次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るエンジン21及び2系統の燃料供給経路30,31を概略的に示す説明図である。図2は、エンジン21の背面図である。図3は、燃焼室110の周辺の構成を詳細に示す背面一部断面図である。図4は、エンジン21の正面図である。図5は、エンジン21の平面図である。図6は、エンジン21の右側面図である。図7は、液体燃料供給経路を示す模式的な前方斜視図である。図8は、エンジン21の左側面図である。図9は、サイドカバー43の一部及び遮熱カバー45を取り外したときの様子を示すエンジン21の斜視図である。
図1に示す本実施形態のエンジン(多気筒エンジン)21は、気体燃料を空気と混合させてから燃焼室に流入させる予混合燃焼方式と、液体燃料を燃焼室内に噴射して燃焼する拡散燃焼方式と、の何れにも対応可能な、いわゆるデュアルフューエルエンジンである。本実施形態のエンジン21は、図示しない船舶の推進兼発電機構の駆動源として、船舶の機関室の内底板上に、ベース台を介して据え付けられる。
エンジン21の後端部からは、エンジン出力軸としてのクランク軸24が後方に向かって突出している。クランク軸24の一端には、図示しない減速機が動力伝達可能に連結される。この減速機を間に挟んで、船舶の図示しない推進軸が、クランク軸24と軸線を一致させるように配置される。推進軸の端部には、船舶の推進力を発生させるプロペラが取り付けられる。前記減速機はPTO軸を有しており、このPTO軸に、図示しない軸駆動発電機が動力伝達可能に連結される。
この構成により、エンジン21の動力が減速機を介して、推進軸と軸駆動発電機とに分岐して伝達される。これにより、船舶の推進力を発生させるとともに、軸駆動発電機の駆動にて生じた電力が船舶内の電気系統に供給される。
次に、エンジン21について、図面を参照して詳細に説明する。エンジン21は、上述したようにデュアルフューエルエンジンであり、天然ガス等の燃料ガスを空気に混合させて燃焼させる予混合燃焼方式と、重油等の液体燃料(燃料油)を拡散させて燃焼させる拡散燃焼方式と、の何れかを選択して駆動させることができる。
なお、以下では、減速機と接続される側(フライホイールが配置される側)を後側として、エンジン21の構成における前後左右の位置関係を説明する。従って、前後方向は、クランク軸24の軸線に平行な方向と言い換えることができ、左右方向は、クランク軸24の軸線に垂直な方向と言い換えることができる。ただし、この説明はエンジン21の向きを限定するものではなく、エンジン21は用途等に応じて様々な向きで設置することができる。
エンジン21には、図1に示すように、2系統の燃料供給経路30,31が接続されている。一方の燃料供給経路30には、液化天然ガス(LNG)を貯留するガス燃料タンク32が接続されるとともに、他方の燃料供給経路31には、船舶用ディーゼルオイル(MDO)を貯留する液体燃料タンク33が接続される。この構成で、一方の燃料供給経路30はエンジン21に燃料ガスを供給し、他方の燃料供給経路31はエンジン21に燃料油を供給する。
燃料供給経路30には、上流側から順に、液化状態の気体燃料を貯蔵するガス燃料タンク32と、ガス燃料タンク32の液化燃料を気化させる気化装置34と、気化装置34からエンジン21への燃料ガスの供給量を調整するガスバルブユニット35と、が配置されている。
エンジン21は、図2から図4までに示すように、シリンダブロック25の上にシリンダヘッド26を組み付けて構成される直列多気筒エンジンである。図2及び図4に示すように、シリンダブロック25の下部には、前記クランク軸24が、軸線24cを前後方向に向けた状態で回転可能に支持されている。
シリンダブロック25には、複数(本実施形態では、6つ)の気筒がクランク軸24の軸線に沿うように一列(直列)に並べて形成される。各気筒には、図3に示すように、ピストン78が上下方向にスライド可能に収容される。このピストン78は、図示しないロッドを介して前記クランク軸24に連結される。
図5及び図6に示すように、それぞれの気筒を上側から覆うように、シリンダブロック25には複数(本実施形態では6つ)のシリンダヘッド26が取り付けられる。シリンダヘッド26はそれぞれの気筒に対して設けられ、ヘッドボルト99を用いてシリンダブロック25に固定される。図3に示すように、それぞれの気筒において、ピストン78の上面とシリンダヘッド26で取り囲まれた空間に燃焼室110が形成される。
複数のヘッドカバー40は、図5に示すように、各気筒に対応するように、クランク軸24の軸線24cの方向(前後方向)に沿って一列に並んでシリンダヘッド26上に配置されている。図3に示すように、それぞれのヘッドカバー40の内部には、吸気弁及び排気弁を動作させためのプッシュロッド及びロッカーアーム等からなる動弁機構が収容されている。前記吸気弁を開いた状態では、燃焼室110に吸気マニホールド67からの吸気を取り込むことができる。前記排気弁を開いた状態では、燃焼室110からの排気を排気マニホールド44に排出することができる。
図3に示すように、ヘッドカバー40の左側の近傍には、後述するパイロット燃料噴射弁82の上端部が配置されている。このパイロット燃料噴射弁82は、クランク軸24の軸線24cを含む仮想鉛直平面P1(図7を参照)を考えたときに、当該仮想鉛直平面P1に対して一側(本実施形態では左側)からシリンダヘッド26の内部に挿入され、燃焼室110に向かって斜下方に延びている。
なお、以後の説明では、クランク軸24の軸線24cを含む仮想鉛直平面P1に対して一側/他側に位置することを、クランク軸24に対して一側/他側と表現することがある。仮想鉛直平面P1は、クランク軸24の軸線24cの方向にも上下方向にも無限に広い平面であると考えることができるが、図7では、斜視図での表現の都合により、エンジン21の近傍の一部のみの仮想鉛直平面P1が示されている。
図2、図3及び図8に示すように、シリンダヘッド26の左側には、予混合燃焼方式での燃焼時に各気筒の燃焼室110にガス燃料を分配して供給するためのガスマニホールド41が設けられる。ガスマニホールド41は、シリンダヘッド26の左側面に沿って前後方向に延びるように配置される。ガスマニホールド41には、各気筒の燃焼室110に対応する複数(本実施形態では6つ)のガス枝管41aが接続され、当該ガス枝管41aの先端部には、図3に示すように、ガス燃料を噴射するためのガスインジェクタ98が設けられる。ガスインジェクタ98の先端部は、気筒に対応してシリンダヘッド26の内部に形成される吸気枝管67aに臨んでいる。ガスインジェクタ98からガス燃料を噴射することにより、吸気マニホールド67の吸気枝管67aにガス燃料を供給することができる。
図3、図7及び図9に示すように、シリンダブロック25の右側には、拡散燃焼方式での燃焼時に各気筒の燃焼室110に液体燃料を分配して供給するための液体燃料供給用レール配管42が設けられる。液体燃料供給用レール配管42は、シリンダブロック25の右側面に沿って前後方向に延びるように配置されている。液体燃料供給用レール配管42に供給された液体燃料は、各気筒に対応して設けられた燃料噴射ポンプ89に分配して供給される。それぞれの気筒には、図3に示すように、燃料噴射ポンプ89から供給された液体燃料を噴射するメイン燃料噴射弁79が配置されている。メイン燃料噴射弁79はシリンダヘッド26に上方から垂直に差し込まれるように配置され、その上端部はヘッドカバー40の内部に配置され、下端部は気筒の燃焼室110に臨んでいる。燃料噴射ポンプ89とメイン燃料噴射弁79とは、シリンダヘッド26に形成された液体燃料供給路106を介して接続される。
液体燃料供給用レール配管42の下方近傍の位置に、それぞれの燃料噴射ポンプ89から戻された余分な燃料を集めるための液体燃料戻し集約管48が設けられる。液体燃料戻し集約管48は、液体燃料供給用レール配管42と平行に配置され、燃料噴射ポンプ89に接続される。液体燃料戻し集約管48の端部には、液体燃料を液体燃料タンク33まで戻すための燃料戻し管115が接続される。
図3、図7及び図9に示すように、シリンダブロック25の右側であって、液体燃料供給用レール配管42よりも上方の位置には、予混合燃焼方式での燃焼時にガス燃料着火を目的として各気筒の燃焼室110にパイロット燃料を分配して供給するためのパイロット燃料供給用レール配管(パイロット燃料供給用コモンレール配管)47が設けられる。パイロット燃料供給用レール配管47は、シリンダブロック25の右側面に沿って前後方向に延びるように配置されている。それぞれの気筒には、図3及び図7に示すように、パイロット燃料供給用レール配管47から供給された液体燃料(パイロット燃料)を噴射するパイロット燃料噴射弁82が配置されている。パイロット燃料噴射弁82はシリンダヘッド26に上方から斜めに差し込まれるように配置され、その上端部はヘッドカバー40のすぐ左脇の位置に配置され、下端部は気筒の燃焼室110に臨んでいる。図7に示すように、それぞれの気筒に対応して、パイロット燃料枝管109がパイロット燃料供給用レール配管47から分岐するように設けられている。パイロット燃料枝管109は、並べて配置されたヘッドカバー40の間を通過するように配置され、パイロット燃料噴射弁82の上端部に接続される。
図3、図7及び図9に示すように、シリンダブロック25及びシリンダヘッド26で構成されるエンジン21の右側面の上部には段差が形成されており、この段差の部分に、パイロット燃料供給用レール配管47と液体燃料供給用レール配管42と燃料噴射ポンプ89とが配置されている。シリンダブロック25及びシリンダヘッド26には、この段差部分を覆うようにサイドカバー43が取り付けられている。パイロット燃料供給用レール配管47、液体燃料供給用レール配管42、及び燃料噴射ポンプ89は、サイドカバー43で被覆されている。なお、図9には、サイドカバー43の一部が取り外された状態が描かれている。
図2、図3及び図9に示すように、シリンダヘッド26の左上方であって、ガスマニホールド41よりも上方の位置には、各気筒の燃焼室110での燃焼により発生した排気を集めて外部に排出するための排気マニホールド44が、ガスマニホールド41と平行に配置される。排気マニホールド44の外周は、遮熱カバー45で覆われている(ただし、図9においては遮熱カバー45が取り外されている)。図3に示すように、排気マニホールド44には各気筒に対応する排気枝管44aが接続されている。この排気枝管44aは、各気筒の燃焼室110に通じている。
シリンダブロック25の内部の左側寄りには、外部からの空気(吸気)を各気筒の燃焼室110に分配して供給するための吸気マニホールド67が、ガスマニホールド41と平行に配置される。図3に示すように、吸気マニホールド67から分岐するように6つの吸気枝管67aがシリンダヘッド26の内部に形成され、それぞれの吸気枝管67aは燃焼室110に通じている。
この構成により、拡散燃焼方式での燃焼時には、各気筒に吸気マニホールド67から供給された空気がピストン78のスライドにより圧縮された適宜のタイミングで、メイン燃料噴射弁79から燃焼室110内に適宜の量の液体燃料が噴射されるようになっている。液体燃料を燃焼室110内に噴射することにより、ピストン78は、燃焼室110で生じる爆発から得られる推進力によって気筒内を往復運動し、ピストン78の往復運動がロッドを介してクランク軸24の回転運動に変換されて動力が得られる。
一方、予混合燃焼方式での燃焼時には、ガスマニホールド41からのガス燃料がガスインジェクタ98から吸気枝管67a内で噴射されることにより、吸気マニホールド67から供給された空気と、ガス燃料とが混合される。気筒に導入された空気とガス燃料の混合気がピストン78のスライドにより圧縮された適宜のタイミングで、パイロット燃料噴射弁82から燃焼室110内に少量のパイロット燃料が噴射されることにより、ガス燃料に着火される。ピストン78は、燃焼室110での爆発により得られる推進力によって気筒内を往復運動し、ピストン78の往復運動がロッドを介してクランク軸24の回転運動に変換されて動力が得られる。
拡散燃焼方式で燃焼した場合にも、予混合燃焼方式で燃焼した場合にも、燃焼により生じた排気はピストン78の運動により気筒から押し出され、排気マニホールド44に集められた後、外部に排出される。
図4に示すように、エンジン21の前端面(正面)には、クランク軸24の前端部分を取り囲むようにして、冷却水ポンプ53、潤滑油ポンプ55、及び燃料高圧ポンプ56がそれぞれ設けられている。燃料高圧ポンプ56は、クランク軸24の右側寄りに配置される。また、エンジン21の前端部分には、クランク軸24の回転動力を伝達する図略の回転伝達機構が設けられている。これにより、クランク軸24からの回転動力が前記回転伝達機構を介して伝達されることで、クランク軸24の外周側に設けられた冷却水ポンプ53、潤滑油ポンプ55、及び燃料高圧ポンプ56がそれぞれ駆動される。
図8に示すように、シリンダブロック25の左側面には、潤滑油クーラ58と、潤滑油漉し器59と、が取り付けられている。潤滑油ポンプ55から供給された潤滑油は、潤滑油クーラ58で冷却された後、潤滑油漉し器59で浄化されて、エンジン21の各部に供給される。
図4に示す冷却水ポンプ53から送られてくる冷却水は、エンジン21の各気筒を冷却した後、図5等に示すシリンダヘッド上冷却水配管46に集められる。
インタークーラ51は、エンジン21の前端面に沿って配置され、過給機49のコンプレッサで圧縮された空気を冷却する。シリンダブロック左冷却水配管60は、図8に示すように、シリンダブロック25の前方からガスマニホールド41に沿うようにして、潤滑油クーラ58及び潤滑油漉し器59の間となる位置まで後方に向かって延びており、潤滑油クーラ58に冷却水を供給する。
図5及び図9に示すように、シリンダヘッド上冷却水配管46は、それぞれがシリンダヘッド26の上方に配置された複数のヘッドカバー40と、排気マニホールド44と、の間の位置に、当該排気マニホールド44と平行に配置されている。シリンダヘッド上冷却水配管46は、各気筒に対応して設けられた冷却水枝管と連結されて、この冷却水枝管を介して各気筒の冷却水路(シリンダヘッド26に形成された冷却水路)と接続している。
図4に示す燃料高圧ポンプ56は、回転駆動されることにより、図1の液体燃料タンク33から燃料フィードポンプ166を介して供給される燃料油(液体燃料)を昇圧して、図7等に示すパイロット燃料供給用主管107を経由して、パイロット燃料供給用レール配管47に送る。液体燃料タンク33から燃料高圧ポンプ56への燃料経路の中途部には、燃料油を濾過するパイロット燃料用フィルタが設けられている。
また、図1に示す燃料フィードポンプ165が電動で駆動されることにより、当該燃料フィードポンプ165は液体燃料タンク33からの燃料油を吸い込んで、図7等に示す液体燃料供給用主管108を経由して液体燃料供給用レール配管42に送る。液体燃料タンク33から液体燃料供給用レール配管42への燃料油の供給経路の中途部には、燃料油を濾過するメイン燃料用フィルタが設けられている。
図7に示すように、パイロット燃料供給用主管107、液体燃料供給用主管108及び燃料戻し管115は、シリンダブロック25の右側面に沿うように、シリンダブロック25のすぐ前方に配置されている。パイロット燃料供給用主管107、液体燃料供給用主管108及び燃料戻し管115は、シリンダブロック25の前端面から右方に突出するように設けられた複数のクランプ部材111を介して、シリンダブロック25の右側面に沿って上下方向に延びるように配置される。
シリンダヘッド26の前方の右側寄り、より具体的には、インタークーラ51の右側面には、ステーを介して、エンジン21の始動・停止等の制御を行う機側操作用制御装置71が設けられている(図6及び図9を参照)。機側操作用制御装置71には、オペレータによるエンジン21の始動・停止を受け付けるスイッチ等の操作部と、エンジン21の運転状態を表示するディスプレイと、が設けられている。オペレータが機側操作用制御装置71を操作することにより、エンジン21を、予混合燃焼方式又は拡散燃焼方式の何れかで駆動させることができるようになっている。
次に、エンジン21における液体燃料供給用の配管の配置について、主として図7を参照してより詳細に説明する。
拡散燃焼方式での燃焼時に燃焼室110に液体燃料を供給するための液体燃料供給経路は、上述のように、液体燃料供給用主管108や液体燃料供給用レール配管42等を備えて構成される。また、液体燃料供給用主管108の中途部には、前記メイン燃料用フィルタが設けられている。前記メイン燃料用フィルタは、エンジン21の前端面の右側寄りに配置されている。また、液体燃料供給用主管108は、シリンダブロック25の前端面から右方に突出するように設けられた複数のクランプ部材111を介して、シリンダブロック25の右側面に沿って上下方向に延びるように配管される。液体燃料供給用主管108の下流側には、液体燃料供給用レール配管42が接続される。液体燃料供給用レール配管42は、シリンダブロック25の右側面に沿うように前後方向に延びた状態で、サイドカバー43により覆われている。
燃料フィードポンプ165から液体燃料供給用主管108を経由して液体燃料供給用レール配管42に圧送された液体燃料は、各気筒に対応して設けられた燃料噴射ポンプ89に分配されるようになっている。燃料噴射ポンプ89は、サイドカバー43で覆われている。燃料噴射ポンプ89に供給された液体燃料は、図3に示すように、シリンダヘッド26の内部に形成された液体燃料供給路106を経由してメイン燃料噴射弁79に供給される。
このように、拡散燃焼方式での燃焼時に燃焼室110に液体燃料を供給するための液体燃料供給経路は、全体として、クランク軸24に対して右側(クランク軸24の軸線24cを含む仮想鉛直平面P1の右側)に配置されている。よって、オペレータは、エンジン21の右側面からこの液体燃料供給経路にアクセスし、液体燃料供給用主管108や液体燃料供給用レール配管42や前記メイン燃料フィルタ等のメンテナンスをまとめて行うことができる。とりわけ、エンジン21の右側面は、従来から機側操作用制御装置71が配置される側であり、オペレータにとってアクセスし易い構成となっている。
拡散燃焼方式での燃焼時にガス燃料着火を目的として燃焼室110にパイロット燃料を供給するためのパイロット燃料供給経路は、上述のように、パイロット燃料供給用主管107やパイロット燃料供給用レール配管47等を備えて構成される。パイロット燃料供給用主管107の上流側には、燃料高圧ポンプ56が接続されている。また、燃料高圧ポンプ56の上流側には燃料経路が接続されており、この燃料経路の中途部に前記パイロット燃料用フィルタが設けられている。この燃料経路の上流側は、液体燃料タンク33に接続されている。この燃料高圧ポンプ56と、前記パイロット燃料用フィルタは、エンジン21の前端面の右側寄りに配置されている。また、パイロット燃料供給用主管107は、液体燃料供給用主管108を支持するのに用いられている前記クランプ部材111を介して、シリンダブロック25の右側面に沿って上下方向に延びるように配置される。このように、パイロット燃料供給用主管107と液体燃料供給用主管108とを共通のクランプ部材111により支持しているので、部品点数を削減できる。
パイロット燃料供給用主管107の下流側には、パイロット燃料供給用レール配管47が接続される。パイロット燃料供給用レール配管47は、シリンダブロック25の右側面に沿うように前後方向に延びた状態で、サイドカバー43により覆われている。
前記パイロット燃料フィルタで濾過された後、燃料高圧ポンプ56からパイロット燃料供給用主管107を経由してパイロット燃料供給用レール配管47に圧送されたパイロット燃料は、各気筒に対応して設けられたパイロット燃料枝管109に分配される。パイロット燃料枝管109は、隣接するヘッドカバー40の間のスペースを通るように配管されている。なお、図7では図示していないが、パイロット燃料枝管109は、上方から枝管カバー105で覆われている。パイロット燃料枝管109に供給されたパイロット燃料は、その下流側の先端部に設けられるパイロット燃料噴射弁82から適宜のタイミングで噴射される。
このように、予混合燃焼方式での燃焼時に燃焼室110にパイロット燃料を供給するためのパイロット燃料供給経路は、上述の液体燃料供給経路と同様に、全体としてクランク軸24に対して右側(クランク軸24の軸線24cを含む仮想鉛直平面P1の右側)に配置されている(図7を参照)。よって、オペレータがエンジン21の右側面からこのパイロット燃料供給経路にアクセスし、パイロット燃料供給用主管107やパイロット燃料供給用レール配管47や前記パイロット燃料用フィルタ等のメンテナンスをまとめて行うことが容易である。このように、液体燃料供給経路(パイロット燃料供給経路を含む。)に関するメンテナンスをエンジン21の一側の側面(本実施形態では、右側面)からまとめて行うことができ、オペレータにとってメンテナンスが行い易いレイアウトとなっている。
パイロット燃料供給用主管107、パイロット燃料供給用レール配管47及びパイロット燃料枝管109は、何れも2重管構造となっており、燃料高圧ポンプ56側からの燃料油をパイロット燃料噴射弁82に供給するとともに、パイロット燃料噴射弁82からリークした燃料油を燃料高圧ポンプ56へ戻すこともできる。
次に、シリンダヘッド26の上方におけるパイロット燃料枝管109の配置について、主として図10及び図11を参照してより詳細に説明する。図10は、シリンダヘッド26の上方の構成を示す斜視図である。図11は、パイロット燃料枝管支持構造120の構成を示す斜視図である。図12は、吊上げ用の治具95,95xをヘッドボルト99に取り付けた様子を示す斜視図である。
図10に示すように、直線状に並べて配置される6つのヘッドカバー40のうち、隣接するヘッドカバー40とヘッドカバー40との間のスペースにはそれぞれ、前記ヘッドボルト99が複数本ずつ(本実施形態では4本ずつ)配置される。この4本のヘッドボルト99のうち、一側のヘッドカバー40に近い側の2本と、他側のヘッドカバー40に近い側の2本は、それぞれ1つの列をなしている。言い換えれば、4本のヘッドボルト99は、平面視で、隣接するヘッドカバー40とヘッドカバー40との間で2つの列をなすように並べて配置されている。なお、図10等には、それぞれの列においてヘッドボルト99が並べられる方向(具体的には、左右方向)が、矢印A1で示されている。ヘッドボルト99の2つの列は、ヘッドカバー40が並ぶ方向と同一の方向(具体的には、前後方向)で並んでいる。
本実施形態ではヘッドカバー40は6つ設けられているので、図10に示すように、ヘッドカバー40の間の空間は5つ形成される。この5つの空間はヘッドカバー40が並べられる方向と同じ方向に並んでいるが、その並べられる方向で1つおきの空間に、パイロット燃料枝管支持構造120がそれぞれ配置されている。そして、1つのパイロット燃料枝管支持構造120につきパイロット燃料枝管109が2本ずつ支持され、この2本のパイロット燃料枝管109は、ヘッドカバー40の間に2つの列をなして配置されるヘッドボルト99のうち、1つの列のヘッドボルト99の上方を、当該列に沿って通過している。
図10及び図11に示すように、それぞれのヘッドボルト99には円筒状のナット94が取り付けられており、このナット94を締め付けることにより、シリンダヘッド26をシリンダブロック25に締結することができる。ヘッドボルト99の上端はナット94から上方に突出しており、この突出部分には、図10に示す治具95を取り付けることができる。この治具95は、船舶にエンジン21を設置するために、例えば起重機船のクレーンでエンジン21を吊り上げるために用いられる。治具95の下端部には、ヘッドボルト99に対してネジ結合するための図略のメネジ穴が形成されている。
吊上げ時のエンジン21のバランスを確保するため、治具95は原則として、同一の列に属する2つのヘッドボルト99にそれぞれ取り付けられる。ただし、ヘッドボルト99がなす上記の列のうち、上方にパイロット燃料枝管支持構造120(パイロット燃料枝管109)が配置される列においては、当該ヘッドボルト99に治具95を取り付けることはできない。
図11に示すように、パイロット燃料枝管支持構造120は、支持ナット122,122と、ステー取付部材123と、L字型ステー124,124,・・・と、枝管クランプ部材125,125,・・・と、枝管カバー105と、を主として備えて構成される。なお、図11においては、パイロット燃料枝管支持構造120を分かり易く示すために、枝管カバー105が鎖線で透視的に描かれている。
図11に示すように、支持ナット122は、パイロット燃料枝管支持構造120が配置される列のヘッドボルト99のそれぞれにおいて、ナット94から上方に突出した部分に捩じ込むことにより取り付けられる。ステー取付部材123は、細長い長方形状の水平な板状部と、板状部から上方に突出する支持壁部と、を有している。水平な板状部には、ヘッドボルト99を差込可能な図略の貫通孔が形成されており、当該板状部がナット94と支持ナット122の間で挟まれることによりヘッドボルト99に固定される。支持壁部には、L字型ステー124を介して枝管クランプ部材125が取り付けられている。また、この支持壁部と、支持ナット122の頭部とは固定ステーにより互いに接続されており、これにより強固な固定が実現されている。
枝管クランプ部材125は、2本のパイロット燃料枝管109を対で並べて挿入した状態で支持する固定用部材であり、L字型ステー124にボルト及びナットを用いて固定される。本実施形態では、ステー取付部材123に3つのL字型ステー124が取り付けられている。詳細には、3つのL字型ステー124のうち、パイロット燃料枝管109を最も上流側で支持する枝管クランプ部材125が、サイドカバー43の上方の位置に、パイロット燃料枝管109を上下方向に挿入可能に配置されている。また、パイロット燃料枝管109をヘッドカバー40とヘッドカバー40の間のスペースの左側の位置で支持する枝管クランプ部材125が、パイロット燃料枝管109を左右方向に挿入可能に配置されている。また、パイロット燃料枝管109をヘッドカバー40とヘッドカバー40の間のスペースの右側の位置で支持する枝管クランプ部材125が、パイロット燃料枝管109を左右方向に挿入可能に配置されている。
上述の3つの枝管クランプ部材125にパイロット燃料枝管109を挿入して配管することにより、パイロット燃料枝管109を2本まとめてヘッドカバー40とヘッドカバー40の間のスペースに配置することができる。
ステー取付部材123の前記支持壁部には、枝管カバー105が取り付けられる。この枝管カバー105は、前述のヘッドボルト99の列1つ分の幅に相当する幅を有している。また、枝管カバー105は逆U字状の断面形状を有しており、ヘッドボルト99の列に沿って延びる2本のパイロット燃料枝管109の上方及び両脇を覆うように配置される。このように、2本まとめてシリンダヘッド26の上方に配管されたパイロット燃料枝管109が枝管カバー105で覆われることにより、仮にパイロット燃料枝管109から燃料が漏れたとしても周囲に飛散することを防止することができ、メンテナンス性及び安全性が向上する。
以上の構成で、パイロット燃料枝管109は図7に示すように、実質的に2本1組となって、サイドカバー43の内部においてパイロット燃料供給用レール配管47から上方に延びて、図10に示すように当該サイドカバー43に形成された2つの切欠き43aをそれぞれ通過する。サイドカバー43の上方に出た2本のパイロット燃料枝管109は、前後方向前側に若干延びた後、再び上に延びて、パイロット燃料枝管支持構造120により支持されながらヘッドカバー40の間の空間(ヘッドボルト99の上方の空間)を右から左に通過する。その後、2本のパイロット燃料枝管109のうち1本が一側のヘッドカバー40に左側から回り込むように曲げられ、残りの1本が他側のヘッドカバー40に左側から回り込むように曲げられる。そして、それぞれのパイロット燃料枝管109は、ヘッドカバー40とシリンダヘッド上冷却水配管46の間の空間を通過して、各ヘッドカバー40の近傍に設置されたパイロット燃料噴射弁82に接続される。
なお、本実施形態では、ある列のヘッドボルト99に取り付けられるナット94と、隣の列のナット94と、の隙間が小さく、また、ナット94と、隣接するヘッドカバー40と、の隙間も小さい。従って、パイロット燃料枝管109がナット94の脇を通過することができない。この点、本実施形態では、パイロット燃料枝管109がヘッドボルト99の上方を左右に通過する構成となっているので、ヘッドカバー40の周辺の構成の平面視での小型化を実現しつつ、パイロット燃料枝管109のためのスペースを確保することができる。
上述したように、パイロット燃料枝管支持構造120が配置された部分の列では、ヘッドボルト99に吊上げのための治具95を取り付けることができないが、それ以外の列ではヘッドボルト99に治具95を取り付けることができる。この点、本実施形態では、2本のパイロット燃料枝管109が、隣接するヘッドカバー40の間の空間において2列配置されたヘッドボルト99のうち1列分のヘッドボルト99の上方を通過するように配置されている。また、ある前記空間で上記のようにパイロット燃料枝管109が2本まとめて通過するので、その隣の前記空間では、2列のヘッドボルト99の何れの上方もパイロット燃料枝管109が通過しない。従って、上方をパイロット燃料枝管109が通過しないヘッドボルト99の列を多くすることができるので、吊上げのための治具95を装着するレイアウトの自由度を高めることができる。
なお、吊上げのための治具95の構成は、図10に示すものに限定されない。例えば図12に示すように、上記の治具95に加えて、別の形状の治具95xをそれぞれヘッドボルト99に装着するように構成することもできる。
以上に説明したように、本実施形態のエンジン21は、気体燃料を空気と混合させてから燃焼室110に流入させる予混合燃焼方式と、液体燃料を燃焼室110内に噴射して燃焼する拡散燃焼方式と、に対応可能である。このエンジン21は、ヘッドカバー40と、パイロット燃料噴射弁82と、パイロット燃料供給用レール配管47と、複数のヘッドボルト99と、パイロット燃料枝管109と、を備える。ヘッドカバー40は、エンジン21の動弁機構を覆うために気筒ごとに設けられ、エンジン21のクランク軸24の軸線方向に複数並んで配置される。パイロット燃料噴射弁82は、気筒ごとに、クランク軸24の軸線24cを含む仮想鉛直平面P1よりも一側から燃焼室110に向かって斜下方に延びるように配置され、予混合燃焼方式での燃焼時にガス燃料着火を目的として燃焼室110にパイロット燃料を供給する。パイロット燃料供給用レール配管47は、仮想鉛直平面P1に対して前記一側とは反対側に配置され、パイロット燃料噴射弁82にパイロット燃料を供給するために複数の気筒で共通で用いられる。図10に示すように、ヘッドボルト99は、平面視で、隣接するヘッドカバー40の間で、当該ヘッドカバー40が並ぶ方向と同一の方向で並ぶ2つの列をなすように配置され、エンジン21のシリンダヘッド26とシリンダブロック25とを固定する。パイロット燃料枝管109は、パイロット燃料供給用レール配管47から分岐して、隣接するヘッドカバー40の間で2つの列のうち1つのみの列のヘッドボルト99の上方を通過し、パイロット燃料噴射弁82に接続する。
これにより、隣接するヘッドカバー40の間の空間を活用して、パイロット燃料枝管109を合理的に配置することができる。また、上方をパイロット燃料枝管109が通過しない列のヘッドボルト99については吊上げ用の治具95,95xを容易に装着可能であるので、エンジン21の設置等のためにヘッドボルト99を介してエンジン21を吊り上げることが容易である。
また、本実施形態のエンジン21においては、複数のヘッドカバー40のうち、互いに隣接するヘッドカバー40の間には空間がそれぞれ形成されている。図10に示すように、ヘッドカバー40が並べられる方向で、パイロット燃料枝管109が通過する前記空間と、パイロット燃料枝管109が通過しない前記空間と、が交互に配置される。
これにより、パイロット燃料枝管109の迂回の程度を小さくすることができるので、長さを短くすることができる。
また、本実施形態のエンジン21においては、図11に示すように、1つの列のヘッドボルト99の上方を、2本のパイロット燃料枝管109が通過するように配置されている。
これにより、吊上げ用の治具95,95xを装着可能なヘッドボルト99の列を増やすことができるので、エンジン21の吊上げが更に容易になる。また、共通の部材(枝管クランプ部材125)で2本のパイロット燃料枝管109を支持することで、構成の簡素化及びコンパクト化を実現することができる。
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
上記の実施形態では、エンジン21は、船舶の推進兼発電機構の駆動源として用いられるものとしたが、これに限るものではなく、他の用途に用いられる駆動源であってもよい。
隣接するヘッドカバー40の間の空間においてヘッドボルト99がなす列は、2列に代えて、3列以上としても良い。
上記の実施形態においては、パイロット燃料枝管109は2本ずつまとめて隣接するヘッドカバー40の間に配管されるものとしたが、これに限るものではなく、例えばこれに代えて、3本ずつまとめて配管されるものとしてもよい。
上記の実施形態では、液体燃料供給用レール配管42とパイロット燃料供給用レール配管47とがクランク軸24に対して同じ側に配置されるものとしたが、必ずしもこれに限るものではなく、例えばこれに代えて、液体燃料供給用レール配管42をクランク軸24に対して一側に配置し、パイロット燃料供給用レール配管47をクランク軸24に対して他側に配置してもよい。