JP6666002B2 - Tdp−43プロテノパシーの予防又は治療用組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、TDP-43 プロテノパシー(TDP-43 proteinopathy)の予防又は治療用組成物に関し、さらに詳しくは、TDP-43遺伝子を標的とするマイクロRNAを用いた前記組成物に関する。
TDP-43(TAR-DNA-binding protein of 43kDa、Official Symbol;TARDBP、NM_007375、NP_031401)は、ほぼ全ての細胞に発現するDNA/RNA結合タンパクである。主に核内に存在し、RNAのスプライシング反応を制御するとともに、ある種のマイクロRNAの生成にも関与することが知られている。また、TDP-43タンパクの一部は細胞質に輸送され、細胞の局所にRNAを輸送するキャリアーとして機能することも知られている(非特許文献1参照)。
TDP-43は、2006年にユビキチン化封入体を有する前頭側頭葉変性症(Frontotemporal lobar degeneration with ubiquitin inclusions;FTLD-U)と筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis;ALS)の病変部位特異的に出現するユビキチン陽性細胞内封入体の主成分であることが判明して以降、神経変性疾患の分野において最も注目されるタンパクの一つとなった。FTLDは前頭葉及び/又は側頭葉の神経変性に起因する進行性の認知症、ALSは上位及び/又は下位運動ニューロンの選択的変性に起因する進行性の運動ニューロン疾患であり、変性部位と症状が異なるこれら2つの神経変性疾患が発症機序を共有している可能性が浮上したからである。
前記封入体中のTDP-43タンパクは異常リン酸化とユビキチン化を受けて凝集しており、その凝集過程では種々の細胞毒性を生じることが知られている。また、前記封入体を有する細胞では核内からTDP-43タンパクが消失しており、TDP-43の機能喪失も発症に寄与すると考えられている。
よって、TDP-43タンパクの核からの消失と細胞質での凝集化を伴う神経変性疾患は、TDP-43 プロテノパシーという概念で括られている(非特許文献1参照)。
その後、TDP-43遺伝子変異を有するALS家系が見出され、当該変異型TDP-43をマウスの神経系で過剰発現させると神経変性が誘導されることが示された(非特許文献2)。さらに、ヒト野生型TDP-43遺伝子をゲノム断片として導入されたトランスジェニックマウスでは、すべての細胞でTDP-43の発現量が増加しているにも関わらず、特定のニューロン内でTDP-43が凝集化して、認知機能低下と運動機能障害が誘導された(非特許文献3)。
すなわち、変異型だけでなく野生型TDP-43タンパクであっても、発現量が過剰になるとALSやFTLD様病態が引き起こされることが示されたのである。
さらに、孤発性ALS患者では、概して脳脊髄液中のTDP-43タンパク濃度が健常者よりも有意に高いことが明らかとなった(非特許文献4)。また、孤発性ALS患者の剖検脊髄組織では、TDP-43 mRNA量の増加が報告されている(非特許文献3)。
これらの知見より、TDP-43タンパクの発現過多は、TDP-43 プロテノパシーの主原因と考えられている。そして、該疾患を治療するために、TDP-43タンパクの発現過多を是正するための方法が精力的に研究されている。
非特許文献5では、慢性骨髄性白血病の治療薬として米国食品医薬品局(FDA)に認可されているボスチニブ(bosutinib)とニロチニブ(nilotinib)が、TDP-43を過剰発現するトランスジェニックマウスに対し、神経変性を抑制し、認知機能及び運動機能を改善することを報告している。これらの薬剤は、血液脳関門透過性のチロシンキナーゼ阻害剤として知られるものであり、ユビキチン転移酵素であるパーキン(Parkin)を介してTDP-43タンパクのクリアランスを促進することにより、前記効果を奏すると考えられている。
また、非特許文献6では、小胞体膜上に局在するシステインプロテアーゼであるカスパーゼ4がTDP-43タンパクの第174番目と175番目のアミノ酸間を切断すると、TDP-43のクリアランスが開始されることを報告している。
しかしながら、これらの方法は、TDP-43タンパクの分解を促進することで細胞内のTDP-43タンパク量を減少させる方法である。TDP-43 プロテノパシーではTDP-43タンパクそのものが細胞毒性を生じることを考慮すると、TDP-43タンパクの産生を抑制できる方法の方が、より高い治療効果が期待される。
この視点に立ち、本研究者らは、TDP-43遺伝子変異を有するALS患者からiPSC(induced Pluripotent Stem Cell)株を樹立し、該iPSCから分化誘導した運動ニューロン(ALS-MN)を用いた薬剤スクリーニング系を確立した。当該ALS-MNは、ALS患者の運動ニューロンにみられる種々の特徴(神経突起の伸展不良、ストレスに対する高い脆弱性、及びTDP-43陽性凝集体の形成)を備えた、該疾患の優れた細胞モデルである。このスクリーニング系を用いてRNA代謝に関わる薬剤を解析し、HAT(ヒストンアセチルトランスフェラーゼ)の非競合的阻害剤として知られるアナカルジン酸に、TDP-43 mRNA量を減少させて、前記病的な性質を改善する活性があることを見出した(特許文献1、非特許文献7)。
一方で、遺伝子発現を特異的に抑制する方法として、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、マイクロRNA等の低分子核酸を用いた方法が知られている。特に、内在性分子であるマイクロRNAは、免疫反応を惹起しにくい薬剤として大いに期待されている。
マイクロRNAは、miRNA-RISC複合体として特定のmRNAの3’UTRに結合し、該mRNAの分解又は翻訳阻害を引き起こしてその発現を抑制する。これまでに、種々の疾患に関わる遺伝子を標的とするマイクロRNAが多数同定され、該マイクロRNA又は該マイクロRNAを標的とする低分子核酸(anti-miR)を有効成分とする薬剤が開発されている(例として、特許文献2−4)。
しかしながら、TDP-43を標的とするマイクロRNAは未だ報告されていない。TDP-43 プロテノパシーにおいて発現が変化するマイクロRNAは多数同定されているが、TDP-43の発現を直接制御し得るマイクロRNAの発見には至っていないのが現状である。
TDP-43タンパクは、マイクロRNAと同様に、自身のmRNAの3’UTRに直接結合して該mRNAの分解を促進することが知られている(非特許文献8)。よって、TDP-43遺伝子に関しては、マイクロRNAに代わって、TDP-43タンパク自身が自らのmRNA量とタンパク量を制御している可能性も考えられている。さらに、TDP-43タンパクが既に発現過多となった細胞では、TDP-43を標的とするマイクロRNAがあったとしても、十分には機能しない可能性も懸念されている。
このような事情から、マイクロRNAを用いたTDP-43 プロテノパシーの治療方法の開発は容易ではないと考えられていた。
特表2015−506905号公報 特許5198430号公報 特許5149528号公報 特表2012−522509号公報
Scotter E.L., et al, Neurotherapeutics, 12:352-363, 2015 Wegorzewska I., et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106:18809-18814, 2009 Swarup V., et al, Brain, 134:2610-2626, 2011 Kasai T., et al, Acta. Neuropathol., 117:55-62, 2009 Wenqiang C., et al, Hum. Mol. Genet., 23:4960-4969, 2014 Li Q., et al, Nat. Commun., 6:6183, 2015 Egawa N., et al, Science Translational Medicine, 4:145ra104, 2012 Swarup V., et al, EMBO J., 30:277-288, 2010
本発明は、前記従来技術が抱える問題に鑑みてなされたものであり、TDP-43を標的とするマイクロRNAを用いたTDP-43 プロテノパシーの予防又は治療用組成物の提供を目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するためにヒトTDP-43遺伝子の3’UTR配列を公共のmicroRNA標的予測プログラムを用いて解析し、標的となる可能性が低いと予測されたmiR-33(=miR-33a及びmiR-33b)が、TDP-43遺伝子を標的とするマイクロRNAであることを見出した。そして、驚くべきことに、TDP-43はヒトニューロン内でmiR-33aの発現を負に制御している調節因子であり、TDP-43 プロテノパシー患者由来iPSCではmiR-33aの発現量が有意に減少していることが明らかとなった。さらに、miR-33a遺伝子を機能的に欠失したヒト運動ニューロン(miR-33a-knockout iPSCから分化した運動ニューロン)では、TDP-43の発現が上昇して神経突起が脆弱になることと、miR-33aの供給によって当該脆弱性が回復することが明らかとなった。
すなわち、ヒトニューロンにおいてmiR-33とTDP-43の発現量は互いの抑制作用の上に均衡しており、このバランスが崩れてTDP-43発現過多となり脆弱化したニューロンにmiR-33を供給すると、当該発現過多が是正されて脆弱性が改善されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明は以下を包含する。
[1] 配列番号1で表されるヒトmiR-33、その変異体、ならびにそれらの前駆体からなる単離されたRNA、及び前記RNAをコードする単離された核酸、
からなる群より選ばれる1以上の核酸を含む、TDP-43 プロテノパシーの予防又は治療用組成物。
[2] 前記変異体が、前記ヒトmiR-33の5’側から第1位の塩基又は第9位以降の塩基における変異である、前記[1]に記載のTDP-43 プロテノパシーの予防又は治療用組成物。
[3] 前記変異が、5塩基以下の置換、欠失、又は挿入である、前記[1]又は[2]に記載のTDP-43 プロテノパシーの予防又は治療用組成物。
[4] 前記前駆体が、二本鎖miRNA及びpre-miRNAである、前記[1]−[3]のいずれかに記載のTDP-43 プロテノパシーの予防又は治療用組成物。
[5] 前記RNAをコードする単離された核酸が、ウイルスベクターに機能的にコードされた核酸である、前記[1]−[4]のいずれかに記載のTDP-43 プロテノパシーの予防又は治療用組成物。
[6] 前記ウイルスベクターが、レンチウイルスベクター又はアデノ随伴ウイルスベクターである、前記[5]に記載のTDP-43 プロテノパシーの予防又は治療用組成物。
[7] 前記RNAが、修飾されたヌクレオチドを少なくとも1以上含む、前記[1]−[4]のいずれかに記載のTDP-43 プロテノパシーの予防又は治療用組成物。
[8] 前記1以上の核酸が、ナノ粒子に内包されている、前記[1]−[7]のいずれかに記載のTDP-43 プロテノパシーの予防又は治療用組成物。
[9] 前記TDP-43 プロテノパシーが、SOD1非関連の筋萎縮性側索硬化症、及び、ユビキチン化封入体を有する前頭側頭葉変性症である、前記[1]−[8]のいずれかに記載のTDP-43 プロテノパシーの予防又は治療用組成物。
本発明により、マイクロRNAによるTDP-43の発現抑制を作用機序とする、TDP-43 プロテノパシーの予防又は治療用組成物が提供される。
以下の図面において、マイクロRNAの発現量はTaqMan MicroRNA assay(Applied Biosystemns社製)による解析結果であり、タンパクの発現量はウェスタンブロット法による解析結果である。また、図中のアスタリスク(*)は、有意性検定の結果、p value<0.05、ダブルアスタリスク(**)はp value<0.01で有意性が認められたことを表す。
図1A:ヒトTDP-43遺伝子の3’-UTR配列に対し、TargetScanを用いてマイクロRNAの標的配列を予測した結果を表す。短いバーは、予測された各マイクロRNAの標的配列の位置を表す。枠で囲んだ2つのバーは、miR-33a/bについて予測された標的配列の位置を表す。図1B:ヒト第22番染色体に存在するSREBP-2遺伝子のイントロン16内にコードされるmiR-33a遺伝子と、該遺伝子から生じるpre-miR-33a及び成熟miR-33a(guide鎖)の関係を表す図である。図1C:前記ヒトTDP-43遺伝子の3’-UTR配列中に予測された、miR-33aとmiR-33bの2つの標的配列(7mer-1A、7mer-m8)を表す。図1D:3’UTR ルシフェラーゼ・レポーターアッセイに用いたレポーター遺伝子(4種類)と内部コントロール遺伝子を説明する図である。図1E、F:図1Dのレポーター遺伝子のいずれかと内部コントロール遺伝子を導入したHEK293T細胞株に、H1::miR-33a Lenti又はH1::miR-con Lentiを感染(図1E)、又はH1::miR-33b Lenti又はH1::miR-con Lentiを感染(図1F)させて24時間後に、ルシフェラーゼ・レポーターアッセイを行った結果を表す(n=3、平均±標準誤差)。 図2A:miR-33a及びmiR-33bの配列(いずれもguide鎖)と、miR-33aの配列の一部を置換した変異型miR-33a(Mutant1-4)の配列を表す。miR-33のシード配列を枠で囲み、各変異体における変異部位を下線で表している。図2B:図1Dのレポーター遺伝子(Normal又はDel1+2)と内部コントロール遺伝子を導入したHEK293T細胞に、図2AのMutant1-4のいずれかをコードするmiR-33a変異体発現プラスミド、又はmiR-con発現プラスミドをトランスフェクションし、48時間後にルシフェラーゼ・レポーターアッセイを行った結果を表す。 図3A:ヒトTDP-43タンパク(野生型又はM337V変異型)をテトラサイクリン誘導性プロモーター(=tetO配列が7回連続したテトラサイクリン応答配列(TRE)を有するCMV最小プロモーター)の制御下に発現するコンストラクトを説明する図である。図中、2つの黒塗り三角は、piggyBacトランスポザーゼ(piggyBac transposase)の標的配列(逆方向末端反復配列)を表す。図3B、C:図3Aのコンストラクトを導入したHEK293T安定発現株(WT TDP-43導入細胞、M337V TDP-43導入細胞)の培地にDOXを添加して48時間後に、TDP-43のタンパク量(図3B)とmiR-33a量(図3C)を解析した結果である(n=3、平均±標準誤差)。図3D:図3BでDOX処理したWT TDP-43導入細胞から細胞溶解液を調整し、抗TDP-43抗体又は正常マウスIgGと結合して免疫沈降(RNA immunoprecipitation;RIP)したRNAを解析した結果を示す。左パネルは、前記免疫沈降分画からPri-miR-33aプライマーセット又はPri-miR-17プライマーセットで増幅されたPCR産物を電気泳動法で解析した結果(ゲルイメージ)を表し、右パネルは、前記Pri-miR-33aプライマーセットで増幅された産物量(シグナル)の定量結果を表す。 図4A:TDP-43遺伝子がknockoutされたヒトiPSC株(TDP-43 KO iPSC)の作製工程を説明する図である。図4B:4つのneomycin耐性クローン(クローン1、2、7、14)に対し、3通りのプライマーセット(A−C)を用いたgenomic PCRによって得られた産物の解析結果である。TDP-43遺伝子のエクソン2内に前記neomycin選択カセットが挿入されたクローンでは、プライマーセットBにより4,035bpのPCR産物を生じるが、挿入されていないクローンでは、2,144bpのPCR産物を生じる。図4C:前記クローン7と14について、Creリコンビナーゼ(Cre recombinase)を発現させた後に、P-t5/P-t6プライマーセットを用いてgenomic PCRを行った結果を表す。前記カセットが除去されたクローンでは536bpのPCR産物を生じるが、前記カセットを保持するクローンでは2,142bpの産物を生じる。図4D:クローン7と14におけるTDP-43のmRNA量を解析した結果である。図4E:クローン7と14に対し、Creリコンビナーゼを発現させる前と後でneomycin耐性遺伝子の発現量(mRNA量)を測定した結果である。図4F:前記選択カセットの除去が確認されたクローン7(TDP-43 KO 1)と14(TDP-43 KO 2)について、核型解析を行った結果を示す。 201B7、TDP-43 KO 1(クローン7)、及びTDP-43 KO 2(クローン14)から分化誘導したニューロン(N)について、TDP-43mRNA量(図5A)、TDP-43タンパク量(図5B、C)、miR-33a量(図5D)、及びコレステロール含有量(図5E)を測定した結果を表す(各々、n=3、平均値±SEM)。 図6A、B:4カ月齢のヒトA315T変異型TDP-43トランスジェニックマウス(TDP-43 Tg A315T)と当該非トランスジェニック同腹仔(non-Tg)から脊髄を摘出し、TDP-43タンパク量(図6A)、miR-33a量(図6B)を解析した結果である。図6C:健常者から樹立したiPSC細胞株(201B7、TIG107、N117113)と、TDP-43遺伝子変異(Q343R変異、G298S変異)を有するALS患者から樹立したiPSC株(A21428株、ND32947E9株)について、miR-33の発現量を解析した結果を表す(n=3、平均値±SEM)。図6D:ヒトニューロンにおけるTDP-43とmiR-33aの関係を表した図である。右側は、TDP-43タンパクとmiR-33aが互いの発現を抑制し合って(両者の発現量が)均衡している状態(Normal condition)、左側は、均衡が崩れてTDP-43の発現が優位になった状態(TDP-43 プロテノパシー)を表す。 図7A:miR-33a遺伝子がknockoutされたヒトiPSC株(miR-33a KO iPSC)の作製工程を説明する図である。最下段の塩基配列は、ドナープラスミド2由来neomycin選択カセットが挿入されたneomycin耐性クローンから、Creリコンビナーゼによって前記カセットが除去された後の塩基配列を示したものである。図7B:5つのneomycin耐性クローン(クローン8、9、14、15、18)に対し、3通りのプライマーセット(A−C)を用いたgenomic PCRによって得られた産物の解析結果である。miR-33a遺伝子領域内に前記neomycin選択カセットが挿入されたクローンでは、プライマーセットBにより3,398bpのPCR産物を生じるが、挿入されていないクローンでは、1,747bpのPCR産物を生じる。図7C:前記クローン15と18のmiR-33a遺伝子領域の塩基配列決定を行い、各クローンで欠失していた塩基配列を説明する図である。図7D:前記クローン15と18について、Creリコンビナーゼを発現させた後に、P-a5/P-a6プライマーセットを用いてgenomic PCRを行った結果を表す。前記カセットが除去されたクローンでは230bpのPCR産物を生じるが、前記カセットを保持するクローンでは1,740bpの産物を生じる。図7E:得られた5つのmiR-33a KO iPSCについて、miR-33aの発現量を解析した結果である。図7F:前記クローン15と18について、核型解析を行った結果を示す。 図8A:201B7、miR-33a KO 1(クローン15)、及びmiR-33a KO 2(クローン18)から分化誘導して得られた運動ニューロン(MN)の純培養系の蛍光顕微鏡イメージである。図8B、C、E:201B7、miR-33a KO 1(クローン15)、及びmiR-33a KO 2(クローン18)から分化誘導したニューロン(N)の培養系に、前記H1::miR-33a Lenti又はH1::miR-con Lentiを感染させて9日後に、miR-33aの発現量(図8B)、TDP-43のタンパク量(図8C)、及びコレステロール含有量(図8E)を測定した結果を表す(各々、n=3、平均値±SEM)。図8D:図8AのMN純培養系に前記H1::miR-33a Lenti又はH1::miR-con Lentiを感染させて9日後に、神経突起長を測定した結果である(各々、n=3、平均値±SEM)。
以下に、本発明の好適な実施形態について詳述する。
本明細書中の“NR_”、“NM_”、“NP_”とそれに続く数字は、NCBI(National Center for Biotechnology Information)データベースに標準配列(Reference Sequence)として登録されているnon-coding RNA遺伝子の塩基配列(NR_〜)、転写物の塩基配列(NM_〜)、アミノ酸配列(NP_〜)のIDを表す。なお、複数の標準配列が登録されているものについては、一のIDのみを例示する。
本発明の第一の態様として、TDP-43遺伝子を標的とするマイクロRNA、その前駆体、及びそれらをコードする単離された核酸から選ばれる1以上の核酸を含む、TDP-43 プロテノパシーの予防又は治療用組成物が提供される。
[マイクロRNAとその前駆体]
マイクロRNAはnon-coding RNAの一種で、部位及び時期特異的に発現して特定の遺伝子(=標的遺伝子)の発現を翻訳段階で抑制する、内在性の遺伝子発現制御因子である。
その生合成過程では、ゲノムからPrimary microRNA(pri-miRNAと略記)として転写された後、約60-100ヌクレオチド程度の領域が切り出されてPrecursor miRNA(pre-miRNAと略記)となる。pre-miRNAは、不完全に対合したステム部分とループ部分からなるヘアピン状の構造を形成したヘアピン型RNAである。pre-miRNAは細胞質に輸送され、RNaseIIIであるDicerによって当該ループ部分が切断されて二本鎖miRNAとなり、さらにプロセシングされて18−26bp程度の二本鎖成熟miRNAとなる。その後、二本鎖又は一本鎖の状態でRNA-induced silencing complex(RISCと略記)に取り込まれ、最終的に片方の成熟miRNAを内包するmiRNA-RISC複合体が形成される。RISCと複合体を形成した一本鎖成熟miRNAはguide鎖と呼ばれ、もう一方の(RISCと複合体を形成しなかった)一本鎖成熟miRNAはpassenger鎖と呼ばれる(Ha M., and Kim NV., Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 15:509-524, 2014)。
miRNA-RISC複合体は、前記内包するmiRNA(guide鎖)と標的mRNAの3’UTR領域との塩基対形成を通じて、該mRNAの切断又は翻訳抑制を行う。この反応に必要なmRNA側の配列は、当該miRNAの標的配列と呼ばれている。そして、多くの場合、前記成熟miRNAの5’側から第2−8位の塩基が当該標的RNAの認識に重要であり、この塩基配列はシード配列(Seed sequence)と呼ばれている。しかしながら、シード配列と標的配列は完全に相補的である必要はなく、一般にmiRNA-RISC複合体はミスマッチを含む塩基対形成を通じて標的mRNAを認識すると考えられている(Wilson R.C., et al, Annu. Rev. Biophys., 42:217-239, 2013)。
pre-miRNAをRNA分子として細胞に直接導入すると、細胞内でDicerによる切断を受けて二本鎖miRNAとなり、最終的に一本鎖成熟miRNAを生じる。また、発現ベクターを用いてpre-miRNAを細胞内で発現させた場合も、転写されたpre-miRNAはDicerに切断されて二本鎖miRNAとなり、最終的に一本鎖成熟miRNAを生じる。
よって、pre-miRNA、二本鎖miRNA、二本鎖成熟miRNAはすべてマイクロRNAの前駆体であり、これらの前駆体のいずれかをRNA分子として細胞に直接導入、又は発現ベクターを用いて細胞内で発現させることで、当該標的遺伝子の発現抑制効果を得ることができる。
Dicerは約60-100ヌクレオチド長のRNAが形成するヘアピン構造を基質として認識し、その5’又は3’端から一定距離離れた部位を切断する(Macrae I.J., et al, Science, 311:195-198, 2006; Park J.E., et al, Nature, 475:201-205, 2011)。Dicerによる切断部位は厳密ではなく、一般に1種類のpre-miRNAから長さの異なる複数の二本鎖RNAが生じる(Starega-Roslan J., et al, Nucleic Acid Res., 39:257-268, 2011)。また、Dicerの基質となり得るヘアピンRNAの構造は多様性に富んでおり、ステム部分の長さ、ステム内のギャップ(塩基対を形成していない部位)の数とその構成ヌクレオチド数、ループを構成するヌクレオチド数が異なるpre-miRNAが多数報告されている(Kozomara A., et al, Nucleic Acid Res., 39:D152-D157, 2011; Kozlowski P., et al, Current Perspectives in microRNAs (miRNA), Springer, Houten, pp.1-16, 2008)。それゆえ、pre-miRNAとして知られる配列に当該ヘアピン構造を壊さない範囲で塩基置換、欠失、挿入等の変異を導入しても、Dicerによって二本鎖miRNAへとプロセシングされることが知られている。
本明細書における“マイクロRNA”とは“guide鎖”を指す。よって、例えば、本明細書における“ヒトmiR-33”とは、特に断りがない限り、配列番号1で表されるmiR-33のguide鎖(具体的には、配列番号2で表されるmiR-33aのguide鎖と、配列番号3で表されるmiR-33bのguide鎖)を指す。
また、本明細書における“pre-miRNA”には、当該guide鎖の配列を保持し、且つ、当該ヘアピン構造を保持し得るpre-miRNAバリアントがすべて包含される。それらのバリアントは、Dicerに切断されて最終的に当該guide鎖を生じ得る(すなわち、当該pre-miRNAとして機能する)からである。
同一のシード配列を有し且つ相同性の高い一本鎖成熟miRNAを生じるpre-miRNAは、ファミリーとして上位概念化されている。例えば、ヒトでは、”UGCAUUG”をシード配列とするmiR-33a(配列番号2)とmiR-33b(配列番号3)が同定されており、これらのpre-miRNAはヒトのmiR-33ファミリーと呼ばれている。本明細書では、miR-33aとmiR-33bを合わせて“(ヒト)miR-33”と呼ぶ場合がある。
[TDP-43を標的とするマイクロRNAとその前駆体]
本発明者らは、ヒトmiR-33が、TDP-43遺伝子の3’-UTR配列(NM_007375の第1379番目から第4216番目までのヌクレオチド配列)における第2108-2114番目の塩基配列(CAAUGCA)を標的配列としてその発現を抑制するマイクロRNAであることを明らかにした。さらに、ヒトmiR-33から当該シード配列(=5’側から第2-8位の塩基配列)以外の塩基配列を一部置換しても、前記TDP-43遺伝子を標的とする活性が損なわれないことを見出した。
よって、miR-33a、miR-33b、及び、当該シード配列以外の塩基配列が一部変異した変異型miR-33a及びmiR-33bは、いずれもTDP-43を標的とするマイクロRNAである。
・miR-33aの前駆体
miR-33a(microRNA 33a、Official Symbol:MIR33A)のguide鎖の塩基配列は配列番号2で表され、pre-miRNAの塩基配列は例えばNR_029507(配列番号10)で表される。当該Pre-miR-33aは、細胞内で下記化学式1で表される二次構造を形成することが明らかとなっている。
前記化学式1において、5’側から第6‐26番目のヌクレオチドがguide鎖となる領域、第46‐67番目のヌクレオチドがpassenger鎖となる領域である。よって、化学式1において、(第1-28番目のヌクレオチドと第42-69番目のヌクレオチドからなる)約28bp程度のステム構造とそれに続くループ構造を壊さない範囲で、第6‐26番目のヌクレオチド以外の配列が変化(具体的には、塩基置換、欠失、及び/又は挿入)したRNAも、pre-miR-33aである。なお、前記化学式1で表されるpre-miR-33aは当該ステム部分に2つのギャップを有するが、これらのギャップは解消されてもよい。
化学式1で表されるpre-miR-33aは、Dicerによって当該ステム部分とループ部分の境界付近が切断されて二本鎖RNA(二本鎖miR-33a)となり、その後第6‐26番目のヌクレオチド(guide鎖)と第46‐67番目のヌクレオチド(passenger鎖)が不完全に対合した二本鎖RNA(二本鎖成熟miR-33a)になる。
よって、前記pre-miR-33a(化学式1で表されるRNAとそのバリアント)と、それらから生じる二本鎖miR-33a及び二本鎖成熟miR-33aは、すべてmiR-33aの前駆体である。
・miR-33bの前駆体
miR-33b(microRNA 33b、Official Symbol:MIR33B)のguide鎖の塩基配列は配列番号3で表され、pre-miRNAの塩基配列は例えばNR_030361(配列番号11)で表される。当該Pre-miR-33bは、細胞内で下記化学式2で表される二次構造を形成することが明らかとなっている。
前記化学式2において、5’側から第16‐35番目のヌクレオチドがguide鎖となる領域、第54‐75番目のヌクレオチドがpassenger鎖となる領域である。よって、化学式2において、(第1-37番目のヌクレオチドと第51-91番目のヌクレオチドからなる)約37bp程度のステム構造とそれに続くループ構造を壊さない範囲で、第16‐35番目のヌクレオチド以外の配列が変化(具体的には、塩基置換、欠失、及び/又は挿入)したRNAも、pre-miR-33bである。なお、前記化学式2で表されるpre-miR-33bは当該ステム部分に6つのギャップを有するが、これらのギャップは解消されてもよい。
化学式2で表されるpre-miR-33bは、Dicerによって当該ステム部分とループ部分の境界付近が切断されて二本鎖RNA(二本鎖miR-33b)となり、その後第16‐35番目のヌクレオチド(guide鎖)と第54‐75番目のヌクレオチド(passenger鎖)が不完全に対合した二本鎖RNA(二本鎖成熟miR-33b)になる。
よって、前記pre-miR-33b(化学式2で表されるRNAとそのバリアント)と、それらから生じる二本鎖miR-33b及び二本鎖成熟miR-33bは、すべてmiR-33bの前駆体である。
・ヒトmiR-33変異体とその前駆体
本発明に用いることができるヒトmiR-33変異体は、TDP-43遺伝子の発現抑制活性を保持した変異体である。そのような変異体としては、当該シード配列以外の塩基配列に変異を有する変異体が挙げられる。当該変異は、塩基置換、欠失、挿入のいずれでもよく、5塩基以下の変異であることが好ましい。さらに好ましくは、4塩基以下、3塩基以下、2塩基以下、1塩基の塩基置換、欠失、又は挿入である。また、連続した5塩基、4塩基、3塩基、2塩基の塩基置換、欠失、又は挿入であってもよい。
前記変異部位は、最も好ましくは、配列番号1の塩基配列において5’側から第2-8位の塩基以外の塩基(=第1位の塩基、及び/又は第9位以降の塩基)であり、さらに第12-16位の塩基を除く部位(=第1位の塩基、第9-11位の塩基、及び/又は第17位以降の塩基)であるとが一層好ましい。当該第9-11位の塩基、及び/又は第17位以降の塩基を置換しても、TDP-43遺伝子の3’UTRに結合して発現を抑制する活性が損なわれないことを確認しているからである。
本発明にかかるヒトmiR-33変異体の例として、配列番号4−6で表される塩基配列を有するRNAが挙げられる。当該変異体は、miR-33a及びmiR-33bとほぼ同程度のTDP-43発現抑制活性を有しており、本発明に好適に用いることができる。
本発明にかかるヒトmiR-33変異体の前駆体は、前記miR-33aの前駆体及びmiR-33bの前駆体において、当該guide鎖の配列に前述した変異のいずれかが導入されたものである。
・ヌクレオチド/RNAの修飾
本発明にかかるマイクロRNAとその前駆体は、安定性の向上を目的として、修飾ヌクレオチド(ヌクレオチド類似体を含む)を好適に含むことができる。そのような修飾ヌクレオチドの例として、糖修飾リボヌクレオチド、骨格修飾リボヌクレオチド、及び塩基修飾リボヌクレオチド等が挙げられる。
本発明に好適に用いることができる糖修飾リボヌクレオチドの例としては、糖の2’位のOH基が、H、OR、R、SH、SR、NH2、NHR、NR2、CN、及びHalogenから選択される基で置換されたリボヌクレオチドが挙げられる。前記Rは、C1-C6、好ましくはC1-C6のアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、又はアルキニル基であり、特に好ましくはメチル基、エチル基、メトキシエチル基、アミノ基、アミノプロピル基、又はイソプロピル基である。また、前記Halogenは、好ましくはF、Cl、Br、又はIであり、特に好ましくはFである。
上記のうち、2’-フルオロ、2’-O-メチル、又は2’-O-メトキシエチル修飾されたリボヌクレオチドを特に好適に用いることができる。
本発明にかかるマイクロRNAとその前駆体は、S化ヌクレオチド(Phosphorothioate)を含むことで、糖−リン酸間がホスホロチオエート結合で結合していてもよい。DNA/RNAのホスホロチオエート化は、当該塩基対形成に影響を与えずに高いヌクレアーゼ耐性を付与し得るので、本発明に特に好適に用いることができる。
また、本発明にかかるマイクロRNAとその前駆体は、非天然由来の塩基を含有するリボヌクレオチド、例えば5位で修飾されたウリジン又はシチジン(例として、5-(2-アミノ)プロピルウリジン、5-ブロモウリジン)、8位で修飾されたアデノシン及びグアノシン(例として、8-ブロモ−グアノシン)、デアザヌクレオチド(例として、7-デアザアデノシン)、及びO-及びN-アルキル化ヌクレオチド(例として、N6-メチルアデノシン等を含んでいれもよい。
さらに、糖の2’位の酸素原子と4’位の炭素原子がメチレン結合を介して架橋した2’,4’-BNA(bridge nucleic acid)/LNA(Locked Nucleic Acid)(Koshkin et al., J. American Chemical Society, 120:13252-13253, 1998)、ENA(2’-O,4’-C-Ethylene-bridged Nucleic Acids)(WO2000/047599)、フラノース環の酸素原子を硫黄原子に置換した4’−チオヌクレオチド(Dande, P., et al, J. Med. Chem., 49:1624-1634, 2006、WO2004/18494)等のヌクレオチド類似体も、本発明に好適に用いることができる。
上記修飾ヌクレオチドはいずれも公知技術であり、オリゴ核酸の生体内安定性を向上させる方法として汎用されている(Summerton and Weller, Antisense Nuc. Acid Drug Dev., 7:187-195(1997);Hyrup et al., Bioorgan.Med.Chem.,4:5-23(1996)、参照)。本発明においては、前記マイクロRNA及びその前駆体の一部又は全部を、前述した修飾ヌクレオチドから選ばれる1種又は2種以上の修飾ヌクレオチドに置換してもよい。
また、組織特異的なデリバリーや細胞膜透過性の向上を目的として、ペプチド、アプタマー、疎水性分子等を本発明にかかるマイクロRNA及び当該前駆体の末端(5’端及び/又は3’端)ヌクレオチドにコンジュゲートしてもよい。この目的に好適な疎水性分子としては、コレステロール、ビタミンE(α-tocopherol)、パルミトイル基等が挙げられる(WO2005/115481、Uno Y., et al, Human Gene Therapy, 22:711-719,2011)。
上記修飾は組み合わせて用いてもよく、例えば、前記S化されたRNAに上述したペプチド、アプタマー、疎水性分子等をコンジュゲートさせてもよい。また、末端とそれ以外の部位に異なる種類の前記修飾ヌクレオチドを含んでもよい。
本発明にかかるマイクロRNA前駆体の好適な実施態様の一つとして、miR-33配列がS化ヌクレオチドで構成される一本鎖RNA(配列番号8)と、該一本鎖RNAと相補的な配列を有し、片端にコレステロールが付加された一本鎖RNA(配列番号9)とからなる二本鎖RNAが例示される(化学式3)。当該前駆体は、二本鎖RNAの状態で細胞膜を透過することができ、当該miR-33配列を有するRNA鎖のmiRNA-RISC複合体中での安定性も高く、患者への導入が容易で且つ効果の持続性が高いという利点を有している。
[TDP-43を標的とするマイクロRNAとその前駆体をコードする単離された核酸]
本発明における“単離された核酸”とは、“該核酸が由来する生物のゲノム内で直接隣接していた核酸配列から分離された核酸”を指す。よって、ゲノム中にコードされるmiR-33aは単離された核酸ではないが、ゲノムから転写されたpri-miR-33と以降のプロセシング産物(pre-miR-33a、二本鎖、二本鎖成熟、一本鎖成熟)はすべて単離された核酸である。また、人工的に合成された核酸は単離された核酸であり、PCR法を用いて増幅されたDNA断片も単離された核酸である。
これらの単離された核酸は、本発明にかかる組成物中で、核酸分子として独立して存在していてもよく、また、前記ゲノム内で隣接していた配列とは異なる配列に接続していてもよい。よって、前記人工的に合成された核酸又はPCR法で増幅されたDNA断片がプラスミドや発現ベクターに組み込まれた状態も、単離された核酸に相当する。
本発明において、前記TDP-43を標的とするマイクロRNAとその前駆体をコードする単離された核酸は、発現ベクターに機能的にコードされた核酸であることが好ましい。本発明において“発現ベクターに機能的にコードされる”とは、“該ベクターから発現する態様で該ベクター中にコードされる”の意であり、具体的には、前記RNAをコードする核酸が、プロモーターと転写終了に必要な制御配列(ターミネーター配列等)に機能的に接合された態様で該ベクター中に組み込まれている状態を指す。なお、当該発現ベクターに機能的にコードされた核酸は、DNA、RNAのいずれであってもよい。
前記プロモーターとしては、SV(Simian virus)40プロモーター、CMV(Cytomegaro virus)プロモーター、β-Actinプロモーター、EF(elongation factor)1α プロモーター、CAGプロモーター等のRNA Polymerase II系プロモーター、及び、U6及びH1プロモーター等のRNA Polymerase III系プロモーターを好適に用いることができる。
なお、前記TDP-43を標的とするマイクロRNA等をコードする核酸は、DNA、RNAのいずれであってもよい。
前記目的に好適に用いることができる発現ベクターは、ウイルスベクター、非ウイルスベクターのいずれでもよいが、好ましくはウイルスベクターである。
本発明に用いることができるウイルスベクターの例としては、これらに限定されるものではないが、組換えアデノウイルス、レトロウイルス等が挙げられ、より具体的には、例えば、無毒化したレンチウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス等が挙げられる。このうち、レンチウイルス及びアデノ随伴ウイルスが好ましく、最も好ましくはアデノ随伴ウイルスである。
アデノ随伴ウイルスは、パーキンソン症、アルツハイマー症等の遺伝子治療の臨床試験で成果を挙げていることに加えて、種々の神経変性疾患モデルマウスに対して、遺伝子又はマイクロRNAを神経特異的に発現させて治療効果を奏することが報告されており(特許4279141号参照)、本発明に特に好適に用いることができる。例えば、CMVプロモーター制御下にmiR-196aをコードするアデノ随伴ウイルスを含む組成物を球脊髄性筋萎縮症モデルマウスの骨格筋に注射することで、該ベクターが軸策内を逆行輸送されて脊髄運動ニューロンの細胞体に到達し、当該標的遺伝子の発現が抑制されて治療効果が得られたこと(Miyazaki Y., et al, Nat. Medicine, 18:1136-1144, 2012)、神経特異的プロモーター(Synapsin遺伝子プロモーター)の制御下にADAR2遺伝子をコードするアデノ随伴ウイルスを含む組成物をALSモデルマウスに静脈注射することで、該遺伝子がニューロン特異的に発現して治療効果が得られたこと(Yamashita T., et al, EMBO Mol. Med., 5:1710-1719, 2013)等が報告されており、これらの技術を本発明に転用してもよい。
前述したウイルスベクターは、当該プロモーターの改変も含めて、公知の方法で作製することができる。
非ウイルスベクターとしては、これらに限定されるものではないが、pSilencer H1-puro(Applied biosystem社)、BLOCK-iTTMPol II miR RNAi Expression Vector(Invitrogen社)等が例示される。これらの非ウイルスベクターは、商業的に入手可能である。
[TDP-43 プロテノパシーの予防又は治療用組成物]
本発明にかかるTDP-43 プロテノパシーの予防又は治療用組成物は、有効成分として、前記TDP-43を標的とするマイクロRNA、当該前駆体、及びそれらをコードする単離された核酸から選ばれる1以上の核酸を含むものである。本発明にかかる組成物は、前記有効成分の他に、医薬的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、アジュバント等を含むことができ、通常の製薬に用いられる方法によって製造することができる。
本発明にかかる組成物の好適な態様の一つとして、液体の組成物が挙げられる。当該液体の組成物は、前記有効成分を、医薬上許容される液体担体に溶解又は懸濁することで製造してもよい。前記液体担体としては、例えば、水、生理的食塩水、注射用水溶液、リンゲル液等の公知の液体担体を用いることができ、さらに薬学的に許容される塩が含まれていてもよい。本発明にかかる組成物が前記単離された核酸を含む場合には、前記液体担体として核酸医薬用キャリアーを追加してもよく、そのような例としてカチオン性脂質やアテロコラーゲン(特許第5145557号)等が挙げられる。また、本発明にかかる組成物が前記ウイルスベクターにコードされる核酸を含む場合には、前記賦形剤として1以上の二価アルコール又は多価アルコールと、非イオン性界面活性剤(例として、ソルビタンエステルやTWEEN化合物)を追加してもよい(WO00/32233参照)。
本発明にかかる液体の組成物は、前記有効成分を薬物送達用ナノ粒子に封入した後、該ナノ粒子を医薬上許容される液体担体に懸濁することで製造してもよい。薬物送達用ナノ粒子は、脂質、タンパク質、多糖類、及び合成高分子等多様な材料から調製される粒子径10〜1000nmの粒子分散液または固形粒子であり、リポソーム、ミセル、金属ナノ粒子、及び高分子ナノ粒子等が例示される。リポソームの具体例としては、N-[2,3-(ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)やジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)等を主成分とするものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、前記ナノ粒子の表面は、生体適合性や送達特性の向上を目的として種々の物質で修飾されていてもよい。
これらの薬物送達用ナノ粒子は、当業者に周知の方法に従って製造することが可能である。
本発明にかかる液体の組成物の好適な実施形態の一つとして、前記有効成分を内包させた乳酸・グリコール酸共重合体(poly-lactide-co-glycolide;PLGA)からなるナノ粒子(PLGAナノ粒子)の分散液が挙げられる。当該PLGAナノ粒子の平均粒子径は、動的光散乱法による値として50-200nm、より好ましくは60-150nm、最も好ましくは70-100nmであり、粒子表面はキトサンで修飾されていてもよい。また、当該分散液には、分散安定化剤(例として、ポリビニルアルコール等)やpH調整剤(例として、クエン酸水和物等)が含まれていてもよい。
PLGAナノ粒子の製造と本発明にかかる有効成分の該粒子への封入は、例えば、特許4340744号に記載された方法に従って行っても良い。PLGAナノ粒子は、生体適合性、生体内分解性、及び徐放性に非常に優れることから、前述した本発明にかかる有効成分を内包するPLGAナノ粒子の分散液は、吸入薬剤、筋注薬剤、ステント等として用いることも可能である(Tsukada Y., et al, New Developments in Polyactic Acid Research, published by Nova Science Publishers、 Chapter 6、pp153-182、2015;塚田雄亮他、PLGAナノ粒子が拓く新たなDDS製品の開発と実用化、医薬ジャーナル、第50巻、第73-80頁、2014年、参照のこと)。
[投与方法]
本発明にかかるTDP-43 プロテノパシーの予防又は治療用組成物は、当該分野において公知の方法を用いて患者に投与することができる。例えば、前記液体の組成物を、静脈注射や輸液によって全身投与してもよく、又は、定位固定注射、ニードルやカテーテル、浸透圧ポンプやインフュージョンポンプ、薬剤溶出型ステント等を用いて脳室又は髄腔内に局所的に投与してもよい。さらに、本発明にかかる組成物が前記有効成分をウイルスベクターにコードされる状態で含む場合には、筋肉(好ましくは骨格筋)への定位固定注射によって投与してもよい。
ニードル又はカテーテルを脳室又は脊髄に注入して薬剤を送達する方法は、当該分野において公知である(Stein et al., J. Virol, 73:3424-3429,1999;Davidson et al., PNAS, 97:3428-3432,2000;Alisky and Davidson, Hum.Gene Ther., 11:2315-2329,2000等)。そして、浸透圧ポンプやインフュージョンポンプを用いた脳への薬物送達は、Convection-enhanced delivery(CED)(米国特許6,309,634号)として良く知られている。例えば、米国特許5735814号、6042579号、5814014号では埋め込み可能なポンプ及びカテーテルを用いた脳への注入システムが開示されており、これらの方法を用いてもよい。また、薬物を脳及び脊髄に送達するための装置も多数市販されており(例えば、SynchroMed(登録商標)、EL Infusion System社製)、これらの装置を用いてもよい。
投与量及び投与頻度は、対象におけるTDP-43遺伝子変異の有無、症状の重さ、年齢、体重等の種々の要因に応じて調節することができる。また、対象の脳脊髄液中のTDP-43濃度を測定することで決定してもよい。対象の脳脊髄液中のTDP-43濃度を健常者の該濃度(正常範囲)を下回らない範囲内で減少させる投与量及び投与頻度を、有効と判断してもよい。
なお、本発明における“健常者”とは、TDP-43 プロテノパシーに罹患していない者の意である。
本発明にかかるTDP-43 プロテノパシーの予防又は治療用組成物は、その他の薬剤と併用してもよい。併用薬としては、例えば対象疾患がALSの場合には、既存のALS治療薬であるリルゾール(商品名:リルテック(登録商標)(サノフィ社))や、WO2012/029994に記載の1,3-ジフェニル尿素誘導体又はマルチキナーゼ阻害剤、WO2011/074690に記載のHMG-CoA還元酵素阻害剤、又は、アナカジン酸(Egawa, N et al, Sci Transl Med.4(145):145ra104.doi:10.1126)等を挙げることができる。これらの薬剤は、例えば、ALSの治療に通常使用される投与量・投与経路で使用することができる。
[対象疾患]
本発明にかかる組成物は、TDP-43 プロテノパシー患者及び該疾患が疑われる患者に対し、予防又は治療薬として好適に投与することができる。TDP-43 プロテノパシーは、TDP-43タンパクの構造的異常及び細胞内局在異常を伴う神経変性疾患で、代表的な疾患としては、大部分の孤発性ALS、多くのSOD1非関連家族性ALS、大部分の孤発性及び家族性FTLD-Uが挙げられる。
また、本発明にかかる組成物は、脳脊髄液中のTDP-43濃度が病的に高い患者に対し、TDP-43 プロテノパシーの予防薬として用いてもよい。
[ニューロン及び運動ニューロン]
本発明においてニューロン(Neuron;N略記する場合がある)とは、β-III tubulin、NCAM、MAP2等のニューロンのマーカー遺伝子を1以上発現し、且つ、神経突起を有する細胞と定義される。また、本発明において運動ニューロン(Motor neuron;MNと略記する場合がある)とは、HB9、ChAT(choline acetyltransferase)等の運動ニューロンのマーカー遺伝子を1以上発現するニューロンと定義される。
近年、種々の疾患モデル動物(主にマウス)に対して有効であった薬剤が臨床試験では有効性を示さないケースが多発しており、ヒト細胞とマウス細胞の違いが見直されている。特にニューロンは、ヒトから侵襲性の低い方法で単離することができないため、iPSCを分化誘導して得られるニューロン及び運動ニューロン(本明細書では、iPSC-N、iPSC-MNと略記)に薬物評価系として多大な期待が寄せられている。ヒトiPSCから分化させた細胞を用いて薬物の毒性又は有効性を検証する試みは、心疾患及び肝疾患の分野で既に多くの実績を挙げており(Guo L., et al., Toxicol. Sci., 123:281-289, 2011; Medine C.N., et al., Stem Cells Transl. Med., 2:505-509, 2013; Scott C.W., et al., Toxicol. Lett., 219:49-58, 2013)、iPSC由来分化細胞を用いた薬物毒性試験は前臨床試験的な位置づけが与えられつつある(Inoue H., et al, EMBO, 33:409-417, 2014)。また、神経疾患の分野でも、iPSCから分化させたニューロンで有効性が認められた既存薬(抗てんかん薬のRetigabine)に対し、米国でALSの第II相臨床試験が計画されている(ClinicalTrials.gov Identifier:NCT02450552、 https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02450552)。
ヒトmiR-33は、ヒトiPSC由来ニューロンが備えるTDP-43発現抑制因子であることから、ヒトに対する有効なTDP-43発現抑制剤と考えられる。
さらに、本発明は、第二の態様として、TDP-43遺伝子を標的とするマイクロRNA、その前駆体、及びそれらをコードする単離された核酸から選ばれる1以上の核酸を対象に投与することでTDP-43 プロテノパシーを予防又は治療する方法を提供する。前記マイクロRNAとその前駆体、投与方法、及び対象疾患等については上述した通りである。
miR-33aは、ヒト第22番染色体に存在するSREBP-2(sterol regulatory element-binding transcriptional factor 2、Official Symbol:SREBF2、NM_004599)遺伝子のイントロン16内に、miR-33bは、ヒト第17番染色体に存在するSREBP-1遺伝子(sterol regulatory element-binding protein 1、Official Symbol:SREBF1、NM_001005291)のイントロン17内にコードされるマイクロRNAである。
SREBP-1は脂肪酸代謝、SREBP-2はコレステロール代謝の中心的な転写因子である(Brawn M.S., and Goldstein J.L., Cell, 89:331-340, 1997)。ヒトmiR-33及びマウスmiR-33は、コレステロール逆輸送を担うATP-binding cassette transporter A1(ABCA1)を標的としており、miR-33の発現抑制は動脈硬化を改善することが示されている(Horie T., et al, Nat. Commun., 4:2883, 2013)。そのため、ヒトmiR-33のanti-miRは、コレステロール関連疾患の治療薬として非常に期待されている(例として、特許文献4)。
このように、ヒトmiR-33は、脂肪酸及びコレステロール代謝疾患との関係が非常に注視されており、神経系及び神経疾患の分野でこれまで注目されることがなかった。また、ALS患者についてこれまで行われたゲノムワイド関連解析(Genome-wide Association Study)結果は公共のデータベース(ALSGebe-GWAS、http://www.alsgene.org/)として整備されているが、該疾患と相関するpolymorphismは、miR-33a遺伝子配列、及びTDP-43遺伝子内に見出されたmiR-33a標的配列内には報告されていない。
よって、antimiRでなく、ヒトmiR-33そのものを予防又は治療薬とする用途(方法)、さらには、該ヒトmiR-33を神経変性疾患の予防又は治療薬とする用途(方法)は、本発明において初めて見出されたものである。
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。最初に、下記実施例で用いた主な実験手法を説明し、使用したオリゴヌクレオチドの配列を表1に示す。
[手法1]3’UTR ルシフェラーゼ・レポーターアッセイ
・レポーター遺伝子の作製とアッセイ用細胞の作製
健常者由来iPSC株(201B7株)から抽出したtotal RNAを鋳型としてPCRを行い、ヒト野生型TDP-43遺伝子の3’UTR全長を含むDNA断片を得た。当該3’UTR領域をPNL2.2[NlucP/Hygro] vector(Promega社製)にクローニングして、SV40プロモーターに制御され、且つ、3’UTRとして前記ヒト野生型TDP-43 3’UTR全長を有するNlucPルシフェラーゼ遺伝子(=図1D中の“Normal”)を作製した。以降、当該NlucPルシフェラーゼ遺伝子を“野生型レポーター遺伝子”と呼ぶ場合がある。
さらに、In-Fusion HD cloning kit(Clontech社製)を用いて、前記野生型レポーター遺伝子の3’UTRから7mer-1A、7mer-m8、又は7mer-1Aと7mer-m8領域が欠失した3種類の変異型レポーター遺伝子を作製した(=図1D中の“Del1”、“Del2”、“Del1+2”)。
内部コントロール用レポーター遺伝子としては、チミジンキナーゼプロモーターに制御されるfireflyルシフェラーゼ遺伝子(pRL-TK vector、Promega社製)を用いた。
Tol2 transposon法を用いて、前記4種類のレポーター遺伝子のいずれかと、前記内部コントロール遺伝子がゲノムに挿入されたHEK293T細胞株を作製した。
・miR-33a又はmiR-33bを機能的にコードするレンチウイルスの作製
201B7 iPSCから抽出したgenomic DNAを鋳型としてPCRを行い、配列番号10で表されるヒトpre-miR-33aを含むDNA断片を得た。当該pre-miR-33a領域を、pHL-H1-ccdB-mEF1a-RiHベクター(addgene社よりplasmid #60601として入手可能)にクローニングして、H1プロモーターによって転写開始が制御され、poly(T)7で転写終結するpre-miR-33aをコードするプラスミド(以降、“野生型miR-33a発現プラスミド”と呼ぶ)を作製した。当該野生型miR-33a発現プラスミドから前記pre-miR-33a転写単位(すなわち、H1プロモーターからpoly(T)7まで)を含むDNA断片を切り出して、Lenti-6PW(Life technologies社製)にサブクローニングし、H1プロモーターによって転写開始が制御され、poly(T)7で転写終結するpre-miR-33aをコードするレンチウイルス(以降、“H1::miR-33a Lenti”と呼ぶ)を作製した。
同様の手順により、H1プロモーターに制御され、poly(T)7で転写終結するpre-miR-33b(配列番号11)をコードするレンチウイルス(以降、“H1::miR-33b Lenti”と呼ぶ)を作製した。
コントロールとして、前記pre-miR-33aの代わりに、pcDNA6.2-GW/EmGFP-miR-neg Control vector(Invitrogen社製)の“pre-miRNA control insert”(配列番号12、PCRで増幅)をコードするLenti-6PW(以降、“H1::miR-con Lenti”と呼ぶ)を作製した。
・miR-33a変異体を機能的にコードするプラスミドの作製
前記野生型miR-33a発現プラスミドに変異を導入して、図2に示される4種類のmiR-33a変異体(Mutant1-4)を機能的にコードしたプラスミド(以降、“miR-33a変異体発現プラスミド”と呼ぶ)を作製した。
コントロールとして、前記pre-miR-33aの代わりに、前記”pre-miRNA control insert”をH1プロモーターの制御下にコードするプラスミド(以降、“miR-con発現プラスミド”と呼ぶ)を作製した。
・ルシフェラーゼ・レポーターアッセイ
実施例1では、前記アッセイ用HEK293T細胞株に前記H1::miR-33a Lenti又はH1::miR-con Lentiを感染させて、24時間後に、Nano-Glo及びOne-Glo luciferase assay system(Promeg社製)を用いて当該NlucPルシフェラーゼ及びfireflyルシフェラーゼの活性を測定した。NlucPルシフェラーゼ活性はfireflyルシフェラーゼ活性で標準化し、コントロール細胞(=H1::miR-con Lentiを感染させた細胞)に対する相対値として評価トした。
実施例2では、前記アッセイ用HEK293T細胞株に前記miR-33a変異体発現プラスミド又はmiR-con発現プラスミドをリポフェクションして、48時間後に、実施例1と同じ手法を用いてNlucPルシフェラーゼ及びfireflyルシフェラーゼの活性を測定・評価した。
[手法2]miR-33a-knockout iPSCの作製
米国マサチューセッツ工科大学から無償で提供されているCRISPR Design(http://crispr.mit.edu/)を用いて、miR-33a遺伝子のシード配列近傍に二本鎖切断を導入し得るguide RNAペア(配列番号13で表されるmiR-33a KO gRNA-1a、配列番号14で表されるmiR-33a KO gRNA-2a)をデザインし、発現ベクターにクローニングした。また、miR-33a遺伝子を含むゲノム領域をPCRで増幅し、loxP配列を両端に有するneomycin選択カセットの上流及び下流に該増幅された核酸を相同アームとして配したコンストラクト(以降、“ドナープラスミド2”と呼ぶ)を作製した。
1×106のヒト健常者由来iPSC株(201B7)に、3μgの前記各gRNA-1a,2a発現プラスミド、10μgの前記ドナープラスミド2、及び5μgのCas9NダブルニッキングプラスミドをNepa21エレクトロポーレーター(NepaGene社製)を用いて導入し、フィーダー細胞上に播種した(Cho S.W., et al, Genome Res., 24:1012-1019, 2014)。10μMのY-27632含有ES培地中で1日間培養した後、前記導入から3-13日後にかけてneomycinによる選別を行い、neomycin耐性コロニーを得た。当該耐性コロニーからクローンを作製し、3通りのプライマーセット(A、B、及びC)を用いてgenomic PCRを行った。プライマーセットA(P-a1とP-a2)とプライマーセットC(P-a3)とP-a4)は、前記選択カセット挿入の有無に関わらず、各々1,038bp、1,084bpのPCR産物を生じるが、プライマーセットB(P-a1とP-a4)は、前記選択カセットが挿入された場合には3,398bp、未挿入の場合には1,747bpのPCR産物を生じる(図7B)。これにより、プライマーセットBで3,398bpの産物を生じたクローン(すなわち、前記neomycin選択カセットが染色体に挿入されたクローン)として、5クローンが得られた。
前記5クローンにCreリコンビナーゼ発現プラスミドを導入した後、プライマーセット(P-a5とP-a6)を用いてgenomic PCRを行い、前記選択カセットが除去されたクローンを選択した。その後、塩基配列決定を行い、当該クローンのゲノムDNAから前記カセットが除去されていることと、miR-33a遺伝子内の当該シード配列の全長又は一部が欠失していることを確認した。
なお、前記プライマーP-a1からP-a6の塩基配列は、配列番号17から22として表1に示したものである。
[手法3]iPSCからMNへの分化誘導
SFEBq(quick embryoid body-like aggregate method)法を用いて、iPSCから運動ニューロン(Motor neuron、本明細書ではMNと略記することがある)へ分化誘導した(非特許文献7参照)。具体的には、ヒトiPSCを単一細胞に解離させ、Matrigen(BD Bioscience社製)でコートしたU型96-well plateを用いて、2μM dorsomorphin及びSB431542含有5% DFK medium(5% KSR medium(DFK 5%)、Dulbecco’s modified Eagle’s medium/Ham’s F12(Sigma-Aldrich社製)、5% KSR(Invitrogen社製)、Minimum essential medium-nonessential amino acids(Invitrogen社)、L-glutamine(Sigma-Aldrich社製)、2-mercaptoethanol(Wako))中で培養を開始し(=当該培養開始日を分化誘導開始日(すなわち、Day0)とする)、12日間培養して再凝集させた。その後、B27サプリメント、1μM レチノイン酸、1mM Smoothened agonistを含有するNeurobasal medium中で培養し、Day22に当該凝集塊(付着性の胚葉体)をMatrigel-coated dishに播種して接着させた。当該付着性の胚葉体は、10ng/ml BDNF、10ng/ml GDNF、10ng/ml NT-3を含有するNeurobasal medium中で培養した。Day35に、Accutase(Innovative Cell Technologies社製)を用いて前記胚葉体を単一細胞又は小塊に解離させ、P3 maturation stageのニューロンとして、500,000 cells/mlの細胞密度でMatrigel-coated 24-well dishに播種した。
当該方法では、Day35以降にMNに分化した細胞が得られ、Day50くらいにかけてMN数が増加する。なお、当該培養系は、MNとそれ以外のニューロンに分化した細胞を含む、ヘテロな細胞集団である(非特許文献7参照)。
[手法4]iPSC-MN純培養系の作製
前記手法3に従ってMNへの分化誘導を行ったiPSCに対し、MNに分化した細胞を生きたままGFP蛍光で識別できるように、HB9プロモーターに制御されるGFP遺伝子をコードしたレンチウィルス(HB9::GFP lentivirus、非特許文献7を参照)を感染させた。Day50にAccutaseを用いて単一細胞に解離させた後、FACS AriaII(BD Bioscience社製)に供し、FACS Diva software(BD Bioscience社製)で解析して、GFP陽性細胞(すなわち、MN)を分取した。また、7-aminoactionomycin-D(7-AAD、BD Bioscience社製)染色を行い、死細胞を除去した。得られたGFP陽性生細胞を、20,000-30,000 cells/wellの細胞密度でMatrige-coated 96-well platesに播種し、iPSC-MNの純培養系を作製した。
[手法5]miR-33a及びmiR-33b発現量の測定
miRNeasy mini/macro kit(QIAGEN社製)を用いて細胞からtotal RNAを抽出し、TaqMan MicroRNA Assays(Applied Biosystemns社製)のhsa-miR-33a検出キット(Assay ID:000424、Assay Name:hsa-miR-33a)、hsa-miR-33b検出キット(Assay ID:001565、Assay Name:hsa-miR-33b)、U6 snRNA検出キット(Assay ID:001973、Assay Name:U6 snRNA)を用いて、miR-33a、miR-33b、U6 RNA量を各々測定した。得られたシグナルをStepOne software v2.1(Applied Biosystemns社製)を用いて解析し、miR-33a、miR-33bのシグナルを各々U6 snRNAのシグナルに対する相対値として表した。
[手法6]TDP-43発現量の測定
TDP-43のmRNA量:細胞からmiRNeasy mini/macro kit(QIAGEN社製)を用いてtotal RNAを抽出し、human TDP-43-Fw(配列番号29)とhuman TDP-43-Rv(配列番号30)を用いてqRT-PCRを行い、得られたPCR産物のシグナルを定量化した。TDP-43 mRNA量は、GAPDHのシグナルに対する相対値として表した。
TDP-43のタンパク量:細胞又は組織を、1% SDS含有lysis buffer(Complete mini protease inhibitorとphosphatase inhibitor(Roche社製)を含む)中で超音波処理(sonication)して破砕し、細胞抽出液を得た。当該抽出液(タンパク20μg分)に対し、抗TDP-43抗体(ProteinTech社製、1:1000倍希釈)を用いてウェスタンブロット法を行い、TDP-43タンパク量を測定した。TDP-43タンパク量は、βアクチンのタンパク量に対する相対値として表した。
[手法7]コレステロール含有量の測定
約500,000細胞分のiPSC-Nを遠心によって回収し、Cholestery Ester Assay Kit(BioVision社製)を用いて総コレステロール量を測定した。解析では、EnVision Multilabeled Reader(PerkinElmer社製)を用いて570nmの吸光度を測定した。
[手法8]神経突起長の測定
iPSC-MNの神経突起長の測定は、IN Cell Analyzer 2000又は6000(GE Healthcare社製)を用いて行った。視野中のGFP陽性神経突起の長さの総和を測定し、GFP陽性細胞数で除して、iPSC-MNあたりの神経突起長を算出した。各実験につき8視野ずつ解析し、平均値とその標準誤差を算出した。
本願実施例で得られた結果に対する有意性検定は、two-tailed Student’s t-tests又はDunnett post hoc testを用いて行った。P value<0.05の場合に有意性ありと判断した。
[実施例1]ヒトTDP-43遺伝子を標的とするマイクロRNAの同定
ヒトTDP-43遺伝子の発現を抑制し得るマイクロRNAを同定するために、公共のマイクロRNA標的予測プログラムであるTargetScanversion v6.2(http://www.targetscan.org/)を用いて、ヒトTDP-43遺伝子(mRNA)の3’-UTR配列(NM_007375の第1379番目から第4216番目までのヌクレオチド配列、計2838nt)を解析した。TargetScanは、対象となるmRNA配列に対して既に登録されているマイクロRNAの標的配列を検索し、当該標的配列の異種ゲノム間における保存率と当該RNA分子間の熱力学的モデリング結果を考慮して、標的配列となり得る可能性を評価するプログラムである。解析結果を図1Aに示す。
図1Aに示されるように、ヒトTDP-43遺伝子の3’-UTR配列中には、40種類のマイクロRNAファミリーの標的となり得る配列が予測された。具体的には、標的配列となる可能性が非常に高い“Conserved sites for miRNA families broadly conserved among vertebrates(=脊椎動物間で広く保存されているマイクロRNAファミリーの標的配列と相同性の高い配列)”としてヒットした34種類と、標的配列となる可能性が高い“Conserved sites for miRNA families broadly conserved only mammals(=哺乳類間で保存されているマイクロRNAファミリーの標的配列と相同性の高い配列)”としてヒットした6種類のマイクロRNAファミリーである。
一方で、TargetScanは、“Poorly conserved sites for miRNA families conserved among mammals or vertebrates(=哺乳類間又は脊椎動物間で広く保存されているマイクロRNAファミリーの標的配列と相同性の低い配列)”として、58種類のマイクロRNAファミリーを予測した(図1)。これらは、ヒトTDP-43遺伝子の3’-UTR配列中に当該標的配列と相補性の高い配列は見出されるが、標的とする可能性は低いと判断されたマイクロRNAである。
本発明者らは、当該可能性の低いマイクロRNA中に、miR-33ファミリー(具体的には、miR-33aとmiR-33b)が含まれていることに着目した。前述したように、ヒトmiR-33は、ABCA1遺伝子を標的とし、脂肪酸及びコレステロールの代謝制御に寄与することで知られるマイクロRNAである。本発明者らはこれまでの研究により、TDP-43遺伝子変異を有するALS-MNでは、脂肪酸代謝に関わる遺伝子群の発現に顕著な変化は認められなかったが、ステロイド及びステロールの生合成に関わる遺伝子の発現が減少することを見出しており(特許文献1、非特許文献7)、この予測結果に興味をもった。
そこで、ヒトmiR-33が当該配列を標的とし得るかどうか、3’UTR ルシフェラーゼ・レポーターアッセイ(手法1)を行って検討した。
図1Bに、miR-33a遺伝子のゲノム上での位置、pre miR-33aの塩基配列、及び、成熟miR-33a(guide鎖)の配列を示す。前述したように、miR-33aはSREBP-2遺伝子のイントロン16内にコードされている。
TargetScanで予測されたmiR-33aとmiR-33bの標的配列は、ヒトTDP-43 mRNAの3’-UTR配列(全長2843nt)の1415-1421番目のヌクレオチドからなる”AAUGCAA”(以降、“7mer-1A”と呼ぶ)と、2108-2114番目のヌクレオチドからなる”CAAUGCA”(以降、“7mer-m8”と呼ぶ)の2つである(図1C)。
図1Dに示した4種類のレポーター遺伝子のいずれか1つと内部コントロール遺伝子を導入したHEK293T細胞株に、H1::miR-33a Lenti又はH1::miR-con Lentiを感染させて、ルシフェラーゼアッセイを行った(図1E)。前記4種類のレポーター遺伝子は、3’UTRとしてヒトTDP-43遺伝子の3’UTR全長を有するNlucPルシフェラーゼ遺伝子(Normal)と、前記3’UTRから、7mer-1Aのみを欠失(Del1)、7mer-m8のみを欠失(Del2)、又は、7mer-1Aと7mer-m8の両方を欠失(Del1+2)したNlucPルシフェラーゼ遺伝子である。
図1Eに示されるように、Normalを導入した細胞にH1::miR-33a Lentiを感染させた場合には、H1::miR-con Lentiを感染させた場合と比べてNlucPルシフェラーゼ活性が約80%に有意に低下した。この結果は、miR-33aが、TDP-43遺伝子の3’UTRを3’UTRとして有する遺伝子の発現を抑制できることを示している。
同様に、Del1を導入した細胞にH1::miR-33a Lentiを感染させた場合にも、NlucPルシフェラーゼ活性が有意に低下した(H1::miR-con Lentiを導入した細胞の約83%)。これに対し、Del2又はDel1+2を導入した細胞では、H1::miR-33a Lentiを感染させても、NlucPルシフェラーゼ活性は低下しなかった。これらの結果は、miR-33aによる前記レポーター遺伝子の発現抑制には、当該3’UTR中の7mer-8m領域が不可欠であることを示している。
よって、miR-33aはTDP-43遺伝子を標的とするマイクロRNAであり、該遺伝子の3’UTR中の7mer-8m領域がmiR-33aの標的配列であることが明らかとなった。
同様の解析をmiR-33bについて行った結果を図1Fに示す。当該結果より、miR-33bもTDP-43遺伝子を標的とするマイクロRNAであり、該遺伝子の3’UTR中の7mer-8m領域がmiR-33bの標的配列であることが示された。
以上より、ヒトmiR-33(miR-33a及びmiR-33b)は、ヒトTDP-43遺伝子の3’-UTR配列中の第2108-2114番目のヌクレオチド(CAAUGCA)からなる領域を標的として該遺伝子の発現を抑制するマイクロRNAであることが明らかとなった。
[実施例2]TDP-43発現抑制因子としての、ヒトmiR-33塩基配列のバリエーション
前述したように、マイクロRNAは標的遺伝子のmRNAと不完全に対合することで該mRNAの分解又は翻訳阻害を引き起こすが、その対合の態様はマイクロRNAと標的mRNAとの組み合わせによって様々である。典型的には、マイクロRNAの5’側から第2−8位にあるシード配列部分が標的mRNAと完全に対合し、該シード配列より3’側では部分的に対合して機能する。よって、シード配列以外に多少の変異(塩基置換、欠失、挿入等)を導入しても当該標的遺伝子の発現抑制因子としての機能が損なわれない場合が多く、なかにはシード配列の一部を置換しても機能するマイクロRNAも知られている(例として、特許文献3)。
そこで、ヒトmiR-33がTDP-43発現抑制因子として機能する場合に許容される配列変更について検討した。
図2AにmiR-33aとmiR-33bの塩基配列を示す。比較すると、miR-33bは、miR-33aの5’側から第9、10位の塩基が置換され、さらに3’末端の1塩基が欠失したものであることがわかる。
このmiR-33aの塩基配列をベースとして、当該シード配列より3’側の塩基を置換した変異型マイクロRNA(3種類)をデザインした。具体的には、miR-33aの3’末端から3塩基を置換したMutant1(配列番号4)、5塩基を置換したMutant2(配列番号5)と、該シード配列の3’側に隣接する3塩基を置換したMutant3(配列番号6)である。さらに、シード配列内の5塩基を置換したMutant4(配列番号7)も作製した。
この4種類の変異型マイクロRNAについて、前記Normal又はDel1+2をレポーター遺伝子とした3’UTR ルシフェラーゼ・レポーターアッセイ(手法1)を行った。結果を図2Bに示す。
Mutant1-3は、Normalを導入した細胞で発現させると当該NlucPルシフェラーゼ活性を有意に低下させたが、Del1+2を導入した細胞で発現させても当該活性を変化させなかった。よって、miR-33aから該シード配列より3’側の塩基を5つまで置換しても、TDP-43 mRNAの3’UTRに作用して該発現を抑制する活性は保持されることが示された。
これに対し、Mutant4は、Del1+2を導入した細胞だけでなく、Normalを導入した細胞で発現させても、当該NlucPルシフェラーゼ活性に影響を及ぼさなかった。よって、miR-33aでは、当該シード配列内の塩基を置換すると、TDP-43遺伝子の3’UTRをUTRとして有する遺伝子の発現を抑制する活性が失われることが示された。
以上の結果より、ヒトmiR-33は、当該シード配列より3’側のヌクレオチドを5つまで変更(塩基置換、欠失、又は挿入)しても、TDP-43遺伝子の発現を抑制する機能を失わないことが明らかとなった。
[実施例3]TDP-43によるmiR-33ファミリーの発現制御
TDP-43は、ある種のマイクロRNAに対し、pri-miRNAからpre-miRNAの生成工程、及び/又はpre-miRNAから二本鎖成熟miRNAの生成工程を促進することが知られている(Kawahara Y. and Mieda-Sato A., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 109:3347-3352, 2012)。そこで、下記実験系を作製して、TDP-43の発現量がヒトmiR-33の発現量に及ぼす影響を解析した。
なお、本発明者らが手法5に従ってヒト健常者由来iPSC、ヒト健常者由来iPSCから分化誘導したニューロン、及びヒト脳脊髄サンプルにおけるmiR-33a及びmiR-33bの発現量を解析した結果、miR-33bの発現量は非常に微量(検出困難レベル)で、これらの細胞・組織ではmiR-33bは実質的に発現していないことが明らかとなった。よって、以降の解析では、ヒトmiR-33としてmiR-33aのみを解析した。
<培養細胞でのTDP-43過剰発現>
ヒトTDP-43タンパク(野生型又はM337V変異型)をテトラサイクリン誘導性プロモーターの制御下に発現するコンストラクト(図3A)を作製し、HEK293T細胞に導入して安定発現株を作製した。以降、当該野生型、M337V変異型TDP-43をコードするコンストラクトを導入した安定発現株を、WT TDP-43導入細胞、M337V TDP-43導入細胞と呼ぶ。
これら2種類の安定発現株の培地にdoxycycline(以降、DOXと略記、終濃度
1μg/ml)を添加して、TDP-43の発現を誘導した。DOX添加から48時間後にTDP-43のタンパク量(図3B)とmiR-33a量(図3C)を測定した結果を示す。WT TDP-43導入細胞、M337V TDP-43導入細胞ともに、DOX添加群ではTDP-43タンパク量が顕著に増加し(図3B)、且つ、miR-33a量が有意に減少していた(図3C)。詳細には、DOX非添加群のmiR-33a発現量と比べて、WT TDP-43導入細胞では約74%、M337V TDP-43導入細胞では約63%にmiR-33a発現量が減少した。なお、TDP-43タンパクの代わりにDAP-LYARタンパク(Ly-1 antibody reactive clone、DNA結合タンパク)をコードするコンストラクトを導入した安定発現株では、DOXを添加してLYARの発現を誘導しても、miR-33a発現量は有意には変化しなかった(データは非開示)。
この結果は、TDP-43タンパク量が増えるとmiR-33aの発現量が低下することを示しており、miR-33aの発現がTDP-43タンパクによって直接的又は間接的に抑制される可能性を示唆するものである。そこで、RNA免疫沈降(RNA immunoprecipitation;RIP)法を用いて、TDP-43タンパクとmiR-33aの直接的相互作用の有無を調べることにした。
前記DOX処理したWT TDP-43導入細胞からEZ-Magna RIP Kit(Millipore社製)を用いて細胞溶解液(5×107 cells/150μl RIP Lysis buffer)を調製し、磁気ビーズに結合させた抗TDP-43抗体(Protein Tech社製、7.5μg)又は正常マウスIgG(10μg)を添加して4℃で一晩インキュベーションした。当該ビーズを回収し(=免疫沈降分画)、pri-miR-33aプライマーセット(配列番号31、32)を添加してqRT-PCR及びend-point RT-PCRを行い、PCR産物の有無を解析した(図3D)。図3Dに示されるように、前記抗TDP-43抗体による免疫沈降分画は前記Pri-miR-33aプライマーセットで増幅される産物を生じたが、Pri-miR-17プライマーセット(配列番号33、34)で増幅される産物は生じなかった。
この結果は、前記抗TDP-43抗体の免疫沈降分画にはpri-miR-33aが含まれていたことを示しており、前記細胞溶解液中でTDP-43とPri-miR-33aが特異的に結合していたことを示唆するものである。
以上の結果より、TDP-43タンパクは、pri-miR-33aに結合してmiR-33aの発現を直接的に制御(具体的には抑制)し得ることが示された。
ヒトニューロンでのTDP-43 knockout>
次に、TDP-43発現量の減少がmiR-33aの発現に及ぼす影響を、ヒトニューロンで解析することを試みた。そのために、TALエフェクターヌクレアーゼ(Transcription Activator-Like Effector Nuclease;TALEN)システムを用いて、TDP-43遺伝子を機能的に欠失(knockout)したヒトiPSC株(TDP-43 KO iPSCと呼ぶ場合がある)を作製した。当該システムは、DNA結合配列を操作したTALENによってゲノム上の任意の箇所に二本鎖DNA切断を導入し、該DNA切断が外来DNA(本法ではドナープラスミド1)との相同組み換えによって修復される反応を利用して、ゲノム上の任意の部位に欠失、置換、挿入等の変異を導入する方法である(Miller J.C., et al, Nat. Biotechnol., 29:143-148, 2011)。
手法の概要を図4Aに示す。TDP-43のエクソン2内に存在する開始コドンの上流(TDP-43 KO TALEN-L;配列番号15)と下流(TDP-43 KO TALEN-R;配列番号16)にそれぞれ結合するTALEN-L、TALEN-Rをデザインし、これら2種類のTALENをコードする発現ベクターを、ドナープラスミド1(loxP配列を両端に有するneomycin選択カセットの上流及び下流に、TDP-43遺伝子配列の相同アームを配したコンストラクト、手法2を参照)と伴に正常ヒト由来201B7 iPSCに導入した。その後、各種プライマー(TDP-43 KO P-t1からTDP-43 KO P-t4;配列番号23−26)を用いたgenomic PCRを行って、前記ドナープラスミド1の一部(=neomycin選択カセット)がTDP-43遺伝子の開始コドン近傍に挿入された細胞を選別した(図4B中のクローン1、2、7、14)。当該4クローンにCreリコンビナーゼを発現させた後、TDP-43 KO P-t5(配列番号27)とTDP-43 KO P-t6(配列番号28)を用いたgenomic PCRを行い、前記選択カセットが当該TDP-43遺伝子の開始コドン近傍から除去されたクローンを選別した(図4C中のクローン7、14)。さらに、これらのクローンでは、neomycin耐性遺伝子が発現していないことも確認した(図4E)。当該クローン7と14に対して塩基配列決定を行い、前記カセットが除去されていることと、片方のアレルでTDP-43エクソン2の全長が欠失していることを確認した。なお、前記ドナープラスミド1の作製、遺伝子導入、導入細胞の選別、及びCreリコンビナーゼによる選択カセットの除去等の手法は、手法2に準拠した。
よって、モノアレリックなTDP-43 KO iPSC株として、2クローン(クローン7と14)が得られた。本明細書では以降、当該クローン7、14を、各々、“TDP-43 KO 1”、“TDP-43 KO 2”と呼ぶ。当該TDP-43 KO 1及びTDP-43 KO 2は、核型解析の結果いずれも正常な核型(46+XX)を有しており(図4F)、また、親株(201B7)と比べてTDP-43の発現量は約半分に減少していた(図4D)。
続いて、手法3に従い、SFEBq法を用いて前記TDP-43 KO iPSCをニューロンに分化誘導した。本書では以降、TDP-43 KO 1、TDP-43 KO 2から分化誘導した細胞を、各々、“TDP-43 KO1-N”、“TDP-43 KO2-N”と呼ぶ。
これらのTDP-43 KO-Nに対し、分化誘導から50日後(=Day50)に、TDP-43のmRNA量(図5A)、TDP-43のタンパク量(図5B、C)、miR-33aの発現量(図5D)、及び細胞内コレステロール量(図5E)を測定した。TDP-43 KO-NのTDP-43 mRNA量は、親株から分化したニューロン(201B7-N)と比べて約半分であり(詳細には、TDP-43 KO1-Nで約39%、TDP-43 KO2-Nで約56%、図5A)、TDP-43タンパク量も顕著に減少していた(TDP-43 KO1-Nで約65%、TDP-43 KO2-Nで約74%、図5C)。
よって、前記TDP-43 KO iPSC株は、ニューロンに分化した後もTDP-43の発現量は低いままであることが明らかとなった。
これに対し、miR-33aの発現量は、TDP-43 KO-Nでは有意に増加し(201B7-N比べてTDP-43 KO1-Nで約150%、TDP-43 KO2-Nで約144%、図5D)、さらに、細胞内コレステロール量も有意に増加していた(201B7-Nと比べてTDP-43 KO1-Nで約127%、TDP-43 KO2-Nで約120%、図4I)。すなわち、ヒトニューロンにおいてTDP-43の発現量が減少すると、miR-33aの発現量が増加して、miR-33aによって制御されるの細胞内反応が亢進すること(機能的なmiR-33aの発現量が増加すること)明らかとなった。
以上より、TDP-43は、ヒトニューロンにおいてもmiR-33aの発現を負に制御しており、ニューロン内においてTDP-43タンパク量とmiR-33a量は逆相関することが示された。
<TDP-43 プロテノパシーモデルマウス及び該患者由来iPSCにおけるmiR-33aの発現量>
上記結果は、TDP-43が発現過多となった細胞では、miR-33aの発現が抑制されている可能性を示唆するものである。そこで、TDP-43 プロテノパシーモデルマウス及び該患者由来iPSCについて、miR-33aの発現量を解析した。
TDP-43 プロテノパシーモデルマウスとして、マウスプリオンプロモーターに制御されるヒトA315T変異型TDP-43遺伝子を導入されたトランスジェニックマウス(stock number:010700、The Jackson Laboratory社より入手)を用いた(非特許文献2)。当該マウスの脊髄組織では、図6Aに示されるように、TDP-43タンパクが過剰発現している。当該脊髄組織についてmiR-33量を解析すると、コントロールマウス(非トランスジェニックである同腹仔)よりも少ない傾向が認められた(図6B)。
次に、TDP-43遺伝子変異を有するALS患者と健常者から樹立したiPSC株間で、miR-33aの発現量を比較した。201B7株、TIG107株、NI17113株は健常者由来、A21428株、ND32947E9株は各々Q343R、G298S変異型TDP-43遺伝子を有するALS患者由来iPSCとして樹立されたものである(非特許文献7)。図6Cに示されるように、これらの患者由来iPSCでは、健常者由来iPSCと比べて、miR-33a量が有意に少ないことが明らかとなった。
よって、TDP-43 プロテノパシーでは、TDP-43タンパクの過剰発現に起因してmiR-33の発現量が減少することが強く示唆された。
前述したように、TDP-43タンパクとmiR-33aは互いの発現を直接抑制することができるため、これらの発現量は通常絶妙な平衡状態(図6D、右側の状態)にあると考えられる。このような均衡系では、何らかの要因によって一方の発現量が優位になると、当該均衡が大きく崩れて、当初の平衡状態に自発的に復帰することは困難と思われる。
図6Cの結果は、TDP-43 プロテノパシー患者では、TDP-43タンパクとmiR-33aの発現量の均衡が崩れてTDP-43タンパクが優位となり(図6D、左側の状態)、miR-33aによるTDP-43発現抑制機構が損なわれている可能性を強く示唆している。そこで、miR-33a遺伝子を機能的に欠失したヒトiPSC株を作製して、ヒト運動ニューロンにおいてmiR-33aの発現が失われることの影響を解析することにした。
[実施例4]miR-33a-knockout ヒトiPSCの作製
miR-33-knockout ヒトiPSC(以降、“miR-33a KO iPSC”と呼ぶ場合がある)の作製には、CRISPR-Cas9システムを用いた。当該システムは、Cas9エンドヌクレアーゼとRNA(=Cas9用guide RNA)の複合体が該guide RNAの配列依存的にゲノムDNAの特定部位に二本鎖切断を導入する反応と、該DNA切断が外来DNA(本法ではドナープラスミド2)との相同組み換えによって修復される反応を利用して、ゲノム上の任意の部位に欠失、置換、挿入等の変異を導入する方法である(Gaj T., et al, Trends Biotechnol., 31:397-405, 2013; Doudna J.A., et al, Science, 346, no.6213, 2014)。
図7Aに手法の概要を示す(手法2)。miR-33aのシード配列近傍を標的とするguide RNA(miR-33a KO gRNA-1a、2a;配列番号12、13)発現プラスミド、Cas9エンドヌクレアーゼ発現プラスミド、及びドナープラスミド2を201B7 iPSCに導入して、21のneomycin耐性クローンを得た。これらのクローンに対してgenomic PCRを行い、5クローン(クローン8、9、14、15、18)から、前記ドナープラスミド2の一部(=neomycin選択カセット)がmiR-33a遺伝子のシード配列近傍に挿入されたことを示すPCR産物(プライマーセットBによる3,398bpのDNA断片)を得た(図7B)。これらのクローンでは、定量的PCRの結果、前記選択カセットが当該ゲノム中に1コピーしか挿入されていないことが確認された。その後、当該5クローンにCreリコンビナーゼを発現させて、前記選択カセットが除去されたクローンを得た(図7D)。
前記選択カセットを除去した5クローンに対し、miR-33a遺伝子近傍の塩基配列決定を行った。その結果、クローン15と18では、成熟miR-33aをコードする塩基配列が両アレルで欠失していることが確認された。詳細には、クローン15では成熟miR-33aに対応する全塩基配列とその上流の5塩基からなる27塩基(ヌクレオチド)が欠失し、クローン18では成熟miR-33aに対応する塩基配列の3’末端から8塩基とその下流の4塩基からなる12塩基(ヌクレオチド)が欠失していた(図7C)。また、クローン8、9、及び14では、片方のアレルでのみ、成熟miR-33aをコードする配列が欠失していることが確認された。
これら5クローンについて、miR-33aの発現量を解析した結果を図7Eに示す。親株(201B7株)の発現量に対し、miR-33aをモノアレリックに欠失したクローン(クローン8、9、14)ではほぼ半分に減少し、バイアレリックに欠失したクローン(クローン15、18)では消失していることがわかる。
さらに、核型解析を行い、前記5クローンの核型が正常であること(46+XX)を確認した(図7F)。また、前記5クローンからtotal RNAを抽出し、イントロン16がスプライスアウトされた正常なSREBP-2 mRNAが産生されていること(すなわち、当該ゲノムの改変はSREBP-2 mRNAのスプライシングに影響しないこと)を確認した。
よって、モノアレリックなmiR-33a KO iPSC株として、クローン8、9、及び14が得られ、バイアレリックなmiR-33a KO iPSC株として、クローン15(成熟miR-33配列全長を欠失、以降、“miR-33a KO 1”と呼ぶ)及びクローン18(成熟miR-33配列の約40%を欠失、以降、“miR-33a KO 2”と呼ぶ)が得られた。
[実施例5]miR-33a発現消失によるヒトiPSC由来運動ニューロンの脆弱化と、miR-33a導入による該脆弱性の回復
前記バイアレリックなmiR-33a KO iPSC株から運動ニューロンの純培養系を作製して、miR-33aの発現消失がヒト運動ニューロンに及ぼす影響を解析した。
前記miR-33a KO 1、miR-33a KO 2、及び201B7をMNへ分化誘導し(手法3)、MNに分化した細胞をFACS法を用いて分取して(手法4)、MNの純培養系を作製した。以降、201B7、miR-33a KO 1、miR-33a KO 2から上記方法で得られたMNを、各々、“201B7-MN”、“miR-33a KO 1-MN”、“miR-33a KO 2-MN”と呼ぶ。
各MNのGFP蛍光顕微鏡写真を図8Aに示す。当該写真より、201B7-MNと比べてmiR-33a KO 1-MNは神経突起が弱々しく、また、miR-33a KO 2-MNは神経突起が少ない傾向があることがわかる。
これらのiPSC-MNに対し、前記レンチウイルスベクターを用いてmiR-33aを供給して、神経突起長に生じる変化を解析した。分化誘導から36日後(=Day36)に前記H1::miR-33a Lenti又はH1::miR-con Lentiを感染させて、Day45に神経突起長を測定した結果を図8Dに示す。まず、H1::miR-con Lenti感染群どうしの比較により、miR-33a KO 1-MNの神経突起長は201B7-MNよりも短い傾向があり、miR-33a KO 2-MNの神経突起長は201B7-MNよりも有意に短いことがわかる。神経突起の伸展不良は、TDP-43 プロテノパシー患者由来iPSC-MNにほぼ共通にみられる病的な性質である(特許文献1、非特許文献7)。
次に、各iPSC-MNごとにH1::miR-33a Lenti感染群とH1::miR-con Lenti感染群の神経突起長を比較して、miR-33aの有無と神経突起長の関係に注目した。
その結果、miR-33a KO 1-MNでは、H1::miR-33a Lenti感染群の方がH1::miR-con Lenti感染群よりも神経突起が長く、miR-33aの供給によって神経突起の脆弱性が回復する傾向があることがわかった。さらに、miR-33a KO 2-MNでは、H1::miR-33a Lenti感染群の方がH1::miR-con Lenti感染群よりも神経突起長が有意に長く、miR-33aの供給によって神経突起の伸展不良が201B7-MNと同レベルにまで回復することが明らかとなった(図8D)。
よって、ヒト運動ニューロンにおいてmiR-33aの発現が消失すると、神経突起が病的になることが示された。
次に、前記miR-33a KO 1、miR-33a KO 2、及び201B7からニューロンの培養系を作製して、miR-33aとTDP-43タンパク量との関係を解析した(各々、“miR-33a KO 1-N”、“miR-33a KO 2-N”、“201B7-N”と呼ぶ)。
分化誘導から36日後(=Day36)に前記H1::miR-33a Lenti又はH1::miR-con Lentiを感染させて、Day50にmiR-33a量(図8B)とTDP-43タンパク量(図8C)を測定した。まず、H1::miR-con Lenti感染群どうしの比較により、miR-33a KO-NではTDP-43のタンパク量が有意に増加することが明らかとなった。具体的には、201B7-Nと比べて、miR-33a KO 1-Nで約130%、miR-33a KO 2-Nで約140%に増加していた。
次に、H1::miR-33a Lenti感染群とH1::miR-con Lenti感染群との比較により、いずれのiPSC-Nでも、H1::miR-33a Lentiの感染によってTDP-43タンパク量が有意に減少することが明らかとなった。具体的には、201B7-Nで約70%、miR-33a KO 1-Nで約73%、miR-33a KO 2-Nで約50%に減少していた。
よって、ヒトニューロン内のTDP-43タンパク量は、miR-33aによって負に制御されていることが示された。
さらに、上記iPSC-Nについて細胞内コレステロール量を測定した結果、miR-33aの発現量と連動して変化することが確認された(図8E)。
上記結果より、miR-33はヒトニューロン内でTDP-43タンパク量を制御している重要な調節因子であり、ヒトニューロンにおいてmiR-33の発現が減少すると、TDP-43タンパク量が増加して病的になることが示された。さらに、TDP-43を過剰発現しているヒトニューロンにmiR-33を供給すると、TDP-43の発現が減少して、TDP-43発現過多に起因する病的な性質が改善されることが明らかとなった。
すなわち、ヒトmiR-33は、TDP-43 プロテノパシーの予防又は治療薬になり得ることが示された。

Claims (8)

  1. 配列番号1で表されるヒトmiR-33、前記ヒトmiR-33の5’側から第1位の塩基又は第9位以降の塩基に変異を有する変異体、ならびにそれらの前駆体からなる単離されたRNA、及び前記RNAをコードする単離された核酸、
    からなる群より選ばれる1以上の核酸を含む、TDP-43 プロテノパシーの予防又は治療用組成物。
  2. 前記変異が、5塩基以下の置換、欠失、又は挿入である、請求項1に記載のTDP-43 プロテノパシーの予防又は治療用組成物。
  3. 前記前駆体が、二本鎖miRNA及びpre-miRNAである、請求項1−のいずれかに記載のTDP-43 プロテノパシーの予防又は治療用組成物。
  4. 前記RNAをコードする単離された核酸が、ウイルスベクターに機能的にコードされた核酸である、請求項1−のいずれかに記載のTDP-43 プロテノパシーの予防又は治療用組成物。
  5. 前記ウイルスベクターが、レンチウイルスベクター又はアデノ随伴ウイルスベクターである、請求項に記載のTDP-43 プロテノパシーの予防又は治療用組成物。
  6. 前記RNAが、修飾されたヌクレオチドを少なくとも1以上含む、請求項1−のいずれかに記載のTDP-43 プロテノパシーの予防又は治療用組成物。
  7. 前記1以上の核酸が、ナノ粒子に内包されている、請求項1−のいずれかに記載のTDP-43 プロテノパシーの予防又は治療用組成物。
  8. 前記TDP-43 プロテノパシーが、SOD1非関連の筋萎縮性側索硬化症、及び、ユビキチン化封入体を有する前頭側頭葉変性症である、請求項1−のいずれかに記載のTDP-43 プロテノパシーの予防又は治療用組成物。
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