以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
<SPCCI燃焼>
本願発明者らは、SI(Spark Ignition)燃焼とCI(Compression Ignition)燃焼とを組み合わせる燃焼形態を考えた。SI燃焼は、燃焼室の中の混合気に強制的に点火を行うことにより開始する火炎伝播を伴う燃焼である。CI燃焼は、燃焼室の中の混合気が圧縮自己着火することにより開始する燃焼である。SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせた燃焼形態とは、燃焼室の中の混合気に強制的に点火を行って、火炎伝播による燃焼を開始させると、SI燃焼の発熱及び火炎伝播による圧力上昇によって、燃焼室の中の未燃混合気が圧縮着火により燃焼する形態である。この燃焼形態を、以下においてはSPCCI(SPark Controlled Compression Ignition)燃焼と呼ぶ。
圧縮着火による燃焼は、圧縮開始前の燃焼室の中の温度がばらつくと、圧縮着火のタイミングが大きく変化する。SPCCI燃焼において、SI燃焼の発熱量を調整することによって、圧縮開始前の燃焼室の中の温度のばらつきを吸収することができる。圧縮開始前の燃焼室の中の温度に応じて、例えば点火タイミングの調整によってSI燃焼の開始タイミングを調整すれば、圧縮着火のタイミングをコントロールすることができる。SPCCI燃焼は、SI燃焼によってCI燃焼をコントロールすることができる。
火炎伝播によるSI燃焼は、圧力上昇がCI燃焼よりも緩やかであるため、SPCCI燃焼は、燃焼騒音の発生を抑制することが可能になる。また、CI燃焼は、SI燃焼よりも燃焼期間が短縮するため、SPCCI燃焼は、燃費の向上に有利になる。
<エンジンの具体例>
図1に、このSPCCI燃焼による燃焼技術を適用したエンジンの全体構成を示す。エンジン1は、燃焼室17が吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程を繰り返すことにより運転する4ストロークエンジンである。エンジン1は、四輪の自動車に搭載される。エンジン1が運転することによって、自動車は走行する。エンジン1の燃料は、この構成例においてはガソリンである。燃料は、バイオエタノール等を含むガソリンであってもよい。エンジン1の燃料は、少なくともガソリンを含む液体燃料であれば、どのような燃料であってもよい。
エンジン1は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを備えている。シリンダブロック12の内部に複数のシリンダ11が形成されている。図1及び図2では、一つのシリンダ11のみを示す。エンジン1は、多気筒エンジンである。
各シリンダ11内には、ピストン3が摺動自在に内挿されている。ピストン3は、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト15に連結されている。ピストン3は、シリンダ11及びシリンダヘッド13と共に燃焼室17を区画する。尚、「燃焼室」は、ピストン3が圧縮上死点に至ったときの空間の意味に限定されない。「燃焼室」の語は広義で用いる場合がある。つまり、「燃焼室」は、ピストン3の位置に関わらず、ピストン3、シリンダ11及びシリンダヘッド13によって形成される空間を意味する場合がある。
ピストン3の上面、つまり燃焼室17の底面は、平坦面である。ピストン3の上面には、キャビティ31が形成されている。キャビティ31は、ピストン3の上面から凹陥している。キャビティ31は、後述するインジェクタ6に向かい合う。
キャビティ31は、凸部311を有している。凸部311は、シリンダ11の中心軸X1から排気側に少しずれた位置に設けられている。凸部311は、略円錐状である。凸部311は、キャビティ31の底部から、シリンダ11の中心軸X1に平行な軸X2に沿って上向きに伸びている。凸部311の上端は、キャビティ31の上面とほぼ同じ高さである。
キャビティ31の周側面は、キャビティ31の底面からキャビティ31の開口に向かって軸X2に対して傾いている。キャビティ31の内径は、キャビティ31の底部からキャビティ31の開口に向かって次第に拡大する。
キャビティ31はまた、凸部311の周囲に設けられた凹陥部312を有している。凹陥部312は、凸部311の全周を囲むように設けられている。凹陥部312は、噴射軸心X2に対して対称な形状を有している。凹陥部312の周側面は、キャビティ31の底面からキャビティ31の開口に向かって噴射軸心X2に対して傾いている。凹陥部312におけるキャビティ31の内径は、キャビティ31の底部からキャビティ31の開口に向かって次第に拡大する。
シリンダヘッド13の下面、つまり、燃焼室17の天井面は、図2の下図に示すように、傾斜面1311と、傾斜面1312とによって構成されている。傾斜面1311は、吸気側から軸X2に向かって上り勾配となっている。傾斜面1312は、排気側から軸X2に向かって上り勾配となっている。燃焼室17の天井面は、いわゆるペントルーフ形状である。
尚、燃焼室17の形状は、図2に例示する形状に限定されるものではない。例えばキャビティ31の形状、ピストン3の上面の形状、及び、燃焼室17の天井面の形状等は、適宜変更することが可能である。例えば、キャビティ31の浅底部312は、省略してもよい。また、キャビティ31は、シリンダ11の中心軸X1に対して対称な形状にしてもよい。傾斜面1311と、傾斜面1312とは、シリンダ11の中心軸X1に対して対称な形状にしてもよい。図2に、仮想線SMで示すように、キャビティ31の吸気側を排気側よりも小さく形成してもよい。そうすれば、点火プラグ25の周囲に混合気を移送し易くできる。
エンジン1の幾何学的圧縮比は、13以上20以下に設定されている。好ましくは14以上である。後述するようにエンジン1は、一部の運転領域において、SI(Spark Ignition)燃焼とCI(Compression Ignition)燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼を行う。SPCCI燃焼は、SI燃焼による発熱と火炎伝播による圧力上昇を利用して、CI燃焼を行う。このエンジン1は、混合気の自着火のためにピストン3が圧縮上死点に至った時の燃焼室17の温度(つまり、圧縮端温度)を大幅に高くする必要がない。つまり、エンジン1は、CI燃焼を行うものの、その幾何学的圧縮比は、比較的低く設定されている。幾何学的圧縮比を低くすることによって、冷却損失の低減、及び、機械損失の低減に有利になる。エンジン1の幾何学的圧縮比は、レギュラー仕様(燃料のオクタン価が91程度)においては、14〜17とし、ハイオク仕様(燃料のオクタン価が96程度)においては、15〜18としてもよい。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、吸気ポート18が形成されている。吸気ポート18は、図3に示すように、第1吸気ポート181及び第2吸気ポート182の、二つの吸気ポートを有している。第1吸気ポート181及び第2吸気ポート182は、クランクシャフト15の軸方向、つまり、エンジン1のフロント−リヤ方向に並んでいる。吸気ポート18は、燃焼室17に連通している。吸気ポート18は、詳細な図示は省略するが、いわゆるタンブルポートである。つまり、吸気ポート18は、燃焼室17の中にタンブル流が形成されるような形状を有している。
吸気ポート18には、吸気弁21が配設されている。吸気弁21は、燃焼室17と吸気ポート18との間を開閉する。吸気弁21は動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。この動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構とすればよい。この構成例では、図4に示すように、可変動弁機構は、吸気電動S−VT(Sequential-Valve Timing)23を有している。吸気電動SV−T23は、吸気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更するよう構成されている。それによって、吸気弁21の開弁時期及び閉弁時期は、連続的に変化する。尚、吸気弁21の動弁機構は、電動SV−Tに代えて、液圧式のSV−Tを有していてもよい。
シリンダヘッド13にはまた、シリンダ11毎に、排気ポート19が形成されている。排気ポート19も、図3に示すように、第1排気ポート191及び第2排気ポート192の、二つの排気ポートを有している。第1排気ポート191及び第2排気ポート192は、エンジン1のフロント−リヤ方向に並んでいる。排気ポート19は、燃焼室17に連通している。排気ポート19には、排気弁22が配設されている。排気弁22は、燃焼室17と排気ポート19との間を開閉する。排気弁22は動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。この動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構とすればよい。この構成例では、図4に示すように、可変動弁機構は、排気電動SV−T24を有している。排気電動SV−T24は、排気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更するよう構成されている。それによって、排気弁22の開弁時期及び閉弁時期は、連続的に変化する。尚、排気弁22の動弁機構は、電動SV−Tに代えて、液圧式のSV−Tを有していてもよい。
このエンジン1は、吸気電動SV−T23及び排気電動SV−T24によって、吸気弁21の開弁時期と排気弁22の閉弁時期とに係るオーバーラップ期間の長さを調整する。このことによって、燃焼室17の中に熱い既燃ガスを閉じ込める。つまり、内部EGR(Exhaust Gas Recirculation)ガスを燃焼室17の中に導入する。また、オーバーラップ期間の長さを調整することによって、燃焼室17の中の残留ガスを掃気する。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、インジェクタ6が取り付けられている。インジェクタ6は、燃焼室17の中に燃料を直接噴射するよう構成されている。インジェクタ6は、吸気側の傾斜面1311と排気側の傾斜面1312とが交差するペントルーフの谷部において、燃焼室17内に臨んで配設されている。インジェクタ6は、図2に示すように、その噴射軸心X2が、シリンダの中心軸X1に平行に配設されている。インジェクタ6の噴射軸心X2と、キャビティ31の凸部311の位置とは一致している。インジェクタ6は、キャビティ31に対向している。尚、インジェクタ6の噴射軸心X2は、シリンダ11の中心軸X1と一致していてもよい。その場合も、インジェクタ6の噴射軸心X2と、キャビティ31の凸部311の位置とは一致していることが望ましい。
インジェクタ6は、詳細な図示は省略するが、複数の噴孔を有する多噴孔型の燃料噴射弁によって構成されている。インジェクタ6は、図2に二点鎖線で示すように、燃料噴霧が、燃焼室17の中央から放射状に広がりかつ、燃焼室17の天井部から斜め下向きに広がるように燃料を噴射する。各噴孔のインジェクタ6の噴射軸心X2に対する噴射角θは、30度以上60度以内の範囲であり、好ましくは45度である。インジェクタ6は、本構成例においては、10個の噴孔を有しており、噴孔は、周方向に等角度に配置されている。尚、噴孔の個数は10個に限らない。例えば、8個〜16個の範囲で適宜設定可能である。
噴孔の軸(中心線L5,L6)は、後述する点火プラグ25に対して、周方向に位置がずれている。つまり、点火プラグ25は、隣り合う二つの噴孔の軸L5,L6に挟まれている。これにより、インジェクタ6から噴射された燃料の噴霧が、点火プラグ25に直接当たって、電極を濡らしてしまうことが回避される。
インジェクタ6には、燃料供給システム61が接続されている。燃料供給システム61は、燃料を貯留するよう構成された燃料タンク63と、燃料タンク63とインジェクタ6とを互いに連結する燃料供給路62とを備えている。燃料供給路62には、燃料ポンプ65とコモンレール64とが介設している。燃料ポンプ65は、コモンレール64に燃料を圧送する。燃料ポンプ65は、この構成例においては、クランクシャフト15によって駆動されるプランジャー式のポンプである。コモンレール64は、燃料ポンプ65から圧送された燃料を、高い燃料圧力で蓄えるよう構成されている。インジェクタ6が開弁すると、コモンレール64に蓄えられていた燃料が、インジェクタ6の噴孔から燃焼室17の中に噴射される。燃料供給システム61は、30MPa以上の高い圧力の燃料を、インジェクタ6に供給することが可能に構成されている。燃料供給システム61の最高燃料圧力は、例えば200MPa程度にしてもよい。インジェクタ6に供給する燃料の圧力は、エンジン1の運転状態に応じて変更してもよい。尚、燃料供給システム61の構成は、前記の構成に限定されない。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25は、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をする。点火プラグ25は、この構成例では、図2にも示すように、シリンダ11の中心軸X1を挟んだ吸気側に配設されている。点火プラグ25は、インジェクタ6に隣接している。点火プラグ25は、2つの吸気ポート18の間に位置している。点火プラグ25は、上方から下方に向かって、燃焼室17の中央に近づく方向に傾いて、シリンダヘッド13に取り付けられている。点火プラグ25の電極は、燃焼室17の中に臨んでかつ、燃焼室17の天井面の付近に位置している。
エンジン1の一側面には吸気通路40が接続されている。吸気通路40は、各シリンダ11の吸気ポート18に連通している。吸気通路40は、燃焼室17に導入するガスが流れる通路である。吸気通路40の上流端部には、新気を濾過するエアクリーナー41が配設されている。吸気通路40の下流端近傍には、サージタンク42が配設されている。サージタンク42よりも下流の吸気通路40は、シリンダ11毎に分岐する独立通路を構成している。独立通路の下流端が、各シリンダ11の吸気ポート18に接続されている。
吸気通路40におけるエアクリーナー41とサージタンク42との間には、スロットル弁43が配設されている。スロットル弁43は、弁の開度を調整することによって、燃焼室17の中への新気の導入量を調整するよう構成されている。
吸気通路40にはまた、スロットル弁43の下流に、過給機44が配設されている。過給機44は、燃焼室17に導入するガスを過給するよう構成されている。この構成例において、過給機44は、エンジン1によって駆動される機械式の過給機である。機械式の過給機44は、例えばルーツ式としてもよい。機械式の過給機44の構成はどのような構成であってもよい。機械式の過給機44は、リショルム式、ベーン式、又は遠心式であってもよい。
過給機44とエンジン1との間には、電磁クラッチ45が介設している。電磁クラッチ45は、過給機44とエンジン1との間で、エンジン1から過給機44へ駆動力を伝達したり、駆動力の伝達を遮断したりする。後述するように、ECU10が電磁クラッチ45の遮断及び接続を切り替えることによって、過給機44はオンとオフとが切り替わる。このエンジン1は、過給機44が、燃焼室17に導入するガスを過給することと、過給機44が、燃焼室17に導入するガスを過給しないこととを切り替えることができるよう構成されている。
吸気通路40における過給機44の下流には、インタークーラー46が配設されている。インタークーラー46は、過給機44において圧縮されたガスを冷却するよう構成されている。インタークーラー46は、例えば水冷式に構成すればよい。
吸気通路40には、バイパス通路47が接続されている。バイパス通路47は、過給機44及びインタークーラー46をバイパスするよう、吸気通路40における過給機44の上流部とインタークーラー46の下流部とを互いに接続する。バイパス通路47には、エアバイパス弁48が配設されている。エアバイパス弁48は、バイパス通路47を流れるガスの流量を調整する。
過給機44をオフにしたとき(つまり、電磁クラッチ45を遮断したとき)には、エアバイパス弁48を全開にする。これにより、吸気通路40を流れるガスは、過給機44をバイパスして、エンジン1の燃焼室17に導入される。エンジン1は、非過給、つまり自然吸気の状態で運転する。
過給機44をオンにしたとき(つまり、電磁クラッチ45を接続したとき)には、過給機44を通過したガスの一部は、バイパス通路47を通って過給機44の上流に逆流する。エアバイパス弁48の開度を調整することによって、逆流量を調整することができるから、燃焼室17に導入するガスの過給圧を調整することができる。この構成例においては、過給機44とバイパス通路47とエアバイパス弁48とによって、過給システム49が構成されている。
エンジン1は、燃焼室17内にスワール流を発生させるスワール発生部を有している。スワール発生部は、図3に示すように、吸気通路40に取り付けられたスワールコントロール弁56である。スワールコントロール弁56は、第1吸気ポート181につながるプライマリ通路401と、第2吸気ポート182につながるセカンダリ通路402の内、セカンダリ通路402に配設されている。スワールコントロール弁56は、セカンダリ通路の断面を絞ることができる開度調整弁である。スワールコントロール弁56の開度が小さいと、エンジン1の前後方向に並んだ第1吸気ポート181及び第2吸気ポート182の内、第1吸気ポート181から燃焼室17に流入する吸気流量が相対的に増えかつ、第2吸気ポート182から燃焼室17に流入する吸気流量が相対的に減るから、燃焼室17内のスワール流が強くなる。スワールコントロール弁56の開度が大きいと、第1吸気ポート181及び第2吸気ポート182のそれぞれから燃焼室17に流入する吸気流量が、略均等になるから、燃焼室17内のスワール流が弱くなる。スワールコントロール弁56を全開にすると、スワール流が発生しない。尚、スワール流は、矢印で示すように、図3における反時計方向に周回する(図2の白抜きの矢印も参照)。
尚、スワール発生部は、吸気通路40にスワールコントロール弁56を取り付ける代わりに、又は、スワールコントロール弁56を取り付けることに加えて、二つの吸気弁21の開弁期間をずらし、一方の吸気弁21のみから燃焼室17の中に吸気を導入することができる構成を採用してもよい。二つの吸気弁21の内の一方の吸気弁21のみが開弁することによって、燃焼室17の中に不均等に吸気を導入することができるから、燃焼室17の中にスワール流を発生させることができる。さらに、スワール発生部は、吸気ポート18の形状を工夫することによって、燃焼室17の中にスワール流を発生させように構成してもよい。
このエンジン1の吸気ポート18は、タンブルポートであるため、燃焼室17の中には、タンブル成分とスワール成分とを有する斜めスワール流が形成される。斜めスワール流の傾斜角度は、シリンダ11の中心軸X1と直交する面に対して45度程度が一般的であるが、エンジン1の仕様に応じ、例えば30度から60度の範囲で適宜設定される。
エンジン1の他側面には、排気通路50が接続されている。排気通路50は、各シリンダ11の排気ポート19に連通している。排気通路50は、燃焼室17から排出された排気ガスが流れる通路である。排気通路50の上流部分は、詳細な図示は省略するが、シリンダ11毎に分岐する独立通路を構成している。独立通路の上流端が、各シリンダ11の排気ポート19に接続されている。
排気通路50には、複数の触媒コンバーターを有する排気ガス浄化システムが配設されている。上流の触媒コンバーターは、図示は省略するが、エンジンルーム内に配設されている。上流の触媒コンバーターは、三元触媒511と、GPF(Gasoline Particulate Filter)512とを有している。下流の触媒コンバーターは、エンジンルーム外に配設されている。下流の触媒コンバーターは、三元触媒513を有している。尚、排気ガス浄化システムは、図例の構成に限定されるものではない。
吸気通路40と排気通路50との間には、外部EGRシステムを構成するEGR通路52が接続されている。EGR通路52は、既燃ガスの一部を吸気通路40に還流させるための通路である。EGR通路52の上流端は、排気通路50における上流の触媒コンバーターと下流の触媒コンバーターとの間に接続されている。EGR通路52の下流端は、吸気通路40における過給機44の上流に接続されている。
EGR通路52には、水冷式のEGRクーラー53が配設されている。EGRクーラー53は、既燃ガスを冷却するよう構成されている。EGR通路52にはまた、EGR弁54が配設されている。EGR弁54は、EGR通路52を流れる既燃ガスの流量を調整するよう構成されている。EGR弁54の開度を調整することによって、冷却した既燃ガス、つまり外部EGRガスの還流量を調整することができる。
この構成例において、EGRシステム55は、EGR通路52及びEGR弁54を含んで構成されている外部EGRシステムと、前述した吸気電動SV−T23及び排気電動SV−T24を含んで構成されている内部EGRシステムとによって構成されている。
制御装置は、エンジン1を運転するためのECU(Engine Control Unit)10を備えている。ECU10は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラーであって、図4に示すように、プログラムを実行する中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)101と、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)により構成されてプログラム及びデータを格納するメモリ102と、電気信号の入出力をする入出力バス103と、を備えている。ECU10は、制御部の一例である。
ECU10には、図1及び図4に示すように、各種のセンサSW1〜SW16が接続されている。センサSW1〜SW16は、検知信号をECU10に出力する。センサには、以下のセンサが含まれる。
すなわち、吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されかつ、吸気通路40を流れる新気の流量を検知するエアフローセンサSW1、及び、新気の温度を検知する第1吸気温度センサSW2、吸気通路40におけるEGR通路52の接続位置よりも下流でかつ、過給機44の上流に配置されかつ、過給機44に流入するガスの圧力を検知する第1圧力センサSW3、吸気通路40における過給機44の下流でかつ、バイパス通路47の接続位置よりも上流に配置されかつ、過給機44から流出したガスの温度を検知する第2吸気温度センサSW4、サージタンク42に取り付けられかつ、過給機44の下流のガスの圧力を検知する第2圧力センサSW5、各シリンダ11に対応してシリンダヘッド13に取り付けられかつ、各燃焼室17内の圧力を検知する指圧センサSW6、排気通路50に配置されかつ、燃焼室17から排出した排気ガスの温度を検知する排気温度センサSW7、排気通路50における上流の触媒コンバーターよりも上流に配置されかつ、排気ガス中の酸素濃度を検知するリニアO2センサSW8、上流の触媒コンバーターにおける三元触媒511の下流に配置されかつ、排気ガス中の酸素濃度を検知するラムダO2センサSW9、エンジン1に取り付けられかつ、冷却水の温度を検知する水温センサSW10、エンジン1に取り付けられかつ、クランクシャフト15の回転角を検知するクランク角センサSW11、アクセルペダル機構に取り付けられかつ、アクセルペダルの操作量に対応したアクセル開度を検知するアクセル開度センサSW12、エンジン1に取り付けられかつ、吸気カムシャフトの回転角を検知する吸気カム角センサSW13、エンジン1に取り付けられかつ、排気カムシャフトの回転角を検知する排気カム角センサSW14、EGR通路52に配置されかつ、EGR弁54の上流及び下流の差圧を検知するEGR差圧センサSW15、並びに、燃料供給システム61のコモンレール64に取り付けられかつ、インジェクタ6に供給する燃料の圧力を検知する燃圧センサSW16である。
ECU10は、これらの検知信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断すると共に、各デバイスの制御量を計算する。ECU10は、計算をした制御量に係る制御信号を、インジェクタ6、点火プラグ25、吸気電動SV−T23、排気電動SV−T24、燃料供給システム61、スロットル弁43、EGR弁54、過給機44の電磁クラッチ45、エアバイパス弁48、及び、スワールコントロール弁56に出力する。例えば、ECU10は、第1圧力センサSW3及び第2圧力センサSW5の検知信号から得られる過給機44の前後差圧に基づいてエアバイパス弁48の開度を調整することにより、過給圧を調整する。また、ECU10は、EGR差圧センサSW15の検知信号から得られるEGR弁54の前後差圧に基づいてEGR弁54の開度を調整することにより、燃焼室17の中に導入する外部EGRガス量を調整する。ECU10によるエンジン1の制御の詳細は、後述する。
(エンジンの運転領域)
図5Aは、エンジン1の運転領域を例示している。エンジン1の運転領域は、負荷及び回転数によって定められており、負荷の高低及び回転数の高低に対し、大きく五つの領域に分けられている。具体的に、五つの領域は、アイドル運転を含みかつ、低回転及び中回転の領域に広がる低負荷領域(1)−1、低負荷領域よりも負荷が高くかつ、低回転及び中回転の領域に広がる中負荷領域(1)−2、中負荷領域(1)−2よりも負荷が高い領域でかつ、全開負荷を含む高負荷領域の中回転領域(2)、同じく高負荷領域において中回転領域(2)よりも回転数の低い低回転領域(3)、及び、低負荷領域(1)−1、中負荷領域(1)−2、高負荷中回転領域(2)、及び、高負荷低回転領域(3)よりも回転数の高い高回転領域(4)である。
ここで、低回転領域、中回転領域、及び、高回転領域はそれぞれ、エンジン1の全運転領域を回転数方向に、低回転領域、中回転領域及び高回転領域の略三等分にしたときの、低回転領域、中回転領域、及び、高回転領域とすればよい。図5Aの例では、回転数N1未満を低回転、回転数N2以上を高回転、回転数N1以上N2未満を中回転としている。回転数N1は、例えば1200rpm、回転数N2は、例えば4000rpmとしてもよい。また、高負荷中回転領域(2)は、燃焼圧力が900kPa以上となる領域としてもよい。尚、図5Aにおける二点鎖線は、エンジン1のロード−ロードライン(Road-Load Line)を示している。
図5Bは、図5Aに示したエンジン1の各運転領域におけるスワールコントロール弁56の開度制御を例示している。具体的に、低負荷領域(1)−1、中負荷領域(1)−2、及び中回転領域(2)では、スワールコントロール弁56の開度は、スワール比を高めるために、ほぼ全閉となるように、閉じ側に制御される。低回転領域(3)では、スワールコントロール弁56の開度は、スワール比を弱めるために、半分程度の開度となるように制御される。高回転領域(4)では、スワール流が形成されないように、スワールコントロール弁56の開度は、ほぼ全開となるように、開き側に制御される。
エンジン1は、燃費の向上及び排出ガス性能の向上を主目的として、低負荷領域(1)−1、中負荷領域(1)−2、及び、高負荷中回転領域(2)において、圧縮自己着火による燃焼を行う。エンジン1はまた、その他の領域、具体的には、高負荷低回転領域(3)及び高回転領域(4)においては、火花点火による燃焼を行う。以下、低負荷領域(1)−1、中負荷領域(1)−2、高負荷中回転領域(2)、高負荷低回転領域(3)、及び、高回転領域(4)の各領域におけるエンジン1の運転について、図6に示す、各運転領域における燃料噴射時期及び点火時期を参照しながら詳細に説明をする。
(低負荷領域(1)−1)
エンジン1が低負荷領域で運転しているときには、燃料噴射量が少なく、燃焼室17の内部の温度も低い。そのため、所定の圧力及び温度に達することで自己着火するCI燃焼は、安定して行えない。燃料が少ないため、点火による着火も困難でSI燃焼も不安定になる。エンジン1の低負荷運転領域における燃焼室17の内部全体での空燃比(A/F)は、例えば30以上40以下である。
図7に、燃焼時のNOxの発生量とA/Fとの関係を示す。理論空燃比(A/F=14.7)の周辺は、燃焼温度が高くなるため、NOxが多く発生する。A/Fが10を下回るような、燃料濃度が濃く、燃料に対して空気が不足する酸欠状態、又は、A/Fが30を超えるような、燃料濃度が薄く、燃料に対して空気が過剰となる空気過多状態となることで、NOxの発生は抑制される。
従って、現状では、エンジンが低負荷領域で運転しているときには、点火プラグの周辺に前者のようなリッチな混合気を形成して火種とし、その混合気の周辺に後者のようなリーンな混合気を形成して、圧縮着火させる成層リーン燃焼などが行われている。
しかし、そのような成層リーン燃焼では、リッチな混合気とリーンな混合気との間に、多量のNOxが発生するA/Fが10〜25の混合気がどうしても発生する。そのため、NOxの抑制が図れない。
A/Fが30を超えるようなリーンな混合気は、火花点火で着火できても、火炎伝播が遅く、燃焼が進まないので、安定したSI燃焼が行えない。一方、A/Fが25前後(20〜35)であれば、安定したSI燃焼が行え、かつNOxの発生も抑制できる。
そこで、エンジン1は、低負荷領域(1)−1において、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼を行う。
そして、スワール流を利用した混合気分布の制御技術を応用することにより、エンジン1の低負荷運転領域において安定したSPCCI燃焼が行え、低NOxかつ低燃費な燃焼が実現できるようにしている。
具体的には、燃焼室17の内部全体にA/Fが30を超えるようなリーンな混合気が形成される少量の燃料を、燃焼室17の内部に噴射し、点火プラグが有る燃焼室17の中央部に位置して、火種となる領域(例えばA/Fが20以上35以下)と、燃焼室17の周辺部に位置して、火種の燃焼圧と燃焼熱とによって圧縮着火する領域(例えばA/Fが35以上50以下)と、を有する成層化した混合気分布が、点火するタイミングで燃焼室17の内部に形成されるようにした。次に、スワール流を利用した混合気分布の制御について、具体的に説明する。
(混合気分布の制御)
本発明者らは、燃焼室内での混合気分布を高精度に制御するために、スワール流に着目した。スワール流は、シリンダの中心軸と直交する方向に形成される旋回流(横渦)である。そのため、燃焼室の容積が大小に変化する方向に形成されるタンブル流(縦渦)とは異なり、燃焼室の容積の変化やエンジンの回転速度の影響をほとんど受けることがない。
従って、スワール流、厳密にはシリンダの中心軸と直交する方向に旋回するスワール成分は、燃焼室の容積の変化やエンジンの運転状態が変化しても、その流速は比較的安定している。そのため、燃焼室の中で燃料を噴射し、その燃料の噴霧の経時的な変化をスワール流を利用して制御することで、燃料の噴射後の所定のタイミングで燃焼室の内部に形成される混合気分布を、高精度に制御することが可能になる。
この点、図8を用いて具体的に説明する。図8の左端の図は、燃焼室17の容積が比較的大きい吸気行程の所定のタイミングでの燃焼室17を模式的に表したものである。前述したように、燃焼室17の上部には、その内部にスワール流を発生させるスワールコントロール弁(SCV)56(スワール発生部を構成)が配設されている。燃焼室17の上部の中央部位には、燃焼室17の内部に燃料を噴射するインジェクタ6(燃料噴射部を構成)が配設されている。インジェクタ6は、周方向に等間隔に配置された10個の噴孔から、噴射軸心X2に対して下方に向いた30度〜60度、好ましくは45度の噴射角で、燃料を同時に放射状に噴射する。各噴孔から噴射される燃料の噴霧の中心線L1〜L10を図2に示す。
燃料の噴霧の中心線L1〜L5は、エンジン1のフロント側に位置しており、燃料の噴霧の中心線L6〜L10は、エンジン1のリヤ側に位置している。この図では、燃料の噴霧の中心線L1は、エンジン1のフロント側の燃料の噴霧の中心線L1〜L5のうち、最も排気側に位置しており、2つの吸気弁21、21の間を等分する二等分線であって噴射軸心X2を通る基準線Kからエンジン1のフロント側に略18度傾斜した位置に配置されている。
エンジン1のフロント側に位置する燃料の噴霧の中心線L1〜L5と、エンジン1のリヤ側に位置する燃料の噴霧の中心線L6〜L10とは、噴射軸心X2が延びる方向から見て、基準線Kに対して線対称に配置されている。燃料の噴霧の中心線L1〜L10は、噴射軸心X2を中心に略36度の等間隔で、この順に反時計回りに配置されている。
燃焼室17では、ECU10によってスワールコントロール弁56が閉じ側に制御されることで、燃焼室17に偏った吸気の導入が行われる。それにより、燃焼室17の内部に、中心軸X1に対して傾斜したスワール流(斜めスワール流、スワール成分とタンブル成分とで構成)が形成されるようになっている。
具体的には、スワールコントロール弁56が閉じ側に制御されることで、第1吸気ポート181から燃焼室17に相対的に多く吸気が流入する。それにより、図3に矢印で示したように、燃焼室17の内部に反時計回りに旋回する流動が形成される。タンブルポートである吸気ポート18との組み合わせにより、斜めスワール流が形成される。図8の左端の図に矢印で示すように、第1吸気ポート181から燃焼室17に流入する吸気によって形成される斜めスワール流は、燃焼室17の排気側の上部を通ってエンジン1のフロント側を斜め下向きに大きく旋回し、燃焼室17の吸気側の下部を通って、エンジン1のリヤ側を斜め上向きに大きく旋回し、燃焼室17の排気側の上部に戻るように流れる。
左端の図に示す符号Dは、燃焼室17の内部を、エンジン1のフロント−リヤ方向で二等分した縦断面を示している。左端の図から矢印で示す、上段の5つの図(a)〜(e)は、その縦断面Dで区画されたエンジン1のフロント側(図の手前側)に位置する、斜めスワール流の上流側(便宜上、上流側とする)での燃料噴射後の経時的な状態変化を模式的に表している。左端の図から矢印で示す、下段の5つの図(f)〜(j)は、その縦断面Dで区画されたエンジン1のリヤ側(図の奥方側)に位置する、斜めスワール流の下流側での燃料噴射後の経時的な状態変化を模式的に表している。
これら各図(a)〜(j)の白抜き矢印は、燃焼室17の内部に発生した斜めスワール流の主流(勢いの強い流動の中心となる部分、以下、単にスワール流ともいう)を示している。尚、スワール流の主流は、その周囲に主流と同じ方向に向かって流れる、流れの弱い副流を伴っている。その副流によって燃料の噴霧の流れが影響される場合があるが、副流の流れ方向は主流と同じであり、主流の方が勢いが強いので、副流によって燃料の噴霧が影響を受けたとしても、最終的には主流による影響が支配的となる。そのため、後述するスワール流によって混合気分布が形成される現象は、副流によってはほとんど変化しない。
上段の(a)は、インジェクタ6から燃料が噴射された直後の、スワール流の上流側を示している。スワール流の上流側では、5つの燃料f1〜f5が、スワール流の下流側の燃料f6〜f10と同時に噴射される。
(b)に示すように、上流側でスワール流に向けて噴射された燃料のうち、噴孔からスワール流までの距離(到達距離)が最も短い燃料f1の噴霧が最初にスワール流に到達する。その後、(c)に示すように、その次に到達距離が短い燃料f2の噴霧が、燃料f1の噴霧がスワール流に到達した部位よりも下流側の部位でスワール流に到達する。このとき、燃料f1の噴霧は、スワール流と共に移動し、燃料f2の噴霧と合流する。更にその後、(d)に示すように、その次に到達距離が短い燃料f3の噴霧がスワール流に到達する。このとき、先に合流した燃料f1,f2の噴霧は、スワール流と共に移動し、燃料f3の噴霧と合流する。
更にその後、(e)に示すように、その次に到達距離が短い燃料f4の噴霧がスワール流に到達する。この例示では、この燃料f4の噴霧は、燃焼室17の下端部でスワール流に到達する。このとき、先に合流した燃料の噴f1,f2,f3の噴霧は、スワール流と共に移動し、燃料f4の噴霧と合流する。
噴射される燃料が、燃焼室17の壁面17aに到達する場合がある(燃料f5)。この燃料f5の噴霧は、(d)に示すように、壁面17aに到達した後、壁面17aに沿って移動する。そして、(e)に示すように、燃料f5の噴霧も、その後、スワール流に到達し、先に合流した燃料の噴f1,f2,f3,f4の噴霧と合流する。
すなわち、インジェクタ6が、スワール流に噴霧が到達する、第1燃料及び第2燃料を含む複数の燃料(図例のf1〜f4)を噴射し、第1燃料(例えばf1)の噴霧がスワール流に到達した後、第2燃料(例えばf2)の噴霧が、スワール流によって第1燃料の噴霧が移動した位置に到達するように構成されている。
更に、壁面17aに到達する燃料f5についても、その噴霧が壁面17aに沿って移動してスワール流に到達し、これら噴霧と合流するように構成されている。
そうすることで、スワール流を利用して噴射した燃料を合流させ、燃料濃度の濃いリッチな混合気を形成することができる。この例示では、インジェクタ6からスワール流の上流側で噴射された燃料は、その全量が一箇所に集められるようになっている。
一方、下段の(f)は、インジェクタ6から燃料が噴射された直後の、スワール流の下流側を示している。スワール流の下流側でも、5つの燃料f6〜f10が、スワール流の上流側の5つの燃料f1〜f5と同時に噴射される。
(g)に示すように、下流側でスワール流に向けて噴射された燃料のうち、噴孔からスワール流までの距離(到達距離)が最も短い燃料f10の噴霧が最初にスワール流に到達する(第1位置P1)。その後、(h)に示すように、その次に到達距離が短い燃料f9の噴霧は、スワール流に対して、燃料f10の噴霧が到達した部位よりも上流側の部位に到達する(第2位置P2)。
このとき、燃料f10の噴霧は、第1位置P1に到達した後、燃料f9の噴霧が第2位置P2に到達するまでの間に、スワール流と共に、燃料f10の噴霧の到達位置(第1到達位置P1)から更に下流側に移動し、第2位置P2から遠ざかる。従って、燃料f9の噴霧が、その後スワール流と共に移動しても、燃料f10の噴霧は、燃料f9の噴霧からスワール流の上流側に離れた位置でスワール流と共に移動するので、スワール流によって移動する間、燃料f9の噴霧は、燃料f10の噴霧から離れた状態が保持される。従って、燃料濃度が分散した混合気が形成される。更にその後、(i)に示すように、その次に到達距離が短い燃料f8の噴霧が、燃料f9の噴霧がスワール流に到達した部位よりも上流側の部位でスワール流に到達する。このとき、先にスワール流に到達した燃料f10,f9の噴霧は、スワール流と共に移動し、それぞれの到達位置から下流側に移動している。
すなわち、インジェクタ6が、スワール流に噴霧が到達する、第1燃料及び第2燃料を含む複数の燃料(図例のf10〜f8)を噴射し、第1燃料の噴霧(例えばf10)がスワール流に到達した位置を第1位置P1、第2燃料の噴霧(例えばf9)がスワール流に到達した位置を第2位置P2としたとき、第1燃料の噴霧は、第1位置P1に到達した後、第2燃料の噴霧が第2位置P2に到達するまでの間に移動し、スワール流によって第2位置から遠ざかるように構成されている。
そうすることで、スワール流を利用して噴射した燃料を適度に拡散させることができ、燃料が薄く拡がった均質な混合気を形成することができる。この例示では、インジェクタ6で噴射した燃料の約30%が拡散されるようになっている。
更にその後、(j)に示すように、その次に到達距離が短い燃料f7の噴霧がスワール流に到達する。この例示では、この燃料f7の噴霧は、燃焼室17の下端部でスワール流に到達する。このとき、燃料f7の噴霧は、スワール流の上流側の燃料f1〜f5の噴霧と合流する。
スワール流の上流側と同様に、噴射される燃料が、燃焼室17の壁面17aに到達する場合がある(燃料f6)。この燃料f6の噴霧も、(i)に示すように、壁面17aに到達した後、壁面17aに沿って移動する。そして、(j)に示すように、燃料f6の噴霧は、その後、スワール流に到達し、燃料f7の噴霧と共に、燃料f1〜f5の噴霧と合流する。すなわち、この例示では、インジェクタ6で噴射された燃料の約70%が合流するようになっている。
図8の右端の図は、インジェクタ6から噴射された燃料の全てがスワール流に到達した直後の状態を模式的に示している。この図に示すように、インジェクタ6から噴射された燃料は、スワール流に沿って大小に拡がる混合気を形成する。この混合気は、燃料が集まった領域と、燃料が分散した領域とを含み、部位によって燃料濃度が異なる、換言すれば、空燃比(A/F)が異なる分布を有している(混合気分布)。その混合気分布は、スワール流と共に燃焼室17の内部を周方向に移動する。その際、混合気分布は、次第に拡散しながら燃焼室17の中心側に偏向していく。
図9は、スワール流と共に混合気分布が移動している燃焼室17の内部を、燃焼室17の上方から見た図を例示している。吸気の導入によって形成されるスワール流のエネルギーは、その後、空気抵抗を受けて減衰し、次第に拡散しながら燃焼室17の中心側に偏向していく。従って、スワール流と共に移動する混合気分布は、そのスワール流の流動の変化に伴って、次第に拡散しながら燃焼室17の中心側に偏向していく。
図9の(a)の上図に示すように、燃料f1〜f7が集まって形成された混合気分布(ドットで模式的に示す)は、矢印で示すように、スワール流と共に移動して拡散しながら燃焼室17の中央部側に偏向していく。この混合気分布は、燃料濃度が濃いので、図9の(a)の下図にドットで示すように、燃焼が開始されるタイミングでは、燃焼室17の中央部に偏った比較的リッチな混合気分布を形成することができる。
図9の(b)の上図に示すように、燃料f8〜f10が分散して形成された燃料濃度が薄く拡がった混合気分布(ドットで模式的に示す)は、矢印で示すように、スワール流と共に移動して更に拡散しながら燃焼室17の中央部側に偏向していく。それにより、燃焼が開始されるタイミングでは、図9の(b)の下図にドットで示すように、燃焼室17の全体に拡がった比較的リーンな混合気分布を形成することができる。
これら混合気が合わさることにより、燃焼室17の中に、相対的に燃料濃度が濃い領域と、相対的に燃料濃度が薄い領域とを含む、成層化した混合気分布を形成することができる。なお、図9(a)の上図と、図9(b)の上図と、は同じクランク角時点の概念図であり、このクランク角時点の全体の混合気分布としては、燃料f1〜f7が集まって形成された混合気分布(図9(a)の上図のドット部)と、燃料f8〜f10が分散して形成された燃料濃度が薄く拡がった混合気分布(図9(b)の上図のドット部)と、が連なった混合気分布となる。
後述するように、燃料の噴射圧が30〜120MPaの範囲内、かつ、スワール比が2〜6の範囲内であれば、このような混合気分布をスワール流を利用して形成することができる。
エンジン1の運転中は、ピストン3が上昇及び下降を繰り返すので、燃焼室17の容積もそれに伴って大小に変化する。中心軸X1に対するスワール流の旋回角度(図8の白抜き矢印の傾きに相当)もそれに伴って変化する。しかし、前述したように、スワール流(スワール成分)の旋回速度は、その影響をほとんど受けない。従って、燃焼室17の容積が異なる場合であっても、このような混合気分布をスワール流を利用して形成することができる。
例えば、燃料噴射のタイミングが燃焼室17の容積が比較的小さい圧縮行程であっても、説明した吸気行程の場合と同様の現象が発生する。ただし、燃焼が開始されるタイミングまでの時間は、圧縮行程よりも吸気行程の方が長いので、燃焼が開始されるタイミングでは、吸気行程での燃料噴射の方が、より燃料が拡散し、燃焼室17の内部に大きく拡がる、リーンで燃料濃度が均質な混合気分布が形成される。燃焼が開始されるタイミングまでの時間は、吸気行程よりも圧縮行程の方が短いので、燃焼が開始されるタイミングでは、圧縮行程での燃料噴射の方が、より燃料が集約し、リッチで燃料濃度が燃焼室17の中央部に偏った混合気分布が形成される。
従って、このように燃焼室17の中で燃料を噴射し、その燃料の噴霧の経時的な変化をスワール流を利用して制御すれば、部位によって燃料濃度の異なる、成層化した混合気分布を形成することができる。インジェクタ6から燃料を噴射するタイミングを調整することにより、燃焼が開始されるタイミングでの混合気分布を、燃焼に適した配置や状態となるようにコントロールすることも可能になる。更に、このような混合気分布を、複数組み合わせることで、多様な形態の混合気分布が形成できる。
(燃料噴射圧力)
スワール流を利用して混合気分布をコントロールするためには、燃料が、30MPa以上120MPa以下の範囲の圧力で、インジェクタ6から噴射されるようにするのが好ましい。
燃料の噴射圧が30MPaを下回ると、噴射された燃料の勢いが弱すぎて、スワール流に到達する前に拡散し、スワール流に到達できない燃料が発生する恐れがある。燃料の噴射圧が120MPaを上回ると、噴射された燃料の勢いが強すぎて、燃料がスワール流を貫通する恐れがある。いずれの場合も、燃料をスワール流に適切に乗せることができない。それに対し、噴射圧が30〜120MPaの範囲であれば、噴射した燃焼をスワール流に適切に乗せることができるので、スワール流を利用して、混合気分布の安定したコントロールが可能になる。
(スワール流の強さ)
強いスワール流は、混合気分布を燃焼に適した状態にコントロールするためには重要である。
図10に、スワール流の強さが着火の安定性に与える影響について解析した結果を示す。解析は、前述したようなスワール流を利用する条件の下で行った。スワール流の強さの指標となるスワール比を大小に変化させながら、燃焼室17の内部がリーンな状態(A/Fが30程度)となる量の燃料を所定の割合で分割噴射した。前段噴射は吸気行程の初期(圧縮上死点前320°CA)に行い、後段噴射は噴射タイミングを変えて行った。点火は圧縮上死点直前で行った。図10の縦軸は、燃焼安定性(SDI)を示しており、斜線で示す領域は、着火が不安定になる後段噴射のタイミングを示している。
スワール流が弱い(スワール比が小さい、例えば、スワール比が0)と、着火が不安定な領域のみであったのに対し(図10の下段の図)、スワール流が強く(スワール比が大きく、例えば、スワール比が2に)なると、安定して着火できるタイミングが出現し(図10の中段の図)、更にスワール流が強くなる(例えば、スワール比が4になる)と、そのタイミング及びその範囲が増加する傾向が認められた(図10の上段の図)。
すなわち、スワール流が弱いと、混合気分布のコントロールが行えない。そして、スワール流が強いと、それだけ安定して着火できるタイミング及びその範囲が増加することから、より自由度の高い混合気分布のコントロールが可能になる。従って、混合気分布を燃焼に適した状態にコントロールするために、強いスワール流を形成することが重要である。
それにより、エンジン1が低負荷領域(1)−1において運転しているときには、スワール比が少なくとも2以上、好ましくは4以上となるように、ECU10は、スワールコントロール弁(SCV)56を制御する。
ここで、スワール比を定義すると、「スワール比」は、吸気流横方向角速度をバルブリフト毎に測定して積分した値を、エンジン角速度で除した値である。吸気流横方向角速度は、図11に示すリグ試験装置を用いた測定に基づいて求めることができる。すなわち、同図に示す装置は、基台にシリンダヘッド13を上下反転して設置して、吸気ポート18を図外の吸気供給装置に接続する一方、そのシリンダヘッド13上にシリンダ36を設置すると共に、その上端にハニカム状ロータ37を有するインパルスメータ38を接続して構成されている。インパルスメータ38の下面は、シリンダヘッド13とシリンダブロックとの合わせ面から1.75D(尚、Dはシリンダボア径)の位置に位置づけている。吸気供給に応じてシリンダ36内に生じるスワール(図11の矢印参照)によって、ハニカム状ロータ37に作用するトルクをインパルスメータ38によって計測し、それに基づいて、吸気流横方向角速度を求めることができる。
図12は、このエンジン1におけるスワールコントロール弁56の開度と、スワール比との関係を示している。図12は、スワールコントロール弁56の開度を、セカンダリ通路402の全開断面に対する開口比率によって表している。スワールコントロール弁56が全閉のときに、セカンダリ通路402の開口比率は0%となり、スワールコントロール弁56の開度が大きくなると、セカンダリ通路402の開口比率が0%よりも大きくなる。スワールコントロール弁56が全開のときに、セカンダリ通路402の開口比率は100%となる。図12に例示するように、このエンジン1は、スワールコントロール弁56を全閉にすると、スワール比は6程度になる。エンジン1が低負荷領域(1)−1において運転するときに、スワール比は4以上6以下とすればよい。スワールコントロール弁56の開度は、開口比率が0〜15%となる範囲で調整すればよい。
(スワール流の特性)
スワール流は、タンブル流ほど、エンジン1の回転速度の影響を受けることがない。そのため、エンジン1の回転速度が変化しても、安定した着火が可能になる燃焼の噴射タイミングは大きく変化しない。従って、スワール流を利用すれば、エンジン1の回転数(回転速度)に依存することなく、混合気分布の制御が行える。
図13に、エンジン1の回転数が、着火の安定性に与える影響について解析した結果を示す。この解析の条件は、エンジン1の回転数が異なる点を除き、前述したスワール流の強さの解析と同じである。図13の上段の図は、図10の上段の図である。図13の下段の図は、上段の図より、エンジン1の負荷が同一の条件において、エンジン1の回転数が増加した場合(回転数の差:1000rpm)を示している。
図13に見られるように、エンジン1の回転数が変化しても、安定した着火が可能になる噴射タイミングは、若干変化は認められるものの、重複している範囲が多く認められる。従って、混合気分布の制御は、エンジン1の回転数に依存することなく行える。
従って、このようにスワール流を活用し、噴射した燃料をスワール流で合流させたり分散させたりすることで、燃料濃度が部位によって異なる混合気分布を形成することができる。例えば、燃料f8〜f10によって形成される混合気分布は、分散しているので、比較的燃料濃度が薄く、燃料濃度のばらつきの少ない、より均質な分布を形成する。これはCI燃焼にとって有利である。対して、燃料f1〜f7によって形成される混合気分布は、集約しているので、比較的燃料濃度が濃い、偏った分布を形成する。これはSI燃焼にとって有利である。
スワール流に燃料が到達する位置やタイミングを調整することで、燃料が分散して均質性に優れた混合気分布や、燃料が集約して燃料濃度の濃い偏った混合気分布を形成することができる。例えば、噴射される燃料が、燃料f8〜f10のように、分散する燃料のみとなるように構成すれば、均質性に優れた混合気分布を形成できる。噴射される燃料が、燃料f1〜f7のように、集約する燃料のみとなるように構成すれば、燃料濃度の濃いまとまった混合気分布を形成することができる。
また、スワール流の強さやスワール流が発生するタイミングを調整してもよい。燃料を噴射する位置や噴射方向、燃料の噴射数を調整してもよい。そうすれば、1回の燃料噴射でも、燃料濃度の分布や燃焼室17の内部での配置、形態が異なる混合気分布を形成することができる。
そして、燃焼サイクルの異なるタイミングで燃料噴射を複数回行い、そのような混合気分布を燃焼室17の内部に複数形成し、点火のタイミング等、所望する所定のタイミングでこれら混合気分布を重ねて一体化することで、多様な形態の混合気分布を精度高くコントロールすることも可能になる。
(低NOxで低燃料量な噴射タイミングの探索)
スワール流を利用した混合気分布の制御により、低NOxで低燃料量な燃料噴射で安定した燃焼が実現できる噴射タイミングを探索すべく、解析を行った。図14に、その解析の一例を示す。この解析では、エンジン回転数を2000pmとし、A/Fが30となるように一括噴射を行った。尚、スワール比は4以上である。
図14の上段は、燃焼の噴射量(縦軸)及び燃料の噴射タイミング(横軸)に対する燃焼安定性(SDI)を表したコンター図である。燃焼安定性が高い領域ほど、濃度が濃くなるように表してある。図14の中段は、燃焼の噴射量(縦軸)及び燃料の噴射タイミング(横軸)に対するNOxの発生量を表したコンター図である。NOxの発生量が多い領域ほど、濃度が濃くなるように表してある。
図14の下段は、これらコンター図を組み合わせることによって得られる、所定の低NOx及び低燃料量な燃料噴射で安定した燃焼が実現できる領域を表したコンター図である。燃焼安定性が高く、かつNOxの発生量が少ない領域ほど、濃度が濃くなるように表してある。例えば、この場合、吸気下死点の近傍のタイミングで燃料を噴射すれば、少量の燃料でNOxの発生を抑制しながら安定した燃焼が行えることになる。
このように、様々な条件で、低NOxで低燃料量な燃料噴射で安定した燃焼が実現できる噴射タイミングの探索を行うことで、エンジン1の運転状態に応じた適切な燃料の噴射タイミングを選択することができる。
(低負荷領域(1)−1でのエンジンの運転)
図6の符号601は、エンジン1が低負荷領域(1)−1において、運転状態601にて運転しているときの燃料噴射時期(符号6011、6012)及び点火時期(符号6013)、並びに、燃焼波形(つまり、クランク角に対する熱発生率の変化を示す波形、符号6014)それぞれの一例を示している。具体的には、後述する低(中)負荷領域における燃料噴射時期を示している。図5Aに、運転状態601に対応する運転領域を黒丸601によって示す。
SPCCI燃焼は、点火プラグ25が、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をすることによって、混合気が火炎伝播によりSI燃焼をすると共に、SI燃焼の発熱により燃焼室17の中の温度が高くなりかつ、火炎伝播により燃焼室17の中の圧力が上昇することによって、未燃混合気が自己着火によるCI燃焼をする。
SI燃焼の発熱量を調整することによって、圧縮開始前の燃焼室17の中の温度のばらつきを吸収することができる。圧縮開始前の燃焼室17の中の温度がばらついていても、例えば点火タイミングの調整によってSI燃焼の開始タイミングを調整すれば、自己着火のタイミングをコントロールすることができる。
SPCCI燃焼を行うときには、圧縮上死点付近、正確には圧縮上死点よりも前の所定タイミングで、点火プラグ25が混合気に点火する、これによって、火炎伝播による燃焼が開始する。SI燃焼時の熱発生は、CI燃焼時の熱発生よりも穏やかである。従って、熱発生率の波形は、傾きが相対的に小さくなる。図示はしないが、SI燃焼時の、燃焼室17の中における圧力変動(dp/dθ)も、CI燃焼時よりも穏やかになる。
SI燃焼によって、燃焼室17の中の温度及び圧力が高まると、未燃混合気が自己着火する。図6の例では、自己着火のタイミングで、熱発生率の波形の傾きが、小から大へと変化している。つまり、熱発生率の波形は、CI燃焼が開始するタイミングで、変曲点を有している。
CI燃焼の開始後は、SI燃焼とCI燃焼とが並行して行われる。CI燃焼は、SI燃焼よりも熱発生が大きいため、熱発生率は相対的に大きくなる。但し、CI燃焼は、圧縮上死点後に行われるため、ピストン3がモータリングによって下降している。CI燃焼による、熱発生率の波形の傾きが大きくなりすぎることが回避される。CI燃焼時のdp/dθも比較的穏やかになる。
dp/dθは、燃焼騒音を表す指標として用いることができるが、前述の通りSPCCI燃焼は、dp/dθを小さくすることができるため、燃焼騒音が大きくなりすぎることを回避することが可能になる。燃焼騒音は、許容レベル以下に抑えることができる。
CI燃焼が終了することによって、SPCCI燃焼が終了する。CI燃焼は、SI燃焼に比べて、燃焼期間が短い。SPCCI燃焼は、SI燃焼よりも、燃焼終了時期が早まる。言い換えると、SPCCI燃焼は、膨張行程中の燃焼終了時期を、圧縮上死点に近づけることが可能である。SPCCI燃焼は、SI燃焼よりも、エンジン1の燃費性能の向上に有利である。
エンジン1の燃費性能を向上させるために、EGRシステム55は、エンジン1が低負荷領域(1)−1において運転しているときに、燃焼室17の中にEGRガスを導入する。
エンジン1が低負荷領域(1)−1において運転するときに、ECU10は、前述したように、30MPa〜120MPaの範囲の圧力で、インジェクタ6から燃料が噴射されるように制御する。それにより、各噴孔から噴射された燃焼のうち、スワール流に向かう燃料の噴霧はスワール流に到達し、スワール流に適切に乗せることができる。
インジェクタ6の各噴孔から同時に噴射された燃料の噴霧f1〜f10は、図8に示したように、スワール流に到達し、合流して集約されたり分散されたりしながら混合気分布を形成する。この混合気分布は、スワール流に乗って燃焼室17の内部を移動する。
エンジン1が低負荷領域(1)−1において運転するときに、混合気の空燃比(A/F)は、燃焼室17の全体において理論空燃比よりもリーンである。つまり、燃焼室17の全体において、混合気の空気過剰率λは1を超える。より詳細に、燃焼室17の全体において混合気のA/Fは30以上40以下である。こうすることで、RawNOxの発生を抑制することができ、排出ガス性能を向上させることができる。
点火プラグ25が点火する点火タイミングでは、混合気は成層化し、燃焼室17内の中央部と外周部との間において、SPCCI燃焼に適した混合気分布を形成している。燃焼室17内の中央部は、点火プラグ25が配置されている部分であり、外周部は、中央部の周囲であって、シリンダ11のライナーに接する部分である。
燃焼室17内の中央部と周辺部は、燃焼室17の内径を二等分した場合の、その内側と外側の各区分としてもよい。燃焼室17内の中央部と周辺部はまた、燃焼室17の内径を三等分した場合の、その内側の2区分と外側の1区分としてもよい。
燃焼室17の中央部に分布する燃料濃度は、燃焼室17の外周部に分布する燃料濃度よりも濃い。具体的に、中央部のA/Fは、20以上35以下であり、外周部のA/Fは、35以上50以下である。尚、A/Fの値は、点火タイミングにおける空燃比の値であり、以下の説明においても同じである。
低負荷領域(1)−1は、負荷の大小により、更に、低(高)負荷領域、低(中)負荷領域、及び低(低)負荷領域の3つの領域に分けられている。低(高)負荷領域は、低負荷領域(1)−1の中での高負荷側の領域であり、中負荷領域(1)−2に連なっている。低(中)負荷領域は、低(高)負荷領域より負荷の小さい領域であり、低(低)負荷領域は、低(中)負荷領域より負荷の小さい領域である。低(低)負荷領域は、アイドル運転を含む。
これら低(高)負荷領域、低(中)負荷領域、及び低(低)負荷領域は、例えば、低負荷領域(1)−1を負荷方向に三等分した各領域であってもよく、エンジン1の仕様に応じて適宜設定できる。
エンジン1が低負荷領域(1)−1において運転するときには、吸気行程及び圧縮行程の間の所定のタイミングで燃料の噴射が行われる。燃料の噴射時期及び噴射回数は、低(高)負荷領域、低(中)負荷領域、及び低(低)負荷領域の各々で変更される。図15に、これら各領域での燃料の噴射タイミング及び噴射回数を示す。尚、これら各領域での噴射タイミングは、前述した噴射タイミングの探索結果に基づいて設定されている。
エンジン1が低(高)負荷領域で運転するときには、吸気行程の後半(図15に符号KRで示す、吸気行程を2等分した後半の領域)に、2回に分けて燃料が噴射される。低(高)負荷領域は、低負荷領域(1)−1の中では、噴射される燃料の量は比較的多い。その燃料がほぼ二分(5:5)された状態で、2回に分けて噴射される。
吸気行程中に噴射されたこれら燃料は、比較的長い期間、スワール流によって周方向に移動する。それにより、拡散しながら燃焼室17の中央部に偏向し、圧縮上死点直前の点火タイミングでは、燃焼室17の中に大きく拡がった混合気分布を形成する。図16の(a)に、その混合気分布を燃焼室17の上方から見た図を模式的に示す。
先に噴射された燃料によって形成される混合気分布G1、及び、後に噴射された燃料よって形成される混合気分布G2を、概念的に示している。いずれの燃料噴射も、点火タイミングまでの期間が長いため、これら噴射で形成された各燃料の混合気分布G1,G2は、スワール流の作用を受けて移動し、均質で大きく拡がった状態となる。先に噴射された燃料の混合気分布G1の方が、後に噴射された燃料の混合気分布G2よりも僅かに大きく拡がる。いずれの混合気分布の重心も燃焼室17の中央部に位置している。
これら混合気分布G1,G2が重なって、一体となった混合気分布が形成される。その混合気分布の中央部におけるA/Fは20〜35の範囲に、周辺部におけるA/Fは35以上に、それぞれコントロールされている。尚、エンジン1が低(高)負荷領域で運転するときには、吸気行程の後半に燃料を1回で噴射してもよい。
点火プラグ25は、圧縮上死点直前の点火タイミングで、燃焼室17の中央部の混合気に点火をする。その混合気のA/Fは20〜35であるため、NOxの発生を抑制しながら火炎伝播によるSI燃焼が安定して行える。SI燃焼が安定化することによって、適切なタイミングで、CI燃焼が開始する。SPCCI燃焼において、CI燃焼のコントロール性が向上する。
エンジン1が、低(中)負荷領域及び低(低)負荷領域において運転するときには、吸気行程から圧縮行程の中期までの間のタイミングで燃料を噴射する前段噴射と、圧縮行程の中期以降のタイミングで燃料を噴射する後段噴射と、を含む複数回の噴射が行われる。圧縮行程の中期は、例えば、圧縮行程を前期、中期、及び後期に3等分したときの中間の期間である(図15において前期、中期、及び後期を、各々符号Af、Am、Arで示す)。前段噴射及び後段噴射が圧縮行程の中期に噴射される場合も含むが、その場合の前段噴射は後段噴射よりも先に噴射される。
エンジン1が、低(中)負荷領域において運転するときには、吸気行程の後半に、前段噴射が1回行われ、圧縮行程の中期に、後段噴射が1回行われる。低(中)負荷領域は、低(高)負荷領域に比べて、噴射される燃料の量は少ない。前段噴射は後段噴射よりも燃料が多く噴射される。例えば、前段噴射量:後段噴射量=7:3の比率で噴射される。
吸気行程中に噴射された前段噴射の燃料の混合気分布は、拡散しながら燃焼室17の中央部に偏向し、点火タイミングでは、燃焼室17の中に大きく拡がった混合気分布を形成する。それに対し、圧縮行程の中期に噴射される後段噴射は、点火タイミングまでの時間が短い。そのため、後段噴射の燃料の混合気分布は、あまり拡散せず、点火タイミングでは、燃焼室17の中央部の点火プラグ25の周辺に、その重心が位置するように設定されている。それにより、点火タイミングでは、燃焼室17の中央部と周辺部とでA/Fの分布が比較的大きく異なる混合気分布が形成される。
図16の(b)に、その混合気分布を模式的に示す。図16の(a)と同様に、先に噴射された前段噴射の燃料の混合気分布G1、及び、後に噴射された後段噴射の燃料の混合気分布G2を概念的に示している。前段噴射の燃料の混合気分布G1は、相対的に燃料量は多いが、均質で大きく拡がった状態となる。従って、その燃料濃度は薄くなっている。後段噴射の燃料の混合気分布G2は、相対的に燃料は少ないが、集約されてあまり拡がらない状態となる。従って、その燃料濃度は濃くなっている。そして、いずれの混合気分布の重心も燃焼室17の中央部に位置している。
それにより、比較的少量の燃料であっても、混合気分布の中央部におけるA/Fは、20〜35の範囲となっている。周辺部のA/Fは35以上である。従って、低(高)負荷領域と同様に、NOxの発生を抑制しながら火炎伝播によるSI燃焼が安定して行える。SI燃焼が安定化することによって、適切なタイミングで、CI燃焼が開始する。SPCCI燃焼において、CI燃焼のコントロール性が向上する。
エンジン1が、低(低)負荷領域において運転するときには、吸気行程の後半に、前段噴射が1回行われ、圧縮行程には、後段噴射が3回に分けて行われる(後段第1噴射、後段第2噴射、及び後段第3噴射)。具体的には、後段第1噴射は、圧縮行程の前期から中期にわたる期間に行われ、後段第2噴射は、圧縮行程の中期に行われ、後段第3噴射は、圧縮行程の中期から後期にわたる期間に行われる。すなわち、後段噴射の噴射回数が増加するよう、インジェクタ6はECU10に制御される。
低(低)負荷領域は、低(中)負荷領域に比べて、噴射される燃料の量は少ない。燃料の噴射量の比率は、例えば、前段噴射量:後段第1噴射量:後段第2噴射量:後段第3噴射量=1:1:1:0.5の比率であり、仕様に応じて設定できる。
後段第2噴射は、低(中)負荷領域での後段噴射と同じ圧縮行程の中期に行われ、後段第1噴射はそれよりも早いタイミングで行われ、後段第3噴射はそれよりも遅いタイミングで行われる。それにより、後段第1噴射の混合気分布は、後段第2噴射の混合気分布よりも大きく拡散し、後段第3噴射の混合気分布は、後段第2噴射の混合気分布よりも拡散せず、集約される。これら混合気分布の重心は、点火タイミングでは、燃焼室17の中央部の点火プラグ25の周辺に位置するように設定されている。それにより、点火のタイミングでは、燃焼室17の中央部と周辺部とでA/Fの分布がより大きく異なる混合気分布が形成される。
図16の(c)に、その混合気分布を模式的に示す。前段噴射の燃料の混合気分布G1、並びに、後段第1噴射、後段第2噴射、及び後段第3噴射の各燃料の混合気分布G2,G3,G4を概念的に示している。前段噴射、後段第1噴射、後段第2噴射、及び後段第3噴射の各燃料の混合気分布G1〜G4が重なることにより、A/Fの分布が大きく異なる混合気分布が形成される。
それにより、少量の燃料であっても、混合気分布の中央部におけるA/Fは、20〜35の範囲となっている。周辺部のA/Fは35以上である。従って、低(高)負荷領域や低(中)負荷領域と同様に、NOxの発生を抑制しながら火炎伝播によるSI燃焼が安定して行える。SI燃焼が安定化することによって、適切なタイミングで、CI燃焼が開始する。SPCCI燃焼において、CI燃焼のコントロール性が向上する。
その結果、エンジン1が低負荷領域(1)−1において運転するときには、SI燃焼の着火性の向上及びSI燃焼の安定化を図ることができる。そして、安定したSPCCI燃焼が行え、低NOxかつ低燃費な燃焼が実現できる。
エンジン1が、低(低)負荷領域において運転するときには、後段噴射の噴射回数を増加するのではなく、後段噴射の噴射タイミングを遅く(遅角)してもよい。
具体的には、図17に示すように、低(低)負荷領域では、低(中)負荷領域より、後段噴射の噴射タイミングが遅れるように、ECU10でインジェクタ6を制御する。後段噴射で噴射される燃料量は、双方とも同じでよい。そうすることで、低(低)負荷領域における後段噴射の燃料の混合気分布は、噴射から点火タイミングまでの期間が短くなるため、低(中)負荷領域における後段噴射の燃料の混合気分布よりも拡がりは小さくなる。後段噴射の噴射タイミングを遅くすることにより、燃料濃度の濃い(A/Fが小さい)混合気分布が形成される。
これら混合気分布を重ねることにより、燃料濃度が薄い周辺部(A/Fが35以上)と、より分布範囲が小さく、燃料濃度がより濃い中央部(A/Fが20〜35)とを有する混合気分布を、点火タイミングで形成することができる。従って、この場合も、NOxの発生を抑制しながら火炎伝播によるSI燃焼が安定して行える。SI燃焼が安定化することによって、適切なタイミングで、CI燃焼が開始する。SPCCI燃焼において、CI燃焼のコントロール性が向上する。
尚、エンジン負荷が同じ場合には、エンジン回転数が大小に変化しても、噴射タイミングは保持するとよい。
前述したように、スワール流は、エンジン回転数の影響をほとんど受けることがない。そのため、エンジン負荷が同じ、つまり噴射される燃料量が同じである場合には、エンジン回転数が大小に変化しても、同じタイミングで燃料を噴射すれば、点火タイミングにおいて同様の混合気分布を、燃焼室内に形成することができる。従って、エンジン負荷が同じ場合には、ECU10が、変化するエンジン回転数に対して噴射タイミングが保持されるよう、インジェクタ6に制御信号を出力すれば、安定した燃焼を実現しながら制御の簡素化が図れる。
低負荷領域(1)−1においてエンジン1は、混合気を理論空燃比よりもリーンしてSPCCI燃焼を行うため、低負荷領域(1)−1は、「SPCCIリーン領域」と呼ぶことができる。
(中負荷領域(1)−2)
エンジン1が中負荷領域(1)−2において運転しているときも、低負荷領域(1)−1と同様に、エンジン1は、SPCCI燃焼を行う。
図6の符号602は、エンジン1が中負荷領域(1)−2において、運転状態602にて運転しているときの燃料噴射時期(符号6021,6022)及び点火時期(符号6023)、並びに、燃焼波形(符号6024)それぞれの一例を示している。図5Aに、運転状態602に対応する運転領域を黒丸602によって示す。
EGRシステム55は、エンジン1の運転状態が中負荷領域(1)−2にあるときに、燃焼室17の中にEGRガスを導入する。
また、エンジン1が中負荷領域(1)−2において運転するときにも、低負荷領域(1)−1と同様に、燃焼室17の中には、スワール比が少なくとも2以上、好ましくは4以上の、強いスワール流が形成される。スワールコントロール弁(SCV)56は、全閉又は閉じ側の所定の開度である。スワール流を強くすることにより、燃焼室17内の乱流エネルギーが高くなるから、エンジン1が中負荷領域(1)−2において運転するときに、SI燃焼の火炎が速やかに伝播してSI燃焼が安定化する。SI燃焼が安定することによってCI燃焼のコントロール性が高まる。SPCCI燃焼におけるCI燃焼のタイミングが適正化することによって、燃焼騒音の発生を抑制することができると共に、燃費性能の向上が図られる。また、サイクル間におけるトルクのばらつきを抑制することができる。
エンジン1が中負荷領域(1)−2において運転するときに、混合気の空燃比(A/F)は、燃焼室17の全体において理論空燃比(A/F=14.7)である。三元触媒が、燃焼室17から排出された排出ガスを浄化することによって、エンジン1の排出ガス性能は良好になる。混合気のA/Fは、三元触媒の浄化ウインドウの中に収まるようにすればよい。従って、混合気の空気過剰率λは、1.0±0.2とすればよい。
エンジン1が中負荷領域(1)−2において運転するときに、インジェクタ6は、前段噴射(符号6021)と後段噴射(符号6022)との二回に分けて、燃焼室17の中に燃料を噴射する。前段噴射は、点火タイミングから離れたタイミングで燃料を噴射し、後段噴射は、点火タイミングに近いタイミングで燃料を噴射する。前段噴射は、例えば圧縮行程の前半に行い、後段噴射は、例えば圧縮行程の後半に行ってもよい。圧縮行程の前半及び後半はそれぞれ、圧縮行程をクランク角度に関して二等分したときの前半及び後半とすればよい(図6に、圧縮行程の前半及び後半を、各々符号AF及びARで示す)。
インジェクタ6は、燃焼室17の中央部から径方向外方に向かって、傾いた複数の噴孔から放射状に燃料を噴射する。インジェクタ6が、圧縮行程の前半の期間内において前段噴射を行うと、ピストン3が上死点から離れているため、噴射した燃料噴霧は、上死点に向かって上昇しているピストン3の上面の、キャビティ31の外に到達する。キャビティ31の外の領域は、スキッシュエリア171を形成している(図2参照)。前段噴射によって噴射された燃料は、ピストン3が上昇する間にスキッシュエリア171に留まり、スキッシュエリア171において混合気を形成する。
インジェクタ6が、圧縮行程の後半において後段噴射を行うと、ピストン3が上死点に近いため、噴射した燃料噴霧は、キャビティ31の中に入る。後段噴射によって噴射された燃料は、キャビティ31の内の領域において混合気を形成する。ここで、「キャビティ31の内の領域」とは、キャビティ31の開口を燃焼室17のルーフに投影した投影面からキャビティ31の開口までの領域と、キャビティ31の中の領域とを合わせた領域を意味する、としてもよい。キャビティ31の内の領域は、燃焼室17の中においてスキッシュエリア171以外の領域ということもできる。
後段噴射によってキャビティ31の中に燃料を噴射することに伴い、キャビティ31の内の領域において、ガスの流動が発生する。燃焼室17の中の乱流エネルギーは、点火タイミングまでの時間が長いと、圧縮行程の進行に従い減衰してしまう。ところが、後段噴射の噴射タイミングは、前段噴射よりも点火タイミングに近いため、キャビティ31の中の乱流エネルギーが高い状態のまま、点火プラグ25は、キャビティ31の内の領域の混合気に点火することができる。これにより、SI燃焼の燃焼速度が高まる。SI燃焼の燃焼速度が高まると、前述したように、SI燃焼によるCI燃焼のコントロール性は高まる。
インジェクタ6が、前段噴射と後段噴射とを行うことによって、燃焼室17の中には、全体として、空気過剰率λが1.0±0.2になった、略均質な混合気が形成される。混合気が略均質であるため、未燃損失の低減による燃費の向上、及び、スモークの発生回避による排出ガス性能の向上を図ることができる。空気過剰率λは、好ましくは、1.0〜1.2である。
圧縮上死点の前の所定のタイミングで、点火プラグ25が混合気に点火をする(符号6023)ことによって、混合気は、火炎伝播により燃焼する。火炎伝播による燃焼の開始後、未燃混合気が自己着火して、CI燃焼する。後段噴射によって噴射された燃料は、主にSI燃焼する。前段噴射によって噴射された燃料は、主にCI燃焼する。前段噴射を圧縮行程中に行うと、前段噴射により噴射した燃料が過早着火等の異常燃焼を誘発することを防止することができる。また、後段噴射により噴射した燃料を、安定的に火炎伝播により燃焼させることができる。
中負荷領域(1)−2においてエンジン1は、混合気を理論空燃比にしてSPCCI燃焼を行うため、中負荷領域(1)−2は、「SPCCIλ=1領域」と呼ぶことができる。
ここで、図5Aに示すように、低負荷領域(1)−1の一部、及び、中負荷領域(1)−2の一部においては、過給機44がオフにされる(S/C OFF参照)。詳細には、低負荷領域(1)−1における低回転側の領域においては、過給機44がオフにされる。低負荷領域(1)−1における高回転側の領域においては、エンジン1の回転数が高くなることに対応して必要な吸気充填量を確保するために、過給機44がオンにされて、過給圧を高くする。また、中負荷領域(1)−2における低負荷低回転側の領域においては、過給機44がオフにされ、中負荷領域(1)−2における高負荷側の領域においては、燃料噴射量が増えることに対応して必要な吸気充填量を確保するために、過給機44がオンにされ、高回転側の領域においては、エンジン1の回転数が高くなることに対応して必要な吸気充填量を確保するために、過給機44がオンになる。
尚、高負荷中回転領域(2)、高負荷低回転領域(3)、及び、高回転領域(4)の各領域においては、その全域に亘って過給機44がオンになる(S/C ON参照)。
(高負荷中回転領域(2))
エンジン1が高負荷中回転領域(2)において運転しているときも、低負荷領域(1)−1及び中負荷領域(1)−2と同様に、エンジン1は、SPCCI燃焼を行う。
図6の符号603は、エンジン1が高負荷中回転領域(2)において、運転状態603にて運転しているときの燃料噴射時期(符号6031、6032)及び点火時期(符号6033)、並びに、燃焼波形(符号6034)それぞれの一例を示している。図5Aに、運転状態603に対応する運転領域を黒丸603によって示す。
EGRシステム55は、エンジン1の運転状態が高負荷中回転領域(2)にあるときに、燃焼室17の中にEGRガスを導入する。エンジン1は、負荷が高まるに従いEGRガスの量を減らす。全開負荷では、EGRガスをゼロにしてもよい。
また、エンジン1が高負荷中回転領域(2)において運転するときにも、低負荷領域(1)−1と同様に、燃焼室17の中には、スワール比が少なくとも2以上、好ましくは4以上の、強いスワール流が形成される。スワールコントロール弁(SCV)56は、全閉又は所定の開度となるように閉じている。
エンジン1が高負荷中回転領域(2)において運転するときに、混合気の空燃比(A/F)は、燃焼室17の全体において理論空燃比又は理論空燃比よりもリッチである(つまり、混合気の空気過剰率λは、λ≦1)。
エンジン1が高負荷中回転領域(2)において、運転状態603にて運転するときに、インジェクタ6は、圧縮行程において、前段噴射(符号6031)と後段噴射(符号6032)との二回に分けて、燃焼室17の中に燃料を噴射する。前段噴射は、例えば符号AFで示す圧縮行程の前半に行い、後段噴射は、例えば符号ARで示す圧縮行程の後半に行ってもよい。
燃焼室17に強いスワール流を発生させていると、前段噴射の燃料は、燃焼室17の中央部において混合気を形成する。中央部の混合気は、主にSI燃焼によって燃焼する。後段噴射の燃料は主に、燃焼室17の外周部において混合気を形成する。外周部の混合気は、主にCI燃焼によって燃焼する。
そして、前段噴射と後段噴射とを行う燃料噴射において、燃焼室の外周部の混合気の燃料濃度が、中央部の混合気の燃料濃度よりも濃くかつ、外周部の混合気の燃料量が、中央部の混合気の燃料量よりも多くなるようにする。前段噴射の噴射量を、後段噴射の噴射量よりも多くすればよい。前段噴射の噴射量と後段噴射の噴射量との割合は、一例として、7:3としてもよい。
エンジン1が高負荷中回転領域(2)において運転するときには、点火プラグ25が配置されている中央部の混合気は、好ましくは空気過剰率λが1以下であり、外周部の混合気は、空気過剰率λが1以下、好ましくは1未満である。中央部の混合気の空燃比(A/F)は、例えば13以上、理論空燃比(14.7)以下としてもよい。中央部の混合気の空燃比は、理論空燃比よりもリーンであってもよい。また、外周部の混合気の空燃比は、例えば11以上、理論空燃比以下、好ましくは121以上、12以下としてもよい。燃焼室17の全体の混合気の空燃比は、12.5以上、13以下としてもよい。燃焼室17の外周部の空気過剰率λを1未満にすると、外周部は混合気中の燃料量が増えるため、燃料の気化潜熱によって温度を低下させることができる。燃焼室17の全体の混合気の空燃比は、12.5以上、理論空燃比以下、好ましくは12.5以上、13以下としてもよい。
点火プラグ25は燃焼室17の中央部に配置されているため、点火プラグ25は、燃焼室17の中央部の混合気に点火をする(符号6033)。点火プラグ25の点火によって、中央部の混合気が火炎伝播によるSI燃焼を開始する。
高負荷領域においては、燃料噴射量が多くなると共に、燃焼室17の温度も高くなるため、CI燃焼が開始しやすい状況になる。言い換えると、高負荷領域においては、過早着火が発生しやすい。しかしながら、前述の通り、燃焼室17の外周部の温度が、燃料の気化潜熱によって低下しているから、混合気に火花点火をした後、CI燃焼がすぐに開始してしまうことを回避することができる。
従って、高負荷中回転領域(2)においてエンジン1は、混合気を理論空燃比又は理論空燃比よりもリッチしてSPCCI燃焼を行うため、高負荷中回転領域(2)は、「SPCCIλ≦1領域」と呼ぶことができる。
(高負荷低回転領域(3))
エンジン1の回転数が低いと、クランク角が1°変化するのに要する時間が長くなる。高負荷低回転領域(3)において、高負荷中回転領域(2)と同様に、例えば吸気行程や圧縮行程の前半に、燃焼室17内に燃料を噴射すると、燃料の反応が進みすぎてしまって過早着火を招く恐れがある。エンジン1が高負荷低回転領域(3)において運転しているときには、前述したSPCCI燃焼を行うことが困難になる。
そこで、エンジン1が高負荷中回転領域(3)において運転しているときに、エンジン1は、SPCCI燃焼ではなく、SI燃焼を行う。
図6の符号604は、エンジン1が高負荷中回転領域(3)において、運転状態604にて運転しているときの燃料噴射時期(符号6041)及び点火時期(符号6042)、並びに、燃焼波形(符号6043)それぞれの一例を示している。図5Aに、運転状態604に対応する運転領域を黒丸604によって示す。
EGRシステム55は、エンジン1の運転状態が高負荷中回転領域(3)にあるときに、燃焼室17の中にEGRガスを導入する。エンジン1は、負荷が高まるに従いEGRガスの量を減らす。全開負荷では、EGRガスをゼロにしてもよい。
エンジン1が高負荷低回転領域(3)において運転しているときに、混合気の空燃比(A/F)は、燃焼室17の全体において理論空燃比(A/F=14.7)である。混合気のA/Fは、三元触媒の浄化ウインドウの中に収まるようにすればよい。従って、混合気の空気過剰率λは、1.0±0.2とすればよい。混合気の空燃比を、理論空燃比にすることにより、高負荷低回転領域(3)において、燃費性能が向上する。尚、エンジン1が高負荷低回転領域(3)において運転するときに、燃焼室17の全体の混合気の燃料濃度を、空気過剰率λにおいて1以下でかつ、高負荷中回転領域(2)における空気過剰率λ以上、好ましくは高負荷中回転領域(2)における空気過剰率λよりも大にしてもよい。
エンジン1が高負荷低回転領域(3)において運転するときに、インジェクタ6は、圧縮行程終期から膨張行程初期までの期間(以下、この期間をリタード期間と呼ぶ)内のタイミングで、燃焼室17内に燃料を噴射する(符号6041)。圧縮行程の終期は、前述したように、圧縮行程を、前期、中期及び後期に三等分したときの後期を終期とすればよい。また、膨張行程の初期は、これと同様にして、膨張行程を、前期、中期及び後期に三等分したときの前期を初期とすればよい。
燃料の噴射時期を遅い時期にすることにより、過早着火を回避することが可能になる。燃料圧力は、30MPa以上の高い燃料圧力に設定される。燃料圧力を高くすることによって、燃料の噴射期間及び混合気の形成期間を、それぞれ短くすることができる。燃料圧力の上限値は、一例として、120MPaとしてもよい。
点火プラグ25は、燃料の噴射後、圧縮上死点付近のタイミングで、混合気に点火を行う(符号6042)。点火プラグ25は、例えば圧縮上死点後に点火を行ってもよい。混合気は、膨張行程においてSI燃焼をする。SI燃焼が膨張行程において開始するため、CI燃焼は開始しない。
インジェクタ6は、過早着火を回避するために、エンジン1の回転数が低くなるほど、燃料噴射の時期を遅角する。燃料噴射は、膨張行程において終了する場合もある。
高負荷低回転領域(3)においてエンジン1は、燃料を圧縮行程終期から膨張行程初期までのリタード期間に噴射をしてSI燃焼を行うため、高負荷低回転領域(3)は、「リタード−SI領域」と呼ぶことができる。
(高回転領域(4))
エンジン1の回転数が高いと、クランク角が1°変化するのに要する時間が短くなる。そのため、例えば高負荷領域における高回転領域において、前述したように、圧縮行程中に分割噴射を行うことにより、燃焼室17内において混合気の成層化をすることが困難になる。エンジン1の回転数が高くなると、前述したSPCCI燃焼を行うことが困難になる。
そのため、エンジン1が高回転領域(4)において運転しているときには、エンジン1は、SPCCI燃焼ではなく、SI燃焼を行う。尚、高回転領域(4)は、低負荷から高負荷まで負荷方向に広がっている。
図6の符号605は、エンジン1が高回転領域(4)において、運転状態605にて運転しているときの燃料噴射時期(符号6051)及び点火時期(符号6052)、並びに、燃焼波形(符号6053)それぞれの一例を示している。図5Aに、運転状態605に対応する運転領域を黒丸605によって示す。
EGRシステム55は、エンジン1の運転状態が高回転領域(4)にあるときに、燃焼室17の中にEGRガスを導入する。エンジン1は、負荷が高まるに従いEGRガスの量を減らす。全開負荷では、EGRガスをゼロにしてもよい。
エンジン1は、高回転領域(4)において運転するときには、スワールコントロール弁(SCV)56を全開にする。燃焼室17内にはスワール流が発生せず、タンブル流のみが発生する。スワールコントロール弁(SCV)56を全開にすることによって、高回転領域(4)において充填効率を高めることができると共に、ポンプ損失を低減することが可能になる。
エンジン1が高回転領域(4)において運転するときに、混合気の空燃比(A/F)は、基本的には、燃焼室17の全体において理論空燃比(A/F=14.7)である。混合気の空気過剰率λは、1.0±0.2とすればよい。尚、高回転領域(4)内の、全開負荷を含む高負荷領域においては、混合気の空気過剰率λを1未満にしてもよい。
エンジン1が高回転領域(4)において運転するときに、インジェクタ6は、吸気行程に燃料噴射を開始する(符号6051)。インジェクタ6は、燃料を一括で噴射する。尚、運転状態605は、エンジン1の負荷が高いため、燃料噴射量が多い。燃料の噴射量に応じて、燃料の噴射期間は変化する。吸気行程中に燃料噴射を開始することによって、燃焼室17の中に、均質又は略均質な混合気を形成することが可能になる。また、エンジン1の回転数が高いときに、燃料の気化時間をできるだけ長く確保することができるため、未燃損失の低減を図ることもできる。
点火プラグ25は、燃料の噴射終了後、圧縮上死点前の適宜のタイミングで、混合気に点火を行う(符号6052)。
従って、高回転領域(4)においてエンジン1は、燃料噴射を吸気行程に開始してSI燃焼を行うため、高回転領域(4)は、「吸気−SI領域」と呼ぶことができる。
(エンジンの制御プロセス)
次に、図18のフローチャートを参照しながら、ECU10が実行するエンジン1の運転制御について説明をする。先ず、スタート後のステップS1において、ECU10は、各センサSW1〜SW16の信号を読み込む。ECU10は、続くステップS2において、エンジン1の運転領域を判断する。
ECU10は、ステップS3において、エンジン1が「SPCCIリーン領域」(つまり、低負荷領域(1)−1)で運転するか否かを判断する。ステップS3の判定がYESのときには、プロセスはステップS8に進み、NOのときには、プロセスはステップS4に進む。
ECU10は、ステップS4において、エンジン1が「SPCCIλ=1領域」(つまり、中負荷領域(1)−2)で運転するか否かを判断する。ステップS4の判定がYESのときには、プロセスはステップS9に進み、NOのときには、プロセスはステップS5に進む。
ECU10は、ステップS5において、エンジン1が「SPCCIλ≦1領域」(つまり、高負荷中回転領域(2)で運転するか否かを判断する。ステップS5の判定がYESのときには、プロセスはステップS10に進み、NOのときには、プロセスはステップS6に進む。
ECU10は、ステップS6において、エンジン1が「リタードSI領域」(つまり、高負荷低回転領域(3)で運転するか否かを判断する。ステップS6の判定がYESのときには、プロセスはステップS11に進み、NOのときには、プロセスはステップS7に進む。
ECU10は、ステップS7において、エンジン1の運転領域が「吸気SI領域(つまり、高回転領域(4)であるか否かを判断する。ステップS7の判定がYESのときには、プロセスはステップS12に進み、NOのときには、プロセスはステップS1に戻る。
ステップS8において、ECU10は、スワールコントロール弁(SCV)56に、弁を閉じるよう制御信号を出力する。また、ECU10は、吸気行程に前段噴射を行い、圧縮行程に後段噴射を行うよう、インジェクタ6に制御信号を出力する。強いスワール流が発生した燃焼室17の中に、成層化した混合気を形成することができる。その後のステップS13において、ECU10は、圧縮上死点前の所定のタイミングで点火を行うよう、点火プラグ25に制御信号を出力する。これにより、エンジン1は、SPCCI燃焼を行う。
ステップS9において、ECU10は、スワールコントロール弁56に、弁を閉じるよう制御信号を出力する。また、ECU10は、圧縮行程において、前段噴射と後段噴射とを行うよう、インジェクタ6に制御信号を出力する。強いスワール流が発生した燃焼室17の中にλ=1の混合気を形成することができる。ECU10は、その後のステップS13において、圧縮上死点前の所定のタイミングで点火を行うよう、点火プラグ25に制御信号を出力する。これにより、エンジン1は、SPCCI燃焼を行う。
ステップS10において、ECU10は、スワールコントロール弁56に、弁を閉じるよう制御信号を出力する。また、ECU10は、圧縮行程において燃料を分割噴射するよう、又は、吸気行程において燃料を一括噴射するよう、インジェクタ6に制御信号を出力する。強いスワール流が発生した燃焼室17の中に、成層化した混合気を形成することができる。ECU10は、その後のステップS13において、圧縮上死点前の所定のタイミングで点火を行うよう、点火プラグ25に制御信号を出力する。これにより、エンジン1は、SPCCI燃焼を行う。
ステップS11において、ECU10は、スワールコントロール弁56に、弁が半開になるよう制御信号を出力する。また、ECU10は、圧縮行程終期から膨張行程初期において燃料噴射を行うよう、インジェクタ6に制御信号を出力する。その後のステップS13において、ECU10は、燃料の噴射終了後でかつ圧縮上死点後の所定のタイミングで点火を行うよう、点火プラグ25に制御信号を出力する。これにより、エンジン1は、SI燃焼を行う。
ステップS12において、ECU10は、スワールコントロール弁56に、弁を開けるよう制御信号を出力する。また、ECU10は、吸気行程において燃料噴射を行うよう、インジェクタ6に制御信号を出力する。燃焼室17の中に、均質又は略均質な混合気を形成することができる。その後のステップS13において、ECU10は、圧縮上死点前の所定のタイミングで点火を行うよう、点火プラグ25に制御信号を出力する。これにより、エンジン1は、SI燃焼を行う。
(他の実施形態)
尚、ここに開示する技術は、前述した構成のエンジン1に適用することに限定されない。エンジン1の構成は、様々な構成を採用することが可能である。
また、エンジン1は、機械式過給機44に代えて、ターボ過給機を備えるようにしてもよい。
スワール流を利用した混合気分布の制御は、前述した実施形態に限定されない。低負荷領域以外の領域にも適用可能である。燃料の噴射タイミング、燃料の噴射量、燃料の噴射回数、スワール比、燃料の噴射形態等を変更することにより、燃焼が開始されるタイミングで様々な形態の混合気分布を形成することができる。
実施形態では、斜めスワール流を示したが、スワール流は斜めスワール流に限らない。中心軸X1に直交して流動する、タンブル成分を含まないスワール流であっても、混合気分布の制御は可能である(例えば、インジェクタ6の噴射軸心X2をスワール流に対して傾斜して配設する)。
また、インジェクタ6から異なる方向に同時に複数の燃料を噴射するのではなく、インジェクタ6から同じ方向に複数の燃料を間隔を空けて噴射しても、混合気分布の制御は可能である。要は、スワール流に対して所定のタイミングでその上流側や下流側に到達するように、燃料を噴射すればよい。