JP6665998B2 - バイオマスから糖類を製造する方法 - Google Patents

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Description

本発明は、バイオマスから糖類、更にはエタノールなどの化成品を効率よく製造する方法に関する。
生物由来のバイオマスを石油製品に代わる微生物発酵の原料として利用し、有用物質であるエタノール、乳酸などの化成品を生産する方法が開発されている。具体的には、例えばバイオマスを酸などにより前処理した後、セルラーゼなどの糖化酵素によって糖化し、バイオ変換によってエタノールを製造する方法が挙げられる。
例えば特許文献1には、バイオマスをブタノール、イソアミルアルコールなどの水非混和性有機溶媒と、硫酸などの酸と、硫酸銅などの金属塩触媒との混合物と、所定の温度(約120℃〜220℃)及び圧力(7.5Bar〜20Bar)という高温高圧下で接触させた後、得られた反応混合物を加圧下で濾過する方法が開示されている。上記特許文献1の方法によれば、バイオマスをその主成分であるリグニン、セルロース、ヘミセルロースに高純度且つ高収率で分離できること;後の糖化が高収率になるような形態でセルロースが得られるため、糖化に至るのに莫大な酵素負荷または過剰な時間が不要であり、糖化プロセスが経済的に実行可能であると記載されている。
また、特許文献2には、木材などのリグノセルロース物質を直接ポリエチレングリコールなどの多価アルコールに液化・溶解することにより種々の樹脂原料として有用な木材液化溶液を製造する方法が記載されている。上記特許文献2の方法によれば、常圧下にて、100〜200℃という比較的低い温度で加熱するだけで、木材の液化収率90数%と高い収率で液状物が得られると記載されている。
特許文献3は上記特許文献2の方法を更に改良したものであり、加熱反応槽内を減圧状態で加熱して発生する水蒸気および低沸点物を加熱反応槽外に引出して除去する方法が開示されている。上記特許文献3の方法によれば、上記特許文献2の方法における問題点;すなわち、水分を含んだリグノセルロース物質をそのまま加熱すると、水の潜熱のために液化反応に長時間を要したり、そのために収率が低下したり、また液化時に生じる低沸点物の臭気がそのまま液化溶液に残るなどの問題点を解消できることが記載されている。
特許第5563447号公報 特開平4−106128号公報 特開平6−122770号公報
酵素糖化工程に用いられる酵素は非常に高いため、酵素の使用量を低減しても(換言すれば、酵素単位を低くしても)、バイオマスを糖化し易いセルロース含有固体画分に効率よく分解でき、エタノールなどの化成品を高い収率で製造する方法が望まれている。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、非常に少量の酵素でもバイオマスを糖化し易いセルロースに分解でき、高収率でグルコース、更にはエタノールなどの化成品を製造することのできる新規な前処理方法を提供することにある。
上記課題を解決し得た本発明の製造方法は、バイオマスを前処理し、酵素糖化により糖類を製造する方法であって、上記前処理を、酸およびモノアルコールの存在下、常圧で加熱して行うところに要旨を有する。
本発明の好ましい実施形態において、上記モノアルコールは、2以上、8以下の炭素を含む。
本発明の好ましい実施形態において、上記酸と上記モノアルコールの合計に対する上記モノアルコールの容量比率は、10%以上、80%以下である。
本発明の好ましい実施形態において、上記酸と上記モノアルコールの合計に対する上記モノアルコールの容量比率は、10%以上、40%未満である。
本発明の好ましい実施形態において、上記加熱温度は100〜200℃である。
本発明の好ましい実施形態において、上記酸は無機酸である。
本発明には、上記のいずれかに記載の製造方法を用いて、バイオマス由来の化成品(バイオ化成品)を製造する方法も包含される。
本発明によれば、バイオマスを糖化し易いセルロース含有固体画分に効率よく分解できるため、酵素糖化工程における糖化酵素の使用量(負荷量)を低減してもグルコースなどの糖類、更には上記糖類から得られるエタノールなどの有用な化成品を高い収率で製造することができる。
また、本発明によれば、モノアルコール濃度を40%未満という低水準に低減しても、バイオマスからリグニンを効率よく除去することができ、セルロースに効率よく分解できるため、経済上、非常に有用である。
図1は、バイオマスにブタノールおよび硫酸を種々の比率で添加して撹拌した後の固体画分の状態を示す写真である。 図2は、実施例1における、前処理に用いたブタノールと希硫酸の添加割合およびブタノール濃度と、固体画分の重量との関係を示すグラフである。 図3は、実施例2における、前処理に用いたブタノールと希硫酸の添加割合およびブタノール濃度と、グルコース濃度との関係を示すグラフである。 図4は、実施例3における、セルラーゼ添加によるエタノール生成量をエタノール発酵時間ごとに比較したグラフである。 図5は、実施例3における、セルラーゼの酵素単位とエタノール生成量との関係を示すグラフである。 図6は、実施例4における、前処理に用いたモノアルコールと、固体画分の重量との関係を示すグラフである。 図7は、実施例5における、前処理に用いたモノアルコールと、グルコース濃度との関係を示すグラフである。 図8は、実施例6において、種々のモノアルコールを用いて前処理を行ったときのバイオマスの組成分析結果を示すグラフである。
本発明者らは、常圧下で100〜200℃という比較的低い加熱温度で前処理しても、バイオマスからのセルロースを効率よく分解でき、その後の酵素糖化工程によってエタノールなどの化成品を高い収率で得ることができる方法を提供するため、検討を行ってきた。その結果、モノアルコールと酸を用いてバイオマスを前処理すれば所期の目的が達成されることを見出した。本発明による前処理方法を用いれば、酵素糖化に寄与するセルロースが高効率で得られるため、高価な酵素の使用量を低減しても(すなわち、酵素単位の低い酵素を用いても)、糖化が効率よく進行してエタノールなどの化成品を高収率で得られるという顕著な効果が得られる。また、モノアルコール濃度を、例えば40%未満という低水準に低減しても、バイオマスからリグニンを効率よく除去でき、セルロースに効率よく分解できるという経済的効果も得られる。
なお、前述した特許文献2および特許文献3にも、本発明と同様、常圧且つ比較的低い温度で前処理を行う方法が記載されているが、これらは多価アルコールを使用している点で、モノアルコールを使用する本発明とは相違する。また、これらの特許文献では、木材の液化収率が高められる(不溶解残渣率が少ない)ことを実験で確認しているだけであって、エタノール発酵の実験は行っていないため、本発明のように少量の酵素でも高収率でエタノールが得られるかどうか不明である。一方、前述した特許文献1では、高温高圧下で前処理することを前提条件としている点で、やはり本発明と相違する。
以下、本発明の方法を工程順に説明する。
(1)前処理工程
まず、バイオマスを用意する。本発明に用いられるバイオマスの種類は特に限定されず、当該技術分野で通常用いられる生物由来のバイオマスを全て用いることができる。具体的には、例えば特許文献2に記載のバイオマス(木材、藁や籾殻などの植物繊維素、紙、パルプ類のほか、これらの粉砕物など)が挙げられる。
次いで、上記バイオマスを前処理する。本発明では、この前処理を、酸およびモノアルコールの存在下、常圧で加熱して行う点に特徴がある。詳細には、常圧で好ましくは100〜200℃の温度で加熱して前処理するに当たり、モノアルコールを選択した点に特徴がある。
上記前処理に用いられる酸は、無機酸、有機酸のいずれも使用可能である。但し、酸解離定数などを考慮すると、無機酸の使用が好ましい。上記無機酸としては、例えば、硫酸、塩酸、リン酸などが挙げられ、好ましくは硫酸である。
また、上記前処理に用いられるモノアルコール(一価アルコール)は、好ましくは2以上、8以下の炭素を含み、より好ましくは4以上、8以下の炭素を含む。炭素数が2未満では、所望とする固体画分の分解効率が得られない。一方、炭素数が8を超えると、モノアルコールが酸によるバイオマスの分解を阻害するようになる。上記モノアルコールとして、例えば、エタノール(炭素数2)、プロパノール(炭素数3)、ブタノール(炭素数4)、ペンタノール(炭素数5)、ヘキサノール(炭素数6)、ヘプタノール(炭素数7)、オクタノール(炭素数8)が挙げられる。
OH基の位置は特に限定されず、例えばプロパノールの場合、1−プロパノール、2−プロパノール;ブタノールの場合、1−ブタノール、2−ブタノール、3−ブタノールの任意のモノアルコールを用いることができる。また、上記モノアルコールを構成する炭化水素基は、直鎖状、分岐状、脂環状のいずれも有し得る。また、上記モノアルコールを構成する炭化水素基は、飽和結合のみから構成されていても良いし、不飽和結合を有していても良い。
上記モノアルコールは単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせても良い。特に好ましく用いられるモノアルコールはブタノールであり、直鎖状のブタノール(n−ブタノール)がより好ましい。
上記酸と上記モノアルコールの合計に対する上記モノアルコールの容量比率(以下、モノアルコール比率と略記する場合がある。)は、10%以上、80%以下であることが好ましい。上記比率が10%を下回ると前処理効率が低下する。一方、上記比率が80%を超えるとモノアルコールが酸によるバイオマスの分解を阻害するようになる。コスト低減の観点からはモノアルコールの使用量は少ない程良く、上記比率は40%未満であることがより好ましい。また、上記比率が40%未満の場合、撹拌による固体画分の分解効率が高められる傾向にある(後記する実験例を参照)。
上記前処理は常圧下で加熱して行う。ここで「常圧下で行う」とは、前述した特許文献1のような積極的な加圧処理を行わないことを意味する。具体的には本発明では、例えば後記する実施例に記載のとおり、内筒容器と外筒容器を備えた二重密閉式反応容器を用い、常圧のまま、内筒容器にバイオマス、モノアルコール、および酸を入れた後、外筒容器の蓋を強固に締めた後、ホットスターラーにセットして加熱しており、加熱による蒸気圧等の陽圧を含む。
加熱温度は100〜200℃で行うことが好ましい。加熱温度が100℃未満になると、酸によるバイオマスの分解の効率が低くなる。一方、加熱温度が200℃を超えると、バイオマスが過度に分解されるようになる。より好ましくは170℃以上、190℃以下である。
具体的には、上記前処理は以下の手順で行うことが好ましい。まず、上記酸と上記モノアルコールとを、好ましくは上記の混合比率となるように、バイオマスに添加する。バイオマスに対する上記モノアルコールの質量比率は、おおむね1.3〜5.4倍であることが好ましく、1.3〜4倍であることがより好ましい。上記質量比率が少ないと、前処理効率が低下する。一方、上記質量比率が多いと、モノアルコールが酸によるバイオマスの分解を阻害するようになる。
添加後、撹拌する。本発明者らの下記実験結果によれば、前処理時に撹拌を行うと、バイオマス由来のセルロースを含む固体画分の分解効率が向上し、特にモノアルコール比率が40%未満の場合に顕著に見られることが示唆された。
図1は、後記する実施例1と同様にして前処理を行い、得られた固体画分を乾燥させた塊状物を手でほぐしたときの様子を示す写真である。詳細は以下のとおりである。
・図1の上段(No.1):ブタノールを30mL、硫酸を50mL添加して前処理を行った。このときのブタノール比率は37.5%(=[30/(30+50)]×100)である。
・図1の中段(No.2):ブタノールを40mL、硫酸を40mL添加して前処理を行った。このときのブタノール比率は50%(=[40/(40+40)]×100)である。
・図1の下段(No.3):ブタノールを50mL、硫酸を30mL添加して前処理を行った。このときのブタノール比率は62.5%(=[50/(50+30)]×100)である。
図1の各右図に、上記塊状物から得られた植物の節などの植物切片(詳細には、植物組織の構造を維持した約5mm程度の植物切片)を示す。前処理後に上記植物切片が観察されるということは、前処理によるバイオマスの分解が阻害されて、セルロース含有固体画分の分解効率が低いことを示唆している。
図1の各右図を対比すると明らかなように、ブタノール比率が50%(No.2、図1の中段)、62.5%(No.3、図1の下段)と高い場合には植物切片が観察されたのに対し、ブタノール比率が37.5%(No.1、図1の上段)と低くなると、このような植物切片は観察されなかった。よって、前処理後の植物切片を調べた上記実験結果より、モノアルコール比率が40%未満になると、固体画分の分解効率が向上することが十分示唆される。
更に図には示していないが、上記No.1では撹拌後、前処理に用いた硫酸とブタノールとバイオマスが完全に混合されて均質になるのに対し、上記No.2、3では、完全に混合されないため、ブタノールと硫酸が2相に分離している様子が観察された。
これらの実験結果より、前処理によるバイオマスの分解効率は、モノアルコール比率が40%未満の場合に顕著に発揮されることが十分示唆された。
前処理における撹拌条件として、撹拌速度は、おおむね100〜200rpmの範囲内で行うことが好ましい。撹拌機の種類は上記撹拌速度が得られるものであれば特に限定されず、例えば、マグネチックスターラーなどが挙げられる。撹拌時間は、使用するバイオマスの種類や添加量などによっても相違するが、おおむね、45〜60分の範囲内であることが好ましい。
撹拌後、前処理後のバイオマスを、セルロース含有固体画分と、セルロース以外の成分を含む液体画分とに分離する。例えばリグノセルロース系バイオマスは、リグニンとセルロースとヘミセルロースを主成分として含むが、上述した前処理により、セルロース(固体画分)とヘミセルロース(水層)とリグニン(有機層)に分離される。
各成分に分離する方法は特に限定されず、例えば遠心分離機、吸引ろ過などによって分離することができる。遠心分離の条件は、使用するバイオマスの量、前処理に用いたモノアルコールおよび酸の種類およびその量などによっても相違するが、おおむね、21,880×g、15分の条件で行うことが推奨される。
(2)糖化酵素による糖化工程
次に、上記のようにして得られた固体画分に糖化酵素を加えて糖化させる。本発明に用いられる糖化酵素は、当該技術分野で通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば、セルラーゼなどが挙げられる。
具体的には、上記糖化酵素による糖化反応が進行し易くなるようにするため、糖化酵素を加える前に上記固体画分に緩衝液を加えて、pHを約4.0〜5.0の範囲に調整することが好ましい。pHの調整に用いられる上記緩衝液としては、例えば、クエン酸緩衝液などが挙げられる。また、固体画分および緩衝液の合計に対する固体画分の濃度は、粘性などを考慮すると、おおむね、100〜200g/Lの範囲に制御することが好ましい。
酵素による糖化反応は、当該反応が適切に進行するように、例えば、40〜50℃の温度で、48〜72時間行うことが好ましい。
反応後、遠心分離機にかけて分離した上清を回収すると、バイオマス由来の糖類が得られる。本発明の方法によれば、例えばグルコース、キシロース、アラビノースなどの糖類が得られる。
(3)エタノール発酵
上記のようにして得られた糖類をエタノール発酵すると、エタノールが得られる。エタノール発酵の方法は特に限定されず、通常用いられる方法を採用することができる。例えばエタノール発酵に用いられる微生物は、糖類を代謝してエタノール発酵を行うことができるものであれば特に限定されず、出芽酵母などの酵母、大腸菌などが挙げられる。
後記する実施例で実証したように、本発明によれば、酵素単位が低くても、エタノールを収率良く製造することができる。例えば前述した特許文献1の実施例では60FPU/gの酵素負荷で糖化しているのに対し、本発明によれば、1〜5FPU/gの酵素負荷でエタノールを効率よく製造することができる。
なお、以下の実施例ではエタノールを製造したが、本発明の方法によって得られる化成品はエタノールに限定されない。本発明の方法を用いれば、糖類を原料とする、エタノール以外の種々の化成品(例えば乳酸)を高収率で得られることが大いに期待される。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
実施例1
本実施例ではモノアルコールとしてブタノールを用いて前処理を行ったときにおける固体画分の重量を測定した。前処理による固体画分の重量は、前処理によるバイオマスの分解効率を表している。すなわち、固体画分の重量が少ない程、バイオマスが効率的に分解されていることを示唆している。
まず、バイオマスとしてソルガム(モロコシとも呼ばれ、イネ科穀物の一種)100gを用意し、2mmのフィルターを設置したブレンダ―(WB−1、東京硝子器機株式会社)を用いて粉末状態になるまで10分間粉砕した。
上記のようにして得られたバイオマス粉末6g、1−ブタノールおよび1%希硫酸を、三愛科学株式会社製の高圧用反応分解容器HUT−100に加え、三愛科学株式会社製のホットスターラー式反応分解装置RDV−TMS HHE−19G−Uにセットして、常圧のまま、加熱しながら撹拌した。詳細には上記高圧用反応分解容器は、PTFE製内筒容器(HUT−100)と加圧ステンレス製外筒(HUS−100)の二重密閉構造を有しており、PTFE製内筒容器にバイオマス粉末などを入れた後、このPTFE製内筒容器をステンレス製外筒に入れて、当該ステンレス製外筒の蓋を強固に締めてから、上記のホットスターラー式反応分解装置にセットして加熱した。本実施例では、ブタノールと希硫酸の合計量が80mLとなるようにブタノールおよび希硫酸の添加量を変化させた。撹拌は、200rpmの撹拌速度で、180℃で45分行った。撹拌後、21,880×g、15分の条件で遠心分離して、固体画分と液体画分とに分離した。
このようにして得られた固体画分に水を加えてpH7.0になるまで洗浄した後、室温で2日間乾燥した。乾燥後の固体画分重量を、XS105DU electronic balance(Mettler Toledo, Greifensee,スイス)を用いて測定した。上記の実験を3回行い、その平均値と標準偏差を算出した。
これらの結果を図2に示す。図2の縦軸は固体画分の重量(g)を、横軸は前処理に用いたブタノールと希硫酸の添加割合およびブタノール濃度(ブタノールと希硫酸の合計に対するブタノールの比率)を示す。
図2に示すように希硫酸にブタノールを添加すると、ブタノールを添加しない場合に比べて固体画分の重量が減少する傾向が見られた。詳細には、本実施例の前処理条件によれば、ブタノール濃度が12.5%以上になると、ブタノール添加なしの場合に比べて、固体画分の重量は有意に減少したが、ブタノール濃度が62.5%になると、固体画分の重量は、やや増加する傾向が見られた。
実施例2
本実施例では、上記実施例1によって得られた各固体画分を酵素糖化させたときのグルコース濃度を測定した。固体画分から得られるグルコース濃度が高い程、固体画分が効率的に分解されていることを示唆している。
具体的には上記実施例1で得られた各固体画分を用い、最終濃度が10g/Lになるように、上記固体画分を0.3Mクエン酸緩衝液(pH4.8)に添加した。次に、糖化酵素としてセルラーゼ(Cellic CTec2,Novozyme,Bagsvaerd,デンマーク)を、バイオマス1g当たり酵素力価が6.6FPUとなるように添加して酵素糖化反応を行った。その際、微生物のコンタミネーションを抑制するため、テトラサイクリン(最終濃度40μg/mL)およびシクロヘキシミド(最終濃度30μg/mL)を添加した。上記酵素糖化反応は、PPS−2000 ChemiStation(東京理化器機株式会社)を用いて、120rpm、50℃、72時間の条件で行った。反応後、氷中に入れて急速に冷却させ、酵素糖化反応を終了させた。次いで、21,880×g、10分間遠心分離を行った後、得られた上清を回収して、グルコース濃度を測定した。
グルコース濃度は以下のようにして測定した。まず、上記のようにして得られた上清1.5μLと、内部標準物質である0.1%(w/w)リビトール溶液1.5μLとを混合した後、減圧濃縮器(7810010;Labconco,Kansas City,MO,米国)を用いて、室温で2時間乾燥させた。乾燥後のサンプルに20mg/mLのメトキシアミン塩酸塩のピリジン溶液を100μL添加して混合した後、30℃で90分間静置した。静置後のサンプルに50μLのN−メチルl−N−トリメチルシリルトリフルオロアセトアミドを50μL添加し、37℃で30分間静置した。静置後のサンプルのうち10μLを採取し、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS−2010plusシステム、島津製作所)に注入して、下記条件でグルコース濃度(g/L)を測定した。
・カラム:Agilent CP−Sil 8CB−MS(30m×0.25mm)
・キャリアーガス:ヘリウム
・注入温度:230℃
・オーブンの温度:0〜2分までは80℃とし、2分以降は、1分当たり15℃ずつ330℃まで上昇させた。
これらの結果を図3に示す。図3の縦軸はグルコース濃度(g/L)を、横軸は前処理に用いたブタノールと希硫酸の添加割合およびブタノール濃度(ブタノールと希硫酸の合計に対するブタノールの比率)を示す。
図3に示すように希硫酸にブタノールを添加すると、ブタノールを添加しない場合に比べてグルコース濃度が著しく増加した。詳細には、本実施例の前処理条件によれば、ブタノール濃度が6.25%以上になると、ブタノール添加なしの場合に比べて、グルコース濃度が有意に増加し、ブタノール濃度が37.5%で最大のグルコース濃度(約8g/L)が得られた。
実施例3
本実施例では、上記実施例1によって得られた固体画分(ブタノール濃度25%を使用したもの)を用い、酵素糖化、およびエタノール発酵を行ったときのエタノール生成量を測定した。
具体的には、50mLポリプロピレンチューブおよびサーモブロックローテーターSN−06BNを用いて、上記実施例1で得られた各固体画分を、その最終濃度が100g/Lになるように50mMクエン酸緩衝液(pH5.0)に添加した。次に、糖化酵素として前記実施例2で用いたセルラーゼを、バイオマス1g当たり酵素力価が1FPU、3FPU、5FPUとなるように添加して酵素糖化反応を行い、固体画分を液化した。上記酵素糖化反応は、35rpm、50℃、2時間の条件で行った。
次に、以下の手順でエタノール発酵を行った。エタノール発酵には、β−グルコシダーゼ(BGL)、エンドグルカナーゼ(EG)、およびセロビオハイドロラーゼ(CBH)を発現するSaccharomyces cerevisiae(出芽酵母の一種)を使用した。
まず、上記酵母を、5mLの合成デキストロース(SD)培地[6.7g/Lのアミノ酸無添加酵母窒素ベース(Difco Laboratories,Detroit,MI,米国)、および20g/Lのグルコースを含有]上で、30℃、150rpm、12時間、好気的に前培養した。その後、500mLの酵母/ペプトン/デキストロース(YPD)培地(10g/Lの酵素抽出物、20g/Lのポリペプトン、20g/Lのグルコース)へ植菌し、30℃、150rpmの条件で培養した。培養後の酵母を、4℃で10分間、3000×gで遠心分離した後、得られた沈殿を回収し、蒸留水で2回洗浄した。このようにして得られた酵母(50gウェット細胞/L)に酵母抽出物(最終濃度が10g/L),ペプトン(最終濃度が20g/L)を添加して、エタノール発酵を開始した。エタノール発酵は、サーモブロックローテーターSN−06BNを用いて、35rpm、35℃で24〜72時間行った。
比較のため、ブタノールを添加しないで前処理して得られた固体画分を用い、上記と同様にしてエタノール生成量を測定した。
これらの結果を図4、図5に示す。
これらのうち図4は、5FPUのセルラーゼを用い、35℃での培養時間(24時間、48時間、72時間)を変えてエタノール発酵させたときのエタノール濃度(g/L)を示すグラフである。
図4に示すように、希硫酸にブタノールを添加した場合、ブタノールを添加しない場合に比べてエタノール濃度が著しく増加した。この傾向は、エタノール発酵の時間が24時間から、48時間、更には72時間と長くなるにつれて顕著に見られ、72時間におけるエタノール濃度は約50%と、実用上、有用なレベルであった。
図5は、1FPU、3FPU、5FPUの各セルラーゼを用い、35℃で72時間エタノール発酵させたときのエタノール濃度(g/L)を示すグラフである。
図5に示すように、本実施例の前処理方法を用いれば、酵素の力価が5FPUより低く、3FPUであっても約25g/L程度のエタノールが得られ、更には1FPUであっても約15g/L程度のエタノールが得られた。すなわち、本発明の前処理方法を用いれば、酵素力価が上記のように低い場合であっても、所定のエタノール量が得られることが分かった。よって、本発明の方法は、糖化酵素の使用量(負荷量)を低減できる点で、非常に経済的である。
実施例4
本実施例では、上記実施例1〜3で用いたブタノール以外のモノアルコールを用いて前処理を行ったときにおける固体画分の重量を比較検討した。
具体的には、モノアルコールとして、図7に示すようにエタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノールを用いて、上記実施例1と同様にして固体画分の重量を測定した。本実施例4におけるモノアルコールの濃度は全て、12.5%とした。
これらの結果を図6に示す。図6の縦軸は固体画分の重量(g)を、横軸は前処理に用いた各種モノアルコールを示す。
図6に示すように、モノアルコールの炭素数が多くなる程、固体画分の重量が減少する傾向が見られた。詳細には、本実施例の前処理条件によれば、炭素数4(ブタノール)以上のモノアルコールを用いたとき、モノアルコールを添加しない場合に比べて、固体画分の重量は有意に減少し、炭素数が5のモノアルコールを用いた場合に、固体画分の重量が最も少なくなった。
実施例5
本実施例では、上記実施例4によって得られた各固体画分を酵素糖化させたときのグルコース濃度を、前述した実施例2と同様にして測定した。
これらの結果を図7に示す。図7の縦軸はグルコース濃度(g/L)を、横軸は前処理に用いたモノアルコールの種類を示す。
図7に示すように希硫酸に種々のモノアルコールを添加すると、モノアルコールを添加しない場合に比べて酵素糖化後に得られるグルコース濃度が著しく増加した。本実施例の前処理条件によれば、特に炭素数4以上のモノアルコールを用いた場合に、グルコースの著しい増加が見られることが分かった。
実施例6
前述した実施例で用いたバイオマス(ソルガム)は、セルロース、ヘミセルロース、リグニン(酸不溶性リグニンと酸可溶性リグニン)を主成分として含む。本実施例では、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノールの各種モノアルコール(濃度は全て12.5%)を用い、実施例1と同様にして前処理を行ったバイオマス(ソルガム)の成分を、国立再生可能エネルギー研究所(National Renewable Energy Laboratory、NREL)に記載の下記手順に基づいて各成分に分画して組成分析を行い、比較検討した。これらの測定は3回行い、その平均値と標準偏差を調べた。
詳細には、セルロースおよびヘミセルロースの各多糖類の含有量は、硫酸を用いた二段階加水分解の後に得られた単糖(セルロースに対応する単糖がグルコースであり、ヘミセルロースに対応する単糖がキシロースである)の含有量に基づいて算出した。まず、300mgのバイオマスに対して3mLの72%硫酸を添加し、30℃で2時間反応させた。反応後、超純水を添加して硫酸濃度が4%になるよう希釈した後、121℃で1時間反応させた。その後、全液量が100mLになるよう超純水でメスアップした。加水分解後、得られた上清を1mLサンプリングし、水酸化カルシウムを用いてpH5.0に中和した後、グルコースおよびキシロースの各濃度を、前述した実施例2で用いたガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)を用いて測定した。次に、下記式に基づいて、セルロースおよびヘミセルロースの各濃度を算出した。
・セルロース(%)
=グルコース濃度(g/L)×0.1÷300×(180−18)÷180×100
・ヘミセルロース(%)
=キシロース濃度(g/L)×0.1÷300×(150−18)÷150×100
また、酸可溶性リグニンの含有量(%)は、加水分解後、得られた上清の吸光度(240nm)を測定することにより算出した。
一方、酸不溶性リグニンの含有量は、水分解後の沈殿物を用いて測定した。具体的には、上記沈殿物を岩城硝子製のガラスろ過器(るつぼ型)上に入れ、吸引濾過により固液分離した。得られた沈殿物を水で洗浄し、80℃で1日間乾燥させた。乾燥後の沈殿物の重量を、XS105DU electronic balance(Mettler Toledo,Greifensee,スイス)を用いて測定した。次に、三商製のマッフル炉を用いて、上記沈殿物を575℃で24時間、燃焼した。燃焼後の沈殿物の重量を、XS105DU electronic balanceを用いて測定した。燃焼前後の沈殿物の重量の変化量(差)を算出し、この差分を酸不溶リグニンの含有量(%)とした。
比較のため、モノアルコールを添加せずに硫酸のみ用いて、上記実施例1と同様にして前処理した後、上記と同様にして各成分の含有量を測定した。また、参考のため、本実施例に用いたバイオマス(ソルガム)の各成分の含有量も、上記と同様にして測定した。
これらの結果を図8に示す。図8には、バイオマス中に含まれる、酸可溶性リグニン、酸不溶性リグニン、ヘミセルロース、セルロースの各含有量(%)を示す。
図8に示すように、本実施例の前処理条件(モノアルコール濃度12.5%)によれば、炭素数4(ブタノール)以上のモノアルコールを用いたとき、モノアルコールを添加しない硫酸のみの場合に比べて、特に酸不溶性リグニンの含有量が有意に減少し、セルロースの含有量が有意に増加することが分かる。一般にバイオマスからリグニンを除去するためには、例えば40%以上もの多量のアルコールが必要であると考えられていたが、本発明の方法を用いれば、12.5%のモノアルコール濃度であってもリグニンを効率よく分解することができる点で、経済上非常に有用である。

Claims (2)

  1. バイオマスを前処理し、酵素糖化により糖類を製造する方法であって、
    前記前処理を、無機酸;並びに2以上、8以下の炭素を含むモノアルコールの存在下(但し、脂肪族アルコール、水、および二酸化硫黄の溶液を除く。)、常圧(加熱による陽圧を含む)で、100〜200℃の温度に加熱して行うと共に、
    前記酸と前記モノアルコールの合計に対する前記モノアルコールの容量比率は、10%以上、40%未満であることを特徴とする糖類の製造方法。
  2. 請求項1に記載の製造方法を用いて化成品を製造する方法。
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