JP6650328B2 - 残留応力推定方法及び残留応力推定装置 - Google Patents

残留応力推定方法及び残留応力推定装置 Download PDF

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Description

本発明は、固有ひずみ法に基づき構造物の残留応力を推定するための残留応力推定方法及び残留応力推定装置に関する。
構造物に生じた残留応力は、疲労き裂などの損傷の原因となることがあり、その値を把握することが重要である。構造物の残留応力を推定する方法として、固有ひずみ法を用いたものが知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
従来の固有ひずみ法に基づく残留応力の推定方法では、構造物から2種類の切断片を切り出し、各切断片について弾性ひずみ又は残留応力を計測し、計測された切断片の弾性ひずみ又は残留応力の計測値を有限要素法に基づく逆解析処理に適用する。逆解析処理を実行する解析装置に対し、固有ひずみが発生していると想定される範囲を解析範囲としてユーザが入力する。解析装置は、解析範囲で定義された分布関数を用いて固有ひずみ分布を最小二乗法で近似し、得られた固有ひずみ分布から構造物の残留応力を計算する。
特開2005−181172号公報 特開2003−121273号公報
残留応力の推定精度は、設定される解析範囲に大きな影響を受ける。したがって、解析範囲を適切に設定することが重要である。しかしながら、従来、ユーザが経験に基づいて試行錯誤的に解析範囲を設定しており、必ずしも適切な解析範囲が設定されるとは限らない。
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、上記課題を解決することができる残留応力推定方法及び残留応力推定装置を提供することにある。
上述した課題を解決するために、本発明の一の態様の残留応力推定方法は、塑性加工を施した構造物を測定することにより、前記構造物における結晶格子のひずみを反映した指標を取得するステップと、前記指標に基づいて結晶格子のひずみが生じた領域を特定し、特定された前記領域を残留応力を推定するための解析範囲として設定するステップと、前記構造物から得られた残留応力に関する計測値に基づいて、前記解析範囲における前記構造物の固有ひずみを近似するよう前記解析範囲における固有ひずみの分布を推定するステップと、推定された固有ひずみの分布に基づいて、前記構造物における残留応力を推定するステップと、を有する。
この態様において、前記指標は、結晶格子のひずみの有無によって変化する機械的性質であってもよい。
また、上記態様において、前記機械的性質は、硬さ、ヤング係数、降伏点、極限強度、破断強度、破断伸び、絞り、衝撃値、疲労強度、及びクリープ強度からなる群より選ばれる機械的性質であってもよい。
また、上記態様において、前記指標は、放射光又は中性子を前記構造物に照射して得られる前記結晶格子間の距離を反映した測定値であってもよい。
また、上記態様において、前記指標は、X線回析法又は中性子回析法により得られる半価幅であってもよい。
また、本発明の一の態様の残留応力推定装置は、塑性加工を施した構造物を測定することにより、前記構造物における結晶格子のひずみを反映した指標を取得する取得手段と、前記取得手段によって取得された前記指標に基づいて結晶格子のひずみが生じた領域を特定し、特定された前記領域を残留応力を推定するための解析範囲として設定する設定手段と、前記構造物の残留応力に関する計測値の入力を受け付ける入力部と、前記設定手段により設定された前記解析範囲における前記構造物の固有ひずみを近似するよう、前記入力部により受け付けられた前記計測値を用いて前記解析範囲における固有ひずみの分布を推定する推定手段と、前記推定手段によって推定された前記固有ひずみの分布に基づく残留応力の推定結果を表示する表示部と、を備える。
本発明によれば、ユーザの経験に左右されることなく、適切な解析範囲を設定することが可能となる。
実施の形態に係る残留応力推定装置の構成を示すブロック図。 クランク軸の構成を示す図。 クランク軸に対する塑性加工を説明するための図。 実施の形態に係る残留応力推定の手順を示すフローチャート。 構造物から採取される切断片の一例を説明するための斜視図。 C片の採取を説明するための図。 解析範囲を説明するための図。 構造物の表面からの深さ方向における硬さの分布の一例を示すグラフ。 図8に硬さの分布を示した構造物の材料に対して実施された引張試験の結果を示すグラフ。 評価試験の結果(残留応力の推定誤差)を示すグラフ。 評価試験の結果(フィレット周方向における残留応力の推定結果)を示すグラフ。 評価試験の結果(ピン周方向における残留応力の推定結果)を示すグラフ。 X線回析法により得られる半価幅の深さ方向における分布の一例を示すグラフ。
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
本実施の形態に係る残留応力推定装置は、構造物における結晶格子のひずみを反映した指標を取得し、取得された指標に基づいて結晶格子のひずみが生じた領域を特定し、特定された前記領域を解析範囲として設定し、この解析範囲について、固有ひずみ法に基づき構造物の残留応力を推定するものである。
[残留応力推定装置の構成]
図1は、本実施の形態に係る残留応力推定装置の構成を示すブロック図である。残留応力推定装置1は、コンピュータ10によって実現される。図1に示すように、コンピュータ10は、本体11と、入力部12と、表示部13とを備えている。本体11は、CPU111、ROM112、RAM113、ハードディスク115、読出装置114、入出力インタフェース116、及び画像出力インタフェース117を備えており、CPU111、ROM112、RAM113、ハードディスク115、読出装置114、入出力インタフェース116、及び画像出力インタフェース117は、バスによって接続されている。
CPU111は、RAM113にロードされたコンピュータプログラムを実行することが可能である。そして、残留応力推定用のコンピュータプログラムである残留応力推定プログラム110を当該CPU111が実行することにより、コンピュータ10が残留応力推定装置1として機能する。残留応力推定プログラム110は、有限要素法に基づく逆解析処理プログラムであり、構造物における固有ひずみの分布状況の推定を可能とする。
ROM112は、マスクROM、PROM、EPROM、又はEEPROM等によって構成されており、CPU111に実行されるコンピュータプログラム及びこれに用いるデータ等が記録されている。
RAM113は、SRAMまたはDRAM等によって構成されている。RAM113は、ハードディスク115に記録されている残留応力推定プログラム110の読み出しに用いられる。また、CPU111がコンピュータプログラムを実行するときに、CPU111の作業領域として利用される。
ハードディスク115は、オペレーティングシステム及びアプリケーションプログラム等、CPU111に実行させるための種々のコンピュータプログラム及び当該コンピュータプログラムの実行に用いられるデータがインストールされている。残留応力推定プログラム110も、このハードディスク115にインストールされている。
ハードディスク115には、例えば米マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)等のオペレーティングシステムがインストールされている。以下の説明においては、本実施の形態に係る残留応力推定プログラム110は当該オペレーティングシステム上で動作するものとしている。
読出装置114は、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、またはDVD−ROMドライブ等によって構成されており、可搬型記録媒体120に記録されたコンピュータプログラムまたはデータを読み出すことができる。可搬型記録媒体120には、コンピュータを残留応力推定装置として機能させるための残留応力推定プログラム110が格納されており、コンピュータ10が当該可搬型記録媒体120から残留応力推定プログラム120を読み出し、当該残留応力推定プログラム120をハードディスク115にインストールすることが可能である。
入出力インタフェース116は、例えばUSB,IEEE1394,又はRS-232C等のシリアルインタフェース、SCSI,IDE,又は IEEE1284等のパラレルインタフェース、及びD/A変換器、A/D変換器等からなるアナログインタフェース等から構成されている。入出力インタフェース116には、キーボード及びマウスからなる入力部12が接続されており、ユーザが当該入力部12を使用することにより、コンピュータ10にデータを入力することが可能である。
画像出力インタフェース117は、LCDまたはCRT等で構成された表示部13に接続されており、CPU111から与えられた画像データに応じた映像信号を表示部13に出力するようになっている。表示部13は、入力された映像信号にしたがって、画像(画面)を表示する。
[固有ひずみ法に基づく残留応力推定の原理]
(1)固有ひずみを用いた残留応力の算出
固有ひずみをεとすると、残留応力σは次式で表される。
σ=D(ε−ε) …(1)
但し、Dは弾性係数マトリックスであり、εは次式の関係を満たす全ひずみである。
さて、固有ひずみが判っている場合、残留応力は次のように求められる。
式(2)及び(3)より、次式が与えられる。
式(4)を解いてuを求めると、式(3)及び(1)から残留応力が得られる。
(2)計測残留応力を用いた固有ひずみの算出
N個の計測残留応力をσと表す。これに対応して、固有ひずみから求めたN個の計算残留応力をσとし、計測残留応力との残差Rを次式で定義する。
また、任意点の固有ひずみをM個の分布関数パラメータaによって、次の線形関数で表す。
ここで、Mは座標の関数であり、座標に関して非線形であってもよい。
式(8)によって固有ひずみが決まれば、計測残留応力は上記(1)の方法で求まり、その結果次のような線形の関係式が得られる。
式(7)に式(9)を代入し、Rが最小になるようにaを決定すると、計測残留応力と、計測点における計算残留応力の誤差が最小になるような固有ひずみ分布が決定される。
[残留応力推定装置の動作]
以下、本実施の形態に係る残留応力推定装置1の動作について説明する。
残留応力推定装置1は、以下に説明するような残留応力推定処理を実行して、構造物の残留応力を推定する。
ここでは、構造物の一例として、クランク軸について説明する。図2は、クランク軸の構成を示す図である。クランク軸200は、ジャーナル軸201と、ピン軸203とがクランクアーム202によって接続されて構成される。ジャーナル軸201とクランクアーム202の接続箇所、及びピン軸203とクランクアーム202の接続箇所は、使用時に大きな応力が発生しやすい。これらの接続箇所の内部に引張残留応力が生じていると、疲労き裂等の損傷の原因となり得る。疲労寿命を向上させるために、ロール加工又はショットピーニングなどの塑性加工が上記の接続箇所に施され、圧縮残留応力が導入される。
図3は、クランク軸に対する塑性加工を説明するための図である。図3では、ロール加工の場合を示している。ロール加工では、ジャーナル軸201(又はピン軸203)と、クランクアーム202との接続箇所に、ロール300が押しつけられた状態で、軸201が回転される。これにより、接続箇所には、フィレット204が形成され、軸201の周方向に分布するように圧縮残留応力が付与される。
上記のように塑性加工が施された構造物について、残留応力推定装置1を用いて残留応力を推定する。図4は、本実施の形態に係る残留応力推定の手順を示すフローチャートである。
ユーザは、構造物を切断加工して切断片を採取し、切断片から残留応力を計測する(ステップS1)。一般的には、構造物を一方向に薄く切断して切断片(T片)を採取し、前記一方向に直交する方向に薄く切断して切断片(L片)を採取する。
ここで、残留応力は弾性ひずみにヤング率を乗じて得られる値であり、弾性ひずみを計測することと、残留応力を計測することとは等価である。したがって、切断片からは弾性ひずみ及び残留応力の何れを計測してもよい。本実施の形態では、残留応力を計測する場合について述べる。
図5は、構造物から採取される切断片の一例を説明するための斜視図である。図5に示すように、周方向に一様に圧縮残留応力が付与されたジャーナル軸又はピン軸のような軸対称の構造物の場合、T片は半径方向に切断することによって得られる。固有ひずみが周方向に一様に分布していれば、周方向のどの部分においてT片を得たとしても、固有ひずみは変わらない。したがって、T片を1つだけ採取してもよい。これにより、T片の採取数を少なくできるので、切断加工及び切断片の残留応力計測の作業負担を軽減できる。
一方、軸長方向については、固有ひずみの分布は複雑である。したがって、軸長方向の複数箇所においてL片を採取する必要がある。
なお、クランク軸のフィレット部のように曲面を持つ場合には、L片ではなく、曲面の法線方向に切断した円錐形状の切断片(以下、「C片」という)を採取してもよい。また、L片及びC片を採取せず、T片のみを採取してもよい。図6は、C片の採取を説明するための図である。図6において、各図はジャーナル軸を回転軸軸長方向に切断したときの断面図である。C片500は、フィレットの曲面の法線方向、即ち、断面において円弧状のフィレットの半径方向に構造物を切断することによって得られる。ジャーナル軸は軸対称形状であるため、C片500の切断面501は、ジャーナル軸の回転中心軸回りに円錐状に延びる。かかるC片は、フィレットの中心角を変えて数点(例えば、20°から110°まで10°毎)採取される。
また、一方向に長い棒状の構造物に対して、長手方向に一様に圧縮残留応力が付与された場合、長手方向の1箇所で、T片を1つだけ採取できる。
ユーザは、上記のようにして採取された切断片に対して、X線などにより残留応力を直接計測する。弾性ひずみを計測する場合、ユーザは、切断片にひずみゲージを貼り付け、さらに複数の小片に切断し、各小片の解放ひずみ(弾性ひずみ)を計測する。残留応力又は解放ひずみ(弾性ひずみ)の計測においては、互いに異なる複数の成分を計測する。
再び図4を参照する。ユーザは、残留応力の計測値を、残留応力推定装置1に入力する。残留応力推定装置1のCPU111は、入力部12から入力された計測値を受け付ける(ステップS2)。こうして入力された計測値は、後述する分布関数のパラメータ最適化による残留応力の推定に用いられる。
次にユーザは、上記の切断片を測定して、構造物における結晶格子のひずみを反映した指標を取得する(ステップS3)。構造物に塑性加工が施されると、塑性加工が施された部分に塑性ひずみ及び変態ひずみ等の非弾性ひずみが生じる。この非弾性ひずみは、微視的には結晶格子のひずみ(以下、「格子ひずみ」という)であり、その中でも塑性ひずみは転位のような格子欠陥による格子ひずみに起因し、変態ひずみは拡散型変態及び無拡散変態に因らず、結晶構造の変化による格子ひずみに起因する。かかる非弾性ひずみに起因して固有ひずみが生じ、構造物の内部に残留応力が発生する。
上記のような格子ひずみが生じると変化する機械的性質がある。例えば、金属材料では加工硬化又は加工軟化が生じることが知られている。これは、格子ひずみの有無により材料の硬さが変化することを意味する。したがって、硬さは格子ひずみの有無によって変化する機械的性質の1つである。また、極限強度、疲労強度、クリープ強度、衝撃値などの機械的性質は硬さとよい相関があることが知られている。したがって、硬さと相関のあるこれらの機械的性質も、格子ひずみの有無によって変化するものであり、上記の指標として利用可能である。かかる機械的性質には、静的引張/圧縮試験によって測定されるヤング係数、降伏点、極限強度、破断強度、破断伸び、及び絞り、硬さ試験によって測定される硬さ、衝撃試験によって測定される衝撃値、疲労試験による疲労強度、並びにクリープ試験によるクリープ強度が含まれる。
本実施の形態では、格子ひずみを反映した指標として、ビッカース硬さを用いた構成について説明する。ユーザは、構造物を切断した切断片の各部におけるビッカース硬さをビッカース硬さ試験によって測定する。
次にユーザは、得られた測定値を、構造物における結晶格子のひずみを反映した指標として、残留応力推定装置1に入力する。CPU111は、入力部12から入力された指標を受け付ける(ステップS4)。入力された測定値(指標)は、構造物における残留応力を推定する範囲である解析範囲の設定に用いられる。
ここで、クランク軸における解析範囲及び硬さの測定について説明する。図7は、解析範囲を説明するための図である。図7では、ジャーナル軸201の中心軸に沿った断面を示している。ジャーナル軸201とクランクアーム202との接続箇所に冷間ロール加工を施す際、ロール300をジャーナル軸201の中心軸に対して所定角度(以下、「フィレット角」という)傾斜させた状態で、当該接続箇所に押し付ける(図3参照)。このため、ロール300の押し付け方向を中心として扇形に広がった範囲でクランク軸が圧縮され、塑性ひずみが生じる。かかる塑性ひずみが生じる範囲に近似した解析範囲を設定することで、正確に残留応力を推定できる。解析範囲は、図7に示すように、ジャーナル軸201の中心軸に沿った断面において、角度α及びΔα、並びに深さΔrによって規定できる。また、回転軸を中心とした周方向については一様に塑性変形が生じると推定できるため、1つの断面における解析範囲を設定すれば、他の断面における解析範囲の設定を省略できる。
このような解析範囲の設定に必要なデータを得るため、ユーザは、構造物を上記の断面に沿って切断された切断片(T片)の複数箇所における硬さを測定する。こうして得られた硬さの測定値が、残留応力推定装置1に入力される。
測定値の入力を受け付けると、CPU111は、入力された測定値に基づいて解析範囲を設定する(ステップS5)。この解析範囲の設定について説明する。図8は、深さ方向における硬さの分布の一例を示すグラフである。図8において、縦軸は硬さを示し、横軸は構造物表面からの深さを示す。図8に示す例では、構造物の表面に近い位置では硬さが小さく、深さが大きくなるにつれて硬さが増している。深さが約12mmの位置において硬さが309Hvとなり、それより深い位置では硬さが309Hvで一定である。
図9は、図8に硬さの分布を示した構造物の材料(以下、「対象材料」という)に対して実施された引張試験(静的引張試験及びサイクリック試験)の結果を示すグラフである。図9において、縦軸は応力を示し、横軸はひずみを示す。また、図中黒色の実線は静的引張試験の結果を示し、灰色の実線はサイクリック試験の結果を示す。金属には、その材質、組織等によって、塑性加工した場合に硬化(加工硬化)するものと軟化(加工軟化)するものとがある。図9に示すように、対象材料は、引張荷重及び圧縮荷重を繰り返し与える(繰り返し加工)ことによって加工軟化することが分かる。対象材料の引張強度は970MPaであり、ビッカース硬さでは309Hvに相当する。再び図8を参照すると、表面から約12mmの位置が塑性ひずみの発生領域と発生していない領域との境界であることが分かる。CPU111は、深さ毎の硬さの測定値と、予め与えられた塑性加工が施されていない状態での対象材料の硬さとを比較することで、この境界を検出することができる。また、深さの順に硬さの測定値の変化を調べ、測定値が一定となった深さを境界として検出してもよい。図8の例では、表面から深さ約12mmまでの範囲において塑性ひずみが生じている。したがって、この例においては、解析範囲の深さΔrを約12mmとして決定できる。解析範囲の開始角度α及び解析範囲の角度Δαについても同様にして決定する。
ところで、構造物の残留応力は、計測した切断片の残留応力(又は弾性ひずみ)に基づいて推定される。したがって、残留応力又は弾性ひずみの計測点をどこにするかは、構造物の残留応力の推定精度に大きな影響を及ぼす。固有ひずみの値が高い部位、固有ひずみの分布が急峻に変化する部位などを計測点にすれば、精度よく残留応力を推定できる。このような部位は解析範囲に含まれているので、ユーザは、解析範囲内において計測点を決定してもよい。例えば、残留応力の計測値の入力よりも先に、格子ひずみを反映した指標の入力及び解析範囲の決定を実行し、決定された解析範囲を表示部13に表示し、ユーザがこの解析範囲を参照して、残留応力又は弾性ひずみの計測点を決定してもよい。
次にCPU111は、固有ひずみの分布関数を決定する(ステップS6)。分布関数としては、任意の多次多項式、又は三角級数を選択可能とすることができる。この場合、CPU111が自動的に分布関数を選択してもよいし、ユーザが入力部12を用いて所望の分布関数を指定してもよい。また、残留応力推定装置1において予め分布関数が設定されていてもよい。
次にCPU111は、分布関数のパラメータを最適化する(ステップS7)。以下、ステップS7の処理について具体的に説明する。
CPU111は、まず式(9)のHを決定する。その手順は次の通りである。
(a)a=[1,0,0,…,0]として、ε=Maを求める。
(b)式(4)を解き、uを求める。
(c)式(3)によりεを求める。
(d)式(1)によりσを求める。
(e)σの成分の中から、残留応力測定点に対応するN個の値を抽出し、これをHの第1列とする。
(f)a=[0,1,0,…,0]として、Hの第2列も同様に(b)〜(f)の手順で求める。
次にCPU111は、式(7)のRが最小になるように、aを決定する。これにより、分布関数のパラメータが最適化される。
さらにCPU111は、残留応力の推定値を算出する(ステップS8)。
ステップS8の処理では、まずCPU111が、式(8)によって、任意点の固有ひずみを求める。さらにCPU111が、式(4)を解いてuを求め、得られたuを式(3)に適用してεを求め、得られたεを式(1)に適用してσを求める。
次にCPU111は、得られた残留応力の推定値を表示部13に表示させる(ステップS9)。
ステップS9の後、CPU111は処理を終了する。
上記のような構成とすることにより、結晶格子のひずみを反映した指標である機械的性質を用いて、塑性ひずみが生じる領域を特定することができ、この領域を解析範囲として設定できる。塑性ひずみを含む非弾性ひずみに起因して固有ひずみが生じ、この固有ひずみに起因して残留応力が生じるため、塑性ひずみが生じる領域を解析範囲とすることで、残留応力が生じていると推定される範囲において残留応力を推定することになり、推定精度を向上させることができる。したがって、ユーザの経験に左右されることなく、解析範囲を適切に設定できる。
また、従来、ユーザが解析範囲をマニュアルで入力する残留応力推定装置とは別に、最適化処理により解析範囲を探索するものもある。本実施の形態に係る残留応力推定装置にあっては、残留応力の推定処理の前に解析範囲を設定できるため、最適化処理による解析範囲の探索が必要なく、残留応力の推定処理における計算量を大幅に軽減できる。
(評価試験)
本発明者は、上記で説明した残留応力推定方法の性能評価試験を行った。本評価試験では、ジャーナル軸の中心軸を中心とした周方向における解析範囲の幅をα=−20°、Δα=100°で一定とし、解析範囲の深さΔrを種々変更して、固有ひずみ法による残留応力推定の数値実験を行い、深さΔr毎に正解値(実測値)と数値実験結果との比較を行った。なお、本試験に用いたサンプル(構造物)では、図8に示す硬さが測定された(つまり、塑性ひずみが発生した領域と発生していない領域との境界は深さ12mm付近に存在する)。また、本試験では、フィレット角40°における複数の深さにおいて残留応力の実測値及び推定値を取得した。実測値については、測定深さまで構造物を穿孔し、穴底にひずみゲージを貼って切断法により測定した。
図10は、本試験の結果を示すグラフである。図10において、縦軸は推定誤差(残留応力の推定値の実測値からの誤差)を示し、横軸は解析範囲の深さΔrを示している。図10に示すように、解析範囲の深さΔrを12mmとした場合が最も精度よく推定できている。塑性ひずみが発生した範囲の深さは約12mmであり、解析範囲を塑性ひずみが発生した範囲と一致させた場合に、精度よく残留応力を推定できることが分かる。
また、下表に示す各解析範囲について、推定値と実測値とを比較した。図11A及び図11Bは、この比較結果を示すグラフである。図11Aは、円弧状のフィレットの周方向(フィレット周方向)における残留応力の分布を示しており、図11Bは、ジャーナル軸を中心とした円の周方向(ピン周方向)における残留応力の分布を示している。
解析範囲1(深さが4mm)の場合では、塑性ひずみが生じる範囲に比べて解析範囲が小さい。図11A及び図11Bに示すように、かかる解析範囲1の場合、表面近傍の残留応力が実測値から大きく外れ、推定精度が悪い。一方、解析範囲2(深さが30mm)及び解析範囲3(深さが60mm)のように、塑性ひずみが生じる範囲に比べて解析範囲が大きい場合には、深さ15mm以上の推定値が実測値から乖離し、推定精度が悪い。塑性ひずみが生じる範囲と解析範囲とが概ね一致する解析範囲4(深さが12mm)では、推定値が実測値とよく一致しており、精度よく残留応力を推定できることが分かる。
(実施の形態2)
本実施の形態では、構造物における格子ひずみを反映した指標としてX線回析法により得られる半価幅を用いる。構造物において格子ひずみが生じると、格子間の距離が変化する。その一方で、X線回析法又は中性子回析法により得られる半価幅は、格子間の距離(結晶サイズ)に反比例して広がることが知られている。つまり、半価幅は、格子間の距離を反映している。このため、放射光又は中性子等を構造物に照射して半価幅を測定し、この半価幅を、格子ひずみを反映した指標とすることができる。本実施の形態に係る残留応力推定装置は、X線回析法により得られる半価幅を利用して解析範囲を決定する。つまり、図4に示すステップS3において、ユーザは切断片から半価幅を測定し、ステップS4において、CPU111は半価幅の入力を受け付ける。
図12は、X線回析法により得られる半価幅の深さ方向における分布の一例を示すグラフである。塑性加工が施されていない状態の対象材料における半価幅は2.6である。図12に示すように、構造物の表面に近い位置では半価幅が大きく、深さが大きくなるにつれて半価幅が減少している。深さが約12mmの位置において半価幅が2.6となり、それより深い位置では半価幅が2.6で一定である。このため、対象材料は、表面から約12mmの位置が塑性ひずみの発生領域と発生していない領域との境界であることが分かる。つまり、表面から深さ約12mmまでの範囲において塑性ひずみが生じている。したがって、この例においては、解析範囲の深さΔrを約12mmとして決定できる。解析範囲の開始角度α及び解析範囲の角度Δαについても同様にして決定する。
本実施の形態に係る残留応力推定装置の構成及びその他の動作については、実施の形態1に係る残留応力推定装置1の構成及び動作と同様であるので、その説明を省略する。
上記のような構成とすることにより、結晶格子のひずみを反映した指標である半価幅を用いて、塑性ひずみが生じる領域を特定することができ、この領域を解析範囲として設定できる。塑性ひずみが生じる領域を解析範囲とすることで、残留応力が生じていると推定される範囲において残留応力を推定することになり、推定精度を向上させることができる。
(その他の実施の形態)
上記の実施の形態1及び2においては、残留応力推定装置が、結晶格子のひずみを反映した指標に基づいて解析範囲を決定する構成について述べたが、これに限定されるものではない。ユーザが、結晶格子のひずみを反映した指標に基づいて、解析範囲を決定し、この解析範囲を残留応力推定装置に入力してもよい。
また、上記の実施の形態1及び2においては、構造物の切断片から残留応力を計測し、計測された残留応力と、分布関数によって計算される残留応力との差が最小となるよう、分布関数のパラメータを最適化する構成について述べたが、これに限定されるものではない。構造物の切断片から解放ひずみ(弾力ひずみ)を計測し、計測された解放ひずみと、分布関数によって計算される弾性ひずみとの差が最小となるよう、分布関数のパラメータを最適化する構成としてもよい。
また、上記の実施の形態2においては、放射光又は中性子を構造物に照射して得られる半価幅を用いる構成について述べたが、これに限定されるものではない。X回析法又は中性子回析法により得られる回析角は、結晶格子間の距離を直接的に反映した値である。このため、かかる回析角を、結晶格子のひずみを反映した指標として用いてもよい。
本発明の残留応力推定方法及び残留応力推定装置は、固有ひずみ法に基づき構造物の残留応力を推定するための残留応力推定方法及び残留応力推定装置として有用である。
1 残留応力推定装置
10 コンピュータ
12 入力部
13 表示部
110 残留応力推定プログラム
111 CPU
115 ハードディスク
116 入出力インタフェース
117 画像出力インタフェース

Claims (6)

  1. 塑性加工を施した構造物を測定することにより、前記構造物における結晶格子のひずみを反映した指標を取得するステップと、
    前記指標に基づいて結晶格子のひずみが生じた領域を特定し、特定された前記領域を残留応力を推定するための解析範囲として設定するステップと、
    前記構造物から得られた残留応力に関する計測値に基づいて、前記解析範囲における前記構造物の固有ひずみを近似するよう前記解析範囲における固有ひずみの分布を推定するステップと、
    推定された固有ひずみの分布に基づいて、前記構造物における残留応力を推定するステップと、
    を有する、
    固有ひずみに基づく残留応力推定方法。
  2. 前記指標は、結晶格子のひずみの有無によって変化する機械的性質である、
    請求項1に記載の残留応力推定方法。
  3. 前記機械的性質は、硬さ、ヤング係数、降伏点、極限強度、破断強度、破断伸び、絞り、衝撃値、疲労強度、及びクリープ強度からなる群より選ばれる機械的性質である、
    請求項2に記載の残留応力推定方法。
  4. 前記指標は、放射光又は中性子を前記構造物に照射して得られる前記結晶格子間の距離を反映した測定値である、
    請求項1に記載の残留応力推定方法。
  5. 前記指標は、X線回析法又は中性子回析法により得られる半価幅である、
    請求項4に記載の残留応力推定方法。
  6. 塑性加工を施した構造物を測定することにより、前記構造物における結晶格子のひずみを反映した指標を取得する取得手段と、
    前記取得手段によって取得された前記指標に基づいて結晶格子のひずみが生じた領域を特定し、特定された前記領域を残留応力を推定するための解析範囲として設定する設定手段と、
    前記構造物の残留応力に関する計測値の入力を受け付ける入力部と、
    前記設定手段により設定された前記解析範囲における前記構造物の固有ひずみを近似するよう、前記入力部により受け付けられた前記計測値を用いて前記解析範囲における固有ひずみの分布を推定する推定手段と、
    前記推定手段によって推定された前記固有ひずみの分布に基づく残留応力の推定結果を表示する表示部と、
    を備える、
    残留応力推定装置。
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