以下、本発明の実施の形態を、下記に記す詳細な製造プロセスとともに説明する。下記の実施例に記載するメンブレンデバイスおよびナノポアデバイスの構造、使用される材料および製法は、本発明の思想を具現化するための一例であり、材料や寸法を厳密に特定するものではない。また、下記の実施例における製造方法は、具体的には、たとえば、半導体製造装置が実行する。また、図面において、図中の(A)は、製造途中または完成後のデバイスの断面図である。図中の(B)は、製造途中または完成後のデバイスの上面図である。図中の(C)は、製造途中または完成後のデバイスの底面図である。また、以下の実施例において同一構成には同一符号を付す。また、「メンブレン」とは、ナノポアが形成可能な絶縁層の一部で、かつ、当該絶縁層の両面が他の層と接触していない薄膜領域である。
<メンブレンデバイスの製造方法>
図1〜図5を用いて実施例1にかかるメンブレンデバイスの製造方法を説明する。
図1は、実施例1にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その1)を示す説明図である。図1において、表面100aの面方位が{100}面であるシリコン(Si)基板100を用意する。一般な半導体リソグラフィ技術とドライエッチング技術を用いて、(A)および(B)に示すように、図1の工程は、Si基板100の表面100aの一部に島パターン100bと呼ばれるピラー構造を形成する工程である。形成する島パターン100bの高さは、たとえば、300[nm],島パターン100bの表面100aの領域は、たとえば、縦500[nm],横500[nm]とする。なお、島パターン100bの表面100aの領域の形状は、正方形に限らず、他の多角形でもよい。
図2は、実施例1にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その2)を示す説明図である。図2の工程は、図1の工程で得られたSi基板100の表面100aに、絶縁層101として、たとえば、SiO2層をCVD法によって堆積させる工程である。SiO2層の厚さは、たとえば、500[nm]とする。その後、図2の工程は、公知の半導体技術による研磨法(CMP:Chemical Mechanical Polishing)によって、Si基板100の表面100aを平坦化する。これにより、(B)に示したように、Si基板100の島パターン100bの表面100aにはSiが露出し、島パターン100bの側壁100cは、絶縁層101で覆われた構造となる。
図3は、実施例1にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その3)を示す説明図である。図3の工程は、図2の工程で得られた島パターン100bの表面100aおよび絶縁層101の表面101aに、絶縁層としてSiN層102を堆積させる工程である。SiN層102の厚さは、たとえば3[nm]とする。また、図3の工程は、図2の工程で得られたSi基板100の裏面100d側に、絶縁層103として、たとえば、SiN層を堆積させる。絶縁層103の厚さは、たとえば、100[nm]とする。
図4は、実施例1にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その4)を示す説明図である。図4の工程は、図3の工程で得られたSi基板100の裏面100d側の絶縁層103を、一般的な半導体リソグラフィ技術とドライエッチング技術を用いて(A)および(C)のようにパターニングする工程である。これにより、Si基板100の裏面100dの一部の領域(パターニング領域103a)で、Siが露出する。Siが露出するパターニング領域103aの大きさは、Si基板100の厚さに応じて調整することが好ましい。たとえば、厚さ725[μm]のSi基板100を用いる場合、たとえば、縦1038[μm],横1038[μm]の領域をパターニング領域103aとしてパターニングするのが好ましい。なお、パターニング領域103aの形状は、正方形に限らず、他の多角形でもよい。
図5は、実施例1にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その5)を示す説明図である。図5の工程は、図4の工程で得られたSiN層102の表面102aに不図示の有機保護膜(たとえば、Brewer Science,Inc.社のProTEKB3primerとProTEKB3を用いる)を塗布した後、TMAH液またはKOH水溶液でSi基板100を裏面100d側からエッチングする工程である。
そうすると、(A)に示したように、Si基板100の内周面104e,104fが露出した2段のテーパー形状の開口104c,104dが形成される。すなわち、エッチングにより、Si基板100は、開口104cが形成されたSi領域104aと、開口104dが形成されたSi領域104bと、で構成される。Si基板100の内周面104e,104fは{111}面である。Si領域104bは、開口104dの外周端縁に位置する。パターニング領域103a,開口104c,104dは、連通する貫通孔となる。
本エッチングは、ウェットエッチングであるため、エッチング方向(Si基板100の裏面100dから表面100aの方向)に侵食するに従って開口径が小さくなる。そして、Si領域104aの内周面100eはテーパー面となる。同様に、Si領域104bの内周面100fもテーパー面となる。このエッチングは、絶縁層101(SiO2層)を侵食しない。したがって、絶縁層101の境界における開口104cの開口径は、開口104dの開口径よりも大きい。SiN層102の裏面102bの境界における開口104dの開口径が最も小さくなる。
このSiN層102において、裏面102bの境界における開口104dの開口径で規定される領域(島パターン100bが残存していないSiN層102の露出領域)が、メンブレンMとなる。なお、その後、図5の工程は、SiN層102の表面102aに塗布した有機保護膜を、アセトンなどSiN層102にダメージを与えない溶液を用いて除去する。これにより、Si領域104bにおいて開口104dの開口径で規定されるSiN層102の中心領域にメンブレンMが形成され、メンブレンデバイス1が完成する。
なお、本裏面Siエッチングプロセスでは、TMAH液またはKOH水溶液がウエハ裏面側だけに触れた状態を構築してエッチングすれば、SiN層102の表面102aへの有機保護膜の塗布は必要なく、工程数の削減が可能である。
<ナノポアの形成例>
図6は、実施例1にかかるメンブレンMへのナノポアの形成例を示す説明図である。図6の工程は、図1〜図5に示した工程によりメンブレンMを形成した後に、公知の技術(電子線照射方式や絶縁破壊方式)を用いてメンブレンMにナノポア105を形成する工程である。これにより、メンブレンデバイス1は、ナノポアデバイス2となり、ナノポア105を通過する計測対象物を計測することが可能となる。
Si基板100と絶縁層101の側壁に残ったSi領域104bに形成される開口104dは、図6のようなテーパー形状を示す。そのため、TMAH液またはKOH水溶液を用いた結晶異方性エッチングによって形成されたメンブレンMは、図1の工程で規定したSi基板100上の島パターン100bよりも小さな領域になる。
非特許文献2の形成方法は、Si基板上の最上部のSiN層の一部を加工して開口し、その下部に位置するpoly−SiをKOH水溶液でエッチングして、薄膜SiNメンブレン領域を形成する。非特許文献2の形成方法を用いた場合、上部SiN層の一部開口した領域よりも広い領域の薄膜SiNメンブレンが形成される。開口領域の規定は、通常リソグラフィ技術を用いてレジストに描画や露光で行われる。たとえば、現在比較的安価で一般的なi線のリソグラフィを用いて描画や露光を行う場合、安定して描画や露光が可能な最小寸法は約500[nm]程度である。
そうすると、非特許文献2の形成方法では、薄膜SiNメンブレン領域は、500[nm]×500[nm]領域以上となる。これに対して、実施例1の製造方法は、図1に示した工程で規定したSi基板100上の島パターン100bよりも小さなメンブレンMを形成する。たとえば、同じくi線のリソグラフィを用いて500[nm]×500[nm]領域のSi基板100上の島パターン100bを形成した場合、最終的にメンブレンMは、500[nm]×500[nm]よりも小さい領域となる。
たとえば、実施例1の寸法に従う場合、約100[nm]×100[nm]のメンブレンMが形成される。そのため、非特許文献2の薄膜SiNメンブレン領域よりも小さいメンブレンMが安定して形成される。メンブレンMを薄膜化するためには、当然ながら、メンブレンMの面積はなるべく狭い方がよい。なぜならメンブレンMの領域が狭ければ狭いほど、メンブレンMを成膜する際に発生する不可避な欠陥(原子同士の結合欠陥などによるウィークスポットやピンホール)がメンブレンM中に存在する確率が下がるためである。
なお、さらにメンブレンMを小さくしたい場合は、Si基板100における島パターン100bの大きさをより小さくする、または、Si基板100における島パターン100bの高さをより高くして、その高さに相当する絶縁層101を形成すればよい。これにより、メンブレンMの領域を約10[nm]×10[nm]程度にまで小さくすることができる。
また、非特許文献2の形成方法は、薄膜SiNメンブレンの形成時に、メンブレンの裏面がTMAH液に触れ、メンブレンの表面がKOH水溶液に触れる。したがって、メンブレンへダメージを与えうるプロセスが2回入る。これに対して、実施例1の製造方法は、メンブレンMの形成時に、メンブレンMの裏面102b側からTMAH液またはKOH水溶液が一度だけ触れる。すなわち、非特許文献2の形成方法に比べて、メンブレンMへダメージを与えうるプロセスが1回分少ない。したがって、よりメンブレンMの安定した形成が可能である。
また、非特許文献2の計測方法は、ナノポアが開口された薄膜メンブレンを用いて、ナノポアを通過するイオン電流を計測するが、電流計測時のノイズが大きくなる。電流計測時のノイズが大きいと、計測対象物由来の電流信号が不明確となり、誤識別を増加させる原因となる。電流計測時のノイズが大きい原因の一つに、上下チャンバ間の水溶液に挟まれているメンブレン、Si基板、およびSi基板上の積層膜から形成される構造体の静電容量が大きいことがある。
一般に、上下チャンバ間の水溶液に挟まれている構造体の構成が、比誘電率の低い絶縁体で構成される割合が高くなればなるほど、上下チャンバ間の水溶液に挟まれている構造体の静電容量は低下する。その結果、ナノポアを通過するイオン電流の電流計測時のノイズが低減される。
非特許文献2では、poly−Si層は半導体であり絶縁膜ではないため、絶縁層で構成されている部分は、約3[nm]の極薄SiNメンブレンと、上部の100[nm]厚さのSiNとSi基板の裏面の一部についているSiN膜だけである。これでは上下チャンバ間の水溶液に挟まれている構造体全体の静電容量を十分に低下させることはできない。結果として、ナノポアを通過するイオン電流の電流計測時のノイズが大きくなる。
一方で、実施例1の製造方法は、SiN層よりも誘電率の低い絶縁層101(SiO2層)が300[nm]形成されており、絶縁層103であるSiN膜もSi基板100の裏面100dに100[nm]形成されている。したがって、非特許文献2の構造よりもメンブレンデバイスの静電容量は低くなる。そのため、ナノポア105を開口後にナノポア105を通過するイオン電流を計測した場合、電流計測時のノイズが低減される。なお、絶縁層101の厚さは、実施例1では300[nm]としたが、より厚くすれば、その分だけ更にノイズを低下させることができる。
その際には、絶縁層101の厚膜化に応じて図1に示した最初の工程で加工するSi基板100の島パターンをより深く加工しておけばよい。またSi基板100の島パターンの領域も深さに応じて調整して、所望のメンブレン領域が得られるように調整すればよい。実施例1のように、ノイズの低減効果を得ながら、かつメンブレンMの領域を小さく作るためには、絶縁層101の厚さ(すなわちSi領域104bの高さ)は、100[nm]以上かつ1[μm]より小さいことが好ましい。
絶縁層101の厚さが100[nm]以上であれば、ノイズの低減効果が得られる。また、Si領域104bの高さが1[μm]より小さければ、ウエハ面内で高さのばらつきが少ない島パターン100bを加工することができる。ウエハ面内で高さのばらつきが少ない島パターン100bが形成できれば、それに伴って、メンブレンMにおける大きさのばらつきも低減される。したがって、ウエハ面内で小領域のメンブレンMを、大きさのばらつきを少なくして形成することができる。
<ナノポアを用いたDNAのシーケンシング方式例>
図7は、ナノポアを用いたDNAのシーケンシング方式であるアクティブ駆動方式を示す説明図である。アクティブ駆動方式とは、DNA110の末端が固定されたプローブ基板111をナノポアデバイス2のナノポア105へ近づけていき、ナノポア105へDNA110が導入した後、プローブ基板111を精密に動かすことによって、ナノポア105中のDNA110の速度制御や位置制御を行うという方式である。アクティブ駆動方式は、ナノポア105中のDNA110の速度制御や位置制御を精密に行う。したがって、ナノポア105を用いたDNA110のシーケンシングの精度を高めることができる。
実施例1で形成されるナノポアデバイス2は、このアクティブ駆動方式と高い親和性がある。なぜならば、プローブ基板111とメンブレンMの間の距離dを、最小で0にすることができるため、プローブ基板111に固定されたDNA110の固定端110aに近い部分までDNAシーケンシングすることができる。
図8は、アクティブ駆動方式の他の例を示す説明図である。図8のナノポアデバイス2は、ナノポアデバイス2の低ノイズ化のために、絶縁層101(SiO2層)をSiN層102の上部に配置したデバイスである。プローブ基板111とSiN層102の間の距離dの最小値は、絶縁層101の厚さより小さくはできない。そうすると、プローブ基板111に固定されたDNA110の固定端110aに近い部分までDNAシーケンシングすることができない。絶縁層101が厚くなればなるほど、DNAシーケンシングできる長さが減少する。そのため、実施例1で形成されるメンブレンデバイス1(ナノポアデバイス2)は、DNAシーケンシングの際に、アクティブ駆動方式の適用に向いている。
なお、絶縁層101,103は、TMAHまたはKOHエッチングの際に削れにくい材料であれば、実施例1で示した以外の材料でもよい。たとえば、上記の例では、絶縁層101はSiO2層としたが、SiN層でもよい。また、絶縁層103はSiN層としたが、SiO2層でもよい。つまり、TMAHまたはKOHエッチングによるSiのエッチレートに比べて、TMAHまたはKOHエッチングによる絶縁層101,103のエッチレートが十分に遅くなるような材料であればよい。また,SiN層102も、TMAHまたはKOHエッチングの際にダメージをあまり受けない材料であればよい。たとえば、実施例1で示したSiN以外にもHfO2(酸化ハフニウム)やHfAlO(ハフニウム・アルミネート)を用いてもよい。
Si基板100のエッチングの際には、TMAH液またはKOH液以外の水溶液でもよい。たとえば、実施例1のようにSiの結晶異方性エッチングができ、メンブレンMにほぼダメージを与えず、かつSiのエッチレートに比べて絶縁層101,103のエッチレートが十分に遅くなるようなアルカリ性の水溶液であればよい。
実施例1で示した製法で形成されたメンブレンデバイス1は、仕上がり形状に特徴がある。具体的には、たとえば、Si基板100の{111}面である内周面104e,104fが露出したSi領域104a,104bを有し、Si領域104bが、絶縁層101の側壁に位置する。
実施例1では表面100aの面方位が{100}面となるSi基板100を用いた製法の例を示したが、それ以外でも一定の効果を得ることができる。たとえば、表面100aの面方位が{110}面となるSi基板100を用いた場合、TMAHまたはKOHエッチングによって、Si基板100は裏面100dから垂直にエッチングされる。このため、開口104c、104dは、図6のようなテーパー形状にはならない。その結果、メンブレンMは、表面100aの面方位が{100}面となるSi基板100を用いて形成した場合と比べて広くなる。しかしながら、はじめにパターニングしたSi基板100の島パターン100bの面積より大きくなることはない。
以上、実施例1の製法を用いることで、メンブレンMを歩留まりよく安定して形成することができる。またメンブレンMにナノポア105を形成した後、DNA110がナノポア105を通過するイオン電流計測時のノイズも低減することができる。さらに、DNAシーケンシングの際に、アクティブ駆動方式の適用にも向いているメンブレンデバイス1(ナノポアデバイス2)を形成することができる。
実施例2は、特にナノポアを通過するイオン電流計測時のノイズを低減させるメンブレンデバイス1の好適な製法を示す。具体的には、たとえば、実施例2の製法は、実施例1のSiの島パターン100bを深く加工し(たとえば、1[μm]以上20[μm]以下の高さ)、そして図2の絶縁層101も厚く形成することによって(たとえば、1[μm]以上20[μm]以下)、メンブレンデバイス1の静電容量を極めて低減させる製法である。島パターン100bの20[μm]以下の高さまたは厚さは、Siパターンの加工および絶縁層101の形成を安定させる。
Siの島パターン100bの高さが1[μm]以上20[μm]以下程度になるよう深く加工した場合、最終的に、SiN層102からなるメンブレンMの領域を安定して小さくできないという課題がある。なぜならば、Siの島パターン100bの高さを1[μm]以上20[μm]以下程度に高くしていくと、図5のTMAHまたはKOHエッチング後のSi領域104bにおける開口104dの開口径で領域が規定されるメンブレンMの大きさのばらつきも大きくなるからである。
その理由は、エッチングしなければならないSi基板100の島パターン100bの厚さの増加に伴い、Si基板100の島パターン100bへのエッチング量が増大し、その結果、TMAHまたはKOH水溶液によるエッチング自体の不安定性による仕上がり形状のばらつきが増幅されるからである。また、島パターン100bの高さを1[μm]以上20[μm]以下程度に高くしていくと、島パターン100bを加工するときのエッチングばらつきによって、島パターン100bの高さバラつきも大きくなる。そのため、結果的に、SiN層102からなるメンブレンMの大きさのばらつきも大きくなってしまう。
仮に、島パターン100bの高さを10[μm]とした場合、TMAHまたはKOHエッチング後のメンブレンMの領域のばらつきは、1[μm]以上となる。そのため、すくなくとも1[μm]×1[μm]以下の小領域のメンブレンMの安定形成は不可能である。
<メンブレンデバイス1の製造方法>
図9〜図15を用いて実施例2にかかるメンブレンデバイス1の製造方法を説明する。
図9は、実施例2にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その1)を示す説明図である。図9において、表面100aの面方位が{100}面であるSi基板100を用意する。一般的な半導体リソグラフィ技術とドライエッチング技術を用いて、(A)および(B)に示すように、図9の工程は、Si基板100の表面100aの一部に島パターン100bと呼ばれるピラー構造を形成する工程である。形成する島パターン100bの高さは、たとえば、20[μm]である。また、島パターン100bの領域は、たとえば、縦35[μm],横35[μm]とする。なお、島パターン100bの表面100aの領域の形状は、正方形に限らず、他の多角形でもよい。
図10は、実施例2にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その2)を示す説明図である。図10の工程は、図9の工程で得られたSi基板100の表面100aに、絶縁層101としてSiO2層をCVD法によって堆積させる工程である。絶縁層101の厚さは、たとえば、30[μm]とする。その後、図10の工程は、公知の半導体技術による研磨法(CMP)によって表面を平坦化する。これにより、(B)に示したように、Si基板100の島パターン100bの表面100aにはSiが露出し、島パターン100bの側壁100cは、絶縁層101で覆われた構造となる。
図11は、実施例2にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その3)を示す説明図である。図11の工程は、図9の工程で得られたSi基板100の表面100a側に、絶縁層としてSiN層102を堆積させる工程である。SiN層102の厚さは、たとえば、3[nm]とする。図11の工程は、さらに、SiN層102の上部に導電層であるpoly−Si層120を堆積させる。poly−Si層120の厚さは、たとえば、150[nm]とする。図11の工程は、poly−Si層120の上部に絶縁層であるSiN層121を堆積させる。堆積するSiN層121の厚さは、たとえば、100[nm]とする。また、図11の工程は、Si基板100の裏面100d側に、絶縁層103としてSiN層を堆積させる。絶縁層103の厚さは、たとえば、100[nm]とする。
図12は、実施例2にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その4)を示す説明図である。図12の工程は、図11の工程で得られたSi基板100のSiN層121の一部を、リソグラフィ技術とドライエッチング技術を用いて開口する工程である。開口121aの面積は、たとえば、100[nm]×100[nm]の四角領域とする。
図13は、実施例2にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その5)を示す説明図である。図13の工程は、図12の工程で得られたSi基板100の裏面100d側の絶縁層103を、一般的な半導体リソグラフィ技術とドライエッチング技術を用いて、(A)および(C)のようにパターニングする工程である。これにより、Si基板100の裏面100dの一部の領域で、Siが露出する。Siが露出するパターニング領域103aの大きさは、Si基板100の厚さに応じて調整することが好ましい。たとえば、厚さ725[μm]のSi基板100を用いる場合、たとえば、縦1038[μm],横1038[μm]の領域をパターニング領域103aとしてパターニングするのが好ましい。なお、パターニング領域103dの形状は、正方形に限らず、他の多角形でもよい。
図14は、実施例2にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その6)を示す説明図である。図14の工程は、図13の工程で得られたSi基板100のSiN層121の表面121bに不図示の有機保護膜(たとえば、Brewer Science,Inc.社のProTEKB3primerとProTEKB3を用いる)を塗布した後、TMAH液またはKOH水溶液でSi基板100を裏面100d側からエッチングする工程である。
そうすると、(A)に示したように、Si基板100の内周面104e,104fが露出した2段のテーパー形状の開口104c,104dが形成される。すなわち、エッチングにより、Si基板100は、開口104cが形成されたSi領域104aと、開口104dが形成されたSi領域104bと、で構成される。Si基板100の内周面104e,104fは{111}面である。Si領域104bは、開口104dの外周端縁に位置する。パターニング領域103a,開口104c,104dは、連通する貫通孔となる。
本エッチングは、ウェットエッチングであるため、エッチング方向(Si基板100の裏面100dから表面100aの方向)に侵食するに従って開口径が小さくなる。そして、Si領域104aの内周面104eはテーパー面となる。同様に、Si領域104bの内周面104fもテーパー面となる。このエッチングは、絶縁層101(SiO2層)を侵食しない。したがって、絶縁層101の境界における開口104cの開口径は、開口104dの開口径よりも大きい。SiN層102の裏面102bの境界における開口104dの開口径が最も小さくなる。
このSiN層102において、裏面102bの境界における開口104dの開口径で規定される領域が、次の工程でSiN層102のメンブレンMとなる中心領域Cである。なお、その後、図14の工程は、SiN層121の表面121bに塗布した有機保護膜を、アセトンなどSiN層121にダメージを与えない溶液を用いて除去する。これにより、中心領域Cが形成される。実施例2の寸法で製造すれば、中心領域Cは、約10[μm]四方の領域となる。
なお、本裏面Siエッチングプロセスでは、TMAH液またはKOH水溶液がウエハ裏面側だけに触れた状態を構築してエッチングすれば、SiN層121の表面121bへの有機保護膜の塗布は必要なく、工程数の削減が可能である。
図15は、実施例2にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その7)を示す説明図である。図15の工程は、図14の工程で得られたSi基板100のpoly−Si層120の一部を、KOH水溶液またはTMAH溶液を用いてSiN層121をマスクとしてエッチングする工程である。これにより、poly−Si層120によって領域が規定されたメンブレンMが形成され、メンブレンデバイス1が完成する。poly−Si層120の厚さのばらつきや、TMAH溶液またはKOH水溶液によるエッチングレートばらつきも考慮すると、図15の工程のエッチングは、poly−Si層120の設計膜厚をエッチングする時間よりも長い時間エッチング(すなわちオーバーエッチング)するのがよい。たとえば、poly−Si層120によって領域が規定されたメンブレンMの大きさが500[nm]×500[nm]四方の領域程度まで広がるようにオーバーエッチするのがよい。
<ナノポアの形成例>
図16は、実施例2にかかるメンブレンMへのナノポア105の形成例を示す説明図である。図16の工程は、図9〜図15に示した工程によりSiN層102にメンブレンMを形成した後に、公知の技術(電子線照射方式や絶縁破壊方式)を用いてメンブレンMにナノポア105を形成する工程である。これにより、メンブレンデバイス1は、ナノポアデバイス2となり、ナノポア105を通過する計測対象物を計測することが可能となる。
実施例2の製法により、絶縁層101の厚さが厚く、すなわちデバイス全体の静電容量が非常に小さく、かつ、500[nm]×500[nm]四方の領域程度の小さなメンブレンMを有するメンブレンデバイス1(ナノポアデバイス2)が形成される。デバイス全体の静電容量が低くなれば、DNA110がナノポア105を通過するイオン電流計測時のノイズも低減することができる。また、メンブレンMを小さくすれば、メンブレンMを成膜する際に発生する不可避な欠陥(原子同士の結合欠陥などによるウィークスポットやピンホール)がメンブレンM中に存在する確率が下がる。したがって、メンブレンMの歩留まりが向上する。
また、実施例2の製法により製造されたナノポアデバイス2を図7または図8で説明したアクティブ駆動方式に適用することも可能である。メンブレンMの上部にはpoly−Si層120,SiN層121があるが、トータルの厚さは実施例2では250[nm]とそれほど厚くない。そのため、プローブ基板111に固定されたDNA110の固定端110aに近い部分までナノポア105にDNA110を導入し、DNAシーケンスをすることができる。
実施例2の20[μm]厚さの絶縁層101がメンブレンMの上部に配置された場合、アクティブ駆動方式は、プローブ基板111に固定されたDNA110の固定端110aから少なくとも20[μm]の長さの領域をDNAシーケンシングできない。実施例2のナノポアデバイス2は、20[μm]厚さの絶縁層101をメンブレンMの下部に配置し、メンブレンMの上部にメンブレンMの領域を狭めるために必要な積層構造(poly−Si層120,SiN層121)のみを配置するという構造である。当該構造は、アクティブ駆動方式におけるDNAシーケンス時の計測電流のノイズ低減に向けた有用な構造である。
なお、poly−Si層120は、SiO2層でもよい。SiO2層の厚さは、たとえば、150[nm]とする。SiO2層は、高温(50〜100℃)のKOH水溶液によってエッチングすることができる。一方、高温(50〜100℃)のKOH水溶液に対してもSiN層102はほぼダメージを受けないため、メンブレンMを安定して形成することができる。このように、poly−Si層120の代わりにSiO2層を用いることで、測定時に上下チャンバ間の水溶液に挟まれるナノポアデバイス2の静電容量はさらに低下する。これにより、より計測時のノイズが低減される。
なお、絶縁層101,103は、TMAHまたはKOHエッチングの際に削れにくい材料であれば、実施例2で示した以外の材料でもよい。たとえば、上記の例では、絶縁層101はSiO2層としたが、SiN層でもよい。また、絶縁層103はSiN層としたが、SiO2層でもよい。つまり、TMAHまたはKOHエッチングによるSiのエッチレートに比べて、TMAHまたはKOHエッチングによる絶縁層101,103のエッチレートが十分に遅くなるような材料であればよい。またSiN層102も、TMAHまたはKOHエッチングの際にダメージをあまり受けない材料であればよく、実施例2で示したSiN以外にもHfO2(酸化ハフニウム)やHfAlO(ハフニウム・アルミネート)を用いてもよい。
Si基板100のエッチングの際には、TMAH液またはKOH液以外の水溶液でもよい。たとえば、実施例1のようにSiの結晶異方性エッチングができ、メンブレンMにほぼダメージを与えず、かつSiのエッチレートに比べて絶縁層101,103のエッチレートが十分に遅くなるようなアルカリ性の水溶液であればよい。
実施例2で示した製法で形成されたメンブレンデバイス1は、仕上がり形状に特徴がある。具体的には、たとえば、Si基板100は、{111}面である内周面104e,104fが露出したSi領域104a,104bを有し、Si領域104bが、絶縁層101の側壁に位置する。
実施例2では表面100aの面方位が{100}面となるSi基板100を用いた製法の例を示したが、それ以外でも一定の効果を得ることができる。たとえば、表面100aの面方位が{110}面となるSi基板100を用いた場合、TMAHまたはKOHエッチングによって、Si基板100は裏面100dから垂直にエッチングされる。このため、開口104c、104dは、図16のようなテーパー形状にはならない。その結果、メンブレンMは、表面100aの面方位が{100}面となるSi基板100を用いて形成された場合と比べて広くなる。しかしながら、はじめにパターニングしたSi基板100の島パターン100bの面積より大きくなることはない。
以上、実施例2の製法を用いることで、メンブレンMを歩留まりよく安定して形成することができる。またメンブレンMにナノポア105を形成した後、DNA110がナノポア105を通過するイオン電流計測時のノイズも低減することができる。さらに、DNAシーケンシングの際に、アクティブ駆動方式の適用にも向いているメンブレンデバイス1(ナノポアデバイス2)を形成することができる。
実施例3は、特にナノポアを通過するイオン電流計測時のノイズを低減させるメンブレンデバイス1の好適な製法を示す。
図17は、実施例3にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その1)を示す説明図である。図17において、実施例3では、SOI(Silicon on Insulator)基板10を用意する。SOI基板10は、Si単結晶層であるSi基板100と、その上に絶縁層であるSiO2層130と、その上にあるSi単結晶層131と、を有する積層基板である。SiO2層130の厚さは、たとえば、1[μm]〜20[μm]とする。SiO2層130の厚さは、実施例2に示したように、デバイス計測時のノイズを低減できる範囲である。Si単結晶層131の厚さは、たとえば、300[nm]とする。Si基板100の厚さは、たとえば、725[μm](8インチウエハの標準厚さ)とする。SiO2層130の厚さは、厚ければ厚いほど、DNA110がナノポアを通過する電流計測時の電気ノイズを低減することができる。Si基板100の表面100aとSi単結晶層131の表面131aの面方位は、たとえば、それぞれ{100}とする。
図18は、実施例3にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その2)を示す説明図である。図18の工程は、図17で用意したSOI基板10におけるSi単結晶層131上にSiN層132を堆積させる工程である。SiN層132の厚さは、たとえば、3[nm]とする。そして、その上にpoly−Si層133,SiN層134を堆積させる。poly−Si層133の厚さは、たとえば、150[nm]、SiN層134の厚さは、たとえば、100[nm]とする。また、Si基板100の裏面100dに絶縁層135としてSiN層を堆積させる。絶縁層135の厚さは、たとえば、100[nm]とする。Si単結晶層131は、非結晶Siに比べて表面平坦性がよい。したがって、Si単結晶層131上にSiN層132を成膜することにより、平坦性に優れ、かつ、より欠陥を少なくできるメンブレンMが得られる。
図19は、実施例3にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その3)を示す説明図である。図19の工程は、図18の工程で得られたSiN層134の一部を、リソグラフィ技術とドライエッチング技術を用いて開口する工程である。開口134aの面積は、たとえば、100[nm]×100[nm]の四角領域とする。
また、図19の工程は、Si基板100の裏面100d側の絶縁層135を、一般的な半導体リソグラフィ技術とドライエッチング技術を用いて、(A)および(C)のようにパターニングする工程である。これにより、Si基板100の裏面100dの一部の領域(パターニング領域135a)で、Siが露出する。Siが露出するパターニング領域135aの大きさは、Si基板100の厚さに応じて調整することが好ましい。たとえば、725[μm]厚さのSi基板100を用いる場合、縦1038[μm],横1038[μm]の領域をパターニング領域135aとしてパターニングするのが好ましい。なお、パターニング領域135aの形状は、正方形に限らず、他の多角形でもよい。
図20は、実施例3にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その4)を示す説明図である。図20の工程は、図19の工程で得られたSOI基板10の表面134bに不図示の有機保護膜(たとえば、Brewer Science,Inc.社のProTEKB3primerとProTEKB3を用いる)を塗布した後、TMAH液またはKOH水溶液でSOI基板10におけるSi基板100を裏面100d側からエッチングする工程である。
Si基板100のエッチング後、SiO2層130のエッチングを、たとえば、フッ酸(HF)またはバッファードフッ酸(BHF)を用いて行う。SiO2層130のエッチング後、Si単結晶層131のエッチングをTMAH液またはKOH水溶液で行う。そうすると、(A)に示したように、Si基板100の内周面104eおよびSi単結晶層131の内周面131bが露出した2段のテーパー形状の開口104c,131cが形成される。すなわち、エッチングにより、Si基板100は、開口104cが形成されたSi領域104aとなる。エッチングにより、Si単結晶層131は、開口131cが形成されたSi単結晶領域131dとなる。内周面104e,131bは{111}面である。また、エッチングにより、SiO2層130には、開口104c,131cを連通する開口130aが形成される。
本エッチングは、ウェットエッチングであるため、エッチング方向(Si基板100の裏面100dから表面100aの方向)に侵食するに従って開口径が小さくなる。そして、Si領域104aの内周面104eはテーパー面となる。同様に、Si単結晶領域131dの内周面131bもテーパー面となる。SiN層132において、裏面132aの境界におけるSi単結晶領域131dの開口径で規定される領域が、次の工程でSiN層132のメンブレンMとなる中心領域Cである。その後、SiN層134の表面134bに塗布した有機保護膜を、アセトンなどSiN層134にダメージを与えない溶液を用いて除去する。
これにより、Si単結晶領域131dによって領域が規定された中心領域Cが形成される。実施例3の通りの寸法で製造すれば、中心領域Cは、約50〜100[μm]四方の領域となる。なお、本裏面Siエッチングプロセスでは、エッチング液がウエハ裏面側だけに触れた状態を構築してエッチングすれば、SiN層134の表面134bへの有機保護膜の塗布は必要なく、工程数の削減が可能である。
図21は、実施例3にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その5)を示す説明図である。図21の工程は、図20の工程で得られたpoly−Si層133の一部を、KOH水溶液またはTMAH溶液を用いて、SiN層134をマスクとしてエッチングする工程である。これにより、poly−Si層133によって領域が規定されたメンブレンMが形成され、メンブレンデバイス1が完成する。poly−Si層133の厚さのばらつきや、TMAH溶液またはKOH水溶液によるエッチングレートばらつきも考慮すると、図20の工程のエッチングは、poly−Si層133の設計膜厚をエッチングする時間よりも長い時間エッチング(すなわちオーバーエッチング)するのがよい。たとえば、メンブレンMの大きさが500[nm]×500[nm]四方の領域程度まで広がるようにオーバーエッチするのがよい。
<ナノポアの形成例>
図22は、実施例3にかかるメンブレンMへのナノポアの形成例を示す説明図である。図22の工程は、図17〜図21に示した工程によりメンブレンMを形成した後に、公知の技術(電子線照射方式や絶縁破壊方式)を用いてメンブレンMにナノポア136を形成する工程である。これにより、メンブレンデバイス1は、ナノポアデバイス2となり、ナノポア136を通過する計測対象物を計測することが可能となる。
実施例3の製法により、SiO2層130の厚さが厚く、すなわちデバイス全体の静電容量が非常に小さく、かつ、500[nm]×500[nm]四方の領域程度の小さなメンブレンMを有するメンブレンデバイス1(ナノポアデバイス2)が形成される。デバイス全体の静電容量が低くなれば、DNA110がナノポア136を通過するイオン電流計測時のノイズも低減することができる。また、メンブレンMの領域を小さくすれば、メンブレンMを成膜する際に発生する不可避な欠陥(原子同士の結合欠陥などによるウィークスポットやピンホール)がメンブレンM中に存在する確率が下がる。したがって、メンブレンMの歩留まりが向上する。
また、実施例3の製法により製造されたナノポアデバイス2を図7または図8で説明したアクティブ駆動方式に適用することも可能である。メンブレンMの上部にはpoly−Si層133,SiN層134があるが、トータルの厚さは実施例3では250[nm]とそれほど厚くない。そのため、プローブ基板111に固定されたDNA110の固定端110aに近い部分までナノポア136にDNA110を導入し、DNAシーケンスをすることができる。
実施例3の1[μm]〜20[μm]厚さのSiO2層130がメンブレンMの上部に配置された場合、アクティブ駆動方式は、プローブ基板111に固定されたDNA110の固定端110aから少なくとも1[μm]〜20[μm]の長さの領域をDNAシーケンシングできない。実施例3のメンブレンデバイス1は、1[μm]〜20[μm]厚さのSiO2層130をメンブレンMの下部に配置し、メンブレンMの上部にメンブレンMの領域を狭めるために必要な積層構造(poly−Si層133,SiN層134)のみを配置するという構造である。当該構造は、アクティブ駆動方式におけるDNAシーケンス時の計測電流のノイズ低減に向けた有用な構造である。
実施例3の製法の優位な点を以下に記す。実施例3の製法では、KOHまたはTMAH液によるSiO2層130のエッチングレートは、Si基板100のエッチングレートに比べ遅い。したがって、Si基板100をKOHまたはTMAH液でエッチングする際、厚いSiO2層130がエッチングストッパの役割を果たす。また、フッ酸(HF)またはバッファードフッ酸(BHF)によるSi単結晶層131のエッチングレートは、SiO2層130のエッチングレートに比べ遅い。したがって、SiO2層130をフッ酸(HF)またはバッファードフッ酸(BHF)でエッチングする際、Si単結晶層131がエッチングストッパの役割を果たす。
そのため、SiO2層130をエッチングした後は、Si基板100の厚さ(実施例3では725[μm])にくらべて薄いSi単結晶層131(実施例3では厚さ300[nm])をエッチングすれば、Si単結晶層131の開口131cからメンブレンMの片面を露出させることができる。Si単結晶層131がSi基板100の厚さに比べて薄いため、Si単結晶層131のエッチングの際のオーバーエッチング量も少なくできる。
実施例3のように、Si単結晶層131の厚さが300[nm]で設計されているものとする。ウエハ面内におけるエッチング速度のバラつきや、Si単結晶層131の厚さバラつきを考慮して、Si単結晶層131の厚さ450[nm]程度を標準的にエッチングできるような条件でエッチングする。これにより、Si単結晶層131(厚さ300[nm])を、ウエハ面内でエッチング残りがない安定的なエッチングが可能になる。つまり、Si単結晶層131の設計膜厚の50%分のオーバーエッチをすることで、安定したエッチングが可能である。
一方で、実施例1,実施例2,非特許文献1,または非特許文献2の方法は、途中にエッチストッパを設けることなくSi基板をエッチングし、薄膜メンブレンの片側部分を露出させる。この場合、Siのエッチング残りがなく安定してエッチングするためのオーバーエッチング量は、実施例3より多くする必要がある。なぜなら、Si基板の厚さは、たとえば、8インチウエハで標準725[μm]であり、その厚さのバラつきは、一枚のウエハ内の面内の厚さのバラつきも、異なるウエハ間での厚さのバラつきも、数[μm]程度あり、大きい。そのため、Si基板のエッチングの際のオーバーエッチング量は、実施例3に比べて大きくしないと、Siのエッチング残りがなく安定してエッチングすることはできない。
また、725[μm]の厚さのSi基板をエッチングするため、長時間のエッチング(85℃のTMAH溶液またはKOH水溶液で約8〜9時間)が必要である。そのため、ウエハ面内におけるエッチング速度のバラつきがもたらす、ウエハ面内のSiエッチング完了時間のばらつきも大きい。このため、実施例3に比べてオーバーエッチング量を大きくしないと、ウエハ面内でSiのエッチング残りがなく安定してエッチングすることはできない。
これらにより、従来例(非特許文献1,非特許文献2)のようにSi基板を途中にエッチストッパを入れることなくエッチングする場合、最低でも、50[μm]から100[μm]程度のオーバーエッチングをしないとSiのエッチング残りがなく安定してエッチングすることはできない。TMAH溶液やKOH水溶液は、SiN膜へのダメージは少ないが、それでもやはりダメージは0ではない。そのため、Si基板をエッチングの際のオーバーエッチング量が多くなるにつれ、メンブレンとなるSiN膜へダメージが入る確率は上がっていき、結果としてメンブレンの初期欠陥などの原因となり、製造されるメンブレンの歩留まりを落とす要因となる。
その点、実施例3では、エッチストッパであるSiO2層130がSi基板100とSi単結晶層131の間に挟まれている。このため、最後のSiエッチングの際に必要なオーバーエッチング量は1[μm]以下と少なくすることができる。したがって、メンブレンMへダメージが入る確率を低減することができる。その結果、メンブレンMの初期欠陥が低減され、製造されるメンブレンMの歩留まりを向上させることができた。
また、非特許文献3と異なり、実施例3は、Si単結晶層131上に、メンブレンMを転写ではなく成膜によって形成する。このため、メンブレンMの平坦性に優れ、欠陥も少ない。また、プロセスが簡易であり、SOI基板10を用いた標準的な半導体プロセスを用いているので、量産性に優れる。また、実施例3は、非特許文献3と比べてSiO2層130の露出面が少ない。DNA110はSiO2によく吸着することが知られているが、実施例3ではSiO2層130の露出面が少ない。このため、計測対象のDNA110がSiO2層130に吸着する量も少なくなる。DNA110がSiO2層130の表面に吸着したり、そこから剥がれたりという現象は、DNA110がナノポア136を通過するイオン電流の計測時のノイズの要因となる。したがって、実施例3のようにSiO2層130の露出面の少ない構造は、電流計測時のノイズ低減の観点で有利である。
なお、poly−Si層133の代わりにSiO2層を用いることもできる。SiO2層の厚さは、たとえば、150[nm]とする。SiO2層は、高温(50〜100℃)のKOH水溶液によってエッチングすることができる。一方、高温(50〜100℃)のKOH水溶液に対しても、SiN層132はほぼダメージを受けないため、メンブレンMを安定して形成することができる。このように、poly-Si層133の代わりにSiO2層を用いることで、測定時に上下チャンバ間の水溶液に挟まれるメンブレンデバイス1の静電容量はさらに低下する。したがって、より計測時のノイズを低減することができる。
なお、絶縁層135は、TMAHまたはKOHエッチングの際に削れにくい材料であれば、実施例3で示した以外の材料でもよい。たとえば、上記の例では、絶縁層135はSiN層としたが、SiO2層でもよい。つまり、TMAHまたはKOHエッチングによるSiのエッチレートに比べて、TMAHまたはKOHエッチングによる絶縁層135のエッチレートが十分に遅いような材料であればよい。また、メンブレンMの材料も、TMAHまたはKOHエッチングの際にほぼダメージを受けない材料であればよい。たとえば、SiN以外にもHfO2やHfAlOを用いてもよい。
Si基板100やSi単結晶層131のエッチングの際には、TMAH液またはKOH水溶液以外の水溶液でもよい。たとえば、Siの結晶異方性エッチングができ、メンブレンMにほぼダメージを与えず、かつ、Siのエッチレートに比べてSiO2層130や絶縁層135のエッチレートが十分に遅いようなアルカリ性の水溶液であればよい。
実施例3で示した製法で形成されたメンブレンデバイス1は、仕上がり形状に特徴がある。具体的には、たとえば、Si基板100の内周面104eおよびSi単結晶層131の内周面131bである{111}面が露出し、Si基板100およびSi単結晶層131に挟まれてSiO2層130が存在する。
実施例3では表面100a,131aの面方位が{100}面となるSi基板100およびSi単結晶層131を用いた製法の例を示したが、それ以外でも一定の効果を得ることができる。たとえば、表面100aの面方位が{110}面となるSi単結晶層131を用いた場合、TMAHまたはKOHエッチングによって、Si基板100は表面100aに対して垂直にエッチングされる。このため、Si基板100には、図22のようなテーパー形状の開口104cが形成されない。しかしながら上記効果はほぼ失われることはない。
以上、実施例3の製法を用いることで、メンブレンMを歩留まりよく安定して形成することができる。また、メンブレンMにナノポア136を形成した後、DNA110がナノポア136を通過するイオン電流計測時のノイズも低減することができる。さらに、DNAシーケンシングの際に、アクティブ駆動方式の適用にも向いているメンブレンデバイス1(ナノポアデバイス2)を形成することができる。
実施例4は、実施例3で示したメンブレンデバイス1よりも静電容量が低く、イオン電流計測時のノイズをさらに低減することができる製法および構造を示す。
図23は、実施例4にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その1)を示す説明図である。図23において、実施例4では、SOI基板10を用意する。SOI基板10は、Si単結晶層であるSi基板100と、その上に絶縁層であるSiO2層140と、その上にあるSi単結晶層141と、を有する積層基板である。SiO2層140の厚さは、たとえば、1〜20[μm]とする。Si単結晶層141の厚さは、たとえば、300[nm]とする。Si基板100の厚さは、たとえば、725[μm](8インチウエハの標準厚さ)とする。SiO2層の厚さは、厚ければ厚いほど、DNA110がナノポアを通過する電流計測時の電気ノイズを低減することができる。Si基板100の表面100aとSi単結晶層141の表面141aの面方位は、たとえば、それぞれ{100}とする。
図24は、実施例4にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その2)を示す説明図である。図24の工程は、図23で得られたSOI基板10におけるSi単結晶層141をドライエッチングによりパターニングし、Siの島パターン141bを形成する工程である。Siの島パターン141bの領域は、たとえば、縦3[μm]、横3[μm]とする。すなわち、このパターニングにより、Siの島パターン141bがSiO2層140上に残る残存部である。
図25は、実施例4にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その3)を示す説明図である。図25の工程は、図24の工程で得られたSOI基板10のSi単結晶層141およびSiO2層140上にSiN層142を堆積させる工程である。SiN層142の厚さは、たとえば、3[nm]とする。そして、その上にpoly−Si層143,SiN層144を堆積させる。poly−Si層143の厚さは、たとえば、150[nm]、SiN層144の厚さは、たとえば、100[nm]とする。また、Si基板100の裏面100dに絶縁層145としてSiN層を堆積させる。絶縁層145の厚さは、たとえば、100[nm]とする。Si単結晶層141は、非結晶Siに比べて表面平坦性がよい。したがって、Si単結晶層141上にSiN層142を成膜することにより、平坦性に優れ、かつ、より欠陥を少なくできるメンブレンMが得られる。
図26は、実施例4にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その4)を示す説明図である。図26の工程は、図25の工程で得られたSiN層144の一部を、リソグラフィ技術とドライエッチング技術とを用いて開口する工程である。開口144aの面積は、たとえば、100[nm]×100[nm]の四角領域とする。
また、図26の工程は、Si基板100の裏面110d側の絶縁層145を、一般的な半導体リソグラフィ技術とドライエッチング技術を用いて、(A)および(C)のようにパターニングする工程である。これにより、Si基板100の裏面100dの一部の領域(パターニング領域145a)で、Siが露出する。Siが露出するパターニング領域145aの大きさは、Si基板100の厚さに応じて調整することが好ましい。たとえば、725[μm]厚さのSi基板100を用いる場合、たとえば、縦1038[μm]、横1038[μm]の領域をパターニング領域145aとしてパターニングするのが好ましい。なお、パターニング領域145aの形状は、正方形に限らず、他の多角形でもよい。
図27は、実施例4にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その5)を示す説明図である。図27の工程は、図26の工程で得られたSiN層144の表面144bに不図示の有機保護膜(たとえば、Brewer Science,Inc.社のProTEKB3primerとProTEKB3を用いる)を塗布した後、TMAH液またはKOH水溶液でSi基板100を裏面100d側からエッチングする工程である。
Si基板100のエッチング後、SiO2層140のエッチングを、たとえば、フッ酸(HF)またはバッファードフッ酸(BHF)を用いて行う。SiO2層140のエッチング後、Si単結晶層141のエッチングをTMAH液またはKOH水溶液で行う。そうすると、(A)に示したように、Si基板100の内周面104eおよびSi単結晶層141の内周面141eが露出した2段のテーパー形状の開口104c,141cが形成される。すなわち、エッチングにより、Si基板100は、開口104cが形成されたSi領域104aとなる。エッチングにより、Si単結晶層141は、開口141cが形成されたSi単結晶領域141dとなる。内周面104e,141eは{111}面である。また、エッチングにより、SiO2層140には、開口104c,141cを連通する開口140aが形成される。
本エッチングは、ウェットエッチングであるため、エッチング方向(Si基板100の裏面100dから表面100aの方向)に侵食するに従って開口径が小さくなる。そして、Si領域104aの内周面104eはテーパー面となる。同様に、Si単結晶領域141dの内周面141eもテーパー面となる。SiO2層140の境界における開口104cの開口径は、SiN層142の境界における開口141cの開口径よりも大きい。SiN層142において、裏面142aの境界における開口141cの開口径で規定される領域が、次の工程でSiN層142のメンブレンMとなる中心領域Cである。その後、SiN層144の表面144bに塗布した有機保護膜を、アセトンなどSiN層142にダメージを与えない溶液を用いて除去する。
これにより、Si単結晶領域141dによって領域が規定された中心領域Cが形成される。実施例4の通りの寸法で製造すれば、中心領域Cは、約2〜3[μm]四方の領域となる。なお、本裏面Siエッチングプロセスでは、エッチング液がウエハ裏面側だけに触れた状態を構築してエッチングすれば、SiN層144の表面144bへの有機保護膜の塗布は必要なく、工程数の削減が可能である。
図28は、実施例4にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その6)を示す説明図である。図28の工程は、図27の工程で得られたpoly−Si層143の一部を、KOH水溶液を用いて、SiN層144をマスクとしてエッチングする工程である。これにより、poly−Si層143によって領域が規定されたメンブレンMが形成され、メンブレンデバイス1が完成する。poly−Si層143の厚さのばらつきや、KOH水溶液によるエッチングレートばらつきも考慮すると、図28の工程のエッチングは、poly−Si層143の設計膜厚をエッチングする時間よりも長い時間エッチング(すなわちオーバーエッチング)するのがよい。たとえば、メンブレンMの大きさが500[nm]×500[nm]四方の領域程度まで広がるようにオーバーエッチするのがよい。
<ナノポアの形成例>
図29は、実施例4にかかるメンブレンMへのナノポアの形成例を示す説明図である。図29の工程は、図23〜図28に示した工程によりメンブレンMを形成した後に、公知の技術(電子線照射方式や絶縁破壊方式)を用いてメンブレンMにナノポア146を形成する工程である。これにより、メンブレンデバイス1は、ナノポアデバイス2となり、ナノポア146を通過する計測対象物を計測することが可能となる。
実施例4の製法により、SiO2層140の厚さが厚く、すなわちデバイス全体の静電容量が非常に小さく、かつ、500[nm]×500[nm]四方の領域程度の小さなメンブレンMを有するメンブレンデバイス1(ナノポアデバイス2)が形成される。デバイス全体の静電容量が低くなれば、DNA110がナノポア146を通過するイオン電流計測時のノイズも低減することができる。また、メンブレンMを小さくすれば、メンブレンMを成膜する際に発生する不可避な欠陥(原子同士の結合欠陥などによるウィークスポットやピンホール)がメンブレンM中に存在する確率が下がる。したがって、メンブレンMの歩留まりが向上する。
また、実施例4の製法により製造されたナノポアデバイス2を図7または図8に示したアクティブ駆動方式に適用することも可能である。メンブレンMの上部にはpoly−Si層143,SiN層144があるが、トータルの厚さは実施例4では250[nm]とそれほど厚くない。そのため、プローブ基板111に固定されたDNA110の固定端110aに近い部分までナノポア146にDNA110を導入し、DNAシーケンスをすることができる。
実施例4の1[μm]〜20[μm]厚さのSiO2層140がメンブレンMの上部に配置された場合、アクティブ駆動方式は、プローブ基板111に固定されたDNA110の固定端110aから少なくとも1[μm]〜20[μm]の長さの領域をDNAシーケンシングできない。実施例4のメンブレンデバイス1は、1[μm]〜20[μm]厚さのSiO2層140をメンブレンMの下部に配置し、メンブレンMの上部にメンブレンMの領域を狭めるために必要な積層構造(poly−Si層143,SiN層144)のみを配置するという構造である。当該構造は、アクティブ駆動方式におけるDNAシーケンス時の計測電流のノイズ低減に向けた有用な構造である。
また、実施例3で示したナノポアデバイス2(図22)に比べて、実施例4の製法によってでき上がるナノポアデバイス2は、Si単結晶層141の占める割合が少ない。そのため、ナノポアデバイス2の両側に水溶液を満たしたときの水溶液間の静電容量(すなわちナノポアデバイス2の静電容量)は、実施例3で示したデバイスよりも低くなる。その結果として、DNA110がナノポア146を通過するイオン電流の計測時のノイズもより低くなる。
実施例4の製法の優位な点を以下に記す。実施例3と同様、実施例4の製法では、KOHまたはTMAH液によるSiO2層140のエッチングレートは、Si基板100のエッチングレートに比べ遅い。したがって、Si基板100をKOHまたはTMAH液でエッチングする際、厚いSiO2層140がエッチングストッパの役割を果たす。また、フッ酸(HF)またはバッファードフッ酸(BHF)によるSi単結晶層141のエッチングレートは、SiO2層のエッチングレートに比べ遅い。したがって、SiO2層140をフッ酸(HF)またはバッファードフッ酸(BHF)でエッチングする際、Si単結晶層141がエッチングストッパの役割を果たす。
そのため、SiO2層140をエッチングした後は、Si基板100の厚さ(実施例4では725[μm])にくらべて薄いSi単結晶層141(実施例4では厚さ300[nm])をエッチングすれば、メンブレンMの片面を露出させることができる。Si単結晶層141がSi基板100の厚さに比べて薄いため、Si単結晶層141のエッチングの際のオーバーエッチング量も少なくできる。
実施例4のように、Si単結晶層141の厚さが300[nm]で設計されているものとする。ウエハ面内におけるエッチング速度のバラつきや、Si単結晶層141の厚さバラつきを考慮して、Si単結晶層141の厚さ450[nm]程度を標準的にエッチングできるような条件でエッチングする。これにより、Si単結晶層141(厚さ300[nm])を、ウエハ面内でエッチング残りがない安定的なエッチングが可能になる。つまり、Si単結晶層141の設計膜厚の50%分のオーバーエッチをすることで、安定したエッチングが可能である。
一方で、実施例1,実施例2,非特許文献1,または非特許文献2の方法は、途中にエッチストッパを設けることなくSi基板をエッチングし、薄膜メンブレンの片側部分を露出させる。この場合、Siのエッチング残りがなく安定してエッチングするためのオーバーエッチング量は、実施例4より多くする必要がある。なぜなら、Si基板の厚さは、たとえば、8インチウエハで標準725[μm]であり、その厚さのバラつきは、一枚のウエハ内の面内の厚さのバラつきも、異なるウエハ間での厚さのバラつきも、数[μm]程度あり、大きい。そのため、Si基板のエッチングの際のオーバーエッチング量は、実施例4に比べて大きくしないと、Siのエッチング残りがなく安定してエッチングすることはできない。
また、725[μm]の厚さのSi基板をエッチングするため、長時間のエッチング(85℃のTMAH溶液またはKOH水溶液で約8〜9時間)が必要である。そのため、ウエハ面内におけるエッチング速度のバラつきがもたらす、ウエハ面内のSiエッチング完了時間のばらつきも大きい。このため、実施例4に比べてオーバーエッチング量を大きくしないと、ウエハ面内でSiのエッチング残りがなく安定してエッチングすることはできない。
これらにより、従来例(非特許文献1,非特許文献2)のようにSi基板を途中にエッチストッパを入れることなくエッチングする場合、最低でも、50[μm]から100[μm]程度のオーバーエッチングをしないとSiのエッチング残りがなく安定してエッチングすることはできない。TMAH溶液やKOH水溶液は、SiN膜へのダメージは少ないが、それでもやはりダメージは0ではない。そのため、Si基板をエッチングの際のオーバーエッチング量が多くなるにつれ、メンブレンとなるSiN膜へダメージが入る確率は上がっていく。結果としてメンブレンの初期欠陥などの原因となり、製造されるメンブレンの歩留まりを落とす要因となる。
その点、実施例4では、エッチストッパであるSiO2層140がSi基板100とSi単結晶層141の間に挟まれている。このため、最後のSiエッチングの際に必要なオーバーエッチング量は1[μm]以下と少なくすることができる。したがって、メンブレンMへダメージが入る確率を低減することができる。その結果、メンブレンMの初期欠陥が低減され、製造されるメンブレンMの歩留まりを向上させることができた。
また、非特許文献3と異なり、実施例4は、Si単結晶層141上に、メンブレンMを転写ではなく成膜によって形成する。このため、メンブレンMの平坦性に優れ、欠陥も少ない。また、プロセスが簡易であり、SOI基板10を用いた標準的な半導体プロセスを用いているので、量産性に優れる。また、実施例4は、非特許文献3と比べてSiO2層140の露出面が少ない。DNA110はSiO2によく吸着することが知られているが、実施例4ではSiO2層140の露出面が少ない。このため、計測対象のDNA110がSiO2層140に吸着する量も少なくなる。DNA110がSiO2層140の表面に吸着したり、そこから剥がれたりという現象は、DNA110がナノポア146を通過するイオン電流の計測時のノイズの要因となる。したがって、実施例4のようにSiO2層140の露出面の少ない構造は、電流計測時のノイズ低減の観点で有利である。
なお、poly−Si層143の代わりにSiO2層を用いることもできる。SiO2膜の厚さは、たとえば、150[nm]とする。SiO2層は、高温(50〜100℃)のKOH水溶液によってエッチングすることができる。一方、高温(50〜100℃)のKOH水溶液に対しても、SiN層142はほぼダメージを受けないため、メンブレンMを安定して形成することができる。このように、poly−Si層143の代わりにSiO2層を用いることで、測定時に上下チャンバ間の水溶液に挟まれるメンブレンデバイス1の静電容量はさらに低下する。したがって、より計測時のノイズを低減することができる。
なお、絶縁層145は、TMAHまたはKOHエッチングの際に削れにくい材料であれば、実施例4で示した以外の材料でもよい。たとえば、上記の例では、絶縁層145はSiN層としたが、SiO2層でもよい。つまり、TMAHまたはKOHエッチングによるSiのエッチレートに比べて、TMAHまたはKOHエッチングによる絶縁層145のエッチレートが十分に遅いような材料であればよい。また、メンブレンMの材料も、TMAHまたはKOHエッチングの際にほぼダメージを受けない材料であればよい。たとえば、SiN以外にもHfO2やHfAlOを用いてもよい。
Si基板100やSi単結晶層141のエッチングの際には、TMAH液またはKOH水溶液以外の水溶液でもよい。たとえば、Siの結晶異方性エッチングができ、メンブレンMにほぼダメージを与えず、かつ、Siのエッチレートに比べてSiO2層140や絶縁層145のエッチレートが十分に遅いようなアルカリ性の水溶液であればよい。
実施例4で示した製法で形成されたメンブレンデバイス1は、仕上がり形状に特徴がある。具体的には、たとえば、Si基板100の内周面104eおよびSi単結晶層141の内周面141eである{111}面が露出し、Si基板100およびSi単結晶層141に挟まれてSiO2層140が存在する。
また、Si単結晶層141がSiN層142の段差部分に側壁を形成するように存在する。
実施例4では表面100a,141aの面方位が{100}面となるSi基板100およびSi単結晶層141を用いた製法の例を示したが、それ以外でも一定の効果を得ることができる。たとえば、表面100aの面方位が{110}面となるSi基板100を用いた場合、TMAHまたはKOHエッチングによって、Si基板100は表面100aに対して垂直にエッチングされる。このため、Si基板100には、図29のようなテーパー形状の開口104cが形成されない。したがって、Si基板100の開口104cは、テーパー形状とはならない。しかしながら上記効果はほぼ失われることはない。
以上、実施例4の製法を用いることで、メンブレンMを歩留まりよく安定して形成することができる。また、メンブレンMにナノポア146を形成した後、DNA110がナノポア146を通過するイオン電流計測時のノイズも低減することができる。さらに、DNAシーケンシングの際に、アクティブ駆動方式の適用にも向いているメンブレンデバイス1(ナノポアデバイス2)を形成することができる。
実施例5は、実施例3とほぼ同等の効果を示す別の製法を示す。実施例3ではSOI基板10を用いたが、実施例5では、Si基板100を用いた製法を示す。Si基板100はSOI基板10より安価であるため、メンブレンデバイス1の低コスト化が可能となる。
図30は、実施例5にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その1)を示す説明図である。図30において、表面100aの面方位が{100}面であるSi基板100を用意する。Si基板100の上に、絶縁層であるSiO2層150を1〜20[μm]堆積させる。
図31は、実施例5にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その2)を示す説明図である。図31の工程は、図30に示したSi基板100におけるSiO2層150の上に、poly−Si層151,SiN層152,poly−Si層153,SiN層154を堆積させる工程である。poly−Si層151の厚さは、たとえば、100[nm]、SiN層152の厚さは、たとえば、3[nm]、poly−Si層153の厚さは、たとえば、150[nm],SiN層154の厚さは、たとえば、100[nm]とする。また、Si基板100の裏面100dに絶縁層155としてSiN層を堆積させる。絶縁層155の厚さは、たとえば、100[nm]とする。
図32は、実施例5にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その3)を示す説明図である。図32の工程は、図31の工程で得られたSiN層154の一部を、リソグラフィ技術とドライエッチング技術とを用いて開口する工程である。開口154aの面積は、たとえば、100[nm]×100[nm]の四角領域とする。
また、図32の工程は、Si基板100の裏面100d側の絶縁層155を、一般的な半導体リソグラフィ技術とドライエッチング技術とを用いて、(A)および(C)のようにパターニングする工程である。これにより、Si基板100の裏面100dの一部の領域(パターニング領域155a)で、Siが露出する。Siが露出するパターニング領域155aの大きさは、Si基板100の厚さに応じて調整することが好ましい。たとえば、725[μm]厚さのSi基板100を用いる場合、縦1038[μm]、横1038[μm]の領域をパターニング領域155aとしてパターニングするの好ましい。なお、パターニング領域155aの形状は、正方形に限らず、他の多角形でもよい。
図33は、実施例5にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その4)を示す説明図である。図33の工程は、図32の工程で得られたSiN層154の表面154bに不図示の有機保護膜(たとえば、Brewer Science,Inc.社のProTEKB3primerとProTEKB3を用いる)を塗布した後、TMAH液またはKOH水溶液でSi基板100を裏面100d側からエッチングする工程である。
Si基板100のエッチング後、SiO2層150のエッチングを、たとえば、フッ酸(HF)またはバッファードフッ酸(BHF)を用いて行う。SiO2層150のエッチング後、poly−Si層151のエッチングをTMAH液またはKOH水溶液で行う。そうすると、(A)に示したように、Si基板100の内周面104eが露出したテーパー形状の開口104cが形成される。すなわち、エッチングにより、Si基板100は、開口104cが形成されたSi領域104aとなる。内周面104eは{111}面である。なお、エッチングにより、SiO2層150およびpoly−Si層151には、開口150a、151aが形成される。すなわち、エッチングにより、Si基板100は、開口104cが形成されたSi領域104aとなる。エッチングにより、poly−Si層151は、開口151aが形成されたpoly−Si領域151bとなる。また、エッチングにより、SiO2層150には、開口104c,151cを連通する開口150aが形成される。その後、SiN層154の表面154bに塗布した有機保護膜を、アセトンなどSiN層152にダメージを与えない溶液を用いて除去する。
これにより、poly−Si領域151bによって領域が規定された中心領域Cが形成される。実施例5の通りの寸法で製造すれば、中心領域Cは、約50〜100[μm]四方の領域となる。なお、本裏面Siエッチングプロセスでは、エッチング液がウエハ裏面側だけに触れた状態を構築してエッチングすれば、SiN層154の表面154bへの有機保護膜の塗布は必要なく、工程数の削減が可能である。
図34は、実施例5にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その5)を示す説明図である。図34の工程は、図33の工程で得られたpoly−Si層153の一部を、KOH水溶液を用いて、SiN層154をマスクとしてエッチングする工程である。これにより、poly−Si層153によって領域が規定されたメンブレンMが形成され、メンブレンデバイス1が完成する。poly−Si層153の厚さのばらつきやKOH水溶液によるエッチングレートのばらつきも考慮すると、図33の工程のエッチングは、poly−Si層153の設計膜厚をエッチングする時間よりも長い時間エッチング(すなわちオーバーエッチング)するのがよい。たとえば、メンブレンMの大きさが500[nm]×500[nm]四方の領域程度まで広がるようにオーバーエッチするのがよい。
<ナノポアの形成例>
図35は、実施例5にかかるメンブレンMへのナノポアの形成例を示す説明図である。図35の工程は、図30〜図34に示した工程によりメンブレンMを形成した後に、公知の技術(電子線照射方式や絶縁破壊方式)を用いてメンブレンMにナノポア156を形成する工程である。これにより、メンブレンデバイス1は、ナノポアデバイス2となり、ナノポア156を通過する計測対象物を計測することが可能となる。
実施例5の製法により、SiO2層150の厚さが厚く、すなわちデバイス全体の静電容量が非常に小さく、かつ、500[nm]×500[nm]四方の領域程度の小さなメンブレンMを有するメンブレンデバイス1(ナノポアデバイス2)が形成される。デバイス全体の静電容量が低くなれば、DNA110がナノポア156を通過するイオン電流計測時のノイズも低減することができる。また、メンブレンMを小さくすれば、メンブレンMを成膜する際に発生する不可避な欠陥(原子同士の結合欠陥などによるウィークスポットやピンホール)がメンブレンM中に存在する確率が下がる。これにより、メンブレンMの歩留まりが向上する。
また、実施例5の製法により製造されたナノポアデバイス2を図7または図8で説明したアクティブ駆動方式に適用することも可能である。メンブレンMの上部にはpoly−Si層153,SiN層154があるが、トータルの厚さは実施例5では250[nm]とそれほど厚くない。そのため、プローブ基板111に固定されたDNA110の固定端110aに近い部分までナノポア156にDNA110を導入し、DNAシーケンスをすることができる。
実施例5の1[μm]〜20[μm]厚さのSiO2層150がメンブレンMの上部に配置された場合、アクティブ駆動方式は、プローブ基板111に固定されたDNA110の固定端110aから少なくとも1[μm]〜20[μm]の長さの領域をDNAシーケンシングできない。実施例5のメンブレンデバイス1は、1[μm]〜20[μm]厚さのSiO2層150をメンブレンMの下部に配置し、メンブレンMの上部に、メンブレンMの領域を狭めるために必要な積層構造(poly−Si層153,SiN層154)のみを配置するという構造である。当該構造は、アクティブ駆動方式におけるDNAシーケンス時の計測電流のノイズ低減に有用な構造である。
実施例5の製法の優位な点を以下に記す。実施例5の製法では、KOHまたはTMAH液によるSiO2層150のエッチングレートは、Si基板100のエッチングレートに比べ遅い。したがって、Si基板100をKOHまたはTMAH液でエッチングする際、厚いSiO2層150がエッチングストッパの役割を果たす。また、フッ酸(HF)またはバッファードフッ酸(BHF)によるPoly−Si層151のエッチングレートは、SiO2層150のエッチングレートに比べ遅い。したがって、SiO2層150をフッ酸(HF)またはバッファードフッ酸(BHF)でエッチングする際、Poly−Si層151がエッチングストッパの役割を果たす。
そのため、SiO2層150をエッチングした後は、Si基板100の厚さ(実施例5では725[μm])にくらべて薄いPoly−Si層151(実施例5では厚さ100[nm])をエッチングすれば、Poly−Si層151で領域が規定されたメンブレンMの片面を露出させることができる。Poly−Si層151がSi基板100の厚さに比べて薄いため、Poly−Si層151のエッチングの際のオーバーエッチング量も少なくできる。
実施例5のように、Poly−Si層151の厚さが100[nm]で設計されているものとする。ウエハ面内におけるエッチング速度のバラつきや、Poly−Si層151の厚さバラつきを考慮して、Poly−Si層151の厚さ150[nm]程度を標準的にエッチングできるような条件でエッチングする。これにより、Poly−Si層151(厚さ100[nm])を、ウエハ面内でエッチング残りがない安定的なエッチングが可能になる。つまり、Poly−Si層151の設計膜厚の50%分のオーバーエッチをすることで、安定したエッチングが可能である。
一方で、実施例1,実施例2,非特許文献1,または非特許文献2の方法は、途中にエッチストッパを設けることなくSi基板をエッチングし、薄膜メンブレンの片側部分を露出させる。この場合、Siのエッチング残りがなく安定してエッチングするためのオーバーエッチング量は、実施例5より多くする必要がある。なぜなら、Si基板の厚さは、たとえば、8インチウエハで標準725[μm]であり、その厚さのバラつきは、一枚のウエハ内の面内の厚さのバラつきも、異なるウエハ間での厚さのバラつきも、数[μm]程度あり、大きい。そのため、Si基板のエッチングの際のオーバーエッチング量は、実施例5に比べて大きくしないと、Siのエッチング残りがなく安定してエッチングすることはできない。
また、725[μm]のSi基板の厚さをエッチングするため、長時間のエッチング(85℃のTMAH溶液またはKOH水溶液で約8〜9時間)が必要である。そのため、ウエハ面内におけるエッチング速度のバラつきがもたらす、ウエハ面内のSiエッチング完了時間のばらつきも大きい。このため、実施例5に比べてオーバーエッチング量を大きくしないと、ウエハ面内でSiのエッチング残りがなく安定してエッチングすることはできない。
これらにより、従来例(非特許文献1,非特許文献2)のようにSi基板を途中にエッチストッパを入れることなくエッチングする場合、最低でも、50[μm]から100[μm]程度のオーバーエッチングをしないとSiのエッチング残りがなく安定してエッチングすることはできない。TMAH溶液やKOH水溶液は、SiN膜へのダメージは少ないが、それでもやはりダメージは0ではない。そのため、Si基板をエッチングの際のオーバーエッチング量が多くなるにつれ、メンブレンとなるSiN膜へダメージが入る確率は上がっていき、結果としてメンブレンの初期欠陥などの原因となり、製造されるメンブレンの歩留まりを落とす要因となる。
その点、実施例5では、エッチストッパであるSiO2層150がSi基板100とPoly−Si層151の間に挟まれている。このため、最後のSiエッチングの際に必要なオーバーエッチング量は1[μm]以下と少なくすることができる。したがって、メンブレンMへダメージが入る確率を低減することができる。その結果、メンブレンMの初期欠陥が低減され、製造されるメンブレンMの歩留まりを向上させることができた。
また、非特許文献3と異なり、実施例5は、Poly−Si層151上に、メンブレンMを転写ではなく成膜によって形成する。このため、メンブレンの平坦性に優れ、欠陥も少ない。また、プロセスが簡易であり、Si基板100を用いた標準的な半導体プロセスを用いているので、量産性に優れる。また、実施例5は、非特許文献3と比べてSiO2層150の露出面が少ない。DNA110はSiO2によく吸着することが知られているが、実施例5ではSiO2層150の露出面が少ない。このため、計測対象のDNA110がSiO2層150に吸着する量も少なくなる。DNA110がSiO2層150の表面に吸着したり、そこから剥がれたりという現象は、DNA110がナノポア156を通過するイオン電流の計測時のノイズの要因となる。したがって、実施例5のようにSiO2層150の露出面の少ない構造は、電流計測時のノイズ低減の観点で有利である。
なお、poly−Si層153の代わりにSiO2層を用いることもできる。SiO2層の厚さは、たとえば、150[nm]とする。SiO2層は、高温(50〜100℃)のKOH水溶液によってエッチングすることができる。一方、高温(50〜100℃)のKOH水溶液に対しても、SiN層152はほぼダメージを受けないため、メンブレンMを安定して形成することができる。このように、poly−Si層153の代わりにSiO2層を用いることで、測定時に上下チャンバ間の水溶液に挟まれるメンブレンデバイス1の静電容量はさらに低下する。したがって、より計測時のノイズを低減することができる。
なお、絶縁層155は、TMAHまたはKOHエッチングの際に削れにくい材料であれば、実施例5で示した以外の材料でもよい。たとえば、上記の例では、絶縁層155はSiN層としたが、SiO2層でもよい。つまり、TMAHまたはKOHエッチングによるSiのエッチレートに比べて、TMAHまたはKOHエッチングによる絶縁層155のエッチレートが十分に遅いような材料であればよい。また、メンブレンMの材料も、TMAHまたはKOHエッチングの際にほぼダメージを受けない材料であればよい。たとえば、SiN以外にもHfO2やHfAlOを用いてもよい。
Si基板100やPoly−Si層151のエッチングの際には、TMAH液またはKOH水溶液以外の水溶液でもよい。たとえば、Siの結晶異方性エッチングができ、メンブレンMにほぼダメージを与えず、かつ、Siのエッチレートに比べてSiO2層150や絶縁層155のエッチレートが十分に遅いようなアルカリ性の水溶液であればよい。
実施例5で示した製法で形成されたメンブレンデバイス1は、仕上がり形状に特徴がある。具体的には、たとえば、Si基板100の内周面104eである{111}面が露出し、Si基板100およびPoly−Si層151に挟まれてSiO2層150が存在する。また、たとえば、Poly−Si層151の開口151aがSiO2層150の開口150aより広くなる。
以上、実施例5の製法を用いることで、メンブレンMを歩留まりよく安定して形成することができる。また、メンブレンMにナノポア156を形成した後、DNA110がナノポア156を通過するイオン電流計測時のノイズも低減することができる。さらに、DNAシーケンシングの際に、アクティブ駆動方式の適用にも向いているメンブレンデバイス1(ナノポアデバイス2)を形成することができる。
実施例6は、実施例4とほぼ同等の効果を示す別の製法を示す。実施例4ではSOI基板10を用いたが、実施例6では、Si基板100を用いた製法を示す。Si基板100はSOI基板10より安価であるため、メンブレンデバイス1の低コスト化が可能となる。
図36は、実施例6にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その1)を示す説明図である。図36において、表面100aの面方位が{100}面のSi基板100を用意する。図36の工程は、Si基板100上に、絶縁層であるSiO2層160を1〜20[μm]堆積させ、その上に、poly−Si層161を堆積させる工程である。poly−Si層161の厚さは、たとえば、100[nm]とする。
図37は、実施例6にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その2)を示す説明図である。図37の工程は、図36で得られたSi基板100におけるpoly−Si層161をドライエッチングによりパターニングし、poly−Siの島パターン161bを形成する工程である。Siの島パターン161bの領域は、たとえば、縦3[μm]、横3[μm]とする。
図38は、実施例6にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その3)を示す説明図である。図38の工程は、図37の工程で得られたSi基板100のSiO2層160および島パターン161b上にSiN層162を堆積させる工程である。SiN層162の厚さは、たとえば、3[nm]とする。そして、その上にpoly−Si層163,SiN層164を堆積させる。poly−Si層163の厚さは、たとえば、150[nm]、SiN層164の厚さは、たとえば、100[nm]とする。また、Si基板100の裏面100dに絶縁層165を堆積させる。絶縁層165の厚さは、たとえば、100[nm]とする。
図39は、実施例6にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その4)を示す説明図である。図39の工程は、図38の工程で得られたSiN層164の一部を、リソグラフィ技術とドライエッチング技術とを用いて開口する工程である。開口164aの面積は、たとえば、100[nm]×100[nm]の四角領域とする。
また、図39の工程は、Si基板100の裏面100d側の絶縁層165を、一般的な半導体リソグラフィ技術とドライエッチング技術を用いて、(A)および(C)のようにパターニングする工程である。これにより、Si基板100の裏面100dの一部の領域(パターニング領域165a)で、Siが露出する。Siが露出するパターニング領域165aの大きさは、Si基板100の厚さに応じて調整することが好ましい。たとえば、725[μm]厚さのSi基板100を用いる場合、たとえば縦1038[μm]、横1038[μm]の領域をパターニング領域165aとしてパターニングするのが好ましい。なお、パターニング領域165aの形状は、正方形に限らず、他の多角形でもよい。
図40は、実施例6にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その5)を示す説明図である。図40の工程は、図39の工程で得られたSiN層164の表面164bに不図示の有機保護膜(たとえば、Brewer Science,Inc.社のProTEKB3primerとProTEKB3を用いる)を塗布した後、TMAH液またはKOH水溶液でSi基板100を裏面100d側からエッチングする工程である。
Si基板100のエッチング後、SiO2層160のエッチングを、たとえば、フッ酸(HF)またはバッファードフッ酸(BHF)を用いて行う。SiO2層160のエッチング後、Si層161のエッチングをTMAH液またはKOH水溶液で行う。そうすると、(A)に示したように、Si基板100の内周面104eが露出したテーパー形状の開口104cが形成される。すなわち、エッチングにより、Si基板100は、開口104cが形成されたSi領域104aとなる。内周面104eは{111}面である。
エッチングにより、SiO2層160およびpoly−Si層161には、開口160a、161cが形成される。
その後、SiN層164の表面164bに塗布した有機保護膜を、アセトンなどSiN層162にダメージを与えない溶液を用いて除去する。
これにより、poly−Si層161によって領域が規定された中心領域Cが形成される。実施例6の通りの寸法で製造すれば、中心領域Cは、約2〜3[μm]四方の領域となる。なお、本裏面Siエッチングプロセスでは、エッチング液がウエハ裏面側だけに触れた状態を構築してエッチングすれば、SiN層164の表面164bへの有機保護膜の塗布は必要なく、工程数の削減が可能である。
図41は、実施例6にかかるメンブレンデバイスの製造方法(その6)を示す説明図である。図41の工程は、図40の工程で得られたpoly−Si層163の一部を、KOH水溶液を用いて、SiN層164をマスクとしてエッチングする工程である。これにより、poly−Si層163によって領域が規定されたメンブレンMが形成され、メンブレンデバイス1が完成する。poly−Si層163の厚さのばらつきや、KOH水溶液によるエッチングレートばらつきも考慮すると、図41の工程のエッチングは、poly−Si層163の設計膜厚をエッチングする時間よりも長い時間エッチング(すなわちオーバーエッチング)するのがよい。たとえば、メンブレンMの大きさが500[nm]×500[nm]四方の領域程度まで広がるようにオーバーエッチするのがよい。
<ナノポアの形成例>
図42は、実施例6にかかるメンブレンMへのナノポアの形成例を示す説明図である。図42の工程は、図36〜図41に示した工程によりメンブレンMを形成した後に、公知の技術(電子線照射方式や絶縁破壊方式)を用いてメンブレンMにナノポア166を形成する工程である。これにより、メンブレンデバイス1は、ナノポアデバイス2となり、ナノポア166を通過する計測対象物を計測することが可能となる。
実施例6の製法により、SiO2層160の厚さが厚く、すなわちデバイス全体の静電容量が非常に小さく、かつ、500[nm]×500[nm]四方の領域程度の小さなメンブレンMを有するメンブレンデバイス1(ナノポアデバイス2)が形成される。デバイス全体の静電容量が低くなれば、DNA110がナノポア166を通過するイオン電流計測時のノイズも低減することができる。また、メンブレンMを小さくすれば、メンブレンMを成膜する際に発生する不可避な欠陥(原子同士の結合欠陥などによるウィークスポットやピンホール)がメンブレンM中に存在する確率が下がる。したがって、メンブレンMの歩留まりが向上する。
また、実施例6の製法により製造されたナノポアデバイス2を図7または図8に示したアクティブ駆動方式に適用することも可能である。メンブレンMの上部にはpoly−Si層163,SiN層164があるが、トータルの厚さは実施例6では250[nm]とそれほど厚くない。そのため、プローブ基板111に固定されたDNA110の固定端110aに近い部分までナノポア166にDNA110を導入し、DNAシーケンスをすることができる。
実施例6の1[μm]〜20[μm]厚さのSiO2層160がメンブレンMの上部に配置された場合、アクティブ駆動方式は、プローブ基板111に固定されたDNA110の固定端110aから少なくとも1[μm]〜20[μm]の長さの領域をDNAシーケンシングできない。実施例6のメンブレンデバイス1は、1[μm]〜20[μm]厚さのSiO2層160をメンブレンMの下部に配置し、メンブレンMの上部にメンブレンMの領域を狭めるために必要な積層構造(poly−Si層163,SiN層164)のみを配置するという構造である。当該構造は、アクティブ駆動方式におけるDNAシーケンス時の計測電流のノイズ低減に向けた有用な構造である。
また、実施例5で示したナノポアデバイス2(図35)に比べて、実施例6の製法によってでき上がるナノポアデバイス2は、デバイス仕上がり時にpoly−Si層161がなくなっている。そのため、ナノポアデバイス2の両側に水溶液を満たしたときの水溶液間の静電容量(すなわちナノポアデバイス2の静電容量)は、実施例5で示したデバイスよりも低くなる。その結果として、DNA110がナノポア166を通過するイオン電流の計測時のノイズもより低くなる。
実施例6の製法の優位な点を以下に記す。実施例5と同様、実施例6の製法では、KOHまたはTMAH液によるSiO2層のエッチングレートは、Si基板100のエッチングレートに比べ遅い。Si基板100をKOHまたはTMAH液でエッチングする際、厚いSiO2層160がエッチングストッパの役割を果たす。また、フッ酸(HF)またはバッファードフッ酸(BHF)によるpoly−Si層161のエッチングレートは、SiO2層160のエッチングレートに比べ遅い。SiO2層160をフッ酸(HF)またはバッファードフッ酸(BHF)でエッチングする際、poly−Si層161がエッチングストッパの役割を果たす。
そのため、SiO2層160をエッチングした後は、Si基板100の厚さ(実施例6では725[μm])にくらべて薄いpoly−Si層161(実施例6では厚さ100[nm])をエッチングすれば、メンブレンMの片面を露出させることができる。poly−Si層161がSi基板100の厚さに比べて薄いため、poly−Si層161のエッチングの際のオーバーエッチング量も少なくできる。
実施例6のように、poly−Si層161の厚さが100[nm]で設計されているものとする。ウエハ面内におけるエッチング速度のバラつきや、poly−Si層161の厚さバラつきを考慮すると、poly−Si層161の厚さ150[nm]程度を標準的にエッチングできるような条件でエッチングする。これにより、poly−Si層161(厚さ100[nm])を、ウエハ面内でエッチング残りがない安定的なエッチングが可能になる。つまり、poly−Si層161の設計膜厚の50%分のオーバーエッチをすることで、安定したエッチングが可能である。
一方で、実施例1,実施例2,非特許文献1,または非特許文献2の方法は、途中にエッチストッパを設けることなくSi基板をエッチングし、薄膜メンブレンの片側部分を露出させる。この場合、Siのエッチング残りがなく安定してエッチングするためのオーバーエッチング量は、実施例6より多くする必要がある。なぜなら、Si基板の厚さは、たとえば、8インチウエハで標準725[μm]であり、その厚さのバラつきは、一枚のウエハ内の面内の厚さのバラつきも、異なるウエハ間での厚さのバラつきも、数[μm]程度あり、大きい。そのため、Si基板のエッチングの際のオーバーエッチング量は、実施例6に比べて大きくしないと、Siのエッチング残りがなく安定してエッチングすることはできない。
また、725[μm]の厚さのSi基板をエッチングするため、長時間のエッチング(85℃のTMAH溶液またはKOH水溶液で約8〜9時間)が必要である。そのため、ウエハ面内におけるエッチング速度のバラつきがもたらす、ウエハ面内のSiエッチング完了時間のばらつきも大きい。このため、実施例6に比べてオーバーエッチング量を大きくしないと、ウエハ面内でSiのエッチング残りがなく安定してエッチングすることはできない。
これらにより、従来例(非特許文献1,非特許文献2)のようにSi基板を途中にエッチストッパを入れることなくエッチングする場合、最低でも、50[μm]から100[μm]程度のオーバーエッチングをしないとSiのエッチング残りがなく安定してエッチングすることはできない。TMAH溶液やKOH水溶液は、SiN膜へのダメージは少ないが、それでもやはりダメージは0ではない。そのため、Si基板をエッチングの際のオーバーエッチング量が多くなるにつれ、メンブレンとなるSiN膜へダメージが入る確率は上がっていく。結果としてメンブレンの初期欠陥などの原因となり、製造されるメンブレンの歩留まりを落とす要因となる。
その点、実施例6では、エッチストッパであるSiO2層160がSi基板100とpoly−Si層161の間に挟まれている。このため、最後のSiエッチングの際に必要なオーバーエッチング量は1[μm]以下と少なくすることができる。したがって、poly−Si層163で領域が規定されたメンブレンMへダメージが入る確率を低減することができる。その結果、poly−Si層163で領域が規定されたメンブレンMの初期欠陥が低減され、製造されるメンブレンMの歩留まりを向上させることができた。
また、非特許文献3と異なり、実施例6は、poly−Si層161上に、メンブレンMを転写ではなく成膜によって形成する。このため、メンブレンMの平坦性に優れ、欠陥も少ない。また、プロセスが簡易であり、Siウエハを用いた標準的な半導体プロセスを用いているので、量産性に優れる。また、実施例6は、非特許文献3と比べてSiO2層160の露出面が少ない。DNA110はSiO2によく吸着することが知られているが、実施例6ではSiO2層160の露出面が少ない。このため、計測対象のDNA110がSiO2層160に吸着する量も少なくなる。DNA110がSiO2層160の表面に吸着したり、そこから剥がれたりという現象は、DNA110がナノポア166を通過するイオン電流の計測時のノイズの要因となる。したがって、実施例6のようにSiO2層160の露出面の少ない構造は、電流計測時のノイズ低減の観点で有利である。
なお、poly−Si層163の代わりにSiO2層を用いることもできる。SiO2層の厚さは、たとえば、150[nm]とする。SiO2層は、高温(50〜100℃)のKOH水溶液によってエッチングすることができる。一方、高温(50〜100℃)のKOH水溶液に対してもSiN層162はほぼダメージを受けないため、メンブレンMを安定して形成することができる。このように、poly−Si層163の代わりにSiO2層を用いることで、測定時に上下チャンバ間の水溶液に挟まれるメンブレンデバイス1の静電容量はさらに低下する。したがって、より計測時のノイズを低減することができる。
なお、絶縁層165は、TMAHまたはKOHエッチングの際に削れにくい材料であれば、実施例6で示した以外の材料でもよい。たとえば、上記の例では、絶縁層165はSiN層としたが、SiO2層でもよい。つまり、TMAHまたはKOHエッチングによるSiのエッチレートに比べて、TMAHまたはKOHエッチングによる絶縁層165のエッチレートが十分に遅いような材料であればよい。また、メンブレンMの材料も、TMAHまたはKOHエッチングの際にほぼダメージを受けない材料であればよい。たとえば、SiN以外にもHfO2やHfAlOを用いてもよい。
Si基板100やpoly−Si層161のエッチングの際には、TMAH液またはKOH水溶液以外の水溶液でもよい。たとえば、Siの結晶異方性エッチングができ、メンブレンMにほぼダメージを与えず、かつ、Siのエッチレートに比べてSiO2層160や絶縁層165のエッチレートが十分に遅いようなアルカリ性の水溶液であればよい。
実施例6で示した製法で形成されたメンブレンデバイス1は、仕上がり形状に特徴がある。具体的には、たとえば、Si基板100の内周面104eである{111}面が露出し、Si基板100およびSiN層162に挟まれてSiO2層160が存在する。
また、poly−Si層161がデバイス完成時に残らない。
以上、実施例6の製法を用いることで、メンブレンMを歩留まりよく安定して形成することができる。また、メンブレンMにナノポア166を形成した後、DNA110がナノポア166を通過するイオン電流計測時のノイズも低減することができる。さらに、DNAシーケンシングの際に、アクティブ駆動方式の適用にも向いているメンブレンデバイス1(ナノポアデバイス2)を形成することができる。
実施例7は、実施例1の製法において、SiN層102を堆積させずに図1から図5までの工程を行うことによりナノポアデバイス2を形成する例である。
図43は、実施例7におけるナノポアデバイスの形成例を示す説明図である。ナノポア170の大きさは、実施例1で説明したとおり、図1の工程で形成するSi基板100の島パターン100bの大きさで制御可能である。たとえば、図1の工程において、Siの島パターン100bの大きさを縦100[nm],横100[nm],Siの島パターン100bの高さを60〜70[nm]とする。図2から図5に相当する工程を行うことで、ナノポア(ホール領域)170が形成される。
ナノポア170は、島パターン100bの表面100aに形成されるため、鋭角な形状の周端縁104gとなる。ナノポア170は、縦横長共に約1[nm]から20[nm]程度の大きさの領域である。実施例7では、島パターン100bの表面100aがメンブレンMに相当する。
すなわち、現行のリソグラフィ技術で規定した大きさ以下の微細なナノポア170を形成し、計測に用いることが可能である。すなわち、図43のナノポアデバイス2の上下に水溶液を満たし、ナノポア170を通過するイオン電流を計測する。そして、DNA110などの測定対象物がナノポア170に入った際に変動するイオン電流の変化から、測定対象物の特性や構造量を観測する。
実施例7によって形成されたナノポアデバイス2の特徴は、ナノポア170を規定する周端縁104gが、Siの異方性エッチを用いて形成されているため、尖っていることである。つまり、ナノポアデバイス2の上面側から見た島パターン100bの表面100aの面方位は、露出した{100}面であり、ナノポアデバイス2の下面側から見た島パターン100bの内周面104eの面方位は、露出した{111}面である。
ナノポアシーケンサのDNA読み取り精度を決定する重要な要因の一つに、メンブレンMの膜厚がある。すなわち、メンブレンMの膜厚は、薄ければ薄いほうがよい。なぜならば、DNA鎖中に配列する4種塩基(A、G、C、T)の隣同士の間隔はおよそ0.34[nm]である。この間隔よりもメンブレンMの厚さが厚くなればなるほど、ナノポア中に同時に多くの塩基が入ることになる。
そうすると、電流計測によって得られる信号も複数塩基に由来した信号となってしまい、塩基配列の決定精度を落とす原因となるほか、信号の解析も、より複雑になってしまう。また、DNA110以外の、多様な生体分子の構造的な特徴取得を目的とする場合でも、メンブレンMの厚さが厚くなればなるほど、空間分解能を落としてしまう。したがって、ナノポアを有するメンブレンMの厚さをできるだけ薄くすることが、測定対象物の構造決定精度を向上させるのに重要である。
その点、実施例7で形成されるナノポアデバイス2は、島パターン100bの表面100aに形成されたナノポア170は、鋭角な周端縁104gで規定されるため、ナノポア170近傍におけるメンブレンMの実質的な膜厚は、原子1個分程度となり、薄くなる。そのため、ナノポア170中の測定対象物の測定において、測定の空間分解能を高くすることができる。
以上のことから、実施例1〜7の製造方法によれば、メンブレンの破壊を抑制し、低静電容量のメンブレンを有するデバイスを製造することができる。また、本実施例1〜7で製造されるデバイスは、メンブレンに形成されたナノポアを通過するイオン電流を計測したときのノイズの低減化を図ることができる。したがって、ナノポアを通過する測定対象物の構造決定精度の向上を図ることができる。
なお、本発明は前述した実施例に限定されるものではなく、添付した特許請求の範囲の趣旨内における様々な変形例及び同等の構成が含まれる。たとえば、前述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに本発明は限定されない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えてもよい。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えてもよい。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除、または置換をしてもよい。