図1は、実施形態1に係る通信システム1の構成例を示す図である。通信システム1は、複数の通信機3_1,3_2,3_3のそれぞれが、伝送路を介して接続されるものである。複数の通信機3_1,3_2,3_3のうち、少なくとも1台の通信機3_3は、通信機3_3以外の通信機3_1,3_2のそれぞれの通信を中継する機能が実装された中継機である。
例えば、通信機3_1と、通信機3_2とは、アーキテクチャの異なるネットワークを構成するものであり、これら複数のネットワークは、通信機3_3により統合される。通信機3_3は、中継機として機能するものであり、具体的には、ゲートウェイ又はメディアコンバータとして構成される。
通信機3_1は、例えば、Ethernet(登録商標)のようなスター型ネットワークを構成する。一方、通信機3_2は、例えば、CANのようなバス型ネットワークを構成する。通信機3_3は、中央ノードとして機能する。通信機3_3は、中央ノードとして、各端末間の通信信号を全て確認することができる。
通信機3_3は、各端末間でやりとりされる通信信号に基づいて、端末ノード又は端末ノードを接続する伝送路の不具合若しくは異常の予兆を診断し、それがいつまでにどのような故障につながるかを予測する機能が実装される。
なお、通信機3_1〜3_3の何れかを特に限定しない場合、通信機3と称する。
また、ネットワークとは、少なくとも2つの装置が接続され、ある装置から、他の装置に対して、情報の伝達をできるようにした仕組みをいう。ネットワークを介して通信する装置は、独立した装置同士であってもよく、1つの装置を構成している内部ブロック同士であってもよい。
つまり、通信機3同士の通信は、1対1通信、多対1通信、中継等のように、さまざまな形態が想定されるものであり、特定の通信形態に限定されるものではない。
また、通信とは、無線通信及び有線通信の何れか一方だけでなく、無線通信と、有線通信とが混在した通信、すなわち、ある区間では無線通信が行われ、他の区間では有線通信が行われるものであってもよい。さらに、ある装置から他の装置への通信が有線通信で行われ、他の装置からある装置への通信が無線通信で行われるものであってもよい。
また、システムとは、複数の装置により構成される装置全体を表すものである。
次に、通信機3_3について具体的に説明する。図2は、実施形態1に係る通信機3_1,3_2のそれぞれの通信を中継する機能が実装され、中継機として機能する通信機3_3の機能構成の一例を示す図である。図3は、実施形態1に係る通信機3_3に実装される通信制御部31の機能構成の一例を示す図である。図4は、実施形態1に係る通信機3_3に実装される環境データ格納部33に格納される環境データのパラメータの一例を示す図である。図5は、実施形態1に係る通信機3_3に実装される対策部34の制御内容の一例を示す図である。
図6は、実施形態1に係る通信機3_3に実装される劣化演算部32の機能構成の一例を示す図である。図7は、実施形態1に係る劣化演算部32に含まれる劣化診断部63の機能構成の一例を示す図である。図8は、実施形態1に係る劣化演算部32に含まれる正常状態データベース62に格納される単位空間データの一例を示す図である。
図9は、実施形態1に係る通信制御部31に含まれるシリアル通信制御部51の回路構成の一例を示す図である。図10は、実施形態1に係る通信制御部31に含まれる通信データ処理部53の機能構成の一例を示す図である。図11は、実施形態1に係る通信制御部31に含まれる通信波形監視部52の機能構成の一例を示す図である。
通信機3_3は、CPU、及びメモリ等からなり、CPUが各種プログラムを実行することにより、各種機能が実現される。具体的には、図2に示すように、通信機3_3は、通信制御部31、劣化演算部32、環境データ格納部33、及び対策部34を含む機能が実現される。
通信制御部31は、外部から通信データを受信し、通信データに含まれるアドレスに転送することにより、通信データを中継するものである。
具体的には、図3に示すように、通信制御部31は、シリアル通信制御部51、通信波形監視部52、及び通信データ処理部53を含む機能が実現される。
シリアル通信制御部51は、通信データ処理部53で生成された通信データを、伝送路の仕様に合致した電気信号に変換し、伝送路に送り出す。シリアル通信制御部51は、他の通信機3_1,3_2から送られた電気信号から情報を取り出し、通信データ処理部53に受け渡す。
具体的には、図9に示すように、シリアル通信制御部51は、信号を差動シリアル伝送路41に送り出すドライバ71と、差動シリアル伝送路41を経て送られてきた信号を受け取るレシーバ72とを含む。レシーバ72の近接には差動シリアル伝送路41の電気特性と合致する終端抵抗Rが配置されている。
ドライバ71は、差動信号伝送に特化したものであり、通信データ処理部53から受け取った信号をポジティブ信号とネガティブ信号波形との2種類に作り分け、差動シリアル伝送路41に送り出す。
レシーバ72は、差動信号伝送に特化したものであり、差動シリアル伝送路41を経て送られてきたポジティブ信号と、ネガティブ信号とを反転加算し、通信データ処理部53に受け渡す。
ドライバ71から送り出される差動信号又は差動シリアル伝送路41を経て送られてきた差動信号は、差動シリアル伝送路41の途中で分岐され、通信波形監視部52に受け渡される。
通信波形監視部52は、伝送路から電気信号を分岐して取り込む。通信波形監視部52は、取り込んだ電気信号を、波形構成要素に分離し、判定可能な状態値に変換し、劣化演算部32に受け渡す。
通信波形監視部52は、シリアル通信制御部51に入出力される差動信号を直近で分岐して取り込む。この際、バスネットワークのように伝送路とのインピーダンスが整合されたものではなく、伝送路に対して十分に高いインピーダンスにより分岐することで、差動シリアル伝送路41への影響を最小限に抑えつつ、通信波形に含まれる微細な変動も観測可能となる。
通信波形監視部52は、図11に示すように、CDR部111、サンプラ部112、診断用波形抽出部113、DFT部114、Jitter計測部115、Impedance計測部116、スペクトル計測部117、及び通信信号波形構成要素部118を含む機能が実現される。
CDR部111は、クロック・データ・リカバリを行うことにより、シリアル通信制御部51から受け取った差動信号のポジティブ波形とネガティブ波形とから、クロックを復元する。クロック・データ・リカバリとは、受信したフレーム内の信号の立ち上がり又は立ち下がりからフレームを構成するビットタイミングを抽出する処理である。CDR部111は、サンプラ部112には通信波形を送信し、診断用波形抽出部113にはクロックを受け渡す。
サンプラ部112は、受け取った通信波形を通信レートよりもはるかに高速なレートでサンプリングし、アナログ波形を分割化する。分割化された通信波形は、診断用波形抽出部113に受け渡される。
診断用波形抽出部113は、サンプラ部112で分割化された通信波形を受け取り、同時に、CDR部111からクロックを受け取る。診断用波形抽出部113は、受け取ったクロックを基準に任意のタイミング、すなわち間隔ごとに通信波形を分割する。これにより、通信波形からさまざまな情報を取り出す準備ができたことになる。
DFT部114は、通信フレームのヘッダー部の診断用波形を離散フーリエ変換し、周波数スペクトル分布となり、スペクトル波形としてスペクトル計測部117に受け渡す。
スペクトル計測部117は、共振点シフト量、包絡線形状変化、及び特定スペクトル変動等を数値化した通信波形構成要素値を、通信信号波形構成要素部118に格納する。
Jitter計測部115は、診断用波形のうち、エッジ部分だけが取り出されたエッジ波形を受け取り、位相及び振幅のズレ等からジッタ量を計測して数値化した通信波形構成要素値を、通信信号波形構成要素部118に格納する。
Impedance計測部116は、診断用波形を受け取り、診断用波形の中での上端及び下端の電圧と、その変動とを計測して数値化した通信波形構成要素値を、通信信号波形構成要素部118に格納する。
通信信号波形構成要素部118は、格納した通信波形構成要素値を劣化演算部32に受け渡す。
通信データ処理部53は、図10に示すように、CDR部91、複合化を行う誤り制御部92、シリアルパラレル変換部93、パラレルシリアル変換部94、符号化を行う誤り制御部95を含む機能が実現される。
パラレルシリアル変換部94は、システム上位側101から伝送されるパケット等のデータと、それらが生成される内部クロック、すなわちタイミングとをパラレルで受け取る。パラレルシリアル変換部94は、受け取ったデータを時系列に並び替えたシリアルの情報列と、その情報列と整合のとれたクロック信号とに変換され、誤り制御部95に受け渡される。
誤り制御部95は、シリアル化されたデータを送信フレームに乗せると同時に、送信フレーム内に誤り検出又は訂正に用いる情報を埋め込み、クロックに合わせてシリアル通信制御部51に受け渡す。
CDR部91は、シリアル通信制御部51から受信フレームを受け取る。CDR部91は、クロック・データ・リカバリを行う。これにより、受信フレームからクロックが生成される。
誤り制御部92は、CDR部91から受信フレームとクロックとを受け取り、誤りの検出及び訂正を行い、受信フレームからデータを取り出し、シリアルパラレル変換部93に受け渡す。
シリアルパラレル変換部93は、誤り制御部92から受け取ったシリアルデータと、クロックとから小さなパケットに分割し、パラレルデータとしてシステム上位側101に受け渡す。
なお、誤り制御部92,95は、対策部34からの指示、具体的にはフラグに従い、誤り検出及び訂正の機能若しくは能力が任意に変更されるものである。
劣化演算部32は、通信制御部31から受け渡された通信データに基づいて、通信システム1の劣化の診断及び予測を行うものである。なお、劣化演算部32は、通信システム1の劣化の診断及び予測を行う際、環境データ格納部33に格納された通信システム1の環境データを参照する。
劣化演算部32は、現在の劣化状態の判定と、将来の劣化推移の予測とを行うものであり、図6に示すように、通信信号波形構成要素格納部61、正常状態データベース62、劣化診断部63、劣化予測部64、及び状態推移データベース65を含む機能が実現される。
劣化演算部32は、通信波形監視部52から波形構成要素に分離された状態値、すなわち、通信波形構成要素値を受け取り、通信信号波形構成要素格納部61に格納する。劣化演算部32は、環境データ格納部33から判定若しくは診断に必要となる環境データを受け取る。
正常状態データベース62は、通信信号の波形を構成する要素それぞれがどのような値なら正常かを把握できるデータが格納される。
具体的には、劣化の進行度又は将来の劣化の進行具合を予測するために、基準となる診断対象が必要であり、そのための基準状態となるデータが正常状態データベース62に格納される。正常状態データベース62に格納される基準状態のデータは、例えば、通信規格で定められたように、許容される信号波形の範囲に関するデータである。許容される信号波形の範囲に関するデータは、波形そのものを細分化した電圧耐時間の量子化データ、伝送路のインピーダンス変化により発生するオーバーシュート若しくはアンダーシュート、又は立ち上がり若しくは立ち下がりのジッタ等が挙げられる。
このように、波形を構成するそれぞれのパラメータに関し、通信規格に合致していることは当然のこととして、さらに、通信ドライバのような通信機器が出力する信号が、想定されるネットワーク上に伝送された場合の波形を正常な集団と定め、正常状態データベース62に格納させ、診断用データとして用いられる。
劣化診断部63は、通信システム1の劣化を診断するものである。劣化診断部63は、例えば、正常状態データベース62に格納されたデータと、通信信号波形構成要素格納部61に格納された通信波形構成要素値とで計算し、現状の通信システム1が正常状態からどの程度異なっているかを診断する。
環境データ格納部33は、通信システム1の環境データが格納されたものである。環境データ格納部33は、例えば、通信機器又は伝送路が配置された環境データが収集される。環境データは、運用時間の経過、雰囲気温度、湿度、各種成分、機器若しくは部材の温度若しくは振動等であり、これらの経時的変化又は推移等が記録される。つまり、環境データ格納部33は、図4に示すように、システムが設けられた周囲の温湿度、振動若しくは加速度等の振動、又はpH若しくは塩分等の雰囲気成分を含む情報が、定期的に記録される。
状態推移データベース65は、劣化診断部63で行われた劣化診断結果が逐次格納される。このように逐次格納された劣化診断結果は、劣化予測部64が通信システム1の劣化を予測する際、過去のデータとして参照される。逐次格納されるデータは、劣化診断結果の他に、通信波形を形成する各種パラメータ、具体的には正常状態データベース62で扱われるパラメータ項目、並びに環境データの一部若しくは全部である。
劣化予測部64は、劣化診断部63の診断結果に基づいて、通信システム1の劣化を予測するものである。劣化予測部64は、例えば、環境データ格納部33から受け取った環境データと、状態推移データベース65に格納されている過去の経過とを関連付け、今後、通信システム1の劣化が進行する度合い、具体的には、時間及び状態等を推定する。推定結果は、状態推移データベース65に反映され、次の劣化予測に用いられる。劣化予測部64は、推定した劣化の進行度を対策部34に出力する。
対策部34は、劣化演算部32の処理結果に基づき、各種指示を生成する機能が実装される。対策部34は、例えば、通信システム1に劣化が生じている状況を判定したが、劣化の進行が遅く、直近で不具合につながる恐れがないと判定した場合、各種設定を現状維持する。一方、対策部34は、現状で劣化状態が小さくても、進行が速く、すぐに対策を打たなければならないと判定した場合、通信データ処理部53及びシリアル通信制御部51に、劣化が進行した場合でも通信が可能な方式への変更をフラグ等を用いて指示し、又はユーザー若しくは保守サービスを行う側に報知する。
対策部34の判断基準は、例えば、図5に示すように、システムごとにさまざまであり、一様に設定されるものではない。具体的には、通信データ処理部53は、通信データの生成において、通信フレーム形状の変更、又は通信フレーム若しくはデータに内包させる誤り訂正機能の強化等を行う。また、シリアル通信制御部51は、ネットワークに接続された他の通信端末のシリアル通信制御部51と整合を取り、伝送路に送出するビットレートを変化させる、又は同一データを複数回送って正常受信されたデータを採用する、というようなデータ冗長処理を行う。
このように、各機能が連携されることにより、機器若しくは部材の劣化状態の把握が可能となり、通信の異常状態になる前に対策を講じることができる。また、劣化の進行度を推定することにより、実際に通信エラーが増え始める前に、又はネットワークが担う機能の低下若しくは喪失に陥る前に、最適な対処を行うことが可能となり、ネットワーク若しくはネットワークが担うシステム機能、又はサービスの高信頼化を可能とする。
なお、図5に示す方法は一例であるが、それぞれ1つの対策の実施で済む場合、又は複合させて実施することによりさらに強力な耐性を必要とする場合等、さまざまな活用が可能となる。
次に、劣化診断部63の詳細について図7,12〜16を用いて説明する。図12は、実施形態1に係る通信システム1の劣化診断のうち、マハラノビス距離MDを指標に用いる場合の概念図である。
図13は、実施形態1に係る通信システム1の劣化診断のうち、単位空間のメンバーごとの単位空間の中心からの距離Dの標準偏差σに基づいた指標を用いる場合の概念図である。図14は、実施形態1に係る通信システム1の劣化予測として、単位空間のメンバーごとの単位空間の中心からの距離Dの標準偏差σに基づいた指標の推移を用いる場合の概念図である。
図15は、実施形態1に係る通信システム1の劣化診断及び劣化予測に用いる指標と、通信システム1の通信状態との相関関係を示す図である。図16は、実施形態1に係る通信システム1の劣化診断及び劣化予測に用いる指標と、予測推移特性と、通信システム1の通信状態との相関関係を示す図である。
まず、図7に示すように、劣化診断部63は、演算部81、判定部82、及び診断部83を含む機能が実現されるものである。劣化診断部63は、複数の異なるパラメータを1つに統合して同一の指標を生成し、生成した指標に基づいて、対象が劣化しているか否かを判定するものであり、その判定の際、正常状態及び異常状態の何れかを判定する。よって、正常状態は、適切に定義される必要がある。なお、詳細については後述するが、異常状態をさらに複数に分類してもよい。
そこで、劣化診断部63は、マハラノビス・タグチシステムを利用する。具体的には、正常状態を特定するために、正常状態データベース62には、マハラノビス・タグチシステムで利用されるものであり、通信システム1に基づいて生成された単位空間の単位空間データを格納させる。
劣化診断部63は、伝送路を流れる通信データと、正常状態データベース62に格納された単位空間の単位空間データと、環境データ格納部33に格納された通信システム1の環境データと、に基づいて、通信システム1の劣化状態を診断する。
具体的には、演算部81は、通信システム1の劣化状態の診断において、マハラノビス・タグチシステムに準拠するように、単位空間データに基づいた第1の指標と、通信データに基づいた第2の指標と、を求める。判定部82は、演算部81により求められた第1の指標及び第2の指標に基づいて、第2の指標が通信システム1の正常動作許容域にあるか否かを判定する。診断部83は、判定部82の判定結果に基づいて、通信システム1を診断する。
マハラノビス・タグチシステムは、扱うデータの条件により、さまざまな手法がある。ここでは、マハラノビス・タグチシステムのうち、MT法と、T法(3)とについて、それぞれ説明する。
MT法は、目的に対して均質な集団を単位空間として定義し、未知データ、すなわち、対象データの単位空間の中心からの距離Dをマハラノビス距離MD、すなわちMD値として求め、求めたMD値を指標とする手法であり、その概念を図12,15,16に示す。
図12に示す正常集団のMD値の算出方法について説明する。なお、正常集団の場合、MD値は1となり、診断対象が正常集団からどの程度の差異を持ったかによって劣化の程度が診断される。
第1に、正常な状態のデータを収集する。正常な状態のデータとして、温度若しくは湿度等のような環境条件、又は製造品質のバラツキ等のようにさまざまな条件、ただし、全n種類の条件において、k種類のデータを収集する。つまり、データ数はk×n個となる。
第2に、データを基準化する。まず、それぞれの項目ごとに平均miと、標準偏差σiとを次式(1)〜(3)に示すように求める。ただし、i=1,2,・・・,kである。
上記の平均mi、標準偏差σiから、次式(4)〜(6)によりデータを基準化し、図8に示すような正常状態データ、すなわち、単位空間データとなる。
つまり、次式(7)のように表される。
第3に、相関行列R及び相関行列Rの逆行列R−1である行列Aを算出する。まず、基準化した項目y1,y2,・・・,ykの間、すなわち項目間の全ての相関係数を求める。項目yiとyjとの相関係数をrijとすると、次式(8)のようになる。
この相関係数rijを使用して相関行列Rを求める。y1からykの全ての2つの組み合わせの相関係数を求めると、次式(9)のように、相関係数の行列=相関行列Rができる。
相関行列Rの逆行列R−1を求め、次式(10)のように、これを行列Aとする。
第4に、MD値を算出する。各データのマハラノビス距離MD値は、次式(11),(12)により求まる。
正常集団のMD値算出と同様に、評価対象となる通信データのMD値を算出する。まず、通信データを抽出し、式(3)で求めた単位空間の項目ごとの平均mi,標準偏差σiを基準化する。その後、上記で説明した相関行列Rの逆行列R−1を用いれば、MD値は算出される。
つまり、演算部81は、第1の指標として、単位空間データと、環境データと、を用いて基準化した単位空間データの基準化データと、単位空間データに基づいて求めた相関行列Rの逆行列R−1とにより第1のマハラノビス距離MDを求める。演算部81は、第2の指標として、通信データを基準化した基準化データと、単位空間データに基づいて求めた相関行列Rの逆行列R−1とにより第2のマハラノビス距離MDを求める。判定部82は、第1のマハラノビス距離MDと、第2のマハラノビス距離MDと、を比較する。
環境データは、例えば、測定時の環境温度に対応する単位空間データを選定するときに用いられる。このように、環境データを用いることにより、単位空間データの選定を行うことができる。
なお、基準化データを求める際、上記の一例では、単位空間データと、環境データとを用いた場合について説明したが、これに限定されず、環境データを用いずに、単位空間データを基準化した基準化データを求めてもよい。
上記で説明した正常集団とは、通信規格に準拠していることは当然として、製造品質のバラツキ又は利用環境のバラツキにより若干の揺らぎを持った、さまざまな正常の状態の集合と定義される。
例えば、送信機の信号生成ドライバの性能、利用温度による通信機器若しくは伝送路の特性の変化、又は顧客若しくは適用ケースごとに異なる伝送路の配索経路による電気的影響等のように、製品若しくは機器の劣化又は異常ではない揺らぎを持った正常な状態の集合となる。
正常な状態の集合からどれだけの差分を有するかで、正常ではない度合いを知ることができる。例えば、図15のMD値は、時間の経過に伴い増加している。図15の正常動作許容域とは、正常集団とは異なる状態であるが、通信にも規格的にも問題はなく、正常動作が可能である範囲を示している。図15の不良域とは、通信規格を一部若しくは全部満足しない状況でのMD値と定義され、通信は行えるが、エラーの発生頻度が増加する、又は通信自体に問題はないがノイズ放射が増加して他の通信機器等の悪影響を与えるような状況を示す。図15の故障域とは、システムの許容範囲を超える通信エラー発生頻度又は通信そのものは不可能な状態が発生している状況を示す。
図15において、不良域及び故障域のMD値は、任意の条件を与えることにより、一意的に定義できる。例えば、通信規格の通信損失特性又は反射特性というような評価項目を、一部から全部満足しない条件に、正常集団を求める際に用いた揺らぎを含めてMD値を求めることで、不良域を定義できる。これに対し、求めたMD値がどこに位置するかで、状況を判断することが可能となる。
このとき、判定に用いるための各プロット点において、プロット点は、一定期間のデータをまとめてプロットすることで、MD値の変化の傾向を把握しやすくなる。プロット点にまとめる方法として、平均値、中央値、又は最頻値等が挙げられる。
また、図16に示すように、劣化診断部63による診断結果と、環境データ格納部33の環境データと、状態推移データベース65から受け取った状態推移データと、に基づいて、劣化の予測が可能である。予測をするに際し、基準値は正常状態のMD値であり、到達してはならないMD値は、図15,16に示す不良域となる。つまり、通信規格NGとなる領域となる。これに対して、現在のMD値がどこで、今後どの程度の経過時間を経てMD値はどう変化するかを求めなければならない。
例えば、最新のMD値を求め、状態推移データベース65に格納されている過去のMD値と合わせて、予測MD値を求める。ここでの例では、二次曲線のような予測推移近似曲線を描いたMD推移だが、MD値がより散布的な振る舞いを示す場合、直線近似を行い、その予測推移近似直線に直交する方向でMD値の存在確率を求め、その存在確率から経過時間を求めることができる。
一方、T法(3)は、単位空間のメンバーごとに、2個の変数に集約し、MTA法を用いて、単位空間の個々のメンバーについて、単位空間中心からの距離Dを求める。単位空間ではないデータについても2個の変数に集約し、同様に、単位空間中心からの距離Dを求める。このように求めた距離Dの標準偏差σに基づいた値を指標としたものがT法(3)であり、その概念を図13,14に示す。
正常集団の中心からの距離Dの算出方法について説明する。
第1に、単位空間を定義し、メンバーごとの各項目の平均値を算出する。単位空間のメンバーとしてのさまざまな条件がn個、評価項目がk個の合計n×k個のデータが得られたとき、項目ごとに次式(13)で表される平均値を次式(14)により求める。
第2に、線形式L、有効除数rを次式(15),(16)により算出する。
第3に、感度β及び標準SN比ηを次式(17)及び後述する式(22)により算出する。
式(22)で表される標準SN比ηnは、次式(18)〜(21)のように、全変動STn及び比例項の変動Sβn等を求めてから計算する。
第4に、2変数Y1とY2とを算出する。具体的には、感度β及び標準SN比ηの2項目を使って、2変数Y1とY2とを算出する。変数Y1は次式(23)に示すように感度βそのまま、一方、変数Y2は標準条件からのバラツキ具合を評価できるように次式(24)により変換する。
また、次式(25),(26)のように、変数Y1,Y2の平均値を求める。
第5に、単位空間のメンバーごとの単位空間中心からの距離Dを算出する。具体的には、単位空間の個々のメンバーについて、次式(27)で表される単位空間の中心からの距離Dを求める。
具体的には、次式(28)により、Y1,Y2からY1の分散V11を求め、次式(29)により、Y1とY2の共分散V12=V21を求め、次式(30)により、Y2の分散V22を求め、次式(31)で表される分散共分散行列Vを求める。
よって、分散共分散行列Vの余因子行列Aは次式(32)のように求まる。
次に、余因子行列Aを用いて単位空間メンバーごとの距離Dを求める。ここでは、単位空間の第i番目のメンバーの距離Diの求め方を次式(33),(34)に示す。
第6に、未知データのメンバーごとの感度β及び標準SN比ηを算出する。具体的には、未知データとしてl通りのデータメンバーが得られたとする。まず、感度βを次式(35)のように求める。
なお、有効除数rは上記式(16)ですでに求めている。次に、線形式L’lを次式(36)のように求める。
ここで、次式(37)で表される平均値は、単位空間における項目ごとの平均値であり、すでに上記式(14)で求めている。
次に、上記と同様に、次式(38)〜(41)により、次式(42)で表される標準SN比ηlが求められる。
このようにして、未知データのメンバーごとに感度βと標準SN比ηとを求める。
第7に、未知データのメンバーごとの2変数Y1とY2とを算出する。具体的には、計算方法は単位空間のメンバーの場合と同じである。すなわち、感度βと標準SN比ηとの2項目を使って2変数Y1とY2とを算出する。変数Y1は感度βそのままであり、変数Y2は標準条件からのバラツキ具合を評価できるように次式(43),(44)のように変換する。
第8に、未知データのメンバーごとの単位空間中心からの距離Dを算出する。具体的には、未知データの個々のメンバーについても、次式(45)で表される単位空間の中心からの距離Dを次式(46),(47)のように求める。ここで、V11,V12,V21,V22は、単位空間のメンバーに対して求めたものを使用する。
これにより、未知データのメンバーごとの単位空間中心からの距離Dが算出される。
第9に、単位空間の標準偏差σによる識別力を評価する。具体的には、次式(48)で表される単位空間のメンバーの中心からの距離Dのバラツキである標準偏差σを求めてから閾値を決める。例えば、閾値を標準偏差σの2倍と決める。そして、未知データの距離Dが閾値よりも十分に大きいか否かを調べ、識別力を評価すればよい。
すなわち、標準偏差σの2倍以内であれば、単位空間に属し、標準偏差σの2倍を超えれば、単位空間に属さないと判定する。ただし、閾値として2σが適当か否かについては、扱う事象ごとに検討が必要となる。
ここでは、単位空間の標準偏差σの求め方を、次式(49),(50)に示す。
上記のように求めた標準偏差σに基づいて、単位空間のバラツキを検討し、単位空間中心からの距離Dがそのバラツキの範囲内であれば、単位空間に属すると判定し、単位空間中心からの距離Dがそのバラツキの範囲外であれば、単位空間外に存在すると判定する。
つまり、演算部81は、第1の指標として、単位空間データに基づいて求めた分散共分散行列Vの余因子行列Aを用いることにより、単位空間のメンバーごとの単位空間の中心からの距離D1の標準偏差σを求めてから、標準偏差σと、予め設定した係数とにより閾値を求める。
なお、距離D1は、本発明における第1の距離に相当する。
演算部81は、第2の指標として、通信データに基づいて求めた分散共分散行列Vの余因子行列Aを用いることにより、通信データのメンバーごとの単位空間の中心からの距離D2を求める。
なお、距離D2は、本発明における第2の距離に相当する。
具体的には、演算部81は、第1の指標として、単位空間データと、環境データとに基づいて求めた分散共分散行列Vの余因子行列Aを用いることにより、単位空間のメンバーごとの単位空間の中心からの距離D1の標準偏差σを求める。演算部81は、第2の指標として、通信データと、単位空間の項目ごとの平均値と、単位空間データとに基づいて求めた分散共分散行列Vの余因子行列Aを用いることにより、通信データのメンバーごとの単位空間の中心からの距離D2を求める。
判定部82は、その閾値と、第2の指標と、を比較する。つまり、判定部82は、距離D1の標準偏差σに基づいて生成された閾値と、距離D2とを比較する。
上記で説明したように、正常集団の中心からの距離Dのバラツキから定義した閾値に対して、診断対象、例えば、未知データA,Bが正常集団の中心からどの程度離れているかを示したのが図13である。なお、ここでいう未知データAと、上記で説明した相関行列Rの逆行列R−1である行列A及び余因子行列Aとは、異なるものである。
正常集団とは、通信規格に準拠していることは当然として、製造品質のバラツキ又は利用環境のバラツキにより若干の揺らぎを持った、さまざまな正常の状態の集合と定義される。例えば、送信機の信号生成ドライバの性能、又は利用温度による通信機器若しくは伝送路の特性の変化、又は顧客若しくは適用ケースごとに異なる伝送路の配索経路による電気的影響等、製品若しくは機器の劣化若しくは異常ではない揺らぎを持った正常な状態の集合となる。
正常な状態の集合からどれだけの差分を有するかで、正常ではない度合いを知ることができる。ここでは、閾値を超えたものについては違う集団と考える。つまり、図13では、未知データAは正常とみなせ、未知データBは正常ではない、すなわち、異常であるとみなせる。
図13においては、正常集団を基準と考えたが、正常集団の代わりに代表的な異常を持った集団を当てはめれば、未知データが対象とする異常とみなせるかどうかが判断できる。よって、考えられる異常の種類若しくは程度、例えば、単一の異常現象でいうと、異常の種類として、被覆剥け、被覆剥け長さが0,5,10,・・・mm等のデータを集め、そのデータ集団ごとに上記のような判断を行えば、対象データが正常集団に近いものであるか否か、特定の異常状態に近いものであるかを判断できる。
劣化予測部64は、劣化診断部63による診断結果と、環境データ格納部33の環境データと、状態推移データベース65から受け取った状態推移データと、に基づいて、今後の劣化状態の予測を行う。予測をするにあたり、正常状態から故障域に渡って状態が変化する集団を決めておく必要がある。
そこで、図14に示すように、それぞれの状態の変化を定義し、未知データがどの状態にあるのかというのを時間経過ごとに把握することができれば、対象の状態がどのような状態に近いかを診断することができる。異常の種類又はその程度と、その状態に至るまでの変化を把握することにより、現在の状況から対象とする異常状態に至るまであとどれくらいの経過時間を要するかを見積もることができる。
図17は、実施形態1に係る劣化演算部32の動作例を説明するフローチャートである。
(ステップS11)
劣化演算部32は、単位空間データ及び環境データに基づいて第1の指標を求める。
(ステップS12)
劣化演算部32は、通信データに基づいて第2の指標を求める。
(ステップS13)
劣化演算部32は、第1の指標と、第2の指標とを比較する。
(ステップS14)
劣化演算部32は、第2の指標が正常動作許容域にあるか否かを判定する。第2の指標が正常動作許容域にある場合、ステップS15に進む。一方、第2の指標が正常動作許容域にない場合、ステップS17に進む。
(ステップS15)
劣化演算部32は、通信システム1が正常状態にあると診断する。
(ステップS16)
劣化演算部32は、第2の指標と、予測推移特性とに基づいて、第2の指標が不良域又は故障域に到達する到達時間を予測し、処理を終了する。
(ステップS17)
劣化演算部32は、第2の指標が不良域にあるか否かを判定する。第2の指標が不良域にある場合、ステップS18に進む。一方、第2の指標が不良域にない場合、ステップS19に進む。
(ステップS18)
劣化演算部32は、通信システム1が第1の劣化状態にあると診断し、ステップS16に移行する。
(ステップS19)
劣化演算部32は、通信システム1が第2の劣化状態にあると診断し、処理を終了する。
つまり、診断部83は、判定部82により第2の指標が通信システム1の正常動作許容域にあると判定された場合、通信システム1が正常状態にあると診断する。
具体的には、判定部82は、第2の指標が正常動作許容域にないと判定した場合、第2の指標が通信システム1の不良域にあるか否かを判定する。診断部83は、判定部82により第2の指標が通信システム1の不良域にあると判定された場合、通信システム1が第1の劣化状態にあると診断する。
また、判定部82は、第2の指標が正常動作許容域及び不良域にないと判定した場合、第2の指標が通信システム1の故障域にあると判定する。診断部83は、判定部82により第2の指標が故障域にあると判定された場合、通信システム1が第1の劣化状態よりも劣化している第2の劣化状態にあると診断する。
また、状態推移データベース65は、単位空間データと、環境データと、劣化診断部63の診断結果と、が経過時間ごとに関連付けられる状態推移データが格納されたものである。そこで、劣化予測部64は、直近の劣化診断部63の診断結果と、状態推移データベース65に格納された状態推移データと、に基づいて、第2の指標が、時間の経過と共に、正常動作許容域、不良域、及び故障域の何れの範囲に移行するかを予測する。
なお、劣化予測部64は、指標にマハラノビス距離MDを用いる場合、状態推移データから生成した予測推移特性に基づいた予測をすることができる。具体的には、劣化予測部64は、直近の劣化診断部63の診断結果と、状態推移データから生成した予測推移特性とに基づいて、第2の指標が不良域又は故障域に到達する到達時間を予測する。ここで、予測推移特性は、一定期間の劣化診断部63の診断結果をまとめてプロットしたプロット点の集合から構成され、予測推移近似曲線又は予測推移近似直線となる。
次に、従来例と比較しながら、実施形態1に係る劣化演算部32の作用効果について説明する。図18は、従来の通信システム1の劣化診断の指標の1つである伝送波形のスペクトル測定系の一例を示す図である。
伝送路を伝搬する通信信号の波形は、伝送路の電気的特性変化の影響を受ける。例えば、伝送路を形成する電線の被覆材料である樹脂が変化すれば、比誘電率εr又は誘電正接のような電気特性は変化する。このとき、伝送路のインピーダンス及び伝送損失が変化し、伝搬する信号が反射して重なり、又は熱若しくは電磁波として放射されるため、損失が発生して信号レベル若しくは形状に変化が現れる。また、微細な被覆剥け若しくは導体の線径変化によっては、インピーダンス変化は微々たるもので観測困難だが、信号が持つ周波数スペクトルの共振点にシフトが現れる。
図18のV3647は任意のビットパターンを任意の時間送信する信号源である。V3647から出力されたシングルエンドのビットパターンはトランスにて1:2のインピーダンスで100Ωの差動信号に変換され、その右側に3つ連なって配置される差動ケーブルへと入力される。
3つの差動ケーブルのうち両端のケーブルは差動インピーダンス100Ωに設計された2500mmの理想的な伝送路であり、中央の差動ケーブルは長さ1mmの被覆無し(比誘電率εr=1すなわち空気)状態を模擬したケーブルとなる。
つまり5001mmの伝送路の中に1mmの被覆剥けがある伝送路を想定したケーブルモデルである。ケーブルを通過した差動信号は、再びトランスへと入力され2:1のインピーダンス変換をへて差動からシングルエンド50Ωの信号となり、終端される。
上記シミュレーションモデルにて、1mmの被覆剥けの有無でそれぞれ計算し、その時の通過波形が持つ周波数スペクトルを算出し、その差分を求めた。その結果を図19に示す。図19は、従来の通信システム1の劣化診断の指標の1つである被覆剥けの有無による信号スペクトルの変化の一例を示す図である。横軸に周波数(MHz)を、縦軸にスペクトル強度(dB)を示している。最も大きな差が現れたのは65MHz付近で7dBとなり、次いで130MHz付近で5dB、190MHz付近で4dB程度と言う結果となった。
ここで、伝送した信号のクロック周波数は66.7MHzであり、このクロック周波数と2倍(133.4MHz),3倍(200.1MHz)の周波数付近に変動差のピークが見られることから、伝送信号のクロック速度に関係する周波数スペクトル値を観測する事で伝送路の状態変化を検知可能であることが分かる。
図20は、従来の通信システム1の劣化診断の指標の1つである伝送路ImpedanceのTDR測定系の一例を示す図である。図21は、従来の通信システム1の劣化診断の指標の1つである被覆剥けの有無によるTDR測定結果の比較例を示す図である。
グラフの横軸に時間(ns)、縦軸にインピーダンス(Ω)を採用しており、図中に一定の傾斜で推移する実線が被覆剥けの無いTDR結果となる。65ns以降でインピーダンスが急に高くなり、その後平坦になっているのは、終端回路部における振る舞いであり、伝送路特性に関係は無い。
TDR測定は、任意の立ち上がり時間を持つステップパルスを入力し、インピーダンス不連続部で反射して戻って来たステップパルスの波形と入力波形の合成波の変化から、インピーダンス不連続部のインピーダンス値を算出する計測方法である。このステップパルスの立ち上がり時間が短ければ微細なインピーダンス変化に顕著に反応するため、より高い分解能の計測が可能となる。
しかし、ここでは通信中の信号波形を用いての伝送路評価を行うことが大前提にあるので、ステップパルスの立ち上がり時間も通信波形の有する立ち上り時間と同程度とした。
具体的には、伝送ビットレートの半分を基本周波数と考え、その奇数逓倍波を7逓倍まで考慮し、その最高周波数から換算式で立ち上がり時間を図22のように求めて用いた。図22は、従来の通信システム1の劣化診断の指標の1つである被覆剥けの有無によるTDR測定の際に用いたステップパルスの立ち上がり時間を示す図である。
上記の様に求めた立ち上がり時間1.5nsのステップパルスにてTDR測定を行った結果、破線が1mmの被覆剥けのTDR結果となり、被覆剥けの無い実線と比較すると約0.3Ωのインピーダンス変化が観測できた。
これは、被覆が無い部分で伝送路のインピーダンス値が高くなり、その結果として信号が反射した事を示しているので、TDRによる被覆剥けが観測できたことになる。
図23は、従来の通信システム1の劣化診断の指標の1つである伝送路のSパラメータ測定系の一例を示す図である。図24は、従来の通信システム1の劣化診断の指標の1つである伝送路のSパラメータ測定系で計測された通過特性の一例を示す図である。図25は、従来の通信システム1の劣化診断の指標の1つである伝送路のSパラメータ測定系で計測された反射特性の一例を示す図である。図26は、従来の通信システム1の劣化診断の指標の1つである伝送路のSパラメータ測定系で計測された近端漏話特性の一例を示す図である。図27は、従来の通信システム1の劣化診断の指標の1つである伝送路のSパラメータ測定系で計測された遠端漏話特性の一例を示す図である。
図24の通過特性とは、被覆剥けの有無において、それぞれ物理的に接続されているポート間での損失量を計測し、その差を横軸に周波数、縦軸に損失量で示したものである。図24は、通過に関しては被覆剥けの有無に関係無くほとんど損失が無いことを示している。
つまり、通過特性を観測しても微細な被覆剥けを検出する事は困難だと言うことが分かる。
次に、図25の反射特性とは、被覆剥けの有無において、それぞれのポートから入力した信号が、入力ポートに反射してくる量を計測し、その差を示したものである。図25から、被覆剥けの有無によって観測した周波数帯域の略全域において1.5dB程度の差分が見られることが分かる。
つまり、微細な被覆剥けでも反射量にて検出が可能であることが分かる。
次に、図26の近端漏話特性とは、被覆剥けの有無において、各ポートから入力された信号が、ペアとなる隣接ポートに漏れて伝わる量であり、これの差を示している。図26から、被覆剥けの有無によって観測した周波数帯域の略全域において1.5dB程度の差分が見られることが分かる。
つまり、微細な被覆剥けでも近端漏話量にて検出が可能であることが分かる。
次に、図27の遠端漏話特性とは、被覆剥けの有無において、各ポートから入力された信号が、ペアとなる隣接線路の遠端ポートに漏れて伝わる量であり、これの差を示している。図27から、被覆剥けの有無によって観測した周波数帯域の特定の周波数に最大17dB程度の差分が見られることが分かる。
つまり、微細な被覆剥けでも遠端漏話量に大きな変化が現れることから、検出が容易であることが分かる。
このように、通信信号の波形や構成成分による診断パラメータとしては、スペクトル、ンピーダンス、Sパラメータ等があり、それによって伝送路の微細な変化が観測可能であることが分かる。
また、これらの観測結果は、伝送路中における不具合及び劣化の発生場所、又はその種類が変わることでも観測値が変化するため、不良個所や不良種類の特定にも利用可能となる。
図28は、従来の通信システム1の劣化診断の指標の1つであるジッタの一例を示す図である。伝送路に劣化がある場合はこれまで述べて来た手法で判断可能であるが、その波形劣化が伝送路に起因するものなのか、又は信号そのものを送受信する通信機器に起因するものなのかは分からない。そこで、伝送路や通信機器などそれぞれに起因する信号変化の評価指標としてジッタが挙げられる。
ジッタとは、様々な要因によって波形が揺らぐ現象であり、ジッタは大きくDJ(確定的ジッタ)とRJ(ランダムジッタ)に分けられる。RJは熱雑音又は位相雑音のように環境に存在して完全に取り除くことのできない揺らぎである。
一方、DJは何らかの原因によって発生する揺らぎであり、主に通信データに依存するものと、環境や動作に依存するものとに分けられる。
これは、ジッタの種類とその変化の度合いや傾向を観察することで、およそ劣化している部位を判別できることを意味する。
つまり、通信波形そのものを観測することに加え、通信波形が持つ周波数成分に含まれる特徴を観測することによって、さらには、その信号がどのような振る舞いをしているのかを観測することによって、通信システム内の劣化要因をより具体的に判別可能となる。
上記で説明したような通信波形から得られる特徴により、さまざまな現象を判別できることが分かる。
しかし、その判別した結果が、正常状態である、又は軽微な異常の状態であるか何れであるかは判別できない。そもそも異常とは、正常な状態では無いことである。すなわち、正常な状態の定義と比べ、どれだけの差分が有るかを具体的に評価する必要がある。
そこで、実施形態1においては、マハラノビス・タグチシステムを用いる。例えば、上記で説明したように、マハラノビス・タグチシステムのうち、マハラノビス距離MDという指標がある。これは、正常と定義した状態から現状がどれだけ異なった状態なのかを画一的な数値に置き換えて判定する方法で、MD値が大きければ大きいほど正常から離れた状態、すなわち異常状態であることを意味する。
このような異常な状態はさまざまな状態をとると考えられる。よって、それらを全て把握することは不可能である。一方、正常な状態はある程度の範囲内に収まっていると考えられる。よって、この範囲から逸脱する状態を全て異常とみなすことで未知の状態であっても、正常及び異常の何れであるかを判定することができる。
この判別に必要なのが、正常集団の定義である。正常集団とは、ネットワークの伝送路若しくは通信機器、それらが伝送する信号の品質を扱う関係から、正常な通信波形の集まりを意味し、この集まりを単位空間とする。
また、正常の範囲に関しては、ネットワークの物理層における通信規格を満たしており、且つ機器メーカー若しくは電装部品メーカーが設計した電気特性で送受信される通信波形となる。
図29は、従来の通信システム1の劣化診断の指標の1つである通信規格マスクテストの一例を示す図である。図29上段のグラフはインピーダンス特性である。上下にはインピーダンスの上限値および下限値が示されている。また、図29下段左のグラフは通過損失特性である。下側には階段状の線がひかれ、これよりも低い値になってはいけない下限値が示されている。また、図29下段右のグラフは反射波量特性である。上側には限界値が示されている。
図29の劣化マージンは、劣化が許容できるマージンである。本来であれば、この領域内に各評価結果が収まっていれば、それは通信規格を満足している事になるので正常となる。
しかし、それでは正常集団から外れるということが、通信不具合状態を意味するため、本来の目的として、現状の状態を診断し、その結果による将来の不具合到達時期を予測する機能を実現することができない。
そこで、正常状態の定義は、通信規格を満足することは大前提として、例えば、図29の測定結果の±10%を正常な状態、すなわち、製品バラツキと仮定する。そして、そこから劣化マージン領域内を推移して行った場合の特性値との差をMD値で評価し、MD値の最大値を評価マスク値とする。これにより、正常集団とのMD値により、現状状態の診断と将来状態、すなわち、故障到達時期の予測が可能となる。
なお、製品バラツキ、例として±10%と示した幅は、例えば、伝送路の被覆の比誘電率εrの温度変化、製造誤差による被覆厚さの揺らぎ、被覆内の芯線の位置の揺らぎ、線路長の誤差若しくは熱変化、又は他の電線等と束ねられる場合の位置若しくは本数の違い等と考えられる。よって、これらの組合せによる初期特性の変化の幅が最も大きい部分とするのが好ましい。
つまり、製造誤差から客先での利用状況、すなわち、設置条件を含む出荷状態での特性に幅を持たせたことになり、一意的な閾値判定とは異なる思想となる。
ここで注意しなければならないのは、正常集団は、構築されたネットワークを伝送する通信波形の初期値では無いことにある。初期値を正常集団とすれば、ネットワーク機器若しくは部材に初期不良若しくは初期劣化が含まれていた場合、その状態も含めて基準となる。そこで、正常集団は、ネットワークが設計された段階で定義されるように、設計を満たし、許容範囲を含んだ波形でなければならない。
これにより、初期不良を含むネットワーク全体の状態を、軽微な異常から通信規格ギリギリまで、漏れ無く判別が可能となる。
図30は、実施形態1に係る劣化診断処理の概要を説明する図である。図31は、実施形態1に係る劣化予測処理の概要を説明する図である。ここでは単一の異常判定因子、すなわち、パラメータにて簡易的に示しているが、複数のパラメータから一つのMDに変換しても良く、またスペクトルの特定周波数や包絡線形状ではなく共振点の周波数シフトに注目しても良く、その運用はさまざまなバリエーションが想定される。
上記の説明から、従来技術では、初期状態を基準とした劣化の診断及び予測を行うものであった。一方、実施形態1に係る技術では、正常な状態の集団を定義し、劣化の診断及び予測を行う。これにより、初期不良又は初期劣化品であっても、寿命を正確に判断することができる。
また、従来技術では、ネットワークにつながる通信端末全てに劣化の診断及び予測を行う機能を搭載する必要があるため、システム全体のコストが高くなる。一方、実施形態1に係る技術では、中央に位置する端末一カ所、又は任意のネットワークを統括する端末により集中して劣化の診断及び予測を行う。これにより、システムコストの大幅な削減が可能となる。
また、従来技術では、通信信号の電圧値と、各種環境データとを劣化の予測式に入れて算出した値と、予め設定された閾値とを比較していた。この場合、システムごとにそれぞれ専用の閾値が設定される必要がある。よって、従来技術は、汎用性に乏しい構成である。一方、実施形態1に係る技術は、現状の劣化状態を診断し、そこから将来の故障の形態と、その状態になる時期を予測する。
これにより、任意の閾値が設定されたことに基づく判定処理ではなく、さまざまな通信規格が定める規格値に対する余裕度に応じた対策を可能とする。よって、実施形態1に係る技術は、汎用性が高い構成である。
具体的には、MD値による現状状態の判定を可能とするため、劣化を連続的に判定可能となり、システムごとに判定閾値を別途設定する必要がなく、汎用性が高くなる。
また、単位空間の中心からの距離Dによる現状状態の判定を、時系列の劣化状態と同じかどうかで判定を行うことにより、現状状態がどのような状態であるかの判別精度及び今後の状態推移の予測精度が高くなる。
また、状態推移データベース65に格納された劣化診断結果をメンテナンス作業者が確認できるようにすることで、機器がどのくらいの劣化状態なのかを確認可能となり、従来よりも無駄のない的確なサービスの提供が可能となるため、スケジュール管理若しくは不要な保守メンテナンスの削減による効率化と低コスト化が可能となる。
換言すれば、少なくとも1台の通信機3が通信システム1の劣化の診断及び予測を行うことにより、他の通信機3_1〜3_3に劣化の診断機能及び予測機能を搭載させる必要がなくなるため、低コストでありつつ、通信システム1の劣化の診断及び予測をすることができる。
以上、実施形態1に係る通信機3は、有線又は無線による伝送路を介して構成される通信システム1の劣化を診断する劣化診断部63と、劣化診断部63の診断結果に基づいて、通信システム1の劣化を予測する劣化予測部64とを備えるものである。
このような構成により、通信機3は、低コストでありつつ、通信システム1の劣化の診断及び予測をすることができる。
また、本実施形態に係る通信機3において、マハラノビス・タグチシステムで利用されるものであり、通信システム1に基づいて生成された単位空間の単位空間データが格納された正常状態データベース62と、通信システム1の環境データが格納された環境データ格納部33とをさらに備え、劣化診断部63は、伝送路を流れる通信データと、正常状態データベース62に格納された単位空間の単位空間データと、環境データ格納部33に格納された通信システム1の環境データと、に基づいて、通信システム1の劣化状態を診断するものである。
このような構成により、通信機3は、マハラノビス・タグチシステムに準拠した単位空間データを用いて通信システム1の劣化状態を診断することができる。
また、本実施形態に係る通信機3において、劣化診断部63は、通信システム1の劣化状態の診断において、マハラノビス・タグチシステムに準拠するように、単位空間データに基づいた第1の指標と、通信データに基づいた第2の指標と、を求める演算部81と、演算部81により求められた第1の指標及び第2の指標に基づいて、第2の指標が通信システム1の正常動作許容域にあるか否かを判定する判定部82と、判定部82の判定結果に基づいて、通信システム1を診断する診断部83とを備え、診断部83は、判定部82により第2の指標が通信システム1の正常動作許容域にあると判定された場合、通信システム1が正常状態にあると診断するものである。
このような構成により、通信機3は、マハラノビス・タグチシステムに準拠した指標に基づいて、通信データから通信システム1の劣化状態を診断することができる。
また、本実施形態に係る通信機3において、判定部82は、第2の指標が正常動作許容域にないと判定した場合、第2の指標が通信システム1の不良域にあるか否かを判定し、診断部83は、判定部82により第2の指標が通信システム1の不良域にあると判定された場合、通信システム1が第1の劣化状態にあると診断するものである。
このような構成により、通信機3は、マハラノビス・タグチシステムに準拠した指標に基づいて、通信システム1が不良域にあるか否かを判定することができる。
また、本実施形態に係る通信機3において、判定部82は、第2の指標が正常動作許容域及び不良域にないと判定した場合、第2の指標が通信システム1の故障域にあると判定し、診断部83は、判定部82により第2の指標が故障域にあると判定された場合、通信システム1が第1の劣化状態よりも劣化している第2の劣化状態にあると診断するものである。
このような構成により、通信機3は、マハラノビス・タグチシステムに準拠した指標に基づいて、通信システム1が故障域にあるか否かを判定することができる。
また、本実施形態に係る通信機3において、単位空間データと、環境データと、劣化診断部63の診断結果と、が経過時間ごとに関連付けられる状態推移データが格納された状態推移データベース65をさらに備え、劣化予測部64は、直近の劣化診断部63の診断結果と、状態推移データベース65に格納された状態推移データと、に基づいて、第2の指標が、時間の経過と共に、正常動作許容域、不良域、及び故障域の何れの範囲に移行するかを予測するものである。
このような構成により、通信機3は、マハラノビス・タグチシステムに準拠した指標に基づいて、通信システム1の将来の劣化動向を予測することができる。
また、本実施形態に係る通信機3において、劣化予測部64は、直近の劣化診断部63の診断結果と、状態推移データから生成した予測推移特性とに基づいて、第2の指標が不良域又は故障域に到達する到達時間を予測するものである。
このような構成により、通信機3は、マハラノビス・タグチシステムに準拠した指標に基づいて、通信システム1が不良域又は故障域に到達する到達時間を予測することができる。
また、本実施形態に係る通信機3において、予測推移特性は、一定期間の劣化診断部63の診断結果をまとめてプロットしたプロット点の集合から構成され、予測推移近似曲線又は予測推移近似直線となるものである。
このような構成により、通信機3は、マハラノビス・タグチシステムに準拠した指標に基づいた簡易な特性線図により、劣化状態の推移を予測することができる。
また、本実施形態に係る通信機3において、演算部81は、第1の指標として、単位空間データを含めて基準化した基準化データと、前記単位空間データに基づいて求めた相関行列Rの逆行列R−1とにより第1のマハラノビス距離MDを求め、第2の指標として、通信データを基準化した基準化データと、前記単位空間データとに基づいて求めた相関行列Rの逆行列R−1とにより第2のマハラノビス距離MDを求め、判定部82は、第1のマハラノビス距離MDと、第2のマハラノビス距離MDと、を比較するものである。
このような構成により、通信機3は、全変数間の相関を利用して、単位空間データと、対象データである通信データとを比較することができる。
また、本実施形態に係る通信機3において、演算部81は、第1の指標として、単位空間データに基づいて求めた分散共分散行列Vの余因子行列Aを用いることにより、単位空間のメンバーごとの単位空間の中心からの距離D1の標準偏差σを求めてから、距離D1の標準偏差σと、予め設定した係数とにより閾値を求め、第2の指標として、通信データに基づいて求めた分散共分散行列Vの余因子行列Aを用いることにより、通信データのメンバーごとの単位空間の中心からの距離D2を求め、判定部82は、閾値と、距離D2と、を比較するものである。
このような構成により、通信機3は、単位空間データが多数ある場合にも、通信システム1の劣化状態を診断することができる。
また、本実施形態に係る通信機3において、演算部81は、距離D1の標準偏差σを求める際、単位空間データと、環境データと、に基づいて、分散共分散行列の余因子行列を求め、距離D2を求める際、通信データと、単位空間の項目ごとの平均値と、空間データと、に基づいて、分散共分散行列の余因子行列を求めるものである。
このような構成により、通信機3は、複数のパラメータを統合した指標に基づいて、通信システム1の劣化状態を診断することができる。
実施形態2.
実施形態2に係る通信システム1は、実施形態1に係る通信システム1とその機能及び構成については同様であるので、その説明については省略する。実施形態2に係る通信システム1は、実施形態1に係る通信システム1を車両に搭載することにより、車載ネットワークとして機能するものである。よって、実施形態2においては、車載ネットワークとして機能する通信システム1について説明する。
図32は、実施形態2に係る通信システム1の一例を示す図である。図32に示すように、通信システム1は、自動車内にネットワークに適用されたものであり、車載機器がネットワークを介して相互に接続されたものである。
具体的には、通信システム1は、中央制御GW、外部GW、インフォ系GW、ボディ系GW、駆動系GW、及び安全系GW等が接続されている。外部GW、インフォ系GW、ボディ系GW、駆動系GW、及び安全系GWは、中央制御GWからスター型に接続されている。
外部GWは、無線通信機器を対象とし、統合する機能が実装されている。例えば、無線により車外から情報を得ることができ、又は車内の情報を外部に送ることができる。外部GWは、多くの無線アクセス又は放送が通信対象である。例えば、外部GWは、DSRC(ETC等の狭域路車間通信)、WLAN(Wifi又はWiMAX等の中域無線アクセス網)、xG(携帯電話のような広域アクセス網)、DTV(ディジタル放送)、GPS(衛星測位システム)、又はVICS(登録商標)(交通情報サービス)等のような通信対象がある。
インフォ系GWは、運転者に対するインフォメーションを行う機器を対象とし、統合するものである。運転者に対するインフォメーションを行う機器は、例えば、駐車補助視覚装置、メータ類、ナビゲーションシステム、又はオーディオ・ビジュアルである。
ボディ系GWは、車両内の各種操作に用いるスイッチ等を対象とし、統合する機能が実装されている。車両内の各種操作に用いるスイッチ等は、例えば、ドアロック装置、窓開閉装置、シート操作装置、室内ランプ等の照明装置、エアコン等の快適系、又は電子制御パワーステアリングである。
駆動系GWは、車両の走行に関わる大出力系を対象とし、統合する機能が実装されている。大出力系は、例えば、エンジン、オートマチックトランスミッションすなわちAT、変速機若しくは減速機、EV、HV、PHV、若しくはFCV等に搭載されるバッテリ若しくは燃料電池、インバータ、モーター、又はブレーキ制御装置である。
安全系GWは、安全に関係する機器を対象とし、統合する機能が実装されている。安全系GWは、例えば、車載カメラ又はレーダー等を用いることにより、危険を検知し、衝突を防止しつつ、場合によっては、エアバック又はオートベルトテンショナーを作動させる。安全に関係する機器は、例えば、反射レーダーすなわちドップラーレーダー、近接センサ、衝突検知センサ、スリップ検出装置、ABSすなわちアンチロックブレーキ、VSAすなわち車両姿勢安定装置等であって、機能介入システムまで幅広い機器が対象となる。
なお、外部GW、インフォ系GW、ボディ系GW、駆動系GW、及び安全系GWのそれぞれに接続されているECUは、上記で説明した各機能部品又はユニットに対応するものである。
次に、図32に示す通信システム1のネットワーク構成及びその機能について図33を用いて具体的に説明する。図33は、実施形態2に係る通信システム1のノード間の関係を説明する図である。図33に示すように、通信システム1は、外部GW、インフォ系GW、ボディ系GW、駆動系GW、及び安全系GWのような機能系GWと、中央制御GWとから構成されている。
機能系GW及び中央制御GWのそれぞれには、劣化の診断及び予測を行う機能、すなわち、診断予測機能が実装される。
図33に示すように、それぞれの機能系GWには、機能ごとのECUが、伝送路を介して接続されている。機能系GWは、ECU及び伝送路の劣化を診断し、劣化の予測を行うことができる。よって、各ECUは、診断予測機能が実装される必要がない。
また、それぞれの機能系GWと、中央制御GWとの相互で劣化の診断及び予測を行うことにより、機能系GWと、中央制御GWとを接続する伝送路について劣化の診断及び予測を行うこともできると共に、機能系GWと中央制御GWとの何れに異常が有るかを診断することができる。
さらに、中央制御GWは、複数の機能系GWとの通信を比較することにより、中央制御GW自身の各通信ポートを自己診断することができ、さらには機能系GWそれぞれの診断を行うこともできる。
車両に搭載される通信システム1は、車載ネットワークの大規模化に伴い通信ノードが増加するにつれ、各通信ノードの高度な連携が可能となるため、高い機能を提供することができるものである。よって、そのような機能の喪失を未然に防ぐために、診断予測技術は必要不可欠である。また、そのような機能の最適配置による相互監視により、非常に高い信頼性を得ることができる。
例えば、自動運転機能が搭載された車両を想定する。自動運転は、上記で説明した全ての機能系GWが連携することにより、成立するものである。具体的には、駆動系GWが駆動又は操舵を制御し、安全系GWが周囲の状況を検知し、インフォ系GWが各種情報をドライバーに知らせ、外部GWが周辺車両又は路車間の連携を行い、ボディ系GWが車線変更、減速、又はライト点灯を行う。このように、各機能系GWの1つでも機能が欠ければ、自動運転は成立しない。
従来の機能安全思想では、劣化が進行し故障が顕在化した場合、フェール動作へ移行することにより、安全を確保するものであった。よって、保守保全の思想からすれば、事後対応である。しかし、事後対応では、自動運転中、高速走行中又はカーブを走行している際に機能不全が発生すれば、ドライバーに運転機能を返還するまでにタイムラグが発生し、各種不具合が生じる恐れがある。そのような各種不具合を回避するためには、自動運転を行いつつ、ドライバーにいつでも運転機能を返還させる構成である必要がある。よって、自動運転の恩恵は非常に少ないものとなる。付言すれば、ドライバーに運転機能を返還することができないような状態となった場合、各種不具合が生じる。
そこで、そのような各種不具合に対して診断予測機能を用いれば、通信信号状態の変化の推移を定期的に診断し、その診断結果に基づいて、将来の異常状態を推定することができる。これにより、結果として各種機能が喪失する前に、保全メンテナンスを受けるようにドライバーに報知する、又は自動運転機能を安全な段階で停止して運転機能をドライバーに返還する、というような動作が可能となる。これにより、上位アプリケーションによる対策につなげることにより、高い安全性を提供することができる。
なお、上記の説明では、中央制御GWと各機能系GWとが個別に構成される一例について説明したが、中央制御GWが全てのネットワークに対応した入出力ポートを備える構成であってもよい。この場合、中央制御GW内でそれぞれのメディア変換を行う構造となり、シンプルなネットワーク構成となる。
このようなネットワーク構成において、中央制御GWに診断予測機能が搭載されることにより、ネットワーク機器間をつなぐ全ての伝送路を監視下におくことができる。つまり、異なるネットワークを接続し、異なるネットワークに変換し、異なるネットワークを統合する機能が実装された機器に、診断予測機能が搭載された状態となる。
また、上記で説明した通信システム1は、自動車のような車両以外であっても、二輪車、航空機、船舶、又は鉄道等のように、自動で運転することが可能な乗り物に関して幅広く適用が可能なものであり、その用途は限定されるものではない。
以上、実施形態2においては、通信システム1は、車載ネットワークとして構成されるものであり、劣化診断部63は、車載ネットワークの劣化を診断し、劣化予測部64は、劣化診断部63の診断結果に基づいて、車載ネットワークの劣化を予測するものである。
このような構成により、車載ネットワークにおいても、低コストでありつつ、通信システム1の劣化の診断及び予測をすることができる。
実施形態3.
実施形態3に係る通信システム1は、実施形態1,2に係る通信システム1とその機能及び構成については同様であるので、その説明については省略する。実施形態3に係る通信システム1は、実施形態2に係る通信システム1と異なり、実施形態1に係る通信システム1を建造物に配置することにより、ホームネットワークとして機能するものである。よって、実施形態3においては、ホームネットワークとして機能する通信システム1について説明する。
図34は、実施形態3に係る通信システム1の一例を示す図である。図34に示すように、通信システム1は、ホームGW、光ルータ、無線GW、PLC−SW、Ethernet(登録商標)HUB、又はホームセキュリティGW等から構成される。ホームGWはGbit−Ethernet(登録商標)に対応するものであり、光ルータ、無線GW、PLCSW、Ethernet(登録商標)HUB、又はホームセキュリティGW等を統合管理するものである。
つまり、ホームネットワークは、さまざまな規格の通信仕様が混在するものである。例えば、図34に示すように、宅内の通信規格では、光Ethernet(登録商標)、メタルEthernet(登録商標)、PLC(PoE)、電話線(ADSL)、無線LAN(Wifi)、携帯電話(xG)などが挙げられる。また、宅外の通信規格では、FTTH(Fiber to the home)、電話線(ADSL)、CATV、放送(BS、CS、DTV)などが挙げられる。このように、ホームネットワークは、通信規格(伝送路)が共存している。
図34においては、外部の光ネットワークから宅内の光ルータを経てホームGWに接続されている。ここでは、ホームGWは高速なGigaBit−Ethernet(登録商標)によって宅内ネットワーク制御機器とつながっている。宅内ネットワーク制御機器は、例えば、無線通信機能を担う無線GW、Ethernet(登録商標)の分配機能を担うEthernet(登録商標)−HUB、PLC接続機能を担うPLC−SW、又はホームセキュリティ機器を管理するホームセキュリティGWである。
ホームネットワークのアプリケーションとして、各種メディア情報を宅内のどこからでもアクセス可能であること、火災若しくはガス漏れ等を検知すること、空き巣等の犯罪防止を未然に防ぐホームセキュリティが挙げられる。しかし、従来のシステムでは、宅内の伝送路若しくは機器に、故障若しくは異常が生じた場合、上記アプリケーションが機能せず、ユーザーにこれらのサービスを提供することができなくなる恐れがある。
例えば、センサノードが得た情報は、ホームセキュリティGWを経て、UI端末に表示され、さらにはホームGWを経て外部ネットワーク若しくは無線GWからユーザーのモバイル端末等に情報が送信される。これにより、現在宅内にてどのような事象が生じているかをユーザーは知ることができる。
しかし、各種機器間を結ぶ伝送路が劣化したことにより通信不具合が生じている場合、各種センサの情報は入手できない。よって、ユーザーに情報を報知することができない。この場合、ホームセキュリティGWにより通信不具合を検知できれば、ユーザーにその旨を報知することができるが、宅内で生じている事象は報知されないため、ユーザーにそれらのサービスを提供し続けることができなくなる恐れがある。
そこで、ホームGW及び各ネットワークを統合分配するGW、HUB、SW、又はルータ等に異常若しくは故障の予測診断機能を搭載することにより、アプリケーションが正常に機能しなくなる前に、保守メンテナンスの実施をユーザーに促し、宅内で生じる事象が検知できないという状況を作り出さないようにすることができる。
また、上記の説明では、ホームGWと、無線GW、Ethernet(登録商標)−HUB、PLC−SW、又はホームセキュリティGWとが個別に構成される一例について説明したが、ホームGWが全てのネットワークに対応した入出力ポートを備える構成であってもよい。この場合、ホームGW内でそれぞれのメディア変換を行う構造となり、シンプルなネットワーク構成となる。
このようなネットワーク構成において、ホームGWに診断予測機能が搭載されることにより、ネットワーク機器間をつなぐ全ての伝送路を監視下におくことができる。つまり、異なるネットワークを接続し、異なるネットワークに変換し、異なるネットワークを統合する機能が実装された機器に、診断予測機能が搭載された状態となる。
さらに、各種ネットワーク接続端末が、エアコン、冷蔵庫、電子レンジ若しくはオーブンレンジ、湯沸かし器、TV、メディアレコーダ、ゲーム機、又はソーラー発電機のような家電機器であった場合、ネットワークの故障によりエネルギーの浪費、それにより、火災、機器の劣化促進による寿命の短縮、又は漏電若しくは火傷による怪我等のような二次的被害につながる恐れがある。
しかし、実施形態1に係る劣化の診断及び予測を行う機能をネットワーク上に構築することにより、又は上記家電機器で連携を要する製品に搭載することにより、上記のような不具合を診断予測可能となり、そのような不具合を回避することができる。なお、上記で説明した家電機器は一例であり、家電機器の種類を限定するものではない。
なお、上記で説明した事項は、一般宅内以外であっても、アパート若しくはマンションのような集合住宅、オフィスビル、又は商業施設といったような建造物一般にも幅広く適用可能であり、その用途は限定されるものではない。
以上、実施形態3においては、通信システム1は、ホームネットワークとして構成されるものであり、劣化診断部63は、ホームネットワークの劣化を診断し、劣化予測部64は、劣化診断部63の診断結果に基づいて、ホームネットワークの劣化を予測するものである。
このような構成により、ホームネットワークにおいても、低コストでありつつ、通信システム1の劣化の診断及び予測をすることができる。
以上、実施形態1〜3に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよい。
例えば、本実施形態において通信システム1の劣化状態を診断する指標として、マハラノビス・タグチシステムのうち、MT法と、T法(3)とを用いた一例について説明したが、これに限らず、マハラノビス・タグチシステムのうち、TS法又はT法であってもよい。
また、本実施形態において複数のパラメータを1つに統合する指標を演算するために、マハラノビス・タグチシステムを用いた一例について説明したが、これに限らず、複数のパラメータを1つに統合する指標であればよい。
また、実施形態1〜3の一部又は全部を組み合わせた構成において、上記で説明したように、複数のパラメータを1つに統合する指標により、通信システム1の劣化の診断及び予測を行う構成であってもよい。