上記特許文献1の構成では、ライダーの足先によって上げ操作及び下げ操作される操作部が、その前端部が回転可能に支持されるアーム部の後端に配置されている。特許文献1の構成ではアーム部が後上がり状となっているが、変速機のレイアウト等によっては、アーム部が後下がり状となる場合も考えられる。この場合、アーム部の後端の操作部をライダーが足先で上げようとする場合に、ライダーの足先が下がっていると、足先がペダルに加える操作力の方向が、アーム部の回転に伴う操作部の移動方向と異なる場合が生じていた。
このため、ライダーの足による操作力を操作部に効率良く伝達できず、操作部の移動が円滑でなくなって、ライダーが違和感や引っ掛かり感を覚えることがあった。
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、自動二輪車用操作装置において、操作時のスムーズな操作感を実現することにある。
課題を解決するための手段及び効果
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の自動二輪車用操作装置が提供される。即ち、この自動二輪車用操作装置は、ライダーの足を乗せるためのステップを備える自動二輪車に設けられる。この自動二輪車用操作装置は、リンク部材と、操作子と、を備える。前記リンク部材は、車体に回転可能に支持される。前記操作子は、前記ステップより前側で前記リンク部材に取り付けられる。前記リンク部材は、前記操作子が取り付けられるアーム部を備える。前記リンク部材の回転軸は、前記操作子の後方に配置され、かつ、前記ステップの上端より高い位置に配置されている。前記操作子は、前記回転軸まわりに周方向一方および周方向他方の両方に回転可能に構成される。前記アーム部は、前記回転軸から前下がり状に斜めに延びて形成される。車体の側面視において、前記アーム部の長手方向中途部に、下方に凸となるように曲がった部分が形成される。前記操作子に操作力が加えられていない状態で、前記操作子は、前記ステップよりも低い位置に配置される。
これにより、ライダーの足先を操作子に下側から接触させたときに、操作子が上がる方向が、ライダーの足先が操作子に加える操作力の方向に近くなる。この結果、足先で操作子を上げるときに操作力を伝え易くなるので、違和感や引っ掛かり感が低減し、操作フィーリングが良好になる。回転軸は、ステップに足を乗せた状態のライダーのくるぶし近傍に配置されることとなり、関節を中心とした足先の動きに操作子の移動軌跡が沿うこととなるため、スムーズな操作の観点から好ましい。また、アーム部の長手方向中途部には、上記のように下方に凸となるように曲がった形状となっているため、ライダーの足先に対するアーム部の引っ掛かりを上記のように軽減しながら、アーム部が、その根元部の下方近傍に配置されているステップと干渉することを防止することができる。
前記の自動二輪車用操作装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記操作子に操作力が加えられていない状態で、前記操作子は前記ステップの上端より低い位置に配置される。前記操作子に操作力が加えられていない状態で、車体の側面視において、前記操作子の中心と前記回転軸との間の距離が、前記操作子の中心と前記ステップの上端との距離以上である。操作子の中心とステップの上端とを結ぶ直線と、ステップの上端とリンク部材の回転軸とを結ぶ直線とがほぼ垂直に配置される。
これにより、ライダーが足先で操作子を上げ操作する過程において、ステップを中心として足先が上方に移動する場合の足先の軌跡よりも、回転軸を中心として操作子が上方に移動する場合の操作子の軌跡が前上方へ離れる。従って、操作子が上方に移動するに従って、操作子は、ライダーの足先から前方へ離れる方向に動く。この結果、(足先から踵側に近づくに従って厚みが増加する形状である)足の上面に操作子が引っ掛かりにくくなり、操作感が良好になる。また、操作子の中心とステップの上端とを結ぶ直線と、ステップの上端とリンク部材の回転軸とを結ぶ直線とがほぼ垂直に配置されることで、ライダーの足先を操作子に下側から接触させたときに操作子の上がる方向がより適切となり、操作子を円滑に上げ操作することができる。
前記の自動二輪車用操作装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記回転軸は、前記ステップの後端よりも前方に配置され、かつ、ヒールガードの下端よりも下方位置に配置される。
即ち、リンク部材の回転軸がライダーの足のくるぶし近傍(例えば、ステップの上端より上方でヒールガードの下端より下方)に配置されていると、特に足先で操作子を上げ操作する場合に、操作子と足先との相対的な位置関係の変動が少なくなる。従って、引っ掛かり感や違和感の少ない操作フィーリングを実現できる。
前記の自動二輪車用操作装置においては、前記操作子に操作力が加えられていない状態で、車体の側面視において、前記アーム部の先端の上縁が、前記操作子の上端と前記ステップの上端とを結ぶ直線より下方に位置していることが好ましい。
これにより、ライダーがステップと操作子の両方に足を乗せたときに、アーム部の先端と足の底面との干渉が防がれる。この結果、足先へのアーム部の引っ掛かりを軽減できる。
前記の自動二輪車用操作装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、車体の側面視において、前記アーム部は、前記回転軸に近い側から前下方に延びる第1部分と、前記第1部分の先端から第1部分に比べて相対的に小さな傾斜で前下方に延びる第2部分とを有する。前記アーム部の長手方向中途部に、下方に凸となるように曲がった部分が形成されている。
このようにアーム部が形成されているので、車体の側面視において、操作子の上端とリンク部材の回転軸とを結ぶ直線である仮想線を考えたときに、アーム部の上縁が、当該仮想線の下方に位置する部分を有している。これにより、ライダーが足先で操作子を踏んで下げるときに、足先がアーム部の上縁に引っ掛かりにくくなる。この結果、変速操作がスムーズになる。
前記の自動二輪車用操作装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記リンク部材は、車体が備える操作入力装置の入力部とロッドを介して連結される。操作子の中心と回転軸を結ぶ直線と、ロッドの長手方向とがほぼ平行に配置される。
これにより、リンク部材の動作を効率良く変速装置に伝達することができる。
前記の自動二輪車用操作装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記リンク部材は、支持部と、連結レバー部と、を備える。前記支持部は、回転可能に支持される。前記連結レバー部は、車体が備える操作入力装置の入力部とロッドを介して連結される。前記連結レバー部の上端部が、前記支持部に比べて車体左右方向外側に配置される。
これにより、連結レバー部とステップステーとの間に車体左右方向で空間を形成し易くなるので、ロッドを連結レバー部とステップステーとの間に配置し易い。
本発明の第2の観点によれば、前記の自動二輪車用操作装置を備える自動二輪車が提供される。
これにより、操作のフィーリングが良好な自動二輪車を提供することができる。
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。最初に、本実施形態の変速操作装置(操作装置)40が搭載される自動二輪車1について、図1を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る変速操作装置40を備える自動二輪車1の全体的な構成を示す側面図である。なお、以下の説明で「左」及び「右」というときは、車両前方に向かって左及び右を意味するものとする。
図1に示す本実施形態の自動二輪車1は、いわゆるネイキッドスポーツタイプの自動二輪車として構成されており、車体フレーム11と、エンジン12と、前輪13と、後輪14と、を備える。
車体フレーム11は、エンジン12等を支持する骨格となる強度部品であって、例えば金属パイプにより構成されている。
車体フレーム11の前部には、後述のフロントフォークユニット15が有する図示しないステアリングステムを支持するための筒状のヘッドパイプ21が設けられている。また、車体前後方向のほぼ中央における下部に相当する位置において、車体フレーム11には、後述のスイングアーム16を支持するためのピボット部22が設けられている。
エンジン12は、駆動輪としての後輪14を駆動するパワーユニットとして機能する。このエンジン12は、例えば並列2気筒型の水冷エンジンとして構成されている。
前輪13は、車体フレーム11が備える前記ヘッドパイプ21に、例えば公知のテレスコピック型に構成されたフロントフォークユニット15を介して支持されている。前輪13は、車体が備えるステアリングハンドル23によって操舵可能に構成されている。
後輪14は、車体フレーム11が備える前記ピボット部22に、スイングアーム16を介して支持されている。具体的には、前記ピボット部22に取り付けられるピボット軸24を介してスイングアーム16の前端部が回転可能に支持され、このスイングアーム16の後端(先端)に後輪14が回転可能に支持されている。なお、ピボット軸24は車体左右水平方向に向けて配置され、その長手方向における端部は、後述の変速操作装置40の近傍において車体左右方向外側に突出するように配置されている。
自動二輪車1の車体は、ライダーの座席であるシート17を備える。また、車体には、シート17に跨ったライダーの足を載せるためのステップ18が、車体左右方向外側に突出するように取り付けられている。ステップ18は、シート17の前端より後方に配置されている。更に、ステップ18の後上方には、当該ステップ18上に置かれたライダーの足首がスイングアーム16等の車体内側部分と干渉しないように保護する板状のヒールガード19が配置されている。
エンジン12はクランクケース25を備え、クランクケース25にはクランクシャフト26が収容されている。クランクケース25には、更に、クラッチ27と、変速装置(操作入力装置)28と、が収容されている。クランクケース25の内部において、クランクシャフト26の回転はクラッチ27を介して変速装置28に入力される。変速装置28により変速された回転は、出力スプロケット29に出力される。出力スプロケット29と、後輪14に固定された被駆動スプロケット30と、の間に、ドライブチェーン31が巻き掛けられている。これにより、変速装置28で変速された回転を後輪14に伝達して駆動することができる。
変速装置28の構成は公知であるので詳細には説明しないが、外周に溝が形成されたシフトドラム32の回転によって、図示しないシフトフォークを軸方向にスライドさせる常時噛合い式のトランスミッションとして構成されている。本実施形態において変速装置28は1速から6速までの6段階の変速が可能に構成されているが、速度段は6段に限定されない。
変速装置28は、車体左側に支持された回転部(入力部)33を備える。この回転部33は、細長いレバー状に構成されており、車体左右水平方向の軸を中心として所定の角度のストロークで回転可能に構成されている。回転部33は、図示しない公知の連係機構によってシフトドラム32と連結されている。従って、回転部33を回転させることでシフトドラム32を回転させ、これにより変速の切換を行うことができる。
自動二輪車1の車体の下部には、変速装置28を変速操作するための変速操作装置40が配置されている。この変速操作装置40は、回転部33を回転させることで、変速装置28の変速を切り換えることができるように構成されている。
以下、変速操作装置40について、図2から図7までを参照して説明する。図2は変速操作装置40を前側から見た斜視図であり、図3は変速操作装置40の側面図、図4は正面図、図5は平面図である。図6は、ライダーの足先で変速操作装置40の操作子42を下げ操作する様子を示す側面図である。図7は、ライダーの足先で変速操作装置40の操作子42を上げ操作する様子を示す側面図である。なお、図2から図7までには自動二輪車1の全体は示されていないが、これらの図には、自動二輪車1の車体に取り付けられた状態での変速操作装置40が示されている。
変速操作装置40は、自動二輪車1の車体の左側面下部に取り付けられている。例えば図2に示すように、この変速操作装置40は、リンク部材41と、操作子42と、ロッド43と、を備える。
リンク部材41は、変速装置28の回転部33より後方に配置され、車体左右水平方向に延びる軸を中心として車体に回転可能に支持されている。本実施形態においては、ステップ18を片持ち状に支持するためのステップステー(ステップ取付部材)20が前記車体フレーム11に固定され、このステップステー20にリンク部材41が支持されている。ただし、車体を構成する他の部材にリンク部材41が取り付けられても良い。
このリンク部材41は、支持部51と、アーム部52と、連結レバー部53と、を備える。
支持部51は円筒状に形成されており、車体左右水平方向に延びる軸(回転軸)41cを中心として回転可能に支持されている。具体的には、支持部51は、ステップステー20に取り付けられた図示しない支軸を介して支持されている。これにより、リンク部材41は、上記回転軸41cを中心にして回転することができる。
アーム部52は、支持部51から前下がり状に斜めに延びるように前後方向に細長く形成されている。アーム部52の前端部(先端部)には、車体左側へ突出する操作子42の一端が固定されている。
連結レバー部53は、支持部51から前上がり状に斜めに延びるように形成されている。連結レバー部53の上端部(先端部)には、直線状に形成されたロッド43の一端部が連結される連結部71が設けられる。
アーム部52及び連結レバー部53は、支持部51にそれぞれ固定される。従って、アーム部52が回転軸41cまわりに角変位されることで、支持部51を介して、連結レバー部53が回転軸41cまわりに角変位する。アーム部52は、操作子42と回転軸41cとを連結し、回転軸41cのほぼ径方向に延びる。連結レバー部53は、連結部71と回転軸41cとを連結し、回転軸41cの径方向に延びる。
アーム部52及び連結レバー部53のそれぞれの先端部(即ち、回転軸41cから最遠方となる部分)は、それぞれ回転軸41cに対して異なる方向に位置する。言い換えると、操作子42と回転軸41cとを結ぶ直線は、回転軸41cと連結部71とを結ぶ直線に対して角度を有する。
本実施形態では、アーム部52及び連結レバー部53は、1枚の板状部材に一体的に形成されており、これによって部品点数を削減することができる。この板状部材が、その厚み方向を回転軸41cと平行に向けた状態で、支持部51に固定されている。なお、アーム部52には、板状部材を厚み方向に貫通するように複数の肉抜き部が形成されており、これにより意匠性の向上と軽量化が図られている。
操作子42は、車体左右方向に細長い円柱状に構成され、アーム部52から車体の左右方向外側に突出する。ライダーは操作子42を、ステップ18に足(具体的には、靴底の踵付近)を載せた状態で、足先(靴先)で上から踏んで押し下げたり、足先によって下から押し上げたりすることができる。従って、操作子42は、操作力が加えられていない自然状態から、押下げ操作によって回動軸まわりに下方に移動し(図6を参照)、押上げ操作によって回動軸まわりに上方に移動する(図7を参照)。操作子42はアーム部52の先端に取り付けられているので、操作子42の押上げ/押下げによってリンク部材41が回転する。
本実施形態の変速装置28及び変速操作装置40は公知のリターン式に構成されており、操作子42を押し上げる操作によって変速段を増速側に切り換えることができるとともに、操作子42を押し下げる操作によって変速段を減速側に切り換えることができる。なお、図4及び図5に示すように、操作子42の突出端の位置はステップ18の突出端よりも車体左右方向内側に位置している。これにより、操作子42の上方にあるライダーの足先を下方に移動させる動作、及びその逆の動作をスムーズに行うことができる。
ロッド43は、細長い丸棒状に構成されている。ロッド43の一端は、連結レバー部53の連結部71に対して回転可能に連結され、他端は、変速装置28が備える回転部33の先端部に対して回転可能に連結されている。
この構成で、操作子42が押し下げられると、リンク部材41が回転軸41cを中心に反時計方向に回転するので、連結レバー部53の先端部がロッド43を介して回転部33を周方向一方、具体的には前下方へ押す。一方、操作子42が押し上げられると、リンク部材41が回転軸41cを中心に時計方向に回転するので、連結レバー部53の先端部がロッド43を介して回転部33を周方向他方、具体的には後上方へ引っ張る。変速操作装置40は、このようにして、操作子42に加えられた操作力を回転部33に伝達し、変速装置28の速度段を切り換えることができる。
なお、操作子42から回転軸41cまでの長さは、回転軸41cから連結部71までの長さより長い。これにより、ライダーが操作子42を操作するために必要な力を低減することができる。
変速装置28の回転部33は、上述したように所定の角度のストロークで回転可能であるので、この回転部33にロッド43を介して連結されるリンク部材41の回転角度も所定の角度範囲内となる。従って、図3に示すように操作子42が上下動する範囲も一定の上下ストローク内に制限され、自然状態から下方に移動した下限位置42qと、自然状態から上方に移動した上限位置42rと、が予め設定される。
回転部33にライダーからの操作力が作用していない状態では、変速装置28に設けられている図示しない戻しバネにより、回転部33は前記角度ストローク内に予め設定される復帰位置33pで静止している。このとき、回転部33と連係している操作子42は、図3に示すように、前記した上下ストローク範囲内に予め定める自然位置42pに位置する。このように、操作力が加えられていない状態では、操作子42は、回転軸41cまわりに周方向一方及び周方向他方の両方に回転可能に構成される。
なお、ロッド43の両端部にはネジを利用した公知の伸縮機構がそれぞれ設けられており、ロッド43の長さを変更可能となっている。ロッド43の長さを調整することにより、操作力が加えられていない状態での操作子42の位置を調整することができる。
また、ロッド43の両端部は中間部よりも若干太く構成されるとともに、その端部は滑らかな曲面を有するように構成されている。これにより、ロッド43の端部にライダーの靴が接触した場合の傷付きを防止することができる。
次に、リンク部材41の形状等について詳細に説明する。
図3に示すように、リンク部材41の回転軸41cは、操作子42の後方に配置される。回転軸41cは、ヒールガード19の下端より低い位置に配置される。この回転軸41cは、ステップ18の上端18tより高い位置に配置される。
この構成とすることで、操作子42を上げ操作するために、踵近傍をステップ18に乗せている足の先(靴先)を操作子42に下側から接触させたときに、図7に示すように、操作子42が上がる方向(太線矢印)が、ライダーの足先が操作子42に加える操作力の方向(白抜き矢印)と近くなる。言い換えると、ステップ18の上端18tを中心として回転する足の先の軌跡T1と、回転軸41cを中心として回転する操作子42の軌跡T2とが近くなる。従って、上述した従来の構成と比較して、足先で操作子42を上げ操作する場合の引っ掛かり感が軽減され、操作フィーリングが良好になる。
特に、本実施形態では、操作子42に操作力が加えられていない状態で、当該操作子42がステップ18の上端18tより低くなるように配置される。また、操作子42に上向きの操作力が加えられて上限位置42rに移動した状態においても、当該操作子42は、ステップ18の上端18tより低くなっている(なお、高さの比較を容易とするために、図7には、ステップ18の上端18tを通る仮想水平線が描かれている)。従って、ライダーは足先が踵より低くなっている状態で操作子42の上げ操作をすることになるので、リンク部材41の回転軸41cをステップ18の上端18tより高い位置に配置することが、スムーズな操作感を得るために好ましい。
操作子42は、操作力が加えられることにより、リンク部材41の回転軸41cを中心とした円弧状の軌跡T2を描いて移動する。従って、回転軸41cは、ステップ18に足を乗せた状態のライダーのくるぶし近傍に配置されていると、関節を中心とした足先の動きに操作子42の移動軌跡が沿うこととなるため、スムーズな操作の観点から好ましい。即ち、リンク部材41の回転軸41cがライダーの足のくるぶし近傍(例えば、ステップ18の上端18tより上方でヒールガード19の下端より下方)に配置されていると、特に足先で操作子42を上げ操作する場合に、操作子42と足先との相対的な位置関係の変動が少なくなる。従って、引っ掛かり感や違和感の少ない操作フィーリングを実現できる。
くるぶしの位置は個々のライダーによって異なり、また靴底の厚み等によっても変化するが、くるぶしの平均的な位置に回転軸41cが配置されることが好ましい。具体的にいえば、側面視における回転軸41cとステップ18の上端18tとの間の最短距離D1は20ミリメートル以上150ミリメートル以下とすることが好ましいが、20ミリメートル以上100ミリメートル以下であると更に好ましく、20ミリメートル以上40ミリメートル以下であると一層好ましい。
また、操作子42は、操作力が加えられていない状態で、リンク部材41の回転軸41cよりも低く、また、ステップ18の上端18tよりも低い位置に配置される。更に言えば、図3に示す車体の側面視において、操作子42の中心42cとステップ18の上端18tとを結ぶ第1仮想線(後述の第2距離L2に相当する直線)と、ステップ18の上端18tとリンク部材41の回転軸41cとを結ぶ第2仮想線(距離D1に相当する直線)と、を考えたときに、第1仮想線と第2仮想線とがほぼ垂直に配置されている。操作子42及びステップ18との関係で回転軸41cを上記のように配置することにより、ライダーの足先を操作子42に下側から接触させたとき(図7)に操作子42の上がる方向がより適切となるので、操作子42を円滑に上げ操作することができる。
ここで、ライダーの靴の上面は通常、ライダーの足の形に対応させて、前端(足先)から後端(踵)に近づくに従って、下面である靴底面から徐々に離れるように形成されている。言い換えると、靴底を水平面に沿って配置した場合に、靴の上面は後上がり状に形成されている。従って、操作子42を足先で上げ操作する過程で、仮に操作子42と靴との接触位置が相対的に後方に移動すると、操作時に抵抗を感じ易くなり、フィーリングの低下に繋がってしまう。
この点、本実施形態では、操作子42がステップ18の上端18tより低い位置に配置されている。また、操作子42の中心42cと回転軸41cとの第1距離L1が、操作子42の中心42cとステップ18の上端18tとの第2距離L2以上となっている(L1≧L2)。このように回転軸41cを配置することにより、操作子42を上げ操作した場合に、操作子42が上方に移動する軌跡T2が、操作当初に足先が自然位置42pの操作子42に接触した部分の軌跡T1から、その上方への移動に従って前方に離れる方向に動くことになる。従って、上げ操作時には靴の上面に沿って前方に操作子42が移動するので、靴の上面に操作子42が引っ掛かりにくくなり、操作感が良好になる。
また、本実施形態の自動二輪車1においては、スポーツタイプの自動二輪車における一般的な乗車姿勢(具体的にいえば、ステップ18よりも前方にライダーの膝が位置するような姿勢)となるように、シート17及びステップ18が配置されている。ライダーが上記のような乗車姿勢をとった場合、ライダーのくるぶしはステップ18よりやや前上方に位置し、足先は前下がりとなることが多い。
この点、本実施形態においては、操作子42がステップ18よりも前方で、かつ、ステップ18より低い位置に配置されている。また、リンク部材41の回転軸41cが、ステップ18の後端18rよりも前方に位置している。従って、上記の乗車姿勢をとるライダーのくるぶしの近くに回転軸41cが配置されることになるので、変速操作のフィーリングが重視されるスポーツタイプの自動二輪車において特に好適である。
図3に示すように、ロッド43は前下がり状に配置されている。また、ロッド43は、後下方に細長く延びる回転部33とほぼ垂直となるように連結されるとともに、前上方に延びる連結レバー部53ともほぼ垂直となるように連結される。また、操作子42に操作力が加えられていない状態で、側面視において操作子42の中心42cとリンク部材41の回転軸41cとを直線で結ぶ第3仮想線(前記第1距離L1に相当する直線)と、ロッド43の長手方向と、がほぼ平行に配置されている。これにより、リンク部材41の動作を効率良く回転部33に伝達することができる。
図3に示すように、アーム部52は、根元側(回転軸41cに近い側)からやや大きな傾斜で前下方に延びる第1部分61と、第1部分61の先端から相対的に小さな傾斜で前下方に延びる第2部分62と、を有している。側面視で、第1部分61及び第2部分62の何れも、先端側(操作子42が取り付けられている側)に近づくに従って細くなる先細状に構成されている。第1部分61と第2部分62とは、適宜の角度をなして屈曲しながら接続されている。この結果、アーム部52の長手方向中途部には、下方に凸になるように折れ曲がった部分が形成されている。
上記のようにアーム部52が形成されているので、車体の側面視(図3)において、操作子42の上端42tとリンク部材41の回転軸41cとを結ぶ直線である仮想線Q1を考えたときに、アーム部52の上縁が、当該仮想線Q1の下方に位置する部分を有している。これにより、図6に示すようにライダーが足先で操作子42を踏んで下げるときに、足先がアーム部52の上縁に引っ掛かりにくくなる。この結果、変速操作がスムーズになる。
更に言えば、操作子42の上端42tとステップ18の上端18tとを結ぶ直線である仮想線Q2を考えたときに、アーム部52の先端部分の上縁が、当該仮想線Q2より下方、即ち、仮想線Q2に対して連結レバー部53と反対側に位置している。これにより、ライダーがステップ18と操作子42の両方に足を載せたときにアーム部52の先端部分と足の底面とが干渉することが防がれるので、足先へのアーム部52の引っ掛かりを更に軽減できる。
また、アーム部52の長手方向中途部は、上記のように下方に凸となるように曲がった形状となっている。これにより、ライダーの足先に対するアーム部52の引っ掛かりを上記のように軽減しながら、アーム部52が、その根元部の下方近傍に配置されているステップ18と干渉することを防止することができる。そして、回転軸41cをステップ18の前方に配置することで、アーム部52を仮想線Q2に対して下方に屈曲させたとしても、押下げ操作において、アーム部52の後縁がステップ18と干渉することを防ぐことができる。
アーム部52の根元部において、当該アーム部52の幅は、回転軸41cから連結レバー部53の先端までの距離L3の半分以上となっている。これにより、リンク部材41のコンパクト化とアーム部52の強度の向上を両立させることができる。
図5に示すように、平面視においてアーム部52は、支持部51(回転軸41c)から操作子42に近づくに従って車体左右方向外側となるように傾斜した部分を有している。このように、アーム部52において回転軸41cに近い部分が車体左右方向内側に位置するレイアウトとなるので、ライダーの足とアーム部52との引っ掛かりを防止することができる。更にいえば、その傾斜した部分の中でも、回転軸41cに近い部分の傾斜A1より、操作子42に近い部分の傾斜A2が大きくなるように構成されているので、ライダーの足とアーム部52との干渉がより生じにくくなっている。
図2に示すように、リンク部材41が備える連結レバー部53の連結部71は、回転軸41cより高い位置に配置されている。この連結部71の近傍には、スイングアーム16を支持するピボット軸24が車体左右方向外側に突出している。また、車体の正面視(図4)において、連結レバー部53は、回転軸41cから先端部(連結部71)に近づくに従って車体左右方向外側となるように傾斜した部分を有している。そして、連結レバー部53の先端部(連結部71)の車体左右方向内側に、ロッド43の一端が連結されている。
このように、リンク部材41において回転軸41cより高い位置にロッド43が連結されるので、ロッド43とリンク部材41とが干渉しにくくなり、部材の配置等の自由度を向上させることができる。また、ライダーの足とロッド43の間に連結レバー部53が配置されるので、ライダーの足とロッド43とが干渉しにくくなる。
操作子42に操作力が加えられていない状態で、連結レバー部53は、回転軸41cから連結部71に向かうにつれて前方に傾斜している。これにより、連結部71及びロッド43をなるべく前方に配置することができ、押上げ操作において、リンク部材41の後方に配置されるヒールガード19と干渉しにくくすることができる。
また、上述したように、連結レバー部53は、回転軸41cから先端部(連結部71)に近づくに従って車体左右方向外側となるように傾斜しているので、支持部51に比べて、連結レバー部53の上端部(連結部71)が車体の左右方向外側に位置する。これにより、図4に示すように、連結レバー部53とステップステー20との間に車体左右方向で空間を形成し易くなるので、ロッド43を連結レバー部53とステップステー20との間に配置し易い。
図3に示すように、リンク部材41の回転軸41cは、前記ピボット軸24より低い位置に配置されている。そして、車体の側面視において、リンク部材41がロッド43に連結される連結部と回転軸41cとの距離L3が、回転軸41cとピボット軸24との距離L4より小さくなっている(L3<L4)。そして、図4及び図5に示すように、ピボット軸24が車体左右方向外側に突出している部分の端部よりも、ロッド43が車体左右方向内側に配置されている。これにより、ロッド43とピボット軸24とを干渉させないようにしつつ、ロッド43を車体左右方向の内側に近づけて配置することができる。この結果、ライダーの足とロッド43とが干渉しにくくなる。
アーム部52の少なくとも先端部において、車体左右方向外側を向く面と、上側を向く面と、の接続部分(図4においてC1で示す部分)は、面取り状に形成されているか、滑らかな曲面で接続されている。また、連結レバー部53の少なくとも先端部(連結部71)においても同様に、車体左右方向外側を向く面と、上側を向く面と、の接続部分(図4においてC2で示す部分)は、面取り状に形成されているか、滑らかな曲面で接続されている。このような形状を実現する方法としては、例えばコイニング加工を行うことが考えられるが、これに限定されない。これにより、ライダーの靴の傷付きを防止できる。
以上に説明したように、本実施形態の変速操作装置40は、ライダーの足を乗せるためのステップ18を備える自動二輪車1に設けられる。この変速操作装置40は、リンク部材41と、操作子42と、を備える。リンク部材41は、車体に回転可能に支持される。操作子42は、ステップ18より前側でリンク部材41に取り付けられる。リンク部材41は、操作子42が取り付けられるアーム部52を備える。リンク部材41の回転軸41cは、操作子42の後方に配置され、かつ、ステップ18の上端18tより高い位置に配置されている。
これにより、ライダーの足先を操作子42に下側から接触させたときに、操作子42が上がる方向が、ライダーの足先が操作子42に加える操作力の方向に近くなる。この結果、足先で操作子42を上げるときに操作力を伝え易くなるので、違和感や引っ掛かり感が低減し、操作フィーリングが良好になる。
また、本実施形態の変速操作装置40においては、操作子42に操作力が加えられていない状態で、操作子42はステップ18の上端18tより低い位置に配置される。また、操作子42に操作力が加えられていない状態で、車体の側面視(図3)において、操作子42の中心42cと回転軸41cとの間の距離L1が、操作子42の中心42cとステップ18の上端18tとの距離L2以上である(L1≧L2)。
これにより、ライダーが足先で操作子42を上げ操作する過程において、ステップ18を中心として足先が上方に移動する場合の足先の軌跡T2よりも、回転軸41cを中心として操作子42が上方に移動する場合の操作子42の軌跡T1が前上方へ離れる。従って、操作子42が上方に移動するに従って、操作子は、ライダーの足先から前方へ離れる方向に動く。この結果、(足先から踵側に近づくに従って厚みが増加する形状である)足の上面に操作子42が引っ掛かりにくくなり、操作感が良好になる。
また、本実施形態の変速操作装置40においては、操作子42に操作力が加えられていない状態で、操作子42は、ステップ18より低い位置に配置される。ステップ18の後端18rよりも前方に回転軸41cが配置される。
即ち、本実施形態のようなスポーツタイプの自動二輪車1においては、ステップ18よりも前方に膝が位置するような姿勢でライダーが乗車するため、膝より先の脚部分が下方に進むにつれて後方に傾斜する。この場合、足先の回動中心となる足首がステップ18より前方に配置され、足先がステップ18より低くなり易い。この点、本実施形態の構成では、上記のようにステップ18の前に回転軸41cを、ステップ18の下に操作子42をそれぞれ配置することで、無理なく操作子42に足を接触させることができる。これによって、円滑な操作感を提供することができる。
また、本実施形態の変速操作装置40においては、操作子42に操作力が加えられていない状態で、車体の側面視において、操作子42の上端42tとステップ18の上端18tとを結ぶ仮想直線(図3に示す仮想線Q2)を考えたときに、アーム部52の先端の上縁が、当該仮想直線(仮想線Q2)より下方に位置している。
これにより、ライダーがステップ18と操作子42の両方に足を乗せたときに、アーム部52の先端と足の底面との干渉が防がれる。この結果、足先へのアーム部52の引っ掛かりを軽減できる。
また、本実施形態の変速操作装置40では、車体の側面視において、アーム部52の長手方向中途部に、下方に凸となるように曲がった部分が形成されている。
これにより、足先へのアーム部52の引っ掛かりを軽減しつつ、(特に操作子42の下げ操作時に)アーム部52がステップ18と干渉することを防止できる。
また、本実施形態の変速操作装置40において、操作子42は、車体左右方向外側に突出するように、アーム部52に取り付けられている。車体の平面視(図5)において、アーム部52は、回転軸41cから操作子42に近づくに従って車体左右方向外側となるように傾斜した部分を有する。
これにより、アーム部52において回転軸41cに近い側が車体左右方向内側に位置するレイアウトとなるので、ライダーの足とアーム部52との引っ掛かりを更に低減できる。
また、本実施形態の変速操作装置40において、リンク部材41は、車体が備える変速装置28の回転部33とロッド43を介して連結されている。リンク部材41の回転軸41cは、後輪14を支持するために車体が備えるスイングアーム16のピボット軸24より低い位置に配置される。車体の側面視(図3)において、リンク部材41がロッド43に連結される連結部と回転軸41cとの距離L3が、回転軸41cとピボット軸24との距離L4より小さくなっている(L3<L4)。ロッド43は、ピボット軸24の端部よりも車体左右方向内側に配置されている。
これにより、ロッド43とピボット軸24との干渉を防止しつつ、ロッド43を車体左右方向内側に配置することができる。また、足にロッド43が引っ掛かりにくくなる。
次に、上記実施形態の変形例を説明する。図8は、変形例に係る変速操作装置40xを示す側面図である。なお、本変形例の説明においては、前述の実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
図8に示す変形例の変速操作装置40xにおいて、リンク部材41xが備えるアーム部52xは、上記の実施形態とは異なり、回転軸41cと操作子42との間でほぼ直線状となっている。この結果、リンク部材41xはほぼL字状に形成され、その屈曲部分に回転軸41cが配置されている。本変形例においても、リンク部材41xの回転軸41cを、操作子42の後方に配置し、かつ、ステップ18の上端18tより高い位置に配置することができる。
以上に本発明の好適な実施の形態及び変形例を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
本発明の変速操作装置は、上記のようなスポーツネイキッドタイプの自動二輪車に限定されず、他の様々なタイプの自動二輪車に適用することができる。
上記の実施形態において、操作子42は、ステップ18の上端18tより低い位置に配置されている。しかしながら、操作子42を、ステップ18の上端18tと同じ高さか、ステップ18の上端18tより高い位置に配置しても良い。この場合、アーム部52が後下方に凸となるように曲がる構成となることに代えて、下方に凸となるように曲がる構成になっていても良い。また、リンク部材41の回転軸41cを、ステップ18の後端18rより後方となるように配置しても良い。これらの構成は、例えばクルーザータイプの自動二輪車のように、ステップがライダーの膝より前方に配置される場合に好適である。
アーム部52と連結レバー部53とが一体に形成されず、別々の部品として構成されていても良い。
アーム部52を、図3のように1箇所で折れ曲がった形状とする代わりに、緩やかに湾曲して曲がった形状としても良い。
上記の実施形態において、アーム部52及び連結レバー部53は、回転軸41cから離れるにつれて車体左右方向外側となるように傾斜した部分を有している。しかしながら、そのような傾斜をリンク部材41に形成しなくても差し支えない。
ロッド43における伸縮機構は省略されても良い。
本発明は、上記の実施形態のように変速操作のための装置に限定されず、他の操作装置に適用することもできる。例えば、リンク部材41及び操作子42等の構成は、ブレーキ操作を行うためのブレーキ操作装置に適用されても良い。また、ライダーの足先からの操作指令を電気信号として制御装置に伝達する場合や、ライダーの足先による操作力を駆動力として操作対象の部材に伝達する場合に、上記のリンク部材41及び操作子42の構成を用いることもできる。