JP6558828B2 - 予測方法及び該予測方法を用いるタンパク−タンパク相互作用のインターフェースを阻害する阻害剤の候補となり得る化合物の設計方法 - Google Patents
予測方法及び該予測方法を用いるタンパク−タンパク相互作用のインターフェースを阻害する阻害剤の候補となり得る化合物の設計方法 Download PDFInfo
- Publication number
- JP6558828B2 JP6558828B2 JP2015163287A JP2015163287A JP6558828B2 JP 6558828 B2 JP6558828 B2 JP 6558828B2 JP 2015163287 A JP2015163287 A JP 2015163287A JP 2015163287 A JP2015163287 A JP 2015163287A JP 6558828 B2 JP6558828 B2 JP 6558828B2
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- protein
- residues
- inhibitor
- σδsasa
- sirps
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Active
Links
Landscapes
- Medicines That Contain Protein Lipid Enzymes And Other Medicines (AREA)
- Investigating Or Analysing Biological Materials (AREA)
Description
多くの研究は、PPIs阻害剤の物理化学的数値に関する研究や(非特許文献8〜12)、3次元のトポロジカルな特徴に関する研究(非特許文献13・14)等、阻害剤の性質に着目する研究である。
しかし、これらの情報では、ある化合物群から、PPIs阻害剤になり得る小分子化合物の選出には有効であるが、阻害剤がPPIsインターフェースのどの位置に結合するかを予測し、薬に繋がる小分子が阻害活性を示すサイト(タンパク表面上の位置)を同定することは難しい。
タンパク質間のインターフェースとして様々なタンパク質の2次構造が考えられる。しかし、ペプチドミミックな構造のライブラリーデザインへの利用が試みられているインターフェースのタンパク質の2次構造は、α−へリックスに集中している(非特許文献15〜17)。この理由は、α−ヘリックスは筒状のため、理想的なα−ヘリックスを上からみるとα−へリックス側鎖の各残基の伸びる方向が非常に規則的であり、デザインが容易であるためである。
突き刺さる残基をベクトルと考えた場合(ベクトルの根元をCαとし先端をCωとする)、ポケットが様々な方向を向いているため、それに突き刺さる残基(ベクトル)は3次元的に多用性があることになる。2つの残基(ベクトル)の3次元空間での配置は、残基間の距離と二面角で一義的に決めることができる。
したがって、3次元的な向きは、PPIs阻害剤の開発やライブラリーデザインにおいて、阻害剤のファーマコフォアの空間的な位置関係だけでなく、アミノ酸残基の側鎖が小さいポケットに侵入する角度もPPIsを詳細に理解するためには重要であると考えられる。
BoganとThornは、ホットスポットでは小さいポケットが疎水性残基に囲まれているため、水分子をポケット内に入れないことにより、タンパク質間相互作用で重要な働きをし、ポケットを認識するアミノ酸残基が水を取り除くためのエネルギーをロスすることなくポケットを認識し結合することを指摘している(非特許文献24、25)。
また、Rajamani等は、タンパク質間の結合前後で、側鎖が結合するに際して、solvent-accessible surface areas(溶媒露出表面積)が変化(ΔSASA)することに着目し、結合に際して最も大きいSASAを埋めるホットスポット上の残基を明らかにした。それらを「anchor residues」と定義し、タンパク−タンパクの認識に必要な高い選択性を生み出すために必要と結論づけている(非特許文献26)。
低分子阻害剤が重なる残基(SIRs:superimposed residues)と重なりのない残基(non−SIRs:non-superimposed residues)の3次元配置に関係するパラメーターの違いや、結合能に関係するパラメーターの違いを比較分析し、阻害剤と重なる残基のペアのパラメーターを調べた結果、SIRs間で、特定のパラメーターに相関関係があることを見出した。
また、この相関関係は、様々な種類の標的タンパク質−パートナータンパク質複合体や該複合体の阻害剤でも見られることを見出して本発明を完成するに至った。
(1)既知のタンパク−タンパク相互作用をするタンパク、及び、該相互作用のインターフェースを阻害する既知の阻害剤の構造情報を得る工程
(2)工程(1)で得られた構造情報から、該既知のタンパク−タンパク相互作用のインターフェースを阻害する際に関与するタンパクの残基を選定する工程
(3)工程(2)で選定した残基の中から任意の2つの残基を抽出し、該2つの残基間の二面角の絶対値(|DA|)、及びタンパク−タンパク相互作用しているときとタンパク−タンパク相互作用していないときの溶媒露出表面積の変化の総和(ΣΔSASA)の回帰直線を作成する工程
(4)予測対象の標的タンパク、そのパートナータンパク、及び、モデル阻害剤の構造情報を得る工程
(5)工程(4)で得られた構造情報から、予測対象の標的タンパクとそのパートナータンパクとのタンパク−タンパク相互作用を、該モデル阻害剤が阻害する際に関与するタンパクの残基を選定する工程
(6)工程(5)で選定した残基の中から任意の2つの残基を抽出し、該2つの残基間の二面角の絶対値(|DA|)、及びタンパク−タンパク相互作用しているときとタンパク−タンパク相互作用していないときの溶媒露出表面積の変化の総和(ΣΔSASA)、及び、工程(3)で得られた回帰直線を基に、該任意の2つの残基が、該モデル阻害剤が該予測対象のタンパクに結合する位置の候補となり得るか否かを判定する工程
(7)工程(6)で候補となり得ると判定された2つの残基を基に、該モデル阻害剤が該予測対象のタンパクに結合する位置を予測する工程
しかし、本発明によれば、既知の阻害剤が結合する位置とは異なる位置に結合することによりタンパク−タンパク相互作用のインターフェースを阻害する阻害剤を設計することができる。
また、「モデル阻害剤」がタンパクに結合する位置を予測できるので、予測された「該タンパクにおける該位置」の情報を参考に、逆に「モデル阻害剤」とは異なる新しい阻害剤の構造の設計ができる。
本発明の予測方法は、タンパク−タンパク相互作用のインターフェースを阻害する阻害剤が該タンパクに結合する位置を予測する予測方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする予測方法である。
(1)既知のタンパク−タンパク相互作用をするタンパク、及び、該相互作用のインターフェースを阻害する既知の阻害剤の構造情報を得る工程
(2)工程(1)で得られた構造情報から、該既知のタンパク−タンパク相互作用のインターフェースを阻害する際に関与するタンパクの残基を選定する工程
(3)工程(2)で選定した残基の中から任意の2つの残基を抽出し、該2つの残基間の二面角の絶対値(|DA|)、及びタンパク−タンパク相互作用しているときとタンパク−タンパク相互作用していないときの溶媒露出表面積の変化の総和(ΣΔSASA)の回帰直線を作成する工程
(4)予測対象の標的タンパク、そのパートナータンパク、及び、モデル阻害剤の構造情報を得る工程
(5)工程(4)で得られた構造情報から、予測対象の標的タンパクとそのパートナータンパクとのタンパク−タンパク相互作用を、該モデル阻害剤が阻害する際に関与するタンパクの残基を選定する工程
(6)工程(5)で選定した残基の中から任意の2つの残基を抽出し、該2つの残基間の二面角の絶対値(|DA|)、及びタンパク−タンパク相互作用しているときとタンパク−タンパク相互作用していないときの溶媒露出表面積の変化の総和(ΣΔSASA)、及び、工程(3)で得られた回帰直線を基に、該任意の2つの残基が、該モデル阻害剤が該予測対象のタンパクに結合する位置の候補となり得るか否かを判定する工程
(7)工程(6)で候補となり得ると判定された2つの残基を基に、該モデル阻害剤が該予測対象のタンパクに結合する位置を予測する工程
工程(1)は、既知のタンパク−タンパク相互作用をするタンパク、及び、該相互作用のインターフェースを阻害する既知の阻害剤の構造情報を得る工程である。
工程(2)は、上記工程(1)で得られた構造情報から、該既知のタンパク−タンパク相互作用のインターフェースを阻害する際に関与するタンパクの残基を選定する工程である。
ΔGとは、ギブスの自由エネルギーの変化を示す。計算方法等は、例えば、非特許文献26や、Meireles, L. M. C. et al., Nucleic Acids Res. 2010, 38, W407-411に開示されている。
「ΔSASA」は、タンパク−タンパク相互作用しているときと相互作用していないときの残基のSASA(solvent-accessible surface area;溶媒露出表面積)の変化を示す。計算方法等は、非特許文献26に開示されている方法に従う。
本明細書において、「阻害剤と重なり合う残基」とは、「残基中に存在する原子のうち、何れかの原子の中心が、阻害剤をvan der Waals半径で球を描いたときに、該球と重なっている残基」を指す(図1b及びc)。
工程(3)は、上記工程(2)で選定した残基の中から任意の2つの残基を抽出し、該2つの残基間の二面角の絶対値(|DA|)、及びタンパク−タンパク相互作用しているときとタンパク−タンパク相互作用していないときの溶媒露出表面積の変化の総和(ΣΔSASA)の回帰直線を作成する工程である。
Cαは、アミノ酸の中心炭素原子である。Cωは、Cα又はCβ(Cαに結合する、側鎖中の炭素原子)から最も遠い位置にある水素以外の原子である。
「回帰直線」は、最小二乗法を用いて常法により求める。
ΣΔSASA[Å2]=−0.57|DA|+211 (1)
ΣΔSASA[Å2]=−0.53|DA|+207 (2)
[式(1)及び式(2)中、|DA|は、2つの残基間の二面角の絶対値を示し、ΣΔSASAは、タンパク−タンパク相互作用しているときとタンパク−タンパク相互作用していないときの溶媒露出表面積の変化の総和[Å2]を示す。]
ΣΔSASA[Å2]=−0.55|DA|+212 (3)
ΣΔSASA[Å2]=−0.49|DA|+194 (4)
[式(3)及び式(4)中、|DA|は、2つの残基間の二面角の絶対値を示し、ΣΔSASAは、2つの残基の溶媒露出表面積の変化の総和[Å2]を示す。]
工程(4)は、予測対象の標的タンパク及びそのパートナータンパク、及び、モデル阻害剤の構造情報を得る工程である。
ここで「予測対象のタンパク」とは、モデル阻害剤が結合する位置を予測する対象となる該タンパクを言う。
また、ここで「モデル阻害剤」とは、結合する「タンパク上の位置の予測」に用いられる阻害剤を言う。
工程(5)は、上記工程(4)で得られた構造情報から、予測対象の標的タンパクとそのパートナータンパクとのタンパク−タンパク相互作用を、該モデル阻害剤が阻害する際に関与するタンパクの残基を選定する工程である。
残基の選定手段等は、上記工程(2)と同様の手段を用いることができる。
工程(6)は、上記工程(5)で選定した残基の中から任意の2つの残基を抽出し、「該2つの残基間の二面角の絶対値(|DA|)」、及び、「タンパク−タンパク相互作用しているときとタンパク−タンパク相互作用していないときの溶媒露出表面積の変化の総和(ΣΔSASA)」、及び、「上記工程(3)で得られた回帰直線」を基に、該任意の2つの残基が、該モデル阻害剤が該予測対象のタンパクに結合する位置の候補となり得るか否かを判定する工程である。
「2つの残基間の二面角の絶対値」も上記工程(3)と同様に、「Cω−Cα−Cα−Cω」の値と定義し、PyMOLソフトを利用して二面角を計算することができる。
すなわち、上記任意の2つの残基に関する|DA|をx軸、ΣΔSASAをy軸として、上記工程(3)で得られた回帰直線を用い、ΣΔSASA[Å2]=−a|DA|+b±1.96S.E.(標準偏差)の範囲にプロットされた場合は(式中、a及びbは、上記工程(3)で得られる値である)、該任意の2つの残基は、上記「モデル阻害剤」が上記「予測対象のタンパク」に結合する位置の候補となり得ると判定する。
ΣΔSASA[Å2]=−0.57|DA|+211 (1)
ΣΔSASA[Å2]=−0.53|DA|+207 (2)
また、上記回帰直線が、上記2つの残基が何れも非極性のときは、下記式(3)であり、上記2つの残基の一方が極性で他方が非極性のときは、下記式(4)であることが好ましい。
ΣΔSASA[Å2]=−0.55|DA|+212 (3)
ΣΔSASA[Å2]=0.49|DA|+194 (4)
工程(7)は、上記工程(6)で候補となり得ると判定された2つの残基を基に、上記「モデル阻害剤」が上記「予測対象のタンパク」に結合する位置を予測する工程である。
工程(1)〜(3)で得られた回帰直線を使用することにより工程(4)〜(6)で得られた「上記『モデル阻害剤』が上記『予測対象のタンパク』に結合する位置の予測」を基に、優れた「阻害剤」を好適に設計することができる。
本発明の化合物の設計方法は、上記予測方法を用いることを特徴とするタンパク−タンパク相互作用のインターフェースを阻害する阻害剤の候補となり得る化合物の設計方法である。
これに対し、本発明の方法には、新たな結合可能な位置情報と構造情報を提供できる可能性を有しているため、同じ標的タンパクでも異なる位置で阻害できる小分子をデザインすることができ、臨床試験において先行化合物との差別化をフェノタイプ(即ち薬効面)で違いを出すことができる。
標的タンパク−パートナータンパク複合体等の選定
タンパク−タンパク相互作用に関与する2つのタンパクについて、阻害剤が結合するタンパクを「target protein;標的タンパク」とし、相互作用する相手方のタンパクを「partner protein;パートナータンパク」とする。
標的タンパク−パートナータンパク複合体の構造は、全てProtein Data Bank(PDB)から入手した。
各タンパクの構造図は、PyMOL(http://www.pymol.org)を利用した。
ΔSASAとΔG(ギブスの自由エネルギー変化)の予測値は、ANCHOR database(http://structure.pitt.edu/anchor)で入手可能である(Sharp, K. A. et al., Science (Washinton, DC, U.S.) 1991, 252, 106-109)。
各側鎖のΔSASAとΔGの予測値は、ANCHOR databaseにリスト化されているのでその値を利用した。
各アミノ酸残基の疎水性相互作用(HE:Hydrophobic effects)の見積り値はKarprusによって報告されているものを利用した(Karplus, et al., Protein Sci. 1997, 6, 1302-1307.)。
その結果、8つのタンパク−パートナータンパク複合体を選ぶことができた(表1)。
なお、これまでの研究でα−ヘリックスをインターフェースに持つ2つの標的から有望な化合物が見つかったことや、α−ヘリックス模倣化合物(ペプチドミミックな化合物)の合成が盛んであったこと等の理由で、公開されている阻害剤との複合体の情報は、パートナータンパクのインターフェースにα−ヘリックスが存在するものに偏っている。
SIRs及びnon−SIRsの選別
実施例1で得られたホットスポット中の64残基は小分子(阻害剤)に比べて広い範囲に分布していた。次に、阻害剤が重なる残基と重ならない残基に分類することにした。
タンパク質の各残基が阻害剤と重なったものは、「SIRs(superimposed residues)」と略す。それぞれの残基が阻害剤と重なるか否かを決定する手法をMcl/p53複合体(PDBnumber:1YCR)を用いて説明する(図1)。
まず、PyMOLの“align”コマンドを用いて、阻害剤−標的タンパクと天然のパートナータンパク−標的タンパクに関して、各標的タンパクの構造をアライメントする(図1a)。パートナータンパクが結合している標的タンパクと阻害剤の結合している標的タンパクは、構造上も配列上も差が小さいため、PyMOLの“align”コマンドを使用した。実際、RMSD(平均二乗偏差)の平均値は、0.916Åであった。
図1bは、ANCHOR databaseから残基を選んだ例を示し、図1cは、残基に小分子(阻害剤)が重なった例を示す。この場合、3つの残基(F19、W23及びL26)と、3つの残基ペア(F19−W23、F19−L26及びW23−L26)が小分子に重なっていると定義された。
図1dは残基ペアの構造情報を得るための測定方法(Cα−Cα間及びCω−Cω間の測定方法)を示している。
本実施例では、いくつの阻害剤がある残基ペアを利用したかという頻度の情報ではなく、どの残基ペアの位置に阻害剤が結合し阻害したかという位置情報を知ることを目的としている。異なる阻害剤で同じ残基ペアを利用している場合であっても、その残基ペアは1回しかカウントしない。詳細は実施例4に記載するが、結果として阻害剤と重なる残基のペア(SIRPs)を39の阻害剤から35個見出した。
SIR同士の組み合わせを、「SIRPs(superimposed residue pairs)」と定義し、それ以外の残基ペアを「non−SIRPs(non-superimposed residue pairs)」と定義する。
この結果、タンパク−タンパク相互作用の阻害剤のインターフェースの多くがα−ヘリックス上にあるというこれまでの報告と合致する(表2)。SIRsとnon−SIRs間において、ΔGの差は0.1kcal/moL、ΔHEの差は0.5kcal/moLであり、これらのパラメーターでは有意な差が得られなかった。
阻害剤が重なるパートナータンパクの残基数の計算
一般に、ヒット化合物を得るためには、10μM程度のKi、Kd等の値が求められる。この値を得るために、ΔG=−RTlnKの式より、−6.9kcal/moLのΔGが必要である。しかしながら、本実施例で調査した64残基のΔGの平均値はSIRsとnon−SIRsの値で有意な差が見出せず、ともに−3.5kcal/moLであった。この数値は、ハイスループットスクリーニングでヒット化合物を取るために十分なΔGではない。
その結果、平均して、2以上の残基(平均2.75残基)と重なっていることがわかった(図2)。図2で示されているように、1残基のみと重なる阻害剤が2つ存在していた。共にMclの阻害剤であり同じ論文(JMC,2013,56,15-30)で開示されている構造である。両化合物とも、自然界のタンパク−タンパク相互作用では利用されていない、L62残基の奥にある小さな隙間に化合物を突き刺す形で大きな阻害活性を得ている。よって、L62残基のみしか重ならなくても阻害剤として働くことができたと推察される。
SIRPs及びnon−SIRPsの選別
次に、同じ標的タンパクの同じ表面上の2つの残基の組み合わせについて、更に分析を進めることにした。8標的の合計の残基ペア数は、計算すると243となった(計算式:Σ[12Cs(標的タンパク1)+7C2(標的タンパク2)+・・・+7C2(標的タンパク8)]=243)。243は、(SIRPsの数)と(non−SIRPsの数)の合計である。
各パラメーターの相関関係
次に、インターフェース上の小さいポケット(凹)へ鍵となる残基(凸)が侵入する角度と、PPIsのファーマコフォア間の三次元空間的配置を理解するため、2つの残基の関係性に着目した。そこで、残基間の二面角と距離は、化合物の空間的配置を認識する上で重要であることを考慮に入れて、次に構造に関係するパラメーター(例えば、距離や二面角)と結合能に関係するパラメーター(例えば疎水性相互作用やΔSASA、ΔG)の間に関係性が存在するか検討をした。
一方、結合能に関係するパラメーターに関しては、疎水性結合(HE)、ΔG、ΔSASAと共に、2つのアミノ酸残基の値を足した値をΣHE、ΣΔG、ΣΔSASAとして計算した。
SIRPsでの相関は、図3aに示す通り、二面角(DA)が正の場合は負の相関が、DAが負の場合は正の相関が得られた(DA>0;r=−0.61、p<0.035、y=−0.464x+202、n=12)(DA<0;r=0.70、p<0.00021、y=−0.612x+215、n=23)。DAが正の場合でも負の場合でも、DAがゼロ付近で最大値を取り、その値はほぼ等しかった。また、傾きは正負で逆であるが、その絶対値はほぼ似た値であった。
すなわち、SIRPsとnon−SIRPsを区別するために利用できるだけでなく、これまで報告されてきた技術(手法)のいずれの特徴とも異なり、構造情報と結合能情報を関係づける式が得られた点で実用的な利用可能性を高めることを示唆している。
他の阻害剤や標的タンパクへの応用
|DA|とΣΔSASAの関係性がSIRPsとnon−SIRPsとの識別に利用できるという仮説を実証するため、|DA|とΣΔSASAとの相関が他の阻害剤(上記39の阻害剤以外の阻害剤)に対して当てはまるか否かを検討した。
まず、上記8つの標的タンパクの中の3つの標的タンパクに対する4つの阻害剤で検討を行った。検討した阻害剤は、いずれも上記39の阻害剤とは異なる部位に結合するものを選んだ。
上記見つかったSIRPsは、もとはnon−SIRPsとされていたものであり、新しい阻害剤が見つかることで、non−SIRPsからSIRPsにオセロの黒が白になるように変化した。つまり、残基ペア(residue pair)の総数はこの8つの標的タンパクを基礎データとして使っている限り、243に等しい。そして、この事実は、これまでnon−SIRPsとされていた残基ペアの組み合わせが、相関式±S.E.と距離の条件を満たす時にSIRPsに変わる可能性があることを示している。
Keap1阻害剤(PDBnumber:4IQK)からは、3つの新しいSIRPs(E79−80、E79−T82及びT80−E82)が見つかった。これら3つのSIRPsを図3bで得られた回帰直線上にプロットした。
一方で、他の1つのSIRPsはthe regression equation(回帰直線)±1.96S.E.(標準偏差)の範囲内であった。
上記新しい3つのSIRPsは、243の残基ペア以外の新しいスポットである。すなわち、上記8つの標的タンパクから得られた相関式が、8つの標的タンパクとは異なる新たな標的とその阻害剤でも通用したことを示された。この結果は、この相関が新規のPPIs(protein-protein inhibitors)であるインターフェース阻害剤のデザインにも効果的に利用できる可能性を示している。
最も短いSIRPsの選定
上記実施例で用いた44(39(実施例1〜5)+4(実施例6)+1(実施例7))個の阻害剤について、「Cα−Cα」間の距離と「Cω−Cω」間の距離の値を基にして、これらの2つの値が最も短くなるSIRPsを「最も短いSIRPs」(The shortest SIRPs)を選び出した。
この操作は、PPIsのインターフェース上で1つの阻害剤に求められる最適の残基ペアを決めるために行った。PPIs阻害剤は、通常の阻害剤と比較して分子量がかなり大きくなることが知られている。ヒット化合物(阻害剤)の分子量が大きくなる程、ヒット化合物を合成展開する際に問題となり、ライブラリーに入れる化合物はできるだけ最小の構造で最大の効果を上げるような分子設計をする必要があるためである。
各44個の阻害剤から選ばれた、その阻害剤に対する「最も短いSIRPs」を集め、次にその中で重複しているSIRPsを取り除いた。同じ標的タンパクの場合、一部の残基ペアが重複していることが多くあり、またその重複しているペアが「最も短いSIRPs」である場合があるからである。
SIRPsに含まれる残基が相関関係に及ぼす影響
SIRPsの多くが非極性な残基であること、また、約半分(49%)のSIRPsが同じα−へリックス上に2つの残基とも存在することから、残基が存在するタンパク質の二次構造の効果と残基の極性の効果が、先に見出した相関関係に影響を及ぼすか否かを検討するため、極性と2次構造の影響に関して更に詳しい分析を行った。
まず初めに、極性を有する残基の影響について考えた。D、E、R、K、H、N、Q、S、Tを極性基とし、A、V、L、I、P、F、M、W、V、Cを非極性基とした(Perutz,1965)。そして、残基ペアの極性によって、非極性残基同士のペア(グループ1);非極性と極性残基のペア(グループ2);そして2つとも極性残基のペア(グループ3)と3つのグループに分類した。それぞれのグループを極性の順に並べると、グループ1<グループ2<グループ3となる。
一方で、SIRPsの2つのグループ(グループ1及びグループ2)では、|DA|(x軸)とΣΔSASA(y軸)の間で相関が見られた。
グループ1:
r=−0.67、p<0.000014、n=27、y=−0.55x+212
グループ2:
r=−0.54、p<0.17、n=8、y=−0.49x+194
なお、SIRPsでグループ3は分類されるものはなかった。相関式の傾きとy切片の値が上記実施例で得られた相関式と近いことから、残基の極性が相関に影響しないことが示唆された。
(1)2残基とも同じα−へリックス上に存在する。
(2)2残基は互いに異なるα−へリックス上に存在する。
(3)2残基ともα−へリックス−ターン上に存在する。
(4)2残基ともα−へリックス−ループ又はα−へリックス−ストランド上に存在する。
(5)2残基とも同じターン上に存在する。
(6)2残基は互いに異なるターン上に存在する。
(7)2残基はターン−ループ又はターン−ストランド上に存在する。
(8)2残基とも同じループ又はストランド上に存在する。
(9)2残基は互いに異なるループ又はストランド上に存在する。
他のSIRPsの2次構造の分類については、上記(5)(2残基とも同じターン上に存在する)に分類されたものが2つ、上記(7)(2残基はターン−ループ又はターン−ストランド上に存在する)に分類されるものが4つと相関を見るには十分な数ではなかった。
以上の結果から、本実施例で得られた相関は、残基が属すタンパクの2次構造に影響を受けないことが示唆された。
SIRPsの候補の抽出
本発明の応用例として、新たな標的の阻害剤について、non−SIRPsを取り除き、SIRPsの候補を抽出できる可能性がある。1つの例として、実施例5で用いたKeap1−Nrf2を適用してみた。
まず、本発明の方法により、7つの残基をANCHOR databaseから選んだ。選ばれた残基の全ての残基ペアの合計は21(=7C2)残基ペアとなる。この21残基ペアを距離のフィルターとなる「最も短いSIRPs」を選定し、11残基ペアをSIRPsになる可能性の高い候補(plausible SIRPs)として選んだ。この残った11残基ペアを図3bで得られた回帰直線上にプロットするとthe regression equation(回帰直線)±1.96S.E.の範囲内に11個の残基ペアが認められた。この距離と相関式のフィルターを通過した候補残基ペアを‘plausible SIRPs’と呼び、SIRPsになる可能性の高い候補と位置づけた。
8つの標的タンパク−パートナータンパクのインターフェースを標的にした39の阻害剤と、該インターフェースに存在するホットスポット中の64残基を、タンパクを認識する際に重要となる残基として用いた(表1)。ホットスポットの64残基中で、阻害剤が重なる残基と重ならない残基があることに着目しその違いが生じる理由を検証したところ、残基ペア間の距離とsolvent-accessible surface areaの変化(ΔSASA)に明らかな差(違い)があることを見出した。
Claims (6)
- タンパク−タンパク相互作用のインターフェースを阻害する阻害剤が該タンパクに結合する位置を予測する予測方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする予測方法。
(1)既知のタンパク−タンパク相互作用をするタンパク、及び、該相互作用のインターフェースを阻害する既知の阻害剤の構造情報を得る工程
(2)工程(1)で得られた構造情報から、該既知のタンパク−タンパク相互作用のインターフェースを阻害する際に関与するタンパクの残基を選定する工程
(3)工程(2)で選定した残基の中から任意の2つの残基を抽出し、該2つの残基間の二面角の絶対値(|DA|)、及びタンパク−タンパク相互作用しているときとタンパク−タンパク相互作用していないときの溶媒露出表面積の変化の総和(ΣΔSASA)の回帰直線を作成する工程
(4)予測対象の標的タンパク、そのパートナータンパク、及び、モデル阻害剤の構造情報を得る工程
(5)工程(4)で得られた構造情報から、予測対象の標的タンパクとそのパートナータンパクとのタンパク−タンパク相互作用を、該モデル阻害剤が阻害する際に関与するタンパクの残基を選定する工程
(6)工程(5)で選定した残基の中から任意の2つの残基を抽出し、該2つの残基間の二面角の絶対値(|DA|)、及びタンパク−タンパク相互作用しているときとタンパク−タンパク相互作用していないときの溶媒露出表面積の変化の総和(ΣΔSASA)、及び、工程(3)で得られた回帰直線を基に、該任意の2つの残基が、該モデル阻害剤が該予測対象のタンパクに結合する位置の候補となり得るか否かを判定する工程
(7)工程(6)で候補となり得ると判定された2つの残基を基に、該モデル阻害剤が該予測対象のタンパクに結合する位置を予測する工程 - 工程(3)において任意の2つの残基を抽出する際に、「2つの残基の『アミノ酸の中心炭素原子であるCα原子』間の距離」、及び/又は、「Cα原子又は『C α 原子に結合する側鎖中の炭素原子であるCβ原子』から最も遠い位置にある水素以外の原子をCω原子とした場合の2つの残基のCω原子間の距離」が各阻害剤において最も短くなる2つの残基を抽出する請求項1に記載の予測方法。
- 工程(6)において任意の2つの残基を抽出する際に、「2つの残基の『アミノ酸の中心炭素原子であるCα原子』間の距離」、及び/又は、「Cα原子又は『C α 原子に結合する側鎖中の炭素原子であるCβ原子』から最も遠い位置にある水素以外の原子をCω原子とした場合の2つの残基のCω原子間の距離」が各阻害剤において最も短くなる2つの残基を抽出する請求項1又は請求項2に記載の予測方法。
- 上記回帰直線が下記式(1)又は式(2)である請求項1ないし請求項3の何れかの請求項に記載の予測方法。
ΣΔSASA[Å2]=−0.57|DA|+211 (1)
ΣΔSASA[Å2]=−0.53|DA|+207 (2)
[式(1)及び式(2)中、|DA|は、2つの残基間の二面角の絶対値を示し、ΣΔSASAは、タンパク−タンパク相互作用しているときとタンパク−タンパク相互作用していないときの溶媒露出表面積の変化の総和[Å2]を示す。] - 上記回帰直線が、上記2つの残基が何れも非極性のときは、下記式(3)であり、上記2つの残基の一方が極性で他方が非極性のときは、下記式(4)である請求項1ないし請求項3の何れかの請求項に記載の予測方法。
ΣΔSASA[Å2]=−0.55|DA|+212 (3)
ΣΔSASA[Å2]=−0.49|DA|+194 (4)
[式(3)及び式(4)中、|DA|は、2つの残基間の二面角の絶対値を示し、ΣΔSASAは、2つの残基の溶媒露出表面積の変化の総和[Å2]を示す。] - 請求項1ないし請求項5の何れかの請求項に記載の予測方法を用いることを特徴とするタンパク−タンパク相互作用のインターフェースを阻害する阻害剤の候補となり得る化合物の設計方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2015163287A JP6558828B2 (ja) | 2015-08-21 | 2015-08-21 | 予測方法及び該予測方法を用いるタンパク−タンパク相互作用のインターフェースを阻害する阻害剤の候補となり得る化合物の設計方法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2015163287A JP6558828B2 (ja) | 2015-08-21 | 2015-08-21 | 予測方法及び該予測方法を用いるタンパク−タンパク相互作用のインターフェースを阻害する阻害剤の候補となり得る化合物の設計方法 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2017041154A JP2017041154A (ja) | 2017-02-23 |
JP6558828B2 true JP6558828B2 (ja) | 2019-08-14 |
Family
ID=58203021
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2015163287A Active JP6558828B2 (ja) | 2015-08-21 | 2015-08-21 | 予測方法及び該予測方法を用いるタンパク−タンパク相互作用のインターフェースを阻害する阻害剤の候補となり得る化合物の設計方法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP6558828B2 (ja) |
Family Cites Families (5)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP4168877B2 (ja) * | 2003-08-27 | 2008-10-22 | トヨタ自動車株式会社 | 内燃機関の燃料噴射制御装置 |
JP2005081166A (ja) * | 2003-09-04 | 2005-03-31 | Nippo Corporation:Kk | 油汚染土壌からの油の回収方法及び装置 |
JP2007139037A (ja) * | 2005-11-17 | 2007-06-07 | Toyota Motor Corp | シールリング |
JP2012501654A (ja) * | 2008-09-05 | 2012-01-26 | アビラ セラピューティクス, インコーポレイテッド | 不可逆的インヒビターの設計のためのアルゴリズム |
WO2013035779A1 (ja) * | 2011-09-06 | 2013-03-14 | 国立大学法人東京大学 | 細胞間の相互作用の解析方法 |
-
2015
- 2015-08-21 JP JP2015163287A patent/JP6558828B2/ja active Active
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
JP2017041154A (ja) | 2017-02-23 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
Maia et al. | Structure-based virtual screening: from classical to artificial intelligence | |
Loving et al. | Computational approaches for fragment-based and de novo design | |
Shen et al. | Structural analysis and modeling reveals new mechanisms governing ESCRT-III spiral filament assembly | |
Yan et al. | The construction of an amino acid network for understanding protein structure and function | |
Vidler et al. | Druggability analysis and structural classification of bromodomain acetyl-lysine binding sites | |
Sgobba et al. | Application of a post-docking procedure based on MM-PBSA and MM-GBSA on single and multiple protein conformations | |
Singh et al. | A plausible explanation for enhanced bioavailability of P-gp substrates in presence of piperine: simulation for next generation of P-gp inhibitors | |
Yu et al. | Site-identification by ligand competitive saturation (SILCS) assisted pharmacophore modeling | |
Sivakumar et al. | Prospects of multitarget drug designing strategies by linking molecular docking and molecular dynamics to explore the protein–ligand recognition process | |
Wang et al. | Cryo-EM reveals the architecture of placental malaria VAR2CSA and provides molecular insight into chondroitin sulfate binding | |
Tran-Nguyen et al. | All in one: Cavity detection, druggability estimate, cavity-based pharmacophore perception, and virtual screening | |
Bharatham et al. | Ligand binding mode prediction by docking: mdm2/mdmx inhibitors as a case study | |
Zhang et al. | Focused chemical libraries–design and enrichment: An example of protein–protein interaction chemical space | |
Johnson et al. | Selectivity by small-molecule inhibitors of protein interactions can be driven by protein surface fluctuations | |
Mahboobi et al. | The interaction of RNA helicase DDX3 with HIV-1 Rev-CRM1-RanGTP complex during the HIV replication cycle | |
Kunze et al. | Targeting dynamic pockets of HIV-1 protease by structure-based computational screening for allosteric inhibitors | |
Ovek et al. | Artificial intelligence based methods for hot spot prediction | |
Chen et al. | Protein-protein interface analysis and hot spots identification for chemical ligand design | |
Pavan et al. | Implementing a scoring function based on interaction fingerprint for Autogrow4: Protein Kinase CK1δ as a case study | |
Dalton et al. | Homology-modelling protein–ligand interactions: allowing for ligand-induced conformational change | |
Cicaloni et al. | Applications of in silico methods for design and development of drugs targeting protein-protein interactions | |
Sarkar et al. | Elucidating protein-protein interactions through computational approaches and designing small molecule inhibitors against them for various diseases | |
JP6558828B2 (ja) | 予測方法及び該予測方法を用いるタンパク−タンパク相互作用のインターフェースを阻害する阻害剤の候補となり得る化合物の設計方法 | |
Bojarska et al. | Supramolecular Chemistry of Modified Amino Acids and Short Peptides | |
Wendt | Protein-protein interactions as drug targets |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A621 | Written request for application examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621 Effective date: 20180326 |
|
A521 | Request for written amendment filed |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A821 Effective date: 20180326 |
|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20190416 |
|
A521 | Request for written amendment filed |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 Effective date: 20190529 |
|
TRDD | Decision of grant or rejection written | ||
A01 | Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01 Effective date: 20190625 |
|
A61 | First payment of annual fees (during grant procedure) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61 Effective date: 20190712 |
|
R150 | Certificate of patent or registration of utility model |
Ref document number: 6558828 Country of ref document: JP Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |