本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、ナトリウム濃度センサーNaxチャンネル及び/又は酸感受性イオンチャンネルASIC1の発現や機能を阻害する剤、それを用いた食塩の過剰摂取や体液のナトリウム濃度上昇にともなう血圧上昇を抑制できる食塩感受性高血圧症の予防及び/又は治療用医薬、並びにこれらの剤及び医薬のスクリーニング方法、比較・評価法を提供することにある。
本発明者らは、従来の課題を解決すべく鋭意検討した結果、脳内の終板脈管器官に発現するナトリウム濃度センサーNaxチャンネル、および酸感受性イオンチャンネルASIC1の発現や機能を阻害することで、食塩の過剰摂取や体液のナトリウム濃度上昇にともなう血圧上昇を抑制できることを見出した。
すなわち、NaxやASIC1の機能阻害を標的とすることで、食塩感受性高血圧の予防及び/又は治療が可能になることを見出し、ついに、本発明を完成させるに至った。
ここで、終板脈管器官は以下「OVLT」と略すことがあり、OVLTに発現するナトリウム濃度センサーNaxチャンネルは以下「Nax」又は「Naxチャンネル」と略すことがあり、酸感受性イオンチャンネルASIC1は以下「ASIC1」と略すことがある。
本発明は、交感神経の活性化を介した血圧上昇を担う、脳内Na+濃度センサーの分子実体であるNaxチャンネル、およびNaxのシグナルを受け取る分子であるASIC1の機能阻害が、食塩感受性高血圧の新たな治療法となることを示すものである。Naxは細胞外Na+濃度依存的に開口するナトリウムチャンネルであり(非特許文献21参照)、その発現は脳内のOVLTなど、ごく限られた部位で認められる(非特許文献17参照)。OVLTは血液−脳関門を欠損しているとともに、脳室に面した位置にあるという特徴を持つため、体液のNa+濃度を感知するのに適した脳内器官である。OVLTにおいて、NaxとASIC1は以下のような仕組みで血圧の制御に関与している。
食塩の過剰摂取により体液のNa+濃度が上昇すると、OVLTのグリア細胞 (アストロサイトおよび上衣細胞)に発現するNaxが活性化し、グリア細胞の糖取り込みと嫌気的解糖が亢進する。解糖により産生された乳酸は、乳酸/H+共輸送体によって細胞外へと放出され、細胞外H+濃度の上昇(pHの低下)を引き起こす。その結果、OVLTのニューロンに発現しているASIC1が活性化し、神経活動が亢進する。ASIC1を発現するOVLTニューロンは、交感神経活動の活性化を担っており、このニューロンが活性化することで血圧が上昇する。
本発明者らが調べた結果、体液中のナトリウム濃度がわずか5%上昇しただけで血圧は有意に上昇し、その大部分はNax依存的であった。このことから、Naxによる血圧上昇は、体液のナトリウム濃度上昇に鋭敏に反応するシステムであると考えられ、実際の食塩感受性高血圧患者でも活性化している可能性が高い。加えて、上記の標的分子は血液-脳関門の無いOVLTに存在するため、創薬候補化合物を探索する際に、血液−脳関門を通過できるものに限定しなくてよいという利点がある。さらにNaxは、生体内で発現している組織が限られているとともに、Nax遺伝子欠損マウスには見かけ上の異常はなく、正常に生育する。また、ASIC1遺伝子欠損マウスについても、現時点で深刻な異常は報告されていない(非特許文献66参照)。このことから、NaxやASIC1機能阻害により副作用が起こるリスクは非常に小さいと推察される。
本発明は、脳内の終板脈管器官(OVLT)に発現するNaxチャンネル、および酸感受性イオンチャンネルASIC1を選択的に阻害することが、食塩感受性高血圧の治療に有効であることを示すものである。これまで、NaxとASIC1が血圧制御に関与することは知られていなかった。本発明者らは、Nax遺伝子欠損マウスや、OVLTでASIC1の機能や発現を抑制したマウスは、食塩感受性の血圧上昇を起こさないことを見出し、NaxおよびASIC1の機能阻害を標的とした新規の高血圧治療法に係る発明、すなわち、ナトリウム濃度センサーNaxチャンネルおよび酸感受性イオンチャンネルASIC1の発現や機能を阻害する剤、それを用いた食塩の過剰摂取や体液のナトリウム濃度上昇にともなう血圧上昇を抑制できる食塩感受性高血圧の予防及び/又は治療用医薬、並びにこれらの剤及び医薬のスクリーニング方法に係る発明を完成した。
以下、本発明を詳細に説明する。
上記したように、終板脈管器官(OVLT)において、ナトリウム濃度センサーNaxチャンネルと酸感受性イオンチャンネルASIC1は以下のような仕組みで血圧の制御に関与している。
1)食塩の過剰摂取により体液のNa+濃度が上昇する。
2)OVLTのグリア細胞(アストロサイトおよび上衣細胞)に発現するNaxが活性化し、グリア細胞の糖取り込みと嫌気的解糖が亢進する。
3)解糖により産生された乳酸は、乳酸/H+共輸送体によって細胞外へと放出され、細胞外H+濃度の上昇(pHの低下)を引き起こす。
4)OVLTのニューロンに発現しているASIC1が活性化し、神経活動が亢進する。
5)ASIC1を発現するOVLTニューロンは、交感神経活動の活性化を担っており、このニューロンが活性化することで血圧が上昇する。
図8に示すように、上記の血圧の制御について食塩の過剰摂取より血圧上昇シグナル発生に至るまでの仕組みにより説明される。その中で、医薬のスクリーニング方法の標的(ターゲット)としては、図8の創薬標的1および創薬標的2として示すように、グリア細胞(アストロサイトおよび上衣細胞)に発現するNaxとOVLTのニューロンに発現するASIC1のいずれか、あるいは両方の発現またはその機能を阻害する剤が創薬標的となる。
また一方で、グリア細胞(アストロサイトおよび上衣細胞)に発現するNaxとOVLTのニューロンに発現するASIC1のいずれか、あるいは両方の発現を阻害あるいは阻止することが医薬に結び付くことに基づく、いわゆる核酸医薬としてのスクリーニング方法についても本発明の範囲内にある。
以上の通り本発明は、上記の血圧制御の仕組みなどから、食塩感受性高血圧症の予防及び/又は治療用医薬に結びつくスクリーニング方法を完成した発明に係る。
本発明は、Naxチャンネル及び/又はASIC1の発現または機能を阻害する物質のスクリーニング方法であって、等張ナトリウム濃度を超えるナトリウム濃度下で、終板脈管器官細胞、あるいはNaxチャンネル及び/又はASIC1を発現する細胞に被検物質を接触させ、接触前の細胞内Na+流入速度に対して、接触後の当該細胞へのNa+流入速度が有意に減少することを特徴とするNaxチャンネル及び/又はASIC1の発現または機能を阻害する物質のスクリーニング方法に係る。
等張ナトリウム濃度とは生体中の生理的溶液による浸透圧と実質的に等しい浸透圧を示すナトリウム濃度を言い、高張ナトリウム濃度とは等張ナトリウム濃度を超える浸透圧を示すナトリウム濃度を言う。
例えば後述する図1A、図1Bに示すように食塩の過剰摂取前後における血液や脳脊髄液(CSF)におけるNa+の変化があり、図3C等に示すように高張ナトリウム濃度として160mMNa+、等張ナトリウム濃度として145mMNa+が実施されている。このように、高張ナトリウム濃度は等張ナトリウム濃度を超える浸透圧を示すナトリウム濃度であればよく、さらに具体的には、148mMNa+(等張ナトリウム濃度145mMNa+の2%増)〜290mMNa+(等張ナトリウム濃度145mMNa+の100%増)の範囲であればよく、特に150mMNa+(同3.5%増)〜174mMNa+(同20%増)を挙げることができる。
Na+濃度は例えば後記する実施例にも記載のように、血液分析計i−STATなどの装置を用いて測定される数値による。あるいはNa+の量あるいは濃度に応じて色調、色相が変化する色素等を使い、連続的あるいは不連続的にその数値を追跡することによってもよい。
例えばNa+インジケーターとして蛍光を利用する場合、SBFI(励起波長340/380nm、発光波長505nm、Kd=4mM)やAsante NaTRIUM Green(励起波長488−517nm、発光波長540nm、Kd=20mM)などのNa指示薬を用いることが挙げられる。これによりNa+濃度を連続的あるいは不連続的に追跡、モニターあるいは定量することができる。また蛍光以外にも、インジケーターを選定することで、光吸収、燐光など、公知の測定方法を用いることができる。
Na+流入速度に有意な差がないとは、被検物質を接触させる前のNa+流入速度と被検物質を接触させた後のNa+濃度とで、統計的に有意な差がないことを言い、例えば各々のデータ数値の標準偏差を基にp<0.05、p<0.01又はp<0001であることを言う。
Na+流入速度が有意に減少するとは、Na+流入量を連続的あるいは不連続的に追跡、モニターあるいは定量し、流入の速度が有意に低下していることが認められることをいう。この場合、連続的に追跡、モニターあるいは定量している場合には、速度に応じた変化量となる傾きが有意に減ずることをいう。不連続的に追跡、モニターあるいは定量している場合には、所定時間あるいは間隔ごとのNa+流入量を外挿した変化速度が有意に減ずることをいう。
本発明は、Naxチャンネル及び/又はASIC1の発現または機能を阻害する物質のスクリーニング方法であって、等張ナトリウム濃度を超えるナトリウム濃度下で、終板脈管器官細胞に被検物質を接触させ、グリア細胞の糖取り込み能と嫌気的解糖の結果としての乳酸の産生を測定する、スクリーニング方法に係る。
さらに乳酸が産生される場合に乳酸/H+共輸送体によって細胞外へと放出され、細胞外H+濃度の上昇、またはpHの低下を測定する、スクリーニング方法に係る。
これらのスクリーニング方法において、産生乳酸の測定、細胞外H+濃度の上昇、またはpHの低下については、有効な被検物質を接触させた場合にはこれらはNaxチャンネル及び/又はASIC1の発現または機能を阻害することから、上記のNa+流入速度に有意な差がないと同様に、被検物質を接触させる前の産生乳酸の測定、細胞外H+濃度またはpHの測定値と被検物質を接触させた後のこれらの測定値とで、統計的に有意な差がないことを言い、例えば各々のデータ数値の標準偏差を基にp<0.05、p<0.01又はp<0001であることを言う。
さらに産生乳酸の量、細胞外H+濃度あるいは量やpH値が有意に変動する場合、産生乳酸の量、細胞外H+濃度あるいは量やpHを連続的あるいは不連続的に追跡、モニターあるいは定量し、その量の変化が有意に変動していることが認められることをいう。この場合、連続的に追跡、モニターあるいは定量している場合には、速度に応じた変化量となる傾きが有意に減ずるあるいは増加することをいう。不連続的に追跡、モニターあるいは定量している場合には、所定時間あるいは間隔ごとの産生乳酸の量、細胞外H+濃度あるいは量やpHを外挿した変化量が有意に変動することをいう。
さらに上記のような統計的に有意差があるか否かの定性的な評価方法のみならず、その数値によっては、Naxチャンネル及び/又はASIC1の発現または機能を阻害する物質である被験物質の阻害の程度を定量値として評価することもできる。
後述する図1A、図1Bなどに示すように高塩濃度の摂取前後における血中又は脳脊髄液(CSF)中のNa+濃度として等張ナトリウム濃度145mMNa+を超える、例えば153mMNa+(等張ナトリウム濃度145mMNa+の5%増)〜160mMNa+(同10%増)程度を挙げることができる。
後述する図4E、図4F、図4Gなどに示すように細胞外H+濃度の変化としてpHを測定することで、定量的に評価することができる。さらに具体的には、測定当初のpHより酸性側(H+濃度増側)になるか否かを測定する。pHが0.2〜2.0酸性側へ移動することを確認すればよい。
また細胞外H+濃度の変化としてのpHの測定については、pHにより色調あるいは吸収、蛍光波長等が変化する色素等を用いることで、光学的に追跡、モニターあるいは定量ができ、評価することができる。
例えば、BCECF(pKa=6.98)のような指示薬や、FFN102,FFN202のようなpH応答性蛍光偽神経伝達物質(pH-responsive fluorescent false neurotransmitter,FFN)を用いることが挙げられる。これによりH+濃度あるいはpHを色素が発する蛍光等により光学的に連続的あるいは不連続的に追跡、モニターあるいは定量することができる。また蛍光以外にも、インジケーターを選定することで、光吸収、燐光など、公知の測定方法を用いることができる。
またスクリーニング方法として、非ヒト動物などを使用する場合には、被験物質投与と共に高張Naも投与して、結果として血圧上昇が測定できるかを測定することもできる。血圧の測定は、被験物質の効能の有無を見る定性的な評価だけでなく、血圧を定量的に評価し、被験物質の効能の強さあるいは効力の強さを見ることもできる。
例えば後述する図7A、図7Bなどに示すように動脈血の血圧の変化量として、高張Na液注入前後の差として、1mmHg〜20mmHg、さらに2mmHg〜15mmHg、特に4mmHg〜10mmHgの範囲となるかを確認すればよい。
産生乳酸の測定、細胞外H+濃度またはpHの測定において、測定に必要な添加物等は適宜加えることができる。
本発明に係るスクリーニング方法に用いられる細胞、組織、器官、非ヒト動物は目的に応じ、本発明に開示する範囲に応じて選択すればよい。細胞としても1細胞であっても、複数の細胞や、細胞の塊としたものであってもよい。
<Naxの発現あるいは機能を阻害する医薬品候補物質のスクリーニングに用いられる細胞>
本発明のスクリーニング方法に用いられる細胞としては、動物細胞に対して、NaxをコードするcDNA(SCN7AのcDNA)を発現させることでスクリーニングに用いる細胞を作製することができる。
使用される細胞の種類については特に限定されることはなく、例えばラット由来のC6グリオブラストーマ細胞やマウス神経芽細胞Neuro-2Aを用いて作製することができる。
Naxをコードする遺伝子を発現させる方法についても限定されることはなく、例えばプラスミドDNAベクターやウイルスベクターを用いて発現させる方法を挙げることができる。
本発明に係るスクリーニング方法に用いるためには、Naxの発現量など、細胞の性質が揃っていることでデータの信頼性あるいは安定性が良くなるため好ましい。このため細胞をクローン化し、Naxの機能評価に使えるクローンを選別してから使用することが好ましい。
例えばドキシサイクリン(Dox)などの薬剤の存在下ではNaxが発現せず、Naxを発現させるための培地から前記Doxを除くことで初めてNaxが発現するようにした細胞を用いることができる。このようにした細胞は、Naxの機能が維持されているため、本発明のスクリーニング方法に用いることができる。
以下に、例として上記の細胞の作製方法を、図を用いて記載する。
・最初に、図9Aに示すように、テトラサイクリン応答因子(TRE)のDNA配列に続けて、NaxをコードするcDNAをつないだ遺伝子配列を作製する。
・次いで、この遺伝子配列を組み込んだプラスミドベクターと、抗生物質のネオマイシン耐性の遺伝子を有するプラスミドベクターを同時に細胞に導入する。
・上記のプラスミドベクターが同時に導入された細胞をネオマイシンで処理し、生存すれば、遺伝子導入が成功している、とするものである。
・さらに、生存した細胞に対し、アデノウイルスベクターを用いてTetリプレッサータンパク(tTA)遺伝子を導入する。
Tetリプレッサータンパク(tTA)は、TREに結合することでTREの下流につないだNaxなどの遺伝子(図9BではNax)の発現を誘導する機能がある。このためドキシサイクリン(Dox)の存在下では、図9Bに示すように、tTAがTREに結合できなくなり、Naxが発現しない。これに対しDoxを培地から抜くと、Naxが発現するようになり、Naxの機能を評価できる細胞として使用できるようになる(例えば非特許文献30、非特許文献47参照)。
<ASIC1の発現あるいは機能を阻害する医薬品候補物質のスクリーニングに用いる細胞>
本発明のスクリーニング方法に用いられる細胞としては、動物細胞に対して、ヒトのASIC1aをコードするcDNA(ACCN2 variant1のcDNA)を発現させることでスクリーニングに用いる細胞を作製することができる。
使用される細胞の種類については特に限定されることはなく、例えば内因性にASICを発現していないCOS-7細胞などがよく用いて作製することができる。
ASICをコードする遺伝子を発現させる方法についても限定されることはなく、例えばプラスミドDNAベクターやウイルスベクターを用いて発現させる方法を挙げることができる。この場合も、上記のNaxの場合と同様に、クローン化するというステップを踏んでから使用することができる。
本発明に係るスクリーニング方法に用いられる器材としては公知の器材を適宜本発明の目的に応じて使用することができる。その内でも、スクリーニングに用いる材料、被験物質を加えてスクリーニングを行なう容器として、例えば市販の24ウエルマイクロタイタープレート、96ウエルマイクロタイタープレート、384ウエルマイクロタイタープレートあるいはこれらよりも多くのウエル数のマイクロタイタープレートであれば一度に大量の被験物質のスクリーニングを行うことができる。
また複数細胞、組織、器官を用いてスクリーニングを行う場合には、滅菌処理されたマイクロタイタープレートを用い、また複数細胞、組織、器官の大きさによっては、組織培養ができるようなシャーレタイプや、少ないウエル数のマイクロタイタープレートを用いて行なうことでよい。
等張ナトリウム濃度とは生体中の生理的溶液による浸透圧と実質的に等しい浸透圧を示すナトリウム濃度を言い、高張ナトリウム濃度とは等張ナトリウム濃度を超える浸透圧を示すナトリウム濃度を言う。
<Naxの発現あるいは機能を阻害する医薬品候補物質のスクリーニング>
本発明のスクリーニング方法は、細胞外液(培養液)のNa+濃度を人為的に変えたときの、細胞内のNa+濃度の変化を測定することで実施することができる。
すなわち、Naxが発現した細胞では、細胞外液(培養液)のNa+濃度を人為的に高くすると、細胞内のNa+濃度が上昇する。このため、Naxが発現した細胞内のNa+濃度上昇速度が低下あるいは停止、消失させることのできる物質を医薬品候補物質とすることができる。
医薬品候補物質を、スクリーニングを行なう系に加えるタイミングは特に限定されない。タイミングとしては、例えば細胞外液(培養液)のNa+濃度を、等張ナトリウム濃度を超えるナトリウム濃度となるように加えるなどの人為的に高くする前であってもよく、あるいは細胞外液(培養液)のNa+濃度を人為的に高くした後でもよい。
細胞内のNa+濃度を測定するためには、Na+と結合したときには、上記したように蛍光強度が変化する化合物を細胞に取り込ませ、蛍光強度の変化を指標にして測定することができる。例えば前記したナトリウムインジケーターであるSBFIを用いて評価することができる。
細胞外液(培養液)のNa+濃度を、等張ナトリウム濃度を超えるナトリウム濃度となるように加えるなどの人為的に高くしたときに、細胞外液(培養液)の乳酸濃度、H+濃度、pHなどを指標として、これらが変化するかを評価してスクリーニングすることもできる。
<ASIC1aの発現あるいは機能を阻害する候補物質のスクリーニング>
本発明のスクリーニング方法は、細胞外液(培養液)のH+濃度を人為的に変えたときの、細胞内Na+あるいはCa2+濃度の変化を測定することで実施することができる。
すなわち、ASIC1aが発現した細胞では、細胞外液(培養液)のH+濃度を人為的に高くすると、細胞内のNa+およびCa2+濃度が上昇する。このため、ASIC1aが発現した細胞内のNa+あるいはCa2+濃度上昇を軽減あるいは消失させることのできる物質を医薬品候補物質とすることができる。
細胞内のCa2+濃度を測定するためには、Ca2+と結合したときには、上記したように蛍光強度が変化する化合物を細胞に取り込ませ、蛍光強度の変化を指標にして測定することができる。例えばカルシウム蛍光プローブである化合物として、1-[2-Amino-5-(2,7-difluoro-6-acetoxymethoxy-3-oxo-9-xanthenyl)phenoxy]-2-(2-amino-5-methylphenoxy)ethane-N,N,N',N'-tetraacetic acid, tetra(acetoxymethyl) ester(Fluo-4、CAS番号;273221-67-3)など様々な化合物を用いて評価することができる。
あるいは、Ca2+と結合したときに蛍光強度が変化する蛍光タンパク質を細胞に発現させることでも測定できる。この場合、蛍光タンパクの蛍光強度の変化を指標にして測定することができる。
蛍光タンパクとしては、GCaMP6などが使用できる。この場合は、GCaMP6をコードするcDNAをプラスミドDNAベクターやウイルスベクターを用いて発現させることができる。
上記の細胞内のNa+濃度、Ca2+濃度は、測定により定量的または半定量的に測定でき、その結果として得られた数値あるいは相対的な数値から、NaxやASIC1の発現あるいは機能を阻害する医薬品候補物質の作用の程度を把握することができる。このため、医薬品候補物質が複数あればその作用の順位付けも可能である。
以上の通り、本発明に係るスクリーニング方法は図8に示すように、NaxとASIC1が高血圧に関与するという知見を基にしてなされた発明である。このため、本発明の課題である食塩の過剰摂取や体液のナトリウム濃度上昇にともなう血圧上昇を抑制できる食塩感受性高血圧症の予防及び/又は治療用医薬を提供する目的で本発明のスクリーニング方法を実施することが有益であることが初めて理解されるものである。
本発明は、等張ナトリウム濃度を超えるナトリウム濃度下で、終板脈管器官細胞に被検物質を接触させ、接触の有無において乳酸塩量、細胞外H+濃度またはpHに有意な差があることを特徴とするスクリーニング方法に係る。
具体的に、図10に示すスクリーニング方法により医薬品対象物質を実施することができる。すなわち、終板脈管器官からの単離組織・細胞又はグリア細胞由来の培養細胞についてNaxが発現されたものを用い、例えば、等張Na濃度の培地(図8におけるA)、高Na濃度の培地(図8におけるB)および高Na濃度の培地と医薬品候補化合物の組み合わせ(図8におけるC)により培地中の乳酸濃度のレベルを測定する。
その結果、高Na濃度により乳酸濃度の抑えられた候補化合物が医薬品候補となる。乳酸濃度が抑えられたか否かは、図8において、AとCとの乳酸濃度もしくは量を比較し、有意な差の有無を確認する。またBについては必要に応じて行ない、スクリーニングがうまく進行しているかを確認する対照として行なうとよい。
上記のスクリーニング方法はグリア細胞などの嫌気的糖代謝が盛んな細胞を使う場合に好ましく用いられ得る。また材料としては、動物から終板脈管器官の組織を単離したものや、グリア細胞由来の培養細胞(C6グリオブラストーマ細胞)などにNax遺伝子を導入したもの使用するとよい。
また本発明は、食塩感受性高血圧症の予防及び/又は治療用医薬のスクリーニング方法であって、等張ナトリウム濃度を超えるナトリウム濃度下で、終板脈管器官細胞、あるいはNaxを発現する細胞に被検物質を接触させ、当該細胞内へのNa+流入速度に有意な差が生じることを特徴とする食塩感受性高血圧症の予防及び/又は治療用医薬のスクリーニング方法に係る。
また本発明は、Naxチャンネル及び/又はASIC1をコードする遺伝子DNAの機能が染色体上に存在する非ヒト動物に、被検物質を投与し、当該非ヒト動物におけるNaxチャンネル及び/又はASIC1の活性を比較・評価することを特徴とするNaxチャンネル及び/又はASIC1の発現または機能を阻害する物質のスクリーニング方法に係る。
本発明は、Naxチャンネル及び/又はASIC1をコードする遺伝子DNAの機能が染色体上に存在する非ヒト動物に、被検物質を投与し、当該非ヒト動物におけるNaxチャンネル及び/又はASIC1の活性を比較・評価することを特徴とするNaxチャンネル及び/又はASIC1の発現または機能を阻害する物質のスクリーニング方法であって、Naxチャンネル及び/又はASIC1の活性の比較・評価が、前記非ヒト動物の血圧である、Naxチャンネル及び/又はASIC1の発現または機能を阻害する物質のスクリーニング方法に係る。
本発明は、Naxチャンネル及び/又はASIC1をコードする遺伝子DNAの機能が染色体上に存在する非ヒト動物に、被検物質を投与し、当該非ヒト動物におけるNaxチャンネル及び/又はASIC1の活性を比較・評価することを特徴とするNaxチャンネル及び/又はASIC1の発現または機能を阻害する物質のスクリーニング方法であって、Naxチャンネル及び/又はASIC1の活性の比較・評価が、前記非ヒト動物の血液とCSFのNa+濃度に依存する前記非ヒト動物の血圧による食塩感受性高血圧症の程度の比較・評価である、Naxチャンネル及び/又はASIC1の発現または機能を阻害する物質のスクリーニング方法に係る。
本発明は、非ヒト動物がマウスである、上記のNaxチャンネル及び/又はASIC1の発現または機能を阻害する物質のスクリーニング方法に係る。
本発明は、上記のNaxチャンネルの脳内Na+濃度センサーの発現または機能及び/又はNaxチャンネルのシグナルを受け取るASIC1の発現または機能を阻害する物質のスクリーニング方法によって得られるNaxチャンネル及び/又はASIC1の発現または機能阻害剤に係る。
本発明は、上記の脳内Na+濃度センサーとしてのNaxチャンネルの発現または機能及び/又はNaxチャンネルのシグナルを受け取るASIC1の発現または機能を阻害する物質のスクリーニング方法によって得られるNaxチャンネル及び/又はASIC1の発現または機能を阻害する物質を有効成分とする食塩感受性高血圧の予防及び/又は治療用医薬に係る。
<Naxチャンネル及び/又はASIC1からのシグナル伝達の阻害剤と、食塩感受性高血圧の予防及び/又は治療用医薬>
本発明は、Naxチャンネル及び/又はASIC1からのシグナル伝達の阻害剤であり、この剤はNaxチャンネル及び/又はASIC1からのシグナル伝達を阻害する物質を有効成分とする食塩感受性高血圧の予防及び/又は治療用医薬に用いることができる。
本発明の医薬の有効成分は、Naxチャンネル及び/又はASIC1からのシグナル伝達を阻害する物質であればどのような物質でもよく、特に限定されない。Naxチャンネル及び/又はASIC1からのシグナル伝達を阻害する物質としては、例えば、抗Naxチャンネル及び/又はASIC1抗体、Naxチャンネル及び/又はASIC1と結合するペプチド、Naxチャンネル及び/又はASIC1と結合する化学物質などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの抗体、ペプチド又は化学物質は、Naxチャンネル及び/又はASIC1と結合することにより、Naxチャンネル及び/又はASIC1の機能を阻害することができる抗体、ペプチド又は化学物質であることが好ましい。Naxチャンネル及び/又はASIC1からのシグナル伝達を阻害することができる抗体、ペプチド又は化学物質は、食塩感受性高血圧症の病態形成を抑制することができる。
Naxチャンネル及び/又はASIC1からのシグナル伝達を阻害することができる抗体として公知の抗体は、本発明の医薬の有効成分として好適に用いることができる。
抗Naxチャンネル及び/又はASIC1抗体は、Naxチャンネル及び/又はASIC1、またはそのフラグメントを抗原として作製することができる。抗原に用いるNaxチャンネル及び/又はASIC1は、どのような動物由来のNaxチャンネル及び/又はASIC1でもよいが、哺乳動物のNaxチャンネル及び/又はASIC1であることが好ましく、ヒトのNaxチャンネル及び/又はASIC1であることがより好ましい。抗原に用いるNaxチャンネル及び/又はASIC1またはそのフラグメントは、それぞれを発現する細胞の培養上清や細胞抽出物から公知の方法(例えば、アフィニティーカラム)で精製する方法などを用いることができる。
本発明の医薬の有効成分として用いる抗体は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。また、完全な抗体分子でもよく、抗原に特異的に結合し得る抗体フラグメント(例えば、Fab、F(ab’)2、Fab’、Fv、scFv等)でもよい。抗体は医薬として用いる場合にはヒト型キメラ抗体またはヒト化抗体が好ましいまたスクリーニング方法又は活性の比較・評価法に用いる場合にはヒトまたはヒト以外の動物由来の抗体であってよい。
Naxチャンネル及び/又はASIC1からのシグナル伝達を阻害することができるペプチドとして、ASIC1の阻害剤である、PcTx1の誘導体や、これらの物質の薬学的に許容されるその塩を含む。公知のペプチドは、本発明の医薬の有効成分として好適に用いることができる。
本発明の医薬の有効成分として用いるペプチドは、公知の一般的なペプチド合成のプロトコールに従って、固相合成法(Fmoc法、Boc法)または液相合成法により作製することができる。また、ペプチドをコードするDNAを含有する発現ベクターを導入した形質転換体を用いて作製することができるなど、公知の方法を用いることができる。
Naxチャンネル及び/又はASIC1からのシグナル伝達を阻害することができる化学物質として、Naチャンネルの阻害剤であるフグ毒、又はASIC1の阻害剤であるベンザミルの誘導体や、これらの物質の薬学的に許容されるその塩を含む。また、OVLTにおける細胞外pHの低下を抑制する化学物質を含む。さらに薬学的に許容されるその塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等の塩基付加塩や酸付加塩が挙げられる。さらに本発明においては、投与後に、生体中で(in vivo)何らかの化学的又は生理的プロセスによって薬物を放出する薬物前駆体である化合物、すなわち「プロドラッグ」をも包含しうる。
さらにNaxチャンネル及び/又はASIC1からのシグナル伝達を阻害することができるものとして、Naxチャンネル及び/又はASIC1を発現する遺伝子に作用し、その発現を阻害するDNA、RNA等の核酸断片を用いることもできる。これらはNaxチャンネル及び/又はASIC1の機能を発現する遺伝子に相補的配列、転写、翻訳を阻害する配列など、機能として発現を阻止できるものであれば特に制限はない。そのスクリーニング方法はNaxチャンネル及び/又はASIC1の発現量を測定することでよい。
例えば後述するASIC1のamiRNA(配列番号3、配列番号4)のようにNaxチャンネル及び/又はASIC1の一部配列であって、Naxチャンネル及び/又はASIC1の機能、作用を阻害できる配列であれば、核酸医薬として食塩感受性高血圧症の予防及び/又は治療用医薬となりえ、候補医薬となる。これらの核酸はAAVベクター等によりインビボノックダウンの手法により非ヒト動物に導入してその効能を評価することができる。
なお、本発明に係る食塩感受性高血圧症の予防及び/又は治療用医薬は、図S1D、図S1Eにもその一例が示されるように、各代謝レベルを示す生化学的な数値において、野生型とNaxチャンネルのノックダウン動物とで有意差がないことから、副作用は認められないものと推察される。
本発明に係るスクリーニング方法としては、グリア細胞(アストロサイトおよび上衣細胞)に発現するNaxとOVLTのニューロンに発現するASIC1のいずれか、あるいは両方の発現を阻害あるいは阻止することが医薬に結び付くことに基づく、いわゆる核酸医薬としてのスクリーニング方法も対象とする。
本発明は、NaxチャンネルもしくはASIC1を発現させた培養細胞に、蛍光タンパク質を組み込み、かつ被検物質を接触させ、接触の有無において前記培養細胞に由来する蛍光量に有意な差がある、スクリーニング方法に係る。
いわゆる核酸医薬としては、NaxあるいはASIC1a等のASIC1の全配列の一部を配列として持つものあるいはそれを基に作成される類似配列体を対象とする。さらにその配列としては、ヒトNaxあるいはASIC1の配列とすることが好ましい。
これらの配列あるいは候補配列としては、Naxの発現を阻害する効果があると予想される配列、およびASIC1a等のASIC1の発現を阻害する効果があると予想される配列を、コンピュータ等を用いて検索して複数ピックアップするという手法にて行なうことができる。さらにこの手法と同様ないかなる公知手法であってもよい。
具体的には、例えばASIC1aについて例示できる。
5'-TTTAGCCAAGTCTCCAAGAAT-3' (配列番号5)
5'-TTAGCCAAGTCTCCAAGAATG-3' (配列番号6)
5'-AGGTATGAGATACCAGACACA-3' (配列番号7)
5'-ACCCTTCAACATGCGTGAGTT-3' (配列番号8)
5'-GGGCAATGGGCTGGAAATCAT-3' (配列番号9)
5'-ACTGACGAGACGTCCTTCGAA-3' (配列番号10)
5'-TCCTTCGAAGCAGGCATCAAA-3' (配列番号11)
5'-GGACTCGGATTTGGATTTCTT-3' (配列番号12)
5'-CGGATTTGGATTTCTTCGACT-3' (配列番号13)
5'-TACAAGGAGTGTGCAGATCCT-3' (配列番号14)
なお、上記配列番号5〜配列番号14は考えられる配列に過ぎず、前記した通り、NaxあるいはASIC1a等のASIC1の全配列の一部を配列として持つものあるいはそれを基に作成される類似配列であってもよい。従って上記配列番号5〜配列番号14以外にも候補配列は考えられることは言うまでもなく、本発明はこれらの配列を示すことで何ら制限を受けることはない。
上記の通り、いわゆる核酸医薬のスクリーニング方法については、核酸医薬としてその多くは医薬品とする候補の対象遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)を分解して、タンパク質に翻訳させないことで、医薬品としての効果を発揮するものをいう。その態様としては、一般に知られている通り、アンチセンス型、siRNA、miRNA(マイクロRNA)、アプタマー型、CpGオリゴ型などが挙げられ、それぞれにおうじて一本鎖、2本鎖のDNA、RNAが用いられる。
本発明において、後記する図5Eおよび図5Fに示すように、ASIC1のマイクロRNA(miRNA)を用いてASIC1のタンパク質が減ったことを確認した後、血圧に対する効果があるかを評価している。図5EではASIC1に対するマイクロRNAと偽薬(LacZ遺伝子に対するマイクロRNA)を局所注入し、ASIC1の発現(赤で表示)が減ったことを確認している。図5FではASIC1に対するマイクロRNAを注入したマウスで血圧を抑えたことを示している。
このことから、いわゆる核酸医薬のスクリーニング方法については、対象遺伝子(NaxあるいはASIC1)の発現が抑制されたかどうかを指標に行なうことが好ましく、本発明のスクリーニング方法において用いられる細胞としては培養細胞を用いることが好ましい。
また核酸医薬のスクリーニング方法において評価される指標としてはメッセンジャーRNA量や発現するタンパク質量を直接定量する方法が挙げられる。
以下の図11に示す方法により遺体的に説明する。
・プラスミドベクターやウイルスベクターを用いて、培養細胞にNaxあるいはASIC1を発現させる。
・このとき、NaxあるいはASIC1に、GFPやmCherryなどの蛍光タンパク質を結合させておく。すなわちFused-geneの形で発現ベクターをデザインする。
・こうすることで、蛍光の強さがNaxあるいはASIC1タンパクの発現量として評価できる。
・その後、核酸医薬の候補となる物質を培地に添加し、一定時間後に蛍光が減ったかどうかを評価する。
・蛍光が変わらない場合は効果がなく、蛍光が減衰あるいは抑制されることでASIC1の発現抑制効果があることが分かる。
以上の処方により、核酸医薬の候補となる物質をスクリーニングすることができる。この方法はメッセンジャーRNA量やタンパク質量を直接定量するよりも簡便な方法として期待できる。
本発明の医薬は、Naxチャンネル及び/又はASIC1からのシグナル伝達を阻害する物質を有効成分とし、常套手段に従って製剤化することができる。製剤可能方法は公知の手法を適宜適用すればよい。
<スクリーニング方法>
本発明は、食塩感受性高血圧症治療薬のスクリーニング方法に係る。本発明のスクリーニング方法は、終板脈管器官(OVLT)に発現するNaxチャンネル及び/又は酸感受性イオンチャンネルASIC1を用いることを特徴とする。本発明のスクリーニング方法に用いるNaxチャンネル及び/又はASIC1は、どのような動物由来のNaxチャンネル及び/又はASIC1でもよいが、哺乳動物のNaxチャンネル及び/又はASIC1であることが好ましく、ヒトのNaxチャンネル及び/又はASIC1であることがより好ましい。Naxチャンネル及び/又はASIC1またはこれらのフラグメントは、公知の方法をで作製することができる。
本発明のスクリーニング方法において用いる被験物質は、特に限定されないが、例えば、核酸、ペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、細胞培養上清、植物抽出液、哺乳動物の組織抽出液、血漿等を好ましく用いることができる。被験物質は、新規な物質であってもよいし、公知の物質であってもよい。これら被験物質は塩を形成していてもよい。被験物質の塩としては、生理学的に許容される酸や塩基との塩が用いられる。
本発明のスクリーニング方法により、Naxチャンネル及び/又はASIC1からのシグナル伝達を阻害する物質を選択することが好ましい。Naxチャンネル及び/又はASIC1からのシグナル伝達を阻害すれば、食塩感受性高血圧症の病態形成を抑制することができ、食塩感受性高血圧症を予防および/または治療することができる。
本発明のスクリーニング方法により、Naxチャンネル及び/又はASIC1からのシグナル伝達を阻害する物質を選択する場合、例えば、Naxチャンネル及び/又はASIC1をコードする遺伝子DNAの機能が染色体上で欠損した非ヒト動物と、野生型の非ヒト動物とに、被検物質を投与する工程と、これら非ヒト動物におけるNaxチャンネル及び/又はASIC1の活性を比較・評価する工程とを含む方法を好適に用いることができる。
被験物質と投与しない対照群における機能の発現量と比較して、被験物質を投与した場合に活性が低下していれば、当該被験物質を食塩感受性高血圧症治療薬候補物質として選択すれることができる。対照群の活性と比較して、統計学的に有意に阻害活性を有する被験物質を選択することが好ましい。
本発明のスクリーニング方法により、NaxチャンネルからのシグナルをASIC1が受け取るという相互作用を阻害する物質を選択することが好ましい。この相互作用を阻害すれば、食塩感受性高血圧症の病態形成を抑制することができ、食塩感受性高血圧症を予防および/または治療することができる。
本発明のスクリーニング方法により、Naxチャンネル及び/又はASIC1からのシグナル伝達を阻害する物質を選択する場合、例えば、Naxチャンネル及び/又はASIC1をコードする遺伝子DNAの機能が染色体上で欠損した非ヒト動物と、野生型の非ヒト動物とに、被検物質を投与する工程と、これら非ヒト動物におけるNaxチャンネル及び/又はASIC1の活性を比較・評価する工程と、被験物質を投与しない場合の活性レベルと比較して、活性レベルを低下させる、すなわちNaxチャンネル及び/又はASIC1の機能を阻害する活性が高い被験物質を選択する工程を含む方法を好適に用いることができる。
Naxチャンネル及び/又はASIC1の機能を阻害する活性を確認する方法は特に限定されず、公知の方法を適宜選択して使用することができる。例えば、血液およびCSF[Na+]の定量、血圧(BP)の測定、免疫組織化学、光遺伝学実験による測定、OVLTスライスにおけるインビトロ電気生理学による測定、グルコースイメージング、乳酸塩濃度の測定、画像解析などを好適に用いることができる。
被験物質を投与しない対照群におけるNaxチャンネル及び/又はASIC1の機能を阻害する活性のレベルと比較して、被験物質を投与した場合にNaxチャンネル及び/又はASIC1の機能を阻害する活性のレベルが有意に変動していれば、当該被験物質を目的物質として選択すれることができる。対照群の結合レベルと比較して、統計学的に有意に活性のレベルを変動させる被験物質を選択することが好ましく、活性のレベルを定量化し、判断する基準数値を設定して被験物質を選択することがより好ましい。
本発明には、Naxチャンネル及び/又はASIC1からのシグナル伝達を阻害する物質の有効量を投与する工程を包含することを特徴とする食塩感受性高血圧症の予防および/または治療のための医薬の使用が含まれる。
本明細書において「薬学的に許容されるその塩」としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等の塩基付加塩や酸付加塩が挙げられる。さらに本発明においては、投与後に、生体中で(in vivo)何らかの化学的又は生理的プロセスによって薬物を放出する薬物前駆体である化合物、すなわち「プロドラッグ」をも包含しうる。
脳内の終板脈管器官(OVLT)に発現するNaxチャンネル、および酸感受性イオンチャンネルASIC1の発現や機能を阻害することで、食塩の過剰摂取や体液のNa+濃度上昇にともなう血圧上昇を抑制できることを見出した。食塩感受性高血圧において、体液中のNa+濃度の上昇が何らかの機構で感知されて、血圧上昇を起こしていることは以前から示唆されていたが、Na+濃度感知機構の分子実体は不明であった。NaxやASIC1の機能を阻害する化合物を探索することすることで、新規の作用機序を持つ血圧改善薬を開発することが可能となり、食塩感受性高血圧の治療につながる。
<はじめに>
Nax−KO(「Naxノックアウト」のことであって、以下、本明細書においては単に「Nax−KO」ということがある)マウスは、塩負荷によって誘発される塩感受性高血圧を示さない。OVLT中のNax陽性グリア細胞は、体液中のNa+増加によって活性化される。活性化されたグリア細胞は、ASIC1a陽性OVLT(→PVN)ニューロンを活性化するためにH+放出を促進する。ニューロンは、RVLMを介して交感神経媒介性高血圧を誘発する。
野村(Nomura)らの報告において、NaCl誘発性の交感神経活性化を介した血圧上昇の神経機構を報告している。OVLT(organum vasculosum lamina terminalis)におけるNaxによるNa+の感知、およびその後のNax陽性グリア細胞から放出されたH+によるOVLT(→PVN)ニューロンにおけるASIC1a活性化は、このプロセスにおける主要なステップである。
過度の食塩摂取による体液中のナトリウム濃度[Na+]の増加は、交感神経活動(SNA、以下「SNA」と略すことがある)を高めることによって血圧(BP)を上昇させる。しかし、増加した[Na+]に関する情報がSNAに翻訳されるメカニズムはまだ解明されていない。
本発明者らは、野生型マウスとは対照的に、血圧(BP)増加をもたらす交感神経活性化が、高塩濃度摂取またはNaxノックアウトマウスにおける高張性NaCl溶液の腹腔内/脳室内注入によって誘発されなかったことを明らかにした。
本発明者らは、体液中の[Na+]の増加を検出するセンサーとして、OVLTの特定の神経膠細胞(グリア細胞)に発現するNaxチャンネルを同定し、心室核(PVN、以下「PVN」と略すことがある)に突出するOVLTニューロンが酸感知Nax陽性グリア細胞から放出されたH+イオンによるイオンチャンネル1a(ASIC1a)現在の結果は、塩誘発血圧(BP)上昇に関与する神経原性機構についての洞察を提供する。
<前書き>
NaCl摂取量と血圧(BP)との間に正の相関関係が確立されている(非特許文献1参照)。時間制御サンプリングを用いた実験的および臨床的研究は、血漿中のナトリウム濃度[Na+]および脳脊髄液(CSF)を増加させることを示している(非特許文献2及び非特許文献3参照)。
実験動物を用いたこれまでの研究は、高張NaCl溶液の腹腔内(i.p.、以下「i.p.」と略すことがある)および静脈内(i.v.、以下「i.v.」と略すことがある)投与が血圧(BP)を急激に上昇させることを明らかにした(非特許文献4及び非特許文献5参照)。血漿中の上昇[NaCl]は血管内液量の増加を誘導し(非特許文献6参照)、脳下垂体から血液中へのバソプレシン分泌を誘発することが示唆されている(非特許文献7参照)。バソプレッシンは、血管平滑筋細胞で発現されるV1a受容体を活性化することによって血管収縮を誘導する(非特許文献7参照)。
これらのメカニズムに加えて、血漿およびCSF [NaCl]の上昇は、交感神経活動(SNA)を高め、血圧(BP)の増加をもたらす(非特許文献3参照)。
動物実験は、SNAの遮断が、高い塩摂取または体液中の[Na+]増加によって誘発される血圧(BP)上昇を強く減弱させることを実証した(非特許文献8および非特許文献9参照)。腹腔内高張NaCl溶液の注射は、ヒト対象においてSNAを増強した(非特許文献10参照)。さらに、高張NaClの腹腔内または脳室内注入は、血圧(BP)を増加させ、SNAを変化させた(非特許文献11および非特許文献8参照。これらの知見は、[Na+](および/または[Cl−])のいくつかのモニタリング機構が脳内に存在することを示唆している。近年、OVLTが脳内の[Na+]上昇のセンシング部位として提案されている(非特許文献12および非特許文献13参照)。しかし[Na+]センシングが交感神経媒介性の血圧(BP)上昇を誘発する原因となる分子メカニズムはまだ解明されていない。
OVLTおよび脳弓下器官(SFO、以下「脳弓下器官」を「SFO」と称することがある)は、血液-脳関門(BBB、以下「血液-脳関門」を「BBB」と称することがある)がない感覚性脳室周囲器官(sCVOs、以下「感覚性脳室周囲器官」を「sCVOs」と称することがある)を含む(非特許文献14参照)。OVLTおよびSFOの有窓性毛細血管は、脳内の血漿と細胞外液との間の[Na+]平衡を促進する。これらの2つの座位は第3脳室に面しており、CSFの[Na+]のモニタリングにも適している。
以前の研究は、SNAおよび血圧(BP)(非特許文献12参照)のコントロールにおけるOVLTの不可欠な役割を示唆している:OVLTを包含する第3脳室前壁(AV3V)の破壊は、中枢性高ナトリウム血症に対するSNAおよび血圧(BP)応答を損なうことが判明した。OVLTは、視床下部の室傍核(PVN)への神経結合を有する(非特許文献14参照)。
さらに、心血管系を調節するための交感神経出力は、PVNの小細胞性領域に存在するニューロンによって制御されており、このニューロンは孤束核(NTS、以下「NTS」と略すことがある)や吻側延髄腹外側野(RVLM、以下「RVLM」と略すことがある)などの下部脳幹、および脊髄に投射している(非特許文献15参照)。
Naxチャンネルは、機能解明の進んだ脳の[Na+]センサーであり、生理学的範囲内の血液およびCSFの[Na+]の増加をモニターする(非特許文献21および非特許文献22参照)。Naxは、OVLTおよびSFOにおける特殊グリア細胞(星状膠細胞および上衣細胞)のラメラプロセスで発現され、これらのグリアプロセスはニューロンの細胞を包む(非特許文献16参照)。
本発明者らはこれまで、Naxシグナルが塩分と水分の摂取量の制御に関与していることを実証した。Scn7aノックアウト(Nax−KO)マウスは、脱水条件下でさえ、塩の摂取を停止しなかった(非特許文献17参照)。本発明者らはまた、SFOが、塩分摂取行動を制御するためにNaxによって体液中の[Na+]を検出するための主要な部位であることを示した(非特許文献18および非特許文献19参照)。本発明者らの最近の知見は、sCVOsのNaxシグナルが飲水行動にも関与していることを示唆している(非特許文献20参照)。しかしながら、血圧(BP)制御におけるNaxの可能な役割はまだ解明されていない。
本明細書に示すように、体液中の[Na+]上昇に応答して、野生型(WT、以下「WT」と略すことがある)およびNax−KOマウスにおける血圧(BP)およびSNAの変化を調べた。OVLTにおけるNax活性化は、SNAおよび血圧(BP)応答にとって決定的に重要であることが明らかになった。
PVNに投射するOVLTニューロン(OVLT(→PVN)ニューロン)はNaxシグナルによって活性化され、光遺伝学技術(optogenetic techniques)によるOVLT(→PVN)ニューロンの特異的刺激は血圧(BP)上昇を再現した。Nax陽性グリア細胞からの[Na+]依存性H+放出は、OVLT(→PVN)ニューロンにおける酸感受性イオンチャネル1a(ASIC1a)の活性化を誘導した。
<結果>
以下の説明において、「図1」とは「図1A〜図1L」のいずれかあるいは全体を意味することがあり、他の図についても同様である。
Naxは交感神経活性化を介して塩誘発血圧(BP)上昇を仲介する:慢性高塩摂取について
本発明者らは、多くのグループが以前からラットやマウスで使用している手法である、2%NaClを用いた強制的な食塩過剰摂取(HS摂取、以下「HS摂取」と略すことがある)の効果を野生型(WT)とNax−KOマウスで比較した(非特許文献23、非特許文献9及び非特許文献24参照)。
すなわち、飲料水を2%NaCl(HS摂取)に置き換えることによって血圧(BP)上昇を誘導した。7日間のHS摂取後、血液およびCSF中の[Na+]レベルは両方の遺伝子型において同様に約145mMから約160mMまで増加した(図1A及び1B)。HS摂取した野生型(WT)マウスは、日内リズムの変化なしに平均動脈血圧(MBP、以下「MBP」と略すことがある)の有意な上昇を示した(図1C)。しかし、HS摂取に起因するMBPの上昇は、Nax−KOマウスでは観察されなかった(図1C)。MBPレベルは、HS摂取のない対照条件の場合と一日を通して同様であった。したがって、HS摂取した野生型(WT)マウスの24時間平均のMBPは、HS摂取したNax−KOマウスよりも有意に高かった(約7mmHg)(図1D)。HS摂取は2つのマウス系統の毎日の運動活動に影響を及ぼさず、基礎血圧(BP)と水/Naバランスは類似していることに注意することが重要である(図S1A、E)。
2つの遺伝子型の間のMBPで観察された差異に対するSNAの寄与を評価するために、クロリソンダミン(CSD、以下「クロリソンダミン」を「CSD」と略すことがある)による自律神経節の急性遮断が及ぼす影響を調べた。HS摂取のないマウスでは、CSDの腹腔内注入は、両方の遺伝子型においてMBPを約28mmHg低下させた(図1E)。HS摂取した野生型(WT)マウスは、CSDによってMBP(約41mmHg)の大きな減少を示した。対照的に、HS摂取されたNax−KOマウスにおけるMBPの減少は、対照状態(図1E)と同じレベル(約28mmHg)で著しく小さくなった。
慢性食塩誘発性高血圧症の他の一般的な動物モデルであるデオキシコルチコステロンアセテート+食塩(DOCA−salt)高血圧モデル(図S2A、D)、においても、血中およびCSF [Na+]の増加および塩保持によって誘発される血圧(BP)およびSNA上昇のためのNaxの必要性が観察された(非特許文献25参照)。
Naxは、交感神経活性化を介して塩誘導血圧(BP)上昇を媒介する:高張食塩水の腹腔内注入
体液中の[Na+]を急激に上昇させる方法として、高張食塩水(3M NaCl、10μL/20g体重/分、10分間)の腹腔内注入の効果を調べた。血液およびCSF中の[Na+]レベルは、両方の遺伝子型で高張食塩水の腹腔内注入し、注入開始後15分〜30以内にプラトー(飽和)したように見える(それぞれ165及び160mM、図S2E)。野生型(WT)マウスでは、付随するMBPの増加が観察され、高張食塩水の腹腔内注入の開始の30分後に約15mmHgに達した(図S2F及びS2H)。しかし、Nax−KOマウスのMBPはいずれの時点でも応答を示さなかった(図S2F及びS2H)。等張性生理食塩水(145mM NaCl)の腹腔内注入は、野生型(WT)またはNax−KOマウスにおいてMBPに影響を及ぼさなかった。CSDを用いた交感神経遮断は、野生型(WT)におけるMBP応答を無効にし、Nax−KOマウスでは効果は観察されなかった(図S2G及びS2H)。結果的に2つの遺伝子型間の差異は消失し、体液中の[Na+]増加によって誘導される交感神経媒介性血圧(BP)上昇に対するNaxの寄与を示した。
Naxは、交感神経活性化を通じて塩誘発血圧(BP)上昇を媒介する:高張Na溶液の脳室内注入
本発明者らは、高張Na溶液の脳室内注入を用いて脳室から脳Naxを直接刺激しようと試みた。450mM [Na+](0.4μL/分で10分)を含む人工CSF注入はまた、10分後に約160mMまでCSF [Na+]を増加させた(表S1)。高浸透圧Na溶液の注入は、注入後3〜5分からMBPを上昇させ、両方の遺伝子型で7〜10分以内にプラトーに到達した。しかし、この増加の大きさは、野生型(WT)マウスよりもNax−KOマウスにおいて顕著に小さかった(約6mmHg対約15mmHg:図1F、左)。コントロールとして、等張Na溶液の脳室内注入は、野生型(WT)またはNax−KOマウスにおいてMBPを変化させなかった(図1F、右)。CSDを用いた交感神経遮断は、野生型(WT)ではMBP応答を顕著に低下させたが、Nax−KOマウスでは減少させなかった。結果的に、2つの遺伝子型の差異をなくした(図1G)。図1F、左および図1Gに示すデータ間の差異から計算したCSD感受性成分のプロフィール(図1H、左)は、交感神経媒介性の血圧(BP)上昇がNax−KOマウスには存在しないことを示した。さらに、図1Fの2つの遺伝子型間の差から計算されたNax依存性成分(図1H、右)のプロファイルは、野生型(WT)におけるCSD感受性成分のプロファイルとほぼ一致していた(図1H、左)。このことはNaxが交感神経媒介性血圧(BP)上昇を駆動することを再び示唆している。
次に本発明者らは、バソプレッシン受容体1aの阻害剤であるマニング化合物(MC)の効果を試験した。なぜなら、高張Na溶液の脳室内注入は、MBPの増加に寄与することが示された(非特許文献26参照)からである。MCで前処置した野生型(WT)マウスでは、MBPは脳室内注入の5分後から徐々に増加した。約8mmHgでプラトーに到達した(図1I)。他方、MBP上昇は、同じ処理をしたNax−KOマウスでは完全に消失し、これは、Nax−KOマウスにおけるMBP上昇がバソプレシン単独によって引き起こされたことを示している。追加のCSD処理は、MC−前処理野生型(WT)マウスにおけるMBP応答を完全になくし、Nax−KOマウスでは効果は観察されなかった(図1J)。これらの結果は、Naxシグナルが交感神経媒介性血圧(BP)上昇のみに使用されることを示している。MBP上昇におけるSNA非依存性成分は、バソプレッシン依存性であると判定された:MBP上昇におけるこの成分は、2つの遺伝子型間で類似していた(図1G)。本発明者らの以前の研究(非特許文献27参照)では、Nax−KOマウスの脱水に対するバソプレシンの応答が正常であったことに注意することが重要である。
MC−前処理(バソプレシンがブロックされた)野生型(WT)マウス(図1I)における血圧(BP)応答は、CSD感受性(交感神経媒介性)成分およびNax依存性成分のプロファイルとほぼ一致した(図1H)。この結果は、MC−前処理条件下での血圧(BP)上昇がNax依存性(交感神経媒介性)成分に完全に対応することを示している。したがって、本発明者らは、以後、高張Na溶液の脳室内注入の前にMCでマウスを前処理した。SNA増加を確認するために、本発明者らは麻酔下で腰部交感神経線維のSNAを直接測定した。高張Na溶液の脳室内注入は、麻酔したマウスにおいてMBPを上昇させた(図1K)。高張Na溶液の脳室内注入の後、腰部SNAは野生型(WT)において増加したが、Nax−KOマウスでは増加しなかった(図1L、左)。腰部SNAの変化の時間経過(図1L、右)は、MBPにおけるCSD感受性成分のパターンと類似していた(図1H、左)。まとめると、これらの結果は、NaxシグナルがSNAの増加を介して[Na+]依存性血圧(BP)上昇を媒介することを明確に示している。
OVLT(→PVN)ニューロンは、塩誘導血圧(BP)上昇を媒介する
SFOおよびOVLTは視床下部のPVNへの神経経路を有し、PVNにはSNAを制御するためのニューロンが存在する(非特許文献15参照)。CTb−488による逆行標識によって、SFOおよびOVLTにおいてPVNに突出するニューロンが検出された(図2A)。以下、それぞれをSFO(→PVN)ニューロンおよびOVLT(→PVN)ニューロンと呼ぶ。CTb−488陽性のOVLT(→PVN)ニューロンは、脳実質までグリアプロセスを伸ばすNax陽性グリア細胞にしっかりと包埋された(図2A)。局所破壊実験は、SFOではなくOVLTが、血圧(BP)制御のためのNaxによるCSFの[Na+]感知において役割を果たすことを示したが(図S3AおよびS3B)、これは以前の所見と一致する((非特許文献28参照)。SFO(→PVN)およびOVLT(→PVN)ニューロンは両方とも、HS摂取によって活性化された(図2B及び2C)。しかしながら、2つの遺伝子型の間の神経活動(Fos発現)の差異はSFOではなく、OVLTにおいてのみ観察され、OVLTの血圧(BP)の[Na+]依存性制御への寄与を示唆した(図2B及び2C)。
OVLT(→PVN)ニューロンが血圧(BP)上昇を実際に駆動するかどうかを調べるために、本発明者らは、青色光感受性陽イオンチャンネルであるチャネルロドプシン2(ChR2、以下「ChR2」と略すことがある)を用いて、光遺伝学実験を行った。
本発明者らは、double−loxP−flanked inverted orientation(DIO)−ChR2−EYFPの配列を有する高頻度逆行性遺伝子導入レンチウイルスベクター(HiRet)(非特許文献29参照)を、小胞性グルタミン酸トランスポーター2(Vglut2、以下「Vglut2」と略すことがある)−Creマウス又は小胞GABA(γ−アミノ酪酸)トランスポーター(Vgat)−CreマウスのPVNに、注射した(図S3C、左)。多くのOVLT(→PVN)ニューロンはVgat陽性ではなく、Vglut2陽性であったので(図S3C)、Vglut2−Creマウスをその後の光遺伝学実験に用いた。EYFPで標識された細胞、すなわちPVNに投射するVglut2陽性ニューロンは、主にOVLT内に存在するようであった(図2D)。
5及び20Hzでの青色パルスレーザーを用いた刺激は、刺激頻度依存的に(約15及び約30mmHg)、MBPを急速に上昇させた(図2E)。5Hzの刺激では、MBPの上昇は、高張Na溶液の脳室内注入により起こる血圧上昇と似ている。5HzでのOVLTの光刺激は、すぐにMBPを増加させ、この上昇は刺激されている間維持された。しかし、レーザーを切ったとき、MBPは1分以内にベースラインレベルに戻った(図2F、左)。予想通り、光刺激で観察されたMBPの増加は、CSD(図2F、右)による前処置によって完全に消滅し、OVLT(→PVN)ニューロンの活性化が交感神経活性化を介して血圧(BP)上昇を実際に駆動することを示している。
また、光活性化クロライドポンプ(第3世代の高度好塩菌由来ハロロドプシン(Natronomonas halorhodopsin))、eNpHR3.0;(非特許文献29参照)を用いたVglut2陽性OVLT(→PVN)ニューロンの光遺伝学的阻害の効果を調べるために、HiRet−DIO242 eNpHR3.0−EYFPをVglut2−CreマウスのPVNに注入した(図2G)。光照射をおこなうと、予想通りに、 高張Na溶液の脳室内注入に応答したMBP上昇が抑制された(図2H)。eNpHR3.0の発現自体は、高張Na溶液の脳室内注入に対する血圧(BP)応答に影響しなかった。(図2H、Opt OFF群)。
H+はNax陽性グリア細胞から[Na+]依存的に放出され、OVLT(→PVN)ニューロンを活性化する
NaxシグナルによるOVLT(→PVN)ニューロンの活性化メカニズムを解明するために、急性脳スライスを用いて発火特性を調べた(図3A)。シナプス伝達の阻害剤の存在下で、セルアタッチ法のパッチクランプ実験を行った。等張Na溶液([Na+]=145mM)では、両方の遺伝子型のOVLT(→PVN)ニューロンは約1Hzで連続発火活性を示した(図3B)。灌流液を高張Na溶液([Na+]=160mM)に変更すると、野生型(WT)脳スライスにおけるOVLT(→PVN)ニューロンの発火頻度は約3Hzに上昇したが、Nax−KOスライスでは上昇しなかった 3B)。
本発明者らは以前、SFOのNax陽性グリア細胞において細胞外[Na+]の増加によるNaxの活性化が嫌気的解糖を刺激し、結果的にモノカルボン酸トランスポーター(MCTs)を介した乳酸塩の放出を引き起こすことを示した(非特許文献30参照)。乳酸塩は、隣接する抑制性ニューロンのエネルギー基質として機能し、そのニューロンの発火頻度を上昇させることで、塩分摂取行動を制御するニューロンを抑制していた(非特許文献19及び非特許文献30参照)。Naxおよびグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)の二重免疫染色は、OVLT中のNax陽性細胞がグリア細胞であることを再び証明した(図3C)。OVLTの細胞を高張Na溶液中にインビトロでインキュベーションすると、Nax陽性細胞によるグルコース取り込みを顕著に増強した(図3C及び3D)。一貫して、OVLT組織を高張Na溶液中でインキュベーションはすると、野生型(WT)マウスのOVLTからの乳酸放出が顕著に高まったが、Nax−KOマウスではそうではなかった(図3E)。
細胞傷害性ジフテリア毒素Aフラグメント(dtA)によるGFAP陽性細胞の選択的除去(図3F)、およびα-シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸(α−CHCA)による乳酸トランスポーター(モノカルボン酸トランスポーター;MCT)の阻害(図3G)は両方とも、OVLTからの乳酸塩放出を有意に減少させた。α−CHCAによるMCTの阻害と一致して、高張NaによるOVLT(→PVN)ニューロンの活性化は、α−CHCAによって消失した(図3B)。高張Na溶液の脳室内注入に応答する交感神経媒介性のMBP上昇は、OVLTへのα−CHCAの持続的注入によって一貫して消失した(図3H)。しかし、高張Naによって活性化されたOVLT(→PVN)ニューロンは、生理的なpH(pH7.4)の乳酸溶液(1mM及び5mM)によって活性化されないことがわかった(図4A及び4B)。
MCTは乳酸塩/H+共輸送体であるので、高張Na溶液による刺激はまた、Nax陽性細胞からのH+放出を刺激し得る。次に、H+が神経伝達物質として機能してOVLT(→PVN)ニューロンを活性化するかどうかを電気生理学的に調べた。OVLT(→PVN)ニューロンは乳酸塩を含まない酸性溶液(pH6.8)で活性化されたため(図4C)、Nax陽性グリア細胞から放出されたH+がOVLT(→PVN)ニューロンを活性化することを示している。野生型(WT)マウス由来のOVLT切片においては、細胞間スペースのpHの低下が検出されたが、Nax−KOマウス由来のものでは検出されなかった(図4D及び4E)。野生型(WT)切片におけるこのH+放出は、α−CHCAによって予想通りにブロックされた(図4D及び4E)。生理的pH(pH7.4)では乳酸塩単独でOVLT(→PVN)ニューロンを活性化することはなかったが、軽度の酸性化(pH7.0)によって誘発されたOVLT(→PVN)ニューロンの活性化は、乳酸によって増強された(図4A及び4B)。さらに、OVLT(→PVN)ニューロンは、160mM[Na+]溶液と等張である30mMのマンニトール溶液によって活性化されなかった(図4G)。これらの結果は、浸透圧の上昇ではなく[Na+]の上昇が、Nax陽性グリア細胞からのH+放出を刺激し、OVLT(→PVN)ニューロンの活性化を導くことを示した。
ASIC1aは、OVLT(→PVN)ニューロンのNax依存性活性化を仲介する
以前の研究では、塩誘発血圧(BP)上昇が上皮性ナトリウムチャネル/degenerin(ENaC/DEG)スーパーファミリーの広範な阻害剤であるベンザミルの脳室内注入により遮断されたことを報告した(非特許文献31参照)。ベンザミルのOVLTへの事前注入は、野生型(WT)マウスにおける高張性Na溶液の脳室内注入に起因する交感神経的に媒介されるMBP上昇を一貫して完全になくしたが、Nax−KOマウスでは何の効果も観察されなかった(図5A及び5C)。従って本発明者らは、ENaC/DEGスーパーファミリー(非特許文献32参照)においてベンザミルに感受性のあるH+依存性サブグループである酸感受性イオンチャンネル(ASIC)が血圧(BP)の[Na+]依存性上昇に関与していると推測した。
ASIC1aの特異的阻害剤であるサルモトキシン−1(psalmotoxin−1(PcTx1))でOVLTを前処理により、野生型(WT)マウスにおけるCSF[Na+]の増加によって誘発されるMBP上昇が消失した(非特許文献56参照)。ASIC3の特異的阻害剤であるAPETx2はそうしなかった(図5B及び5C)(非特許文献55参照)。OVLT(→PVN)ニューロンにおけるASIC1の発現は、免疫蛍光染色によって確認した(図5D;パネルi)。注目すべきことに、CTb−488で逆行的標識されたニューロンは、OVLT周辺の領域でも検出されたが、それらはASIC1発現に関して陰性であった(図5D;パネルii)。
次いで、ASIC1またはLacZ(対照として)を標的とする人工マイクロRNA(amiRNA)の配列を組み込んだアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いて、OVLTにおけるASIC1のノックダウンを行った。 エメラルドグリーン蛍光タンパク質(EmGFP)の免疫蛍光シグナルによってAAV感染細胞を視覚化した(図5E及びS4)。本発明者らは、血圧(BP)応答の低下が、ASIC1 amiRNAによるOVLTにおけるASIC1免疫反応性の低下に関連することを見出した(図5F)。これらの結果は、OVLT(→PVN)ニューロンのH+依存性活性化におけるASIC1aの関与を示した。急性脳スライスを用いた電気生理学的実験はさらに、本発明者らの結論を支持した:細胞外[Na+]の増加に応答するOVLT(→PVN)ニューロンの活性化は、ベンザミルおよびPcTx1によって消失した(図5G及び5H)。
インビボ実験において、ASIC1活性化因子であるMitTxの効果を試験した。OVLTへの0.1μM及び1.0μMのMitTxの連続注入は、両遺伝子型におけるMBP上昇を用量依存的に誘導した(図5I及び5K)(非特許文献33参照)。ASIC2及びASIC3は、0.1μMのMitTxによって活性化されなかったことに注意することが重要である(非特許文献33参照)。予想通り、MitTxの効果は、CSDによる神経節遮断によって消失した(図5J及び5K)。
Naxシグナルは、PVN−RVLM経路を介して血圧(BP)を上昇させる
OVLT(→PVN)ニューロンの活性化によって引き起こされるSNAの増加は、PVN−RVLM経路を介して媒介されることが示唆されている(非特許文献15参照)。この見解の通り、RVLMに投射するPVNニューロン[PVN(→RVLM)ニューロン]は、HS摂取によって野生型(WT)では活性化されたが、Nax−KOマウスでは活性化されなかった(図6A)。 さらに、チロシン水酸化酵素(TH)を発現するRVLMニューロンは、HS摂取により野生型(WT)では活性化されたが、Nax−KOマウスでは活性化されなかった(図6B)。TH陽性RVLMニューロンは、脊髄の交感神経節前ニューロンを制御することが知られている(非特許文献34参照)。従って、NaxシグナルはOVLT−PVN−RVLM神経経路を介して伝達され、SNAを活性化し、結果として血圧(BP)を上昇させた(図6C)。
<討論>
本明細書では、異なる塩負荷実験(HS摂取、DOCA−saltプロトコール、および高張食塩水の腹腔内注入)のすべてにおいて、マウスの血液およびCSFにおいて[Na+]を増加させることを示した(図1及び図2)。血液とCSFの[Na+]は、これらプロトコールを適用した動物において強く関連していた。体液(血液およびCSF)中の[Na+](7.10mM)の急性および慢性の増加は、交感神経系を活性化し、血圧(BP)を10〜15mmHg上昇させた(図1及び図2)。
遺伝的に高血圧のラット(Dahl塩感受性ラットおよび自然発症高血圧ラット)において、HS摂取は血圧(BP)上昇に先行してCSFの[Na+]レベルを上昇させた(非特許文献35および非特許文献36参照)。最近の研究によると、離乳直後から慢性塩分摂取をおこなった動物は、CSF[Na+]レベルの特異的な上昇と、血圧(BP)上昇を示した(非特許文献37参照)。塩感受性高血圧の原因となる中心的メカニズムを解明するために、本発明者らはその後、CSF[Na+]を急激かつ選択的に増加させる高張Na溶液の脳室内注入を採用した。
本発明者らは、Nax−KOマウスが体液中の[Na+]増加に応答して交感神経媒介性血圧(BP)上昇を起こさないことを示した。本発明者らの詳細な研究は、OVLTにおいてNaxによって感知された体液中の[Na+]上昇に関する情報が、交感神経媒介性血圧(BP)上昇に関与することを明らかにした。OVLTでは、細胞外[Na+]の上昇がNaxを活性化し、結果として、MCTを介したNax陽性グリア細胞からのH+および乳酸の放出を刺激する。
放出されたH+は、OVLT(→PVN)ニューロンのASIC1aを通してこのニューロンを活性化させた。 Vglut2陽性OVLT(→PVN)ニューロンはPVN(→RVLM)ニューロンを活性化してSNAを増加させ、血圧(BP)上昇をもたらす。これらの分子および細胞プロセスは、血液およびCSFの[Na+]増加に応答して血圧(BP)上昇に関与する神経原性機構の第1段階である。OVLTは正常なBBBを欠いており、第3脳室に面しているので、OVLTのグリア細胞(上衣細胞および星状膠細胞)に存在するNaxによってCSFおよび血液の[Na+]増加が両方とも感知されると考えられる(図6C)。脳室内注入によってCSF中で[Na+]が選択的に増加すると、観察されたNax依存性血圧(BP)上昇は約8mmHgであった(図1H)。この値は、他のプロトコル(図1A〜1E、およびS2)を用いて血液およびCSFの[Na+]増加によって誘導された対応する値(約12mmHg)よりも小さいため、OVLTのNaxがこれらの2つの[Na+]を感知すると考えられる(図6C)。
細胞外[Na+]増加によってOVLTのNaxが活性化すると、SFO(非特許文献30参照)の場合と同様に、Nax陽性細胞からのMCTを介したH+イオンと乳酸塩の放出が起こった(図3E〜3G、4D、及び4E)。脱水条件下において乳酸塩は、[Na+]の増加に応答してNax−陽性グリア細胞からグリオトランスミッターとして分泌され、SFO中の抑制性ニューロンを活性化していた。(非特許文献30参照)。
乳酸塩はSFO中のGABA作動性ニューロンにおいてエネルギー源として用いられ、代謝を活性化してATPの産生を誘導した。結果として生じる[ATP]の増加は、ATP感受性K+チャネルを阻害し、抑制性ニューロンを活性化することで塩摂取を抑制することが示唆されている(非特許文献30参照)。
対照的に、H+は、OVLTにおける特定のOVLT(→PVN)ニューロンを刺激するシグナル伝達物質であった(図4A〜4C)。OVLT(→PVN)ニューロンは、H+によるASIC1aの活性化を介して神経活動が亢進し、NaxシグナルをRVLMニューロンに伝達してSNAを活性化し、血圧(BP)上昇を導いた。
最近の研究では、高張NaClのOVLTへの直接注入はSNAを増加させることが、また、ソルビトールを用いた浸透圧の上昇はSNAを増加させないことが示された(非特許文献13参照)。同じグループは、細胞外[Na+]濃度が生理学的範囲(2.5〜10mM)で増加したときに、いくつかのOVLTニューロンが神経伝達を介さずに活性化されたことを示した(非特許文献12参照)。
Naxは細胞外[Na+]の小さな増加を感知するため、Naxは脳内[Na+]センサーの基準を満たすと考えられている(非特許文献21及び非特許文献22参照)。
まとめると、これらの知見は、OVLTにおいてNaxによって感知された体液中の[Na+]増加に関する情報が血圧(BP)制御に使用されるという本発明者らの見解を支持するものである。
ASICを含むENaC/DEGスーパーファミリーの広範な阻害剤であるベンザミル(benzamil)は塩誘導血圧(BP)上昇を弱める効果を持つことが、以前に報告されていた(非特許文献31参照)。ベンザミルはENaCに対して最も強い親和性を有する(非特許文献39参照)。
本発明者らは、ベンザミルおよびPcTx1の両方がOVLT(→PVN)ニューロンの活性を一貫して阻害することを確認した(図5G及び5H)。本明細書では、OVLTのASIC1aが交感神経媒介性血圧(BP)上昇の制御に関与していることを示した。
しかしながら、ENaCが他の脳領域の塩感受性高血圧に関与する可能性を排除するものではないことに留意することが重要である。例えば、塩感受性高血圧を発症するNedd4−2遺伝子欠損マウスは、脈絡叢およびいくつかの脳領域におけるENaCの発現レベルの増加を示した[PVNおよび視索上核(SON、以下「SON」と略すことがある)では増加したが、SFOやOVLTでは増加は報告されていない](非特許文献40参照)。
ASIC1aは、ASIC1遺伝子の選択的スプライシングされた転写物の1つから産生され、ASIC1bまたは他のASICメンバーよりも高いH+感受性を示す(非特許文献32参照)。従って、ASIC1a単独で、細胞外pHが7.0まで軽度に低下したことを感知し、ニューロンの興奮を駆動することができる(非特許文献41参照)。
さらに、ASIC1aがH+−に応答して引き起こす電流は、乳酸塩およびアラキドン酸(AA)を含むいくつかのモジュレーターによって増強されることが知られている(非特許文献42および非特許文献63参照)。予想通り、乳酸塩はOVLT(→PVN)ニューロンのH+誘導性活性化を増強した(図4F)。
また、Naxシグナルは、AAカスケードの活性化を介して、OVLTにおいてエポキシエイコサトリエン酸(EET)の産生を導く可能性がある(非特許文献20参照)。高浸透圧マンニトール溶液による処理はpH感受性OVLT(→PVN)ニューロン(図4G)を活性化しなかったので、浸透圧の変化(高張Na溶液によって誘導される)はASIC1a陽性OVLTニューロンを活性化しないようである。
PVNは、バソプレッシンを分泌する大細胞性ニューロンと、交感神経制御を媒介する小細胞性ニューロンを有する(非特許文献43および非特許文献44参照)。光遺伝学技術によるVglut2陽性OVLT(→PVN)ニューロンの活性化およびASIC1活性化因子であるMitTxのOVLTへの直接的注入による血圧(BP)上昇は、SNAの遮断によって完全に消滅した(図2F及び5K)。Naxシグナルによって活性化されるOVLT(→PVN)ニューロンは、PVN中の小細胞ニューロンを選択的に刺激していると考えられる。
一方、血圧(BP)上昇におけるバソプレッシン依存性成分は、野生型(WT)およびNax−KOマウス間で類似していた(図1G)。これは、脱水条件下で、Nax−KOマウスが正常なバソプレシン放出を示したという以前の所見と一致する(非特許文献27参照)。OVLTの浸透圧感受性ニューロンは、バソプレッシン分泌を制御するために、SONおよびPVNの大細胞ニューロンへの接続を有すると仮定されている(非特許文献45参照)。これらの知見は、浸透圧依存性(またはNax非依存性、しかし[Na+]依存性)OVLTニューロンが、バソプレシン分泌の制御に関与することを示している。
本発明者らの結果は、SFOが[Na+]依存性SNA対照(図2B及びS3B)の主要センシング(感知)部位ではないことを明確に示した。しかし、SFOにおけるグルタミン酸神経細胞の光発生活性化は、血圧(BP)を上昇させると報告されている(非特許文献46参照)。SFOの局所破壊は、血液由来のアンジオテンシンIIによって誘発される交感神経媒介性血圧(BP)上昇を弱めることが示されている(非特許文献64参照)。従って、血中アンジオテンシンIIを感知することにより、SFOはSNAおよび血圧(BP)の制御に関与するようである。
最近の研究はまた、正中視索前核(MnPO)におけるアデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド1(Adcyap1)−陽性ニューロンが、高張食塩水の腹腔内注射により活性化され、血圧(BP)上昇を引き起こすことを報告した(非特許文献46参照)。MnPOは、AV3V領域内のOVLTに対して背側に位置し、OVLTから神経入力を受け取る。少数のMnPO(→PVN)ニューロンがMnPOに見出され(図5A)、ASIC1の発現がこれらのニューロンのいくつかで検出された(図5B)。
しかし、以前に報告したように、NaxはMnPOには存在しなかった(図5C)(非特許文献17および非特許文献47参照)。MnPOは正常なBBBを有し、MnPOが位置するOVLTの背側の領域への高張NaCl溶液の直接注入は血圧(BP)に影響しなかった(非特許文献12参照)。これらの知見は、MnPOが[Na+]の一次感知部位ではないことを強く示唆している。しかし、OVLTで感知されたNaxシグナルの一部がMnPO(→PVN)ニューロンを介して中継される可能性を排除することはできない。
疫学的および介入的研究からの豊富な証拠は、塩分感受性と呼ばれる塩摂取量の変化に対するヒトの血圧(BP)反応の異質性を確立している(非特許文献48参照)。食塩感受性は、ほとんどが過剰の塩を排出する腎臓の能力に関連しているが、これは免疫応答を含む多くのメカニズムによって実際に影響を受ける(非特許文献49参照)。従って、ヒトの塩感受性高血圧症は、塩と様々な因子の組み合わせによって誘発される複雑な形質として認識される必要がある(非特許文献50および非特許文献51参照)。
初期の理論は、単純にナトリウムと水分保持の増加による血液量の増大を中心にしていました。しかし、目下(現在)の結果は、血液中の[Na+]およびCSFが約160mMまで増加した場合でさえ、脳[Na+]センサー欠損Nax−KOマウスが交感神経媒介性血圧(BP)上昇を示さなかったことを明らかに示した。本発明者らの結果は、新しい神経治療標的を提供し、ヒトにおける塩感受性表現型を治療する将来の可能性を促進する可能性がある。
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
以下の実施例において、用いた試薬に関する説明、及び用いた手法を以下に示す。
<試薬>
実験で使用した薬物の中で、二塩化クロロ二ナトリウム(CSD)、キヌレン酸、ビククリンおよびテトロドトキシン(TTX:フグ毒)はトクリス(Tocris)から得た。サイアルモトキシチン−1(psalmotoxin−1)、APETx2、およびMitTxは、Alomone Labから得た。コレラ毒素サブユニットb、Alexa Fluor 488コンジュゲートおよび555コンジュゲート(CTb−488及びCTb−555)および2−(N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ)−(2−NBDG)はサーモフィッシャーサイエンティフィック製であった。β-メルカプト-β、β-シクロペンタメチレンプロピオニル1、O−me−Tyr2、Arg8]−バソプレシン(マニング化合物、MC)、タモキシフェン、およびα−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸(α−CHCA)を含む他の全ての試薬は、 シグマ−アルドリッチから入手した。
<組換えウイルスベクター>
狂犬病ウイルス糖タンパク質を有する偽型レンチウイルスベクターである血清型5およびDJ型組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)および高効率逆行性遺伝子導入レンチウイルス(HiRet)(非特許文献29参照)をマウスの脳への遺伝子導入に使用した(>1.0×1010ゲノムコピー(GC)/mL)。マウス脳内への注入手順等については後述する。
HiRet−MSCV−DIO−ChR2(H134R)―EYFP−WPREおよびHiRet−MSCV−DIOeNpHR3.0―EYFP−WPREを使用して、ChR2(H134R)又はeNpHR3.0のCre依存性発現を光生成実験に誘導した。)HiRet−MSCV−DIO−eNpHR3.0―EYFP−WPREを構築するために、pAAV−Ef1−DIO−eNpHR3.0―EYFPを使用した:後者はKarl Deisserothからの提供物であった(Addgeneプラスミド#26966)。
AAV−Ef1−mCherry−FLEX−dtA(AAV−mCherry−DIO−dtA)ベクター(非特許文献62参照)をAAV5コートタンパク質でセロタイプし、ノースカロライナ大学のウイルスベクターコアによりパッケージングした(6×1012ウイルス粒子/ml)。アストロサイトの欠失にはAAV−mCherry−DIO−dtAを用いた(下記参照)。
インビボノックダウン実験のために、人工マイクロRNA(AAV−Ef1−EmGFP−WPRE−LacZ amiRNAおよびAAV−Ef1−EmGFP−WPRE−ASIC1amiRNA)を担持するAAVベクターを使用した。以下のオリゴヌクレオチドDNA対をアニーリングし、pcDNA6.2−GW/EmGFP−miRベクター(Invitrogen、Carlsbad、CA、USA)にクローン化して、amiRNA構築物を調製した。
LacZamiRNA(対照として)
5'-TGCTGAAATCGCTGATTTGTGTAGTCGTTTTGGCCACTGACTGACGACTACA CATCAGCGATTT-3' (配列番号1)
および
5'-CCTGAAATCGCTGATGTGTAGTCGTCAGTCAGTGGCCAAAACGACTACACAAATCAGCGATTTC-3' (配列番号2)
Asic1amiRNA
5'-TGCTGAGGTAAAGTCCTCAAACGTGCGTTTGGCCACTGACTGACGCACGTT TGGACTTTACCT-3' (配列番号3)
および
5'-CCTGAGGTAAAGTCCAAACGTGCGTCAGTCAGTGGCCAAAACGCACGTTTGAGGACTTTACCTC-3' (配列番号4)
次いで、3コピーのamiRNAを製造業者のプロトコールに従ってタンデムにコンジュゲートした。pAAV−EF1a−EmGFP−WPRE中のWPREの下流にamiRNAフラグメントをサブクローニングした。
<血液およびCSF[Na+]の定量>
血液[Na+]を測定するために、断頭によりマウスを殺し、血液サンプルを収集した。サンプリング直後に血液分析計(i−STAT、Abbott)およびi−STAT6+カートリッジ(Abbott)を用いて血液[Na+]を測定した。CSF[Na+]の測定では、小規模の改変で以前に記載されたように、大槽からCSFを回収した(非特許文献60参照)。マウスをイソフルランで麻酔し、定位フレーム(Narishige)に入れた。大槽を露出させた後、毛細管作用によりCSFを集めるために空のガラス針(先端直径約0.5mm)を挿入した。採取直後に、Fingraph(大塚製薬)でCSF[Na+]を評価した。
<血圧(BP)の測定>
意識のある自由に動くマウスの遠隔測定システム(Dataquest ART、Data Science International)を用いて血圧(BP)を測定した。遠隔測定プローブ(HD−X11、データサイエンスインターナショナル)のセンサーチップを、ペントバルビタールナトリウム(50mg/kg体重)を腹腔内に麻酔下で左頚動脈に入れ、実験開始の1週間前に注射した。記録後、MBPデータは1分間の平均で得られ、24時間の概日変化を分析した場合(図1C及びS1A)、MBPデータは1時間にわたって平均化された。
麻酔したマウスにおける血圧(BP)の測定において、Millarカテーテル(モデルSPR−671、Millar Instruments)を、ウレタン(1.0〜1.3g/kg体重、腹腔内)を用いた麻酔下で左頚動脈に入れた。直腸温度は、温度計を備えた加熱パッドを用いて37.0〜37.5℃に維持した。手術終了から1時間安定させた後、記録を開始した。血圧(BP)データは、データ記録ユニット(PowerLab26T、AD Instruments)を用いて0.1kHzで収集し、LabChartソフトウェア(AD Instruments)を用いて分析した。記録後、MBP生データは1分間に平均化した。光発生実験の場合、MBPデータは1秒間に平均化した。
意識のあるマウスにおける自律神経系の血圧(BP)への寄与を、テレメトリプローブを移植したマウスにCSD(10mg/kg体重、腹腔内)を注射して評価した(図1E)。CSDは、ニコチン性アセチルコリン受容体を阻害することにより、交感神経節を含む自律神経節におけるシナプス伝達を急激に遮断し、従って、すぐに(5分以内に)CSDを腹腔内注入すると、大きな血圧(BP)減少が起こる。本発明者らは、安定したMBPを確認した後にCSDを腹腔内注入する。実験後、MBPのベースラインからナディールへの変化を計算した。ベースラインMBPは、CSDの腹腔内注射の直前の5分間のMBPを平均して計算した。ナディールMBPは、最低値を示した2分の間にMBPを平均することによって評価した。 実験は10:00〜13:00の間に実施された。
図S2C及びS2Dの実験では、血圧(BP)を測定するために非侵襲的な尾部カフシステム(BP−98A;Softron Co.Ltd.、Tokyo、Japan)を使用した。簡単に述べると、マウスをホルダーに入れて運動を防止し、37℃で加温した。テールカフを尾の根元に置き、収縮期血圧を10〜15回測定し平均した。一連の測定は10分以内に終了した。実際のデータ収集に先立ち、すべてのマウスを7回以上の測定(1セット/日)を行うことにより測定に順応させた。 マウスがホルダーに入ってくると、完全に順応したと判断された。概日リズムの影響を最小限に抑えるため、10時から12時の間に血圧(BP)測定を実施した。
<歩行活動の測定>
遠隔測定プローブ(HD−X11、データサイエンスインターナショナル)を備えた遠隔測定システム(Dataquest ART、Data Science International)を使用して、意識的に自由に動くマウスの歩行活動を測定した。実験手順は、上述の血圧(BP)測定と同じであった。記録後、活性カウントを1時間ごとに合計した。
<塩および水の代謝の分析>
塩および水の代謝を評価するために、マウスを代謝ケージ(Columbus Instruments)中に維持した。 飲用量(水または2%NaCl)および24時間の食物消費を測定し、24時間尿サンプルを採取した。24時間尿中Na+排泄量を算出するために、尿中Na+濃度をi−STAT 6+カートリッジを備えたi−STAT分析器を用いて測定した。必要であれば、尿を脱イオン水で希釈した。
<腹腔内注入>
マイクロシリンジポンプ(Micro4、World Precision Instruments)に接続された27G針を用いて、等張食塩水(145mM NaCl)および高張食塩水(3M NaCl)の腹腔内注入を行った。10μL/20g体重/分の速度で10分間注入を行った。注入の1時間前に、針の先端を腹腔内に挿入した。場合によっては、実験の1時間前に、CSD(神経節遮断薬、20mg/kg体重)での腹腔内前処置を行った。
<脳外科手術>
外科手術は以前に記載されているように(非特許文献18及び非特許文献19参照)、少し修正して実施した。マウスをペントバルビタールナトリウム(50mg/kg体重、腹腔内)で麻酔し、定位フレーム(Narishige)に入れた。小さな切開部を介して頭蓋骨を露出させた後、カニューレ埋め込み、注射、または病巣のために小さな穴を穿孔した。
脳室内注入のための26−Gガイドカニューレを移植するために、ガイドカニューレ(C315G、Plastics One Inc.または手作りガイドカニューレ)を側脳室に定位的に配置した(後方0.5mm、側方1.0 mm;深度2.0 mm;ブレグマに対して)。ガイドカニューレは、2つの固定ネジと歯科用セメントで頭蓋骨に固定した。
1.0μg/μLのCTb−488又はCTb−555を含有するPBSを充填したガラス針を、RVLM(後方6.8mm、側方1.1mm、深度5.9 mm;ブレグマに対して)または両側PVN(後方0.8mm、両側方0.2 mm、深度5.0 mm;ブレグマに対して)に配置した。マイクロシリンジポンプ(Micro4、World Precision Instruments)を用いて100nL/分の速度でRVLMに5分間、PVNに2分間、50nL/分で注入を行った。手術完了後、動物を7日間以上回復させてから使用した。
ウイルス注入のために使用した手順は、上記の逆行性トレーサーの注入手順と同様であった。ウイルスを両側PVNまたはOVLTに100nL/分の速度でそれぞれ1.0μL又は0.25μL注入した。ウイルス注射後4週間以上、動物を実験に使用した。ウイルス注射後2週間以上経過した20Gガイドカニューレ(C311G;Plastics One)を、光発生実験のためのマウスに移植した。ガイドカニューレの先端は、(前方0.7mm、側方+/−0.0mm、深度4.5mm;ブレグマに対して)の直上に設定した。
電気破壊を誘発するために、タングステン単極電極(80〜100kΩの抵抗とチップ直径約5μm;ユニークメディカル)をSFO(後方0.6mm、側方+/−0.0mm、深度2.5mm;ブレグマに対して)又は、OVLT(前方0.7mm、側方+/−0.0mm、深度5.0mm;ブレグマに対して)に挿入した。電流源(53500、Ugo Basile)から正の電流(0.5mA)を20秒間流した。手術の完了後、動物を7日間以上回復させ、脳室内注入のためのガイドカニューレを埋め込んだ。次いで、(上記のように)脳室内注入を行った。 実験が完了した後、2倍の対物レンズを備えた顕微鏡(Biozero、Keyence)下で破壊部位を検証するために、脳を100μmの厚さに切断した。
<脳室内注入>
シリンジポンプ(ESP−64; Eicom)に接続された33−G内部カニューレ(Plastics One)を用いて、0.4μL/分の速度で10分間脳室内注入した。140mMのNaCl、2.5mMのKCl、2mMのCaCl2、1mMのMgCl2、10mMのHEPES、10mMのグルコースおよび5mMのNaOH(HClによりpH7.4に調整)を含む等張Na溶液(145mM [Na+])として、適切な容量のNaClを等張Na溶液に添加することにより、高張Na溶液(300,450、および900mM [Na+])を調製した。場合によっては、脳室内注入の1時間前に、MC(バソプレシン受容体1aの特異的アンタゴニスト、3mg/kg体重)および/またはCSD(神経節遮断薬、20mg/kg体重)による腹腔内前処置を行った。
<SNAの記録>
腰椎SNAは、以前に記載されたように(非特許文献53参照)、軽微な変更を加えて測定した。マウスをウレタン(1.0〜1.3g/kg体重、腹腔内)で麻酔し、直腸温度を、温度計を備えた加熱パッドを用いて37.0〜37.5℃に維持した。左腰部交感神経線維を後腹膜アプローチにより露出させ、一対の白金電極(Unique Medical)を神経線維に付着させた。脱水を避けるために、電極および神経線維をシリコンゲル(KWIK−CAST、World Precision Instruments)で固定した。PowerLab26Tを用いて4kHzで増幅器(DAM−80、World Precision Instruments)で10,000倍に増幅した神経信号を記録した。1時間以上安定させた後、脳室内注入を開始した。脳室内注入の1時間前にMCを注射した(3mg/kg体重、腹腔内)。輸液。実験の終了後、動物を過剰の麻酔薬で安楽死させた。記録した神経信号を、それぞれ100及び1000Hzの低および高周波カットオフでソフトウェア(Chart、AD Instruments)で濾過した。腰椎SNAの変化の分析では、記録された神経信号を1分間隔で整流して合計し、死後値をバックグラウンドノイズとして差し引いた。脳室内注入の開始直前の神経活動を100%と設定し、百分率の変化を100%から腰部SNAの%変化として示した。
<免疫組織化学>
最初にPBSで、次に20%中和されたホルマリンで、深部麻酔下、マウスを経心灌流した。脳を慎重に取り出し、さらに4℃で48時間固定した。脳をマイクロスライサー(VT1000S、Leica Microsystems)またはクライオスタット(cm3050S、Leica Microsystems)で50μmの厚さで冠状に切断した。クライオスタットを用いた切開に関して、脳に漸増スクロースシリーズを浸潤させ、次いでOCT化合物(Sakura、Tokyo、Japan)に包埋した。
PBS中5%正常ロバ血清および0.1%Triton X−100を含有するブロッキング緩衝液で室温で1時間ブロッキングした後、脳切片を一次抗体と共に4℃で2日間インキュベートし、次いでPBSで2回洗浄した。切片を二次抗体と4℃で1日間反応させた。抗Nax(1:2000)(非特許文献47参照)、抗GFP(1:1,000,04404−84、ナカライテスク)、抗ASIC1(1:200、ASC−014、Alomone Lab)、抗−1154c−Fos(1:500、sc−52G、Santa Cruz Biotechnology)および抗TH(1:5,000、AB152、Millipore)脳切片をスライドに載せ、Zeiss LSM 710共焦点顕微鏡またはLeica HyDハイブリッド検出器を備えたLeicaTCS SP8共焦点顕微鏡でzスタック画像を捕捉した。抗Nax抗体の特異性は、我々の以前の研究に記載されているNax−KOマウスを用いて検証した(非特許文献47参照)。抗ASIC1抗体の特異性を、ノックダウン実験を用いて確認した(図5E)。
<光発生実験>
インビボ光照射に関して、青色光レーザー(445nm、1,000mW、CW;KaLaser)または黄色光レーザー(577nm、3000mW、CW; Genesis Taipan577、Coherent)に接続されたプラスチック光ファイバーを介して、送られた。ChR2の光刺激を達成するために、1Hzと20Hzの間の周波数のパルス青色光レーザーを使用した。eNpHR3.0による光学阻害については、黄色レーザー光による連続照射を行った。ファイバの先端で測定したところ、レーザ出力は5〜10mW/mm2に維持された。OVLTにおける光の光学パワーは、
http://web.stanford.edu/group/dlab/optogenetics/
のサイトにあるオンライン脳組織光伝達計算機を使用して計算した。本発明者らの実験では、光ファイバー先端から標的組織までの距離を500μmに設定し、期待される光学パワーは1.20〜3.64mW/mm2であった。
<OVLTスライスにおけるインビトロ電気生理学>
インビトロ電気生理学的実験は、わずかな変更を加え、以前に報告された方法にて行われた(非特許文献22参照)。CTb−555は、記録の少なくとも1週間前にPVNに左右両側に注入した。脳をすばやく取り出し、100%O2で5〜10分間バブリングしたスクロースリンガー溶液に浸漬した。スクロースリンガー溶液の組成は、260mM スクロース、2.5mM KCl、10mMMgSO4、0.5mM CaCl2、5mMHEPES、10mMグルコースおよび5mM NaOH(HClでpH7.4に調整)であり、氷冷したものを使用した。マイクロスライサー(Pro 7、Dosaka EM)を用いてスライスを350μmの厚さに切断し、次いで室温で100%O2を吹き込んだ改変リンガー溶液で1時間以上プレインキュベートした。次いで、スライスを直立顕微鏡(BX61WI、オリンパス)上の記録チャンバーに取り付け、100%O2を吹き込んだ改変リンガー溶液を連続的に灌流した。NaCl又はHClを添加して、改変リンガー溶液中の[Na+]またはpHを変化させた。すべての記録溶液は、キヌレン酸(1mM)およびビククリン(30μM)を含有した。発火頻度の分析においては、CTb−555標識ニューロンにセルアタッチ法を用いた。全ての記録は33〜36℃で行った。ホウケイ酸ガラス細管から調製したパッチピペットにピペット溶液を満たした。ピペット溶液の組成は、140mM Kグルコン酸、2mM MgCl2、0.2mM EGTA、2mM Na2ATP、10mM HEPESおよび0.1mM スペルミン(HClでpH7.4に調整)である。リンガー溶液中の電極の抵抗は3.7MΩであった。AxPatch 200Bパッチクランプ増幅器(Axon Instruments)をソフトウェアpCLAMPと共に使用してデータを取得し、ソフトウェアClampfit(Axon Instruments)で分析した。
<解離したOVLT細胞のグルコースイメージング>
以前に記載されたように、細胞の解離およびグルコースイメージングが行われた(非特許文献30参照)。簡潔には、野生型(WT)およびNax−KOマウスをジエチルエーテルで深く麻酔し、断頭した。その後、OVLTを脳から摘出した。細胞を単離し、Cell−tak(BD Biosciences)でコーティングしたガラス底の皿(Matsunami Glass)上にプレーティングし、5%CO2で37℃、3時間ガス処理した湿度制御インキュベーター中の10%FCSを含有するDMEM中でインキュベートした。次に、細胞を500μMの2−NBDGとともに37℃で10分間インキュベートした。2−NBDGを160mM[Na+]溶液に37℃でアプライした後、細胞の蛍光強度は時間の経過と共に少なくとも30分まで徐々に増加した。次いで、細胞を145mM[Na+]溶液で5回洗浄した。バリア(波長536+/−40nm、GFP−3035B、Semrock、Rochester、NY)および励起フィルタ(波長488+/−10nm、C7773、浜松フォトニクス(株))を有する蛍光顕微鏡(IX71、Olympus)を用いて評価した。
<OVLTにおけるグリア細胞の標的切除>
AAV−mCherry−DIO−dtAを上記のようにhGFAP−CreERT2または野生型(WT)マウスのOVLTに注射した。 AAV注射の3週間後、マウスに1日2回タモキシフェン(100mg/kgbw、腹腔内)を5日間投与して、Cre組換えによりAAVのloxP部位を切除した。タモキシフェンを最終濃度が10mg/mlとなるようにヒマワリ油に37℃で溶解させた後、フィルター滅菌し、暗所にて4℃で最大7日間保存した。タモキシフェン治療の完了後1週間、乳酸塩測定および免疫組織化学のために脳を使用した。 同じ処理を受けた野生型(WT)マウスと比較して、hGFAP−CreERT2マウスのOVLTにおいて、90%を超えるNax陽性細胞が結果的に排除された。
<乳酸塩濃度の測定>
脳から解剖したOVLT(各15匹のマウス)を5つの部分に分け、1μMのTTXを含有する0.5mlの改変リンガー溶液中、37℃で24時間インキュベートした。OVLTを含有する溶液を9,200×gで5分間遠心分離し、上清を測定に使用した。上清の乳酸塩濃度をi−STATにより測定した。
<OVLT組織における細胞外pHの画像解析>
OVLTを含有する急性脳スライスを上記のように調製した。スライスを直ちに100%O2を吹き込んだインキュベーション溶液に入れ、25℃で10〜30分間インキュベートした。溶液は、140mMのNaCl、2.5mMのKCl、2mMのCaCl2、1mMのMgCl2、0.5mMのHEPES、10mMのスクロース、10mMのグルコース及び5mMのNaOH(HClでpH7.4に調整)を含有する。この溶液を、2’,7’−ビス−(2-カルボキシエチル)−5−(および−6)−カルボキシフルオレセイン(BCECF酸、Thermo Fisher;200μM)、膜不透過性pH依存性蛍光色素を含む他の溶液に変更して、37℃で20分間インキュベートした。インキュベーション中、直立顕微鏡に取り付けられたディスク共焦点ユニット(DSUシステム、オリンパス)で蛍光画像を撮影した。蛍光比は、LED光源(Light Engine SPECTRAX、Lumencor)を用いて438及び512nmの励起波長でモニターした。細胞外[Na+]を変化させるために、高張Naを含むイメージング溶液をイメージングチャンバにゆっくりと加えた。
<OVLTへの薬剤の直接注入>
血圧(BP)記録中のOVLTへの薬物注入に関して、上記のように、Millarカテーテルの移植後、マウスを定位フレームに置いた。OVLT注射および脳室内注入を行なうと(図3H、5A及び5B)、上述のように、脳室内注入のためのガイドカニューレを、最初に植え付けた。次いで、小さな孔を穿孔し、薬物を含有する改変リンガー溶液で満たされたガラス針を、OVLT(前側+0.7mm;側方+/−0.0mm;腹側、5.0mm;ブレグマに対して)に配置した。ベンザミル、PcTx1及びAPETx2の注射は、Micro4を用いた脳室内の開始の約30分前に100nL/分の速度で5分間の注入を開始した。α−CHCAの場合、脳室内注入の開始の15分前に連続注入を開始した。注入は最初の5分間、注入速度を100nL/分に設定し、その後、脳室内注入の最後まで10nL/分で続けた。MitTxの注射は、脳室内注入なしで100nL/分の速度で5分間実施した。
薬物注入の位置を確認するために、蛍光ラテックスビーズ(FluoSpheres、Thermo Fisher Scientific)を実験の最後に注入した。脳を100μmの厚さに切断し、ビーズの蛍光を2×対物レンズを有するBiozeroを用いて評価した。
<数量化と統計分析>
データの正規性は、最初にShapiro−Wilk試験によって試験された。 正規性が否定されなかった場合、データは平均+/−標準偏差(SEM)を用いて集約された。1つまたは2つの要因の影響を、一方向または2方向分散分析(ANOVA)を用いて試験した。反復測定(RM)ANOVAを使用して、Greenhouse−Geisserの自由度の補正を用いて、すべての反復測定を分析した。正規性が否定されたとき、ノンパラメトリックKruskal−Wallis ANOVAが用いられ、四分位範囲(IQR)の中央値が示された。
ペアワイズの比較は、ペアまたはペアなしスチューデントt検定、またはノンパラメトリックのマンホイットニーU検定またはウィルコクソン(Wilcoxon)の署名順位テストに基づいている。これらは、ANOVAにおける特定の(大域的)試験が有意であった場合の事後的な探索的分析としても適用された。 全ての試験は両面試験であった。各実験の統計分析の詳細を表S2に示す。すべての統計分析は、Origin Pro 2017ソフトウェア(OriginLab Corporation)を用いて行った。すべての実験においてP<0.05が有意であると考えられた。
24時間のMBP変化(図1C)では、双方向RM ANOVAが群と時間との間に有意な相互作用を検出した(p=0.006)。この相互作用は、HS/野生型(WT)群における差異的なMBPプロフィールのために考えられた。しかし、相互作用は質的ではなく定量的であった。次に、明暗の全期間、つまり24時間のMBP(図1D)の全期間にわたるサマリーMBP値に基づく分析を採用した。
<実験モデルおよびサブジェクト詳細>
動物実験プロトコールは全て、国立自然科学研究所の動物実験および使用委員会(承認番号14A149,15A164,16A25および17A006)によってレビューおよび承認された。ホモ接合型Scn7aノックアウトNax−KO;(非特許文献17参照)、ヘテロ接合型Slc17a6−ires−Cre(Vglut2−Cre)(非特許文献61参照)、ヘテロ接合型Slc32a1−ires−Cre(Vgat−Cre)(非特許文献61参照)(Jackson Labs株#016962)およびヘテロ接合型hGFAP−CreERT2(非特許文献57参照)8〜20週齢までのマウスを使用した。これらの研究で使用された全てのマウスは、C57BL/6Jバックグラウンド上にあった。 マウスを12時間の明暗サイクル(午前8時に点灯)で温度制御された室内に維持し、食物および純水に自由に接近させた。
以下、図面による結果により本発明を説明する。
例1
図1A〜図Lにおいて、高塩摂取は、体液中の[Na+]の増加を誘発し、野生型(WT)における交感神経媒介性血圧(BP)上昇を駆動するが、Nax−KOマウスでは上昇しない。
Nax遺伝子欠損マウスに食塩を過剰摂取させても、交感神経を介した血圧上昇を起こさない
通常状態 (対照群)または食塩を過剰摂取した状態 (食塩群)の野生型マウスとNax遺伝子欠損(Nax−KO)マウスを比較した。食塩群のマウスは、飲み水を2%食塩水に交換して7日間飼育したのち、実験に使用した。
Nax遺伝子欠損マウスは、脳脊髄液のNa+濃度上昇に応答した交感神経性の血圧上昇を起こさない
野生型マウスとNax遺伝子欠損(Nax−KO)マウスに対し、高張Na液(Na+濃度:450mM)の脳室内注入をおこない、血圧と交感神経活動の変化を比較した。脳室内注入実験は、抗利尿ホルモンの受容体阻害剤を腹腔内に投与したのちにおこなった。
図1A及び図1Bでは、高塩濃度摂取前(対照、図中、「Control」と表示)および高塩濃度摂取後(HS、図中、「HS」と表示)において、血液中のNa+濃度([Na+]と表示する)およびCSF(図1B)を示す。図1Aではn=6、図1Bではn=5のマウスを用いた。
図1Aにおける血液中および図1Bにおける脳脊髄液中のNa+濃度は、食塩の過剰摂取により両遺伝子型のマウスで同様に上昇した。
図1Cは、対照およびHS摂取マウスにおけるMBPの概日変化を示す。図中、それぞれ、n=7である。図中、対照野生型(WT)対HS−摂取野生型(WT)について、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001であり、HS摂取野生型(WT)対HS摂取Nax−KOについて、♯p<0.05、♯♯p<0.01、♯♯♯p<0.001である。
図1Dは、対照およびHS摂取マウスにおける24時間にわたる平均MBPを示す。図中、それぞれ、n=9である。
マウスの動脈血圧を持続的に測定し、24時間の平均値を算出した。野生型マウスでは、食塩の過剰摂取により血圧が上昇した。Nax−KOマウスでは、食塩を過剰摂取させても有意な血圧の上昇は認められなかった。
図1Eは、腹腔内注射後のMBPの変化を示す。図中、クロルイソンダミン(chlorisondamine、「CSD」と略し、神経節遮断薬であり、10mg/kg体重投与される)は、MBPに対する自律神経系の寄与を示している。図中、それぞれ、n=5である。
交感神経活動の指標として、交感神経活動の阻害による動脈血圧の低下量を測定した。交感神経活動の阻害は、クロリソンダミンの腹腔内投与(10mg/kg体重)によりおこなった。野生型マウスでは、対照群と比較して食塩群の血圧低下量が有意に大きかったため、交感神経活動の活性化が示された。Nax−KOマウスでは、食塩を過剰摂取しても交感神経活動は活性化しなかった。
データは平均値+/−標準偏差(SEM)で表示している。双方向(Two-way) ANOVAで検定をおこなったのち、スチューデント(Student’s)t検定で事後比較をおこなった。ns有意差なし、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
図1Fは、自由に動く条件下での、高張性(450mM[Na+]、左)および等張性(145mM[Na+]、右)Na溶液の脳室内注入に応答するMBPの変化を示す。注入は、水平バーによって示される時間の間に行った。図中、それぞれ、n=5であり、縦軸(Y軸はMBPの変化を示し、単位はmmHg)は0分の値をゼロに設定した。
図1Gは、CSD(20mg/kg体重)で前処置したマウスにおける高張Na溶液の脳室内注入に応答したMBPの変化を示す。図中、それぞれ、n=5である。
図1Hは、MBPにおけるCSD感受性成分(左)およびNax依存成分(右)のプロファイルを示す。
これらは、図1Gおよび図1Fにおいて、左のCSDを用いたMBPデータと、図1F、左の2つの遺伝子型間のMBPデータの適合曲線の差から得られた。
データを適合(フィット)させるために、次の式が使用された:
MBP=PMax/(1+exp((t1/2−t)/a))
ここで、t=時間である。
PMax=14.20mmHg(CSD無しの野生型(WT))および6.00mmHg(CSDなしのNax−KO)および4.20mmHg(CSDありの野生型(WT))および5.80mmHg(CSDありのNax−KO)である。
t1/2=3.80分(CSD有りおよび無しの野生型(WT))および4.50分(CSD有および無しのNax−KO)である。
a=0.55分である。
図1Iは、マウスをマニング化合物(MC、3mg/kg体重)で前処理したときの高張Na溶液の脳室内注入に応答するMBPの変化を示す。図中、それぞれ、n=5である。
野生型マウスでは、高張Na液の脳室注入にともなって血圧が上昇した。Nax−KOマウスでは、高張Na液を脳室注入しても有意な血圧の上昇は認められなかった。
図1Jは、マウスをMC(3mg/kg体重)およびCSD(20mg/kg体重)で前処理したときの高張Na溶液の脳室内注入に応答するMBPの変化を示す。図中、それぞれ、n=5である。
交感神経阻害剤 (クロリソンダミン、20mg/kg体重)を腹腔内投与したのち、高張Na液の脳室注入をおこなった。野生型、Nax−KOともに血圧の上昇は起こらなかった。
図1Kは、マウスを麻酔下、MC(3mg/kg体重)で前処理したときの高張Na溶液の脳室内注入に応答するMBPの変化を示す。図中、それぞれ、n=6である。
図1L(左)は、高張Na溶液の脳室内注入の直前(0分)および10分後の腰部SNAの代表的な生の記録を示す。図中、スケールバーは0.1秒を示す。
図1L(右)は、高張Na溶液の脳室内注入に応答した腰部SNAの変化を示す。図中、それぞれ、n=6である。
図において、0分の値を100%に設定した。
野生型マウスでは、高張Na液の脳室注入にともなって交感神経活動が亢進した。Nax−KOマウスでは、高張Na液を脳室注入しても交感神経活動の亢進は認められなかった。
データは平均値+/−標準偏差(SEM)で表示している。双方向(Two-way) repeated measure ANOVAで検定をおこなったのち、スチューデント(Student’s)検定で事後比較をおこなった。「ns」は「有意差なし」を示す。*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001。
図1G、図1I、図1J、図1K及び図1Lにおいて、CSDおよびMCは脳室内注入の1時間前に腹腔内注射した。
データは平均値+/−標準偏差(SEM)として表す。「ns」は「有意差なし」を示し、特に指定のない限り、*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001とした。
図1F、図1G、図1I、図1J、図1K及び図1Lにおいて、各時点での遺伝子型間では*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001である。各実験の統計解析の詳細を表S2に示す。図S1及びS2ならびに表S1も参照のこと。
例2
図2A〜図2Hにおいて、OVLT−PVN神経回路は、体液中の[Na+]の増加によって活性化され、交感神経媒介性血圧(BP)上昇を引き起こす。
図2A上は、逆行性トレーサーCTb−488のPVNへの注入およびSFO(→PVN)およびOVLT(→PVN)ニューロンの逆行性ラベリングを示す模式図である。図2A下は、Nax(赤色で示す)およびCTb−488(緑色で示す)シグナルを感知したことを示す。矢頭は、Nax陽性細胞に囲まれたCTb陽性細胞を示す。図に示すスケールバーは50μmである。
図2B左は、HS摂取前(対照)またはHS摂取後(HS)のSFOにおけるFos(赤色で示す)およびCTb−488(緑色で示す)シグナルを示す。矢印はFos/CTb−488二重陽性細胞を示す。図に示すスケールバーは50μmである。図2B右は、CTb−488陽性(CTb+)細胞におけるFos陽性(Fos+)細胞の割合のサマリーである。図中、それぞれ、n=6である。サマリーデータは四分位範囲の中央値として表される。
図2C左は、HS摂取前(対照)またはHS摂取後(HS)のOVLT(C)におけるFos(赤色で示す)およびCTb−488(緑色で示す)シグナルを示す。矢印はFos/CTb−488二重陽性細胞を示す。図に示すスケールバーは50μmである。図2C右は、CTb−488陽性(CTb+)細胞におけるFos陽性(Fos+)細胞の割合のサマリーである。図中、それぞれ、n=6である。サマリーデータは四分位範囲の中央値として表される。
図2D左は、Vglut2−CreマウスのPVNへのHiRet−DIO−ChR2−EYFPの注入を示す模式図。図2D右は、OVLTでのEYFP発現を示す。図に示すスケールバーは50μmである。
図2Eは、麻酔下で異なる周波数でOVLTの光学的刺激(青色の期間)に応答するMBPの代表的な変化を示す。光学的刺激の開始前の平均MBP値(−1〜0分)は、縦軸にゼロに設定した。
図2F左は、CSD前処理(20mg/kg体重)の有無により、5Hzでの光刺激に応答するMBPの代表的な変化を示す。CSDは光刺激の1時間前に腹腔内注入した。図2F右は、MBPの変化のサマリーである(0〜10分の平均)。図中、それぞれ、n=4である。
図2G左は、野生型(WT)またはVglut2−CreマウスのPVNへのHiRet−DIO−eNpHR3.0−EYFPの注入を示す模式図である。図2G右は、Vglut2−CreマウスのOVLTにおけるEYFP発現を示す。図に示すスケールバーは50μmである。
図2H左は、光学刺激をオン(Opt ON)またはオフ(Opt Off)した高張Na溶液の脳室内注入に応答するMBPの変化を示す。注入は、水平バーによって示される時間の間に行った。黄色の影で示される時間の間、光刺激を行った。Opt OFF群のマウスは、脳室内注入の30分前に10分間光刺激を受けた。十分なEYFP陽性細胞がOVLT(>350細胞/mm2)で検出されたVglut2−Creマウスを使用した。
*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001(野生型(WT)Opt ONとVglut2−CreOptON);♯p<0.05、♯♯p<0.01、♯♯♯p<0.001(Vglut2−Cre Opt OFFとVglut2−Cre Opt ON)である。図2H右は、MBPの変化のサマリーである(平均7〜10分)。Opt ON条件は黄色示されるようであった。図中、それぞれ、n=7である。
データは、特に明記しない限り、平均+/−標準偏差(SEM)として表す。「ns」は「有意差なし」を示す。*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001とした。各実験の統計解析の詳細を表S2に示す。図S3も参照のこと。
例3
図3A〜図3Hにおいて、OVLT中のNax陽性グリア細胞は、細胞外[Na+]の増加に応答して、MCT、乳酸/H+共輸送体を介して乳酸を放出する。
図3Aは、電気生理学的実験の概略図である。CTb−555を、記録の少なくとも1週間前にPVNに左右に注入した。OVLT中のCTb−555標識ニューロンの発火頻度をセルアタッチ法で測定した。
図3Bは、CTb−555標識OVLT(→PVN)ニューロンの発火活性におけるCHCAを用いた高張[Na+](160mM)の効果を示す。脳スライスを用いた全ての電気生理学的実験において、細胞外溶液は、シナプス伝達を遮断するために、キヌレン酸(1mM)およびビククリン(30μM)を含有させた。α−CHCA(5mM)を、水平バーによって示される時間の間、灌流液に添加した。代表的な発火活動(図3Bの左、上)、時間経過(図3Bの左、下)、サマリーデータ(図3Bの右)が示されている。サマリーデータは、4〜5分、14〜15分及び24〜25分に得られたものである。図中、それぞれ、n=6である。遺伝子型間で、♯♯♯p<0.001であった。
図3C左は、解離したOVLT細胞によるグルコース(2−NBDG)の取り込みのイメージング分析を示す。野生型(WT)マウスから単離したOVLTから解離した細胞を145又は160mM[Na+]溶液中の2−NBDGを用いたグルコース取り込みのイメージング分析に供した。画像化後、細胞を抗GFAPおよび抗Nax抗体で免疫染色した。DIC、微分干渉コントラスト画像を示す。図に示すスケールバーは25μmである。図3C右は、GFAPおよびNax(GFAP +、Nax+)およびどちらも発現しない細胞(GFAP−、Nax−)を発現する細胞によるグルコース取り込みの概要である。160mM[Na+]溶液中のグルコース取り込みは、145mM[Na+]状態に対する相対値によって示された。それぞれ3匹のマウスからのn=20細胞を用いた。
図3D左は、野生型(WT)およびNax−KOマウスから解離したOVLT細胞のグルコースイメージング(2−NBDG)を示す。図に示すスケールバーは25μmである。図3D右は、グルコース摂取の概要である。それぞれ3匹のマウスからのn=20細胞を用いた。
図3Eは、OVLT組織における乳酸塩放出を示す。野生型(WT)およびNax−KOマウスから単離したOVLT組織を、145又は160mM[Na+]溶液中で24時間インキュベートした。溶液中の得られた乳酸塩濃度をi−STATにより測定した。それぞれ15匹のマウスからのn=5であった。
図3F左、下は、アストロサイトおよび上衣細胞を切除する戦略を示す模式図である。Cre依存性ジフテリア毒素A断片(dtA)(AAV−mCherry−DIO−dtA)を発現する組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)をGFAP806 CreERT2マウスのOVLTに注入した。
図3F左、下:ウイルス注射およびタモキシフェン処理を受けたマウスの冠状脳切片におけるmCherryおよびNaxシグナルの検出を示す。ウイルス感染はmCherry蛍光によって確認された。Nax陽性細胞の大部分は、GFAP−CreERT2マウスのOVLTから欠失した。図3F右は、OVLT組織からの乳酸の放出を示す。それぞれ15匹のマウスからのn=5であった。
図3Gは、OVLT組織からの乳酸塩放出に対するα−CHCA(5mM)の影響を示す。それぞれ15匹のマウスからのn=5であった。図3Hは、麻酔下での高張Na溶液(450mM)の脳室内注入に応答するMBPを示す。ビヒクルまたはα−CHCA(10mM)のOVLT注射を、脳室内注入の開始の15分前に開始した。水平バーによって示される時間の間、脳室内注入を行った。図中、それぞれ、n=4である。群間では*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001であった。
サマリーデータは平均+/−標準偏差(SEM)として表す。「ns」は「有意差なし」を示す。**p<0.01;***p<0.001とした。各実験の統計解析の詳細を表S2に示す。図S3も参照のこと。
例4
図4A〜図4Gにおいて、血圧(BP)上昇につながるOVLT−PVN神経回路の塩誘発活性化には、グリア細胞からのNax依存性H+放出が必須である。
図4Aは、OVLT(→PVN)ニューロンの発火活性に対する1mM乳酸塩の効果を示す。灌流液を、145mM[Na+]を含む改変リンゲル液から、160mM[Na+]または1mM乳酸塩(pH7.4)を含むものに変更した。代表的な発火活性(図4A上)、時間経過(図4A下、左)、サマリーデータ(図4A下、右)が示される。サマリーデータは、4〜5分、9〜10分、14〜15分、および19〜20分に得られたものである。図中、それぞれ、n=6である。
図4Bは、5mM乳酸塩がOVLT(→PVN)ニューロンの発火活性に及ぼす効果を示す。灌流液を、改変リンゲル溶液から、記録開始5分後に5mMの乳酸を含む溶液に変更した。代表的な発火活性(図4B上)、代表的な時間経過(図4B下、左)、サマリーデータ(図4B下、右)が示される。サマリーデータは、4〜5分および14〜15分に得られたものである。図中、それぞれ、n=6である。
図4Cは、低pH溶液がOVLT(→PVN)ニューロンの発火活性に及ぼす効果を示す。灌流液を、水平バーによって示される時間の間、低pH溶液(pH6.8)に変更した。代表的な発射活動(図4C上)、時間経過(図4C下、左)、サマリーデータ(図4C下、右)が示される。サマリーデータは、4〜5分および14〜15分に得られたデータであり、四分位範囲の中央値として表される。図中、それぞれ、n=6である。
図4Dは、OVLT組織の細胞間空間におけるpHのイメージング分析を示す。
図4D左は、OVLTの位置とイメージングの場所を示す模式図(右側のパネルのボックス)を示す。図4D右は、野生型(WT)およびNax−KOマウスからのOVLTスライスの細胞間空間におけるpHを示す代表的な疑似カラー画像(本明細書では白黒画像)である。切片をビヒクルまたはα−CHCA(5mM)で前処理した。図に示すスケールバーは20μmである。
図4Eは、四角で示した撮像領域のpH変化の時間経過を示す。高張Na溶液(160mM)を、水平バーによって示される時間の間に適用した。3つのOVLTからそれぞれn=10ポイントで示す。野生型(WT)ビークル対Nax−KOビヒクルについて***p<0.001であり、野生型(WT)ビヒクル対野生型(WT)−CHCAについて、**p<0.01、***p<0.001であった。
図4Fは、軽度の酸性化に応答したOVLT(→PVN)ニューロンの発火活性に対する乳酸塩の効果を示す。灌流液を改変リンゲル液([Na+]=145mM、pH7.4)から、高Na溶液(160mM、pH7.4)、低pH溶液([Na+]=145mM、pH7.0)、次いで低pH乳酸塩(3mM、pH7.0)を含む溶液へ変更した。代表的な発火活性(図4F左、上)、時間経過(図4F左、下)、サマリーデータ(図4F右)を示す。サマリーデータは、4〜5分、9〜10分、14〜15分、19〜20分、および24〜25分に得られたものである。乳酸塩による増強はpH6.8で非常に小さいため、pH6.8の代わりにpH7.0を使用した(データは示していない)。図中、それぞれ、n=6である。
図4Gは、OVLT(→PVN)ニューロンの発火活性に及ぼす低pHおよび高浸透圧の効果を示す。灌流液を改変リンゲル液(pH7.4)から低pH溶液(pH6.8)または30mMマンニトール(pH7.4)を含む溶液に変更した。代表的な発射活動(図4G左、上)、時間経過(図4G左、下)、サマリーデータ(図4G右)を示す。サマリーデータは、4〜5分、9〜10分、14〜15分、および19〜20分に得られたものである。図中、それぞれ、n=6である。
サマリーデータは、別段の指定がない限り、平均+/−標準偏差(SEM)として表す。「ns」は「有意差なし」を示す。**p<0.01、***p<0.001とした。各実験の統計解析の詳細を表S2に示す。
例5
図5A〜図5Kにおいて、ASIC1aは、OVLT(→PVN)ニューロンの活性化を媒介し、血圧(BP)の上昇をもたらす。
図5Aおよび図5Bは、ビヒクル、ベンザミル(1mM;図5A)、PcTx1(1μM;図5B)、またはAPETx2(200μM;図5B)を、麻酔下でOVLTに注射した後の高張Na溶液の脳室内注入に応答するMBPの変化を示す。水平バーによって示される時間の間、脳室内注入を行った。OVLT注射は、脳室内注入開始の約30分前に開始し、5分間継続した。図5Bの野生型(WT)マウスのビヒクルデータを図5Aから再現した。図5Aでは、ビヒクルとベンザミルとの間で**p<0.01;***p<0.001であった。図5Bでは、ビヒクルと比較して、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001であった。図中、それぞれ、n=5である。
図5Cは、図5Aおよび図5BにおけるMBPの変化のまとめを示す(脳室内輸液中は7〜10分の平均)。図中、それぞれ、n=5である。
図5D上、左は、CTb−488を用いてOVLT(→PVN)ニューロンを感知する戦略の概略図である。図5D上、右、下は、OVLTのASIC1(赤色で示す)とCTb−488(緑色で示す)信号である。図中の矢印は、ASIC1/CTb二重陽性細胞を示す。図に示すスケールバーは50μmである。
図5E左は、野生型(WT)マウスのOVLTにLacZまたはASIC1のEmGFPおよび人工マイクロRNA(amiRNA)を運ぶAAVウイルスベクターの注入を示す概略図である。図5E右は、OVLTにおけるEmGFPおよびASIC1の免疫蛍光を示す。
図5Fは、高張Na溶液の脳室内注入に応答したMBPの変化を示す。注入は、水平バーによって示される時間の間に行った。図中、それぞれ、n=5である。群間では*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001であった。
図5Gは、シナプス伝達の遮断下でのCTb−555標識OVLT(→PVN)ニューロンの発火活性に対するベンザミルによる高張[Na+]の効果を示す。CTb−555注入は、図5DのCTb−488注入について記載したように行った。ベンザミル(1mM)を、記録開始15分後に灌流液に添加した。代表的な発火活性(図5G上)、時間経過(図5G下、左)、サマリーデータ(図5G下、右)を示す。サマリーデータは、4〜5分、9〜10分、19〜20分、および24〜25分に得られたものである。図中、それぞれ、n=6である。
図5Hは、シナプス伝達の遮断下でのOVLT(→PVN)ニューロンの発火活性に対するPcTx1の高張[Na+]の効果を示す。記録開始15分後に灌流液にPcTx1(30nM)を加えた。代表的な発火活性(図5H上)、時間経過(図5H下、左)、サマリーデータ(図5H下、右)を示す。サマリーデータは、4〜5分、9〜10分、19〜20分、および24〜25分に得られたものである。図中、それぞれ、n=6である。
図5Iおよび図5Jは、麻酔下でのASL1活性化因子、MitTx(0.1又は1μM)のOVLTへの連続注入に応答するMBPの変化を示す。図5Iにおいて、CSD(20mg/kg体重)がOVLT注射の1時間前に腹腔内注射された。OVLT注射は、水平バーによって示された時間の間に行った。図中、それぞれ、n=6である。
図5Kは、図5Iおよび図5JにおけるMBP(OVLT注射中の平均4〜5分)の変化のサマリーを示す。「ns」は、遺伝子型間に有意差はないことを示し、**p<0.01はビヒクルとは有意に異なることを示す。図中、それぞれ、n=6である。
サマリーデータは平均+/−標準偏差(SEM)として表す。「ns」は「有意差なし」を示す。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001とした。各実験の統計解析の詳細を表S2に示す。図S4及びS5も参照されたい。
例6
図6A〜図6Cにおいて、Naxシグナルは、SNAを活性化するために、OVLT−PVN−RVLM神経経路を介して伝達される。
図6A左、上は、CTV−488のRVLMへの注入およびPVN(→RVLM)ニューロンの逆行性ラベリングを示す。図6A左、下は、PVN領域の略図である。図6A左下は、PV摂取前(コントロール)またはHS摂取後(HS)に、PVN中のFos(赤色で示す)およびCTb−488(緑色で示す)シグナルである。図中の矢印は、Fos/CTb二重陽性細胞を示す。図6A右は、CTb−488陽性(CTb+)細胞におけるFos陽性(Fos+)細胞の割合のサマリーである。図中、それぞれ、n=5である。図に示すスケールバーは50μmである。
図6B上は、RVLMを示す冠状脳切片の模式図である。RVLMの正方形は、チロシンヒドロキシラーゼ陽性(TH+)ニューロンを有する領域を示す。図6B左下は、HS摂取前(コントロール)またはHS摂取後(HS)に、Fos(赤色で示す)およびTH(緑色で示す)の検出を示す。図中の矢印は、Fos/TH二重陽性細胞を示す。図6B下、右は、TH+細胞におけるFos陽性(Fos+)細胞の割合のサマリーである。図中、それぞれ、n=5である。図に示すスケールバーは50μmである。
図6Cは、塩誘発血圧(BP)上昇の中心的メカニズムを示す。血液およびCSF[Na+]の増加は、OVLTにおいてNaxを活性化し、MCTを介してNax発現上衣細胞から乳酸(Lac−)およびH+放出を誘導する。得られた細胞外酸性化(H+)は、ASIC1a活性化を介してOVLT(→PVN)ニューロンを刺激する。OVLT−PVN−RVLM神経経路が活性化され、SNAの増加により血圧(BP)が上昇する。
サマリーデータは四分位範囲の中央値として表す。「ns」は「有意差なし」を示す。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001とした。各実験の統計解析の詳細を表S2に示す。
例S1
本発明者らは、Nax−KOマウスが、正常な条件下で毎日の収縮期、拡張期および平均動脈血圧(MBP)における典型的なパターンを示したことを確認した(図S1A)。MBPは以前に報告されたように2つのピークを有する日周パターンを示した(非特許文献52参照)。HS摂取の場合、飲料水を、2%NaClを含む生理食塩水で7日間置き換えた。塩摂取量とNa排泄量は、HS摂取の前と後7日間の2つの遺伝子型間で類似していた(図S1C〜S1E)。
デオキシコルチコステロンアセテート+塩(DOCA塩)高血圧モデルを作製するために、イソフルラン吸入によりマウスを麻酔し、次いで50mgのDOCAペレット(21日放出;Innovative Research of America)を皮下に移植するか、擬似手術を行なった。擬似手術を受けたマウスは、食物および純水に自由に接近して維持された(対照群)。DOCAを移植したマウスを0.9%のNaClを含む食物および生理食塩水に20日間自由に接近させて維持した(DOCA塩群)。
<補足情報>
中枢Naxによって感知される体液中の[Na+]増加は、ASIC1aのH+依存性活性化を介して交感神経的に誘導される血圧上昇を誘導する。
図S1A〜図S1Eにおいて、Nax−KOマウスの運動活性およびナトリウム代謝は、HS摂取中は正常である。これらは図1および以下の方法に関連する。
図S1Aは、収縮期血圧(SBP、上)、拡張期血圧(BP)(DBP、中)および平均動脈血圧(MBP、下)の概日変化を示す。それぞれのパラメータは、遠隔測定法により自由に動く条件下で2日間連続して記録した。生データを1時間にわたって平均し、2日間の値を平均した。図中、それぞれ、n=10のマウスを用いた。
図S1B左は、コントロールおよびHS摂取マウスの運動活性の概日変化を示す。活動(活性)は遠隔測定法によって自由に動く条件下で記録された。活動カウントは1時間間隔で合計された。図S1B右は、24時間にわたる全運動活動を示す。図中、それぞれ、n=7のマウスを用いた。図S1Aおよび図S1Bのサマリーデータは平均+/−標準偏差(SEM)として表される。「ns」は、「重要ではない」ことを示す。
図S1Cは、実験手順の模式図である。マウスを代謝ケージに3日間(−4日目〜−2日目)慣らし、正常な食事と水で飼育した。−1日目に、飲水量、摂食量、尿量を測定した(対照条件とした)。次いで、HS摂取を7日間強制するために、飲料水を2%NaCl溶液と交換した。7日目に、2%NaCl溶液の飲用量、摂食量および尿容量を測定した(HS摂取状態)。体液摂取量は主に食物摂取量と関連があり、野生型(WT)とNax−KOマウス(非特許文献17参照)の間では類似していた。
図S1Dおよび図S1Eは、対照(−1日目)(図S1D)およびHS摂取(7日目)(図S1E)条件下の野生型(WT)およびNax−KOマウスの塩および水代謝を示す。毎日の水分摂取量、総Na摂取量、尿容量、尿中[Na+]、尿中Na排泄量、Naバランス、水収支が表示される。図S1Eでは、摂取量の代わりに2%NaCl溶液の摂取量が示されている。図S1Dの対照マウスによる総Na摂取量を、マウス(食餌100g中のNa 0.41g)によって消費された食物量のNa含量から計算した。図S1EにおけるHS摂取マウスによる総摂取量は、食物から採取したNaと2%NaCl溶液の合計であった。尿中Na排泄量は、尿量および尿[Na+]から算出した。Naバランスは、全Na摂取量(mmol/日)から尿Na排泄量(ミリモル/日)を差し引いて算出した。図S1Dにおける対照マウスの水収支は、摂取量(mL/日)から尿量(mL/日)を差し引くことによって計算した。図S1EにおけるHS摂取マウスの水収支は、2%NaCl溶液(mL/日)の摂取量から尿量(mL/日)を差し引いて計算した。サマリーデータは四分位範囲の中央値として表される。図中、それぞれ、n=5のマウスを用いた。「ns」は「有意差なし」を示す。各実験の統計解析の詳細を表S2に示す。
例S2
図S2A〜図S2Hにおいて、体液中の[Na+]の慢性的かつ急激な増加は共に、野生型(WT)における交感神経媒介性血圧(BP)上昇を駆動するが、Nax−KOマウスでは上昇しない。図1に関連する。
図S2Aおよび図S2Bは、DOCA塩処理の0日目および20日目の血液(図S2A)およびCSF Na+濃度(図S2B)を示す。図中、それぞれ、n=5である。
図S2Cは、20日間のDOCA塩治療前後の血圧(BP)の変化を示す。テールカフ法を用いて毎日の血圧(BP)を測定した。0日目の測定後、DOCAペレットを皮下に移植し、飲料水を0.9%NaClで置換した。図中、それぞれ、n=11である。
図S2Dは、非処理(対照)およびDOCA塩(DOCA)野生型(WT)およびNax−KOマウスにおけるCSD注射によって誘導された血圧(BP)の変化を示す。ビヒクル(19日目)またはクロルイソンダミン(CSD、20日目)は、血圧(BP)測定の1時間前に腹腔内注入し、ビヒクル処置とCSD処置との間の血圧(BP)の差異を示した。図中、それぞれ、n=8である。
図S2Eは、等張性(145mM [Na+])および高張性(3M[Na+])生理食塩水の腹腔内投与の前および後の野生型(WT)およびNax−KOマウスにおける血液およびCSF[Na+]を示す。図中、それぞれ、n=4である。注入は、水平バーによって示される時間の間、行った。
図S2Fは、麻酔下での等張および高張食塩水の腹腔内注入に応じたMBPの変化を示す。図中、それぞれ、n=5である。縦軸は0分の値をゼロに設定した。等張性と高張性の間で、**p<0.01、***p<0.001であった。
図S2Gは、CSD(20mg/kg体重)で前処理したマウスにおける高張食塩水の腹腔内注入に応じたMBPの変化を示す。図中、それぞれ、n=5である。
図S2Hは、図S2Fおよび図S2Gにおける腹腔内注入の開始後30分のMBPの変化のサマリーを示す。図中、それぞれ、n=5である。
データは平均+/−標準偏差(SEM)として表す。「ns」は「有意差なし」を示す。**p<0.01、***p<0.001とした。各実験の統計解析の詳細を表S2に示す。
例S3
図S3A〜図S3Cにおいて、OVLTは、CSF [Na+]増加によって誘発される交感神経媒介性の血圧(BP)上昇に必須であり、PVNに突出するVglut2陽性ニューロンを保持する。これらは図2に関連する。
OVLTを選択的に破壊されたマウスは、脳脊髄液のNa+濃度上昇に応答した交感神経性の血圧上昇を起こさない
Naxの発現部位であるSFOあるいはOVLTを局所的に破壊したマウスを作製した。破壊後、高張Na液(Na+濃度:450mM)の脳室内注入をおこない、血圧の変化を比較した。
図S3Aは、冠状脳切片を示す。局所破壊の代表的な成功例を示す。
右のパネルは、SFOまたはOVLTを局所破壊したマウスの脳切片を示す。コントロールパネルの矢頭は、SFOまたはOVLTを示す。図中のスケールバーは250μmである。
図S3Bは、麻酔下の野生型(WT)マウスにおける高張Na溶液の脳室内注入に応答するMBPの変化を示す。対照は、別の脳領域の局所的な電気的破壊を受けた。注入は、水平バーによって示される時間の間行った。図中、それぞれ、n=6である。対照と比較して、**p<0.01、***p<0.001であった。
対象群とSFO破壊群では、高張Na液の脳室注入にともなって血圧が同様に上昇した。OVLTを破壊したマウスでは、高張Na液を脳室注入したときの血圧上昇が抑制されていた。
データは平均値+/−標準偏差(SEM)で表示している。双方向(Two-way) repeated measure ANOVAで検定をおこなったのち、スチューデント(Student’s)t検定で事後比較をおこなった。ns有意差なし、**p<0.01、***p<0.001。
図S3C左は、Vglut2−ires−CreまたはVgat−ires−CreマウスのPVNへのHiRet−DIO−ChR2―EYFPの注入を示す模式図である。図S3C中は、OVLTにおけるEYFP発現を示す。図中のスケールバーは50μmである。図S3C右は、OVLT中のEYFP陽性細胞数を示す。図中、それぞれ、n=5である。***p<0.001であった。
サマリーデータは平均値+/−標準偏差(SEM)として表される。各実験の統計解析の詳細を表S2に示す。
例S4
図S4において、OVLTから心室へのウイルス漏出は有効であることを示す。図5に関連する。
図S4左は、AAV−EmGFP−LacZ amiRNAを第3脳室(3V)またはOVLTに注入する模式図である。合計50または250nLのAAVウイルスを3VまたはOVLTにそれぞれ注入した。図S4右は、OVLTおよび第4脳室(4V)のEmGFPシグナルを示す。矢頭はEmGFP陽性細胞を示す。ウイルス注入が成功した場合(左欄)、4Vを囲むOVLT(矢頭)または脳室周囲組織の最下部領域(矢印)には感染がなかった。一方、ウイルス漏出が 3Vが発生し、4V領域への感染も観察された(右の列)。図中のスケールバーは50μmである。
例S5
図S5A〜図S5Cにおいて、MnPOは、PVNに突出するニューロンを保持するが、Nax発現に関しては陰性である。図5に関連する。
図S5A上は、PVNへのCTb−488の注入および前核核(MnPO)の逆行性標識を示す模式図である。図S5A下は、少数のCTb−488陽性ニューロンがMnPO中に検出されたことを示す。dMnPO;背側MnPO、vMnPO;腹側MnPO、aca;前交連(anterior commissure)。
図S5Bは、dMnPOのASIC1(赤色で示す)とCTb−488(緑色で示す)信号を示す。矢頭は、ASIC1/CTb二重陽性細胞を示す。図中のスケールバーは50μmである。
図S5Cは、野生型(WT)およびNax−KOマウスのOVLTおよびdMnPOにおけるNaxシグナルの検出を示す。図中のスケールバーは50μmである。
例7
図7A〜図7Bでは、OVLTにおいてASIC1の機能や発現を抑制すると、脳脊髄液のNa+濃度上昇に応答した交感神経性の血圧上昇が抑制される。
図7Aでは、野生型マウスのOVLTへ、ASIC1aの選択的阻害剤Psalmotoxin−1の局所的注入をおこなった。その後、高張Na液の脳室注入をおこない、血圧を測定した。溶媒のみの注入をおこなった対照群では、高張Na液の脳室注入にともなって血圧が上昇した。ASIC1a阻害剤を注入したマウスでは、高張Na液を脳室注入したときの血圧上昇が抑制されていた。各群n=5匹。
図7Bでは、野生型マウスのOVLTで、人工マイクロRNAを用いたASIC1の局所的ノックダウンをおこなった。人工マイクロRNAの導入にはアデノ随伴ウイルスを用いた。その後、高張Na液の脳室注入をおこない、血圧を測定した。対照群として大腸菌LacZ遺伝子を標的とする人工マイクロRNAを導入したマウスでは、高張Na液の脳室注入にともなって血圧が上昇した。ASIC1のノックダウンをおこなったマウスでは、高張Na液を脳室注入したときの血圧上昇が抑制されていた。各群n=6匹。
データは平均値+/−標準偏差(SEM)で表示している。双方向(Two-way) repeated measure ANOVAで検定をおこなったのち、スチューデント(Student’s)t検定で事後比較をおこなった。ns有意差なし、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
脳室内等張性(145mM [Na+])または様々な高張性(300,450、または900mM [Na+])Na溶液の脳室内注入を行った。10分間脳室内注入した後、CSFを大槽から集めた。表中、それぞれ、n=5のマウスを用いた。各実験の統計解析の詳細を表S2に示す。
以上の通り、本発明の実施例から次のように纏めることもできる。
(1)構成及び説明
Nax遺伝子欠損マウスでは、食塩の過剰摂取や、体液のNa+濃度上昇に応答した血圧上昇が消失していた。Naxの発現部位であるOVLTを選択破壊すると、体液のNa+濃度上昇に応答した血圧上昇が消失した。Naxシグナルの受容分子である酸感受性イオンチャンネルASIC1の発現や機能をOVLTで抑制すると、体液のNa+濃度上昇に応答した血圧上昇が消失した。
(2)具体的作用
NaxおよびASIC1の発現や機能を阻害することで、食塩の過剰摂取や体液のNa+濃度上昇にともなう血圧上昇を抑制できることを見出した。NaxやASIC1の機能を阻害する化合物をターゲットとしたスクリーニングをおこなうことで、新規の血圧改善薬の開発に利用することができる。
(3)実施例に基づく特有の効果
中枢神経系を標的とした高血圧治療薬は開発されていない。本発明を利用して開発される血圧改善薬は、これまでにない新規の作用機序を持つため、既存薬との併用により相加効果/相乗効果を発揮できる可能性がある。さらに、Nax遺伝子欠損マウスには見かけ上の異常はなく、正常に生育する。ASIC1遺伝子欠損マウスについても、深刻な異常は報告されていない。このことから、副作用リスクの少ない治療法が開発できると考えられる。