JP6628954B2 - ガラスフィルタ及びがん細胞分離方法 - Google Patents

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本発明は、ガラスフィルタ及びがん細胞分離方法に関する。
病気の予防やサンプル採取等の観点で、体液をフィルタに通過させて体液中の細胞や血球等の成分を分離する技術が注目されている。
例えば、血球を除去分離するために、表面がポリリジンでコーティングされたガラスビーズを充填したフィルタが使用されている(特許文献1を参照)。このフィルタは、ガラスビーズの表面をポリリジンでコーティングすることによってガラスビーズ表面を正電荷に帯電させ、ガラスビーズ表面と負電荷を有する血球とを相互作用させ、ガラスビーズ表面に補足することにより分離するものである。
特開2007−037867号公報
しかしながら、上記フィルタは、正電荷と負電荷との相互作用を利用して血球を特異的に補足するものであるため、血球を分離することはできるが、その他の細胞を分離することはできない。また、ガラスビーズの表面をポリリジンでコーティングする必要があるため、手間がかかる。
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、がん細胞を分離するのに適し、かつ簡便に製造可能な新しいガラスフィルタ及びこのガラスフィルタを用いたがん細胞分離方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、ガラスビーズを相互に融着させることで、がん細胞を分離できるガラスフィルタを簡便に得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)血液又はリンパ液に含まれるがん細胞を捕捉して分離するためのがん細胞分離用のガラスフィルタであって、相互に融着された平均粒径120〜200μmの複数のガラスビーズからなり、平均細孔径が8〜20μmであるガラスフィルタ(ただし、平均細孔径が8〜10μmであるものを除く)
)採取した血液又はリンパ液を(1)記載のガラスフィルタに通し、前記血液又はリンパ液中のがん細胞を捕捉して分離する工程を有する、がん細胞分離方法(ただし、人間から採取した血液又はリンパ液を採取した者と同一人に治療のために戻すことを前提にした方法を除く)。
本発明によれば、がん細胞を分離するのに適し、かつ簡便に製造可能な新しいガラスフィルタ及びこのガラスフィルタを用いたがん細胞分離方法を提供することができる。
本発明の一実施例に係るガラスフィルタの製造方法を示す図である。 本発明の一実施例に係るガラスフィルタに、15μmポリスチレン球が堆積したこと及び6μmポリスチレン球が堆積しなかったことを示す図である。 本発明の一実施例に係るガラスフィルタを、正常マウス血液中の赤血球が通過したことを示す図である。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
<ガラスフィルタ>
本発明のガラスフィルタは、相互に融着された複数のガラスビーズからなる。かかる構成を有することにより、ガラスフィルタがガラスビーズ間に空隙を備えるので、ガラスフィルタとしての機能を発揮する。また、本発明のガラスフィルタによれば、ガラスビーズの表面に化学的性質を付加することを要さずに、物理的な分離が可能である。かかる性質を備える本発明のガラスフィルタによれば、細胞の大きさに応じた分離が可能であるため、細胞の分離に適している。しかし、本発明のガラスフィルタの用途は、特にこれに限定されない。さらに、本発明のガラスフィルタは無機材料であるガラスにより構成されることにより、化学的、熱的耐久性、耐熱性、放射線耐性が高い。
本発明で用いるガラスビーズの材料は、特に限定されないが、例えば、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、バリウムガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス、リチウムアルミノケイ酸ガラス等のケイ酸ガラス、鉛ホウ酸ガラス、アルミノホウ酸ガラス等のホウ酸ガラス、アルミノリン酸ガラス等のリン酸ガラス等が挙げられる。
ガラスビーズの粒径は、特に限定されない。ガラスビーズの平均粒径を変更することによって、フィルタ内の空隙の径(後述する平均細孔径)が変更される。よって、ガラスビーズの平均粒径は、分離対象に応じて適宜変更可能である。
従来より、がん細胞が転移する際に、がん細胞は血管やリンパ管を通ることが知られている。つまり、血液やリンパ液をフィルタに通して、血液中のがん細胞を除去することができれば、がん転移を予防することができる。本発明のガラスフィルタは、分離対象の大きさに応じた物理的な分離が可能であるため、がん細胞を血液やリンパ液中から分離することが可能である。特に本フィルタでは、少量〜大量まで様々な量や性質の血液又はリンパ液を濾過するために、その形状や大きさを制御して調整することができる。さらに、フィルタ内に捕捉したがん細胞をそのまま培養して増殖することが可能であり、がん細胞の詳細な形態学的及び遺伝子的解析に基づく診断と治療に有効である。
がん細胞の大きさは、一般に、約10〜約20μmである。本発明のガラスフィルタが、かかる大きさを有するがん細胞の分離に適した空隙を有するためには、本発明のガラスビーズの平均粒径は、100〜200μmが好ましく、120〜180μmがより好ましく、140〜160μmが最も好ましい。また、効率よくがん細胞の分離を行うためには、ガラスビーズの粒径の分散度は低い方が好ましいが、特に限定されず、例えば、50%径に対する90%径の比が、1.1以下であり、10%径に対する50%径の比が1.1以下であってもよい。
<ガラスフィルタの製造方法>
本発明のガラスフィルタの製造方法を図1に沿って説明するが、特にこれに限定されるものではない。
図1に示すように、管30を板40に立てる。次いで、図1における矢印で示すようにガラスビーズ10を管30内に入れ、棒20で棒を押し、ガラスビーズ10を管30内に密に充填する。その後、ガラスビーズ10を焼成することにより、ガラスビーズ10は相互に融着する。
本発明においては、かかる製造方法により、簡便にガラスフィルタを作製できる。特に、上述の製造方法によると、ガラスビーズ10の表面処理を要さずに、ガラスフィルタを作製できるという点において簡便である。また、この製造方法によると、ガラスビーズ10を充填する管30の形状に合わせて、フィルタの構造を適宜設定することが容易である。
棒20、管30、板40の材質は、後述する焼成に対して耐熱性を有するものであれば特に限定されない。例えば、これらの材質として、アルミナや、ステンレス等を使用することができる。
棒20の形状は、管30内でガラスビーズ10を押し込めるものであれば、特に限定されない。管30の形状は、図1では円柱として示されているが、特にこれに限定されず、四角柱や五角柱等の形状であってもよい。
焼成する温度及び時間は、ガラスビーズ10を相互に融着できる温度、時間であれば特に限定されない。例えば、ガラスの材料としてソーダ石灰ガラスを用いた場合、500〜800℃の温度で10分〜2時間焼成することでガラスビーズ10を相互に融着することができる。
ガラスビーズ10を焼成することによって、ガラスビーズ10が融着し、ガラスビーズ10間に空隙が発生する。この空隙における平均細孔径(ある空隙における、それぞれのガラスビーズの表面に内接する円の直径)の大きさは、特に限定されず、分離対象の大きさに応じて適宜設定することができる。がん細胞を分離する場合の平均細孔径は、好ましくは、8〜20μmであり、最も好ましくは8〜12μmである。平均細孔径は、ガラスビーズ10の焼成温度及び焼成時間を調整することで、調整可能である。
ガラスフィルタの高さは、管30の高さの範囲内で、適宜設定することができる。ガラスフィルタの高さは特に限定されないが、ガラスフィルタの高さを高くすればするほど、ガラスフィルタの分離能が向上する。
また、本発明は、上述の通り、ガラスビーズ10の表面処理を行わずにガラスフィルタを作製することができる。しかし、本発明は、特にこれに限定されず、上記焼成後に、シランカップリング剤等を用いて、ガラスビーズ10の表面処理を行うことでその表面を疎水化してもよく、或いは、酸処理又はアルカリ処理等の表面処理をガラスビーズ10に施すことで、その表面を親水化してもよい。その他、タンパクや抗体及び低分子薬剤やリガンドによる修飾も可能である。これらの表面処理は、従来の公知のいずれの方法によっても行うことができる。
上記焼成後又は表面処理後に、ガラスフィルタを洗浄してもよいが、洗浄しなくてもよい。例えば、超音波洗浄によりガラスフィルタを洗浄することができる。
<細胞分離方法>
本発明は、上記ガラスフィルタを用いることによる、細胞分離方法を包含する。
本発明のガラスフィルタを用いた細胞分離方法は、特に限定されないが、例えば、細胞を含む液体を本発明のガラスフィルタに通し、液体中の細胞を分離することにより行ってもよい。また、本発明の細胞分離方法において、細胞を含む液体は特に限定されないが、例えば、血液やリンパ液を分離するのに適している。なお、細胞を含む液体として血液を用いた場合、分離を行う際にガラスフィルタに血液が付着しにくく、また、細胞中の血球も破壊されにくい。
以下、実施例等に基づき本発明を詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例等になんら限定されるものではない。
<ガラスフィルタの作製>
(実施例1)
内径24mm、高さ30mmのアルミナ管を準備し、アルミナ板の上に立てた。ガラスビーズとして、平均粒径約150μmであり、分散度が90%径:145.2μm、50%径:148.6μm、10%径:152.7μmであるソーダ石灰ガラスのビーズ(ユニオン社製高精度ユニビーズSPL−150)を準備した。ガラスビーズの高さが1mmとなるように、ガラスビーズをアルミナ管に充填し、ステンレス棒で押して、ガラスビーズをアルミナ管内に密に充填した。その後、ガラスビーズを660〜710℃で、1時間焼成した。焼成後のガラスビーズ間の空隙における平均細孔径は、17μmであった。
(実施例2)
ガラスビーズの分散度が90%径:143.1μm、50%径:151.8μm、10%径:160.7μmであるソーダ石灰ガラスのビーズ(ユニオン社製ユニビーズLB−150)を用い、実施例1と同様の手法により、ガラスフィルタを作製した。ガラスビーズ間の空隙における平均細孔径は、18μmであった。
<ガラスフィルタの性能評価>
(評価1)
がん細胞の大きさを模した15μmポリスチレン球を含む分散液と、赤血球の大きさを模した6μmポリスチレン球を含む分散液を、それぞれ準備した。それぞれの分散液を実施例1及び2のガラスフィルタに通過させ、通過前後における分散液の吸光度を測定し、分散液の吸光度から粒子濃度(個/ml)を算出した。吸光度の測定には、紫外―可視分光光度計 UV−2400(株式会社島津製作所)を用いた。測定結果を以下の表1に示す。なお、表1中の「ガラスフィルタ通過後の粒子数(%)」は、ガラスフィルタ通過前の分散液中のポリスチレン球の全粒子数を100%とした場合の、ガラスフィルタ通過後のポリスチレン球の粒子数の%を表す。
Figure 0006628954
実施例1及び2のいずれのガラスフィルタにおいても、15μmポリスチレン球はほとんど通過しなかったのに対し、6μmポリスチレン球は50%以上通過することが確認された。特に、ガラスビーズの分散度が90%径:145.2μm、50%径:148.6μm、10%径:152.7μmである実施例1においては、6μmポリスチレン球が90%以上通過しており、ガラスビーズの分散度が90%径:143.1μm、50%径:151.8μm、10%径:160.7μmである実施例2より、6μmポリスチレン球が多く通過したことが確認された。この結果より、ガラスビーズを融着させて形成したガラスフィルタに、がん細胞を含む血液を通過させることで、がん細胞を分離除去できること、及び、赤血球を含む血液にこのガラスフィルタを通過させることで、赤血球がガラスフィルタを通過することが示唆された。また、ガラスビーズの分散度が90%径:145.2μm、50%径:148.6μm、10%径:152.7μmであるガラスフィルタが、赤血球を通過させる性能が高いことが示唆された。
(評価2)
評価1において、実施例1のガラスフィルタ通過後の15μmポリスチレン球分散液、6μmポリスチレン球分散液のそれぞれについて、光学顕微鏡により写真を撮影した。その結果を図2に示す。図2において、(a)は、15μmポリスチレン球分散液を通過させた後のガラスビーズを示し、(b)は6μmポリスチレン球分散液を通過させた後のガラスビーズを示す。
図2に示すように、実施例1のガラスフィルタ通過後、15μmポリスチレン球は、ガラスビーズ上に堆積しているのに対し、6μmポリスチレン球は、ガラスビーズ上に堆積していないことが観察された。この結果より、ガラスビーズを融着させて形成したガラスフィルタにおいて、がん細胞を分離除去できること、及び、赤血球が通過可能であることが裏付けられた。
(評価3)
6μmポリスチレン球と15μmポリスチレン球の混合分散液を作製し、実施例1のフィルタを通過させ、通過前後の粒子濃度を測定した。測定は、プレパラートに分散液を塗布し、プレパラート全体に対して粒子の画像を複数撮影し、粒子径の分布を算出することにより行った。測定には、静止画像解析型粒子径分布測定装置モフォロギG3(株式会社Malvern)を用いた。その結果を、表2に示す。なお、表2中の「ガラスフィルタ通過前の粒子数(%)」及び「ガラスフィルタ通過後の粒子数(%)」は、それぞれ、ガラスフィルタ通過前の混合分散液中のポリスチレン球(15μmポリスチレン球と6μmポリスチレン球の両方を含む)の全粒子数を100%とした場合の、15μmポリスチレン球、6μmポリスチレンのそれぞれの粒子数の%を表す。
Figure 0006628954
15μmポリスチレン球及び6μmポリスチレン球の混合分散液においても、15μmポリスチレンは実施例1のガラスフィルタをほとんど通過せず、6μmポリスチレン球は実施例1のガラスフィルタを通過することが確認された。この結果より、ガラスビーズを融着させて形成したガラスフィルタにおいて、がん細胞と赤血球とを含む血液において、がん細胞を選択的に分離除去できることが示された。
(評価4)
正常マウスの血液を10倍希釈し、この10倍希釈血液に、実施例2のガラスフィルタを通過させ、赤血球が通過するか否かについて評価した。評価は、BIOREVO(株式会社キーエンス)を用いて写真を撮影することにより行った。血液の希釈溶媒としてPBSバッファーを用い、500倍の倍率で撮影した写真を観察した。その結果を図3に示す。図3において、(a)はフィルタ通過前の血液を観察した図を示し、(b)はガラスフィルタ通過後に血液を観察した図を示す。
図3に示すように、実施例2のガラスフィルタの通過後において、ガラスフィルタ通過前と比べて、赤血球の減少は確認されなかった。また、実施例2のガラスフィルタ通過後においても、赤血球の変形は確認されなかった。また、図には示さないが、ほとんど血液がガラスに付着しなかったことが確認された。この結果より、ガラスビーズを融着させて形成したガラスフィルタにより、実際の血液中の赤血球を通過させることが可能であること、及び、このガラスフィルタは、血液中に含まれる赤血球を破壊せず、血液中の細胞を分離するのに適していることが示された。
10 ガラスビーズ
20 棒
30 管
40 板

Claims (2)

  1. 血液又はリンパ液に含まれるがん細胞を捕捉して分離するためのがん細胞分離用のガラスフィルタであって、
    相互に融着された平均粒径120〜200μmの複数のガラスビーズからなり、平均細孔径が8〜20μmであるガラスフィルタ(ただし、平均細孔径が8〜10μmであるものを除く)
  2. 採取した血液又はリンパ液を請求項1記載のガラスフィルタに通し、前記血液又はリンパ液中のがん細胞を捕捉して分離する工程を有する、がん細胞分離方法(ただし、人間から採取した血液又はリンパ液を採取した者と同一人に治療のために戻すことを前提にした方法を除く)。
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