信号の波形を示す。上段から、遅延回路クロックCKD、データ信号DT0、遅延データ信号DT0D<1>〜DT0D<7>、及び信号DMPに対応するサーボ制御信号SRV0の例を示す。
遅延回路クロックCKDは、アナログクロックCKAの8倍波になっている。即ち、オーバーサンプリング比が8である例を示す。この遅延回路105の構成では、遅延量の設定として、遅延データ信号DT0D<1>〜DT0D<7>から選択できる8種類があり、きめ細かな位相遅延設定が可能である。この構成では、振幅制御の遅延をクロック単位で制御できる。これにより、サーボ制御の精度及び安定性が高く、その結果、雑音が小さく安定した角速度の検出が実現できる。
データ信号DT0の値は、2倍波成分を除去せずに制御に使うために、ラッチクロックである遅延回路クロックCKDの立ち上がりエッジで更新される。データ信号DT0の値が、データラッチ回路105Aの列で、遅延回路クロックCKDの立ち上がりエッジで、各ビットのデータとしてラッチされる。データラッチ回路105Aの列のある時点の出力信号<0>〜<7>が、8ビットの遅延データ信号DT0D<7:0>である。
本例では、自動探索のある時点の遅延量DVALが2である場合を示す。その遅延量DVALに基づいた遅延量DSETが、遅延回路105に適用されている。即ち、遅延量として3クロック分の位相遅延が指定されている。選択回路105Bでは、遅延量DVAL=2に応じて、遅延データ信号DT0D<7:0>のうち、元のデータ信号DT0と比べて3クロック分の遅延が施された遅延データ信号DT0D<2>を選択する。その遅延データ信号DT0D<2>を含む信号DMPがサーボ制御信号SRV0として出力される。
[効果等]
上記のように、実施の形態1によれば、変位サーボ制御方式の振動型角速度センサである物理量検出装置に関して、出荷調整工程等のコストを低くでき、サーボ制御の性能を高く維持できる。実施の形態1の角速度センサモジュールは、センサ要素1に対する変位サーボループにおけるゲイン及び位相遅延等の特性を最適な状態になるように自動探索で調整する機能を有する。これにより、最適な位相遅延による最適なサーボ制御が維持できる。環境等によってセンサ個体の特性及び最適値が変動した場合でも、遅延調整によって短時間で最新の最適値を容易に設定することができる。これにより、検出精度及び安定性が高い角速度センサを低コストで提供できる。
[変形例]
実施の形態1の物理量検出装置の変形例として以下が挙げられる。遅延調整回路12は、モニタ回路121の入力の前段に、ローパスフィルタ等の帯域制限回路を設けた形態としてもよい。このローパスフィルタによって、データ信号DT0から高周波成分を除去して、センサ要素1の共振周波数f0の成分の信号を通過させて、モニタ回路121に入力する。これにより、モニタ信号MDの検出精度を高めることができ、その結果、遅延量の設定の精度を高めることができる。
(実施の形態2)
図13〜図15を用いて、本発明の実施の形態2の物理量検出装置について説明する。実施の形態2等の基本的な構成は実施の形態1と同様であり、以下では、実施の形態2等における実施の形態1とは異なる構成部分について説明する。実施の形態2の角速度センサモジュールは、PIDコントローラのPID制御係数に関する自動探索によって位相遅延の調整を行う機能を有する。
[検出制御回路]
図13は、実施の形態2の角速度センサモジュールの構成として、特に検出制御回路10の構成を示す。検出制御回路10の遅延調整回路12は、モニタ回路121、PID計算回路125、メモリ回路123、モード選択回路124を含む。サーボ回路11は、PIDコントローラ106を有する。実施の形態1の検出制御回路10では、遅延回路105に適用する遅延量を遅延調整回路12によって調整する構成とした。実施の形態2では、遅延調整回路12は、遅延計算回路122ではなく、PID計算回路125を有する。
遅延調整回路12のPID計算回路125は、PIDコントローラ106で適用するための適切なPID制御係数PVAL{KP,KI,KD}を自動探索する。このPID制御係数PVALは、PIDコントローラ106のPID制御で位相遅延量を反映させるための値である。PID計算回路125は、モニタ信号DMに基づいて、そのPID制御係数PVALを更新値として探索して出力する。PID計算回路105は、PID計算回路クロックCKC2、及びモード信号MD2に基づいて動作する。駆動制御回路20は、PID計算回路クロックCKC2を生成する。
PID計算回路125は、内部でベクトル演算を行う。そのため、PID計算回路125では、PID制御係数に関する、初期値INT2と、回転ステップの角度の増減量STP2とを用いる。メモリ回路123からの初期値INT2及び増減量STP2がPID計算回路125に入力される。PID計算回路125は、モード信号MD2の値が1の時に、初期値INT2や増減量STP2を適用し、探索更新数毎に探索を行う。
データ処理回路14は、トリガ信号TRGに基づいてモード信号MD2を生成する。モード信号MD2は、実施の形態1と同様に、モードとして、第1モード、第2モードを制御する信号である。モード信号MD2は、第1モードでは値が0とされ、第2モードである自動探索モードでは値が1とされる。
メモリ回路123のROMには、PID制御係数{KP,KI,KD}に関する設定値であるPID制御係数PMEMが格納されており、データ処理回路14から設定可能である。また、メモリ回路123には、初期値INT2や増減量STP2が格納されており、データ処理回路14から設定可能である。
モード選択回路124は、モード選択回路クロックCKM及びモード信号MD2に基づいて動作する。モード選択回路124は、モード信号MD2に応じて、設定値であるPID制御係数PMEMと、更新値であるPID制御係数PVALとから選択して、適用値であるPID制御係数PSETとしてPIDコントローラ106に出力する。モード選択回路124は、モード信号MD2の値が0の時には、PID制御係数PMEMを選択し、モード信号MD2の値が0の時には、PID制御係数PVALを選択する。実施の形態2のモード選択回路124やデータ処理回路14等は、実施の形態1の対応する回路と基本的に同様の構成であるが一部機能が異なる。
また、モード選択回路124は、モード信号MD2の値が1の時には、PID制御係数PVALと同じ値を、格納値であるPID制御係数PSTRとしてメモリ回路123へ出力する。メモリ回路123は、そのPID制御係数PSTRをRAMに格納して保持する。探索終了によって、モード信号MD2の値が1から0になった時には、メモリ回路123は、RAMのPID制御係数PSTRを、新たな設定値とするように、ROMのPID制御係数PMEMを上書き更新する。
サーボ回路11のPIDコントローラ106は、PIDコントローラ103と基本的に同様の構成で実現できる。PIDコントローラ106は、モード選択回路124からPID制御係数PSET{KP,KI,KD}が入力される。PIDコントローラ106は、そのPID制御係数PSETを適用してサーボ制御に関するPID制御を行い、位相遅延が反映された信号PIDOUTを出力する。信号PIDOUTに基づいてデータ信号DT0は、位相遅延量が調整された信号となっている。遅延回路105は、データ信号DT0からサーボ制御信号SRV0を生成し、DAC101は、サーボ制御信号SRV0からサーボ電圧信号SRVを生成する。上記のように、ループでの位相遅延が制御される。
[遅延調整]
図14の(B)は、実施の形態2で、PID制御を用いた遅延調整の概念を示す。第1軸は実数軸、第2軸は虚数軸を示し、即ち第1軸と第2軸とで成す空間が複素数空間を示す。比例成分ベクトルPVECは、係数KPのベクトルを示す。積分成分ベクトルIVECは、係数KIのベクトルを示す。微分成分ベクトルDVECは、係数KDのベクトルを示す。ベクトルIDVECは、積分成分ベクトルIVECと微分成分ベクトルDVECとのベクトル和を示す。ベクトルPIDVECは、比例成分ベクトルPVECとベクトルIDVECとのベクトル和を示す。
PIDコントローラ103やPIDコントローラ106への入力の信号ADCOUTは、センサ要素1の共振周波数f0と同じ周波数を有する三角波になっている。この三角波自体の位相をゼロに規格化した場合、比例成分ベクトルPVECは、複素数空間で0度の角度を持つ。同様に、微分成分ベクトルDVECは+90度の角度を持ち、積分成分ベクトルIVECは−90度の角度を持つ。
角度θは、比例成分ベクトルPVECとベクトルPIDVECとが成す角度(言い換えると位相)を示す。このベクトルPIDVECが持つ角度θが、出力の信号PIDOUTにおける位相遅延量に相当する。PID計算回路125は、この角度θに対応する位相遅延量を、PID制御係数{KP,KI,KD}の形式として計算する。つまり、各ベクトル{PVEC,IVEC,DVEC}の大きさを変化させることで、任意の遅延量を信号PIDOUTとして出力できる。各ベクトルの大きさは、PID制御係数の大きさを変化させることで制御できる。そのため、PID計算回路125でPID制御係数を探索することで、適切な遅延量を設定できる。
[PID計算回路]
図14の(A)は、PID計算回路125の構成を示す。PID計算回路125は、図9の遅延計算回路122の構成と類似であるが、加算回路122Iではなく、回転演算回路150を有する。回転演算回路150は、データラッチ回路125Gから出力する信号DVALDと、増減量STP2とを入力し、所定の回転演算後の信号を、信号RTTUPDとして出力する。選択回路125Hは、信号PVALと、信号RTTUPDとを入力し、信号SEL1に基づいて選択した信号を、信号PVALUPDとして出力する。選択回路125Eは、信号PVALUPDと信号LMINとを入力し、信号SEL0に基づいて選択した信号を、信号PVALとして出力する。
[回転演算回路]
図15は、回転演算回路150の構成を示す。回転演算回路150は、角度計算回路151、規格化回路152、規格化回路153、−1倍回路154、加算回路155、比較回路156、減算回路157、選択回路158,159,160、減算回路161、規格化回路162、規格化回路163、−1倍回路164を含む。
入力の信号DVALDは、PID制御係数{KP,KI,KD}の情報を含む。そのため、回転演算回路125Iは、係数KIと係数KDを用いて、係数KPに対して90度位相が回転している成分を抽出する。ここで、実際のPIDコントローラ106の出力の信号PIDOUTにおける積分成分の大きさは、[KI×(ADCOUTの積分値)]で求められ、微分成分の大きさは、[KD×(ADCOUTの微分値)]で求められる。そのため、現在のPIDコントローラ106の出力におけるベクトルPIDVECを求めるためには、係数KI及び係数KDに、しかるべき係数を乗じる必要がある。
具体的に、信号ADCOUTの一周期当たりのサンプリング数をNとし、信号PIDOUTの比例成分の大きさを1とする。その場合、積分成分ベクトルIVECに相当する積分成分の大きさが[KI×N/2π]、微分成分ベクトルDVECに相当する微分成分の大きさが[KD×2π/N]である。そこで、回転演算回路150では、係数KI及び係数KDをそれぞれ規格化された値に変換するための規格化回路152及び規格化回路153を有する。規格化回路152は、係数KIにN/2πを乗じて規格化した値を出力する。規格化回路153は、係数KDに2π/Nを乗じて規格化した値を出力する。また、図14の(B)の通り、積分成分は、複素数空間で虚数軸の負側に位置する。そのため、回転演算回路150では、係数KIを正の数とした場合には、その規格化した値に−1倍回路154で−1を乗じて負の数の値KINにする。その後、加算回路155では、その値KINと、規格化された係数KDの値KDNとを加算して、複素数空間で比例成分ベクトルPVECと直交した成分のベクトルIDVECの大きさを、信号166として得る。
角度計算回路151では、係数KPの比例成分ベクトルPVECの大きさを表す信号165を値x0として入力し、直交成分のベクトルIDVECの大きさを表す信号166を値y0として入力する。角度計算回路151では、入力の信号165及び信号166に対し、増減量STP2で与えられる角度αだけ回転させたベクトルを得る。入力ベクトルを{x0,y0}とし、出力ベクトルを{x1,y1}とする。角度計算回路151で行われる演算は、下記の式1で与えられる関係を持つ。
式1は、角度θを用いた行列演算式である。式1の演算結果における値x1は、そのまま、更新された係数KPを表す信号として出力される。回転演算回路150の出力の信号RTTUPDは、更新値である係数KP、係数KI、及び係数KDの各信号をまとめて含む信号である。
加算回路155の出力の信号166は、比較回路156の第1入力端子及び減算回路157の第1入力端子に入力される。演算結果の値y1は、比較回路156の第2入力端子及び減算回路157の第2入力端子に入力される。減算回路157では、値y1と値y0との差分DIFFを計算して出力する。同時に、比較回路156では、値y1と値y0とで大きさを比較する。比較回路156の出力の信号SELとしては、値y0が値y1よりも大きい場合には値1を出力し、値y0が値y1以下である場合には値0を出力する。信号SEL=1の場合、y0>y1であるから、y成分を減少させる必要がある。このために、微分成分の大きさを減らすか、積分成分の大きさを増やす。いずれでも効果は同等であるが、ここでは微分成分を減らす回路構成例を示している。同様に、信号SEL=0の場合、y0<y1であるから、y成分を増大させる必要がある。この時には、積分成分の大きさを減らす。上記のように、微分成分と積分成分のいずれかの成分を減少させる制御によって、制御が破綻した場合に不要に係数KI及び係数KDが大きくなり発散してしまうリスクを低減できる。
選択回路158では、信号SELに基づいて、値KINと値KDNとから選択した値を出力する。選択回路159では、信号SELに基づいて、値KDNと信号167とから選択した値を出力する。選択回路160では、信号SELに基づいて、信号167と値KINとから選択した値を出力する。減算回路161は、選択回路158の出力信号と、差分DIFFとを入力し、それらの差分を、信号167として出力する。信号167は、信号SEL=1の時には[KDN−DIFF]、信号SEL=0の時には[KIN−DIFF]となる。つまり、信号SEL=1の場合、係数KIは変化させずに係数KDのみが更新され、信号SEL=0の場合、係数KDは変化させずに係数KIのみが更新される。
規格化回路162は、規格化回路153で乗算された2π/Nの分を元の大きさに戻すために、選択回路159の出力信号にN/2πを乗じた値を出力する。規格化回路162の出力信号は、更新された係数KDを表す信号として出力される。規格化回路163は、規格化回路152で乗算されたN/2πの分を元の大きさに戻すために、選択回路160の出力信号に2π/Nを乗じた値を出力する。規格化回路163の出力信号は、−1倍回路164で−1倍され、その信号が、更新された係数KIを表す信号として出力される。
[効果等]
上記のように、実施の形態2によれば、実施の形態1と近い効果が得られる。即ち、出荷調整工程のコストを低くでき、サーボ制御に関する最適な性能を維持できる。
(実施の形態3)
図16を用いて、本発明の実施の形態3の物理量検出装置について説明する。実施の形態3は、実施の形態1の構成と実施の形態2の構成とを1つに併合した構成を有する。
図16は、実施の形態3の角速度センサモジュールの全体の構成として、特に検出制御回路10の構成を示す。実施の形態3の検出制御回路10は、遅延調整回路12において、2つの制御系回路を含んでいる。第1制御系回路1601は、実施の形態1の遅延調整回路12と同様の機能を持つ回路であり、遅延計算回路122、モード選択回路124aを含む。第2制御系回路1602は、実施の形態2の遅延調整回路12と同様の機能を持つ回路であり、PID計算回路125、モード選択回路124bを含む。いずれの制御系回路も、モニタ回路121からのモニタ信号DM、及びメモリ回路123の設定値等を用いて動作する。駆動制御回路20は、それらの制御系回路に必要なクロックを生成する。
実施の形態3のデータ処理回路14は、外部からのトリガ信号TRGに基づいて、2ビットのモード信号として、モード信号MD1、モード信号MD2を生成して出力する。モード信号MD1は、実施の形態1のモードに相当する第1制御モードを制御する信号であり、第1制御系回路1601を用いた遅延回路105に対する遅延量の探索を制御する信号である。モード信号MD2は、実施の形態2のモードに相当する第2制御モードを制御する信号であり、第2制御系回路1602を用いたPIDコントローラ106に対するPID制御係数の探索を制御する信号である。モード信号MD1及びモード信号MD2において、それぞれ、値0は探索のオフ状態を示し、値1は探索のオン状態を示す。
第1制御系回路1601の遅延計算回路122では、モード信号MD1の値1に基づいて、実施の形態1と同様に、遅延量DVALを自動探索する。モード選択回路124aは、モード信号MD1の値が1の時に、遅延量DSETを遅延回路105に出力する。第2制御系回路1602のPID計算回路125では、モード信号MD2の値1に基づいて、実施の形態2と同様に、PID制御係数PVALを自動探索する。モード選択回路124bは、モード信号MD2の値が1である時に、PID制御係数PSETをPIDコントローラ106に出力する。
ここで、モード信号MD1とモード信号MD2は、両方を同時にオン状態にすることも可能である。しかしながら、実施の形態3では、モード信号MD1とモード信号MD2との両方を同時にオン状態にする制御は行わない。実施の形態3では、上記2つの制御モードの制御に関して、特に、時分割方式で2つの制御モードを切り替える制御を行う。データ処理回路14は、通常時には、モード信号MD1及びモード信号MD2を共に値0として、2つの制御モードをオフ状態にする。この状態では、メモリ回路123の設定値である遅延量DMEMやPID制御係数PMEMが適用される。
データ処理14は、トリガ信号TRGに基づいて遅延調整を開始する場合、まず、第1期間で、モード信号MD1を値1として、第1制御モードのみをオン状態にする。これにより、第1期間では、第1制御系回路1601を用いて、遅延回路105の遅延量に関する疎調整が行われる。データ処理回路14は、第1期間の第1制御モードの終了に続いて、第2期間では、モード信号MD2を値1として、第2制御モードのみをオン状態にする。これにより、第2期間では、疎調整済みの状態から、更に、第2制御系回路1602を用いて、PIDコントローラ106のPID制御係数に関する微調整が行われる。
上記のように時分割で2段階の制御によって、遅延調整をより精緻に行い、検出精度をより高くすることができる。また、収束判定に要する時間も短くできる。上記疎調整及び微調整の順序での2段階の調整が有効である理由としては、第2制御モードのベクトル回転による遅延量の探索の方が、第1制御モードの遅延量の探索よりも、一般的により精緻に設定可能であるためである。逆に言えば、第1制御モードの遅延量DVALの探索ステップの増減量STPと、第2制御モードのベクトル回転ステップの増減量STP2との関係は、上記前提を勘案して決められていることが必要である。
上記のように、実施の形態3によれば、実施の形態1の効果と実施の形態2の効果を組み合わせた効果が得られる。特に、時分割の制御によって、検出精度を高めることができ、総合的に短い時間で調整ができる。
実施の形態3の変形例として、2つの制御モードの制御については、上記時分割の制御に限らず可能である。例えば、2つの制御モード、2つの制御系回路のいずれか一方のみを選択的に利用する形態でもよい。例えば、外部からのトリガ信号TRGや設定情報CNFに基づいて、データ処理回路14は、2つの制御モードのいずれか一方を選択するためのモード信号を遅延調整回路12に与える。遅延調整回路12は、そのモード信号に従って、第1制御系回路1601、第2制御系回路1602のいずれか一方を動作させて遅延調整を行わせる。その探索終了に伴い、通常モードに戻る。
(実施の形態4)
図17〜図18を用いて、本発明の実施の形態4の物理量検出装置について説明する。実施の形態4では、遅延調整回路12に、遅延計算回路122ではなく、第2PIDコントローラ126を有する。
[検出制御回路]
図17は、実施の形態4の角速度センサモジュールの全体の構成として、特に検出制御回路10の構成を示す。実施の形態1では、遅延計算回路122で、モニタ信号DMに基づいて、増減量STP単位で遅延量の更新値を探索している。一方、実施の形態4では、第2PIDコントローラ126で、モニタ信号DMの大きさが、目標値TARになるように、PID制御を行う。メモリ回路123には、目標値TARが格納されており、データ処理回路14から設定可能である。目標値TARは、制御の目標の大きさを表す。第2PIDコントローラ126は、PID制御クロックCKP2、及びモード信号MDに基づいて動作する。駆動制御回路20は、PID制御クロックCKP2を生成する。第2PIDコントローラ126のPID制御には、PID制御係数K2{KP2,KI2,KD2}が適用される。メモリ回路123には、PID制御係数K2{KP2,KI2,KD2}が格納されており、データ処理回路14から設定可能である。PID制御係数K2は、PIDコントローラ103のPID制御係数K1とは異なる。PID制御係数K2は、自動探索モードにおける探索の間、変化しない。
[第2PIDコントローラ]
図18の(A)は、第2PIDコントローラ126の構成を示す。第2PIDコントローラ126は、図11のPIDコントローラ103と同様の構成要素に加えて、減算回路181、データラッチ回路182、加算回路183を含む。第2PIDコントローラ126は、入力のモニタ信号DMに対して目標値TARを減算する。また、第2PIDコントローラ126は、前述の信号PDT、信号IDT、信号DDTから計算された信号PIDDTを、現在設定されている遅延量DVALに対して加算して出力する。
減算回路181は、モニタ信号DMの値と目標値TARとの差分の信号184を出力する。その信号184は、乗算回路103A、加算回路103E、加算回路103H、データラッチ回路103Fへ出力される。第2PIDコントローラ126では、前述と同様に、信号PDT、信号IDT、信号DDTが計算され、信号PIDTと信号DDTから信号PIDDTが計算される。信号PIDDTは、加算回路183に入力される。加算回路183の出力信号である遅延量DVALは、データラッチ回路182に入力される。データラッチ回路182は、PID制御クロックCKP2に基づいて、遅延量DVALをラッチし、ラッチデータを加算回路183へ出力する。加算回路183は、信号PIDDTとそのラッチデータとを加算して、遅延量DVALとして出力する。
図18の(B)は、第2PIDコントローラ126を用いた遅延調整について示す。特に、遅延量の自動探索によって、目標値TARに向かってモニタ信号DMの値が制御される様子を示す。なお、実際の目標値TARの設定に際しては、センサ個体毎の差が存在する可能性を考慮する。本例では、モニタ信号DMの最大値は、探索更新数が5〜8程度の時に、目標値TAR(例えば約0.149)に収束している。遅延調整回路12は、前述と同様に、収束判定を行って、自動探索を終了させる。第2PIDコントローラ126は、例えば、探索更新数が8の時に、モニタ信号DMの最大値が、1つ前の時点と同じく目標値TARになっているため、収束したと判定する。
上記のように、実施の形態4によれば、実施の形態1等に近い効果が得られる。実施の形態4の変形例として以下が可能である。第2PIDコントローラ126において、収束判定に関して、図18の(B)中に示すように、目標値TARに対する±T%の範囲1800を設ける。そして、この範囲1800に向かって値を制御する回路構成とする。±T%の値は、データ処理回路14からメモリ回路123に予め設定可能とする。その設定値が探索の際に第2PIDコントローラ126に適用される。このように、ある程度の制御の範囲を持たせることで、不要な発振を防ぎ、制御を安定化させる効果が期待できる。
(実施の形態5)
図19〜図20を用いて、本発明の実施の形態5の物理量検出装置について説明する。実施の形態5は、実施の形態1と比べ、遅延計算回路の構成が異なる。
[検出制御回路]
図19は、実施の形態5の角速度センサモジュールの全体の構成として、特に検出制御回路10の構成を示す。遅延調整回路11は、図1の遅延計算回路122の代わりに、遅延計算回路127を有する。遅延計算回路127は、遅延計算回路クロックCKCに基づいて動作し、モード信号MDによって制御される。遅延計算回路127は、モード信号MDの値が1である時には、自動探索モードとして、初期値INTから遅延量の探索を開始する。遅延計算回路127は、探索更新数毎に、増減量STPで遅延量を変化させながら、更新値である遅延量DVALを出力する。更に、実施の形態5では、遅延計算回路127は、モニタ信号DMの値が、予め決められた目標値TARよりも小さくなった時点で、遅延量の探索を停止する。実施の形態1では、目標値TARは無く、遅延量を探索し続けて、所定の収束判定によって終了する。
メモリ回路123には、データ処理回路14から予め目標値TAR等が設定可能である。遅延計算回路127は、モード信号MDの値が1である時には、メモリ回路123から入力される目標値TARを適用する。目標値TARは、実施の形態4と同様に、所定の範囲としてもよい。
[遅延計算回路]
図20は、遅延計算回路127の構成を示す。この遅延計算回路127は、図9の遅延計算回路122と比べて、データラッチ回路122A及び比較回路122Bの代わりに、比較回路127Bを有し、比較回路127Bの第2入力端子側の入力信号は、モニタ信号DMのラッチデータの信号DMDではなく、目標値TARになっている。比較回路127Bは、モニタ信号DMと目標値TARとを比較して、モニタ信号DMの値が目標値TARよりも大きい場合には、出力の信号SEL0の値を1とし、モニタ信号DMの値が目標値TARよりも小さい場合には、出力の信号SEL0の値を0にする。これにより、遅延計算回路127は、モニタ信号DMの値が目標値TARよりも小さくなるまで探索を行い、信号SEL0の値が0になった場合には、探索を終了させる。選択回路122Eは、信号SEL0=0の時には、第2入力端子の信号LMINを選択して出力する。即ち、遅延計算回路127は、探索終了の時点でのデータラッチ回路122Cの出力の信号LMINを、更新値の遅延量DVALとして出力する。
実施の形態5では、実施の形態4と同様に、個体の差に応じたセンサ要素1の特性のばらつき等を考慮して目標値TARを設定する必要がある。そのばらつき等を吸収できるような目標値TARを設定することが望ましい。
上記のように、実施の形態5によれば、実施の形態4と近い効果が得られる。実施の形態5では、上記のように所定の目標値TARを判定の基準として探索を終了させるアルゴリズムとしている。これにより、探索時の遅延量が振動して収束しない事態を回避でき、制御を安定化できる。
(実施の形態6)
図21〜図22を用いて、本発明の実施の形態6の物理量検出装置について説明する。
[検出制御回路]
図21は、実施の形態6の角速度センサモジュールの全体の構成として、特に検出制御回路10の構成を示す。実施の形態6では、実施の形態1と比べ、遅延調整回路12で、モニタ回路121の代わりに、復調回路128を設けている。また、サーボ回路11では、量子化回路104と遅延回路105との間に、90度遅延回路107、加算回路108を設けている。
復調回路128は、入力のデータ信号DT0に対し、復調クロックFPLTによる復調を行って、信号PLTAMPを出力する。遅延計算回路122は、その信号PLTAMPを入力し、実施の形態1と同様に探索を行う。駆動制御回路20は、復調クロックFPLTを生成する。この構成では、加算回路108から、サーボループの遅延回路105の入力に、パイロット信号PLTを導入できる。パイロット信号PLTは、言い換えると試験信号である。駆動制御回路20は、パイロット信号PLTを生成する。データ処理回路12からパイロット信号PLTを生成してもよい。パイロット信号PLTは、センサ要素1の共振周波数f0と異なる周波数成分を持つ正弦波または矩形波の形状を持つ信号である。復調クロックFPLTは、パイロット信号PLTと同じ周波数を持つ信号である。
遅延回路105の入力に対し、加算回路107でパイロット信号PLTを導入する。遅延回路105では、そのパイロット信号PLTが反映された入力信号に対し、遅延量DSETを適用して、サーボ制御信号SRV0を生成する。これにより、センサ要素1には、そのパイロット信号PLTが反映されたサーボ電圧信号SRVが入力され、そのパイロット信号PLTが反映された検出信号ASSが応答として出力される。
復調回路128では、復調クロックFPLTを用いた復調によって、センサ要素1に入力されたパイロット信号PLTの応答の振幅値を、信号PLTAMPとして取り出すことができる。信号PLTAMPは、調整用の信号である。遅延計算回路122は、その信号PLTAMPに基づいて、遅延量を探索する。モード選択回路124は、更新値である遅延量DVALを選択し、遅延量DSETとして遅延回路105に適用する。
実施の形態6の特徴の1つとして、角速度センサモジュールの通常使用の動作中に、同時に遅延量の自動探索を実行してリアルタイムで遅延調整ができる利点がある。即ち、センサ要素1に角速度が加わっている状態でも、遅延調整が可能である。遅延調整の探索の開始及び終了については、パイロット信号PLTによって制御可能である。そのため、実施の形態6の図21の構成では、モード信号MDについては設けていない。通常時、即ち非探索時には、モード選択回路124から遅延量DMEMが遅延量DSETとして適用される。探索の際には、例えば、トリガ信号TRGに基づいてパイロット信号PLTが導入され、遅延計算回路122から信号PLTAMPに基づいて遅延量DVALが出力される。モード選択回路124は、遅延量DVALが入力された場合には、その遅延量DVALを遅延量DSETとして適用する。探索終了時には、パイロット信号PLTの導入が停止され、その結果、遅延量DVALが出力されず、モード選択回路124から遅延量DMEMが遅延量DSETとして適用される。
[復調クロックの周波数]
図22は、復調クロックFPLTの周波数の設定方法に関する、角速度センサのボード線図を示す。図22の(A)は、ボード線図におけるゲイン線図を示し、センサ要素1のゲインと周波数との関係を示す。図22の(B)は、ボード線図における位相線図を示し、出力位相[度(deg)]と周波数との関係を示す。図22では、ボード線図上に、好ましい復調クロックFPLTの周波数を、第1周波数f1、第2周波数f2として示す。センサ要素1の共振周波数についてはf0として示す。第1周波数f1、第2周波数f2のいずれも、共振周波数f0の時のセンサ要素1の出力ゲインg0と比較してゲインg1,g2が十分に小さくなるような周波数に設定される必要がある。
第1周波数f1は、センサ要素1の共振周波数f0よりも低周波数側に設定された場合である。この場合、センサ要素1の出力位相p1は、入力のパイロット信号PLTに対して変化していない0度である。一方、第2周波数FPLT2は、センサ要素1の共振周波数f0よりも高周波数側に設定した場合である。この場合、センサ要素1の出力位相p2は、入力のパイロット信号PLTに対して−180度回転した位相である。
90度遅延回路107は、データ信号DT0の位相を±90度で遅延させて、その信号を加算回路108に入力させる。上記理由から、90度遅延回路107は、パイロット信号PLTの成分と物理量信号出力であるデータ信号DT0の成分との位相差である±90度分を補正するために設けられている。これは、センサ要素1が物理量を検出するために動作している共振周波数f0の成分の位相とパイロット信号PLTの位相とが±90度でずれており、一方、遅延量の最適化の対象は共振周波数f0の成分であるためである。具体的には、90度遅延回路107は、第1周波数f1を用いた場合、−90度の位相補正を行い、第2周波数f2を用いた場合には+90度の位相補正を行う。
上記のように、実施の形態6によれば、実施の形態1と近い効果が得られる。実施の形態6では、センサの通常使用の動作中に遅延調整ができるので、高い信頼性を容易に実現できる。また、モード信号による制御が不要となるため、制御が簡易化できる。なお、変形例としては、前述と同様にモード信号MDを設けて、パイロット信号PLTと併用して制御してもよい。
(実施の形態7)
図23を用いて、本発明の実施の形態7の物理量検出システムについて説明する。実施の形態7の物理量検出システムは、実施の形態1等の角速度センサモジュールに対して外部の装置が接続されたシステム例を示す。実施の形態7では、外部からトリガ信号TRGを用いて角速度センサモジュールの遅延調整のタイミング等を制御する例を示す。
図23の(A)は、実施の形態7の物理量検出システムの構成を示す。この物理量検出システムは、角速度センサモジュール2301と、加速度センサモジュール2302と、制御装置2303とを有し、これらが信号線等で接続されている。この物理量検出システムでは、制御装置2303を介して角速度センサモジュール2301と加速度センサモジュール2302とが連携して動作する。角速度センサモジュール2301は、例えば実施の形態1の角速度センサモジュールと同じであり、他の実施の形態のモジュールを適用してもよい。角速度センサモジュール2301は、角速度を含む出力信号SNSOUTを制御装置2301へ出力する。加速度センサモジュール2302は、加速度を検出する公知のモジュールである。加速度センサモジュール2302は、検出した加速度を含む出力信号ACCLを、制御装置2303へ出力する。制御装置2303は、任意の計算機や電子回路基板等が適用可能である。
制御装置2303は、出力信号ACCLに基づいて、トリガ信号TRGを生成し、角速度センサモジュール2301へ出力する。また、制御装置2303は、必要に応じて設定情報CNFを角速度センサモジュール2301に与える。角速度センサモジュール2301は、トリガ信号TRGを受け取り、トリガ信号TRGに従って前述の遅延調整の動作を行わせる。即ち、データ処理回路14は、トリガ信号TRGに従って、モード信号MDの値を1として、遅延調整回路12での自動探索を開始させる。
この物理量検出システムでは、加速度センサモジュール2302で検出した加速度の状態に応じて、角速度センサモジュール2301の遅延調整の自動探索を行わせるように、トリガ信号TRGを発生させる。角速度センサモジュールの遅延調整は、センサ要素1に角速度が印加されていない状態で行われることが望ましい。センサ要素1に角速度が印加されている状態では、加速度センサモジュール2302の方にも必ず何らかの信号が検出され、出力信号ACCLに表れる。そこで、制御装置2303は、出力信号ACCLの加速度を参照し、例えばその加速度が所定の閾値レベル以下である場合には、トリガ信号TRG(例えば値1とする)を出力する。制御装置2303は、その加速度が所定の閾値レベルよりも大きい場合には、トリガ信号TRGを出力しない(例えば値0とする)。これにより、センサ要素1に角速度が印加されている状態での遅延調整を回避でき、位相遅延の設定の精度を高めることができる。
図23の(B)は、実施の形態7の他の物理量検出システムの構成を示す。この物理量検出システムは、角速度センサモジュール2304と、その上位のシステムである上位システム2305とを有し、これらが信号線等で接続されている。この物理量検出システムは、上位システム2305内に角速度センサモジュール2304が組み込まれているシステムと捉えてもよい。角速度センサモジュール2304は、例えば実施の形態1の角速度センサモジュールと同じである。角速度センサモジュール2304は、出力信号SNSOUTを上位システム2305へ出力する。上位システム2305は、任意の計算機や電子回路基板等を含んで構成される応用システム等が適用可能である。上位システム2305は、一例として、自動車の自動運転制御システムである。上位システム2305は、加速度センサ等の各種センサ等を備えており、例えば出力信号SNSOUTを含む各センサ信号に基づいて自動車の自動運転等を制御する機能を有する。
この物理量検出システムでは、上位システム2305は、各種センサ情報等に基づいて、自身の総合的な判断によって、適切なタイミングでトリガ信号TRGを生成して、角速度センサモジュール2304に出力する。上位システム2305は、例えば、システム電源がオン状態になった時に、トリガ信号TRGを出力してもよい。上位システム2305は、温度等、様々な環境状況に応じて、トリガ信号TRGを生成する。トリガ信号TRGの生成の判断の内容は、上位システム2305の応用制御内容に応じて異なる。角速度センサモジュール2304は、そのトリガ信号TRGを受け取り、トリガ信号TRGに従って同様に遅延調整の動作を行う。
上記のように、実施の形態7によれば、高精度の角速度情報を用いて応用制御の品質を高めることができる。なお、変形例として、角速度センサモジュール2304は、現在のモードの状態を表す制御情報等を、上位システム2305へ出力してもよい。
以上、本発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。