まず、本発明に係る無線通信デバイスにおける各種態様の構成について記載する。
本発明に係る第1の態様の無線通信デバイスは、通信信号を送受信するための無線通信デバイスであって、基材と、前記基材に形成されたアンテナパターンと、前記アンテナパターンに接続された給電回路と、前記基材上又は前記アンテナパターン上に設けられた付与部材と、を備え、前記付与部材は水分を含有する部材である。
上記のように構成された第1の態様の無線通信デバイスは、例えば電子レンジの庫内でマイクロ波の照射を受けると、無線通信デバイスの各部がマイクロ波加熱されるが、付与部材に含有されている水分の加熱効率が高いため、上記水分は急速に加熱され、その気化によって、無線通信デバイスの周囲の雰囲気が変化する。例えば水の気化熱による吸熱作用で付与部材近傍の温度上昇が抑制される。また、マイクロ波電力は付与部材に含有されている水分やその水蒸気によって吸収されることにより、アンテナパターンを含む回路が受けるマイクロ波電力が抑制される。この結果、無線通信デバイスが付された商品における発火の危険性を防止できる。
本発明に係る第2の態様の無線通信デバイスでは、前記付与部材は、前記通信信号の周波数より高い周波数の高周波電力を前記通信信号の電力より高効率で吸収する部材である。
本発明に係る第3の態様の無線通信デバイスでは、前記通信信号の周波数より高い周波数の高周波電力は2.4GHz以上2.5GHz以下の電磁波加熱に用いられるマイクロ波電力である。
本発明に係る第4の態様の無線通信デバイスでは、前記付与部材は水を吸収した吸水性ポリマーを含む部材である。
本発明に係る第5の態様の無線通信デバイスでは、前記付与部材はヒドロゲルを含む部材である。
本発明に係る第6の態様の無線通信デバイスでは、前記付与部材は前記アンテナパターンの全体を覆う。
本発明に係る第7の態様の無線通信デバイスでは、前記アンテナパターンは、互いに対向する導体パターンを含み、前記付与部材は、前記互いに対向する導体パターンの間に配置される。
本発明に係る第8の態様の無線通信デバイスでは、前記付与部材は前記アンテナパターンの一部を前記基材の面に沿った方向に挟む位置に配置される。
本発明に係る第9の態様の無線通信デバイスでは、前記付与部材は前記アンテナパターンが形成される領域の周囲に配置される。
本発明に係る第10の態様の無線通信デバイスでは、前記付与部材は、前記基材の面のうち、前記アンテナパターンが形成されている面とは反対側の面に設けられる。
本発明に係る第11の態様の無線通信デバイスでは、前記基材は複数の絶縁性シートの積層体であり、前記付与部材は、前記複数の絶縁性シート同士を接合する接合材である。
無線通信デバイスが付された商品を販売するコンビニエンスストアやスーパーマーケットでは、食品、日用雑貨品などの多種多様な商品が取り扱われる。近年、コンビニエンスストアに関して、購入した商品の会計、及び袋詰めを自動化する「無人コンビニエンスストア」の実用化に向けて、各種実験が行われている。
「無人コンビニエンスストア」における商品会計の自動化のために、無線通信デバイスである「RFIDタグ」を全ての商品に付して対応することが考えられている。「無人コンビニエンスストア」においては、「RFIDタグ」が付された商品を収容した買い物カゴが精算台に置かれると、「RFIDタグ」からの情報が読み取られて商品代金が表示されるシステムである。購入者は、商品代金としての現金を現金投入口に投入するか、クレジットカードを差し込んで支払いを済ませて、自動的に買い物袋に詰められた商品を受け取ることにより、「無人コンビニエンスストア」における商品の購入を完了することができる。
以下、本発明に係る無線通信デバイスの具体的な例示としての実施形態について、添付の図面を参照しつつ説明する。本発明に係る無線通信デバイスが付される商品としては、所謂「コンビニエンスストア」や「スーパーマーケット」などの販売店において取り扱われる全ての商品が対象である。
なお、以下の実施形態において説明する電磁波加熱装置としては、誘電加熱を行う所謂「電子レンジ」で説明するが、本発明おける電磁波加熱装置としては誘電加熱を行う機能を有する加熱装置が対象となる。また、以下の実施形態では、上記商品に付されるRFIDタグを無線通信デバイスの一例として説明する。
以降、本発明を実施するための複数の形態を順次示す。各実施形態で参照する各図中には同一箇所に同一符号を付している。要点の説明又は理解の容易性を考慮して、実施形態を説明の便宜上分けて示すが、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせは可能である。第2の実施形態以降では第1の実施形態と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する場合がある。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。
《第1の実施形態》
図1(A)は第1の実施形態に係るRFIDタグ101の平面図であり、図1(B)はRFIDタグ101の、付与部材4を形成する前の状態での平面図である。このRFIDタグ101は、絶縁性の基材1と、この基材1に形成されたアンテナパターン2A,2Bと、アンテナパターン2A,2Bに接続されたRFICパッケージ3とを備える。そして、基材1上に付与部材4が設けられている。
図2は、RFIDタグが付された商品の一例を示す図であり、RFIDタグ101が付された弁当201の斜視図である。
本実施形態のRFIDタグ101は、UHF帯の通信信号の周波数(キャリア周波数)を含む高周波信号で無線通信(送受信)するよう構成されている。UHF帯とは、860MHzから960MHzの周波数帯域である。ここで、UHF帯の通信信号の周波数は本発明における「通信信号の周波数」の一例である。
RFIDタグ101は、後述するRFICパッケージ3と、アンテナパターン2A,2Bと、絶縁体及び誘電体である基材1と、を含む。本実施形態のRFIDタグ101において、基材1として、可撓性を有するフィルム材料又は難燃性のフィルム材料が用いられる。基材1の平面視での外形は矩形状である。また、基材1が難燃性ではない通常のフィルム材料の場合は、基材1の厚みを38μm以下の薄さにしてもよい。これにより、基材1は、燃焼するまでに溶けて変形するので、基材形状を保てないようにすることができる。
基材1に難燃性フィルムを採用する場合、用いられる難燃性フィルム材料としては、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂などの樹脂材料にハロゲン系難燃材料の添加や、難燃性コーティング材料を塗工したフィルムが用いられる。また、基材1の材料としては、耐熱性を有するPEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂などの耐熱性、耐加水分解性、耐薬品性の面で高機能を有する樹脂材料を用いることも可能である。なお、基材1には必ずしも難燃性材料が必要なわけではなく、例えば紙材により構成することも可能である。
基材1の表面には、アルミニウム箔、銅箔などの導電材料の膜体によるアンテナパターン2A,2Bが形成されている。また、基材1の表面に形成されたアンテナパターン2A,2Bには、RFICパッケージ3が実装されており、RFICパッケージ3とアンテナパターン2A,2Bとが電気的に接続されている。なお、「電気的に接続」とは、高周波信号が伝達され、動作可能なように互いが接続あるいは結合されていることを意味し、直流的、直接的に接続されていることに限定されるものではない。
図1(A)、図1(B)に示すように、アンテナパターン2A,2Bは電界放射型のアンテナパターンであり、RFICパッケージ3が実装される第1ランドパターン6aから複数の折り返し部FPを有して蛇行するミアンダライン状の第1アンテナパターン2A、及びRFICパッケージ3が実装される第2ランドパターン6bから複数の折り返し部分を有して蛇行するミアンダライン状の第2アンテナパターン2Bがそれぞれ延設されて構成されている。つまり、第1ランドパターン6aからミアンダライン状の第1アンテナパターン2Aが、基材1における長手方向の一方端に向かって(−X方向に)延設されている。また、第2ランドパターン6bからミアンダライン状の第2アンテナパターン2Bが、基材1における長手方向の他方端に向かって(+X方向に)延設されている。
上記構成により、アンテナパターン2A,2Bは、ダイポール型の電界アンテナとして作用する。
アンテナパターン2A,2Bの折り返し部FPとは、アンテナパターン2A,2Bの延びる方向が反転する箇所である。アンテナパターン2A,2Bは折り返し部FPで折り返されることによって、互いに対向する導体パターンOPを含む。
アンテナパターン2A,2Bにおいて、互いに対向する導体パターンOPの間にそれぞれ付与部材4が設けられている。
上述のとおり、アンテナパターン2A,2Bとしてはアルミニウム電極や銅電極など導電率の高い金属材料である。なお、アンテナパターン2A,2Bとして、金属材料以外でカーボン系の材料を用いてもよい。
上記のように構成された、基材1の表面に形成されたアンテナパターン2A,2Bは、電界の集中を防止する形状を有しており、特に屈曲部分及び外周部分の縁部分においては鋭角の部分はなく、全て緩やかな曲面(曲線)で構成されている。つまり、アンテナパターン2A,2Bは、折り返し部FPに丸みを帯びた形状であるので、局部的に曲率半径の小さな箇所が無い。そのため、電界強度の高い箇所ができず、放電自体が生じ難い。
付与部材4は水分を含有する部材である。付与部材4は通信信号の周波数より高い周波数である電磁波加熱に用いられるマイクロ波電力を通信信号の電力より高効率で吸収する。ここでマイクロ波は300MHz以上300GHz以下の周波数帯の電磁波である。例えば、上記通信信号の周波数はUHF帯(860MHz以上960MHz以下の周波数帯)であり、電磁波加熱に用いられるマイクロ波の周波数は例えば2.45GHz帯(2.4GHz以上2.5GHz以下の周波数帯)である。
付与部材4は、水分を含有するので、電磁波加熱に用いられるマイクロ波の電力を通信信号の電力より高い効率で吸収する。つまり、付与部材4は本来のRFIDタグとしての通信時には悪影響を及ぼすことがなく、上記高周波信号の電力の損失は少ない。一方、誘電体が電磁波加熱に用いられるマイクロ波電力を受けると、誘電加熱によって発熱する。
誘電加熱は、誘電体の誘電損失に基づいて生じるが、次に述べるように、特に水は誘電損失が大きく、マイクロ波電力によって高効率で加熱される。
水分子は1個の酸素原子と2個の水素原子とから構成され、全体としては電荷を持たないが、酸素原子に対し2個の水素原子が約104.5°の角度で結合しているので(非対称であるので)、永久双極子を形成している。この水分子の永久双極子は、粘性抵抗による遅れ(誘電余効)が大きく、マイクロ波電界の振動に対して少し遅れて追従するので、すなわち、マイクロ波電界の変化に対し位相遅れを伴って永久双極子が変化するので、この遅れがマイクロ波電界の変化に対する抵抗力として作用し、永久双極子が加熱される。マイクロ波は永久双極子である水分子に対して、上記作用を効果的に生じさせる周波数である。このようにして、水分はマイクロ波電力を吸収して発熱する。
本実施形態のRFIDタグ101が付された商品が、例えば電子レンジの庫内でマイクロ波の照射を受けると、RFIDタグ101の基材1は誘電加熱されるが、付与部材に含有されている水分は上述のとおり加熱効率が高いため、上記水分は急速に加熱され、その気化によって、RFIDタグ101の周囲の雰囲気が変化する。例えば水の気化熱による吸熱作用で付与部材4近傍の温度上昇が抑制される。また、マイクロ波電力は付与部材4に含有されている水分やその水蒸気によって吸収されることにより、アンテナパターン2A,2Bを含む回路が受けるマイクロ波電力が抑制される。この結果、RFIDタグ101が付された商品における発火の危険性を防止できる。
付与部材4の一例としては、水を吸収した吸水性ポリマーを含む部材である。例えば、ポリアクリル酸は多数の親水基を有し、吸水することで網目構造に架橋してナトリウム塩の形となると高吸水性ゲルとなる。この高吸水性ゲルを基材1に印刷することで付与部材4を設ける。または、上記高吸水性ゲルを樹脂フィルムで被覆したシートを貼付することで付与部材4を設ける。
また、付与部材4の一例としては、例えばヒドロゲル(hydrogel)を含む部材である。このヒドロゲルは、分散媒(コロイド溶液における溶媒に相当するもの)が水であるゲル(含水湿潤ゲル)である。このヒドロゲルを含む物質を基材1に印刷することで付与部材4を設ける。または、上記ヒドロゲルを含む物質を樹脂フィルムで被覆したシートを貼付することで付与部材4を設ける。
RFIDタグ101が電磁波加熱用の高電力のマイクロ波を受けると、アンテナパターン2A,2Bの電位差の大きい箇所で放電する虞がある。例えば、アンテナパターン2A,2Bのうち、互いに対向する導体パターンOP間の電位差が大きくなって、この互いに対向する導体パターンOP間で放電しやすい。しかし、付与部材4は、アンテナパターン2A,2Bの形成面で、かつ互いに対向する導体パターンOPの間に設けられているので、上記放電が生じても、付与部材4近傍の温度上昇が抑制されて、放電から発火への進展が効果的に予防される。
上記付与部材4に含まれる水分の量は、RFIDタグ101が電磁波加熱用の高電力のマイクロ波を受けたときに、RFIDタグ101の周囲全体の水蒸気圧が空気の水蒸気圧より高くなる程度の量であることが好ましい。
なお、本実施形態では、基材1の面のうち、アンテナパターン2A,2Bの形成面で、かつ互いに対向する導体パターンOPの間に付与部材4が設けられているので、つまり、付与部材4はアンテナパターン2A,2Bを覆わないので、RFIDタグ101の平均厚みを大きくすることなく、付与部材4を備えるRFIDタグが構成される。また、付与部材4はアンテナパターン2A,2Bを覆わないので、付与部材4がアンテナパターン2A,2Bによるダイポール型の電界アンテナとしての電気的特性に与える影響は小さい。特に、アンテナパターン2A,2Bの先端(開放端)より、RFICパッケージ3の接続端付近の方で電界強度が低いので、アンテナパターン2A,2Bの先端(開放端)を避けて付与部材4を設けることが好ましい。
図3は、アンテナパターン2A,2Bのランドパターン6(6a,6b)上に実装されるRFICパッケージ3の構成を示す分解斜視図である。図3に示すように、第1の実施形態におけるRFICパッケージ3は、三層からなる多層基板で構成されている。具体的には、RFICパッケージ3の多層基板は、ポリイミド、液晶ポリマーなどの樹脂材料から作製されており、可撓性を有する三つの絶縁シート12A,12B,12Cが積層されて構成されている。絶縁シート12A,12B,12Cは、平面視が略四角形状であり、本実施形態においては略長方形の形状を有している。図3に示すRFICパッケージ3は、図1(A)、図1(B)に示したRFICパッケージ3を裏返して三層を分解した状態を示している。
図3に示すように、RFICパッケージ3は、三層の基板(絶縁シート12A,12B,12C)上において、RFICチップ9と、複数のインダクタンス素子10A,10B,10C,10Dと、アンテナパターン2A,2Bに接続される外部接続端子11(11a,11b)と、が所望の位置に形成されている。
外部接続端子11a,11bは、最下層(アンテナパターン2A,2Bに対向する基板)となる第1絶縁シート12Aに形成されており、アンテナパターン2A,2Bのランドパターン6a,6bに対向する位置に形成されている。4つのインダクタンス素子10A,10B,10C,10Dは、第2絶縁シート12B及び第3絶縁シート12Cに2つずつ分かれて形成されている。即ち、最上層(図3においては最も下に記載されている層)となる第3絶縁シート12Cには第1インダクタンス素子10A及び第2インダクタンス素子10Bが形成されており、中間層となる第2絶縁シート12Bには第3インダクタンス素子10C及び第4インダクタンス素子10Dが形成されている。
本実施形態におけるRFICパッケージ3においては、外部接続端子11a,11b及び4つのインダクタンス素子10A,10B,10C,10Dは、アルミニウム箔、銅箔などの導電材料により作製される導体パターンにより構成される。
図3に示すように、RFICチップ9は、最上層である第3絶縁シート12C上に長手方向(図3におけるX方向)の中央部分に実装されている。RFICチップ9は、シリコンなどの半導体を素材とする半導体基板にRF回路が形成された構造を有する。第3絶縁シート12C上の長手方向の一方側(図3においては+X方向の側)において渦巻き状に形成されている第1インダクタンス素子10Aは、RFICチップ9の一方の入出力端子9aにランド10Aaを介して接続されている。第3絶縁シート12C上の長手方向の他方側(図3においては−X方向の側)において渦巻き状に形成されている第2インダクタンス素子10Bは、RFICチップ9の他方の入出力端子9bにランド10Baを介して接続されている。
中間層である第2絶縁シート12B上の長手方向の一方側(図3においては+X方向の側)には、渦巻き状の第3インダクタンス素子10Cが形成されており、第2絶縁シート12B上の長手方向の他方側(図3においては−X方向の側)には、渦巻き状の第4インダクタンス素子10Dが形成されている。渦巻き状の第3インダクタンス素子10Cの外周側の端部と、渦巻き状の第4インダクタンス素子10Dの外周側の端部は直接接続されている。一方、第3インダクタンス素子10Cの内周側の端部であるランド10Caは、第2絶縁シート12Bを貫通するビア導体などの層間接続導体を介して、第3絶縁シート12C上の渦巻き状の第1インダクタンス素子10Aの内周側の端部であるランド10Abに接続されている。また、第3インダクタンス素子10Cの内周側の端部であるランド10Caは、最下層となる第1絶縁シート12Aを貫通するスルーホール導体などの層間接続導体を介して、第1絶縁シート12A上の第1外部接続端子11aに接続されている。
第4インダクタンス素子10Dの内周側の端部であるランド10Daは、第2絶縁シート12Bを貫通するスルーホール導体などの層間接続導体を介して、第3絶縁シート12C上の渦巻き状の第2インダクタンス素子10Bの内周側の端部であるランド10Bbに接続されている。また、第4インダクタンス素子10Dの内周側の端部であるランド10Daは、最下層となる第1絶縁シート12Aを貫通するスルーホール導体などの層間接続導体を介して、第1絶縁シート12A上の第2外部接続端子11bに接続されている。
第1絶縁シート12A上の第1外部接続端子11aは、基材1上に形成された第1アンテナパターン2Aの第1ランドパターン6aに接続されるよう配設されている。また、第1絶縁シート12A上の第2外部接続端子11bは、基材1上に形成された第2アンテナパターン2Bの第2ランドパターン6bに接続されるよう配設されている。
また、中間層である第2絶縁シート12Bには、第3絶縁シート12C上に実装されたRFICチップ9が収容される貫通孔13が形成されている。RFICチップ9は、第1インダクタンス素子10Aと第2インダクタンス素子10Bとの間、及び第3インダクタンス素子10Cと第4インダクタンス素子10Dとの間に配設されている。このため、RFICチップ9がシールドとして機能し、第1インダクタンス素子10Aと第2インダクタンス素子10Bとの間における磁界結合及び電界結合が抑制され、同様に、第3インダクタンス素子10Cと第4インダクタンス素子10Dとの間における磁界結合及び電界結合が抑制される。その結果、RFICパッケージ3においては、通信信号の通過帯域が狭くなることが抑制されており、通過帯域を広いものとしている。
本実施形態では、RFICパッケージ3がアンテナパターン2A,2B上に実装された形態を例示したが、RFICチップ9を直接アンテナパターン2A,2B上に実装してもよい。また、このとき、RFICパッケージ3において複数のインダクタンス素子10A,10B,10C,10Dとして構成されていたインダクタを、ループ状のパターンによって基材1上に構成してもよい。
《第2の実施形態》
第2の実施形態では、基材1に対する付与部材4の形成位置及び形状が第1の実施形態で示した例とは異なる幾つかのRFIDタグについて、図4〜図8を参照して示す。
図4は第2の実施形態に係るRFIDタグ102Aの平面図である。このRFIDタグ102Aは、絶縁性の基材1と、この基材1に形成されたアンテナパターン2A,2Bと、アンテナパターン2A,2Bに接続されたRFICパッケージ3とを備える。そして、基材1上に付与部材4が設けられている。この例では、基材1の周辺に沿って付与部材4が設けられている。付与部材4は平面視でアンテナパターン2A,2Bと重なっていない。
このように構成されたRFIDタグ102Aによっても、第1の実施形態で示したRFIDタグ101と同様の作用効果を奏する。特に、付与部材4はアンテナパターン2A,2Bの互いに対向する導体パターンの間には配置されないため、付与部材4がアンテナパターン2A,2Bによるダイポール型の電界アンテナとしての電気的特性に与える影響は少ない。また、基材1の周辺に沿って付与部材4が設けられているため、付与部材4の全体の面積及び容積を大きくできるので、RFIDタグ101の周囲の雰囲気変化に関する効果が高い。
図5は第2の実施形態に係る別のRFIDタグ102Bの平面図である。このRFIDタグ102Bでは、アンテナパターン2A,2Bの全体的に延伸する方向(X方向)に延伸する二つの付与部材4が基材1上に設けられている。また、この二つの付与部材4はアンテナパターン2A,2Bに重ならずに、沿って配置されている。その他の構成は第1の実施形態で示したとおりである。
このように構成されたRFIDタグ102Bによれば、付与部材4がアンテナパターン2A,2Bの全体の長手方向の端部には無いため、アンテナパターン2A,2Bの全体の長手方向の寸法を、図4に示した構造に比べて短縮化できる。
図6は第2の実施形態に係る別のRFIDタグ102Cの平面図である。このRFIDタグ102Cでは、アンテナパターン2A,2Bの全体的に延伸する方向(X方向)に複数の付与部材4が配列されている。また、付与部材4はアンテナパターン2A,2Bの折り返し部FPの近接位置に配置されている。その他の構成は第1の実施形態で示したとおりである。
図7は第2の実施形態に係る別のRFIDタグ102Dの平面図である。このRFIDタグ102Dでは、アンテナパターン2A,2Bの全体的に延伸する方向(X方向)に複数の付与部材4が配列されている。また、付与部材4はアンテナパターン2A,2Bの互いに対向する導体パターンの間にも配置されている。その他の構成は第1の実施形態で示したとおりである。
図8は第2の実施形態に係る別のRFIDタグ102Eの平面図である。このRFIDタグ102Eでは、RFICパッケージ3の周囲を囲むように付与部材4が基材1上に設けられている。RFICパッケージ3の近傍又はアンテナパターン2Aとアンテナパターン2Bとの間に放電が生じやすい場合には、RFICパッケージ3の周囲を囲む付与部材4による、放電から発火への進展が効果的に防止される。
《第3の実施形態》
第3の実施形態では、アンテナパターンに重なる位置に付与部材4が設けられたRFIDタグについて、図9〜図13を参照して示す。
図9は第3の実施形態に係るRFIDタグ103Aの平面図である。このRFIDタグ103Aは、絶縁性の基材1と、この基材1に形成されたアンテナパターン2A,2Bと、アンテナパターン2A,2Bに接続されたRFICパッケージ3とを備える。そして、基材1上に付与部材4が設けられている。この例では、付与部材4はアンテナパターン2A,2Bと重なっている。
図10は第3の実施形態に係る別のRFIDタグ103Bの平面図である。このRFIDタグ103Bでは、付与部材4がアンテナパターン2A,2Bの折り返し部FP及びその周囲と重なっている。
図11は第3の実施形態に係る別のRFIDタグ103Cの平面図である。このRFIDタグ103Cでは、付与部材4がアンテナパターン2A,2Bの対向部の導体パターンOP及びその周囲と重なっている。
図12は第3の実施形態に係る別のRFIDタグ103Dの平面図である。このRFIDタグ103Dでは、付与部材4がアンテナパターン2A,2Bの対向部の導体パターンOPの一部及び対向部の間の一部と重なっている。
図13は第3の実施形態に係る別のRFIDタグ103Eの平面図である。このRFIDタグ103Eでは、付与部材4がRFICパッケージ3及びその周囲と重なっている。
図9〜図12に示したように、付与部材4はアンテナパターン2A,2Bの一部又は全部に重なっていてもよい。本実施形態によれば、付与部材4がアンテナパターン2A,2Bにより近接するので、また、付与部材4の面積及び体積を大きくしやすいので、アンテナパターン2A,2Bでの放電や発熱が生じる場合に、アンテナパターン2A,2B又はその近傍からの発火が効果的に防止できる。
また、図13に示したように、付与部材4がRFICパッケージ3及びその近傍を覆う構造であれば、RFICパッケージ3の近傍、又はアンテナパターン2Aとアンテナパターン2Bとの間に放電が生じやすい場合に、放電から発火への進展がRFICパッケージ3の周囲を囲む付与部材4によって効果的に防止される。
《第4の実施形態》
第4の実施形態では、基材1のほぼ全面に付与部材4が設けられたRFIDタグについて示す。
図14(A)はRFIDタグ104Aの平面図であり、図14(B)は図14(A)におけるA−A部分での断面図である。このRFIDタグ104Aは、絶縁性の基材1と、この基材1に形成されたアンテナパターン2A,2Bと、アンテナパターン2A,2Bに接続されたRFICパッケージ3とを備える。そして、基材1の上面の全体に付与部材4が設けられている。
図15(A)はRFIDタグ104Bの平面図であり、図15(B)は図15(A)におけるA−A部分での断面図である。このRFIDタグ104Bは、絶縁性の基材1と、この基材1に形成されたアンテナパターン2A,2Bと、アンテナパターン2A,2Bに接続されたRFICパッケージ3とを備える。そして、基材1の下面の全体に付与部材4が設けられている。
このように、付与部材4は基材1の全面に形成されていてもよい。そのことによって、付与部材4の面積及び体積を大きくしやすいので、無線通信デバイスの周囲の雰囲気を変化させやすい。また、マイクロ波電力は付与部材に含有されている比較的多量の水分やその水蒸気によって吸収されることにより、アンテナパターンを含む回路が受けるマイクロ波電力が効果的に抑制される。
《第5の実施形態》
第5の実施形態では基材の内部に付与部材が設けられたRFIDタグについて示す。
図16(A)は第5の実施形態のRFIDタグ105の製造途中での断面図である。図16(B)はRFIDタグ105の断面図である。
本実施形態のRFIDタグ105は、絶縁性の基材1Bと、この基材1Bに形成されたアンテナパターン2A,2Bと、アンテナパターン2A,2Bに接続されたRFICパッケージ3とを備える。また、RFIDタグ105は、基材1Bに重ねられる基材1Aを備える。この基材1Aの、基材1Bに対向する面には付与部材4が設けられている。この付与部材4は粘着性を有し、基材1Aは基材1Bに対して付与部材4を介して接合されている。つまり、基材1A,1Bの間に付与部材4が設けられて、基材1A,1Bによる積層体の内部に付与部材4が設けられている。
本実施形態のRFIDタグ105が備える付与部材4は、例えば粘着性ヒドロゲルや水分を含む接着剤である。
付与部材4の平面パターンには各種パターンを適用できる。例えば、これまでに各実施形態で示したRFIDタグが備える付与部材4のパターンのいずれをも適用できる。
なお、例えば、通信信号の周波数がUHF帯(860MHz以上960MHz以下の周波数帯)であり、電磁波加熱に用いられるマイクロ波の周波数が、工業・科学・医療(ISM)用途周波数帯の一つである902MHz以上928MHz以下の周波数帯である場合もある。
このように、電磁波加熱用のマイクロ波の周波数が通信信号の周波数に一致又は近接する場合でも、各実施形態で示した付与部材4は有効に作用する。つまり、付与部材4の水分は、通信には悪影響を殆ど与えず、電磁波加熱時には、水の気化熱による吸熱作用で付与部材近傍の温度上昇が抑制される。又は、水分やその水蒸気によるマイクロ波電力の吸収により、アンテナパターンを含む回路が受けるマイクロ波電力が抑制される。
《第6の実施形態》
第6の実施形態では、HF帯のRFIDタグの例を示す。ここでHF帯とは、13MHz以上15MHz以下の周波数帯域である。
図17は第6の実施形態に係るRFIDタグ106Aの平面図である。RFIDタグ106Aは、HF帯の通信信号の周波数(キャリア周波数)を有する高周波信号で無線通信するよう構成されており、広い周波数帯域で無線通信可能に構成されている。図18は、RFIDタグ106Aの回路図である。
図17に示すように、RFIDタグ106Aは、RFICチップ9およびチップキャパシタ182が設けられたループ部187の整合回路を有するアンテナパターン183を備えている。また、ループ部187の整合回路においては、RFICチップ9と対向する位置にチップキャパシタ182が接続されている。RFIDタグ106Aにおけるアンテナパターン183のアンテナ素子183aは、ループ部187から延設されて、渦巻き状に形成されている。図17に示すアンテナ素子183aにおいては、ループ部187から時計方向に内巻きに導出している。アンテナ素子183aの導出端部となる先端部分は、ブリッジパターン186を介してループ部187の整合回路に直接接続されている。なお、ブリッジパターン186とアンテナパターン183との間には耐熱性の電気的絶縁材料で形成された絶縁パターン188が配設されており、ブリッジパターン186とアンテナパターン183との間の絶縁状態が確保されている。
基材1には、アンテナ素子183aの内側に沿って複数の付与部材4が配置されている。また、アンテナパターン183の隣接する線間に複数の付与部材4が配置されている。
上記のように、RFIDタグ106Aにおいては、アンテナパターン183の経路に沿って複数の付与部材4が配置されている。付与部材4の構成は第1の実施形態で示したものと同じである。
本実施形態のRFIDタグ106Aが付された商品が、例えば電子レンジの庫内でマイクロ波の照射を受けると、RFIDタグ106Aの基材1は誘電加熱されるが、付与部材に含有されている水分は上述のとおり加熱効率が高いため、上記水分は急速に加熱され、その気化によって、RFIDタグ106Aの周囲の雰囲気が変化する。例えば水の気化熱による吸熱作用で付与部材4近傍の温度上昇が抑制される。また、マイクロ波電力は付与部材4に含有されている水分やその水蒸気によって吸収されることにより、アンテナパターン183を含む回路が受けるマイクロ波電力が抑制される。この結果、RFIDタグ106Aが付された商品における発火の危険性を防止できる。
図19は第6の実施形態に係る別のRFIDタグ106Bの平面図である。RFIDタグ106BもHF帯の通信信号の周波数(キャリア周波数)を有する高周波信号で無線通信するよう構成されている。図20は、RFIDタグ106Bの回路図である。
図19に示すように、RFIDタグ106Bは、2つのコイルパターン(193、203)を備えた共振ブースタ回路を備えている。RFIDタグ106Bにおける一方のコイルパターン(一次側コイルパターン)203は、RFICチップ9およびチップキャパシタ202が設けられたループ部200による整合回路を有する。ループ部200による整合回路においては、RFICチップ9がチップキャパシタ202と対向する位置に接続されている。コイルパターン(一次側コイルパターン)203は、ループ部200から渦巻き状に導出されており、その導出端部である先端部分は、ブリッジパターン204を介してループ部200の整合回路に直接接続されている。コイルパターン(一次側コイルパターン)203は、ループ部200から時計回りの方向に内巻きに導出している。
なお、基材1の裏面側にブリッジパターン204を形成して、基材1を貫通する層間接続導体を介して、コイルパターン(一次側コイルパターン)203の導出端部である先端部分とループ部200とを接続してもよい。若しくは、ブリッジパターン204を基材1の表面側に形成する場合には、ブリッジパターン204と一次側コイルパターン203との間に耐熱性の電気的絶縁材料で形成された絶縁パターンを配設して、ブリッジパターン204と一次側コイルパターン203との間の絶縁状態を確保する構成としてもよい。
また、RFIDタグ106Bにおける他方のコイルパターン(二次側コイルパターン)であるアンテナパターン193は、コイルパターン(一次側コイルパターン)203を取り囲むように形成されており、時計回りの方向に内巻きに形成されたアンテナ素子193aが構成されている。このアンテナパターン193における渦巻き状のアンテナ素子193aにおいては、隣接する経路間に付与部材4が、アンテナ素子193aの経路に沿って所定間隔で設けられている。
RFIDタグ106Bにおけるアンテナパターン193および付与部材4は、基材1の表面に形成されている。また、アンテナパターン193のアンテナ素子193aにはコンデンサ素子192が設けられている。渦巻き状のアンテナ素子193aにおける外側端部と内側端部とは、基材1を貫通する層間接続導体196を介して、基材1の裏面に形成された導電経路パターン197により電気的に直接接続されている。
アンテナ素子193aの内側には、ループ状のシールドパターン199が形成されている。シールドパターン199は、アンテナパターン193と同様に、アルミニウム箔、銅箔などの導電材料により形成されている。シールドパターン199は、完全に閉じたループ状であるが、一部が途切れているシールドパターンであってもよい。
上記アンテナパターン193と一次側コイルパターン203は、図20において“M”で示すように結合する。
このように、共振ブースタ回路が構成されたRFIDタグにおいても、付与部材4を設けることによって、RFIDタグ106Bが付された商品における発火の危険性を防止できる。
本実施形態で示したようなHF帯を利用するRFIDタグにおいても、第1の実施形態から第5の実施形態で示したように、付与部材4はアンテナパターンを部分的にまたは全体を覆うパターンであってもよい。また、付与部材4はRFICチップ9の周囲またはRFICチップ9を覆うパターンであってもよい。さらに、基材1の、アンテナパターン形成面とは反対側の面に付与部材4が設けられていてもよい。
以上のように、各実施形態において具体的な構成を用いて説明したように、これらの実施形態によれば、RFIDタグが付された商品が電磁波加熱装置で加熱される場合において、RFIDタグの発火、さらにはRFIDタグが付された商品における発火を防止できる。したがって、本発明は、食品、日用雑貨品などの多種多様な商品を取り扱うコンビニエンスストアなどの販売店において、購入した商品の会計、および袋詰めを自動化するシステムを構築することが可能となり、「無人コンビニエンスストア」の実用化に向けて、大きく前進させることができる無線通信デバイスを提供するものである。
最後に、上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。当業者にとって変形及び変更が適宜可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変更が含まれる。