JP6632118B2 - 腫瘍の再発を抑制する医薬 - Google Patents

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Description

本発明は、腫瘍を処置するための医薬に関する。より詳細には、本発明は、代表的にはα-アマニチンを有効成分とする医薬を、腫瘍の化学療法後もしくは切除後の再発を処置するために用いることに関する。本発明は、医療、医薬品製造、腫瘍に関する研究等の分野で有用である。
化学療法後のがんの再発は、不均一な細胞集団中のいくつかの薬物耐性(Drug-tolerant)細胞がストレスの多い条件下で生き残って増殖する生物学的現象である。臨床上は、がん、進行した消化器系腫瘍の見掛け上の「治療的」切除、続いてアジュバント化学療法を受けたがん患者のうち、50−90%が同疾患の再発により亡くなる(非特許文献1:Paoletti et al., 2010)。治療的切除は、患者の体内に検出可能ながん細胞が残存しない状態により定義される(非特許文献2:Sakuramoto et al., 2007)。アジュバント化学療法の間でさえ再発が起こり得ることから、がん細胞の極めて小さな集団が化学療法を切り抜けて生き残り、そして局所的な腫瘍の成長、リンパ腫/血中転移、および胸膜/腹膜播種性転移を促進し得ることが示唆される。最近の研究は、遺伝的変化の蓄積に基づいて腫瘍が致死的レベルに成長するまでに数十年要することを証明した(非特許文献3:Campbell et al., 2010; 非特許文献4:Yachida et al., 2010)。ほとんどの再発は消化器系がん患者の治療的処置後の5年以内に生じるが、これはがんが悪性度の高い表現型を獲得するのに必要とされる推定時間よりもはるかに短い期間である(非特許文献5:O'Connell et al., 1994)。
すべての再発の状況に関して決まった臨床上のガイドラインはないが、古典的なDNA傷害性薬剤またはタキサン系薬剤がしばしばPC患者に使用される(非特許文献6:Ansaloni et al., 2014; 非特許文献7:Sloothaak et al., 2014)。
一方、Amanita属の有毒きのこ種から生成される、環状ペプチド構造を持つ有毒成分(アマトキシン)の一つであるα‐アマニチンは、アマトキシンの中でも特に毒性が強いことが知られている。経口投与では、消化器症状に続いて、肝臓、腎臓が侵され、最終的には、には、血圧の急激な低下、昏睡などの中枢神経系の障害が起こり、死に至らしめる。細胞レベルでは真核生物のRNAポリメラーゼIIと特異的に結合し、RNA鎖合成を阻止することが知られている(非特許文献8:Lindell et al., 1970)。
α-AMAを利用する治療的な試みは、その消化管、肝臓および腎臓に対する毒性のため、ほとんど遂行されていない(非特許文献9:Ward et al., 2013)。しかしながら、最近の研究では、がんの治療において有用な標的結合部分とアマトキシンとを複合体化して用いることを提案し、100μg/kgの用量においてさえ全身の副作用なしにヒト膵臓がんマウス皮膚異種移植モデルにおいて、明確な成長抑制効果を示したことが報告されている(非特許文献10:Moldenhauer et al., 2012)。このような複合体は特に、腺がん、例えば膵臓がん、胆管がん、乳がんおよび結腸直腸がんの治療に有用であると述べられている(特許文献1および2)。
欧州特許公報EP1859811 特表2012−523383
Paoletti, X., Oba, K., Burzykowski, T., Michiels, S., Ohashi, Y., Pignon, J.P., Rougier, P., Sakamoto, J., Sargent, D., Sasako, M., et al. (2010). Benefit of adjuvant chemotherapy for resectable gastric cancer: a meta-analysis. JAMA 303, 1729-1737. Sakuramoto, S., Sasako, M., Yamaguchi, T., Kinoshita, T., Fujii, M., Nashimoto, A., Furukawa, H., Nakajima, T., Ohashi, Y., Imamura, H., et al. (2007). Adjuvant chemotherapy for gastric cancer with S-1, an oral fluoropyrimidine. N Engl J Med 357, 1810-1820. Campbell, P.J., Yachida, S., Mudie, L.J., Stephens, P.J., Pleasance, E.D., Stebbings, L.A., Morsberger, L.A., Latimer, C., McLaren, S., Lin, M.L., et al. (2010). The patterns and dynamics of genomic instability in metastatic pancreatic cancer. Nature 467, 1109-1113. Yachida, S., Jones, S., Bozic, I., Antal, T., Leary, R., Fu, B., Kamiyama, M., Hruban, R.H., Eshleman, J.R., Nowak, M.A., et al. (2010). Distant metastasis occurs late during the genetic evolution of pancreatic cancer. Nature 467, 1114-1117. O'Connell, M.J., Martenson, J.A., Wieand, H.S., Krook, J.E., Macdonald, J.S., Haller, D.G., Mayer, R.J., Gunderson, L.L., and Rich, T.A. (1994). Improving adjuvant therapy for rectal cancer by combining protracted-infusion fluorouracil with radiation therapy after curative surgery. N Engl J Med 331, 502-507. Ansaloni, L., Coccolini, F., Morosi, L., Ballerini, A., Ceresoli, M., Grosso, G., Bertoli, P., Busci, L., Lotti, M., and Cambria, F. (2014). Pharmacokinetics of concomitant cisplatin and paclitaxel administered by hyperthermic intraperitoneal chemotherapy to patients with peritoneal carcinomatosis from epithelial ovarian cancer. British journal of cancer. Sloothaak, D., Mirck, B., Punt, C., Bemelman, W., van der Bilt, J., D'Hoore, A., and Tanis, P. (2014). Intraperitoneal chemotherapy as adjuvant treatment to prevent peritoneal carcinomatosis of colorectal cancer origin: a systematic review. British journal of cancer 111, 1112-1121. Lindell, T.J., Weinberg, F., Morris, P.W., Roeder, R.G., and Rutter, W.J. (1970). Specific inhibition of nuclear RNA polymerase II by alpha-amanitin. Science 170, 447-449. Ward, J., Kapadia, K., Brush, E., and Salhanick, S.D. (2013). Amatoxin poisoning: case reports and review of current therapies. J Emerg Med 44, 116-121. Moldenhauer, G., Salnikov, A.V., Luttgau, S., Herr, I., Anderl, J., and Faulstich, H. (2012). Therapeutic potential of amanitin-conjugated anti-epithelial cell adhesion molecule monoclonal antibody against pancreatic carcinoma. J Natl Cancer Inst 104, 622-634. Kreso, A., O'Brien, C.A., van Galen, P., Gan, O.I., Notta, F., Brown, A.M., Ng, K., Ma, J., Wienholds, E., Dunant, C., et al. (2013). Variable clonal repopulation dynamics influence chemotherapy response in colorectal cancer. Science 339, 543-548. Ramaswamy, S., Ross, K.N., Lander, E.S., and Golub, T.R. (2003). A molecular signature of metastasis in primary solid tumors. Nat Genet 33, 49-54. Sharma, S.V., Lee, D.Y., Li, B., Quinlan, M.P., Takahashi, F., Maheswaran, S., McDermott, U., Azizian, N., Zou, L., Fischbach, M.A., et al. (2010). A chromatin-mediated reversible drug-tolerant state in cancer cell subpopulations. Cell 141, 69-80. Baylin, S.B. (2011). Resistance, epigenetics and the cancer ecosystem. Nat Med 17, 288-289.
本発明者らは、ほとんどの再発がんは、がんが悪性度の高い表現型を獲得するのに必要とされる推定時間よりもはるかに短い期間で生じることから、再発の機構は、根本的な遺伝的原因を有することよりむしろ悪性表現型の薬物耐性に関連することが知られている、クロマチンの構造変化、選択的遺伝子発現および集団選択を含む機能的変化(非特許文献11〜13:Kreso et al., 2013; Ramaswamy et al., 2003; Sharma et al., 2010)に基づくと仮定した。したがって、薬物治療後に細胞分割および続く増殖を抑制し得る標的分子を同定することが重要である。
一方、そのような標的の同定は、薬物および細胞の種類に依存して不均一な集団の異なる生存機構から生じるかもしれないさまざまな標的のために難しいかもしれない(非特許文献14:Baylin, 2011)。
したがって、化学療法後のがんの再発を抑制することができる薬物は、いくつかの根本的ながん細胞機能に影響し得る阻害的機構を有するべきである。
がん再発の機構を解明するため、本発明者らは、抗がん剤の存在下で生存可能な亜集団である薬物耐性コロニー(DTC)を用い、DTC生存に対するRNAポリメラーゼII(RNAPII)阻害のインパクト、並びにもっとも破壊的な末期がん状態の一つであるがん性腹膜炎(PC)を予防すべく、RNAPII阻害およびシスプラチン(CIS)が続いて投与された場合について鋭意研究した。その結果、本発明者らは、慣用のCIS化学療法と組み合わせたRNAPII阻害剤α-アマニチン(α-AMA)がPCの抑制において顕著な役割を担うことを見出し、本発明を完成した。
本発明は、以下を提供する。
[1](1)少なくとも一の殺細胞性抗腫瘍薬、および
(2)少なくとも一のRNAポリメラーゼII阻害剤、またはヒストンデアセチラーゼ阻害剤
を含み、それらを組み合わせて投与し、腫瘍の化学療法後もしくは切除後の再発を処置するための、または抗腫瘍薬に対する耐性を示す細胞の出現を抑制するための、医薬。
[2](1)が、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、ブスルファン、ダカルバジン、ラニムスチン、ニムスチン、ビンクリスチン,イリノテカン、ドセタキセル、パクリタキセル、アドリアマイシン、マイトマイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、ブレオマイシンからなる群より選択される、1に記載の医薬。
[3](1)が、アルキル化剤または白金化合物から選択される、1または2に記載の医薬。
[4](1)が、シスプラチンである、2または3に記載の医薬。
[5](2)が、アマトキシンまたはその類縁体である、1〜4のいずれか1項に記載の医薬。
[6](2)が、α−アマニチンまたはその類縁体である、5に記載の医薬。
[7]腫瘍の化学療法後もしくは切除後の再発を、予防または遅延するためのものであり、腫瘍が、大腸がん、前立腺がん、乳がん、多発性骨髄腫、B細胞リンパ腫、悪性神経膠芽腫、腎臓がん、肝臓がん、前立腺がん、および小細胞性肺がんからなる群より選択されるいずれかである、1〜6のいずれか1項に記載の医薬。
[8]腫瘍の切除後の患者に対して、切除後2週間以内に投与するための、1〜7のいずれか1項に記載の医薬。
[9]有効成分として、少なくとも一のRNAポリメラーゼII阻害剤、またはヒストンデアセチラーゼ阻害剤 を含む、腫瘍の化学療法後もしくは切除後の再発を処置 するための、または抗腫瘍薬に対する耐性を示す細胞の出現を抑制するための、医薬。
[10]有効成分が、α−アマニチンまたはその類縁体である、9に記載の医薬。
[11]腫瘍の化学療法後もしくは腫瘍の切除後の再発を、予防または遅延するためのものであり、腫瘍が、大腸がん、前立腺がん、乳がん、多発性骨髄腫、B細胞リンパ腫、悪性神経膠芽腫、腎臓がん、肝臓がん、前立腺がん、および小細胞性肺がんからなる群より選択されるいずれかである、1〜6のいずれか1項に記載の医薬。
[12]腫瘍の切除後の患者に対して、切除後2週間以内に投与するための、1〜7のいずれか1項に記載の医薬。
[13]腫瘍の化学療法後もしくは切除後の再発を処置するための、または抗腫瘍薬に対する耐性を示す細胞の出現を抑制するための薬物の、インビトロのスクリーニング方法であって、
(i)候補薬物について予め求めたがん細胞のコロニー形成を50%抑制するのに必要な薬物濃度(CI50)の2〜100倍濃度の候補薬物で、がん細胞を1〜48時間処理し、処理済細胞を得る工程、および
(ii)処理済細胞をコロニー形成条件下で培養する
工程を含み、
工程(ii)の結果、生じたコロニーの有無または数に基づいて候補薬物を選抜する、スクリーニング方法。
本発明は、標準治療の確立していない再発腫瘍に対し、予防、再発の遅延、再発後の進行の遅延、再発後の治療において、優れた効果を奏しうる。
(A)それぞれの細胞株のシート形態およびコロニーの形態の代表的イメージ。スケールバー=100μm。(B)シートおよびコロニー中の細胞の薬物感受性。各細胞株のGI50およびCI50濃度を、それぞれ増殖抑制アッセイおよびコロニー形成アッセイにより測定した。星印は阻害がなかったことを示す。点線はヒトにおける各薬物のピーク血漿濃度を示す。全ての実験は3重に実施した。エラーバーは±SEMを表す。 MKN45由来の未処理コロニーおよびDTC。用量応答曲線中に、コロニーの出現のためのCIS濃度を示す。未処理コロニーはCIS不在下にて得て(薄い灰色の矢印)、DTCはCI50においてCISにより処理した後に得た(黒の矢印)。各実験は3回行った。エラーバーは±SEMを表す。 短期間のα-アマニチン処理はがん細胞のコロニー形成能力および播種性転移能力を枯渇させる。(A)遺伝子発現プロセスおよび蛋白質合成プロセスにおける、分子標的部分の模式図。(BおよびC)コロニー形成アッセイに基づいた阻害化合物のスクリーニング。(B)トリコスタチンA(TSA)、アクチノマイシンD(AMD)、α-アマニチン(α-AMA)およびシクロヘキシミド(CHX)の10倍連続希釈を含む培地にHCT116細胞を播種した(左)。黒矢印は、一時的な薬物処理によるコロニー形成アッセイに関して使用された濃度である、各化合物に関してのCI50値より10倍大きい濃度を示す。左のパネルの黒矢印に対応する濃度における細胞の播種前の各化合物を用いた一時的処理(0、4および24時間)によるコロニー形成の阻害(右)。(C)5つのがん細胞株におけるα-AMA処理のコロニー形成に対する効果の確認。細胞の播種前に細胞を一時的に(4または24時間)各化合物により処理した。非処理のコロニー数に対するコロニー数をパーセンテージとして示す。細胞株を右側に示す。(DおよびE)一時的(4時間)なα-AMA処理はヌードマウスにおいてMKN45細胞の腹膜播種性転移を枯渇させる。(D)DMSOまたはα-AMAにより処理されたMKN45細胞の腹膜内注入後のヌードマウスの体重。実験の各群は3つのbiological replicatesのセットにおいて実施した。エラーバーは± SEMを表す。腹膜注入後の28日目にDMSOまたはα-AMAを処理された群を比較するための**p < 0.01、スチューデントt検定。(E)DMSOまたはα-AMAを処理された群における播種性転移した成熟腹膜小結節を有する腸間膜(左)。MKN45細胞の腹膜内注入後28日目の小結節の数(右)。実験の各群は6つのbiological replicatesのセットにおいて実施した。エラーバーは± SEMを表す。***p < 0.001、スチューデントt検定。 0.2μM CIS存在下におけるコロニー形成の前に、MKN45細胞をTSA及びα-AMAの2倍連続希釈により一時的(4時間)に処理した。各薬剤のもっとも高い濃度は、底部の各々のパネルにおいて示されたとおり、CI25値であった。***p < 0.001、スチューデントt検定。ns:有意でなかった。 α-AMAはヌードマウスにおける化学療法後にPCを予防した。(A)α-AMAのみ(α-AMA)、CISのみ(CIS)、α-AMAおよびCISの連続投与(α-AMA/CIS)を処理されたかまたは未処理のPCマウスの体重変化。実験の各群は16のbiological replicatesのセットにおいて実施した。エラーバーは± SEMを表す。(B)未処理、CIS、α-AMA、およびα-AMA/CIS群からの腸間膜組織中の播種性転移した成熟腹膜小結節の代表的イメージ。(C)MKN45細胞接種後28日の未処理およびCIS、α-AMA、およびα-AMA/CIS群のPCマウス中の小結節の平均数の比較。実験の各群は6つのbiological replicatesにおいて実施した。***p < 0.001、スチューデントt検定。(D)未処理またはCIS、α-AMA、およびα-AMA/CISによる処理群のPCマウスのカプランメイヤープロット。実験の各群は10のbiological replicatesのセットにおいて実施した。p値はlogランク検定を用いて測定した。(E)未処理、CIS、α-AMA、およびα-AMA/CIS群の死までの平均時間の比較。α-AMA/CIS群は死まで顕著に長い時間を示した。エラーバーは± SEMを表す。**p < 0.05、マンホイットニーU検定。
数値範囲をX〜Yは、両端の値XおよびYを含む。Aおよび/またはBは、AとBの少なくとも一方であることを意味し、Aである場合、Bである場合、AおよびBである場合を含む。疾患または状態に関し、処置というときは、予防、発症の遅延、発症後の場合は進行の遅延、状態の改善、治療を含む。医薬は、医薬組成物(製剤)、医薬組成物の組み合わせ、キット(製剤、製剤の組み合わせに加えて、それ以外のもの、例えば説明のための情報、投与のための治具等を含む。)を含む。
(1)少なくとも一の殺細胞性抗腫瘍薬、および
(2)少なくとも一のRNAポリメラーゼII阻害剤
を含み、それらを組み合わせて投与し、腫瘍の化学療法後もしくは切除後の再発を処置するための、または抗腫瘍薬に対する耐性を示す細胞の出現を抑制するための、医薬を提供する。
本発明の医薬の有効成分の一つは、RNAポリメラーゼII阻害剤である。RNAポリメラーゼII阻害剤の好ましい例は、アマトキシンまたはその誘導体である。
アマトキシンは、アマニタ(Amanita)属から単離され参考文献(Wieland, T. and Faulstich H., 1978)に記載されるような8個のアミノ酸から構成される環状ペプチドである。機能的には、アマトキシンは、哺乳動物のRNAポリメラーゼIIを阻害するペプチドまたはデプシペプチドとして定義される。好ましいアマトキシンは、α−アマニチン、β−アマニチン、γ−アマニチン、ε−アマニチン、アマニン、アマニンアミド、アマヌリンおよびアマヌリン酸、およびそれらの類縁体である。本発明における使用のために特に好ましいアマトキシンは、α−アマニチンである。
ある化合物の類縁体は、その化合物に類似する化学構造を有するが、その化合物中には存在しない少なくとも1つの化学基を含有し、および/または該化合物中に存在する少なくとも1つの化学基を欠く化学種、およびその化合物の医薬として許容される塩を指す。医薬として許容される塩としては、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸や、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸等の有機酸との反応により得られる塩が例示できる。類縁体は、1つまたは複数の工程で親化合物から作製することができる。
ある化合物の類縁体は、該化合物と構造的に関連するが同一ではなく、該化合物の少なくとも1つの活性を示す。類縁体の比較対象となる化合物は、親化合物として知られる。活性は、別の化合物との結合活性、阻害活性、例えば酵素阻害活性、毒性効果、活性化活性、例えば酵素活性化活性を含むがこれらに限定されない。類縁体は、活性を親化合物と同程度示す必要はない。ある物質が親化合物の活性の少なくとも1%(より好ましくは少なくとも5%、より好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%)の活性を示す場合、該物質は類縁体とみなされる。したがって、アマトキシンの類縁体は、α−アマニチン、β−アマニチン、γ−アマニチン、ε−アマニチン、アマニン、アマニンアミド、アマヌリンおよびアマヌリン酸のいずれか1つと構造的に関連し、α−アマニチン、β−アマニチン、γ−アマニチン、ε−アマニチン、アマニン、アマニンアミド、アマヌリンおよびアマヌリン酸の少なくとも1つと比較して哺乳動物のRNAポリメラーゼIIに対する少なくとも1%(より好ましくは少なくとも5%、より好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%)の阻害活性を示す物質を指す。好適なアマトキシンの類縁体はさらに、哺乳動物のRNAポリメラーゼIIに対してα−アマニチン、β−アマニチン、γ−アマニチン、ε−アマニチン、アマニン、アマニンアミド、アマヌリンまたはアマヌリン酸のいずれか1つより大きな阻害活性を有しうるか、および/またはα−アマニチン、β−アマニチン、γ−アマニチン、ε−アマニチン、アマニン、アマニンアミド、アマヌリンまたはアマヌリン酸のいずれか1つより低減された毒性を有しうる。阻害活性は、当業者にはよく知られた方法により測定することができる。
RNAポリメラーゼII阻害剤の他の例は、5,6-ジクロロベンゾイミダゾール1-β-D-リボフラノシド(DRB)である(Selective inhibitation of transcription elongation a)L. A. Chodosh, A. Fire, M. Samuels, P. A. Sharp, J. Biol. Chem. 1989, 264, 2250)。
本発明の医薬の有効成分の他の一つは、殺細胞性抗腫瘍薬である。殺細胞性抗腫瘍薬には、アルキル化剤、白金化合物、代謝拮抗薬、トポイソメラーゼ阻害薬、抗がん抗生物質、微小管作用抗がん剤(アルカロイド系抗がん剤)に分類できるが、これらのうちでは、特にアルキル化剤または白金化合物が好ましい。
白金化合物は、白金を含み、DNA分子の鎖間架橋形成によってDNA合成を阻止する化合物である。白金化合物の例は、カルボプラチン、シスプラチン、オキサリプラチン、シスプラスチン、サトラプラチン、およびZD0473、BBR3464である。
殺細胞性抗腫瘍薬として、抗がん剤として慣用されているものを用いてもよく、このような例としては、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、ブスルファン、ダカルバジン、ラニムスチン、ニムスチン、ビンクリスチン,イリノテカン、ドセタキセル、パクリタキセル、アドリアマイシン、マイトマイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、ブレオマイシン が挙げられる。本発明者らの検討によると、特に好ましい例は、シスプラチンである。
少なくとも一の殺細胞性抗腫瘍薬、および少なくとも一のRNAポリメラーゼII阻害剤、またはヒストンデアセチラーゼ阻害剤を含む医薬を、製剤の形態とする場合、製剤の剤型に特に制限はなく、目的に応じて適宜選択でき、具体的には経口剤(錠剤、被覆錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤など)、注射剤、坐剤、貼付剤、軟膏剤等が例示でき、経口剤が好ましい。
医薬には、医薬として許容される種々の賦形剤を添加することができる。このような賦形剤としては、通常の薬物に汎用される各種のもの、例えば賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、pH調整剤、緩衝剤、安定化剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を例示できる。具体的な賦形剤としては、例えば、乳糖、ショ糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、マルトース、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、マルチトール、イノシトール、デキストラン、ソルビトール、アルブミン、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸、メチルセルロース、グリセリン、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴムおよびこれらの混合物等が挙げられる。滑沢剤としては、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコールおよびこれらの混合物等が挙げられる。結合剤としては、例えば、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、エチルセルロース、水、エタノール、リン酸カリウムおよびこれらの混合物等が挙げられる。崩壊剤としては、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖およびこれらの混合物等が挙げられる。
少なくとも一の殺細胞性抗腫瘍薬、および少なくとも一のRNAポリメラーゼII阻害剤、またはヒストンデアセチラーゼ阻害剤を含む医薬は、一の剤型に製剤化したもの(1剤型製剤)でも、同時にまたは間隔を空けて別々に使用できるように、有効成分を単剤(単一の有効成分を含有する製剤)として複数の剤型に製剤化したもの(他剤型製剤)であってもよい。また、少なくとも一の殺細胞性抗腫瘍薬および少なくとも一のRNAポリメラーゼII阻害剤等を含む医薬は、上記製剤ごとにそれぞれ個別に製造・梱包・流通されるものでもよく、また、上記製剤の全てまたは一部を併用投与に適した単一のパッケージ(キット製剤)として製造・梱包・流通されるものでも良い。また、複数の剤型に製剤化する場合は、当該製剤はそれぞれ異なる投与形態であっても同一の投与形態であってよい。
キットは、化学療法後または手術後、2週間以内に投与することの情報を含んでいてもよい。情報は、紙等の媒体に記録したものとすることができ、具体的には、添付文書、パンフレット等の形態を採りうる。情報は、製剤またはキットのパッケージに印刷・添付されていてもよい。
少なくとも一の殺細胞性抗腫瘍薬および少なくとも一のRNAポリメラーゼII阻害剤、等を含む医薬の投与スケジュールは、患者の年齢、性別、体重、病期、転移の有無、治療暦などの条件により適宜選択されるが、化学療法または治療的切除の直後から、またはそのおよそ2週間以内、例えば、14日以内、10日以内、5日以内、3日以内、2日以内、1日以内に投与を開始することができる。本発明により、下記実施例にて詳述されるように、化学療法または治療的切除の後の早期の段階に投与することが可能であり、効率的に再発を処置することができ、有利である。
少なくとも一の殺細胞性抗腫瘍薬および少なくとも一のRNAポリメラーゼII阻害剤、等を含む医薬の投与量は、患者の年齢、性別、体重、病期、転移の有無、治療歴、他の抗腫瘍剤の有無などの条件により適宜選択することができる。また、当該抗腫瘍剤の投与スケジュールは、患者の年齢、体重、性別、病期、転移の有無、治療暦などの条件により適宜選択することができ、例えば、1日1回または2〜4回に分割して連日投与することが好ましい。
少なくとも一の殺細胞性抗腫瘍薬および少なくとも一のRNAポリメラーゼII阻害剤、等を含む医薬は、他の抗腫瘍剤と併用して投与することもできる。
本発明はさらに、腫瘍の化学療法後もしくは切除後の再発を処置するための、または抗腫瘍薬に対する耐性を示す細胞の出現を抑制するための薬物の、インビトロのスクリーニング方法であって、
(i)候補薬物について予め求めたがん細胞のコロニー形成を50%抑制するのに必要な薬物濃度(CI50)の2〜100倍濃度の候補薬物で、がん細胞を1〜48時間処理し、処理済細胞を得る工程、および
(ii)処理済細胞をコロニー形成条件下で培養する
工程を含み、
工程(ii)の結果、生じたコロニーの有無または数に基づいて候補薬物を選抜する、スクリーニング方法を提供する。
本発明により、腫瘍の化学療法後もしくは切除後の再発を処置するための、または抗腫瘍薬に対する耐性を示す細胞の出現を抑制するための方法が、初めて提供される。
[実験1:殺細胞性抗腫瘍薬のコロニー形成抑制効果]
対数的に増殖する細胞の増殖抑制アッセイは、薬物が固形腫瘍のサイズを減少させるかまたは安定化する能力を反映するが、コロニー形成アッセイは薬物耐性腫瘍細胞の増殖の起源となる単一細胞(Singh et al., 2003)からもたらされる最小数のがん細胞による再発を模倣する。汎用される化学療法剤について、5つのがん細胞株を用いてコロニー形成を50%抑制するのに必要な薬物濃度(CI50)を求めた。
方法:
HCT116, HT29, HeLa, MCF7及びMKN45は理研細胞バンクから得た。5つの細胞系列すべては、10%ウシ胎児血清(FBS;ライフテクノロジーズ)を添加されたRPMI1640培地(ライフテクノロジーズ)中で生育させて、5%CO2を供給された加湿培養機中で37℃において培養した。
ランダ(登録商標、注CIS) 及び1-バイアル タキソテール(登録商標、DTX)はそれぞれ日本化薬及びサノフィから購入し、トリコスタチン(TSA)は和光純薬から購入した。アクチノマイシンD(AMD), α-アマニチン(α-AMA)及びシクロヘキシミド(CHX)はシグマから購入した;ゲフィチニブ(GEF)及びソラフェニブ(SOR)はトクリス及びセルシグナリングテクノロジー(CST)から購入した。
各細胞株のGI50およびCI50濃度を、それぞれ増殖抑制アッセイおよびコロニー形成アッセイにより測定した。
増殖抑制アッセイ:細胞を高密度にて(3.2-12.8×104 細胞/cm2)96ウエルプレートに播き、24時間かけて接着させた。次に、細胞を、薬物の10倍連続希釈8通りで処理した(出発濃度は図1-2Bに示す)。生存細胞中の細胞内デヒドロゲナーゼをCCK-8(同仁化学研究所)及びTriStar LB 941マイクロプレートリーダー(ベルトールドテクノロジーズ)を用いて測定した。50%増殖阻害濃度(GI50)はグラフパッドプリズムソフトウエアを用いて計算した。ヒトにおけるCIS, DTX, GEF及びSORのピーク血漿濃度は依然に報告された(Beselga et al., 2002; Himmelstein et al., 1981; Strumberg et al., 2005; Taguchi et al.,1994)。
コロニー形成アッセイ:細胞の播種の前に、薬物又は化合物の10倍連続希釈8通り(出発濃度は図1-2Bに示す)(薬物を含まない対照を含む)を48ウエルプレートに分注した。次に、細胞を、用意された48ウエルプレートに低密度で播種した(1.3-2.6×102細胞/cm2)。ウエルあたり約50個のコロニーが、薬物を含まない対照において播種から8−21日以内に出現した。次に、コロニーを0.1%(w/v)クリスタルバイレットにより染色した。コロニーの数は、手動によるか又はINセル2000ディバイス(GEヘルスケア、日本)を用いて自動的に計数した。50%コロニー形成阻害濃度(CI50)はグラフパッドプリズムソフトウエアを用いて計算した。
結果:
形態的観察により、増殖抑制アッセイのための対数増殖期の細胞がフラスコの中で二次元的に増殖する(即ち、シート状)のに対し、コロニー形成細胞は密集して、小さく、そして縦方向に増殖することが観察された(図1A)。いずれの細胞株に対しても、慣用の殺細胞性抗腫瘍薬シスプラチン(CIS)およびドセタキセル(DTX)のCI50は、増殖抑制に必要な濃度(GI50)よりも2−3桁小さかった。これに対し、分子標的薬物ゲフィチニブ(GEF)およびソラフェニブ(SOR)のCI50は、対応するGI50の数倍〜10倍未満であった(図1B)。
[実験2:コロニー惹起へのRNAPII阻害の高い有効性]
薬物耐性コロニー(DTC)は、CI50濃度において抗がん剤の存在下にて生存し得るコロニーとして定義される(図2)。本発明者らは、別の研究により、DTC形成のためのもっとも重要な機構の一つは、転写の制御であるとの知見を得ていた。今般、どの段階がコロニー形成細胞における転写活性に支配的に影響するのかを検討した。図3Aに、遺伝子発現プロセスおよび蛋白質合成プロセスにおける、分子標的部分の模式図を示した。
方法:
クロマチン形成、転写または蛋白質合成を阻害する4つの化合物により単純なスクリーニングを実施した。トリコスタチンA(TSA)は、クラスI/IIのヒストンデアセチラーゼ(HDAC)を阻害する抗菌性抗生物質である(Bolden et al., 2006)。アクチノマイシンD(AMD)は、RNAPI(0.05μg/mlにおいて)、RNAPII(0.5μg/mlにおいて)およびRNAPIII(5μg/mlにおいて)の阻害剤として作用することにより複数の種類の肉腫を治療するための臨床的応用性を有する環状ポリペプチド含有抗生物質である(Bensaude, 2011)。α-AMAはキノコの毒素であって、RNAPIIの阻害剤である(Bensaude, 2011; Lindell et al., 1970)。シクロヘキシミド(CHX)は抗菌性抗生物質であって、翻訳伸長の阻害剤である(Schneider-Poetsch et al., 2010)。
本発明者らは最初に、TSA、AMD、α-AMAおよびCHXの10倍連続希釈を含む培地にHCT116細胞を播種し、実験1に記載の手法に従い、各阻害剤に関してCI50濃度を決定した。各化合物のCI50値の10倍濃度をコロニー形成アッセイにおいて、4および24時間の暴露に用いた。
結果:
結果を図3Bに示した。TSAは24時間の暴露によりコロニー形成を抑制した。α-AMAは、TSAと同様の24時間の処理による完全なコロニーの抑制に加えて、4時間のみの暴露においても効果を生じた。一方、特異性の低いRNAP阻害剤AMDは4時間および24時間の両方において顕著なコロニーの抑制を示さなかったことから、RNAPIIの選択的阻害がコロニー形成の阻害効果において顕著な役割を担うことが示唆される。CHXはコロニー形成をわずかに抑制したが、蛋白質合成のCHX-誘導性阻害のコロニー形成減少に対する効果は、エピジェネティック制御およびmRNA合成のそれよりも穏やかなようであった。クロマチン修飾は、コロニー形成の間の遺伝子発現における変化に隠れた主要な原因の一つであるかもしれないが(Shi et al., 2011)、本実験による発見は、初期mRNA合成のRNAPII依存性阻害がコロニー形成のほぼ完全な抑制を生じさせるのに十分であることを示唆する。
本発明者らは、RNAPII阻害により生じたコロニー抑制効果が別の細胞株において起こるか否かも実験した。5つのがん細胞株(HCT116、Hela、HT29、MFC7、およびMKN45)の播種前に細胞を一時的に(4または24時間)各化合物により処理し、それぞれに生じたコロニー数を計数し、非処理のコロニー数に対するコロニー数のパーセンテージを求めた(図3C)。TSAおよびα-AMAの両者が24時間暴露の後に顕著なコロニー抑制を示した。4時間のα-AMA暴露は試験された細胞株すべてに関してのほぼ完全なコロニー抑制効果に十分であった。
コロニー抑制がインビボにおいて再生され得るか否かを実験するため、本発明者らは次に4時間α-AMAで処理された1.0×106cellsのMKN45の腹膜注入後のヌードマウスを観察した。MKN45細胞の腹膜注入を受けたマウスは体重の一定の減少を示した一方で、α-AMA で処理した細胞を注入されたマウスは体重を維持し(図3D)、これは消化管の機能不全が低減されたためのように思われた。がん細胞の腹膜注入の28日目に、α-AMA処理されたがん細胞を受けたマウスにおける腹膜の小結節の数が、未処理のMKN45細胞を受けたマウスに比較して顕著に減少した(図3E)。
[実験3:TSAおよびα-AMAによるDTC出現の抑制]
短時間(4時間)の暴露後のDTC出現の抑制に関して、TSAおよびα-AMAの効果をさらに検討した。
方法:
ヒト胃がん細胞系MKN45の細胞を高密度にて(1.0×105cells/cm2)48ウエルプレート上にプレートし、TSA(0、2.1、4.2、および8.4μM)又はα-AMA (0、0.7、1.4、および2.8 μM)により処理した。
結果:
高濃度のTSAを用いて顕著なDTCの抑制が観察されたが、α-AMAはそれでもなおDTCの抑制に関して、より有力であるようにみえた(図4)。
[実験4:α-AMAによる、CIS処理後生存細胞によるPCの抑制]
実験3で示したように、α-AMAによるインビトロにおけるDTC出現の抑制(図4)は、α-アマニチンがPCの処置に有用であることを期待させる。α-AMAの経口摂取は消化管、肝臓および腎臓における毒性のために直接死に結びつくことが報告されている(Word et al., 2013)。本発明者らは、確立された再発PCモデルを用いて、薬物処理後のMKN45細胞の腹腔内接種により、α-AMAの治療的特性および毒物学的特性の両方を調べた。
方法
細胞をsingle cell懸濁液にまで希釈して、0.2μM CISの存在または不在下で低密度にて(2.6×102cells/cm2)播種した。条件ごとに播種後13日目のコロニー数を計数した。
1.0×106のMKN45細胞を6週齢のメスヌードマウス(BALB/cAjcl-nu/nu, CLEA)に腹腔内注入した。次に、マウスをCIS(4 mg/kg, 腹腔内投与)、またはCISおよびα-AMAの組み合わせ(0.4 mg/kg, 腹腔内投与)により処置した。組み合わせの処置に関しては、α-AMAをCISの24時間前に投与した。処置後28日間体重を監視した。なお、すべての動物実験は動物実験規則に関する岩手医科大学倫理委員会により承認された(他の実験においても同じ)。
結果
腫瘍細胞接種後のマウスの体重は、α-AMAのみ(α-AMA)、CISのみ(CIS)および非処理の群において10日目から急激な減少を示したのに対し、α-AMAおよびCIS(α-AMA/CIS)の連続投与を受けた群は、体重を維持した(図5A)。
小結節はα-AMA群、CIS群および非処理群において主に腸間膜において延展し、1 - 5 mmの直径に及んだが、α-AMA/CIS群の大多数は、ほとんどまたはまったく小結節を呈さなかった(図5B)。事実、α-AMA/CIS群の小結節の平均数は顕著に減少し、一方CISおよびα-AMAの単一投与群は類似の抑制効果を呈したものの、程度は低かった(図5C)。
α-AMA群における60日全体の生存率は10%であり、そしてα-AMA/CIS群においては56%であった(図5D)。4つの処理群の死までの平均時間の比較から、α-AMA/CIS群のみが死までに顕著に長い期間を示したことが明らかになった(図5E)。α-AMA/CIS処理により死までの平均時間の延長は、60日の期間内において約10日であった。
これらの結果から、CISと共に投与されたα-AMAは場合、PCによりがんの再発を予防する能力を有することが示される。総合すると、α-AMAとCISの組み合わせは、PCに関してα-AMAの抑制効果を増強し、同時にその毒性を軽減させると考えられる。
[考察]
本発明者らは、抗がん剤の存在下で生存する亜集団である再発性のがん細胞のインビトロモデルとして、DTCを用いた。各薬物に対するDTCは、単一細胞または極めて少数の細胞のいずれかから増殖を開始することが可能であり、治療的外科手術、続くアジュバント化学療法の後のヒトにおけるがんの再発のプロセスを模倣しうる。
本研究により、RNAPII阻害剤であるα-AMAがDTC出現を抑制することが分かった。またα-AMAはインビボにおいてPCの阻害効果を示した。これらのことからα-AMAは化学療法後、PCの予防のために適用されうることが示唆される。
本研究において、本発明者らは、CISを、α-AMAを用いた組み合わせのアプローチにおいて用いた。本発明者らが使用したモデルは、腹部の固形腫瘍の見掛け上の治療的除去後のヒトPCを模倣しうる。α-AMAおよびCISの組み合わせの治療は、腹膜において細胞が塊として発育するのにRNAPIIの阻害が重要であることを示す。重要なことに、α-AMAによる本発明者らの処理は、400μg/kgの用量の腹膜注入にもかかわらず、顕著な致死的副作用を示さなかった。α-AMAのマウスの致死用量の中央値は〜500μg/kgであり(Wieland, 1968)、本研究において用いたα-AMAの用量は抗腫瘍効果を生じるのに十分な濃度において、なお許容されるかもしれない。
本発明者らの研究は、広い範囲にわたってmRNA合成を阻害し得る薬物、例えばα-AMAが、単一の分子を標的化するそれらの化合物よりもがん細胞の再発を予防するのにもっと適切かもしれないことを示唆した。
また、本発明者らの研究は、RNAPII依存性mRNA合成がDTC形成およびPCの確立の基礎的プロセスであることを証明した。これらの発見は、見掛け上はがんの遺残を認めない外科手術および化学療法後のがん再発を予防するための新規戦略を提供する。
[実施例の項で引用した文献]
Bensaude, O. (2011). Inhibiting eukaryotic transcription: Which compound to choose? How to evaluate its activity? Transcription 2, 103-108.
Bolden, J.E., Peart, M.J., and Johnstone, R.W. (2006). Anticancer activities of histone deacetylase inhibitors. Nat Rev Drug Discov 5, 769-784.
Calvio, C., Neubauer, G., Mann, M., and Lamond, A.I. (1995). Identification of hnRNP P2 as TLS/FUS using electrospray mass spectrometry. RNA 1, 724-733.
Campbell, P.J., Yachida, S., Mudie, L.J., Stephens, P.J., Pleasance, E.D., Stebbings, L.A., Morsberger, L.A., Latimer, C., McLaren, S., Lin, M.L., et al. (2010). The patterns and dynamics of genomic instability in metastatic pancreatic cancer. Nature 467, 1109-1113.
Lindell, T.J., Weinberg, F., Morris, P.W., Roeder, R.G., and Rutter, W.J. (1970). Specific inhibition of nuclear RNA polymerase II by alpha-amanitin. Science 170, 447-449.
Schneider-Poetsch, T., Ju, J., Eyler, D.E., Dang, Y., Bhat, S., Merrick, W.C., Green, R., Shen, B., and Liu, J.O. (2010). Inhibition of eukaryotic translation elongation by cycloheximide and lactimidomycin. Nat Chem Biol 6, 209-217.
Shi, L., Sun, L., Li, Q., Liang, J., Yu, W., Yi, X., Yang, X., Li, Y., Han, X., Zhang, Y., et al. (2011). Histone demethylase JMJD2B coordinates H3K4/H3K9 methylation and promotes hormonally responsive breast carcinogenesis. Proc Natl Acad Sci U S A 108, 7541-7546.
Singh, S.K., Clarke, I.D., Terasaki, M., Bonn, V.E., Hawkins, C., Squire, J., and Dirks, P.B. (2003). Identification of a cancer stem cell in human brain tumors. Cancer research 63, 5821-5828.
Ward, J., Kapadia, K., Brush, E., and Salhanick, S.D. (2013). Amatoxin poisoning: case reports and review of current therapies. J Emerg Med 44, 116-121.
Wieland, T. (1968). Poisonous principles of mushrooms of the genus Amanita. Four-carbon amines acting on the central nervous system and cell-destroying cyclic peptides are produced. Science 159, 946-952.
本発明により、腫瘍の再発を抑制可能な医薬が提供される。本発明は、医療、医薬品製造、腫瘍に関する研究等の分野で有用である。

Claims (3)

  1. シスプラチン、およびα−アマニチンを含み、腫瘍の化学療法後もしくは切除後の再発を処置するための、または抗腫瘍薬に対する耐性を示す細胞の出現を抑制するための、医薬。
  2. 腫瘍の化学療法後もしくは切除後の再発を、予防または遅延するためのものであり、腫瘍が、大腸がん、前立腺がん、乳がん、多発性骨髄腫、B細胞リンパ腫、悪性神経膠芽腫、腎臓がん、肝臓がん、前立腺がん、および小細胞性肺がんからなる群より選択されるいずれかである、請求項1に記載の医薬。
  3. 腫瘍の切除後の患者に対して、切除後2週間以内に投与するための、請求項1または2に記載の医薬。
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